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【ニルヴァン】初めての冬の過ごし方

●初めての冬に
ニルヴァン領は、地理的にイ・ラプセルよりもだいぶ北方に位置する。
そのため、場所によっては春の訪れがまだまだ先だったりする。
「……今日は、冷え込むな」
三月のはじめ、ニルヴァン領を訪れたジョセフ・クラーマーは白い息を吐きながら呟いた。かつてシャンバラが健在であった頃、ここは常春だった。
「冬は、毎年訪れるのであろう?」
「ああ。そういえば君は、なじみがないのだっけ」
答えたのは最初のニルヴァン領主パーヴァリ・オリヴェルである。
今回、冬に不慣れなニルヴァン領内の民たちの各資源の現状を視察するため、イ・ラプセルより派遣されたのがこの二人であった。
今回の視察先は領内でも最も北方に位置する村で、単純に考えれば最も寒い場所だ。
到着してみれば、確かに雪も積もっており、聞いた通りの場所だとわかる。
「シャンバラの地に雪、か。何とも……」
積もった雪を手で軽く掬って、ジョセフが首を傾げた。
「不思議かい?」
「四季なるものがあることは、かねてより聞き知っていた。しかし、それをこうして目の当たりにすると、やはり新鮮に感じるものだな。イ・ラプセルでも思ったことだが」
「まぁ、ミトラースがいた頃のシャンバラは、森林地帯以外は大抵が聖櫃の影響で年中変わることのない理想的気候だったし、季節の移り変わりもなかったしね」
「だからこそ、この視察には意味がある。イ・ラプセルに組み込まれようとも、この地に住まう者達は未だシャンバラが健在であった頃の感覚が根強い。冬の過ごし方についても素人ばかりであろうさ。今冬こそ、本国よりの食糧支援などもあって凌げていようが、毎年それをするワケにも行くまい。早々に四季に慣れて自給自足を成り立たせねば」
「だからこそ、僕達が来たわけだけど、ね」
パーヴァリが後ろを振り向くと、そこには数人の自由騎士達。
すなわち、冬の過ごし方について多少なりとも知識を持つ有識者達であった。
「頼むよ、この村の人達に冬の過ごし方を教えてあげてほしい」
「私からもお願いしよう。これは、実に有意義な試みだ」
かくして、自由騎士達による『冬の過ごし方講座』が行なわれることになった。
ニルヴァン領は、地理的にイ・ラプセルよりもだいぶ北方に位置する。
そのため、場所によっては春の訪れがまだまだ先だったりする。
「……今日は、冷え込むな」
三月のはじめ、ニルヴァン領を訪れたジョセフ・クラーマーは白い息を吐きながら呟いた。かつてシャンバラが健在であった頃、ここは常春だった。
「冬は、毎年訪れるのであろう?」
「ああ。そういえば君は、なじみがないのだっけ」
答えたのは最初のニルヴァン領主パーヴァリ・オリヴェルである。
今回、冬に不慣れなニルヴァン領内の民たちの各資源の現状を視察するため、イ・ラプセルより派遣されたのがこの二人であった。
今回の視察先は領内でも最も北方に位置する村で、単純に考えれば最も寒い場所だ。
到着してみれば、確かに雪も積もっており、聞いた通りの場所だとわかる。
「シャンバラの地に雪、か。何とも……」
積もった雪を手で軽く掬って、ジョセフが首を傾げた。
「不思議かい?」
「四季なるものがあることは、かねてより聞き知っていた。しかし、それをこうして目の当たりにすると、やはり新鮮に感じるものだな。イ・ラプセルでも思ったことだが」
「まぁ、ミトラースがいた頃のシャンバラは、森林地帯以外は大抵が聖櫃の影響で年中変わることのない理想的気候だったし、季節の移り変わりもなかったしね」
「だからこそ、この視察には意味がある。イ・ラプセルに組み込まれようとも、この地に住まう者達は未だシャンバラが健在であった頃の感覚が根強い。冬の過ごし方についても素人ばかりであろうさ。今冬こそ、本国よりの食糧支援などもあって凌げていようが、毎年それをするワケにも行くまい。早々に四季に慣れて自給自足を成り立たせねば」
「だからこそ、僕達が来たわけだけど、ね」
パーヴァリが後ろを振り向くと、そこには数人の自由騎士達。
すなわち、冬の過ごし方について多少なりとも知識を持つ有識者達であった。
「頼むよ、この村の人達に冬の過ごし方を教えてあげてほしい」
「私からもお願いしよう。これは、実に有意義な試みだ」
かくして、自由騎士達による『冬の過ごし方講座』が行なわれることになった。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.ニルヴァンの村人に冬の過ごし方を教える
このシナリオは「ニルヴァン領」からの陳情によって発生したシナリオです。
どうも、吾語です。今回は冬のニルヴァンからお送りします。
三月を迎えましたが、それがどうした北国じゃまだ冬真っ盛りだよ!
