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ゲスのゲスによるゲスのための楽しいショウ

●
とある郊外の屋敷の地下。
そこには30メートル四方ほどの広いスペースと、そのスペースで行われる闘技を観戦する20席程度のVIPスペースが用意されていた。
「オホホホ……。泣いても無駄ですわよ。もっと頑張っていただきたいわ」
「おやおや、こんなに早く死んでしまっては困ります。せめて5分はもってもらわないと……」
「そろそろ死ねよ! 俺の賭けがはずれちまうだろ!」
「5秒以内に殺せっ!」
聞くに堪えない言葉の数々。
ここは狂気の闘技場。挑戦者が『何分生きているか』を賭ける賭場。
殺せ──ころせ──コロセ──っ!!
見る者達もまた狂気に染まっていく。そこはまさにこの世の地獄だった。
●
「オマエ達、こいつらのこんな所業、許せるか?」
『演算士』テンカイ・P・ホーンテン(nCL3000048)は自らが導き出した演算結果を投げ捨てるように自由騎士に渡す。
そこに書かれているのは、夜な夜な行われる人を人とも思わぬ虐殺ショウ。
「ドミニク……これって……」
資料に目を通していた自由騎士が、演算結果の中にとある名前を発見する。が、詳細は書かれていない。
「そうだ。ドミニクという名が出た。だが……何度演算してもそれ以上の情報は出てこない。それに首謀者と思われる男とこのドミニクという男に接触できる可能性も導き出せなかった」
テンカイの顔に悔しさが滲む。
「何かしら情報は得られるかもしれない。胸糞の悪くなるような依頼だが……」
何も言わず頭をたれるテンカイ。
わかってるよ──誰かがそう言った。
とある郊外の屋敷の地下。
そこには30メートル四方ほどの広いスペースと、そのスペースで行われる闘技を観戦する20席程度のVIPスペースが用意されていた。
「オホホホ……。泣いても無駄ですわよ。もっと頑張っていただきたいわ」
「おやおや、こんなに早く死んでしまっては困ります。せめて5分はもってもらわないと……」
「そろそろ死ねよ! 俺の賭けがはずれちまうだろ!」
「5秒以内に殺せっ!」
聞くに堪えない言葉の数々。
ここは狂気の闘技場。挑戦者が『何分生きているか』を賭ける賭場。
殺せ──ころせ──コロセ──っ!!
見る者達もまた狂気に染まっていく。そこはまさにこの世の地獄だった。
●
「オマエ達、こいつらのこんな所業、許せるか?」
『演算士』テンカイ・P・ホーンテン(nCL3000048)は自らが導き出した演算結果を投げ捨てるように自由騎士に渡す。
そこに書かれているのは、夜な夜な行われる人を人とも思わぬ虐殺ショウ。
「ドミニク……これって……」
資料に目を通していた自由騎士が、演算結果の中にとある名前を発見する。が、詳細は書かれていない。
「そうだ。ドミニクという名が出た。だが……何度演算してもそれ以上の情報は出てこない。それに首謀者と思われる男とこのドミニクという男に接触できる可能性も導き出せなかった」
テンカイの顔に悔しさが滲む。
「何かしら情報は得られるかもしれない。胸糞の悪くなるような依頼だが……」
何も言わず頭をたれるテンカイ。
わかってるよ──誰かがそう言った。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.賭場をぶち壊す
お餅って細く伸ばせば麺ですよね。麺です。麺です? 麺二郎です。
2018年最後はゲスいヤツラと共に。
改心する事などあるはずも無い底無しの悪意。自由騎士は闇に蠢くそれらを今日も粉砕するのです。
●ロケーション
首都近郊の別荘地にある、とある屋敷。
表立っては持ち主不明で放置されている事になっている。
その地下では夜な夜な闘技が行われていた。
禁止事項の一切無いパンクラチオン。
殆どは絶対的強者に対して宛がわれた挑戦者の一方的な虐殺である。その死すらも想定内。
賭けは勝敗ではなく、何分生き延びられるか。常軌を逸した闇の住人達の宴。
闘技場への最初の進入は、そのゲートの仕様上一人だけです。侵入者が現れた時点でロックされ、なんびとも中へ入る事はできなくなります。
(所謂コロッセオと同じような地下から競りあがってくるタイプの入場ゲートです)
仲間が闘技場の操作室を占拠するまでの間、一人で挑戦者の青年を庇いながら戦う必要があります。非常に危険な役割です。
まず屋敷内部から地下へ続く闘技場入り口へ進み、そのまま闘技場下部にある入場ゲートへ。そこでお一人が闘技場へ上がり、その間に残りの自由騎士の皆さんには入場ゲート付近の敵、さらには操作室に居る敵と戦っていただければと思います。闘技場絶対王者は大変強いため、如何に早く操作室を占拠し、闘技場に皆で雪崩れ込めるかが鍵となります。
・地下闘技場
屋敷の闘技場入り口から潜入すると、地下には闘技場、入場ゲートのある部屋(闘技場真下)、VIPスペース、操作室、謎の部屋があります。
闘技場には入場ゲートからしか入れません。また謎の部屋は屋敷の闘技場入り口からの通路からは行く事が出来ません。
●登場人物
・正体不明の男
この賭博の主催者。詳細は一切不明。奴隷制度がなくなった事で挑戦者を確保する事が出来なくなり、賭場は一時中断されていたが、ドミニクから挑戦者の提供を受け復活。VIPスペースとは別の場所から闘技を観覧していますが、自由騎士が突入したと同時に姿を消します。接触する事はできません。
・ドミニク・オーソリティ
この地下闘技に挑戦者という名の生贄を提供している男。
VIPスペースとは別の場所から闘技を観覧していますが、同じく自由騎士が突入したと同時に姿を消します。接触する事は出来ません。
・啼き虫ラビィ
身長2メートルを超える大男。ウサギのケモノビト。助けを請い、すがる相手に嗤いながら止めを刺す男。常に涙目のためこの異名で呼ばれている。闘技場での対戦成績は54勝0敗。闘技場の絶対王者。闘技場にて一方的な暴力による蹂躙中。
殴る。 攻近単 力まかせにただ殴る。それだけで必殺の威力です。
蹴る。 攻近範 丸太のように太い足で蹴り飛ばす。それだけで相手は吹き飛びます。【ノックB】
掴んで投げる。 攻近単 掴んで投げるただそれだけが致命傷になります。【ピヨ】【致命】【必殺】
我慢。 自付 気合と雄叫びで相手の遠距離攻撃を限りなく軽減します。
