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《オラトリオ1819》祝の待ち人

●
オラトリオ・オデッセイ――それは『生誕と冒険』を意味する、神がこの大地に降り立った軌跡を祝う祭りだ。
12月24日から年があけて1月7日までの二週間、人々は神の誕生を祝うのである。
国中が神様の誕生を祝う中、一人家の中で窓の外を不安げに眺めている娘がいた。娘のいる部屋には途中まで飾り付けられたツリー、中途半端にラッピングされたプレゼント、そして、それに添えるためのメッセージカードが置かれていた。
大きなため息を吐いた娘は静かに窓ガラスに触れる。その脳裏には最近よく聞く噂のことが過ぎっていた。
●
「最近、このあたりの町の外れで野盗が出るって噂があるのよ」
君たちにそう話したのは、『あたしにお任せ』バーバラ・キュプカー(nCL3000007)だった。彼女曰く、オラトリオ・オデッセイで国中がお祝いムードになりはじめたあたりから噂が出始めたらしい。
「真偽は定かじゃないんだけど、どうにもキナ臭いのよねぇ」
そこでバーバラは、自身の斜め後ろで不安そうに両の手を握りしめている娘に視線を向ける。娘の手は力を入れすぎているせいか、雪のように白くなってしまっていた。
「この娘のお兄さんが昨日出掛けたっきり帰ってこないらしいのよ。しかも、そのお兄さんの行き先が野盗が出るって噂されてる場所の近く……」
絶対に噂と何か関係があると思うのよねぇ、とバーバラは僅かに目を細めた。
「で、本題はここからなんだけど、あなたたちに噂の野盗についてと、この娘のお兄さんの行方について調べてきてほしいのよ」
バーバラの言葉に続いて彼女の背にいた娘が君たちに頭を下げた。
「兄が出掛けてから嫌な予感が止まらなくて……二人でやっていたお祝いの準備も途中なのに……続きをしなきゃと思っても何も手につかなくて……どうかお願いします」
そう言った娘の瞳には薄く涙の膜が出来ていた。
「オラトリオ・オデッセイに暗い話なんていらない、そうでしょう?」
頼んだわよ、とバーバラは君たちの肩を叩いた。
オラトリオ・オデッセイ――それは『生誕と冒険』を意味する、神がこの大地に降り立った軌跡を祝う祭りだ。
12月24日から年があけて1月7日までの二週間、人々は神の誕生を祝うのである。
国中が神様の誕生を祝う中、一人家の中で窓の外を不安げに眺めている娘がいた。娘のいる部屋には途中まで飾り付けられたツリー、中途半端にラッピングされたプレゼント、そして、それに添えるためのメッセージカードが置かれていた。
大きなため息を吐いた娘は静かに窓ガラスに触れる。その脳裏には最近よく聞く噂のことが過ぎっていた。
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「最近、このあたりの町の外れで野盗が出るって噂があるのよ」
君たちにそう話したのは、『あたしにお任せ』バーバラ・キュプカー(nCL3000007)だった。彼女曰く、オラトリオ・オデッセイで国中がお祝いムードになりはじめたあたりから噂が出始めたらしい。
「真偽は定かじゃないんだけど、どうにもキナ臭いのよねぇ」
そこでバーバラは、自身の斜め後ろで不安そうに両の手を握りしめている娘に視線を向ける。娘の手は力を入れすぎているせいか、雪のように白くなってしまっていた。
「この娘のお兄さんが昨日出掛けたっきり帰ってこないらしいのよ。しかも、そのお兄さんの行き先が野盗が出るって噂されてる場所の近く……」
絶対に噂と何か関係があると思うのよねぇ、とバーバラは僅かに目を細めた。
「で、本題はここからなんだけど、あなたたちに噂の野盗についてと、この娘のお兄さんの行方について調べてきてほしいのよ」
バーバラの言葉に続いて彼女の背にいた娘が君たちに頭を下げた。
「兄が出掛けてから嫌な予感が止まらなくて……二人でやっていたお祝いの準備も途中なのに……続きをしなきゃと思っても何も手につかなくて……どうかお願いします」
そう言った娘の瞳には薄く涙の膜が出来ていた。
「オラトリオ・オデッセイに暗い話なんていらない、そうでしょう?」
頼んだわよ、とバーバラは君たちの肩を叩いた。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.野盗、野盗のボスの捕縛
2.捕まっている人の救出
2.捕まっている人の救出
こんにちは、酒谷です。
今回はオラトリオ・オデッセイに水を差す野盗退治です。
●敵情報
・野盗 4人
特別強くもないので単体で相手取るには苦労しないでしょう。基本的に野盗のボスの指示に従って動きます。
攻撃方法
・斬りつけ 攻撃/近距離/単体
近距離にいる敵を持っている剣で斬りつけます。
・野盗のボス 1人
集団のボスで優秀な指揮能力があり、敵の状況に合わせてチンピラたちに指示を出します。
攻撃方法
・射撃 攻撃/遠距離/単体
持っている銃で遠くの敵を撃ちます。
●場所情報
時刻は昼間。町外れの少々薄暗い林の奥にアジトらしき小屋があります。
・林