ということで北の村は雪の中。人々も家に閉じこもっていらっしゃいます。
彼らは冬の過ごし方を知りません。寒いわきついわ。としか思っていません。
何てもったいない!
というわけで皆さんで「冬の過ごし方」を教えてあげてください。
冬の面白さ、食べ物の美味しい食べ方など、何でも構いません。
何かを実演するのに必要なだけの資源は持ってきているものとします。
なお、今冬については資源備蓄が不足しないよう、本国から支給されていました。
ってことにしておきます。今年だけの特別措置だよ!
なので現状の資源の備蓄については特に問題はありません。
ただし、現状、村人達は冬の過ごし方を知らないので、
「上手い備蓄のやり方」を知りません。それを教えてあげるのもいいでしょう。
なお、パーヴァリとジョセフについてはお話したい人はいつでも話しかけてOKです。
それでは、皆さんのご参加お待ちしております!
どうも、吾語です。今回は冬のニルヴァンからお送りします。
三月を迎えましたが、それがどうした北国じゃまだ冬真っ盛りだよ!
ということで北の村は雪の中。人々も家に閉じこもっていらっしゃいます。
彼らは冬の過ごし方を知りません。寒いわきついわ。としか思っていません。
何てもったいない!
というわけで皆さんで「冬の過ごし方」を教えてあげてください。
冬の面白さ、食べ物の美味しい食べ方など、何でも構いません。
何かを実演するのに必要なだけの資源は持ってきているものとします。
なお、今冬については資源備蓄が不足しないよう、本国から支給されていました。
ってことにしておきます。今年だけの特別措置だよ!
なので現状の資源の備蓄については特に問題はありません。
ただし、現状、村人達は冬の過ごし方を知らないので、
「上手い備蓄のやり方」を知りません。それを教えてあげるのもいいでしょう。
なお、パーヴァリとジョセフについてはお話したい人はいつでも話しかけてOKです。
それでは、皆さんのご参加お待ちしております!
