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【シャンバラ】破却すべし、聖霊門



●水の国に今は立って
 マリアンナ・オリヴェル(nCL3000042)は感謝している。
 それしか手段がなかったとはいえ、海を渡ってやってきたこのイ・ラプセルという国。
 狂信者に追われる日々を過ごしていた彼女にとっては、夢のような時間だった。
 縁もゆかりもない自分を迎え入れてくれたこの国を、最初は全く信じられなかった。
 いや、正直にいえば今もその思いはまだ自分の中に残っている。
 それは仕方がないことだ。
 何せ、彼女が触れてきた人の良心は、全て自分の仲間からのものだったから。
 魔女という呪われた血筋の自分を大した理由もなく受け入れてくれる。
 そんな人間がいるなんてありえない。
 そう思ってしまう程度には、彼女は過酷な日々を送ってきたから。
 だから根付いてしまった警戒と不信はそう簡単にほぐれはしない。
 それでも、彼女は感謝している。
 自分を受け入れようとしてくれた、この国の人々に。
 自分に世話を焼こうとしてくれた、自由騎士達に。
 自分と友達になろうとしてくれた、彼女や彼に。
 感謝しているからこそ、マリアンナは尽くさなければならないと思うようになった。
 自分に端を発する、この国とシャンバラとの闘い。
 当たり前のようにマリアンナは巻き込んでしまったという責任を感じていた。
 自由騎士達にそれを告げれば、「そんなことはない」と言うのかもしれない。
 だが事実はどうだ。
 今という現状、この窮状を招いたのが自分でないと、どうして言える。
 この国の人々に感謝している。
 だからこそ心は痛み、胸は苦しくなるばかりであった。
 努める必要がある。尽くさなければならない。
 本当の友となるならば。
 後ろめたさに囚われることなく、警戒も不信も全て振り切って、彼らと手を握るために。
 そう、考えることができるようになったから。
 この国の人々を信じたいという思いを、今の彼女は確かに抱いていた。

●残された時間はない
 聖霊門。
 それは魔導の国であるシャンバラが誇る長距離間移動設備である。
 どこにでも移動できるわけではなく、パスが開通した聖霊門同士で行き来するだけ。
 しかし、船がなくとも海を渡ることができ、一瞬で山脈を超えることもできる。
 移動手段という分野においては、間違いなく最高峰のうちに数えられる一つだろう。
 ――そんな、最悪の侵略道具でもある聖霊門が、イ・ラプセルにできつつある。
「そう、みんな頑張ったのね……」
 北部の森で起きた戦いの話を聞いて、マリアンナは小さくうなずいた。
 そこでは、聖霊門の開通を阻止しようとした自由騎士と魔女狩りとの間で戦闘が勃発。
 しかし数の差などもあって、結局自由騎士は攻めきれず一度撤退することになってしまった。
 だが魔女狩り側も無傷ではなく、開通の儀式を行なっていた司教が大きな傷を負った。
 儀式を行なえるのは、そこにいる中では司教だけだ。
 その司教が動けなくしたため、完全な聖霊門の開通は阻むことができた。
 つまりは、ある程度の時間は稼げたわけだ。
 だが、それは聖霊門の開通を先延ばしにしたに過ぎない。
 すでにゲオルグという男が開通しかけた聖霊門を使ってシャンバラに帰還している。
 これは、転移の道が成立しかけている事実を示していた。
 もし、司教が儀式を再開すれば今度は大した時間もかからず門は開通するだろう。
 そうなれば、シャンバラは手間をかけず戦力をイ・ラプセルに持ち込めるようになる。
 まさに最悪の事態だろう。
 自由騎士団が取るべき手段はただ一つ、司教が動けないうちに叩くことである。
 魔女狩りも前の戦いで数を減らしている。
 つまり、叩くならば今がまさにチャンスということだ。
 召集された集められた自由騎士達は、今度こそという強い決意を漲らせた。
 そして、そこに居合わせたマリアンナが彼らに向かって決然と言う。
「前の戦いにいなかった私がいうのが虫のいい話だけれど、私も連れて行って」
 自由騎士達に残された時間はない。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
対人戦闘
担当ST
吾語
■成功条件
1.司教を倒し、聖霊門の完全開通を阻止する
吾語です。
多くは語りません。今度こそ決着をつけましょう。

