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自由を求める殺人鬼

●
スタリオン。
彼は元奴隷だった。
今は連続殺人鬼だった。
「自由。自由だ。俺は自由だ」
物心がつく前に、金に困った親によって奴隷商人に売られた。
らしい。
真偽のほどはわからないが、少なくとも奴隷商人はそう言っていた。
彼は裏の世界で剣闘士をやらされていた。人間同士や、怪物などと戦わされ。それを金持ち連中が見世物として堪能する。
敗北は死だ。
一度でも負ければ死ぬ。
奴隷の剣闘士の命など、羽より軽い。
勝って、勝って、勝って、勝ち続けた。
とくに憎くもない相手をひたすらに斬り殺してきた。勝つたびに人としての何かを失っていった。
「いや違う。俺はヒトだ」
奴隷商人は言った。殺し続ければいつか自由にしてやると。
自由になれば人になれると思った。
だから、ついに全員殺した。奴隷商人も、見物客も、何もかも。幼少の頃から無敗の剣闘士は誰も止められなくなっていた。
あっけなく彼は自由になった。
自由になった、はずなのに。
「まだだ。まだ足りない」
心の空白は埋まらない。
人として大切な何かが埋まらない。
何故か。
「ああ、そうか。まだ自由が足りないのか」
自由。
自由になるためにはどうしたらいいのか。
その方法を彼は一つしか知らない。
「……殺すしかない」
スタリオン。
彼は元奴隷だった。
今は連続殺人鬼だった。
自由になった彼が、無差別に殺した無辜の人間は既に百人を超えている。
●
「今回は、連続殺人犯の討伐をお願いしたいんだ」
水鏡の情報を受け、『元気印』クラウディア・フォン・プラテス(nCL3000004)が依頼斡旋所に詰めていたオラクル達へと依頼を行う。
標的の名前は、スタリオン。
元奴隷の剣闘士。
現在は、連続殺人鬼となって人々を襲っている。
「水鏡が、次にその人が現れるところを教えてくれたの」
スタリオンは、夜の街で通行人を殺す機会をうかがっている。
そこを押さえて欲しいという。
ここで取り逃すと、また多くの犠牲者が出るだろう。
相手はこれまで多くの人間を殺しており。捕らえようとした手練達も何度も返り討ちにあっている。
「とても危険な相手だから、皆気をつけて。よろしくね!」
スタリオン。
彼は元奴隷だった。
今は連続殺人鬼だった。
「自由。自由だ。俺は自由だ」
物心がつく前に、金に困った親によって奴隷商人に売られた。
らしい。
真偽のほどはわからないが、少なくとも奴隷商人はそう言っていた。
彼は裏の世界で剣闘士をやらされていた。人間同士や、怪物などと戦わされ。それを金持ち連中が見世物として堪能する。
敗北は死だ。
一度でも負ければ死ぬ。
奴隷の剣闘士の命など、羽より軽い。
勝って、勝って、勝って、勝ち続けた。
とくに憎くもない相手をひたすらに斬り殺してきた。勝つたびに人としての何かを失っていった。
「いや違う。俺はヒトだ」
奴隷商人は言った。殺し続ければいつか自由にしてやると。
自由になれば人になれると思った。
だから、ついに全員殺した。奴隷商人も、見物客も、何もかも。幼少の頃から無敗の剣闘士は誰も止められなくなっていた。
あっけなく彼は自由になった。
自由になった、はずなのに。
「まだだ。まだ足りない」
心の空白は埋まらない。
人として大切な何かが埋まらない。
何故か。
「ああ、そうか。まだ自由が足りないのか」
自由。
自由になるためにはどうしたらいいのか。
その方法を彼は一つしか知らない。
「……殺すしかない」
スタリオン。
彼は元奴隷だった。
今は連続殺人鬼だった。
自由になった彼が、無差別に殺した無辜の人間は既に百人を超えている。
●
「今回は、連続殺人犯の討伐をお願いしたいんだ」
水鏡の情報を受け、『元気印』クラウディア・フォン・プラテス(nCL3000004)が依頼斡旋所に詰めていたオラクル達へと依頼を行う。
標的の名前は、スタリオン。
元奴隷の剣闘士。
現在は、連続殺人鬼となって人々を襲っている。
「水鏡が、次にその人が現れるところを教えてくれたの」
スタリオンは、夜の街で通行人を殺す機会をうかがっている。
そこを押さえて欲しいという。
ここで取り逃すと、また多くの犠牲者が出るだろう。
相手はこれまで多くの人間を殺しており。捕らえようとした手練達も何度も返り討ちにあっている。
「とても危険な相手だから、皆気をつけて。よろしくね!」
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.スタリオンの討伐
睦月師走です。
よろしくお願いします。