状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
2個
6個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
6/6
6/6
公開日
2020年03月22日
2020年03月22日
†メイン参加者 6人†
●白い大地と青い空
「さて、ではまずは人を集めてくれ!」
村に着くなり、『達観者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)が村人達を呼び集める。場所は、村の中央にある広場だ。今はすっかり雪の中に埋もれている。
集まった村人達は、この寒い中を外に出されて疑問半分、不満半分といった様子だ。
「何をするつもりだい?」
尋ねるパーヴァリに、テオドールは腕組みをしたまま軽く答える。
「無論、冬の過ごし方を教授するのだよ」
そして彼は集まった村人達に向かって、声を張り上げた。
「これより、冬のレクリエーション大会を行なう! 皆、楽しんでいってくれ!」
「よし、ここからは各自、前もって決めた役割通りに動いてくれ」
テオドールの傍らに控えていた『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)が、そこに同じく集まっていた自由騎士達に向かって告げる。
今回のレクリエーション、講師役は彼らであった。
「よーし、んじゃ遊ぶか!」
パシンと手を叩いて、ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)が言う。
「遊びではないのだが」
ジョセフが釘を刺そうとするが、ウェルスは「いいんだよ」を彼の肩を叩く。
「冬の遊び方だって立派なレクチャーだろうが。見とけって。スゲェの作るからよ!」
何やら、彼には彼の考えがあるようだった。
「食糧についてはテオドールとこちらで面倒を見よう」
言うアデルに、一人の自由騎士が前に出た。
「私も手伝わせてもらってよろしいか?」
キース・オーティス(CL3000664)であった。
「キースか。料理の心得は?」
「熟達しているとまでは言えないが、人並みにはできるつもりだ」
その言葉に見え隠れしている自負を感じ取り、アデルの鉄仮面がコクリとうなずいた。
「上等だ。ではこちらに来てくれ」
「わかった。微力を尽くそう」
キースはアデルたちの方へとついていく。
一方で、自分は何をしようか、と考えている者もいる。
「どうかしたのか」
ジョセフが話しかけたのは、『その瞳は前を見つめて』ティルダ・クシュ・サルメンハーラ(CL3000580)であった。
ヨウセイである彼女の方に、村人はあまり寄りつこうとしていない。
やはりシャンバラの民と、かつて魔女と称されたヨウセイの彼女。互いに思うところはあるようで、シャンバラの大司教であったジョセフも当然それを察するが――、
「それはそれとして仕事はキチンと果たすべきであろうな」
ジョセフはこんなヤツだった。
「……あ、はい。それはわかってます」
ティルダも軽くうなずいて、そして彼女はジョセフを見上げた。
しかしジョセフはといえば、その視線に気づいた様子もなくさっさと歩きだそうとしていた。軽く顔を伏せてしまうティルダだが、ジョセフの声がする。
「いつぞやについてだが、感謝している」
「え、あの……」
思いがけない言葉に彼女はバッと面を上げるが、ジョセフの背中があるだけだった。
「……不器用な人ですね」
彼女の口元に、小さな微笑みが浮かんだ。
さて、そろそろレクリエーションが始まろうとしている。
「はぁ~い……、弓山育ちのメーメーちゃんだよぉ~……」
準備を終えた村人達の前に、村で借りた斧を担いだメーメー・ケルツェンハイム(CL3000663)が軽く手を挙げて声をかけた。
まだ少しザワついている村人達へ、彼女は斧を掲げて宣言した。
「第一回、シャンバラよ冬を思い知れレクリエ~ション、始まりますよぉ~……」
そんなワケで、何か、始まるらしい。
