MagiaSteam
組織を潰せ。或いは、人身売買組織の復讐…。



●ある屋敷
「最近、あっちこっちで起きてる妙な事件があるだろ? 自由騎士だとかが関わってるあれだ」
咥えた葉巻から紫煙を燻らせ、酒焼けした声でそう言ったのは全身黒ずくめの男であった。
身長2メートルを超える大柄な体は、けれど痩身……否、引き締まった筋肉の鎧に覆われている。
彼の前には同じく黒のスーツで統一した男たちがずらりと規則正しく整列していた。
「事件の解決だけじゃなく、俺らの商売まで邪魔しやがる。なぁ、そろそろ鬱陶しいとは思わねぇか?」
静かに、けれど怒鳴るように黒ずくめの男[ノワール]は紫煙を吐き出しそう告げた。
ノワールの前に並んだ男たちは無言で、けれど確かな決意を込めた瞳で頷いた。
「んじゃ、決まりだな。なぁに、ちょっと目立つ動きをすりゃ、連中の方からやってくるだろ。お前ら、急いでここに商品を集めな」
解散だ、と。
そう告げて、ノワールは灰皿に葉巻を押しつける。
無言のまま、男たちはノワールの部屋を後にした。
商品……つまりは、他国へ売り払う奴隷たちを集めるために。


のしのしと。
不機嫌そうな顔をして『元気印』クラウディア・フォン・プラテス(nCL3000004)は皆の前に立つ。
そして開口一番、小さな口を目一杯に開いて叫ぶ。
曰く……。
「人を商品扱いするような組織はやっつけないと!」
とのことだ。
彼女が憤りを感じている相手は、とある裏社会の人身売買組織であった。
その実態を掴ませないため、組織の名は付けられていない。
そのため同業者たちからは[ネームレス]と仮称されているとのことだが、その実力は折り紙つきだ。
武術の心得があるリーダー[ノワール]をはじめ、彼の屋敷兼拠点に詰める10人の構成員は皆、実戦経験も豊富な実力者揃いであった。
「郊外にある大きな屋敷に商品……浚われた人たちを集めているよ。その数は全部で7人。他国に売り払うつもりみたいね」
構成員の数が少ない……秘密裏に動くには大人数だと都合が悪いのだ……こともあり、これまで組織の拠点は見つけられていなかった。
一度に扱う商品の数も少なかったことや、拠点に集めるような真似をしてこなかったことも理由の一つである。
だが、今回は違う。
自由騎士たちの活躍により、組織の販売ルートの幾つかが潰れてしまっているのだ。
おそらくは、これまでの依頼の中で偶然に“そうなった”ものだと思われるが。
「屋敷の庭に4人、屋敷内に7人の構成員が待機しているよ。うち4人が[ガンナースタイル]、6人が[軽戦士スタイル]、ノワール自身は[格闘スタイル]のスキルを使えるみたい」
そして、どうやら全員がノウブルのようだ。
だが、戦場となる屋敷はターゲットの本拠地であり、商品となった人々の存在もある。
そのため屋敷全体を炎で包むなど、大規模な殲滅作戦は行えそうにない。
「向こうが少数精鋭っていうなら、こっちも同じく少数精鋭で打ち破ってあげようよ」
勢いをつけてテーブルを叩き、クラウディアは意地の悪い笑みを浮かべた。
「実戦経験なら、皆だって負けてないもんね」
目には目を、歯には歯を……暴力には暴力を、というわけだ。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
対人戦闘
担当ST
病み月
■成功条件
1.組織構成員の捕縛
2.組織のボス・ノワールの捕縛
●ターゲット
組織のボス(ノワール)
格闘スタイル
身長2メートルを超える大男。
組織のボス。
屋敷のどこかにいるようだが、正確な居場所は不明。