・道化のツェッペリン
闘技場控え選手。狂気のピエロ。オールモストのキジン。如何に残虐に挑戦者を始末し、美しい悲鳴を上げさせるかを追求している。操作室内で闘技の様子を嗤いながら観戦中。
対戦成績は13勝0敗。
投げ小刀 攻遠単 ナイフを投げて攻撃します【二連】【スクラッチ1】
死の輪舞 攻近範 死へと誘うバレエのような動きの連続攻撃です。
百笑 攻遠範 聞いたものを狂わせる狂気の笑い声です。【コンフュ1】【アンガー1】
・ヨコヅナ
最近参入した闘技場控え選手。アマノホカリの国技である相撲レスラー。オニヒト。立派な髷を結い、顔には歌舞伎役者のような隈取、背中には旭日の刺青を入れている。激しい稽古により2本の角のうち1本は折れている。高速のつっぱりで挑戦者の身体を深紅に染め、鯖折でその命を絶つ。小指一本で数百キロの貨物を持ち上げる怪力の持ち主。
対戦成績は4勝0敗。闘技場入場ゲートにて待機中。
張り手 攻近単 必殺の威力を持った張り手です。【ピヨ】
つっぱり 攻近単 高速のつっぱりは攻撃でもあり、鉄壁の防御にもなりえます。遠距離攻撃をなぎ払います。
鯖折 攻近単 怪力で締め上げます。
・闘技場組織員 12人
黒いスーツに身を包んだ戦闘員兼管理スタッフ。
銃を所持しているものの戦闘経験は浅い。操作室に6人。闘技場入場ゲートに3人。屋敷の地下闘技場への入り口に3人が配置されています。
・挑戦者の青年
ドミニクによって連れてこられた青年。年明けに婚約者との結婚を控えていました。突然拐われた上、何もわからずに武器を持たされ、闘技場に上げられました。
すでにラビィの手により全身を殴打され、立っているのもやっとの状態です。その命の灯火は消えようとしています。
・VIP客 12人
全員仮面をつけ、お互いの素性がばれないようしています。自由騎士が闘技場に突入すると慌てて逃げ出します。入場ゲートより先にVIPスペースに向かえば数名を捕縛することは可能ですがその場合、挑戦者の青年の救出には間に合いません。
※サポートの方が居る場合は、サポートの人数に合わせてデメリット無く捕まえる事が可能です。
●同行NPC
『ヌードルサバイバー』ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)
特に指示が無い場合は、回復サポートに従事します。
所持スキルはステータスシートをご確認ください。
皆様のご参加お待ちしております。
2018年最後はゲスいヤツラと共に。
改心する事などあるはずも無い底無しの悪意。自由騎士は闇に蠢くそれらを今日も粉砕するのです。
●ロケーション
首都近郊の別荘地にある、とある屋敷。
表立っては持ち主不明で放置されている事になっている。
その地下では夜な夜な闘技が行われていた。
禁止事項の一切無いパンクラチオン。
殆どは絶対的強者に対して宛がわれた挑戦者の一方的な虐殺である。その死すらも想定内。
賭けは勝敗ではなく、何分生き延びられるか。常軌を逸した闇の住人達の宴。
闘技場への最初の進入は、そのゲートの仕様上一人だけです。侵入者が現れた時点でロックされ、なんびとも中へ入る事はできなくなります。
(所謂コロッセオと同じような地下から競りあがってくるタイプの入場ゲートです)
仲間が闘技場の操作室を占拠するまでの間、一人で挑戦者の青年を庇いながら戦う必要があります。非常に危険な役割です。
まず屋敷内部から地下へ続く闘技場入り口へ進み、そのまま闘技場下部にある入場ゲートへ。そこでお一人が闘技場へ上がり、その間に残りの自由騎士の皆さんには入場ゲート付近の敵、さらには操作室に居る敵と戦っていただければと思います。闘技場絶対王者は大変強いため、如何に早く操作室を占拠し、闘技場に皆で雪崩れ込めるかが鍵となります。
・地下闘技場
屋敷の闘技場入り口から潜入すると、地下には闘技場、入場ゲートのある部屋(闘技場真下)、VIPスペース、操作室、謎の部屋があります。
闘技場には入場ゲートからしか入れません。また謎の部屋は屋敷の闘技場入り口からの通路からは行く事が出来ません。
●登場人物
・正体不明の男
この賭博の主催者。詳細は一切不明。奴隷制度がなくなった事で挑戦者を確保する事が出来なくなり、賭場は一時中断されていたが、ドミニクから挑戦者の提供を受け復活。VIPスペースとは別の場所から闘技を観覧していますが、自由騎士が突入したと同時に姿を消します。接触する事はできません。
・ドミニク・オーソリティ
この地下闘技に挑戦者という名の生贄を提供している男。
VIPスペースとは別の場所から闘技を観覧していますが、同じく自由騎士が突入したと同時に姿を消します。接触する事は出来ません。
・啼き虫ラビィ
身長2メートルを超える大男。ウサギのケモノビト。助けを請い、すがる相手に嗤いながら止めを刺す男。常に涙目のためこの異名で呼ばれている。闘技場での対戦成績は54勝0敗。闘技場の絶対王者。闘技場にて一方的な暴力による蹂躙中。
殴る。 攻近単 力まかせにただ殴る。それだけで必殺の威力です。
蹴る。 攻近範 丸太のように太い足で蹴り飛ばす。それだけで相手は吹き飛びます。【ノックB】
掴んで投げる。 攻近単 掴んで投げるただそれだけが致命傷になります。【ピヨ】【致命】【必殺】
我慢。 自付 気合と雄叫びで相手の遠距離攻撃を限りなく軽減します。
・道化のツェッペリン
闘技場控え選手。狂気のピエロ。オールモストのキジン。如何に残虐に挑戦者を始末し、美しい悲鳴を上げさせるかを追求している。操作室内で闘技の様子を嗤いながら観戦中。
対戦成績は13勝0敗。
投げ小刀 攻遠単 ナイフを投げて攻撃します【二連】【スクラッチ1】
死の輪舞 攻近範 死へと誘うバレエのような動きの連続攻撃です。
百笑 攻遠範 聞いたものを狂わせる狂気の笑い声です。【コンフュ1】【アンガー1】
・ヨコヅナ
最近参入した闘技場控え選手。アマノホカリの国技である相撲レスラー。オニヒト。立派な髷を結い、顔には歌舞伎役者のような隈取、背中には旭日の刺青を入れている。激しい稽古により2本の角のうち1本は折れている。高速のつっぱりで挑戦者の身体を深紅に染め、鯖折でその命を絶つ。小指一本で数百キロの貨物を持ち上げる怪力の持ち主。
対戦成績は4勝0敗。闘技場入場ゲートにて待機中。
張り手 攻近単 必殺の威力を持った張り手です。【ピヨ】
