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【機神抹殺】絡紅。或いは、アラクノフォビア…

●陽動部隊始動
ヘルメリアの首都ロンディアナ。
ごく一般的な町並みの広がるその場所には異形の怪物が跋扈していた。
明かりの付いた民家に巻き付く鋼の糸。
所々には、中身も分からない繭のようなものもある。
繭のサイズは人間がすっぽりと収まるほどに巨大なものだ。
鋼の糸は、よくよく見れば一定の法則に基づいて張り巡らされているようにも見える。
たとえばそれは、蜘蛛の巣によく似ていた。
ぽたり、と鋼線から油に似た液体が零れる。
地面に落ちたその液体は、その衝撃でごく小規模な爆発を起こした。
そんな蜘蛛の巣を張り巡らすは、機械の下半身と人の上半身を保つ異形の者たちである。
一般的に[アラクネー]と呼ばれる幻想種だ。
だが、その八脚は機械と化し、さらには頭部から背にかけて鉄の鎧か装甲のようなものを身につけていた。
融合種……『人機融合装置』により幻想種と機械や武器が融合した存在である。
その数実に7体。
さらにはそれらのアラクネーより一回り巨大な体躯のものが1体。
都合8体のアラクネーが、街の一部を中心に鋼線を張り巡らし自身たちの巣を形成していた。
糸を伝うようにして、アラクネーたちは天地の別なく動き回っている。
その巣はどうやら、神ヘルメスの命を受け、ヘルメスの座所へ向かう道を封鎖しているようだった……。
●階差演算室
「このまま巣が広がっていけば、他の戦場やヘルメスとの戦いにも支障が出るだろう。そこで君たちには[アラクネー]の撃破をお願いしたい」
モノクルを片手で押し上げながら『長』クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)は淡々と作戦を告げる。
「街中ということもあり、戦場は相手に有利なものとなっている。もっとも、ヘルメリアの首都なのだからそれも当然だが」
すでに蜘蛛の巣は張り巡らされた後だ。
そこを突破しつつ、蜘蛛……アラクネーたちを撃破する必要ことが今作戦の主目的である。
「張り巡らされた鋼線に触れれば、その動きを阻害される。また、糸に染みこんでいる可燃性の液体は少しの衝撃でも爆発を起こすものだ」
要するに戦場全体に[バーン]の効果を付与する罠が仕掛けられているに等しい。
鋼の糸とはいえ、自由騎士たちであれば断ち切ることにたいした労力はないだろうが、無傷ですべてを、となるとそれなりに工夫が必要だろう。
「通常の[アラクネー]が7体、[クイーンアラクネー]が1体確認されている。件の可燃性の鋼線の他、粘着力の高い[ショック]付きの糸を射出することも
できるようだ。攻撃手段としては、無数の弾丸をばらまく火器だな」
開けた空間であれば、回避や防御に苦労するものでもないのだろうが、あいにくと場所は街中でありアラクネーたちは張り巡らせた巣を利用して立体的に移動することが出来る。
糸を切断することで、アラクネーたちの行動範囲を狭めることも可能だろう。
また、鉄線の存在から飛行しての移動には危険が伴うことが予想された。
「それでもやってもらうしかないのだが……頼めるかね?」
数秒、クラウスは自由騎士たちからの返答を待った。
誰からも否やの声が上がらないことを確認し、満足したように頷きを一つ。
そして……。
「一応、ティダルトよりの支援もあるがそう長持ちするものでもない。くれぐれも注意を払い、任務達成に努めるのである」
ヘルメリアの首都ロンディアナ。
ごく一般的な町並みの広がるその場所には異形の怪物が跋扈していた。
明かりの付いた民家に巻き付く鋼の糸。
所々には、中身も分からない繭のようなものもある。
繭のサイズは人間がすっぽりと収まるほどに巨大なものだ。
鋼の糸は、よくよく見れば一定の法則に基づいて張り巡らされているようにも見える。
たとえばそれは、蜘蛛の巣によく似ていた。
ぽたり、と鋼線から油に似た液体が零れる。
地面に落ちたその液体は、その衝撃でごく小規模な爆発を起こした。
そんな蜘蛛の巣を張り巡らすは、機械の下半身と人の上半身を保つ異形の者たちである。
一般的に[アラクネー]と呼ばれる幻想種だ。
だが、その八脚は機械と化し、さらには頭部から背にかけて鉄の鎧か装甲のようなものを身につけていた。
融合種……『人機融合装置』により幻想種と機械や武器が融合した存在である。
その数実に7体。
さらにはそれらのアラクネーより一回り巨大な体躯のものが1体。
都合8体のアラクネーが、街の一部を中心に鋼線を張り巡らし自身たちの巣を形成していた。
糸を伝うようにして、アラクネーたちは天地の別なく動き回っている。
