MagiaSteam




白と黒と幻惑の捕食者

●
いつまでも彼らの好意に甘えていてはいけない──
ハクメイは考える。
確かに彼らにエネルギーを分けてもらえば私たちは生き延びる事が出来る。人を襲う必要も無い。……だがこれでいいのだろうか。
彼らから聞いたとある鉱石。それが容易に手に入る環境さえ整えば……。
ある日ハクメイとミコトはとある洞窟の前に居た。
「ここに本当にあるの?」
「ああ、私なりに色々調べた。地形的にも合致している。きっとここにはあるはずだ」
2人が訪れたのは誰もまだ探索して無いであろう未知の洞窟。
どうやらここに彼らが生きるために必要なエネルギーと同等の力を持つ鉱石、スペッサルティンが眠っているらしいのだ。
「……あの心優しい人達はきっとこれからも何も言わずにエネルギーを分けてくれると思う。だけど……あの鉱石さえ定期的に手に入れば私たちは自立できる」
「それなら一緒に探してもらえばいいんじゃ?」
「これ以上彼らに迷惑をかけたくないんだ」
「そう……確かにそうね」
ハクメイが歩を進める。ミコトはハクメイの服のすそをつまみながら後ろをついていく。
そのまま2人は漆黒の洞窟の奥へと消えていった。
「遅いわ……いったいどこまで行ったのかしら」
用事があるといって出て行った2人を待つユキ。
──だが2人が戻ってくる事は無かった。永遠に。
●
「前に会った事あるやつもいるよな。幻想種アナザーフィアーのハクメイとミコト。2人を救って欲しい」
『演算士』テンカイ・P・ホーンテン(nCL3000048)は自由騎士にとって聞き覚えのある名前を口にした。
「どういうことだ?」
自由騎士が聞き返す。なぜなら幻想種アナザーフィアーの戦闘力は自由騎士にも引けを取らないものだった。生半可な魔物では相手にならない事を知っていたからだ。
「確かに並の魔物ならヤツラが後れを取る事は無いんだ。だが……今回は相手が悪すぎた」
「というと?」
「幻想種フィアーイーター。巨大な花の幻想種なんだが……こいつはアナザーフィアーをおびき寄せる特殊なエネルギー波を出すんだ。しかも幻惑効果のオマケつきだ」
「呼び寄せられて、訳もわからぬまま……という事か」
「ああ、そのとおりだ。……まぁもともと人を食うといわれていた幻想種だ。何故助けないといけないと思うやつもいるだろう。それはわかる。わかっちゃいるんだが……」
テンカイの言葉が熱を帯びる。
「だけどアイツらは模索していた。人との共存を。そして自ら動こうとしていた。そんなヤツラを見殺しになんて……できるか?」
静まり返る演算室。
「……で、場所はどこなんだ?」
すまないね。そう言うとテンカイは一枚の地図を自由騎士たちに手渡したのであった。
いつまでも彼らの好意に甘えていてはいけない──
ハクメイは考える。
確かに彼らにエネルギーを分けてもらえば私たちは生き延びる事が出来る。人を襲う必要も無い。……だがこれでいいのだろうか。
彼らから聞いたとある鉱石。それが容易に手に入る環境さえ整えば……。
ある日ハクメイとミコトはとある洞窟の前に居た。
「ここに本当にあるの?」
「ああ、私なりに色々調べた。地形的にも合致している。きっとここにはあるはずだ」
2人が訪れたのは誰もまだ探索して無いであろう未知の洞窟。
どうやらここに彼らが生きるために必要なエネルギーと同等の力を持つ鉱石、スペッサルティンが眠っているらしいのだ。
「……あの心優しい人達はきっとこれからも何も言わずにエネルギーを分けてくれると思う。だけど……あの鉱石さえ定期的に手に入れば私たちは自立できる」
「それなら一緒に探してもらえばいいんじゃ?」
「これ以上彼らに迷惑をかけたくないんだ」
「そう……確かにそうね」
ハクメイが歩を進める。ミコトはハクメイの服のすそをつまみながら後ろをついていく。
そのまま2人は漆黒の洞窟の奥へと消えていった。
「遅いわ……いったいどこまで行ったのかしら」
用事があるといって出て行った2人を待つユキ。
──だが2人が戻ってくる事は無かった。永遠に。
●
「前に会った事あるやつもいるよな。幻想種アナザーフィアーのハクメイとミコト。2人を救って欲しい」
『演算士』テンカイ・P・ホーンテン(nCL3000048)は自由騎士にとって聞き覚えのある名前を口にした。
「どういうことだ?」
自由騎士が聞き返す。なぜなら幻想種アナザーフィアーの戦闘力は自由騎士にも引けを取らないものだった。生半可な魔物では相手にならない事を知っていたからだ。
「確かに並の魔物ならヤツラが後れを取る事は無いんだ。だが……今回は相手が悪すぎた」
「というと?」
「幻想種フィアーイーター。巨大な花の幻想種なんだが……こいつはアナザーフィアーをおびき寄せる特殊なエネルギー波を出すんだ。しかも幻惑効果のオマケつきだ」
「呼び寄せられて、訳もわからぬまま……という事か」
「ああ、そのとおりだ。……まぁもともと人を食うといわれていた幻想種だ。何故助けないといけないと思うやつもいるだろう。それはわかる。わかっちゃいるんだが……」
テンカイの言葉が熱を帯びる。
「だけどアイツらは模索していた。人との共存を。そして自ら動こうとしていた。そんなヤツラを見殺しになんて……できるか?」
静まり返る演算室。
「……で、場所はどこなんだ?」
すまないね。そう言うとテンカイは一枚の地図を自由騎士たちに手渡したのであった。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.幻想種フィアーイーターの討伐
2.ハクメイとミコトの無事
3.スペッサルティンの発見
2.ハクメイとミコトの無事
3.スペッサルティンの発見
麺です。あと数日で新しい元号が始まると思うと……無性に麺が食べたくなりますね。
以前の麺の依頼で出てきた幻想種アナザーフィアー。彼らは自由騎士からエネルギーを分けてもらう事で人を襲い命を奪う事はなくなりました。
ですが、自由騎士にいつまでも負担をかけまいと彼らは行動します。そしてその行動によって命を落としてしまうのです。
今回はそんな彼らを危機から救い出すのが目的となります。
●シチュエーション
とある洞窟の奥深く。真っ暗闇の洞窟のフィアーイーターにおびき寄せられたハクメイとミコト。2人は朦朧とした意識の中、今まさに捕食されようとしています。洞窟内はかなり広く行動が阻害される事はありません。
