MagiaSteam
【シャンバラ】S級指令、妖精郷へ1



●S級指令
「はぁ! はぁ、はぁ……!」
 揺れる船の上で、マリアンナ・オリヴェル(nCL3000042)は呼吸を乱しながらもまっすぐ前を見据えていた。
 そこにはかすんだ陸地が見える。
 イ・ラプセルではない。
 景色の果てに見えるのはシャンバラ皇国。
 マリアンナの故郷にして、忌むべき敵地である。
 それを目にして、イ・ラプセルでは思い出さずに済んでいた惨憺たる記憶の数々がどうしても蘇る。
 マリアンナは顔を青くして呼吸を乱しながらも、だが、シャンバラの地を睨み続けた。
 彼女と、そしてこの船に乗っている自由騎士の目的はそこへ行くことだった。

 ――先日、S級指令が発令された。

 イ・ラプセルでもことさら特別なこの指令により、行なわれるのは潜入作戦だ。
 目的地はシャンバラ皇国内にある妖精郷ティルナノグ。
 シャンバラに反抗する【ウィッチクラフト】の拠点である。
 少数の自由騎士団とマリアンナがそこへと向かい、そして接触を図る。
 今後の対シャンバラを考える上で、絶対に必要となってくるファクターだ。
 だが、敵もまた国家である。
 普通に海を渡ろうとしても国境を警備するシャンバラ軍にすぐ見つかってしまうだろう。
 ゆえに、陽動作戦が行なわれることになった。
 海上で味方の船が敵軍を引き付け、その間にマリアンナ達がシャンバラへ向かう。
 作戦は、半ば成功していた。しかし――

●いざ妖精郷へ
「邪魔をしに来たわね……!」
 マリアンナと自由騎士が乗る船の前に、一隻のガレオン船が現れた。
 当然、シャンバラの国境警備隊である。
 陽動作戦をもってしても、敵軍全てを引き付けることはできなかったようだ。
 しかし、逆にいえば立ちはだかったのはわずか一隻。
 陽動作戦は、間違いなく敵の分断に成功していた。
 ならば、目の前の相手を乗り越えればシャンバラの地を踏むことができる。
「みんな、準備はいいかしら?」
 弓を手に握り、マリアンナは自由騎士達に尋ねた。
 そこで首を横に振る者はいなかった。
「行くわ。……ティルナノグの景色を、あなた達に見せてあげるわ!」
 そして二隻の船は激突。
 自由騎士達がするべきことは、これより敵戦に乗り移ってこれを制圧すること。
 忘れてはならない。
 これは、侵略行為である。
 敵はシャンバラの国境警備隊。国を守ろうとする者達だ。
 忘れてはならない。
 ここからは、イ・ラプセルがシャンバラを攻める番なのだということを。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
シリーズシナリオ
シナリオカテゴリー
S級指令
担当ST
吾語
■成功条件
1.敵軍の制圧
今度はこっちの番だ!
吾語です。

ついにやってまいりました。
イ・ラプセル側のターンが始まります。

そのための第一歩。
まずはシャンバラへと向かいましょう。

◆敵
・国境警備隊×8
 重戦士×2 軽戦士×2 格闘×2 ヒーラー×2

◆戦場
 船上は敵船上となります。時間帯は昼。天候は晴天ですが風が強め。
 海が荒れ気味なので割と揺れます。全員が戦えるだけの広さはあります。
 なお、陸が見えてるとはいえまだ距離がありますので飛行では到達できません。

※今回のシナリオに参加する際には特に下記にご注意ください。

・S級指令依頼はおおよそ二ヶ月間のシリーズ依頼になります。
 4話構成でシャンバラへの少数精鋭での侵入ミッションになります。
(大まかな予定としましては、1週間の相談機関と1週間の執筆期間、執筆期間終了後に次のOPの発出になります)
 また、シリーズ依頼になりますので、参加者には予約優先権がつきます。
 2話以降予約をせずにいると、1話の参加者以外でも参加可能になった場合参加することができます。
 其の場合、実は船にこっそりと乗っていたなどの理由が付けられます。また、新規参加者にも次回以降の予約優先権がつけられます。以上ご了承お願いします。