●敵情報
スタリオン
元奴隷の剣闘士。全身傷だらけの若い男。殺し続けたら自由になれると、幼い頃から刷り込まれてきた。今も自分に欠けた自由を求めて、殺し続けている連続殺人鬼。武器は古びた大剣。
剣の腕前とタフネスは相当なもの。
大剣による近単の斬撃と、オーバーブラストを使います。
●ロケーション
夜の街中。
スタリオンは人気のない路地に潜んで、通行人を狙っています。
一般人の犠牲者がでないように立ち回ってください。
水鏡の情報により、先回りが可能です。接触の仕方によっては、有利な状況で戦闘に挑むことができます。
よろしくお願いします。
●敵情報
スタリオン
元奴隷の剣闘士。全身傷だらけの若い男。殺し続けたら自由になれると、幼い頃から刷り込まれてきた。今も自分に欠けた自由を求めて、殺し続けている連続殺人鬼。武器は古びた大剣。
剣の腕前とタフネスは相当なもの。
大剣による近単の斬撃と、オーバーブラストを使います。
●ロケーション
夜の街中。
スタリオンは人気のない路地に潜んで、通行人を狙っています。
一般人の犠牲者がでないように立ち回ってください。
水鏡の情報により、先回りが可能です。接触の仕方によっては、有利な状況で戦闘に挑むことができます。
状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
6個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
6日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2019年06月16日
2019年06月16日
†メイン参加者 8人†
●
「無敗の剣闘士、こいつは……。すっげぇ興奮するなぁ! さぞ強いんだろ、戦うのが楽しみってもんだ!」
夜の街。
殺人犯を討伐するために、先回りする一行がいる。『血濡れの咎人』ロンベル・バルバロイト(CL3000550)は、戦意を漲らしていた。
「殺人鬼ねぇ。まぁ、俺は別に殺人鬼だろうが武人だろうが、強ぇ奴と戦えるんなら構わねぇさ」
『竜弾』アン・J・ハインケル(CL3000015)も、既に臨戦態勢だ。今回は三班に分かれて動いている。彼女たちの役目は、敵の後背をつかんと挟撃することだ。
「連続殺人犯か。彼の境遇には同情するけれど、だからといって大勢の人の命を奪った罪は償われないといけないわね」
『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)の胸のうちは、少し複雑であった。今回の一件には、根深い奴隷問題が根底にある。
「とはいえ、手練達が何度も返り討ちにあっているし、生涯負けなしか。気合い入れていく必要があるわね」
ふと、マキナ=ギアを、見つめる。
自分たちが予定の配置につき、仲間からの連絡を待った。
「いち自由騎士として、連続殺人犯を野放しにはできません! 私ももちろん怖いですが、皆さんの日常を守るために頑張ります!」
「これ以上被害が出ないよう、何としても撃退しないとね」
こちらは上から街を俯瞰している二人。
『新緑の歌姫(ディーヴァ)』秋篠 モカ(CL3000531)は、なるべく音をたてないように飛行している。『慈悲の刃、葬送の剣』アリア・セレスティ(CL3000222)は、二段飛びとハイバランサーを駆使して家々の屋根上を進んで、標的であるスタリオンを探していた。
(自由が欲しいと望んでるスタリオン、だけどどんな理由があったとしても、理不尽に人の命を奪っていい訳がないよ。何としても止めないと!)
最後の組。すなわちスタリオンと最初に接触する役を担う三人。
そのうちの一人、『太陽の笑顔』カノン・イスルギ(CL3000025)はカンテラを手にして一般人を装っていた。途中で出会った人々には、予測地点に近づかないように説得するのに忙しい。
「物心付いた時から人を殺す事だけを教えられたヒトが、目的もないままに無差別殺人を繰り返したとして。そこに自由意志があるかどうかは難しい所ですね……」
「おやおや……随分と迷惑な奴が出たのだねえ。少しばかり大変だけれども、つきあってあげますかあ」
『RE:LIGARE』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)は、感情探査で周囲を探っている。『黒闇』ゼクス・アゾール(CL3000469)も同じく一般人になりきって、危険が潜む夜の街を進む。
「……これは」
何かが。
不意に、ミルトスの探査に引っかかる。強い感情の波。
(深い、渇望?)
