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自由騎士合同特殊訓練 ハンド・トゥ・ハンド

諸君、イ・ラプセルが誇るオラクル自由騎士団は日増しにその数を増やしている。
一人の自由騎士が生まれるということは、暗雲の未来を切り開く希望がひとつ生まれるということである。
同時に、新しき自由騎士が育つということは希望が育つということである。
よってここに、『ハンド・トゥ・ハンド』の開催を決定するものである。
ハンド・トゥ・ハンド。
それはランナーが次なるランナーへバトンを託す様子のように、実戦で技術や知識を獲得してきた自由騎士たちが新たな自由騎士へそれらを伝え鍛える訓練イベントである。
新たに自由騎士となった者。
なしいは自由騎士になって日の浅い者。
彼らはベテランから得る知識や技術によって成長するだろう。
一方で技術を与える側である自由騎士たちは、これまで経験してきたことがらを思い返し、他者へ伝えるという動作をもってより深く自らの技や知識を鍛えることができるだろう。
それもまた、ハンド・トゥ・ハンド……手と手を繋ぐ相互関係。名の由来である!
訓練は国内各地で行なわれる。
普段自由騎士たちが訓練する施設をはじめ、森や海、山や川、町中のあちこちや工房などなど……。
鍛えようとする内容によって相応しい場所は変わるだろう。
そして鍛えたい内容や教えたい内容もまた、人によって変わるはずだ。
訓練を受ける側である自由騎士は『どんな訓練を受けてみたいか』を申請しよう。
そして教える側の自由騎士は、自らの経験を思い返すように伝えるのだ。
方法は戦闘による訓練でも、一緒に何かの修理や製造をしてみるのでも、椅子に座ってお勉強をするのでも構わない。
自由騎士たち自らの手で作り上げる訓練。それもまた――ハンド・トゥ・ハンドなのだ。
一人の自由騎士が生まれるということは、暗雲の未来を切り開く希望がひとつ生まれるということである。
同時に、新しき自由騎士が育つということは希望が育つということである。
よってここに、『ハンド・トゥ・ハンド』の開催を決定するものである。
ハンド・トゥ・ハンド。
それはランナーが次なるランナーへバトンを託す様子のように、実戦で技術や知識を獲得してきた自由騎士たちが新たな自由騎士へそれらを伝え鍛える訓練イベントである。
新たに自由騎士となった者。
なしいは自由騎士になって日の浅い者。
彼らはベテランから得る知識や技術によって成長するだろう。
一方で技術を与える側である自由騎士たちは、これまで経験してきたことがらを思い返し、他者へ伝えるという動作をもってより深く自らの技や知識を鍛えることができるだろう。
それもまた、ハンド・トゥ・ハンド……手と手を繋ぐ相互関係。名の由来である!
訓練は国内各地で行なわれる。
普段自由騎士たちが訓練する施設をはじめ、森や海、山や川、町中のあちこちや工房などなど……。
鍛えようとする内容によって相応しい場所は変わるだろう。
そして鍛えたい内容や教えたい内容もまた、人によって変わるはずだ。
訓練を受ける側である自由騎士は『どんな訓練を受けてみたいか』を申請しよう。
そして教える側の自由騎士は、自らの経験を思い返すように伝えるのだ。
方法は戦闘による訓練でも、一緒に何かの修理や製造をしてみるのでも、椅子に座ってお勉強をするのでも構わない。
自由騎士たち自らの手で作り上げる訓練。それもまた――ハンド・トゥ・ハンドなのだ。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.みんなで訓練をするぞ!!!!!
※こちらは『ブレインストーミングスペース』でのリンネ・スズカ(CL3000361)様の提案から考案されたイベントでございます。
ごきげんよう、自由騎士の皆様。
昨今、新しい自由騎士(PC)も沢山増えましたね。
ここでひとつ、自由騎士たちによる合同訓練を行なうことになりました。
方法(プレイング)は簡単
訓練を受けたいという方は『受けたい訓練』の希望を書いて、そのうえで『どんな人に教わりたいか』も書いてみてください。
逆に教える側の方は自分の経験を伝授するプレイングを書いてみてください。
実戦訓練でもOKですし、勉強会を開いてもOKです。
よっぽど変なことや訓練ぽさを逸脱していない限りはほぼ自由とします。
またどなたかと一緒に参加したい方、もしくは直接どなたかに教わろうという約束をしている方は、お相手のフルネームをIDつきでご記載ください。
できる限り配慮しますが、うっかりはぐれてしまうこともございますのでお気をつけくださいませ。
■新人自由騎士育成キャンペーン■
こちらの依頼は特別にイベシナのリソースは頼難易度ノーマルの33%のところ50%になっています。
またレベル6以下のPCには150%のブーストもあります。
ベテランさんも新人さんも遠慮なく参加してください。
ごきげんよう、自由騎士の皆様。
昨今、新しい自由騎士(PC)も沢山増えましたね。
ここでひとつ、自由騎士たちによる合同訓練を行なうことになりました。
方法(プレイング)は簡単
訓練を受けたいという方は『受けたい訓練』の希望を書いて、そのうえで『どんな人に教わりたいか』も書いてみてください。
逆に教える側の方は自分の経験を伝授するプレイングを書いてみてください。
実戦訓練でもOKですし、勉強会を開いてもOKです。
よっぽど変なことや訓練ぽさを逸脱していない限りはほぼ自由とします。
またどなたかと一緒に参加したい方、もしくは直接どなたかに教わろうという約束をしている方は、お相手のフルネームをIDつきでご記載ください。
できる限り配慮しますが、うっかりはぐれてしまうこともございますのでお気をつけくださいませ。
■新人自由騎士育成キャンペーン■
こちらの依頼は特別にイベシナのリソースは頼難易度ノーマルの33%のところ50%になっています。
またレベル6以下のPCには150%のブーストもあります。
ベテランさんも新人さんも遠慮なく参加してください。
状態
完了
完了
報酬マテリア
0個
0個
4個
0個




参加費
50LP
50LP
相談日数
10日
10日
参加人数
50/50
50/50
公開日
2018年09月25日
2018年09月25日
†メイン参加者 50人†
●ハンド・トゥ・ハンド
大いなる戦いから暫し。海の上や港町で血と火薬のにおいにまみれていたオラクル自由騎士団も気づけば随分な大所帯になっていた。
新しく加わった者。長い休眠期間を明けた者。多種多様な面々による日々の鍛錬は、遠い敵国の戦士を打ち破り神さえ滅ぼす力へとつながるだろう。
……と、そんなむずかしい話は置いておいて。
「今回は騎士とは何かを考える座学をするよ」
さざなみ遠い王都訓練場。海鳥たちの見学をよそに、アダム・クランプトン(CL3000185)は黒板にチョークを走らせていた。
「自由騎士は元から騎士だったという人だけでなく色々な立場の人がいるからね。騎士というモノについて考え直す良い機会と思うんだ。ちなみに僕は騎士とは民を守る者であると考えているワケだが……皆はどうだろうか。教えてくれると嬉しいな」
(アダム直々の講義を受けられるだなんて、後輩冥利につきますわ! あぁ、なんて幸せなひと時なのかしら……)
なんだかうっとりしているジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)。
