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ヒスイ輝石と東方古道具

●
「なんて事だっ!? せっかく運んできたって言うのによぉっ!!」
「いきなり動き出しやがった! た、助けてくれっ!!」
アデレード港に停泊した一隻の輸送船『ライジンマル』。
それは前触れも無く突然起こった。
──イブリース化。モノや動物が突如凶悪化し、魔物となる現象。
それが今まさに到着したばかりの輸送船内で起こったのだ。
「グォォォォオオオオオォォォォォ……ッ!!」
輸送船下層からであろうか。地の底から聞こえてくるような唸り声が響く。
そしてそれに鼓舞されるかのように、積み込まれていた古道具たちも狂ったように空を舞い始める。
「い、イブリースになりやがった!! 危険だ! 皆逃げろっ!!」
船上はさながら合戦のような大混乱の様相を呈していた。
●
「プラロークによって新たな事件が演算された。至急アデレード港へ向かってくれ」
『軍事顧問』フレデリック・ミハイロフ(nCL3000005)は言葉を続ける。
「今回イブリース化したのはアマノホカリの古道具たちだ。故あってアカデミーでの研究のために通商連経由でアマノホカリから取り寄せたものなのだが……」
フレデリックの言葉に切れが無い。どうやらアカデミーで研究する名目で持ち込まれたものだけあって、資料的価値があるものも含まれている事が起因しているようだ。
「こうなってしまっては致し方なくはあるのだが……可能な限りで構わない。イブリース化を解き、回収を行って欲しい」
宜しく頼む、とフレデリックは頭を下げた。
「なんて事だっ!? せっかく運んできたって言うのによぉっ!!」
「いきなり動き出しやがった! た、助けてくれっ!!」
アデレード港に停泊した一隻の輸送船『ライジンマル』。
それは前触れも無く突然起こった。
──イブリース化。モノや動物が突如凶悪化し、魔物となる現象。
それが今まさに到着したばかりの輸送船内で起こったのだ。
「グォォォォオオオオオォォォォォ……ッ!!」
輸送船下層からであろうか。地の底から聞こえてくるような唸り声が響く。
そしてそれに鼓舞されるかのように、積み込まれていた古道具たちも狂ったように空を舞い始める。
「い、イブリースになりやがった!! 危険だ! 皆逃げろっ!!」
船上はさながら合戦のような大混乱の様相を呈していた。
●
「プラロークによって新たな事件が演算された。至急アデレード港へ向かってくれ」
『軍事顧問』フレデリック・ミハイロフ(nCL3000005)は言葉を続ける。
「今回イブリース化したのはアマノホカリの古道具たちだ。故あってアカデミーでの研究のために通商連経由でアマノホカリから取り寄せたものなのだが……」
フレデリックの言葉に切れが無い。どうやらアカデミーで研究する名目で持ち込まれたものだけあって、資料的価値があるものも含まれている事が起因しているようだ。
「こうなってしまっては致し方なくはあるのだが……可能な限りで構わない。イブリース化を解き、回収を行って欲しい」
宜しく頼む、とフレデリックは頭を下げた。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.イブリース化したアマノホカリ由来の古道具の討伐
全国どこの店でも使えるラーメン食べ放題パス。そんなものがもし販売される事があったら、世界一周の飛行機のチケットとどちらが高いのだろうとふと考えました。ありえないので無駄な時間でした。麺二郎です。
アデレード港に到着したばかりの輸送船。その船内で研究のために通商連を経てアマノホカリより輸送されてきた古道具がイブリース化しました。イブリース化した中には大砲もあり、このままにしておけば輸送船が沈む可能性もあります。イブリース化した古道具を止め、船と逃げ遅れた船員を守ってください。
●ロケーション
アデレード港に停泊する輸送船『ライジンマル』船上。甲板や貨物室など至る所でイブリース化した古道具が暴れています。
停泊し、錨は下ろされていますが、海からの強風により船は大きく揺れています。
何らかの対策が無ければ行動に支障をきたすでしょう。
・輸送船『ライジンマル』
イ・ラプセル製の輸送船。船名はアマノホカリ好きの船長による。
船の構造は2階層になっており、上層には操縦室などが、下層には貨物室、食堂、機関室、船員達の部屋などがあります。
・船長 異変を感じ、貨物室に向かいました。貨物室の隅でうずくまっています。
・船員 逃げ遅れた船員8名。デッキに4名。残りはデッキから貨物室に向かう途中の通路にいます。
●敵
イブリース化したアマノホカリの古道具です。
基本的にはイブリース化を解けば元の道具に戻ります。が、とどめの一撃があまりに威力が強過ぎた場合、破損してしまう可能性があります。ただし案山子には資料的価値はありません。どんどん燃やしましょう。
また全てがメイドインアマノホカリであるため、同国出身者の方がいた場合、戦況が有利に働く可能性があります。
・鎧武者 アマノホカリ製の甲冑。とある武人が愛用していたもの。カタナと呼ばれる武器を手にしています。鎧には幾つかのヒスイ輝石が装飾されています。自由騎士たちがたどり着いたときには貨物室の一番奥におり、上層での対応に時間がかかりすぎると機関室に向かい、船の動力を破壊にかかります。
一文字 攻近単 目にも留まらぬ速さの抜刀術。【スクラッチ1】
十文字 攻近単 カタナによる二連の攻撃。敵を十字に切り裂きます。【スクラッチ1】【二連】
薙払(EX) 攻近範 周囲の敵を薙ぎ払う。【スクラッチ1】【ノックバック】
