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ウヴァロヴァイトと忘却の地

●
一人の老人が居た。その老人の顔や手には重ねてきた歴史を物語る深い皺が刻まれていた。老人は村の長だった。
オリオネスト村。そこは標高500mを超える山域の斜面に造られた集落だった。
そこは随分と昔より開拓者によって形成された村。以来木炭作りや木材の切り出しなどで、山奥の小さな村ながら長い時代繁栄を続けてきた。
しかし時代は流れ、木炭や木材の価値は低下し、林業は衰退の一途を辿る。
将来の不安からか村の住人はまた一人、一人と山を降りていった。
そして今日、老人を除く最後の家族が山を降りる。
「元気でな」
「村長も。……あなたは山を降りないのですか?」
「おじいちゃんも一緒に行こうよ!」
子供が老人の手をとり、笑顔を見せる。
老人はその問いには答えず優しく微笑むと、山を降りる家族を見送った。
残されたのは主を失った沢山の家屋と、老人ただ一人。
「ときが来たようじゃな」
老人は言葉短くつぶやくと、ふぅと一呼吸し支度を始める。
服を着替え、髭を剃り、髪を整える。
村から程ない場所にある祠。祠の奥には小さな石碑があった。
開墾されてすぐからあるものだが、誰が作り、何が祀られているか知る者は今となっては殆ど居ない。
「■■様、わしが最後の村人になってしまいました。あなた様と交わした約束を守る事はもう出来そうにありません……」
そのまま老人は祠から出てくることは無かった。
代々村長だけに受け継がれてきた約束。これを履行できなくなった日。最後の住人を失った村は人知れず消えた。
その日を境にこの地の気候は激変する。
──もはや人が安心して住める場所では無くなってしまったのだ。
●
その昔。村が出来てまもなくの頃、山の天気は変わりやすく土砂崩れなどの災害に遭うことが多かった。
都度家や畑を作り直すことに疲弊していた村人達は相談する。
この地を統べるといわれている幻想種。その存在に助けを求めてはどうか、と。
意を決し、初代村長はその幻想種の根城となっていた祠に赴いた。
我々の村を守ってはもらえないだろうか──
幻想種は静かに目を開け、一つの提案をする。
この約束が守れるのであれば我はこの地と同化し村を守ろう。しかし、もし約束を違えることがあれば、我は今一度顕現し、山だけでなくこの地に厄災を降り注ぐであろう、と。
ひとつ、年に一度、豊穣の時期にこの祠へ供え物をすること。
ひとつ、子々孫々まで反映するよう村に必ず家族(夫婦)の生活があること。
そして最後に、この約束の内容を知るのは村の長のみとすること。
そして初代村長はその約束を交わし、村へ戻る。
幻想種と約束を交わしたその日からというもの大規模な災害は一度たりとも起こらず、村の長い繁栄は続く事となる。
●
「村が一つ、消えようとしている。しかも……それだけではない。村が消滅する事でその地が人の住めぬ場所になってしまうのだ」
『軍事顧問』フレデリック・ミハイロフ(nCL3000005)はそう言った。
「この地を治める幻想種は強大な力を持つと聞く。今の我々では一時的に抑える事は出来ても、それ以上の対応は無理だろう。それでは問題を先送りにした事にしかならぬのだ」
状況を確認するに、この地はどう対処しようといずれ見捨てられた地となる。自由騎士たちも皆そう感じている。表情は硬い。
「だが一つ希望がある」
そう言うとフレデリックは一枚の報告書を見せた。
「これはあるアカデミーの教授による報告書だ。これによると、かの山には多くの資源(ウヴァロヴァイト)が眠っている可能性があると書かれている」
自由騎士たちの表情が変わる。
「この資源さえ確認できれば村に人が戻るかもしれない」
状況を打破しえる一筋の光がそこにはあった。
「君たちなら必ずやりとげてくれると私は信じている。頼んだぞ」
一人の老人が居た。その老人の顔や手には重ねてきた歴史を物語る深い皺が刻まれていた。老人は村の長だった。
オリオネスト村。そこは標高500mを超える山域の斜面に造られた集落だった。
そこは随分と昔より開拓者によって形成された村。以来木炭作りや木材の切り出しなどで、山奥の小さな村ながら長い時代繁栄を続けてきた。
しかし時代は流れ、木炭や木材の価値は低下し、林業は衰退の一途を辿る。
将来の不安からか村の住人はまた一人、一人と山を降りていった。
そして今日、老人を除く最後の家族が山を降りる。
「元気でな」
「村長も。……あなたは山を降りないのですか?」
「おじいちゃんも一緒に行こうよ!」
子供が老人の手をとり、笑顔を見せる。
老人はその問いには答えず優しく微笑むと、山を降りる家族を見送った。
残されたのは主を失った沢山の家屋と、老人ただ一人。
「ときが来たようじゃな」
老人は言葉短くつぶやくと、ふぅと一呼吸し支度を始める。
服を着替え、髭を剃り、髪を整える。
村から程ない場所にある祠。祠の奥には小さな石碑があった。
開墾されてすぐからあるものだが、誰が作り、何が祀られているか知る者は今となっては殆ど居ない。
「■■様、わしが最後の村人になってしまいました。あなた様と交わした約束を守る事はもう出来そうにありません……」
そのまま老人は祠から出てくることは無かった。
代々村長だけに受け継がれてきた約束。これを履行できなくなった日。最後の住人を失った村は人知れず消えた。
その日を境にこの地の気候は激変する。
──もはや人が安心して住める場所では無くなってしまったのだ。
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その昔。村が出来てまもなくの頃、山の天気は変わりやすく土砂崩れなどの災害に遭うことが多かった。
都度家や畑を作り直すことに疲弊していた村人達は相談する。
この地を統べるといわれている幻想種。その存在に助けを求めてはどうか、と。
意を決し、初代村長はその幻想種の根城となっていた祠に赴いた。
我々の村を守ってはもらえないだろうか──
幻想種は静かに目を開け、一つの提案をする。
この約束が守れるのであれば我はこの地と同化し村を守ろう。しかし、もし約束を違えることがあれば、我は今一度顕現し、山だけでなくこの地に厄災を降り注ぐであろう、と。
ひとつ、年に一度、豊穣の時期にこの祠へ供え物をすること。
ひとつ、子々孫々まで反映するよう村に必ず家族(夫婦)の生活があること。
そして最後に、この約束の内容を知るのは村の長のみとすること。
そして初代村長はその約束を交わし、村へ戻る。
幻想種と約束を交わしたその日からというもの大規模な災害は一度たりとも起こらず、村の長い繁栄は続く事となる。
●
「村が一つ、消えようとしている。しかも……それだけではない。村が消滅する事でその地が人の住めぬ場所になってしまうのだ」
『軍事顧問』フレデリック・ミハイロフ(nCL3000005)はそう言った。
「この地を治める幻想種は強大な力を持つと聞く。今の我々では一時的に抑える事は出来ても、それ以上の対応は無理だろう。それでは問題を先送りにした事にしかならぬのだ」
状況を確認するに、この地はどう対処しようといずれ見捨てられた地となる。自由騎士たちも皆そう感じている。表情は硬い。
「だが一つ希望がある」
そう言うとフレデリックは一枚の報告書を見せた。
