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<扶桑島異聞録>共命の鳥



●紫雲天を喰う
 錬金ガルバリウム製瓦の屋根に金のシャチホコが逆立っている。
 シャチホコの口より吹き出される紫の煙が見えようか。
 見渡す限りあらゆる屋根がこの有様だ。
 シャチホコ煙突からはき出される煙が空を紫に覆い、複雑に荒れた天候はひっきりなしに雷鳴を吠え強い酸の雨を吐き降らせている。
 人々は強化カーボン笠を被りしめった地面をみつめながら生きていた。
 この島は、遠い昔に神を見失った島。
 国であったことすら、喪った島。
 あなたはそんな島の、高い屋根のひとつに立っていた。
 紫雲の空と泥の町。
 あなたに接触をはたしたギアティクス忍装束を纏った男を思い出す。
『かの国は岩窟に籠もる熊のごとき有様である。
 国を喪ったことを認めず長く鎖国を続けたがゆえに、人々は空を忘れ誇りを忘れ笑顔すらも忘れつつある。
 我々矢車忍軍は鎖島開国を目刺し暗躍する組織。
 神をもつ国を倒したイ・ラプセルの自由騎士たちの光こそ、わが国を開く光明となるはず。
 まずはかの地へ潜入し、影山という男を探すのだ』

 かの地、名は――扶桑島。

●極秘潜入任務
 クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)より、ランダムに選ばれた八名の自由騎士へ紹介状が送られた。
 曰く、扶桑島という閉鎖的コミュニティに潜入せよとのこと。
 まずは島に潜入し拠点を得て、この国の鎖国状態を解くことを最終目的とする。
 そのためには問題や障害を見つけ出さねばならぬ。
 まずは指定された町で『影山』という人物を探すのだ。
「この任務はやや期間の長いものとなるであろう。
 密航船を手配するので、定期的に島へ訪れ調査を継続してもらいたい」
 この願いをうけた、あなたは――。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
新天地開拓β
担当ST
八重紅友禅
■成功条件
1.扶桑島へ潜入する
2.『影山』という男を捜す
 このシナリオは新天地の小国を調査するシナリオです
 対象は『扶桑島』。
 イ・ラプセルからみてアマノホカリ方面の海にぽつんと存在する小さな国です。否、国でした。
 神の喪失を受け入れられず、他国との交流を閉ざしたと外部からは言われていますが……本当の所は中に入ってみなければわからないでしょう。

 このコミュニティの鎖国を解くことを目的とした矢車忍軍より嘆願書を受け、自由騎士である皆さんは身分を隠して島へ潜入します。
 最初の目標は『影山』という男を捜し出すこと。
 いるであろう町は分かっているので、町内探索にプレイングを集中してください。
 使えそうなフックは後ほど説明します。

【潜入用の身分と変装】
 参加者はみな島の人間を装い、秘密裏に活動します。
 接触してきた男の手引きにより完璧な変装がなされ、島の身分を名乗ることができています。
 といっても扶桑島に身分証明書のようなものはあってないようなものなので、外見だけ島内の人間になりすませば自分から思い切りバラさない限りはバレないだろう、とのことです。
 また島内の人間たちはコミュニケーション自体をかなり閉ざしているため、急に新しい顔の人が現われても気にしないか気づかないかのどちらかだとも話していました。

【扶桑島・天道町】
 影山という男を捜すため、天道町へと訪れます。
 OP冒頭にある風景の土地で、時代背景的には鎖国中の江戸をなんとなく想像してください。勿論神滅や魔導や歯車など様々な技術によっていびつに変化しています。
 この町で特定人物を探さねばなりませんが、そのためにはいくつかの努力や工夫を必要とします。その辺の人に話しかけて回るJRPG的調査ではダメということです。
 プレイングのフックになる要素をいくつかご紹介します。

●寺子屋
 子供たちが語学や数学を習うための施設です。
 といっても有志者が勝手に寺で開いているものですので子供か講師志望者であれば受け入れられやすいでしょう。
 まずはなじむことから初めて見てください。

●遊郭
 裏通りに広がる娼婦通りです。要するにエロスの通りです。お金を払ってエロいことをする店が沢山あります。
 大門という真っ赤なゲートを抜けるとこの通りがあり、女子供が入らないように見張りがついています。
 システムは単純で、遊女をつれて座敷へ入り酒と料理を出される流れでなんやかんやするのです。
 客としてやってきてもいいですし、いっそ遊女として入り込んでもOKです。その場合裏からの手引きでこっそり抜け出せるものとします。

●貸本屋
 図書館的施設。
 学問の本やら歴史の本やらラノベ的な本まで様々な本が置いてあります。
 資料をあさりまくるにはお金がかかるうえそれなりの知識や頭脳労働を要するため、得意な方向けです。(とりあえずで調べるとただ疲れるだけになります)
 地図や住民名簿のようなものはありません。誰も測量や統計をしようとしなかったからでしょう。
 新聞記事は沢山あります。島の歴史を語る本もありますが、これが本当の歴史かは……?

