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砂漠の王子




 カリム・ヴァルマートは、絵に描いたような『王子様』だった。
 出身は旧名家のヴァルマート家。頭脳明晰スポーツ万能。性格は心優しく勇敢。そしてついでに容姿端麗。残念ながらどこを切っても非の打ち所がなかった。
 −−だが、彼がどうしてそうなったかまで知っている人間は、いない。

 ある日、幼いカリム少年は芋虫を拾った。子供が小さな虫に興味を持って、連れて帰ってくるのはよくある話だ。そして、それに対する両親の反応もよくあるものだった。「捨ててきなさい」
 カリム少年はこの頃からすでに賢明だった。この芋虫は蝶になるのだ。ちゃんと世話をしてやれば美しい羽を拡げて庭を飛び回ることだろう。少年は両親に説明した。
 対して両親は頑迷だった。手が汚れる。いいから捨ててきなさい。−−お前に世話ができるわけがない。
 カリム少年はこの頃からすでに勇敢だった。反骨心があったとも言える。カリム少年は言った。わかった。捨ててこよう。でも今の言葉は訂正しろ。勉強もスポーツも頑張って、貴方たちが決して文句を言えない存在になってみせる。その時は今日のことを詫びてもらう−−

 その後のカリムは先述の通りである。彼は確かにそうなった。誰にも文句を言われない優等生。ヴァルマート家は貴族としては中流層、決して大富豪などではない。しかし、彼は尊敬と揶揄を込めてこう呼ばれた。『ヴァルマートの王子様』と−−。
 その心に一匹の『虫』が巣食っていたことを−−誰も、知るわけがない。


「で、そのカリム・ヴァルマートが行方不明になったらしい。お前ら捜索してくれないか」
『軍事顧問』フレデリック・ミハイロフ(nCL3000005)は、集まった自由騎士達にそう依頼した。「何か手がかりは?」自由騎士の一人が尋ねる。
「それがな。ヴァルマート家の御当主と奥方は長期出張中だ。家にはいないし事情も聴きに行けん。カリムはこのところ一人で家を取り仕切っていて、家で一人の時にいなくなったんだ。だからまずはヴァルマート邸をくまなく探してみてくれ。家は貴族街エルディアン・ロードにある。事情を聞ける相手としては通報してきたお手伝いさんが一人だ。−−取っ掛かりが少ないが、お前らなら何とか出来るはずだ」
 頼む、と言って、フレデリックは話を終えた。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
魔物討伐
担当ST
鳥海きりう
■成功条件
1.敵の全滅
2.カリムの救出
 皆様こんにちは。鳥海きりうです。よろしくお願いします。
 ヴァルマート邸での調査及び戦闘シナリオです。敵の全滅とカリムの救出が成功条件となります。

 敵及びサブキャラクターのご紹介です。
・サンドワーム ×1
 ヴァルマート邸地下室に巣食う巨大な虫。全長15m前後。巨大な口と牙を持ち、体当たり及び噛みつき、巻きつきが得意。砂状の地面に潜って地中移動を行う。
・プチサンドワーム ×15
 サンドワームの子供。全長2m前後。攻撃手段は親と同じ。
・カリム・ヴァルマート
 今回の救出対象。優等生だが戦闘力は皆無。
・ルシア・アルフォンス
 ヴァルマート家のお手伝いさん。第一通報者。

 今回の敵及びカリムは地下室にいますが、地下室の存在及びその入り方は皆様は知りません。頑張って探してみてください。

 戦場となる地下室は100m四方の立方体状で、地面は柔らかい砂状になっています。足を取られてスピードが落ちる可能性がありますのでご注意ください。ただし流砂等で完全に砂没してしまうことはないものとします。−−え? いっそ潜る?

 カリムは救出対象です、と断言しておきます。「実は敵だった」「実はこいつがワームを操ってた」ということはありません。そして、皆様の捜査がかなり遅れたとしても多分死ぬことはありません、とも申し上げておきます。

 簡単ですが、説明は以上です。
 皆様のご参加をお待ちしております。
状態
完了
報酬マテリア
6個  2個  2個  2個
13モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
8/8
公開日
2018年11月16日