兜割(EX) 攻近単 頭上より打ち込まれる渾身の大振り 【スクラッチ2】【致命】【必殺】
・キセルx5 アマノホカリの煙草をふかす道具。回避性能に優れます。貨物室にいます。
火の玉 魔遠単 小さな火の玉を飛ばします。【バーン1】
・鉄扇子x3 アマノホカリの鉄で出来た扇子。防御力が高いです。貨物室にいます。
防御陣 鎧武者への遠距離攻撃を防ぐ行動をとります。
・案山子(鍬)x60 藁で出来た人形。弱いです。燃えやすいです。デッキにいます。
鍬の一撃 攻近単 手に持った鍬で攻撃します。
・案山子(弓矢)x20 藁で出来た人形。弱いです。燃えやすいです。デッキにいます。
矢雨 攻遠単 対象に矢を放ちます。
・大筒x2 巨大な大砲です。半端なく体力が多いです。同じくデッキにあります。
砲撃 攻遠範 巨大な鉛玉を発射し、周囲を巻き込む衝撃を与えます。
・ほら貝 かの昔、アマノカホリの合戦の合図として使われていたらしいもの。中央マストのてっぺんにいます。
開戦の響 魔遠全 6ターンの間、イブリース化したモノ達の攻撃性を高めます。
●同行NPC
ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)
特に指示が無ければ回復サポートを行います。
所持スキルはステータスシートをご参照ください。
皆様のご参加お待ちしております。
アデレード港に到着したばかりの輸送船。その船内で研究のために通商連を経てアマノホカリより輸送されてきた古道具がイブリース化しました。イブリース化した中には大砲もあり、このままにしておけば輸送船が沈む可能性もあります。イブリース化した古道具を止め、船と逃げ遅れた船員を守ってください。
●ロケーション
アデレード港に停泊する輸送船『ライジンマル』船上。甲板や貨物室など至る所でイブリース化した古道具が暴れています。
停泊し、錨は下ろされていますが、海からの強風により船は大きく揺れています。
何らかの対策が無ければ行動に支障をきたすでしょう。
・輸送船『ライジンマル』
イ・ラプセル製の輸送船。船名はアマノホカリ好きの船長による。
船の構造は2階層になっており、上層には操縦室などが、下層には貨物室、食堂、機関室、船員達の部屋などがあります。
・船長 異変を感じ、貨物室に向かいました。貨物室の隅でうずくまっています。
・船員 逃げ遅れた船員8名。デッキに4名。残りはデッキから貨物室に向かう途中の通路にいます。
●敵
イブリース化したアマノホカリの古道具です。
基本的にはイブリース化を解けば元の道具に戻ります。が、とどめの一撃があまりに威力が強過ぎた場合、破損してしまう可能性があります。ただし案山子には資料的価値はありません。どんどん燃やしましょう。
また全てがメイドインアマノホカリであるため、同国出身者の方がいた場合、戦況が有利に働く可能性があります。
・鎧武者 アマノホカリ製の甲冑。とある武人が愛用していたもの。カタナと呼ばれる武器を手にしています。鎧には幾つかのヒスイ輝石が装飾されています。自由騎士たちがたどり着いたときには貨物室の一番奥におり、上層での対応に時間がかかりすぎると機関室に向かい、船の動力を破壊にかかります。
一文字 攻近単 目にも留まらぬ速さの抜刀術。【スクラッチ1】
十文字 攻近単 カタナによる二連の攻撃。敵を十字に切り裂きます。【スクラッチ1】【二連】
薙払(EX) 攻近範 周囲の敵を薙ぎ払う。【スクラッチ1】【ノックバック】
兜割(EX) 攻近単 頭上より打ち込まれる渾身の大振り 【スクラッチ2】【致命】【必殺】
・キセルx5 アマノホカリの煙草をふかす道具。回避性能に優れます。貨物室にいます。
火の玉 魔遠単 小さな火の玉を飛ばします。【バーン1】
・鉄扇子x3 アマノホカリの鉄で出来た扇子。防御力が高いです。貨物室にいます。
防御陣 鎧武者への遠距離攻撃を防ぐ行動をとります。
・案山子(鍬)x60 藁で出来た人形。弱いです。燃えやすいです。デッキにいます。
鍬の一撃 攻近単 手に持った鍬で攻撃します。
・案山子(弓矢)x20 藁で出来た人形。弱いです。燃えやすいです。デッキにいます。
矢雨 攻遠単 対象に矢を放ちます。
・大筒x2 巨大な大砲です。半端なく体力が多いです。同じくデッキにあります。
砲撃 攻遠範 巨大な鉛玉を発射し、周囲を巻き込む衝撃を与えます。
・ほら貝 かの昔、アマノカホリの合戦の合図として使われていたらしいもの。中央マストのてっぺんにいます。
開戦の響 魔遠全 6ターンの間、イブリース化したモノ達の攻撃性を高めます。
●同行NPC
ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)
特に指示が無ければ回復サポートを行います。
所持スキルはステータスシートをご参照ください。
皆様のご参加お待ちしております。

状態
完了
完了
報酬マテリア
6個
2個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
6/6
6/6
公開日
2018年11月28日
2018年11月28日
†メイン参加者 6人†
●
「どうやらあの船で間違いないようだ」
空から港に停泊する船を確認していた『静かなる天眼』リュリュ・ロジェ(CL3000117)が一艘の船を指差し仲間へ伝える。
リュリュはそのまま翼を一羽ばたきし、デッキへ降り立つ。
「これは……」
そこは既に戦場と化していた。逃げ惑う船員達。イブリース化したモノ達を鼓舞するかのように鳴り響くほら貝。何十という数の鍬と弓を持った案山子の群れ。さらには案山子たちの手で大筒には弾が込められようとしていた。