●煮たり切ったり調べたり
「それではご婦人方、私が教えたように、まずは具材の下ごしらえから始めてほしい」
村の中央広場で、テオドールが指示を飛ばしている。
その傍らにはパーヴァリ。調理法に関して、詳しく教えているのは彼だった。
「オリヴェル卿が料理に強いとは、意外だったな」
「必要があったからね」
この場では詳しくは言わないが、逃亡生活では必須だったのだ。
「それにしても、やっぱりみんな慣れてないみたいだね」
「そうであろうな。生まれて初めての冬、という者が多いだろうからな」
うなずくテオドール。
「さて、人が集まってきたが、そろそろ椅子が足りなくなりそうだ。あちらは上手くやっているかな」
そして彼は、村のすぐ近くにある林の方に目をやった。
林の中ではまた、一本の木が倒れようとしていた。
「たーおれーるぞぉ~……」
バキバキと音を立てながら倒れゆく木を眺め、メーメーが間延びした声で言う。
その周りには、同じように斧やのこぎりを持った男達が数人。
「こんな風にしてぇ~……、根元の部分を三角っぽく切るんだよぉ~……」
「ははぁ……、あんな太い木がこんな簡単に……」
男の一人が感心したように言う。
聞いたところ、これまで村でも木を切ったりはしていたらしいが、切り方が素人然としており、一本を切り倒すにもかなり労力をかけていたとのこと。
それを聞いて、メーメーは正しい切り方をレクチャーしていた。
「半分は広場の椅子に使ってぇ~、もう半分は薪にしようかぁ~……」
「薪に、ですか? 乾かさなきゃですよね」
「そうだねぇ~……、最低でも三か月……、できれば半年は乾かしたいねぇ~……」
「さ、三か月……!?」
男達がザワめく。
しかし、そのザワめきが、むしろメーメーにとっては意外だった。
「……それもわからないんだねぇ~」
常春の楽園に住んでいた彼らの無知は、どうやらかなり深刻であったようだ。
「これからやり方教えるからぁ~……」
「お、お願いします」
まだまだ、教えるべきことは山ほどもありそうだ。
その事実に、メーメーは逆にやる気をのんびり燃やすのだった。
そして、広場から少し離れた場所。
家々が立ち並ぶ場所を、キースとティルダが歩いていた。
「ふむ……、やはりと言うべきか」
「そうですね。思っていた通りの感じですね」
一軒一軒をつぶさに観察しながら、二人は互いにうなずく。
彼らがチェックしていたのは、家の建付けだった。
冬の冷たい風をしのげるかどうか、それを確認して回っていたのだが、しかし、それをやって正解だったと二人は心底思っていた。
家の建付けは、ある意味で最悪だった。
どこもかしこも隙間だらけ。土台はしっかりしているものの、肝心の建物がどうにも頼りない。そんな印象の家がかなり多かった。
シャンバラが理想郷であったからこそ、こんな雑な建築でも通用したのだろう。
それがありありとわかるような家ばかりだったのだ。
「これは、隙間を埋めればいいというものでもなさそうだな」
「よく、今までこんな状態で過ごせてきたものです……」
自由騎士を二人をして驚きを禁じ得ない、そんな家々であった。
これについては、領主の方に報告を上げるのが早いだろう。
二人は一通り家を見て回ると、中央の広場へと戻っていった。
そちらでは、アデルが主婦を相手に冬の野菜の保存法を教えているところだった。
「根菜は栄養もあるし、保存しやすい。これは優先的にとっておくべきだろう」
言って、彼が掴んだのはにんじんだった。
アデルはそれをあらかじめ掘っておいた雪穴の中に入れると、上から雪をかける。
「保存するにはこれだけでいい。雪はこういうことをするのに最適だ」
「そうなんですねぇ……」
主婦の一人がうなった。
この村の人間にしてみれば、雪などはただただ冷たいだけの邪魔なもの。
しかしそれとて、使いようによっては天然の冷蔵庫となる。
自分には思いもつかない知識を披露され、主婦達は興味津々の様子で話しを聞き入っている。こうして村の人々は長い冬の過ごし方を少しずつ覚えていった。
●寒いときには冷たい遊びと熱い食べ物を