†メイン参加者 8人†




 依頼を受けた自由騎士達は、貴族街エルディアン・ロードにあるヴァルマート邸を訪れていた。
「最後に見たカリムさんのお召し物はどんなものでしたか?」
『慈愛の剣姫』アリア・セレスティ(CL3000222)の問いに、第一通報者でヴァルマート家のお手伝いさんであるルシア・アルフォンスは小首を傾げながら答えた。
「最後に見たのは昨夜です。寝間着姿で……」
「カリムさんの靴は? 全て揃ってますか?」
 はい、とルシアが答え、アリアは思案する。「少なくとも、自分の意思で外出したわけじゃなさそうだね……」
「心配するな、お嬢さん。カリムの旦那は必ず見つけて見せるぜ」
『クマの捜査官』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)がそう言ってルシアを元気づける。はい、とルシアは伏し目がちに答えた。
「それで、確認だが、最後にカリムの旦那を見たのは昨夜ってことだよな?
 ルシアが頷き、ウェルスは質問を続ける。「最近何か変わったことはなかったか? それか、誰か怪しい人を見たとか」
「いえ……普段どおりでした。それに、ご存知でしょう? この街には、何か悪さができるような元気がある人は、もういないんです」
 ふむ、とウェルスは思案する。(事前に調べたところじゃ、ヴァルマート家は特に怨みを買うような家じゃなかった。カリムの旦那は王子様すぎて結構やっかまれてたようだが……それでこんな事件に発展するとは思えんしな)
「ルシアさんはお手伝いさんですから、お掃除などされていたんですよね?」
『修業中』サラ・ケーヒル(CL3000348)がそう尋ね、ルシアは頷く。サラは続けて尋ねた。「お部屋の中で、入ってはいけないと言われた部屋などありませんでしたか?」
「私室に入る際は必ず声をかけるようにと……あとは、地下に昔から使っているお勉強部屋があるのですが、そこは指示が無い限り何もしなくていい、と」
「ふむ……地下のお勉強部屋、ですか」
「貴族の優等生が失踪……か。誘拐だとしたら身代金の要求もないし。やっぱり家出の類かな?」
『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)がそう言う。「でも、靴はあるみたいだよ」「そうね。近隣で目撃情報もないなら、やっぱり外には出ていない?」
「ルシアさん、最近カリムさん何か言っていませんでした? どんな些細な事でもいいのですが」
「特別変わったことは、何も……」
「普段通りってことね。じゃあ、いなくなる理由は本人にはない……?」
「カリムの最近よく出入りしてた部屋ってどこだ?」
『闇の森の観察者』柊・オルステッド(CL3000152)が訊き、ルシアが答える。「ご自分のお部屋と、先程のお勉強部屋ですね。食事や入浴以外では、そのどちらかのお部屋におられます」
「ふむ……その部屋で変わった音とか、カリムの行動や言動で変なところは無かったか? あと独り身のようだし、ペットとか飼ってないのか?」
「特に気づきませんでした……それと、この家はペット禁止なんです」
「ほう。なんでだ?」
「旦那様も奥様も、その、動物がお嫌いで……」
「……ほほう」
「おやおや。そいつは困ったな」
 ウェルスも言い、ルシアは慌てて手を振る。「あ、いえ、そういうことではないんです。大丈夫です。旦那様は『その辺り』にはご理解がありますから」
「本当か? 正直に答えていいんだぞ」
「はい、あの……嫌いなのは、ケモノ臭というか……洗ってない野良犬の匂いとかがダメなんだそうです。なので、皆様ぐらい身なりがしっかりしてらっしゃれば、問題ありません」
「ふうん……ま、貴族は貴族か」
「この邸にはどんな施設がありますか?」
『天辰』カスカ・セイリュウジ(CL3000019)が訊き、ルシアは答える。「一階にエントランスホールとキッチン、ダイニング、浴室、物置、それから私が使わせて頂いてる使用人室があります。旦那様、奥様、カリム様のお部屋は二階です。後は地下に、カリム様のお勉強部屋があります」
「まあ、普通ですね。で、話をまとめると……」
「僕は、その地下の勉強部屋とやらが気になるね。ルシア君もそこはまだ見ていないのだろう? アルビノ君はどう思う?」
『極彩色の凶鳥』カノン・T・ブルーバード(CL3000334)はそう言い、傍に佇む『道化の機械工』アルビノ・ストレージ(CL3000095)に問いかけた。アルビノはカノンを振り返り、口を開く。
「地下です。勉強部屋を見てみましょう」
「言い切るね。根拠は?」
「地下に、複数の熱源があります。−−ひとつは全長15m前後。敵だとすれば早急に対処すべきです」
「……15m」
 サーモグラフィ。いち早く地下に蠢く何かの存在を察知したアルビノの言葉に、全員が緊張に身を硬くした。


