MagiaSteam
奴隷市場




「おら、さっさと歩け!」
 鞭打たれ人々は重い足を動かし続ける。その目には一様に光はない。派手な音を響かせる鞭に導かれて、人々は所定の場所に陳列される。

「ああ、旦那。こちらなんてどうでしょう?」
 ある商人が身なりのいい男性に1人の亜人を指し示した。その亜人はまだ幼く少女と幼子の間ほどの見た目である。襤褸一枚だけを纏ったその少女は、光のない目で男性を見上げる。
「ふむ……見た目は悪くないな」
 男性は上から下まで少女を舐めるように見て口角を上げた。
「……それを買おう」
「毎度ありがとうございます、旦那!」
 金銭の詰まった麻袋を商人に渡した男性は少女の首に繋がる鎖を掴み遠慮なしに引く。それに引かれて少女は無言で男性の後に続いた。

 一方で別の商人は通りかかった女性に声をかけている。
「おお、そこのマダム! どうです、おひとつ!」
「そうねぇ……最近労働用のものが欲しかったのよ」
 商人に引っぱられ床に倒れ伏した青年の亜人の顎をつま先で上げながら、女性は顎に手を当てて考える。
「でも、これは好みじゃないわ」
 そう言って女性はそのままつま先で青年の顔を蹴り飛ばした。
「あれま、そうでしたか……では、こちらなんてどうでしょう?」
 蹴り飛ばされた青年には見向きもせず、商人は次の商品を取り出した。
 そんなやりとりの傍らで品定めをしながら別の女性と男性が世話話に花を咲かせていた。
「そういえば、お宅は例のオークションには行かれます?」
「ああ。良さそうなものがあればいいんだがな……」
 見ているものは亜人だが、その目は物を見る目であった。

 愛玩、性欲処理、家具、労働。利用用途は様々。そんな商品が揃う市場。
 生命に値段が付けられる場所――それが奴隷市場。


 奴隷解放組織フリーエンジンからの依頼。内容は至って簡潔。
 それは、奴隷市場の制圧。
 ヘルメリアのとある屋敷では毎日、それこそ生活必需品を買うかのように奴隷の売買が行われているという。屋敷に潜入して奴隷商人を制圧し奴隷を解放してほしいといった依頼だ。
 どうかよろしく、と告げられて君達はその屋敷へと向かった。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
対人戦闘
担当ST
酒谷
■成功条件
1.奴隷商人の制圧
2.奴隷の解放
 こんにちは、酒谷です。
 今回はヘルメリアにて奴隷商人の制圧および奴隷解放の依頼です。

●敵情報
・奴隷商人×4
 ヘルメリアの奴隷市場で奴隷を売る商人です。特に力もなく基本的には警備兵に戦わせて自身らは裏口から逃亡をはかります。

攻撃方法
・斬りつけ 攻撃/近距離/単体
 護身用として持っている剣で斬りつけます。

・警備兵A×2
 奴隷として買われ警備用として調教された亜人です。奴隷商人の命令に絶対服従で奴隷商人を守るために戦うように調教されています。【サテライトエイム Lv1】を使用している状態で、基本的に奴隷商人を守るように立ち回ります。

攻撃方法
・ヘッドショット Lv2 攻撃/遠距離/単体【致命】
・バレッジファイヤ Lv1 攻撃/遠距離/敵全体

・警備兵B×4
 奴隷として買われ警備用として調教された亜人です。奴隷商人の命令に絶対服従で奴隷商人を守るために戦うように調教されています。【パリィング Lv1】を使用している状態で、基本的に奴隷商人たちの前で構えています。