・龍氣螺合[強化] A:自
・鉄山靠[攻撃] A:攻近単[貫2]
・牙嵐[攻撃] A:攻近範[バーン2] [ウィーク1]
周囲一帯の敵を薙ぎ払う高速の蹴撃

組織構成員(射撃)×4
ガンナースタイル
組織の構成員。
屋敷の各所に潜伏している。

・ダブルシェル [攻撃] A:攻遠単 【二連】

組織構成員(近接)×6
軽戦士スタイル
組織の構成員。
屋敷の庭や通路を2、3人で組んで移動している。

・ヒートアクセル[攻撃] A:攻近単 【ショック】
・ブレイクゲイト[攻撃] A:攻遠単 【ブレ1】

●場所
人身売買組織(ネームレス)の拠点。
半径20メートルを超える広い庭と3階建ての屋敷が戦場となる。
屋敷の1階部分には大きなホール。
2階から3階は構成員の居住区や書斎などとなっている。
1階、2階は通路も広く3、4人は並んで戦えるだろうが3階部分の通路は2人並ぶのが精一杯という広さ。
また、屋敷には地下室が存在するようだが入り口の場所は不明である。
※屋敷のどこかに商品として捕らわれた人々(7名)が拘束されている。
状態
完了
報酬マテリア
2個  6個  2個  2個
8モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
6/8
公開日
2019年12月29日

†メイン参加者 6人†




火薬に混じった風の臭いが『太陽の笑顔』カノン・イスルギ(CL3000025)の鼻腔を擽る。
広い庭と、その先に見える三階建ての洋館を視界に収め、カノンは小さく溜め息を零す。
彼女の瞳には怒りの色が見て取れた。
拳を握り、洋館の門の前で堂々と胸を張ってカノンは叫ぶ。
「ケチョンケチョンにぶっ潰してあげるよ!」
拳を握り。
腰を捻って。
カノンの繰り出す渾身の突きが、鋼の門に突き刺さる。
空気を震わす轟音が響く。
門はくの字にへし折れて、ゆっくりと庭へ倒れていった。
ドシン、と地面が一瞬揺れて、土埃が舞いあがる。

服の袖で口元を多い、『慈葬のトリックスター』アリア・セレスティ(CL3000222)が庭へ斬り込んだ。
左右の手に剣を携え、油断なく周囲へ視線を走らせる。
そんな彼女の背後ではセアラ・ラングフォード(CL3000634)が目を閉じ、じっと佇んでいた。
「庭に4名の気配……事前情報の通りですね。人質は……どこにいるのでしょう?」
セアラは感情探査で人の配置を探る。
アリアはそんな彼女の護衛役である。
「ガンナーの位置はわからない?」
屋敷へ目を向けアリアは問うた。
セアラは静かに首を横に振ることで、アリアの問いに答えてみせる。
ガンナーが室内にいることは分かるが、感情が平坦過ぎて正確な位置が特定できなかったのだ。
「やはり正面突破が確実でしょうか」
背負っていた巨大な十字架を地面に降ろし『歩く懺悔室』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)はそう言った。
正門を破壊することで館内へと侵入した彼女たちだが、選択肢としては裏門から回るというものも考えた。
だが、この屋敷の裏手は崖になっており、そもそも出入り口が存在しなかった。
もしかすれば、隠し通路の一つや二つあったのかもしれないが、生憎と発見には至らなかったのである。
「今まで姿を見せんで来たんに、ここになって急に動きが出たんはなんで何やろなぁ? 罠やと思う? まぁ、どっちでもええ事や。罠も壊れれば罠で無くなるしなぁ」
一閃。
手にした小太刀を、流れるような動作で振るい『艶師』蔡 狼華(CL3000451)は口角を吊り上げ笑う。
軽い音が一つ。弾かれた弾丸が、狼華の足元にぽとりと落ちた。
髪につけた椿の飾りが風に揺れ、次の瞬間、狼華の姿が掻き消える。
否……消えたのではなく、駆けたのだ。
踊るような軽いステップ。
加速し、弾む、ダンスのような独特のステップ。
自由騎士たちの元へ駆け寄る構成員の1人の喉へ、狼華は小太刀を突きつけた。
そんな狼華の様子を、真剣な瞳で見つめる女性が1人。
両の拳に嵌めた籠手を、ガチンと胸の前で打ち鳴らし『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)は「よし」と気合いを入れ直す。
「さくっと庭の敵を片付けて、早々に屋敷へ侵入しましょう。前衛も大勢いることだし、すぐに終わりますよね」
タン、と軽い足音一つ。
赤い髪を翻し、エルシーもまた最前線へと駆けて行く。


