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ゆらゆら揺れる、涼しい夏のために

●
どこまでも青い空と海。
空にはぽっかり雲が浮かび、海では寄せては返す波がきらきらと跳ねている。
――――今年も夏がやってくる。
身も心も開放的な気持ちになるこの季節。気になるあの子の夏の装いを見るのはちょっぴり眼福だったりするのだけれど。
『彼ら』がいちばん開放して欲しいものは、――財布の紐なのである。
●だって商人だもの!
「俺の馴染みから話があるらしいんだが、聞いてやってくれるか?」
そう告げたウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)の背後から、ひょっこり現れる小柄な影。
「お初にお目に掛かります、自由騎士の皆様なら簡単すぎる仕事だと思うのですが……」
自由騎士たちの顔を伺いながら、かしかしと頭を掻けばネズミの耳がぴこりと揺れる。
彼の名前はファアル・カーエド。ウェルスの紹介によると、彼は通商連所属のムース商会を仕切る商人らしい。
「私のところで水上で祭りをしようという話が出ているんですけどね。困ったことがありまして」
ヒゲをひくひく動してから、ファアルが話した内容はこうだ。
この夏に、ゴンドラに乗って水上で祭りをしようという話が持ち上がった。
けれど、彼らが目を付けた水路にネズミのイブリースが住み着いているらしい。
1匹だけなら脅威にはならないだろうが、集まれば脅威になりかねない。
何か問題が起きれば商会の評判に傷が付きかねない。だから、万全の状態で祭りの準備をしたい、とのことだった。
「それにね、彼らは街を汚す。あれは本当によくありません。ええ、不潔でずる賢い、そんなネズミばかりじゃないんですよ」
かしかしかしと顔を掻く彼は、そんなネズミのマイナスイメージとは程遠く、ぱりっと身綺麗な格好をしている。
常日頃からそうして気を遣っているのに、ネズミによって問題が起こるのだとしたら迷惑な話である。
「もちろん俺も協力するけどよ、皆にも力を貸してもらえると助かるぜ」
そう言ってウェルスが笑う横で、ファアルがぺこりと頭を下げた。
どこまでも青い空と海。
空にはぽっかり雲が浮かび、海では寄せては返す波がきらきらと跳ねている。
――――今年も夏がやってくる。
身も心も開放的な気持ちになるこの季節。気になるあの子の夏の装いを見るのはちょっぴり眼福だったりするのだけれど。
『彼ら』がいちばん開放して欲しいものは、――財布の紐なのである。
●だって商人だもの!
「俺の馴染みから話があるらしいんだが、聞いてやってくれるか?」
そう告げたウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)の背後から、ひょっこり現れる小柄な影。
「お初にお目に掛かります、自由騎士の皆様なら簡単すぎる仕事だと思うのですが……」
自由騎士たちの顔を伺いながら、かしかしと頭を掻けばネズミの耳がぴこりと揺れる。
彼の名前はファアル・カーエド。ウェルスの紹介によると、彼は通商連所属のムース商会を仕切る商人らしい。
「私のところで水上で祭りをしようという話が出ているんですけどね。困ったことがありまして」
ヒゲをひくひく動してから、ファアルが話した内容はこうだ。
この夏に、ゴンドラに乗って水上で祭りをしようという話が持ち上がった。
けれど、彼らが目を付けた水路にネズミのイブリースが住み着いているらしい。
1匹だけなら脅威にはならないだろうが、集まれば脅威になりかねない。
何か問題が起きれば商会の評判に傷が付きかねない。だから、万全の状態で祭りの準備をしたい、とのことだった。
「それにね、彼らは街を汚す。あれは本当によくありません。ええ、不潔でずる賢い、そんなネズミばかりじゃないんですよ」
かしかしかしと顔を掻く彼は、そんなネズミのマイナスイメージとは程遠く、ぱりっと身綺麗な格好をしている。
常日頃からそうして気を遣っているのに、ネズミによって問題が起こるのだとしたら迷惑な話である。
「もちろん俺も協力するけどよ、皆にも力を貸してもらえると助かるぜ」
そう言ってウェルスが笑う横で、ファアルがぺこりと頭を下げた。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.ネズミのイブリース討伐
2.夏祭りに向けての観光ルートの確保
2.夏祭りに向けての観光ルートの確保
ご無沙汰しております、あまのいろはです。
リクエストありがとうございました。
※
このシナリオはウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)さんのリクエストによって作成されたシナリオです。
申請者以外のキャラクターも参加することができます。
なお、依頼はオープニングが公開された時点で確定しており、参加者が申請者1名のみでもリプレイは執筆されます。
●ネズミのイブリース(いっぱい)
ネズミのイブリースです。
過ごしやすい気候のおかげで増えすぎたようで、路地に、地下水路に、いっぱいいます。とってもいっぱいいます。
ちょこまか素早い動きで噛んだり引っかいたりしてきますが、自由騎士の敵ではありません。
ただいっぱいいるので、とっても骨が折れます。頑張って蹴散らしましょう!!