攻撃方法
・シールドバッシュ Lv1 攻撃/遠距離/単体【ノックバック】

●場所情報
・奴隷市場
 大きな屋敷の中で奴隷売買をしています。屋敷への潜入口は正面玄関と裏口、他は数箇所ある窓です。窓には鍵がかかっていますが、正面玄関と裏口には鍵がかかっていません。正面玄関は基本的に奴隷を購入しにした客用です。裏口は奴隷商人の通用口となっております。客や奴隷商人を装うならば潜入後の奇襲により先手を取ることができるでしょう。窓なども静かに鍵開けができるのならば奇襲ができるかもしれません。
 室内に関してましては、明かり・足場ともに特に問題ありません。しかし、狭くはないですが柱などの障害物があるので人によっては立ち回りを考えなければならないかもしれません。

●その他
 奴隷商人たちは自分達が助かるためならば商品である奴隷を使い捨ての駒のように使うでしょう。また、奴隷商人や奴隷、警備兵以外に奴隷を購入しにきた客もいますが、彼らは戦闘が始まると同時に正面玄関から逃げようとします。
 奴隷商人や奴隷を購入しにきた客の生死は問いません。処遇は自由騎士のみなさまに一任します。また、警備兵も奴隷解放の対象となります。助けられる人はなるべく助けてあげてください。
状態
完了
報酬マテリア
2個  6個  2個  2個
9モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
8/8
公開日
2019年07月27日

†メイン参加者 8人†




 自由騎士達はフリーエンジンから得た情報を元に奴隷市場が開かれているという屋敷の近くまでやってきた。そこで正面玄関からの潜入組と裏口での待機組に分かれる。潜入組は『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)、『太陽の笑顔』カノン・イスルギ(CL3000025)、『演技派』ルーク・H・アルカナム(CL3000490)、『慈悲の刃、葬送の剣』アリア・セレスティ(CL3000222)、『その過去は消えぬけど』ニコラス・モラル(CL3000453)の計五人だ。他の三人、『殲滅弾頭』ザルク・ミステル(CL3000067)、『クマの捜査官』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)、『鋼壁の』アデル・ハビッツ(CL3000496)は裏口で待機することになっている。
「なら、俺達はここから別行動だな」
 フード付きのマントを被って正体を隠したアデルに続いて、包帯やローブなどで変装したウェルスとザルクも裏口へと向かう。裏口に到着したアデルは扉の前に陣取ってさもそこにいるのが当然というような空気を作り出す。その姿はさながら裏口の警備をしている人間だ、少々ガラが悪そうに見えるが。ウェルスは裏口の死角で奇襲の準備を始める。ザルクもウェルスとは別の場所で攻撃準備をはじめた。

 一方、正面玄関潜入組も行動を開始していた。
 ――お芝居で奴隷役を演じる事はあるしそれ自体は問題ない、けど本当に奴隷になるのは嫌だし誰かを奴隷にする奴は大嫌い、きっと奴隷達を救ってみせる。カノンはそう心の中で闘志を燃やしていた。
「じゃ、ルークおにーさんよろしくね」
 言いながらカノンは奴隷用の首輪を模したものをルークに装着してもらう。彼はよろしくなと返事を返して取り付けを完了させると、被っていた帽子を取り前髪で目元を隠す。これからルークはヘルメリアの一般人を、カノンは彼の奴隷を演じながら奴隷市場という舞台に上がるのだ。
 その傍らでエルシーはカツラを被ってバトルコスチュームの上から一般市民の服を着て客を装う。アリアも武器などをマキナ=ギアにしまって無害な一般人を装う。彼女達は互いの装いを確認しあって互いにオーケーサインを出した。
 双方の準備が整ったのを見たニコラスは髪の水量をゼロにしてノウブルに交じることができる状態にした。
 そして、五人は打ち合わせ通りに屋敷へと向かった。


