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【北方迎撃戦】罪人なる彼らのために怒りたまえ




 その日、国防騎士たちが怪しい人影を見つけたのは、偶然ではなかった。
 シャンバラの魔女狩り、聖霊門の設置と、日々国を騒がせているのだから、自然と防衛の目も厳しくなる。
 そして、怪しい人影が魔女狩りそのものとなれば、当たり前だが戦闘は避けられない。
 魔女狩りの数は8人。対して、駐留していた国防騎士の数は6人。
 すこしばかり不利かもしれないが、引く訳にはいかない。地の利はこちらにある。それに、自由騎士たちも駆けつけるだろう。ああ、大丈夫だ、きっと、勝てる。
「はっ! ミトラースが、なんだって言うんだ!」
 自分を鼓舞するためだろうか。或いは、不幸な偶然だったのだろうか。
 騎士のひとりが投げ捨てたその言葉を、魔女狩りたちは決して聞き逃さなかった。
 目の色が変わる。空気が変わる。いや、魔女狩りたちを取り巻くもの、すべてが変わる。
「……っが?!」
 短い悲鳴。飛び散る赤色。抉られた傷は、彼がもう無事では済まないことを表していた。
 地面に倒れ伏したそれには一瞥もくれず、ゆらりと魔女狩りたちが動き出す。
 その目に怒りの色を乗せて。その唇に呪いの言葉を乗せて。
 異端を殺せ、異端を殺せ。我らが父は偉大なり。我らが主は至高なり。愚かな者共に鉄槌を。


「緊急事態! 水鏡が北の森に設営された新たな「聖霊門」を予知したよ」
 『元気印』クラウディア・フォン・プラテス(nCL3000004)が集まった自由騎士たちの顔を見ながら言う。
「魔女狩りの哨戒部隊が森に入り込んでるみたいだね。皆にはこれを殲滅してほしいんだ」
 ―――――殲滅。まだ幼いクラウディアの口から発するには、随分物騒な言葉だ。
 そんな自由騎士たちの視線が分かったのか、クラウディアの表情が曇る。
「実は、皆が着く頃には駐留していた国防騎士たちが既に戦っていて、それで」
 視線を泳がせてから僅かに瞳を伏せたクラウディアが、静かに告げた。
「………既に壊滅状態なんだ」
 国防騎士とて、油断した訳ではないだろう。
 けれど、自由騎士たちが辿り着く頃には、"普通"の状態ではくなった魔女狩りたちの手によって壊滅状態に陥っている。
 それほどに、シャンバラの神への信仰心、"狂気"の力は凄まじいということだろう。
 陣形も戦術も、敵味方の区別もなく、我らが神を称える言葉を繰り返しながら、ただただ、襲い掛かってくる魔女狩りたち。
 魔女狩りたちにあるのはもはや、異端を殺すこと。それだけ。
 狂気の怪物と化した魔女狩りたちには、もはやどんな言葉も通じないだろう。だからこその、殲滅だ。
「私も皆と戦いたいんだけど」
 それは出来ないから、と申し訳なさそうに微笑んだクラウディアは、気を付けてねと自由騎士たちを見送った。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
対人戦闘
■成功条件
1.魔女狩り哨戒部隊の殲滅
 あまのいろはです。信じる心って素晴らしいですよね。

 ※重要情報※
 この共通タグ【北方迎撃戦】依頼は、連動イベントになります。
 同時期に発生した依頼ですが、複数参加することに問題はありません。

●魔女狩り哨戒部隊
 人数は5人。重戦士3人、魔導士1人、ヒーラー1人です。
 ミトラースの権能により、魔抗力が強化され、通常攻撃が範囲化されています。
 また、最初は8人居たようですが、駐留部隊の奮戦により5人になっています。

・重戦士×3
 剣、斧、槍でそれぞれ武装しています。
 狂信の怪物と化しているため、身体が動く限り戦い続けます。

・魔導士×1、ヒーラー×1
 同じデザインのローブ、杖で武装しており、一見では判別がつきません。
 同じく、狂信の怪物と化しているため、身体が動く限り戦い続けます。

