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【鉄血侵攻】我らが忠義をこの刃に



●戦火、号砲、そして抜刀
 レガート砦の門前は、今や紅蓮の地獄と化していた。
 降り注ぐ砲弾は土砂を派手に巻き上げ、精鋭達の咆哮が大気を激しく震わせる。
 戦う者がいた。
 倒れる者がいた。
 癒すものがいた。
 それでもなお足りず、さらに倒れる者がいた。
 そうした者達を踏み越えて、さらに立ち向かわんとする者達がいた。
 イ・ラプセルとヴィスマルク。
 今や世界を二分しているといっても過言ではない二大列強の戦いは、緒戦であるこのレガート砦を巡る攻防からして、すでに激烈なる様相を呈していた。
「突撃、突撃だー!」
 自由騎士の一人が、剣を門の方へと向ける。
 同じ部隊に属する騎士達が、その号令に従って爆風荒れ狂う中を駆けていった。
「押し返せ! 一人たりとも通すことはまかりならん!」
 ヴィスマルクの将兵が、部下に命じた。
 前面に壁を作る戦車隊は次々に砲撃を開始する。
 土砂が巻き上がり、土煙が場を覆った。しかし悲鳴は少なく、煙の向こうからすぐに突っ込んでくる自由騎士達が姿を現す。
「ええい、この砲撃の雨の中を突っ切るというのか、連中は!?」
 その光景を目の当たりにしたヴィスマルク将兵が目を丸くする。一体どんな度胸だ。
「――ならば、同質の個をあてがえばよいのでは?」
 後方より声。
 将兵が振り向くと、そこには長剣を腰に提げた紫髪の男がいた。
「ツヴァイ、貴様か」
「増援として到着した。俺達の役割はあの連中を阻むことか?」
 抑揚のない声で、ツヴァイと呼ばれたマザリモノの男は将兵に指示を仰ぐ。
 彼の後方には、数名のオラクルが控えていた。
 皆、同じように顔に表情はなく、気配もかなり薄い。
 それなりの修羅場をくぐってきている将兵ですら、声をかけられるまでツヴァイ達の接近には全く気づけなかったほどだ。
「ヘルメリアのエルベ隊、だったな」
「元、がつくがな」
「出自はどうでもいい。とにかく今は名より実だ。貴様らの話は聞いている。主のために精々働いてもらうぞ。わかっているだろうな?」
「無論」
 エルベ隊のツヴァイ――、即ちツヴァイ・エルベは小さくうなずくのみだった。
「ならば命令する。自由騎士共をこの場に近寄らせるな! 絶対死守だ!」
「承った」
 ツヴァイは告げて、後方の男達と共に前へと出ていく。
「エルベ隊、抜刀」
「「「抜刀」」」
 ツヴァイが命じると、同じエルベ隊に属する彼ら――、ドライ、フィーア、フュンフ、ゼクス、ズィーベンの五人が一斉に武器を抜き放った。
 彼らの名は全て認識名。固有の名を持つ者など一人もいない。
 そして、本来部隊をまとめる『アインス』は、この場にはいない。
 かの方は彼らの主。このような戦場になど出てきていいはずがなかろうに。
 戦場にあるべきは、戦う道具であるエルベのみ。
「我ら、主がために血路を拓く」
「「「我らが忠義をこの刃に、我らが報恩をこの身体で!」」」
 目の前には、派手に巻きあがる土砂、爆音、自由騎士達。
「エルベ隊、突撃」
「「「突撃――――ッッ!」」」
 自らの命すら主の栄達の道具たらんとする怖いもの知らず達が、自由騎士に迫る。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
対人戦闘
担当ST
吾語
■成功条件
1.レガート砦門制圧
※この共通タグ【鉄血侵攻】依頼は、連動イベントのものになります。依頼が失敗した場合、『【鉄血侵攻】 Zealot! 鉄壁を砕く熱き楔!』に軍勢が雪崩れ込みます。

ニコラス・モラルさん(CL3000453) の関係者であるツヴァイ・エルベが登場していますが、該当者に参加を強制するものではありません。
また、優先参加権もありません。

というわけで吾語です。
やってきました全体依頼。今回は多分一番の激戦区である砦門前からお送りします。
敵の前線を突破して砦門前を制圧しようぜ、というシンプルなシナリオです。

