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【逆天螺旋】余命17分

●余命、22分
カリカリカリカリ。
ガコンガコンガコン。
キリリリリリリリ――。
歯車が噛み合って、耳障りな音を鳴らす。
この遺跡に入ってからというもの、ずっと響き続けているそれはいよいよ大きくなって、下へと進む自由騎士達の意識を侵蝕しにかかっていた。
「……光っている」
自由騎士の一人が言う。
柵の向こうにある歯車が、奇妙な燐光を纏っていた。
あの鏡の大部屋を抜けてから表れ始めたものだが、今やそれははっきりと見てわかるくらいに強まっている。明らかに、尋常なものではない。
「魔力だ」
別の自由騎士が言う。
歯車が纏う燐光は、魔導士が魔導を扱う際に現れるものによく似ていた。
ならばこの歯車の役割は――、
「これ自体が、一つの巨大な魔法装置。どこかに魔力を供給しているのか?」
「そんな魔力、一体どこから?」
「どこか、からだな」
結局わからずに、話はそこで途切れる。
「ぅう……」
「パーヴァリ、もうちょっとだ」
うめくパーヴァリは、すでに顔のあごの部分まで石化していた。
毒の進行がだいぶ進んでいる。
このままでは、間に合わないのは確実だ。
しかし、仮に底まで降りたところで、本当にパーヴァリを救える何かがあるのだろうか。
どうしてもそこに対する疑問が拭い切れない。だが、それ以外に彼を救える希望があるワケでもない。ほとんど縋るような心持ちで、自由騎士は遺跡を下っていった。
そして、ついに彼らは辿り着く。
「……ここだ、間違いない」
駆動する歯車が魔力を供給する先、それは間違いなく、目の前の巨大な扉だ。
この向こうに、莫大な量の魔力を必要とする何かがある。
それはもはや間違いない。
――究極の魔導。
今さらながら、その陳腐に過ぎる名称に自由騎士達は息を飲んだ。
それだけの魔力が一点に集中しているのならば、あるいは実在するかもしれない。
そして、それを用いればパーヴァリを救うことだって――、
「開けるぞ」
自由騎士の一人が、言いながら慎重に扉を開けていく。
そして、扉の向こうから白い光が射し込んで――、
●余命、20分
水平線の彼方に、白い入道雲が覗いている。
照りつける太陽は砂浜をジリジリと焼いて陽炎を立たせ、潮騒が遠くに響く。
「……何?」
扉を過ぎて、自由騎士達が辿り着いたのは、真夏の海辺だった。
ザザーン、ザザーンと寄せては返す波の音はやけにリアルで、幻覚とは思えない。
「これは、一体……」
辺りを見回す自由騎士に、答える声があった。
「かつて、シャンバラから離れた魔導士の一団がいた」
「……おまえは!?」
車椅子の少女を傍らに置いて、そこに立っていたのは紫髪のマザリモノの青年。
「彼らは、魔導大国シャンバラで禁忌の研究を行ない、追放された者達だった。そして流れ流れた末に、その一団はこの地に、自らの技術の粋である魔法装置を造り上げた」
「ツヴァイ・エルベ!」
「彼らが行なった研究とは――、人の手による神造兵器の創造」
名を呼ばれても構うことなく、ツヴァイは言葉を続ける。
そして明かされたその事情は自由騎士達を驚愕させるのに十分なものだった。
「……究極の魔導。そうか、デウスギア!」
「そういうことだ」
ツヴァイがうなずく。
「愚かにも、人の身で神の領域に挑まんとした彼らは失敗した。――しかし、彼らが遺したものは、神造兵器にこそ至らなかったが、常軌を逸したレベルに達していた」
「では、この砂浜は……!」
「大地からくみ上げた魔力によって構成された、疑似世界だ」
シャンバラの魔導技術である空間転移装置――、聖霊門。
空間を超えることが可能ならば、空間を作ることだって可能なはずだ。
ただし、作った空間を維持し続けるには、途方もない量の魔力が必要となるのだろうが。
「わかるか? この逆天螺旋の塔は、誰もいない地底の楽園を維持するためだけに存在する、全く意味のない、くだらない遺物でしかないんだよ。何が究極の魔導だ」
「そんな、それじゃあパーヴァリは……」
自由騎士達の間に、絶望の色が差す。それを見て、ツヴァイが笑った。
「フフ、フフフ! おまえ達も、俺と同じ苦しみを味わうがいい。フ、フフフフ!」
「同じ苦しみ……?」
自由騎士達の目が、車椅子の少女へと向く。
目を閉じた、儚げな印象の彼女は、そういえばやけに顔色が悪い。
「俺達の主アインスは、もうすぐ死ぬ。そうさせないために、ここまで来たんだがな」
「そうか。エルベ隊がこんな場所まで来た理由は、それか」
「そうとも。……だが、もう間に合わない。俺達は、役立たずでしかなかった」
言って、ツヴァイが長剣を抜き放つ。
「だから死ね。俺達の八つ当たりを受けて、意味もなくくたばれ、自由騎士」
「一人で勝てるつもりか?」
「バカを言うな。――俺達は、エルベ隊だ!」
ツヴァイの叫びと共に、彼の周囲の白砂がボコリと盛り上がる。
そしてそれは、ここにはいないはずの、これまで倒してきたエルベ隊の五人となった。
「この塔の機能は、すでにある程度掌握している。このくらいならば可能だ」
「砂の、エルベ隊……!」
「アインスが逝ったら、俺も命を絶つ。その前に、俺の怒りの贄となれ、自由騎士共!」
エルベ隊が、襲いかかってきた。
カリカリカリカリ。
ガコンガコンガコン。
キリリリリリリリ――。
歯車が噛み合って、耳障りな音を鳴らす。
この遺跡に入ってからというもの、ずっと響き続けているそれはいよいよ大きくなって、下へと進む自由騎士達の意識を侵蝕しにかかっていた。
「……光っている」
自由騎士の一人が言う。
柵の向こうにある歯車が、奇妙な燐光を纏っていた。
あの鏡の大部屋を抜けてから表れ始めたものだが、今やそれははっきりと見てわかるくらいに強まっている。明らかに、尋常なものではない。
「魔力だ」
別の自由騎士が言う。
歯車が纏う燐光は、魔導士が魔導を扱う際に現れるものによく似ていた。
ならばこの歯車の役割は――、
「これ自体が、一つの巨大な魔法装置。どこかに魔力を供給しているのか?」
「そんな魔力、一体どこから?」
「どこか、からだな」
結局わからずに、話はそこで途切れる。