 シャンバラとイ・ラプセル間ではマキナ=ギアの通信はできますが、状況によっては通じない可能性もあります。
 また、シャンバラにイ・ラプセルオラクルがいることで、水鏡の範囲が多少広がります。
 予測系は断片的ながら現地自由騎士に伝えることができるでしょう。

 
 シリーズ参加参加者は、現状発出している依頼の参加を禁止するものではありません。
 時系列が違うということで参加しても構いませんが、RPとして参加しないということも構いません。(ギルド、TOPでの発言も同様です)
 すでに参加している依頼についてもそのまま参加してくださってかまいません。(時系列がちがいます)

 この依頼に参加した方は【陽動依頼】のタグと【シャンバラ】タグのついた依頼に同時参加することはできません。
 参加を確認した場合は上記依頼より参加取り消しの処置がくだされます。参加費は返却されません。


 ★今回の難易度はノーマルですが、今後、話の進行に応じて難易度が変わる場合があります。
状態
完了
報酬マテリア
4個  4個  4個  4個
12モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
10/10
公開日
2018年11月21日

†メイン参加者 10人†

『果たせし十騎士』
ウダ・グラ(CL3000379)
『RE:LIGARE』
ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)
『果たせし十騎士』
柊・オルステッド(CL3000152)
『イ・ラプセル自由騎士団』
シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)


●揺れる波間に
 いつの間にか、空に灰色の雲が垂れ込めつつあった。
「……シャンバラの船」
 ゆっくりと揺れる甲板の上でそれを呟き、マリアンナ・オリヴェル(nCL3000042)はまなざしを険しくする。
「気持ちは分かるけど、今は抑えて」
 背後から、『魔女を名乗る者』エル・エル(CL3000370)が声をかけた。
 振り向いたマリアンナは彼女へ問うような目を向ける。
 その目線、エルには心当たりがあった。
 かつてシャンバラの大司教にブチまけられた己の心についてであろう。
 しかし、エルは首を振る。
「あたしはあたし。……ヨウセイじゃないけど、エル・エルは魔女よ」
「――そう」
「とにかく、今は隠れて。あなたの姿を見られるわけにはいかないわ」
 言うエルを見て、マリアンナは初めて小さく微笑んだ。
「海賊、のつもりだったかしら。似合ってないわ」
「大きなお世話よ。海賊が似合わないなら、さしずめセイレーン、ね」
「何を言っとるんだ、おまえらは」
 と、大いに自分を持ち上げるエルに、『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)が冷ややかに突っ込んだ。
「ほれほれ、さっさと隠れろ、マリアンナ。もうすぐ船がぶつかるぞ」
「分かっているわ。……任せたから」
「オウ、大丈夫だって、ちゃんと食い物もゲットしてくるからよ!」
 船倉へと避難しようとするマリアンナへ、『おにくくいたい』マリア・スティール(CL3000004)が大きく笑ってそう返した。