●場所
イ・ラプセルの水路です。
ゴンドラに乗りながら、地下水路から湧いてくるネズミのイブリースを蹴散らしてください。
ゴンドラの上で戦闘することになるので、ちょっと揺れるかもしれません。
●補足
ファアル・カーエドさんからの依頼で
水路にたくさんの露店を出し、ゴンドラで巡るというイ・ラプセルの夏らしいお祭りの話が持ち上がっています。
誰もが安全で楽しい祭りになるよう、イブリースの討伐と夏祭りに向けての観光ルートの下見をお願いします。
自由騎士の皆さんの働きによって、夏のゴンドラ祭りに繋がる!かもしれない。
それでは、皆様の素敵なプレイングをお待ちしております。
リクエストありがとうございました。
※
このシナリオはウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)さんのリクエストによって作成されたシナリオです。
申請者以外のキャラクターも参加することができます。
なお、依頼はオープニングが公開された時点で確定しており、参加者が申請者1名のみでもリプレイは執筆されます。
●ネズミのイブリース(いっぱい)
ネズミのイブリースです。
過ごしやすい気候のおかげで増えすぎたようで、路地に、地下水路に、いっぱいいます。とってもいっぱいいます。
ちょこまか素早い動きで噛んだり引っかいたりしてきますが、自由騎士の敵ではありません。
ただいっぱいいるので、とっても骨が折れます。頑張って蹴散らしましょう!!
●場所
イ・ラプセルの水路です。
ゴンドラに乗りながら、地下水路から湧いてくるネズミのイブリースを蹴散らしてください。
ゴンドラの上で戦闘することになるので、ちょっと揺れるかもしれません。
●補足
ファアル・カーエドさんからの依頼で
水路にたくさんの露店を出し、ゴンドラで巡るというイ・ラプセルの夏らしいお祭りの話が持ち上がっています。
誰もが安全で楽しい祭りになるよう、イブリースの討伐と夏祭りに向けての観光ルートの下見をお願いします。
自由騎士の皆さんの働きによって、夏のゴンドラ祭りに繋がる!かもしれない。
それでは、皆様の素敵なプレイングをお待ちしております。
状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
2個
2個
6個




参加費
100LP
100LP
相談日数
6日
6日
参加人数
5/6
5/6
公開日
2020年07月16日
2020年07月16日
†メイン参加者 5人†
●
水路に浮かぶゴンドラが、ちゃぷちゃぷ涼しそうに揺れている。
自由騎士とて休息は必要。今日はゴンドラに乗って優雅にイ・ラプセル巡り……――なんてことはなく。
夏祭りに向けて観光ルートの下見という、今日も今日とてばっちりお仕事なのだった。
このお仕事は『海蛇を討ちし者』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)の昔馴染み、通商連所属のムース商会を仕切るファアル・カーエドから持ち込まれたものだ。
一年を通して様々な祭りが行われているイ・ラプセルだが、より水の国らしい祭りが出来ないだろうかと、ムース商会の商人たちはゴンドラに目を付けたわけだ。
そんなこんなで話はすんなり進むと思われたが、問題がひとつ。―――地下水路にネズミのイブリースが住みついていた。
ただのネズミなら見過ごせたかもしれないが、イブリースとなるとそうもいかない。そこで、自由騎士たちの出番というわけだ。
決してネズミ駆除のための費用削減だなんてそんなことはない。ないよね?
「久しぶりのお仕事だよぉ!」
青空のした、『ひまわりの約束』ナナン・皐月(CL3000240)がちいさな身体をぐぐっと伸ばす。
頭のうえに乗っていたハムスターのおもちがずり落ちそうになり、ナナンの髪にひしっとしがみつく。そんなおもちを手で支えると、ナナンはぴょこんとゴンドラに乗り込んだ。
「張り切ってネズミちゃん達を退治してぇ、思いっきり楽しい夢のゴンドラツアーが出来るようにお手伝いするのだ!」
えいえいおー!だよぉ!と元気よく拳を突き上げれば、ゴンドラがまたゆらゆら揺れる。
そんな元気いっぱいなナナンの横に、天哉熾 ハル(CL3000678)がゆったりと乗り込む。彼女の色違いの瞳に、楽しそうないろが灯る。
「ネズミ退治ね。手加減しなくていい相手だから気が楽よ。自由騎士って基本不殺でしょう?」
疲れてた所だったから、ストレス発散に丁度いいわ。発散しがいがあるってものよね!
