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キノコタワーを拠点に一晩過ごす簡単なお仕事

●
「キノコ狩りですわ。皆様」
日頃、この世の憂いをフラスコいっぱい常に一気飲みしているようなマリオーネ・ミゼル・ブォージン(nCL3000033)が吹っ切れた笑顔を見せるとき。
オラクルには言葉に何か意味が含ませてあるのかないのか、聞き分けることが要求されている。
「キノコタワーを有効に使っていただきたいと思っておりますの」
キノコタワー。
イ・ラプセルの北部森林地帯に建てられた、「観光用」の施設で、第一次産業及び第三次産業推進の一環として自由騎士団が建築の一部を担当した。
「キノコタワー出現!」と観光名所になることを期待されていたのである。
しかし、「不幸なことに」丁度キノコ狩りのシーズンに勃発したシャンバラ北方迎撃戦において「やむなく一時的に徴収」され、国防騎士団北部駐屯部隊の拠点として大いに役立った場所――ということになっている。それ以上の情報開示は各自申請して取り寄せてほしい。
「という訳で、今年こそキノコ狩りですわ」
実際、この地域で撮れるキノコは貴重でめっぽうおいしい。遭難覚悟での採取になるので採集人たちの命の値段も上乗せされてお高い。
昨年、キノコを採取して帰った部隊の感想は「言葉にならない。すごくおいしかったしか言えない」という内容に終始していた。
「――皆様にお願いするのはその前の準備なのですけれど、もちろん食べてきてくれて構いませんことよ」
やったー。マリオーネさんから言質を取ったぞー。何をすればいいんだ。掃除か、修繕か。国防騎士団の戦場だったんだし、色々一般人には見せられない凄惨な様子になってるのかな。
「そういうことは、国防騎士団の方と『徴収前と全く同じ状態にして返還する』という約定を交わしておりましたし、数回ほどの指導の後元の状態にしていただきましたわ。資料として必要なら準備いたしますけれど?」
結構です。『数回の指導』という文言で国防騎士団の工兵部隊のご尽力お察し申し上げます。
「皆様には、そうですわね――怖いおとぎ話を討伐してきていただきたいのですわ」
うぅぅふぅぅふぅぅと、マリオーネはハンカチ越しにゆっくり笑う。
「キノコというと、どうしても毒キノコの恐怖が付きまといますわ。人の入らない森で、食べると怖いキノコを食べたのは誰でしょう」
イブリース・群体識別名「アキモリノコワヤ」
「キノコの菌糸が根付いた土がちょっと逆戻り――体中にキノコをはやした動物の死骸の形をとって動き出してきましたの。クマシカリスキツネ――そんな形のものがたくさん」
土が変化したもの。広義ではクレイゴーレムの一種ということか。ただ、見た目がキノコデコされたフレッシュゴーレムっぽいだけの。
「力は大したことはありませんけれど、大量ですの。攻撃力は皆無。動いているだけで精いっぱいですから、ほんのちょっと殴ればすぐ土に戻りましてよ。そうですわね。お祭りの仮装行列くらいですわね」
仮装行列にはまだ早い。実害はほぼないのですけれど。と、プラロークは言う。
「この見た目のものが町や村まで行進していきましたら、世情不安でお祭り中止になってしまいますわ」
ウィート・バーリィ・ライは目の前だ。
「イブリースが国を行進したという事実がすでに国家の威信に関わります。化け物慣れした自由騎士団がこっそり片付けるのが国家治安への貢献です」
それに、イベント中止になった時の各方面への影響は計り知れない。
お祭りは民衆のガス抜きだからして。
「何しろお化けなので時間は深夜から夜明けまで。定番ですわね。今時分ですと六時間くらい? 途中途切れるでしょうからずっと攻撃しっぱなしということはないと思いますの。適宜休憩を取りながら頑張ってくださいましね」
仮眠や交替や補給しろってことだな。
「ごく当たり前の自然の営みがゲシュペンストにゆがめられましたわ。獣に魂があるのなら、行くべきところに還っているでしょう。ちょっとリアルな土のオブジェを破壊する、簡単なお仕事ですわ――そうそう」
マリオーネさんは、ハンカチ越しにニッコリ笑った。
「『アキモリノコワヤ』に生えているきのこは食べても何の問題もないので、たくさん食べてきていただいて一向にかまいませんのよ」
事情が事情なだけに売り物にもできないし、もったいないので食えってことですね。
「現場に残った土は後日撤去いたしますので、お気になさらず。土は土へ還してくださいませ」
「キノコ狩りですわ。皆様」
日頃、この世の憂いをフラスコいっぱい常に一気飲みしているようなマリオーネ・ミゼル・ブォージン(nCL3000033)が吹っ切れた笑顔を見せるとき。
オラクルには言葉に何か意味が含ませてあるのかないのか、聞き分けることが要求されている。
「キノコタワーを有効に使っていただきたいと思っておりますの」
キノコタワー。
イ・ラプセルの北部森林地帯に建てられた、「観光用」の施設で、第一次産業及び第三次産業推進の一環として自由騎士団が建築の一部を担当した。
「キノコタワー出現!」と観光名所になることを期待されていたのである。
しかし、「不幸なことに」丁度キノコ狩りのシーズンに勃発したシャンバラ北方迎撃戦において「やむなく一時的に徴収」され、国防騎士団北部駐屯部隊の拠点として大いに役立った場所――ということになっている。それ以上の情報開示は各自申請して取り寄せてほしい。
「という訳で、今年こそキノコ狩りですわ」