 屋敷の正面玄関が開く。その音に客の一人がそちらを向いた。そこには灰色の髪で目元を隠した男性がいた。傍らには鎖に繋がれて光なき瞳で男性に従順に付き従う小柄な亜人がいる。その首に奴隷用の首輪をしていることから男性の奴隷なのだろうと客は判断した。男性は何かを探すように周りを見渡している。それに気付いた客は男性に近付いて声をかけた。
「お兄さん、何かお探しかな?」
 声をかけられた男性、ルークは新しい奴隷を探してるんだと言った。
「今連れている奴隷の調教が概ね済んだのでまた新しい奴隷が欲しくなってな」
 ルークが自身の奴隷役のカノンを指しながら続けると、調教用ならと一人の商人を指す。
「あそこのオヤジが活きの良いヤツを扱ってるぞ」
 その言葉に従うようにルークとカノンはその商人の方に足を向けた。

 ルークとカノンのペアから少し時間を置いてエルシーが市場へとやってきた。彼女は少しだけ周りを見渡すと近くにいる商人に近付いていった。彼女に気付いた商人は笑顔で声をかける。
「レディ、本日は何をお探しですか?」
 三十代程に見える比較的若い商人だ。
「今日は若くてイケメンで毛深くない奴隷が欲しくて来たのよ。いいコはいるかしら」
「それなら、こちらはどうでしょうか?」
 商人は檻の中にいる一人を差し出す。その奴隷は少々痩せこけてはいるが顔立ちは整っていた。
「悪くはないわね。他も見せてもらっていいかしら?」
「ええ、もちろん」
 商人は快諾してエルシーに商品を一つずつ紹介していった。

 エルシーから少し間を置いて市場に入ってきたのはアリアだ。彼女は何かを探す、というよりは初めての物を見るように周りを見ていた。実際、彼女は奴隷市場など初めてである。そんな彼女の様子に気付いた客の一人が彼女に近付く。
「ここは初めてかしら?」
 女性客は緩やかな笑みを浮かべながらアリアに声をかけた。
「ここで奴隷を探して来いって言われて……」
「そうなの。もしかして、奴隷を買うのが初めて?」
 アリアが女性客の言葉に頷くと良かったら案内するわと女性客は申し出た。アリアは礼を言うと女性客の言葉に甘えて市場を案内してもらうことにした。

 最後に市場に入ってきたのはニコラスだ。彼はそうとはわからないくらいの速度で足早に市場の中を一周しながら窓の錠をひっそりと潰していく。そのあとは気にかけられない程度に動きつつ入り口付近で待機した。


「いらっしゃいませ、旦那」
 ルークが紹介された商人は中年の男性であった。
「今日は調教できそうな奴隷を探しに来たんだが」
「なるほど。ちょっとお待ち下さいね……」
 そう言うと商人は後ろにあった檻から一人の奴隷を出す。鎖に繋がれた奴隷は商人の強引な動きによりルークとカノンの目の前に引きずり出された。
「コイツは活きが良いですし丈夫ですよ」
 商品の亜人は威嚇するかのような目でルークを見ている。
「これは調教しがいがありそうだな。他にはどんなのがいるんだ?」
「一からの調教できそうなのはあと三人ですね。他は大人しめなのが四人ですよ」
 あとはあそこの主人が少し持ってきてるそうですよ、と商人は近くの別の商人を指した。ルークはそちらに目を向けてその流れで周囲を見る。
「今日はここにいる商人は四人で全員なのか?」
「ええ、そうですよ。あ、もしかして旦那はここは初めてですかね」
「ああ、そうなんだ。だから少しここの仕組みを教えてくれるとありがたい」
 口元に笑みを浮かべてルークは商人の警戒を解きにかかる。それに流され商人はいいですよと快諾した。
「日によって商人は変わりますが大体四人から五人くらいが商売してますね」
「へぇ。……そこの亜人も商品かな?」
 ルークは商人の近くにいる亜人を指す。それは目の前に出された奴隷と違って銃で武装をしていた。
「いえ、それはこの市場の中を巡回してる警護兵ですよ」
「そうなのか。とすると見た感じ、警備のための兵はこの市場には六人いるのか?」
「そうですよ。基本的に玄関口にガード用が二人、関係者用の方にも二人、巡回用に銃を持ったのが二人ですね。何かあってもすぐ警護兵が動いてくれるので安心してください」
「それはありがたいな。そういえば、商品はこの檻の中にいるので全部か?」
「ええ。別室もあるにはあるんですが、そこに置いといて何か問題を起こされると困るでしょう? ですから、ここを使う商人は基本的に商品は全てここに並べてるんです」
 なるほどとルークは頷き、再び周囲を見渡した。ここのように檻に入れられている者もいれば、まさしく商品のように陳列されている者もいた。
「今いる奴隷は三十人程か。結構選り取り見取りなんだな」
「そうなんですよ。それに商品は大体日替わりするので毎日来ても飽きませんよ」
 そう言って商人は笑みを浮かべた。その笑みを見ながらルークは気付かれないように、だそうだと呟きながらタイピンに触れた。