つっぱり 攻近単 高速のつっぱりは攻撃でもあり、鉄壁の防御にもなりえます。遠距離攻撃をなぎ払います。
鯖折 攻近単 怪力で締め上げます。
・闘技場組織員 12人
黒いスーツに身を包んだ戦闘員兼管理スタッフ。
銃を所持しているものの戦闘経験は浅い。操作室に6人。闘技場入場ゲートに3人。屋敷の地下闘技場への入り口に3人が配置されています。
・挑戦者の青年
ドミニクによって連れてこられた青年。年明けに婚約者との結婚を控えていました。突然拐われた上、何もわからずに武器を持たされ、闘技場に上げられました。
すでにラビィの手により全身を殴打され、立っているのもやっとの状態です。その命の灯火は消えようとしています。
・VIP客 12人
全員仮面をつけ、お互いの素性がばれないようしています。自由騎士が闘技場に突入すると慌てて逃げ出します。入場ゲートより先にVIPスペースに向かえば数名を捕縛することは可能ですがその場合、挑戦者の青年の救出には間に合いません。
※サポートの方が居る場合は、サポートの人数に合わせてデメリット無く捕まえる事が可能です。
●同行NPC
『ヌードルサバイバー』ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)
特に指示が無い場合は、回復サポートに従事します。
所持スキルはステータスシートをご確認ください。
皆様のご参加お待ちしております。

状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
6個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
6/6
6/6
公開日
2019年01月16日
2019年01月16日
†メイン参加者 6人†
●
「……ゲフッ」
静かに倒れる3人の黒服。護身用の銃は持てども戦闘に関してはずぶの素人。その銃声はただの一度も響く事なく、その意識は閉ざされた。
『キッシェ博覧会学芸員』ウィリアム・H・ウォルターズ(CL3000276)。普段は冷静沈着は彼も此度ばかりは違うようだ。
──ロクに戦えない一般人を放り込んで痛めつける催しか。なるほど、クズだな。胴元も、金を賭ける連中も。そして弱者を弄び悦に浸る配下共も。
依頼の第一報を受けたとき、すでに彼の心は決まっていた。
「一切容赦は無しだ。思い切り暴れさせて貰おうか」
その言葉には一切の迷いは無い。
「勝敗の決まりきった虐殺など観ていて何が楽しいのやら。蟻の巣に水を流し込む遊びをしている子供のほうが余程建設的ですね」
容姿と共にその比喩もまた独特な雰囲気を醸し出すのは『天辰』カスカ・セイリュウジ(CL3000019)。
「ははっ、まぁ別にいいんじゃね? 賭博上等、ただしやっていいのはお上に睨まれない程度までだな」
『本音が建前を凌駕する男』ニコラス・モラル(CL3000453)がいつものように本気か冗談かわからないような口調と表情で話す。
「ニコラスさん、それはちょっと……」
『慈悲の刃、葬送の剣』アリア・セレスティ(CL3000222)が軽く注意を促す。自由騎士としての活動の合間を惜しんではキッシェで勉学にも励むアリア。根が真面目なのだ。
「あれ、もしかしておじさん怒られちゃった? ごめんごめん」
ニコラスはそれでも普段どおりだ。そう、『表面上』は。
(クズどもが……昔を思い出しそうで胸糞悪いぜ。パンクラチオンなんざ元々そういうもんだが、奴隷制が撤廃されてんのに誘拐した上でってのが尚更だ。状況が状況なら真っ先にVIP客殴りに行ってやるのに)
誰にも知られる事の無いニコラスの言葉(本心)はそのまま自身によって飲み込まれる。そうしていつもどおり飄々とした態度で依頼をこなすのだ。
その後ろからすぅと現れたのは『艶師』蔡 狼華(CL3000451)。
闇に溶け込む様な色彩の戦闘服でありながら、髪に飾った花飾りは狼華を強烈に印象付けている。
「やんごとなきお方らはこう言ったお遊びがほんにお好きやなぁ……うちんとこ来てくれはった方がもっと楽しかろうに……まぁ、さっさと片しましょ。ここは臭ってしょうがありまへん」
そう言いながら狼華は手を顔の前で軽く振る仕草をする。
「急ぎましょう! 一刻も早く止めないと」
『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)が皆に声を掛けると、自由騎士達は楽しいショウの開催地へと続く階段を駆け下りていった。
●
途中二手に分かれた自由騎士達。
ニコラス、エルシー、カスカの3人は闘技場への唯一の出入り口である入場ゲートのある部屋へ向かっていた。
「おじさんとエルシーで敵を引きつける。その間に、な」
頼むぜ、とニコラスがカスカに目配せする。
「……まあ、やるだけやってみますよ」
そう言いながらもカスカは仲間が自分を信頼し、送り出してくれる事に心地よさのようなものも感じていた。
「……ここね。扉を開けたら一気にいくわよ」
勢いよく扉を開けるとそこには数名の黒服と関取風の男。
「むむっ!? 何奴でゴワス」
「何者だっ」
(……アレですね)
黒服と関取風の男が躊躇しているほんの数秒間。その間に第一段階は完了する。
関取風の男の後方に入場ゲートを確認したカスカは、すかさずその類稀なバランス感覚を発揮する。まるで地面と変わらぬ様子で壁を駆け抜け、空中二段飛びで一気に入場ゲートへ。
そのまま手元のボタンを操作し、ゲートを闘技場へと上昇させる。
「女が入場ゲートにっ!!!」
慌てふためく黒服。しかし関取風の男は違った。
「グワハハ。あれは途中じゃ止まらん。それに闘技場には絶対王者がおるんじゃ。心配せんでもよかろう。……それよりも」
男はそれぞれ一人ずつ黒服を難なく倒したニコラスとエルシーを交互に見る。
「ワシはヨコヅナいうモンじゃ。ここで闘士をやっちょる。お前ら何モンじゃぁ」
顎に手をやりにやりと笑うヨコヅナ。漲る闘気。独特な鍛錬による他とは一線を隔すフォルムの強靭な体躯。一目見ただけでも相当な実力者である事はわかる。
「エルシー。やっこさんかな~り強そうだぜ」
「そうね……でもやってやるわよ! よろしく! ニコラスさん」
そういうとエルシーは駆け出す。
「私は『緋色の拳』エルシー!! 勝負よ、ヨコヅナ!!」
「グワハハハ!! こいつはたまげた。しゃらくさいわっ!! 2人纏めてかかってこんかい!!」