楽しそうな声色で。ハルはそう言うと、子供のようにころころ無邪気に笑う。
お祭りのための仕事ということもあって、どことなく楽しそうなふたり。けれど、そんなふたりとは打って変わって、リィ・エーベルト(CL3000628)と、『愛の盾』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)の気分はほんのりブルー。
「……あー、さすがに山ほどのネズミはねぇ。なんとかしないといけないかもね」
「ネズミは殲滅すべき敵なのです。父様の会社的にも私的にも」
「…………何かイヤな想い出でも……?」
リィの問い掛けに、表情が暗いままのデボラは思わず首をふるふると横に振る。
「そもそもネズミって街を汚すだけでなく病気も運んでくるっていうじゃないですか!」
「そうだね、病気とか色々……、しかもイブリースだし。面倒くさいとは言ってられないかあ」
「そう、それです! しかもイブリース化してるってどういう事ですか?!」
繁殖とかそこらのことは考えなくていいのかもしれないけれど、とデボラは言うと、増えることについて考えるのもおぞましいとでも言うように、自らの身体をきゅうっと抱きしめる。
「ネズミ、苦手なのかな?」
「……ええ、苦手です。でもちょっとだけですよ? ちょっとだけ!」
戦線に立つ彼女はいつだって勇ましいというのに。苦手なものを前にした彼女の年相応な乙女の姿を見て、ハルがくすりと微笑んで。
「ふふ、むしろネズミ嫌いにとっちゃ最適なんじゃない?」
「う……。倒すという目的なら、そうかもしれません……」
苦手な気持ちはそう簡単には消せないけれど。引き受けた以上、仕事はきっちりこなして貴族としての務めを果たさねば。
「あれ、ウェルス様は乗らないんですか?」
「ああ、俺はゴンドラ周りと、外へ逃げようとするヤツを狙い撃つ予定だ」
手を拳銃の形にしたウェルスが、ばんと撃つ真似をする。デボラはその言葉に頷くと、それじゃあ行きましょうかと笑った。
「よーし、それじゃあネズミちゃん退治に出発なのだ!」
「ええ、バンバン殺るわよー! あ、ルートの事はよく分からないから任せるわ」
「えーっと、……舵はよろしく?」
ナナンの、ハルの、リィの視線が、一斉にデボラに注がれる。
「わ、私ですか?」
一瞬躊躇ったものの、デボラは分かりましたと頷いた。
口にはしなかったけれど、オールモストである自分が舵を取れば揺れるゴンドラの重心を保つことも出来るだろう。これもきっと多分、貴族の務め!
それでもやっぱり、自分の重さで重心を保つなんて現実は年頃の乙女の心は複雑なのです。
デボラの手によってゆったりと動きだしたゴンドラを見送りながら、宜しくお願いしますとファアルが頭を下げる。
ウェルスがその背中をぽんと叩けば、ファアルはにぃと、商人らしくない笑みをウェルスにだけ見せた。
「さて。働きに期待しているよ、ウェルス?」
「任せとけって。久しぶりで積もる話もあるだろうけど、とりあえずイブリース退治が終わってからだな」
ウェルスもにまりと笑いながら、ファアルへと拳を付き出す。ファアルはぱちりと瞬いてから、同じように彼に拳を付き出した。ウェルスよりちいさな拳が、こつんとぶつけられる。
●
「モグラ叩きみたいで楽しいわね、コレ」
「ばーん!ってしてドッカーン!ってしてやっつけちゃうのだ!」
次から次へとネズミたちが湧いてくる。ネズミ退治を始めてまだそんなに時間がたってはいないというのに、退治した数が正確には分からないほどだ。
「どこから来るか分からないって所がモグラならぬ『ネズミ叩きハードモード』みたいで面白いわ」
ハルは楽しそうに、確実にネズミたちを屠っていく。
イブリース化していても、しょせんはネズミ。
自由騎士たちが手間取るような相手ではなかったが、ネズミたちはモグラ叩きのようにお行儀よく一匹ずつは出てこない。
そして、しょせんネズミと言えど、群れて一斉に出てくると、やっぱりちょっと気持ち悪いものだ。
「……うわ」
ゴンドラが橋の下に差し掛かったとき、リィがちいさく声をあげた。橋の裏に、ネズミがびっしりしがみついているのが見えたからだ。
「ど、どこですか!?」
きょろりと辺りを見回すデボラ。
見ないほうがとリィが止めるが、時すでに遅し。デボラの視界に映る、いっぱいのネズミ。ネズミ嫌いと言ったデボラの表情が、分かりやすく強張った。
しかも、それが橋にしがみついていた手を離し、ゴンドラの上に一斉に落ちてこようというのだから、冷静ではいられない。
「―――――ッ!?」
ネズミが頭上に降り注ぐのと、デボラが盾を掲げるのとでは、デボラの動きすこしだけ早かった。
でん。ちいさな衝撃がひとつ、盾を通して伝わってくると――――。
でんでんでんでんでんでん。ででででででで。次から次へと、雨あられのようにネズミが盾の上に落ちて弾かれていく。
(分かる。ネズミが、ネズミが落ちてくる衝撃がこの盾を通して伝わってくる――!!!)
ぞわぞわ、全身が粟立っている。けれど、それでも仲間を守るのが、デボラの役目。掲げた盾を下ろすことはしない。
ゴンドラのなかに落ちたネズミはハルとナナン、リィが退治し、水路に落ちたネズミはウェルスの弾丸が一匹残らず打ち抜いた。
「大丈夫か、デボラ嬢!」
橋の上から聞こえるこえに、デボラははい、とちいさく返事をする。
彼女がすっかり疲れるのも無理はない。自分が嫌いなものが頭上から大量に降ってくるなんて経験、誰だってしたくないだろう。
「……大丈夫? どこかネズミに引っ掛かれたりした?」
治そうか、とリィが声を掛けるが、残念ながらリィの力を以ってしても、心の傷までは癒せない。
それにしても、どうして橋の下にあんなにたくさんのネズミが集まっていたのだろう?