「そういうことじゃないだろ」
 ツボミの指摘はあまりにも的確であった。
「あァン!? 海賊つったら略奪だろ、何言ってんだ!」
 だがマリアが食い下がる。
「見ろよ! あの旗を! ちゃ~~~~んと用意しておいたぜ!」
 と、マリアがマストを指させば、そこにはためくドクロの旗。
 白い布に大雑把に描かれただけの簡素な旗だが、これが存外大きく目立つ。
「どっからどう見ても海賊だろ!」
「おまえは何をやってるんだ、俺達の本業は自由騎士だぞ」
 そして『いつかそう言える日まで』ボルカス・ギルトバーナー(CL3000092)の反論もまた、やはり的確であった。
 今この瞬間も、ここから離れた海で繰り広げられている陽動作戦。
 自ら海賊に扮して行われるそれに合わせて、彼らは揃って海賊の恰好をしていた。
 イ・ラプセルの自由騎士であることを悟られぬための方策である。
 マリアンナを船倉に隠すのも、それが理由だ。
「……お願いね」
 最後に一言だけ告げて、マリアンナは中へと入っていった。
「そんな言われ方をされたら、断ることはできないな」
 マリアンナを見送った『蒼影の銃士』ザルク・ミステル(CL3000067)が、銃を手に呟く。
 ここから始まるシャンバラへの長い旅路、その第一歩。
 躓くワケにはいかない。
「近くに商船でもあれば、海賊のまねもしやすかったんだけどねー……」
 『RE:LIGARE』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)がそう言って唇を尖らせる。
「海賊のまねをすることが第一目的じゃないからだよ」
 答えたのは『闇の森の観察者』柊・オルステッド(CL3000152)である。
「指令内容はシャンバラに行くことだぜ。そりゃ国境警備隊だって来るさ」
「分かってるわよ」
 しかし、ミルトスは唇を尖らせたままだった。
「……さて、船は慣れないけど」
 揺れる船上、『湖岸のウィルオウィスプ』ウダ・グラ(CL3000379)がただでさえ白い顔色をさらに蒼白にしつつ、海原の向こうを見る。
 敵船が近づきつつあった。
 もはや、あちらからもこちらの人影が確認できるであろう相対距離。
「うん、大丈夫。マリアンナのことは気づかれていないみたいね」
 卓越した視覚を持って敵船上を観察した『梟の帽子屋』アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)が告げてライフルを手に取った。
 耳には打ち付ける波の音。
 いよいよ、二つの船の距離が縮まる。
「行くぜ野郎共! シャンバラの船からありったけの荷を奪っちまえ!」
 『揺れる豊穣の大地』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)が愛用のサーベルを掲げて高く吼えた。
 直後に、彼女はごまかすように咳払いをする。
「…………やりにくい!」
 それが率直な感想であった。
 自由騎士であることを隠すためだ、と、自分に言い聞かせはしているのだが。
「ヒャッハー! 行こうぜ、海賊の時間だ!」
 反面、ノリノリなマリアが船の端で笑って飛び跳ねた。
 そして二つの船が、今、激突!

