MagiaSteam
花の下にて




 ――花が咲いている。
 山深いその場所は、以前は鉱山があり賑わっていたらしい。しかし、今は見る影もない。生命を脅かす瘴気が漏れ出した鉱山事故でその場所は今は封鎖されて久しいようだ。
 只、その場所には美しい花が咲いている。本当に美しい花だ。
 鮮やかなれと咲き誇るそれは誰もが褒め称えた花だったのだろう。
 訪れる者が居なくなってもひっそりと、只、ひっそりと咲いている。

 ……だからだろうか、病気がちの母が「あの花の思い出」を離してくれたのは。
 ……だからだろうか、誰もおらぬからこそ、咲いているかも解らぬ花を見に行ったのは。
 きっと咲いている。
 少年はそう考え、ゆっくりと脚を勧める。木々を掻き分け、草木を踏み、母の言ったその花の場所に。
 大輪の、空を映しこんだような鮮やかな晴天の華。
「あ、」
 彼の両眼に移ったのは花の許にしゃがみ込み、ゆらりと立ち上がる一つの影だった。



『元気印』クラウディア・フォン・プラテス(nCL3000004)は「みんな、今日も元気そうでなによりだよ!」と愛らしい笑みを見せる。
 水鏡階差運命演算装置より解析した『未来』を視た彼女は都市部より少し離れた場所に美しい花が咲いているのだと告げた。
「青空みたいに綺麗な花なんだよ。その花を病気がちのお母さんにプレゼントしたいと山を登ってる男の子がいるんだ!」
 その少年の名前は『アレッド』。彼は咲いているかもわからぬが母が思い出の様に言う花を探して山を登り続けているのだという。
 そして、彼が花を見つけたその時――花の下に立っていたのは三人の還リビト。
 魔素に影響されて起き上がり、動き始めるものだ。
「心温まる話も一転したんだ……。
 水鏡はアレッドくんが還リビトに襲われる未来を教えてくれた! だから――」
 クラウディアは言う。
 封鎖されてからその鉱山の入り口付近に人は訪れる事はなかったという。
 しかし、アレッドの病気がちの母は昔、その鉱山で働いており、その時に視た花が忘れられず――どうしても、と息子に乞うたのだ。
「だからね、私はアレッドくんの未来が血に染まるのは絶対に嫌!
 お母さんにもお花を見せて元気になって欲しい……。
 ずっと昔の鉱山事故で亡くなった還リビト達だって誰かを殺すなんて望んじゃあ居ないと思うんだ」
 だから、どうか――どうか、救って欲しい。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
魔物討伐
■成功条件
1.還リビトの殲滅
2.アレッドの無事
ごりらとひひのユニット、ごりらんとひひです。はじめまして。
初めての依頼になります。

●現場
 都市より離れた山深い場所にある鉱山です。
 数十年前に鉱山事故が起こり、今は封鎖されています。
 鉱山の入口に晴天の色をした花(大輪の花ですがそれ程大きなものでもないです)が咲いています。
 周辺は開けた土地の為、細かくは考える必要はありません。
 ただ、お花には少し気を使ってあげるとアレッド君が喜びます。

●討伐対象 還リビト×3
 鉱山で働く労働者の格好をした還リビトです。
 三人はそれぞれバランスよい戦闘を行います。回復役は1名。その他2名は前衛系です。

●アレッド君
 幼い頃に病気になった母と共に過ごす少年です。
 母は昔この鉱山で働いていましたが鉱山事故により病がちで家から出れないようです。
 母の為に花を探して山を登っています。
 皆さんの到着時点ではまだ辿り着いていませんが、事件の経過で彼が到着する可能性が高まります。

 どうぞ、よろしくお願いします。
状態
完了
報酬マテリア
6個  2個  2個  2個
22モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
8/8
公開日
2018年07月08日

†メイン参加者 8人†

『戦場に咲く向日葵』
カノン・イスルギ(CL3000025)
『きらきら星の自鳴琴』
スイ 早緑(CL3000326)
『慈悲の刃、葬送の剣』
アリア・セレスティ(CL3000222)
『イ・ラプセル自由騎士団』
グスタフ・カールソン(CL3000220)



