MagiaSteam
畑を荒らす害獣退治



●大地の恵みを喰らう者
 牧歌的な雰囲気に包まれたイ・ラプセル王国の片田舎。寄り合い所帯の小さな村に暮らす人々は、今日も今日とて畑仕事に精を出している。照りつける日差しのもと、汗水流して農作物を育てるのだ。
 成長した作物は、家族を養うための大切な彼らの財産。明日を生きるための大事な大事な命の恵み。だからこそ怠けられない。毎日毎日、一生懸命に働き続ける。
 しかし何という事だろうか。その努力は露へと消える。
「――なんだ?」
 作業の手を休め、一人の農夫が顔を上げた。
「どうしたのあなた? もう休憩かしら?」
 同じく近くで作業に勤しんでいた、農夫の妻も手を止める。
 農夫は答えない。ただジッと耳をそばだてて周囲の様子を伺っている。
「ねえ、どうしたの?」
「いや……今何か聞こえた気がしたんだが」
「?」
 言われて妻も周囲の音み耳を傾ける。聞こえてくるのは風の音。木々のざわめき。そして何処からともなく響いてくる獣の唸り声。
「あなた……!」
「静かに。ゆっくりと家に戻るんだ……」
 息を潜めて二人揃って移動を始める。生きた心地のしない時間が少しだけ続いたが、二人は無事に家の中まで辿り着いた。それでも体の震えは収らない。外にいた何かの気配に本能が恐怖を訴えかけているのだ。
 やがて畑の方から音が聞こえ始める。土を掘り返すような音や、何かを食べるような咀嚼音、そして獣の唸り声。
 農家の夫婦はしばらく二人で身を寄せ合って震えていたが、やがて音が聞こえなくなると恐る恐る外へと出た。そして愕然として膝を折る。
 あれだけ丹精込めて育て上げた畑が無茶苦茶に荒らされていたのだ。もうすぐ収穫出来るはずだったのに。
 畑には大きな獣の足跡と、その獣のモノらしき体毛が幾ばくか。
「この足跡は……まさかキツネ?」
 特徴はキツネのそれと良く似ていた。しかしそうだと断定するにはあまりにも足跡が大きすぎた。

●害獣退治
「みんな、今日はよく集まってくれたね!」
『元気印』クラウディア・フォン・プラテス(nCL3000004)の言葉に自由騎士団の面々はそれぞれの反応で応じる。ひとしきり挨拶を交えた所でクラウディアは本題へと話を移す。
「水鏡情報を伝えるね。今回の任務は、イブリース化したキツネの退治だよ!」
 キツネ。と言われて一同はよく見かける野生のキツネを想像した。
「あ、キツネと言ってもイブリース化の影響で、熊よりも大きいから気をつけてね!」
 遅れて一言付け加えたクラウディアの顔を全員が注視する。視線意味をどう解釈したのかクラウディアはニッコリと笑った。
「水鏡の予測だと人的被害はまだ出ないみたいだけど、その代わりに田畑に被害が出るみたい。農作物もこの国の重要な資源。みんなで頑張って守ろう!」


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
魔物討伐
担当ST
へいん
■成功条件
1.イブリース化したキツネの撃退。
2.畑の防衛。
おはようございます、へいんです。
今回はオーソドックスな化け物退治。イブリースと化してしまった獣の撃退です。
農家の敵をみんなで頑張ってやっつけましょう!!!

以下は水鏡より得られた情報。

■敵情報
・化け狐 ×1
 熊よりも一回り大きい巨大なキツネ。
 敵はこいつ単体ですが、それなりにタフで手強いので注意が必要。
 鋭い牙と爪による物理攻撃が主体。遠距離攻撃の手段は持たない。
 中、遠距離の相手には突進攻撃を仕掛けるが、基本的には近くの敵を狙う。
 巨体に見合わぬ機動力を持つ。
 あまり遠距離で攻撃し過ぎると、そちらに標的を移して攻めようとする恐れあり。その場合は上述した突進攻撃に要注意。
 イブリース化の影響で凶暴になっているが賢く、劣勢だと判断すると逃げるかもしれない。逃走された場合は失敗となりうるので、逃がさないように確実に倒しましょう。