リィは考えて、ひとつの答えに辿りつく。――――もしかしたら、自分が偵察に向かわせたホムンクルスに追いやられて、あそこに逃げてきたのかもしれない、と。
大量のネズミを一掃できたのだから、とても効果的だったけれど。リィは、ちらりと疲れきった様子のデボラを見る。
(…………うん。イブリース化したネズミが考えて行動した可能性もまだある、かな?)
リィは、その疑惑を自分の胸にしまっておくことにした。知らないほうがいい真実も、この世の中にはたくさんあるのだ。
ちょろりと水路に顔を出したネズミがウェルスの弾丸が撃ち抜いた。その衝撃で飛び散った液体をかわしながら、ハルがふぅとため息を吐く。
「悪い、汚れたか?」
「大丈夫よ。ネズミ叩きは面白いけれど、たまにネズミの血で汚れる所が難点よね」
血液の研究をしているからか、血液は種族性別年齢問わずたくさん欲しいと思っているハルだったけれど。
「いくらアタシだって、ネズミの血を浴びるのはイヤだもの」
ネズミの血は浴びたとしても汚れるだけで、喉の渇きも癒えることはない。ストレスは発散できるけれど、ああそれだけじゃ満たされない。
「ケモノビトの血なら兎も角ね」
そう言ったハルが艶やかに微笑んでみせるものだから、ウェルスの手元がほんのすこしだけ狂った。
手元が狂った理由は、胸が弾んだからなのか、それともイヤな予感がしたからなのか。それはウェルスにしか分からない。
狙いが逸れた弾丸は、ネズミを貫くに至らなかった。けれど、驚いて真っ逆さまに落ちていくネズミをハルは見逃さない。
「ふふ、ノッてきたから任せて頂戴!」
ハルが手に握る倭刀・忠兵衛を振るえば、落ちてくるネズミをすらりと刻んで、ネズミは鳴くこともなくぽちゃりと水のなか。
一匹も逃さないわよ、と微笑むハルはやっぱり艶やかで。けれど、そのうつくしさが、ほんのすこしだけ恐ろしくもあるのだった。
「ハルちゃんすごいねえ! ナナンもいっぱいやっつけたけど、ハルちゃんには敵わないかも?」
ネズミを探しながらそう言うナナンも、負けず劣らずたくさんのネズミを燃やしたり動けなくしたり吹き飛ばしたりして退治していたのだけれど。
ゴンドラからきょろりと辺りを見回す愛らしいその姿からは、そんな風に戦う姿はとてもじゃないが想像できない。
「うーん……。ネズミちゃん出てこなくなっちゃったねえ」
逃げちゃったかな?と首を傾げるナナンに、リィはそうじゃなさそうだよと呟いて。
「ホムンクルスで探しているけど、あまり見つからないね。ほぼ退治できたんじゃないかな?」
「ほんとう? やったあ、これでお祭りをめいっぱい楽しめるのだ!」
リィの言葉にナナンの顔がぱっと明るくなる。その後ろでこっそりデボラもほぅと胸を撫で下ろしていたのは、また別のお話。
ちなみにネズミが苦手なデボラだが、彼女のネズミ退治には目を見張るものがあった。
なんせ、彼女の攻撃を受けたネズミは形すら残らない。ネズミ嫌いの想いを力に、これでもかとネズミを退治していたのは、もしかしたら彼女だったかもしれない。
「ウェルスちゃーん、ネズミ退治完了なのだ!」
「おう、そうみたいだな。協力してくれてありがとうな!」
そう言ってにかっと笑うウェルスに、ナナンはぶいっとピースをして応えたのだった。
●
ウェルスが退治したネズミを詰めた袋を片付けて戻ってくる。姿形すっかりなくなったネズミも多くいたからか、ネズミ詰めの袋の数は思ったよりも少なくて済んだ。
一仕事終えた自由騎士たちは、観光ルートの提案ですっかり盛り上がっていた。
「ええと、普段歩きで巡る観光ルートがあるなら、それをゴンドラで巡れるルートを考えるとか?」
「名所を見れるルートがあると嬉しいですね」
ナナンが持ってきた地図を広げてわいのわいの。あっちももこっちも楽しそう。やっぱり王城は見てほしい! そんな楽しそうな会話がいくつもいくつも飛び出す。
「王城や壮麗な建造物は地上からでも美しいのですが、一際低い水路から見上げる圧倒的な景観は息を飲むものになるのではないかと……」
「王城は許可が取れるか分からないが、見てほしいよなぁ」
楽しそうな会話のなかにウェルスもひょっこり混じれば、ナナンがぱっと顔を上げた。
「あのね! ナナンはねぇ! いーっぱい色んな人が楽しめるのがいいなぁ!って思うの!」
料金とルートを変えて。お金持ちのひとも、そうでない、例えばちいさな子供たちも、楽しめるように。