◆成功条件詳細
 司教を討伐して聖霊門の完全開通を阻止する。

◆敵
・魔女狩り
 軽戦士×3
 重戦士×3
 魔導士×3
 ガンナー×2
※医術士が全滅しているため、まだ傷が癒えていません。
 負傷の影響で一人あたりの能力が下がっています。

・黒頭巾の司教
 バトルスタイルはネクロマンサーです。
※医術士が全滅しているため、まだ傷が癒えていません。
 負傷の影響で能力が下がっています。

◆舞台
 イ・ラプセル北の森の奥。
 魔女狩りが木を伐採して広場のようになっている場所です。
 今回は昼間の襲撃となります。
状態
完了
報酬マテリア
2個  6個  2個  2個
14モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
10/10
公開日
2018年10月11日

†メイン参加者 10人†



●戦いを前に
 現場に着いたとき、自由騎士達がまず感じたのは鼻を衝く異臭だった。
「……ひどい有様ね」
 そこに広がる光景を目にしたマリアンナ・オリヴェル(nCL3000042) が、表情を硬くして呟く。
 目に見えるのは、死体。死体。死体。
 いずれも、頭巾をかぶった魔女狩り達の成れの果てであった。
 以前の戦いで倒れた者が治療もされないまま、野に放置されたのだろう。
 そして傷も癒えぬまま、時間の経過と共に体力が尽きて、彼らは――
 異臭は、物体と化した魔女狩りから放たれているものだった。
「イヤな感じ。……本当に、胸がザワつくわ」
 濡れた地面を踏みしめて、『梟の帽子屋』アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)が顔をしかめる。
 これは戦った結果だ。
 だがこれこそが戦争の一端だ。
 それを理解するからこそ、心底から苦々しい。
「ええ、そうですわね。これは、やりきれないものがありますわ」
 アンネリーザに同意を示したのは、『高潔たれ騎士乙女』ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)である。
 死を厭う彼女は、その場に立って亡き魔女狩り達へと黙祷を捧げた。
 その様子を、『魔女狩りを狩る魔女』エル・エル(CL3000370)が醒めきった目で見ている。彼女の口元に、冷ややかな笑みが浮かんだ。
「優しいのね、そんな無駄な祈りなんてして」
「その言い方は……」
「やめろって」
 反発を見せるアンネリーザに、『星達の記録者』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)が割って入った。
「これから大一番ってときに、何してるんだよ」
 そう言われては、アンネリーザも引き下がるしかない。
 ウェルスに視線を向けられ、エルもついと目をそらした。
「やれやれ、死と向き合うのは私のような者だけで十分だろうにな」
 生じかけた対立が消えてから、『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)が小さく息を吐く。
 彼女はまだ魔女狩りの死体から目を外さないマリアンナの背中を軽く叩き、
「貴様もいつまでそんなモノを気にしているんだ。自分から嫌な思い出をほじくりかえすこともないだろうに」
「別に、そんなんじゃないわ……」
「私からすれば、どうしてついて来たんだか。戦力としては有難いが」
 マリアンナは何も言わずに、小さくうつむく。
「この光景を見ても、君はシャンバラを滅ぼしたいと思うかい?」
 問いかけたのは、『極彩色の凶鳥』カノン・T・ブルーバード(CL3000334)だった。
「…………」
 マリアンナは、答えなかった。
「オイ、無駄話はそこまでにしておけよ。……見えてきたぜ」
 強化した視覚で辺りをうかがっていた『エルローの七色騎士』柊・オルステッド(CL3000152)が、皆へと注意を促す。
 自由騎士達の間で緊張が強まった。
 相手は、一度こちらを退けている狂信の怪物共。
 どうしたところで、身に力が入ってしまう。
「フフフフフ、今回こそはシャンバラの魔導技術、頂戴してやるわ~」
 中には、『翠氷の魔女』猪市 きゐこ(CL3000048)のように己の野望をむき出しにしている者もいたりするが。
「人様の国に勝手に変なもの建てるなんて、絶対許さないからね!」
「そうそう、魔女狩り全員、叩きのめしてやるわよ」
 『全力全開!』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)と『イ・ラプセル自由騎士団』シア・ウィルナーグ(CL3000028)はすでにやる気を漲らせている。
 だがそれは、自由騎士全員の気持ちの代弁でもあった。
 イ・ラプセルを守ろうとする気概。それは、全員が共通して胸に宿すものだ。
「――行くぜ!」
 ウェルスの一声を合図に、自由騎士が敵陣へと踏み込んでいく。