■敵出現場所
・OPの通り、白昼堂々と片田舎の畑を荒らしに出てきます。
 化け狐の目的は作物なので、荒らされないように畑を守りましょう。
 農民の夫婦は予め逃がしておけば問題はないはずです。
 敵情報にもある通り、化け狐はある程度弱まると逃げ出します。その場合は近場の森へと逃げ込むでしょう。森林を第二の戦場とするなら、それに応じた対策もあると有利に働くかもしれません。森に入られないようにするのも一つの手ですが。
 

 以上。皆様のプレイングをお待ちしております。
状態
完了
報酬マテリア
6個  2個  2個  2個
23モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
8/8
公開日
2018年06月11日

†メイン参加者 8人†




 土の匂いが風に舞うイ・ラプセルの片田舎。普段は平穏長閑なこの辺境も、今日は少しばかり剣呑とした空気が漂っている。イ・ラプセル自由騎士団のオラクルが、化け物退治を目的にこの地を訪れていたからだ。
「そういう訳ですので速やかな退避をお願いしますね。畑の方は私達が何とかしますので」
 農家の夫婦にそう告げたのは『護神の剣』カスカ・セイリュウジ(CL3000019)だ。カスカの言葉を受けた夫婦は顔色を変えると、急いで荷物を抱えて避難していく。サポートのオラクルが付き添っているし、問題はないだろう。
『皐月に舞うパステルの華』ピア・フェン・フォーレン(CL3000044)は去って行く夫婦の背中を見て一息吐いた。
「これで一般人への人的被害は大丈夫ですね」
「そうですね。まあ、とりあえずは」
 若干含みありげなカスカの発言にピアは首を傾げる。
「何か気になる事でもありましたか? カスカ様」
「まあ多少。これは私がさっき調査した事なんですが」
 そう前置きをしたカスカの言葉にピアは相づちを打つ。頭のうさ耳が可愛らしくゆれた。
「化け狐の過去の出現情報を聞き込みして調べたんですが、ちょっと思わぬ話を耳にしましてね」

「汽笛の音?」
 ロープを手に作業していたウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)は、ピアの話を聞いて思わず手を止めた。
「はい。カスカ様の話によると、標的の出現情報は得られませんでしたが、代わりに数日前の深夜に汽笛の音を聞いたという情報があったそうです」
 ウェルスはロープを力強く張り直しながら思考する。
 汽笛の音。そして今回のイブリース。それらが示す物は一つしかない。
「数日前までこの近辺を幽霊列車が走っていたって事か。ゾッとしないな」
 幽霊列車――ゲシュペンスト。各国で問題となっている走る災厄だ。その正体も目的も未だ不明。ただ幽霊列車が走った後は何かしらの被害が出ると怪談じみた噂は耳にした事はある。
 妙な寒気を感じたような気がしてウェルスは小さく身震いをした。
「そういえば、この依頼の他にもイブリース討伐の依頼がいくつか出ていたわね」
 話に割り込んできたのは『RE:LIGARE』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)だ。ミルトスもウェルスらと同様にロープや工具を手に罠を張っている最中だった。しかし手を止めざるを得ないような話が聞こえたので中断も致し方ない。
 ミルトスは記憶を辿るように視線を宙に向ける。ミルトスの言う通り、他にもイブリース関連の依頼があったとウェルスも記憶していた。
 イ・ラプセル国内で同時期にイブリースが同時出現。それ自体はさほど珍しいという訳でもないのかもしれないが……。
「どうにも嫌な予感がするな」
 ウェルスの熊顔が少し曇る。そんな彼を見てミルトスがニヤリとする。
「幽霊列車、怖いわよね」
「いや怖くはないが……なんだその笑みは」
 もしや先程の身震いを見られていたのか。あれも怖かったからとかではないのだが。ウェルスは助けを求めてピアの方を見る。
「ピア嬢、出来ればミルトス嬢の誤解を解いてやってくれ」
「大丈夫ですよウェルス様。幽霊が出てもあたし達がいますから!」
「だから怖がってないって!」