実際、この地域で撮れるキノコは貴重でめっぽうおいしい。遭難覚悟での採取になるので採集人たちの命の値段も上乗せされてお高い。
昨年、キノコを採取して帰った部隊の感想は「言葉にならない。すごくおいしかったしか言えない」という内容に終始していた。
「――皆様にお願いするのはその前の準備なのですけれど、もちろん食べてきてくれて構いませんことよ」
やったー。マリオーネさんから言質を取ったぞー。何をすればいいんだ。掃除か、修繕か。国防騎士団の戦場だったんだし、色々一般人には見せられない凄惨な様子になってるのかな。
「そういうことは、国防騎士団の方と『徴収前と全く同じ状態にして返還する』という約定を交わしておりましたし、数回ほどの指導の後元の状態にしていただきましたわ。資料として必要なら準備いたしますけれど?」
結構です。『数回の指導』という文言で国防騎士団の工兵部隊のご尽力お察し申し上げます。
「皆様には、そうですわね――怖いおとぎ話を討伐してきていただきたいのですわ」
うぅぅふぅぅふぅぅと、マリオーネはハンカチ越しにゆっくり笑う。
「キノコというと、どうしても毒キノコの恐怖が付きまといますわ。人の入らない森で、食べると怖いキノコを食べたのは誰でしょう」
イブリース・群体識別名「アキモリノコワヤ」
「キノコの菌糸が根付いた土がちょっと逆戻り――体中にキノコをはやした動物の死骸の形をとって動き出してきましたの。クマシカリスキツネ――そんな形のものがたくさん」
土が変化したもの。広義ではクレイゴーレムの一種ということか。ただ、見た目がキノコデコされたフレッシュゴーレムっぽいだけの。
「力は大したことはありませんけれど、大量ですの。攻撃力は皆無。動いているだけで精いっぱいですから、ほんのちょっと殴ればすぐ土に戻りましてよ。そうですわね。お祭りの仮装行列くらいですわね」
仮装行列にはまだ早い。実害はほぼないのですけれど。と、プラロークは言う。
「この見た目のものが町や村まで行進していきましたら、世情不安でお祭り中止になってしまいますわ」
ウィート・バーリィ・ライは目の前だ。
「イブリースが国を行進したという事実がすでに国家の威信に関わります。化け物慣れした自由騎士団がこっそり片付けるのが国家治安への貢献です」
それに、イベント中止になった時の各方面への影響は計り知れない。
お祭りは民衆のガス抜きだからして。
「何しろお化けなので時間は深夜から夜明けまで。定番ですわね。今時分ですと六時間くらい? 途中途切れるでしょうからずっと攻撃しっぱなしということはないと思いますの。適宜休憩を取りながら頑張ってくださいましね」
仮眠や交替や補給しろってことだな。
「ごく当たり前の自然の営みがゲシュペンストにゆがめられましたわ。獣に魂があるのなら、行くべきところに還っているでしょう。ちょっとリアルな土のオブジェを破壊する、簡単なお仕事ですわ――そうそう」
マリオーネさんは、ハンカチ越しにニッコリ笑った。
「『アキモリノコワヤ』に生えているきのこは食べても何の問題もないので、たくさん食べてきていただいて一向にかまいませんのよ」
事情が事情なだけに売り物にもできないし、もったいないので食えってことですね。
「現場に残った土は後日撤去いたしますので、お気になさらず。土は土へ還してくださいませ」
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.イブリースの襲来をキノコタワーを拠点にして一晩耐えきる。
2.一体も後逸しない。
2.一体も後逸しない。
田奈です。
イージーです。つまり「自重しないぜ、ヒャッハー!」です。
ちょっとリアルゾンビメイク+冬虫夏草なアニマルゾンビっぽいクレイゴーレムを土を耕す気持ちで一晩中破壊する簡単なお仕事です。武具じゃなくて農具の方が気分出るんじゃないかな。
自分でクレイゴーレムにかみついて土を腹いっぱい飲み込むレベルのことをしなければ怪我もしません。
ただ返り血的に、土まみれにはなります。
*クレイゴーレム「アキモリノコワヤ」×無限湧き。
キノコへの恐怖や動物の死骸への恐怖がゲシュペンスト通過によってねりねりされたら、こんなものが出来ました。
午後11時から夜明けまで、発生数の波がありますが出現し続けます。
多少土を食べちゃったり胞子を吸い込んだからと言って、体からキノコが生えるようになったりしません。ご安心。
土なので、野生動物と行動規範が異なります。ヒトの恐怖由来なのでヒトに向かって歩いてきます。
「アキモリノコワヤ」は『攻撃された』という行為によって土にかえりますので、どんなへなちょこパンチでも倒せます。ただ、『攻撃されないならそのままどこまでも歩いていく』ので、必ず攻撃してください。土ですので途中で腐って行き倒れたりしません。元気に人がいるところまで歩いていきます。パニックの勃発。失敗です。
速度は、牛歩です。すぐ追いつけるでしょうが、元の位置まで戻るのが大変です。
一番弱いスキルがもったいないレベルに弱いです。範囲攻撃で一網打尽は効果的に使用してください。
*キノコ
流通量が極端に少ない上に、すごくおいしい。
そのため、この機会を逃したら、次いつ食べられるかわからないくらい高価。
今なら、ただで、腹いっぱい食べられる。一生の思い出級。
*闇夜・夜11時~夜明けまで。
キノコタワーの戦闘力は、国防騎士団では北部哨戒塔として使われ生き残った程度。中から銃撃ができるようになってたり、塹壕があったりするけど、観光施設ですよ?