●時計塔
 OP冒頭で誰か(PCの誰かだと思います)が立っていた場所です。
 町を見渡すことができるとても高い場所です。
 普通は立ち入ることができませんが、管理人とうまいことやったり清掃員に化けたりと入り込む手段は結構沢山あります。
(別に重要施設ってわけでもないので警備もあまりされていません)
状態
完了
報酬マテリア
2個  6個  2個  2個
10モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
8/8
公開日
2018年12月14日

†メイン参加者 8人†



●扶桑島異聞録・第一章
 灰と酸の混じったにおいが海にすら漂っている。
 黒塗りの密航船が闇に紛れて接岸し、『異邦のサムライ』サブロウ・カイトー(CL3000363)は岩をむき出しにした岸へと飛び乗った。
 岩のざりざりとした感触が靴底を通じてくる。
「アマノホカリ本国よりも、さらに時代を遡っている……様に見えて、パンキッシュ。ふうむ」
 空を見上げれば、紫色の雲がこまかな稲光によって淡く光っている。
 これが自然現象でないことは誰の目にも明らかだった。
 技術がもたらした雑音。
 発展が閉ざした空。
「私の故郷もアマノホカリ界隈ですが、未来へと進む可能性を放棄したようなこの雰囲気はよく似ていますね……」
 『天辰』カスカ・セイリュウジ(CL3000019)は手こぎボートから伸びたロープを岩にくくりつけ、周囲に気配が無いことを確認した。
 周囲に自分たち以外のヒトはない。黒いカラスが岩場にとまっているのみだ。
「アマノホカリですかぁ」
 『まいどおおきに!』シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)が遠くに見える光に目を細めた。
「アマノカホリは祖母の故郷! どんな所か常々憧れがありますぅ! もし本当にそうなのであれば、開国はとっても嬉しいことですねぇ!」
 一旦そのように述べてみたが、開国が正しいことであるかどうかすら、今この時点ではわからない。
 それを確かめることも、もしかしたら今回の任務に含まれているのかもしれない……と、暗にシェリルたちは思った。

「扶桑島……なあ」
 『ReReボマー?』エミリオ・ミハイエル(CL3000054)は携帯ランタンを置いてノートを開いてみた。
 この島へ来る前、イ・ラプセルの図書館で調べた情報を書き込んである……つもりだが、きわめて曖昧な情報しか調べられなかった。みな、任務をうけた時から知っていた情報である。
 島の位置と、アマノホカリ方面らしいよということと、文化もそっち方面だろうというきわめて大雑把な記述しか見当たらなかったのだ。逆に、国の図書館で調べがつくくらいなら予め知らされているだろうとも言えた。
「所で、『扶桑』ってどういう意味なんだ?」
 調べ物に付き合っていた『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)が横からノートを覗き込んできた。
「アマノホカリに似た意味か?」
「まあ……アマノホカリをさす美称のひとつですね。大和とか黄金の国とか、そういう……よその国がつけたあだ名とも言えます」
「なんだ、よそからつけられたよそのあだ名を島の名前にしてるのか? あべこべな話だな」
「言われてみれば」
 その横では『口封じ』大噛・シロ(CL3000400)が腕組みをして立っている。
 口を固定されているので何も言わないが、内心では何かを考えているようだった。
 いつまでも一箇所に固まっているのはよくない。そうテレパスで伝えてきたシロは、サブロウをつれて時計塔の方へと歩いて行った。
 ではそういうことで。
 と、エミリオやツボミたちも離れていく。
 残された『異国のオルフェン』イーイー・ケルツェンハイム(CL3000076)はぼんやりと紫色の雲を見上げていた。
「イ・ラプセルに辿り着く前のことは、よく覚えてない……けど。この島の雰囲気、なんか懐かしいような気がする。あんまり、いい思い出じゃなかったような気がするけど」
 ふうん? と首を傾げる『見習い銃士』グリッツ・ケルツェンハイム(CL3000057)。
 あらためてランタンを翳し、手鏡で自分の顔を確認してみる。
「それにしても、あの人の変装術はすごいなあ。僕もイーちゃんも外国人みたいだもん。なんだかワクワクしてくるね」
「……うん」
 いこっか。
 差し出されたグリッツの手を、イーイーは当たり前にとった。