ヨコヅナは豪快に笑いながら両腕を広げてみせる。
「生憎おじさんは殴り合いは嫌いでね。それにもう一人相手が残ってるんだよねー」
そういうとニコラスは残る黒服を片付けに向かう。
「くそっ!!」
黒服が銃を乱射する。
これではさすがに迂闊には近寄れないな──だが、ニコラスは同時にこうも考えていた。これでエルシーにその銃口が向かう事はないだろう、と。
「はぁぁぁぁぁーーーーっ!!!」
出会い頭の一撃は拳と張り手の衝突。互いの威力がぶつかり合い凄まじい衝撃を生む。
「むぅっ」
ヨコヅナの表情が瞬時に変わる。こやつただの小娘ではない。それは強者同士にしかわからぬ独特の感覚。
久しく忘れていた勝敗の読めない真の闘いに身を置く高揚感。
「グワハハハ!! こりゃ楽しめそうじゃわいっ!!」
「私の拳で打ち倒す!!」
エルシーとヨコヅナの壮絶なインファイトが始まった。
●
「……なんだ?」
「ゲート口が開いてるぞ!」
VIPルームでは仮面でその招待隠した観覧者たちが闘技場の異変を唱えていた。
それもそのはず闘技中にも関わらず、ゲート口が開き、ゲートがあがって来ているのだ。
途中参加などこれまで一度もない。一体ゲートから何が出てくるのか。固唾を呑んで見守る観覧者達。
そこには……身体に似合わないほどの長刀を携え、全身黒の衣装に身を包んだ少女の姿。
「おおーーー!! 新たな挑戦者かっ!?」
「これはこれは可憐な。主催は粋な演出をするじゃないか」
どよめくVIPルーム。
「……どういう事だ」
今まさに挑戦者に止めをさそうとしていたラビィはその手を止め、カスカの元へ歩み寄る。
「なんだ、お前は。こんな演出俺様は聞いてねえぞ」
シュッ。風を切る音がした。気づけばラビィの頬に一筋の切り傷。そこから鮮血が流れ出す。
「面白しれぇ……」
ラビィはその血を拭い、舐めとると鋭い眼光をカスカへ向ける。一般人であればこの眼力だけでも相当な圧力であろう。
「誰かを護りながら戦う経験はあまりないんですが……」
カスカが刀を構え、それに合わせてラビィがファイティングポーズをとる。
「面白れぇ。俺様も最近は殺しのワンパターンで飽きちまってたんだ。……オマエ知ってるか。ウサギってのはなぁ……万年発情期。絶倫なんだぜぇ……」
グヘヘと嗤いながら自らの下半身を弄るラビィ。
「全く可愛げの無いウサギですねぇ……その粗末なモノ切り落としてあげましょうか」
カスカの表情には冗談の欠片もない。
「気の強い女は嫌いじゃないぜぇ……そしてそういう女を力ずくで征服するのもなぁっ!!!」
ラビィのどす黒い欲望とその圧倒的な力が、カスカへ襲い掛かろうとしていた。
●
一方その頃、ゲートのコントロールを奪うため操作室へ向かった狼華、アリア、ウィリアムの3人は、部屋へ飛び込むなり手近に居た黒服を一人ずつ倒すと、そのままその場に居た者達との戦闘に入っていた。
「キョケケケケケ……クキョッ?……なんデすか、さわガしい人タちですねエ。クキョ」
一際目に付く異様に背の高い道化師風の男。その身体の殆どは機械。カタカタと音を鳴らしながら動く様はまるで操られたマリオネットのようだ。
「さて、どないなもんやろか」
狼華が妖艶な笑みを見せながら道化師に興味を見せる。
「狼華さん、あの道化師をひきつけておいていただけますか? その間に私は先ずは黒服をっ」
ふふ、と笑うと狼華は強化された速度に身体を預け、そのまま道化師へ切りかかっていく。
「クキョ……キョキョキョッ?……ケキョーーーーッ!!!」
狼華の動きに道化師が反応する。その動きはまるで人形舞踊。凡そ人のソレとは思えない動きから幾重にも攻撃が繰り出されてくる。
「おやおや、なんや楽しそうに踊りはりますなぁ……」
狼華はふふと笑うと、その衣装を戦闘服から美しい着物へ変化させる。
しなやかな手つきから生まれるその所作と艶やかな着物の柄。芸事で生きる狼華によって舞踊とは形だけでなくその風貌もまた重要なのだ。
「でも、踊りなら負けへんよ。どっちが美しいか、試してみはります?」
狼華の振り乱す着物の中にはそれはそれは美しい花が舞っていた。
「行きなさい、慈悲の刃!」
「……ぐはっ」
アリアの放った蛇腹剣の一撃が黒服を打ち抜く。
「なんなんだあの女の武器は!!」
凡そ剣とは思えない程変幻自在のそのリーチの長さに、黒服が思わずそう叫んでしまうのも無理は無かった。
萃う慈悲の祈り──それはアリアが闘いの中で破損した愛用の武器を今一度鍛えなおした武器。
奇しくもその剣自身を砕いた蛇腹剣として蘇った翠の刃は、アリアの祈りに応え再び闘いの舞台へ舞い戻ったのだ。
「……おかえり」
手元に戻した相棒に優しくそう話しかけると、アリアは残る黒服に目を向ける。
一刻も早く片付けなければ。道化師を相手取る狼華を横目にアリアは決着を急ぐ。
(思うように狙いきれないな……)
ウィリアムは狼華と交戦する道化師にステータス異常を付与せんと狙いを定めようとしていた。
激しく交差し、移動しながら剣を交える狼華と道化師。万が一にも狼華に攻撃が当たってしまう事はまかりならない。
ウィリアムが手にし、道化師へ浴びせんとするはティンクトラの雫──それは同時に3つの状態異常を発生させる強毒を含む炸薬。効果は絶大だがその消費もまた激しい。更に相手はオールモストのキジン。身体の殆どは機械だ。的確に生身の場所を狙わねば効果も薄いだろう。しかも闘いはこの場だけではない。魔力の無駄遣いは闘技場での戦いに影響を及ぼしかねない。冷静ゆえの様々な思慮がウィリアムを自ずと慎重にさせている。
(チャンスは必ずある。それを見逃さないようにしなければ)
そしてそのチャンスはすぐに訪れる。
アリアが最後の一人の黒服を倒し、その標的を道化師へ移したのだ。
「お待たせしましたっ」
アリアが狼華へ声を掛ける。
「なかなか楽しい舞踊でしたえ。アリアさんもご一緒します?」
狼華の衣装は幾重にも重ねられた剣激の衝突によって見るも無残な状況になっている。それでも狼華は余裕の笑みを絶やさない。それが狼華の誇りなのだ。
アリアが加わった事で状況は大きく動く。アリアが連携姿勢を強くとった事で生まれた狼華とアリアの流れるような連続攻撃に、道化師は対応しきれずじわじわと後れを取り始める。そしてそこには隙が生まれる。その瞬間を待っていた男がここにいる。
(この瞬間を待っていたんだ!!!)