●おたからを寄越せ!
 シャンバラ国境警備隊の船はガレオン船。
 木造の旧式だがかなり丈夫そうだ。これならば暴れても差し支えないだろう。
「海賊共、こんなところまで出張ってきおって!」
 軍服に身を包んだ警備隊の一人が叫んだ。手にしているのはサーベルだ。
「……違う。やつではない。――あっちか。いたぞ!」
 目を細め、三つの目でそれを眺めていたツボミが視線を敵船奥へと移し、そこに立っている二人の敵兵を指して皆に教えた。
 彼女が示した敵兵二人、手には杖を持っている。
 ヒーラーである。
「OK! ありがとう、ツボミ!」
 翼を広げ、アンネリーザが空へと飛び出した。
 いきなりの飛行に敵前衛はそちらに意識を取られて動きが一瞬固まる。
 ちょうどいい隙であった。
 刹那ほどの間でしかないが、照準を合わせるには十分。
「そこ、逃がさない!」
 戦いの始まりを告げる銃声は、確かに敵ヒーラーの肩を抉り、悲鳴が上がる。
「おのれ!」
 敵前衛、斧を持った重戦士がアンネリーザの着地際を狙ってきた。
「おおっと! やらせはせぬ……、ゴホン、やらせねぇぜ!」
 がっしりと敵の一撃を受け止めて、シノピリカが不敵に笑う。
 そこにごまかし笑いが混じっていることを、仲間全てが知っていた。
 一撃を弾き返された重戦士を待っていたのは、彼女からのキツい反撃だ。
「くらぇい!」
 ガツンと重い音がした。
 シノピリカの鋼腕から繰り出された、強烈な一撃だった。
「我らに逆らうか、海賊風情が! 神の威光のもとに裁かれるがいい!」
 怒りに顔を赤くして、軽戦士がそう叫ぶ。
 国境警備隊であろうとも何も変わることはない。こいつらはシャンバラだ。
 自由騎士達がそれを再認識し、一歩前に出たのはザルクである。
 ヒーラーの排除が優先事項ではあるが、壁となる軽戦士が邪魔だった。
「海賊に説教? 見当違いも程々にしてくれ!」
 銃口より火弾が轟く。
 貫いたのは敵軽戦士の右の二の腕。
 血が噴き、敵は悲鳴と共に得物を落とした。
 敵船甲板の上で、ザルクはそのまま素早く目線を周りには知らせる。
 杖を持つヒーラー。それを覆うように陣を組んでいる、前衛の戦士達。
 どうやら、自分達のマキナギアのような通信手段は、持っていないようだ。
 好都合である。
「このまま畳みかけていけ!」
「応!」
 答えたボルカスがグッと足を踏ん張らせる。
 ここは地上ではない。足場は思ったよりも不安定だ。だからこその踏ん張り。
 そして同時に、それは攻撃の予備動作でもあった。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
 景気づけの咆哮が、闘争本能に火をつける。
 そして放たれた大振りの一撃は、重戦士の金属鎧を軽々と突き破った。
「グ、ググ! く、そぉ!」
 しかし敵もただやられるばかりではない。
 わき腹をボルカスの槍に貫かれながら、その柄をがっしりと掴んだのだ。
「やれ! 神に逆らう不届き者を撃滅せよ!」
「言われんでも!」
 ナックルを握り締めた敵兵が、一気に間合いを詰めて拳を連打。
「ぬ、ぐぅ!」
 鼻っ柱をしたたかに打ち付けられて、ボルカスが怯む。だが彼は後退しない。
 別にここで退いても、それで戦局を大きく傾くワケではない。
 しかし心に灯した火が彼に退くことを許さなかった。
「おお!」
 吼えて、ボルカスが踏ん張った。それに驚いてか、敵の動きが刹那、止まる。
「――戦闘中よ、棒立ちは感心しないわ!」
 懐に、ミルトスが飛び込んでいた。
 走り込んだ勢いのまま、身に沁み込ませた動きに任せて渾身の体当たり。
 突き抜けた衝撃が、後方にいる重戦士をも吹き飛ばす。
「よくやってくれたな」
「……大丈夫? 顔面、血だらけよ」
 敵から抜けた槍を引き、言うボルカスを、ミルトスが心配する。
「……おぇっぷ。傷、見せて」
「む……、すまない」
 フラフラと近寄ってきたウダがボルカスの傷を癒す。
「そこ、そして、こっちも!」
 空中では、アンネリーザが狙撃を続けていた。
 この立地条件、飛行できるというのは大きなアドバンテージだ。
 そしてそれをさらに利用しているのが、エルだった。
「一気に行くわ、大丈夫、魔女狩りじゃないなら殺しはしない!」
