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昏き場所の果てより出ずるもの

●それは異臭を放ち崩れている。
イ・ラプセルにある小さな町の、下水道。住人たちもあまり寄り付かないその場所の更に奥。暗がりの中に、異臭を放ちうごめくものが居た。
――ゴポポポッ……
粘着質な水音と共に、汚水と共に下水に流れ落ちる緑色をした透明な物体。それはいつしかうず高くつもり上がって、一つの生命体へと変わりゆく。
濁った物体の中央に黒く光る核を覗かせ、跳ねるように進むそれは下水を逆流するように登っていき、狭い配管に器用に身を潜らせて溢れ出した。
●それはトイレの中からやってきた。
小さな町にある一つの民家。異変はそこから現れた。
「きゃああああ!?」
異臭に気付きトイレへと駆け寄った婦人が溢れ出る緑色に悲鳴を上げる。次々へと溢れ出し酷い悪臭を放つそれから逃げるように外へ。
とにかく誰か、助けを呼ばないと。そう駆けていく婦人の家は、またたくまに緑色の粘体で覆われていってしまった。
●
「諸君、聞いてくれ」
階差演算室へと集まった自由騎士の面々に、モノクルを直しながら『長』クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)は予知した事件の説明を始める。
「とある町の下水道で、スライムが発生した」
何かの実験薬が流れ込んだか、それとも自然発生か。詳しいことまでは分からなかったが、下水道の奥でスライムが発生し、逆流するという事件が起きる予知があった。
「諸君らには下水道に赴き、事前に討伐し、町への逆流を食い止めてほしい」
数は厳密には一体。しかしその体積は小さな民家一つを覆うほどあり、核分裂で複数個に分かれることも出来るという。一度分裂した核は再度合体することは出来ない。
故にいかにして粘体を貫通させ、核を破壊するかが肝心だろう。
「では、自由騎士の諸君。健闘を祈る」
そういってクラウスは自由騎士達を送り出すのだった。
イ・ラプセルにある小さな町の、下水道。住人たちもあまり寄り付かないその場所の更に奥。暗がりの中に、異臭を放ちうごめくものが居た。
――ゴポポポッ……
粘着質な水音と共に、汚水と共に下水に流れ落ちる緑色をした透明な物体。それはいつしかうず高くつもり上がって、一つの生命体へと変わりゆく。
濁った物体の中央に黒く光る核を覗かせ、跳ねるように進むそれは下水を逆流するように登っていき、狭い配管に器用に身を潜らせて溢れ出した。
●それはトイレの中からやってきた。
小さな町にある一つの民家。異変はそこから現れた。
「きゃああああ!?」
異臭に気付きトイレへと駆け寄った婦人が溢れ出る緑色に悲鳴を上げる。次々へと溢れ出し酷い悪臭を放つそれから逃げるように外へ。
とにかく誰か、助けを呼ばないと。そう駆けていく婦人の家は、またたくまに緑色の粘体で覆われていってしまった。
●
「諸君、聞いてくれ」
階差演算室へと集まった自由騎士の面々に、モノクルを直しながら『長』クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)は予知した事件の説明を始める。
「とある町の下水道で、スライムが発生した」
何かの実験薬が流れ込んだか、それとも自然発生か。詳しいことまでは分からなかったが、下水道の奥でスライムが発生し、逆流するという事件が起きる予知があった。
「諸君らには下水道に赴き、事前に討伐し、町への逆流を食い止めてほしい」
数は厳密には一体。しかしその体積は小さな民家一つを覆うほどあり、核分裂で複数個に分かれることも出来るという。一度分裂した核は再度合体することは出来ない。
故にいかにして粘体を貫通させ、核を破壊するかが肝心だろう。
「では、自由騎士の諸君。健闘を祈る」
そういってクラウスは自由騎士達を送り出すのだった。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.スライムの討伐
初めまして、櫟井庵と申します。
RPGの定番、スライム。しかしこのスライム、愛嬌のある雑魚敵とは一味違いまして、少々厄介でございます。