混乱状態のハクメイは蔦に絡まれ溶解液に落とされる寸前。ミコトはすでに溶解液の中です。
ミコトを無事助け出すには10ターン以内に助け出す必要があります。
●敵&登場人物
・幻想種フィアーイーター
アナザーフィアーなど一部の幻想種を捕食する体長10mを超える大型の植物型幻想種。体内に大量の消化液を内包している。自由に動かせる長い蔦と毒針が特徴。暗闇を好むため、大量の光に過剰反応する事がある。
蔦乱舞 攻近範 蔦を振り回して攻撃してきます。【スクラッチ1】
毒の棘 攻遠範 毒を帯びた棘を飛ばしダメージを与えます。【ポイズン1】
魅惑の波動 一部幻想種にのみ有効なエネルギー波。【コンフュ3】
・ハクメイ
純白の羽根を持つ人型の幻想種。二十歳ほどの見た目の好青年。フィアーイーターの魅惑の波動により混乱状態にあります。
・ミコト
漆黒の羽根を持つ人型の幻想種。十四歳程に見える美少女。ツンツン。すでにフィアーイーターの体内に取り込まれ、気絶状態で溶解液の中に居ます。救出に手間取るとその後の戦闘には参加しません。(服が解けてしまう的な意味で)
・ユキ
ハクメイとミコト共に暮らす心優しい女性。
2人の無事の帰りを待ちわびています。
ご参加お待ちしております。
以前の麺の依頼で出てきた幻想種アナザーフィアー。彼らは自由騎士からエネルギーを分けてもらう事で人を襲い命を奪う事はなくなりました。
ですが、自由騎士にいつまでも負担をかけまいと彼らは行動します。そしてその行動によって命を落としてしまうのです。
今回はそんな彼らを危機から救い出すのが目的となります。
●シチュエーション
とある洞窟の奥深く。真っ暗闇の洞窟のフィアーイーターにおびき寄せられたハクメイとミコト。2人は朦朧とした意識の中、今まさに捕食されようとしています。洞窟内はかなり広く行動が阻害される事はありません。
混乱状態のハクメイは蔦に絡まれ溶解液に落とされる寸前。ミコトはすでに溶解液の中です。
ミコトを無事助け出すには10ターン以内に助け出す必要があります。
●敵&登場人物
・幻想種フィアーイーター
アナザーフィアーなど一部の幻想種を捕食する体長10mを超える大型の植物型幻想種。体内に大量の消化液を内包している。自由に動かせる長い蔦と毒針が特徴。暗闇を好むため、大量の光に過剰反応する事がある。
蔦乱舞 攻近範 蔦を振り回して攻撃してきます。【スクラッチ1】
毒の棘 攻遠範 毒を帯びた棘を飛ばしダメージを与えます。【ポイズン1】
魅惑の波動 一部幻想種にのみ有効なエネルギー波。【コンフュ3】
・ハクメイ
純白の羽根を持つ人型の幻想種。二十歳ほどの見た目の好青年。フィアーイーターの魅惑の波動により混乱状態にあります。
・ミコト
漆黒の羽根を持つ人型の幻想種。十四歳程に見える美少女。ツンツン。すでにフィアーイーターの体内に取り込まれ、気絶状態で溶解液の中に居ます。救出に手間取るとその後の戦闘には参加しません。(服が解けてしまう的な意味で)
・ユキ
ハクメイとミコト共に暮らす心優しい女性。
2人の無事の帰りを待ちわびています。
ご参加お待ちしております。
状態
完了
完了
報酬マテリア
6個
2個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
6日
参加人数
6/6
6/6
公開日
2019年05月02日
2019年05月02日
†メイン参加者 6人†
●
洞窟へ向かう道中。
(ハクメイさんも、ミコトさんも……折角めぐり合ったご縁。このまま、お二人の命を奪わせる訳にはいきません……!)
『聖き雨巫女』たまき 聖流(CL3000283)は静かな決意を見せる。
「ユキさんもきっとお二人の帰りを、心配して待っていると思います」
お2人を無事に帰す。その為にも全力で皆さんを支えなければ──。
「こうなる前に、こちらで場所を突き止めたかったですね……」
『慈葬のトリックスター』アリア・セレスティ(CL3000222)は憂いを帯びた表情を見せる。
私達が気にしていなくても、彼らが気を遣わないわけがないのだから──でも、これを解決すれば彼らも前に進めるはず。アリアが見据える先は、彼らとの新しい未来。
(血の気の多い?自由騎士から、ちょっと生命エネルギーを吸収する事ぐらい別に気にしなくてもいいのにね)
頼ってくれていいのに。『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)は逆にほんの少しの不満。だがそれも彼らを思うが故だ。
「わざわざ我慢して別のものを食べるってのも、あんまり俺ちゃんには分からないなあ」
そんなエルシーの表情を汲み取ったのか『黒闇』ゼクス・アゾール(CL3000469)。
「好きなものを好きなだけ食べたくない? んー? 人を襲いたくない主義なのかな? まぁ居るよねそうゆう博愛主義者っぽい人。まあ、お互いが納得ならそれで良いさあ」
ゼクスは他人が思っていてもなかなか口に出せない事をあえて言葉にする事がある。その言葉は普段の様子も相成って軽薄に感じるものも居ることだろう。故にゼクスへの評価は人によって大きく変わる。だがゼクスと同じ時を過ごした時間が長いものほど理解してる。飄々としたその言動の裏には冷静で合理的、それでいて仲間思いの熱い心を持っている事を。
「僕は2人とは初対面になるけれど……」
ハクメイとミコトに対して皆とは少しだけ違う感情を持つのは『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)。それは自身もまた幻想種を内包するマグノリア特有の感情なのかもしれない。
「この中で『マザリモノ』は僕しか居ない様だしね……」
何とかしてあげたい──自分にも流れる幻想種の血がどくんと高鳴った気がした。
皆にそれぞれの想いがある。その中でもハクメイとミトコの進もうとした道に何よりも共鳴した者が居た。それは『革命の』アダム・クランプトン(CL3000185)。
(ハクメイさんとミコトさんは未来に進もうとしていた。その未来は僕も目指すべきモノ。ヒトであれ、幻想種であれ、等しく誰もが幸福な『優しい世界』、そんな未来。君達を置いて未来には進めやしない)
「必ず助け出してみせる。自由騎士アダム・クランプトンがここに誓うよ」
誰にも聞こえぬほどの声。だがその言葉には強い気持ちが込められている。
ほどなく自由騎士たちは洞窟の前にたどり着く。
目指すべき敵はこの奥にいる──!!