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
突然の雄叫びは、空が夕陽によって朱色に染まった頃に起きた。
テオドールが、アデルが、何事かと見てみれば、そちらは何とも立派な小砦があった。
「おお、何だね、これは……!」
「ヘッヘッヘ、スゲーだろ!」
驚くテオドールに、砦の上で胸を張るウェルスが高く笑う。
これを築いたのは彼と――、そして村の子供達だった。
「疲れたー!」
「でも楽しかったよー!」
子供達は口々に言いながら、小砦の側面に作られた滑り台を滑って遊んでいた。
「まさか、この短時間で作ったのか?」
「おうよ! 雪を固めて作ったブロックを積み上げたぜ!」
「「たぜー!」」
砦の上で、ウェルスの左右に躍り出た子供たちが彼と同じく胸を張った。
「むぅ、これは……」
ジョセフも近づいて砦を作っている雪ブロックを観察してみた。
軽く叩いてわかるが、かなり固い。完全な氷塊である。
雪を木桶で整形し、そこに水をかけて放置する。たったそれだけの簡単な造りだ。
しかし、実際見てみればどうだ。こんなにも丈夫で、人が何人も乗ってもビクともしない。作ったのが子供だからと侮れるものではないことは一目瞭然だった。
「きゃー! 冷たーい!」
着こんだ子供達がさっそく砦を中心に遊び始めている。
それを見て、戻ってきていたティルダがポンと手を打った。
「あ、あのー、雪ウサギ、作りませんか?」
「ゆきうさぎ~? 何それ~?」
ウサギというワードに惹かれたか、数人の女の子がティルダへと近づいていった。
「雪ウサギというのはですね――」
と、説明を始めるティルダを眺めつつ、パーヴァリは静かに腕を組んだ。
「感慨深いか、パーヴァリ」
「アデル。……そうだね。そうなのかもしれない」
かつては魔女と蔑まれ逃げ続けるしかなかった自分達が、蔑む側だったシャンバラの民を前に、こうして平和な時間を過ごす。その景色に、何も感じないワケがない。
「おーい、鍋が煮えたみたいだぞー!」
キースが、遊んでいた子供達を呼びに来た。
パーヴァリ達も行ってみると、そこには煮えたぎる鍋がいくつも並んでいた。
「おお、来たかね。先にやっているよ」
切られた丸太の上に座って、テオドールが軽くて振ってくる。
煮える鍋からは大量の湯気と、そして腹を刺激するうまそうな匂いが溢れていた。
すっかり腹を減らした村人や子供たちが、次々に丸太に腰を下ろして鍋を囲う。
「こいつぁ美味い!」
声をあげる村人に、メーメーが得意げに語った。
「干物を入れたのでぇ~……、しっかりダシが出てますよぉ~……」
干物の作り方も教えて、周りからは「先生」と呼ばれるようになったメーメーだった。
そろそろ夜も更けて、燃やす焚火を灯りにしてこれから楽しい鍋会が始まる。
その中で、村の代表者が自由騎士のところにお礼を言いに来た。
「今日はありがとうございました」
「いや、必要なことだ。礼を言われることではない」
「でもどうしても言いたきゃ言っていいぜ!」
謙遜するテオドールと、堂々と偉そうにするウェルス。
まぁ、どちらも態度としては正しかろう。
「今日教えたことは、是非とも今後に生かしてほしい。今年の冬はもう終わりも近いが、次の冬の蓄えは、もう今の内からしておくべきだ」
「そうですなぁ。しみじみと感じました。冬への備えの大切さを」
説くアデルに、村の代表者はもっともだとうなずく。
「倉庫への備蓄。それも忘れないようにしてほしいものだ」
そこについでに、キースも一言添えた。
この村に冬をもたらしたのは、誰でもない自由騎士であり、イ・ラプセルだ。
だからこそ、そこに住まう民にできる限りの知恵の教授を行なうべきだと、彼は考えていた。だがそれも、無事に終わりそうだ。
「風が強くなってきたな。我々も焚火を囲うとするか」
ジョセフの言葉に皆がうなずき、村人達の輪へと加わっていく。
かくして、ニルヴァン領最北の村における冬の視察は無事に終わったのだった。
「さて、ではまずは人を集めてくれ!」