今回イブリース化したものは貴重な資料である事はリュリュも理解している。だが状況は悠長にそのような事だけを考えられる状況ではない。可能な限りの努力はするつもりだが、人の命が懸かっているのだ。
「壊れてしまったときは……運が悪かったと思ってもらうしかないな」
リュリュはそういうと武器を構えた。
「いやぁ……積むに積んだり。見事なまでに積み込みましたねぇ……」
次に空中二段とびで一気にデッキへ乗り込んだのは『静かなりしもののふ』サブロウ・カイトー(CL3000363)。
フレデリックより古道具の可能な限りの回収は指示されているものの、まずは人命救助を優先し、船舶自体の損傷も出来る限り防ぐ必要がある。
「これは時間との戦いになりますねぇ」
あごに手を当て、まるで他人事の様な態度のサブロウだが、その実いかに効率的に対処していくかを冷静に判断している。
「おおっ! これはまたえらい事になっていますなぁ」
続いてこれが自由騎士として初仕事となる、瑠璃彦 水月(CL3000449)があたりを見渡す。
「確かにあっしの国でよく見たものばかりですなぁ。イブリース化などしてしまえば貴重な資料といえど破壊もやむなし……と思いましたが、ここでは浄化の権能でイブリース化を解く事も可能とか。いやはや恐れ入った!」
イ・ラプセルで洗礼を受けるまではイブリース化に対しては成す術はなく、破壊する以外の方法など考えもしなかった。しかし今の瑠璃彦には浄化の力が備わっている。
「ならばあっしも骨董品を壊さないよう努力してみますぞ」
武器を構える瑠璃彦の尻尾が嬉しそうに揺れる。新しい力を得た自分を試したくて仕方が無いといった様子だ。
「残されている人達を助けて、古道具も浄化して――なにより全員で無事に帰りますよ!」
『学びの結晶』フーリィン・アルカナム(CL3000403)は皆に聞こえるように改めて声にする。
既に全員に加護を与えたフーリィンは、改めて状況を鑑みる。
数え切れぬほどの敵、助けを待つ船員。刻一刻と状況は変化している。
後悔なんてしたくない。それに今回は初任務の自由騎士もいる。ゆえにフーリィンは万全を期す。
「それじゃぁいくわよ」
『聖母殺し』ライカ・リンドヴルム(CL3000405)の掛け声と共に自由騎士達は一斉に散る。
壊しても構わないなら、船ごと海に沈めるのもいいんだけど。そんな事も考えたライカだったが、此度イブリース化したのは貴重な資料を含む、研究の品だ。それに船自体を沈めてしまっては今後の貿易においても影響が出ることだろう。ただ優先すべきは人命。これはライカも譲る気は無い。人命救助のためであれば、それがいかに貴重な道具であろうと破壊する事も厭わない。
自由騎士達は速やかに行動を開始する。すべては最善の一手を打つために。
●
「わわっ!? 思った以上に揺れるなっ」
『新米兵士』ナバル・ジーロン(CL3000441)は大筒の砲撃の衝撃で揺れる船に戸惑いながらも、デッキで逃げ遅れた船員の救助にあたっていた。
化け物相手、いや武器を使った戦闘自体、ナバルには初めての経験。一応、基本的な訓練は受けているが、実践はやはり別物。ナバルを言いようの無い緊張と不安が襲う。
「大丈夫か。緊張が見て取れるが」
緊張気味のナバルにリュリュが語りかける。
「……いや、大丈夫です! オレならできる! ていうか、これで食ってかなきゃいけないんだからやるしかない!」
ナバルは自分を奮起させると大声を出し、案山子の注意を自分に惹き付けながら逃げ遅れた船員を探す。
「初依頼と言う事で多少心配したが……大丈夫そうだな」
その様子を見たリュリュは安心した表情を見せると、自らの持ち場へ戻る。
「自由騎士団が助けにきたぞー! もう少しの辛抱だからなー!」
「こっちだ!! た、助けてくれっ!!」
鍬で襲いくる案山子をスピアでなぎ払いながら、ナバルはデッキで逃げ惑っていた船員達を一箇所に集める。
「よかった。デッキにいた人は全員無事みたいだな。オレがタラップまでの道を切り開くから、船から下りて安全な場所へ走るんだ」
「わかった。ありがとう。本当に助かった」
「へへ、お礼なんていいって。オレ達は当たり前の事をやってるだけだ。じゃぁいくぜ。オレに付いて来てくれっ」
ナバルと船員達がタラップへ向かう。と、そこに弓を持った案山子が一斉に弓矢を発射した。
「うわぁっ!?」
「あぶないっ!!」
案山子の動きに敏感に反応したライカはガントレットを床へ叩きつけ、その衝撃波で矢を弾く。
「た、助かりましたっ」
「ここは任せて頂戴。その代わり貴方には船員達を任せるわ。出来る?」
ライカは問う。それはナバルへの自由騎士としての覚悟。
「はいっ!! もちろん!!」
ナバルは力強く答える。その瞳は既に自由騎士としての誇りを宿しているようだった。
「いい返事だわ」
ライカは軽く微笑むと、踵を返し案山子の軍勢へ突撃していく。
「さぁ、こっちだ! あなた達はオレが絶対に守る!!」
ナバルの声にはいつしか自信が漲る。その声に勇気付けられる船員達。
程なくデッキにいた全ての船員は、誰ひとり欠ける事無くこの戦場から離脱する。それは一人の自由騎士が見せた覚悟がもたらした最高の結果だった。
一方その頃、イブリース化したモノ達の攻撃性を上げるほら貝の対処に瑠璃彦とサブロウが動いていた。瑠璃彦は猫を因子に持つケモノビト。程よく鍛えられた体躯は、ハイバランサーの能力も加算され、マストを難なく駆け上っていく。サブロウもまた空を蹴る跳躍を見せ、一気にマストてっぺんまで達する。
その間も禍々しい瘴気を放つほら貝は止まる事無くイブリース化した道具達を鼓舞する音を鳴らし続けている。