それはまるで、獣の咆哮のようだった。
空気を震わす大音声が、構成員を怯ませる。
「ぁぁぁああああああああああああっ!!」
ビリビリと屋敷の窓が細かく震え、バキ、と硬い音が鳴る。
罅割れた窓ガラスは、ほんの些細な衝撃で砕けた。
たとえばそれは、1発の銃声であった……。

「ちっ……」
弾丸を紙一重で避け、エルシーは小さく舌を鳴らした。
弾丸はエルシーの頬を掠める。
血の雫が宙を舞う。
ぱらり、と。
地面に落ちた血液を、黒い皮靴が踏み躙る。
エルシーに迫る構成員。その手に握られた、鋭い刃の両刃刀。
きらり、と陽光を反射し不気味に光る。
だが……。
「接近戦で遅れをとるほど、やわな鍛え方はしていませんよ」
一瞬、構成員の視界からエルシーの姿が消え去った。
銃弾を回避した動きそのままに、彼女は身体を沈ませたのだ。
倒れるように、地面に這いつくばるような姿勢を取って……そして、エルシーは構成員の足元へとその身をするりと滑り込ませた。
「あ……ぐぉ!?」
立ち上がる動作と同時に、赤い拳を打ち上げる。
アッパーカット。
咄嗟に反応してみせた構成員は、剣でそれを防いでみせた。
だが、衝撃までは殺せない。
弾かれた剣が宙を舞う。
得物を失い、痛みと驚愕に目を見開いた構成員の腹に向け、エルシーの蹴りが叩き込まれた。

138センチの小さな身体。
けれどまるで嵐のように。
タタン、と2回、地面を蹴飛ばす音が鳴る。
カノンの身体が宙へ浮かんだ、その瞬間。
「くたばりやがれ!」
「っらぁ!」
2人の構成員が、同時に剣を叩きつけるように振り抜いた。
空中では身動きが出来ないはずだ……少なくとも、構成員たちの常識ではそれが当たり前なのだ。
ましてや2人同時攻撃。
多少武道の心得があろうと、1人で2人を相手取るのは難しい。
その筈……だった。
だが……。
「牢屋で罪を償ってもらうよ!」
空気を切り裂く回し蹴り。
1発は、カノンの身に迫る刃をへし折って。
もう1発は、構成員の1人の横面を打ち抜き、意識を刈り取る。
カノンが空中へ跳んだのは攻撃のためだ。
渾身の力で放つ回し蹴りは、多少荒事に慣れた程度のならず者には防ぎきれない。

「皆さんが敵を引き付けてくれている今のうちに、鍵を開けてしまいましょう」
軍服のポケットから針金を取り出し、セアラはそっと屋敷へ駆け寄る。
めまぐるしく跳び回る狼華やカノン、エルシーに敵の意識が向いている隙に、次のステージへ向かう舌準備を進めておく心算である。
そんなセアラの後方を、アンジェリカが駆けて行く。
セアラがなんら不安なく、自身の仕事を終えられるよう警護をするのが彼女の役目だ。
館内から撃ち込まれた弾丸や、どこからか飛来する折れた刃を十字架で弾く。
ちなみに折れた刃の出所はカノンであった。
「……扉の向こうに人が2人。気を付けてくださいね」
扉の向こうを見通してアンジェリカはセアラへ注意を促した。
スキルによる透視によるものだ。

