MagiaSteam
怪奇植物・カカオスを追え!



「お集まりいただきありがとうございます」
 アイリスは自由騎士達に一礼してから、話を切り出した。
「皆さまにお集まりいただいたのは、とある植物の討伐をお願いする為です」
 植物を討伐ってどういうことやねん。そんな顔をする自由騎士達へアイリスが紙を広げて、両端が尖った種のような物を描き。
「今回のターゲットはこのような形をした種子です。これにですね」
 Lの字をひっくり返したような、簡素な『脚』を六本描きたして。
「このような、移動の為の蔓を生やし、己の種子を遠くへ移動させる植物なのです」
 で、何が危険かって言うと。
「この種子、結構な速度で移動しており、当然移動が目的であって、何かを狙って動いているわけではありません」
 で、アイリスが今度は地図を広げると近くの平原を示して。
「ここからイ・ラプセルの町に向かって、一直線に向かっているようなのです。放っておけば、人、ないし建物に被害が出る可能性があります。何としても食い止めてください」
 と、ここで見送るのかと思いきや、無表情ながらもどことなく真剣な眼差しでアイリスが騎士達を見つめて。
「ちなみにこの植物、名称をカカオスと言いまして、種子を割った中身の油脂を煮詰めて、濾過すると上質な黒い糖分が手に入り、これを製菓材料にするとすごく美味しいらしいのです」
 自由騎士達は何かを悟った。
「皆さま、何としても、カカオスの油脂をお持ち帰りください……!」
 期待してるからね!? そう語りかけるように、両手を重ねて目をキラキラさせるアイリス……の、幻覚が静かに眼を閉じて見送るアイリスの背後に見えた……ような気がする。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
魔物討伐
担当ST
残念矜持郎
■成功条件
1.イブリース・カカオスの討伐
2.カカオスの油脂の消費
えぇ、またなんです……カッコいい依頼が発行される傍らで、残念な残念による残念な依頼ですよ

お察しの方も多いでしょうが、アイリスがお菓子なんか作ったら、ヴラさんとこのお屋敷が『全滅』します

それどころか、自由騎士や町の人々にまで配る可能性があるため、何としても油脂を使い切ってしまいましょう

アイリスには使い切った後の殻を渡して、中身が未熟だったとか言えばなんとかなります

なお、カカオスのサイズは大型犬くらい……普通に食べてたらまずなくなりません

あ、ちなみにカカオスの油脂(濾過後)の正体はいわゆるチョコレートです


カカオスの戦闘方法は突進してくるくらいしかなく、かつ誰かを狙う事もありませんが、攻撃を躱すと町に突っ込んでいくという特性があります

逃げる(?)カカオスを追いかけつつ撃破する作戦を考えましょう
状態
完了
報酬マテリア
5個  1個  1個  1個
8モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
参加人数
7/8
公開日
2019年02月20日

†メイン参加者 7人†

『おもてなしの和菓子職人』
シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)
『みつまめの愛想ない方』
マリア・カゲ山(CL3000337)
『果たせし十騎士』
ウダ・グラ(CL3000379)