薄暗い程度であまり視界に支障はありませんが、草が生い茂っていてほんの少しばかり動きにくさを感じるかもしれません。
・小屋
簡易な作りの平屋です。窓などはありますがカーテンがされており中の様子は外からでは確認できません。入口と思われるドアには簡単な鍵がかかっています。足場は特に問題ないです。ただ、あまり大きいものは振り回すのが難しいかもしれません。
●その他
野盗以外にも小屋に捕まっている人がいます。下手に野盗を刺激してしまうとその人達を人質に取られてしまうかもしれません。
今回はオラトリオ・オデッセイに水を差す野盗退治です。
●敵情報
・野盗 4人
特別強くもないので単体で相手取るには苦労しないでしょう。基本的に野盗のボスの指示に従って動きます。
攻撃方法
・斬りつけ 攻撃/近距離/単体
近距離にいる敵を持っている剣で斬りつけます。
・野盗のボス 1人
集団のボスで優秀な指揮能力があり、敵の状況に合わせてチンピラたちに指示を出します。
攻撃方法
・射撃 攻撃/遠距離/単体
持っている銃で遠くの敵を撃ちます。
●場所情報
時刻は昼間。町外れの少々薄暗い林の奥にアジトらしき小屋があります。
・林
薄暗い程度であまり視界に支障はありませんが、草が生い茂っていてほんの少しばかり動きにくさを感じるかもしれません。
・小屋
簡易な作りの平屋です。窓などはありますがカーテンがされており中の様子は外からでは確認できません。入口と思われるドアには簡単な鍵がかかっています。足場は特に問題ないです。ただ、あまり大きいものは振り回すのが難しいかもしれません。
●その他
野盗以外にも小屋に捕まっている人がいます。下手に野盗を刺激してしまうとその人達を人質に取られてしまうかもしれません。
状態
完了
完了
報酬マテリア
1個
5個
1個
1個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
11日
11日
参加人数
5/6
5/6
公開日
2020年01月14日
2020年01月14日
†メイン参加者 5人†

●
『あたしにお任せ』バーバラ・キュプカー(nCL3000007)と娘から話を聞いた自由騎士達は早速アジトらしき小屋があるという町の外れに向かおうとした。その前にとジーニー・レイン(CL3000647)は娘に近づく。不安そうに俯き眉を潜めている彼女に向かって、不安を消し飛ばすように明るい声で話しかけた。
「お嬢さん、そんな顔をしなさんな。せっかくの美しい顔が台無しだぜ。お嬢さんの名前とお兄さんの名前、教えてくれるかい?」
「あ……私はリジーです。兄はアーサーといいます」
「そうか。いい名前だ。もし野盗がいたとして、お兄さんは私達がきっと助け出す。お兄さんのために、温かいスープでも用意して待っているといい」
「! ……はい、よろしくおねがいします」
再度頭を下げた彼女に少しばかりの笑顔が戻る。それを見て、自由騎士達は絶対に事件の解決をしようと決意を新たにした。
●
自由騎士達が訪れた場所は町から少し外れた昼間でも少々薄暗い林の奥だった。道らしい道はなく、互いの草を踏みしめる音と野生の動物達の鳴き声だけが響く。二人に教えてもらった場所はこの辺りだが、と自由騎士達が周りを見渡すと草木に紛れるように簡素な平屋が経っていた。少し近付いていって『新米自由騎士』リリアナ・アーデルトラウト(CL3000560)がサーモグラフィで中の様子を確認する。
「熱源反応ありましたっ。人らしいものは合計8つ、内3つは床にうずくまってますっ」
リリアナの報告に『カタクラフトダンサー』アリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)が片眉を上げて呟く。
「ホント、悪い事はあかんねんで」
「ええ。中のうずくまっている方々に怪我などなければ良いのですが」
心配そうに顔を歪めたのは『命を繋ぐ巫女』たまき 聖流(CL3000283)だ。
「では、中の細かい様子をホムンクルスで偵察しますね」
『ラビットレディ!』ティラミス・グラスホイップ(CL3000385)はネズミ型のホムンクルスを作成した。そして、そのネズミに助けるから騒がないでと書いた紙を持たせてホムンクルスを小屋の隙間から静かに侵入させた。
偵察を開始してすぐにホムンクルスは部屋にいかにもな男達がいるのを発見した。出入り口から直にあるその部屋には、一人の男に付き添うように剣を持った二人の男がそばにいる。その後、その部屋からドアを一枚隔てた物置のような場所に、拘束されている男性一人、女性二人、それから見張りらしき男性二人を確認した。
「野盗と思われる人達と人質のような人達を確認しました。人質は荒縄で拘束されて猿轡もされてますね」
「だとすると、人質を盾にされると面倒だ。初動が勝負かな」
ティラミスの報告を受けてジーニーが呟く。
その間にもホムンクルスは室内の偵察を続けていた。
