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最愛を探して

●
「レオナルトが自由騎士に託したロケットの意味。やっと……わかったぜ」
『演算士』テンカイ・P・ホーンテン(nCL3000048)は集った自由騎士にそう告げた。
「このロケットの中の写真は正真正銘レオナルトの妻と娘。そして2人とも組織に攫われて監禁されてやがった」
レオナルト・A・ヴィルフリート。以前自由騎士達が一戦交えた、人身売買事件の上役だった老紳士だ。その拳は固く。強く。揺ぎ無き信念の込められた拳は自由騎士をぎりぎりのところまで追い詰めるに至った強敵。
だがそんな彼も自らが犯された病と自由騎士達の思いをこめた一撃一撃によって最後を迎える。自由騎士達の言葉一つ一つを慈しむように戦い抜いたレオナルト。彼の最後は慈愛に満ち、優しさに満ち溢れたものであった。
「レオナルトは家族を人質にとられていた。すべての行動は家族を愛するが故、だ。彼の性格を考えれば……それは想像を絶するほどの後悔と絶望の毎日だったはずだ」
テンカイの言葉の端々に感じる強い怒気。
彼ほどの男が何故──自由騎士の誰もが感じた違和感の正体が今明かされたのだ。
その自由騎士は拳を握り締める。あの時受けた打撃の中にあるレオナルトの魂の叫びが今鮮烈に甦る。
「どこにいるの?」
「待て。レオナルトほどの男が自ら助けに行かなかったんだ。どういうことか……わかるだろ?」
「関係ねぇよ」
また1人、自由騎士がテンカイの前に出る。
「今ある情報のすべてを教えてくれ」
こうして自由騎士達はその場を後にした。
「まぁ、こうなるとは思ってたけど……な」
少しあきれたような、それでいて嬉しそうな表情を見せるテンカイ。
まかせたよ──小さく呟くとテンカイはいつものごとく部屋の奥へと消えたのであった。
●
とある地下室。
「いやぁぁぁああ!!!!!!」
「やめて!! 娘には……娘にはもうこれ以上……っ」
響き渡る悲鳴と懇願する声。
「オラッ!! 抵抗すんな!!」
「助けなんてこねぇぞ。お前達は一生ここで俺達のオモチャとして生きるんだ。それしか生きる道はねぇんだよぉぉぉおお!?」
ギシッ……ギシッ……
ベッドが軋む音。輝きを失った瞳。涙はもうとっくに枯れ果てていた。
人が人を蹂躙する。
尊厳の全てを奪い取られる地獄の日々は今日も繰り返されていた──。
「レオナルトが自由騎士に託したロケットの意味。やっと……わかったぜ」
『演算士』テンカイ・P・ホーンテン(nCL3000048)は集った自由騎士にそう告げた。
「このロケットの中の写真は正真正銘レオナルトの妻と娘。そして2人とも組織に攫われて監禁されてやがった」
レオナルト・A・ヴィルフリート。以前自由騎士達が一戦交えた、人身売買事件の上役だった老紳士だ。その拳は固く。強く。揺ぎ無き信念の込められた拳は自由騎士をぎりぎりのところまで追い詰めるに至った強敵。
だがそんな彼も自らが犯された病と自由騎士達の思いをこめた一撃一撃によって最後を迎える。自由騎士達の言葉一つ一つを慈しむように戦い抜いたレオナルト。彼の最後は慈愛に満ち、優しさに満ち溢れたものであった。
「レオナルトは家族を人質にとられていた。すべての行動は家族を愛するが故、だ。彼の性格を考えれば……それは想像を絶するほどの後悔と絶望の毎日だったはずだ」
テンカイの言葉の端々に感じる強い怒気。
彼ほどの男が何故──自由騎士の誰もが感じた違和感の正体が今明かされたのだ。
その自由騎士は拳を握り締める。あの時受けた打撃の中にあるレオナルトの魂の叫びが今鮮烈に甦る。
「どこにいるの?」
「待て。レオナルトほどの男が自ら助けに行かなかったんだ。どういうことか……わかるだろ?」
「関係ねぇよ」
また1人、自由騎士がテンカイの前に出る。
「今ある情報のすべてを教えてくれ」
こうして自由騎士達はその場を後にした。
「まぁ、こうなるとは思ってたけど……な」
少しあきれたような、それでいて嬉しそうな表情を見せるテンカイ。
まかせたよ──小さく呟くとテンカイはいつものごとく部屋の奥へと消えたのであった。
●
とある地下室。
「いやぁぁぁああ!!!!!!」
「やめて!! 娘には……娘にはもうこれ以上……っ」
響き渡る悲鳴と懇願する声。
「オラッ!! 抵抗すんな!!」
「助けなんてこねぇぞ。お前達は一生ここで俺達のオモチャとして生きるんだ。それしか生きる道はねぇんだよぉぉぉおお!?」
ギシッ……ギシッ……
ベッドが軋む音。輝きを失った瞳。涙はもうとっくに枯れ果てていた。
人が人を蹂躙する。
尊厳の全てを奪い取られる地獄の日々は今日も繰り返されていた──。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.レオナルトの妻と娘を救出する
2.イブリース化したレオナルトの後悔の念を開放する
2.イブリース化したレオナルトの後悔の念を開放する
麺です。ハードな展開は続きます。
この依頼はエルシー・スカーレット(CL3000368) の2019年01月27日(日) 09:26:03の発言を元に作成されました。
レオナルトが託したもの。それは囚われの身となっている自身の妻と娘でした。
探そうとすれば殺す。命令に従わなくとも殺す。レオナルトに突きつけられていた現実は絶対的な組織への服従だったのです。
●ロケーション
とある地下室。最善最短でそこへとたどり着いた自由騎士たち。
そこには虚ろな目をした、半裸のような状態で横たわる2人の女性と3人の屈強な男達。程なく自由騎士達と男達の戦いは始まります。そしてそこにさらに現れたのは……イブリースと化したレオナルトの魂ともいえる存在。見るも無残な姿で横たわる妻と娘。それを見たレオナルトの魂は、血も凍るような叫び声を上げるとさらに強い怨念となり、そこにいる全てのものに襲い掛かるのです。
自由騎士達は男達を倒し、さらには暴走するレオナルトの魂を浄化しなければなりません。
●敵&登場人物
・ゴリアテ
レオナルトの妻と娘の監視役の1人。ゲスいです。並ならぬ筋肉を持ち、その攻撃たるや蒸気機関車が如し。抑えるには少なくとも2人必要です。
有り余る体力を武器にカウンター攻撃を得意としています。
・マッソー
レオナルトの妻と娘の監視役の1人。ゲスいです。鞭使い。2人の肌に残る多くの赤みがかった腫跡は全てこいつの仕業。痛みによがる声でしか興奮できない憐れな男。