それに、特別感を出すことで、お金持ちのひとは何度もゴンドラに乗ってくれるかもしれない。
ちいさな商人からの提案に、ウェルスも、話を聞いていたファアルも、ほうと感心する。
「成程、それはいい提案ですねえナナン様」
ファアルの言葉に、ナナンが照れくさそうにえへへと笑う。
「と、なると何か他にも要素が欲しいところだな……」
ふむ、と顎に手をあて考え始めたウェルスに、ハルが声を掛けた。シャワーを浴びてすっかり身綺麗になって戻ってきたハルは、なんだか上機嫌だ。
「ルートの事は分からないけれど、何か追加するなら提案はあるわよ? アタシの居た国じゃ、灯篭を川へ流すの。空にも飛ばしたりね」
「それなら昼間もいいけど夜もいいよね。夜に灯篭が空を飛んだら綺麗だろうなあ」
水路には灯篭、空には星。やさしく灯るあかりは、きっと幻想的に違いない。
「のんびりゴンドラに揺られて星や街の灯りを眺めつつお酒とか……」
橋の上で演奏をしてもらったりなんかもして。観光とは少し違うかな、とリィは首を傾げるけれど、想像するだけでもなんだかとってもロマンチック。
「あとねぇ? 最後はおっきな花火を皆で見れるように出来ないかなぁ??」
お祭りといえば、やっぱり花火。
それに、料金とルートの違いがあっても、どこからも見れる花火なら不公平感もなくなるかも、とナナンが付け足した。
「……費用も掛かりそうですが、集客の増加も見込めそうですねえ」
かりかりと鼻を軽く掻いたファアルの頭のなかでは、今はぱちぱちと高速でそろばんが叩かれているのだろう。
「はい、今すぐには確約は出来ませんが、前向きに検討させて頂きます」
暫くしてファアルがはじき出した答えに、やったあ、と嬉しそうな声が上がる。
「あ~、身体も動かしたし、頭も使ったし、お腹空いちゃったわ。 何か買って帰ろうかしら?」
話が纏まったところで、ハルがぐぅっと背伸びをしながらそう呟く。それから思いついたように、辺りをぐるりと見回してから、それとも皆でこの後どこか食べに行く?続けた。
「アタシ、鳥串とエールがいいわ。 ふふ。仕事の後の一杯って、最高じゃない? お子様にはジュースがいいかしら? 奢るわよ~?」
「……いいのでしょうか? でも、はい。よろしければ私もご一緒させてください」
「そうこなくっちゃ!」
「有難いが、商人に気軽に奢るなんて言わないほうがいいぞ、ハル嬢」
気を付けるわ、と笑うハルに続いてひとり、またひとりと席を立って。仕事を終えた自由騎士たちは街に繰り出していく。
「ファアルも来るだろ? 一杯ぐらいは付き合えよ」
やれやれと言った風に付いていこうとするファアルの服の裾がくい、と引っ張られる。振り向けば、ナナンが彼を見上げていた。ぱっと笑顔を向けられていて。
「みーんなが楽しくなるといいねぇ!」
商人である自分にとっては、商売繁盛、それがなにより大切だけれど。自分たちのしたことで誰かが喜んでくれるなら。それはきっと、とても喜ばしいことだろう。
「…………ええ、本当に」
そう言って笑う彼の顔は商人としてでなく、ファアル・カーエドとしてのものだった。
自由騎士たちの働きによって、すっかりネズミは退治され、新しい祭りの準備も進んだ。
ナナンの言葉通りきっときっと素敵で楽しいお祭りが開かれることだろう。――――夏はもう、すぐそこに。
水路に浮かぶゴンドラが、ちゃぷちゃぷ涼しそうに揺れている。
自由騎士とて休息は必要。今日はゴンドラに乗って優雅にイ・ラプセル巡り……――なんてことはなく。
夏祭りに向けて観光ルートの下見という、今日も今日とてばっちりお仕事なのだった。
このお仕事は『海蛇を討ちし者』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)の昔馴染み、通商連所属のムース商会を仕切るファアル・カーエドから持ち込まれたものだ。
一年を通して様々な祭りが行われているイ・ラプセルだが、より水の国らしい祭りが出来ないだろうかと、ムース商会の商人たちはゴンドラに目を付けたわけだ。
そんなこんなで話はすんなり進むと思われたが、問題がひとつ。―――地下水路にネズミのイブリースが住みついていた。
ただのネズミなら見過ごせたかもしれないが、イブリースとなるとそうもいかない。そこで、自由騎士たちの出番というわけだ。
決してネズミ駆除のための費用削減だなんてそんなことはない。ないよね?