「これはあるアカデミーの教授による報告書だ。これによると、かの山には多くの資源(ウヴァロヴァイト)が眠っている可能性があると書かれている」
自由騎士たちの表情が変わる。
「この資源さえ確認できれば村に人が戻るかもしれない」
状況を打破しえる一筋の光がそこにはあった。
「君たちなら必ずやりとげてくれると私は信じている。頼んだぞ」
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.幻想種の暴走を止める。
2.資源の存在を確認する。
2.資源の存在を確認する。
麺二郎です。珍しくまじめです。
日々発展する技術は私達を便利で快適な生活へと変えてくれました。
しかしその裏で人知れず消えていく技術や、伝統、人の営みがあるのも事実です。
幻想種を暴走を抑え、新たな資源を発見し、この地に人が戻るきっかけとなる状況を自由騎士の手で作り出すことが今回の依頼となります。
●ロケーション
イラプセル山岳地帯のとある山にある村。以前は林業等により繁栄していましたが今はその産業が廃れ、廃村の危機にあります。
自由騎士は老人が祠を訪れ、幻想種に約束を守れない旨を説明。それにより幻想種が巨大な白蛇として顕現し暴走しようとしているところでたどり着きます。祠は狭く、戦闘できる状況ではないため老人を救助したあと、大木が茂り傾斜の厳しい山肌での戦いが主となるでしょう。
一方村近くには『誰も入ったことが無い洞窟』、『荘厳な滝があり、澄んだ水を携える渓流』、そして『地層が幾層にも重なる断層の崖』があり、そのどこかに資源がある可能性が報告書に示唆されています。ウヴァロヴァイトの性質を知るものが居れば効率よく探すことが出来ます。
●登場、関連人物および幻想種
・老人
齢80を超えるであろう老人。この村の村長です。
妻は他界しており、息子は山の暮らしに嫌気がさし、山を降りました。
最後の家族が居なくなることで■■様と代々の村長が交わしてきた約束が果たされなくなる事となり、自らを捧げてこの地への災いを少しでも減らそうと考えています。
・最後の家族
独り身の村長を心配し、最後まで村へ残っていましたが、とうとう生活が成り立たなくなるほどに困窮。子供の教育環境も考えた末、致し方なく山を降りることを決意しました。
・山を降りた村人達
皆困窮のため山の降りましたが村での生活自体が嫌になったわけではありません。
山に資源が見つかり、廃れてしまった林業以外の産業が生まれれば元住人が村へ戻る可能性があります。
・幻想種
■■様。村長だけがその呼び名を知っています。1ターンに二度攻撃を行います。
強大な力を持つ巨大な白蛇のような姿の幻想種で、歴代の村長との約束により今はその地(山)と同化し、村を天災から守っています。今回約束が破られることにより怒り、暴走します。ですがもともとは心優しい幻想種です。暴走を止めたあとで納得できる形で約束が継続されることを伝えれば、また地と同化し、村を守る事を約束してくれるでしょう。
大地の怒り 魔遠全 地面を揺らし全体にダメージを与えます。
天の怒り 魔遠単 天より雷を放ちます。
尾の一撃 攻近範 しなやかな尾で周囲に攻撃します。
呪縛眼(EX) 魔遠単 対象を見つめる事で呪縛し、動けなくします。【ダメージ0】【移動不能】【パラライズ1】
●同行NPC
ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)
特に指示が無ければ資源探しを先んじて行います。最初に調査する場所は渓流です。
所持スキルはステータスシートをご参照ください。
皆様のご参加お待ちしております。
日々発展する技術は私達を便利で快適な生活へと変えてくれました。
しかしその裏で人知れず消えていく技術や、伝統、人の営みがあるのも事実です。
幻想種を暴走を抑え、新たな資源を発見し、この地に人が戻るきっかけとなる状況を自由騎士の手で作り出すことが今回の依頼となります。
●ロケーション
イラプセル山岳地帯のとある山にある村。以前は林業等により繁栄していましたが今はその産業が廃れ、廃村の危機にあります。
自由騎士は老人が祠を訪れ、幻想種に約束を守れない旨を説明。それにより幻想種が巨大な白蛇として顕現し暴走しようとしているところでたどり着きます。祠は狭く、戦闘できる状況ではないため老人を救助したあと、大木が茂り傾斜の厳しい山肌での戦いが主となるでしょう。
一方村近くには『誰も入ったことが無い洞窟』、『荘厳な滝があり、澄んだ水を携える渓流』、そして『地層が幾層にも重なる断層の崖』があり、そのどこかに資源がある可能性が報告書に示唆されています。ウヴァロヴァイトの性質を知るものが居れば効率よく探すことが出来ます。
●登場、関連人物および幻想種
・老人
齢80を超えるであろう老人。この村の村長です。
妻は他界しており、息子は山の暮らしに嫌気がさし、山を降りました。
最後の家族が居なくなることで■■様と代々の村長が交わしてきた約束が果たされなくなる事となり、自らを捧げてこの地への災いを少しでも減らそうと考えています。
・最後の家族
独り身の村長を心配し、最後まで村へ残っていましたが、とうとう生活が成り立たなくなるほどに困窮。子供の教育環境も考えた末、致し方なく山を降りることを決意しました。
・山を降りた村人達
皆困窮のため山の降りましたが村での生活自体が嫌になったわけではありません。
山に資源が見つかり、廃れてしまった林業以外の産業が生まれれば元住人が村へ戻る可能性があります。
・幻想種
■■様。村長だけがその呼び名を知っています。1ターンに二度攻撃を行います。
強大な力を持つ巨大な白蛇のような姿の幻想種で、歴代の村長との約束により今はその地(山)と同化し、村を天災から守っています。今回約束が破られることにより怒り、暴走します。ですがもともとは心優しい幻想種です。暴走を止めたあとで納得できる形で約束が継続されることを伝えれば、また地と同化し、村を守る事を約束してくれるでしょう。
大地の怒り 魔遠全 地面を揺らし全体にダメージを与えます。
天の怒り 魔遠単 天より雷を放ちます。
尾の一撃 攻近範 しなやかな尾で周囲に攻撃します。
呪縛眼(EX) 魔遠単 対象を見つめる事で呪縛し、動けなくします。【ダメージ0】【移動不能】【パラライズ1】
●同行NPC
ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)
特に指示が無ければ資源探しを先んじて行います。最初に調査する場所は渓流です。
所持スキルはステータスシートをご参照ください。
皆様のご参加お待ちしております。

状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
2個
6個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
6/6
6/6
公開日
2018年11月06日
2018年11月06日
†メイン参加者 6人†
●
土地神ともいえる幻想種を祀った祠。そこには身なりを整えた一人の老人の姿があった。
「■■様、今日はご報告があって参りました……」
老人が祠へ入って幾らかの時間が過ぎた。
ゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!