●敵情報
・幻想種スライム
強酸性の粘体に包まれた核が本体。粘体は衝撃に弱く簡単に崩れるが、核を破壊しない限り再度吸着する。
粘体は可燃性で、緩やかに燃えた後、粘性と酸性を失い崩れ落ちる。
核は危険を感じると分裂する。一つの核から二つへと別れ、二つに別れた核はもう一度分裂できる。最大で四つに分裂。
分裂するときに粘体も等分に分割。そして核を失った粘体は崩れ落ち酸性もなくなる。
一度分裂した核は再度合体することはできない。
攻撃方法
のしかかり 【ポイズン1】【移動不能】
粘液飛ばし 【ポイズン1】【パラライズ1】
攻撃は鈍重で単純ですが、核以外を攻撃しても痛打を与えることは出来ません。
触れれば猛毒の粘体をいかに対処し、核を破壊するか。そういった戦いになると思います。
戦闘場所の下水道は十分に広く、暗いものの足場は確かです。水路はおよそ足がつかる程度の水が流れているばかりで、多少動きにくいですが問題はないでしょう。
今回は暗所での戦闘となるため、事前に小型のランタンが配布されています。
RPGの定番、スライム。しかしこのスライム、愛嬌のある雑魚敵とは一味違いまして、少々厄介でございます。
●敵情報
・幻想種スライム
強酸性の粘体に包まれた核が本体。粘体は衝撃に弱く簡単に崩れるが、核を破壊しない限り再度吸着する。
粘体は可燃性で、緩やかに燃えた後、粘性と酸性を失い崩れ落ちる。
核は危険を感じると分裂する。一つの核から二つへと別れ、二つに別れた核はもう一度分裂できる。最大で四つに分裂。
分裂するときに粘体も等分に分割。そして核を失った粘体は崩れ落ち酸性もなくなる。
一度分裂した核は再度合体することはできない。
攻撃方法
のしかかり 【ポイズン1】【移動不能】
粘液飛ばし 【ポイズン1】【パラライズ1】
攻撃は鈍重で単純ですが、核以外を攻撃しても痛打を与えることは出来ません。
触れれば猛毒の粘体をいかに対処し、核を破壊するか。そういった戦いになると思います。
戦闘場所の下水道は十分に広く、暗いものの足場は確かです。水路はおよそ足がつかる程度の水が流れているばかりで、多少動きにくいですが問題はないでしょう。
今回は暗所での戦闘となるため、事前に小型のランタンが配布されています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
6個
2個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
6/6
6/6
公開日
2019年06月13日
2019年06月13日
†メイン参加者 6人†
●勘弁してください
暗く、湿気と悪臭に満ちた下水道。ずさんな設計と無計画な拡張により迷宮のような体をなしているその場所を、『革命の』アダム・クランプトン(CL3000185)は小馴れた足取りで進んでいく。
カンテラの光に照らし出された彼の横顔には些か緊張が浮かんでいた。これから討伐へ向かう幻想種にであろうか。否、そうではない。
「アダムさん、どうしてそんなにひょいひょいといけるんですか?」
リリアナ・アーデルトラウト(CL3000560)はなるべく汚れないよう気を使って進みながら、先を行く騎士に声を掛ける。見れば『怒らせると恐いんですよ?』アリア・セレスティ(CL3000222)も嫌そうな顔をしつつ水面移動をしたりなど、極力汚水に触れないように行動していた。
「ああ、僕は今でこそ騎士の身分だが、元は下水道に住む浮浪児だったんだ」
どこか哀愁を漂わせつつ答えるアダム。幼少を過ごした環境に、懐かしく思うのだと。
「そうだったんですね……」
「ああ、気にしないでくれ、というかそんなに近づかないでくれ!」
リリアナが何気なしに数歩距離を詰めただけでこの有様である。
「プッ」
思わず吹き出したのは『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)。アダムとは旧知の仲であり、彼の女性への耐性の無さを知っている内の一人だ。
「どうした、アダム。そんなに慌てて」
「わ、私も何かまずいことしてしまったでしょうか」