サポートさんは諸般の事情で途中で離脱します。適当に理由をでっち上げてください。要するに、サムズアップしてガクっとする役です。印象的に落伍すると、本参加者さんの頑張りが引き立ちます。
はっちゃけ大歓迎ですが、小さなお友達も読んでいい全対象ゲームですので、田奈の「そういうのいけないと思います」カウンターに抵触した場合、マスタリング対象になります。
それでは、徹夜の後で楽しいキノコパーティーができますように。
イージーです。つまり「自重しないぜ、ヒャッハー!」です。
ちょっとリアルゾンビメイク+冬虫夏草なアニマルゾンビっぽいクレイゴーレムを土を耕す気持ちで一晩中破壊する簡単なお仕事です。武具じゃなくて農具の方が気分出るんじゃないかな。
自分でクレイゴーレムにかみついて土を腹いっぱい飲み込むレベルのことをしなければ怪我もしません。
ただ返り血的に、土まみれにはなります。
*クレイゴーレム「アキモリノコワヤ」×無限湧き。
キノコへの恐怖や動物の死骸への恐怖がゲシュペンスト通過によってねりねりされたら、こんなものが出来ました。
午後11時から夜明けまで、発生数の波がありますが出現し続けます。
多少土を食べちゃったり胞子を吸い込んだからと言って、体からキノコが生えるようになったりしません。ご安心。
土なので、野生動物と行動規範が異なります。ヒトの恐怖由来なのでヒトに向かって歩いてきます。
「アキモリノコワヤ」は『攻撃された』という行為によって土にかえりますので、どんなへなちょこパンチでも倒せます。ただ、『攻撃されないならそのままどこまでも歩いていく』ので、必ず攻撃してください。土ですので途中で腐って行き倒れたりしません。元気に人がいるところまで歩いていきます。パニックの勃発。失敗です。
速度は、牛歩です。すぐ追いつけるでしょうが、元の位置まで戻るのが大変です。
一番弱いスキルがもったいないレベルに弱いです。範囲攻撃で一網打尽は効果的に使用してください。
*キノコ
流通量が極端に少ない上に、すごくおいしい。
そのため、この機会を逃したら、次いつ食べられるかわからないくらい高価。
今なら、ただで、腹いっぱい食べられる。一生の思い出級。
*闇夜・夜11時~夜明けまで。
キノコタワーの戦闘力は、国防騎士団では北部哨戒塔として使われ生き残った程度。中から銃撃ができるようになってたり、塹壕があったりするけど、観光施設ですよ?
サポートさんは諸般の事情で途中で離脱します。適当に理由をでっち上げてください。要するに、サムズアップしてガクっとする役です。印象的に落伍すると、本参加者さんの頑張りが引き立ちます。
はっちゃけ大歓迎ですが、小さなお友達も読んでいい全対象ゲームですので、田奈の「そういうのいけないと思います」カウンターに抵触した場合、マスタリング対象になります。
それでは、徹夜の後で楽しいキノコパーティーができますように。
状態
完了
完了
報酬マテリア
5個
1個
1個
1個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
5日
5日
参加人数
5/8
5/8
公開日
2019年10月29日
2019年10月29日
†メイン参加者 5人†

●
北部までは汽車で移動である。後は乗合馬車を乗り継いでいく。結構遠い。
馬車にゆられながら、レイラ・F・月宮(CL3000620)は、割と緊張していた。
(簡単な依頼とは聞いているけど、何があるかわからないし、油断しないようにしないと)
一切の慢心なし。すばらしい。隙あらば、先輩の動きを勉強しようとしているところ、非常に好感が持てる。
そんな経験豊富な先輩たちは――あらかた寝始めた。。
『ラビットレディ!』ティラミス・グラスホイップ(CL3000385)は、できうる限り仮眠をとると決めていた。
「徹夜ですし」
『真打!?食べ隊』キリ・カーレント(CL3000547)は、休める時はきっちり休むようにしなきゃ。と、考えていた。
「気づいたら無理しすぎてるコトも多い気がするから」
『おじさまに会いたかった』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)は、仮眠はバッチリとる派だった。
「深夜の任務と聞いていたので!」
すやすやという寝息が秋空に吸い込まれていく。
「夜通し戦うのは大変だと思いますので」
『その瞳は前を見つめて』ティルダ・クシュ・サルメンハーラ(CL3000580)は、資料を読み込んでいた。ヨウセイを解放するためのシャンバラとの戦場の一つとなれば、一肌脱ぐ。
(何か困った事が起きてるなら解決しないとですっ)
「――交替したりして休憩を取りながら頑張りましょう!」
つまり、この後、レイラも寝ろ。ということだ。
「そ、それにしても、キノコデコされたフレッシュゴーレム……?」
――のようなクレイゴーレムと文章は続いている。
「イ・ラプセルには、変わったキノコがあるんですね?」