地面が揺れる。
「わわ、急ごっ!! 顕現が始まったみたいっ!!」
『イ・ラプセル自由騎士団』シア・ウィルナーグ(CL3000028)を先頭に自由騎士達は祠に急行していた。
かつては栄えていた村から誰もいなっちゃうのはとても寂しい。もしかしたら幻想種もそれで感情を抑え切れなくなって暴走しちゃうのかもしれない──。その悲しみが伝播したのか、シアの小さな胸の奥もちくりと痛む。
『挺身の』アダム・クランプトン(CL3000185)は考える。
誰かの犠牲を強いる世界なんて間違っている。誰もが幸福で優しくいられる世界。それこそが僕の望む世界だ、と。そしてそんな望む世界を実現する為にも──
「……貴方にはもっと長生きしてもらうよ」
誰に聞かせる訳でもなく、そう呟いたアダムの瞳には強い決意。
「その通りですわ! 必ず……必ず助け出してさしあげますわっ!!」
『高潔たれ騎士乙女』ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)もまた息巻いている。ジュリエットがその言葉をかみ締めるのも無理は無い。老人を助け、幻想種を止める事ができればアダムとのデート……もとい資源発掘が待っている。何が何でも幻想種をとめなければなるまい。……なるまいっ!! 小さくガッツポーズをとるジュリエットの気合はいつも以上だ。
「絶対に助け出そうねっ」
シアはそう言うと速度を上げ、山道を駆け上がる。他の自由騎士達も遅れまいとその後を追った。祠はもうすぐそこだ。
「皆さん準備はいいですかっ」
祠の前で『これもまた運命』アリスタルフ・ヴィノクロフ(CL3000392)が皆に声をかける。祠の奥からは身の毛もよだつような禍々しいナニカの気配。
皆に緊張が走る中、こくりと頷くシアの細胞が活性化していく。加速せよ──、加速せよ──ッ!!
「いくよっ」
シアを先頭に6人は祠の中へ飛び込み、薄暗い祠の奥へと疾走する。
その祠の最奥には邪悪なオーラを纏いつつ巨大な白蛇に戻りつつある幻想種と、それを拝むように手を合わせ、膝をつく老人の姿があった。
「……いた」
サーモグラフィで奥を探査しながら進んでいたウダ・グラ(CL3000379)が老人の体温を察知する。
その言葉に誰よりも早くシアが反応する。韋駄天足で速度を上げ、一気に老人のもとへ。
「突然で驚いちゃうかも知れないけど、ここはボク達自由騎士団に任せて!」
「そう……僕達は来た!! だから諦めないで欲しい!!」
シアの言葉をアダムが続ける。
老人は明らかに困惑していた。
村の長として命を賭して償う事。それを必然と受け止め、覚悟も決めた。そうして今ここにいる。■■様は約束を違えた事でこの地との同化を解き、今まさに暴れ狂わんとしている。
しかし突然現れたこの勇ましい者達は諦めるなという。こんな状況の中で任せてくれ、と。
老人を見つめるその顔のどれにも嘘偽りなど無い。
シアは未だ呆けたように動けない老人を背負い、祠の入り口へ向かおうとする。
「あぶないっ!!」
アダムがとっさに両腕でシアと老人に向けられた攻撃をガードした。
「ぐっ……やはり一撃が重い……早くそのご老人を外へっ!!」
防御した両腕にじんと痺れを感じながらアダムはシアを促した。
「りょーかいだよっ!!」
シアが駆ける。極まった反応速度と韋駄天足による疾走は幻想種の追撃を寄せ付けない。
「おやまあ。白い蛇は縁起が良い……と爺さまがたは言ってたものだが…随分と、お怒りのようだねぇ」
アダムを回復しながらもウダはその怒りを冷静に分析していた。幻想種の怒りは尤もだ。それだけの妙なる恵みを与えてきたのだから。けれど、時の流れはそれだけでは不足する世にしてしまったのだと。
「おおおおおおおおぉぉぉぉっーーーーー!!!!」
アダムが吼えた。その咆哮はアダムが持つ威風とも相まって祠内に響き渡り、幻想種の注意を一挙に引きつける。
「我が名はアダム・クランプトン! 悪いが止めさせてもらうっ!!!」
顕現し、激高に身を任せる幻想種を前にアダムが構える。
グォォォオオオオォォォォーーーーーン!!!!
幻想種が抑えきれない怒りを爆発させ吼えた。
その頃、シアは祠の出口に向けてひた走っていた。
「わしは……わしは……」
「おじいちゃん、舌噛んじゃうと大変だからっ」
老人はシアの背で揺られながら何かを話そうとしているが、シアは優しくも穏やかにそれを静止する。老人に思うところが沢山ある事はシアも痛いほどわかっている。でもその言葉が今溢れてしまっては、シアの幻想種への対応に支障が出てしまう。あとでゆっくりお話し聞かせてね。シアは笑顔でそう言った。老人は一言「ありがとう」と告げてその後は涙を流しながらも黙ったままだった。
シアが祠の出口にたどり着く。だがこれからの戦闘を考えるとここではまだ危険だ。
「皆頑張って!! ボクもすぐに戻るからっ!!」
祠の奥に向かってそう叫ぶと、シアは老人を背負ったまま祠を後にした。
ドガァァアアアァアーーーーッン!!