「そういえば、このあいだアルヴィダ・スカンディナに会ったわよ。ジュリエットも一緒にね。なんだか『大きな戦争がはじまる』みたいな事を言ってたわね……」
エルシー・スカーレット(CL3000368)がジュリエットとアダムをちらちら見ながら呟くと、ジュリエットが背筋をびくりと伸ばした。
「アルヴィダ・スカンディナはわたくしの宿敵! 決して負けられませんわ!!」
そうこなくっちゃあという顔でぱちぱちと手を叩くエルシー。
一方のアダムはなんの話だろうという顔をしていた。
(それにしても美形が多いな。直視すると眩しくて死にそうだ)
額に手を当てていたディルク・フォーゲル(CL3000381)が、仲間に体調を問いかけられて首を振る。
「あ、いえ何でもありませんよ、何でも。そうですねえ、今日は色々な方の武器の扱い方を観察させていただきたいですね。まだ私自身、どういう戦い方が向いているか分からないもので」
「いやあ、ダメなんですよね飛び道具。撃つ・射る・投げる、途端に邪念が入ると言いますか。クソ度胸だけで生きながらえて参りました」
会話に加わるサブロウ・カイトー(CL3000363)。
話題はいつのまにか武器の扱いに変わっていたようだ。
端のほうでわざと影を薄くしていたアダム・ロレンツォ(CL3000376)が、彼らの話にじっと耳を傾けている。
騎士のあり方は人それぞれだけれど、どのみち前線に出て戦わねばならないという宿命は共通しているということだろうか。
「銃の取り扱い、距離の詰め方、早撃ちのコツ。色々と教わって帰るとしましょうか!」
彼らは立ち上がり、それぞれの武器をとった。
幸いにもここは格闘訓練場。座学よりも戦闘訓練にこそ向く場所だ。
イーイー・ケルツェンハイム(CL3000076)が張り切った様子で腕を振る。
(今まで、範囲攻撃がいまいち上手く使いこなせてない感じがしてた。だから、模擬戦で味方との距離のあけ方とか練習して、効果的に使えるようになりたい……)
「まずは防御練習だったかな。攻撃をあてていけばいいの?」
「その通りだとも!」
イーイーの言葉に応じて、シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)が仁王立ちで現われた。
「我が防御の粋とは、すなわち不退転の心! 我が身を守る、誰かを守る、何かを守る。背中に庇う誰かには笑顔を向ける! いずれの場合においても、一歩も退かぬ心持ちこそが重要なのであーる!」
その横ではランスロット・カースン(CL3000391)が装備をつけて戦闘の姿勢にはいっていた。
(国防騎士の経験は忘れ新兵に戻ったつもりで挑むのが筋か……)
「宜しくお願いする」
「実践訓練あるのみじゃ! 撃ってこい突いてこい! 全て我が鋼鉄の腕にて抱きとめてくれるわ!」
基本はあまり変わらないなと、ランスロットは剣を振り上げる。
何事も経験というべきか、経験が活かせる部分もあれば新鮮な部分もあった。こうして経験を積んでいけば、きっとより大きな存在となれるだろう。
「それはそれとしてカスタムスキルに興味がある。皆はどんな内容にしているのだろうか。習得している者の攻撃を受けてみたいものだ」
「ふふふ……分かりますよその気持ち!」
タマキ・アケチ(CL3000011)がなぜか薔薇を散らしながらスライドインしてきた。
「あぁ、闘う皆様の姿が素晴らしく! タマちゃん火照ってしまいます、ふふ……! あぁ、あんな素敵な技を受けたら私……!」
不思議なのけぞり方をしながら目を光らせるタマキ。
「ハッ、何か閃きそうな……!」
彼らの視線はジュリエットたちの模擬戦闘に集中していた。
「さて、防御側の方はこのわたくしの一撃に耐えられるかしら? おーっほほほほほ!!!」
渾身の必殺技ダイアモンドプリズンを放つジュリエット。
対するシノピリカは攻撃を正面から受け止め、あえてしばらくぼこぼこ殴られてからにやりと笑った。
「よかろう。ではこちらも大盤振る舞いじゃ! SIEGER IMPACT!」
蒸気のジェットで繰り出す拳がジュリエットへと直撃する。
そのまた一方では、ディルクやアダムたちがばちばちの攻防を繰り広げていた。
「もう暫くおつきあいください。皆様には及ばないでしょうが、訓練にて学んだ戦闘術で 片手鎌『ジャックドー』を改めて使ってみたくて」
「いいよ、さあ……!」
武器の打ち合い、特殊な攻撃技の交差。防御や回避の訓練。やがて訓練内容はチームでの連携訓練へとシフトしていく。
未熟なものは成熟へむけて反復を重ね、熟達したものはかつての理想を思い出す。
「理想を口に出来なくてもソレはソレでいいさ。誰かの語る理想をまずは真似れば良い。いずれはソレが目指すべきモノになるかもしれないからね」
得るものは互いに大きいはずだ。
対立をすれば戦いが起きるもの。
それが血の通う動物である以上互いにぶつかり合い、壊し合い、血を流すのは道理。
であれば、血をとめる者が必要になる。
「お互い殴りあう同士のグループの人たちとかって生傷絶えなさそうだもんね?」
ローラ・オルグレン(CL3000210)は過激になってきた訓練で怪我をした人を片っ端から治療して回っていた。
「だいたいローラってば回復魔導の知識とか心得とかさぁ。そーゆーのって誰かに教わった覚えぜんぜん無いんだよねー。オラクルになったとき、殴ったり撃ったりするのがヤだからヒーラー志望になったってだけなの。そんなワケだから専門的な指導とかは向かないと思うよぉ?」
そう言いながらもテキパキと怪我の治療や魔導回復をしていくローラ。
変な話だが戦闘中に行なうダメージ回復と一般的なけが人に行なう医療は別種のものだという。ローラが得意としているのは前者の方で、自覚の有無はともかくこれも立派な前線活動なのだ。
サブロウタ リキュウイン(CL3000312)もそれにくっついて、沢山ダメージをおった人の集中回復や回復リソースの配分を練習していた。
筋トレと同じで、限界まで力を使っては休み使っては休みを繰り返すことで力のリソースを増やすことを狙ったようだ。
「さぁボクはボク自身の知るためにこの訓練有効活用させていただきますっ」
一方で、非時香・ツボミ(CL3000086)はたまたまでたけが人を例にとって応急処置の講義を行なっていた。
「魔導治療は便利だがあくまでその場しのぎ。頼り切らずに大きな怪我を負ったらあとで医者に診せるのがいいぞ。だがここで紹介するのは応急処置だ。例えば銃弾が肉体に残ったとき、こうしてナイフでえぐり出すことで……」
なかなかえげつない光景だが、剣だ銃だと持ち出す以上避けては通れぬ光景なのかもしれない。
ルー・シェーファー(CL3000101)もそれに伴って応急処置の方法をレクチャーしていく。
「例えば、骨が折れた時に添え木をする方法があるよね。しっかりした軸と押さえる箇所さえ間違わなければ廃材や布で代用できるよ。さっきみたいにナイフで銃弾をえぐり出すときも酒で消毒をすれば怪我の悪化をおさえられるし、傷の治療を助ける野草なんかもあるネー」
普段から戦いに関わっておらず、ダメージの回復を魔導治療に頼ってばかりいるとついつい基本を忘れそうになるものだ。
けが人を見つけたが魔導治療の手段がないからと諦めてしまうのもあるという。逆に魔導治療さえすればOKと適切な応急処置を怠ってしまうことも。
「任務の性質上、一般のけが人を手当することもあるだろう。そういうときに魔導ばかりに頼らんようにな」