誤解だ。聞いてくれ、シャンバラのヨウセイさん。イ・ラプセル、そんな奇天烈キノコ、生えない。キノコのせいじゃない。みんなゲシュペンストのせいだ。
「でも、そういうのが動いてたら確かに不安になる人もいると思います」
ティルダは、うんうんと書類を見ながら頷いた。
「騒ぎにならないよう、全部倒してしまいましょう!」
やる気に満ち溢れている。
「一体も逃しません!」
「――という事なのでサーチエネミーを使用しつつ、バチカルブロウを使用しつつシールドで押し轢いていきたいところですね。そうやれば発生しかけのも根こそぎいけるし、漏れも無くなるじゃないですか!」
話し声に、顔を上げたデボラが提案する。
うん、それ、道の舗装っていうんだ。知ってる。微妙な空気にデボラは首をかしげた。
「え、ダメですか?「観光用の施設」ですよね? これからのシーズンの観光客の安全面を考え、地ならしするのも重要な任務じゃないですか!」
そのとおり。しかし、ここは結構獣が出るのだ。クマとかシカとかオオカミとか。堀や柵は獣よけなのだ。もしものときはキノコタワーに籠城して、助けを待つんだよ。
そうまでして、キノコを採りに来るのか? ここのキノコはそのくらいの価値はあるのだ。
●
闇の中でティラミスが吊るしたカンテラの存在感がどんどん増していく。
戦闘開始の時間と告げラテ他国減まで今少し。
「見た目は怖いけど、食べ隊の一員として、あの噂の美味しいきのこの存在は目が離せないわ」
仮眠もとってすっきりさっぱりのキリは、ほっぺに気合のぺちぺちを入れた。
これが終わったら、実質キノコ食べ放題だ。いうなれば、一晩中キノコ狩りと言っても過言ではない。キノコが生えた地面ごと自分で歩いてくるんだから最高だ。考えようによっては。
「これは聖水です。手分けして巻いて防衛力を強化しましょう」
ティラミスが水筒を配り始めた。ここの基礎工事やった自由騎士団の一人なので、どこがどうなっているのか把握している。
問題は、動物的還リビトではないので聖水がどの程度効くのかという点だ。まったく効かないことはないだろうが、踏んだとたんに崩れ落ちてくれるということはないだろう。
「タワーも私たちが出入りする以外の窓や出入り口を塞いでおきました。万が一中まで押しこまれたら大変ですし、避難所としても活用したいです」
お気づきだろうか。ふさぐのを前提に溝が入っていたりする窓枠に。妙に小さい窓に。外に行くほど狭くなる通風孔という名のスリットに。
ここは、そういうことに使うのを想定して作られた施設だと武器を手にする者に分かる仕組み。
「出入りに使える窓はこことここ」
高階層だ。低階層の窓から侵入されると逃げ道がふさがれる。
「アキモリノコワヤ」が来る。
深い森の中から。
「アキモリノコワヤ」が来る。
「テレパスで、敵の規模や方向を伝達します」
頭の中にティラミスの声がねじ込まれる。
「どこからクレイゴーレムがやってくるか、はぐれた敵がいないか注意深く観察します。レイラさんがはぐれた敵の遊撃、キリさんや私、デボラさんとティルダさんが範囲攻撃を担当予定です」
有象無象は面で迎え撃ち、はぐれた者は足が速いものが追い付けば勝ち。手堅い。
こそり。かそり。どそり、だそり。
見た目よりはるかに重たい音を立てて、それは森から押し寄せる。
つやつやとカンテラに光を跳ね返すキノコを冠のように頭部に生やしたクマが、シカが、リスが、ウサギが、キツネが、アナグマが。
森の中から現れて、生き物の熱を恋しがるようにキノコタワーに近づいてくる。
「まずは波を止めましょう」
デボラの腹で練り上げられた闘気が鋼の体の中で急速に膨張する。
吹きあがる全方位の「圧」に触れた「アキモリノコワヤ」が獣の形をとるのをやめて、ばさりばさりと土塊に戻る。恐ろしいほど手ごたえがない。ビックリしたら止まるしゃっくりのようだ。
「わぶっ!」
濛々たる土煙。吹き飛ばされた土がぼどぼどぼどっと音を立てて頭上から降ってくる。足元にたまる土の山。割と痛い。これは一度に処理したら、立ち位置によっては生き埋め。立ち上がったクマは3メートル超。一番小さなキリの身長は130センチだ。生き埋めには十分だ。
攻撃ではなく、存在がおやばい。
外の様子に、塔の中で休むように言われていたレイラが窓から下をうかがう。
きゃー、ひゃーという声は、敵に襲われているのではなく、敵を倒した後の土煙に対する声のようだ。女の子だもん。
「――」
声にならずに変な音が喉から漏れた。
ふさがず残してあった窓にびっしりとリスが張り付いていた。腹が波打たない。呼吸していない。いやリスではない。生きていない。目に光がない。キノコが生えている。肉のようだが土だ。ここまで登ってきたのだ。
クマの背を踏み越えたキツネの背を踏み越えたアナグマの背を踏み越えたウサギの背を踏み越えたリスがキノコタワーを上ってきているのだ。どこかで聞いた民話のような悪夢だ。
中に入りこまれて土に還られたら、塔が中から埋まる。
(このくらいの高さなら『空中二段飛び』で着地できる……よね……?)