●
「あ、そこ危ないよっ。足元注意してねーっ」
前を行くゼクスはいつもの軽い調子で皆に注意を促す。彼が持つスキル、ケイブマスターはあらゆる洞窟を知り尽くす。ゼクスはカンテラの光に照らされる地形などから起こりうる危険や奥の形状、生態系などを正確に割り出していく。
「急ぎましょう」
「ああ、一刻も早く彼らを救出しなければ」
皆が持つカンテラの光が洞窟の奥を照らす。この暗闇の奥にハクメイとミコトは、いる。自由騎士たちは周りに注意をしながらも足早に洞窟を進んでいった。
「ストーーーップ!!」
突然ゼクスが皆を制止する。ゼクスのリュンケウスの瞳はカンテラやマグノリアのライトで照らされたさらに先を見通す。
「どうやらやっこさん、この先にいるみたいだねぇ」
ゼクスの言葉に自由騎士たちに緊張が走る。それぞれがそれぞれの役割を──そして必ず2人を助け出す。同じ気持ちを心に秘めた自由騎士たちは今、暗闇の先へと飛び込んでいく。
「ハクメイとミコトの事は任せたわっ」
フィアーイーターに一気に駆け寄り、目の前で拳を構えるのはエルシ-。自分がフィアーイーターの注意を引ければ引けるほど、2人の救出がスムーズに行えるというエルシーの考えは正しい。だがそれは自らを危険に晒す行為。下手をすれば救出を待つ前にエルシー自体に重大な危機が及ぶ可能性を秘めている。
しかしそれでもエルシーに迷いは無い。それは仲間を信じているから。そして……何よりも日々鍛え続ける自分自身を信じているのだ。
「貴方の相手はこっちよ! 食らいなさい!!」
フィアーイーターの蔦に攻撃を掻い潜りながらエルシーが繰り出したのは自らの速度を拳に乗せた一撃。
エルシーの拳に乗る様々なもの。その中で何よりも強い信念こそが、エルシーの拳を今日も熱く滾らせている。
「ふふっ俺ちゃんもいるってば」
エルシーの後ろにはゼクス。その手には腰につけていたはずのランタンが握られている。
ゼクスは試してみたい事があった。依頼内容の説明を受けた際に聞いたフィアーイーターの特性。それは光への過剰反応。この反応とはどのようなものか、だ。
攻撃対象が此方に移るのか、暴れるのか、捕らえたものが解放されるのか──そのどれにしてもメリットデメリットを知る事には意味がある。
そしてゼクスは1人矢表に立つエルシーの横を悠々と歩いてフィアーイーターへ近づき、カンテラの光を間近でフィアーイーターに浴びせる。すると……ぼんやりとした明かり程度ではそこまでの反応は無かったが、間近まで近づける事である行動が確認できた。それは蔦が本体の一部を光から遮るように動いたのだ。
無論すべてではなく、一部。そのため不用意に近づいたゼクスにも幾重にも蔦の攻撃が浴びせられる事になった。
「うおっと、痛てて……」
ゼクスはその行動を確認するとすぐに後方へと下がる。
(なかなか面白い特性を見つけちゃったみたいだねぇ。あとは……)
少し考えたあと、ゼクスはフィアーイーター本体の胴体部分。恐らくは溶解液で満たされているであろう場所に矢を放つ。だが放たれた矢は深く本体に刺さるも、溶解液までは至らなかったようだ。
(ん~~こっちはダメだったかー。それじゃあとは普通に攻撃だねー)
エルシーが前で蔦を捌き、打撃を捻じ込み、それにあわせるようにゼクスが後ろから矢を射る。読みどおりフィアーイーターの標的は完全にこの2人に向いていた。
「今のうちにっ」
「はいっ。2人がひきつけてくださっています」
アリアとたまきはミコトの救出に向かっていた。ミコトが捉えられている場所。それはフィアーイーターの本体上部にぽっかりと開く穴の中。
たまきが自らを発光させるとそれを嫌うようにフィアーイーターの本体が身を動かす。その隙に身のこなしの軽いアリアは華麗にフィアーイーターの上部に駆け上り、中の様子に目を凝らす。
「こ、これは──」
一方アリアを見送ったたまきは静かに目を閉じ祈る。光り輝くたまきの祈りは洞窟内を包み、ハクメイたちを含めた仲間全員に癒しの力を与えていく。
(これで少しは皆さんの回復を手助け出来るはずです……ミコトさんもう少しの辛抱ですっ)
アリアがミコトを無事救出する事を願うたまきだった。
時を同じくしてアダムとマグノリアはハクメイの救出に向かう。
「はぁぁぁぁぁぁあああああーーーーっ!!!!」
アダムが繰り出したのは獅子咆。その獅子の如き雄叫びはハクメイを捉える蔦の大部分を弾き飛ばす。だがハクメイもまた波動にあてられているのか、すさまじい形相で蔦を自ら解かんと暴れ続けている。
「さすがに全ては取り払えないかっ」
「アダム、2秒後に目を閉じてっ」
後方に控えるマグノリアが作り出したもの。それは光球。明暗を繰り返しながらフィアーイーターの元へと近づいていく光球。フィアーイーターがその光を振り払おうと瞬間、光球は目もあけられんばかりの眩い光を放つ。