 その場所には、美しい花が咲いているらしい。
 周囲を見回して、サブロウタ リキュウイン(CL3000312)は出来れば花を欲する親思いの少年の手に美しい花が渡る事を願っていた。
 美しい花が咲いている――そう言われれば花畑を思わせるが季節移ろうその頃は青々と茂った草木が周囲をぐるりと取り囲んでいる。人が寄らなくなった影響もあるのだろう。痛ましい鉱山事故を思えば『鷹狗』ジークベルト・ヘルベチカ(CL3000267)の表情は歪む。
「もしや、その三人の還リビトはアレッド少年の母親の友人であったのかもしれませんね……」
 昔、母が働いていたというアレッド少年。もしや、と思えばジークベルトは小さな溜息を吐く。
『もしも』そうであれば、友人たちは親愛なる友の子供を殺すこととなってしまう。それは、なんと不幸な事だろうか。
 ただでさえ、少年が母を思っての行動が血塗られた出来事に変化してしまう事は耐えがたいのだ。
 周囲をくるりと見回しながら『蒼の審問騎士』アリア・セレスティ(CL3000222)は人目を引く幼さを感じさせるかんばせを僅かに固くし、周囲を見回す。ちちち、と鳴く鳥の声が聞こえることから鉱山事故が起こったという場所にしては平和が訪れているのだとアリアは感じていた。
「病気になったお母さんの為にこんな危険なところに花を摘みに来るなんてほんまお母さん想いのええこやなぁ」
 そんな優しい息子――彼、アレッドの想いを無碍にしない為にもしっかりと守ってやるとアリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)の気合は十分だ。
 その言葉に大きく頷いて『翠玉』スイ 早緑(CL3000326)は緊張すると息を飲む。これが初陣だというスイにとって、還リビトも初めての存在だろう――こうして望まぬ目覚めを感じるのはどれ程、辛い事であろうか。
「できればアレッド少年が来る前に終わらせたいけれど……それは私達の頑張り次第ね」
 きょろりと周囲を見回して、『梟の帽子屋』アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)はスナイパーライフルをしっかりと抱える。
 母思いの優しい『息子』を危険にさらしたくないのは皆、同じ気持ちだ。
 もう近くまで来ているのであろうアレッドの気配を感じながらアンネリーザは眼前にゆるゆると立ち上がった還リビトの姿を映した。
『イ・ラプセル自由騎士団』グスタフ・カールソン(CL3000220)は言う。晴天の色をした大輪の花とはどの様なものだろうか。
「青色か? 空色か? 興味はあるな」
「うん。なんていえばいいんだろう? 本当に晴れた日のお空の色だね。
 本当にきれいなお花だねー。こんなお花が咲いてたんだー」
 きらりと瞳を輝かせた『太陽の笑顔』カノン・イスルギ(CL3000025)は目の前に咲く花を見てそう呟いた。
 もしも自身の母が生きていたらきっと喜ぶような――そんな花だ。グスタフが物珍し気にその花を眺めるのと同じようにカノンは「これはアレッド君のかーさまも喜ぶよね」と頷いた。
 まずはアレッドが花を持って帰れるために――目の前の『起きてはいけないお客様』にお眠りいただくだけだ。


