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【潜入調査】鬱屈した日々の裏側で

●ニルヴァン小管区より南南東、アスラント小管区 強制労働所
「聖堂騎士団が負けたんだってよ……」
「ハハハハ、いいザマだな。騎士様のクセに情けない」
「俺を追放するからこうなる、俺を……」
「またかい、ええ、元聖堂騎士様よ。あんたもしつこいねぇ」
「黙れ。黙れ。俺は裏切られたんだ。ミトラースに裏切られたんだ……!」
「カカッ! まだあんなのを信じようってのかい、あんたは」
「ケイケンなシンジャ様だぜ」
蝋燭だけが照らす薄闇の中、下卑た笑いが幾つも響く。
ここはシャンバラの最果てとも呼べる場所。
信仰の光が射し込むことはなく、異端と呼ばれる者達が自らの出自を呪いながら日々を過ごしている。
ここに豊穣はなく。
ここに幸福はなく。
ここに未来はない。
ここにあるのは悲嘆と、怨嗟と、諦念と。
アスラント小管区の強制労働所は、今日も異端の怨念に満ち満ちていた。
●潜入調査
「“聖域”なるものが聖央都を包んだという水鏡の情報は皆すでに聞いてのとおりである。実に厄介な事態になったといえよう」
小さく息をついて、『長』クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003) が張り詰めた顔つきで切り出してきた。
「この“聖域”について、打開策を探るべく情報収集が必要なのである。そのために、諸君らには潜入調査を行なってもらいたいのである」
クラウスはシャンバラの地図上の一点を示した。
ニルヴァンから南南東の咆哮にある場所だ。
「向かう先はアスラント小管区の強制労働所である。この間の戦いで聖堂騎士団の大規模な動員があったため、ここの警備は現在手薄になっている。潜入するならば今、ということであるな」
ただし、と、彼は注釈をつけてきた。
「これは潜入任務である。もし諸君らが自由騎士だと知られれば、ただではすまないであろう。そこは注意してほしいのである」
細心の注意を払うよう告げて、最後に彼は言った。
「強制収容所にいるのはほとんどがキジンとマザリモノである。それも加味して、任務に当たってほしいのである。よろしく頼むのであるよ」
「聖堂騎士団が負けたんだってよ……」
「ハハハハ、いいザマだな。騎士様のクセに情けない」
「俺を追放するからこうなる、俺を……」
「またかい、ええ、元聖堂騎士様よ。あんたもしつこいねぇ」
「黙れ。黙れ。俺は裏切られたんだ。ミトラースに裏切られたんだ……!」
「カカッ! まだあんなのを信じようってのかい、あんたは」
「ケイケンなシンジャ様だぜ」
蝋燭だけが照らす薄闇の中、下卑た笑いが幾つも響く。
ここはシャンバラの最果てとも呼べる場所。
信仰の光が射し込むことはなく、異端と呼ばれる者達が自らの出自を呪いながら日々を過ごしている。
ここに豊穣はなく。
ここに幸福はなく。
ここに未来はない。
ここにあるのは悲嘆と、怨嗟と、諦念と。
アスラント小管区の強制労働所は、今日も異端の怨念に満ち満ちていた。
●潜入調査
「“聖域”なるものが聖央都を包んだという水鏡の情報は皆すでに聞いてのとおりである。実に厄介な事態になったといえよう」
小さく息をついて、『長』クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003) が張り詰めた顔つきで切り出してきた。
「この“聖域”について、打開策を探るべく情報収集が必要なのである。そのために、諸君らには潜入調査を行なってもらいたいのである」
クラウスはシャンバラの地図上の一点を示した。
ニルヴァンから南南東の咆哮にある場所だ。
「向かう先はアスラント小管区の強制労働所である。この間の戦いで聖堂騎士団の大規模な動員があったため、ここの警備は現在手薄になっている。潜入するならば今、ということであるな」
ただし、と、彼は注釈をつけてきた。
「これは潜入任務である。もし諸君らが自由騎士だと知られれば、ただではすまないであろう。そこは注意してほしいのである」
細心の注意を払うよう告げて、最後に彼は言った。
「強制収容所にいるのはほとんどがキジンとマザリモノである。それも加味して、任務に当たってほしいのである。よろしく頼むのであるよ」
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.何らかの情報を入手する
はいどーも、吾語でごんす。
今回はいつもと違って潜入任務でございます。
皆様に行っていただくのはアスラント小管区の強制労働所。
ここでは多くのキジンやマザリモノが働かされています。
潜入期間は1日。
具体的には朝潜入して夜に脱出する形となります。
強制労働所内ではよっぽど派手に騒がない限り戦闘は発生しません。
調査ができる場所は4箇所。一箇所につき、1/3日かかりますので、全員で同じ場所で行動するのであれば最大で3箇所しか調査できません。全員で行動する場合は必ず情報を得ることができます。
手を分けることは可能ですが、その分情報を得る可能性が低くなります。分ければ分けるほどにその可能性は減っていきます。