「ぅう……」
「パーヴァリ、もうちょっとだ」
うめくパーヴァリは、すでに顔のあごの部分まで石化していた。
毒の進行がだいぶ進んでいる。
このままでは、間に合わないのは確実だ。
しかし、仮に底まで降りたところで、本当にパーヴァリを救える何かがあるのだろうか。
どうしてもそこに対する疑問が拭い切れない。だが、それ以外に彼を救える希望があるワケでもない。ほとんど縋るような心持ちで、自由騎士は遺跡を下っていった。
そして、ついに彼らは辿り着く。
「……ここだ、間違いない」
駆動する歯車が魔力を供給する先、それは間違いなく、目の前の巨大な扉だ。
この向こうに、莫大な量の魔力を必要とする何かがある。
それはもはや間違いない。
――究極の魔導。
今さらながら、その陳腐に過ぎる名称に自由騎士達は息を飲んだ。
それだけの魔力が一点に集中しているのならば、あるいは実在するかもしれない。
そして、それを用いればパーヴァリを救うことだって――、
「開けるぞ」
自由騎士の一人が、言いながら慎重に扉を開けていく。
そして、扉の向こうから白い光が射し込んで――、
●余命、20分
水平線の彼方に、白い入道雲が覗いている。
照りつける太陽は砂浜をジリジリと焼いて陽炎を立たせ、潮騒が遠くに響く。
「……何?」
扉を過ぎて、自由騎士達が辿り着いたのは、真夏の海辺だった。
ザザーン、ザザーンと寄せては返す波の音はやけにリアルで、幻覚とは思えない。
「これは、一体……」
辺りを見回す自由騎士に、答える声があった。
「かつて、シャンバラから離れた魔導士の一団がいた」
「……おまえは!?」
車椅子の少女を傍らに置いて、そこに立っていたのは紫髪のマザリモノの青年。
「彼らは、魔導大国シャンバラで禁忌の研究を行ない、追放された者達だった。そして流れ流れた末に、その一団はこの地に、自らの技術の粋である魔法装置を造り上げた」
「ツヴァイ・エルベ!」
「彼らが行なった研究とは――、人の手による神造兵器の創造」
名を呼ばれても構うことなく、ツヴァイは言葉を続ける。
そして明かされたその事情は自由騎士達を驚愕させるのに十分なものだった。
「……究極の魔導。そうか、デウスギア!」
「そういうことだ」
ツヴァイがうなずく。
「愚かにも、人の身で神の領域に挑まんとした彼らは失敗した。――しかし、彼らが遺したものは、神造兵器にこそ至らなかったが、常軌を逸したレベルに達していた」
「では、この砂浜は……!」
「大地からくみ上げた魔力によって構成された、疑似世界だ」
シャンバラの魔導技術である空間転移装置――、聖霊門。
空間を超えることが可能ならば、空間を作ることだって可能なはずだ。
ただし、作った空間を維持し続けるには、途方もない量の魔力が必要となるのだろうが。
「わかるか? この逆天螺旋の塔は、誰もいない地底の楽園を維持するためだけに存在する、全く意味のない、くだらない遺物でしかないんだよ。何が究極の魔導だ」
「そんな、それじゃあパーヴァリは……」
自由騎士達の間に、絶望の色が差す。それを見て、ツヴァイが笑った。
「フフ、フフフ! おまえ達も、俺と同じ苦しみを味わうがいい。フ、フフフフ!」
「同じ苦しみ……?」
自由騎士達の目が、車椅子の少女へと向く。
目を閉じた、儚げな印象の彼女は、そういえばやけに顔色が悪い。
「俺達の主アインスは、もうすぐ死ぬ。そうさせないために、ここまで来たんだがな」
「そうか。エルベ隊がこんな場所まで来た理由は、それか」
「そうとも。……だが、もう間に合わない。俺達は、役立たずでしかなかった」
言って、ツヴァイが長剣を抜き放つ。
「だから死ね。俺達の八つ当たりを受けて、意味もなくくたばれ、自由騎士」
「一人で勝てるつもりか?」
「バカを言うな。――俺達は、エルベ隊だ!」
ツヴァイの叫びと共に、彼の周囲の白砂がボコリと盛り上がる。
そしてそれは、ここにはいないはずの、これまで倒してきたエルベ隊の五人となった。
「この塔の機能は、すでにある程度掌握している。このくらいならば可能だ」
「砂の、エルベ隊……!」
「アインスが逝ったら、俺も命を絶つ。その前に、俺の怒りの贄となれ、自由騎士共!」
エルベ隊が、襲いかかってきた。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.エルベ隊の撃破
2.パーヴァリの救援
2.パーヴァリの救援
全四回中の第四回。
長らく続きました当シリーズも、これをもって終わりとなります。
吾語です。
皆さんのこれまでの頑張りによって、
そこそこ時間が残っている状態で来れました。
最悪の場合、シナリオタイトルが「余命6分」でした。
さて、最後の敵はツヴァイ・エルベ、だけではありません。
砂のエルベ隊が彼の援軍として出現します。
この砂のエルベ隊は、これまでの石像兵士+自由騎士の鏡像みたいな感じです。
彼らに攻撃してもダメージを受けません。BSも通じません。
また、個々の能力はエルベ隊そのままです。当然、連携もとってきます。
ツヴァイを倒せば砂のエルベ隊は崩れます。
しかし、当然、ツヴァイ自身もそれを十分に理解しています。
個々のスタイルは本物のエルベ隊と何も変わりません。
また、彼らは全員共通で下記のEXスキルを有しています。
・EXスキル名:スピアヘッド・スパイラリィ
骨肉を連動させて常に武器に特殊な回転を付与し、貫通力を倍加させる。
パーヴァリについて、彼を救うことはできます。
ただし、パーヴァリを救うためには満たさなければならない条件があります。
それを満たせず、パーヴァリを救えなかった場合、
ツヴァイを倒せたとしてもシナリオは失敗扱いとなります。
このシナリオの難易度を踏まえて、条件について考えてみてください。
ヒントは「アインス」です。
それでは、皆さんのプレイングをお待ちしています。
長らく続きました当シリーズも、これをもって終わりとなります。
吾語です。
皆さんのこれまでの頑張りによって、
そこそこ時間が残っている状態で来れました。
最悪の場合、シナリオタイトルが「余命6分」でした。
さて、最後の敵はツヴァイ・エルベ、だけではありません。
砂のエルベ隊が彼の援軍として出現します。