 ずるり、とその身を起こしたのは還リビトと呼ばれる存在。その道中までの道をしっかりと確認していたシノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)はグスタフに大きく頷く。
 一方で、アレッドが進む道中を出来る限り送らせるためにマグノリア・ホワイト(CL3000242)は出来る限りアレッドを危険に晒さぬようにと賢明なる支援を行っていた。
 カノンはなるべく花を傷つけぬようにと立ち振る舞う。ハイバランサーを駆使し、たん、と地面をけったカノンは飛び掛かるが如く襲い来る還リビトを受け止める。
 骨は軋む音を立てるが――力を受け流す独特な流れはまさに『柳』の如く。ひらりとその身を揺らしたカノンの背後でサブロウタが魔導医学の基礎術式を紡ぐ。
「これで皆さん少しずつ回復するはずです。回復サポートさせて頂きますっ」
「ナイスサポートや! お母さん想いのええ子を護るためにがんばるで」
 遺伝子レベルで自己を改変したアリシアは花をちら、と見ながらゆっくりと還リビトに向き直る。アレッドが辿り着いたときに花が咲いてないとなるとどれ程悲しむ事だろうか――そう思えば、アリシアの掌には力がこもる。
「貴方達も、思い出の花を踏み荒らしたくはないでしょう?」
 ショートソードを手にしたアリアは巧みな身体制御を以て最速の一撃を還リビトへと叩きこむ。
 後衛位置でスモールシールドを手にしたスイは己の体内で神秘の力が強化されていることを実感する。
「サポートなら、わたくしにお任せくださいませ」
「国を護る騎士として、水の女神の名に誓い、少年を守り切ります――いざ」
 ジークベルトは鼻を踏まぬように銃剣を握り感覚を研ぎ澄ませる。傍らのスイにいつアレッドが到着してもよいようにと対策を練ってのことだ。
 神速の二撃を放つジークベルトに還リビト達はうう、と小さく唸り声を上げる。
 カノンは還リビトに肉薄し、花を傷つけぬように花より彼らを遠ざけてゆく。
 サブロウタの癒しを受けながら、眼前の還リビトを見詰めている。それなりに統率がとれているのは前世からの付き合い故であろうか。
 まずは前線で戦う敵を倒すところからだ。アンネリーザは悲し気に表情を歪めて見せる。
「ただ花が見たかっただけなの。
 その想いを悲しい結末にしない為に私達自由騎士が居る。貴方達の悲劇もこれで終わりよ。安らかに眠って頂戴……」
 その言葉は只、何処までも真摯だ。還リビト達によって血塗られた出来事になる位ならば――全てを護りたいとそう願う。
 土塊と呼ぶに相応しい還リビト達を受け止め乍らグスタフは守るために戦い続ける。
「還りビト達も運悪くこうなっちまったんだろうが、だったら尚のこと安らかに送ってやらねぇとな。
 てなわけで、今回もお仕事頑張りますか♪
 あ、今回はアリアちゃんの前、ちゃんと歩いてしっかり守るから安心してね☆」
「――そう、そうね」
 その言葉に背筋に嫌な気配を感じたアリアが肩を竦める。なんたって彼は『ラッキースケベ☆』な人種なのだ。
 先ずは一人、的確に敵を倒していく自由騎士たち。
「来ます」
 そう告げたジークベルトの声にスイが顔を上げた。草むらから顔を出しているのは紛れもなく『予告されていた少年』の姿だ。
「アレッド様」
 囁くスイの言葉にアリアがこくりと頷く。守らなければならぬという様に進み出るアリシアは背を向けた儘、少年の無事を願った。
「なに――」
 驚いた様に告げた少年にスイが顔を上げる。アレッド様ですか、と確かめる言葉に少年は不思議そうに頷き、どうしたものかと辺りを見回す。
「さあ、ここは危険です。アレッド様は安全な場所へ。わたくしもお供します」
 己がマザリモノと呼ばれる種であることがアレッドを怖がらせぬように――配慮は十分のスイは後で花を確保しましょうと囁いた。
「綺麗に咲いた、大切なお花ですもの」
 お守りいたしますと告げるスイの言葉にアレッドは大きく頷いた。
「鉱山の事故で巻き込まれた人らが還リビトになって戻ってきたんやろか。
 死んでも鉱山に戻ってくるやなんてほんま働きもんやなー」
 へらりと笑ったアリシアの傍らでアリアは「こういう戦い方は苦手ですね」と肩を竦めた。空中を飛びながら、花を護る様に立ち振る舞うアリアにとって『守護』というのは『回避』よりも難しい。
 跳ね上がる。彼女のスカートがひらりと揺れた事にグスタフが「おおっ」と声を漏らす。
「ラッキースケベ!」
 その言葉にアリアのぶーつの踵がグスタフを狙い、「だぁっ」とグスタフから情けない声があがるが――それは何時ものお決まりの様子だ。

 ――おんなのこのおっぱいとおしり、大好物だ……。

 彼の心の声をご紹介してしまえば、大問題かもしれないが、彼の表情は至って真面目だ。
「死んだ工夫のおっさんたちにゃ何の恨みもねぇが……。
 ただ未来ある坊主を守る為でもあるし、おっさん達を安らかに送ってやりてぇ気持ちもある。だから、ここはひとつ、黙って滅されてくれや。なぁ?」
 ゆっくりと――グスタフは窘める様にそう言った。アリシアはその言葉にゆっくりとうなづく。
「でもあんたらがおる所はこことちゃうから……ちゃんと戻るべきところに戻りや?」
 スイが護衛役をしている方面へちら、とグスタフは視線を送る。戦場では何が起こるかは分からない。
 こちらはおまかせくださいと告げるスイの言葉にグスタフは大きく頷く。
 ぐん、と身を後退させたスイはアレッドを庇う様に立ち振る舞う。その動きに合わせたのはカノン。
 還リビトがふらりと反応し、スイとアレッドに近寄らんとしたその刹那、ガントレットに包まれた拳を武器にその土くれの身を殴りつけた。
「貴方達もこのお花がきっと好きだったんだよね。
 カノン達は貴方達を倒さないといけない。けど貴方達の為に、今このお花を待ってる人の為に、このお花を守るって約束するよ」
 消え去る様にその身は崩れていく。人間とは所詮土に還る存在だ。
 どうして彼らがこうして蘇った――動き出した、というのが正しいのだろう――のかはアレッドの目からは解らない。
 しかし、花を摘みに来た自分を助けてくれたことは判る。「アレッド様」と呼びかけるスイの声にゆっくりと頷いて、少年は深く息を吐いた。
「……怖かったか? 坊主」
 確かめるグスタフの声に首をふるりと振った。道中を歩むまでにマグノリアに命綱をとアドバイスされていたこともこの場所での戦闘を予見していたのかと彼は小さく笑った。
「大丈夫だった。おじさんたちが守ってくれたんだろ」
 その言葉にジークベルトは小さく笑う。少年は案外大物になるのかもしれない。
 これからが楽しみだという様に彼の頭にぽん、と掌を置いて。