「久しぶりのお仕事だよぉ!」
青空のした、『ひまわりの約束』ナナン・皐月(CL3000240)がちいさな身体をぐぐっと伸ばす。
頭のうえに乗っていたハムスターのおもちがずり落ちそうになり、ナナンの髪にひしっとしがみつく。そんなおもちを手で支えると、ナナンはぴょこんとゴンドラに乗り込んだ。
「張り切ってネズミちゃん達を退治してぇ、思いっきり楽しい夢のゴンドラツアーが出来るようにお手伝いするのだ!」
えいえいおー!だよぉ!と元気よく拳を突き上げれば、ゴンドラがまたゆらゆら揺れる。
そんな元気いっぱいなナナンの横に、天哉熾 ハル(CL3000678)がゆったりと乗り込む。彼女の色違いの瞳に、楽しそうないろが灯る。
「ネズミ退治ね。手加減しなくていい相手だから気が楽よ。自由騎士って基本不殺でしょう?」
疲れてた所だったから、ストレス発散に丁度いいわ。発散しがいがあるってものよね!
楽しそうな声色で。ハルはそう言うと、子供のようにころころ無邪気に笑う。
お祭りのための仕事ということもあって、どことなく楽しそうなふたり。けれど、そんなふたりとは打って変わって、リィ・エーベルト(CL3000628)と、『愛の盾』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)の気分はほんのりブルー。
「……あー、さすがに山ほどのネズミはねぇ。なんとかしないといけないかもね」
「ネズミは殲滅すべき敵なのです。父様の会社的にも私的にも」
「…………何かイヤな想い出でも……?」
リィの問い掛けに、表情が暗いままのデボラは思わず首をふるふると横に振る。
「そもそもネズミって街を汚すだけでなく病気も運んでくるっていうじゃないですか!」
「そうだね、病気とか色々……、しかもイブリースだし。面倒くさいとは言ってられないかあ」
「そう、それです! しかもイブリース化してるってどういう事ですか?!」
繁殖とかそこらのことは考えなくていいのかもしれないけれど、とデボラは言うと、増えることについて考えるのもおぞましいとでも言うように、自らの身体をきゅうっと抱きしめる。
「ネズミ、苦手なのかな?」
「……ええ、苦手です。でもちょっとだけですよ? ちょっとだけ!」
戦線に立つ彼女はいつだって勇ましいというのに。苦手なものを前にした彼女の年相応な乙女の姿を見て、ハルがくすりと微笑んで。
「ふふ、むしろネズミ嫌いにとっちゃ最適なんじゃない?」
「う……。倒すという目的なら、そうかもしれません……」
苦手な気持ちはそう簡単には消せないけれど。引き受けた以上、仕事はきっちりこなして貴族としての務めを果たさねば。
「あれ、ウェルス様は乗らないんですか?」
「ああ、俺はゴンドラ周りと、外へ逃げようとするヤツを狙い撃つ予定だ」
手を拳銃の形にしたウェルスが、ばんと撃つ真似をする。デボラはその言葉に頷くと、それじゃあ行きましょうかと笑った。
「よーし、それじゃあネズミちゃん退治に出発なのだ!」
「ええ、バンバン殺るわよー! あ、ルートの事はよく分からないから任せるわ」
「えーっと、……舵はよろしく?」
ナナンの、ハルの、リィの視線が、一斉にデボラに注がれる。
「わ、私ですか?」
一瞬躊躇ったものの、デボラは分かりましたと頷いた。
口にはしなかったけれど、オールモストである自分が舵を取れば揺れるゴンドラの重心を保つことも出来るだろう。これもきっと多分、貴族の務め!
それでもやっぱり、自分の重さで重心を保つなんて現実は年頃の乙女の心は複雑なのです。
デボラの手によってゆったりと動きだしたゴンドラを見送りながら、宜しくお願いしますとファアルが頭を下げる。
ウェルスがその背中をぽんと叩けば、ファアルはにぃと、商人らしくない笑みをウェルスにだけ見せた。
「さて。働きに期待しているよ、ウェルス?」
「任せとけって。久しぶりで積もる話もあるだろうけど、とりあえずイブリース退治が終わってからだな」
ウェルスもにまりと笑いながら、ファアルへと拳を付き出す。ファアルはぱちりと瞬いてから、同じように彼に拳を付き出した。ウェルスよりちいさな拳が、こつんとぶつけられる。
●
「モグラ叩きみたいで楽しいわね、コレ」
「ばーん!ってしてドッカーン!ってしてやっつけちゃうのだ!」
次から次へとネズミたちが湧いてくる。ネズミ退治を始めてまだそんなに時間がたってはいないというのに、退治した数が正確には分からないほどだ。
「どこから来るか分からないって所がモグラならぬ『ネズミ叩きハードモード』みたいで面白いわ」
ハルは楽しそうに、確実にネズミたちを屠っていく。
イブリース化していても、しょせんはネズミ。
自由騎士たちが手間取るような相手ではなかったが、ネズミたちはモグラ叩きのようにお行儀よく一匹ずつは出てこない。
そして、しょせんネズミと言えど、群れて一斉に出てくると、やっぱりちょっと気持ち悪いものだ。
「……うわ」
ゴンドラが橋の下に差し掛かったとき、リィがちいさく声をあげた。橋の裏に、ネズミがびっしりしがみついているのが見えたからだ。
「ど、どこですか!?」
きょろりと辺りを見回すデボラ。
見ないほうがとリィが止めるが、時すでに遅し。デボラの視界に映る、いっぱいのネズミ。ネズミ嫌いと言ったデボラの表情が、分かりやすく強張った。
しかも、それが橋にしがみついていた手を離し、ゴンドラの上に一斉に落ちてこようというのだから、冷静ではいられない。
「―――――ッ!?」
ネズミが頭上に降り注ぐのと、デボラが盾を掲げるのとでは、デボラの動きすこしだけ早かった。
でん。ちいさな衝撃がひとつ、盾を通して伝わってくると――――。
でんでんでんでんでんでん。ででででででで。次から次へと、雨あられのようにネズミが盾の上に落ちて弾かれていく。
(分かる。ネズミが、ネズミが落ちてくる衝撃がこの盾を通して伝わってくる――!!!)