手振りで合図。
ミルトスが示す方向を、カノンが凝視する。暗がりの路地。リュンケウスの瞳で見通したのは、傷だらけの巨体だった。
「こちらでも確認したよ」
上を行くアリア達も、標的を発見。
マキナ=ギアでスタリオンの現在位置が全員に知らされる。準備は整った。包囲網がじりじりと狭まる。接触組の三人のうち、不意打ちを受けぬようにまずミルトスが間合いに入った。
「あの、顔色が悪いですが。大丈夫ですか? それに最近、連続殺人事件が起こっているから夜に一人は危ないですよ」
言葉に嘘はない。
スタリオンは呼吸が不規則で荒く。病的に昏く沈んだ瞳で、じろりと近付いてきたミルトスを見下ろした。
「こんな所で何してるの?」
「お。なーになーに。お兄さん大丈夫かーい?」
カノンとゼクスが続く。
傍目からは、体調不良で動けない者へ善意の一般人として話しかけているように見えることだろう。
「お前たちは、自由か?」
低い声でスタリオンが呟く。
先程までは一切感じられなかった殺気が、急速に膨らむ。殺人鬼が手にした大剣が、ゆらりと動いた。
「お前たちは……ヒトか?」
●
目標が路地の奥に退避するなら挟撃組が攻撃出来る。
接近した此方を攻撃するならやはり背を挟撃組が攻撃出来る。
二段構えの作戦のうち、相手が選択したのは後者の方だった。スタリオンの意識は、接触した三人に向けられている。
(行きます!)
上空を飛ぶモカが先陣を切る。
急降下を開始。そのスピードをそのまま攻撃と転化。疾風刃・改で落下のスピードも合わせた奇襲。
「!」
常人ならば、反応することすらできぬ一撃に。
スタリオンは直前で反射的に対応する。歴戦の勘がそうさせたのか、紙一重のところで致命打を避ける。
だが、それはモカも予想済み。
(一撃入れられれば良し、避けられたりガードされても、注意が私に向いている瞬間は、アリアさんの追撃や他からの攻撃に対処しきれないですよね?)
そんなモカとタイミングを合わせた者がいる。
「援護するよ」
アリアは並走するようにエコーズを放つ。
時間差での二つの刃がスタリオンの体に、見事に直撃する。
「おら、無敗の色男様には物足りないだろうけど、これが今夜の闘技場(ぶたい)だ!」
先回りしていた組。
ロンベルも突撃する。決戦術式・白陣闘技場。白く輝く魔方陣を闘技場に見立て、対象の足元に展開し拘束するオリジナルの決闘魔導が発動した。
「この路地からは逃がさないぜ。あんたには、ここで俺らとやりあってもらう」
アンはピンポイントシュートで足を狙う。
今回、一番防がねばならぬのは路地を強引に抜けて一般人の前に出られること。その選択肢を奪う為にも、足は最優先で潰しておきたい。
「貴様ら……貴様らも、俺の自由を……」
「自由が欲しいんですってね。いや、ヒトになりたいのか。でもお生憎様、殺せば殺す程、貴方はヒトから遠くなっていくわ」
動きに制限を受けたスタリオンは、そんなことはお構いなしに剣を振るう。
予備動作からエルシーは身体を捌いて、斬撃を篭手で受け流す。それでも、受けた腕には多大な衝撃が走った。
「こっちも忘れてもらっちゃ困るよ」
前方から後方に注意が向けば、今度は前方が攻める。
内に響け、内を崩せ。味方が敵の注意を引いている隙をつき。カノンの震撃が拳を通じてスタリオンの体内を駆け巡る。
「……不自由だな」
スタリオンの口から血が滴る。
内臓が傷ついたのだろう。だが、傷だらけの男は顔色一つ変えず。鋭い反撃を再三繰り出す。
「おいおい、人の善意(笑)を踏みにじるのは良くないぜえ?」
「……善意?」
「ちょいとお仕置きをしてやろう」
「……善意とは……なんだ? ……自由に必要なものか?」
ゼクスは後方から支援を行う。
ホークアイで狙いをつけ、アローファンタズマや大渦海域のタンゴで敵の動きを縛る。ちなみに冗談が通じなかったのか、スタリオンは首を傾けてこちらの言葉を本気で吟味している様子がうかがえた。
そんな様を近くで見やり。
ミルトスは戦いながら思う。
(何が恐ろしいって、これだけの事をしておきながら「殺意しかない」のよ。マイナス感情を抱いてるわけじゃないから対象すら選ばない)
それで、自由、ね。
狭い路地を有効に使うために、あえてハイバランサーで壁面を移動。殺意がこもった剣の威力を柳凪で軽減する。