●自由騎士はかく語る
「カカオス!! カカオのようにお砂糖を加えずとも甘いのでしょうかぁ〜?」
 まだ見ぬ食材(になる敵)を夢見て目を輝かせる『まいどおおきに!』シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)。
「これは是非とも味見をして、フルール・ド・プランタン用に新作和菓子の材料にしたい所ですぅ〜! アイリスさんにお渡ししてしまうと世界が滅んでしまうとの事ですので、わたしが美味しく頂いちゃいますよぉ〜! 頑張って倒しましょうねぇ〜!」
 総取りしてしまうのも仕方ありませんよね~、と言わんばかりに既に皮算用し始めてるシェリル。商人はスピード命。人より速く情報をかぎつけて、他店より先に商品化することでアドバンテージを得るのは基本なのだ。
「甘みか……あれはカカオ……では、ないのかな……? まあ、根っこは一緒だろう。調剤なら任せてくれ」
 和菓子にしようとするシェリルの傍ら、薬にしようとする『湖岸のウィルオウィスプ』ウダ・グラ(CL3000379)。カカオスって普通のカカオとは違うんやけど、ちゃんと薬になるのかね……?
「そこは薬師の腕の見せ所というやつさ」
 そんなほっそい腕で言われてもね……。
「オレは甘いものが大好きだ!」
 いきなりどうした『田舎者』ナバル・ジーロン(CL3000441)!?
「特に、都会に出てきて初めて知ったチョコレート。あれがすんごい大好物なわけよ。で、その最高の原料が足生やしてやってくるわけだろ? そりゃ、あのアイリスって子でなくてもやる気出るってもんよ!」
 既によだれを垂らしそうなくらい顔が緩んでいるナバルは、グッと拳を握り。
「待ってろカカオス! ばっちりおいしくいただいてやるからな!」
 さすがは農家出身、植物の扱いはお手の物というわけか。
「……調理は他の人に任せるけど。お菓子とか無理。焼き芋ならなんとか……」
 おい!?
「どうぶつじゃなくてしょくぶつ? しょくぶつならはたけでかえる?」
 幼子特有の純粋な眼差しで小首を傾げるリムリィ・アルカナム(CL3000500)へ、『支える者』ドロテア・パラディース(CL3000435)が苦笑。
「育てるのは難しいと思うでありますねー……動き回る植物だなんて、イブリース化してなかったとしても、扱いが難しすぎるのでありますよ」
 と、言いつつ。事前に渡された資料を見直すドロテアは遠い目。
「いやー、しかし世の中には奇妙な植物がいるのでありますね……」
「それはそうさ」
 ウダは手を止めて、顎に手を添えて虚空を見やる。
「植物自体が中々奇妙な物が多くてね。虫を取って食べてしまうものや、自分が枯れそうになると周りの仲間に毒を作らせるものもある。きっと、これからも色んなものに出会うんじゃないかな?」
「そうなのでありますか!?」
「みんな、かわってるの?」
 衝撃を受けるドロテアに、反対側に首を傾げるリムリィ。ウダは(顔なんざ外套でほとんど見えないけど)優しく微笑んで。
「みんな変わってるよ。でも、それが個性というものなのさ」
「ほへー……」
 分かったのか分かってないのか、呆けた返事をするリムリィを見守って、ドロテアが敬礼。
「それでは! そろそろ行って参るのであります!!」
 こうしてドロテアは翼を広げて飛び立っていくのだが。
(……待てよ。ドロテアがあの服装で空を飛ぶ? オレは地上で待機。見上げれば……?)
「……ハッ、いかんいかん!」
 ワンピース姿で飛び立っていくドロテアに対して、ナバルは首を左右にぶんぶん。
(オレってば何を考えている! そんなことしたら全女子からヒかれるに決まってる! 耐えろオレ!)
 などと自制の念を持ちながら、視線は思いっきり空を見ているナバル。なお、スカートの中は風ではためいて見えなかったそうです。
 ……所で、そろそろ気になって来たんじゃないかな? なーんで仕事に出てるはずの自由騎士達がこんな無駄口を叩いているのか。
「こぉら、サボりは許しませんよぉ~?」
「さ、サボってはないぞ!?」
 不埒な顔で固まっていたナバルがシェリルにツッコまれて穴掘りを再開する……そう、自由騎士の面々は、落とし穴を掘っていた。高速で移動する相手に足止めをする罠。その発想は悪くなかったのだが、落とし穴は設置後、動かす事ができない。速い話、来る方角が分かっているだけの、かつ誘導できない対象に対しては扱いが難しいのである。で、あれば大量に用意してどれかに引っ掛かるのを祈るしかない。
「みんなで、ロープをもってころばせたほうが、かんたんだった?」
 リムリィ、そういう事言わないの!