「やれやれ、戦闘前だというのに賑やかなものだね」
 少し離れた所の騒ぎを聞きながら『イ・ラプセル自由騎士団』アリア・セレーネ(CL3000180)は苦笑する。
 まあいざという時に緊張して動けないというよりはマシだろう。もっとも先の決戦を潜り抜けたオラクル達に限ってそのような事はないだろうとアリアは思っているが。
 さておきアリアは汗を拭い作業の進捗を確認する。化け狐を嵌めるための罠の作成はおおむね順調と言って良いだろう。
 アリアは専ら地面に穴を掘っていたが、既に何カ所か穴を掘り終えている。
 農家から借りてきたスコップでやっていたが、流石に人数分は揃えられなかったので穴の数はさほど多くは出来てない。
「おおー! なんだここは! 穴だらけだ!」
 穴ぼこだらけになった土地を元気な声を上げて『豪拳猛蹴』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)が駆けていく。
「カーミラ君、危ないからあまり走り回るなよ。そっちも穴があるから気を付けるんだ」
「分かった!」
 ホントに分かってるのか不安になる返事だったが、気を取り直して罠の作成に戻る。
「あとはもう少しロープが欲しいな」
「ふふふ、まだこっちに余ってるよ。使っておくれ」
 そう言ってロープを渡してくれたのはトミコ・マール(CL3000192)だ。
「有り難う。助かるよ」
「良いってことさ。これもアタシの仕事だからねぇ。ほら、カーミラもこっちに来て手伝っておくれ」
「はーい!」
 カーミラにも仕事を回すトミコの配慮にアリアは感心する。全体を良く見て、皆の事を気にかけている。まさにイ・ラプセルの肝っ玉母さんと言った所だろうか。
 アリアはほんの少しの居心地の良さを感じながら、穴掘りを続けるのだった。

 一方『イ・ラプセル自由騎士団』グウェン・スケイリー(CL3000100)は、丁度森の中から帰って来た所だった。その隣にはカスカの姿もある。
 グウェンはサバイバル知識を使って森を下見していたのだが、その帰りに同じく森を探っていたカスカと合流したのだ。探索の結果はまあ上々と言った所か。
「この森の獣道や獲物が逃げ込みそうな場所は大体検討がついた。罠の方も重畳だ」
 とはいえ罠はロープや簡易的な落とし穴に頼った物ばかりだ。道具としてトラバサミが持ち込めればもう少し効果的な罠もいけたのだろうが……。
 グウェンの思考を読んだのかカスカが隣で頷く。
「罠とかそこらへんは国が用意してくれたら良かったんですがね。ほんと気が利きませんね」
「いや、私はそこまでは言ってないが」
 歯に衣着せぬカスカの物言いにグウェンは少し引く。
「どうも」
「褒めてもいないぞ」
 ともあれこれで大方の準備は整った。あとはカスカが調査して見つけた、大型の獣が通った痕跡から大まかな位置予測をして罠を仕掛けるだけだ。
 罠がどれだけ役に立つかは分からないが、これで行動を抑制出来れば儲けものだ。
「細工は流々、あとは仕上げを御覧じろ、だな」
 準備が整いつつある戦場を前にしてグウェンは小さく独りごちた。