訓練方法は人それぞれで、なんだか只管基礎訓練を重ねている者もいた。
柊・オルステッド(CL3000152)はひたすらシャトルランを繰り返したり、バスケットボールめいた球技で反射や連携動作を訓練したり、なんだか清らかな姿勢で瞑想したりアクアディーネブロマイドを勝手に配ってみたりした。
「アクアディーネの写真には集中を助ける効果があるぜ!」
本当にあるかどうかはちょっとよくわからないが、たまにこういう付き合い方をしてくれる先輩はどこの世界にもいるものである。
かと思えば、カノン・イスルギ(CL3000025)が立ち方についてのレッスンを行なっていた。
「武術家として基本的な体遣いなんかを伝えられるといいかなー。センセーの受け売りだけどね」
実際に立ってみせるカノン。
「あのね、真っ直ぐ前を見て顎を引くの。それでね、足を肩幅くらいに開いて、足の裏を地面に着けたらそのまま『足の裏事地面を上にもちあげちゃうぞ!』ってイメージで体を上に伸ばすの。そしたら、ちょっと突かれたくらいじゃぐらつかなくなるんだよ。こう立つ事で体幹の筋肉を使うんだってセンセーが言ってたよ。地味な基礎だけど、強くなりたいならそれをこそ完璧にマスターしないと駄目だって」
「ほう……」
はじめは魔導系の座学に参加していたティラミス・グラスホイップ(CL3000385)も、なんとなくの流れでこうした基礎訓練を受けるようになっていた。
クラスごとに多少の分業はあれど、前線に立てば誰もが肉体を駆使して戦うことになる。歩き方立ち方その他もろもろの基礎はどうやっても役に立つんどあろう。
コジマ・キスケ(CL3000206)やアリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)も基礎訓練を重ねていた。
「生き残るには筋肉つけなきゃいけないと思ってました」
「筋肉はあんまりつけとうないんよ。うちも年頃の女の子やからな!」
立ち方にしろシャトルランにしろ球技にしろ、筋肉というより姿勢の訓練だ。
ちょっと広義になるが、コジマのいう生き残りにも、アリシアの考えるカタフラクトを大事に使える動き方も、結局の所は基礎トレーニングに行き着くらしい。
一方で、こんな考えかたをする者もいる。
「芸術が、文化的教養が少なすぎる!」
カノン・T・ブルーバード(CL3000334)である。
「例えば格闘技や運動は、1日サボると取り戻すのに3日必要だと言う。芸術もまた然り。感性とは研磨しなければ必ず錆びつく鉱石の様な物だ。という事で、この僕が皆が鍛錬だとか訓練だとかしている背後で真の芸術という物を教示してあげよう。そう、これは芸術家であり音楽家である僕の責務であり、義務ッ!」
全体的にかなり戦闘や戦場に寄った訓練をしてはいるが、自由騎士の仕事は戦うことばかりではない。
復興したり人を元気づけたりたまに村おこしをしたりするのも、自由騎士のつとめなのだ。
そのあたりが王国騎士との大きな違いといってもいいだろう。
彼らは国を守るというより、人の心を守っているのだ。
ゆえに芸術は必要……と、カノンは言いたいのかもしれない。単に芸術好きなだけかもしれないが。
強いだけじゃない。
信念や哲学や、理想や未来をもった人々との交わり。
それはただダンベルを持ち上げるだけの訓練とは決定的に違う、心からの鍛錬であった。
自分を追い込むように何人もの格上自由騎士との戦闘訓練を重ねてみたライチ・リンドベリ(CL3000336)も、少し見えてくるものがあったらしい。
心に引っかかった『奇跡の連撃』という言葉。
「まったく、気に入らないったらありゃしない。私があの時魂を削って求めたのは奇跡じゃない。いつかの私が到達しえた可能性だ。奇跡なんかじゃないと証明するために……」
ライチが求めたのも、また理想と未来であった。
休憩をしようと食堂へやってくると、エミリオ・ミハイエル(CL3000054)たちがかたまって話をしていた。
「私ってどれも中途半端なんです。ですがそれを苦だと思ったことはないので、今後も平均的な器用さで頑張るつもりです。それで一通り見学をしてみたのですが……」
「うぅ……ず、随分身体が訛ってる、なあ。下水道に引き篭もり、す、過ぎたな……」
ダンケル・アルトマン(CL3000010)が水を飲みながら息をつく。
「オイラ一応、し、新人とは言えねえんだけど……じ、自由騎士として活動を、だいぶしてねえから、な。し、正直、薄暗い下水道で鼠達と居る方が、性に合ってるんだけど……やっぱり、必要とされたい、し……。どこもかしこも、誰も彼も、い、今は色々大変だし、な。オイラでも力になれるなら、なりたい」
みな、それぞれ思い描く理想があるようだ。
千亞・ヴェローチェ(CL3000373)にもそういうものがあるようだが、まず理想を作る段階から始めたようだ。
「私はまだ実戦に参加出来ていない。戦いも不慣れだろう。技術は勿論、いずれ実戦に出た際の心構えを学べれば良いのだが」
「わかるぞ。サシャも何をどーすればいいのかから教えてほしいぞ!」
サシャ・プニコフ(CL3000122)もうんうんと頷いた。
格闘訓練をする者、多くを平均的に学ぼうとする者、基礎を積み上げようとしている者。皆共通して、より上を目指して努力していた。
しかしやっぱり、休憩も必要だ。
「頑張った後の肉はさいこーにおいしーんだぞ!」
サシャはお肉をもぐもぐしながら小さく笑った。
さて、ここからはもう少しばかり細分化された訓練風景をご覧頂こう。
「んー、あたしの魔導って自己流だから、教えられるようなことってないのよね。教えてもらえるなら基礎からちゃんと学んでみたい気もするわ」
ここは魔導訓練のための野外練習場。
エル・エル(CL3000370)は実際に魔導を使ってみせながら、互いに見せ合ってより高度なもしくは効率的な魔導式を組み立てていた。
「あたしにとって魔導は生活の一部で、切っても切り離せないものね。あまりにも馴染み過ぎているから、改めて考えたりすることはなかったなぁ……うふふ、こういうってどうしたってひとりじゃできないことだから、こういった機会があるのはありがたいわね」
「最近レンジャーの魔道も増えてて、私はまだ習得てきてないけど……情報は調べてあるわよ! その辺を経験含めて勉強するわよ!」
『翠氷の魔女』猪市 きゐこ(CL3000048)が机に資料を積み上げていく。
「これを元に自己流改造して使いやすくしてくといいわ! 私は元々はアマノホカリ式言霊型呪術の使い手だったから、そういう改造をしてるわね」
魔導の使い方には個人差があるらしい。カレーのレシピみたいなもんで最終的には同じような形になって優劣もある程度つくはずだが、雰囲気やそこに籠もった人物的背景や歴史が垣間見れる部分でもある。
テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)は資料をめくりながらこくこくと頷いた。
「運動不足の解消と見識を深めるのが目的だが、新鮮な知識が多いな。自由騎士団には如何な差も無く、様々な者が集まっているようだ」
そういった人々と話を交わすことで新たな発見が見つかることもあった。
またカレーに例えると、自分の家のカレーだけ食べていると偏るが、あちこちの家のものを食べているとアレンジの幅が広がって『もうこでれいいや』と思っていた概念に思ってもみない改善点が見つかったりするものである。