実戦で使うのが初めての時、誰もが経験する一瞬だ。練習し続けたことが実践で使えるかどうか一瞬よぎるものだ。技術を習得した自分を信じて飛ぶしかない。
落下。更なる跳躍。相殺される浮遊感。着地。一度取得してしまえばあとは体が覚えるが使いどころを覚えないと宝の持ち腐れになる。
壁に張り付いたアキモリノコワヤの一番下のクマに一撃を入れる。クマが崩れ滑り落ちてきたキツネ、アナグマ、ウサギ、リスを次々こずく。気が付くとそこは土で埋まってしまった。足元にさっきまで動物の形をしていた湿った土。シンとしている。
レイラの遠吠えが響く。美しい高音が夜の森に木霊する。しかし、それに応える声はなかった。
草を踏む音はする。枝をこする音はする。爪が土をつかむ音も、巨体が風を遮る音も。
森から黒い影がいくつもいくつも現れる。でもそこに動物の気配はない。
感覚できる範囲で生きているのは、自由騎士の五人だけだった。
キノコをはやした土塊が、動物の形をとって歩いてくる。
そこに死はない。あるのはキノコだ。この調子では夜が明ける頃には壮大な盛り土が無数に出来上がっていることが容易に想像できた。
ここが盛り土最終ラインだ。人里にはやらない。
(……相手は土なのよね。服とか毛並みが汚れるのはちょっと……。我慢するしかないか……)
返り血じゃないだけましかもしれないが、テンションはおちる。ぼそぼそするし、微妙な匂いがするんだもん。
その時。
「レイラさんは初めてだから、優先でお守りします」
頭一つ大きさが違うレイラの前にキリが立つ。攻撃に気を取られてうっかり埋まってしまわないように。
あなたに寄り添うが一切邪魔しない。奥ゆかしいこと天井知らずの心配りに満ちた最前線仕様援護技術。
キリのローブが特注なのはうさ耳をつけたからだけではない。防護術式が編み込まれ盾にも相当するものなのだ。中々見ない程度に強い。
実は通商連お勧め女子コーデの方が防御力が高いのだが、布の量とコスパを鑑みて判断してほしい。
レイラが埋まったり土を食べたりしないように、うまい具合に土を受け流してくれる。
これが、本当の斬撃だったらきっとすごく頼もしい。
誰かと一緒に戦うって、そういう感じ。
自由騎士は助け合うのだ。
●
直接叫ぶ声と、頭に響くテレパシーが交錯する。
「韋駄天足ではぐれを追って帰ってくる方が疲れる?」
「効率的に誘導しますね」
「バッシュに切り替えます。MPは大事です!」
「試しに投げてみたスモークボムは効きません!」
「スモークボムは効かない。了解です。共有します」
「石は効きます!」
「投石は効く。共有しましょう」
「波が引きましたから、今のうちに回復しましょう。大丈夫ですよ。みんなまだまだ戦えます」
「でも、急用も大事だから、休みましょう!」
「これ、堀にはまったのが土に戻ってほぼ平地になりましたね。歩きやすくなりました。押し込んでおきましょう」
「ほんとに石効きますね!」
「当たらない? 直接殴ってくる!」
「……あれ、ひょっとして最初からこっちの方が早かったでしょうか」
「次の波が来ますよ」
「ところで、夜明けまでどのくらいですか?」
「ああっ、窓に! 窓に!」
「それ、つつけば大丈夫です」
「夜明けです」
朝の光が染みとおり、アキモリノコワヤは只の土の塊に戻った。
●
そろそろ宵っ張りの貴族が起きだしてくるレベルで朝だ。
「とりあえず、キノコ食べましょう」
けがの手当てとタワーの状況を確認した後、ティラミスは言った。
「疲れましたし帰って早く寝たいですですけど、これがある意味報酬ですし」
長距離移動してそのまま戦闘して徹夜明けだ。
『仮眠をとっておかなくては』と全員が言っていたのはこのことか。と、レイラは思い知った。
戦闘明けの急激な緊張状態からの解放と徹夜ハイとこれからまた高距離移動の絶望で思考がとっ散らかるのをせめて常識の範囲内に収めようとしていた予防策だったのだ。
結果、ブランチはキノコパーティーだ。ここからの移動を考えるとそうなるのだ。いいじゃないか。天気もいいし。ちょっと辺りがデコボコだけど。キノコタワーも所々埋まってるけど。
お料理上手のティラミスがキノコを煮て焼いて炒めている。辺りに得も言われぬ薫香が漂い始めた。この匂い嗅ぐために今起きてる。