 分散しての行動は避け、彼等は地下の勉強部屋に絞って捜査を行うことにした。エントランスホールから地下への階段を降り、勉強部屋へ向かう。
「熱源の数は全部で17。動きはどれも活発ではありませんが、広い範囲に点在していますね。……地下に、かなり大きな空間があると思われます」
 アルビノがサーモグラフィで得た情報を報告する。
「じゃあ私も。感情探査使うから、ちょっと大人しくしててね、ヒルダちゃ……」
 アリアは言いかけ、気づいた。そっか、今日はいないんだ。貴族も忙しいもんね。「……寂しくないもん」
 気を取り直して、感情探査を使用する。−−反応無し。「ということは、まさか気絶でもしちゃってるのかなあ。−−あるいは、別にネガティブな気分じゃない……?」
「皆さん、開けますね……あら」
 サラが勉強部屋のドアノブを回し、そんな声を上げた。−−鍵が掛かっている。
「しっかりしてますね……どうしましょう?」
「ふむ。基本的だが重要な部分だね。……誰にもアイデアは無いかな?」
「無いなら、しょうがねえな。俺がやろう」
 カノンが言い、ウェルスが進み出た。「できれば修理費は自己負担で頼むぜ、カリムの旦那!」ドアを蹴破り、中へ入る。
 部屋の中は書斎のようになっていた。中央奥に机があり、周囲の壁は本がぎっしりと詰まった本棚で占められている。「おお、調べる箇所がわんさとあるな。腕が鳴るぜ」ウェルスは言い、部屋の捜索を開始する。
「貴族のお屋敷なら、有事の際の為の隠し通路とかないかな?」
 エルシーは壁を叩いて音の違いを調べるつもりだったが、壁という壁は本棚で塞がっていた。「……床?」身を屈め、床を叩いて回り始める。
「遺留品の類は無さそうですね。部屋は綺麗に片付いている……ということは、特に慌てるような状況ではなかったんでしょうね」
 カスカは部屋を見回して呟き、本棚に向き直る。「日記帳でも探しますかね」すごいとこいくなあ。
「……そういや、この邸虫とか鼠とかまるでいないな。いたら聞き込みでもしようと思ったが……」
 部屋を捜索しながら、ウェルスは呟く。(鼠は沈む船には乗らないって言うしな。地下の危険とやらを察知して逃げたのかもしれねえ。……あるいは、すでに……)
「……うわ」
 カスカが声を上げ、ウェルスが振り向く。「どうした、カスカ嬢」カスカは一冊の本を開いたまま固まっていた。日記帳。
「おお、日記帳を見つけたな。で、どうだ?」
「ちょっと」
「? ちょっと?」
 尋ねるウェルスをよそに、カスカは日記帳を棚に戻す。「優等生すぎて、私にはちょっと。特に見るべき点はありませんでしたよ。普通の、御曹司の日記です」
「……そうか」
 ウェルスは頷き、捜査に戻る。カスカはそれに続こうとして、本棚を振り返った。「……中身まで完璧な人間なんて、いるんですかね」
「皆、ここだ。この本棚は回転扉になってる。ここからもっと地下へ行けるぜ」
 リュンケウスの瞳。透視能力を使った柊が本棚の一つに手をかける。−−動かない。「開かねえ……なんか開かないこと多いな」
「柊さん、手伝いますね」
 アリアが言い、柊と共に本棚を押す。「−−この感じ、ロックが掛かってる。仕掛けを動かさないと無理ですね」
「これじゃない?」
 床を調べていたエルシーが床板の一部が外れる事を発見した。床板を開き、隠されていたスイッチを押す。本棚が回転し、道が開いた。その向こうには梯子が掛けられており、さらに地下深くへと続いている。
 自由騎士達は慎重に、地下への梯子を降り始めた−−