この砂のエルベ隊は、これまでの石像兵士+自由騎士の鏡像みたいな感じです。
彼らに攻撃してもダメージを受けません。BSも通じません。
また、個々の能力はエルベ隊そのままです。当然、連携もとってきます。
ツヴァイを倒せば砂のエルベ隊は崩れます。
しかし、当然、ツヴァイ自身もそれを十分に理解しています。
個々のスタイルは本物のエルベ隊と何も変わりません。
また、彼らは全員共通で下記のEXスキルを有しています。
・EXスキル名:スピアヘッド・スパイラリィ
骨肉を連動させて常に武器に特殊な回転を付与し、貫通力を倍加させる。
パーヴァリについて、彼を救うことはできます。
ただし、パーヴァリを救うためには満たさなければならない条件があります。
それを満たせず、パーヴァリを救えなかった場合、
ツヴァイを倒せたとしてもシナリオは失敗扱いとなります。
このシナリオの難易度を踏まえて、条件について考えてみてください。
ヒントは「アインス」です。
それでは、皆さんのプレイングをお待ちしています。

状態
完了
完了
報酬マテリア
4個
8個
4個
4個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2021年03月11日
2021年03月11日
†メイン参加者 8人†
●余命、15分
車椅子の少女を守るように、砂のエルベ隊が陣を敷く。
ただ一人、生身を晒すツヴァイが、抜き放った長剣を構えて外に動いた。
「早速、来るか。俺達も動くぞ、ここが正念場だ!」
駆け出したツヴァイを見て『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)が他の自由紀氏へと注意を促す。彼はツヴァイを視界から外さないようにして、武器を構えた。
「――戦力の逐次投入を行なうなど愚かに過ぎると思ったが、理由はこれか」
砂でできたエルベ隊を見て、アデルは唇を噛む。
塔の機能を掌握し、おそらくはアインスを回復させようとしていた。
そのために、最高の練度を誇るエルベ隊が自ら身を投げ出して時間を稼いだ。
ツヴァイが自暴自棄になっている理由は、そこにあるのだろう。
友の、同胞の命を費やして、得られた結果は最高にくだらないものでしかなかった。
「だからって八つ当たりかぁ?」
難しい顔をして『キセキの果て』ニコラス・モラル(CL3000453)が呟く。
髪を軽く掻きつつ、今の自分の呟きを、彼は早速後悔していた。
「口に出すことでもねぇな。言っても無駄に決まってらぁ」
「そういうことだ、自由騎士!」
ツヴァイが一直線に突っ込んでくる。
それを『背水の鬼刀』月ノ輪・ヨツカ(CL3000575)がかろうじて受け止める。
「何という、迅い攻撃だ。受け止めた手が、斬られたかと思ったぞ」
「自由騎士、自由騎士ィ!」
「八つ当たりか、いいぞ。ならばヨツカも、八つ当たりで返そう!」
「黙れ、そこにいるヨウセイも、もうすぐ死ぬ。諦めろ。おまえ達は、俺と同じ罪業を背負って、生涯苦しみ抜け! 俺が、そうさせてやる!」
「諦めるものですか、生きているのですよ、まだ! 彼も、彼女も!」
笑うツヴァイの前に『未来を切り拓く祈り』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)が飛び出す。彼女の大振りの一閃を、しかし、ツヴァイはかわす。
「知っているさ、知っている、アインスは生きている! だが死ぬ!」
「――簡単にあきらめるんだね、君は」
後方より、『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)がツヴァイをまっすぐに見つめて言う。その言葉は、余裕のない今のツヴァイの激昂を誘う。
「ドライ、潰せェ!」
砂のドライが、大戦斧を振り上げた。
「全く、見ていられません」
しかし、振り下ろされた重厚な一撃を『SALVATORIUS』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)が受け止め、力をいなして受け流す。
「そんな泣きそうな顔で戦われても、興が乗りませんよ……」
誰にも聞こえないように、彼女はそう呟く。
「ったく、戦いにくいったらないぜ、こいつはよ!」
白い砂を踏み鳴らし『名探偵』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)が前に出て拳を振るう。放たれた闘気は圧力を伴って、砂のドライを直撃した。
だがドライは形が崩れるのみで吹き飛ぶことはなく、その場でまた再形成される。
「ああ、そういう感じ。うへぇ……」
後方でセアラ・ラングフォード(CL3000634)が浅く呼吸を乱しているパーヴァリの額を軽く撫でて、離れた場所にいるアインスに目を向ける。
「二人共、死ぬのですか……?」
それは間違いなく、この場における最悪の末路だ。
想像するだに恐ろしい。
傷を癒す者として、癒せず死なせることほどイヤなものはない。
「助けたいです、パーヴァリ様も、アインス様も!」
心を突く恐怖から、彼女はつい叫んでしまった。それに、
「「「わかってる!」」」
自由騎士の多くが、同調し、声を揃えたのであった。
二人の余命――、13分。
●余命、9分
戦いは続く。否が応にも続いていく。
「警戒を密にしろ、無傷でヤツを止められると思うな!」
アデルが号令を下す。
彼が言っているのは当然、ツヴァイである。
エルベ隊の実力は、これまでに嫌というほど知っている。無視などできるものか。
そこに、ツヴァイが動く。
「――フゥッ!」
鋭い呼気と共に放たれる、あまりにも速い一刺し。
警戒しろと言ったアデル本人が、それによって肩に傷を穿たれる。
「相変わらず、厄介な速度ですね!」
同じく、ツヴァイを狙って巨剣を薙ぐアンジェリカだが、これも当たらない。
「フィーア、フュンフ!」
ツヴァイが命じると、後方支援役のライフル使いと弓使いが、自由騎士を狙い撃つ。
「クソ、冗談じゃねぇ!」
弾丸をかいくぐり、ウェルスが呻く。砂のエルベ隊が邪魔すぎる。
「ぬおおおおおおお!」