その巣はどうやら、神ヘルメスの命を受け、ヘルメスの座所へ向かう道を封鎖しているようだった……。
●階差演算室
「このまま巣が広がっていけば、他の戦場やヘルメスとの戦いにも支障が出るだろう。そこで君たちには[アラクネー]の撃破をお願いしたい」
モノクルを片手で押し上げながら『長』クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)は淡々と作戦を告げる。
「街中ということもあり、戦場は相手に有利なものとなっている。もっとも、ヘルメリアの首都なのだからそれも当然だが」
すでに蜘蛛の巣は張り巡らされた後だ。
そこを突破しつつ、蜘蛛……アラクネーたちを撃破する必要ことが今作戦の主目的である。
「張り巡らされた鋼線に触れれば、その動きを阻害される。また、糸に染みこんでいる可燃性の液体は少しの衝撃でも爆発を起こすものだ」
要するに戦場全体に[バーン]の効果を付与する罠が仕掛けられているに等しい。
鋼の糸とはいえ、自由騎士たちであれば断ち切ることにたいした労力はないだろうが、無傷ですべてを、となるとそれなりに工夫が必要だろう。
「通常の[アラクネー]が7体、[クイーンアラクネー]が1体確認されている。件の可燃性の鋼線の他、粘着力の高い[ショック]付きの糸を射出することも
できるようだ。攻撃手段としては、無数の弾丸をばらまく火器だな」
開けた空間であれば、回避や防御に苦労するものでもないのだろうが、あいにくと場所は街中でありアラクネーたちは張り巡らせた巣を利用して立体的に移動することが出来る。
糸を切断することで、アラクネーたちの行動範囲を狭めることも可能だろう。
また、鉄線の存在から飛行しての移動には危険が伴うことが予想された。
「それでもやってもらうしかないのだが……頼めるかね?」
数秒、クラウスは自由騎士たちからの返答を待った。
誰からも否やの声が上がらないことを確認し、満足したように頷きを一つ。
そして……。
「一応、ティダルトよりの支援もあるがそう長持ちするものでもない。くれぐれも注意を払い、任務達成に努めるのである」
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.ターゲット8体の撃破
2.進路を阻む糸の除去
2.進路を阻む糸の除去
●ターゲット
クイーンアラクネー(融合種)×1
蜘蛛の下半身に人間の上半身を保つ幻獣種。
8本の脚と、頭部から背にかけて機械化している模様。
会話が成立するかは不明。
クイーンアラクネーとアラクネーは遠距離からの散弾による攻撃を行う。
総合的にクイーンの方が巨体かつステータスも高いが、その他のアラクネーたちを統率しているわけではないようだ。
下記のスキルを行使する。
また、スキルはどちらも糸によるものであり、一見しただけではどちらか判断はつかないだろう。
・可燃鋼糸[攻撃] A:物遠範[バーン2]
・粘着鋼糸[攻撃] A:物遠単[ショック]
アラクネー(融合種)×7
基本的にはクイーンアラクネーと同じ姿、同じ攻撃手段を有する。
ステータスや体躯などはクイーンアラクネーよりも幾分小さいが、それでも2メートルほどの巨体である。
・可燃鋼糸[攻撃] A:物遠範[バーン1]
・粘着鋼糸[攻撃] A:物遠単[ショック]
●場所
ヘルメリア首都ロンディアナの街。
あちこちに鋼の糸や繭が張り巡らされている。
糸に触れることで染みこんだ炸薬が燃焼し、小規模な爆発を巻き起こす。
爆発を受けると[バーン1]の状態異常に陥る場合もある。
また、飛行を使用しての移動は行動に制限がかかる。
また、糸はアラクネーたちの足場にもなっているようだ。
●支援効果
偽エイト・ポーン
『ティダルト』からの支援です。先の戦いで鹵獲したプロメテウスの兵装をニコラが改造しました。
6ターンの間、敵全体のFBが5上昇します。7ターン目に自爆して壊れます。
クイーンアラクネー(融合種)×1
蜘蛛の下半身に人間の上半身を保つ幻獣種。
8本の脚と、頭部から背にかけて機械化している模様。
会話が成立するかは不明。
クイーンアラクネーとアラクネーは遠距離からの散弾による攻撃を行う。
総合的にクイーンの方が巨体かつステータスも高いが、その他のアラクネーたちを統率しているわけではないようだ。
下記のスキルを行使する。
また、スキルはどちらも糸によるものであり、一見しただけではどちらか判断はつかないだろう。
・可燃鋼糸[攻撃] A:物遠範[バーン2]
・粘着鋼糸[攻撃] A:物遠単[ショック]
アラクネー(融合種)×7
基本的にはクイーンアラクネーと同じ姿、同じ攻撃手段を有する。
ステータスや体躯などはクイーンアラクネーよりも幾分小さいが、それでも2メートルほどの巨体である。