咽るような土煙と破壊音と共に祠の入り口が大きく破損する。同時に5人の自由騎士が暴走した幻想種を引き連れ飛び出してくる。
「それにしてもすごいパワーですね。これは興味深い」
ウダは仲間を回復しながらも、幻想種のその驚異的な身体能力に感嘆している。幼い頃からの先人達との会話の中で沢山の知恵と知識を得たウダであったが、自身が直接体験する『経験』は全く別の興味深いもののようだ。
仲間の状態を確認した上で、都度適切な回復を行いながらも、幻想種の動きを食い入るように目で追いかけている。
「うーん。ダメだな。今のこいつは怒りに完全に我を忘れてる。交渉どころじゃないぞ、こりゃ」
『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)もまた後方より味方への支援を行いながら、幻想種の状態をスキャンし続けていた。
祠へ向かう途中、ツボミは全員に進言していた。幻想種の暴走が解けたかどうかを早い段階で見極め、交渉へ移りたい。暴走しているとはいえ、それまでその土地を守ってきた存在。非殺の権能を持つ我々ではあるが、出来る限り傷つけたくは無い、と。それには皆も同意する。
ツボミは幻想種とのマザリモノだ。ゆえに自身の半身でもある幻想種と人との交わりには並々ならぬ思いがある。世に幾多ある人と幻想種との交わりのたった一つをどうにかしたからといって世界になんら変化など無い。それはツボミもわかっている。ただの自己満足だ。でもそれでいい。私がそうしたいからやるのだ。自分という存在をかけてアンハッピーな結果になどしてやるものか、と。
ツボミは幻想種のほんの少しの変化をも見逃さないよう、注視し続ける。激戦の最中にありながらその瞳はどこか温かかいものだった。
「聞いてくれ! 約束を違えずに済む可能性があるんだ!」
アリスタルフは攻撃の最中も幻想種へ声をかけ続ける。バランス感覚に優れたアリスタルフを持ってしても幻想種の攻撃は鋭く、すべてを回避しきれない。仲間の回復が潤沢といえども、前衛で戦い続けるアリスタルフにはダメージが蓄積していく。
しなやかな鞭のような一撃をその身に何度受けようとも。天から降り注ぐ雷(いかづち)にその身を何度焼かれようとも。幾多の攻撃によって流れ出る鮮血をぬぐいながら、それでも彼は諦めない。その一言、その一撃にありったけの気持ちを乗せる。そこには彼の騎士としての信念がある。
「くっ!! 強い……、何とか突破口を見つけなければっ」
その重い一撃を受けとめながら、アダムもまた強き思いを胸に秘めて幻想種と対峙していた。相手は幻想種。種族も違えば価値観も当然違うであろう。そんな中でも彼は願う、今戦っている相手すらも幸せであって欲しい、と。
その瞬間、幻想種の瞳が妖しく光り、アダムの動きが止まる。レジストパラライズで幾度と無く防いだその攻撃も、やはり完全に防ぎきれるものではない。そこへ強烈な尾の一撃。蒸気鎧が鈍い音を立て軋む。
「ぐ……ふっ……」
……が、アダムは倒れない。両の足はしかりと大地を掴み、その強い輝きを宿す目は幻想種を見据えている。
「だ、大丈夫ですかっ。アダムッ!!」
思わずジュリエットが声をかける。
アダムは問題ないという仕草を見せるが、誰が見ても無事とは思えない状態だった。
前衛で戦うアダムとアリスタルフはすでに満身創痍。ジュリエット、ウダ、ツボミが3人がかりで2人の回復に専念しているが、全体、範囲そして状態異常と多彩攻撃パタンを持ち、かつ常に複数の連続攻撃を行ってくる幻想種の前では、じわじわと体力は削られていく。このままではまずい。何か突破口は──と皆が考えたその時だった。
「みんな! もう一息だよっ!!」
シアが戦線に戻る。老人を安全な場所まで退避させたシアは、戦いの場へ戻る最中も自己の速度を加速させ続けていた。
神速とも思える速度の攻撃が幻想種を翻弄する。その攻撃は二本のレイピアが織り成す光の軌道。その光が徐々に幻想種を絡めとっていく。しかし幻想種もただ攻撃されるばかりではない。幻想種の目がシアを捕らえるべく妖しく光る。が、その瞳はシアを捕らえきれない。
「村が無くならずに済む可能性があるんだよっ!」
シアもまた幻想種と心を繋ぐべく、語りかける。それに呼応するように皆が最後の力を振り絞る。
「戻れっ!! 鉄山靠!!」
「戻って来るんだっ!! バレットオーーーバァァァァドライブッ!!」
「戻って来てっ!! ピアッシングファンデヴーーーーッ!!」
アダムが、アリスタルフが、そしてシアが、全員が力を振り絞り、幻想種へ思いを乗せた必殺の一撃を打ち込んでいく。
「どうか戻ってくださいましっ!! ガーネットミーティアッ!!!」
ジュリエットの魔力と思いが込められた二条の深紅の流れ星が幻想種を撃つ。
グゥゥゥゥ・・・・・・・
幻想種の瞳が僅かに揺れたような気がした。
「間違いない……幻想種の感情が揺れ動いている。今が好機」
ウダが幻想種の揺れ動く感情をキャッチした。
ツボミがすかさず幻想種をスキャンする。ツボミのエネミースキャンはその能力から状態に至るまですべてを深い所まで見透かす。ゆえにツボミもまた幻想種の微妙な変化を逃さない。
「村長の判断は早計だ。未だ希望はある!!」
ツボミの説得を合図に、皆が次のフェーズへ移行した事を認識する。
「その怒り、俺達が全て受け止めよう。だから聞いてくれっ! 約束を違えずに済む可能性があるんだ!」
「落ち着いて話を聞いて!また村に人が戻るかも知れないんだよっ!」
「そうですわ! わたくし達のお話を聞いてくださいませ!」
「戻るんだっ! 元の心優しい貴方にっ!!」
それぞれがそれぞれの思いを口にしていく。
「……暴走解除、成功だ」
ッグゴァァァァアアアァァァーーーー!!!!