非常に回避能力が高く、付かず離れずのネチネチとした攻撃を行ってきます。他人に状態異常を与えることに愉悦を感じる狂人。
・ドグラマーグ
レオナルトの妻と娘の監視役の1人。この中でも最もゲスいです。隙あらば娘か妻を盾にしようとします。この男にとって女は自らを楽しませるオモチャにすぎません。
接近戦を得意としており、自らのスピードに絶対の自信を持っていますが、自由騎士トップレベルであれば捉えられない速度域ではありません。
・レオナルト(イブリース化した念)
自由騎士との戦いの中、蓄積したダメージと自らの持病により急遽。
妻と娘を救えなかったこと。妻と娘のためとはいえ多くの罪の無い娘達を攫う手助けをしたことへの後悔の念は、とうとうイブリース化を引き起こしてしまいました。
実体の無いイブリースであるがその拳は変わらず強く、重い。イブリース化により全ての通常攻撃に【致命】効果が付与されている。
絶拳(EX) 攻近範 その拳は体内の気の流れを強制的に停止させ、深いダメージと共に対象を行動不能にする。【防御力無視】【ショック】【移動不能】
・ブランニューデイ
30以上は年の差のあるレオナルトの若き妻。娘を庇い、娘以上に酷い状況に身を置かれている。自分達が逆らえばレオナルトの命は無いと脅されており、未だレオナルトが死んだ事は知らされていない。
・チェコッタ
レオナルトの娘。すでに瞳の光は失われており、会話もまともにできない。精神が完全に壊れる間際の状態。
●同行NPC
『ヌードルサバイバー』ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)
特に指示が無い場合は、回復サポートに従事します。
所持スキルはステータスシートをご確認ください。
皆様のご参加お待ちしております。
2019/6/6
BSに存在しないものが表記されていたものを修正しました。
【行動不能】⇒【移動不能】
この依頼はエルシー・スカーレット(CL3000368) の2019年01月27日(日) 09:26:03の発言を元に作成されました。
レオナルトが託したもの。それは囚われの身となっている自身の妻と娘でした。
探そうとすれば殺す。命令に従わなくとも殺す。レオナルトに突きつけられていた現実は絶対的な組織への服従だったのです。
●ロケーション
とある地下室。最善最短でそこへとたどり着いた自由騎士たち。
そこには虚ろな目をした、半裸のような状態で横たわる2人の女性と3人の屈強な男達。程なく自由騎士達と男達の戦いは始まります。そしてそこにさらに現れたのは……イブリースと化したレオナルトの魂ともいえる存在。見るも無残な姿で横たわる妻と娘。それを見たレオナルトの魂は、血も凍るような叫び声を上げるとさらに強い怨念となり、そこにいる全てのものに襲い掛かるのです。
自由騎士達は男達を倒し、さらには暴走するレオナルトの魂を浄化しなければなりません。
●敵&登場人物
・ゴリアテ
レオナルトの妻と娘の監視役の1人。ゲスいです。並ならぬ筋肉を持ち、その攻撃たるや蒸気機関車が如し。抑えるには少なくとも2人必要です。
有り余る体力を武器にカウンター攻撃を得意としています。
・マッソー
レオナルトの妻と娘の監視役の1人。ゲスいです。鞭使い。2人の肌に残る多くの赤みがかった腫跡は全てこいつの仕業。痛みによがる声でしか興奮できない憐れな男。
非常に回避能力が高く、付かず離れずのネチネチとした攻撃を行ってきます。他人に状態異常を与えることに愉悦を感じる狂人。
・ドグラマーグ
レオナルトの妻と娘の監視役の1人。この中でも最もゲスいです。隙あらば娘か妻を盾にしようとします。この男にとって女は自らを楽しませるオモチャにすぎません。
接近戦を得意としており、自らのスピードに絶対の自信を持っていますが、自由騎士トップレベルであれば捉えられない速度域ではありません。
・レオナルト(イブリース化した念)
自由騎士との戦いの中、蓄積したダメージと自らの持病により急遽。
妻と娘を救えなかったこと。妻と娘のためとはいえ多くの罪の無い娘達を攫う手助けをしたことへの後悔の念は、とうとうイブリース化を引き起こしてしまいました。
実体の無いイブリースであるがその拳は変わらず強く、重い。イブリース化により全ての通常攻撃に【致命】効果が付与されている。
絶拳(EX) 攻近範 その拳は体内の気の流れを強制的に停止させ、深いダメージと共に対象を行動不能にする。【防御力無視】【ショック】【移動不能】
・ブランニューデイ
30以上は年の差のあるレオナルトの若き妻。娘を庇い、娘以上に酷い状況に身を置かれている。自分達が逆らえばレオナルトの命は無いと脅されており、未だレオナルトが死んだ事は知らされていない。
・チェコッタ
レオナルトの娘。すでに瞳の光は失われており、会話もまともにできない。精神が完全に壊れる間際の状態。
●同行NPC
『ヌードルサバイバー』ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)
特に指示が無い場合は、回復サポートに従事します。
所持スキルはステータスシートをご確認ください。
皆様のご参加お待ちしております。
2019/6/6
BSに存在しないものが表記されていたものを修正しました。
【行動不能】⇒【移動不能】

状態
完了
完了
報酬マテリア
7個
3個
3個
3個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
6日
参加人数
6/6
6/6
公開日
2019年06月06日
2019年06月06日
†メイン参加者 6人†
●
(許せない……何故、どうして平気で弱者を盾に出来るの?)
『遺志を継ぐもの』アリア・セレスティ(CL3000222)は自問を繰り返す。
握り締めた手の震えは怒りか、悲しみか、はたまた両方なのか。それはアリアにも解からない。
「はあ……なんとも救いようの無い話やなぁ……」
『虚実の世界、無垢な愛』蔡 狼華(CL3000451)は薄いため息を漏らす。
「ゲスは何やってもゲスやしさっさと屑籠へ、やな」
ぺろりと唇を舐める仕草を見せる狼華。
「さぁ、どないな風にしてやろうか」
髪に結った花を揺らしながら狼華はまだ見ぬ標的を思い浮かべ、くすりと笑った。
(個人的には人質は大事にする方が好みだけどねぇ……。反抗のきっかけになるし、捕まっても温情が受けれるじゃない!)