ウィリアムがその手にした炸薬を道化師へ投げつける。
「ギョギャギェギョアギェーーーー!!!」
大量の炸薬を浴びせられのた打ち回る道化師。様々な状態異常が道化師の身体を蝕んでいく。
「チェックメイトだ」
ウィリアムの人形兵士が、狼華の最速の一撃が、そしてアリアの世界の理からの祝福によって得られた物理と魔導の混成連続攻撃が、人を殺め続けた狂気の道化師に止めをさす。
「くらえっ!!」
「これで仕舞いですえっ」
「クアッドストライクーーーーーーっ!!!!」
三者三様の攻撃が道化師を貫いた。
「……キョ……キョケ……ガ……ギィィィィィィィ!!!!!!」
最後まで人ならざる奇音を発しながら道化師は崩れ落ちた。
●
(それにしても……ウェイト差ありすぎじゃない?)
ヨコヅナを張りを裁き続けていたエルシー。体重の差は一撃の重さの差に大きく影響する。
エルシーも手数では負けていない。だが少しずつ押されているのはその圧倒的な体格差からくる重さだ。
ニコラスが回復に専念してくれているため、体力には不安は無い。だがこのまま長期戦にする訳にはいかないのだ。
「そういえば聞いた事があるわ。アマノホカリの相撲レスラーは強さだけじゃない。品格も兼ね備えた人間的にも優れた最高の戦士だってね」
拳を重ねながらエルシーがヨコヅナに語りかけるが、ヨコヅナは何も答えを返さない。
「そんな人がどうしてこんな事に加担して──」
エルシーの言葉を遮るようにヨコヅナが突進した。
「グワハハハ!! 油断したのう」
精神的に揺さぶる事に気をとられたエルシーがヨコヅナに捕まる。
「ワシにはワシの生き方があるんじゃ! ヌシラにわかるはずもなかろう……知ったような口を叩くな!!」
ヨコヅナはエルシーの腰に手を回す。鯖折で一気に決める気だ。
エルシーは何とか逃れようと攻撃するが、その攻撃はヨコヅナを止めるに至らない。
「ぐ……ぐぅうう……ふざ……」
これが同じ格闘家の……誇り高きアマノホカリの戦士のする事なのか──エルシーの中で何かが弾けた。
「ふざけるんじゃないわよーーーーーーーーーー!!!」
「グハァァァァーーーーッ!!!」
エルシーが放ったのは渾身の頭突き。無論エルシーも無事ではない。その美しい額からはおびただしい量の流血。皮膚が切れたのだ。
「はぁ……はぁ……私はそんなお行儀よくないわよ……誇りを捨てた貴方なんかには死んでも負けない」
ヨコヅナが見たもの。それは自分よりもふた周り以上小柄な、しかも女とは思えぬほどの勝利への渇望。そして圧倒的な気迫。
「さぁ……まだこれからよ。決着をつけましょう」
大量の血を流し、よろめきながらも戦うことをやめようしないエルシー。
「……ワシの負けじゃ」
ヨコヅナは降伏を宣言し、座り込んだ。その表情はどこか憑き物が落ちた抜け殻の様であった。
『エルシーさん聞こえる? 操作室は制圧したわ』
スピーカーからアリアの声がする。
『ゲートはいつでも動かせる。私たちもすぐそっちに向かうから!!』
「ニコラスさん、早く! 一緒に乗りましょう!!」
「え? これ一人用じゃないの? というよりまずは止血をっ」
「回復はゲートを上げながらでも出来るわ。急ぎましょう」
ニコラスはエルシーと共にゲートへ。
(おじさん、ちょっとこれ役得過ぎない?)
複雑な気持ちを抱くニコラスと血まみれのエルシーを乗せたゲートは2人を密着させたまま闘技場へと昇っていった。
●
「おいおいおいおい……どうなってやがんだ。またかよ」
ラビィが唾を吐き捨てる。
「ふふ、楽しいショウはもっと盛り上げないといけないですからね。追加の挑戦者の登場ですよ」
にやりと笑うカスカだったが、その身体はすでに限界を超え、悲鳴を上げていた。
普段とは違う他人を守りながらの攻防を、神経をすり減らしながらたった一人で続けてきたのだ。
「カスカさんっ!!」
ニコラスの回復によってなんとか出血の止まったエルシーがカスカへ駆け寄る。
「もう来ちゃいましたか。あと少し遅ければ倒してしまおうかと思っていたところですよ」
カスカから力が抜ける。エルシーはぐったりとしたカスカをニコラスへ預けると、ラビィへ一人対峙する。
「なんだオメェ。ボロボロじゃねぇか。ただヤられにきたのか?」
ラビィが醜悪な貌で嗤う。
「お前に負けるつもりは毛頭無い」
エルシーが構える。するとさらに──ゲートから次々現れる自由騎士達。6人全員が闘技場へ揃った。
「……オイオイちょっと待てよ。さすがにこりゃねえだろ。主催!! オイ!! 聞いてるのか!!!」
「もういないと思うぜ。だって俺達自由騎士だもの」
ニコラスが飄々と言う。
「なっ!? おいっ! どうなってんだ!!! 誰か答えろっ!!」
静寂。ラビィの声に反応するものは誰一人いない。
「クソがッ!! クソがっ!!! 俺様を置いて逃げやがったのか!!! クソがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ラビィが激高する。
「こうなりゃ、手段は選らばねぇ。お前達を皆殺しにしてでも俺様は生き残る。なぜなら俺様はこの闘技場の絶対王者!! ラビィ様だからだ!!!!!」
暴走したラビィが自由騎士達に襲い掛かる。そこにカスカを相手にしていたときのような冷静さは無い。闇雲に己が腕力に突き動かされるだけの存在。それが今の彼だった。
「動ける者全員で一斉にかかるぞ」
自由騎士全員が最後の力を振り絞る。そこから死闘はまさに総力戦だった。誰もが限界を迎えるその瞬間まで戦い抜いた。
そして──ほどなくラビィは、幾多の挑戦者達の命が散った闘技場の床の冷たさを、自らの身体で感じる事となる。
●
その後、建物内をくまなく調べる事により、主催とドミニクがいたと思われる部屋を発見した。しかしそこには何も痕跡は無く──唯一の痕跡はVIPルームで取得した黒いカードただ一枚であった。
この国の闇はどこまでも広く、ただただどす黒く、そして底知れず深い──。
──時を少し遡りVIPルーム。