●ここはイ・ラプセルだ
 戦いは、エルの強襲から始まった。
「魔女狩りィィィィィィィィ!」
「な、何だこいつは!?」
 黒い頭巾の魔女狩りを見るなり、エルは目を見開いて絶叫した。
 空より、大口径の銃をブっ放してまずは一人、敵の軽戦士に傷を穿つ。
 純白の祭壇が設けられた広場は、その銃声によって戦場に変わった。
「イ・ラプセルの自由騎士……、もう、来たというのか……!」
 白い頭巾をかぶった司教が、ぎょっとして立ち上がる。
 だが立ち上がった瞬間に司教はその身をふらりとよろめかせた。
 体力が戻っていない証拠だ。
「イケる……。畳みかけるぞ!」
 目ざとくそれに気づいたウェルスが、二丁拳銃を構えながら皆に告げた。
 襲われた魔女狩りの方は、大半が未だ戦闘態勢に移れていない。
 慌てて武器を手に取ろうとした重戦士を、シアが狙った。
「手負いだからって、手加減はしないんだから!」
 加速をつけての、レイピア二刀流による斬撃。
 音は高く一度だけ、シアの手にかすかな手応えが返って、重戦士の胸が派手に裂けた。
「ぐ、があああああああああ!?」
「ひっ!?」
 仲間の悲鳴に、ガンナーが息を引きつらせた。
「今ですわ――!」
 ジュリエットが、溜めていた力をそこで開放する。
 圧縮された魔導の力は降り注ぐ光の矢となって、ガンナーとさらに近くにいた軽戦士を巻き込んで炸裂した。
「あ、ぁ……」
 敵二名が、声もあげられないまま倒れ伏す。
 ミトラースの権能がもたらす魔導への耐性も、強大な威力の前にはさすがに歯が立たなかった。
 この結果に、技を放ったジュリエットが驚いた。
「これが、イェーガーの力なんですのね……」
 マリアンナがもたらした技術を使っての攻撃であったが、それは術者本人の目を丸くするくらいの効果を見せていた。
「クソ、クソォ!」
 ようやっと、戦意を取り戻した魔女狩りが大きな斧を振り上げようとする。
 その足元で銃弾が爆ぜた。
「うおお!?」
 敵が体勢を崩す。生じた隙を、アンネリーザは見逃さなかった。
「そこッ!」
 二度目に放たれた弾丸は敵の胸部近くに突き刺さり、絶叫が響いた。
 自分で撃っておきながら、アンネリーザは眉をきつく寄せる。
 気持ちの悪い手応え。やはり、自分は戦いが嫌いだ。それを再認識した。
「神敵め、神敵めェェェェェェェェェ!」
 ガンナーが吠え猛りながら滅茶苦茶に銃を撃つ。
 運悪く、その一発がマリアンナの肩へと命中し、彼女の顔が苦痛に歪んだ。
「く、ぅ……!」
「おっと、それはいただけないな」
 歌うように言いながら、カノンの魔導がマリアンナを癒す。
 カノンは氷が如きまなざしを敵ガンナーへと向けて、
「無粋だ。無粋だよ、苦し紛れの一撃など全く無様で、美しくない」
「貴様、戦場に粋を求めてどうするんだ、おい」
 呆れ顔を見せながら、ツボミがマリアンナへと寄る。
「行けるか、マリアンナ」
「大丈夫よ。問題ないわ」
「ならば、できる限りでいい、行け。別に目立つ必要まではないがな」
 バックアップは任せろと言外に語り、彼女はマリアンナの肩を叩いた。
「……ええ」
 短くうなずき、マリアンナが掴んだ矢に魔力を込める。
 ――戦いは、自由騎士側の圧倒的優勢で進んでいた。
「どうしたの、魔女はここよ? さぁ、狩りなさいよ。狩れるものならね!」
 自ら前に出ながら、エルが銃を撃ち続ける。
 相対する魔女狩りはその気迫に圧され、ロクに攻撃もできず撃ち抜かれた。
「ひぃ、ひぃぃ……!」
 完全に戦意を挫かれ、魔女狩りが背を向ける。
「逃げられると思わないで」
 だが、エルは容赦をしなかった。再びの銃声が響いた。