(奴隷ならば、何かあれば雇用主が責任を取ったかもしれない。自由とは、自分の行為に対して自分が責任を負うという事)
震撃を使い分け。
逃げ道をふさぐ。
(どうしよ。生かして引き渡しても良くて一生禁錮で、普通に考えれば死罪。彼が望む自由ってそういう事だもの)
独特の体重移動から踏み込み。
至近距離から斜め上方に掌底を繰り出す。対象の肉体を内部から破壊する奥義の一つ、永訣の一撃。猛訣掌が炸裂した。
(私は、自由が怖いな……)
元奴隷。
現殺人鬼は。
全身の傷をどんなに増やし続けても、なお自由を求める。
●
「足を潰せた。手数を増やしていくぜ」
アンのダブルシェル。
銃撃の音が響く。スタリオンは足に度重なるダメージを負い、機動力を大きく失っていた。加えてロンベルのスワンプで足もとがおぼつかない状況。
にもかかわらず。
「……俺の、自由を邪魔するな」
驚異的な身体能力で、銃弾を剣で切り伏せる。
さすがに全てを防ぎきることはできないものの、急所への攻撃は易々とは決まらない。
「やるじゃないか色男! その体中の勲章(キズ)は伊達じゃないなぁ!」
ロンベルは果敢に、無敗の男へと挑む。
本音としては、堂々と正面から戦端を切りたかった。その思いを一撃、一撃に重く乗せては繰り出す。
「邪魔だ、邪魔だ、お前は俺の自由の邪魔だっ」
スタリオンの剣が舞い乱れる。
力と力が激しくぶつかりあって、両者は一歩も引かず。命がけのしのぎ合いが演じられる。
(確かに強ぇ、馬鹿みたいなパワーとタフネスだ。こりゃ最高の死合(バトル)だ!)
ロンゲルはこの猛攻を心の底から楽しんでいた。
血が沸く。肉が躍る。
「けれど、それだけじゃないだろ?」
まさか無敗の闘士様がただの腕力馬鹿だったなら、とっくの昔に狩られてるはずだ。
けれどそうじゃない。
「ほら、見せてくれよ色男さんよ。お前がお前である理由、生きるために無意識に生み出したモノ。無敗と呼ばれるまで極め昇華した『ソレ』を見せてくれや」
挑発というには、あまりに真っ直ぐ。
スタリオンが吠える。
超直観が告げる。次の一撃は今までで一番の死線となる。
「……俺は、ヒトになる!」
剣先に宿るのは殺意か。
それ以外の何かか。
「全力で、その『無敗』を打ち砕いてやる!!!」
四肢が四散して、吹き飛ばされてもおかしくない衝撃。
遠くなりそうな意識を何とかつなぎとめる。スタリオンの最大の剣技を真正面から受け止め。ロンベルはついに耐えきった。
「……まだだ、まだ」
スタリオンは尚も追撃しようとする。
そこに乱入したのはモカだ。ツイスタータップで割りこむように注意をそらせる。
(私も、みんなを守りたいんです)
人と人の戦いは心にくるものがある。
スタリオンの境遇に憂いも感じる。
ただ、譲れぬ信念があるのは互いに同じ。
(相手も歴戦の剣闘士、気は抜けません)
自分なりに精一杯。
泣いてしまいそうになるのを懸命にこらえ。
飛行状態のままタイムスキップでヒットアンドウェイの攻撃を行う。前後だけでなく、頭上も意識させ。敵の情報処理能力に圧力をかける。
「ちょこまかと……」
「貴方達の相手は私達。弱者を傷付けることなど、断じて許しません」
アリアも屋根伝いに飛び移り、大渦海域のタンゴで敵の移動を制し。エコーズを撃ち下ろしては、敵の意識を上下に揺さぶる。
「貴方にも事情はあるかもしれませんが、それは人を殺めて良い理由にはならないわ」
万が一にも被害は出させない。
戦場を俯瞰して、周辺に一般人来ないようにも気を配る。万一の時は、体を張って割って入り安全圏まで人々を逃がす覚悟はできている。
「大通りに出れば別だけど、路地じゃその大剣をフルに活かせないんじゃないの?」
上に注意が向いたところで、またエルシーは一気に距離を詰める。古き紅竜の籠手で包んだ拳を振る舞う。
「まぁ、だからといってコチラが遠慮するとかはないけどね」
相手は1人。
こちらは8人。
数的有利をうまく利用しない手はない。全員で隙を作っては、その隙を狙って攻撃する。
「自由……足りない。足りない」
有効打を浴び。
スタリオンの体が揺れる。それでも空間の狭さをものともせず、邪魔となるものすべてを敵の剣は切り裂く。
「……なるほど。さすがにタフね」
痛みを超越した動き。
そこにゼクスが釘をさす。