最悪情報を得ることができなくなる可能性があります。
(具体的には2班に分けることで情報を得る確率が50%に 3班で25%… と減っていく形になります。ポイント制ではありません)
時間的な順番はあまり関係ありません。ただし派手に騒いだりするとバレる確率が上がります。
アスラント強制労働所にいる異端達の多くはミトラースへの信仰心を失っています。
しかし、異端達にイ・ラプセルの民であるとバレた場合、彼らは厄介ごとに巻き込まれたくない一心から衛兵達にそれを報告するでしょう。
調査できる場所は、
・炭坑内採掘所1
・炭坑内採掘所2
・炭坑内休憩所
・異端居住区(牢獄)
の4か所になります。
すべての場所に重要な情報があるわけではありません。
なお、このシナリオは性質上キジンとマザリモノのPC推奨となっております。
それ以外の種族が参加する場合、バレないように念入りに変装などをする必要があるでしょう。
今回はいつもと違って潜入任務でございます。
皆様に行っていただくのはアスラント小管区の強制労働所。
ここでは多くのキジンやマザリモノが働かされています。
潜入期間は1日。
具体的には朝潜入して夜に脱出する形となります。
強制労働所内ではよっぽど派手に騒がない限り戦闘は発生しません。
調査ができる場所は4箇所。一箇所につき、1/3日かかりますので、全員で同じ場所で行動するのであれば最大で3箇所しか調査できません。全員で行動する場合は必ず情報を得ることができます。
手を分けることは可能ですが、その分情報を得る可能性が低くなります。分ければ分けるほどにその可能性は減っていきます。
最悪情報を得ることができなくなる可能性があります。
(具体的には2班に分けることで情報を得る確率が50%に 3班で25%… と減っていく形になります。ポイント制ではありません)
時間的な順番はあまり関係ありません。ただし派手に騒いだりするとバレる確率が上がります。
アスラント強制労働所にいる異端達の多くはミトラースへの信仰心を失っています。
しかし、異端達にイ・ラプセルの民であるとバレた場合、彼らは厄介ごとに巻き込まれたくない一心から衛兵達にそれを報告するでしょう。
調査できる場所は、
・炭坑内採掘所1
・炭坑内採掘所2
・炭坑内休憩所
・異端居住区(牢獄)
の4か所になります。
すべての場所に重要な情報があるわけではありません。
なお、このシナリオは性質上キジンとマザリモノのPC推奨となっております。
それ以外の種族が参加する場合、バレないように念入りに変装などをする必要があるでしょう。
状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
2個
2個
6個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
6/6
6/6
公開日
2019年03月02日
2019年03月02日
†メイン参加者 6人†
●朝:炭坑にて
「しかしまあ、こんな簡単に潜入できるとはな……」
まず『RED77』ザルク・ミステル(CL3000067)が驚いたのは、その事実についてであった。
周りを見れば、頭巾をかぶった男達が偉そうに威張り散らしている。
彼らはこの強制労働所で異端を見張る魔女狩りであろう。
「オラ、さっさと作業を始めんかァ!」
魔女狩りの男がそう叫び、近くにいたやせ細ったマザリモノを蹴飛ばした。
働かされているキジンとマザリモノ達は、それに関心を示す様子もなく、黙々と土を削って鉱石を掘り返していた。
誰も助けるどころか関わろうともしない。それが、労働所の日常なのだろう。
「大丈夫かい?」
倒れたままになっているマザリモノへ、『挺身の』アダム・クランプトン(CL3000185)が手を差し伸べた。
しかしマザリモノはその手を払い、アダムを睨んだ。
「何のつもりだ?」
「何の、っていうのは?」
「大方、俺に恩を売って配給のときにタカるつもりだろ。……クソが」
マザリモノは一方的にそう言って、立ち上がってさっさと作業に戻っていく。
戸惑うアダムの背中を『果たせし十騎士』マリア・スティール(CL3000004)がポンと叩いた。
「ま、気にするなって」
「しかし……」
「ここじゃ優しさなんて大した意味もねぇんだ。……そういう場所なんだよ」
マリアがそう言い切れたのは、ここがかつて暮らしたスラム街とよく似た空気に満ちているからだった。
こういった場では人の善は何の役に立たない。彼女はそれを熟知していた。
「だがそのような場だからこそ我々は潜入できた」
周りを見つつ、アデル・ハビッツ(CL3000496)が言う。
他者に興味を持たないのが普通となっているこの場。それは確かに、彼の言う通り潜入成功の要因の一つに違いなかった。
「聖堂騎士がいないのも一因だろうね」
『果たせし十騎士』ウダ・グラ(CL3000379)がうなずき、労働者の中に混じって鉱石の採掘に加わっていく。
本来であれば警備や監督役を務めるのは聖堂騎士であるはずだ。
しかしそれがいないのは、この間の戦いで人員が大きく削られたせいだろう。
聖堂騎士団は現在、立て直しを図っている真っ最中のはずだ。
「だが、有用な情報を得られるかどうか、少しばかり賭けだな」