ティーナ・カミュ(CL3000359)も実戦に出る機会をいろいろと逸していたが、この気に訓練に参加してみたらしい。
「お勉強は大好きなので、頑張ります! そのへんの文献にはない実践的な内容、参考になります! 次のステップは、実戦デビューですね。いつか先輩に並び立てるように、頑張って鍛錬します……!」
「水鏡で見た蒸気王とかいう超機人すごかったよな。ぜってー殴り合いになったら強いだろ。オレもパンチのパワーなら自信あるけど、相手のパンチを受けとめられるかどうかはまだわかんねえ」
マリア・スティール(CL3000004)は藁でできた柱に只管指や肘といった身体の突起ポイントをぶつける訓練をしていた。
最初に聞いたときは何言ってんだこいつと思ったものだが、どうやら人ってゆーのは破壊と再生を繰り返すことで硬くなるらしい。
勿論鉄の鎧を纏うという手段もあるだろうが、皮膚や骨や筋肉まで固められるわけではない。行くところまでいくと鉄の柱をショルダータックルで弾いたり固い壁を手刀で貫いたりするようになる、らしいが。
「硬くするのもいいが、体力の消耗を少なくする方法も大事だろう」
ボルカス・ギルトバーナー(CL3000092)はひたすら飛んでくる魔道ピッチングマシンに対して攻撃を『反らして受ける』訓練を続けていた。
イメージはピンポイントなバリア。全身をいきなり硬くすることはできなくとも、ピンポイントに硬く、そして角度を整えて衝撃を弱めることであれやこれやしようという試みである。
防御を得意とする者にも、そういった具合に種類があるのだ。この場にいない例で述べると、『なんか可愛いので攻撃しづらい』みたいな精神的防御法もこのうちに入っているらしい。
「な、なるほど……私が死んだらそこの木に埋めてください」
ウド・トラウゴッツ(CL3000389)はびくびくしながらもそんな防御訓練に参加していた。
新米らしく教えをこうつもりで来たが、マリアやボルカスは先輩というより単に『先に始めてた人』くらいの接し方をしてきた。おかげで緊張しすぎずに済んだが、教え方も鍛え方も信念すらも多種多様で、その中から自分の目指すスタイルを見つけ出すことが必要になってきた。
ただ防御力をあるにもスタイルがあるらしい。
その時点でもう既に、ウドの選択は始まっているのだ。
カスカ・セイリュウジ(CL3000019)がコインをつまんだ。
「投げたコインの落下と同時に攻撃を開始。一瞬でも早く攻撃を命中させたほうの勝ちです。いいですね?」
カスカの提案したのは速度訓練のひとつ。
早く動くだけなら銃弾に任せればよい。
しかし先に動きたいなら、相手を看て、先を読み、反射を超えて行動しなければならない。
「一言に速度特化といっても私のような回避寄りもいれば、二刀流や二連攻撃による手数を重視する型、純粋に行動速度のみを追求した型など、色々あると思います。けれど行き着く先は一瞬のチェックメイト」
「道理だな」
グローリア・アンヘル(CL3000214)はこくりと頷き、カスカの前に立った。
だが話を聞いた時点ではピンときていなかった。
ただコインを投げると言われただけ。ルールもシンプルに二つだけ。
落ちるコインを見ていていいのかすら分からぬまま立っていると、カスカはコインが頭上にあるうちから行動を始めていた。
攻撃には前段階がある。
例えば死角に回るであるとか、相手の攻撃手段を奪うであるとか、勢いをつけるであるとか。限られた時間での準備はじゃんけんの手に似ていて、この時点で先読みを必要とした。
そして勿論、実戦でも同じことがおこる。
「総合訓練というわけか」
「みんなおもしろい訓練をしてるんだね!」
シア・ウィルナーグ(CL3000028)はそんな様子を眺めながら、お互いに提案した訓練方法を取り入れ合っていた。
単純な走り込みや、打ち合いによるカンの研ぎ澄ましや、限定された実戦訓練や……あれやこれやだ。
シアも本で読んだまんまの二刀流スタイルだが、流派やその拘りによって使い方がまったく違うことに今更ながら気がついた。もしかしたら、前からずっと気がついてはいたのかもしれない。
例えばアリア・セレスティ(CL3000222)は回転や跳躍といった自身を延長した運動エネルギーで威力を稼ぐスタイルをしていて、相手を複雑に翻弄したりある程度先読みをして動くことが多かった。
「実際にぶつかってみると新鮮だわ」
チェスプレイヤーにも攻撃的な人やねっとりとはりつくようにカウンターをとる人や牽制でこじあける人など様々で、高速の戦闘はそれを一瞬で差し合うようなもの。絶対手はないが、拘りと直感は必要なのだ。
蒸気式散弾銃を二丁構えて、ヒルダ・アークライト(CL3000279)はウィンクした。
「あたしから教えられる一番のことはやっぱり零距離射撃ね」
射撃練習といえば遠くに向かって円盤を投げては銃で破壊するアレを想像するが、ヒルダのほうはやや違う。
自分に向けて円盤を発射させ、適切な射程距離まで耐えてタイミング良くトリガーをひく訓練である。
「零距離射撃は普通の射撃よりもだいぶ感覚が異なるのよね。たとえるなら格闘技の突きに近い感じかしら? あとは度胸で恐れずに突っ込むことよ!」
メモをとりながら頷くジークベルト・ヘルベチカ(CL3000267)。
「とにかく突きに度胸。なるほど」
見たところ剣で切るタイミングに似ていた。
しかし攻撃エネルギーが必ず点で打ち込まれることと、手首までのねじりでかなりの方向を整えられること。そして発射されてからは一瞬であること。
似ているようであちこちが違う。覚えるにはいい題材だった。
一方でレネット・フィオーレ(CL3000335)は一般的なクレー射撃練習を繰り返していた。
「特に教わりたいのは、素早く狙いを定めるコツと、対人戦闘に対する心構え、でしょうか。お恥ずかしながら、対人戦闘を行ったことが、まだないものですので」
海・西園寺(CL3000241)が一緒になって射撃練習をしている。
「この後模擬戦をしてみませんか。理想とする戦い方に近づけてみたいので……」
「わたしで問題ないのでしょうか? わたし、まだまだ未熟ですのに!」
「だから、訓練するんですよ」
引き金をひいて、レネットは息を吐いた。
「挑まれたからには! 負けませんよ! ……なーんて。うふふ」
射撃訓練にも色々ある。
零距離射撃訓練ほどかわっていなくても、飛んでいく的を狙ったり、足をとめて次々と現われる的に当てたり、ただまっすぐ狙う訓練をしたりだ。
どれも鍛える種類が異なり、かつ重要なものだった。
ジョシュア・サザランド(CL3000360)の訓練方法はというと……。
「ごめんなさい! わー! ごめんなさい!」
反動の大きな銃をしっかり構えて撃ってはころび撃ってはころびを繰り替えてしていた。
どうやら射撃姿勢を整える訓練のようだが、武器のクセが強すぎてそれに慣れるための訓練になっているらしい。
一方のグリッツ・ケルツェンハイム(CL3000057)もまた銃の反動になれる訓練をしていた。
(自由騎士になっていくつかお仕事をしたけど、誰かを守るにしても助けるにしても戦う力は必要だよね。僕だったらライフルをもっと上手に使えるようになることかな)
本人がいうには蒸気義手で銃の反動を押さえているらしいが、身体全体でしっかり押さえられるようになっておきたいそうだ。
戦いの場でいつもちゃんとした姿勢のまま戦えるとは限らない。というか、逆の立場なら足や腕を積極的に壊しにいくだろう。
どんな時でも戦える力は、もっておきたいグリッツなのだった。