「はは。嗜好品には縁が無かったでしょお? すこーしだけお裾分けしてあげようか」
桃源郷夜来香。
一服後に煙を体内で魔力と混ぜ2度吐き出す殺傷の紫煙で、場の流れごと機運を制し、敵のみを包み込む。
「……これは……?」
「奴隷ねえ。傷や身体つきは評価するけれど、その様相を見るに愛玩用以外にはなれそうにないなあ」
不良品ならさくさく処分してしまおう。
容赦なく後方からコキュートスで射貫く。慈悲はない。
「……っ」
「へぇ、しぶといじゃないか。なら……こいつはどうかね!」
アンが切った切り札。
かつてアニムスを燃やし放った一撃を基にした必殺技……竜弾。古くは竜の嘶きとも喩えられた銃声が轟く。その弾丸は堅固な守りも穿ってのけ。そこにミルトスの影狼とモカの疾風刃・改が乗算される。
「前にカノンのセンセーが言ってたんだ。自由ってのは何をしてもいいって事じゃない。それは単なる我儘だって。本当の自由は、その行為の結果に責任を持つ事で得られる物だって。カノンにはまだ難しくてよく解らないけど、でも」
ここが好機。
カノンは、ぐっと拳を握りしめ。
「お前のやった”行為”の結果には、責任を取ってもらうよ!」
影狼を用い死角に潜り込み攻撃。
態勢を崩したスタリオンは反応すること叶わず。さらにそこから。
「これで終わりだよ!」
全身の筋肉を振動させ。
そのエネルギーを拳一点に集中。教会の鐘の音を間近で聞くような音と衝撃が殺人鬼を貫く。
「鳴り響け、神音!」
●
「自由……これが自由か……」
それが殺人鬼の最期の言葉であった。
長年の蓄積された負傷に、限界を超えて戦い続けたのが重なった結果だ。
「自分の行為の結果に責任を取った今、君の魂は自由だよ」
カノンは呟き一滴涙を零す。それは犠牲になった人達へか、人を殺す事でしか自由を模索出来なかった彼へか解らない。
「ヒトが生きたがるのは当然の事だし、生き方を勘違いして戦い続けるこいつには同情もする。だが、その罪を裁くのはこの国の法であって俺じゃない。後は、国が上手いことやってくれるのを祈るのみだな」
アンは夜空を見上げ、息を吐く。
激戦を終え、皆それぞれの表情で撤退の準備を始めていた。
「法の裁きで死ぬのであれば、そのとき貴方はヒトになれたかもしれないわね」
最後尾のエルシーが踵を返す。
平和を取り戻した夜の街は、何事もなかったかのように今日も更けていく。
「無敗の剣闘士、こいつは……。すっげぇ興奮するなぁ! さぞ強いんだろ、戦うのが楽しみってもんだ!」
夜の街。
殺人犯を討伐するために、先回りする一行がいる。『血濡れの咎人』ロンベル・バルバロイト(CL3000550)は、戦意を漲らしていた。
「殺人鬼ねぇ。まぁ、俺は別に殺人鬼だろうが武人だろうが、強ぇ奴と戦えるんなら構わねぇさ」
『竜弾』アン・J・ハインケル(CL3000015)も、既に臨戦態勢だ。今回は三班に分かれて動いている。彼女たちの役目は、敵の後背をつかんと挟撃することだ。
「連続殺人犯か。彼の境遇には同情するけれど、だからといって大勢の人の命を奪った罪は償われないといけないわね」
『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)の胸のうちは、少し複雑であった。今回の一件には、根深い奴隷問題が根底にある。
「とはいえ、手練達が何度も返り討ちにあっているし、生涯負けなしか。気合い入れていく必要があるわね」
ふと、マキナ=ギアを、見つめる。
自分たちが予定の配置につき、仲間からの連絡を待った。
「いち自由騎士として、連続殺人犯を野放しにはできません! 私ももちろん怖いですが、皆さんの日常を守るために頑張ります!」
「これ以上被害が出ないよう、何としても撃退しないとね」
こちらは上から街を俯瞰している二人。
『新緑の歌姫(ディーヴァ)』秋篠 モカ(CL3000531)は、なるべく音をたてないように飛行している。『慈悲の刃、葬送の剣』アリア・セレスティ(CL3000222)は、二段飛びとハイバランサーを駆使して家々の屋根上を進んで、標的であるスタリオンを探していた。
(自由が欲しいと望んでるスタリオン、だけどどんな理由があったとしても、理不尽に人の命を奪っていい訳がないよ。何としても止めないと!)