・可燃鋼糸[攻撃] A:物遠範[バーン1]
・粘着鋼糸[攻撃] A:物遠単[ショック]
●場所
ヘルメリア首都ロンディアナの街。
あちこちに鋼の糸や繭が張り巡らされている。
糸に触れることで染みこんだ炸薬が燃焼し、小規模な爆発を巻き起こす。
爆発を受けると[バーン1]の状態異常に陥る場合もある。
また、飛行を使用しての移動は行動に制限がかかる。
また、糸はアラクネーたちの足場にもなっているようだ。
●支援効果
偽エイト・ポーン
『ティダルト』からの支援です。先の戦いで鹵獲したプロメテウスの兵装をニコラが改造しました。
6ターンの間、敵全体のFBが5上昇します。7ターン目に自爆して壊れます。
状態
完了
完了
報酬マテリア
6個
2個
2個
2個




参加費
150LP [予約時+50LP]
150LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
4/8
4/8
公開日
2020年03月26日
2020年03月26日
†メイン参加者 4人†
●
ヘルメリアの首都ロンディアナ。
ごく一般的な町並みの広がるその場所には異形の怪物が跋扈していた。
明かりの付いた民家に巻き付く鋼の糸。
所々には、中身も分からない繭のようなものもある。
繭のサイズは人間がすっぽりと収まるほどに巨大なものだ。
鋼の糸は、よくよく見れば一定の法則に基づいて張り巡らされているようにも見える。
そう、それはまさしく蜘蛛の巣だ。
巣を足場としてうごめくそれは異形の怪異。蜘蛛の下半身と人の上半身を持つその怪異の名は[アラクネー]という。
だが、その八脚は機械と化し、さらには頭部から背にかけて鉄の鎧か装甲のようなものを身につけていた。
融合種……『人機融合装置』により幻想種と機械や武器が融合した存在である。
鋼の糸から、ポタリと零れる黒い油が地面に水たまりを作る。
ばちゃん、と。
「まずは張り巡らされた糸を除去して、アラクネーたちの足場を崩さなきゃな。っても、和解の道があればそれが一番いいんだけどさ」
黒い水たまりに足を踏み入れ、『砂塵の戦鬼』ジーニー・レイン(CL3000647)は戦斧を肩に担いだ。
彼女の登場に気づいたアラクネーたち……その数実に7体に及ぶ……が一斉にそちらへ視線を向けた。
無機質な眼差しを真正面から受け止めながら、ジーニーは獣じみた笑みを浮かべた。
「うわぁ……すっごいね。もうこれ、街じゃないじゃん……すげー蜘蛛の巣!」
そんなジーニーの背後でロイ・シュナイダー(CL3000432)、が頬を引きつらせてそう呟いた。
アラクネーたちの視線を真正面から受け止めるジーニーと違い、彼はどうやら蜘蛛……あるいは蟲の類が苦手なようだ。
とはいえ、彼とて自由騎士。
しっかりとその目は、巣のところどころに垂れ下がる繭のようなものを捉えていた。
「んー? 中身は何かな……って、人じゃん。い、生きてるのか、これ?」
スキル【リュウケンスの瞳】によって彼が捕らえた繭の中には、蹲るような姿勢で捕らわれた人間たちの姿があった。
ピクリとも動かないため、一見しただけではその生死を判別できない。
けれど、しかし……。
「誰か捕まっているのなら助けないといけませんけれど」
繭へ手を伸ばしながら、セアラ・ラングフォード(CL3000634)はそう言葉を紡いだ。
その瞳には不安の感情が色濃く灯る。
すぐにでも繭を切り裂き、捕らわれた人々を助け出したい。
だが、状況がそれを許さないのだ。
7体のアラクネーたちが、8本の脚を蠢かせながら糸を伝って迫りくる。
街全体に張り巡らされた糸は、まさしく彼女たちの巣……狩場なのだろう。
音もなく、ただ静かに、そして素早く獲物に迫り襲うのだ。
「来るぞ。なかなか早いが……アラクネーらに足場にされないよう、まずは巣の排除だな」
手にした機槍……ジョルトランサー・改……を一閃。『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)は周囲の糸を、その一撃で切り落とす。
糸に衝撃が加えられたことで、染み込んだ炸薬が連鎖的な小爆発を巻き起こす。だが、アデルはそのすべてを受け止めた。
元より頑丈な身体を持つアデルにとって、多少のダメージなど気にするものではないようだ。加えて、即座にセアラの回復術が行使されあっという間に失われた体力は充填された。
張り巡らされた蜘蛛の巣が揺れ、先頭を走っていたアラクネーがバランスを崩した。
その瞬間……。
「どおりゃぁあ~っ!」
雄叫びと共に振り抜かれたジーニーの斧が、近くの家屋の壁を崩した。
●
崩れた壁の残骸を、ジーニーは器用に斧に突き刺し持ち上げる。
戦鬼の称号に相応しい、まさに鬼神のごとき膂力だ。