見張りと思われる男性二人はちらちらと人質達を見ているが、四六時中見ているわけではなさそうだった。ティラミスはホムンクルスに見張りの目を掻い潜って人質達に近付くように指示を出す。ホムンクルスはその指示通り、身体の小ささを生かしてこっそり人質達の元へと滑り込んだ。そして、見張りに見えないように持っていた紙をペラリと人質達の眼前にかざす。書かれていた文字に人質達は少しだけ息を飲むが、瞬きをしたり小さく頷いたりしていた。おそらく了承の意だろう。それを確認したティラミスは緊急用のホムンクルスを作成し、囮として潜入する手筈を整えた。
「では、まず私が行って野盗と思われる人達を引きつけますね」
「よろしくおねがいします」
緊急用のホムンクルスを受け取りながらたまきが言った。
「ティラミスさんが野党を引きつけている間は、人質の人達のことは私がしっかり見てますねっ」
「周りの警戒は私がするぜ」
続いてリリアナとジーニーが気合充分に告げた。
「ティラミスさん、気を付けて行ってきてな。何かされそうな時はすぐテレパスで伝えてな」
「ええ、分かりました」
小屋に近付いていくティラミスにアリシアが言葉を掛ける。それにしっかり頷いたティラミスは、単身で小屋の出入り口の扉を叩いた。
●
「あの、すみません。誰かいませんか……?」
扉越しに響いたか細い声に小屋にいる男達は互いを見合わせる。国中が賑わうこの時期にこんな薄暗い森の奥に来る人間など少数だ。リーダーが近くにいた男に様子を見てくるように指示を出すと、それに従い男は腰に携えた剣に手を掛けながら静かに扉を開けた。キィと軋んだ音を立てて開いた扉の先にいたのは、小さく震える小柄なケモノビトの少女だった。
「近くの村まで行こうとして足をひねってしまって……その上、道に迷ってしまったんです。どうか近くの村までの道を教えてくださいませんか?」
扉を開けた男は中の方に振り返ってどうしますか? と尋ねた。リーダーは少女を上から下まで観察した後、銃の手入れをしながら中に入れろと指示を出した。
招き入れられた少女に対してリーダーは上辺だけの優しい笑みを浮かべる。
「お嬢さん、ひとまず椅子に座ったらいかがかな? ……おい、椅子持ってこい!」
リーダーの声を聞いて物置らしき部屋から部下らしい一人が椅子を持ってきて少女を座らせた。その両隣に他の男二人が立つ。
「こんな森の奥で足をひねった上迷ったなんて災難だったな。それに加えて助けを求められるのが俺達だけだったとは……」
リーダーがそういった瞬間、両脇にいた男二人が素早く少女を椅子に固定させようとする。
「な、何するんですか……!?」
少女は身の危険を感じて力の限り暴れる。それを見て少女を拘束しようとしていた男が、お前らも手伝え! と叫ぶ。すると椅子を持ってきた男ともう一人が物置らしき部屋から駆けてきて、四人がかりで少女を床に抑え込む。その光景を眺めながらリーダーは部屋の空気にそぐわないほど穏やかに言う。
「そうだな……丁寧にバラして毛皮や臓器、他のパーツに分けて売り払おうか。世の中には一定の部位だけを好む奇特なやつもいるからな」
「そ、そんな……! 何でもしますから命だけは!」
「何でも、か……」
ふむ、と考え出したリーダーに部下らしい一人が提言する。
「何でもっていうなら俺らで飼うってのはどうですか?」
その視線は明らかに豊かな少女の胸に向かっていた。それに気付いた少女は喉を引きつらせる。
「そうだな……確かに悪くない身体をしてる。飼い殺して楽しませてもらった後にバラさずそのままで売り払おう」
お嬢さんほどの見た目なら高値が付きそうだ、と少女の顎を鷲掴みにした。
リーダーの言葉に青褪めた少女――のフリをしているティラミスは、その裏で外で待機している仲間達にテレパシーを送っていた。
●
ティラミスが囮として小屋に向かった後、残った四人は野盗達に気付かれないように静かに小屋に接近していた。
「人質のみなさんの熱源反応におかしなところはありませんっ」
ティラミスが小屋に入った後もずっとサーモグラフィで中の様子を確認していたリリアナが小声で伝える。
「今、野党はみんな出入り口からすぐの部屋に集まっているみたいですね」
「武器は四人が剣で一人が銃か」
たまきとジーニーがそれぞれの情報を確認し合うように囁きあう。その近くでいつ突入の合図が来てもいいようにアリシアはサンシャインダンスで戦闘体勢を整えていた。
「みんな、準備はええ?」
「はいっ」
「もちろんです」
「ああ、バッチリだ」
アリシアの言葉で四人は互いを見合わせ力強く頷く。
――カウントします。
――5。
――4。
――3。
――2。
――1……
ゼロ、と脳内に響いたティラミスからの合図に四人は一斉に小屋の中に突入した。
●
突然バンッと勢いよく開いた扉に野盗達の動きが止まる。
「私達は自由騎士ですっ! 抵抗は無駄ですよっ」
「あんたら覚悟しときや!」
真っ先に小屋に駆け込んできたのはリリアナとアリシアだった。
「さあ、こっちですよっ!」
リリアナはノット・リグレットで敵を退ける覚悟を決めながら、巧みに壁や家具を飛び越えて野盗の背後を取る。その間にアリシアが大渦海域のタンゴで作り出した大渦を野盗達に向かって放つ。
「これ以上、好き勝手させへんで! ティラミスさんから離れぇ!」
その渦は的確に野盗を捉えたかと思った。しかし、その直前でリーダーが避けろと声を張り上げた。その声に反応した野党二人がギリギリのところで渦を避けるが、残りの二人は見事に渦に捕らわれてしまう。