幻想種の中で何かが弾ける。それは……人との長きに渡る穏やかな生活の中で得た安らぎ。それを失う事への不安と恐怖だった。
大地が割れんばかりの大絶叫の後、幻想種の暴走は止まっていた。
●
そこには優しい目をした巨大な白蛇がいた。先ほどまでの禍々しい空気は無い。
『ひとのこよ。ぬしらはそのようなすがたになってまで、なぜわたしをもどそうとしたのだ』
心身ともに限界を迎えつつあった6人だったが、それでも幻想種へ敬意を込めた凛とした態度で、この山に眠る資源の事、その資源があれば必ず村人は戻ってくるであろう事を包み隠さず幻想種へ伝えた。
「今直ぐって言われるとキツいが、まあ夫婦一組は何とか出来るぞ。ほれ、アダムとジュリエット。貴様等今直ぐ結婚して移住しなさいよ」
ツボミがさも当たり前のように二人の背を叩く。
「な、なななななな、何をいきなり言うんですのっ!?」
「何を突然っ!? ツボミさん、冗談が過ぎますよっ」
「(結婚だなんて……それはもちろん……いずれは!……でも……まだ……その……)」
ジュリエットは完熟したトマトのように全身を真っ赤にしながら俯いて小声で何か呟いている。
アダムもどう切り替えしていいかわからず、皆とジュリエットとの間で慌てふためく。
「ふふふ……あはははっ」
いつしかそこには皆の笑い声が響き渡っていた。
その話を静かに聞いていた幻想種は一言『ぬしらをしんじよう』と告げた。
その表情は穏やかで笑みすら浮かべているように見えた。
「最後に一つ。貴方の名前を教えてはもらえないだろうか」
アリスタルフが幻想種に問う。幻想種の名前は代々村長しか知らない。この事にどういう意味があったのかアリスタルフにはわからない。それよりも約束をこれから永久に果たす為には土地を守る存在を多くの人に知らしめたほうが良いと考えたのだ。何よりこれまでずっとこの地を守り続けていた存在が誰にも知られずに村と共に消えようとした事が我慢できなかった。その様子に幻想種は少し嬉しそうに表情を緩める。
『わたしのな? それは──』
「じゃぁ行ってくるよっ。期待して待っててね!!」
シアが元気よく駆け出す。それに皆が続く。あとは資源を見つけるだけだ。
●
アリスタルフとシアはカンテラの明かりを頼りに洞窟を進んでいた。
「きゃっ!?」
足元の石に躓いたシアをアリスタルフが受け止める。
「大丈夫か?」
「うんっ。ありがとうっ」
ウヴァロヴァイトの形状などは有識者に聞いていたが今のところはそれらしいものは発見できていない。
「それにしても蜘蛛の巣だらけっ。ヤになっちゃうな、もーっ! わわ、またっ」
髪の毛についた蜘蛛の巣を振り払いながら、シアは口を尖らせている。身だしなみが気になるお年頃のシアにはなかなかに過酷な環境だ。
「少なくとも人が入ってないってのは真実のようだ。さぁもう少し進んでみよう」
そんな様子を見てアリスタルフは一歩前に出る。
2人は更に洞窟の奥へと進んでいった。
アダムとジュリエットは渓流へ来ていた。
「(ジローさんは……いませんわね)」
きょろきょろと辺りを見渡すジュリエット。
「どうしたんだい?」
アダムが声をかける。
「な、なんでもありませんわっ。おーっほほほほ!!! ではアダムっ! わたくしと2人きりでデー……資源を探しましょう!!」
そういうとジュリエットは靴を脱ぎ、渓流の中を探し始める。それを見たアダムも渓流へ入る。
「冷たくて気持ちいいですわね」
「そうだね。戦闘の疲れが癒されるみたいだ」
終始楽しそうなジュリエットとは対照的に、この時のアダムは若干戸惑いを感じていた。先ほどのツボミの言葉がリフレインする。彼女はただの後輩だ。それは変わらない。だがなんとなく気恥ずかしい。
「どうしましたのアダム? 顔が少し赤いですわ」
「な、なんでもないっ」
見つめるジュリエットから不意に目を逸らすと、アダムは渓流の流れの中から一つの石を拾い上げる。
「この石……なんとなく君に似ている気がする」
「本当ですの? ……じゃぁわたくしもアダムに似た石を探しますわっ」
2人はその後も渓流で資源探しを続ける。ジュリエットの楽しそうな笑い声と共に。
その頃ウダとツボミは断層の壁の前にいた。先んじてジローが調査をしていたが知識が無い事もあり、今のところ何も発見できていないようだ。
知識ある2人は、ある種の確信を持ってこの場所に来た。ウヴァロヴァイト、またの名を灰クロム柘榴石。その多くは岩石の中に存在する。その岩石を多く含む岩肌の層が見つかれば多くの資源としての活用も見出せる。
2人は断層の一層一層を丹念に調査していく。その調査は卒が無く堂に入っている。
「見つけた。この緑色の鉱石。間違いない」
ウダが見つけたその岩盤の断層は大きく広がっている。かなりの量が埋蔵されている事が見て取れる。
「それと……クロム鉄鉱もやはりあったな。これもあわせて資源と考えれば……こりゃこれまで以上になるんじゃないか?」
ツボミの予想通り、ウヴァロヴァイトはクロム鉄鋼を伴っていた。合わせて報告すれば想定以上の評価がなされるはず。村の復興もより早く行われる事に疑いの余地は無い。
「おーい! 見つかったって?」
ウダとツボミがマキナ=ギアで連絡を取り、他の場所を探していた皆が断層へ集る。
「洞窟は……本当に誰も入ってない感じでした。蜘蛛の巣だらけで進むのも大変でしたが、結局何も発見出来ませんでした」
残念ながら洞窟内ではアリスタルフの採掘人としての本領は発揮できなかったようだが、この断層では大いに活躍するだろう。
「本当だよ! 早く帰ってお風呂に入りたいよ~」
アリスタルフとシアは全身蜘蛛の巣だらけになっていた。その様子をお互い見て笑っている。
「こちらも残念ながら何も見つかりませんでしたわ」
残念と言う言葉を口にしているとは思えぬほど笑顔のジュリエット。満面の笑みとはこういうことを言うのであろう。皆が気をまわした甲斐もあり良い時間を過ごしたようだ。
ジュリエットの採掘人としての実力もまた渓流では発揮されなかった。というよりも発揮するかしないか以前の状態だったに違いない。
「結局こちらも何一つ見つける事は出来なかった。本当に申し訳ない」
対してアダムは申し訳なさそうな中に、少々照れくさそうな仕草。
2人のその様子になんとなく色々察したツボミはしたり顔。
「じゃぁ改めて■■様に報告に行こう」
必ず村は復興する。そう確信する6人の足取りは軽かった。
「イタタタ……明日は筋肉痛だよ~っ」
土地神ともいえる幻想種を祀った祠。そこには身なりを整えた一人の老人の姿があった。
「■■様、今日はご報告があって参りました……」
老人が祠へ入って幾らかの時間が過ぎた。
ゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!