「単純に止めるなら壊せばいいのですが……そうもいきませんね」
「まずはあっしが!」
瑠璃彦が一呼吸すると、体中に龍が巡るがごとくリミッターが解除されていく。瑠璃彦が自ら流転水護拳と名乗るその独自の構え。どこか優雅さを感じさせるその構えから繰り出されるは渾身の拳撃。瑠璃彦の放った一撃は衝撃となり、ほら貝の隅々までに浸透する。ほら貝の音が止まる。
「では」
そこへあわせるようにサブロウの最速の太刀一閃。ほら貝の瘴気を消えうせ、ほら貝は自由落下していく。このままこの高さから落ちては破損は免れない。あわててほら貝の回収に向かうサブロウと瑠璃彦。
「問題ないっ」
フーリィンの回復補佐に従事していたリュリュはそれに気づくとすかさず空へ羽ばたき、ほら貝を見事にキャッチした。
「ここからは分かれて行動ね」
群がる案山子をオーバーブラストで蹴散らしていたライカが攻撃をやめ神経を集中させる。真下は倉庫へ続く廊下。床の厚さも問題ない。
「じゃぁアタシは先に行ってるわ」
言うや否やライカの体はみるみるうちに床下へ沈んでいく。
物質透過。自在にモノをすり抜ける能力である。その制約の一つでもある透過先に必要な空間。ライカはその有無をリュンケウスの瞳で判別する。ゆえにライカに透過失敗は無い。
フーリィンもまた仮装を赴くため動く。ここからは二手に分かれるため、デッキに残るメンバーへ最後の回復を試みる。その癒しは自由騎士たちを癒し、そして元気づける。
「助かるぜっ」「助かります」
敵は無数。それを相手取る自由騎士も困憊の色は隠せない。だからこそフーリィンは笑顔で言い放つ。
皆がそれぞれの役割を果たし、敵をぶっ飛ばしているように──
「皆に降りかかる不幸(ダメージ)は、私がブッ飛ばすんです!」
フーリィンはサブロウと共にライカを追いかけ、階段を駆け下りていった。
「ではあっしらは残りの案山子と大砲をなんとかしましょうぞっ」
「そうだなっ。」
瑠璃彦とナバルが案山子を蹴散らしていくが、敵は未だ数多い。
『ヌードルサバイバー』ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)も2人をサポートすべく回復支援しているが、このままでは案山子の対処だけでもかなりの時間が掛かるのは明白だった。
「デッキの船員は避難が終わってる。……なら試してみるか」
リュリュがランタンを取り出す。
「瑠璃彦、ナバル伏せろっ!!」
「にゃぁっ!?」「わわっ!?」
ランタンで火をつけた着火剤を案山子達の中心へ放り投げる。
ぼうっ。案山子は見る見る燃え上がり、周囲の案山子を巻き込んで炎上していく。
「うおっし!! 一網打尽だぜっ!!」
「良く燃えるにゃぁ~~~~っ!!」
瑠璃彦とナバルが歓声を上げる。
「やっぱり燃やすのは効果的だったか。これで案山子は粗方片付いた。あとは……あの大砲をどうにかしないとな」
「ならあっしとナバル殿で、まずは大筒に弾を補給している案山子を蹴散らしますにゃぁ」
「そうだなっ。ちょっと強引かもだけど……ダメージ覚悟で突っ込みます。なのでロジェさん! 回復サポートお願いしますっ」
その頑強なボディと強力な範囲攻撃を行う大筒も、弾さえ無ければ無力化したも同然。
まずはその攻撃方法を絶つ。
「わかった。回復はまかせておけ」
瑠璃彦とナバルは行く手を塞ぐ案山子をなぎ倒しながらそれぞれ大筒へ走る。
「く……っ。さっきアレだけ燃やしたのにまだ結構残ってるやがるっ」
「一体一体は弱いとはいえこの数、些か骨が折れますなぁ」
ナバルのスピアが案山子をなぎ払う。瑠璃彦の秋刀魚と柳葉魚が案山子を貫く。
しばらく戦闘は続き、気付けば残るは弾を補給する事の出来なくなった大筒のみとなっていた。ここまでくればデッキの制圧はなされたも同然だ。
「2人ともよくやった。すぐ回復しよう」
リュリュが二人の下へ駆け寄る。
「これからお見せするは……流転水護拳壱ノ型」
瑠璃彦が呼吸を整え、構えを取る。
「鉄砲水!!」
オリジナルの決め技からの瑠璃彦の華麗なコンビネーション。
大筒の一つが完全に沈黙する。
程なくもう一台もナバルとリュリュの攻撃によって浄化はなされた。
●
『オオオォォォ……』
船舶下層貨物室。いち早くたどり着いたライカが見たもの。それは暗がりの中、不気味なほど光沢を放つそれは見事な甲冑とその周りを浮遊する古道具達だった。
ライカは止まらない。目標を確認すると、キセルの放つ火の玉を華麗に避けながら一気に鎧武者の元へ近寄る。
「はぁぁぁぁっ!!!!」
ライカの拳から放たれる衝撃は周囲を巻き込み、粉塵を巻き上げる。
「くっ……!!」
そこへ粉塵を切り裂くような一閃。
ライカは抜群の回避能力でそれを寸前で交わす。
「やっぱり、一筋縄じゃいかないわね」
そこには無傷の鎧武者と、それを守るように浮遊する鉄扇子。
鎧武者を守る鉄扇子が盾となり、ライカが放った範囲攻撃も鎧武者まで攻撃を通さない。
その後もライカの止まる事の無い攻撃は、幾度となく鎧武者への攻撃を試みるが、鉄扇子に阻まれ続ける。
そしてその間にも無尽蔵に繰り出される火の玉はじわじわとライカにダメージを蓄積し、赤熱の痛みを覚えさせる。
「厄介ね」
ライカが一旦距離をとり、ガントレットをガシャリとあわせる。もう一歩踏み込めれば──。気合を入れなおし、再度鎧武者への特攻をなそうとしたときだった。
「では。まずは鉄扇子とキセルを片付けましょうかね」
「もしもーし! ナバルさんですか? 下層廊下にいた船員は全員デッキに向かうように指示しました。あとはよろしくお願いしますね」