「ここは……?」
 自由騎士達は梯子を降り切り、その先にあるものを見てアルビノは思わず呟いた。梯子を降りた先は広大な空間になっていた。地面は砂に覆われており、踏むと踝まで沈み込む。周囲の岩壁は整備されておらず、部屋というよりは洞窟というべき場所だった。点在する松明のおかげで視界は悪くない。
 彼らが降り立った直後、唐突に周囲が揺れた。地震。地響きと共に洞窟が揺れ、砂が蠕動する。
「この地震、何か違う……?」
「地面の下を、何かが動いてる……!?」
 アリアとサラがそう言い、身構える。「−−来るわ! 下!」エルシーの言葉と同時、砂の地面が爆発するように弾け飛んだ。砂塵の中から巨大な芋虫が現れる。サンドワーム。「ひええぇっ!?」アリアが悲鳴を上げ、身体ごと視線を反らしてうずくまる。(気のせい気のせイ。そう、ココはサバク、アレハシンキロウ……)
「サンドワーム、だと……!?」
「こんなもんがいるとは思いませんでしたね。しかも、お世辞にも友好的な雰囲気じゃありません」
 柊とカスカが言い、同時にさらに無数の小さなサンドワームが周囲に現れる。「ひいいいやああああああああああ!」アリアがいつもの悲鳴を上げ−−逃げた。まだ始まってもいないのに全力疾走で大きく距離を取る。
「カリム君の捜索がまだだ。無用な戦闘は出来れば避けたいね」
「まあな。一応話してみようか。−−なあ旦那方。カリムって旦那を探してるんだが、知らないか。家族が心配してるから、上に連れて帰りたいんだが」
 カノンが言い、ウェルスが進み出た。動物交流。サンドワームに語りかける。返ってきたのは敵意を孕んだ咆哮だった。プチサンドワームの一体がウェルスに飛びかかる。「ダメかい」ため息を吐き、ウェルスはその攻撃を避けた。
「モグラ叩きといくか……!」
 柊が剣を抜き、手近なプチサンドワームに走った。ヒートアクセル。プチワームがレイピアで串刺しにされ、動かなくなる。
「先手を取るだけが能じゃありませんね。たまにはのんびりいきましょう」
 抜刀。カスカは抜いた刀の切っ先を砂中に埋めた。静かに深呼吸し、待つ。
(砂中からどうやって私達の位置を捉えているんだろう。……足音……?)
 考えながら、エルシーはカンテラを手に前進した。デュアルストライク。左右の拳が連続で打ち込まれ、プチワームが地面を転がり、息絶える。「皆、私を狙ってワームが姿を現したトコロを狙い撃って!」
「ならば、不要な音は排除しよう。蝶になるか、蛹のまま駆除されるか。ふふ、さあ戯曲の始まりだ」
 カノンがオーディオエフェクトでエルシー以外の音を消し、さらに自分は滞空してプチワームの攻撃が届かない位置へ逃れた。
「小さい子から狙って、数を減らしましょう!」
 言って、サラも剣を抜いてプチワームに斬りかかった。ヒートアクセル。斬り伏せられたプチワームが地面に倒れる。三体目。
「悪く思うなよ……アローレインだ!」
 ウェルスの放った氷の矢が周囲にいた二体のプチワームを射抜き、仕留めた。
「さぁワタシのドール達、いっておいでっ」
 スパルトイ。アルビノが生成した自動人形が、鉤爪でプチワームに斬りかかる。命中。プチワームは悲鳴と血飛沫を上げ、倒れた。六体目。
「こっち来ないでえええ!!」
 エコーズ。アリアが魔力の短剣をプチワームに投げつけた。命中。頭に短剣を突き立てられ、プチワームが倒れる。七体撃破。
 敵が動く。残ったサンドワームとプチワーム達は一斉に地中に潜った。サンドワームが地中から、地鳴りを上げつつカスカに向かう。
「……そこ」
 トリロジーストライク。サンドワームが巨体をもたげる前に、カスカが仕掛けた。渾身の三段斬りがワームを斬り裂く。ワームは悲鳴と大量の鮮血を噴き上げ怯んだ。二回行動。さらにカスカはヒートアクセルを叩き込む。サンドワームは血塗れになりつつも巨大な顎でカスカに襲いかかる。回避。カスカはバックステップで避けた。「……しぶといですね」
 残る八体のプチワームのうち、四体はエルシーに向かった。一体がまずエルシーの身体に巻きつき、動きを制限したところを三体が襲いかかる。エルシーは反撃には及ばなかったが、二発を回避し、一発は被弾した。「くっ……いいわ、来るなら私のところに来なさい!」
 後の四体はサラに向かった。「来る……!」一体の攻撃をサラはかわす。反撃でそのプチワームを斬り伏せるが、二体目が後方からサラの身体に巻きついた。「くっ……!」動けないところへ残る二体が噛みついてくる。「虫は特に苦手じゃありませんが……ここまでされると、ちょっと……!」
「今よ、皆!」
「任せろ、エルシー嬢! うらぁぁぁぁーっ!」
 バレッジファイヤ。ウェルスの放った無数の弾丸がエルシーを囲むプチワームを悉く撃ち抜く。「ありがと!」「お互い様だ」ここまでで十二体撃破。
「この身体さえ、動けば……!」
「もーやだ! ヒルダちゃあああん!」
「お前にはブレイクゲイト!」
「援護しましょう」
 柊とアルビノ、あと相変わらず混乱しているアリアの遠距離攻撃がサラに取り付いたプチワームを撃ち払った。「トドメよ!」残り一体はエルシーが前蹴りで吹き飛ばす。これでプチワームは片付いた。
「さあ、その疵は僕が修復しよう」
「ありがとうございます!」
 カノンが上空からサラの傷を癒す。サラは手を振って応えた。
「……緩流急渦。攻め時ですね。いきましょう」
 天理真剣流・風之衝。さらに速度を増した無数の斬撃がサンドワームを斬り裂く。悲鳴。血の雨を降らせ、サンドワームの巨体が倒れた。撃破。戦闘終了。「……んん?」納刀し、カスカは小首を傾げる。
「さすがね、カスカ。一人であれを捌き切るなんて」
「……いえ」
「うん?」
 労いに来たエルシーの言葉に、カスカは首を横に振った。「手応えが無い。話がうますぎます」
「……本来は、もっと強いはず?」
「確証はありませんが。−−まあいいです。彼に訊きましょう」
 カスカはサンドワームの死骸を指差す。その中に、繭のようなものに絡め取られた、赤毛の美少年の姿があった。カリム・ヴァルマート。