どんな時でも戦える……といえば、ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)も慣れておきたい状態があるらしい。
「まぁこの後の模擬戦の準備運動みたいなもんだな」
ザルク・ミステル(CL3000067)におぼえたパラライズショットをを打ち込んでもらう練習だった。
「なんつーか、俺達みたいな国に来てそんな時間のたってない新参者にも門を開けてくれるのはほんとこの国の美点であり欠点でもあるな」
受けてみてどんな具合だったかはさておいて。
実際に使ってみてどれだけ効果をもたらすのかを体感するのが目的だった。
暫く打ち込んだり唸ったりを繰り返した後、二人は模擬戦闘でその効果を試すつもりらしい。
よく晴れた日の運動場。
カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)が身構える。
「どっからでもかかってこーい!」
対するはミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)だ。
「いいですよね、鍛錬。やはり日頃の努力というものは大事です。私もまだまだ未熟、人に教えられるような立場ではありませんが、他流との交流を通じて経験とするのは貴重な機会ですね。では……」
二人は正面からぶつかりあい、ガントレットをはめた拳を打ち込み合う。
口で教えるより身体に叩き込んだほうが覚えるだろうという考えからの、戦闘訓練である。
「我流・神獣撃!」
「レイジング・バーレクト!」
真っ向から繰り出された拳が交差し、互いの顔面に直撃した。
この人たち死んじゃうんじゃないかなっていう目で見ていたリンネ・スズカ(CL3000361)だが、ここで引き下がっては得られるものも得られない。
前に出ての動きを体得するなら彼女たちは素晴らしい参考になるだろう。
「皆訓練好きなんですねぇ。提案したかいがあると言う物。良い機会ですし有難く利用させていただきます」
リンネは次だ次と叫ぶカーミラへと、拳を構えて飛び込んでいく。
その背を見送るウィリアム・H・ウォルターズ(CL3000276)。
(最近は机仕事ばかりですっかり体が鈍ってしまった。このままでは肝心な時についていけませんでしたとなりかねん。それは困る。置いていかれないように……)
「すまないが錆び落としに付き合ってもらうとしよう」
ウィリアムはしっかりと構えると、自らも組手に参加し始めた。
対応するのはトミコ・マール(CL3000192)だ。
「さぁて、本気でおいでっ」
ぱちんと手を叩いて歓迎の構えをとるトミコ。
(何より、何があってもこの子らを守るという意思をどれだけ体現できるか。それがキモだね……)
組手の輪は一対一の形式から徐々に拡大し、しだいにはあたりの自由騎士たちを巻き込んだ大乱戦へと発展した。
多くを見て、多くを学び、多くを得る。
これは、そういう訓練なのだ。
自由騎士たちの訓練は日が暮れるまで続いた。
彼らはそれぞれの訓練で、彼らなりの成果を手にし、そして確かな成長を獲得した。
その力は必ずや、未来を切り開く力になるだろう。
大いなる戦いから暫し。海の上や港町で血と火薬のにおいにまみれていたオラクル自由騎士団も気づけば随分な大所帯になっていた。
新しく加わった者。長い休眠期間を明けた者。多種多様な面々による日々の鍛錬は、遠い敵国の戦士を打ち破り神さえ滅ぼす力へとつながるだろう。
……と、そんなむずかしい話は置いておいて。
「今回は騎士とは何かを考える座学をするよ」
さざなみ遠い王都訓練場。海鳥たちの見学をよそに、アダム・クランプトン(CL3000185)は黒板にチョークを走らせていた。
「自由騎士は元から騎士だったという人だけでなく色々な立場の人がいるからね。騎士というモノについて考え直す良い機会と思うんだ。ちなみに僕は騎士とは民を守る者であると考えているワケだが……皆はどうだろうか。教えてくれると嬉しいな」
(アダム直々の講義を受けられるだなんて、後輩冥利につきますわ! あぁ、なんて幸せなひと時なのかしら……)
なんだかうっとりしているジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)。
「そういえば、このあいだアルヴィダ・スカンディナに会ったわよ。ジュリエットも一緒にね。なんだか『大きな戦争がはじまる』みたいな事を言ってたわね……」
エルシー・スカーレット(CL3000368)がジュリエットとアダムをちらちら見ながら呟くと、ジュリエットが背筋をびくりと伸ばした。
「アルヴィダ・スカンディナはわたくしの宿敵! 決して負けられませんわ!!」
そうこなくっちゃあという顔でぱちぱちと手を叩くエルシー。
一方のアダムはなんの話だろうという顔をしていた。
(それにしても美形が多いな。直視すると眩しくて死にそうだ)
額に手を当てていたディルク・フォーゲル(CL3000381)が、仲間に体調を問いかけられて首を振る。
「あ、いえ何でもありませんよ、何でも。そうですねえ、今日は色々な方の武器の扱い方を観察させていただきたいですね。まだ私自身、どういう戦い方が向いているか分からないもので」
「いやあ、ダメなんですよね飛び道具。撃つ・射る・投げる、途端に邪念が入ると言いますか。クソ度胸だけで生きながらえて参りました」
会話に加わるサブロウ・カイトー(CL3000363)。
話題はいつのまにか武器の扱いに変わっていたようだ。
端のほうでわざと影を薄くしていたアダム・ロレンツォ(CL3000376)が、彼らの話にじっと耳を傾けている。
騎士のあり方は人それぞれだけれど、どのみち前線に出て戦わねばならないという宿命は共通しているということだろうか。
「銃の取り扱い、距離の詰め方、早撃ちのコツ。色々と教わって帰るとしましょうか!」
彼らは立ち上がり、それぞれの武器をとった。
幸いにもここは格闘訓練場。座学よりも戦闘訓練にこそ向く場所だ。
イーイー・ケルツェンハイム(CL3000076)が張り切った様子で腕を振る。
(今まで、範囲攻撃がいまいち上手く使いこなせてない感じがしてた。だから、模擬戦で味方との距離のあけ方とか練習して、効果的に使えるようになりたい……)
「まずは防御練習だったかな。攻撃をあてていけばいいの?」
「その通りだとも!」
イーイーの言葉に応じて、シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)が仁王立ちで現われた。
「我が防御の粋とは、すなわち不退転の心! 我が身を守る、誰かを守る、何かを守る。背中に庇う誰かには笑顔を向ける! いずれの場合においても、一歩も退かぬ心持ちこそが重要なのであーる!」
その横ではランスロット・カースン(CL3000391)が装備をつけて戦闘の姿勢にはいっていた。
(国防騎士の経験は忘れ新兵に戻ったつもりで挑むのが筋か……)
「宜しくお願いする」
「実践訓練あるのみじゃ! 撃ってこい突いてこい! 全て我が鋼鉄の腕にて抱きとめてくれるわ!」
基本はあまり変わらないなと、ランスロットは剣を振り上げる。
何事も経験というべきか、経験が活かせる部分もあれば新鮮な部分もあった。こうして経験を積んでいけば、きっとより大きな存在となれるだろう。
「それはそれとしてカスタムスキルに興味がある。皆はどんな内容にしているのだろうか。習得している者の攻撃を受けてみたいものだ」