 無事に準備が終わった後はひたすら標的の到着を待った。各々が物陰に身を隠したり、周囲を索敵したり、上空から目を光らせながら警戒態勢を続ける。
 そして小一時間ほど時間が経った頃、ようやく現場に動きが生じた。
「あそこ、何かいるわね」
 最初に気が付いたのは双眼鏡を手にしたミルトスだった。同じように双眼鏡を持っていたウェルスも異変に気が付く。
 畑から少し離れた森の境。その木立が揺れ動き、奥側に薄らと巨大な影が見えていた。
 その発見はマキナ=ギアによって直ぐさま全てのメンバーに伝達される。
 意外にもあっさりと発見できた事に対する安堵はあったが、獲物が森から姿を現した事で弛緩しかけた空気がまた張り詰める。
 デカいのだ。全長は4~5Mほどだろうか。確かにそんじょそこらの熊よりも一回り大きい。
 化け狐は森から堂々と歩み出てくるとそのまま畑に一直線に向かってくる。化け狐が歩む直線上にはオラクル達が仕掛けた罠があるのだが……。
「……」
 狐は少し訝しむように立ち止まった後、罠を避けるように迂回を始めた。
 罠に嵌まった所を奇襲できればという考えもあったが、どうやらそれはダメだったようだ。とはいえまだ罠には使い道がある。
 むしろ本番はここからだ。オラクル達はそれぞれの武器を手に臨戦態勢へと入った。

 誰よりも早く狐に斬りかかったのはピアだ。ラピッドジーン肉体を加速させたピアは、殆ど一瞬で化け狐の懐まで移動した。
「これもお仕事でございますので、本気で行かせて頂きます」
 そして狐が驚愕に硬直した隙を付いてヒートアクセルを叩き込む。放たれた銃剣による最高速の一撃が、化け狐の喉元に浅くない切り傷を負わせる。
 確かな手応え。だが――。
「――くっ!」
 攻撃を受けた化け狐が反撃に転じた。鋭い爪が薙ぎ払うように振るわれ、ピアの細身に命中する。重い一撃だ。1対1では何時まで持つか分からない。だがこちらは一人じゃない。
 不意に狐の体から火の手が上がった。
「畑荒らしとは困ったものだな。聞きしに勝る図体だが、そんな大きさをしているから、腹が減るのではないのかね?」
 アリアの緋文字による遠距離攻撃だ。更にそこに重なるようにウェルスのワイヤー攻撃が飛んでくる。化け狐は予期していなかった襲撃の連続に混乱していた。
 そしてその刹那のやり取りは、オラクル達が有利なポジションに移動するための良い時間稼ぎになったと言える。

 狐は火の粉を払い前進しようとする。多少のダメージは負ったが大した事はない。今の目的は農作物だ。
「こんな時にも餌に向かうだなんて……行動が分かりやすく害獣ね」
 そう考えた狐が畑に向かおうとした矢先、鼻っ面目掛けて拳が飛んできた。脳を揺さぶられ狐は思わずたたらを踏む。
 畑を守るよう陣取っていたミルトスから震撃によるカウンターを貰ったのだ。狐の動きが僅かに鈍る。当然、その隙を逃すオラクル達ではない。
 グウェンが獣のような雄叫びと共に強打を振るう。狐はパラライズに掛かりこそしなかったが、その迫力に目を奪われた。
「前にばかり気を取られていると危ないですよ。こんな風に」
 いつの間にか狐の背後に移動していたカスカがヒートアクセルで攻撃する。
 畑側をブロックする仲間達とは真逆の位置、つまり狐を挟み撃ちにできる位置にカスカは移動していた。これで容易には逃走出来まい。
 残りのオラクル達も果敢に攻撃を仕掛け、狐の巨体に次々にダメージを蓄積させていく。それでも狐はまだ倒れる気配はなかった。
「うおー! どりゃー!」
 元気良いかけ声――ともすれば戦場の空気感にそぐわないような快活な声と共に、カーミラの拳が幾度となく振るわれる。
 震撃による積極的な打撃で、狐の動きは慢性的に鈍化していた。
 狐からの攻撃も柳凪で受け流す事により耐えられている。とはいえカーミラの高い耐久力も無限ではないので集中攻撃をされると不味いのだが。
「さあアンタの相手はアタシだよ!」
 トミコの鉄塊が豪快な勢いで地面に叩きつけられた。衝撃波が狐まで届き、視線がトミコの方へと逸れる。それで良い。それがトミコの狙いだ。
 トミコは普段はただの食堂のおっかぁだ。でもこの場にはカーミラのようにレストラン『トラットリア マール』をひいきにしてくれている子達がいる。
 だからこそトミコは前衛で誰よりも勇敢に戦えるのだ。
「おばちゃん! ありがとーっ!」
 狐の狙いから逸れたカーミラが元気よく手を振ってくる。トミコはグッとガッツポーズをしてそれに応えた。
「これくらいお安い御用だねぇ。さあ一気に畳み掛けるよ!」