『真理を見通す瞳』猪市 きゐこ(CL3000048)は憤慨していた。
悪事を行うにもリスク管理は考慮すべき大事な点。それを怠っているとしか言いようがないあからさまな行動に納得がいかないのだ。
(……てか下手なのかしら? どうせならNTRぐらいの根性見せなさいよ。そっちの方が楽しいじゃない!)
自由騎士達はひた奔る。目指すは囚われの妻と娘がいる地下室。そしてそこは……彼との決着の場。
●
「グヘヘ……。最近はほとんど反応はしねぇが……相変わらずだぜこりゃあよぉ」
軋むベッドの音と男の唸り声だけが聞こえる地下室。そこへ──
ドガァァァッ!!
鉄製の扉は破壊音と共に、意図も容易く破られる。
「到着っ!!」
破壊の衝撃で粉塵舞い散る部屋の外には『遺志を継ぐもの』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)。
「全て返してもらうわ!!」
『遺志を継ぐもの』エルシー・スカーレット(CL3000368)が男達へ叫ぶ。それは今は亡きレオナルトの遺志を継いだ者として、自然と出た言葉。
「……客が来るなんて聞いてねぇぞ、オイ」
ベッドから降りてゆっくりと衣服を直す男。滾る激情はそのままに話を続ける。
「お前ら……もしかしなくても助けに来たのか。こいつらを。そうか。そうかぁ」
「「「ギャハハハハハハ」」」
突然笑い出す3人の男達。
リーダーと思しき男は衣服を整えると、自由騎士達の神経をわざと逆なでするように語りだす。
「残念だったなぁ~~。遅かったなぁ~~。も~~うちょっと、ほんのちょっとだ。早ければどうにかなったかもしれねぇなぁ……。だがよぉ……こいつら……もう壊れてるぜ」
(人は皆幸せになる権利がある──)
「そりゃ、ドグラの兄貴が追い詰めすぎたからじゃねぇか」
(あのとき私はレオナルトさんにそう言ったわ──)
「全くだ。兄貴は容赦ねぇからなぁ」
(自分の言った事には責任を持つ。人質は必ず救出する──!!)
「俺はもっと嫌がる悲鳴を聞いていたかったのによぉ。困ったもんだぜ」
男達が2人へ向けた醜悪な表情を目にした瞬間──エルシーの中で何かが弾けた。
「ウォォォォォォォォオオオオオオオオ!!!!」
猛然と鞭使いへ突進するエルシー。そしてそれを機に、全てが一斉に動き出す。
●
「貴方の相手は私よ!」
(人質なんてとらせはしない──!!)
「ぅおっと!?」
アリアが伸ばした蛇腹剣を、紙一重で避ける男。
だが即座に次の行動へと移るアリア。間髪いれずに魅せた剣舞は、己が舞踏と刃の軌跡で描かれた陣を描き出し、男達の行動を阻害する。
「うお!? ナンだこりゃぁ!? 足が動かねぇ!!」
「んんーーーー????」
その場に足止めされる隆々の男と鞭使い。
「あっぶねぇ……何だかしらねぇが食らってたらやばかったぜ。いいぜぇ……俺の名前はドグラマーグ。よぉく覚えておいてくれよぉ」
小型の剣を器用に操りながら自分の名を晒す男。
「何故貴方の名前なんかをっ!!」
「おいおい、つれない事言うなよぉ。なんたって……これから毎日ご奉仕する御主人様の名前だからなああああああーーー!!!」
響き渡る剣と剣が交わる音。アリアとドグラマーグ。己が速度を磨き続ける両者の、他者の介入を許さぬ速度域での戦いが始まった。
「その速さも、脚さえ止めれば!」
激しい鍔迫り合いの中、アリアはあえて狙いを口にする。レオナルトの妻と娘をその身を挺して護りながら、私の相手はお前だと強く印象づける。例え避けられようともアリアのタンゴは幾度となくそのリズムを刻む。
「ククク……俺を1人で相手しようなんて100万年早いんじゃねぇかよぉ」
技を避け、悦に浸るドグラマーグは気付かない。それが作戦である事に。気付かぬうちにアリアが、そして狼華もまたリズムを奏で、この戦いの場を掌握しつつある事に。
(私が為すべきはレオナルトさん達を救う事。仲間が動きやすいよう、戦場のコントロールと家族の死守に注力するわ)
「貴方を……倒す!」
そしてこの作戦は、大きな功を奏す事になる。
「いっくぞーーーーー!!!!」
カーミラがその角を武器に突進したのは隆々の男。
「ヌグゥゥゥウウウウン」
アリアの舞で足を止められた男は、全身に力を込め気合でその突撃を受け止める。
「グワッハハハハ!! 俺様の名はゴリアテッ! 怪力無双のゴリアテ様だ! こんな突進何度でも止めてくれるわ!!!」
「へぇ。案外やる……ねっ!!!」
捕まれた角の手を払うように蹴りを放ち距離をとるカーミラ。ならば、とゴリアテがお返しの一撃をカーミラに振り上げる。だが振り下ろす間もなく、炎の緋文字がゴリアテを襲う。
「グアッ!?」
突然の魔導の炎に動揺するゴリアテ。その視線の先には……ホークアイで魔導力を一気に高めたきゐこが緑鬼魔杖を構えていた。
「ふふふ……魔導と物理両方に対処は難しいわよね?」
「よしっ! 連携して一気に叩くよ!!」
「小ざかしいわっ!!! 小娘ども、かかってきやがれっ!!」
絶対的体力とカウンター能力を前に、カーミラときゐこは物理と魔導の双方から──攻める!!