採掘用のスコップを手にした『実直剛拳』アリスタルフ・ヴィノクロフ(CL3000392)が土をザクリと掘りながら呟いた。
ここから先、休憩まではこの場で情報を収集することになっている。
だが果たして成功するかどうか。
その不安は潜入した自由騎士達全員が抱えていた。
そして時間は過ぎていく。不安があろうとなかろうと、彼らに与えられた時間はあまりにも少ない。今日の夜にはここを離脱しなければならないのだ。
「――騎士団が」
「ヘヘ、ザマァねぇ。それに噂じゃ――」
聞き耳を立てると労働者達の小さな会話が聞こえてくる。一応、外の情報はここまで届いてはいるようだった。
「ケッ、情けねぇ。俺が騎士団にいたならよぉ~……」
そうした幾つかの声の中、老いたキジンの呟きをアデルは聞き逃さなかった。
「またジジイの寝言かよ……」
「ほっとけほっとけ、言わせときゃいいんだよ」
と、他の労働者達は老人を敬遠して他の採掘場所に立ち去っていく。
アデルはこれを機と見た。
「爺さん、あんたは元騎士団なのか?」
「おう、そうとも。これでも数十年前のデカイ戦にも出たことがあんだよ~」
共に近くにいたアリスタルフが、その言葉に小さく驚く。
だがアデルは急がず、しばし老人の話を聞いた。
「だからよォ~、腕さえこうなってなけりゃ、俺だってよぉ~……」
基本、老人の話は同じことの繰り返しだった。
自分は高位の聖堂騎士であったこと。騎士としての輝かしい経歴。
そして戦傷で腕を失ったことへの悔恨とミトラースへの尽きぬ呪詛。
それらを延々繰り返し聞かされるのは、ある意味では地獄だ。普通の聞き役ならば数分もたず嫌気が差すだろう。
だが、アデルは辛抱強く話を聞き続けた。
変化が生じたのは、繰り返されること六度目の話のときであった。
「あー……、何の話だったか……」
「聖域の話をしようとしていたところだろう?」
老人が記憶を探ろうとしているところに、アリスタルフが付け込んだ。
「ああ、そうだったな。……聖域ってのはスゲェモンだったぜ」
アリスタルフとアデルが互いに顔を見合った。上手く行ったようだ。
「前の大戦で使われたありゃあ、元々が神造兵器を防ぐために作られたモンらしいからよぉ、神造兵器じゃなきゃ破れねぇんだぜ?」
自由騎士達はその情報に目を瞠る。
神造兵器以外では聖域は破れない。
得られたのは、そんな絶望的な情報であった。
「あんなモンがなけりゃ、都に戻ってミトラースを殺してやるのによぉ~」
聞き手に関係なく続く老人の話を、もう誰も聞いていなかった。
●昼:引き続き炭坑にて
午前が終わり、労働者は休憩に入る者と作業を続ける者に分かれた。
そこで自由騎士達はより多くの場所で情報を集めるべく、二手に分かれる。
こちらは炭坑。
場に残ったのはアダムとウダ、マリアの三人である。
「それじゃ、始めっか!」
「うん、そうしよう」
三人での情報収集が始まる。やり方は事前の打ち合わせで十分練られていた。
「行ってくるよ」
まずは、ウダが適当な労働者のところへと向かう。
そして小さくささやくのだ。
「――神様は残酷だね」
「……あ?」
すると、話しかけられた労働者はすぐさま反応を返してきた。
やっぱりな、と、マリアは内心に手ごたえを得た。
ここで働く連中は、ほぼ確実にミトラースに対して怨みを抱いている。
しかし見張られている以上、それを大っぴらに言うこともできず、彼らが抱く怨念はずっとその胸の中で燻っているはずだ。
つまり――
「何だよ、ミトラースの野郎が何だって……?」
食いついてきた。
そうだ。神を恨む彼らは、その恨みを話す機会がほとんどない。
だから必然、彼らはその恨み言を誰かに聞いてもらいたくなるのだ。
「いや、ちょっとね。僕はほら、見ての通りだろ?」
そう言って、ウダは白い鱗に包まれた自分の肌を見せる。
「こんな身に生まれただけでここにいるなんて、不公平だと思わない?」
「ハッ、違いねぇ。俺も同じようなもんさ」
話に乗ってきた男はマザリモノであった。耳が岩のような質感になっている。
と、こうしてウダと男の会話が始まったところで、マリア達の出番だ。
「何だよ何だよ、面白そうな話をしてるじゃねぇか」
「キミ達は……?」
ウダがマリアを見て若干驚いたような反応を見せる。
もちろん、演技である。
「ミトラースがどうとか言ってただろ~。オレ達も混ぜてくれよ~」
「…………」
大きく笑って馴れ馴れしく言うマリアと、少し硬い表情のままのアダム。
ウダと話していた男は一瞬疑わし気な目を向けたが、
「チッ、ミトラースの野郎の話をしてたんだよ、悪ィか?」
すぐに話していた内容を打ち明けてくれた。
「ミトラースの、かい。興味深いね」
「何だよ、あんたみたいな色男が。……元聖堂騎士か何かかい?」
「まぁ、そんなところさ。元、だけどね」
アダムは自ら前に出て話を始める。
「ケッケッケ、騎士様にまで愛想尽かされるとは情けねぇな、我が主はよ」
マリアがアダムに目配せして、いい調子だぜとウィンクをする。
こうして、ミトラースへの悪口という共通の話題を皮切りにして、昼間の炭鉱は情報を集めていった。そして――
「……ハズレかな、これは」
一通り話を聞き終えて、集まった情報をまとめたところで、ウダはそう結論づけざるを得なかった。あまりにも質の低い情報ばかりだったからだ。