 多方面から止めどなく攻撃を受け、狐のイライラは急激に増長を続けていた。
 近場でちょこまかと動き回る人間達も鬱陶しいが、それ以上に遠距離からチクチクと攻撃してくる熊と翼持ちが狐の苛立ちを加速かせる。
 自分がこうなる少し前――大きな力を手に入れるよりも前に、人間の子供に石を投げられて虐められた事を思い出してしまうのだ。
 ただ自分は生きるための食料が欲しかっただけなのに。何故。どうして。
 負の感情に任せるままに、狐は標的を変更する。ワイヤー持ちの熊か。それとも――。
「ほら、どうした。君の獲物はここにいるぞ」
 と、狐を嘲笑うかのような挑発が聞こえた。言葉は理解出来なかったが、それが挑発めいた色を持っている事だけは確かに分かった。
 声の主は先程まで遠距離攻撃を連発してくれていた翼のある人間だ。その人間――アリアは、翼があるにも関わらず飛行高度は狐の目の高さ。
 馬鹿が、調子に乗るなよ人間が。直ぐに噛み付いて腹の中に収めてやる。
 アリアに食らいつこうと狐は全力で駆けだした。他の人間は何故か邪魔してこない。
 やった。予定とは違うがこいつが最初のご馳走だ。
「いやはや」
 そんな狐の心情を見透かすようにアリアは溜息を吐いた。
「ここまで作戦が上手くいくとは流石に拍子抜けだな」
 直後に狐の足に何かが絡みついた。何が、と考え即座にこの戦場に何があったのか狐は思い出す。
 ロープだ。こんなチンケな縄で今の自分を止められるものかと忘れ去っていた。
 いや、覚えていたとしても怒りに身を委ねた狐が罠を回避できたのか。答えは否だ。
 ロープに足を取られ体勢が崩れる。ふらついた足の一つが穴に落ち、更に体勢が崩れる。こうなってはもう攻撃どころじゃない。防御も回避も、ままならない。
 バランスの崩壊した巨体に一斉に攻撃が打ち込まれる。無数の傷が刻まれる。
「さて、これで終わってくれれば儲けものなんだが」
 剣を構えるは白色のリザードマン。龍氣螺合によりリミッターを外した彼女の迫力は正に龍と呼んで過言はない。
 前衛で剣を振るっていた彼女の白い体には少なくない傷が見える。これ以上長引かせるのは危険。だからこそグウェンは勝負を仕掛ける。
 振るわれるのは必殺の一撃。脳天めがけて打ち下ろされる無慈悲の一撃。
 頭蓋砕き・乙。それが彼女が持つ最高の技の名前。
 グウェンの剣が化け狐の脳天に叩きつけられ、狐の巨体が地面と激突する。砂埃が舞い、一瞬視界が塞がれた。
「やったか!?」
「ウェルス、ダメよその台詞!」
 ミルトスが悲鳴じみた突っ込みを入れるとほぼ同時、砂埃の中から化け狐が飛び出してくる。