「フンッ!!」
ゴリアテは自らの類稀なるそのタフネスに絶対の自信を持っていた。そして防御タンクスタイルのカウンター技で肉を切らせて骨を絶つ。
これまでこの戦法で戦い、立っていられた者などいなかった。文字通りの無敵であった。
無論過去にも物理と魔導で挑まれた事はある。だが、結局は体力に乏しい魔導の使い手が倒れてしまえば結果はいつもと同じ。
(おかしい……どういう事だ)
自らのセオリーに則り、魔導の使い手へのカウンターを優先していたゴリアテであったが、きゐこには倒れる様子はない。それどころか弱る様子すら見せないのだ。
「ふふ……こう見えて体力にはそれなりに自信があるわ!」
魔導の使い手としては異端と思えるきゐこの体力。そのポテンシャルは前衛職の者達にもにも全く引けをとらない。さらには『その過去は消えぬけど』ニコラス・モラル(CL3000453)がマナウェーブで自身の魔力をチャージしながら全体を常にハーベストレインで回復し続けている。ジローもいる。
その間にカーミラは足が止まりカウンターの心配もないゴリアテに重い拳を一撃、また一撃と打ち込んでいく。ゴリアテの顔が苦痛に歪む。
「じょ、冗談じゃねぇ!! 俺様が!! このゴリアテ様が殴りあいで負けるなんてありえねぇ!!!」
ゴリアテの誤算。それはカーミラという超攻撃力。そしてきゐこという魔導を操る異質を放つ者の存在。
「くそが!! くそがぁぁぁぁ!!!! 俺が負けるはずねぇえええ!!!!!」
ゴリアテは最後まで自分の負けを拒絶する言葉を吐きながらその巨体を沈ませ、さらにはきゐこの栄養補給(吸血)の材料となるのであった。
●
「このゲスがっ!!!」
柳凪を使用し物理耐性をつけたエルシーは、鞭使いを打破せんと接近を試みていた。
「ギャハハハハハ。そんなトロいパンチじゃ俺には当たらねぇぜぇ♪」
しかし近づけどその高い回避能力はエルシーの拳に空を切らせる。攻撃が当たらない──。
膠着した状況は焦りを生み、焦りはその攻撃を鈍らせる。結果エルシーは自身が与えたダメージ以上に、その身体に鞭を受ける事になっていた。鞭を受けた場所は赤く蚯蚓腫れ、血が滲む。
「うぅ……っ」
連続で鞭を打たれた影響だろうか。目が霞み、体に力が入らない。宙に浮いた様なような感覚。
「そろそろ効いてきたみたいだな……俺の鞭の効果、たまらないだろう??」
鞭使い、マッソーが両手で操る二本の鞭にはそれぞれ別々の効果が付与されていた。それは毒と麻痺。
その効果はじわじわとエルシーの身体を蝕んでいたのだ。
「ギャハハハハ!! たまんねぇよ、その表情!! コーフンしちまうじゃねぇか……」
更なる攻撃を行おうとマッソーが鞭を振り上げたその時だった。
「またせたなっ」
皆が戦っている隙をつき、捉えられていた2人に回復に専念していたニコラス。戦線に復帰し唱えたクリアカースは、エルシーを麻痺から開放する。
「た、助かったわ」
まだ毒は残っている。だけど今なら──動ける!
「ニコラスさん、少しだけ時間を頂戴!!」
「ん? ……ああ、お安い御用だ。おじさんもそろそろお仕事頑張りますか!」
何かを察したニコラスがアイスコフィンでマッソーをひきつける。
「そんな氷礫当たると思ってやがるのかっ。笑わせるぜ!!」
余裕といわんばかりに、ニコラスの攻撃を避け続けるマッソー。
その間、エルシーはこれまでのマッソーの動きを思い出していた。
(目では追えていた。ならば捉えられるはず……集中……集中するのよ、エルシー)
エルシーが全神経を研ぎ澄ます。
(もっと……もっとよ。アイツの動きを完全に捉える!!)
「……見えた」
その瞬間、エルシーが動いた。
「ギャハハハ、いくら打ったってあたりゃ──……ゲフッ」
影狼で一気にマッソーに接近したエルシーは、その鳩尾に深く拳をめり込ませる。
「貴方の動きは見切ったわ。これで……形勢逆転ね」
エルシーが妖艶に微笑む。
「さて。いらねぇな、ソレ。潰してほしいか、それとも斬ってほしいか? あぁ、どっちにしても生かしてはやるよ。何よりまず必要なのはアンタらの悲鳴だかんな」
後方で戦輪を構えるのはニコラス。その表情には隠しきれない怒気が漂う。
「グフッ……痛てぇ……。響くじゃねぁかぁ……くそがぁっ!!」
マッソーの振るう鞭がエルシーを掠め、持っていたロケットが地面に落ちる。
「あぁっ!!」
落ちた衝撃でロケットが開く。そこには仲むつまじいレオナルトの家族写真。
「こりゃ……あの野郎じゃねぇか。ククク……ギャハハハハ!! まだこんなものがあったなんてよぉ」
マッソーが鞭を振り上げ、誰もが破壊されると覚悟したまさにその瞬間。ロケットから黒い瘴気のようなものがあふれ出す。思念のイブリース化が今まさに起ころうとしていた。
「!? なんだこりゃぁ!?」
動揺するマッソーを他所に、黒い瘴気は意思を持つように人型へと変化していく。その姿は……レオナルトそのものだった。
「レオナルト……はん?」
狼華が声を掛ける。が、もちろん返事などない。
「お噂は兼兼……その姿でもわかりはります。……ええ男やなぁ、生きてる頃に会いとうございました……」
だがそれは到底人と呼べるようなものではない、黒い……どす黒い瘴気の塊。生前の彼を知る者たちはすぐに理解する。これは彼の残した気持ちそのもの。残留思念だと──。
そしてレオナルトを模した黒い瘴気の目線の先には──誰よりも会いたかった、護りたかった愛する妻と娘。その変わり果てた姿があったのだ。
「オオオォォォオオオオオオォォッォォ!!!!!!!」
瘴気がさらに濃くなる。増幅された感情は、もはや誰も制御できるものではなくなっていた。
「おい……なんだ……お前レオナ──グギャァァアア!!!」
一撃で内臓を破壊され、血をはきながらのた打ち回るマッソー。
「ひ……ひぃ……たしゅ……たしゅけ……」
マッソーは血と涙に塗れながら意識を失う。確かにマッソーはエルシーによって逆転の一撃を見舞われていた。だがそこで終わるはずもなくまだ戦えるだけの余力は残していた、はずだった。そのマッソーを一撃のもとで沈めたレオナルト。
レオナルトの拳は、憎しみと悲しみに塗れ、生前をも越える凶器と化していたのだ。