ただし、敵の抵抗はマジパネェですが。
以下、シナリオ詳細となりまーす。

◆敵勢力
・エルベ隊
 ヘルメリアからヴィスマルクに亡命した貴族に使えるオラクル部隊です。
 ツヴァイ~ズィーベンの6人で構成されており、便宜上ツヴァイがリーダー。
 全員が孤児であり、主は彼らの育ての親でもあるため忠誠心がヤバイ。
 彼らを撃破すれば砦門制圧は完了となります。

 ・ツヴァイ・エルベ
  マザリモノの男性で、軽戦士。無口、無表情、無感情。主のためなら死ねる。
  動きが速くて攻撃が鋭い。まぁ、つまりCTがクソ高いということです。
  敵部隊のリーダー格であり、最もレベルが高くて強いです。

 ・ドライ・エルベ
  マザリモノの男性です。スタイル不明。大型のポールアクスで武装。

 ・フィーア・エルベ
  マザリモノの男性です。スタイル不明。拳銃と杖で武装しています。

 ・フュンフ・エルベ
  マザリモノの男性です。スタイル不明。大型の弓を持っているようです。

 ・ゼクス・エルベ
  マザリモノの男性です。スタイル不明。大盾とハンマーで武装しています。

 ・ズィーベン・エルベ
  マザリモノの男性です。スタイル不明。サーベルと杖で武装しています。

 また、彼らは全員共通で下記のラーニング可能スキルを有しています。
 ただし今シナリオでは行なえるラーニングは一人のみとします。

 ・スピアヘッド・スパイラリィ 自付与 効果3ターン
  骨肉を連動させて常に武器に特殊な回転を付与し、貫通力を倍加させる。

・戦車部隊
 非オラクルの兵士が搭乗している蒸気機関式の戦車×4の部隊です。
 量産型の軽戦車であるためがんばれが破壊可能。
 ただしかなり頑丈で常時【攻耐】、【魔耐】が付与されている状態です。
 エルベ隊を撃破すれば彼らは恐れをなして逃げていくでしょう。

◆フィールド効果
 今回は戦場が敵地なので敵に有利なフィールド効果が発生します。
 内容は下記のとおりです。

・フィールド効果:TE-34型砲・改
 レガート砦からの支援射撃です。
 2ターンに一度、『イ・ラプセル前衛』か『イ・ラプセル後衛』のどちらか全員に攻撃タイプのダメージを与えます。

・フィールド効果:転ばぬ先の策
 ディークマン大佐の指揮です。
 信頼の元に繰り出された行動をこなし、ヴィスマルク兵のCT値が上昇し、FB値が減少します。

以上です。
それではがんばっていきましょー!
状態
完了
報酬マテリア
3個  7個  3個  3個
9モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
8/8
公開日
2020年08月09日