「ここです!」
その隙に拘束から抜け出したティラミスが追撃を仕掛けようとするが、それをリーダーの銃弾が阻んだ。そこで足が止まってしまった彼女に渦に捕らわれた野党の一人が渾身の力で剣を向ける。しかし、その剣は僅かに彼女の毛皮に切り傷をつけるだけだった。
そんな攻防の影で渦から逃れられた野盗二人は、渦を生み出したアリシアを驚異と見なして攻撃を仕掛けていた。野盗のくせになかなかに統率のとれた動きに一瞬だけ驚くが、それでも彼女は急所に当たらないように攻撃をいなした。その直後、戦斧を槍のように構えたジーニーが動きを止められている野盗の残り一人に向けて駆け出す。そして突進する勢いでバッシュを叩き込んだ。
「オラァッ!」
気合の入った掛け声とともに叩き込まれた戦斧は的確に野盗の急所を打つ。その攻撃に声にならない叫び声を上げた野盗だったが、それでもお返しと言わんばかりにジーニーに対して剣を振るった。互いが互いにダメージを与えた形になったところに、出入り口で戦況を確認していたたまきがノートルダムの息吹を発動する。
たまきのサポートによって自由騎士達の傷は自然に修復されていく。そのことに焦りを覚えた野盗達だったが、リーダーが狼狽えるなと一喝すると瞬く間に焦りをしまい込んだ。
「あのリーダー格の方、随分と冷静ですね」
「あんだけ状況把握できる頭あんなら、野盗なんてしょーもないことやめたらええねん」
一人ひとりの動きを後衛から観察していたたまきがぽつりと呟く。それを拾ったアリシアは呆れたように顔を歪める。そして動きを止めることに成功した野盗二人目掛けて太陽と海のワルツを繰り出した。的確に敵の懐に入ったアリシアの刃は確実に野盗を追い詰めていく。しかし、その影からリーダーがたまきに銃口を定めていた。冷静沈着に撃ち出された弾丸はたまきの死角から彼女を撃ち抜く。
「たまきさん!?」
「っ! 大丈夫です、問題ありません」
焦ったようにアリシアがたまきを呼ぶが、たまきは平常とあまり変わらない声色で応える。事実、弾はなかなかに深くたまきを傷つけたが傷を負った直後からすぐに塞がっていっていた。しかし、アリシアの焦りを見逃さなかったリーダーがアリシアを狙えと叫ぶ。動きを封じられていない野盗二人はその指示に従いアリシアを目指す。そこにリリアナの双剣とジーニーの戦斧が立ちふさがった。
「おい、どこ行くんだ?」
「あなたの相手は私ですっ!!」
一度野盗の前に現れたリリアナはしっかりと双剣を構え直す。
「さあ、行きますよ!」
部屋の中を縦横無尽に動き回るリリアナに行く手を阻まれた野盗の一人は、彼女のデュアルストライクを捉えきれず二撃とも直撃した。しかし、野盗もただで攻撃を受けはしなかった。攻撃のために近付いてきたリリアナに対して勢いよく剣を振るう。攻撃をした直後だったためリリアナは完全に回避できずに剣に当たってしまう。それと同時にジーニーに行く手を阻まれた野盗も阻んだ本人に対して剣を振るった。避けきれないと判断したジーニーはその剣を直に受けながらも相手にバッシュを叩き込んだ。その直後、仲間の状況を見ていたたまきが最も直に攻撃を受けたジーニーの傷をメセグリンで治療した。
動ける野盗二人がリリアナとジーニーに意識を向けている間に、戦闘態勢に入ったティラミスが渦に拘束されている野盗二人に対して旋風腿を叩き込む。
「これで……どうです!?」
周り全てを薙ぎ払う全力の回し蹴り二連撃は的確に野盗のみぞおちに決まり、吹き飛ばされた二人はそのまま意識も飛ばした。
アリシアはティラミスが吹き飛ばした野盗の影からジーニーの押さえている野盗に狙いを定めた。自身のスピードを刃に乗せた疾風刃・改で野盗に斬りかかる。ジーニーの方に意識を向けていた野盗にアリシアの刃がまっすぐ叩き込まれるかと思った瞬間、リーダーが後ろだと叫んだ。それにギリギリで反応した野盗は完全に避けることは出来ずとも、攻撃を僅かに反らすことには成功した。しかし、トップスピードで向かってきたアリシアは相手が攻撃を反らした隙をついて再び疾風刃・改で斬りかかる。今度こそ綺麗に決まったそれは野盗の足をふらつかせた。
みるみるうちに追い詰められた野盗のリーダーは、せめて一矢報いようと先程の反動で動きの止まっているティラミスに狙いを定める。的確に放たれた凶弾はティラミスに深く突き刺さった。しかし、自由騎士として多くの経験を重ねてきたティラミスの動きを止めるほどの痛手にはならなかった。
リリアナは先程押さえた野盗に対してもう一度デュアルストライクを繰り出す。リリアナの動きに戸惑っている隙に彼女は二連の剣閃を繰り出した。それに押された野盗も動きが鈍る。
リーダー以外の野盗がほぼ同じ場所で足を止めた。そこにチャンスを伺っていたたまきが大渦海域のタンゴで大渦を巻き起こす。渦に捕らわれた野盗の一人はそこで意識を失う。辛うじて意識を保っていた一人もクリーンヒットしたジーニーのバッシュによって気絶する。
「あとはお前だけだぜ」