●寺子屋『日下部塾』にて
 雪の降る季節であるように思えた。
 はく息の白さと舗装道路のきらきらとした有様。
 イーイーが歩いてみれば、靴底が霜を踏んでざくざくと鳴った。
 着物の上から暖かそうな上着を纏った子供がばらばらに、同じ寺へと入っていく。
「あそこが話にあった寺子屋かな」
「多分ね」
 グリッツは新しい風景に目をきらきらとさせている。
 木造建築の家々。瓦でできた屋根。
 一見して古風な町並みではあったが、道路はアスファルトめいた石でぴったりと固められ、長期的に平らになるよう舗装されているようだった。
 イ・ラプセルでもそうそう見かけない高度な舗装技術だ。
 けれど不思議なのは、常に弱い雨がぱらぱらと降っていること。
 子供たちも自分たちも、みな強化カーボンで編み込まれた笠を被って歩いていることだ。
「いこっか」
 二人は連れだって寺子屋へと入っていった。

 寺子屋では読み書きとソロバンを教えていた。
 国家(?)が教育制度を整えているというわけではなく、寺に通う日下部という女が自主的に教えているものであるらしい。
 であるからして、ある日突然『一緒に教えて』と入っていったグリッツとイーイーはまるで問題なく混ざることができた。
 数日通ってみて、寺子屋の雰囲気と仕組みが分かってきた。
 ずっと昔に寺の住職が読み書きを教えたのが始まりであること。以後有志による学習の場が設けられていること。
 教材は主に仏教書であること。読み書きと同時に道徳を教えようとしていること。
 子供たちの各家庭はこのことにそれほど深く関心をもっていないこと。
 子供たちの国語力や計算能力はまちまちで、出来る子もいれば出来ない子もいたこと。あくまで寺子屋は学習の機会を与えるための場であって、訓練期間ではないこと。
 しかし子供たちは本能的に、勉学に期待をしていないこと。
 その理由は『工場』にあるということ。
「工場って?」
 グリッツのそんな質問に子供たちは首を傾げて答えた。
「工場っていったら、工場だよ」
 当たり前だろ? とでもいう調子に、イーイーとグリッツは顔を見合わせ、次に子供たちが指さしたさきを見て納得した。
 紫色の煙を、町で最も大きく放つシャチホコ煙突の屋根。毎日定期的になるゴォンという鐘の音と共にはき出される大量の煙。
 あれだよ。子供のひとりはそう言った。
 そんな話の流れで、グリッツは影山という男を知らないかと訪ねてみた。
 子供の多くは知らないと答えたが、中に一人。
「知らないけど、工場のそばを通ったとき、そんな名前を聞いたよ」
 と、答えた。

●貸本屋『間宮』にて
 天道町における貸本屋は娯楽の象徴であった。
 20世紀日本に例えるならレンタルビデオショップの位置づけといおうか。
 学術書、漫画、小説、絵画。書に関わる様々なものが棚に並べられ、少ない価格で一定期間借りることができるというものだ。
 ちなみにこれを税金運営したものを公立図書館とよぶ。イ・ラプセルにあるそれだ。
(随分図書館とは雰囲気が違いますね)
 かなり娯楽娯楽した雰囲気に、エミリオは若干戸惑った。
 図書館といえば、真面目な本ばかり置かれ静かにしていないと怒られる場所というイメージがあるが、貸本屋はその真逆。漫画本や春画スレスレの絵画が幅をとり、がやがやと会話が耐えぬ場所だった。
 ここならば変な会話をしても与太話として聞き流されることだろう。
 ツボミが横に立って話しかけてくる。
「何を調べるつもりだ?」
「歴史や文化などの文献ですね。神の存在について触れている本など……」
「おいおい、本来の仕事を忘れてないだろうな。私たちは『影山』という男を捜してるんだぞ?」
「分かっています」
 そう言って棚をあさるエミリオ。
 歴史の本を見つけて借りていった。
 では自分もと棚を見ていくと、東洋医学の本などが目に付いた。錬金術を混ぜ込んだ漢方に関する本でかなり興味がわいたが……。
「いやいや」
 伸びる手を押さえ、ツボミは新聞のストックを手に取った。
(ストレートに見るならコレが住民に取って数少ない他者の情報元だろう。滅茶期待できそうだし、それ抜きでも興味深い)