ライカの後ろから声がした。息を切らせながら太刀を構えるサブロウと、上層の仲間に連絡をするフーリィンだ。
「遅かったじゃない」
ライカが軽口を叩く。
「いやはや、これでも結構急いできたんですよ」
サブロウが飄々と答える。
先に行ったライカを追った2人は途中の廊下にまで進入していた案山子や逃げ遅れた船員の救出しつつ、やっと貨物室へたどり着いたのだ。
「いくわよっ」
ライカは僅かに微笑むとサブロウと共に前に出る。
「回復は任せてくださいっ!!」
フーリィンの癒しの力が、ライカの蓄積されたダメージを和らげる。
同郷の香りを感じたのであろうか。なぜかキセルの火の玉はサブロウを狙うことは無かった。
ライカの拳は鉄扇子に着実にダメージを与え、サブロウの太刀がまた一つ、また一つとキセルを沈黙させていく。着実に敵戦力を減らすことには成功している。
だがその間も鎧武者はさしたるダメージも受けぬまま、不気味な輝きを放つそのカタナで2人に裂傷を負わせていく。
「さぞかし名のある御方の御具足と見たが、かくも無体に及ぶのはお見苦しい! この期に及んでは、潔くご生害あるべし」
サブロウが鎧武者へ物申す。
『ウヌラハ何者ジャ……ワシハ何故コノヨウナ場所ニオル。解セヌ……解セヌワァァァァ!!!』
主と共に戦場を駆け抜けてきた鎧兜。守るべき主を失い、放置され、ただただ見世物
となった今。鎧武者にあるのは抑えようの無い憤り。その一太刀一太刀には鎧武者の怨念にも似た情念が篭る。
ライカとサブロウはその攻撃を一身に受けながらも着実にダメージを与えていく。
「これが最後の鉄扇子!! ハァーーーッ!!」
幾度と無く再加速を繰り返すライカの拳が最後の鉄扇子を打ち抜く。集中砲火される火の玉をかいくぐり、鎧武者の一閃を浴びながらも、一歩も引かず攻撃し続けていたライカに生まれた一瞬の隙。
『──ソノ首、貰イ受ケヨウゾ。兜割』
すさまじい気迫と共に打ち込まれたその渾身の一振りはライカを打ち砕く。
「ライカさんっ!! しっかりして!! ライカさんっ!!」
意識の無いライカにフーリィンが急いでクリアカースで致命効果を打ち消す。
「だめっ! 回復が間に合わない……っ」
フーリィンが覚悟を決める。フーリィンは祈る。ただ仲間の為に。
その祈りはやがて蒼き光となり、ライカとその周りをやさしく包んでいく。
「……けふっ」
ライカが意識を取り戻す。
「ライカさんっ!! ……良かったぁっ」
意識を取り戻したライカにフーリィンは破顔する。
「やってくれましたね」
不意にどこからか声がした。鎧武者は周囲を見渡すもその姿は無い。
「……懐島三郎景近、介錯つかまつる!」
それは真上。ハイバランサーで鎧武者の真上を取ったサブロウが落下しながら鎧武者の懐へ飛び込む。
不意をつかれ、大振りになった鎧武者の一閃をサブロウは軽くかわすと、がら空きになった鎧の中心へ最速の一撃を叩き込んだ。
『グフゥ・・・』
鎧武者の動きが一瞬止まる。
まだ覚束ない足でライカが鎧武者の前に立つ。
フーリィンの手によって窮地は脱したもののライカに残ったダメージは深い。
「いけますか?」
「当然」
その答えを聞き、サブロウが目で合図する。
ライカとサブロウが同時に構える。その目前にはサブロウの一撃によってほんのわずか動きを封じられた鎧武者。
「血心一閃【絶神】!!!!」
「おおおおおぉぉぉぉーーーーっ!!!!」
ライカが吼え、サブロウもまたそれに呼応した。
ガシャリ。鎧武者は鈍い音を立ててそのまま崩れ落ち、二度と動くことは無かった。
すべての古道具の浄化は完了したのだ。
「ロジェだ。聞こえるか? こちらは──」
フーリィンのマキナ=ギアからは上層の戦闘終了を告げる報告がなされていた。
●
すべての古道具の回収を確認した自由騎士達はデッキにいた。
下層通路に取り残されていた船員達もサブロウとフーリィンの指示で上層へ向かい、ナバルの誘導によって船を下りていた。
心配されていた船長はというと鎧武者に見つかる前に、貨物室にあったズタ袋に身を隠し、息を潜めていたことで事なきを得ていた。
他の船員も多少の負傷はあったものの皆無事だ。
古道具についても完全無傷とはいかなかったものの、殆どの道具は簡単な修復で済むようなダメージで抑えられていた。それも偏に自由騎士が自然と持つ『不殺、浄化能力』に加え、各自がしっかりと認識していたが故だろう。全員の意思疎通によって成し得た功績だった。だが不思議な事に鎧に縫い付けられていたはずのヒスイ輝石は影も形も無かったという。
「全員無事。最高の結果ですね。……くっ」
その身を削る技を使用した事で、少しふらついたフーリィンだが皆の無事にほっと胸をなでおろす。
鎧武者の一撃によってかなりのダメージを受けたライカも、その後のフーリィンとリュリュの回復によって危機は乗り越えている。
「温かいそばが食べたいですなぁ……」
サブロウが体を震わせながら言う。
「初仕事、完遂したぜーーーーっ!!」
ナバルが勝どきを上げる。
自由騎士達の戦いは終わる。
気付けば夕暮れの柔らかい空気が辺りを優しく包んでいた。
「どうやらあの船で間違いないようだ」
空から港に停泊する船を確認していた『静かなる天眼』リュリュ・ロジェ(CL3000117)が一艘の船を指差し仲間へ伝える。
リュリュはそのまま翼を一羽ばたきし、デッキへ降り立つ。
「これは……」
そこは既に戦場と化していた。逃げ惑う船員達。イブリース化したモノ達を鼓舞するかのように鳴り響くほら貝。何十という数の鍬と弓を持った案山子の群れ。さらには案山子たちの手で大筒には弾が込められようとしていた。
今回イブリース化したものは貴重な資料である事はリュリュも理解している。だが状況は悠長にそのような事だけを考えられる状況ではない。可能な限りの努力はするつもりだが、人の命が懸かっているのだ。