野盗に叩き込んだ攻撃の勢いそのままにジーニーはリーダー格の男に戦斧を突きつける。するとリーダーは静かに銃を落とし両手を上げて無抵抗を示した。多勢に無勢、そんな状況で戦い続けるほど戦闘好きでも仲間思いでも馬鹿でもなかったということだろう。
●
リーダーが降参した後、ティラミスとアリシアとリリアナは野盗達を小屋にあった荒縄で拘束した。その間にたまきが仲間の怪我を治療している。残ったジーニーは物置らしき部屋に捕らわれていた人達の解放に向かっていた。
「アーサーさん! リジーさんのお兄さんはいるかい?」
ジーニーがそう声をかければ、リジーと同じ髪と目の色をしている男性が素早く反応した。猿轡の下から何かを訴えるようにうめいている。それに気付いたジーニーはまず男性の拘束から外していった。
「君、妹を知ってるのか?」
「ああ。私達はお前さんの妹に頼まれてここまで来たんだ。見たところ無事みたいだな。よかった、どうやら嘘つきにならずに済んだようだ」
男性に言葉を返しながらジーニーは素早く他の人達の拘束も解いていく。拘束を解かれた女性二人はまだ怯えていたが、ジーニーにしっかりと感謝の言葉を伝える。それに応えたジーニーは三人を連れて物置らしき部屋から出た。そこで仲間の治療を終えたたまきが拘束されていた三人に近付く。
「ご無事だったようですね、よかった。どこかお怪我などはありませんか?」
たまきの問いに三人とも大きな怪我はないと答える。あるとすれば荒縄で拘束されて出来た擦過傷程度だった。近くにあったもので応急処置をしながらたまきはまだ少し怯えている女性二人を宥める。すると、たまきのマイナスイオンに癒やされた女性二人も平穏を取り戻した。
●
こうして拘束された野盗達は然るべき場所に連れて行かれ、捕らえられていた人達は無事町へを戻ってくることができた。リジーとアーサーも無事再会を果たし、リジーの顔には冬晴れのような笑顔が戻っていた。
「皆さん無事で本当によかったですっ」
「そうですね」
「ほんま、オラトリオくらい平和で心穏やかにしてくれんと!」
リリアナの安心したような声にティラミスも同意する。その横でアリシアが言う。
「しかし、お兄様はなぜ御一人であの場所に?」
たまきがアーサーにそう尋ねた。すると彼は少々気まずそうにしながら腰に括り付けていた麻袋を開く。そこから出てきたのは木の実だった。その木の実を見てリジーが私の好物の木の実ですと驚きの声を上げた。彼曰く、妹を喜ばせようと内緒であの辺りに自生している木の実を採取しにいったら野盗に捕まったのだという。
「でも、それで妹を悲しませては元も子もないな……」
「それはそうかもしれないがこうして無事だったんだ。ここからは楽しいオラトリオ・オデッセイを過ごしてくれよ、お二人さん」
落ち込むアーサーをジーニーが励ます。そしてジーニーの言葉を聞いたリジーがそうだと声を上げた。
「みなさん、よかったらこの後一緒にお祝いをしませんか? 兄を助けてくれたお礼もしたいですし」
「ですが、家族水いらずでなくていいのですか?」
たまきの言葉にリジーは首を振る。
「せっかくのオラトリオですから。みんなでお祝いしたほうが楽しいですもの」
皆さんが良ければですけどとリジーは微笑む。それにアーサーも同意した。
「ほんなら一緒にお祝いしよか!」
「いいですねっ」
「私も賛成です」
「では、お邪魔させていただきますね」
「ああ、よろしくな」
全員の了承を得た兄弟は嬉しそうに微笑みあう。
「みなさん行きましょう。温かいスープも用意していますから」
彼女達の楽しいオラトリオ・オデッセイは、今ここから始まるのだった。
『あたしにお任せ』バーバラ・キュプカー(nCL3000007)と娘から話を聞いた自由騎士達は早速アジトらしき小屋があるという町の外れに向かおうとした。その前にとジーニー・レイン(CL3000647)は娘に近づく。不安そうに俯き眉を潜めている彼女に向かって、不安を消し飛ばすように明るい声で話しかけた。
「お嬢さん、そんな顔をしなさんな。せっかくの美しい顔が台無しだぜ。お嬢さんの名前とお兄さんの名前、教えてくれるかい?」
「あ……私はリジーです。兄はアーサーといいます」
「そうか。いい名前だ。もし野盗がいたとして、お兄さんは私達がきっと助け出す。お兄さんのために、温かいスープでも用意して待っているといい」
「! ……はい、よろしくおねがいします」
再度頭を下げた彼女に少しばかりの笑顔が戻る。それを見て、自由騎士達は絶対に事件の解決をしようと決意を新たにした。
●
自由騎士達が訪れた場所は町から少し外れた昼間でも少々薄暗い林の奥だった。道らしい道はなく、互いの草を踏みしめる音と野生の動物達の鳴き声だけが響く。二人に教えてもらった場所はこの辺りだが、と自由騎士達が周りを見渡すと草木に紛れるように簡素な平屋が経っていた。少し近付いていって『新米自由騎士』リリアナ・アーデルトラウト(CL3000560)がサーモグラフィで中の様子を確認する。
「熱源反応ありましたっ。人らしいものは合計8つ、内3つは床にうずくまってますっ」
リリアナの報告に『カタクラフトダンサー』アリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)が片眉を上げて呟く。