前に出たのは狼華。
「ただ、今は此処を通すわけには行かへんのや……今のあんたじゃ、守りたかったもんも自分で傷付けてまうよ……」
闇雲に繰り出される拳を避けながら狼華は踊る。軽快なタップのリズムの中に見え隠れするのは悲哀の感情。狼華は踊る。
「ほぉら、あんたの家族をめちゃくちゃにしとったのはあいつらや、いっぱつ仕掛けんと後悔するで?」
狼華は踊る。伝えるために。狼華は踊る。ドグラマーグを屠るために。
「さぁ、ダンサーの本領発揮や。これで身動き取れず、嬲られるように死ぬとええわ。さぁ、報いを、因果応報、災いにのみこまれてしまえ」
レオナルト、ドグラマーグ、そして自由騎士。三つ巴の戦いは佳境へと向かう。
●
「グフ……く……くそが」
ドグラマーグはアリアの放った蛇腹剣の一撃で意識を失う。同じ領域で攻撃を仕掛けてくるアリアと、激情のままに攻撃してくるレオナルト。さらには他の自由騎士達による連続攻撃、後方からの矢継ぎ早の魔導攻撃になす術など無いまま倒れたドグラマーグ。
「やったのだわ!」
「これで──」
自由騎士が一息ついたその瞬間だった。
「ダメなのだわっ!! 誰か止めてっ!!!」
きゐこの未来視があってはならない未来を捉える。
ガキィィィーーン
地に付し意識を失ったドグラマーグの止めを刺さんと振り下ろされた拳を身を挺して止めたのはニコラスであった。
「もう終わったんだ! 退けよ! 気持ちは痛い程分かるからよ! 今あの2人に必要なのはテメェの悲愴な叫びじゃない!」
ニコラスが溜め込んだ思いを吐き出す。だがそのニコラスに振り下ろされたのは更なる凶拳。
「ゴフ……今のテメェじゃあ2人を……癒せねぇ……分か……れ……よ」
そのまま気を失うニコラス。
「ニコラス!!」
「ウォォォオオオオオオオオ!!!」
次々とレオナルトに攻撃を仕掛ける自由騎士達。だがその攻撃はレオナルトが放つ真の必殺。絶拳により、悉く粉砕されていく。
「く……ふっ。」
体力には自身のあったきゐこ。だがゴリアテ戦で消耗した体力を回復しきれてはおらずレオナルトの一撃に沈む。
「ケフッ……絶拳の範囲が広がってる……前回のアレはまだ本気じゃなかったってワケ? ナメてくれるじゃん!!」
カーミラが滲む血を拭いながら立ち上がる。
「奥さんと娘さんは、私達がきっと救います。だから安心してくれていいんです!」
だがそんなエルシーの言葉も届かない。レオナルトは狂気の拳でなおも襲い掛かる。
「危ないっ!!」
とっさにエルシーを庇ったアリア。その両手は剣を握る事は無く、自身に打ち込まれた拳を優しく包み込んでいた。
「もういいんです……。貴方の家族も……貴方が犠牲にしてきた人達も……私がこの手で救ってみせ……ま……す」
最後の力で笑顔を作り、そのまま意識を失い倒れたアリア。
ドクン──
レオナルトが大きく揺らいだように見えた。
エルシーが拳を強く握る。その思いの全てをこの一撃に込める。
「安心していいんです……だから戻ってきてください! 衝撃のレオナルトォォォ!!!!」
緋色の衝撃。すさまじい衝撃と共に交差する拳と拳。
巻き上がる粉塵の中、かろうじて立っていたのはレオナルト。だがその姿形はすでに崩壊し始めていた。
そして。最後にレオナルトの前に立ったのはカーミラ。幾度もその身にレオナルトの拳を受け、出来うる限りの情報をかき集め、倒れても倒れても必死に食らいつき、全てを燃やし尽した。そして今再び、全身全霊をかけレオナルトの前に立つ。
ねぇ、レオナルト。もう何回この技喰らったっけ──
本当にあんたの事すごいと思ったんだ──
だけどさ、今のあんたの拳からは何も感じない。こんなの本当のあんたの拳じゃない──
だからさ──
「あんたの技は私が引き継ぐ!!」
「オオオオオオォォオオオオオオ!!!!!!」
「喰らえ!!!! これが私の──」
ひときわ大きな衝撃と共に勝敗は決着する。
そこには役割を果たし満足げに倒れこむカーミラと、僅かばかりの時間を残したレオナルトの意識存在があるだけだった。
●
(本当に感謝する……)
消え行くレオナルトの表情は穏やかだった。
「貴方の最期の勇気のお陰で、この組織に目が届き、貴方の家族に私達の手が届いたのです」
アリアが改めて礼を言う。
(ずっと見ているよ。これからもずっと愛している)
「あなた……」
「お、おとうさ……ん……」
辛うじて命は助かった妻と娘。だが心のケアには長い時間がかかる事だろう。
(……妻と娘をよろしく頼む)
「魔導で何とか出来んのは身体の傷だけだ。だから、少しずつ出来る範囲でいい。チェコッタに呼びかけてほしい。陽の光を浴びせて声をかけ、苦難は去ったと教えてやってくれ。それが一番の薬だからな」
ニコラスはブランニューデイに穏やかな表情を見せる。
「お預かりしていたレオナルトさんのロケット、お二人にお返ししようと思います」
エルシーがそう伝えると、もう殆ど霞んでいたレオナルトの思念がそれを静止する。
(2人にはもう私は必要ない。だからこれは君が持っていてくれないか)
最後にそう言うとレオナルトの思念は、ロケットの中に吸い込まれるように消えた。
ロケットがきらりと光る。改めてエルシーが手にしたそれはどこか優しい体温を感じるようだった。
「最後はなんやあっけないなぁ。でも……悲しみ、すこしでも昇華されとるとええな」
狼華がぽつりと呟いた。
(許せない……何故、どうして平気で弱者を盾に出来るの?)
『遺志を継ぐもの』アリア・セレスティ(CL3000222)は自問を繰り返す。
握り締めた手の震えは怒りか、悲しみか、はたまた両方なのか。それはアリアにも解からない。
「はあ……なんとも救いようの無い話やなぁ……」
『虚実の世界、無垢な愛』蔡 狼華(CL3000451)は薄いため息を漏らす。
「ゲスは何やってもゲスやしさっさと屑籠へ、やな」
ぺろりと唇を舐める仕草を見せる狼華。
「さぁ、どないな風にしてやろうか」
髪に結った花を揺らしながら狼華はまだ見ぬ標的を思い浮かべ、くすりと笑った。
(個人的には人質は大事にする方が好みだけどねぇ……。反抗のきっかけになるし、捕まっても温情が受けれるじゃない!)