「グォォォォオオオオオオオン」
突然の光のフラッシュに叫び声を上げるフィアーイーター。視覚を奪われたのか蔦の攻撃がばらばらになる。
「今だっ」
この隙を逃さずアダムがハクメイに絡みつく残る僅かな蔦を剥ぎ取り、マグノリアの放った強力な毒素を持つ炸薬がフィアーイーター本体の表皮を焼け爛れさせていく。
「ギュオオオォォォォオオオオオ!!」
雄叫びを上げ、苦しむフィアーイーター。すぐにアダムは暴れるハクメイにクリアカースを試みる。
「んん……これは一体……? 君は確か……」
意識を取り戻したハクメイ。フィアーイーターの波動による混乱は解けているようだ。
アダムが状況を簡単に説明する。その間、後方から蔦の攻撃を防ぐのはマグノリア。魔導を強化しながら、アイスコフィンとティンクトラの雫の状態異常効果を巧みに操り、蔦の攻撃を防ぐ。
「私達は……また君達に迷惑を──」
うなだれるハクメイの言葉を遮るアダム。
「これ以上迷惑をかけたくないなんていいっこ無しだよ」
「その通りだよ……」
マグノリアもまたハクメイに声を掛ける。
「君達の行動の動機を僕は否定しないよ……。でもね? この世界は持ちつ持たれつ。……だから、僕達が君達を頼る事だって、今後充分考えられる事かも知れないからね。自分の事を、存在を、責め過ぎてはいけないよ……?」
「でも……」
ハクメイはまだ納得がいかないようだ。
「だって僕達はすでに友人じゃないか」
少なくとも僕はそう思ってる──アダムが笑顔を見せる。
そして友人の君に僕が言う事は決まってる。そうアダムの言う言葉はただ一つ。
「共にアイツを殴り飛ばしてくれ!!」
一瞬驚いたような顔を見せるハクメイ。だが次の瞬間にハクメイはアダムへ笑顔を返す。
「ああ、まかせておけ」
「ふふふ、さぁてこれからが本番だね」
そう言うとマグノリアの準備したアイスコフィン・改は、強力な冷機を放ちながらフィアーイーターへ向けて放たれた。
場面は変わり、ミコト救出に向かったアリアが視たもの。それは気絶しぐったりしているミコトの姿。その身体は完全に溶解液の中に沈み、服も殆ど溶けかかっている。
(どんなに強力な溶解液も触れなければ何の問題も無いと思っていたのだけど……)
「アリアさん、ミコトさんはどうですかっ?」
下からたまきの声がする。
「大丈夫、無事みたい。だけど……少し覚悟が必要ね」
「……私にも何か手伝える事はありますか」
覚悟という言葉に心配の声を上げるたまき。
「大丈夫、何とかやって見せる。たまきさんはミコトさんにタオルの準備を」
「わ、わかりました」
(ふぅ……この状況、覚悟を決めて潜るしかないわ。大丈夫、ミコトさんを引っ張り揚げてすぐに浮上すれば大丈夫なはず……はず……)
アリアが大きく深呼吸をし、覚悟を決める。
「いくわよっ!! 陽炎う煌星!!」
アリアの技は攻撃と共に一定距離の自由移動を可能とするものだ。しかし溶解液の中ではその特性は十二分には活かしきれない様だ。勢いよく飛び込んだもののミコトの元までは届かない。
必死にミコトの元まで溶解液を掻き分け向かうアリア。その間にもアリアの衣服は溶解液によって侵食されていく。
(嘘でしょ……思いのほか早いっ!?)
みるみる失われていくアリアの柔肌を他人の目腺から逸らすための大事な布たち。
それでも何とかアリアはミコトを抱え、溶解液から浮上。空中二段飛びでフィアーイーターの上部まで飛び、たまきの元へ。たまきは急いで二人を持参したタオルで包み込む。
「おっ! あっちは救出成功したみた──」
「よかった! 無事だったよう──」
声を変え卿としたアダムがすぐに目を背ける。視線の先にはほぼ肌色に見える溶解液塗れの女子が2人。
ここでエルシーの予感が当たる。アダムには刺激が強すぎる、と。
「こりゃ眼福……じゃなくてこれでもう遠慮はいらないよねー」
ゼクスが少し悪い顔で笑う。
「ああ、ここからは全力だ」
目を背けながらもアダムも同意し、ハクメイもまた構えを取る。その目の前には。
「はぁぁぁ-----!! まだまだっ!!」
フィアーイーターの気を引くために一歩もひかず戦い続けるエルシーの姿。たまきの回復補助は行われていたが、さすがのエルシーでも蔦の連続攻撃は避けきれず、かなりダメージが蓄積している。
2人とも救出したのね──それを確認したエルシーからふっと力が抜ける。
そんなエルシーに肩を貸すアダム。
「まだ動けますか。最後の大仕事は皆で」
もちろん大丈夫と、エルシーがちらりと向けた視線の先には溶解液によってあられもない姿になったアリアとミコトの姿。
「……悪趣味な奴ね。殲滅すべし!」
エルシーの拳に力が戻る。
たまきもまた状態異常にかかりやすいハクメイとミコトにいつでも対応できるようアダムと連携できるように声をかけあう。