●場所
 北方の森。時間帯は夜。明かりは準備したほうが安全です。
 足場が不安定だったり、遮蔽物が多く視界がやや遮られることがあります。

●補足
 駐留部隊の残りは2人。既に壊滅間近で戦力にはなりません。
 事前付与などすることは可能ですが、駐留部隊は全滅すると思ってください。

 情報は以上となります。よろしくお願いします。
状態
完了
報酬マテリア
2個  6個  2個  2個
15モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
6/6
公開日
2018年10月26日

†メイン参加者 6人†

『おもてなしの和菓子職人』
シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)
『こむぎのパン』
サラ・ケーヒル(CL3000348)
『私の女子力は53万ですよ』
ライチ・リンドベリ(CL3000336)



 異端を殺せ、異端を殺せ。我らが父は偉大なり。我らが主は至高なり。愚かな者共に鉄槌を。
 うたうように繰り返されるそれは、至高なる神ミトラースを讃える賛美の言葉。
「異端に罰を」
 剣を、斧を、槍を、杖を手に、それらの言葉を繰り返す彼らこそがシャンバラの魔女狩り。自由騎士たちが打ち倒さねばならない敵だ。
「異端に死を」
 不気味に光る目。血に塗れた武器。信じることに疑いはなく、殺すことに迷いはない。斧を持った魔女狩りが駐留部隊のひとり目掛けて斧を振り下ろそうとした、その瞬間。
「異端を――――……」
 斧の魔女狩りの視界に映ったのは、ぎんいろの影。斧の魔女狩りが、駐留部隊の騎士ではなく、影に向かって斧を振り回す。
 けれど、斧はその影を捕らえることは出来なかった。ぎぃんと、鋼と鋼がぶつかる鈍い音が森のなかに響く。
「……おっ、と! 流石にそう簡単には抜けさせてくれないね!」 
「何者だァ!!!」
 怒りの収まらない魔女狩りたちが、影に向かって怒鳴り声を上げる。返事の代わりに、彼らが見たものは、ひとつ、ふたつ、あちらこちらでほのかに灯るカンテラの灯。
 ぼんやりとしたぎんいろの影の輪郭が、カンテラに照らされしっかりと形になっていく。魔女狩りの目に映ったのは、『フェイク・ニューフェイス』ライチ・リンドベリ(CL3000336)の姿。
「新手か! 我らが神に仇なす不届き者どもめ!!」
 言うが早いか、ライチと駐留部隊の騎士目掛けて、今度は剣が振り下ろされる。
 『修業中』サラ・ケーヒル(CL3000348)が割り込もうとしたが、この距離では間に合わない。飛び散る血飛沫と、聞こえた小さな悲鳴に、サラはきゅうと目を瞑った。
(ごめんなさい、守りながら戦う技量はないのです……)
 けれど、今やるべきことは悔いることではない。魔女狩りを見据えたサラは、ラピットジーンを使い自身の身体を加速させる。サラの手に握られたショートソードが、次こそは届くように。