 敵に捕まらぬよう空を舞いながら、彼女は氷の魔導の魔導を放つ。
 間合いの外から襲い来る急激な寒波に、敵軽戦士の一人が動きを鈍らせた。
 だが効きが鈍い。やはりシャンバラの権能。魔導には強いか。
 だからこそ、すかさずアンネリーザが火砲支援を重ねた。
「がっ!? ……ぬうう!」
 弾丸を太ももに受けながら、しかし敵は体勢を保とうとするが、
「いい標的ね。そのまま氷像になるのもいいんじゃないかしら」
 無情にも放たれた氷の第二撃が、敵軽戦士を打倒した。
 こうして、敵の戦力は確実に削られていった。
 対照的に甲板上で海賊(になり切った自由騎士数名)が暴れっぷりが酷さを増す。
「オラー! 何が神様だ! そんなもんより現世利益、現世利益だっての!」
「ヒャハー! エラそーにしやがって! おたからよこさんかーい!」
 特にノリノリなのはこの二名。
 マリアと柊である。
「この、海賊が! 邪魔をするな! 邪魔だ!」
 マリアは敵兵に張り付いてその行動のことごとくを阻み続けた。
 そして敵に隙ができれば、見逃さずに柊が遠い間合いから攻撃を打ち込む。
 要するに、非常にウザかった。
「何だその……、演技は確かに必要なんだが、あいつら素でやってないか?」
 見ていたツボミが思わず呟いてしまうくらいに、二人は海賊だった。
「待て、オレは演技だ。演技だぞ?」
 聞こえていたらしく、振り向いた柊が釘を刺してくる。
「よそ見をするなよ。……それより、前が空いたぞ」
 癒しの魔導を準備するツボミが、柊へ示すようにあごをしゃくる。
「おっと、待ってたぜ!」
 自由騎士達の奮闘によって、敵前衛に隙間が空いた。
 その奥に、ヒーラーの姿が見えている。
「こいつで、ブッ倒れろ!」
 刃が届く距離ではない。
 しかし構わずに柊はその切っ先を振り下ろした。
 ウォン、と鋭く空を切る音がして、
「ぐああ!」
 彼女の刃の振り下ろされたさらにその向こう、敵ヒーラーが声を響かせた。
 刀身に圧縮された気が、空を切り裂き敵を打ったのだ。
「……今! 一気に行っちまえ!」
「「おおー!」」
 柊の号令を受けて、自由騎士達は一斉に攻撃を開始する。
 ヒーラーを打ち倒された敵警備隊は、必死に抗おうとするも、勢いが違った。
「……うぇ。あ、あんまり仕事がなかったね」
 後方で腕を組んでいたツボミのところに、ウダがやってくる。
「そうだな。……いや、私には今、おまえを治すという仕事ができたが」
「……た、ただの重篤で深刻なキツい船酔いだから、気にしないでいいよ」
「…………誘い受けじゃないよな?」
「……な、何が? うぐ、おぇっぷ」
 誘い受けではないようだが、確かに重篤で深刻そうではあった。
 しかしツボミは考える。
 ウダの言った通り、癒し手である自分達の出番は少なかった。
 仲間が勢いに乗っていることもあるが、それ以上に敵が脆弱だったからだ。
 国境警備隊。
 従来であれば国境を守る役目を追うのは、生え抜きのエリートであろうが。
「……シ、シャンバラは違うのかもね」
「む?」
 考えているところに、ウダが死にそうな顔で言う。
「……軍事、に、力を入れてないみたい、だから」
 言われてツボミも気づいた。
 その通りだ。
 敵国の情勢分析においても、シャンバラの軍事力の低さは際立っている。
 ならば――
「軍なんぞに頼らずとも国を守れるだけの何かがある、ということか?」
 自らの言葉に、ツボミは一抹の不安を覚えていた。
「ヒャッハー! 倉だー! 船倉を漁れー!」
 一方、戦いが終わったらしき前線では、マリアが盾をかかげて吼えていた。
 見れば、ひとり残らず打ちのめされた敵警備兵が転がっている。
 ボルカスや柊がロープで彼らを動けぬよう拘束していく。
 マリアは、そのまま船の倉を探して中に入っていった。
「あ、待って待って! 私も気になる! 私も行くわ!」
 さらにミルトスもそれに続いて駆け出した。
「…………あいつら演技か。いや、素か」
 今ようやく、ツボミはそれに気づいた。
「……拘束が終わったら、敵さんの傷、死なないように治しておこうか」
「あ、うん。そーだな」
 ウダの提案にツボミはそれまでの思考を放棄してうなづいた。