 狐の向かう先は森の方角だ。既に満身創痍になっている狐は、死にもの狂いで撤退の道を選んでいた。
 しかし、その行動すらも全て水鏡演算の予測の内。
「申し訳御座いませんが、こちらは行き止まりとなっております」
 誰よりも先んじて回り込んでいたピアが化け狐に新しい切り傷を増やす。
 またこいつか! 最初と同じように吹き飛ばしてやる!
 しかし、ピアを薙ぎ払おうとした化け狐の攻撃は途中でピタリと静止する。
「ふぅ、ようやく効いてくれたか」
 ウェルスは手元のワイヤーにしっかりとした手応えを感じながら、パラライズの行動阻害が効果を発揮した事を確信する。
 化け狐はまたもその行動を停止させられた。
 その狐に肉薄する影が二つ。
「思考が逃げに入った時点であなたの負けよっ!」
 一つはミルトスのものだ。
 少女の二足が独特の体重移動を刻み、そこから化け狐の胴体へと向けて掌底が打ち出される。
「私を無視してトンズラしようとは良い度胸ですね」
 もう一人はカスカだ。納刀された刀を腰だめに構え、居合抜きの姿勢に入っている。
 鞘内部の空気を破裂させ剣撃を加速させる天理真剣流・発破抜打だ。
 先に技を放っていたミルトスを追い抜く速度で居合い抜きによる一閃が決まり、それにやや遅れる形でミルトスの猛訣掌が狐に命中する。
 斜め上へと繰り出された掌底に狐の巨体が一瞬宙に浮かび、その体を内部から破壊する。
 化け狐の体躯が地に倒れ伏す。今度はもう起き上がってはこなかった。


 とはいえ狐は死んではいない。
 元々不殺のつもりだったのだから当たり前だ。
 無力化して数刻もしないうちに、アクアディーネ権能『浄化』の力によってイブリースの呪縛から解放されていた。
「あの化け狐がここまで小さくなるとはな」
 感心した風にグウェンが足元を見下ろす。視線の先には子犬サイズの狐がお座りしていた。
 イブリース化の影響で体格が変わるモノもいるとは聞いた事はあるが、これはギャップが強すぎる。
「なあお前、どうしてあんな事になっちまったんだ?」
 ウェルスが屈みながら動物交流の力を使って子狐に問いかける。
 すると子狐は慌ててミルトスの足の影に逃げ込んだ。
「あら、くすぐったいわね」
「どうやら君は怖がられているな」
「こ、こわ……!」
 アリアの冷静な分析にウェルスは固まった。
「まあ熊ですし仕方ないでしょう。こういう時こそ美少女の出番ですよ、カーミラ」
 カスカに促されてカーミラが狐に問いかける。
「なんであんなに大きくなっちゃったの?」
 問うと狐は何事かを語り始めた。簡易的な話しか出来ないが、それでも時間を掛けて事情を聞いた。
「そうか、人間に虐められて負の感情が」
 狐の話を聞いた一同は何とも言えない感情に囚われた。
 人間の子供に石を投げられ怪我を負い、餌も取れずに空腹に陥った。そこから湧いた負の感情を件の幽霊列車によって増幅させられてしまったのだろう。
「これも人間の業ってやつですかね」
「そうかもしれないな」
 カスカの言葉にグウェンが曖昧な返事を返す。
 微妙になった空気を切り裂くように誰かの腹の音が鳴った。
 一同は脱力して崩れ落ちる。

「皆様どうされたのですか? 仲良くずっこけて」
 そこへタイミング良くトミコとピアが戻ってきた。二人は農家の夫婦に任務の完了を告げに行っていたのだ。
 二人とも両手に沢山の野菜を抱えている。
「素敵なお野菜をいっぱい頂けました」
 そう言って破顔するピアの隣で、トミコも同じくらいの笑顔を浮かべた。
「さぁて帰ろうかね、みんなおなかはすいて無いかい?」
 トミコの質問にオラクル達は顔を見合わせる。答えは――言うまでもない。
 その日の晩、イ・ラプセルのとあるレストランではささやかな宴会が開かれたという。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†


†あとがき†

という訳で害獣退治は無事に完了です!
畑は無事に守られて人間の食は守られました。
元に戻った子狐は、自由騎士団で一時的に保護したのち、問題がないと判断されれば野生へと返される事でしょう。

MVPは狐を的確に釣って罠に嵌め、チャンスを作り出した貴方に差し上げます!

皆様素敵なプレイングありがとうございました! お疲れ様です!
FL送付済