「じゃぁ俺ちゃんの作戦聞いて! やっぱりあいつ光に弱いみたいだよー。だからね、こうするのはどう?」
ゼクスが作戦を皆に話すと皆はなるほどと頷く。そしてタオル一枚のアリアはハクメイに話しかける。
「ハクメイさん、私の力を……」
人のエネルギーを吸う事でアナザーフィアーは生命を維持し、またその能力をも最大限引き出せる。アリアは以前見つけた実験の記録の記述を思い出していたのだ。
「ハクメイ!! 浮気禁止!!」
ぷりぷりと怒っているのはミコト。年頃の娘とハクメイが近寄るのがお気に召さないらしい。
「忌むべき力も使い方次第、ここでスペッサルティンを見つけるチャンスを失ってはいけません。……と言うか、私にこの状態で戦えと?」
タオル一枚のアリアがミコトにそう言うとさすがにミコトは大人しくなった。
「……あ……んんっ……ぁ……」
ハクメイにエネルギーを吸われている際の少し色っぽいアリアの声に顔を真っ赤にしていたアダムとたまきはさておいて、フィアーイーターに止めをさす準備は整った。
「さぁ、最後の仕上げよ」
たまきの癒しで回復したエルシーが拳を胸の前で合わせる。アダムとハクメイも前へ出る。
そしてたまき、マグノリア、ゼクスは一斉にフィアーイーターに各々が持つ光を浴びせる。
「グォォォオオオオンンン!!」
その強い光に視界を奪われ、攻撃が散漫になるフィアーイーター。
「いくぞっ!!」
アダムの強い盾の衝撃がフィアーイーターを大きくのけぞらせる。
「よくも私を操ってくれましたね」
静かな怒りを見せたハクメイがその白い羽根を羽ばたかせると、羽根はまるで矢のごとくフィアーイーターに襲い掛かる。
「いくわよ!! 緋色の衝撃ぉぉぉぉーーーーー!!!」
エルシーの思いを乗せ、唸る拳がフィアーイーターの中心を的確に打ち抜いた。
「ギュォォォオオオオオオオンン!!!」
断末魔と共にフィアーイーターは崩れ落ちる。後に残ったのは枯れ果てた奇妙な植物のなれのはてだけだった。
「やったわね」
「ああ、これでもう大丈夫」
「ふふ。痛いところは無い? じゃぁ回復するね」
「お2人とも良くぞご無事で……」
皆が2人に声を掛ける。
ハクメイとミコト。彼らの命を脅かすものの存在は自由騎士の活躍によって屠られた。
頭を下げるハクメイと、腕を組みふくれっ面のミコト。
「別に助けてくれなんていってないんだから。私たちだけでもやっつけられたんだからね!!」
「そうですね、ミコトさんもお強いですものね」
そう言ってたまきがミコトの頭を撫でる。
「もうっ!!子供扱いしてっ!!」
撫でられた手を振り払おうとしたミコトの手が傍にいたアリアのタオルに引っかかる。
ぱさり。地面に落ちるタオル。
「あ……いやぁぁあああーーーーっ!!!」
「あ、ご、ごめんなさ──」
体中を真っ赤にして思わずしゃがみこんだアリアの肘が今度はミコトのタオルを勢いよく引っ張る。
すぽぽーん。ミコトのタオルもまた勢いよく地面に落ちる。一瞬硬直するその場。
「いやぁぁぁぁぁあああーーー!!」
哀れ2人の美少女は二度までもそのあられもない姿を晒すことになったのであった。
●
「あったよ!!」
「どうやらこれに間違いないようだ」
ミコトとハクメイの声。
フィアーイーターを無事打ち倒した自由騎士は一旦ミコトとアリアの服を調達したあと、再度この洞窟へと訪れていた。
理由はただ一つ。アナザーフィアーが生きていくためのエネルギーの代用品となるスペッサルティンを探すため。
フィアーイーター討伐後の洞窟は拍子抜けするほど何事も無く探索は進み、無事スペッサルティンを見つけ出したのだが。
「思ったよりも量が……なさそうだ。これではすべてを賄えるとは到底……」
うなだれるハクメイ。また見つければいいさ。幻想種の血を受け継いでいる僕がいつでも手伝うから……マグノリアがそう伝えようとしたとき、アリアのマキナギアに通信が入った。
「ギ……ザ……聞こえ……ますか。以前、君に……ガガ……進言してもらっていた……アナザーフィアーの──」
その通信はハクメイとミコト。そして誰よりアナザーフィアーの今後を案じていたアリアにとって光明となったのだった。
「あ。そういえば……クロスストーンってのも知ってたりしない?」
ゼクスが急に思い出したかのようにハクメイに尋ねる。
「クロス……ストーンですか。確か──」
帰り道。アダムは1人思慮にふけっていた。
幻想種の彼等だって前に進めたんだ。いつかはヒトだって前に進める。今はまだ争ってばかりだがいつか、きっと。ありがとうハクメイさん、ミコトさん。僕は君達から未来に進む勇気を貰ったよ。
僕は……いやきっと僕達は君達が大好きだ。
アダムの見据える視線の先にはきっと、皆が望む優しい世界が待っている。
洞窟へ向かう道中。
(ハクメイさんも、ミコトさんも……折角めぐり合ったご縁。このまま、お二人の命を奪わせる訳にはいきません……!)