『真理を見通す瞳』猪市 きゐこ(CL3000048)は憤慨していた。
悪事を行うにもリスク管理は考慮すべき大事な点。それを怠っているとしか言いようがないあからさまな行動に納得がいかないのだ。
(……てか下手なのかしら? どうせならNTRぐらいの根性見せなさいよ。そっちの方が楽しいじゃない!)
自由騎士達はひた奔る。目指すは囚われの妻と娘がいる地下室。そしてそこは……彼との決着の場。
●
「グヘヘ……。最近はほとんど反応はしねぇが……相変わらずだぜこりゃあよぉ」
軋むベッドの音と男の唸り声だけが聞こえる地下室。そこへ──
ドガァァァッ!!
鉄製の扉は破壊音と共に、意図も容易く破られる。
「到着っ!!」
破壊の衝撃で粉塵舞い散る部屋の外には『遺志を継ぐもの』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)。
「全て返してもらうわ!!」
『遺志を継ぐもの』エルシー・スカーレット(CL3000368)が男達へ叫ぶ。それは今は亡きレオナルトの遺志を継いだ者として、自然と出た言葉。
「……客が来るなんて聞いてねぇぞ、オイ」
ベッドから降りてゆっくりと衣服を直す男。滾る激情はそのままに話を続ける。
「お前ら……もしかしなくても助けに来たのか。こいつらを。そうか。そうかぁ」
「「「ギャハハハハハハ」」」
突然笑い出す3人の男達。
リーダーと思しき男は衣服を整えると、自由騎士達の神経をわざと逆なでするように語りだす。
「残念だったなぁ~~。遅かったなぁ~~。も~~うちょっと、ほんのちょっとだ。早ければどうにかなったかもしれねぇなぁ……。だがよぉ……こいつら……もう壊れてるぜ」
(人は皆幸せになる権利がある──)
「そりゃ、ドグラの兄貴が追い詰めすぎたからじゃねぇか」
(あのとき私はレオナルトさんにそう言ったわ──)
「全くだ。兄貴は容赦ねぇからなぁ」
(自分の言った事には責任を持つ。人質は必ず救出する──!!)
「俺はもっと嫌がる悲鳴を聞いていたかったのによぉ。困ったもんだぜ」
男達が2人へ向けた醜悪な表情を目にした瞬間──エルシーの中で何かが弾けた。
「ウォォォォォォォォオオオオオオオオ!!!!」
猛然と鞭使いへ突進するエルシー。そしてそれを機に、全てが一斉に動き出す。
●
「貴方の相手は私よ!」
(人質なんてとらせはしない──!!)
「ぅおっと!?」
アリアが伸ばした蛇腹剣を、紙一重で避ける男。
だが即座に次の行動へと移るアリア。間髪いれずに魅せた剣舞は、己が舞踏と刃の軌跡で描かれた陣を描き出し、男達の行動を阻害する。
「うお!? ナンだこりゃぁ!? 足が動かねぇ!!」
「んんーーーー????」
その場に足止めされる隆々の男と鞭使い。
「あっぶねぇ……何だかしらねぇが食らってたらやばかったぜ。いいぜぇ……俺の名前はドグラマーグ。よぉく覚えておいてくれよぉ」
小型の剣を器用に操りながら自分の名を晒す男。
「何故貴方の名前なんかをっ!!」
「おいおい、つれない事言うなよぉ。なんたって……これから毎日ご奉仕する御主人様の名前だからなああああああーーー!!!」
響き渡る剣と剣が交わる音。アリアとドグラマーグ。己が速度を磨き続ける両者の、他者の介入を許さぬ速度域での戦いが始まった。
「その速さも、脚さえ止めれば!」
激しい鍔迫り合いの中、アリアはあえて狙いを口にする。レオナルトの妻と娘をその身を挺して護りながら、私の相手はお前だと強く印象づける。例え避けられようともアリアのタンゴは幾度となくそのリズムを刻む。
「ククク……俺を1人で相手しようなんて100万年早いんじゃねぇかよぉ」
技を避け、悦に浸るドグラマーグは気付かない。それが作戦である事に。気付かぬうちにアリアが、そして狼華もまたリズムを奏で、この戦いの場を掌握しつつある事に。
(私が為すべきはレオナルトさん達を救う事。仲間が動きやすいよう、戦場のコントロールと家族の死守に注力するわ)
「貴方を……倒す!」
そしてこの作戦は、大きな功を奏す事になる。
「いっくぞーーーーー!!!!」
カーミラがその角を武器に突進したのは隆々の男。
「ヌグゥゥゥウウウウン」
アリアの舞で足を止められた男は、全身に力を込め気合でその突撃を受け止める。
「グワッハハハハ!! 俺様の名はゴリアテッ! 怪力無双のゴリアテ様だ! こんな突進何度でも止めてくれるわ!!!」
「へぇ。案外やる……ねっ!!!」
捕まれた角の手を払うように蹴りを放ち距離をとるカーミラ。ならば、とゴリアテがお返しの一撃をカーミラに振り上げる。だが振り下ろす間もなく、炎の緋文字がゴリアテを襲う。
「グアッ!?」
突然の魔導の炎に動揺するゴリアテ。その視線の先には……ホークアイで魔導力を一気に高めたきゐこが緑鬼魔杖を構えていた。
「ふふふ……魔導と物理両方に対処は難しいわよね?」
「よしっ! 連携して一気に叩くよ!!」
「小ざかしいわっ!!! 小娘ども、かかってきやがれっ!!」
絶対的体力とカウンター能力を前に、カーミラときゐこは物理と魔導の双方から──攻める!!