●敵の外見って意外と気にしないよね
「……来たか」
 アデル・ハビッツ(CL3000496)は兜越しに眼光を引き絞り、遥か遠方で土煙を上げる両端の尖った種のような物を目視。全員で作戦を共有しておいた事で、進行方向に対して垂直になる横一線に落とし穴を用意しており、跳び越えるなんて事態にならなければどれかしかには落ちる事が予想された。
「数は一、速度はそこそこ……真正面からぶつかれば吹き飛ばされそうだな……」
「じゃあ、僕も前にでようか」
 アデルからの伝達に、ウダも盾を構えて彼に並ぶ。
「あの吸血鬼さんも苦労なされているんですね……」
 『マギアの導き』マリア・カゲ山(CL3000337)はヴラディオスに同情していた。アイリスの技量的な意味でただでさえ色々とマズイ事になっているのに、今回の食材は傭兵上りの、戦場のプロとも言えるアデルお墨付きのやべー奴である。
「アイリスさんに別に何か思うところがあるわけではありませんが、あのお菓子が配られて屋敷が全滅するのは寝覚めが悪いですからね」
 まだ敵を倒してすらいないが、後ほどに備えてイメージトレーニングをしておくマリアだった。
「皆さまー! そちらにカカオスがー!!」
 自由騎士達の脳内にドロテアの声が響いて数秒後、カカオスが待機組の射程圏内に入った。
「うわーん! テレパスの射程短すぎでありますよー!!」
 斥候として出向いたはずのドロテアが、カカオスとほぼ同時に、ていうか若干遅れて到着。速度の方は問題ではない。仲間に情報を伝えるのが遅すぎた。まぁ、そうよね。結構な速度で動くよって言ってんのに、高々二百メートルしか声を届けられないのだ。先んじて情報を得ても、仲間に伝えてからの猶予はほんのわずかしかない。
「アデル!」
「分かっている」
 しかし、今回はアデルが事前に遠方を見る異能で、先んじてカカオスの接近を把握していた事もあり、自由騎士達の反応は速い。左右に分かれたナバルとアデル。あるいはルーンの輝く盾を、あるいは機械化されたその腕を振りかざし、種子を破砕するように殴りかかる。二人がかりでなら押さえきれる、そう確信して真正面から塞ごうとするのだが。
「うぉ!?」
「ちぃ!!」
 カカオスは、すり抜けた。
「ふむ、種のようなあの両端が尖った形だから、普通に止めようとすると、圧力を受け流されてしまうのか……」
 やや後方にいたウダは大盾を斜に構え、腰を落とし、膝をついて、盾の下方を地面につけて身構える。
「ドロテア! てつだって!」
「了解であります!」
 翼を畳み、急降下するドロテアにリムリィがロープの片端を投げ渡し、カカオスとウダが衝突。全身の骨に響く衝撃に、ウダが奥歯を噛み、ぶっ飛びそうになる体に力を込めて踏み止まった。
「冗談だろう……? さすがに二度目は……!」
 ぶつかった反動でやや後方に下がったカカオスは、既に再びの突進を始めていて、ウダの背筋に冷たい物が走る。
「させん」
 肩から蒸気を噴き出し、歯車に唸りを上げさせ両腕の出力を跳ね上げるアデル。カカオスの実を必要以上に破壊しない為、武器を投げ捨てて両手の拳を重ねて。
「沈め」
 ゴッ!! カカオスの実のど真ん中に振り下ろすスレッジハンマー。小さなクレーターを穿ち、微かに地面に沈んで動きが止まったカカオス。しかし、まだ走り出そうとするその側面にナバルが回り込んだ。
「その穴が、お前の調理場だ! 大人しく食材になれ!」
「いまっ!」
「せーのっであります!!」
 盾で弧を描き、絡めとるようにしてぶん殴る。地面と水平に射出されたカカオスに対してリムリィとドロテアがピンとロープを張れば、引っかかったカカオスは縦に高速スピン。そのまま落とし穴の上空へ。
「チェックメイト、というのでしたか?」
 首を傾げるマリアが杖で地面を叩けば青いマナが巨大な掌を形作り、カカオスを握り込んで氷塊に変わる。
「うぅ……!」
 柄の部分に、指に合わせた溝が掘られて握りやすくなった巨大な鎚を肩に担ぎ、獲物を見定めるリムリィの瞳孔が開き、肉食獣のそれに似た眼光を宿すと不敵に笑った。
「あぁあああ!!」
 一足。踏み込みの反動で小さく地面を抉り、風すらも置き去りに、氷塊の上を取ったリムリィの豪快無比の一撃。内部のカカオスは砕かぬよう、全力で、しかし寸前で減速して、皆で掘った落とし穴に叩きこむ。
「ローストしますよぉ!」
 退路を失ったカカオスへ、シェリルが目をキラキラさせながら業火を呼ぶ古代文字を虚空に描くのだった。