そこには9人の別の自由騎士が居た。12人いた観覧者のうち8名を捕縛した彼ら。
ニコラスが飲み込んだ思いは決して彼だけが思った事ではなかったのだ。
「……ゲフッ」
静かに倒れる3人の黒服。護身用の銃は持てども戦闘に関してはずぶの素人。その銃声はただの一度も響く事なく、その意識は閉ざされた。
『キッシェ博覧会学芸員』ウィリアム・H・ウォルターズ(CL3000276)。普段は冷静沈着は彼も此度ばかりは違うようだ。
──ロクに戦えない一般人を放り込んで痛めつける催しか。なるほど、クズだな。胴元も、金を賭ける連中も。そして弱者を弄び悦に浸る配下共も。
依頼の第一報を受けたとき、すでに彼の心は決まっていた。
「一切容赦は無しだ。思い切り暴れさせて貰おうか」
その言葉には一切の迷いは無い。
「勝敗の決まりきった虐殺など観ていて何が楽しいのやら。蟻の巣に水を流し込む遊びをしている子供のほうが余程建設的ですね」
容姿と共にその比喩もまた独特な雰囲気を醸し出すのは『天辰』カスカ・セイリュウジ(CL3000019)。
「ははっ、まぁ別にいいんじゃね? 賭博上等、ただしやっていいのはお上に睨まれない程度までだな」
『本音が建前を凌駕する男』ニコラス・モラル(CL3000453)がいつものように本気か冗談かわからないような口調と表情で話す。
「ニコラスさん、それはちょっと……」
『慈悲の刃、葬送の剣』アリア・セレスティ(CL3000222)が軽く注意を促す。自由騎士としての活動の合間を惜しんではキッシェで勉学にも励むアリア。根が真面目なのだ。
「あれ、もしかしておじさん怒られちゃった? ごめんごめん」
ニコラスはそれでも普段どおりだ。そう、『表面上』は。
(クズどもが……昔を思い出しそうで胸糞悪いぜ。パンクラチオンなんざ元々そういうもんだが、奴隷制が撤廃されてんのに誘拐した上でってのが尚更だ。状況が状況なら真っ先にVIP客殴りに行ってやるのに)
誰にも知られる事の無いニコラスの言葉(本心)はそのまま自身によって飲み込まれる。そうしていつもどおり飄々とした態度で依頼をこなすのだ。
その後ろからすぅと現れたのは『艶師』蔡 狼華(CL3000451)。
闇に溶け込む様な色彩の戦闘服でありながら、髪に飾った花飾りは狼華を強烈に印象付けている。
「やんごとなきお方らはこう言ったお遊びがほんにお好きやなぁ……うちんとこ来てくれはった方がもっと楽しかろうに……まぁ、さっさと片しましょ。ここは臭ってしょうがありまへん」
そう言いながら狼華は手を顔の前で軽く振る仕草をする。
「急ぎましょう! 一刻も早く止めないと」
『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)が皆に声を掛けると、自由騎士達は楽しいショウの開催地へと続く階段を駆け下りていった。
●
途中二手に分かれた自由騎士達。
ニコラス、エルシー、カスカの3人は闘技場への唯一の出入り口である入場ゲートのある部屋へ向かっていた。
「おじさんとエルシーで敵を引きつける。その間に、な」
頼むぜ、とニコラスがカスカに目配せする。
「……まあ、やるだけやってみますよ」
そう言いながらもカスカは仲間が自分を信頼し、送り出してくれる事に心地よさのようなものも感じていた。
「……ここね。扉を開けたら一気にいくわよ」
勢いよく扉を開けるとそこには数名の黒服と関取風の男。
「むむっ!? 何奴でゴワス」
「何者だっ」
(……アレですね)
黒服と関取風の男が躊躇しているほんの数秒間。その間に第一段階は完了する。
関取風の男の後方に入場ゲートを確認したカスカは、すかさずその類稀なバランス感覚を発揮する。まるで地面と変わらぬ様子で壁を駆け抜け、空中二段飛びで一気に入場ゲートへ。
そのまま手元のボタンを操作し、ゲートを闘技場へと上昇させる。
「女が入場ゲートにっ!!!」
慌てふためく黒服。しかし関取風の男は違った。
「グワハハ。あれは途中じゃ止まらん。それに闘技場には絶対王者がおるんじゃ。心配せんでもよかろう。……それよりも」
男はそれぞれ一人ずつ黒服を難なく倒したニコラスとエルシーを交互に見る。
「ワシはヨコヅナいうモンじゃ。ここで闘士をやっちょる。お前ら何モンじゃぁ」
顎に手をやりにやりと笑うヨコヅナ。漲る闘気。独特な鍛錬による他とは一線を隔すフォルムの強靭な体躯。一目見ただけでも相当な実力者である事はわかる。
「エルシー。やっこさんかな~り強そうだぜ」
「そうね……でもやってやるわよ! よろしく! ニコラスさん」
そういうとエルシーは駆け出す。
「私は『緋色の拳』エルシー!! 勝負よ、ヨコヅナ!!」
「グワハハハ!! こいつはたまげた。しゃらくさいわっ!! 2人纏めてかかってこんかい!!」
ヨコヅナは豪快に笑いながら両腕を広げてみせる。
「生憎おじさんは殴り合いは嫌いでね。それにもう一人相手が残ってるんだよねー」
そういうとニコラスは残る黒服を片付けに向かう。
「くそっ!!」
黒服が銃を乱射する。
これではさすがに迂闊には近寄れないな──だが、ニコラスは同時にこうも考えていた。これでエルシーにその銃口が向かう事はないだろう、と。
「はぁぁぁぁぁーーーーっ!!!」
出会い頭の一撃は拳と張り手の衝突。互いの威力がぶつかり合い凄まじい衝撃を生む。
「むぅっ」
ヨコヅナの表情が瞬時に変わる。こやつただの小娘ではない。それは強者同士にしかわからぬ独特の感覚。
久しく忘れていた勝敗の読めない真の闘いに身を置く高揚感。
「グワハハハ!! こりゃ楽しめそうじゃわいっ!!」
「私の拳で打ち倒す!!」
エルシーとヨコヅナの壮絶なインファイトが始まった。
●
「……なんだ?」
「ゲート口が開いてるぞ!」
VIPルームでは仮面でその招待隠した観覧者たちが闘技場の異変を唱えていた。
それもそのはず闘技中にも関わらず、ゲート口が開き、ゲートがあがって来ているのだ。