ヨツカが激しい気合の声と共に、野太刀を地面に叩きつける。
巻き起こった衝撃が、一瞬だけ砂のエルベ隊の像を崩すが、またすぐ輪郭は戻る。
「参ったな、これは、参った」
砂のズィーベンと切り結びながら、ヨツカが唇をへの字にしてうめく。
「連中をどかすことができない。これでは、動きようがないぞ」
「わかり切ってることを言わねぇでもいいんだよ!」
ニコラスが喚き、仲間の傷を癒してく。
「死ね! 救えず見捨てて、絶望しろォ!」
目を血走らせて、ツヴァイが吼える。
そのクセ、動きは迅速で、動作は精密。技の冴えにブレがない。
砂のエルベ隊は的確に彼を援護し、自由騎士は先の戦い同様、苦戦を強いられた。
「残念ながら、叶わねぇよ、クソガキ。おまえのその八つ当たりな願望はよ!」
しかし呟くニコラスの声に、揺らぎはない。
「黙れ、黙れェ!」
「黙るわけにはいかないね。僕達は、君のように簡単に諦める気はない」
マグノリアの一言が、ツヴァイの激昂を招く。
「俺が、簡単に諦めただとォ!?」
そして彼の狙いは、マグノリアへと向いた。
「標的がわかってさえいれば、動きが速くとも!」
アデルが、ミルトスが、ヨツカが、アンジェリカが、一斉に対応に動く。
しかし、ドライとゼクスの二枚の壁が、戦士達の前に立ちはだかった。
「越えられるか? 越えられるものか! エルベ隊こそ最強なんだよ!」
壁の向こうでツヴァイが笑う。
目を見開いたままの、半ば狂ったような笑い方だった。
「おまえこそ、甘く見るな。ツヴァイ・エルベ」
アデルの仮面の奥の瞳が、静かに輝きを放つ。
「おォ!」
「――ふっ!」
ヨツカの野太刀が、ドライを大戦斧ごと叩き斬る。
アンジェリカの巨剣が振り下ろされて、ゼクスを大盾諸共ブッ潰した。
「……な」
信じていた同胞がほぼ同時に撃破されて、ツヴァイは刹那、その場で唖然となる。
「やっと、隙を見せてくれましたね」
ミルトスが、すでに懐に飛び込んでいた。
「うおお!?」
彼女の繰り出した直突きを、ツヴァイは間一髪、長剣で弾く。
そのとき、ギィン、という甲高い音がして、長剣の切っ先が砕けた。
「俺の、剣が……!?」
「当然の帰結ですよ、そんなことは」
言ったのは、拳を突き出したままのミルトス。
「今のあなたは、何も怖くありません。以前見せた鋼の如き忠義は、一体どこへ失せたのです? 強くて速いだけの相手などに負ける私達ではありませんよ?」
「――そういうことだ。おまえ達は勝てない」
ツヴァイへと指を突きつけ、アデルがそう宣言した。
「何、ィ……?」
「たった今、確信した。確かにおまえ達はエルベ隊だが、俺達を一敗地にまみれさせたエルベ隊ではない。いうなれば、姿だけを似せたまがい物だ」
「バカなことを……」
「いいや、俺もそう思うぜ」
ニコラスがアデルに同調し、肩をすくめた。
「だが、言葉で言ってもわかんねぇだろ? 来いよ、クソガキ。わからせてやる」
そして手招きをする彼に、ツヴァイが瞳に殺気を漲らせる。
「上等だ、その素っ首、一分以内に胴から切り離してやる!」
「やれるもんならやってみな! じゃ、先生方、お願いします!」
ツヴァイに向かって鼻を鳴らし、ニコラスはそそくさと後方に戻っていった。
「……カッコつけてそれかよ」
「うるへぇ、俺は後方支援役なんですー!」
呆れるウェルスに言い返しつつも、すぐに表情を引き締めるのは歴戦ゆえである。
それに、言ったウェルスの方も「まぁ」と言って、その口に笑みを浮かべる。
「わからせてやる、って言葉には同意だけどな」
「俺達はエルベ隊。俺達こそが、最強だということを教えてやる!」
ツヴァイの絶叫と共に、砂のエルベ隊が動き出す――、その前に自由騎士が駆け出した。
「確かに、エルベ隊は最強でした」
走るのは、アンジェリカ。そしてミルトス。
「ただしそれは――」
「「こんな砂の人形では、ない!」」
二人の呼吸を合わせた一撃によって、ドライとゼクスが、またも粉砕された。
「く、ぅ……!」
歯噛みするツヴァイの後方から、フィーアとズィーベンが武器を構える。
しかし、そこに、ウェルスとヨツカが突っ込んだ。
「動きのモーションが、同じだぜ」
「攻撃のパターンも、全く同じだ」
「「だったら、呼吸を読むのは容易い!」」
二人の連撃によって、後衛の二体があえなく破壊される。
残る砂のエルベ隊はフュンフのみ、しかし、そこにマグノリアとセアラが駆ける。
「どうやら、もう勝負はつきそうだ」
「禍根は残しません。どんな形でも!」
二人の攻撃によって、砂のフュンフは容易く壊され、形を失った。
「みんな、何故だ。何故……!」
「わからないか、ツヴァイ・エルベ」
アデルが、踏み込んでツヴァイの間合いに入る。
「おまえは諦めた。だが――」
そして突撃槍の先端が、彼の胸に押し当てられた。
「俺達は、まだ何も、諦めていない!」
炸裂。轟音。
「ぐお、ォ……。おおおお!?」
ツヴァイの体が、派手に吹き飛んで海に落下した。
「たったそれだけの、決定的な差だ」
砂浜に槍を突き立てて、そう告げたアデルの全身から、白い排気が噴き出した。
●余命、4分
砂のエルベ隊が、一斉にザァと崩れてなくなってしまう。
「ドラ、イ……、フィーア……」
海から這い上がってきたツヴァイが、息を切らせながらいなくなった仲間を呼ぶ。
だが、砂は動かない。盛り上がることもなく、波に晒されている。
「何故だ、何故立ち上がってくれない!」
自由騎士達が見ている前で、ツヴァイは目を剥き、狼狽した。
「……やめて、ツヴァイ」
か細い声が、ツヴァイを止めた。
声の主は、それまでピクリとも動かなかった、車椅子の少女だった。
「アインス……、まさか、君が?」
「ええ。あなたから、塔の機能の実行権限を、剥奪したわ」
ゆっくりと顔を上げるアインス。
その瞳に宿る光は、儚げな容貌とは対照的に、力強い。
「私は、道連れなんて、求めてないのよ、ツヴァイ……」
彼にそう告げて、アインスは自由騎士に向き直った。
「ごめんなさい、皆さん」
「……何故、謝るのですか?」
警戒を続けながらも、話せる相手だと判断したアンジェリカが尋ねる。
「そちらの、ヨウセイの方、フィーアの毒に冒されているのですよね」
「ええ、そうですね」