「皆様たくさん食べたいでしょうし、しっかり集めましょう。キノコ三昧で美味しくいただきたいですね!」
野菜炒め、網焼きと夢が広がる。調理スペースも広がる。
「美味しいきのこもですけど、何か他の薬効のあるきのこもお土産として探します。普通に使えそうな毒キノコでもかまいません」
ティラミスが例にあげたキノコは触るだけで大惨事なものも含まれていた。そんなの持ってたら汽車に乗せてもらえないか没収されるか厳重な箱に入れられて貨物室に転がされる。キノコかティラミスかその両方が。
「徒歩で高速移動する虹色のアガサタケとか」
「――それはおとぎ話ではなかったかしら、ティラミス様」
屋敷へのお土産にする。と、元気に盛り土からキノコをほっくり返しているデボラが笑った。デボラは元気だ、きちんと自己管理していたのですごく元気だ。
(家に帰ればゆっくり休めるでしょうし、それまでの辛抱です)
お家に帰ったら、途端にばったり行くかもしれない。そうできる家がある者は幸いである。
「ないない」
キリは更に端的だった。
アガサタケは食べても死なないが、歩くように見えるほど、菌糸の成長と死滅が高速で日持ちが悪い。キリの守備範囲ではない。ゲシュペンストが通過するでもしない限り、それはない。
「美味しいキノコをいっぱい食べれるなんて幸せです……!」
ティルダは、感涙にむせびながらキノコを口に運んでいる。
口から鼻に抜ける方向とさっくりと髪切れる絶妙の歯ざわり。噛んでいるだけで幸せ。
この味を覚えたら来年もこの森に来なくてはいけなくなる魔性の味だ。
「この味、匂い、見た目をよく覚えておかなきゃ」
次いつ食べられるかわからない。
キノコのいい匂いと土の匂い。
ぐんぐん上ってくるお日様。帰りの蒸気機関車では全員寝てしまうだろう。幸い、降りる駅は終点だ。王都は報告を待っている。
北部までは汽車で移動である。後は乗合馬車を乗り継いでいく。結構遠い。
馬車にゆられながら、レイラ・F・月宮(CL3000620)は、割と緊張していた。
(簡単な依頼とは聞いているけど、何があるかわからないし、油断しないようにしないと)
一切の慢心なし。すばらしい。隙あらば、先輩の動きを勉強しようとしているところ、非常に好感が持てる。
そんな経験豊富な先輩たちは――あらかた寝始めた。。
『ラビットレディ!』ティラミス・グラスホイップ(CL3000385)は、できうる限り仮眠をとると決めていた。
「徹夜ですし」
『真打!?食べ隊』キリ・カーレント(CL3000547)は、休める時はきっちり休むようにしなきゃ。と、考えていた。
「気づいたら無理しすぎてるコトも多い気がするから」
『おじさまに会いたかった』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)は、仮眠はバッチリとる派だった。
「深夜の任務と聞いていたので!」
すやすやという寝息が秋空に吸い込まれていく。
「夜通し戦うのは大変だと思いますので」
『その瞳は前を見つめて』ティルダ・クシュ・サルメンハーラ(CL3000580)は、資料を読み込んでいた。ヨウセイを解放するためのシャンバラとの戦場の一つとなれば、一肌脱ぐ。
(何か困った事が起きてるなら解決しないとですっ)
「――交替したりして休憩を取りながら頑張りましょう!」
つまり、この後、レイラも寝ろ。ということだ。
「そ、それにしても、キノコデコされたフレッシュゴーレム……?」
――のようなクレイゴーレムと文章は続いている。
「イ・ラプセルには、変わったキノコがあるんですね?」
誤解だ。聞いてくれ、シャンバラのヨウセイさん。イ・ラプセル、そんな奇天烈キノコ、生えない。キノコのせいじゃない。みんなゲシュペンストのせいだ。
「でも、そういうのが動いてたら確かに不安になる人もいると思います」
ティルダは、うんうんと書類を見ながら頷いた。
「騒ぎにならないよう、全部倒してしまいましょう!」
やる気に満ち溢れている。
「一体も逃しません!」
「――という事なのでサーチエネミーを使用しつつ、バチカルブロウを使用しつつシールドで押し轢いていきたいところですね。そうやれば発生しかけのも根こそぎいけるし、漏れも無くなるじゃないですか!」
話し声に、顔を上げたデボラが提案する。