†メイン参加者 8人†



●砲弾の雨、そして忠義の刃
 それはおよそ、自由騎士にとっても信じがたい光景だった。
「冗談だろう?」
 歴戦の士たる『帰ってきた工作兵』ニコラス・モラル(CL3000453)をして、唖然とせしめるその光景。後方に控える四台の軽戦車が次々に砲撃を行なう中、爆ぜる地面の脇をまっすぐに駆け抜ける男達がいる。
「……バトルジャンキー? いや、あの目は戦いに酔いしれる者の目じゃない。果たすべき目的あっての、命知らずか。あれは、自分に砲弾が当たろうと止まらんぞ」
 『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)が自由騎士達に向かってそれを告げる。
「つまりは、強敵ということですわね」
 彼の言葉をそう解釈し、自ら一歩前に出る者がいた。
 すると、その周囲に並んだ盛装姿の楽団が、派手に楽器をかき鳴らし、
「オーッホッホッホッホ! ジュリエット・ゴールドスミス参上! ですわ――ッ!」
 ドカーン! と、名乗ると同時に背後に派手な爆発が巻き上がった。
「鉄と火にまみれた戦場に、一輪の花を飾りましょう。お相手が精鋭部隊となれば、これくらいしてこそ戦場の習いというもの。全力全開で挑みますわ!」
 威風堂々胸を張り、『思いの先に』ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)が今はまだ遠いエルベ隊に対して大きく声を張り上げる。
「ひゃ~……、何かすんげーことしてる人がいる……」
 ジュリエットの堂々たる名乗り口上に、傍らに立っていたたとえ神様ができなくとも』ナバル・ジーロン(CL3000441)が驚き、あんぐりと口を開けた。
 いよいよ始まった戦争。絶対に負けられない戦いだと思っていただけに、ジュリエットのそれは彼にとって空気を読まない奇行にしか映らなかった。
 しかし――、
「いいな! そういうのは嫌いじゃないぜ! ハハッハァ! 私がジーニー・レイン様だ! 精々全力でかかってこいや、相手になってやるぜェェェェェ!」
 まず、『砂塵の戦鬼』ジーニー・レイン(CL3000647)が乗った。
「カノン・イスルギ! この戦いは絶対に負けられないから、本気で行くよー!」
 そして『戦場に咲く向日葵』カノン・イスルギ(CL3000025)までもが名乗りを挙げた。
「うぇ? いいっ!?」
 驚きつつ自分も、名乗りを上げるべきなのか、と、ナバルは一瞬だけ考えるが――、
「いや、別にそれはしなくていいぞ」
 まさに九死に一生。『水銀を伝えし者』リュリュ・ロジェ(CL3000117)が諭してくれた。
「来るね。マザリモノ達の精鋭部隊が」
 迫るエルベ隊に『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)が呟く。
 その、薄い水色の両眼は一切の恐れもなしに突き進んでくる敵部隊を凝視していた。
「エルベ隊。……彼らは祖国でどんな扱いを受けていたのかな」
「さすがにそこまではわからねぇけどよ」
 ニコラスがかぶりを振って肩をすくめる。しかし、
「だが、あの先頭を走るマザリモノ、あいつは……」
 彼は言葉を止めて目を細める。そこに映るのは紫色の髪のマザリモノ――ツヴァイ。
「……別に、似ちゃいない。面影だってない。だが、ありゃ」
「来るぞ、備えろ!」
 だが、ほんの数秒の思考すら、戦場においては許されない。
 アデルの叫びに、ニコラスはただちに即応した。
 イ・ラプセルとヴィスマルク、両軍の精鋭達がこれより激突する。