「それについては、戦時下であることもあり、謝ることはしません」
はっきりと、アインスは言う。分別をつけられる人物だと、アンジェリカは思った。
「でも、ここまで来て、私達は敗れました。なら、敗者は勝者に従わねばなりません。あなた達は、そちらのヨウセイの方を救うためにここまで来られたのでしょう?」
「――治せるのかい、パーヴァリを?」
マグノリアが、軽く瞳を見開いて尋ねる。
アインスはニコリと微笑みながら「はい」とうなずいた。
「この塔の機能に、生命力を魔力に変換する、という機能があります。それを応用すれば、生命力を生み出すこともできます」
「おお!」
「やった、パーヴァリが助かるぜ!」
アインスの説明に、自由騎士達が喝采を上げる。だが、
「それだけは、ダメだ!」
ツヴァイが、目を血走らせて、吼えた。
「ダメだ、アインス。そ、それだけは……!」
その必死ぶりに、自由騎士は何かを感じ取る。明らかにただ事ではない。
「……パーヴァリは、治るのだな?」
「治せます。治せるはずです」
「では、別の質問をする」
アデルが、まっすぐに切り込んだ。
「シャンバラの神造兵器は、人の生命力を魔力に変換する機能があった。まさか、それを利用して生命力を一度魔力に変換し、それをさらに生命力に変化させる、ということをするつもりじゃないだろうな?」
アインスの無言の微笑みが、答えだった。
「アインス!」
ツヴァイが、叫ぶ。
「いいのよ、ツヴァイ。ただ野垂れ死ぬよりも、ずっと上等な死に方ができる。私は、それだけで本望なの。だからお願い、最期のわがままを聞いて」
その言葉に、皆が悟る。
このアインスという少女は、パーヴァリに自分の命を捧げようとしているのだ。
「……わからないな。もし、アデルが言ったようなことができるなら、どうしてエルベ隊のみんなは、アインスのために自分の命を使わなかったんだろう?」
マグノリアの問いに、ツヴァイが砂浜を叩く。
「できないんだ、やれないんだ! マザリモノの俺達じゃ、命を使えなかった!」
「……シャンバラ」
叫ぶツヴァイに、自由騎士達は真実を知った。
ヨウセイとマザリモノを異端と蔑んでいたシャンバラの魔導士達。
この塔が彼らによって作られた者なら、そんな底意地の悪い設定がなされていても、何の不思議もない。砂を操る機能も、元を辿ればアインスのものであるようだし。
だから、エルベ隊ではアインスを救えなかったのだ。
皆が納得しかけたそのとき、海岸景色に、ザッと一瞬だけノイズが走る。
「アインス!」
「ごめんなさい、ツヴァイ。でも、私の命で誰かが救えるなら……」
アインスの周囲に、凄まじいまでの魔力が収束しつつあった。
それは彼女の命の最期の輝き。
自由騎士が見ている前で、今、車椅子の少女が命を力に変えようとしている。
「――そいつは笑えねぇな、お嬢ちゃん」
だが、アインスに対して踏み出す者がいる。
ニコラスである。
「誰も、そんなくだらねぇ自己犠牲は求めちゃいねぇんだよ」
彼はズカズカとアインスに歩み寄って、その手を突き出す。
「もう、遅いです。塔を通じて、私の命はそちらの方へと譲渡されます」
「やらせねぇって言ってんだよ!」
ニコラスが、全力で癒しの魔導を行使する。
「俺はな、回復役だぜ。死なせねぇのが仕事なんだよ。その俺の見てる前で、何を勝手に死のうとしてやがんだ、ふざけんじゃねぇぞ!」
「そうですよ!」
セアラが、彼に同調して駆け寄ってくる。
「死なないでください。お願いですから、死ぬ覚悟なんて、しないでください!」
そして彼女も同じように、アインスに癒しの魔導を使い始める。
「全く、どうしてそうなんだ。みんな……」
マグノリアもそう言いつつ、やることは二人と同じだった。癒しの魔導を使いながら、アインス向かって語りかける。
「悪いけど、諦めてくれ。みんな、言い出したら聞かないんだ」
「……あなた達は」
アインスが、うめく。信じられないと言った面持ちだ。
「やめてください。無駄です。私は、もう生きていられないんです。だから、この命を何かのために使わせて。無駄に使い果たしたくないんです!」
その叫びに、ウェルスが訝しむ。
「……あの子は、病気なのか?」
「生まれつき、体が弱いだけだ。そのおかげで、十を超える死病に……」
ツヴァイが声を震わせる。呪いでもなく、何かの後遺症ではなく、純粋に虚弱。単純に病。だからこそ、治るかもしれないという希望を持ち続けてきたのだろう。
そして、ついに治せないまま、こんなところまで至ったのか。
「だがな、そんなことは関係ねぇんだよ。死なせねぇっつったぞ、俺はよ!」
ここで命を使い果たそうとするアインスへ、だが、ニコラスが待ったをかける。
「死なせやしねぇぞ、例え、俺が死んでもな!」
凄まじい、矛盾だらけの言葉。しかし放出される魔力はさらに高まっていく。
「や、やめてェェェェ――――!」
アインスが絶叫し、光が、辺りを満たした。
「アインス――――!」
手を伸ばしたツヴァイまでもが、白い光に呑み込まれて――、
●余命、0分
砂浜は消えていた。
ただ広いだけの石の部屋で、目を覚ましたのは、
「ここは、一体……」
パーヴァリだった。
周りを見てみれば、自由騎士とツヴァイが床に寝転がっていた。
「みんな、どうして?」
「寝かせておいてあげてください」
声がした。
ハッとして向き直れば、そこには、車椅子の少女がいた。
「君は?」
「アインス・エルベ。あなた達の敵だった女です」
その声に、パーヴァリは感じる。彼女には、微塵も戦意はない。
「それよりも、お体は大丈夫ですか?」
「……そういえば」
体を蝕んでいた毒素は、完全に消えているようだった。石化していた肌も、今はきれいさっぱり、元通りになっている。
「よかった――」
アインスが、ほぅとため息をついた。
「一体、ここで何があったんだ?」
「そうですね、彼らが寝ている間、私がお話します」
「起こした方がいいんじゃ?」
「いいえ、寝かせてあげてください。私達のために、みんな、力をくれたから……」
パーヴァリは周りを見てから「わかった」とうなずいた。
「ところで、ここで戦うことは、もう、ないんだね?」
「はい。私達は、イ・ラプセルに投降します」
そう言ったあとで、アインスは語り始めた。ここで何があったのかを。