「元々がこんな場所だ。情報があるだけでも儲けモンじゃあるけどな」
マリアも肩をすくめる。
「あっちに向かったザルクさん達に期待するしかないね」
アダムが見つめた先には、労働者が休憩するためのスペースがあった。
果たして、そちらはどうなっているだろうか。
こちらが空振りに終わっただけに、三人はそれを考えて気を揉むのだった。
●昼:休憩スペースにて
休憩スペースとはいっても、単に大きく掘られた空間というだけだ。
そこに、薄汚れた労働者達がたむろして座り込んでいたりする。
誰もがほとんど会話することもなく、束の間の時間、身を休めていた。
「こっちは、どう攻めるか……」
周りに溶け込むようにして地面に座り込みながら、ザルクが小さく唸る。
「休憩時だからこそ気が緩んでいる可能性は高い。だが同時に、休憩時だからこそ他人からの干渉を嫌っている人間が多い可能性もある」
「確かに、どちらも考えられるだけに動きにくいな……」
アデルの推測に、アリスタルフも同意する。
と、アリスタルフはふと背中に感じるものがあった。
振り返って見ると、壮年の痩せた男が彼を見つめているようだった。
男はアリスタルフに気づいてサっと視線をそらした。
「…………」
「どうかしたのか?」
「いや、何でも――」
「アリスタルフ」
ザルクが、言いかけた彼の言葉を止める。
そしてアリスタルフの前に、自分が持ってきた菓子を差し出した。
「……これは?」
イヤな予感を覚えつつ、アリスタルフはザルクを見た。
「せっかくのご指名だ。精々頑張って甘えてこいよ」
「…………」
アリスタルフの顔が、ドッと汗にまみれた。
「なるほど」
アデルも気づいたようにうなずいて、
「今だからこその情報収集法だな。頼んだぞ、アリスタルフ」
「待て、待ってくれ。ちょっと……」
「行ってこい」
「行ってこい」
「……………………神よ」
この無情なる仕打ちに、アリスタルフは神へと祈りを捧げた。
だが、任務である。彼に拒む権利は存在しなかった。
「……行ってくる」
立ち上がり、歩き出した友の背に向かって、ザルクとアデルは心の中で自然と敬礼していた。
そこに交わされる言葉は何もなかった。
だが、見守る友の眼差しがあった。男達の奇妙な友情があった。
アリスタルフ、任務スタート!
「あ、行った行った」
「アリスタルフから話しかけてるな。あいつああいうの慣れてるのか?」
実況ザルク・ミステル。解説アデル・ハビッツでお送りいたします。
「男の方がまんざらでもなさそうな顔してるな」
「……ふむ、つまりアリスタルフが好みのタイプということだな、あの男」
「一部のイ・ラプセル女子が喜びそうな話だな」
――二分が経過した。
「む、俺の持ってきた菓子を差し出したな」
「古今東西、囚人は甘味に飢えるモノ。見事な策略だ、ザルク」
――五分が経過した。
「会話が弾んでいるな」
「労働者の男の方、頬が赤くなっているように見えるのは気のせいか?」
「気にするな。俺は気にしないことにした」
――七分が経過した。
「ん? アリスタルフが四つん這いになった?」
「……ま、まさかあれは!」
「「四つん這いからの上目遣いでの『おねがい(はぁと)』だ――――!」」
別名『めひょーのぽぉず』である。
「あいつ、あそこまでの覚悟を……」
「アリスタルフ。おまえこそ自由騎士の鑑だ」
アデルが腕を組み、感じ入ったようにうなずいた。
そんな騎士の鑑イヤだ。
アリスラルフ本人がこの場にいたならば、そう言っていたことだろう。
――やがて、アリスタルフが戻ってきた。
「た、ただいま……」
「アリスタルフ、たった十分でそんなやつれて……、髪まで白く……!」
「俺は元から銀髪だ……!」
「それで、何か有用な情報は得られたか?」
何も得られてなかったならば、アリスタルフは無駄な生き恥晒しになるが。
「気になる話を聞いたな」
「気になる話……?」
「聖域の話をしたら、大管区の連中の生活が苦しくなるのはいいザマだ、と」
「何だ、それは……」
聞いただけでは意味の分からない話だった、が、ザルクが気づいた。
「もしや、聖櫃か――?」
シャンバラの民の生活に直結する要素といえば、それしか思い浮かばなかった。ヨウセイの命を燃料にして理想の環境を生み出すシステムだ。
もし、環境の制御に使われている魔力が聖域の展開に回されたら、理想郷とも呼べる環境の意地はできなくなるのではないか。
「確認してくるか?」
「いや、これ以上はやめておけ。死ぬぞ、アリスタルフ!」
アリスタルフが勇気を振り絞るが、同胞を案じたアデルがそれを止めた。
「とにかく戻るぞ。俺達だけで扱える話じゃなさそうだ」
ザルクがそう結論づけて、三人は休憩の終わりと共に休憩所をあとにした。
なお、彼らが去るその最後の瞬間に到るまで、例のやせた男の視線はアリスタルフに釘付けであったという。
アリスタルフは犠牲になったのだ……。
ねっとりととした視線の男。その犠牲にな……。
「妙な風聞を流布するな!?」
●夜:牢獄内にて
「さっさと中に入れ! 騎士団を呼び戻すぞ!」
頭巾をかぶった男がいちいち偉そうに指示を出す。
魔女狩り如きに聖堂騎士団をどうこうする権限などあるものか。
労働者達もそれは分かっていたが、しかし、万が一の可能性がある。その万が一こそが、数で勝るキジンやマザリモノを縛り付けている鎖であった。