「ホント、悪い事はあかんねんで」
「ええ。中のうずくまっている方々に怪我などなければ良いのですが」
心配そうに顔を歪めたのは『命を繋ぐ巫女』たまき 聖流(CL3000283)だ。
「では、中の細かい様子をホムンクルスで偵察しますね」
『ラビットレディ!』ティラミス・グラスホイップ(CL3000385)はネズミ型のホムンクルスを作成した。そして、そのネズミに助けるから騒がないでと書いた紙を持たせてホムンクルスを小屋の隙間から静かに侵入させた。
偵察を開始してすぐにホムンクルスは部屋にいかにもな男達がいるのを発見した。出入り口から直にあるその部屋には、一人の男に付き添うように剣を持った二人の男がそばにいる。その後、その部屋からドアを一枚隔てた物置のような場所に、拘束されている男性一人、女性二人、それから見張りらしき男性二人を確認した。
「野盗と思われる人達と人質のような人達を確認しました。人質は荒縄で拘束されて猿轡もされてますね」
「だとすると、人質を盾にされると面倒だ。初動が勝負かな」
ティラミスの報告を受けてジーニーが呟く。
その間にもホムンクルスは室内の偵察を続けていた。
見張りと思われる男性二人はちらちらと人質達を見ているが、四六時中見ているわけではなさそうだった。ティラミスはホムンクルスに見張りの目を掻い潜って人質達に近付くように指示を出す。ホムンクルスはその指示通り、身体の小ささを生かしてこっそり人質達の元へと滑り込んだ。そして、見張りに見えないように持っていた紙をペラリと人質達の眼前にかざす。書かれていた文字に人質達は少しだけ息を飲むが、瞬きをしたり小さく頷いたりしていた。おそらく了承の意だろう。それを確認したティラミスは緊急用のホムンクルスを作成し、囮として潜入する手筈を整えた。
「では、まず私が行って野盗と思われる人達を引きつけますね」
「よろしくおねがいします」
緊急用のホムンクルスを受け取りながらたまきが言った。
「ティラミスさんが野党を引きつけている間は、人質の人達のことは私がしっかり見てますねっ」
「周りの警戒は私がするぜ」
続いてリリアナとジーニーが気合充分に告げた。
「ティラミスさん、気を付けて行ってきてな。何かされそうな時はすぐテレパスで伝えてな」
「ええ、分かりました」
小屋に近付いていくティラミスにアリシアが言葉を掛ける。それにしっかり頷いたティラミスは、単身で小屋の出入り口の扉を叩いた。
●
「あの、すみません。誰かいませんか……?」
扉越しに響いたか細い声に小屋にいる男達は互いを見合わせる。国中が賑わうこの時期にこんな薄暗い森の奥に来る人間など少数だ。リーダーが近くにいた男に様子を見てくるように指示を出すと、それに従い男は腰に携えた剣に手を掛けながら静かに扉を開けた。キィと軋んだ音を立てて開いた扉の先にいたのは、小さく震える小柄なケモノビトの少女だった。
「近くの村まで行こうとして足をひねってしまって……その上、道に迷ってしまったんです。どうか近くの村までの道を教えてくださいませんか?」
扉を開けた男は中の方に振り返ってどうしますか? と尋ねた。リーダーは少女を上から下まで観察した後、銃の手入れをしながら中に入れろと指示を出した。
招き入れられた少女に対してリーダーは上辺だけの優しい笑みを浮かべる。
「お嬢さん、ひとまず椅子に座ったらいかがかな? ……おい、椅子持ってこい!」
リーダーの声を聞いて物置らしき部屋から部下らしい一人が椅子を持ってきて少女を座らせた。その両隣に他の男二人が立つ。
「こんな森の奥で足をひねった上迷ったなんて災難だったな。それに加えて助けを求められるのが俺達だけだったとは……」
リーダーがそういった瞬間、両脇にいた男二人が素早く少女を椅子に固定させようとする。
「な、何するんですか……!?」
少女は身の危険を感じて力の限り暴れる。それを見て少女を拘束しようとしていた男が、お前らも手伝え! と叫ぶ。すると椅子を持ってきた男ともう一人が物置らしき部屋から駆けてきて、四人がかりで少女を床に抑え込む。その光景を眺めながらリーダーは部屋の空気にそぐわないほど穏やかに言う。
「そうだな……丁寧にバラして毛皮や臓器、他のパーツに分けて売り払おうか。世の中には一定の部位だけを好む奇特なやつもいるからな」
「そ、そんな……! 何でもしますから命だけは!」
「何でも、か……」
ふむ、と考え出したリーダーに部下らしい一人が提言する。
「何でもっていうなら俺らで飼うってのはどうですか?」
その視線は明らかに豊かな少女の胸に向かっていた。それに気付いた少女は喉を引きつらせる。
「そうだな……確かに悪くない身体をしてる。飼い殺して楽しませてもらった後にバラさずそのままで売り払おう」
お嬢さんほどの見た目なら高値が付きそうだ、と少女の顎を鷲掴みにした。
リーダーの言葉に青褪めた少女――のフリをしているティラミスは、その裏で外で待機している仲間達にテレパシーを送っていた。
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ティラミスが囮として小屋に向かった後、残った四人は野盗達に気付かれないように静かに小屋に接近していた。