 本を漁るうちわかったことの中に、興味深いものがある。
 天道町の人々はブロック状の粉っぽい食品を毎日食べ、他の選択をとっていないように見えた。
 また贅沢な人間は魚の切り身を同じくブロック状に整形したようなもの(これをマグロと呼んでいる。ただし海岸に漁港らしいものは見られない)を食べている。それらが生産されているのもかの『工場』であるとか。
「何か収穫はあったか?」
「はあ……まあ……」
 歯切れの悪いエミリオに話を聞いてみると、歴史の本に書かれている内容がかなりデタラメだというのだ。
 あちこち塗りつぶしてあってよく読めなかったが、なんでも扶桑島の国民は自分たちに神が必要なくなったので神そのものに成り代わったと書いてあるらしい。
 真に受けるべき情報では無い。目に付く民はそんな風に振る舞っていない。
 むしろ、酷く生きづらそうにしていた。
「そちらは?」
「よくあるニュース記事ばかりだ。けどな。見てみろ」
 ツボミは新聞紙を四つに折りたたんで翳して見せた。
 それぞれの対角を指さすと、そこにある文字は……『影』と『山』だ。
「同じ週の新聞だけが必ずこうなっていた。俺はこの週を担当してる記者にあたろうと思う。そっちは?」
「……そうですね。もう少し過去の事故や事件について新聞を調べてみましょう」

●遊郭『風間』にて
「おねえさま、此処に影山という方がいらした事はありますかぁ?」
「カゲヤマァ? 聞いたことないねえ。工場のヒトかい?」
「工場?」
「工場つったら、あの工場だよ」
 窓の外から見える、巨大なアイロンめいた物体。しかしよく見れば瓦屋根のついた巨大な建造物であるとわかる。屋根に接続された無数のシャチホコ煙突から吹き出る紫の煙が空を埋めていく。
 シェリルは『そうなんですかぁ』と適当に相づちをうちながら、遊女たちと交友を深めていった。
 遊郭は夜も眠らぬ光の町に建っている。
 というより、天道町自体が夜もたえず建物に明かりがついていた。
 この『明かり』というものが不思議で、本来なら蝋燭をともすところを指先程度のサイズしかないスイッチパネルを操作するだけで天井にぱっと明かりが灯るのだ。どういう仕組みであの円盤状のものが輝いているのかシェリルにはさっぱり分からないが、この『浄気機関』というものは明かりをともすのみならず、湯を即座に沸かしたり濡れた髪を乾かす熱風を出したり床を奇妙に暖めたり菓子を焼いたりと何にでも使える万能のエネルギーであるらしい。
「これを作ってるのがぁ?」
「そ、工場。あそこで働く連中はカチグミさ。ここのお客も大体は工場のヒトだよ」

 遊女の話す通り、遊郭にやってくる客の殆どは『工場』の職員らしかった。
 薄衣をはだけた胸元へと寄せて、カスカはキセルの火をふかした。
 親指サイズの物体に押しつけるだけでも火は付くそうだが、あえて炭をたいて遊女が火をふかしてから手渡すのが粋とされた。
「御莨です。どうぞ……」
 カスカは新人の割に精力的に働き、新しいもの好きな客によくうけた。
 新しいもの好きはかぶくのも好きなようで、金のネックレスや金の指輪をよくしている。
 サングラスという遮光性透過板を用いた眼鏡をまぶしくも無いのにかけている者も多く見かけた。
「悠華ちゃん可愛いね。ウチ来る?」
「ご冗談を。お仕事ですから」
「取り分十割でできるんだよ?」
「そのぶん禁則行為もし放題じゃありませんか」
 断わられるのを前提に話しているのか、男は機嫌良く笑う。
 相手の男は『工場』に勤めて長いようで、若く芸事にもまだ弱いカスカを好んで指名した。
「知ってる? このサングラス。海外の品なの。こっそり品物を流してる奴がいるんだよ」
 行為に及んだ男はよく、酒と煙草を入れると口が軽くなった。
「鎖国万歳だね。この島は『浄気機関』さえありゃあ何百年だって豊かでいられるし、よその国にへーこらせずに済む。神がなんだって与太話にも付き合わずに済むってもんさ。それに? こうして周りの連中と差もつけられるしね。どう、ウチ来る気になった?」
「またまた……」
 カスカは作り笑いをした。
 この国の不自然な豊さの原因は……どうやらあの『工場』にあるらしい。