 魔女狩りはくぐもった声をあげ、そのまま動かなくなった。致命傷である。
「…………ッ」
 見ていたアンネリーザが顔を歪める。
 だが今は戦時、エルに言葉を向ける余裕などあるはずもなく、
「うおあああああああああああああああ!」
 突っ込んでくる魔女狩りへ、彼女はライフルを向けた。
「簡単に自暴自棄になるくらいなら、最初からこんな戦いに加担しないで!」
 アンネリーザの訴えは、悲鳴にも近いものだった。
 同じ思いを、ジュリエットも抱いている。
 強襲したのは自由騎士だが、それにしても魔女狩りの様子は酷いものだった。
 シャンバラの者にとってここは敵地。
 補給も望めず、傷を癒せる者は先の戦いですでに自由騎士が倒し切った。
 そして数日、体力のない者はそのまま死に絶え、生きている者も傷の手当ても完全でない状況で、ほぼ全員が深い疲労から衰弱しかけている。
 初戦こそ、その狂信によって自由騎士を下した魔女狩りも、こうなってしまえばもはや限界は見えていた。人は、有限なのだ。
「うおお、邪悪め。……我らが主の愛も分からぬ蒙昧共め!」
「ふざけたこと、言わないでよ!」
 のたまう魔女狩りに、カーミラが叫びを返す。
 力が込められた拳が地面を叩いて土砂を巻き上げた。
「ここは――イ・ラプセルだァァァァァァァァ!」
 敵数人を吹き飛ばし、彼女は己の威を示す。
 魔女狩り側に敗因があるとすれば、まさに彼女が叫んだそれ。
 ここが、蒼き水の神アクアディーネの治めるイ・ラプセルであったことだ。
 魔女狩りがミトラースを信奉するように、自由騎士もまた同じ。
 己の信じる神のため、何より自らの信念のために、この場にいるのだ。
 そして、
「おのれ、おのれ……!」
 魔女狩り達が総崩れとなる中、司教はかろうじて戦意を保っていた。
 だが周囲はすでに自由騎士に囲まれ、退路はない。
「さぁ、観念してもらうよ!」
 シアがレイピアを構えて司教に迫ろうとする。
「く、来るなァァァァァァァァ!」
 吼えると同時、シアの足元が泥のように粘化した。
「これ、やっぱりネクロマンサーの……!?」
 進もうにも、地面が足にまとわりついて思うように動けない。
 それでも、
「この間合いなら、十分――!」
 次の瞬間、レイピアの切っ先が司教の肩を抉っていた。
「ぎひぃ!」
 司教は後ずさり、近くに倒れている魔女狩りに手をかざす。
「守れ、わ、私を守れェ!」
 命じると魔女狩りが立ち上がる。
 倒れた仲間を再び戦力として扱う、これもまたネクロマンサーの力。
「やってくることはなぁ、分かってたんだよ!」
 いち早く、柊が反応した。
 彼女が振るった闘気の刃が、傀儡と化した魔女狩りを直撃した。
 だが、傾ぎはすれども倒れはしない。それを見て、柊は舌を打った。
「ああ、そうかい。だったら直接叩いてやるよ!」
「か、勝手にやっていろ……!」
 魔女狩りへと向かう柊を罵って、司教は何とか逃げようと後ろを向く。
 しかしそこには、すでにきゐことウェルスが回り込んでいた。
「どこかへ行けるつもりなのかしら?」
「逃げられると思うなよ、シャンバラの手先」
「ぐ、うぐぐ……!」
 進退窮まり、司教が視線を左右に巡らせる。
「何をしている魔女狩り共! 守れ、わ、私を助けろォ!」
 大上段に助けを求めても、応じる返事は一つもなかった。
「終わりだ」
 酷薄に告げるウェルスに、司教は噛み合わせた歯をむき出しにする。
「ミ、ミトラースよォォォォォォォ!」
 突っ込んでくる司教を迎えたのは、ウェルスの銃弾ときゐこの放った魔導の寒波であった。
 この異国の地で、神の助けは訪れなかった。