「人質のみなさんの熱源反応におかしなところはありませんっ」
ティラミスが小屋に入った後もずっとサーモグラフィで中の様子を確認していたリリアナが小声で伝える。
「今、野党はみんな出入り口からすぐの部屋に集まっているみたいですね」
「武器は四人が剣で一人が銃か」
たまきとジーニーがそれぞれの情報を確認し合うように囁きあう。その近くでいつ突入の合図が来てもいいようにアリシアはサンシャインダンスで戦闘体勢を整えていた。
「みんな、準備はええ?」
「はいっ」
「もちろんです」
「ああ、バッチリだ」
アリシアの言葉で四人は互いを見合わせ力強く頷く。
――カウントします。
――5。
――4。
――3。
――2。
――1……
ゼロ、と脳内に響いたティラミスからの合図に四人は一斉に小屋の中に突入した。
●
突然バンッと勢いよく開いた扉に野盗達の動きが止まる。
「私達は自由騎士ですっ! 抵抗は無駄ですよっ」
「あんたら覚悟しときや!」
真っ先に小屋に駆け込んできたのはリリアナとアリシアだった。
「さあ、こっちですよっ!」
リリアナはノット・リグレットで敵を退ける覚悟を決めながら、巧みに壁や家具を飛び越えて野盗の背後を取る。その間にアリシアが大渦海域のタンゴで作り出した大渦を野盗達に向かって放つ。
「これ以上、好き勝手させへんで! ティラミスさんから離れぇ!」
その渦は的確に野盗を捉えたかと思った。しかし、その直前でリーダーが避けろと声を張り上げた。その声に反応した野党二人がギリギリのところで渦を避けるが、残りの二人は見事に渦に捕らわれてしまう。
「ここです!」
その隙に拘束から抜け出したティラミスが追撃を仕掛けようとするが、それをリーダーの銃弾が阻んだ。そこで足が止まってしまった彼女に渦に捕らわれた野党の一人が渾身の力で剣を向ける。しかし、その剣は僅かに彼女の毛皮に切り傷をつけるだけだった。
そんな攻防の影で渦から逃れられた野盗二人は、渦を生み出したアリシアを驚異と見なして攻撃を仕掛けていた。野盗のくせになかなかに統率のとれた動きに一瞬だけ驚くが、それでも彼女は急所に当たらないように攻撃をいなした。その直後、戦斧を槍のように構えたジーニーが動きを止められている野盗の残り一人に向けて駆け出す。そして突進する勢いでバッシュを叩き込んだ。
「オラァッ!」
気合の入った掛け声とともに叩き込まれた戦斧は的確に野盗の急所を打つ。その攻撃に声にならない叫び声を上げた野盗だったが、それでもお返しと言わんばかりにジーニーに対して剣を振るった。互いが互いにダメージを与えた形になったところに、出入り口で戦況を確認していたたまきがノートルダムの息吹を発動する。
たまきのサポートによって自由騎士達の傷は自然に修復されていく。そのことに焦りを覚えた野盗達だったが、リーダーが狼狽えるなと一喝すると瞬く間に焦りをしまい込んだ。
「あのリーダー格の方、随分と冷静ですね」
「あんだけ状況把握できる頭あんなら、野盗なんてしょーもないことやめたらええねん」
一人ひとりの動きを後衛から観察していたたまきがぽつりと呟く。それを拾ったアリシアは呆れたように顔を歪める。そして動きを止めることに成功した野盗二人目掛けて太陽と海のワルツを繰り出した。的確に敵の懐に入ったアリシアの刃は確実に野盗を追い詰めていく。しかし、その影からリーダーがたまきに銃口を定めていた。冷静沈着に撃ち出された弾丸はたまきの死角から彼女を撃ち抜く。
「たまきさん!?」
「っ! 大丈夫です、問題ありません」
焦ったようにアリシアがたまきを呼ぶが、たまきは平常とあまり変わらない声色で応える。事実、弾はなかなかに深くたまきを傷つけたが傷を負った直後からすぐに塞がっていっていた。しかし、アリシアの焦りを見逃さなかったリーダーがアリシアを狙えと叫ぶ。動きを封じられていない野盗二人はその指示に従いアリシアを目指す。そこにリリアナの双剣とジーニーの戦斧が立ちふさがった。
「おい、どこ行くんだ?」
「あなたの相手は私ですっ!!」
一度野盗の前に現れたリリアナはしっかりと双剣を構え直す。
「さあ、行きますよ!」
部屋の中を縦横無尽に動き回るリリアナに行く手を阻まれた野盗の一人は、彼女のデュアルストライクを捉えきれず二撃とも直撃した。しかし、野盗もただで攻撃を受けはしなかった。攻撃のために近付いてきたリリアナに対して勢いよく剣を振るう。攻撃をした直後だったためリリアナは完全に回避できずに剣に当たってしまう。それと同時にジーニーに行く手を阻まれた野盗も阻んだ本人に対して剣を振るった。避けきれないと判断したジーニーはその剣を直に受けながらも相手にバッシュを叩き込んだ。その直後、仲間の状況を見ていたたまきが最も直に攻撃を受けたジーニーの傷をメセグリンで治療した。
動ける野盗二人がリリアナとジーニーに意識を向けている間に、戦闘態勢に入ったティラミスが渦に拘束されている野盗二人に対して旋風腿を叩き込む。
「これで……どうです!?」
周り全てを薙ぎ払う全力の回し蹴り二連撃は的確に野盗のみぞおちに決まり、吹き飛ばされた二人はそのまま意識も飛ばした。