知っていてグイグイいっちゃうツボミと知らずにグイグイいっちゃうリリアナとに顔色目まぐるしいアダムであった。
「それぐらいにしておいてあげてください、ツボミさん」
『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)が助け舟を出し、ツボミはちぇーと口をすぼめつつからかうのを中断する。
「ふふ、仲が良さそうでなによりですね。それにしてもスライムは初めてです。どんな感じなのでしょうか……」
温和な笑みを浮かべたケモノビトのシスター、『柔和と重厚』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)はすいすいと水面歩行をしつつこれから討伐する対象を想像していた。
「きっとろくなもんじゃないです」とはアリア。
ちなみに先のエルシーも聖職者ではあるが、今はバトルコスチュームを纏っている。少しばかり扇情的なそれもアダムを悩ませる要素であった。
「そろそろかしら」
アリアが水路図を照らしつつ事前に予知された地点に近付いていることを確かめる。
「では、私はエネミースキャンしますね」
「ッ、フッ。では、参りましょうか。全力で挑めばきっと女神は微笑みます」
リリアナが水路の奥まった先に蠢く幻創種スライムを調べている間、情熱的なダンスを躍り自身を鼓舞したアンジェリカの言葉をきっかけに、一同はスライムと対峙した。
●作戦:とにかくぶっ飛ばす
「まずは僕から……ッ!」
アダムは先程までの情けない態度はどこへやら、勇猛果敢な騎士然としてスライムへと駆けていく。左腕に仕込まれた炸薬式蒸気鎧装から砲弾が粘体を弾き散らしながらまっすぐに核へと撃ち込まれ、すかさず第二射。寸分違わず同じ軌道で進み、核に僅かばかり刺さっていた一発目にぶち当たり、核を貫く。
ようやく自身が攻撃された事に気がついたスライムはぶるりと粘体を震わせ蠢き始める。みるみるうちに寄せ集まり修復されていく粘体。
「うーん、移動は縛れるのかな?」
普段は剣も使用し接近戦もこなすアリアだったが、今回は後衛に徹していた。踊りによって生み出された不可視の大渦がスライムの粘体を巻き上げ削り取って行くが、削れた矢先から吸着していきさほど削ることは出来なかった。
「なるほどね。じゃあこれはどうかしら!」
先程のアダムのウェッジショットを参考に、エコーズに一工夫して攻撃する。本来違う軌道を描くはずの二つの魔力で形作られた剣がまっすぐに核へと飛んでいく。一撃目が切り開いた穴に、飛び込む二撃目が核を両断し、スライムが大きく震える。
「やったっ!?」
「いや、分裂するぞ!」
ツボミの声が響き、言葉通り切り離された核がそれぞれ独立し粘体を二つにわけ飛びあがった。
「アンジェリカさん!」
「ええ!」
二人のシスターが落下予測地点に入り込み迎撃する。
「ふっ、はああああッ!」
燃えるような赤い髪を流し、どこか央華大陸で見られたという拳法に似た型でスライムへと接触。強酸性の粘体に触れた肌は焼けただれ、痛みを生ずるが覚悟の上だ。
触れ合った瞬間震脚、全身の力を余すことなく一点へと収束し、スライムへと伝播させていく。
同時にもう一体のスライムを迎え撃つアンジェリカは巨大な十字架を振りかぶり、足から腰へ、下半身から生まれたエネルギーを逃さぬよう腕を絞り十字架の先端に伝え強かに粘体を打ち据える。
形は違えど二人同時にスライムへと衝撃をねじ込んだ結果。二つのスライムは鑑映しのように粘体を吹き飛ばされ核がひしゃげて飛んでいく。
「分裂しおったぞ! これで四匹だ!」
空中で四つに別れた核は飛んでいくままに粘体を吸着しながら闇へと消える。
「気をつけろ、どこから来るかわからん」
未だに焼けただれ痛みに顔を歪めるエルシーをヒュギエイアの杯で癒やしつつ周囲を警戒し続けるツボミ。暗闇の中粘体が水に落ちる音が幾重にも響き、一度大きい音がしたと思えば背後で音が響く。
時折明かりにてらされ半透明の粘体が視界をよぎるが、前後左右を囲まれどこから攻撃されるかわからない。アダムは皆を守らねばと全方位警戒を続けていた。が、しかし。