●時計塔にて
「僕ぁいわゆる『片付けられない男』でして、掃除は苦手なんですが……あっ、シロさんはお得意で?」
 それほどでもない、と首を振るシロは黙々と時計塔の内側を掃除していた。
 『仮説、アマノホカリに連なる土地、加えて影山が忍であるならば、仕掛け扉が存在する可能性有。常套、時計塔のような背の高い建物で上を向かせ、足元からの意識を逸らす。施設があるとすれば地下。清掃ならば探索と同時進行が可能』
 ……と言った具合に掃除をしながら仕掛けを探すのだと、シロは躍起になっているようだ。
 屋根は任せると言って、塔の下の方へとおりていく。
 その際に俯瞰して描いた地図をサブロウに手渡していった。
 シロは地図を書くのがうまく、高い所からじっくりと観察したことでこの天道町の地図をかき上げてくれたのだった。
 サブロウはそんな地図を手に、町をいまいちど眺めてみる。
 錬金ガルバリウム製瓦の屋根に金のシャチホコが逆立っている。
 シャチホコの口より吹き出される紫の煙が見えようか。
 見渡す限りあらゆる屋根がこの有様だ。
 しかしよく見てみれば、吐き出す煙の量は建物の大きさにある比例しているようにも見えた。
 それに、大時計の裏から見たあの装置。
 よくある水晶式の時計ではあるようだが、針を動かすための装置が驚くほど小さかった。こんな仕組みでどうやってあの重い針を回転させているのか見当も付かない。
 重箱程度のサイズしかない謎の箱を、特定の時間になったら取り替えるように言われていたが、この箱がなんなのかもよく分からなかった。
「しかし、絶景ですね……」
 遠くに見えるのは『工場』と呼ばれている大きな建物。
 あまりに堂々とあるので近づくこともはばかられたが、ここからならじっくりと観察することができた。
「なんだい、仕事をさぼって工場見学かい」
 時計塔の管理人だという人物がポットを手に呼びかけてきた。
 髭をたくわえ顔つきのはっきりしない老人だ。
 休憩でもせんか、ということらしい。
「ええまあ、でかい建物ですんで」
「フン……あれのおかげで資源は豊かになったがな。わしゃ好かんよ。空を汚すし土も枯れる」
「まあ、そうですねえ」
 適当な相づちをうちながら、ひっきりなしに降っているあの強い酸雨はあの煙が原因なのだろうかと、ふと思った。
「『浄気機関』、でしたっけ」
「フン……」
 老人は湯飲みを置き、深い眉毛の下からサブロウを見た。
「所でおぬし、影山という男に頼まれたと言ったな」
「ええ」
 表情を変えずに応えるサブロウ。
 老人は。
「ワシがその影山だと言ったら、どうする」
 ぴたりと、サブロウの手が止まった。
 老人の胸を見る。名札には『神代』と書いてある。
 ご冗談を。
 そう述べるには、老人の雰囲気は真に迫るものがあった。

 ほぼ時を同じくして。
「…………」
 シロは時計塔の地下に通じる隠し扉を見つけた。
 床下収納のようにみせかけ、板を外すとはしごになっているというものだ。
「…………」
 見つけたはいいが、入るべきだろうか?
 もし危険に晒された場合、助けを呼ぶことが出来ない。なにせシロは口がきけぬ。
 まずは皆にこのことを知らせよう。
 シロは元の通りになるように扉をしめ、その場を後にした。

●経過
 時は過ぎ、八人に引き上げの日がやってきた。
 一度島を離れ、再び戻る者は戻り、そうでないものはメンバーを入れ替えて再び島へと潜入することになるだろう。
 こたびの調査で判明した『浄気機関』の存在と、それによる便利な生活。
 その一方で、人々に貧富の差は激しく、国政が十全に機能しているようには見えない。
 食べ物も粗末で、ブロック状の物体を毎日食べているという。
 それらの中心にあるのは『工場』であり、町を豊かにしているエネルギーも、食品も、そして降り続ける酸の雨も、それが中心であるという。
 さらには、時計塔の地下に見つけた隠し扉。
 影山を名乗りかけた老人の存在。
「まだ、我々はこの島を『知った』にすぎません。けれど、変えるためにはまず知らねばならない。その第一歩を、我々は確実に踏み出しました。これから……そう、これからです」
 次に訪れた時には、開国への道のりを見つけ出すのだ。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

FL送付済