そして彼女は、力任せに斧をスイング。瓦礫……巨大な石材の塊を、アラクネーたちへ向けて投げつけた。
ぶちぶちと音を立て、瓦礫の進路上にあった鋼糸が切断される。
どうやらその糸に見かけほどの強度はないようだ。
爆発に次ぐ爆発。
4人の視界が紅蓮に染まる。
「来ます! 間違っても繭を攻撃しないよう注意してくださいね!」
そう叫んだセアラの声が、続く爆音に掻き消された。
戦場に淡い燐光を孕んだ風が吹く。
セアラの行使した【ノートルダムの息吹】によるものだ。治癒力を強化されたジーニーは、恐れるものなど何もないとばかりに紅蓮の炎へ突き進む。
大上段に振り上げた斧を、叩きつけるように一閃。
「っらぁ!」
先頭を走るアラクネーの頭部を、その一撃で砕いて見せた。
仲間たちのサポートに徹するべく、セアラは素早く周囲へ視線を走らせた。
彼女の役目は回復と敵の観察、そしてごく小規模な遊撃となる。
生憎と最前線での戦闘は不得手な彼女にとって、周囲全体が敵の陣地ともいえるこの場所は相性が悪い。
物陰に隠れたとしても、巣を伝って頭上から襲われる危険があるからだ。
けれど……。
「ここからなら……」
ジーニーの砕いた民家の壁面、その大穴へ跳び込んだ。
家屋の仲間ではアラクネーも巣を張ってはいないのだ。
「少しでも糸を落としませんと」
自身の安全を確保したセアラが、次に放ったのは青く輝く魔力の光弾。
まっすぐ真上に打ち上げられた光弾は、屋根の高さで弾けるように魔力の波を解き放つ。
青い魔力は水のマナが多分に含まれている証拠。弾けたそれは、頭上高くに張られた糸を、瞬く間に凍らせた。
凍り、砕けた糸の破片がまるで霜のようにパラパラと戦場へ降り注いだ。
紅蓮の炎を突き抜けて、最接近して来たアラクネーの数は2体。
そのうち1体は現在ジーニーと戦闘中だ。
偽エイト・ポーンの影響下にあるためか、アラクネーは思うように攻勢に映れていない模様。
「とはいえ、あれにも時間制限がある……短期決戦を狙うぞ」
もう1体のアラクネーを相手取りながら、アデルは視線をまっすぐ前へ。
炎が掻き消えたその先には、まっすぐに腕をこちらへ突き出すアラクネーたちの姿があった。
「っても、相手は遠距離攻撃が得意なんでしょ? じゃ、こっちから切り込むしかないよね」
おそらくは遠距離攻撃の発射体制なのだろう。
そう判断したロイは、素早く銃剣を構えその引き金に指を乗せた。
「ま、あの位置なら仲間を巻き込む心配もないしな」
囁くようにそう告げて。
放たれたのは、灼熱の弾丸。
それも1発や2発ではない。ロイは全神経を集中させ、愛用の銃剣に魔力を注ぐ。込められた魔力は、熱と弾丸へ変換され、次々とその銃口から吐き出されるのだ。
まるでそれは、豪雨のように。
鋼糸の巣を撃ち抜きながら、アラクネーたちに降り注ぐ。
ロイの背後で爆音が鳴り、偽エイトポーンがその機能を停止した。
「糸の中心部へ向かおう。おそらくそこに、クイーンがいるはずだ」
ぐしゃり、と。
アデルの機槍が、アラクネーの胸を貫いた。
力を失い倒れ伏したアラクネーの体を盾に、ロイは前へ前へと進む。
そんなロイの頭上から、大量の糸が降り注ぐ。
「ぬ……おぉっ!?」
ロイの身を包んだ糸は、次の瞬間炸裂し、辺りに火炎をまき散らした。
火炎に包まれ、アラクネーの遺体が崩れる。
炎に体を覆われながら、けれどロイは前へと進んだ。
1歩1歩、確実に。
構えた機槍を大きく振るい、進路を阻む糸を切り裂く。
そんなロイの体を、淡い燐光が包み込んだ。それは、後衛より放たれたセアラによる回復スキル。
セアラの支援を受けながら、ついにロイは5体のアラクネーたちが待ち受ける敵地の最中へ到達したのだ。
アラクネーたちの主な攻撃手段は、射出される糸による遠距離攻撃となる。
よって、最初に接近してきた2体を除く残りの5体は、自由騎士たちの進軍に押されるようにして、じわじわと一定の距離を保って後退していた。
足場となる糸を、片っ端からジーニーとアデルが切断しているというのも後退の理由の一つではあろう。
「弱っているのなら、私でも……っ!」
セアラが手を翳すと、その周辺に青白く光る魔力の円が浮かび上がった。
冷気を放つ魔力の渦が、ロイの攻撃により最もダメージを負っていたアラクネーを凍り付かせる。
1体、アラクネーが倒れ伏す。
「お~い、お前達。ヘルメスに騙されてるぞ~。その身体、メンテせずに放っておいたらすぐに死んじゃうぞ?」
「退いてくれないってんなら、悪いけどボッコボコにしてくねー」
ジーニーの斧がアラクネーの脚を纏めてすべてへし折った。
さらに、ロイの銃剣が別個体の胸部を撃ち抜いた。
残るアラクネーは2体。
そして……。
「最も体力がある俺が大物を引き付け、近づいてきた所を狙うのが合理的だ」