「壊れてしまったときは……運が悪かったと思ってもらうしかないな」
リュリュはそういうと武器を構えた。
「いやぁ……積むに積んだり。見事なまでに積み込みましたねぇ……」
次に空中二段とびで一気にデッキへ乗り込んだのは『静かなりしもののふ』サブロウ・カイトー(CL3000363)。
フレデリックより古道具の可能な限りの回収は指示されているものの、まずは人命救助を優先し、船舶自体の損傷も出来る限り防ぐ必要がある。
「これは時間との戦いになりますねぇ」
あごに手を当て、まるで他人事の様な態度のサブロウだが、その実いかに効率的に対処していくかを冷静に判断している。
「おおっ! これはまたえらい事になっていますなぁ」
続いてこれが自由騎士として初仕事となる、瑠璃彦 水月(CL3000449)があたりを見渡す。
「確かにあっしの国でよく見たものばかりですなぁ。イブリース化などしてしまえば貴重な資料といえど破壊もやむなし……と思いましたが、ここでは浄化の権能でイブリース化を解く事も可能とか。いやはや恐れ入った!」
イ・ラプセルで洗礼を受けるまではイブリース化に対しては成す術はなく、破壊する以外の方法など考えもしなかった。しかし今の瑠璃彦には浄化の力が備わっている。
「ならばあっしも骨董品を壊さないよう努力してみますぞ」
武器を構える瑠璃彦の尻尾が嬉しそうに揺れる。新しい力を得た自分を試したくて仕方が無いといった様子だ。
「残されている人達を助けて、古道具も浄化して――なにより全員で無事に帰りますよ!」
『学びの結晶』フーリィン・アルカナム(CL3000403)は皆に聞こえるように改めて声にする。
既に全員に加護を与えたフーリィンは、改めて状況を鑑みる。
数え切れぬほどの敵、助けを待つ船員。刻一刻と状況は変化している。
後悔なんてしたくない。それに今回は初任務の自由騎士もいる。ゆえにフーリィンは万全を期す。
「それじゃぁいくわよ」
『聖母殺し』ライカ・リンドヴルム(CL3000405)の掛け声と共に自由騎士達は一斉に散る。
壊しても構わないなら、船ごと海に沈めるのもいいんだけど。そんな事も考えたライカだったが、此度イブリース化したのは貴重な資料を含む、研究の品だ。それに船自体を沈めてしまっては今後の貿易においても影響が出ることだろう。ただ優先すべきは人命。これはライカも譲る気は無い。人命救助のためであれば、それがいかに貴重な道具であろうと破壊する事も厭わない。
自由騎士達は速やかに行動を開始する。すべては最善の一手を打つために。
●
「わわっ!? 思った以上に揺れるなっ」
『新米兵士』ナバル・ジーロン(CL3000441)は大筒の砲撃の衝撃で揺れる船に戸惑いながらも、デッキで逃げ遅れた船員の救助にあたっていた。
化け物相手、いや武器を使った戦闘自体、ナバルには初めての経験。一応、基本的な訓練は受けているが、実践はやはり別物。ナバルを言いようの無い緊張と不安が襲う。
「大丈夫か。緊張が見て取れるが」
緊張気味のナバルにリュリュが語りかける。
「……いや、大丈夫です! オレならできる! ていうか、これで食ってかなきゃいけないんだからやるしかない!」
ナバルは自分を奮起させると大声を出し、案山子の注意を自分に惹き付けながら逃げ遅れた船員を探す。
「初依頼と言う事で多少心配したが……大丈夫そうだな」
その様子を見たリュリュは安心した表情を見せると、自らの持ち場へ戻る。
「自由騎士団が助けにきたぞー! もう少しの辛抱だからなー!」
「こっちだ!! た、助けてくれっ!!」
鍬で襲いくる案山子をスピアでなぎ払いながら、ナバルはデッキで逃げ惑っていた船員達を一箇所に集める。
「よかった。デッキにいた人は全員無事みたいだな。オレがタラップまでの道を切り開くから、船から下りて安全な場所へ走るんだ」
「わかった。ありがとう。本当に助かった」
「へへ、お礼なんていいって。オレ達は当たり前の事をやってるだけだ。じゃぁいくぜ。オレに付いて来てくれっ」
ナバルと船員達がタラップへ向かう。と、そこに弓を持った案山子が一斉に弓矢を発射した。
「うわぁっ!?」
「あぶないっ!!」
案山子の動きに敏感に反応したライカはガントレットを床へ叩きつけ、その衝撃波で矢を弾く。
「た、助かりましたっ」
「ここは任せて頂戴。その代わり貴方には船員達を任せるわ。出来る?」
ライカは問う。それはナバルへの自由騎士としての覚悟。
「はいっ!! もちろん!!」
ナバルは力強く答える。その瞳は既に自由騎士としての誇りを宿しているようだった。
「いい返事だわ」
ライカは軽く微笑むと、踵を返し案山子の軍勢へ突撃していく。
「さぁ、こっちだ! あなた達はオレが絶対に守る!!」
ナバルの声にはいつしか自信が漲る。その声に勇気付けられる船員達。
程なくデッキにいた全ての船員は、誰ひとり欠ける事無くこの戦場から離脱する。それは一人の自由騎士が見せた覚悟がもたらした最高の結果だった。
一方その頃、イブリース化したモノ達の攻撃性を上げるほら貝の対処に瑠璃彦とサブロウが動いていた。瑠璃彦は猫を因子に持つケモノビト。程よく鍛えられた体躯は、ハイバランサーの能力も加算され、マストを難なく駆け上っていく。サブロウもまた空を蹴る跳躍を見せ、一気にマストてっぺんまで達する。
その間も禍々しい瘴気を放つほら貝は止まる事無くイブリース化した道具達を鼓舞する音を鳴らし続けている。
「単純に止めるなら壊せばいいのですが……そうもいきませんね」
「まずはあっしが!」