「サシャはあまり戦いが好きじゃないけど、仲間は大事! 助けに来たんだぞ!!」
 駐留部隊の騎士たちへ回復を施そうとするのは、『銀の癒し手』サシャ・プニコフ(CL3000122)と、『貫く正義』ラメッシュ・K・ジェイン(CL3000120)。
 だが、目の前の惨状にラメッシュは思わず言葉を失う。既に倒れた騎士たちは、顔の判別がつかないほど、ぼろぼろにされている。きっと、事切れた後も、攻撃され続けたのだろう。
「………これは……。……サシャ様」
「ん!?」
「あちらの騎士に回復をお願いできますか」
「分かったのだぞ!!」
 ラメッシュが指示したのは、まだ息があると報告のあったひとり。先ほどの剣戟に巻きこまれたもうひとりの騎士は、既に倒れている。だが、もうひとりの騎士はまだ、かろうじて自らの足で立っていた。
 そして、その今にも倒れそうな騎士と魔女狩りとの間に割り込みながら、『商売繁盛どどんこどん』シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)が声を上げる。
「大丈夫ですか? わたし達が参りましたので、安心してください!」
「…………すまない……」
 シェリルの背に守られた騎士は、弱々しい声で、感謝と謝罪の言葉を告げた。
 一方、魔女狩りたちは、更に声を張り上げ、呪いの言葉を吐き散らしている。
「殺せ、殺せ、異端を殺せ!! 邪悪なる異端どもに、救いなどない!!」
 留まるところを知らない呪いの言葉に、シェリルは思わず顔を歪める。こうして対峙するとよく分かる、魔女狩りたちの異常性。同胞以外殺すことを厭わない。なんて、おそろしい人たち。
 弱気になりそうな自分を奮い立たせるように、シェリルは傷付いた騎士へと大丈夫ですよと微笑んだ。
「わたしはイ・ラプセル自由騎士、ここを守り切らねばなりません……!」
 けれど、このままでは彼を守るにはすこし足りない。敵も味方も関係なく攻撃してくるような相手だ。このままにしておいたら、攻撃に巻き込まれてまた危ない目に合うのは確実。
 そんな時、がさりと物陰から現れたのは、サポートとしてその場に駆けつけてくれた自由騎士。傷付いた騎士が撤退出来るように、サポートをしてくれている。これなら、無事逃げおおせることが出来そうだ。
 助けられるなら助けたいと思いつつも、決定的な手が足りない。だから、駐留部隊の騎士たちを助けることが出来なくとも仕方ないと思っていた自由騎士たちも少なくはない。
 『達観者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)も、口には出さずとも、そんな最悪の事態を考えていたひとりだ。
 予想通り、すべてを救えた訳ではないけれど、ひとりの命は確かに助かった。
「適材適所、目の前の事を片付けよう」
 サポートの手を借りて戦場から離れていく様子を見ながら、テオドールは自身の魔力を高めていく。
「まだ居たのか! アクアディーネなどという小娘に誑かされた愚か者どもめ!」
「逃がすものか、一人残らずミトラース様の教えをその身を以って教えねば!!」
 遠のく背に向かって吼え続ける魔女狩りたちを見て、テオドールはふ、と僅かに口の端を歪めた。
「………それにしても、随分と騒々しいことだ」
 ふぅと息を吐いて。自身の身体を魔力で満たした、テオドールの闘志は静かに燃える。