●調理?調合?
「もう少し火加減が強くてもいいんじゃないかな?」
「これ以上は焦げて、変な匂いが残ってしまいますよ~」
 落とし穴に叩きこんだ後はじっくりローストされるカカオス。待っている間にドロテアが竪琴を取り出し、簡単な曲を爪弾けば、弾き飛ばされたナバルとアデル、そして真正面からぶつかったウダの体の痛みが消えていく。
「こんな所でありましょうか? 皆さま、大きな怪我もなく何よりであります!」
「いい曲だったよ……ちょうど、こちらも焙煎が終わったところだね」
 真っ黒なカカオスを穴から取り出したウダが二つに割って見せると、中身は真っ白な実が。既にほんのり甘い香りがしているが、ウダはその半分を木の板に乗せると何故か盾を構える。
「重要なのは根気と丁寧さ……」
 ゴリゴリゴリゴリ……しばらくかかりそうなんで、シェリルの方見ようか。
「ふむふむ! これは正しくチョコレートですねぇ!」
 速ぇな!? もう加工が終わってる!?
「砂糖を加えなくていいという事でしたら、この子達を育てて出荷する農家さんが出てくるかもしれません!」
 目をギラギラさせながらそろばんをはじくシェリル。何かもう、怪しげな笑い声まで聞こえてくるんだけど……。
「はっ! それでは新作お菓子を作ります! お手伝いしてくださいますかぁ?」
「よっしゃ!」
 じーっと見つめていたナバルの視線を感じたのだろう。シェリルが我に帰って宣言するとナバルが喜びのジャンプ。お前何もしないだろうが。
「まずはチョコとバターをよーく混ぜます~」
「任せておけ」
 肩を回すアデルが泡だて器を持ち、ボウルに移したカカオスの油脂とバターを合わせて、ギュイーン!
「はやい……」
 アデルの高速撹拌を眺めていたリムリィ。しかし。
「めが……まわる……きゅぅ」
「あらま、大丈夫でありますか?」
 グルグルと回される泡だて器を目で追っかけている内に、コテン。おめめぐるぐる状態でダウンし、ドロテアに抱き留められた。
「こんなものか?」
「どれどれ……えぇ、しっかり混ざっています~」
 色むらがない事を確認したシェリルはチョコバターを餡子で包み、タネを作ってからパンケーキでサンド。
「チョコバターどら焼きですぅ!」
「おお!!」
 まさかの真っ先に歓声を上げるナバル。どんだけ楽しみやったねん。
「では早速……」
 はぐ。
「美味い……!」
 通常のパンケーキと異なり、しっとりとしながらも生地がふっくらと膨らんでいて、とろけるように歯切れのいい独特なパンケーキは、和菓子と呼ばれる不思議な菓子を製造するシェリルならではの技術。
 次に餡子……小さな赤い豆を煮て、砂糖と共に練り上げた甘味で包まれたチョコバター。餡子はクリームチーズのようにねっとりとした舌触りと、微かに残る豆の皮によるプチプチとした食感。二つの歯ごたえで楽しませながら淡く優しい甘味を口いっぱいに広げて、その中に突如現れるチョコバターの濃厚な甘味が刺激的。恐るべきは、強弱付いた質の異なる甘味が絡み合い、餡子の控えめな甘味がチョコバターの甘味のインパクトをより強大にすることだろうか。
「ちょっとだけあっためてチョコバターを溶かして食べると、濃厚なバターとチョコレートの風味が餡子に絡んで絶品ですぅ! ふふふ、作りたてが特に美味しいというこの特性、数量限定路上販売なんてしようもんなら、中々に稼げるんやないの?」
 腹黒狸感がパナイ……。

●で、アイリスの分は?
 こんこん、屋敷のドアを叩く音がする。アイリスが自由騎士である事を確認して開けば、申し訳なさそうな(顔色一つ変わってない? 本人比的なアレだよ、アレ)顔をしたマリアの姿が。
「お帰りなさいませ。ご無事の帰還、何よりです……ところで、カカオスの油脂はどうなりましたか?」
 無表情のアイリスの背後に、目をキラキラさせて身を乗り出してくるアイリスの幻覚が見える。そのくらいに彼女はこの時を楽しみにしていたのだろう。だが、マリアの手には何もなく。
「結果からお伝えしますと、カカオスの油脂は炎の魔法を使った際に炎上して、残りませんでした」
「え……」
 微かに口を開けて固まり、何を言われたのか分からないと言った雰囲気のアイリスに、マリアは頭を下げる。
「本当に申し訳ありません」
「せめてもの償い、と言うと語弊があるが……」
 マリアの後ろから、ウダが小さな包みを差し出した。不思議そうな顔で受け取るアイリスにウダが言うには。
「殻に残っていたカカオスの油脂を基に調合したものだよ……過剰摂取さえしなければ使い勝手の良いものだ」
「……ありがとうございます」
 礼を述べるアイリスだが、その後ろには床にのの字を書くアイリスの幻覚が見える。二人の自由騎士は、これも皆の為と想い、町へ帰っていった……。