『聖き雨巫女』たまき 聖流(CL3000283)は静かな決意を見せる。
「ユキさんもきっとお二人の帰りを、心配して待っていると思います」
お2人を無事に帰す。その為にも全力で皆さんを支えなければ──。
「こうなる前に、こちらで場所を突き止めたかったですね……」
『慈葬のトリックスター』アリア・セレスティ(CL3000222)は憂いを帯びた表情を見せる。
私達が気にしていなくても、彼らが気を遣わないわけがないのだから──でも、これを解決すれば彼らも前に進めるはず。アリアが見据える先は、彼らとの新しい未来。
(血の気の多い?自由騎士から、ちょっと生命エネルギーを吸収する事ぐらい別に気にしなくてもいいのにね)
頼ってくれていいのに。『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)は逆にほんの少しの不満。だがそれも彼らを思うが故だ。
「わざわざ我慢して別のものを食べるってのも、あんまり俺ちゃんには分からないなあ」
そんなエルシーの表情を汲み取ったのか『黒闇』ゼクス・アゾール(CL3000469)。
「好きなものを好きなだけ食べたくない? んー? 人を襲いたくない主義なのかな? まぁ居るよねそうゆう博愛主義者っぽい人。まあ、お互いが納得ならそれで良いさあ」
ゼクスは他人が思っていてもなかなか口に出せない事をあえて言葉にする事がある。その言葉は普段の様子も相成って軽薄に感じるものも居ることだろう。故にゼクスへの評価は人によって大きく変わる。だがゼクスと同じ時を過ごした時間が長いものほど理解してる。飄々としたその言動の裏には冷静で合理的、それでいて仲間思いの熱い心を持っている事を。
「僕は2人とは初対面になるけれど……」
ハクメイとミコトに対して皆とは少しだけ違う感情を持つのは『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)。それは自身もまた幻想種を内包するマグノリア特有の感情なのかもしれない。
「この中で『マザリモノ』は僕しか居ない様だしね……」
何とかしてあげたい──自分にも流れる幻想種の血がどくんと高鳴った気がした。
皆にそれぞれの想いがある。その中でもハクメイとミトコの進もうとした道に何よりも共鳴した者が居た。それは『革命の』アダム・クランプトン(CL3000185)。
(ハクメイさんとミコトさんは未来に進もうとしていた。その未来は僕も目指すべきモノ。ヒトであれ、幻想種であれ、等しく誰もが幸福な『優しい世界』、そんな未来。君達を置いて未来には進めやしない)
「必ず助け出してみせる。自由騎士アダム・クランプトンがここに誓うよ」
誰にも聞こえぬほどの声。だがその言葉には強い気持ちが込められている。
ほどなく自由騎士たちは洞窟の前にたどり着く。
目指すべき敵はこの奥にいる──!!
●
「あ、そこ危ないよっ。足元注意してねーっ」
前を行くゼクスはいつもの軽い調子で皆に注意を促す。彼が持つスキル、ケイブマスターはあらゆる洞窟を知り尽くす。ゼクスはカンテラの光に照らされる地形などから起こりうる危険や奥の形状、生態系などを正確に割り出していく。
「急ぎましょう」
「ああ、一刻も早く彼らを救出しなければ」
皆が持つカンテラの光が洞窟の奥を照らす。この暗闇の奥にハクメイとミコトは、いる。自由騎士たちは周りに注意をしながらも足早に洞窟を進んでいった。
「ストーーーップ!!」
突然ゼクスが皆を制止する。ゼクスのリュンケウスの瞳はカンテラやマグノリアのライトで照らされたさらに先を見通す。
「どうやらやっこさん、この先にいるみたいだねぇ」
ゼクスの言葉に自由騎士たちに緊張が走る。それぞれがそれぞれの役割を──そして必ず2人を助け出す。同じ気持ちを心に秘めた自由騎士たちは今、暗闇の先へと飛び込んでいく。
「ハクメイとミコトの事は任せたわっ」
フィアーイーターに一気に駆け寄り、目の前で拳を構えるのはエルシ-。自分がフィアーイーターの注意を引ければ引けるほど、2人の救出がスムーズに行えるというエルシーの考えは正しい。だがそれは自らを危険に晒す行為。下手をすれば救出を待つ前にエルシー自体に重大な危機が及ぶ可能性を秘めている。
しかしそれでもエルシーに迷いは無い。それは仲間を信じているから。そして……何よりも日々鍛え続ける自分自身を信じているのだ。
「貴方の相手はこっちよ! 食らいなさい!!」
フィアーイーターの蔦に攻撃を掻い潜りながらエルシーが繰り出したのは自らの速度を拳に乗せた一撃。
エルシーの拳に乗る様々なもの。その中で何よりも強い信念こそが、エルシーの拳を今日も熱く滾らせている。
「ふふっ俺ちゃんもいるってば」
エルシーの後ろにはゼクス。その手には腰につけていたはずのランタンが握られている。
ゼクスは試してみたい事があった。依頼内容の説明を受けた際に聞いたフィアーイーターの特性。それは光への過剰反応。この反応とはどのようなものか、だ。
攻撃対象が此方に移るのか、暴れるのか、捕らえたものが解放されるのか──そのどれにしてもメリットデメリットを知る事には意味がある。
そしてゼクスは1人矢表に立つエルシーの横を悠々と歩いてフィアーイーターへ近づき、カンテラの光を間近でフィアーイーターに浴びせる。すると……ぼんやりとした明かり程度ではそこまでの反応は無かったが、間近まで近づける事である行動が確認できた。それは蔦が本体の一部を光から遮るように動いたのだ。