 異端を殺すこと、それだけに取り付かれた魔女狩りたちの一撃は迷いがなく、重かった。数発攻撃を食らっただけの自由騎士たちも、それはひしひしと感じている。
「まさに、狂気の怪物……。恐ろしいですね。でも、わたしたちが止めないといけません」
 前衛として、魔女狩りたちの狂気を近くで目の当たりにしたサラは、その思いを強くする。
 幸い、自由騎士にはふたりのヒーラーがいるためそう簡単に倒れることはない。けれど、魔女狩りにもヒーラーは居る。戦いが長引けば長引くほど、苦しくなっていくだろう。
 だから、魔女狩りのヒーラーを落とすことが自由騎士たちの最優先事項だった。
 後ろに控えるどちらかがヒーラーであることは間違いないのだが、魔導師と同じローブと杖を構えているため、一見して判別が付かない。
「ジェインさん、どちらがヒーラーか分かりましたか…!?」
 サラはローブを被った魔女狩りのひとりへブレイクゲイトを放ちながら、ラメッシュへ問いかける。
「待ってくれ、今……!」
 ラメッシュが、魔女狩りたちへエネミースキャンを行う。上手く行けば、魔女狩りのヒーラーを見分けることができ、戦況が有利になることは間違いないだろう。
「――――左だ!!」
 幸い、今回は幸運の女神が微笑んだようだった。魔女狩りのおおまかな能力と情報をラメッシュが掴む。
「左、だね!」
 報告を受けたライチが駆ける。目にも留まらぬ速さで重戦士の横をすり抜けると、ヒーラーの魔女狩りの前へと踊り出た。
 対して一閃、ローブが千切れ手に持つ刃を赤く染める。けれどそれだけで終わりではない。続けてもう一閃。
 傷口を抉るように放たれたその斬撃に、ヒーラーの魔女狩りは呻き、傷口を押さえた。
 ライチは倭刀を振るい刃に付いた血を払いながら、にんまりと尖った歯を見せ笑ってみせた。
「この程度なの? ミトラースの力も高が知れるね」
 安すぎる挑発の言葉。けれど、魔女狩りたちがその言葉を聞き逃すはずがない。魔女狩りたちの視線が一斉にライチへ向けられる。
「我らが父をまだ愚弄する気か、この小娘がァ!!!!」
「捕らえて八つ裂きにせよ!! 我らが主の前に平伏させるのだ!!」
 孤立のリスクも分かっていたが、無謀とも見えるその行動に仲間の自由騎士たちも思わず息を呑む。
 狂気の怪物として理性などない状態を更に煽ったのだから、より激しくなった攻撃がライチに集中する。持ち前の反射神経を生かして攻撃をいなそうとするが、かわしきれない。
 ライチの身体が切り刻まれ、血で染まっていく。けれど、彼女は倒れない。サシャが施した癒しの力が、ライチの傷をすべてではないが癒しているからだ。
「サシャ、こう見えても出来る女なんだぞ!」
 キリっ。まるく愛らしい瞳をきりりと吊り上げ、ふふんとサシャが胸を張る。
「無茶をしすぎですぅ~!」
 ヒーラーの魔女狩りを、シェリルとテオドールが放った冷気が襲う。しかし、ミトラースの権能により魔抗力が強化されている彼らを止めることは出来ず、倒しきるには至らない。
「もう一押し、と言ったところかな」
 けれど、既にヒーラーの魔女狩りの姿は満身創痍。それでも立ち続ける姿を見て、テオドールが鬱陶しそうに呟く。
 そう、テオドールの言うとおり、本当にあとすこしなのだ。
 エネミースキャンでラメッシュが看破した情報は、敵のクラスのみではない。自由騎士たちが思っていたより、魔女狩りたちは傷付いているということまで、分かっていた。
 駐留部隊の騎士たちを壊滅させるために、敵味方の区別なく攻撃をしていたのだ。当たり前と言えば、当たり前かもしれない。
「……倒れて、ください……っ!!」
 攻撃に巻き込まれ傷を負いながらも、決して退くことのないサラがショートソードを振るう。
 刃に乗せて放たれた気は、ヒーラーの魔女狩りを見事に捉え、その身体を切り裂いた。
「ああ……、我ら、が、……ミトラース、神……」
 賛美の言葉とともに口から血を吐きながら、どさり、とヒーラーの魔女狩りが崩れ落ちる。その口からは、もうミトラースを称える言葉は聞こえない。

 こうしてヒーラーは倒れ、後は残った魔女狩りたちを倒すのみ。
 集中攻撃を受けたライチはフラグメンツを燃やすに至ったが、回復の力もあり、それでもなんとか立っている。
 魔女狩りたちはヒーラーを失ったにも関わらず、攻撃の手を緩ませることはなく、味方を巻き込むことも厭わなかった。
 自由騎士からの攻撃だけでなく、味方からの攻撃にも巻き込まれ傷付いていく魔女狩りたち。
 味方の攻撃に巻き込まれた槍の魔女狩りが崩れ落ちる。その姿を見たサシャの手に自然と力が入る。
「……ひどいのだぞ」
 けれど、彼らは止まらない。傍から見れば絶望的な状況だが、彼らの目に絶望の色は見えなかった。彼らにあるのは、いまだに異端を殺すこと、それだけ。
「おのれ、おのれぇ……! 我らが父は、我ら、が、主は―――……!!」
 息絶え絶えになった彼らの呪いの言葉は、もう、うまく聞き取ることすら出来ない。
 もう、立つこともやっとな身体であることは明らかなのに、彼らは決して退こうとはしなかった。残った命が燃え尽きるまで、自由騎士への殺意が消えることはないのだろう。
「我らが父は、偉大なり!!」
 剣の魔女狩りが武器を地面に叩きつけた。木々すらも押し倒す衝撃が自由騎士たちを襲い、衝撃に耐え切れなかったサラが、後ろへと吹き飛ばされてしまう。
 濛々と立ちこめた砂埃の中から、乱れた陣形の前衛を抜け斧の魔女狩りが飛び出してくる。
「イ・ラプセルの愚民どもがあ!!」
 斧の魔女狩りの攻撃が、後衛に立つ自由騎士たちの体力を削っていく。このまま陣形を掻き乱されるかと思われたが、魔女狩りの前にラメッシュが立ち塞がった。
「ワタシをただの回復役と思ってもらっては困るな。格闘系ヒーラー。いざ前へ出んっ」
 鉄山靠。ラメッシュが放った迷いのない一撃が、斧の魔女狩りの身体を強く打ちつける。
 鉄血の心を持つラメッシュには、不殺の権能は使えない。ぐっと苦しそうな呻き声と、魔女狩りの身体の骨が砕ける音がして。そのまま地面に倒れ伏した斧の魔女狩りは、息の根を止めた。