最後の組。すなわちスタリオンと最初に接触する役を担う三人。
そのうちの一人、『太陽の笑顔』カノン・イスルギ(CL3000025)はカンテラを手にして一般人を装っていた。途中で出会った人々には、予測地点に近づかないように説得するのに忙しい。
「物心付いた時から人を殺す事だけを教えられたヒトが、目的もないままに無差別殺人を繰り返したとして。そこに自由意志があるかどうかは難しい所ですね……」
「おやおや……随分と迷惑な奴が出たのだねえ。少しばかり大変だけれども、つきあってあげますかあ」
『RE:LIGARE』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)は、感情探査で周囲を探っている。『黒闇』ゼクス・アゾール(CL3000469)も同じく一般人になりきって、危険が潜む夜の街を進む。
「……これは」
何かが。
不意に、ミルトスの探査に引っかかる。強い感情の波。
(深い、渇望?)
手振りで合図。
ミルトスが示す方向を、カノンが凝視する。暗がりの路地。リュンケウスの瞳で見通したのは、傷だらけの巨体だった。
「こちらでも確認したよ」
上を行くアリア達も、標的を発見。
マキナ=ギアでスタリオンの現在位置が全員に知らされる。準備は整った。包囲網がじりじりと狭まる。接触組の三人のうち、不意打ちを受けぬようにまずミルトスが間合いに入った。
「あの、顔色が悪いですが。大丈夫ですか? それに最近、連続殺人事件が起こっているから夜に一人は危ないですよ」
言葉に嘘はない。
スタリオンは呼吸が不規則で荒く。病的に昏く沈んだ瞳で、じろりと近付いてきたミルトスを見下ろした。
「こんな所で何してるの?」
「お。なーになーに。お兄さん大丈夫かーい?」
カノンとゼクスが続く。
傍目からは、体調不良で動けない者へ善意の一般人として話しかけているように見えることだろう。
「お前たちは、自由か?」
低い声でスタリオンが呟く。
先程までは一切感じられなかった殺気が、急速に膨らむ。殺人鬼が手にした大剣が、ゆらりと動いた。
「お前たちは……ヒトか?」
●
目標が路地の奥に退避するなら挟撃組が攻撃出来る。
接近した此方を攻撃するならやはり背を挟撃組が攻撃出来る。
二段構えの作戦のうち、相手が選択したのは後者の方だった。スタリオンの意識は、接触した三人に向けられている。
(行きます!)
上空を飛ぶモカが先陣を切る。
急降下を開始。そのスピードをそのまま攻撃と転化。疾風刃・改で落下のスピードも合わせた奇襲。
「!」
常人ならば、反応することすらできぬ一撃に。
スタリオンは直前で反射的に対応する。歴戦の勘がそうさせたのか、紙一重のところで致命打を避ける。
だが、それはモカも予想済み。
(一撃入れられれば良し、避けられたりガードされても、注意が私に向いている瞬間は、アリアさんの追撃や他からの攻撃に対処しきれないですよね?)