「フンッ!!」
ゴリアテは自らの類稀なるそのタフネスに絶対の自信を持っていた。そして防御タンクスタイルのカウンター技で肉を切らせて骨を絶つ。
これまでこの戦法で戦い、立っていられた者などいなかった。文字通りの無敵であった。
無論過去にも物理と魔導で挑まれた事はある。だが、結局は体力に乏しい魔導の使い手が倒れてしまえば結果はいつもと同じ。
(おかしい……どういう事だ)
自らのセオリーに則り、魔導の使い手へのカウンターを優先していたゴリアテであったが、きゐこには倒れる様子はない。それどころか弱る様子すら見せないのだ。
「ふふ……こう見えて体力にはそれなりに自信があるわ!」
魔導の使い手としては異端と思えるきゐこの体力。そのポテンシャルは前衛職の者達にもにも全く引けをとらない。さらには『その過去は消えぬけど』ニコラス・モラル(CL3000453)がマナウェーブで自身の魔力をチャージしながら全体を常にハーベストレインで回復し続けている。ジローもいる。
その間にカーミラは足が止まりカウンターの心配もないゴリアテに重い拳を一撃、また一撃と打ち込んでいく。ゴリアテの顔が苦痛に歪む。
「じょ、冗談じゃねぇ!! 俺様が!! このゴリアテ様が殴りあいで負けるなんてありえねぇ!!!」
ゴリアテの誤算。それはカーミラという超攻撃力。そしてきゐこという魔導を操る異質を放つ者の存在。
「くそが!! くそがぁぁぁぁ!!!! 俺が負けるはずねぇえええ!!!!!」
ゴリアテは最後まで自分の負けを拒絶する言葉を吐きながらその巨体を沈ませ、さらにはきゐこの栄養補給(吸血)の材料となるのであった。
●
「このゲスがっ!!!」
柳凪を使用し物理耐性をつけたエルシーは、鞭使いを打破せんと接近を試みていた。
「ギャハハハハハ。そんなトロいパンチじゃ俺には当たらねぇぜぇ♪」
しかし近づけどその高い回避能力はエルシーの拳に空を切らせる。攻撃が当たらない──。
膠着した状況は焦りを生み、焦りはその攻撃を鈍らせる。結果エルシーは自身が与えたダメージ以上に、その身体に鞭を受ける事になっていた。鞭を受けた場所は赤く蚯蚓腫れ、血が滲む。
「うぅ……っ」
連続で鞭を打たれた影響だろうか。目が霞み、体に力が入らない。宙に浮いた様なような感覚。
「そろそろ効いてきたみたいだな……俺の鞭の効果、たまらないだろう??」
鞭使い、マッソーが両手で操る二本の鞭にはそれぞれ別々の効果が付与されていた。それは毒と麻痺。
その効果はじわじわとエルシーの身体を蝕んでいたのだ。
「ギャハハハハ!! たまんねぇよ、その表情!! コーフンしちまうじゃねぇか……」
更なる攻撃を行おうとマッソーが鞭を振り上げたその時だった。
「またせたなっ」
皆が戦っている隙をつき、捉えられていた2人に回復に専念していたニコラス。戦線に復帰し唱えたクリアカースは、エルシーを麻痺から開放する。
「た、助かったわ」
まだ毒は残っている。だけど今なら──動ける!
「ニコラスさん、少しだけ時間を頂戴!!」
「ん? ……ああ、お安い御用だ。おじさんもそろそろお仕事頑張りますか!」
何かを察したニコラスがアイスコフィンでマッソーをひきつける。
「そんな氷礫当たると思ってやがるのかっ。笑わせるぜ!!」
余裕といわんばかりに、ニコラスの攻撃を避け続けるマッソー。
その間、エルシーはこれまでのマッソーの動きを思い出していた。
(目では追えていた。ならば捉えられるはず……集中……集中するのよ、エルシー)
エルシーが全神経を研ぎ澄ます。
(もっと……もっとよ。アイツの動きを完全に捉える!!)
「……見えた」
その瞬間、エルシーが動いた。
「ギャハハハ、いくら打ったってあたりゃ──……ゲフッ」
影狼で一気にマッソーに接近したエルシーは、その鳩尾に深く拳をめり込ませる。
「貴方の動きは見切ったわ。これで……形勢逆転ね」
エルシーが妖艶に微笑む。
「さて。いらねぇな、ソレ。潰してほしいか、それとも斬ってほしいか? あぁ、どっちにしても生かしてはやるよ。何よりまず必要なのはアンタらの悲鳴だかんな」
後方で戦輪を構えるのはニコラス。その表情には隠しきれない怒気が漂う。
「グフッ……痛てぇ……。響くじゃねぁかぁ……くそがぁっ!!」
マッソーの振るう鞭がエルシーを掠め、持っていたロケットが地面に落ちる。
「あぁっ!!」
落ちた衝撃でロケットが開く。そこには仲むつまじいレオナルトの家族写真。
「こりゃ……あの野郎じゃねぇか。ククク……ギャハハハハ!! まだこんなものがあったなんてよぉ」
マッソーが鞭を振り上げ、誰もが破壊されると覚悟したまさにその瞬間。ロケットから黒い瘴気のようなものがあふれ出す。思念のイブリース化が今まさに起ころうとしていた。
「!? なんだこりゃぁ!?」
動揺するマッソーを他所に、黒い瘴気は意思を持つように人型へと変化していく。その姿は……レオナルトそのものだった。
「レオナルト……はん?」
狼華が声を掛ける。が、もちろん返事などない。
「お噂は兼兼……その姿でもわかりはります。……ええ男やなぁ、生きてる頃に会いとうございました……」
だがそれは到底人と呼べるようなものではない、黒い……どす黒い瘴気の塊。生前の彼を知る者たちはすぐに理解する。これは彼の残した気持ちそのもの。残留思念だと──。
そしてレオナルトを模した黒い瘴気の目線の先には──誰よりも会いたかった、護りたかった愛する妻と娘。その変わり果てた姿があったのだ。
「オオオォォォオオオオオオォォッォォ!!!!!!!」
瘴気がさらに濃くなる。増幅された感情は、もはや誰も制御できるものではなくなっていた。
「おい……なんだ……お前レオナ──グギャァァアア!!!」
一撃で内臓を破壊され、血をはきながらのた打ち回るマッソー。
「ひ……ひぃ……たしゅ……たしゅけ……」
マッソーは血と涙に塗れながら意識を失う。確かにマッソーはエルシーによって逆転の一撃を見舞われていた。だがそこで終わるはずもなくまだ戦えるだけの余力は残していた、はずだった。そのマッソーを一撃のもとで沈めたレオナルト。
レオナルトの拳は、憎しみと悲しみに塗れ、生前をも越える凶器と化していたのだ。
前に出たのは狼華。
「ただ、今は此処を通すわけには行かへんのや……今のあんたじゃ、守りたかったもんも自分で傷付けてまうよ……」
闇雲に繰り出される拳を避けながら狼華は踊る。軽快なタップのリズムの中に見え隠れするのは悲哀の感情。狼華は踊る。
「ほぉら、あんたの家族をめちゃくちゃにしとったのはあいつらや、いっぱつ仕掛けんと後悔するで?」