村に着くなり、『達観者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)が村人達を呼び集める。場所は、村の中央にある広場だ。今はすっかり雪の中に埋もれている。
集まった村人達は、この寒い中を外に出されて疑問半分、不満半分といった様子だ。
「何をするつもりだい?」
尋ねるパーヴァリに、テオドールは腕組みをしたまま軽く答える。
「無論、冬の過ごし方を教授するのだよ」
そして彼は集まった村人達に向かって、声を張り上げた。
「これより、冬のレクリエーション大会を行なう! 皆、楽しんでいってくれ!」
「よし、ここからは各自、前もって決めた役割通りに動いてくれ」
テオドールの傍らに控えていた『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)が、そこに同じく集まっていた自由騎士達に向かって告げる。
今回のレクリエーション、講師役は彼らであった。
「よーし、んじゃ遊ぶか!」
パシンと手を叩いて、ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)が言う。
「遊びではないのだが」
ジョセフが釘を刺そうとするが、ウェルスは「いいんだよ」を彼の肩を叩く。
「冬の遊び方だって立派なレクチャーだろうが。見とけって。スゲェの作るからよ!」
何やら、彼には彼の考えがあるようだった。
「食糧についてはテオドールとこちらで面倒を見よう」
言うアデルに、一人の自由騎士が前に出た。
「私も手伝わせてもらってよろしいか?」
キース・オーティス(CL3000664)であった。
「キースか。料理の心得は?」
「熟達しているとまでは言えないが、人並みにはできるつもりだ」
その言葉に見え隠れしている自負を感じ取り、アデルの鉄仮面がコクリとうなずいた。
「上等だ。ではこちらに来てくれ」
「わかった。微力を尽くそう」
キースはアデルたちの方へとついていく。
一方で、自分は何をしようか、と考えている者もいる。
「どうかしたのか」
ジョセフが話しかけたのは、『その瞳は前を見つめて』ティルダ・クシュ・サルメンハーラ(CL3000580)であった。
ヨウセイである彼女の方に、村人はあまり寄りつこうとしていない。
やはりシャンバラの民と、かつて魔女と称されたヨウセイの彼女。互いに思うところはあるようで、シャンバラの大司教であったジョセフも当然それを察するが――、
「それはそれとして仕事はキチンと果たすべきであろうな」
ジョセフはこんなヤツだった。
「……あ、はい。それはわかってます」
ティルダも軽くうなずいて、そして彼女はジョセフを見上げた。
しかしジョセフはといえば、その視線に気づいた様子もなくさっさと歩きだそうとしていた。軽く顔を伏せてしまうティルダだが、ジョセフの声がする。
「いつぞやについてだが、感謝している」
「え、あの……」
思いがけない言葉に彼女はバッと面を上げるが、ジョセフの背中があるだけだった。
「……不器用な人ですね」
彼女の口元に、小さな微笑みが浮かんだ。
さて、そろそろレクリエーションが始まろうとしている。
「はぁ~い……、弓山育ちのメーメーちゃんだよぉ~……」
準備を終えた村人達の前に、村で借りた斧を担いだメーメー・ケルツェンハイム(CL3000663)が軽く手を挙げて声をかけた。
まだ少しザワついている村人達へ、彼女は斧を掲げて宣言した。
「第一回、シャンバラよ冬を思い知れレクリエ~ション、始まりますよぉ~……」
そんなワケで、何か、始まるらしい。
●煮たり切ったり調べたり
「それではご婦人方、私が教えたように、まずは具材の下ごしらえから始めてほしい」
村の中央広場で、テオドールが指示を飛ばしている。
その傍らにはパーヴァリ。調理法に関して、詳しく教えているのは彼だった。
「オリヴェル卿が料理に強いとは、意外だったな」
「必要があったからね」
この場では詳しくは言わないが、逃亡生活では必須だったのだ。
「それにしても、やっぱりみんな慣れてないみたいだね」