それを聞きながらパーヴァリは眠り続ける自由騎士達を見て、思った。
――ありがとう。
眠り続ける誰かの口元に、うっすらと笑みが浮かんでいた。
車椅子の少女を守るように、砂のエルベ隊が陣を敷く。
ただ一人、生身を晒すツヴァイが、抜き放った長剣を構えて外に動いた。
「早速、来るか。俺達も動くぞ、ここが正念場だ!」
駆け出したツヴァイを見て『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)が他の自由紀氏へと注意を促す。彼はツヴァイを視界から外さないようにして、武器を構えた。
「――戦力の逐次投入を行なうなど愚かに過ぎると思ったが、理由はこれか」
砂でできたエルベ隊を見て、アデルは唇を噛む。
塔の機能を掌握し、おそらくはアインスを回復させようとしていた。
そのために、最高の練度を誇るエルベ隊が自ら身を投げ出して時間を稼いだ。
ツヴァイが自暴自棄になっている理由は、そこにあるのだろう。
友の、同胞の命を費やして、得られた結果は最高にくだらないものでしかなかった。
「だからって八つ当たりかぁ?」
難しい顔をして『キセキの果て』ニコラス・モラル(CL3000453)が呟く。
髪を軽く掻きつつ、今の自分の呟きを、彼は早速後悔していた。
「口に出すことでもねぇな。言っても無駄に決まってらぁ」
「そういうことだ、自由騎士!」
ツヴァイが一直線に突っ込んでくる。
それを『背水の鬼刀』月ノ輪・ヨツカ(CL3000575)がかろうじて受け止める。
「何という、迅い攻撃だ。受け止めた手が、斬られたかと思ったぞ」
「自由騎士、自由騎士ィ!」
「八つ当たりか、いいぞ。ならばヨツカも、八つ当たりで返そう!」
「黙れ、そこにいるヨウセイも、もうすぐ死ぬ。諦めろ。おまえ達は、俺と同じ罪業を背負って、生涯苦しみ抜け! 俺が、そうさせてやる!」
「諦めるものですか、生きているのですよ、まだ! 彼も、彼女も!」
笑うツヴァイの前に『未来を切り拓く祈り』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)が飛び出す。彼女の大振りの一閃を、しかし、ツヴァイはかわす。
「知っているさ、知っている、アインスは生きている! だが死ぬ!」
「――簡単にあきらめるんだね、君は」
後方より、『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)がツヴァイをまっすぐに見つめて言う。その言葉は、余裕のない今のツヴァイの激昂を誘う。
「ドライ、潰せェ!」
砂のドライが、大戦斧を振り上げた。
「全く、見ていられません」
しかし、振り下ろされた重厚な一撃を『SALVATORIUS』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)が受け止め、力をいなして受け流す。
「そんな泣きそうな顔で戦われても、興が乗りませんよ……」
誰にも聞こえないように、彼女はそう呟く。
「ったく、戦いにくいったらないぜ、こいつはよ!」
白い砂を踏み鳴らし『名探偵』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)が前に出て拳を振るう。放たれた闘気は圧力を伴って、砂のドライを直撃した。
だがドライは形が崩れるのみで吹き飛ぶことはなく、その場でまた再形成される。
「ああ、そういう感じ。うへぇ……」
後方でセアラ・ラングフォード(CL3000634)が浅く呼吸を乱しているパーヴァリの額を軽く撫でて、離れた場所にいるアインスに目を向ける。
「二人共、死ぬのですか……?」
それは間違いなく、この場における最悪の末路だ。
想像するだに恐ろしい。
傷を癒す者として、癒せず死なせることほどイヤなものはない。
「助けたいです、パーヴァリ様も、アインス様も!」
心を突く恐怖から、彼女はつい叫んでしまった。それに、
「「「わかってる!」」」
自由騎士の多くが、同調し、声を揃えたのであった。
二人の余命――、13分。
●余命、9分
戦いは続く。否が応にも続いていく。
「警戒を密にしろ、無傷でヤツを止められると思うな!」
アデルが号令を下す。
彼が言っているのは当然、ツヴァイである。
エルベ隊の実力は、これまでに嫌というほど知っている。無視などできるものか。
そこに、ツヴァイが動く。
「――フゥッ!」
鋭い呼気と共に放たれる、あまりにも速い一刺し。
警戒しろと言ったアデル本人が、それによって肩に傷を穿たれる。
「相変わらず、厄介な速度ですね!」
同じく、ツヴァイを狙って巨剣を薙ぐアンジェリカだが、これも当たらない。
「フィーア、フュンフ!」
ツヴァイが命じると、後方支援役のライフル使いと弓使いが、自由騎士を狙い撃つ。
「クソ、冗談じゃねぇ!」
弾丸をかいくぐり、ウェルスが呻く。砂のエルベ隊が邪魔すぎる。
「ぬおおおおおおお!」
ヨツカが激しい気合の声と共に、野太刀を地面に叩きつける。
巻き起こった衝撃が、一瞬だけ砂のエルベ隊の像を崩すが、またすぐ輪郭は戻る。
「参ったな、これは、参った」
砂のズィーベンと切り結びながら、ヨツカが唇をへの字にしてうめく。
「連中をどかすことができない。これでは、動きようがないぞ」
「わかり切ってることを言わねぇでもいいんだよ!」
ニコラスが喚き、仲間の傷を癒してく。
「死ね! 救えず見捨てて、絶望しろォ!」
目を血走らせて、ツヴァイが吼える。
そのクセ、動きは迅速で、動作は精密。技の冴えにブレがない。
砂のエルベ隊は的確に彼を援護し、自由騎士は先の戦い同様、苦戦を強いられた。
「残念ながら、叶わねぇよ、クソガキ。おまえのその八つ当たりな願望はよ!」
しかし呟くニコラスの声に、揺らぎはない。
「黙れ、黙れェ!」
「黙るわけにはいかないね。僕達は、君のように簡単に諦める気はない」
マグノリアの一言が、ツヴァイの激昂を招く。
「俺が、簡単に諦めただとォ!?」
そして彼の狙いは、マグノリアへと向いた。
「標的がわかってさえいれば、動きが速くとも!」
アデルが、ミルトスが、ヨツカが、アンジェリカが、一斉に対応に動く。