●エルベ隊の六人
 風に滑って、影が躍る。
「うォッ、っと!?」
 間一髪、ナバルがかざした盾が、ツヴァイの斬撃を防いでいた。
 キィンという軽い手応えを腕に伝わらせ、だが、ナバルが感じたのは驚愕だった。
「何だ今の、はっや!?」
 間に合ったのは、まさにたまたま。尋常ではない速度だ。
「――いや、こいつじゃない!」
 しかしそこは守り手たるナバル。彼のガーディアンとしての嗅覚が、ツヴァイの攻撃が牽制でしかないことを嗅ぎ取る。そう、本命は彼ではなく――、
「潰せ、ドライ」
「ぬおおおおおおおおおおおおおおお!」
 ツヴァイのあとに続いて突っ込んできたドライが、大型のポールアクスを地面に叩きつけようとする。次の瞬間どうなるかを、ナバルはすぐさま確信して前に一歩踏み込んだ。
 そして起きる強烈なる爆砕。
 斧の威力に砕け散った土砂が、爆風と共に自由騎士に襲いかかる。
 しかしそれも大半はナバルが受け止め切った。そして、彼は皆に向かって叫ぶ。
「こいつだ! こいつが、攻撃の要だ!」
 腕に伝わってきた威力が、ツヴァイのそれの倍。いや、数倍以上。
「――あのツヴァイとかいうのが速度でかき回し、ドライが叩く。そういう戦法か」
 アデルがそうあたりを付けて、次の動きを模索する。
 そこへ、敵側のフュンフが大きく弓を引き絞って、彼を狙おうとしてきた。
「……スパイラリィ!」
 グッとつま先を踏み込んで、フュンフが矢を放つ。
 その一撃を、アデルは槍で弾こうとする。が、
「受け止めンな! 避けろ!」
 ニコラスの叫び。
「くっ……!」
 アデルが大きく身をひねって地面を転がり、そのすぐ真上を矢が奔っていった。
 そして、矢は近くの岩壁に当たり、岩の表面が螺旋状に砕け、穿たれた。
 尋常ではない威力に、さしものアデルも目を瞠る。
「……何という貫通力だ」
「さっきの戦斧のやつの攻撃跡も、だな」
 ナバルが言う。ドライが攻撃したその箇所には、確かに螺旋状の痕跡が残っていた。
「攻撃時に回転力を付与して貫通力を高める技……、おそらく全員が使える、か」
「よーし、絶対に一直線上に並ぶなよ! 敵さんの攻撃の餌食にされちまうからな!」
 敵の技の性質を素早く見破ったアデルの言葉を受けて、ニコラスが声を張り上げる。
「――さすがに、理解が早いな」
 それを聞いていたツヴァイが、呟いて目を細めた。
「だが関係ない、我らエルベはアインスのために」
「「「報恩が為、六つの身と魂を、忠義の刃に鍛え上げん!」」」
 ツヴァイに続いて、他の五人が声を揃えてさらに前へと突き進んでいく。
「報恩……、ね」
 彼らが口を揃えたその言葉に、マグノリアが冷めた反応を返す。
 次の瞬間解き放たれた劣化の魔導によって、エルベ隊はまとめて弱体化する。
 しかしそれも一瞬のこと、次の瞬間にはズィーベンが杖を掲げていた。
「癒し手……、当然、いるか!」
 ロジェが叫び、ズィーベンめがけて魔導の攻撃を繰り出そうとする。
 しかしその一撃は、ゼクスの大盾によって阻まれてしまった。
「だったら、私達が行ってやるよ!」
「そーゆーこと! 回復役から潰すのは常道、ってね!」
 次いで、ジーニーとカノンがズィーベンを狙おうとするも、その足元が突如爆ぜる。
「近づけさせると思うな?」
 やったのは、フィーア。彼が持つ拳銃の銃口から、硝煙がたなびいていた。
 そして、足を止められたジーニー達めがけて、ドライが突撃する。
「むぅぅぅ――ん!」
 ポールアクスによる薙ぎ払い。巨大な刃に、少女二人が吹き散らされる。
「おっと、こりゃまずい。お嬢ちゃん、足止めよろしくゥ!」
 吹き飛ぶ二人を見て、ニコラスが動こうとする。
 そして、さらに攻めてこようとするドライの前には、ジュリエットが立った。
「オーッホッホッホ、任されましたわ! さあ、いらっしゃいな!」
「女子供であろうと、圧し潰すのみ」
 言って、ドライがポールアクスを振り回す。
 しかしジュリエットはそれをスレスレでかわして、相手の懐へと入り込もうとする。
「見えている」
 だがツヴァイに回り込まれての牽制の一撃。ジュリエットは後退した。
「……やりますわね」
 かすかに裂けた頬から一筋の血を流し、彼女は低く呟いた。
 エルベ隊の六人。個々の力量もさることながらその連携は実にこなれたものだった。
 タフな戦いになる。誰もが、それを確信していた。