●命の意味はいずこにありや
「う、うう……」
「助けてくれ……、助けてくれぇ……」
 戦いが終われば、そこには苦痛にあえぐ魔女狩りが転がっているばかりだった。
 目の前に広がる光景を、マリアンナは静かに眺め続けた。
 その耳に、きゐこの声が届く。
「あ~……、ダメだわ、これは……」
 口惜しさに満ちたその言葉は、白い祭壇を調べた末に出たものだ。
 あわよくば聖霊門の技術を盗み、転用しよう。
 そう考えていた彼女だったが、しかし、それは夢物語に終わった。
 あまりにも、あまりにも聖霊門を構成する魔導の術式が高度すぎたのだ。
 これは、自由騎士一人が調べたところでどうにもならない。
 いやそれどころか、今のイ・ラプセル全体の総力を結集して、それでも術式の一端すら解明できるかどうか。
 これは、そういう次元の代物だ。
 一個人がどれだけ努力しても、例え奇跡を起こしても、運命を燃やしても、どうしようもないことというのは存在する。
 きゐこが思い知ったのは、魔道の国と呼ばれるシャンバラの異常極まる魔導技術の水準の高さ、それのみであった。
 全く心底がっかりだ。
「終わったー? 終わったらこっち手伝ってよー。人数が多いんだから~」
 魔女狩りをロープで縛りながら、シアがきゐこを呼ぶ。
「はいはい、仕方がないわね……」
 聖霊門に未練を残しながらも、きゐこはシアの方へと歩いていく。
「使えないならぶっ壊すのが早いと思うがなぁ」
 柊が祭壇を叩きつつ呟くが、しかし、これがまたやたら硬い。
 おそらくは破壊するにしてもかなりの労力が必要となるに違いない。
 この場にいる人員だけでは足りない可能性が高かった。
「ムカつく話だぜ」
 唇を尖らせて、柊も敵の束縛の手伝いへと向かう。
 一方で――
「覚悟はしないでいいわ。どっちでも同じことだから」
 倒れたままうめく重戦士に、エルは静かに銃を向けた。
 相手をロープで縛ることもなく、彼女はただその命を奪おうとしている。
「何をしているのですか!」
 ジュリエットが血相を変えて飛び込んできた。
「戦いは終わりましたのよ。それなのにどうして殺そうとしているのです!」
「こいつが魔女狩りだからよ」
「待ってよ。それだけの理由で……?」
 アンネリーザも厳しい顔つきでエルを糺す。
 しかし、エルは表情を一切変えずに、「そうだけど」と答えるのみ。
「こいつは私が倒した獲物よ。それについては生殺与奪は私が決めていい。事前に決めた約束は、そういうものだったはずだけど?」
「わたくし達はそれに同意した覚えはございませんわ!」
「ええ、そうね」
 ジュリエットに、アンネリーザも同意する。エルは二人を睨んだ。
「ああ、そう。……分かったわ」
 そして、エルは銃口を下げて後ろを向こうとして――
「でも殺すわ」
 ジュリエット達の虚を突いて、再び銃を構え、撃った。
「何だ!?」
 銃声が、自由騎士達を振り向かせる。
 彼らがそこに見たものは、銃を構えたままのエルと、肩に手を当ててうずくまるジュリエットの姿。
 魔女狩りを守るために、ジュリエットが身を挺したのだ。
「……邪魔をして!」
 舌を打ち、エルが再び魔女狩りを狙おうとする。
「このおおおおおおお!」
 だが、アンネリーザが掴みかかって、二人はそのまま取っ組み合いを始めた。