「そうであろうな。生まれて初めての冬、という者が多いだろうからな」
うなずくテオドール。
「さて、人が集まってきたが、そろそろ椅子が足りなくなりそうだ。あちらは上手くやっているかな」
そして彼は、村のすぐ近くにある林の方に目をやった。
林の中ではまた、一本の木が倒れようとしていた。
「たーおれーるぞぉ~……」
バキバキと音を立てながら倒れゆく木を眺め、メーメーが間延びした声で言う。
その周りには、同じように斧やのこぎりを持った男達が数人。
「こんな風にしてぇ~……、根元の部分を三角っぽく切るんだよぉ~……」
「ははぁ……、あんな太い木がこんな簡単に……」
男の一人が感心したように言う。
聞いたところ、これまで村でも木を切ったりはしていたらしいが、切り方が素人然としており、一本を切り倒すにもかなり労力をかけていたとのこと。
それを聞いて、メーメーは正しい切り方をレクチャーしていた。
「半分は広場の椅子に使ってぇ~、もう半分は薪にしようかぁ~……」
「薪に、ですか? 乾かさなきゃですよね」
「そうだねぇ~……、最低でも三か月……、できれば半年は乾かしたいねぇ~……」
「さ、三か月……!?」
男達がザワめく。
しかし、そのザワめきが、むしろメーメーにとっては意外だった。
「……それもわからないんだねぇ~」
常春の楽園に住んでいた彼らの無知は、どうやらかなり深刻であったようだ。
「これからやり方教えるからぁ~……」
「お、お願いします」
まだまだ、教えるべきことは山ほどもありそうだ。
その事実に、メーメーは逆にやる気をのんびり燃やすのだった。
そして、広場から少し離れた場所。
家々が立ち並ぶ場所を、キースとティルダが歩いていた。
「ふむ……、やはりと言うべきか」
「そうですね。思っていた通りの感じですね」
一軒一軒をつぶさに観察しながら、二人は互いにうなずく。
彼らがチェックしていたのは、家の建付けだった。
冬の冷たい風をしのげるかどうか、それを確認して回っていたのだが、しかし、それをやって正解だったと二人は心底思っていた。
家の建付けは、ある意味で最悪だった。
どこもかしこも隙間だらけ。土台はしっかりしているものの、肝心の建物がどうにも頼りない。そんな印象の家がかなり多かった。
シャンバラが理想郷であったからこそ、こんな雑な建築でも通用したのだろう。
それがありありとわかるような家ばかりだったのだ。
「これは、隙間を埋めればいいというものでもなさそうだな」
「よく、今までこんな状態で過ごせてきたものです……」
自由騎士を二人をして驚きを禁じ得ない、そんな家々であった。
これについては、領主の方に報告を上げるのが早いだろう。
二人は一通り家を見て回ると、中央の広場へと戻っていった。
そちらでは、アデルが主婦を相手に冬の野菜の保存法を教えているところだった。
「根菜は栄養もあるし、保存しやすい。これは優先的にとっておくべきだろう」
言って、彼が掴んだのはにんじんだった。
アデルはそれをあらかじめ掘っておいた雪穴の中に入れると、上から雪をかける。
「保存するにはこれだけでいい。雪はこういうことをするのに最適だ」
「そうなんですねぇ……」
主婦の一人がうなった。
この村の人間にしてみれば、雪などはただただ冷たいだけの邪魔なもの。
しかしそれとて、使いようによっては天然の冷蔵庫となる。
自分には思いもつかない知識を披露され、主婦達は興味津々の様子で話しを聞き入っている。こうして村の人々は長い冬の過ごし方を少しずつ覚えていった。
●寒いときには冷たい遊びと熱い食べ物を
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
突然の雄叫びは、空が夕陽によって朱色に染まった頃に起きた。
テオドールが、アデルが、何事かと見てみれば、そちらは何とも立派な小砦があった。
「おお、何だね、これは……!」
「ヘッヘッヘ、スゲーだろ!」
驚くテオドールに、砦の上で胸を張るウェルスが高く笑う。
これを築いたのは彼と――、そして村の子供達だった。