途中参加などこれまで一度もない。一体ゲートから何が出てくるのか。固唾を呑んで見守る観覧者達。
そこには……身体に似合わないほどの長刀を携え、全身黒の衣装に身を包んだ少女の姿。
「おおーーー!! 新たな挑戦者かっ!?」
「これはこれは可憐な。主催は粋な演出をするじゃないか」
どよめくVIPルーム。
「……どういう事だ」
今まさに挑戦者に止めをさそうとしていたラビィはその手を止め、カスカの元へ歩み寄る。
「なんだ、お前は。こんな演出俺様は聞いてねえぞ」
シュッ。風を切る音がした。気づけばラビィの頬に一筋の切り傷。そこから鮮血が流れ出す。
「面白しれぇ……」
ラビィはその血を拭い、舐めとると鋭い眼光をカスカへ向ける。一般人であればこの眼力だけでも相当な圧力であろう。
「誰かを護りながら戦う経験はあまりないんですが……」
カスカが刀を構え、それに合わせてラビィがファイティングポーズをとる。
「面白れぇ。俺様も最近は殺しのワンパターンで飽きちまってたんだ。……オマエ知ってるか。ウサギってのはなぁ……万年発情期。絶倫なんだぜぇ……」
グヘヘと嗤いながら自らの下半身を弄るラビィ。
「全く可愛げの無いウサギですねぇ……その粗末なモノ切り落としてあげましょうか」
カスカの表情には冗談の欠片もない。
「気の強い女は嫌いじゃないぜぇ……そしてそういう女を力ずくで征服するのもなぁっ!!!」
ラビィのどす黒い欲望とその圧倒的な力が、カスカへ襲い掛かろうとしていた。
●
一方その頃、ゲートのコントロールを奪うため操作室へ向かった狼華、アリア、ウィリアムの3人は、部屋へ飛び込むなり手近に居た黒服を一人ずつ倒すと、そのままその場に居た者達との戦闘に入っていた。
「キョケケケケケ……クキョッ?……なんデすか、さわガしい人タちですねエ。クキョ」
一際目に付く異様に背の高い道化師風の男。その身体の殆どは機械。カタカタと音を鳴らしながら動く様はまるで操られたマリオネットのようだ。
「さて、どないなもんやろか」
狼華が妖艶な笑みを見せながら道化師に興味を見せる。
「狼華さん、あの道化師をひきつけておいていただけますか? その間に私は先ずは黒服をっ」
ふふ、と笑うと狼華は強化された速度に身体を預け、そのまま道化師へ切りかかっていく。
「クキョ……キョキョキョッ?……ケキョーーーーッ!!!」
狼華の動きに道化師が反応する。その動きはまるで人形舞踊。凡そ人のソレとは思えない動きから幾重にも攻撃が繰り出されてくる。
「おやおや、なんや楽しそうに踊りはりますなぁ……」
狼華はふふと笑うと、その衣装を戦闘服から美しい着物へ変化させる。
しなやかな手つきから生まれるその所作と艶やかな着物の柄。芸事で生きる狼華によって舞踊とは形だけでなくその風貌もまた重要なのだ。
「でも、踊りなら負けへんよ。どっちが美しいか、試してみはります?」
狼華の振り乱す着物の中にはそれはそれは美しい花が舞っていた。
「行きなさい、慈悲の刃!」
「……ぐはっ」
アリアの放った蛇腹剣の一撃が黒服を打ち抜く。
「なんなんだあの女の武器は!!」
凡そ剣とは思えない程変幻自在のそのリーチの長さに、黒服が思わずそう叫んでしまうのも無理は無かった。
萃う慈悲の祈り──それはアリアが闘いの中で破損した愛用の武器を今一度鍛えなおした武器。
奇しくもその剣自身を砕いた蛇腹剣として蘇った翠の刃は、アリアの祈りに応え再び闘いの舞台へ舞い戻ったのだ。
「……おかえり」
手元に戻した相棒に優しくそう話しかけると、アリアは残る黒服に目を向ける。
一刻も早く片付けなければ。道化師を相手取る狼華を横目にアリアは決着を急ぐ。
(思うように狙いきれないな……)
ウィリアムは狼華と交戦する道化師にステータス異常を付与せんと狙いを定めようとしていた。
激しく交差し、移動しながら剣を交える狼華と道化師。万が一にも狼華に攻撃が当たってしまう事はまかりならない。
ウィリアムが手にし、道化師へ浴びせんとするはティンクトラの雫──それは同時に3つの状態異常を発生させる強毒を含む炸薬。効果は絶大だがその消費もまた激しい。更に相手はオールモストのキジン。身体の殆どは機械だ。的確に生身の場所を狙わねば効果も薄いだろう。しかも闘いはこの場だけではない。魔力の無駄遣いは闘技場での戦いに影響を及ぼしかねない。冷静ゆえの様々な思慮がウィリアムを自ずと慎重にさせている。
(チャンスは必ずある。それを見逃さないようにしなければ)
そしてそのチャンスはすぐに訪れる。
アリアが最後の一人の黒服を倒し、その標的を道化師へ移したのだ。
「お待たせしましたっ」
アリアが狼華へ声を掛ける。
「なかなか楽しい舞踊でしたえ。アリアさんもご一緒します?」
狼華の衣装は幾重にも重ねられた剣激の衝突によって見るも無残な状況になっている。それでも狼華は余裕の笑みを絶やさない。それが狼華の誇りなのだ。
アリアが加わった事で状況は大きく動く。アリアが連携姿勢を強くとった事で生まれた狼華とアリアの流れるような連続攻撃に、道化師は対応しきれずじわじわと後れを取り始める。そしてそこには隙が生まれる。その瞬間を待っていた男がここにいる。
(この瞬間を待っていたんだ!!!)
ウィリアムがその手にした炸薬を道化師へ投げつける。
「ギョギャギェギョアギェーーーー!!!」
大量の炸薬を浴びせられのた打ち回る道化師。様々な状態異常が道化師の身体を蝕んでいく。
「チェックメイトだ」
ウィリアムの人形兵士が、狼華の最速の一撃が、そしてアリアの世界の理からの祝福によって得られた物理と魔導の混成連続攻撃が、人を殺め続けた狂気の道化師に止めをさす。
「くらえっ!!」
「これで仕舞いですえっ」
「クアッドストライクーーーーーーっ!!!!」
三者三様の攻撃が道化師を貫いた。
「……キョ……キョケ……ガ……ギィィィィィィィ!!!!!!」
最後まで人ならざる奇音を発しながら道化師は崩れ落ちた。
●
(それにしても……ウェイト差ありすぎじゃない?)