「ふふふ……分かりますよその気持ち!」
タマキ・アケチ(CL3000011)がなぜか薔薇を散らしながらスライドインしてきた。
「あぁ、闘う皆様の姿が素晴らしく! タマちゃん火照ってしまいます、ふふ……! あぁ、あんな素敵な技を受けたら私……!」
不思議なのけぞり方をしながら目を光らせるタマキ。
「ハッ、何か閃きそうな……!」
彼らの視線はジュリエットたちの模擬戦闘に集中していた。
「さて、防御側の方はこのわたくしの一撃に耐えられるかしら? おーっほほほほほ!!!」
渾身の必殺技ダイアモンドプリズンを放つジュリエット。
対するシノピリカは攻撃を正面から受け止め、あえてしばらくぼこぼこ殴られてからにやりと笑った。
「よかろう。ではこちらも大盤振る舞いじゃ! SIEGER IMPACT!」
蒸気のジェットで繰り出す拳がジュリエットへと直撃する。
そのまた一方では、ディルクやアダムたちがばちばちの攻防を繰り広げていた。
「もう暫くおつきあいください。皆様には及ばないでしょうが、訓練にて学んだ戦闘術で 片手鎌『ジャックドー』を改めて使ってみたくて」
「いいよ、さあ……!」
武器の打ち合い、特殊な攻撃技の交差。防御や回避の訓練。やがて訓練内容はチームでの連携訓練へとシフトしていく。
未熟なものは成熟へむけて反復を重ね、熟達したものはかつての理想を思い出す。
「理想を口に出来なくてもソレはソレでいいさ。誰かの語る理想をまずは真似れば良い。いずれはソレが目指すべきモノになるかもしれないからね」
得るものは互いに大きいはずだ。
対立をすれば戦いが起きるもの。
それが血の通う動物である以上互いにぶつかり合い、壊し合い、血を流すのは道理。
であれば、血をとめる者が必要になる。
「お互い殴りあう同士のグループの人たちとかって生傷絶えなさそうだもんね?」
ローラ・オルグレン(CL3000210)は過激になってきた訓練で怪我をした人を片っ端から治療して回っていた。
「だいたいローラってば回復魔導の知識とか心得とかさぁ。そーゆーのって誰かに教わった覚えぜんぜん無いんだよねー。オラクルになったとき、殴ったり撃ったりするのがヤだからヒーラー志望になったってだけなの。そんなワケだから専門的な指導とかは向かないと思うよぉ?」
そう言いながらもテキパキと怪我の治療や魔導回復をしていくローラ。
変な話だが戦闘中に行なうダメージ回復と一般的なけが人に行なう医療は別種のものだという。ローラが得意としているのは前者の方で、自覚の有無はともかくこれも立派な前線活動なのだ。
サブロウタ リキュウイン(CL3000312)もそれにくっついて、沢山ダメージをおった人の集中回復や回復リソースの配分を練習していた。
筋トレと同じで、限界まで力を使っては休み使っては休みを繰り返すことで力のリソースを増やすことを狙ったようだ。
「さぁボクはボク自身の知るためにこの訓練有効活用させていただきますっ」
一方で、非時香・ツボミ(CL3000086)はたまたまでたけが人を例にとって応急処置の講義を行なっていた。
「魔導治療は便利だがあくまでその場しのぎ。頼り切らずに大きな怪我を負ったらあとで医者に診せるのがいいぞ。だがここで紹介するのは応急処置だ。例えば銃弾が肉体に残ったとき、こうしてナイフでえぐり出すことで……」
なかなかえげつない光景だが、剣だ銃だと持ち出す以上避けては通れぬ光景なのかもしれない。
ルー・シェーファー(CL3000101)もそれに伴って応急処置の方法をレクチャーしていく。
「例えば、骨が折れた時に添え木をする方法があるよね。しっかりした軸と押さえる箇所さえ間違わなければ廃材や布で代用できるよ。さっきみたいにナイフで銃弾をえぐり出すときも酒で消毒をすれば怪我の悪化をおさえられるし、傷の治療を助ける野草なんかもあるネー」
普段から戦いに関わっておらず、ダメージの回復を魔導治療に頼ってばかりいるとついつい基本を忘れそうになるものだ。
けが人を見つけたが魔導治療の手段がないからと諦めてしまうのもあるという。逆に魔導治療さえすればOKと適切な応急処置を怠ってしまうことも。
「任務の性質上、一般のけが人を手当することもあるだろう。そういうときに魔導ばかりに頼らんようにな」
訓練方法は人それぞれで、なんだか只管基礎訓練を重ねている者もいた。
柊・オルステッド(CL3000152)はひたすらシャトルランを繰り返したり、バスケットボールめいた球技で反射や連携動作を訓練したり、なんだか清らかな姿勢で瞑想したりアクアディーネブロマイドを勝手に配ってみたりした。
「アクアディーネの写真には集中を助ける効果があるぜ!」
本当にあるかどうかはちょっとよくわからないが、たまにこういう付き合い方をしてくれる先輩はどこの世界にもいるものである。
かと思えば、カノン・イスルギ(CL3000025)が立ち方についてのレッスンを行なっていた。
「武術家として基本的な体遣いなんかを伝えられるといいかなー。センセーの受け売りだけどね」
実際に立ってみせるカノン。
「あのね、真っ直ぐ前を見て顎を引くの。それでね、足を肩幅くらいに開いて、足の裏を地面に着けたらそのまま『足の裏事地面を上にもちあげちゃうぞ!』ってイメージで体を上に伸ばすの。そしたら、ちょっと突かれたくらいじゃぐらつかなくなるんだよ。こう立つ事で体幹の筋肉を使うんだってセンセーが言ってたよ。地味な基礎だけど、強くなりたいならそれをこそ完璧にマスターしないと駄目だって」
「ほう……」
はじめは魔導系の座学に参加していたティラミス・グラスホイップ(CL3000385)も、なんとなくの流れでこうした基礎訓練を受けるようになっていた。
クラスごとに多少の分業はあれど、前線に立てば誰もが肉体を駆使して戦うことになる。歩き方立ち方その他もろもろの基礎はどうやっても役に立つんどあろう。
コジマ・キスケ(CL3000206)やアリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)も基礎訓練を重ねていた。
「生き残るには筋肉つけなきゃいけないと思ってました」
「筋肉はあんまりつけとうないんよ。うちも年頃の女の子やからな!」
立ち方にしろシャトルランにしろ球技にしろ、筋肉というより姿勢の訓練だ。
ちょっと広義になるが、コジマのいう生き残りにも、アリシアの考えるカタフラクトを大事に使える動き方も、結局の所は基礎トレーニングに行き着くらしい。
一方で、こんな考えかたをする者もいる。
「芸術が、文化的教養が少なすぎる!」
カノン・T・ブルーバード(CL3000334)である。
「例えば格闘技や運動は、1日サボると取り戻すのに3日必要だと言う。芸術もまた然り。感性とは研磨しなければ必ず錆びつく鉱石の様な物だ。という事で、この僕が皆が鍛錬だとか訓練だとかしている背後で真の芸術という物を教示してあげよう。そう、これは芸術家であり音楽家である僕の責務であり、義務ッ!」
全体的にかなり戦闘や戦場に寄った訓練をしてはいるが、自由騎士の仕事は戦うことばかりではない。
復興したり人を元気づけたりたまに村おこしをしたりするのも、自由騎士のつとめなのだ。
そのあたりが王国騎士との大きな違いといってもいいだろう。
彼らは国を守るというより、人の心を守っているのだ。
ゆえに芸術は必要……と、カノンは言いたいのかもしれない。単に芸術好きなだけかもしれないが。