うん、それ、道の舗装っていうんだ。知ってる。微妙な空気にデボラは首をかしげた。
「え、ダメですか?「観光用の施設」ですよね? これからのシーズンの観光客の安全面を考え、地ならしするのも重要な任務じゃないですか!」
そのとおり。しかし、ここは結構獣が出るのだ。クマとかシカとかオオカミとか。堀や柵は獣よけなのだ。もしものときはキノコタワーに籠城して、助けを待つんだよ。
そうまでして、キノコを採りに来るのか? ここのキノコはそのくらいの価値はあるのだ。
●
闇の中でティラミスが吊るしたカンテラの存在感がどんどん増していく。
戦闘開始の時間と告げラテ他国減まで今少し。
「見た目は怖いけど、食べ隊の一員として、あの噂の美味しいきのこの存在は目が離せないわ」
仮眠もとってすっきりさっぱりのキリは、ほっぺに気合のぺちぺちを入れた。
これが終わったら、実質キノコ食べ放題だ。いうなれば、一晩中キノコ狩りと言っても過言ではない。キノコが生えた地面ごと自分で歩いてくるんだから最高だ。考えようによっては。
「これは聖水です。手分けして巻いて防衛力を強化しましょう」
ティラミスが水筒を配り始めた。ここの基礎工事やった自由騎士団の一人なので、どこがどうなっているのか把握している。
問題は、動物的還リビトではないので聖水がどの程度効くのかという点だ。まったく効かないことはないだろうが、踏んだとたんに崩れ落ちてくれるということはないだろう。
「タワーも私たちが出入りする以外の窓や出入り口を塞いでおきました。万が一中まで押しこまれたら大変ですし、避難所としても活用したいです」
お気づきだろうか。ふさぐのを前提に溝が入っていたりする窓枠に。妙に小さい窓に。外に行くほど狭くなる通風孔という名のスリットに。
ここは、そういうことに使うのを想定して作られた施設だと武器を手にする者に分かる仕組み。
「出入りに使える窓はこことここ」
高階層だ。低階層の窓から侵入されると逃げ道がふさがれる。
「アキモリノコワヤ」が来る。
深い森の中から。
「アキモリノコワヤ」が来る。
「テレパスで、敵の規模や方向を伝達します」
頭の中にティラミスの声がねじ込まれる。
「どこからクレイゴーレムがやってくるか、はぐれた敵がいないか注意深く観察します。レイラさんがはぐれた敵の遊撃、キリさんや私、デボラさんとティルダさんが範囲攻撃を担当予定です」
有象無象は面で迎え撃ち、はぐれた者は足が速いものが追い付けば勝ち。手堅い。
こそり。かそり。どそり、だそり。
見た目よりはるかに重たい音を立てて、それは森から押し寄せる。
つやつやとカンテラに光を跳ね返すキノコを冠のように頭部に生やしたクマが、シカが、リスが、ウサギが、キツネが、アナグマが。
森の中から現れて、生き物の熱を恋しがるようにキノコタワーに近づいてくる。
「まずは波を止めましょう」
デボラの腹で練り上げられた闘気が鋼の体の中で急速に膨張する。
吹きあがる全方位の「圧」に触れた「アキモリノコワヤ」が獣の形をとるのをやめて、ばさりばさりと土塊に戻る。恐ろしいほど手ごたえがない。ビックリしたら止まるしゃっくりのようだ。
「わぶっ!」
濛々たる土煙。吹き飛ばされた土がぼどぼどぼどっと音を立てて頭上から降ってくる。足元にたまる土の山。割と痛い。これは一度に処理したら、立ち位置によっては生き埋め。立ち上がったクマは3メートル超。一番小さなキリの身長は130センチだ。生き埋めには十分だ。
攻撃ではなく、存在がおやばい。
外の様子に、塔の中で休むように言われていたレイラが窓から下をうかがう。
きゃー、ひゃーという声は、敵に襲われているのではなく、敵を倒した後の土煙に対する声のようだ。女の子だもん。
「――」
声にならずに変な音が喉から漏れた。
ふさがず残してあった窓にびっしりとリスが張り付いていた。腹が波打たない。呼吸していない。いやリスではない。生きていない。目に光がない。キノコが生えている。肉のようだが土だ。ここまで登ってきたのだ。
クマの背を踏み越えたキツネの背を踏み越えたアナグマの背を踏み越えたウサギの背を踏み越えたリスがキノコタワーを上ってきているのだ。どこかで聞いた民話のような悪夢だ。
中に入りこまれて土に還られたら、塔が中から埋まる。
(このくらいの高さなら『空中二段飛び』で着地できる……よね……?)