地面が揺れる。
「わわ、急ごっ!! 顕現が始まったみたいっ!!」
『イ・ラプセル自由騎士団』シア・ウィルナーグ(CL3000028)を先頭に自由騎士達は祠に急行していた。
かつては栄えていた村から誰もいなっちゃうのはとても寂しい。もしかしたら幻想種もそれで感情を抑え切れなくなって暴走しちゃうのかもしれない──。その悲しみが伝播したのか、シアの小さな胸の奥もちくりと痛む。
『挺身の』アダム・クランプトン(CL3000185)は考える。
誰かの犠牲を強いる世界なんて間違っている。誰もが幸福で優しくいられる世界。それこそが僕の望む世界だ、と。そしてそんな望む世界を実現する為にも──
「……貴方にはもっと長生きしてもらうよ」
誰に聞かせる訳でもなく、そう呟いたアダムの瞳には強い決意。
「その通りですわ! 必ず……必ず助け出してさしあげますわっ!!」
『高潔たれ騎士乙女』ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)もまた息巻いている。ジュリエットがその言葉をかみ締めるのも無理は無い。老人を助け、幻想種を止める事ができればアダムとのデート……もとい資源発掘が待っている。何が何でも幻想種をとめなければなるまい。……なるまいっ!! 小さくガッツポーズをとるジュリエットの気合はいつも以上だ。
「絶対に助け出そうねっ」
シアはそう言うと速度を上げ、山道を駆け上がる。他の自由騎士達も遅れまいとその後を追った。祠はもうすぐそこだ。
「皆さん準備はいいですかっ」
祠の前で『これもまた運命』アリスタルフ・ヴィノクロフ(CL3000392)が皆に声をかける。祠の奥からは身の毛もよだつような禍々しいナニカの気配。
皆に緊張が走る中、こくりと頷くシアの細胞が活性化していく。加速せよ──、加速せよ──ッ!!
「いくよっ」
シアを先頭に6人は祠の中へ飛び込み、薄暗い祠の奥へと疾走する。
その祠の最奥には邪悪なオーラを纏いつつ巨大な白蛇に戻りつつある幻想種と、それを拝むように手を合わせ、膝をつく老人の姿があった。
「……いた」
サーモグラフィで奥を探査しながら進んでいたウダ・グラ(CL3000379)が老人の体温を察知する。
その言葉に誰よりも早くシアが反応する。韋駄天足で速度を上げ、一気に老人のもとへ。
「突然で驚いちゃうかも知れないけど、ここはボク達自由騎士団に任せて!」
「そう……僕達は来た!! だから諦めないで欲しい!!」
シアの言葉をアダムが続ける。
老人は明らかに困惑していた。
村の長として命を賭して償う事。それを必然と受け止め、覚悟も決めた。そうして今ここにいる。■■様は約束を違えた事でこの地との同化を解き、今まさに暴れ狂わんとしている。
しかし突然現れたこの勇ましい者達は諦めるなという。こんな状況の中で任せてくれ、と。
老人を見つめるその顔のどれにも嘘偽りなど無い。
シアは未だ呆けたように動けない老人を背負い、祠の入り口へ向かおうとする。
「あぶないっ!!」
アダムがとっさに両腕でシアと老人に向けられた攻撃をガードした。
「ぐっ……やはり一撃が重い……早くそのご老人を外へっ!!」
防御した両腕にじんと痺れを感じながらアダムはシアを促した。
「りょーかいだよっ!!」
シアが駆ける。極まった反応速度と韋駄天足による疾走は幻想種の追撃を寄せ付けない。
「おやまあ。白い蛇は縁起が良い……と爺さまがたは言ってたものだが…随分と、お怒りのようだねぇ」
アダムを回復しながらもウダはその怒りを冷静に分析していた。幻想種の怒りは尤もだ。それだけの妙なる恵みを与えてきたのだから。けれど、時の流れはそれだけでは不足する世にしてしまったのだと。
「おおおおおおおおぉぉぉぉっーーーーー!!!!」
アダムが吼えた。その咆哮はアダムが持つ威風とも相まって祠内に響き渡り、幻想種の注意を一挙に引きつける。
「我が名はアダム・クランプトン! 悪いが止めさせてもらうっ!!!」
顕現し、激高に身を任せる幻想種を前にアダムが構える。
グォォォオオオオォォォォーーーーーン!!!!
幻想種が抑えきれない怒りを爆発させ吼えた。
その頃、シアは祠の出口に向けてひた走っていた。
「わしは……わしは……」
「おじいちゃん、舌噛んじゃうと大変だからっ」
老人はシアの背で揺られながら何かを話そうとしているが、シアは優しくも穏やかにそれを静止する。老人に思うところが沢山ある事はシアも痛いほどわかっている。でもその言葉が今溢れてしまっては、シアの幻想種への対応に支障が出てしまう。あとでゆっくりお話し聞かせてね。シアは笑顔でそう言った。老人は一言「ありがとう」と告げてその後は涙を流しながらも黙ったままだった。
シアが祠の出口にたどり着く。だがこれからの戦闘を考えるとここではまだ危険だ。
「皆頑張って!! ボクもすぐに戻るからっ!!」
祠の奥に向かってそう叫ぶと、シアは老人を背負ったまま祠を後にした。
ドガァァアアアァアーーーーッン!!
咽るような土煙と破壊音と共に祠の入り口が大きく破損する。同時に5人の自由騎士が暴走した幻想種を引き連れ飛び出してくる。
「それにしてもすごいパワーですね。これは興味深い」
ウダは仲間を回復しながらも、幻想種のその驚異的な身体能力に感嘆している。幼い頃からの先人達との会話の中で沢山の知恵と知識を得たウダであったが、自身が直接体験する『経験』は全く別の興味深いもののようだ。
仲間の状態を確認した上で、都度適切な回復を行いながらも、幻想種の動きを食い入るように目で追いかけている。
「うーん。ダメだな。今のこいつは怒りに完全に我を忘れてる。交渉どころじゃないぞ、こりゃ」
『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)もまた後方より味方への支援を行いながら、幻想種の状態をスキャンし続けていた。
祠へ向かう途中、ツボミは全員に進言していた。幻想種の暴走が解けたかどうかを早い段階で見極め、交渉へ移りたい。暴走しているとはいえ、それまでその土地を守ってきた存在。非殺の権能を持つ我々ではあるが、出来る限り傷つけたくは無い、と。それには皆も同意する。
ツボミは幻想種とのマザリモノだ。ゆえに自身の半身でもある幻想種と人との交わりには並々ならぬ思いがある。世に幾多ある人と幻想種との交わりのたった一つをどうにかしたからといって世界になんら変化など無い。それはツボミもわかっている。ただの自己満足だ。でもそれでいい。私がそうしたいからやるのだ。自分という存在をかけてアンハッピーな結果になどしてやるものか、と。
ツボミは幻想種のほんの少しの変化をも見逃さないよう、注視し続ける。激戦の最中にありながらその瞳はどこか温かかいものだった。
「聞いてくれ! 約束を違えずに済む可能性があるんだ!」