「商人は四人、警護兵が六人、奴隷は三十だそうだ」
 裏口で待機していたザルクがルークからの情報を伝える。
「了解した。見たところ、確かにそれ以外の人物は建物内にはいないようだ。怪しげな物音もしない」
 警備の人間を装いながらリュンケウスの瞳で建物内を透視していたアデルが報告する。
「俺の方も了解だ。それと準備も完了だ。アデルの旦那とザルクの旦那はどうだ」
 ロストペインをかけてすぐにでも銃を撃てる状態にしたウェルスは二人に尋ねる。
「俺の方も問題ない」
「なら、表の方にそう伝えるぜ」
 アデルの返答を聞いたザルクがマキナ=ギアを通じてルークに配置完了を伝えた。


「ところで、どんな子を探してるの?」
 アリアを案内してくれている女性客がふと彼女に尋ねた。
「えっと……一緒に、楽しく遊んでくれる人が良いです」
「随分可愛らしい要望ね」
 それだったらと女性客は入り口から見て左手側にいる商人の方へアリアを案内した。いらっしゃいと声をかけてきた商人にお辞儀をしてアリアは商人の奥に並べられている奴隷達を見た。その様子を見て女性客は近くで見てみる? とアリアに提案する。
「できるんですか?」
 女性客はもちろんよと言って商人の方に交渉した。商人は快く頷いて商品の一つを前に出す。亜人はぼんやりとした瞳でアリアを見る。
「貴方は、一緒に楽しく遊んだり料理したりお菓子を作ったり。それから一緒に、時には剣を取り、大切なものを護ったり……」
 そこでやや大きめな鎖の音がした。


 ルークは差し出されていた奴隷を指してそれを貰おうと言った。毎度ありがとうございますといいながら商人は亜人に繋がれた鎖をルークに差し出す。ルークはそれを受け取らず無駄に大きな音を立ててカノンに繋がれた鎖を引いた。鎖の音に誰もがなんとなしにルークの方を見る。
「持っていろ」
 指示されたカノンは反抗することもなく暗い瞳のまま商人の差し出している鎖を持つ。その間にルークは口元の笑みを消し、前髪を整え、取り出した帽子を被る。
 それが合図だった。
「奴隷の購入代金だ。釣りはいらない」
「そう、貴方達は、そんな自由な生活を送って良いのよ!」
 ルークの静かな声とアリアの力強い声が同時に響き、銃声と風を切る音がした。
 奴隷市場という舞台の幕が下りた。ここからは奴隷市場という戦場だ。