2体のアラクネーのさらに後方。
巣の中心部でこちらを見やる、一際巨大な蜘蛛女の姿。
クイーンアラクネーを視界に捉え、アデルはまっすぐそちらへ向けて駆けていく。
アラクネーたちからはただただ無言で、敵意も戦意も感じさせない冷たい視線をアデルへと向けた。
クイーンアラクネーを筆頭に、一斉に放たれる大量の糸。
降り注ぐそれは、アデルの身に触れると同時に炎を放つ。
思わず足を止めたアデルの進路を塞ぐように、クイーンアラクネーは巣を張った。
阻まれた進路を切り開くべく、ロイは素早いステップでアデルを追い越し前へ出る。
「話が通じないんなら倒すしかないよな……って訳で、お邪魔しますよ!」
銃剣を一閃。
巣の一端を切り開き、ロイは最も近くにいた1体のアラクネーへと切りかかった。
駆け抜けたロイの背後で、切られた糸が爆炎をまき散らす。
「なぁ、糸を凍らせてからなら爆発しないんじゃないか?」
後衛に立つセアラへ向け、ジーニーはそう問いかけた。
大上段に斧を振りかぶった姿勢のままに、ジーニーはふとそんなことを考えたのだ。
「なるほど……それは、確かに」
最前線で戦うロイの回復を済ませ、セアラは即座に行動に移る。
ジーニーの予想が正か否かを確かめるべく、アラクネーたちの張り巡らせた巣に向けて【アイスコフィン】を行使した。
凍り付いた巣の真ん中へ、斧を掲げたジーニーが迫る。
「おぉぉぉぉ、りゃっ!」
力任せに振り下ろされた一撃は、凍った糸を粉々に砕いた。
飛び散る氷片を全身に浴びながら、ジーニーはそのまま駆けていく。
クイーンアラクネーが放った糸が、ジーニーの体に巻き付いた。
直後……。
「うおっ!?」
ジーニーの体は、紅蓮の炎に包まれる。
●
「回復は……不要そうですね。それなら戦線をサポートします」
そう呟いて、セアラは再度【アイスコフィン】を行使した。
渦巻く魔力と冷気の奔流が、向かって右側のアラクネーへと集約する。
ギシギシと、凍り付く間接を無理に動かしアラクネーは前へ出る。
掲げた腕は、まっすぐにセアラへ向いていた。
放たれるは糸による攻撃。
だが、アラクネーが糸を放つより早く、ジーニーの振り上げた斧が伸ばされた腕を切り落とした。
一瞬、アラクネーは驚愕の表情を浮かべたようにセアラには見えた。
けれど、その直後……。
その全身は凍り付き、アラクネーは地に伏せた。
一方そのころ、最前線へ飛び出したロイは素早い動作でアラクネーの攻撃を回避しながら、その懐へと潜り込む。
アラクネーたちの行動パターンはここまでの戦闘で学習済みだ。
彼女たちの傾向として、距離を詰めればその分だけ後退する。
自分たちにとって安全かつ最適な距離をアラクネーは知っている。
その習性を利用して、ロイはアラクネーをその場から遠ざけるように動く。
現在、ジーニーとアデルがクイーンアラクネーと交戦中だ。
余計な横槍を入れられては叶わない。
「ま、これで終わりだ。さっさと片付けてチャチャッと帰ろーぜ!」
銃声は2発。
1発目の弾丸が、アラクネーの額を穿つ。
次いで放たれた2発目の弾丸が、1発目の弾丸をさらに奥へと押し込んだ。
とぱん、と。
アラクネーの後頭部が爆ぜ、血潮と共に機械の部品が飛び散った。
「……脳まで改造済みってか」
息絶えたアラクネーを一瞥し、呻くようにそう呟いた。
クイーンアラクネーの放つ糸を、ジーニーとアデルはその身で受ける。
状態異常はセアラが即座に回復させる。
そう、状態異常だけ……2人の体力はすでに2割を切っていた。
だが、それでいい。
とくに、ジーニーとアデルの2人にとってはまさにここからが本番と言える。
「生憎と追い込まれてからが本番でな」
「なめんなよ、蜘蛛女!」
アデルの身体は傷だらけ。機械の体の至るところから火花を散らす。
ジーニーもまた、全身に大きな火傷を負っている状態だ。
荒く、熱い呼吸を繰り返しながらけれど彼女は笑っていた。
アデルの機槍が、ジーニーの斧が。
クイーンアラクネーの全身に叩きつけられる。
狙いも何もない、ただ力任せの連続攻撃。
それを受ける度、クイーンアラクネーの纏う機械の装甲が砕け、壊れる。
最初に腕が。
次いで、前2本の脚が。
バランスを崩したアラクネーの右側の脚を3本、ジーニーの斧が打ち砕く。
アラクネーの胴を覆う装甲を、アデルの機槍が貫いた。
クイーンアラクネーとアデル&ジーニーの戦いは佳境に迫る。
すなわち、どちらが先に限界を迎えるのか……と、そういう話だ。
「っらぁ!」
「全弾持っていけ!」
ジーニーの斧が、クイーンアラクネーの蜘蛛の身体を大きく抉る。
胸に突き刺さったアデルの機槍から鳴り響く爆音。内臓された撃発機構を全弾使用した最大火力の一撃が、骨も肉も機械の装甲も、すべてを纏めて貫いた。