アリスタルフは攻撃の最中も幻想種へ声をかけ続ける。バランス感覚に優れたアリスタルフを持ってしても幻想種の攻撃は鋭く、すべてを回避しきれない。仲間の回復が潤沢といえども、前衛で戦い続けるアリスタルフにはダメージが蓄積していく。
しなやかな鞭のような一撃をその身に何度受けようとも。天から降り注ぐ雷(いかづち)にその身を何度焼かれようとも。幾多の攻撃によって流れ出る鮮血をぬぐいながら、それでも彼は諦めない。その一言、その一撃にありったけの気持ちを乗せる。そこには彼の騎士としての信念がある。
「くっ!! 強い……、何とか突破口を見つけなければっ」
その重い一撃を受けとめながら、アダムもまた強き思いを胸に秘めて幻想種と対峙していた。相手は幻想種。種族も違えば価値観も当然違うであろう。そんな中でも彼は願う、今戦っている相手すらも幸せであって欲しい、と。
その瞬間、幻想種の瞳が妖しく光り、アダムの動きが止まる。レジストパラライズで幾度と無く防いだその攻撃も、やはり完全に防ぎきれるものではない。そこへ強烈な尾の一撃。蒸気鎧が鈍い音を立て軋む。
「ぐ……ふっ……」
……が、アダムは倒れない。両の足はしかりと大地を掴み、その強い輝きを宿す目は幻想種を見据えている。
「だ、大丈夫ですかっ。アダムッ!!」
思わずジュリエットが声をかける。
アダムは問題ないという仕草を見せるが、誰が見ても無事とは思えない状態だった。
前衛で戦うアダムとアリスタルフはすでに満身創痍。ジュリエット、ウダ、ツボミが3人がかりで2人の回復に専念しているが、全体、範囲そして状態異常と多彩攻撃パタンを持ち、かつ常に複数の連続攻撃を行ってくる幻想種の前では、じわじわと体力は削られていく。このままではまずい。何か突破口は──と皆が考えたその時だった。
「みんな! もう一息だよっ!!」
シアが戦線に戻る。老人を安全な場所まで退避させたシアは、戦いの場へ戻る最中も自己の速度を加速させ続けていた。
神速とも思える速度の攻撃が幻想種を翻弄する。その攻撃は二本のレイピアが織り成す光の軌道。その光が徐々に幻想種を絡めとっていく。しかし幻想種もただ攻撃されるばかりではない。幻想種の目がシアを捕らえるべく妖しく光る。が、その瞳はシアを捕らえきれない。
「村が無くならずに済む可能性があるんだよっ!」
シアもまた幻想種と心を繋ぐべく、語りかける。それに呼応するように皆が最後の力を振り絞る。
「戻れっ!! 鉄山靠!!」
「戻って来るんだっ!! バレットオーーーバァァァァドライブッ!!」
「戻って来てっ!! ピアッシングファンデヴーーーーッ!!」
アダムが、アリスタルフが、そしてシアが、全員が力を振り絞り、幻想種へ思いを乗せた必殺の一撃を打ち込んでいく。
「どうか戻ってくださいましっ!! ガーネットミーティアッ!!!」
ジュリエットの魔力と思いが込められた二条の深紅の流れ星が幻想種を撃つ。
グゥゥゥゥ・・・・・・・
幻想種の瞳が僅かに揺れたような気がした。
「間違いない……幻想種の感情が揺れ動いている。今が好機」
ウダが幻想種の揺れ動く感情をキャッチした。
ツボミがすかさず幻想種をスキャンする。ツボミのエネミースキャンはその能力から状態に至るまですべてを深い所まで見透かす。ゆえにツボミもまた幻想種の微妙な変化を逃さない。
「村長の判断は早計だ。未だ希望はある!!」
ツボミの説得を合図に、皆が次のフェーズへ移行した事を認識する。
「その怒り、俺達が全て受け止めよう。だから聞いてくれっ! 約束を違えずに済む可能性があるんだ!」
「落ち着いて話を聞いて!また村に人が戻るかも知れないんだよっ!」
「そうですわ! わたくし達のお話を聞いてくださいませ!」
「戻るんだっ! 元の心優しい貴方にっ!!」
それぞれがそれぞれの思いを口にしていく。
「……暴走解除、成功だ」
ッグゴァァァァアアアァァァーーーー!!!!
幻想種の中で何かが弾ける。それは……人との長きに渡る穏やかな生活の中で得た安らぎ。それを失う事への不安と恐怖だった。
大地が割れんばかりの大絶叫の後、幻想種の暴走は止まっていた。
●
そこには優しい目をした巨大な白蛇がいた。先ほどまでの禍々しい空気は無い。
『ひとのこよ。ぬしらはそのようなすがたになってまで、なぜわたしをもどそうとしたのだ』
心身ともに限界を迎えつつあった6人だったが、それでも幻想種へ敬意を込めた凛とした態度で、この山に眠る資源の事、その資源があれば必ず村人は戻ってくるであろう事を包み隠さず幻想種へ伝えた。
「今直ぐって言われるとキツいが、まあ夫婦一組は何とか出来るぞ。ほれ、アダムとジュリエット。貴様等今直ぐ結婚して移住しなさいよ」
ツボミがさも当たり前のように二人の背を叩く。
「な、なななななな、何をいきなり言うんですのっ!?」
「何を突然っ!? ツボミさん、冗談が過ぎますよっ」
「(結婚だなんて……それはもちろん……いずれは!……でも……まだ……その……)」
ジュリエットは完熟したトマトのように全身を真っ赤にしながら俯いて小声で何か呟いている。
アダムもどう切り替えしていいかわからず、皆とジュリエットとの間で慌てふためく。
「ふふふ……あはははっ」
いつしかそこには皆の笑い声が響き渡っていた。
その話を静かに聞いていた幻想種は一言『ぬしらをしんじよう』と告げた。
その表情は穏やかで笑みすら浮かべているように見えた。
「最後に一つ。貴方の名前を教えてはもらえないだろうか」
アリスタルフが幻想種に問う。幻想種の名前は代々村長しか知らない。この事にどういう意味があったのかアリスタルフにはわからない。それよりも約束をこれから永久に果たす為には土地を守る存在を多くの人に知らしめたほうが良いと考えたのだ。何よりこれまでずっとこの地を守り続けていた存在が誰にも知られずに村と共に消えようとした事が我慢できなかった。その様子に幻想種は少し嬉しそうに表情を緩める。
『わたしのな? それは──』
「じゃぁ行ってくるよっ。期待して待っててね!!」
シアが元気よく駆け出す。それに皆が続く。あとは資源を見つけるだけだ。
●
アリスタルフとシアはカンテラの明かりを頼りに洞窟を進んでいた。
「きゃっ!?」
足元の石に躓いたシアをアリスタルフが受け止める。
「大丈夫か?」
「うんっ。ありがとうっ」
ウヴァロヴァイトの形状などは有識者に聞いていたが今のところはそれらしいものは発見できていない。
「それにしても蜘蛛の巣だらけっ。ヤになっちゃうな、もーっ! わわ、またっ」
髪の毛についた蜘蛛の巣を振り払いながら、シアは口を尖らせている。身だしなみが気になるお年頃のシアにはなかなかに過酷な環境だ。
「少なくとも人が入ってないってのは真実のようだ。さぁもう少し進んでみよう」
そんな様子を見てアリスタルフは一歩前に出る。