セアラが扉の鍵穴に針金を差し込もうとした、その瞬間。
散発的な銃声が鳴り響く。
アンジェリカがセアラの身体を突き飛ばす。扉を撃ち抜いた銃弾が、アンジェリカに降り注いだ。
銃弾を浴び、腹部や肩から血を流す。
内臓に傷を負ったのか、その口元からつぅと一筋、血が滴った。
「アンジェリカ様!?」
「問題ありません」
荒っぽい仕草で口元の血を拭い、アンジェリカは大十字架を自身の盾として前方へ構えた。
予め発動させていた[龍氣螺合]のスキルによって、アンジェリカの身体能力は強化されている。不意を打たれなければ、一方方向からの攻撃ならば防いでしまえる。
扉が開いて、ガンナー1人と軽戦士1人が姿を現した。
ガンナーの銃口が、地面に倒れ込んだままのセアラを捉える。
「回復を!」
セアラが叫ぶ。
ガンナーが銃の引き金を絞った。
アンジェリカの振り上げた十字架が、ガンナーの胸部を強打する。
渇いた銃声と、硝煙の臭い。
軽戦士の剣が、アンジェリカの頬を切り裂いた。
血飛沫。
狙いの逸れた銃弾が地面を穿つ。
淡い燐光が、アンジェリカの身を包みこみ、負った傷を癒していく。
「そんなのありかよ……」
そう呟いた軽戦士の側頭部を、アンジェリカの十字架が打ち抜いた。
軽戦士は、意識を失ったガンナーをその場に残し屋敷の中へと逃げて行く。
ぽたりぽたりと、床に血の痕跡を残しながら……。

「さぁ、うちの舞をとくと見なんし! 兄さんらには勿体ない代物や!」
構成員の周囲を、跳ねるように、或いは滑るように移動しながら狼華は怪しい笑みを浮かべた。
その手が閃くその度に、構成員の腕や脚が切り裂かれ真っ赤な血飛沫が噴き上がる。
庭の芝生が朱に染まる。
小太刀と短刀を振るう狼華は、けれど飛び散る血液の一滴たりとも浴びることはない。
洗練された動きに、多少荒事に慣れた程度の構成員では対応できない。
だが……。
「おおぉおっらぁ!」
脚を切り裂かれた、その瞬間。
構成員はついに攻勢へと移る。
渾身の力を込めた剣の一撃。無駄な動作は微塵もなく、そして鋭い力の乗った斬撃が狼華の右わき腹を切り裂いた。
さらに運の悪いことに……否、タイミングを見計らっていたのだろう。
屋敷の2階から放たれた銃弾がアンジェリカの肩を撃ち抜いた。
「っ……次から次へとよう涌いて来はるなぁ。いや、油断したうちが悪いんやけどね」
二度目はないで、と。
狼華はそう呟いて。
一閃。
擦れ違いざまに、構成員の右わき腹を切り裂いた。
血を吐き倒れる構成員を一瞥し、ふぅ、と小さな吐息を零す。
鎖帷子を着込んでいたおかげで、どうやらまだまだ闘えそうだ。

「これで庭の敵は全滅よね?」
両手に握った剣を降ろして、アリアは額の汗を拭った。
仲間達の戦闘中、彼女は庭を駆けまわりながらガンナーを牽制し続けていたのだ。
屋敷の2、3階にいた3名のガンナーによる射撃を、完全に捌き切ることはできなかったが、それでも大幅に自由騎士たちの消耗を減らすことはできただろう。
代償として、アリア自身も細かい傷を無数に負った。
すでにセアラによる治療は完了しているが、張りつめていた精神の摩耗は回復しない。
残る敵は軽戦士2人とガンナー3人、そして組織のボスであるノワールと名乗る男が1人。
小休止を挟む間もなく、6人は館内へと足を踏み入れた。
瞬間……。
マズルフラッシュ。
鳴り響く銃声と、火薬の臭い。
1階、玄関先のホールに3名のガンナーが終結していたのだ。
「そちらの攻撃が届くなら、こちらも同じこと!」
アリアは低く身を沈ませて、滑るようにホールを駆け抜ける。
彼女に続くのは、狼華とエルシーの前衛2人だ。
階段に1人、ホールの奥に2人。
一瞬で敵の配置を確認し、アリアは階段へと向かう。
「剣の閃きに惑いなさい」
銃弾を剣で弾き、一瞬で構成員の懐へ潜りこむ。
開くように剣を左右へ振り抜いて、構成員の意識を刈り取った。

轟音と共に、男の身体が壁にめり込む。
渾身の一撃を放ったエルシーは、拳を振り抜いた姿勢のまま熱い吐息を零した。
背後では狼華がもう1人の構成員を斬り伏せたところだった。
「皆さん、お怪我はないですか?」
そう問うたエルシーに、カノンは無言で手を振り答える。
銃弾を弾いたその手の甲から、血の雫が飛び散った。