強いだけじゃない。
信念や哲学や、理想や未来をもった人々との交わり。
それはただダンベルを持ち上げるだけの訓練とは決定的に違う、心からの鍛錬であった。
自分を追い込むように何人もの格上自由騎士との戦闘訓練を重ねてみたライチ・リンドベリ(CL3000336)も、少し見えてくるものがあったらしい。
心に引っかかった『奇跡の連撃』という言葉。
「まったく、気に入らないったらありゃしない。私があの時魂を削って求めたのは奇跡じゃない。いつかの私が到達しえた可能性だ。奇跡なんかじゃないと証明するために……」
ライチが求めたのも、また理想と未来であった。
休憩をしようと食堂へやってくると、エミリオ・ミハイエル(CL3000054)たちがかたまって話をしていた。
「私ってどれも中途半端なんです。ですがそれを苦だと思ったことはないので、今後も平均的な器用さで頑張るつもりです。それで一通り見学をしてみたのですが……」
「うぅ……ず、随分身体が訛ってる、なあ。下水道に引き篭もり、す、過ぎたな……」
ダンケル・アルトマン(CL3000010)が水を飲みながら息をつく。
「オイラ一応、し、新人とは言えねえんだけど……じ、自由騎士として活動を、だいぶしてねえから、な。し、正直、薄暗い下水道で鼠達と居る方が、性に合ってるんだけど……やっぱり、必要とされたい、し……。どこもかしこも、誰も彼も、い、今は色々大変だし、な。オイラでも力になれるなら、なりたい」
みな、それぞれ思い描く理想があるようだ。
千亞・ヴェローチェ(CL3000373)にもそういうものがあるようだが、まず理想を作る段階から始めたようだ。
「私はまだ実戦に参加出来ていない。戦いも不慣れだろう。技術は勿論、いずれ実戦に出た際の心構えを学べれば良いのだが」
「わかるぞ。サシャも何をどーすればいいのかから教えてほしいぞ!」
サシャ・プニコフ(CL3000122)もうんうんと頷いた。
格闘訓練をする者、多くを平均的に学ぼうとする者、基礎を積み上げようとしている者。皆共通して、より上を目指して努力していた。
しかしやっぱり、休憩も必要だ。
「頑張った後の肉はさいこーにおいしーんだぞ!」
サシャはお肉をもぐもぐしながら小さく笑った。
さて、ここからはもう少しばかり細分化された訓練風景をご覧頂こう。
「んー、あたしの魔導って自己流だから、教えられるようなことってないのよね。教えてもらえるなら基礎からちゃんと学んでみたい気もするわ」
ここは魔導訓練のための野外練習場。
エル・エル(CL3000370)は実際に魔導を使ってみせながら、互いに見せ合ってより高度なもしくは効率的な魔導式を組み立てていた。
「あたしにとって魔導は生活の一部で、切っても切り離せないものね。あまりにも馴染み過ぎているから、改めて考えたりすることはなかったなぁ……うふふ、こういうってどうしたってひとりじゃできないことだから、こういった機会があるのはありがたいわね」
「最近レンジャーの魔道も増えてて、私はまだ習得てきてないけど……情報は調べてあるわよ! その辺を経験含めて勉強するわよ!」
『翠氷の魔女』猪市 きゐこ(CL3000048)が机に資料を積み上げていく。
「これを元に自己流改造して使いやすくしてくといいわ! 私は元々はアマノホカリ式言霊型呪術の使い手だったから、そういう改造をしてるわね」
魔導の使い方には個人差があるらしい。カレーのレシピみたいなもんで最終的には同じような形になって優劣もある程度つくはずだが、雰囲気やそこに籠もった人物的背景や歴史が垣間見れる部分でもある。
テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)は資料をめくりながらこくこくと頷いた。
「運動不足の解消と見識を深めるのが目的だが、新鮮な知識が多いな。自由騎士団には如何な差も無く、様々な者が集まっているようだ」
そういった人々と話を交わすことで新たな発見が見つかることもあった。
またカレーに例えると、自分の家のカレーだけ食べていると偏るが、あちこちの家のものを食べているとアレンジの幅が広がって『もうこでれいいや』と思っていた概念に思ってもみない改善点が見つかったりするものである。
ティーナ・カミュ(CL3000359)も実戦に出る機会をいろいろと逸していたが、この気に訓練に参加してみたらしい。
「お勉強は大好きなので、頑張ります! そのへんの文献にはない実践的な内容、参考になります! 次のステップは、実戦デビューですね。いつか先輩に並び立てるように、頑張って鍛錬します……!」
「水鏡で見た蒸気王とかいう超機人すごかったよな。ぜってー殴り合いになったら強いだろ。オレもパンチのパワーなら自信あるけど、相手のパンチを受けとめられるかどうかはまだわかんねえ」
マリア・スティール(CL3000004)は藁でできた柱に只管指や肘といった身体の突起ポイントをぶつける訓練をしていた。
最初に聞いたときは何言ってんだこいつと思ったものだが、どうやら人ってゆーのは破壊と再生を繰り返すことで硬くなるらしい。
勿論鉄の鎧を纏うという手段もあるだろうが、皮膚や骨や筋肉まで固められるわけではない。行くところまでいくと鉄の柱をショルダータックルで弾いたり固い壁を手刀で貫いたりするようになる、らしいが。
「硬くするのもいいが、体力の消耗を少なくする方法も大事だろう」
ボルカス・ギルトバーナー(CL3000092)はひたすら飛んでくる魔道ピッチングマシンに対して攻撃を『反らして受ける』訓練を続けていた。
イメージはピンポイントなバリア。全身をいきなり硬くすることはできなくとも、ピンポイントに硬く、そして角度を整えて衝撃を弱めることであれやこれやしようという試みである。
防御を得意とする者にも、そういった具合に種類があるのだ。この場にいない例で述べると、『なんか可愛いので攻撃しづらい』みたいな精神的防御法もこのうちに入っているらしい。
「な、なるほど……私が死んだらそこの木に埋めてください」
ウド・トラウゴッツ(CL3000389)はびくびくしながらもそんな防御訓練に参加していた。
新米らしく教えをこうつもりで来たが、マリアやボルカスは先輩というより単に『先に始めてた人』くらいの接し方をしてきた。おかげで緊張しすぎずに済んだが、教え方も鍛え方も信念すらも多種多様で、その中から自分の目指すスタイルを見つけ出すことが必要になってきた。
ただ防御力をあるにもスタイルがあるらしい。
その時点でもう既に、ウドの選択は始まっているのだ。
カスカ・セイリュウジ(CL3000019)がコインをつまんだ。
「投げたコインの落下と同時に攻撃を開始。一瞬でも早く攻撃を命中させたほうの勝ちです。いいですね?」
カスカの提案したのは速度訓練のひとつ。
早く動くだけなら銃弾に任せればよい。
しかし先に動きたいなら、相手を看て、先を読み、反射を超えて行動しなければならない。
「一言に速度特化といっても私のような回避寄りもいれば、二刀流や二連攻撃による手数を重視する型、純粋に行動速度のみを追求した型など、色々あると思います。けれど行き着く先は一瞬のチェックメイト」
「道理だな」
グローリア・アンヘル(CL3000214)はこくりと頷き、カスカの前に立った。
だが話を聞いた時点ではピンときていなかった。
ただコインを投げると言われただけ。ルールもシンプルに二つだけ。