「……で? あのサンドワームは何なんだ、旦那。それにこの地下空洞は?」
 救出したカリムの治療をしながら、ウェルスが訊いた。カリムが答える。「最初からあったんだ」
「何? 最初から?」
「ヴァルマート家はもとは貴族街の出身じゃない。引っ越してきたんだ。その時にこの邸を買った。空いてた地下室を勉強部屋にもらって、地下への隠し扉に僕が気づいたのは十二の時だ」
「それで、なんでこんなことになったの?」
 エルシーが問う。「この地下も、昔はここまで大きくなかったんだ。虫を飼うのに便利だから使ってた。それがいつのまにかサンドワームの巣になってた。流石に手に負えなくなって、話をしたんだ。別のところに引っ越せないか。会いに行くからって。−−そこからは覚えてない」
「ちょっと待って。話したって、ワームと? 知性があったの?」
「確証があるわけじゃないよ。でも、少なくとも僕は、心が通じてるつもりでいた。−−このザマだけどね」
「まあ手に負えないのは見ればわかる。どんなエサやってたんだ? 育ち過ぎだ」
 柊が呟き、カリムが答える。「サンドワームはせいぜい土までしか掘れない。上の岩盤を破って地上には出られないんだ。たぶんこの砂の下が、どこか別の餌場に通じてるんだろう」
「状況から見て、確信的行動でこんな地下室にわざわざ入り込んだのは分かります。で、我々の手を煩わせて楽しかったですかね。これが貴方の望んだ結末でしたか? それだけ教えてもらえれば結構です」
 カスカが言い、カリムは肩を竦める。「……友達だった。死んでしまったのは悲しいよ。でも、どこか肩の荷が降りたような気もする」
 カスカを見て、笑う。「僕は今まで優等生をやってた。でも、彼が死んでわかったよ。−−僕は別に、いい人間じゃない。これからは気楽にやろうと思う」
 聞いて、カスカは肩を竦めた。「それはそれは」
「悔しいかい、カリム」
 カノンがカリムの前に立ち、問うた。「面白い。人が厭い疎んじ恐れる物を、君だけは愛した。何故こんな事になってしまったか分かるかい?」
「−−さあ」
「ふむ。まだまだかな。ならば教えてあげよう。君に、力が足りなかったからだ。君が、誰もが決して文句を言えない存在になれたなら、僕らはきっと友達になれるさ」
「−−僕には、君たちほどの力は得られないよ。どう足掻いてもね」
「手助けはできるよ。完全性は往往にして個によっては成り立たない。僕達は補い合えるはずだ」
 言って、カノンは微笑んだ。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

特殊成果
『黄色いブローチ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員

†あとがき†

皆様お疲れ様でした並びにご参加ありがとうございました。

 MVPはカスカ・セイリュウジ様。緩急織り交ぜた戦闘もさることながら、ストレートな物言いが逆にカリムの本音を引き出した感もあって意外に良かったです。

 重ねまして、皆様お疲れありがとうございました。
FL送付済