「卑下され続けて、無意識のうちに安全策を取るようになってんだよな」
とは、スラム街で過ごした経験を持つマリアの談。
何があろうと我関せず。だが愚痴る機会があるならば乗ってしまう。
まさに三下根性という他ないが、それがこの場の普通なのだ。
「時間が近いね」
アダムが告げる。
魔女狩りの目をかいくぐって炭坑の外に出ていた彼は、すでに陽が沈んで辺りが夜になりつつあることを皆に告げた。
「もう少し話を聞くか、それともそろそろ離脱を考えるべきか」
考えているアリスタルフを見て、アリスが問う。
「何かアリスタルフ、やせてね?」
「触れるな。触・れ・る・な」
「お、おう……」
本人から懇願されて、マリアはコクコク首肯した。するしかなかった。
「話を聞く、か」
ザルクが難しい顔をして周りを見る。
牢獄の中、空気はこれ以上なく死んでいた。
辺りには転がっている労働者達。皆、早々に寝てしまおうとしている。
話しかけようにも、
「うるせぇな、寝させろよ!」
強い調子でそう言い返されてしまう。
すでに、彼らにとっての一日は終わってしまっているようだった。
「これはもう一度アリスタルフに頼るしか……」
「イヤだぞ。イ・ヤ・だ・ぞ」
「お、おう……」
提案したザルクもさすがに引く以外にはない、アリスタルフの剣幕だった。
「情報は、ある程度は得られたと見ていいんじゃないかな」
「そうかもしれないがな」
ウダの言葉に、アデルも同調する。
ここまで入手した情報の中で特に重要度が高いものは二つ。
聖域は神造兵器以外では破れないとされており、過去の大戦にも使用された。
聖域を使用することで大管区の環境が悪化する。そのことから、聖域の展開に必要な魔力は大管区の聖櫃が賄っている可能性が高い。
「イ・ラプセルの次の動きを決める上で、十分な材料となる情報だと思う」
「と、するなら――」
ザルクは周りを見た。
「これ以上は欲を出すべきじゃないな」
「そうだね。離脱しよう」
アダムもそれに同意し、他の自由騎士達もうなずいた。
さて、そうと決まれば後は行動に出るだけだが、その前にアダムが動いた。
「ちょっと、いいかな?」
「何だよ、眠てぇんだ。あとにしてくれ」
「神は君達を救ってくれない」
「……あァ?」
アダムは近くで寝ていた男に話しかけ、そんなことを言った。
「神に捨てられたと嘆いても何も変わらない。君達を救うのは、君達自身だ」
「何言ってんだ、テメェ……」
唖然とするその男に、アダムは軽く苦笑して、
「見ていられなかった。それだけだよ」
それだけを言い残すと、彼はその場を去っていった。
言われた方の男はしばしキョトンとしつつもやがて大きく舌を打つ。
「分かってんだよ、ンなこたぁ。俺だって……、俺だって!」
悔しげに言うその声には、男の中に燻り続けるプライドがにじみ出ていた。
「何をしてたんだ?」
出口近くで待っていたアリスタルフがアダムを出迎えた。
「いや、ちょっとだけお節介をね」
「そうか」
それ以上、アダムを追求しようとする者はいなかった。
そして――
「な、貴様ら……!?」
「悪いな、少し眠っていてくれ」
見張り役の魔女狩りを数人がかりで昏倒させて、自由騎士達は強制労働所の外へと出ていった。
「彼らが陽の下に出られる日が来るといいけど」
「アダムが言った通り、そんなのはあいつら次第だぜ。だろ?」
返してきたマリアへアダムは小さく笑って、
「確かに、その通りだね」
そして自由騎士達の潜入任務は終わった。
ここで得た情報は、イ・ラプセルがシャンバラを攻める際に有効活用されることだろう。
或いはそれは、この場に囚われた異端と称される人々の、シャンバラに対するせめてもの意趣返しなのかもしれなかった。
「しかしまあ、こんな簡単に潜入できるとはな……」
まず『RED77』ザルク・ミステル(CL3000067)が驚いたのは、その事実についてであった。
周りを見れば、頭巾をかぶった男達が偉そうに威張り散らしている。
彼らはこの強制労働所で異端を見張る魔女狩りであろう。
「オラ、さっさと作業を始めんかァ!」
魔女狩りの男がそう叫び、近くにいたやせ細ったマザリモノを蹴飛ばした。
働かされているキジンとマザリモノ達は、それに関心を示す様子もなく、黙々と土を削って鉱石を掘り返していた。
誰も助けるどころか関わろうともしない。それが、労働所の日常なのだろう。
「大丈夫かい?」
倒れたままになっているマザリモノへ、『挺身の』アダム・クランプトン(CL3000185)が手を差し伸べた。
しかしマザリモノはその手を払い、アダムを睨んだ。
「何のつもりだ?」
「何の、っていうのは?」
「大方、俺に恩を売って配給のときにタカるつもりだろ。……クソが」
マザリモノは一方的にそう言って、立ち上がってさっさと作業に戻っていく。
戸惑うアダムの背中を『果たせし十騎士』マリア・スティール(CL3000004)がポンと叩いた。
「ま、気にするなって」
「しかし……」
「ここじゃ優しさなんて大した意味もねぇんだ。……そういう場所なんだよ」
マリアがそう言い切れたのは、ここがかつて暮らしたスラム街とよく似た空気に満ちているからだった。
こういった場では人の善は何の役に立たない。彼女はそれを熟知していた。