『-----------------』
声にならない悲鳴と共に……。
あるいは、アラート音にも似たその叫びが、クイーンアラクネーの最後の言葉。
機能を停止したクイーンアラクネーは、その場に倒れてそれっきり、二度と動くことはなくなった。
こうしてアラクネーたちを撃破した4人は、少しの休憩の後、街の各所へ散っていく。
街中に張り巡らされた糸の残りや、繭に捕らわれた一般人の救出を行うためだ。
戦いは終わったが、彼らの仕事はまだまだ山と残っている。
ヘルメリアの首都ロンディアナ。
ごく一般的な町並みの広がるその場所には異形の怪物が跋扈していた。
明かりの付いた民家に巻き付く鋼の糸。
所々には、中身も分からない繭のようなものもある。
繭のサイズは人間がすっぽりと収まるほどに巨大なものだ。
鋼の糸は、よくよく見れば一定の法則に基づいて張り巡らされているようにも見える。
そう、それはまさしく蜘蛛の巣だ。
巣を足場としてうごめくそれは異形の怪異。蜘蛛の下半身と人の上半身を持つその怪異の名は[アラクネー]という。
だが、その八脚は機械と化し、さらには頭部から背にかけて鉄の鎧か装甲のようなものを身につけていた。
融合種……『人機融合装置』により幻想種と機械や武器が融合した存在である。
鋼の糸から、ポタリと零れる黒い油が地面に水たまりを作る。
ばちゃん、と。
「まずは張り巡らされた糸を除去して、アラクネーたちの足場を崩さなきゃな。っても、和解の道があればそれが一番いいんだけどさ」
黒い水たまりに足を踏み入れ、『砂塵の戦鬼』ジーニー・レイン(CL3000647)は戦斧を肩に担いだ。
彼女の登場に気づいたアラクネーたち……その数実に7体に及ぶ……が一斉にそちらへ視線を向けた。
無機質な眼差しを真正面から受け止めながら、ジーニーは獣じみた笑みを浮かべた。
「うわぁ……すっごいね。もうこれ、街じゃないじゃん……すげー蜘蛛の巣!」
そんなジーニーの背後でロイ・シュナイダー(CL3000432)、が頬を引きつらせてそう呟いた。
アラクネーたちの視線を真正面から受け止めるジーニーと違い、彼はどうやら蜘蛛……あるいは蟲の類が苦手なようだ。
とはいえ、彼とて自由騎士。
しっかりとその目は、巣のところどころに垂れ下がる繭のようなものを捉えていた。
「んー? 中身は何かな……って、人じゃん。い、生きてるのか、これ?」
スキル【リュウケンスの瞳】によって彼が捕らえた繭の中には、蹲るような姿勢で捕らわれた人間たちの姿があった。
ピクリとも動かないため、一見しただけではその生死を判別できない。
けれど、しかし……。
「誰か捕まっているのなら助けないといけませんけれど」
繭へ手を伸ばしながら、セアラ・ラングフォード(CL3000634)はそう言葉を紡いだ。
その瞳には不安の感情が色濃く灯る。
すぐにでも繭を切り裂き、捕らわれた人々を助け出したい。
だが、状況がそれを許さないのだ。
7体のアラクネーたちが、8本の脚を蠢かせながら糸を伝って迫りくる。
街全体に張り巡らされた糸は、まさしく彼女たちの巣……狩場なのだろう。
音もなく、ただ静かに、そして素早く獲物に迫り襲うのだ。
「来るぞ。なかなか早いが……アラクネーらに足場にされないよう、まずは巣の排除だな」
手にした機槍……ジョルトランサー・改……を一閃。『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)は周囲の糸を、その一撃で切り落とす。
糸に衝撃が加えられたことで、染み込んだ炸薬が連鎖的な小爆発を巻き起こす。だが、アデルはそのすべてを受け止めた。
元より頑丈な身体を持つアデルにとって、多少のダメージなど気にするものではないようだ。加えて、即座にセアラの回復術が行使されあっという間に失われた体力は充填された。
張り巡らされた蜘蛛の巣が揺れ、先頭を走っていたアラクネーがバランスを崩した。
その瞬間……。
「どおりゃぁあ~っ!」
雄叫びと共に振り抜かれたジーニーの斧が、近くの家屋の壁を崩した。
●
崩れた壁の残骸を、ジーニーは器用に斧に突き刺し持ち上げる。
戦鬼の称号に相応しい、まさに鬼神のごとき膂力だ。
そして彼女は、力任せに斧をスイング。瓦礫……巨大な石材の塊を、アラクネーたちへ向けて投げつけた。
ぶちぶちと音を立て、瓦礫の進路上にあった鋼糸が切断される。
どうやらその糸に見かけほどの強度はないようだ。
爆発に次ぐ爆発。
4人の視界が紅蓮に染まる。
「来ます! 間違っても繭を攻撃しないよう注意してくださいね!」
そう叫んだセアラの声が、続く爆音に掻き消された。
戦場に淡い燐光を孕んだ風が吹く。
セアラの行使した【ノートルダムの息吹】によるものだ。治癒力を強化されたジーニーは、恐れるものなど何もないとばかりに紅蓮の炎へ突き進む。