 ひとり、またひとりと倒されていく魔女狩りたち。剣の魔女狩りも自由騎士たちの攻撃によって倒れ伏した。最後に残ったは、杖の魔女狩りただひとり。
「まだ、まだだ!! まだ、我らは…!!!」
 それでも退かぬ魔女狩りが杖を掲げた。短い詠唱によって作られた魔術が、後衛にいた自由騎士たちを襲う。権能によってただの魔術すらも広範囲を巻き込む脅威と成る。
 残った命をすべて燃やして放ったかのような攻撃に、耐え切れずテオドールが膝を付き、シェリルの視界も、ちかちかと揺らいだ。
 魔導書を持つ手から力が抜ける。ふらりとそのまま、意識を手放しそうになる。
 最初から分かっていたのだ、ミトラースの権能とマギアスの相性が悪いことなんて。だけど、けれど、決めたのだ。わたしはわたしの出来ることをするのだと。
「わたしは……っ」
 だから、ここに居るのだ。倒れてなんて、いられない。シェリルは離れていきそうな意識を無理矢理に手繰り寄せる。魔導書を持つ手にもう一度力を込めて。
「―――――わたしは勝ちに、行きます!!」
 冷気が魔女狩りへと襲い掛かる。ぱきりと冷たい音を立てながら、魔女狩り付近の水分が凍りついていく。シェリルが放ったアイスコフィンが、魔女狩りの足を完全に止めた。
 すかさずそこに飛び込んだのは、ライチだ。高速の剣戟が魔女狩りの身体を貫く。
「狂信の糸が憑くその身体、断ち切るよ」
「………この、異端、め、が、……ぁ…」
 恨みがましそうに伸ばされた手がライチの服を力なく掴む。けれど、魔女狩りの身体に付き刺した倭刀を引き抜くと同時に魔女狩りは崩れ落ちた。
「……異端を殺せ。全く理解は出来ないけれど、それがきみたちの正義なんだろうね」
 返事はない。ライチも不殺は使わないと、殺すと決めていた。だから、返事があるわけがなかった。
 ふう、と息を吐く。ああ、勝ったのだ、と思うと同時に。殺したのだと実感する。なんだか、ゆるゆると身体から力が抜けていく気がした。

 自由騎士たちも傷は負ったが、魔女狩りたちは殲滅された。
 ある者は捕らえられ、ある者は息を止め、すっかり動かなくなった魔女狩りたちの傍ら。同じように横たわる駐留部隊の騎士たちへと、自由騎士たちは歩み寄る。
「回復、を……」
 騎士たちの傍へと駆け寄ったサシャの言葉に、サラがゆるく首を横に振った。サシャも分かってはいたようで、悲しそうに目を伏せると騎士たちの横にそっと膝を付く。
「サシャ、これでも聖職者だから……」
「勇敢なる騎士たちが安らかに海に還れますよう」
 サシャが紡いだ、やさしいやさしい、祈りの言葉。それに続けて、テオドールも騎士たちへの哀悼と敬意を込めた祈りを捧げる。
 目の前に横たわる守れなかった騎士たちを見詰めながら、サラもそっと両手を組み合わせた。
 守りきれなかった騎士たち。もう少し力があったなら、守りきれたのだろうか。考えたところで、答えは出ない。
「…………わたしの力不足で助けられなくてごめんなさい……」
 祈ることくらいは、謝ること、くらいは。彼らは許してくれるだろうか。
 騎士たちの声が、刃物と刃物がぶつかり合う音が、まだ耳に残っている。けれど、そんな戦いなどまるで無かったかのように、夜の森はすっかり静けさを取り戻していたのだった。