「だがそのような場だからこそ我々は潜入できた」
周りを見つつ、アデル・ハビッツ(CL3000496)が言う。
他者に興味を持たないのが普通となっているこの場。それは確かに、彼の言う通り潜入成功の要因の一つに違いなかった。
「聖堂騎士がいないのも一因だろうね」
『果たせし十騎士』ウダ・グラ(CL3000379)がうなずき、労働者の中に混じって鉱石の採掘に加わっていく。
本来であれば警備や監督役を務めるのは聖堂騎士であるはずだ。
しかしそれがいないのは、この間の戦いで人員が大きく削られたせいだろう。
聖堂騎士団は現在、立て直しを図っている真っ最中のはずだ。
「だが、有用な情報を得られるかどうか、少しばかり賭けだな」
採掘用のスコップを手にした『実直剛拳』アリスタルフ・ヴィノクロフ(CL3000392)が土をザクリと掘りながら呟いた。
ここから先、休憩まではこの場で情報を収集することになっている。
だが果たして成功するかどうか。
その不安は潜入した自由騎士達全員が抱えていた。
そして時間は過ぎていく。不安があろうとなかろうと、彼らに与えられた時間はあまりにも少ない。今日の夜にはここを離脱しなければならないのだ。
「――騎士団が」
「ヘヘ、ザマァねぇ。それに噂じゃ――」
聞き耳を立てると労働者達の小さな会話が聞こえてくる。一応、外の情報はここまで届いてはいるようだった。
「ケッ、情けねぇ。俺が騎士団にいたならよぉ~……」
そうした幾つかの声の中、老いたキジンの呟きをアデルは聞き逃さなかった。
「またジジイの寝言かよ……」
「ほっとけほっとけ、言わせときゃいいんだよ」
と、他の労働者達は老人を敬遠して他の採掘場所に立ち去っていく。
アデルはこれを機と見た。
「爺さん、あんたは元騎士団なのか?」
「おう、そうとも。これでも数十年前のデカイ戦にも出たことがあんだよ~」
共に近くにいたアリスタルフが、その言葉に小さく驚く。
だがアデルは急がず、しばし老人の話を聞いた。
「だからよォ~、腕さえこうなってなけりゃ、俺だってよぉ~……」
基本、老人の話は同じことの繰り返しだった。
自分は高位の聖堂騎士であったこと。騎士としての輝かしい経歴。
そして戦傷で腕を失ったことへの悔恨とミトラースへの尽きぬ呪詛。
それらを延々繰り返し聞かされるのは、ある意味では地獄だ。普通の聞き役ならば数分もたず嫌気が差すだろう。
だが、アデルは辛抱強く話を聞き続けた。
変化が生じたのは、繰り返されること六度目の話のときであった。
「あー……、何の話だったか……」
「聖域の話をしようとしていたところだろう?」
老人が記憶を探ろうとしているところに、アリスタルフが付け込んだ。
「ああ、そうだったな。……聖域ってのはスゲェモンだったぜ」
アリスタルフとアデルが互いに顔を見合った。上手く行ったようだ。
「前の大戦で使われたありゃあ、元々が神造兵器を防ぐために作られたモンらしいからよぉ、神造兵器じゃなきゃ破れねぇんだぜ?」
自由騎士達はその情報に目を瞠る。
神造兵器以外では聖域は破れない。
得られたのは、そんな絶望的な情報であった。
「あんなモンがなけりゃ、都に戻ってミトラースを殺してやるのによぉ~」
聞き手に関係なく続く老人の話を、もう誰も聞いていなかった。
●昼:引き続き炭坑にて
午前が終わり、労働者は休憩に入る者と作業を続ける者に分かれた。
そこで自由騎士達はより多くの場所で情報を集めるべく、二手に分かれる。
こちらは炭坑。
場に残ったのはアダムとウダ、マリアの三人である。
「それじゃ、始めっか!」
「うん、そうしよう」
三人での情報収集が始まる。やり方は事前の打ち合わせで十分練られていた。
「行ってくるよ」
まずは、ウダが適当な労働者のところへと向かう。
そして小さくささやくのだ。
「――神様は残酷だね」
「……あ?」
すると、話しかけられた労働者はすぐさま反応を返してきた。
やっぱりな、と、マリアは内心に手ごたえを得た。
ここで働く連中は、ほぼ確実にミトラースに対して怨みを抱いている。
しかし見張られている以上、それを大っぴらに言うこともできず、彼らが抱く怨念はずっとその胸の中で燻っているはずだ。
つまり――
「何だよ、ミトラースの野郎が何だって……?」
食いついてきた。
そうだ。神を恨む彼らは、その恨みを話す機会がほとんどない。
だから必然、彼らはその恨み言を誰かに聞いてもらいたくなるのだ。
「いや、ちょっとね。僕はほら、見ての通りだろ?」
そう言って、ウダは白い鱗に包まれた自分の肌を見せる。
「こんな身に生まれただけでここにいるなんて、不公平だと思わない?」
「ハッ、違いねぇ。俺も同じようなもんさ」
話に乗ってきた男はマザリモノであった。耳が岩のような質感になっている。
と、こうしてウダと男の会話が始まったところで、マリア達の出番だ。
「何だよ何だよ、面白そうな話をしてるじゃねぇか」
「キミ達は……?」
ウダがマリアを見て若干驚いたような反応を見せる。
もちろん、演技である。
「ミトラースがどうとか言ってただろ~。オレ達も混ぜてくれよ~」
「…………」
大きく笑って馴れ馴れしく言うマリアと、少し硬い表情のままのアダム。
ウダと話していた男は一瞬疑わし気な目を向けたが、