ぞわぞわ、全身が粟立っている。けれど、それでも仲間を守るのが、デボラの役目。掲げた盾を下ろすことはしない。
ゴンドラのなかに落ちたネズミはハルとナナン、リィが退治し、水路に落ちたネズミはウェルスの弾丸が一匹残らず打ち抜いた。
「大丈夫か、デボラ嬢!」
橋の上から聞こえるこえに、デボラははい、とちいさく返事をする。
彼女がすっかり疲れるのも無理はない。自分が嫌いなものが頭上から大量に降ってくるなんて経験、誰だってしたくないだろう。
「……大丈夫? どこかネズミに引っ掛かれたりした?」
治そうか、とリィが声を掛けるが、残念ながらリィの力を以ってしても、心の傷までは癒せない。
それにしても、どうして橋の下にあんなにたくさんのネズミが集まっていたのだろう?
リィは考えて、ひとつの答えに辿りつく。――――もしかしたら、自分が偵察に向かわせたホムンクルスに追いやられて、あそこに逃げてきたのかもしれない、と。
大量のネズミを一掃できたのだから、とても効果的だったけれど。リィは、ちらりと疲れきった様子のデボラを見る。
(…………うん。イブリース化したネズミが考えて行動した可能性もまだある、かな?)
リィは、その疑惑を自分の胸にしまっておくことにした。知らないほうがいい真実も、この世の中にはたくさんあるのだ。
ちょろりと水路に顔を出したネズミがウェルスの弾丸が撃ち抜いた。その衝撃で飛び散った液体をかわしながら、ハルがふぅとため息を吐く。
「悪い、汚れたか?」
「大丈夫よ。ネズミ叩きは面白いけれど、たまにネズミの血で汚れる所が難点よね」
血液の研究をしているからか、血液は種族性別年齢問わずたくさん欲しいと思っているハルだったけれど。
「いくらアタシだって、ネズミの血を浴びるのはイヤだもの」
ネズミの血は浴びたとしても汚れるだけで、喉の渇きも癒えることはない。ストレスは発散できるけれど、ああそれだけじゃ満たされない。
「ケモノビトの血なら兎も角ね」
そう言ったハルが艶やかに微笑んでみせるものだから、ウェルスの手元がほんのすこしだけ狂った。
手元が狂った理由は、胸が弾んだからなのか、それともイヤな予感がしたからなのか。それはウェルスにしか分からない。
狙いが逸れた弾丸は、ネズミを貫くに至らなかった。けれど、驚いて真っ逆さまに落ちていくネズミをハルは見逃さない。
「ふふ、ノッてきたから任せて頂戴!」
ハルが手に握る倭刀・忠兵衛を振るえば、落ちてくるネズミをすらりと刻んで、ネズミは鳴くこともなくぽちゃりと水のなか。
一匹も逃さないわよ、と微笑むハルはやっぱり艶やかで。けれど、そのうつくしさが、ほんのすこしだけ恐ろしくもあるのだった。
「ハルちゃんすごいねえ! ナナンもいっぱいやっつけたけど、ハルちゃんには敵わないかも?」
ネズミを探しながらそう言うナナンも、負けず劣らずたくさんのネズミを燃やしたり動けなくしたり吹き飛ばしたりして退治していたのだけれど。
ゴンドラからきょろりと辺りを見回す愛らしいその姿からは、そんな風に戦う姿はとてもじゃないが想像できない。
「うーん……。ネズミちゃん出てこなくなっちゃったねえ」
逃げちゃったかな?と首を傾げるナナンに、リィはそうじゃなさそうだよと呟いて。
「ホムンクルスで探しているけど、あまり見つからないね。ほぼ退治できたんじゃないかな?」
「ほんとう? やったあ、これでお祭りをめいっぱい楽しめるのだ!」
リィの言葉にナナンの顔がぱっと明るくなる。その後ろでこっそりデボラもほぅと胸を撫で下ろしていたのは、また別のお話。
ちなみにネズミが苦手なデボラだが、彼女のネズミ退治には目を見張るものがあった。
なんせ、彼女の攻撃を受けたネズミは形すら残らない。ネズミ嫌いの想いを力に、これでもかとネズミを退治していたのは、もしかしたら彼女だったかもしれない。
「ウェルスちゃーん、ネズミ退治完了なのだ!」
「おう、そうみたいだな。協力してくれてありがとうな!」
そう言ってにかっと笑うウェルスに、ナナンはぶいっとピースをして応えたのだった。
●
ウェルスが退治したネズミを詰めた袋を片付けて戻ってくる。姿形すっかりなくなったネズミも多くいたからか、ネズミ詰めの袋の数は思ったよりも少なくて済んだ。
一仕事終えた自由騎士たちは、観光ルートの提案ですっかり盛り上がっていた。
「ええと、普段歩きで巡る観光ルートがあるなら、それをゴンドラで巡れるルートを考えるとか?」