実戦で使うのが初めての時、誰もが経験する一瞬だ。練習し続けたことが実践で使えるかどうか一瞬よぎるものだ。技術を習得した自分を信じて飛ぶしかない。
落下。更なる跳躍。相殺される浮遊感。着地。一度取得してしまえばあとは体が覚えるが使いどころを覚えないと宝の持ち腐れになる。
壁に張り付いたアキモリノコワヤの一番下のクマに一撃を入れる。クマが崩れ滑り落ちてきたキツネ、アナグマ、ウサギ、リスを次々こずく。気が付くとそこは土で埋まってしまった。足元にさっきまで動物の形をしていた湿った土。シンとしている。
レイラの遠吠えが響く。美しい高音が夜の森に木霊する。しかし、それに応える声はなかった。
草を踏む音はする。枝をこする音はする。爪が土をつかむ音も、巨体が風を遮る音も。
森から黒い影がいくつもいくつも現れる。でもそこに動物の気配はない。
感覚できる範囲で生きているのは、自由騎士の五人だけだった。
キノコをはやした土塊が、動物の形をとって歩いてくる。
そこに死はない。あるのはキノコだ。この調子では夜が明ける頃には壮大な盛り土が無数に出来上がっていることが容易に想像できた。
ここが盛り土最終ラインだ。人里にはやらない。
(……相手は土なのよね。服とか毛並みが汚れるのはちょっと……。我慢するしかないか……)
返り血じゃないだけましかもしれないが、テンションはおちる。ぼそぼそするし、微妙な匂いがするんだもん。
その時。
「レイラさんは初めてだから、優先でお守りします」
頭一つ大きさが違うレイラの前にキリが立つ。攻撃に気を取られてうっかり埋まってしまわないように。
あなたに寄り添うが一切邪魔しない。奥ゆかしいこと天井知らずの心配りに満ちた最前線仕様援護技術。
キリのローブが特注なのはうさ耳をつけたからだけではない。防護術式が編み込まれ盾にも相当するものなのだ。中々見ない程度に強い。
実は通商連お勧め女子コーデの方が防御力が高いのだが、布の量とコスパを鑑みて判断してほしい。
レイラが埋まったり土を食べたりしないように、うまい具合に土を受け流してくれる。
これが、本当の斬撃だったらきっとすごく頼もしい。
誰かと一緒に戦うって、そういう感じ。
自由騎士は助け合うのだ。
●
直接叫ぶ声と、頭に響くテレパシーが交錯する。
「韋駄天足ではぐれを追って帰ってくる方が疲れる?」
「効率的に誘導しますね」
「バッシュに切り替えます。MPは大事です!」
「試しに投げてみたスモークボムは効きません!」
「スモークボムは効かない。了解です。共有します」
「石は効きます!」
「投石は効く。共有しましょう」
「波が引きましたから、今のうちに回復しましょう。大丈夫ですよ。みんなまだまだ戦えます」
「でも、急用も大事だから、休みましょう!」
「これ、堀にはまったのが土に戻ってほぼ平地になりましたね。歩きやすくなりました。押し込んでおきましょう」
「ほんとに石効きますね!」
「当たらない? 直接殴ってくる!」
「……あれ、ひょっとして最初からこっちの方が早かったでしょうか」
「次の波が来ますよ」
「ところで、夜明けまでどのくらいですか?」
「ああっ、窓に! 窓に!」
「それ、つつけば大丈夫です」
「夜明けです」
朝の光が染みとおり、アキモリノコワヤは只の土の塊に戻った。
●
そろそろ宵っ張りの貴族が起きだしてくるレベルで朝だ。
「とりあえず、キノコ食べましょう」
けがの手当てとタワーの状況を確認した後、ティラミスは言った。
「疲れましたし帰って早く寝たいですですけど、これがある意味報酬ですし」
長距離移動してそのまま戦闘して徹夜明けだ。
『仮眠をとっておかなくては』と全員が言っていたのはこのことか。と、レイラは思い知った。
戦闘明けの急激な緊張状態からの解放と徹夜ハイとこれからまた高距離移動の絶望で思考がとっ散らかるのをせめて常識の範囲内に収めようとしていた予防策だったのだ。
結果、ブランチはキノコパーティーだ。ここからの移動を考えるとそうなるのだ。いいじゃないか。天気もいいし。ちょっと辺りがデコボコだけど。キノコタワーも所々埋まってるけど。
お料理上手のティラミスがキノコを煮て焼いて炒めている。辺りに得も言われぬ薫香が漂い始めた。この匂い嗅ぐために今起きてる。
「皆様たくさん食べたいでしょうし、しっかり集めましょう。キノコ三昧で美味しくいただきたいですね!」
野菜炒め、網焼きと夢が広がる。調理スペースも広がる。
「美味しいきのこもですけど、何か他の薬効のあるきのこもお土産として探します。普通に使えそうな毒キノコでもかまいません」
ティラミスが例にあげたキノコは触るだけで大惨事なものも含まれていた。そんなの持ってたら汽車に乗せてもらえないか没収されるか厳重な箱に入れられて貨物室に転がされる。キノコかティラミスかその両方が。
「徒歩で高速移動する虹色のアガサタケとか」
「――それはおとぎ話ではなかったかしら、ティラミス様」
屋敷へのお土産にする。と、元気に盛り土からキノコをほっくり返しているデボラが笑った。デボラは元気だ、きちんと自己管理していたのですごく元気だ。
(家に帰ればゆっくり休めるでしょうし、それまでの辛抱です)
お家に帰ったら、途端にばったり行くかもしれない。そうできる家がある者は幸いである。
「ないない」
キリは更に端的だった。
アガサタケは食べても死なないが、歩くように見えるほど、菌糸の成長と死滅が高速で日持ちが悪い。キリの守備範囲ではない。ゲシュペンストが通過するでもしない限り、それはない。
「美味しいキノコをいっぱい食べれるなんて幸せです……!」
ティルダは、感涙にむせびながらキノコを口に運んでいる。
口から鼻に抜ける方向とさっくりと髪切れる絶妙の歯ざわり。噛んでいるだけで幸せ。
この味を覚えたら来年もこの森に来なくてはいけなくなる魔性の味だ。
「この味、匂い、見た目をよく覚えておかなきゃ」
次いつ食べられるかわからない。
キノコのいい匂いと土の匂い。
ぐんぐん上ってくるお日様。帰りの蒸気機関車では全員寝てしまうだろう。幸い、降りる駅は終点だ。王都は報告を待っている。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
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