 突然のことに我先にと商人達は逃げ出す。商品である奴隷と己の命、天秤は己に傾いたようだった。ルークが今さっきまで話していた商人も逃げ出そうとしたがルークの初撃で足を撃ち抜かれて動くに動けなかった。剣で抵抗する商人の足をルークは再びピンポイントシュートで撃ち抜こうとする。しかし、そこに盾を持った警護兵が割り込んできた。ならばとルークは警護兵の死角を伺いはじめる。
 カノンは先程の奴隷の手を取って攻撃が届かない場所に連れていく。そして、そこで待っていてと言い残した後、商人の背後にある檻に入れられている奴隷達の元に向かった。
「皆! カノン達がきっと助けるからね! だから信じて待っていて!」
 瞳に光を宿したカノンの言葉に檻の中にいる奴隷達がピクリと反応した。僅かに希望を持ってカノンを見る瞳に彼女は力強く頷き返す。そしてルークの元へと戻って彼に加勢する。商人だけに狙いを絞っているルークの援護をすべく、商人を庇っている警護兵、そして、ルークに銃口を向けている別の警護兵を引きつけるためにカノンは前に出た。
「今まで人間扱いされなくて辛かったよね。でも君達は物なんかじゃない。思い出して。自分が一人の人間だって事を。今どうすべきか、人としての誇りを持って考えて!」
 カノンは彼らの心に訴える。しかし彼らは武器を下ろさない。何かを振り払うように銃声が響く。それなら仕方ないとカノンは真っ直ぐ警護兵達を見据えて、旋風腿で応戦し始めた。
 その背後でルークは商人に銃口を向ける。そして今度こそ、足掻く商人を完全に無力化するために引き金を引いた。

 合図を受けて疾風刃で奇襲を仕掛けたアリアだが、それは割り込んできた警護兵の盾に阻まれる。それなら先にこっちを、ともう一度刃を振るう。その背後から加勢に来たエルシーが疾風刃を繰り出した。その隙に庇われた商人は裏口方面へと逃げていく。アリアとエルシーは一瞬だけその方向に視線を向けたが、すぐに目の前の警護兵に視線を戻した。警護兵は光なき瞳で盾を構え続けている。おそらく命令がなければ盾を下ろすことはないだろう。
「ちょっと気が引けるけど、抵抗するなら仕方ないわ」
 エルシーは拳を握り直す。
「ごめんなさいね。怪我はあとで治療してあげるからっ!」
 エルシーはそう言うと目の前の警護兵にもう一度疾風刃を放った。
 エルシーが盾を持った警備兵を相手にしている間にアリアは動ける状態の奴隷達の避難を行う。銃を持った警備兵の攻撃からパリィングで奴隷達を庇いながら、アリアは柱の陰まで奴隷達を避難させた。
「戦闘の巻き添えにならないよう、そこで身を隠していてね」
 奴隷達は突然のことに戸惑っているようだが、アリアの言葉にまばらに首を縦に振る。それを見た彼女は柱の向こうからこちらを狙っている銃口の前に躍り出た。パリィングで銃弾を弾きながら警護兵の銃口を柱から遠ざける。そのまま徐々に距離を詰めると疾風刃を繰り出した。

 突然戦場に変わった市場から客達は逃げ出そうとする。しかし入ってきたはずの扉は少しも外の世界を見せてはくれない。なぜなら戦闘が始まったと同時にニコラスがアイアンロックをかけたからだ。なら窓はと駆け寄っていくが潰されている錠に客達は絶句した。
「わりぃな。危害は加えないから、出来れば隅っこで少し大人しくしててくれ」
 怯え惑う客を横目にニコラスは仲間達にノートルダムの息吹をかける。そして仲間の状況を確認するついでに商人や警護兵の状況も確認した。商人二人と警護兵二人が姿を消している。裏口に逃げたかと彼が考えたとき、逃げ出そうとしている商人の姿が目に入った。これ以上裏口にやるのはさすがにまずいかなと彼は商人に向かってアイスコフィンを放った。それに阻まれて商人は逃げ道を失った。