ヨコヅナを張りを裁き続けていたエルシー。体重の差は一撃の重さの差に大きく影響する。
エルシーも手数では負けていない。だが少しずつ押されているのはその圧倒的な体格差からくる重さだ。
ニコラスが回復に専念してくれているため、体力には不安は無い。だがこのまま長期戦にする訳にはいかないのだ。
「そういえば聞いた事があるわ。アマノホカリの相撲レスラーは強さだけじゃない。品格も兼ね備えた人間的にも優れた最高の戦士だってね」
拳を重ねながらエルシーがヨコヅナに語りかけるが、ヨコヅナは何も答えを返さない。
「そんな人がどうしてこんな事に加担して──」
エルシーの言葉を遮るようにヨコヅナが突進した。
「グワハハハ!! 油断したのう」
精神的に揺さぶる事に気をとられたエルシーがヨコヅナに捕まる。
「ワシにはワシの生き方があるんじゃ! ヌシラにわかるはずもなかろう……知ったような口を叩くな!!」
ヨコヅナはエルシーの腰に手を回す。鯖折で一気に決める気だ。
エルシーは何とか逃れようと攻撃するが、その攻撃はヨコヅナを止めるに至らない。
「ぐ……ぐぅうう……ふざ……」
これが同じ格闘家の……誇り高きアマノホカリの戦士のする事なのか──エルシーの中で何かが弾けた。
「ふざけるんじゃないわよーーーーーーーーーー!!!」
「グハァァァァーーーーッ!!!」
エルシーが放ったのは渾身の頭突き。無論エルシーも無事ではない。その美しい額からはおびただしい量の流血。皮膚が切れたのだ。

「はぁ……はぁ……私はそんなお行儀よくないわよ……誇りを捨てた貴方なんかには死んでも負けない」
ヨコヅナが見たもの。それは自分よりもふた周り以上小柄な、しかも女とは思えぬほどの勝利への渇望。そして圧倒的な気迫。
「さぁ……まだこれからよ。決着をつけましょう」
大量の血を流し、よろめきながらも戦うことをやめようしないエルシー。
「……ワシの負けじゃ」
ヨコヅナは降伏を宣言し、座り込んだ。その表情はどこか憑き物が落ちた抜け殻の様であった。
『エルシーさん聞こえる? 操作室は制圧したわ』
スピーカーからアリアの声がする。
『ゲートはいつでも動かせる。私たちもすぐそっちに向かうから!!』
「ニコラスさん、早く! 一緒に乗りましょう!!」
「え? これ一人用じゃないの? というよりまずは止血をっ」
「回復はゲートを上げながらでも出来るわ。急ぎましょう」
ニコラスはエルシーと共にゲートへ。
(おじさん、ちょっとこれ役得過ぎない?)
複雑な気持ちを抱くニコラスと血まみれのエルシーを乗せたゲートは2人を密着させたまま闘技場へと昇っていった。
●
「おいおいおいおい……どうなってやがんだ。またかよ」
ラビィが唾を吐き捨てる。
「ふふ、楽しいショウはもっと盛り上げないといけないですからね。追加の挑戦者の登場ですよ」
にやりと笑うカスカだったが、その身体はすでに限界を超え、悲鳴を上げていた。
普段とは違う他人を守りながらの攻防を、神経をすり減らしながらたった一人で続けてきたのだ。
「カスカさんっ!!」
ニコラスの回復によってなんとか出血の止まったエルシーがカスカへ駆け寄る。
「もう来ちゃいましたか。あと少し遅ければ倒してしまおうかと思っていたところですよ」
カスカから力が抜ける。エルシーはぐったりとしたカスカをニコラスへ預けると、ラビィへ一人対峙する。
「なんだオメェ。ボロボロじゃねぇか。ただヤられにきたのか?」
ラビィが醜悪な貌で嗤う。
「お前に負けるつもりは毛頭無い」
エルシーが構える。するとさらに──ゲートから次々現れる自由騎士達。6人全員が闘技場へ揃った。
「……オイオイちょっと待てよ。さすがにこりゃねえだろ。主催!! オイ!! 聞いてるのか!!!」
「もういないと思うぜ。だって俺達自由騎士だもの」
ニコラスが飄々と言う。
「なっ!? おいっ! どうなってんだ!!! 誰か答えろっ!!」
静寂。ラビィの声に反応するものは誰一人いない。
「クソがッ!! クソがっ!!! 俺様を置いて逃げやがったのか!!! クソがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ラビィが激高する。
「こうなりゃ、手段は選らばねぇ。お前達を皆殺しにしてでも俺様は生き残る。なぜなら俺様はこの闘技場の絶対王者!! ラビィ様だからだ!!!!!」
暴走したラビィが自由騎士達に襲い掛かる。そこにカスカを相手にしていたときのような冷静さは無い。闇雲に己が腕力に突き動かされるだけの存在。それが今の彼だった。
「動ける者全員で一斉にかかるぞ」
自由騎士全員が最後の力を振り絞る。そこから死闘はまさに総力戦だった。誰もが限界を迎えるその瞬間まで戦い抜いた。
そして──ほどなくラビィは、幾多の挑戦者達の命が散った闘技場の床の冷たさを、自らの身体で感じる事となる。
●
その後、建物内をくまなく調べる事により、主催とドミニクがいたと思われる部屋を発見した。しかしそこには何も痕跡は無く──唯一の痕跡はVIPルームで取得した黒いカードただ一枚であった。
この国の闇はどこまでも広く、ただただどす黒く、そして底知れず深い──。
──時を少し遡りVIPルーム。
そこには9人の別の自由騎士が居た。12人いた観覧者のうち8名を捕縛した彼ら。
ニコラスが飲み込んだ思いは決して彼だけが思った事ではなかったのだ。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
称号付与
特殊成果
『黒いカード』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員
†あとがき†
楽しいショウは閉幕しました。
後の調査でヨコヅナは一人も挑戦者を殺していなかった事が判明。彼はどんなにその身を堕とそうともその最後の誇りまでは失っていなかったのです。
挑戦者の青年も手厚く看護され快方に向かっているようです。
MVPは見事耐え抜いた貴方へ。貴方のおかげで一人の若者の命と未来が守られました。
ご参加ありがとうございました。
感想などいただければ幸いです。
後の調査でヨコヅナは一人も挑戦者を殺していなかった事が判明。彼はどんなにその身を堕とそうともその最後の誇りまでは失っていなかったのです。
挑戦者の青年も手厚く看護され快方に向かっているようです。
MVPは見事耐え抜いた貴方へ。貴方のおかげで一人の若者の命と未来が守られました。
ご参加ありがとうございました。
感想などいただければ幸いです。
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