「疲れたー!」
「でも楽しかったよー!」
子供達は口々に言いながら、小砦の側面に作られた滑り台を滑って遊んでいた。
「まさか、この短時間で作ったのか?」
「おうよ! 雪を固めて作ったブロックを積み上げたぜ!」
「「たぜー!」」
砦の上で、ウェルスの左右に躍り出た子供たちが彼と同じく胸を張った。
「むぅ、これは……」
ジョセフも近づいて砦を作っている雪ブロックを観察してみた。
軽く叩いてわかるが、かなり固い。完全な氷塊である。
雪を木桶で整形し、そこに水をかけて放置する。たったそれだけの簡単な造りだ。
しかし、実際見てみればどうだ。こんなにも丈夫で、人が何人も乗ってもビクともしない。作ったのが子供だからと侮れるものではないことは一目瞭然だった。
「きゃー! 冷たーい!」
着こんだ子供達がさっそく砦を中心に遊び始めている。
それを見て、戻ってきていたティルダがポンと手を打った。
「あ、あのー、雪ウサギ、作りませんか?」
「ゆきうさぎ~? 何それ~?」
ウサギというワードに惹かれたか、数人の女の子がティルダへと近づいていった。
「雪ウサギというのはですね――」
と、説明を始めるティルダを眺めつつ、パーヴァリは静かに腕を組んだ。
「感慨深いか、パーヴァリ」
「アデル。……そうだね。そうなのかもしれない」
かつては魔女と蔑まれ逃げ続けるしかなかった自分達が、蔑む側だったシャンバラの民を前に、こうして平和な時間を過ごす。その景色に、何も感じないワケがない。
「おーい、鍋が煮えたみたいだぞー!」
キースが、遊んでいた子供達を呼びに来た。
パーヴァリ達も行ってみると、そこには煮えたぎる鍋がいくつも並んでいた。
「おお、来たかね。先にやっているよ」
切られた丸太の上に座って、テオドールが軽くて振ってくる。
煮える鍋からは大量の湯気と、そして腹を刺激するうまそうな匂いが溢れていた。
すっかり腹を減らした村人や子供たちが、次々に丸太に腰を下ろして鍋を囲う。
「こいつぁ美味い!」
声をあげる村人に、メーメーが得意げに語った。
「干物を入れたのでぇ~……、しっかりダシが出てますよぉ~……」
干物の作り方も教えて、周りからは「先生」と呼ばれるようになったメーメーだった。
そろそろ夜も更けて、燃やす焚火を灯りにしてこれから楽しい鍋会が始まる。
その中で、村の代表者が自由騎士のところにお礼を言いに来た。
「今日はありがとうございました」
「いや、必要なことだ。礼を言われることではない」
「でもどうしても言いたきゃ言っていいぜ!」
謙遜するテオドールと、堂々と偉そうにするウェルス。
まぁ、どちらも態度としては正しかろう。
「今日教えたことは、是非とも今後に生かしてほしい。今年の冬はもう終わりも近いが、次の冬の蓄えは、もう今の内からしておくべきだ」
「そうですなぁ。しみじみと感じました。冬への備えの大切さを」
説くアデルに、村の代表者はもっともだとうなずく。
「倉庫への備蓄。それも忘れないようにしてほしいものだ」
そこについでに、キースも一言添えた。
この村に冬をもたらしたのは、誰でもない自由騎士であり、イ・ラプセルだ。
だからこそ、そこに住まう民にできる限りの知恵の教授を行なうべきだと、彼は考えていた。だがそれも、無事に終わりそうだ。
「風が強くなってきたな。我々も焚火を囲うとするか」
ジョセフの言葉に皆がうなずき、村人達の輪へと加わっていく。
かくして、ニルヴァン領最北の村における冬の視察は無事に終わったのだった。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
†あとがき†
お疲れさまでした。
かなり適切な授業ができたんじゃないでしょうか。
これで次の冬はだいぶマシになるでしょう。
それでは、また次のシナリオでー!
かなり適切な授業ができたんじゃないでしょうか。
これで次の冬はだいぶマシになるでしょう。
それでは、また次のシナリオでー!
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