 エルの手から転がった拳銃が、マリアンナの足元に転がった。
「何をしているのだ、貴様達は!」
「もおおおお! そんなことしてる場合じゃないでしょー!」
 ツボミとカーミラが止めに入って、エル達をそのまま数人がかりで押さえつける。
 だが、エルは叫んだ。
「こいつらに生きてる価値なんてない! 死ぬべきよ、殺すべきなのよ!」
 そして、アンネリーザが叫んだ。
「冗談じゃないわ! 積極的に人を殺していい理由なんて、ない!」
「そ、そうですわ……」
 肩に手を当てて、ジュリエットも訴える。
「わたくし達もここに倒れている魔女狩りも、同じ人間。同じなのですわ!」
「――虫のいい話ね」
 だが水を差す、マリアンナの冷たい声。
 ハッとして皆が向けば、魔女狩りに銃を向けるヨウセイの姿があった。
「こいつらと私達が同じ? ……人間扱いなんて、されたことないんだけど」
「マリアンナさん……! やめて、やめてください!」
 彼女はジュリエットの制止も聞かずに、引き金に指をかける。
 そして、
「……カノン」
「何だい、マリアンナ」
「私はやっぱり、シャンバラを滅ぼしたいわ」
「それは、何故?」
「奪われすぎて、失いすぎたから。……優しさ一つで譲れるほど、私達は安くない。同じ人間だというなら、奪った側には奪った分に等しいだけの責任を負ってもらうわ」
 マリアンナの言葉を、エルは理解できる。
 マリアンナの言葉を、アンネリーザは許容できない。
 命の価値と命の意味。
 その重さを知るがゆえに、自由騎士達は譲り合えないのかもしれない。
 マリアンナは口元に自嘲めいた笑みを浮かべて、銃を捨てた。
「冗談よ。だから、そんなに怖い顔をしないで」
 彼女の見る先で、ウェルスが彼女に銃を向けていた。
「ああ、よかったよ。上手く銃だけ当てられるか、自信がなかったところだ」
 苦笑し、彼は構えを解く。
 緊張が満ち満ちていた空気が、やっとのことで弛緩した。
「――マリアンナ」
 少しして、空を見る彼女へと、カノンが話しかけてきた。
「何かしら?」
「一つ、ささやかな頼みがある」
「頼み?」
「ああ。シャンバラが無事に滅んだら、君を題材に曲を書かせてほしい」
 思いがけない申し出に、マリアンナは目を丸くした。
「それは、どうして?」
「書きたいと思ったからさ。芸術家にそれ以上の理由は必要ないね」
 いつものようにシニカルに語る彼に、マリアンナは目を細めて、
「少し考えさせて。目立っちゃダメって、ツボミにも言われているし」
「お、何だ何だ、私を呼んだか?」
 やってくるツボミに、カノンは肩をすくめた。
「……実に間が悪い。僕が思うに、君はやはり少し無粋だ」
「何だ、喧嘩を売っているのか。戦闘直後だというのに元気だな。買うぞ?」
「勘弁してくれ。暴力沙汰は苦手なんだ」
 二人のやり取りに笑みを送って、マリアンナも敵の拘束を手伝いに向かう。
 イ・ラプセル北部の森での戦闘は、こうして終結したのだった。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†


†あとがき†

お疲れさまでした。見事にリベンジ達成です!

シャンバラとの戦いはまだ続きますが、
ひとまずは前回からの因縁はここで清算されました。

では、またいずれかのシナリオでお会いしましょう!
FL送付済