●マザリモノの忠義たるもの
 ドライから叩く。
 それが、自由騎士達が戦いのさなかに決定した方針だった。
「ウオオオオオオオオオオ!」
 ポールアクスを自在に振り回し、螺旋の力と共に叩きつけてくる彼の攻撃は、スキルを使っていないとしても強く、重く、相対する者にしてみればただただ脅威であった。
 ドライの攻撃を起点にして、フィーアとフュンフが関節攻撃で畳みかけ、自由騎士側の攻撃はゼクスが身を張って防ぐ。そしてズィーベンが回復を担う。
 五人一組の戦術は、その連携のスムーズさもあって、実に手堅く崩しがたいものだった。
「ふ、ぅッ!」
 時折、ツヴァイが自由騎士の連携を崩すべく牽制の一撃を放ってくるが、これについては攻撃こそ鋭いものの重さが足らず、質の軽さもあって受け流すのは難しくない。
「――やっぱ、あの斧持ちの兄ちゃんだろうな」
「ああ。あれが柱だ。叩くことがでいれば、敵は総崩れになる」
 戦闘が始まってしばし、ニコラスとアデルは同じ結論に達する。
 ニコラスはうなずきつつ、今も戦場を動き回っているツヴァイの方をチラリと見る。
 当初、彼が敵側の要だと思った。
 しかし、どうやらそれはフェイク。敵の目を欺く囮役であるようだ。
 飛び回る蜂のように鬱陶しい存在であるが、こちらには自分を含めて回復役が二人。さらには防御に長けたナバルもいるし、マグノリアの魔導だってある。
 正直、敵は手強いが負ける要素は見当たらない。慢心なしに、そう思えた。
「……しかし、マザリモノの精兵部隊、とはね」
 かつてのヘルメリアでのマザリモノの扱いを思えば、何ともエグみしか感じられない。
 それに――、
「いやいや、今はお仕事に集中しますか」
 そして彼は仲間全員へと向けて声を張り上げる。
「まずは敵さんの柱からブッ倒そうぜ。そうすりゃあ、必ず崩れる!」
「俺が行く!」
 まずはアデルが装備に仕込んだ蒸気機関に火を入れて、加速。
 強化された速度と膂力によって振るわれる打撃の嵐が、敵の防御を担うゼクスへと襲いかかる。大盾の表面が、強烈な連打によって大きく凹んでいく。
 だがそれだけでは、ゼクスという壁を超えるには至らない。
「ジュリエット、あとに続け!
「オーッホホホホホホ! 承りましてよ!」
 次に、ジュリエットが動いた。
 未だ鉄壁の防御を崩さないゼクスだが、その動きは若干鈍っている。
「あら、それでわたくしの攻撃を防ぐおつもりなのかしら? だとしたら、甘々の大甘でしてよ! ――回転の力を操るのは、そちらだけではないのですから!」
 叫び、放つは穿ちの刃。
 その切っ先はゼクスの盾に阻まれるも、しかし、放たれた衝撃は盾を突き抜けて後方にいたドライの身を直撃、大斧を振り上げていた彼の身がグラリと傾ぐ。
「今、畳みかけるぜ!」
 そこへ、ジーニーが突撃していった。
 彼女の獲物もまた戦斧。振り回されるそれは大きく唸りを挙げてドライに襲いかかる。
「隙が大きいな」
 しかし、ツヴァイが割り込んでいた。
 彼が放つ最小挙動の一刺しが、ジーニーの肩を貫く。
「ぐ、ぉ……!? ぉぉ、おおおッラァ!」
 一瞬、走った痛みに攻撃動作が崩れかける。
 しかし、ジーニーは構わずにそのまま斧を振り抜いた。
 ツヴァイはその場から即座に退き、分厚い刃は些か威力を削がれながらもドライを叩く。
「ここから、続くよ!」
 カノンがさらに連続でドライを狙おうとする。しかし、そこはフィーアが牽制。銃弾が彼女の肩と太ももを貫いた。灼熱と激痛。カノンの口からくぐもった声が漏れる。
「退くな、すぐに治す!」
 一歩後ずさろうとしたカノンだが、その傷をロジェが素早く癒した。
「ウオオオオオ!」
 その間に、今度はドライが斧を振るってくるが、
「まだまだ! とことんまで俺が阻んでやるよ!」
 そこはナバルがインターセプト。ドライの重い一撃をしっかりと盾で受け止める。
「いい塩梅だ。やりやすいよ」
 そして後方より、直線状にならない位置からマグノリアが呪詛を解き放った。
 戦場全域に作用する悪化の呪いが、エルベ隊を絡め取ろうとする。
「この程度―――――ッ!」
 だがズィーベンが杖を高々掲げて、ただちに解呪を施した。
 そこに、敵陣後方より押し寄せてきた砲弾の雨。烈火が炸裂し、土砂が巻き上がる。
「……くっ!」
 土ボコリから目を守ろうと顔を背けるナバルだが、土煙の向こうからツヴァイの姿。
 頭から一筋の血を流しているのは、砲撃によるダメージだろう。
 しかし、知ったことかとばかりに振るわれた螺旋の一突きがナバルの盾を貫く。
「ぐ、ぁぁ!?」
 切っ先は、さらに彼が纏う鎧をもブチ抜いて右脇腹に深く食い込んでいた。
「こいつ、あの砲撃の中を……!?」
「ナメるな、自由騎士。我らエルベ隊、この程度の砲火に怯むものか」
 ナバルを蹴り飛ばして、ツヴァイが冷たく呟く。
「それは、君が主から受けた恩に報いるためかい?」
 マグノリアが、ツヴァイに問うた。
「無論。我らが命は主が栄達するための道具。我らが主、アインスが為ならば」
「おかしいよ、そんなの! 恩に報いたいなら、生きてこそじゃないの!?」
 ツヴァイの答えを無視できなかったか、カノンがそう反論する。
「君達は、恩という鎖に縛られてるだけじゃないのかい?」
 マグノリアもそう言うが、
「おまえ達に憐れまれる謂れはない。それとも――」
 ツヴァイは短く切り捨てて、そしてナバルに駆け寄るニコラスを見た。
「そこにいる、生物学上でいうところの俺の父親に、何か吹き込まれたか?」
「……何ィ?」
 その言葉に、ニコラスが驚き、目を剥くのだった。