「よぉ……随分、暴れてくれたじゃねぇの。可愛い部下たちが世話になった礼、嫌だと言っても受け取ってもらうが、構わねぇよな」
3階の1室、薄暗く狭い室内で1人の男が待ちかまえていた。
組織のボス、ノワールだ。
ボスを守るように、2人の軽戦士が剣を構えて立っている。
部屋の奥には、重厚な鉄の扉が見える。
「どうやら捕まった人たちは、あの扉の奥のようです」
と、アンジェリカは囁いた。
仲間達にのみ聞こえる程度の抑えた声量。
「お前が親玉だね!」
話を聞くなり、カノンは1歩前へ出た。
頭上に上げた腕を振り回しながら、小さな身体から怒りの気配を撒き散らす。
「捕らわれた方達に怪我がなければ良いのですけれど……」
心配そうに眉根を下げて、セアラはそう呟いた。
彼女の周囲を淡い燐光が舞い踊る。
それはまるで、風に吹かれるように漂い仲間達の身体を包んだ。

セアラのサポートを受けたことにより、数ターンの間一行の治癒力は底上げされている。
可能な限り、それが切れる前に戦闘を終わらせてしまうことが理想だ。
それが分かっているからこそ、カノンとエルシーは跳び出した。
一拍遅れて、狼華とアンジェリカも前へ出る。
アリアは、セアラを庇うように移動して剣を顔の前に構えた。

セアラとアリアは戦線を避け、捕らわれた人々の救出へ向かう。
それをみすみす許すほど、ノワールは甘い男ではなかった。
「おいおい、俺と遊んでくれよ」
「うぁっ!?」
巨体に似合わず、ひどく俊敏な動きでノワールはアリアとの距離を詰める。
鋭く放たれたワン・ツーがアリアの両手を打ち抜いた。
痺れた手から、剣が取り落とされる。
カラン、と硬い音が反響し、アリアの胸にノワールの拳が叩き込まれた。
「武器に頼る、ってのがどうも気に入らなくてな。武器がなくなりゃ、何にも出来なくなっちまうだろ?」
「ぐ……犯罪者が何を偉そうに!」
「偉そうに、じゃなくて偉いんだ。弱肉強食って言うだろ?」
カノンとエルシーの連撃を捌きつつ、ノワールは不敵に笑って見せる。
胸を押さえて膝をついたアリアに、セアラは回復術を行使した。


狭い室内から、もつれるようにして構成員2名と、狼華、アンジェリカは廊下へ飛び出す。
狼華はその戦闘スタイルから、アンジェリカは得物のサイズから狭い室内での戦闘は不利と判断したからだ。
「うちは人を物のように扱うあんたらみたいなのが一等嫌いや。大人しゅうお縄につきなはれ」
小太刀を突きつけ、狼華はそう告げた。
「俺はお前らみたいな正義の味方って奴が大嫌いだ。大人しく死体になってくれや」
にぃ、と犬歯を剥きだしにした笑みを作って、構成員はそう言った。

「人の道を踏み外した外道に慈悲や感情論を説いても無駄でしょうね……」
構成員の剣を十字架で弾き、アンジェリカはそう呟いた。
「慈悲なんざとっくに捨てちまったよ」
くだらねぇ、と吐き捨てて構成員は大上段に剣を構える。
振り下ろされた鋼の剣と、アンジェリカの十字架が交差した。
轟音と共に、剣がへし折れ構成員は大きく仰け反る。
がら空きになった胴へ向け、十字架が叩きつけられた。
吹き飛ばされた構成員の身体は、壁を砕いてそのまま庭へと落ちていく。
だが……。
「ただじゃ……くたばらねぇぞ」
意地か、執念か。
構成員は折れた剣を、アンジェリカ目がけて投げつけた。
吸い込まれるように、それは彼女の頭部に当たり。
「……っ!」
割れた額から、真っ赤な血が滴り落ちる。