 裏口で待機していたザルクは他の二人に合図を伝える。それと同時に屋敷内を監視していたアデルが二人に伝える。
「こちらに四人来たぞ。商人二人に警護兵二人だ」
 アデルからの報告を受けてウェルスは充填を開始する。ザルクは裏口の方に銃口を向けて、すぐに撃てるように引き金に指をかけた。
 アデルが指でカウントを取る。それがゼロになった瞬間、裏口の扉が勢いよく開く。そこ目掛けてザルクの銃弾が飛んでいった。位置計算のされたピンポイントシュートは出てきた商人の膝を砕いた。次にウェルスの銃が火を吹く。大渦海域のタンゴは商人、警護兵全てを巻き込んだ。アデルはその渦から警護兵二人を飛ばし商人から離れさせた。そしてジョルト・アサルトを叩き込み早々に無力化を試みた。
 突然の攻撃に商人達は恐怖に震える。過ぎる恐怖は正常な判断を失わせる。商人はザルクとウェルスに向かって剣を振り下ろす。ザルクはそれをいなしたが、ウェルスは正面から受け止めた。刃はウェルスを切り裂く。しかし彼はそれに何の反応も示さなかった。そのことに商人達に戦慄が走る。
「今の魔導は小手調べだ。まだ抵抗するならもっと恐ろしい魔導を撃つぜ?」
 ウェルスの言葉に商人達の手から剣が滑り落ちた。さらにウェルスが警護兵達の攻撃の停止を要求すると呂律の回らない舌でその要求を飲んだ。
 迅速に商人と警護兵を無力化した三人は彼らを連れて屋敷へと入っていった。

 三人と商人と警護兵が屋敷の中へ向かうと、残っていた警護兵達と他の自由騎士達が向かい合っていた。残っていた商人達は一人が気絶、一人が氷に阻まれ行動不能の状態だった。それでも警備兵達は与えられた役割に従い武器を振るっている。彼らの守るべきものはもうすでにそこにはないというのに。
 ウェルスが商人に銃口を向けると商人は怯えたように攻撃の停止を命ずる。すると警護兵達はその指示に従い武装を解いた。


 そこからの制圧は流れるようだった。
 意識のない、または怯えている商人達はウェルスが拘束。アリアは檻の外にいる奴隷達の拘束具を外してまわり、ニコラス警備兵の怪我を治療していく。その横でエルシーは警護兵達に一緒に来てほしいと伝えている。カノンは檻の中の奴隷を救出し、ルークとザルクは拘束された商人から話を聞こうと試みていた。最初は商人としてのプライドからか口を開こうとしなかったが、ザルクが銃をちらつかせたりアデルが背後に立つなりするとぽつりぽつりと話し出す。八月に大型奴隷オークションがあること、ここにいた商人達も参加予定だったこと、ここを利用していた他の商人のこと、市場の情報、そしてこれらの資料が別室にあること。その話を元にルークとザルクが屋敷の探索をすれば、商人が言った通りの資料が出てきた。回収できるだけ回収して戻れば、カノンが卵粥を奴隷だった人たちに配っており、ウェルスは屋敷が使い物にならなくなるようにあちらこちらに『フリーエンジン参上』の文字を念写で焼き付けていた。警備兵の治療が終わったニコラスは隅で縮こまっていた客の様子を確認している。彼らは怯えている以外怪我などはしていなかった。動けなかったのか、はたまた敵う相手ではないと判断したからか、戦闘が行われている間ずっとニコラスに言われた通りに縮こまっていたからだ。外傷がないなら結構とニコラスは客を自由にした。食べ物を胃に入れたからか、奴隷だった者達はほんの少しだけ光を戻した。それを見たカノンは微笑む。近くで心配そうに奴隷だった人達の様子を見ていたアリアもほっと胸を撫で下ろした。
 ここに長居は無用。自由騎士達は解放された奴隷達と奴隷市場に関する多くの資料を持って屋敷の裏口から逃げ出す。

 三十人の商品と六人の警備兵は今、三十六人の自由を謳歌する人――デザイアとなった。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

FL送付済