しかし、ドライとゼクスの二枚の壁が、戦士達の前に立ちはだかった。
「越えられるか? 越えられるものか! エルベ隊こそ最強なんだよ!」
壁の向こうでツヴァイが笑う。
目を見開いたままの、半ば狂ったような笑い方だった。
「おまえこそ、甘く見るな。ツヴァイ・エルベ」
アデルの仮面の奥の瞳が、静かに輝きを放つ。
「おォ!」
「――ふっ!」
ヨツカの野太刀が、ドライを大戦斧ごと叩き斬る。
アンジェリカの巨剣が振り下ろされて、ゼクスを大盾諸共ブッ潰した。
「……な」
信じていた同胞がほぼ同時に撃破されて、ツヴァイは刹那、その場で唖然となる。
「やっと、隙を見せてくれましたね」
ミルトスが、すでに懐に飛び込んでいた。
「うおお!?」
彼女の繰り出した直突きを、ツヴァイは間一髪、長剣で弾く。
そのとき、ギィン、という甲高い音がして、長剣の切っ先が砕けた。
「俺の、剣が……!?」
「当然の帰結ですよ、そんなことは」
言ったのは、拳を突き出したままのミルトス。
「今のあなたは、何も怖くありません。以前見せた鋼の如き忠義は、一体どこへ失せたのです? 強くて速いだけの相手などに負ける私達ではありませんよ?」
「――そういうことだ。おまえ達は勝てない」
ツヴァイへと指を突きつけ、アデルがそう宣言した。
「何、ィ……?」
「たった今、確信した。確かにおまえ達はエルベ隊だが、俺達を一敗地にまみれさせたエルベ隊ではない。いうなれば、姿だけを似せたまがい物だ」
「バカなことを……」
「いいや、俺もそう思うぜ」
ニコラスがアデルに同調し、肩をすくめた。
「だが、言葉で言ってもわかんねぇだろ? 来いよ、クソガキ。わからせてやる」
そして手招きをする彼に、ツヴァイが瞳に殺気を漲らせる。
「上等だ、その素っ首、一分以内に胴から切り離してやる!」
「やれるもんならやってみな! じゃ、先生方、お願いします!」
ツヴァイに向かって鼻を鳴らし、ニコラスはそそくさと後方に戻っていった。
「……カッコつけてそれかよ」
「うるへぇ、俺は後方支援役なんですー!」
呆れるウェルスに言い返しつつも、すぐに表情を引き締めるのは歴戦ゆえである。
それに、言ったウェルスの方も「まぁ」と言って、その口に笑みを浮かべる。
「わからせてやる、って言葉には同意だけどな」
「俺達はエルベ隊。俺達こそが、最強だということを教えてやる!」
ツヴァイの絶叫と共に、砂のエルベ隊が動き出す――、その前に自由騎士が駆け出した。
「確かに、エルベ隊は最強でした」
走るのは、アンジェリカ。そしてミルトス。
「ただしそれは――」
「「こんな砂の人形では、ない!」」
二人の呼吸を合わせた一撃によって、ドライとゼクスが、またも粉砕された。
「く、ぅ……!」
歯噛みするツヴァイの後方から、フィーアとズィーベンが武器を構える。
しかし、そこに、ウェルスとヨツカが突っ込んだ。
「動きのモーションが、同じだぜ」
「攻撃のパターンも、全く同じだ」
「「だったら、呼吸を読むのは容易い!」」
二人の連撃によって、後衛の二体があえなく破壊される。
残る砂のエルベ隊はフュンフのみ、しかし、そこにマグノリアとセアラが駆ける。
「どうやら、もう勝負はつきそうだ」
「禍根は残しません。どんな形でも!」
二人の攻撃によって、砂のフュンフは容易く壊され、形を失った。
「みんな、何故だ。何故……!」
「わからないか、ツヴァイ・エルベ」
アデルが、踏み込んでツヴァイの間合いに入る。
「おまえは諦めた。だが――」
そして突撃槍の先端が、彼の胸に押し当てられた。
「俺達は、まだ何も、諦めていない!」
炸裂。轟音。
「ぐお、ォ……。おおおお!?」
ツヴァイの体が、派手に吹き飛んで海に落下した。
「たったそれだけの、決定的な差だ」
砂浜に槍を突き立てて、そう告げたアデルの全身から、白い排気が噴き出した。
●余命、4分
砂のエルベ隊が、一斉にザァと崩れてなくなってしまう。
「ドラ、イ……、フィーア……」
海から這い上がってきたツヴァイが、息を切らせながらいなくなった仲間を呼ぶ。
だが、砂は動かない。盛り上がることもなく、波に晒されている。
「何故だ、何故立ち上がってくれない!」
自由騎士達が見ている前で、ツヴァイは目を剥き、狼狽した。
「……やめて、ツヴァイ」
か細い声が、ツヴァイを止めた。
声の主は、それまでピクリとも動かなかった、車椅子の少女だった。
「アインス……、まさか、君が?」
「ええ。あなたから、塔の機能の実行権限を、剥奪したわ」
ゆっくりと顔を上げるアインス。
その瞳に宿る光は、儚げな容貌とは対照的に、力強い。
「私は、道連れなんて、求めてないのよ、ツヴァイ……」
彼にそう告げて、アインスは自由騎士に向き直った。
「ごめんなさい、皆さん」
「……何故、謝るのですか?」
警戒を続けながらも、話せる相手だと判断したアンジェリカが尋ねる。
「そちらの、ヨウセイの方、フィーアの毒に冒されているのですよね」
「ええ、そうですね」
「それについては、戦時下であることもあり、謝ることはしません」
はっきりと、アインスは言う。分別をつけられる人物だと、アンジェリカは思った。
「でも、ここまで来て、私達は敗れました。なら、敗者は勝者に従わねばなりません。あなた達は、そちらのヨウセイの方を救うためにここまで来られたのでしょう?」
「――治せるのかい、パーヴァリを?」
マグノリアが、軽く瞳を見開いて尋ねる。
アインスはニコリと微笑みながら「はい」とうなずいた。
「この塔の機能に、生命力を魔力に変換する、という機能があります。それを応用すれば、生命力を生み出すこともできます」
「おお!」
「やった、パーヴァリが助かるぜ!」
アインスの説明に、自由騎士達が喝采を上げる。だが、
「それだけは、ダメだ!」
ツヴァイが、目を血走らせて、吼えた。
「ダメだ、アインス。そ、それだけは……!」
その必死ぶりに、自由騎士は何かを感じ取る。明らかにただ事ではない。
「……パーヴァリは、治るのだな?」
「治せます。治せるはずです」
「では、別の質問をする」
アデルが、まっすぐに切り込んだ。