大上段に振り上げた斧を、叩きつけるように一閃。
「っらぁ!」
先頭を走るアラクネーの頭部を、その一撃で砕いて見せた。
仲間たちのサポートに徹するべく、セアラは素早く周囲へ視線を走らせた。
彼女の役目は回復と敵の観察、そしてごく小規模な遊撃となる。
生憎と最前線での戦闘は不得手な彼女にとって、周囲全体が敵の陣地ともいえるこの場所は相性が悪い。
物陰に隠れたとしても、巣を伝って頭上から襲われる危険があるからだ。
けれど……。
「ここからなら……」
ジーニーの砕いた民家の壁面、その大穴へ跳び込んだ。
家屋の仲間ではアラクネーも巣を張ってはいないのだ。
「少しでも糸を落としませんと」
自身の安全を確保したセアラが、次に放ったのは青く輝く魔力の光弾。
まっすぐ真上に打ち上げられた光弾は、屋根の高さで弾けるように魔力の波を解き放つ。
青い魔力は水のマナが多分に含まれている証拠。弾けたそれは、頭上高くに張られた糸を、瞬く間に凍らせた。
凍り、砕けた糸の破片がまるで霜のようにパラパラと戦場へ降り注いだ。
紅蓮の炎を突き抜けて、最接近して来たアラクネーの数は2体。
そのうち1体は現在ジーニーと戦闘中だ。
偽エイト・ポーンの影響下にあるためか、アラクネーは思うように攻勢に映れていない模様。
「とはいえ、あれにも時間制限がある……短期決戦を狙うぞ」
もう1体のアラクネーを相手取りながら、アデルは視線をまっすぐ前へ。
炎が掻き消えたその先には、まっすぐに腕をこちらへ突き出すアラクネーたちの姿があった。
「っても、相手は遠距離攻撃が得意なんでしょ? じゃ、こっちから切り込むしかないよね」
おそらくは遠距離攻撃の発射体制なのだろう。
そう判断したロイは、素早く銃剣を構えその引き金に指を乗せた。
「ま、あの位置なら仲間を巻き込む心配もないしな」
囁くようにそう告げて。
放たれたのは、灼熱の弾丸。
それも1発や2発ではない。ロイは全神経を集中させ、愛用の銃剣に魔力を注ぐ。込められた魔力は、熱と弾丸へ変換され、次々とその銃口から吐き出されるのだ。
まるでそれは、豪雨のように。
鋼糸の巣を撃ち抜きながら、アラクネーたちに降り注ぐ。
ロイの背後で爆音が鳴り、偽エイトポーンがその機能を停止した。
「糸の中心部へ向かおう。おそらくそこに、クイーンがいるはずだ」
ぐしゃり、と。
アデルの機槍が、アラクネーの胸を貫いた。
力を失い倒れ伏したアラクネーの体を盾に、ロイは前へ前へと進む。
そんなロイの頭上から、大量の糸が降り注ぐ。
「ぬ……おぉっ!?」
ロイの身を包んだ糸は、次の瞬間炸裂し、辺りに火炎をまき散らした。
火炎に包まれ、アラクネーの遺体が崩れる。
炎に体を覆われながら、けれどロイは前へと進んだ。
1歩1歩、確実に。
構えた機槍を大きく振るい、進路を阻む糸を切り裂く。
そんなロイの体を、淡い燐光が包み込んだ。それは、後衛より放たれたセアラによる回復スキル。
セアラの支援を受けながら、ついにロイは5体のアラクネーたちが待ち受ける敵地の最中へ到達したのだ。
アラクネーたちの主な攻撃手段は、射出される糸による遠距離攻撃となる。
よって、最初に接近してきた2体を除く残りの5体は、自由騎士たちの進軍に押されるようにして、じわじわと一定の距離を保って後退していた。
足場となる糸を、片っ端からジーニーとアデルが切断しているというのも後退の理由の一つではあろう。
「弱っているのなら、私でも……っ!」
セアラが手を翳すと、その周辺に青白く光る魔力の円が浮かび上がった。
冷気を放つ魔力の渦が、ロイの攻撃により最もダメージを負っていたアラクネーを凍り付かせる。
1体、アラクネーが倒れ伏す。
「お~い、お前達。ヘルメスに騙されてるぞ~。その身体、メンテせずに放っておいたらすぐに死んじゃうぞ?」
「退いてくれないってんなら、悪いけどボッコボコにしてくねー」
ジーニーの斧がアラクネーの脚を纏めてすべてへし折った。
さらに、ロイの銃剣が別個体の胸部を撃ち抜いた。
残るアラクネーは2体。
そして……。
「最も体力がある俺が大物を引き付け、近づいてきた所を狙うのが合理的だ」
2体のアラクネーのさらに後方。
巣の中心部でこちらを見やる、一際巨大な蜘蛛女の姿。
クイーンアラクネーを視界に捉え、アデルはまっすぐそちらへ向けて駆けていく。
アラクネーたちからはただただ無言で、敵意も戦意も感じさせない冷たい視線をアデルへと向けた。
クイーンアラクネーを筆頭に、一斉に放たれる大量の糸。
降り注ぐそれは、アデルの身に触れると同時に炎を放つ。
思わず足を止めたアデルの進路を塞ぐように、クイーンアラクネーは巣を張った。
阻まれた進路を切り開くべく、ロイは素早いステップでアデルを追い越し前へ出る。