「チッ、ミトラースの野郎の話をしてたんだよ、悪ィか?」
すぐに話していた内容を打ち明けてくれた。
「ミトラースの、かい。興味深いね」
「何だよ、あんたみたいな色男が。……元聖堂騎士か何かかい?」
「まぁ、そんなところさ。元、だけどね」
アダムは自ら前に出て話を始める。
「ケッケッケ、騎士様にまで愛想尽かされるとは情けねぇな、我が主はよ」
マリアがアダムに目配せして、いい調子だぜとウィンクをする。
こうして、ミトラースへの悪口という共通の話題を皮切りにして、昼間の炭鉱は情報を集めていった。そして――
「……ハズレかな、これは」
一通り話を聞き終えて、集まった情報をまとめたところで、ウダはそう結論づけざるを得なかった。あまりにも質の低い情報ばかりだったからだ。
「元々がこんな場所だ。情報があるだけでも儲けモンじゃあるけどな」
マリアも肩をすくめる。
「あっちに向かったザルクさん達に期待するしかないね」
アダムが見つめた先には、労働者が休憩するためのスペースがあった。
果たして、そちらはどうなっているだろうか。
こちらが空振りに終わっただけに、三人はそれを考えて気を揉むのだった。
●昼:休憩スペースにて
休憩スペースとはいっても、単に大きく掘られた空間というだけだ。
そこに、薄汚れた労働者達がたむろして座り込んでいたりする。
誰もがほとんど会話することもなく、束の間の時間、身を休めていた。
「こっちは、どう攻めるか……」
周りに溶け込むようにして地面に座り込みながら、ザルクが小さく唸る。
「休憩時だからこそ気が緩んでいる可能性は高い。だが同時に、休憩時だからこそ他人からの干渉を嫌っている人間が多い可能性もある」
「確かに、どちらも考えられるだけに動きにくいな……」
アデルの推測に、アリスタルフも同意する。
と、アリスタルフはふと背中に感じるものがあった。
振り返って見ると、壮年の痩せた男が彼を見つめているようだった。
男はアリスタルフに気づいてサっと視線をそらした。
「…………」
「どうかしたのか?」
「いや、何でも――」
「アリスタルフ」
ザルクが、言いかけた彼の言葉を止める。
そしてアリスタルフの前に、自分が持ってきた菓子を差し出した。
「……これは?」
イヤな予感を覚えつつ、アリスタルフはザルクを見た。
「せっかくのご指名だ。精々頑張って甘えてこいよ」
「…………」
アリスタルフの顔が、ドッと汗にまみれた。
「なるほど」
アデルも気づいたようにうなずいて、
「今だからこその情報収集法だな。頼んだぞ、アリスタルフ」
「待て、待ってくれ。ちょっと……」
「行ってこい」
「行ってこい」
「……………………神よ」
この無情なる仕打ちに、アリスタルフは神へと祈りを捧げた。
だが、任務である。彼に拒む権利は存在しなかった。
「……行ってくる」
立ち上がり、歩き出した友の背に向かって、ザルクとアデルは心の中で自然と敬礼していた。
そこに交わされる言葉は何もなかった。
だが、見守る友の眼差しがあった。男達の奇妙な友情があった。
アリスタルフ、任務スタート!
「あ、行った行った」
「アリスタルフから話しかけてるな。あいつああいうの慣れてるのか?」
実況ザルク・ミステル。解説アデル・ハビッツでお送りいたします。
「男の方がまんざらでもなさそうな顔してるな」
「……ふむ、つまりアリスタルフが好みのタイプということだな、あの男」
「一部のイ・ラプセル女子が喜びそうな話だな」
――二分が経過した。
「む、俺の持ってきた菓子を差し出したな」
「古今東西、囚人は甘味に飢えるモノ。見事な策略だ、ザルク」
――五分が経過した。
「会話が弾んでいるな」
「労働者の男の方、頬が赤くなっているように見えるのは気のせいか?」
「気にするな。俺は気にしないことにした」
――七分が経過した。
「ん? アリスタルフが四つん這いになった?」
「……ま、まさかあれは!」
「「四つん這いからの上目遣いでの『おねがい(はぁと)』だ――――!」」
別名『めひょーのぽぉず』である。
「あいつ、あそこまでの覚悟を……」
「アリスタルフ。おまえこそ自由騎士の鑑だ」
アデルが腕を組み、感じ入ったようにうなずいた。
そんな騎士の鑑イヤだ。
アリスラルフ本人がこの場にいたならば、そう言っていたことだろう。
――やがて、アリスタルフが戻ってきた。
「た、ただいま……」
「アリスタルフ、たった十分でそんなやつれて……、髪まで白く……!」
「俺は元から銀髪だ……!」
「それで、何か有用な情報は得られたか?」
何も得られてなかったならば、アリスタルフは無駄な生き恥晒しになるが。
「気になる話を聞いたな」
「気になる話……?」
「聖域の話をしたら、大管区の連中の生活が苦しくなるのはいいザマだ、と」
「何だ、それは……」
聞いただけでは意味の分からない話だった、が、ザルクが気づいた。
「もしや、聖櫃か――?」
シャンバラの民の生活に直結する要素といえば、それしか思い浮かばなかった。ヨウセイの命を燃料にして理想の環境を生み出すシステムだ。
もし、環境の制御に使われている魔力が聖域の展開に回されたら、理想郷とも呼べる環境の意地はできなくなるのではないか。
「確認してくるか?」
「いや、これ以上はやめておけ。死ぬぞ、アリスタルフ!」