狼華は踊る。伝えるために。狼華は踊る。ドグラマーグを屠るために。
「さぁ、ダンサーの本領発揮や。これで身動き取れず、嬲られるように死ぬとええわ。さぁ、報いを、因果応報、災いにのみこまれてしまえ」
レオナルト、ドグラマーグ、そして自由騎士。三つ巴の戦いは佳境へと向かう。
●
「グフ……く……くそが」
ドグラマーグはアリアの放った蛇腹剣の一撃で意識を失う。同じ領域で攻撃を仕掛けてくるアリアと、激情のままに攻撃してくるレオナルト。さらには他の自由騎士達による連続攻撃、後方からの矢継ぎ早の魔導攻撃になす術など無いまま倒れたドグラマーグ。
「やったのだわ!」
「これで──」
自由騎士が一息ついたその瞬間だった。
「ダメなのだわっ!! 誰か止めてっ!!!」
きゐこの未来視があってはならない未来を捉える。
ガキィィィーーン
地に付し意識を失ったドグラマーグの止めを刺さんと振り下ろされた拳を身を挺して止めたのはニコラスであった。
「もう終わったんだ! 退けよ! 気持ちは痛い程分かるからよ! 今あの2人に必要なのはテメェの悲愴な叫びじゃない!」
ニコラスが溜め込んだ思いを吐き出す。だがそのニコラスに振り下ろされたのは更なる凶拳。
「ゴフ……今のテメェじゃあ2人を……癒せねぇ……分か……れ……よ」
そのまま気を失うニコラス。
「ニコラス!!」
「ウォォォオオオオオオオオ!!!」
次々とレオナルトに攻撃を仕掛ける自由騎士達。だがその攻撃はレオナルトが放つ真の必殺。絶拳により、悉く粉砕されていく。
「く……ふっ。」
体力には自身のあったきゐこ。だがゴリアテ戦で消耗した体力を回復しきれてはおらずレオナルトの一撃に沈む。
「ケフッ……絶拳の範囲が広がってる……前回のアレはまだ本気じゃなかったってワケ? ナメてくれるじゃん!!」
カーミラが滲む血を拭いながら立ち上がる。
「奥さんと娘さんは、私達がきっと救います。だから安心してくれていいんです!」
だがそんなエルシーの言葉も届かない。レオナルトは狂気の拳でなおも襲い掛かる。
「危ないっ!!」
とっさにエルシーを庇ったアリア。その両手は剣を握る事は無く、自身に打ち込まれた拳を優しく包み込んでいた。
「もういいんです……。貴方の家族も……貴方が犠牲にしてきた人達も……私がこの手で救ってみせ……ま……す」
最後の力で笑顔を作り、そのまま意識を失い倒れたアリア。
ドクン──
レオナルトが大きく揺らいだように見えた。
エルシーが拳を強く握る。その思いの全てをこの一撃に込める。
「安心していいんです……だから戻ってきてください! 衝撃のレオナルトォォォ!!!!」
緋色の衝撃。すさまじい衝撃と共に交差する拳と拳。
巻き上がる粉塵の中、かろうじて立っていたのはレオナルト。だがその姿形はすでに崩壊し始めていた。
そして。最後にレオナルトの前に立ったのはカーミラ。幾度もその身にレオナルトの拳を受け、出来うる限りの情報をかき集め、倒れても倒れても必死に食らいつき、全てを燃やし尽した。そして今再び、全身全霊をかけレオナルトの前に立つ。
ねぇ、レオナルト。もう何回この技喰らったっけ──
本当にあんたの事すごいと思ったんだ──
だけどさ、今のあんたの拳からは何も感じない。こんなの本当のあんたの拳じゃない──
だからさ──
「あんたの技は私が引き継ぐ!!」
「オオオオオオォォオオオオオオ!!!!!!」
「喰らえ!!!! これが私の──」
ひときわ大きな衝撃と共に勝敗は決着する。
そこには役割を果たし満足げに倒れこむカーミラと、僅かばかりの時間を残したレオナルトの意識存在があるだけだった。
●
(本当に感謝する……)
消え行くレオナルトの表情は穏やかだった。
「貴方の最期の勇気のお陰で、この組織に目が届き、貴方の家族に私達の手が届いたのです」
アリアが改めて礼を言う。
(ずっと見ているよ。これからもずっと愛している)
「あなた……」
「お、おとうさ……ん……」
辛うじて命は助かった妻と娘。だが心のケアには長い時間がかかる事だろう。
(……妻と娘をよろしく頼む)
「魔導で何とか出来んのは身体の傷だけだ。だから、少しずつ出来る範囲でいい。チェコッタに呼びかけてほしい。陽の光を浴びせて声をかけ、苦難は去ったと教えてやってくれ。それが一番の薬だからな」
ニコラスはブランニューデイに穏やかな表情を見せる。
「お預かりしていたレオナルトさんのロケット、お二人にお返ししようと思います」
エルシーがそう伝えると、もう殆ど霞んでいたレオナルトの思念がそれを静止する。
(2人にはもう私は必要ない。だからこれは君が持っていてくれないか)
最後にそう言うとレオナルトの思念は、ロケットの中に吸い込まれるように消えた。
ロケットがきらりと光る。改めてエルシーが手にしたそれはどこか優しい体温を感じるようだった。
「最後はなんやあっけないなぁ。でも……悲しみ、すこしでも昇華されとるとええな」
狼華がぽつりと呟いた。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
称号付与
†あとがき†
レオナルトの唯一の心残りは皆さんの手によって払拭されました。
きゐこさんのアフターフォロー(目星)により、地下室からは様々な証拠も見つかったようです。
監視人たちの取り調べも進めば、組織の全容にも一歩近づくことでしょう。
MVPは切れかけた家族の絆を繋ぎとめた貴女へ。
ご参加ありがとうございました。
ラーニング成功!!
スキル名:絶拳(ぜっけん)
取得者:カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)
特殊成果(性能変更)
『古ぼけたロケット』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:エルシー・スカーレット(CL3000368)
きゐこさんのアフターフォロー(目星)により、地下室からは様々な証拠も見つかったようです。
監視人たちの取り調べも進めば、組織の全容にも一歩近づくことでしょう。
MVPは切れかけた家族の絆を繋ぎとめた貴女へ。
ご参加ありがとうございました。
ラーニング成功!!
スキル名:絶拳(ぜっけん)
取得者:カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)
特殊成果(性能変更)
『古ぼけたロケット』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:エルシー・スカーレット(CL3000368)
FL送付済