そんなモカとタイミングを合わせた者がいる。
「援護するよ」
アリアは並走するようにエコーズを放つ。
時間差での二つの刃がスタリオンの体に、見事に直撃する。
「おら、無敗の色男様には物足りないだろうけど、これが今夜の闘技場(ぶたい)だ!」
先回りしていた組。
ロンベルも突撃する。決戦術式・白陣闘技場。白く輝く魔方陣を闘技場に見立て、対象の足元に展開し拘束するオリジナルの決闘魔導が発動した。
「この路地からは逃がさないぜ。あんたには、ここで俺らとやりあってもらう」
アンはピンポイントシュートで足を狙う。
今回、一番防がねばならぬのは路地を強引に抜けて一般人の前に出られること。その選択肢を奪う為にも、足は最優先で潰しておきたい。
「貴様ら……貴様らも、俺の自由を……」
「自由が欲しいんですってね。いや、ヒトになりたいのか。でもお生憎様、殺せば殺す程、貴方はヒトから遠くなっていくわ」
動きに制限を受けたスタリオンは、そんなことはお構いなしに剣を振るう。
予備動作からエルシーは身体を捌いて、斬撃を篭手で受け流す。それでも、受けた腕には多大な衝撃が走った。
「こっちも忘れてもらっちゃ困るよ」
前方から後方に注意が向けば、今度は前方が攻める。
内に響け、内を崩せ。味方が敵の注意を引いている隙をつき。カノンの震撃が拳を通じてスタリオンの体内を駆け巡る。
「……不自由だな」
スタリオンの口から血が滴る。
内臓が傷ついたのだろう。だが、傷だらけの男は顔色一つ変えず。鋭い反撃を再三繰り出す。
「おいおい、人の善意(笑)を踏みにじるのは良くないぜえ?」
「……善意?」
「ちょいとお仕置きをしてやろう」
「……善意とは……なんだ? ……自由に必要なものか?」
ゼクスは後方から支援を行う。
ホークアイで狙いをつけ、アローファンタズマや大渦海域のタンゴで敵の動きを縛る。ちなみに冗談が通じなかったのか、スタリオンは首を傾けてこちらの言葉を本気で吟味している様子がうかがえた。
そんな様を近くで見やり。
ミルトスは戦いながら思う。
(何が恐ろしいって、これだけの事をしておきながら「殺意しかない」のよ。マイナス感情を抱いてるわけじゃないから対象すら選ばない)
それで、自由、ね。
狭い路地を有効に使うために、あえてハイバランサーで壁面を移動。殺意がこもった剣の威力を柳凪で軽減する。
(奴隷ならば、何かあれば雇用主が責任を取ったかもしれない。自由とは、自分の行為に対して自分が責任を負うという事)
震撃を使い分け。
逃げ道をふさぐ。
(どうしよ。生かして引き渡しても良くて一生禁錮で、普通に考えれば死罪。彼が望む自由ってそういう事だもの)
独特の体重移動から踏み込み。
至近距離から斜め上方に掌底を繰り出す。対象の肉体を内部から破壊する奥義の一つ、永訣の一撃。猛訣掌が炸裂した。
(私は、自由が怖いな……)
元奴隷。
現殺人鬼は。
全身の傷をどんなに増やし続けても、なお自由を求める。
●
「足を潰せた。手数を増やしていくぜ」
アンのダブルシェル。
銃撃の音が響く。スタリオンは足に度重なるダメージを負い、機動力を大きく失っていた。加えてロンベルのスワンプで足もとがおぼつかない状況。
にもかかわらず。
「……俺の、自由を邪魔するな」
驚異的な身体能力で、銃弾を剣で切り伏せる。
さすがに全てを防ぎきることはできないものの、急所への攻撃は易々とは決まらない。
「やるじゃないか色男! その体中の勲章(キズ)は伊達じゃないなぁ!」
ロンベルは果敢に、無敗の男へと挑む。
本音としては、堂々と正面から戦端を切りたかった。その思いを一撃、一撃に重く乗せては繰り出す。
「邪魔だ、邪魔だ、お前は俺の自由の邪魔だっ」
スタリオンの剣が舞い乱れる。
力と力が激しくぶつかりあって、両者は一歩も引かず。命がけのしのぎ合いが演じられる。
(確かに強ぇ、馬鹿みたいなパワーとタフネスだ。こりゃ最高の死合(バトル)だ!)