壁を蹴り、天井に貼り着き、床へと落ちる。
上下左右から責め立てられて、構成員の身体はボロボロだ。
血を流し過ぎたのか、顔色は白く、呼吸も荒い。
だが、彼は未だに倒れない。
「あぁ、もう! さっさと倒れりゃ楽になるものを!」
さらに一閃。
「うるせぇ……言われなくても、もう限界だよ。だが、最後にこれだけは……」
と、そう呟いて。
構成員はとうとうその場に倒れ伏した。
瞬間。
ガシャン、と重たい音がして。
部屋の出入り口を鋼のシャッターが封鎖する。
倒れる寸前、構成員が何かしらの操作をしたのだ。
「こじ開けます」
と、シャッター目がけアンジェリカが十字架を叩きつけた。
だが、シャッターは僅かにへこむだけで、壊れはしない。どうやら相当に硬い素材のようだ。
「分断、されてしもうたねぇ」
ポツリと零された狼華の声は、誰の耳にも届かない。

「俺以外は全滅か……やっぱ信用できんのは、鍛えた身体と拳だけだな」
振り抜かれた拳が、カノンの頬を打ち抜いた。
意識をギリギリで繋ぎとめ、カノンはその場で踏みとどまった。
「カノンも格闘家だよ。負けるもんか!」
お返しとばかりに放たれるボディーブローが、ノワールの身体を数歩後ろへ下がらせる。
カノンとノワールの間に、赤い影が滑り込む。
エルシーの放った鋭い蹴りが、ノワールの脚を強打した。
「おっと……なかなか使うじゃねぇか」
「嘘でしょう……」
蹴りのタイミングは完璧だった。
威力も申し分ない。
実際、ノワールの脚からは骨の軋む音がした。少なくとも罅……悪くすれば骨折しているはずだ。
だが……。
「なぜ、まだ動けるのでしょう……」
瞳を見開き、困惑の表情を浮かべるセアラ。
カノン、エルシー、そしてアリアの3人はセアラによる回復の支援を受けて戦線を維持し続けている。
一方、自身以外に頼れる者もいないはずのノワールには、確かにダメージが蓄積しているはずだ。
今だって、背にアリアの剣を受け深い傷を負ったばかりだ。
だというのに、ノワールの動きは鈍らない。
痛みを感じている様子もない。
「いえ、そんなはずは……」
仲間の負ったダメージを回復させながら、セアラは大いに困惑していた。

「おぉぉ!!」
気勢を吐き出し、ノワールは鋭い蹴撃を放つ。
床を、壁を、室内の調度品を打ち砕きながら放たれる足刀が、カノンの片腕をへし折った。
「あ……うぁぁああ!?」
「っ……すごい蹴りね」
表情を強張らせたエルシーが、倒れたカノンを助け起こした。
不敵に笑うノワールだが、その頬には一筋の汗が滴っていた。
ノワールとて不死身ではない。着実にダメージを負っているのだ。
「負け……る、もんか!」
折れた腕を庇いながらカノンは立った。
カノン、エルシー、アリアの視線が交差する。
3人の身体をエルシーの放った燐光が包み、ダメージを癒していった。
「来い!」
と、叫び。
ノワールが再び、蹴りを放った。
最初に動いたのはエルシーだ。両の拳を交差させ、ノワールの蹴りを受け止める。
ギシ、と骨の軋む音。
けれど、エルシーは笑っていた。
「ぬ……!?」
ノワールの脚にカノンが跳び付き、しがみつく。
格闘戦とはとても言えない、泥臭い手段。ノワールは、力任せに足を振り上げ、カノンごと床へ叩きつけるべく振り下ろす……だが、しかし。
「刃よ!」
タン、と。
ノワールの背後にアリアが迫る。
振り抜かれた剣が、ノワールの首裏を掻き斬った。
「……鍛えた身体も、チームワークには勝てねぇか」
ゴボリ、と。
ドス黒い血を吐き出して、ノワールは静かに瞳を閉じた。
呼吸の音が聞こえない。
ノワールは、立ったまま息を引き取ったのだ。
そうして、セアラは部屋の奥の扉を開ける。
意識を失った女性と子供が合わせて7名。
こうして自由騎士たちは、名も無い組織を壊滅させた。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

FL送付済