 ゴツゴツと、戸を叩く音がする。
「……?」
 自由騎士達は帰った後だ。何者だろうかとアイリスが戸を開けると、アデルが小さな包みを手にしていて。
「すまんな。これが精一杯だった。皆には秘密ということで頼む」
「もしかして……」
 微かに、アイリスの目が開かれる。
「カカオスの油脂だ。一人分くらいにはなるだろう。完成したら味見させてくれ」
 遠回しに、「犠牲は俺一人でいい」と言っているアデル。一方、アイリスの脳内的には「先ほど頂いたお薬……もしかしたら甘くなるかもしれませんね」などと、調合済みの油脂を材料に、二人分つくることが決まってしまう。
「承知しました。完成の折にはお持ちしますね」
 察しのいい人は、この後どうなるか気づいたんじゃないかな……。

 ドンドン、戸を叩く音が響き、アイリスが不思議そうな顔で出迎えたのはリムリィ。
「んっ!」
「これは……」
 出会い頭に突き出されたのは、もちろんカカオスの油脂。
「ひとりかふたりぶんのおかしはつくれる。いちばんだいじなあいてにわたすぶん。それだけあればきっとだいじょうぶ」
「ありがとうございます」
 深く頭を下げるアイリス。何という事でしょう、割とまともにお菓子が作れる量の油脂が集まってしまいました。
「アイリスによろしくって。おねえちゃんがいってた。よろしく」
「おねえちゃん?」
 仕事抜きに顔を合わせて、姉からの伝言を伝えるリムリィ。部隊が編成された際にフルネームを見ていたアイリス(脳内イメージの二頭身ミニアイリスちゃん)がポンと手を打つ。
「私からも伝言をお願いしてもいいですか? 今度、お菓子を持って遊びに行きますね、と」
「ん、わかった」
 リムリィは無邪気だ。だからこそ、思考が至らなかったのだろう。この会話の流れは、アルカナム孤児院の方にアイリスお手製のお菓子が流れていくパターンだと……。

 トントン、またしても戸を叩かれて、やや驚きながらアイリスが客を迎えると、今度はドロテア。
「アイリス殿には申し上げにくいのでありますが、なんやかんやあって油脂は少しだけしか持ち帰れなかったのであります……!」
「あ、あの、お気になさらず……」
 涙を飲むようにキュッと唇を結び、ドロテアが敬礼。必要な分はとうの昔に受け取っているアイリスの方が申し訳なくなってしまい、おろおろ。
「わずかな油脂をかき集めにかき集め、ようやくこれっぽちだけ……!」
 ドロテアから少量の油脂を受け取るアイリスだが、ドロテアが手を放してくれない。
「あの、大変失礼と申しますか、差し出がましいのは重々承知なのでありますが……」
 真剣な眼差しの、ドロテア曰く。
「何か作られるのであれば、料理上手な方にご指導いただくのはどうでありましょうか……!」
「……そう、ですね」
 ぷいと、ソッポを向くアイリス。気分を害したのかと青ざめるドロテアだったのだが。
「……ありがとうございます、ヴラ様と何か、作ってみますね」
 声音が微かに上機嫌である。そして同時に、アイリス一人で作る事はなくなった(ていうか実質ヴラさんが作る)事により、チョコの悲劇を回避! ありがとうドロテア! 町に平和が訪れた!!
「そ、そうでありますか。えぇとあの……深い意味はないのでありまして……!」
 しかし、本人はそんな功績を残したとは露知らず、アイリスの機嫌を損ねたのではないかと取り乱しっぱなしなのだった。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『災厄の菓子を封ずる者』
取得者: ドロテア・パラディース(CL3000435)
FL送付済