「話が通じないんなら倒すしかないよな……って訳で、お邪魔しますよ!」
銃剣を一閃。
巣の一端を切り開き、ロイは最も近くにいた1体のアラクネーへと切りかかった。
駆け抜けたロイの背後で、切られた糸が爆炎をまき散らす。
「なぁ、糸を凍らせてからなら爆発しないんじゃないか?」
後衛に立つセアラへ向け、ジーニーはそう問いかけた。
大上段に斧を振りかぶった姿勢のままに、ジーニーはふとそんなことを考えたのだ。
「なるほど……それは、確かに」
最前線で戦うロイの回復を済ませ、セアラは即座に行動に移る。
ジーニーの予想が正か否かを確かめるべく、アラクネーたちの張り巡らせた巣に向けて【アイスコフィン】を行使した。
凍り付いた巣の真ん中へ、斧を掲げたジーニーが迫る。
「おぉぉぉぉ、りゃっ!」
力任せに振り下ろされた一撃は、凍った糸を粉々に砕いた。
飛び散る氷片を全身に浴びながら、ジーニーはそのまま駆けていく。
クイーンアラクネーが放った糸が、ジーニーの体に巻き付いた。
直後……。
「うおっ!?」
ジーニーの体は、紅蓮の炎に包まれる。
●
「回復は……不要そうですね。それなら戦線をサポートします」
そう呟いて、セアラは再度【アイスコフィン】を行使した。
渦巻く魔力と冷気の奔流が、向かって右側のアラクネーへと集約する。
ギシギシと、凍り付く間接を無理に動かしアラクネーは前へ出る。
掲げた腕は、まっすぐにセアラへ向いていた。
放たれるは糸による攻撃。
だが、アラクネーが糸を放つより早く、ジーニーの振り上げた斧が伸ばされた腕を切り落とした。
一瞬、アラクネーは驚愕の表情を浮かべたようにセアラには見えた。
けれど、その直後……。
その全身は凍り付き、アラクネーは地に伏せた。
一方そのころ、最前線へ飛び出したロイは素早い動作でアラクネーの攻撃を回避しながら、その懐へと潜り込む。
アラクネーたちの行動パターンはここまでの戦闘で学習済みだ。
彼女たちの傾向として、距離を詰めればその分だけ後退する。
自分たちにとって安全かつ最適な距離をアラクネーは知っている。
その習性を利用して、ロイはアラクネーをその場から遠ざけるように動く。
現在、ジーニーとアデルがクイーンアラクネーと交戦中だ。
余計な横槍を入れられては叶わない。
「ま、これで終わりだ。さっさと片付けてチャチャッと帰ろーぜ!」
銃声は2発。
1発目の弾丸が、アラクネーの額を穿つ。
次いで放たれた2発目の弾丸が、1発目の弾丸をさらに奥へと押し込んだ。
とぱん、と。
アラクネーの後頭部が爆ぜ、血潮と共に機械の部品が飛び散った。
「……脳まで改造済みってか」
息絶えたアラクネーを一瞥し、呻くようにそう呟いた。
クイーンアラクネーの放つ糸を、ジーニーとアデルはその身で受ける。
状態異常はセアラが即座に回復させる。
そう、状態異常だけ……2人の体力はすでに2割を切っていた。
だが、それでいい。
とくに、ジーニーとアデルの2人にとってはまさにここからが本番と言える。
「生憎と追い込まれてからが本番でな」
「なめんなよ、蜘蛛女!」
アデルの身体は傷だらけ。機械の体の至るところから火花を散らす。
ジーニーもまた、全身に大きな火傷を負っている状態だ。
荒く、熱い呼吸を繰り返しながらけれど彼女は笑っていた。
アデルの機槍が、ジーニーの斧が。
クイーンアラクネーの全身に叩きつけられる。
狙いも何もない、ただ力任せの連続攻撃。
それを受ける度、クイーンアラクネーの纏う機械の装甲が砕け、壊れる。
最初に腕が。
次いで、前2本の脚が。
バランスを崩したアラクネーの右側の脚を3本、ジーニーの斧が打ち砕く。
アラクネーの胴を覆う装甲を、アデルの機槍が貫いた。
クイーンアラクネーとアデル&ジーニーの戦いは佳境に迫る。
すなわち、どちらが先に限界を迎えるのか……と、そういう話だ。
「っらぁ!」
「全弾持っていけ!」
ジーニーの斧が、クイーンアラクネーの蜘蛛の身体を大きく抉る。
胸に突き刺さったアデルの機槍から鳴り響く爆音。内臓された撃発機構を全弾使用した最大火力の一撃が、骨も肉も機械の装甲も、すべてを纏めて貫いた。
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声にならない悲鳴と共に……。
あるいは、アラート音にも似たその叫びが、クイーンアラクネーの最後の言葉。
機能を停止したクイーンアラクネーは、その場に倒れてそれっきり、二度と動くことはなくなった。
こうしてアラクネーたちを撃破した4人は、少しの休憩の後、街の各所へ散っていく。
街中に張り巡らされた糸の残りや、繭に捕らわれた一般人の救出を行うためだ。
戦いは終わったが、彼らの仕事はまだまだ山と残っている。