「アレッド様、もう大丈夫です。さあ、お花を摘みに参りましょう」
 柔らかに告げたスイにアレッドは安堵した様に胸を撫でおろす。
 カノンは『かーさま』に習った事を思い出しながらアレッドを手伝った。カノンの『かーさま』はいないけれど、アレッドと彼の『かーさま』が一緒に居られるようにと願いを込める。
「お花、どういう風に持って帰るのかな? 鉢植えなら値を傷つけないよー掘らなきゃだし、切り花にするなら過敏の水の中で斜めに切らなきゃだし」
 その言葉にアレッドは「どうしよう」と困った様に首を傾げる。出来れば長持ちして欲しいという願いは確りとある。
 アレッドとカノンが話している間にジークベルトは還リビトが落としたのであろうアクセサリーを拾い、花の近くに埋葬した。
 咲き誇る花を一つ、手向けとして沿えてゆっくりと目を伏せる。それは感傷なのかもしれない――此処に咲いた花を求めて現れる人々を襲うのならば彼らだって花を護りたかったのかもしれない。
「花、切り花にしてラッピングする? お母さんも嬉しいかもしれないわね」
 柔らかに微笑んだアンネリーザはカノンが斜めに切ったそれを湿らせたタオルで巻く。
 花を持って帰っても良いのだろうかとぱちりと瞬くスイにアレッドは数が少ないけど良いのかな、と不安げに振り仰いだ。
「んー……大丈夫やと思うけど、数を減らすのは忍びないなあ」
 頬を掻いたアリシアは「でも少しだけなら」と一輪、スイへと手渡した。出来れば義妹にプレゼントしたいというジークベルトも小振りの物を一つ手に取る。
「アレッドくんのお母さんはこのお花に思い入れあるんやろか。
 ……訳ありやったら無理に聞くつもりはないねんけど。こういう所は危ないもんが出てきたりするからな」
 きれいな花が欲しいだけならば他の場所でもよかっただろうとアリシアは首を傾げる。アレッドは「母さんが、昔言ってたから」とぼそぼそと呟いた。
「ここで働いてた時が楽しくて……父さんが初めてくれたプレゼントだった、って」
 その言葉に「ロマンチックね」とアリアは瞳を輝かせた。瘴気の影響は受けてないかと念入りに確認したアリアはそうだわ、と顔を上げる。
「アレッド君、こっちこっち。はい笑顔! ちょっとじっとしててね?」
 青い花が咲く場所を背景に記念の一枚。現像したならば押し花と共にプレゼントするとアリアは微笑んだ。
 小さな冒険譚はきっと母の思い出に華を添えられることだろう。
「この花はなんて名前なのかしら? 知ってる? きっと貴方がここまで来ることを知っていて、咲いて待っててくれたのね」
 アレッドはアンネリーザの言葉に何処か恥ずかしそうに花の名を口にした。フルール・アレッドという名の付けられたそれは母にとっての宝物だったそうだ。
「すてきですね」
 大きく頷くサブロウタはアレッドに柔らかに微笑んだ。そうだ、素敵なのだ。きっと――きっと喜んでくれるとアレッドは瞳を輝かせる。
 花の下には死体が埋まっている――?
 とても怖い思い出だったかもしれないけれど、それは少年の心を強くすることだろう。
 素敵な思い出になった、と振り仰いだ彼に自由騎士たちはそれぞれ頷く。
 さあ、家に帰ろう。そして、母に「ただいま」と微笑もうではないか。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

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