瑠璃彦が一呼吸すると、体中に龍が巡るがごとくリミッターが解除されていく。瑠璃彦が自ら流転水護拳と名乗るその独自の構え。どこか優雅さを感じさせるその構えから繰り出されるは渾身の拳撃。瑠璃彦の放った一撃は衝撃となり、ほら貝の隅々までに浸透する。ほら貝の音が止まる。
「では」
そこへあわせるようにサブロウの最速の太刀一閃。ほら貝の瘴気を消えうせ、ほら貝は自由落下していく。このままこの高さから落ちては破損は免れない。あわててほら貝の回収に向かうサブロウと瑠璃彦。
「問題ないっ」
フーリィンの回復補佐に従事していたリュリュはそれに気づくとすかさず空へ羽ばたき、ほら貝を見事にキャッチした。
「ここからは分かれて行動ね」
群がる案山子をオーバーブラストで蹴散らしていたライカが攻撃をやめ神経を集中させる。真下は倉庫へ続く廊下。床の厚さも問題ない。
「じゃぁアタシは先に行ってるわ」
言うや否やライカの体はみるみるうちに床下へ沈んでいく。
物質透過。自在にモノをすり抜ける能力である。その制約の一つでもある透過先に必要な空間。ライカはその有無をリュンケウスの瞳で判別する。ゆえにライカに透過失敗は無い。
フーリィンもまた仮装を赴くため動く。ここからは二手に分かれるため、デッキに残るメンバーへ最後の回復を試みる。その癒しは自由騎士たちを癒し、そして元気づける。
「助かるぜっ」「助かります」
敵は無数。それを相手取る自由騎士も困憊の色は隠せない。だからこそフーリィンは笑顔で言い放つ。
皆がそれぞれの役割を果たし、敵をぶっ飛ばしているように──
「皆に降りかかる不幸(ダメージ)は、私がブッ飛ばすんです!」
フーリィンはサブロウと共にライカを追いかけ、階段を駆け下りていった。
「ではあっしらは残りの案山子と大砲をなんとかしましょうぞっ」
「そうだなっ。」
瑠璃彦とナバルが案山子を蹴散らしていくが、敵は未だ数多い。
『ヌードルサバイバー』ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)も2人をサポートすべく回復支援しているが、このままでは案山子の対処だけでもかなりの時間が掛かるのは明白だった。
「デッキの船員は避難が終わってる。……なら試してみるか」
リュリュがランタンを取り出す。
「瑠璃彦、ナバル伏せろっ!!」
「にゃぁっ!?」「わわっ!?」
ランタンで火をつけた着火剤を案山子達の中心へ放り投げる。
ぼうっ。案山子は見る見る燃え上がり、周囲の案山子を巻き込んで炎上していく。
「うおっし!! 一網打尽だぜっ!!」
「良く燃えるにゃぁ~~~~っ!!」
瑠璃彦とナバルが歓声を上げる。
「やっぱり燃やすのは効果的だったか。これで案山子は粗方片付いた。あとは……あの大砲をどうにかしないとな」
「ならあっしとナバル殿で、まずは大筒に弾を補給している案山子を蹴散らしますにゃぁ」
「そうだなっ。ちょっと強引かもだけど……ダメージ覚悟で突っ込みます。なのでロジェさん! 回復サポートお願いしますっ」
その頑強なボディと強力な範囲攻撃を行う大筒も、弾さえ無ければ無力化したも同然。
まずはその攻撃方法を絶つ。
「わかった。回復はまかせておけ」
瑠璃彦とナバルは行く手を塞ぐ案山子をなぎ倒しながらそれぞれ大筒へ走る。
「く……っ。さっきアレだけ燃やしたのにまだ結構残ってるやがるっ」
「一体一体は弱いとはいえこの数、些か骨が折れますなぁ」
ナバルのスピアが案山子をなぎ払う。瑠璃彦の秋刀魚と柳葉魚が案山子を貫く。
しばらく戦闘は続き、気付けば残るは弾を補給する事の出来なくなった大筒のみとなっていた。ここまでくればデッキの制圧はなされたも同然だ。
「2人ともよくやった。すぐ回復しよう」
リュリュが二人の下へ駆け寄る。
「これからお見せするは……流転水護拳壱ノ型」
瑠璃彦が呼吸を整え、構えを取る。
「鉄砲水!!」
オリジナルの決め技からの瑠璃彦の華麗なコンビネーション。
大筒の一つが完全に沈黙する。
程なくもう一台もナバルとリュリュの攻撃によって浄化はなされた。
●
『オオオォォォ……』
船舶下層貨物室。いち早くたどり着いたライカが見たもの。それは暗がりの中、不気味なほど光沢を放つそれは見事な甲冑とその周りを浮遊する古道具達だった。
ライカは止まらない。目標を確認すると、キセルの放つ火の玉を華麗に避けながら一気に鎧武者の元へ近寄る。
「はぁぁぁぁっ!!!!」
ライカの拳から放たれる衝撃は周囲を巻き込み、粉塵を巻き上げる。
「くっ……!!」
そこへ粉塵を切り裂くような一閃。
ライカは抜群の回避能力でそれを寸前で交わす。
「やっぱり、一筋縄じゃいかないわね」
そこには無傷の鎧武者と、それを守るように浮遊する鉄扇子。
鎧武者を守る鉄扇子が盾となり、ライカが放った範囲攻撃も鎧武者まで攻撃を通さない。
その後もライカの止まる事の無い攻撃は、幾度となく鎧武者への攻撃を試みるが、鉄扇子に阻まれ続ける。
そしてその間にも無尽蔵に繰り出される火の玉はじわじわとライカにダメージを蓄積し、赤熱の痛みを覚えさせる。
「厄介ね」
ライカが一旦距離をとり、ガントレットをガシャリとあわせる。もう一歩踏み込めれば──。気合を入れなおし、再度鎧武者への特攻をなそうとしたときだった。
「では。まずは鉄扇子とキセルを片付けましょうかね」
「もしもーし! ナバルさんですか? 下層廊下にいた船員は全員デッキに向かうように指示しました。あとはよろしくお願いしますね」
ライカの後ろから声がした。息を切らせながら太刀を構えるサブロウと、上層の仲間に連絡をするフーリィンだ。
「遅かったじゃない」
ライカが軽口を叩く。
「いやはや、これでも結構急いできたんですよ」
サブロウが飄々と答える。