2人は更に洞窟の奥へと進んでいった。
アダムとジュリエットは渓流へ来ていた。
「(ジローさんは……いませんわね)」
きょろきょろと辺りを見渡すジュリエット。
「どうしたんだい?」
アダムが声をかける。
「な、なんでもありませんわっ。おーっほほほほ!!! ではアダムっ! わたくしと2人きりでデー……資源を探しましょう!!」
そういうとジュリエットは靴を脱ぎ、渓流の中を探し始める。それを見たアダムも渓流へ入る。
「冷たくて気持ちいいですわね」
「そうだね。戦闘の疲れが癒されるみたいだ」
終始楽しそうなジュリエットとは対照的に、この時のアダムは若干戸惑いを感じていた。先ほどのツボミの言葉がリフレインする。彼女はただの後輩だ。それは変わらない。だがなんとなく気恥ずかしい。
「どうしましたのアダム? 顔が少し赤いですわ」
「な、なんでもないっ」
見つめるジュリエットから不意に目を逸らすと、アダムは渓流の流れの中から一つの石を拾い上げる。
「この石……なんとなく君に似ている気がする」
「本当ですの? ……じゃぁわたくしもアダムに似た石を探しますわっ」
2人はその後も渓流で資源探しを続ける。ジュリエットの楽しそうな笑い声と共に。
その頃ウダとツボミは断層の壁の前にいた。先んじてジローが調査をしていたが知識が無い事もあり、今のところ何も発見できていないようだ。
知識ある2人は、ある種の確信を持ってこの場所に来た。ウヴァロヴァイト、またの名を灰クロム柘榴石。その多くは岩石の中に存在する。その岩石を多く含む岩肌の層が見つかれば多くの資源としての活用も見出せる。
2人は断層の一層一層を丹念に調査していく。その調査は卒が無く堂に入っている。
「見つけた。この緑色の鉱石。間違いない」
ウダが見つけたその岩盤の断層は大きく広がっている。かなりの量が埋蔵されている事が見て取れる。
「それと……クロム鉄鉱もやはりあったな。これもあわせて資源と考えれば……こりゃこれまで以上になるんじゃないか?」
ツボミの予想通り、ウヴァロヴァイトはクロム鉄鋼を伴っていた。合わせて報告すれば想定以上の評価がなされるはず。村の復興もより早く行われる事に疑いの余地は無い。
「おーい! 見つかったって?」
ウダとツボミがマキナ=ギアで連絡を取り、他の場所を探していた皆が断層へ集る。
「洞窟は……本当に誰も入ってない感じでした。蜘蛛の巣だらけで進むのも大変でしたが、結局何も発見出来ませんでした」
残念ながら洞窟内ではアリスタルフの採掘人としての本領は発揮できなかったようだが、この断層では大いに活躍するだろう。
「本当だよ! 早く帰ってお風呂に入りたいよ~」
アリスタルフとシアは全身蜘蛛の巣だらけになっていた。その様子をお互い見て笑っている。
「こちらも残念ながら何も見つかりませんでしたわ」
残念と言う言葉を口にしているとは思えぬほど笑顔のジュリエット。満面の笑みとはこういうことを言うのであろう。皆が気をまわした甲斐もあり良い時間を過ごしたようだ。
ジュリエットの採掘人としての実力もまた渓流では発揮されなかった。というよりも発揮するかしないか以前の状態だったに違いない。
「結局こちらも何一つ見つける事は出来なかった。本当に申し訳ない」
対してアダムは申し訳なさそうな中に、少々照れくさそうな仕草。
2人のその様子になんとなく色々察したツボミはしたり顔。
「じゃぁ改めて■■様に報告に行こう」
必ず村は復興する。そう確信する6人の足取りは軽かった。
「イタタタ……明日は筋肉痛だよ~っ」
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
称号付与
『知識蒐集者』
取得者: ウダ・グラ(CL3000379)
『衝撃の無茶振ラー』
取得者: 非時香・ツボミ(CL3000086)
『村人第一号?』
取得者: アダム・クランプトン(CL3000185)
『実直剛拳』
取得者: アリスタルフ・ヴィノクロフ(CL3000392)
『村人第一号?』
取得者: ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)
『神速のハンドキャリー』
取得者: シア・ウィルナーグ(CL3000028)
取得者: ウダ・グラ(CL3000379)
『衝撃の無茶振ラー』
取得者: 非時香・ツボミ(CL3000086)
『村人第一号?』
取得者: アダム・クランプトン(CL3000185)
『実直剛拳』
取得者: アリスタルフ・ヴィノクロフ(CL3000392)
『村人第一号?』
取得者: ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)
『神速のハンドキャリー』
取得者: シア・ウィルナーグ(CL3000028)
特殊成果
『クロム鉄鉱の欠片』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:非時香・ツボミ(CL3000086)
『河原の石』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:アダム・クランプトン(CL3000185)
『河原の石』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)
カテゴリ:アクセサリ
取得者:非時香・ツボミ(CL3000086)
『河原の石』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:アダム・クランプトン(CL3000185)
『河原の石』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)
†あとがき†
皆さんの活躍により、村長の命は救われました。今後は幻想種と村との新しい関係が築かれていく事となります。
この報告を機に、きっと一度は離れた村人も戻ってくる事でしょう。
MVPは幻想種の名を尋ね、新たな縁を結ぶきっかけを作った貴方へ。
河原の石はお二人の手の中に。特別なものではありません。
またウヴァロヴァイトと共に採掘されたクロム鉄鋼は欠片を持ち帰ったツボミによって報告され、現在自由騎士への支給物への活用が検討されている模様です。
ご参加ありがとうございました。
この報告を機に、きっと一度は離れた村人も戻ってくる事でしょう。
MVPは幻想種の名を尋ね、新たな縁を結ぶきっかけを作った貴方へ。
河原の石はお二人の手の中に。特別なものではありません。
またウヴァロヴァイトと共に採掘されたクロム鉄鋼は欠片を持ち帰ったツボミによって報告され、現在自由騎士への支給物への活用が検討されている模様です。
ご参加ありがとうございました。
FL送付済