無論すべてではなく、一部。そのため不用意に近づいたゼクスにも幾重にも蔦の攻撃が浴びせられる事になった。
「うおっと、痛てて……」
ゼクスはその行動を確認するとすぐに後方へと下がる。
(なかなか面白い特性を見つけちゃったみたいだねぇ。あとは……)
少し考えたあと、ゼクスはフィアーイーター本体の胴体部分。恐らくは溶解液で満たされているであろう場所に矢を放つ。だが放たれた矢は深く本体に刺さるも、溶解液までは至らなかったようだ。
(ん~~こっちはダメだったかー。それじゃあとは普通に攻撃だねー)
エルシーが前で蔦を捌き、打撃を捻じ込み、それにあわせるようにゼクスが後ろから矢を射る。読みどおりフィアーイーターの標的は完全にこの2人に向いていた。
「今のうちにっ」
「はいっ。2人がひきつけてくださっています」
アリアとたまきはミコトの救出に向かっていた。ミコトが捉えられている場所。それはフィアーイーターの本体上部にぽっかりと開く穴の中。
たまきが自らを発光させるとそれを嫌うようにフィアーイーターの本体が身を動かす。その隙に身のこなしの軽いアリアは華麗にフィアーイーターの上部に駆け上り、中の様子に目を凝らす。
「こ、これは──」
一方アリアを見送ったたまきは静かに目を閉じ祈る。光り輝くたまきの祈りは洞窟内を包み、ハクメイたちを含めた仲間全員に癒しの力を与えていく。
(これで少しは皆さんの回復を手助け出来るはずです……ミコトさんもう少しの辛抱ですっ)
アリアがミコトを無事救出する事を願うたまきだった。
時を同じくしてアダムとマグノリアはハクメイの救出に向かう。
「はぁぁぁぁぁぁあああああーーーーっ!!!!」
アダムが繰り出したのは獅子咆。その獅子の如き雄叫びはハクメイを捉える蔦の大部分を弾き飛ばす。だがハクメイもまた波動にあてられているのか、すさまじい形相で蔦を自ら解かんと暴れ続けている。
「さすがに全ては取り払えないかっ」
「アダム、2秒後に目を閉じてっ」
後方に控えるマグノリアが作り出したもの。それは光球。明暗を繰り返しながらフィアーイーターの元へと近づいていく光球。フィアーイーターがその光を振り払おうと瞬間、光球は目もあけられんばかりの眩い光を放つ。
「グォォォォオオオオオオオン」
突然の光のフラッシュに叫び声を上げるフィアーイーター。視覚を奪われたのか蔦の攻撃がばらばらになる。
「今だっ」
この隙を逃さずアダムがハクメイに絡みつく残る僅かな蔦を剥ぎ取り、マグノリアの放った強力な毒素を持つ炸薬がフィアーイーター本体の表皮を焼け爛れさせていく。
「ギュオオオォォォォオオオオオ!!」
雄叫びを上げ、苦しむフィアーイーター。すぐにアダムは暴れるハクメイにクリアカースを試みる。
「んん……これは一体……? 君は確か……」
意識を取り戻したハクメイ。フィアーイーターの波動による混乱は解けているようだ。
アダムが状況を簡単に説明する。その間、後方から蔦の攻撃を防ぐのはマグノリア。魔導を強化しながら、アイスコフィンとティンクトラの雫の状態異常効果を巧みに操り、蔦の攻撃を防ぐ。
「私達は……また君達に迷惑を──」
うなだれるハクメイの言葉を遮るアダム。
「これ以上迷惑をかけたくないなんていいっこ無しだよ」
「その通りだよ……」
マグノリアもまたハクメイに声を掛ける。
「君達の行動の動機を僕は否定しないよ……。でもね? この世界は持ちつ持たれつ。……だから、僕達が君達を頼る事だって、今後充分考えられる事かも知れないからね。自分の事を、存在を、責め過ぎてはいけないよ……?」
「でも……」
ハクメイはまだ納得がいかないようだ。
「だって僕達はすでに友人じゃないか」
少なくとも僕はそう思ってる──アダムが笑顔を見せる。
そして友人の君に僕が言う事は決まってる。そうアダムの言う言葉はただ一つ。
「共にアイツを殴り飛ばしてくれ!!」
一瞬驚いたような顔を見せるハクメイ。だが次の瞬間にハクメイはアダムへ笑顔を返す。
「ああ、まかせておけ」
「ふふふ、さぁてこれからが本番だね」
そう言うとマグノリアの準備したアイスコフィン・改は、強力な冷機を放ちながらフィアーイーターへ向けて放たれた。
場面は変わり、ミコト救出に向かったアリアが視たもの。それは気絶しぐったりしているミコトの姿。その身体は完全に溶解液の中に沈み、服も殆ど溶けかかっている。
(どんなに強力な溶解液も触れなければ何の問題も無いと思っていたのだけど……)
「アリアさん、ミコトさんはどうですかっ?」
下からたまきの声がする。
「大丈夫、無事みたい。だけど……少し覚悟が必要ね」
「……私にも何か手伝える事はありますか」
覚悟という言葉に心配の声を上げるたまき。
「大丈夫、何とかやって見せる。たまきさんはミコトさんにタオルの準備を」
「わ、わかりました」
(ふぅ……この状況、覚悟を決めて潜るしかないわ。大丈夫、ミコトさんを引っ張り揚げてすぐに浮上すれば大丈夫なはず……はず……)
アリアが大きく深呼吸をし、覚悟を決める。
「いくわよっ!! 陽炎う煌星!!」
アリアの技は攻撃と共に一定距離の自由移動を可能とするものだ。しかし溶解液の中ではその特性は十二分には活かしきれない様だ。勢いよく飛び込んだもののミコトの元までは届かない。
必死にミコトの元まで溶解液を掻き分け向かうアリア。その間にもアリアの衣服は溶解液によって侵食されていく。
(嘘でしょ……思いのほか早いっ!?)