アリスタルフが勇気を振り絞るが、同胞を案じたアデルがそれを止めた。
「とにかく戻るぞ。俺達だけで扱える話じゃなさそうだ」
ザルクがそう結論づけて、三人は休憩の終わりと共に休憩所をあとにした。
なお、彼らが去るその最後の瞬間に到るまで、例のやせた男の視線はアリスタルフに釘付けであったという。
アリスタルフは犠牲になったのだ……。
ねっとりととした視線の男。その犠牲にな……。
「妙な風聞を流布するな!?」
●夜:牢獄内にて
「さっさと中に入れ! 騎士団を呼び戻すぞ!」
頭巾をかぶった男がいちいち偉そうに指示を出す。
魔女狩り如きに聖堂騎士団をどうこうする権限などあるものか。
労働者達もそれは分かっていたが、しかし、万が一の可能性がある。その万が一こそが、数で勝るキジンやマザリモノを縛り付けている鎖であった。
「卑下され続けて、無意識のうちに安全策を取るようになってんだよな」
とは、スラム街で過ごした経験を持つマリアの談。
何があろうと我関せず。だが愚痴る機会があるならば乗ってしまう。
まさに三下根性という他ないが、それがこの場の普通なのだ。
「時間が近いね」
アダムが告げる。
魔女狩りの目をかいくぐって炭坑の外に出ていた彼は、すでに陽が沈んで辺りが夜になりつつあることを皆に告げた。
「もう少し話を聞くか、それともそろそろ離脱を考えるべきか」
考えているアリスタルフを見て、アリスが問う。
「何かアリスタルフ、やせてね?」
「触れるな。触・れ・る・な」
「お、おう……」
本人から懇願されて、マリアはコクコク首肯した。するしかなかった。
「話を聞く、か」
ザルクが難しい顔をして周りを見る。
牢獄の中、空気はこれ以上なく死んでいた。
辺りには転がっている労働者達。皆、早々に寝てしまおうとしている。
話しかけようにも、
「うるせぇな、寝させろよ!」
強い調子でそう言い返されてしまう。
すでに、彼らにとっての一日は終わってしまっているようだった。
「これはもう一度アリスタルフに頼るしか……」
「イヤだぞ。イ・ヤ・だ・ぞ」
「お、おう……」
提案したザルクもさすがに引く以外にはない、アリスタルフの剣幕だった。
「情報は、ある程度は得られたと見ていいんじゃないかな」
「そうかもしれないがな」
ウダの言葉に、アデルも同調する。
ここまで入手した情報の中で特に重要度が高いものは二つ。
聖域は神造兵器以外では破れないとされており、過去の大戦にも使用された。
聖域を使用することで大管区の環境が悪化する。そのことから、聖域の展開に必要な魔力は大管区の聖櫃が賄っている可能性が高い。
「イ・ラプセルの次の動きを決める上で、十分な材料となる情報だと思う」
「と、するなら――」
ザルクは周りを見た。
「これ以上は欲を出すべきじゃないな」
「そうだね。離脱しよう」
アダムもそれに同意し、他の自由騎士達もうなずいた。
さて、そうと決まれば後は行動に出るだけだが、その前にアダムが動いた。
「ちょっと、いいかな?」
「何だよ、眠てぇんだ。あとにしてくれ」
「神は君達を救ってくれない」
「……あァ?」
アダムは近くで寝ていた男に話しかけ、そんなことを言った。
「神に捨てられたと嘆いても何も変わらない。君達を救うのは、君達自身だ」
「何言ってんだ、テメェ……」
唖然とするその男に、アダムは軽く苦笑して、
「見ていられなかった。それだけだよ」
それだけを言い残すと、彼はその場を去っていった。
言われた方の男はしばしキョトンとしつつもやがて大きく舌を打つ。
「分かってんだよ、ンなこたぁ。俺だって……、俺だって!」
悔しげに言うその声には、男の中に燻り続けるプライドがにじみ出ていた。
「何をしてたんだ?」
出口近くで待っていたアリスタルフがアダムを出迎えた。
「いや、ちょっとだけお節介をね」
「そうか」
それ以上、アダムを追求しようとする者はいなかった。
そして――
「な、貴様ら……!?」
「悪いな、少し眠っていてくれ」
見張り役の魔女狩りを数人がかりで昏倒させて、自由騎士達は強制労働所の外へと出ていった。
「彼らが陽の下に出られる日が来るといいけど」
「アダムが言った通り、そんなのはあいつら次第だぜ。だろ?」
返してきたマリアへアダムは小さく笑って、
「確かに、その通りだね」
そして自由騎士達の潜入任務は終わった。
ここで得た情報は、イ・ラプセルがシャンバラを攻める際に有効活用されることだろう。
或いはそれは、この場に囚われた異端と称される人々の、シャンバラに対するせめてもの意趣返しなのかもしれなかった。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
称号付与
†あとがき†
どうもお疲れさまでした!
いやー、ねっとりとした視線の男は強敵でしたね!
ここで得られた情報はすぐにでも使われることでしょう!
では、また次のシナリオでお会いしましょう!
ご参加いただきありがとうございました!
いやー、ねっとりとした視線の男は強敵でしたね!
ここで得られた情報はすぐにでも使われることでしょう!
では、また次のシナリオでお会いしましょう!
ご参加いただきありがとうございました!
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