●自由騎士、敗走
 ツヴァイの言葉に、自由騎士達の間に動揺が走る。
 それは、戦場においてはどうでもいいこと。
 しかし同時に、仲間意識が強い自由騎士にとっては、無視できないことでもあった。
 ゆえに必然として生じる、一瞬の間隙。
「叩くぞ」
 ツヴァイの号令。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
 動いたのは、ドライ。両手にポールアクスをしっかり掴み、全力で振り回す。
 その派手な大振りもあって、自由騎士達の意識はドライへと注がれた。
 ――フェイクだった。
「そろそろ、お前達に本当のことを教えてやろう」
 ドライが動くと同時、こちらは極々小さな動きのみで立ち位置を変えていたツヴァイが、一気に加速して標的との相対距離をあっという間に潰す。
 その先にいるのは――、ロジェ。
「俺はドライより強い」
 そして繰り出された長剣の一閃は、誰が反応するよりも早くロジェの身を深々と切り裂いていた。悲鳴をあげることすら、彼にはできなかった。
「なるほどな。見事に欺かれたわけか、俺達は!」
 アデルが叫び、ツヴァイに挑む。
 しかし歴戦の雄たる彼をもってしても、紫髪のマザリモノの動きは捉えきれなかった。
 速さも、鋭さも、明らかに先刻より増している。さらには、
「騙されるのは、弱いからだ」
 刺突が、アデルの装甲を容易く貫き、胸を抉る。
「……攻撃の質、までも、か」
 彼は呻き、そして倒れた。
 速さ、鋭さ、そして重さ。全てが揃った非の打ちどころのない一撃であった。
 ツヴァイの攻撃は速くはあるが、同時に軽い。受けること自体はそう難しくはない。これまでの戦いの中で、自由騎士はそう認識していた。いや、認識させられていた。
「絶望しろ、自由騎士。エルベの忠義は手折れない」
 だが違った。
 これまでの全てが欺瞞。ドライが攻撃の柱だという認識も、ツヴァイの強さそのものも。
 そもそもが、エルベ隊が仕掛けたトリックでしかなかったのだ。
「……クソッ、踏ん張れ! もう少し!」
 ニコラスの顔から余裕が消える。
 回復役の一角として、彼は何とか戦線を支えようとするも――、
「無駄だ、ニコラス・モラル」
 エルベ隊の極まった連携によって自由騎士達は傷つき、次々に倒れていく。
「一つの間違えが取り返しのつかない結果に繋がる。それが戦場というものだ」
「お前は……」
 そして、残されたニコラスの前に、ツヴァイが立つ。
「……何故、俺のことを知っている」
 だがニコラスが問うたのは、それ。無表情だったツヴァイの顔に初めて笑みが浮かぶ。
「教えてもらったのさ、我が主に」
「な、に……?」
「最も効率がいい道具の使い方を知っているか?」
 急に関係ないことを問われ、ニコラスは怪訝そうに眉根を寄せた。
「愛着を持って使うことさ。長く愛用できるだろ?」
「よく言うぜ、持ち主のためなら壊れても構わないとかのたまう道具がよ……」
「だがお前達には壊せなかった」
 ツヴァイは長剣を振り上げて低く呟く。そして彼はニコラスを斬ろうとして、
「させる、かぁぁぁぁぁぁ!」
 間一髪、ジーニーが投げた斧が、両者の間を遮った。
「今です、走りなさい! 撤退ですわ!」
 そしてジュリエットの声。彼女はロジェを背負っていた。
「待て、逃がすとでも――」
 エルベ隊が追おうとするも、運悪く、そこに後方から戦車の砲撃が炸裂。
 吹き上がる土砂が壁となってしまう。土煙が晴れたとき、すでに自由騎士の姿はなかった。
「追う必要はないな」
「いいのか?」
「構わない。我々の任務は砦門の死守。それはここに果たされた」
 ドライに問われてそう答え、ツヴァイは踵を返す。
「まずは功一つ。次の指示を待つとしよう」
 その顔に些かの感動も浮かべることなく、ツヴァイは主を想い、次の戦いに臨むのだった。

†シナリオ結果†

失敗

†詳細†


†あとがき†

お疲れさまでした。
多くは語りません。

ご参加いただきありがとうございました。
次のシナリオでお会いしましょう。
FL送付済