「名所を見れるルートがあると嬉しいですね」
ナナンが持ってきた地図を広げてわいのわいの。あっちももこっちも楽しそう。やっぱり王城は見てほしい! そんな楽しそうな会話がいくつもいくつも飛び出す。
「王城や壮麗な建造物は地上からでも美しいのですが、一際低い水路から見上げる圧倒的な景観は息を飲むものになるのではないかと……」
「王城は許可が取れるか分からないが、見てほしいよなぁ」
楽しそうな会話のなかにウェルスもひょっこり混じれば、ナナンがぱっと顔を上げた。
「あのね! ナナンはねぇ! いーっぱい色んな人が楽しめるのがいいなぁ!って思うの!」
料金とルートを変えて。お金持ちのひとも、そうでない、例えばちいさな子供たちも、楽しめるように。
それに、特別感を出すことで、お金持ちのひとは何度もゴンドラに乗ってくれるかもしれない。
ちいさな商人からの提案に、ウェルスも、話を聞いていたファアルも、ほうと感心する。
「成程、それはいい提案ですねえナナン様」
ファアルの言葉に、ナナンが照れくさそうにえへへと笑う。
「と、なると何か他にも要素が欲しいところだな……」
ふむ、と顎に手をあて考え始めたウェルスに、ハルが声を掛けた。シャワーを浴びてすっかり身綺麗になって戻ってきたハルは、なんだか上機嫌だ。
「ルートの事は分からないけれど、何か追加するなら提案はあるわよ? アタシの居た国じゃ、灯篭を川へ流すの。空にも飛ばしたりね」
「それなら昼間もいいけど夜もいいよね。夜に灯篭が空を飛んだら綺麗だろうなあ」
水路には灯篭、空には星。やさしく灯るあかりは、きっと幻想的に違いない。
「のんびりゴンドラに揺られて星や街の灯りを眺めつつお酒とか……」
橋の上で演奏をしてもらったりなんかもして。観光とは少し違うかな、とリィは首を傾げるけれど、想像するだけでもなんだかとってもロマンチック。
「あとねぇ? 最後はおっきな花火を皆で見れるように出来ないかなぁ??」
お祭りといえば、やっぱり花火。
それに、料金とルートの違いがあっても、どこからも見れる花火なら不公平感もなくなるかも、とナナンが付け足した。
「……費用も掛かりそうですが、集客の増加も見込めそうですねえ」
かりかりと鼻を軽く掻いたファアルの頭のなかでは、今はぱちぱちと高速でそろばんが叩かれているのだろう。
「はい、今すぐには確約は出来ませんが、前向きに検討させて頂きます」
暫くしてファアルがはじき出した答えに、やったあ、と嬉しそうな声が上がる。
「あ~、身体も動かしたし、頭も使ったし、お腹空いちゃったわ。 何か買って帰ろうかしら?」
話が纏まったところで、ハルがぐぅっと背伸びをしながらそう呟く。それから思いついたように、辺りをぐるりと見回してから、それとも皆でこの後どこか食べに行く?続けた。
「アタシ、鳥串とエールがいいわ。 ふふ。仕事の後の一杯って、最高じゃない? お子様にはジュースがいいかしら? 奢るわよ~?」
「……いいのでしょうか? でも、はい。よろしければ私もご一緒させてください」
「そうこなくっちゃ!」
「有難いが、商人に気軽に奢るなんて言わないほうがいいぞ、ハル嬢」
気を付けるわ、と笑うハルに続いてひとり、またひとりと席を立って。仕事を終えた自由騎士たちは街に繰り出していく。
「ファアルも来るだろ? 一杯ぐらいは付き合えよ」
やれやれと言った風に付いていこうとするファアルの服の裾がくい、と引っ張られる。振り向けば、ナナンが彼を見上げていた。ぱっと笑顔を向けられていて。
「みーんなが楽しくなるといいねぇ!」
商人である自分にとっては、商売繁盛、それがなにより大切だけれど。自分たちのしたことで誰かが喜んでくれるなら。それはきっと、とても喜ばしいことだろう。
「…………ええ、本当に」
そう言って笑う彼の顔は商人としてでなく、ファアル・カーエドとしてのものだった。
自由騎士たちの働きによって、すっかりネズミは退治され、新しい祭りの準備も進んだ。
ナナンの言葉通りきっときっと素敵で楽しいお祭りが開かれることだろう。――――夏はもう、すぐそこに。
†シナリオ結果†
大成功
†詳細†
特殊成果
『夏祭り優待チケット』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員
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