アリシアはティラミスが吹き飛ばした野盗の影からジーニーの押さえている野盗に狙いを定めた。自身のスピードを刃に乗せた疾風刃・改で野盗に斬りかかる。ジーニーの方に意識を向けていた野盗にアリシアの刃がまっすぐ叩き込まれるかと思った瞬間、リーダーが後ろだと叫んだ。それにギリギリで反応した野盗は完全に避けることは出来ずとも、攻撃を僅かに反らすことには成功した。しかし、トップスピードで向かってきたアリシアは相手が攻撃を反らした隙をついて再び疾風刃・改で斬りかかる。今度こそ綺麗に決まったそれは野盗の足をふらつかせた。
みるみるうちに追い詰められた野盗のリーダーは、せめて一矢報いようと先程の反動で動きの止まっているティラミスに狙いを定める。的確に放たれた凶弾はティラミスに深く突き刺さった。しかし、自由騎士として多くの経験を重ねてきたティラミスの動きを止めるほどの痛手にはならなかった。
リリアナは先程押さえた野盗に対してもう一度デュアルストライクを繰り出す。リリアナの動きに戸惑っている隙に彼女は二連の剣閃を繰り出した。それに押された野盗も動きが鈍る。
リーダー以外の野盗がほぼ同じ場所で足を止めた。そこにチャンスを伺っていたたまきが大渦海域のタンゴで大渦を巻き起こす。渦に捕らわれた野盗の一人はそこで意識を失う。辛うじて意識を保っていた一人もクリーンヒットしたジーニーのバッシュによって気絶する。
「あとはお前だけだぜ」
野盗に叩き込んだ攻撃の勢いそのままにジーニーはリーダー格の男に戦斧を突きつける。するとリーダーは静かに銃を落とし両手を上げて無抵抗を示した。多勢に無勢、そんな状況で戦い続けるほど戦闘好きでも仲間思いでも馬鹿でもなかったということだろう。
●
リーダーが降参した後、ティラミスとアリシアとリリアナは野盗達を小屋にあった荒縄で拘束した。その間にたまきが仲間の怪我を治療している。残ったジーニーは物置らしき部屋に捕らわれていた人達の解放に向かっていた。
「アーサーさん! リジーさんのお兄さんはいるかい?」
ジーニーがそう声をかければ、リジーと同じ髪と目の色をしている男性が素早く反応した。猿轡の下から何かを訴えるようにうめいている。それに気付いたジーニーはまず男性の拘束から外していった。
「君、妹を知ってるのか?」
「ああ。私達はお前さんの妹に頼まれてここまで来たんだ。見たところ無事みたいだな。よかった、どうやら嘘つきにならずに済んだようだ」
男性に言葉を返しながらジーニーは素早く他の人達の拘束も解いていく。拘束を解かれた女性二人はまだ怯えていたが、ジーニーにしっかりと感謝の言葉を伝える。それに応えたジーニーは三人を連れて物置らしき部屋から出た。そこで仲間の治療を終えたたまきが拘束されていた三人に近付く。
「ご無事だったようですね、よかった。どこかお怪我などはありませんか?」
たまきの問いに三人とも大きな怪我はないと答える。あるとすれば荒縄で拘束されて出来た擦過傷程度だった。近くにあったもので応急処置をしながらたまきはまだ少し怯えている女性二人を宥める。すると、たまきのマイナスイオンに癒やされた女性二人も平穏を取り戻した。
●
こうして拘束された野盗達は然るべき場所に連れて行かれ、捕らえられていた人達は無事町へを戻ってくることができた。リジーとアーサーも無事再会を果たし、リジーの顔には冬晴れのような笑顔が戻っていた。
「皆さん無事で本当によかったですっ」
「そうですね」
「ほんま、オラトリオくらい平和で心穏やかにしてくれんと!」
リリアナの安心したような声にティラミスも同意する。その横でアリシアが言う。
「しかし、お兄様はなぜ御一人であの場所に?」
たまきがアーサーにそう尋ねた。すると彼は少々気まずそうにしながら腰に括り付けていた麻袋を開く。そこから出てきたのは木の実だった。その木の実を見てリジーが私の好物の木の実ですと驚きの声を上げた。彼曰く、妹を喜ばせようと内緒であの辺りに自生している木の実を採取しにいったら野盗に捕まったのだという。
「でも、それで妹を悲しませては元も子もないな……」
「それはそうかもしれないがこうして無事だったんだ。ここからは楽しいオラトリオ・オデッセイを過ごしてくれよ、お二人さん」
落ち込むアーサーをジーニーが励ます。そしてジーニーの言葉を聞いたリジーがそうだと声を上げた。
「みなさん、よかったらこの後一緒にお祝いをしませんか? 兄を助けてくれたお礼もしたいですし」
「ですが、家族水いらずでなくていいのですか?」
たまきの言葉にリジーは首を振る。
「せっかくのオラトリオですから。みんなでお祝いしたほうが楽しいですもの」
皆さんが良ければですけどとリジーは微笑む。それにアーサーも同意した。
「ほんなら一緒にお祝いしよか!」
「いいですねっ」
「私も賛成です」
「では、お邪魔させていただきますね」
「ああ、よろしくな」
全員の了承を得た兄弟は嬉しそうに微笑みあう。
「みなさん行きましょう。温かいスープも用意していますから」
彼女達の楽しいオラトリオ・オデッセイは、今ここから始まるのだった。
†シナリオ結果†
大成功
†詳細†
FL送付済