落ちるコインを見ていていいのかすら分からぬまま立っていると、カスカはコインが頭上にあるうちから行動を始めていた。
攻撃には前段階がある。
例えば死角に回るであるとか、相手の攻撃手段を奪うであるとか、勢いをつけるであるとか。限られた時間での準備はじゃんけんの手に似ていて、この時点で先読みを必要とした。
そして勿論、実戦でも同じことがおこる。
「総合訓練というわけか」
「みんなおもしろい訓練をしてるんだね!」
シア・ウィルナーグ(CL3000028)はそんな様子を眺めながら、お互いに提案した訓練方法を取り入れ合っていた。
単純な走り込みや、打ち合いによるカンの研ぎ澄ましや、限定された実戦訓練や……あれやこれやだ。
シアも本で読んだまんまの二刀流スタイルだが、流派やその拘りによって使い方がまったく違うことに今更ながら気がついた。もしかしたら、前からずっと気がついてはいたのかもしれない。
例えばアリア・セレスティ(CL3000222)は回転や跳躍といった自身を延長した運動エネルギーで威力を稼ぐスタイルをしていて、相手を複雑に翻弄したりある程度先読みをして動くことが多かった。
「実際にぶつかってみると新鮮だわ」
チェスプレイヤーにも攻撃的な人やねっとりとはりつくようにカウンターをとる人や牽制でこじあける人など様々で、高速の戦闘はそれを一瞬で差し合うようなもの。絶対手はないが、拘りと直感は必要なのだ。
蒸気式散弾銃を二丁構えて、ヒルダ・アークライト(CL3000279)はウィンクした。
「あたしから教えられる一番のことはやっぱり零距離射撃ね」
射撃練習といえば遠くに向かって円盤を投げては銃で破壊するアレを想像するが、ヒルダのほうはやや違う。
自分に向けて円盤を発射させ、適切な射程距離まで耐えてタイミング良くトリガーをひく訓練である。
「零距離射撃は普通の射撃よりもだいぶ感覚が異なるのよね。たとえるなら格闘技の突きに近い感じかしら? あとは度胸で恐れずに突っ込むことよ!」
メモをとりながら頷くジークベルト・ヘルベチカ(CL3000267)。
「とにかく突きに度胸。なるほど」
見たところ剣で切るタイミングに似ていた。
しかし攻撃エネルギーが必ず点で打ち込まれることと、手首までのねじりでかなりの方向を整えられること。そして発射されてからは一瞬であること。
似ているようであちこちが違う。覚えるにはいい題材だった。
一方でレネット・フィオーレ(CL3000335)は一般的なクレー射撃練習を繰り返していた。
「特に教わりたいのは、素早く狙いを定めるコツと、対人戦闘に対する心構え、でしょうか。お恥ずかしながら、対人戦闘を行ったことが、まだないものですので」
海・西園寺(CL3000241)が一緒になって射撃練習をしている。
「この後模擬戦をしてみませんか。理想とする戦い方に近づけてみたいので……」
「わたしで問題ないのでしょうか? わたし、まだまだ未熟ですのに!」
「だから、訓練するんですよ」
引き金をひいて、レネットは息を吐いた。
「挑まれたからには! 負けませんよ! ……なーんて。うふふ」
射撃訓練にも色々ある。
零距離射撃訓練ほどかわっていなくても、飛んでいく的を狙ったり、足をとめて次々と現われる的に当てたり、ただまっすぐ狙う訓練をしたりだ。
どれも鍛える種類が異なり、かつ重要なものだった。
ジョシュア・サザランド(CL3000360)の訓練方法はというと……。
「ごめんなさい! わー! ごめんなさい!」
反動の大きな銃をしっかり構えて撃ってはころび撃ってはころびを繰り替えてしていた。
どうやら射撃姿勢を整える訓練のようだが、武器のクセが強すぎてそれに慣れるための訓練になっているらしい。
一方のグリッツ・ケルツェンハイム(CL3000057)もまた銃の反動になれる訓練をしていた。
(自由騎士になっていくつかお仕事をしたけど、誰かを守るにしても助けるにしても戦う力は必要だよね。僕だったらライフルをもっと上手に使えるようになることかな)
本人がいうには蒸気義手で銃の反動を押さえているらしいが、身体全体でしっかり押さえられるようになっておきたいそうだ。
戦いの場でいつもちゃんとした姿勢のまま戦えるとは限らない。というか、逆の立場なら足や腕を積極的に壊しにいくだろう。
どんな時でも戦える力は、もっておきたいグリッツなのだった。
どんな時でも戦える……といえば、ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)も慣れておきたい状態があるらしい。
「まぁこの後の模擬戦の準備運動みたいなもんだな」
ザルク・ミステル(CL3000067)におぼえたパラライズショットをを打ち込んでもらう練習だった。
「なんつーか、俺達みたいな国に来てそんな時間のたってない新参者にも門を開けてくれるのはほんとこの国の美点であり欠点でもあるな」
受けてみてどんな具合だったかはさておいて。
実際に使ってみてどれだけ効果をもたらすのかを体感するのが目的だった。
暫く打ち込んだり唸ったりを繰り返した後、二人は模擬戦闘でその効果を試すつもりらしい。
よく晴れた日の運動場。
カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)が身構える。
「どっからでもかかってこーい!」
対するはミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)だ。
「いいですよね、鍛錬。やはり日頃の努力というものは大事です。私もまだまだ未熟、人に教えられるような立場ではありませんが、他流との交流を通じて経験とするのは貴重な機会ですね。では……」
二人は正面からぶつかりあい、ガントレットをはめた拳を打ち込み合う。
口で教えるより身体に叩き込んだほうが覚えるだろうという考えからの、戦闘訓練である。
「我流・神獣撃!」
「レイジング・バーレクト!」
真っ向から繰り出された拳が交差し、互いの顔面に直撃した。
この人たち死んじゃうんじゃないかなっていう目で見ていたリンネ・スズカ(CL3000361)だが、ここで引き下がっては得られるものも得られない。
前に出ての動きを体得するなら彼女たちは素晴らしい参考になるだろう。
「皆訓練好きなんですねぇ。提案したかいがあると言う物。良い機会ですし有難く利用させていただきます」
リンネは次だ次と叫ぶカーミラへと、拳を構えて飛び込んでいく。
その背を見送るウィリアム・H・ウォルターズ(CL3000276)。
(最近は机仕事ばかりですっかり体が鈍ってしまった。このままでは肝心な時についていけませんでしたとなりかねん。それは困る。置いていかれないように……)
「すまないが錆び落としに付き合ってもらうとしよう」
ウィリアムはしっかりと構えると、自らも組手に参加し始めた。
対応するのはトミコ・マール(CL3000192)だ。
「さぁて、本気でおいでっ」
ぱちんと手を叩いて歓迎の構えをとるトミコ。
(何より、何があってもこの子らを守るという意思をどれだけ体現できるか。それがキモだね……)
組手の輪は一対一の形式から徐々に拡大し、しだいにはあたりの自由騎士たちを巻き込んだ大乱戦へと発展した。
多くを見て、多くを学び、多くを得る。
これは、そういう訓練なのだ。
自由騎士たちの訓練は日が暮れるまで続いた。
彼らはそれぞれの訓練で、彼らなりの成果を手にし、そして確かな成長を獲得した。
その力は必ずや、未来を切り開く力になるだろう。