ロンゲルはこの猛攻を心の底から楽しんでいた。
血が沸く。肉が躍る。
「けれど、それだけじゃないだろ?」
まさか無敗の闘士様がただの腕力馬鹿だったなら、とっくの昔に狩られてるはずだ。
けれどそうじゃない。
「ほら、見せてくれよ色男さんよ。お前がお前である理由、生きるために無意識に生み出したモノ。無敗と呼ばれるまで極め昇華した『ソレ』を見せてくれや」
挑発というには、あまりに真っ直ぐ。
スタリオンが吠える。
超直観が告げる。次の一撃は今までで一番の死線となる。
「……俺は、ヒトになる!」
剣先に宿るのは殺意か。
それ以外の何かか。
「全力で、その『無敗』を打ち砕いてやる!!!」
四肢が四散して、吹き飛ばされてもおかしくない衝撃。
遠くなりそうな意識を何とかつなぎとめる。スタリオンの最大の剣技を真正面から受け止め。ロンベルはついに耐えきった。
「……まだだ、まだ」
スタリオンは尚も追撃しようとする。
そこに乱入したのはモカだ。ツイスタータップで割りこむように注意をそらせる。
(私も、みんなを守りたいんです)
人と人の戦いは心にくるものがある。
スタリオンの境遇に憂いも感じる。
ただ、譲れぬ信念があるのは互いに同じ。
(相手も歴戦の剣闘士、気は抜けません)
自分なりに精一杯。
泣いてしまいそうになるのを懸命にこらえ。
飛行状態のままタイムスキップでヒットアンドウェイの攻撃を行う。前後だけでなく、頭上も意識させ。敵の情報処理能力に圧力をかける。
「ちょこまかと……」
「貴方達の相手は私達。弱者を傷付けることなど、断じて許しません」
アリアも屋根伝いに飛び移り、大渦海域のタンゴで敵の移動を制し。エコーズを撃ち下ろしては、敵の意識を上下に揺さぶる。
「貴方にも事情はあるかもしれませんが、それは人を殺めて良い理由にはならないわ」
万が一にも被害は出させない。
戦場を俯瞰して、周辺に一般人来ないようにも気を配る。万一の時は、体を張って割って入り安全圏まで人々を逃がす覚悟はできている。
「大通りに出れば別だけど、路地じゃその大剣をフルに活かせないんじゃないの?」
上に注意が向いたところで、またエルシーは一気に距離を詰める。古き紅竜の籠手で包んだ拳を振る舞う。
「まぁ、だからといってコチラが遠慮するとかはないけどね」
相手は1人。
こちらは8人。
数的有利をうまく利用しない手はない。全員で隙を作っては、その隙を狙って攻撃する。
「自由……足りない。足りない」
有効打を浴び。
スタリオンの体が揺れる。それでも空間の狭さをものともせず、邪魔となるものすべてを敵の剣は切り裂く。
「……なるほど。さすがにタフね」
痛みを超越した動き。
そこにゼクスが釘をさす。
「はは。嗜好品には縁が無かったでしょお? すこーしだけお裾分けしてあげようか」
桃源郷夜来香。
一服後に煙を体内で魔力と混ぜ2度吐き出す殺傷の紫煙で、場の流れごと機運を制し、敵のみを包み込む。
「……これは……?」
「奴隷ねえ。傷や身体つきは評価するけれど、その様相を見るに愛玩用以外にはなれそうにないなあ」
不良品ならさくさく処分してしまおう。
容赦なく後方からコキュートスで射貫く。慈悲はない。
「……っ」
「へぇ、しぶといじゃないか。なら……こいつはどうかね!」
アンが切った切り札。
かつてアニムスを燃やし放った一撃を基にした必殺技……竜弾。古くは竜の嘶きとも喩えられた銃声が轟く。その弾丸は堅固な守りも穿ってのけ。そこにミルトスの影狼とモカの疾風刃・改が乗算される。
「前にカノンのセンセーが言ってたんだ。自由ってのは何をしてもいいって事じゃない。それは単なる我儘だって。本当の自由は、その行為の結果に責任を持つ事で得られる物だって。カノンにはまだ難しくてよく解らないけど、でも」
ここが好機。
カノンは、ぐっと拳を握りしめ。
「お前のやった”行為”の結果には、責任を取ってもらうよ!」
影狼を用い死角に潜り込み攻撃。
態勢を崩したスタリオンは反応すること叶わず。さらにそこから。
「これで終わりだよ!」
全身の筋肉を振動させ。
そのエネルギーを拳一点に集中。教会の鐘の音を間近で聞くような音と衝撃が殺人鬼を貫く。
「鳴り響け、神音!」
●
「自由……これが自由か……」
それが殺人鬼の最期の言葉であった。
長年の蓄積された負傷に、限界を超えて戦い続けたのが重なった結果だ。
「自分の行為の結果に責任を取った今、君の魂は自由だよ」
カノンは呟き一滴涙を零す。それは犠牲になった人達へか、人を殺す事でしか自由を模索出来なかった彼へか解らない。
「ヒトが生きたがるのは当然の事だし、生き方を勘違いして戦い続けるこいつには同情もする。だが、その罪を裁くのはこの国の法であって俺じゃない。後は、国が上手いことやってくれるのを祈るのみだな」
アンは夜空を見上げ、息を吐く。
激戦を終え、皆それぞれの表情で撤退の準備を始めていた。
「法の裁きで死ぬのであれば、そのとき貴方はヒトになれたかもしれないわね」
最後尾のエルシーが踵を返す。
平和を取り戻した夜の街は、何事もなかったかのように今日も更けていく。