●そしてシャンバラの地へ
「出てきても大丈夫だぞ、マリアンナ」
 船倉で息を潜めていたマリアンナのところに、ボルカスがやってきた。
「分かったわ」
 彼と共に、マリアンナは外へ出る。
 すると、自分が立っている船の隣にシャンバラのガレオン船が見える。
 その甲板上には、自由騎士達の姿しかなかった。
「……敵は?」
「ロープで動けなくして船底に転がしである」
 つまり、敵兵に自分の姿を見られることもない、ということだ。
「そう」
 短く答えて、マリアンナはシャンバラの船へと移る。
 ボルカスもそれに続いた。
「あ、マリアンナ、見て見て。この船の戦利品。これしかなかったの!」
 マリアンナに気づいたミルトスが、木箱に積んだ品々を見せてきた。
 地図に、コンパスなどの道具、それに日用品。
 正直、マリアンナをしてこれだけしかなかったのか、と思わせる程度の品。
「やっぱり商船を襲うべきだったのよ! こんなシケてるなんて!」
「そーだそーだ! 食いモンも大してなかったし、ハズレだぜ、大ハズレ!」
 ミルトスの隣で、マリアがブー垂れていた。
「目的を間違っていないか。必要な品はあったはずだろ」
 ザルクが言う。
「必要な品」
「これさ」
 言って、彼が片手に持って見せてきたのは服。――軍服であった。
「これを着てシャンバラに上陸する。そうすれば目立たないだろ?」
「それは、そうだけど……」
 シャンバラの連中の服を着る。
 手段としては分かるが、マリアンナとしては嫌悪感が先に立った。
「必要なことじゃ。納得してくれとは言えぬが、我慢してくれんかな」
 やっと本来の口調に戻れたシノピリカにも諭されて、
「……ええ、大丈夫。大丈夫よ」
 不承不承なりともマリアンナはうなずいた。
 本当のことを言えば、この戦いにも参加したかったマリアンナだ。
 しかし、海賊に扮するという作戦上、自分という存在は足枷になりかねない。
 理解しているからこそ、彼女は船倉に隠れることを了承したのだ。
「分かってくれているのならば、いい」
 ボルカスがポンとマリアンナの背中を叩く。
 そう、理解している。
 マリアンナは理解している。
 彼らが、自由騎士達が、どれだけ本気でこの作戦に臨んでいるかを。
 ワガママなど、言えるはずがなかった。
「なぁ、マリアンナ。こいつらの装備も魔導への耐性があったりするのか?」
「多分、それはないわ」
 ツボミの問いに、彼女は答えた。
「魔導耐性を強化する装備――つまりヨウセイを素材にしている装備は高級品よ。聖堂騎士でもない兵士如きが持っているはずがないわ」
「そうか。それでは、確かめようがないな」
 だがいずれ、そうした装備を持つ敵とも戦うことになるのだろう。
 自由騎士達は口にせずとも、そんな確信があった。
 敵の身ぐるみを剥ぎ、軍服を奪って再び自分達の船へと戻る。
 そして、離れゆく敵ガレオン船から、自由騎士達は視線を前の方へと向けた。
 もう、陸地はそこまで迫っていた。
 マリアンナ含め、全員が国境警備隊の軍服に着替え直す。
「ウィッチクラフトとの接触の段取りは?」
「……ティルナノグへ。そこで、兄様たちが待っているわ」
「ここがシャンバラのどの辺りなのかは分かってるのか?」
「ええ。大丈夫。分かっているわ」
 柊に尋ねられて、マリアンナは答えていった。
 分かっている。分かる。
 シャンバラ中を逃げ続けたマリアンナは、国内の地理をほぼ熟知していた。
「あそこが、マリアンナの故郷なのね」
「いいえ」
 アンネリーザが言うが、しかしマリアンナは首を横に振る。
「敵国よ」
「……そう」
 断言する彼女を見て、アンネリーザは顔をうつむかせた。
 これから始まる探索行。だが、それは紛れもなく侵略行為の一環である。
 今回こそ人死にを出さずに済んだが、果たして次はどうか。
 戦争だ。
 マリアンナのことがなくともシャンバラはイ・ラプセルにとっての明確な脅威。
 それは分かっている。だが殺したくはない。
 どうしても捨てきれないその理想を胸に抱え、アンネリーザは拳を握る。
 思いを様々抱えながら、自由騎士達は今、シャンバラの地に降り立った。
 旅は、ここから始まる。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†


†あとがき†

とゆーことで、無事にシャンバラの土を踏めました!
国境警備隊の船はまだ海上で波に揺られてますが、陸も近いのでまぁ死ぬことはないでしょう。

それではS級指令達成を目指して、次回も頑張ってください!
お疲れさまでした!
FL送付済