「シャンバラの神造兵器は、人の生命力を魔力に変換する機能があった。まさか、それを利用して生命力を一度魔力に変換し、それをさらに生命力に変化させる、ということをするつもりじゃないだろうな?」
アインスの無言の微笑みが、答えだった。
「アインス!」
ツヴァイが、叫ぶ。
「いいのよ、ツヴァイ。ただ野垂れ死ぬよりも、ずっと上等な死に方ができる。私は、それだけで本望なの。だからお願い、最期のわがままを聞いて」
その言葉に、皆が悟る。
このアインスという少女は、パーヴァリに自分の命を捧げようとしているのだ。
「……わからないな。もし、アデルが言ったようなことができるなら、どうしてエルベ隊のみんなは、アインスのために自分の命を使わなかったんだろう?」
マグノリアの問いに、ツヴァイが砂浜を叩く。
「できないんだ、やれないんだ! マザリモノの俺達じゃ、命を使えなかった!」
「……シャンバラ」
叫ぶツヴァイに、自由騎士達は真実を知った。
ヨウセイとマザリモノを異端と蔑んでいたシャンバラの魔導士達。
この塔が彼らによって作られた者なら、そんな底意地の悪い設定がなされていても、何の不思議もない。砂を操る機能も、元を辿ればアインスのものであるようだし。
だから、エルベ隊ではアインスを救えなかったのだ。
皆が納得しかけたそのとき、海岸景色に、ザッと一瞬だけノイズが走る。
「アインス!」
「ごめんなさい、ツヴァイ。でも、私の命で誰かが救えるなら……」
アインスの周囲に、凄まじいまでの魔力が収束しつつあった。
それは彼女の命の最期の輝き。
自由騎士が見ている前で、今、車椅子の少女が命を力に変えようとしている。
「――そいつは笑えねぇな、お嬢ちゃん」
だが、アインスに対して踏み出す者がいる。
ニコラスである。
「誰も、そんなくだらねぇ自己犠牲は求めちゃいねぇんだよ」
彼はズカズカとアインスに歩み寄って、その手を突き出す。
「もう、遅いです。塔を通じて、私の命はそちらの方へと譲渡されます」
「やらせねぇって言ってんだよ!」
ニコラスが、全力で癒しの魔導を行使する。
「俺はな、回復役だぜ。死なせねぇのが仕事なんだよ。その俺の見てる前で、何を勝手に死のうとしてやがんだ、ふざけんじゃねぇぞ!」
「そうですよ!」
セアラが、彼に同調して駆け寄ってくる。
「死なないでください。お願いですから、死ぬ覚悟なんて、しないでください!」
そして彼女も同じように、アインスに癒しの魔導を使い始める。
「全く、どうしてそうなんだ。みんな……」
マグノリアもそう言いつつ、やることは二人と同じだった。癒しの魔導を使いながら、アインス向かって語りかける。
「悪いけど、諦めてくれ。みんな、言い出したら聞かないんだ」
「……あなた達は」
アインスが、うめく。信じられないと言った面持ちだ。
「やめてください。無駄です。私は、もう生きていられないんです。だから、この命を何かのために使わせて。無駄に使い果たしたくないんです!」
その叫びに、ウェルスが訝しむ。
「……あの子は、病気なのか?」
「生まれつき、体が弱いだけだ。そのおかげで、十を超える死病に……」
ツヴァイが声を震わせる。呪いでもなく、何かの後遺症ではなく、純粋に虚弱。単純に病。だからこそ、治るかもしれないという希望を持ち続けてきたのだろう。
そして、ついに治せないまま、こんなところまで至ったのか。
「だがな、そんなことは関係ねぇんだよ。死なせねぇっつったぞ、俺はよ!」
ここで命を使い果たそうとするアインスへ、だが、ニコラスが待ったをかける。
「死なせやしねぇぞ、例え、俺が死んでもな!」
凄まじい、矛盾だらけの言葉。しかし放出される魔力はさらに高まっていく。
「や、やめてェェェェ――――!」
アインスが絶叫し、光が、辺りを満たした。
「アインス――――!」
手を伸ばしたツヴァイまでもが、白い光に呑み込まれて――、
●余命、0分
砂浜は消えていた。
ただ広いだけの石の部屋で、目を覚ましたのは、
「ここは、一体……」
パーヴァリだった。
周りを見てみれば、自由騎士とツヴァイが床に寝転がっていた。
「みんな、どうして?」
「寝かせておいてあげてください」
声がした。
ハッとして向き直れば、そこには、車椅子の少女がいた。
「君は?」
「アインス・エルベ。あなた達の敵だった女です」
その声に、パーヴァリは感じる。彼女には、微塵も戦意はない。
「それよりも、お体は大丈夫ですか?」
「……そういえば」
体を蝕んでいた毒素は、完全に消えているようだった。石化していた肌も、今はきれいさっぱり、元通りになっている。
「よかった――」
アインスが、ほぅとため息をついた。
「一体、ここで何があったんだ?」
「そうですね、彼らが寝ている間、私がお話します」
「起こした方がいいんじゃ?」
「いいえ、寝かせてあげてください。私達のために、みんな、力をくれたから……」
パーヴァリは周りを見てから「わかった」とうなずいた。
「ところで、ここで戦うことは、もう、ないんだね?」
「はい。私達は、イ・ラプセルに投降します」
そう言ったあとで、アインスは語り始めた。ここで何があったのかを。
それを聞きながらパーヴァリは眠り続ける自由騎士達を見て、思った。
――ありがとう。
眠り続ける誰かの口元に、うっすらと笑みが浮かんでいた。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
軽傷
†あとがき†
お疲れさまでした。
長かったエルベ隊との戦いもこれで終わりです。
アインスの寿命はそれなりに残っています。
あの砂浜を作っていた魔力が生命力に変換されたからです。
本当は、シナリオ成功で、
パーヴァリは救われアインスは死ぬはずだったんですけどねー。
う~ん、やられた。お見事です。
では、次のシナリオでお会いしましょう。
ありがとうございました!
長かったエルベ隊との戦いもこれで終わりです。
アインスの寿命はそれなりに残っています。
あの砂浜を作っていた魔力が生命力に変換されたからです。
本当は、シナリオ成功で、
パーヴァリは救われアインスは死ぬはずだったんですけどねー。
う~ん、やられた。お見事です。
では、次のシナリオでお会いしましょう。
ありがとうございました!
FL送付済