先に行ったライカを追った2人は途中の廊下にまで進入していた案山子や逃げ遅れた船員の救出しつつ、やっと貨物室へたどり着いたのだ。
「いくわよっ」
ライカは僅かに微笑むとサブロウと共に前に出る。
「回復は任せてくださいっ!!」
フーリィンの癒しの力が、ライカの蓄積されたダメージを和らげる。
同郷の香りを感じたのであろうか。なぜかキセルの火の玉はサブロウを狙うことは無かった。
ライカの拳は鉄扇子に着実にダメージを与え、サブロウの太刀がまた一つ、また一つとキセルを沈黙させていく。着実に敵戦力を減らすことには成功している。
だがその間も鎧武者はさしたるダメージも受けぬまま、不気味な輝きを放つそのカタナで2人に裂傷を負わせていく。
「さぞかし名のある御方の御具足と見たが、かくも無体に及ぶのはお見苦しい! この期に及んでは、潔くご生害あるべし」
サブロウが鎧武者へ物申す。
『ウヌラハ何者ジャ……ワシハ何故コノヨウナ場所ニオル。解セヌ……解セヌワァァァァ!!!』
主と共に戦場を駆け抜けてきた鎧兜。守るべき主を失い、放置され、ただただ見世物
となった今。鎧武者にあるのは抑えようの無い憤り。その一太刀一太刀には鎧武者の怨念にも似た情念が篭る。
ライカとサブロウはその攻撃を一身に受けながらも着実にダメージを与えていく。
「これが最後の鉄扇子!! ハァーーーッ!!」
幾度と無く再加速を繰り返すライカの拳が最後の鉄扇子を打ち抜く。集中砲火される火の玉をかいくぐり、鎧武者の一閃を浴びながらも、一歩も引かず攻撃し続けていたライカに生まれた一瞬の隙。
『──ソノ首、貰イ受ケヨウゾ。兜割』
すさまじい気迫と共に打ち込まれたその渾身の一振りはライカを打ち砕く。
「ライカさんっ!! しっかりして!! ライカさんっ!!」
意識の無いライカにフーリィンが急いでクリアカースで致命効果を打ち消す。
「だめっ! 回復が間に合わない……っ」
フーリィンが覚悟を決める。フーリィンは祈る。ただ仲間の為に。
その祈りはやがて蒼き光となり、ライカとその周りをやさしく包んでいく。
「……けふっ」
ライカが意識を取り戻す。
「ライカさんっ!! ……良かったぁっ」
意識を取り戻したライカにフーリィンは破顔する。
「やってくれましたね」
不意にどこからか声がした。鎧武者は周囲を見渡すもその姿は無い。
「……懐島三郎景近、介錯つかまつる!」
それは真上。ハイバランサーで鎧武者の真上を取ったサブロウが落下しながら鎧武者の懐へ飛び込む。
不意をつかれ、大振りになった鎧武者の一閃をサブロウは軽くかわすと、がら空きになった鎧の中心へ最速の一撃を叩き込んだ。
『グフゥ・・・』
鎧武者の動きが一瞬止まる。
まだ覚束ない足でライカが鎧武者の前に立つ。
フーリィンの手によって窮地は脱したもののライカに残ったダメージは深い。
「いけますか?」
「当然」
その答えを聞き、サブロウが目で合図する。
ライカとサブロウが同時に構える。その目前にはサブロウの一撃によってほんのわずか動きを封じられた鎧武者。
「血心一閃【絶神】!!!!」
「おおおおおぉぉぉぉーーーーっ!!!!」
ライカが吼え、サブロウもまたそれに呼応した。
ガシャリ。鎧武者は鈍い音を立ててそのまま崩れ落ち、二度と動くことは無かった。
すべての古道具の浄化は完了したのだ。
「ロジェだ。聞こえるか? こちらは──」
フーリィンのマキナ=ギアからは上層の戦闘終了を告げる報告がなされていた。
●
すべての古道具の回収を確認した自由騎士達はデッキにいた。
下層通路に取り残されていた船員達もサブロウとフーリィンの指示で上層へ向かい、ナバルの誘導によって船を下りていた。
心配されていた船長はというと鎧武者に見つかる前に、貨物室にあったズタ袋に身を隠し、息を潜めていたことで事なきを得ていた。
他の船員も多少の負傷はあったものの皆無事だ。
古道具についても完全無傷とはいかなかったものの、殆どの道具は簡単な修復で済むようなダメージで抑えられていた。それも偏に自由騎士が自然と持つ『不殺、浄化能力』に加え、各自がしっかりと認識していたが故だろう。全員の意思疎通によって成し得た功績だった。だが不思議な事に鎧に縫い付けられていたはずのヒスイ輝石は影も形も無かったという。
「全員無事。最高の結果ですね。……くっ」
その身を削る技を使用した事で、少しふらついたフーリィンだが皆の無事にほっと胸をなでおろす。
鎧武者の一撃によってかなりのダメージを受けたライカも、その後のフーリィンとリュリュの回復によって危機は乗り越えている。
「温かいそばが食べたいですなぁ……」
サブロウが体を震わせながら言う。
「初仕事、完遂したぜーーーーっ!!」
ナバルが勝どきを上げる。
自由騎士達の戦いは終わる。
気付けば夕暮れの柔らかい空気が辺りを優しく包んでいた。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
†あとがき†
案山子は見事にキャンプファイヤーになりましたが、歴史的資料があるものの殆どは軽い修復で済む程度で回収を行うことが出来ました。
消えたヒスイ輝石の行方はわからず仕舞いでしたが、その後のアカデミーでの研究にも支障は無かったようです。
MVPは要所要所で活躍の光った貴方へ。
ご参加ありがとうございました。
消えたヒスイ輝石の行方はわからず仕舞いでしたが、その後のアカデミーでの研究にも支障は無かったようです。
MVPは要所要所で活躍の光った貴方へ。
ご参加ありがとうございました。
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