みるみる失われていくアリアの柔肌を他人の目腺から逸らすための大事な布たち。
それでも何とかアリアはミコトを抱え、溶解液から浮上。空中二段飛びでフィアーイーターの上部まで飛び、たまきの元へ。たまきは急いで二人を持参したタオルで包み込む。
「おっ! あっちは救出成功したみた──」
「よかった! 無事だったよう──」
声を変え卿としたアダムがすぐに目を背ける。視線の先にはほぼ肌色に見える溶解液塗れの女子が2人。
ここでエルシーの予感が当たる。アダムには刺激が強すぎる、と。
「こりゃ眼福……じゃなくてこれでもう遠慮はいらないよねー」
ゼクスが少し悪い顔で笑う。
「ああ、ここからは全力だ」
目を背けながらもアダムも同意し、ハクメイもまた構えを取る。その目の前には。
「はぁぁぁ-----!! まだまだっ!!」
フィアーイーターの気を引くために一歩もひかず戦い続けるエルシーの姿。たまきの回復補助は行われていたが、さすがのエルシーでも蔦の連続攻撃は避けきれず、かなりダメージが蓄積している。
2人とも救出したのね──それを確認したエルシーからふっと力が抜ける。
そんなエルシーに肩を貸すアダム。
「まだ動けますか。最後の大仕事は皆で」
もちろん大丈夫と、エルシーがちらりと向けた視線の先には溶解液によってあられもない姿になったアリアとミコトの姿。
「……悪趣味な奴ね。殲滅すべし!」
エルシーの拳に力が戻る。
たまきもまた状態異常にかかりやすいハクメイとミコトにいつでも対応できるようアダムと連携できるように声をかけあう。
「じゃぁ俺ちゃんの作戦聞いて! やっぱりあいつ光に弱いみたいだよー。だからね、こうするのはどう?」
ゼクスが作戦を皆に話すと皆はなるほどと頷く。そしてタオル一枚のアリアはハクメイに話しかける。
「ハクメイさん、私の力を……」
人のエネルギーを吸う事でアナザーフィアーは生命を維持し、またその能力をも最大限引き出せる。アリアは以前見つけた実験の記録の記述を思い出していたのだ。
「ハクメイ!! 浮気禁止!!」
ぷりぷりと怒っているのはミコト。年頃の娘とハクメイが近寄るのがお気に召さないらしい。
「忌むべき力も使い方次第、ここでスペッサルティンを見つけるチャンスを失ってはいけません。……と言うか、私にこの状態で戦えと?」
タオル一枚のアリアがミコトにそう言うとさすがにミコトは大人しくなった。
「……あ……んんっ……ぁ……」
ハクメイにエネルギーを吸われている際の少し色っぽいアリアの声に顔を真っ赤にしていたアダムとたまきはさておいて、フィアーイーターに止めをさす準備は整った。
「さぁ、最後の仕上げよ」
たまきの癒しで回復したエルシーが拳を胸の前で合わせる。アダムとハクメイも前へ出る。
そしてたまき、マグノリア、ゼクスは一斉にフィアーイーターに各々が持つ光を浴びせる。
「グォォォオオオオンンン!!」
その強い光に視界を奪われ、攻撃が散漫になるフィアーイーター。
「いくぞっ!!」
アダムの強い盾の衝撃がフィアーイーターを大きくのけぞらせる。
「よくも私を操ってくれましたね」
静かな怒りを見せたハクメイがその白い羽根を羽ばたかせると、羽根はまるで矢のごとくフィアーイーターに襲い掛かる。
「いくわよ!! 緋色の衝撃ぉぉぉぉーーーーー!!!」
エルシーの思いを乗せ、唸る拳がフィアーイーターの中心を的確に打ち抜いた。
「ギュォォォオオオオオオオンン!!!」
断末魔と共にフィアーイーターは崩れ落ちる。後に残ったのは枯れ果てた奇妙な植物のなれのはてだけだった。
「やったわね」
「ああ、これでもう大丈夫」
「ふふ。痛いところは無い? じゃぁ回復するね」
「お2人とも良くぞご無事で……」
皆が2人に声を掛ける。
ハクメイとミコト。彼らの命を脅かすものの存在は自由騎士の活躍によって屠られた。
頭を下げるハクメイと、腕を組みふくれっ面のミコト。
「別に助けてくれなんていってないんだから。私たちだけでもやっつけられたんだからね!!」
「そうですね、ミコトさんもお強いですものね」
そう言ってたまきがミコトの頭を撫でる。
「もうっ!!子供扱いしてっ!!」
撫でられた手を振り払おうとしたミコトの手が傍にいたアリアのタオルに引っかかる。
ぱさり。地面に落ちるタオル。
「あ……いやぁぁあああーーーーっ!!!」
「あ、ご、ごめんなさ──」
体中を真っ赤にして思わずしゃがみこんだアリアの肘が今度はミコトのタオルを勢いよく引っ張る。
すぽぽーん。ミコトのタオルもまた勢いよく地面に落ちる。一瞬硬直するその場。
「いやぁぁぁぁぁあああーーー!!」
哀れ2人の美少女は二度までもそのあられもない姿を晒すことになったのであった。
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「あったよ!!」
「どうやらこれに間違いないようだ」
ミコトとハクメイの声。
フィアーイーターを無事打ち倒した自由騎士は一旦ミコトとアリアの服を調達したあと、再度この洞窟へと訪れていた。
理由はただ一つ。アナザーフィアーが生きていくためのエネルギーの代用品となるスペッサルティンを探すため。
フィアーイーター討伐後の洞窟は拍子抜けするほど何事も無く探索は進み、無事スペッサルティンを見つけ出したのだが。
「思ったよりも量が……なさそうだ。これではすべてを賄えるとは到底……」
うなだれるハクメイ。また見つければいいさ。幻想種の血を受け継いでいる僕がいつでも手伝うから……マグノリアがそう伝えようとしたとき、アリアのマキナギアに通信が入った。
「ギ……ザ……聞こえ……ますか。以前、君に……ガガ……進言してもらっていた……アナザーフィアーの──」
その通信はハクメイとミコト。そして誰よりアナザーフィアーの今後を案じていたアリアにとって光明となったのだった。
「あ。そういえば……クロスストーンってのも知ってたりしない?」
ゼクスが急に思い出したかのようにハクメイに尋ねる。
「クロス……ストーンですか。確か──」
帰り道。アダムは1人思慮にふけっていた。
幻想種の彼等だって前に進めたんだ。いつかはヒトだって前に進める。今はまだ争ってばかりだがいつか、きっと。ありがとうハクメイさん、ミコトさん。僕は君達から未来に進む勇気を貰ったよ。
僕は……いやきっと僕達は君達が大好きだ。
アダムの見据える視線の先にはきっと、皆が望む優しい世界が待っている。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
称号付与
†あとがき†
以前にブレストにて進言された際に、自由騎士団の研究チームは密かにスペッサルティンから最大限効率よくエネルギー抽出を行う技術の確立を目指し、努力していました。
そしてその成果もまた、時を同じくして現れました。全てはこの日のために。
今後彼らは自由騎士からエネルギーを分けてもらわなくとも生活できるようになります。
彼らは自らの意思で前へと進んだのです。
MVPは彼らを友と呼んだ貴方へ。
ご参加誠にありがとうございました。
そしてその成果もまた、時を同じくして現れました。全てはこの日のために。
今後彼らは自由騎士からエネルギーを分けてもらわなくとも生活できるようになります。
彼らは自らの意思で前へと進んだのです。
MVPは彼らを友と呼んだ貴方へ。
ご参加誠にありがとうございました。
FL送付済