同時に四方向から殺到するスライム、一つを砲撃で撃ち落としもう一つをシールドバッシュの要領で弾き飛ばす。
自身に飛びかかってきたスライムをラピッドジーンにより加速し避けたリリアナはすかさず逆巻く風をグラディウスに纏わせ、叩きつける。
「きゃああっ」
悲鳴の上がった方へ弾かれるように振り向くと、アリアがスライムに飛びつかれ下敷きになってしまっていた。
「ああっ!? あっつい……ッ!」
皮膚が徐々に溶かされ、衣服に保護されていた部分も薄い布部分から次第に衣服ごと溶かされていった。
「アリアさんッ!」
リリアナが慌ててブレイクゲイトによってのしかかっていたスライムを吹き飛ばすと、すかさずツボミが駆け寄り治療する。
「ちぃ、ちとまずいか」
広範に渡り傷を追ってしまったアリアに少し眉根を寄せつつ。
「まあ安心せい、綺麗に治してやる」
にかっと安心させるよう笑いかけた。
「それにしても厄介ですね。小型化したことで早くなっています」
「これぐらいなんてことないでしょ? 頼りにしてるんだから、しゃきっとしてよアダム」
背中合わせにエルシーが信頼を預け、アダムは心中穏やかではなかったが顔を引き締め暗闇に再度消えたスライムを見据える。
「一匹ずつ確実に仕留めていきましょう。皆は任せますね」
微笑みを湛えたまま、眼光は鋭く十字架をかざし飛び出すアンジェリカ。
「私もお手伝いします!」
水面を自由に駆けるアンジェリカにリリアナが並走し、一体目のスライムを捉える。
「やああっ!」
掛け声とともに粘体を吹き飛ばしたリリアナと入れ替わるようにアンジェリカの十字架が叩き込まれる。硝子の砕けるような音とともに粉々になった核を見て頷きあった二人は残りのスライムを探し駆け出す。
その頃治療で動けぬツボミへと飛びかかってきたスライムを高速の二連射で撃ち落としたアダム。二人が向かった先で響いた音と同じ音に、向こうも上手くやったのだなと頬を緩める。
「これで残すところ、後二匹ですね」
暗がりからアダムめがけて撃ち出された粘体をエルシーが弾き飛ばす。
「油断しないっ」
地を蹴り弾丸のようにスライムへと駆け、流れるような動作で強かに鉄山靠をお見舞いする。先の反省を活かし肌の露出した肩部での打撃ではなく、コスチュームに覆われた肘での一撃。型を無視してなお絶大な威力を誇るのは、オリジナルの戦闘術を編み出すセンスの賜物であった。
逃走を図る最後のスライムに追いついたアンジェリカとリリアナ。
「逃しはしませんわ」
「待つのです!」
追いつきざま十字架で核ごと壁に打ち付け衝撃に粘体が飛び散り、すかさずスティレットで核を貫く。見事な連携を持ってして、スライムの討伐を完了したのだった。
●だから勘弁してください
「お疲れ様でした、皆さん」
無事討伐を確認した一行は念入りに討ち漏らしが居ないか、発生原因の手がかりはないかなどを確認していた。
「ふぅ、帰ったらゆっくりお風呂にはいりたいです」
なにせ下水での戦闘だ。生活排水から何かの薬剤などが遠慮なく垂れ流されている。
汚臭も耐え難いし、丹念に汚れを落としたい。
「そうだね、僕も温かい湯に浸かりたい」
「おっ、じゃあみんなで背中でも流し合うとするか。アダムも一緒にどうだ?」
「な、何言ってるんですかツボミさん!」
「アダムは何想像してるのさ……」
「してません!」
「あらあら、まあまあ」
がやがやと雑談をしながら周辺の探索をしていると、アリアが小瓶を見つける。ラベルは汚れて判読しにくかったが、痩せ薬、と書いてある。
「ねえ、こんなのがあったんだけど」
裏面には効用が書かれており、それによれば体内にごく小さなスライムを飼う事により食べたものを消化させ、効率的に痩せることが出来るそうだ。
「これが原因……?」
呆れつつ瓶を手渡すアリアの格好を見てしまったアダムは真っ赤な顔をして倒れる。
「ああっ!? アダム!?」エルシーが慌てて受け止めつつ。
「ぶわっはっはっは!」
ところどころ服を溶かされ、柔らかな曲線などがちらちらと見えてしまっていたアリア。特に愛らしいへそなどがちらりと覗く様はアダムにとって刺激的にすぎたのだった。
●後日
痩せ薬などと謳いスライムを販売し無用な混乱を招いたとして、婦人に薬を売りつけた錬金術師は国防騎士団に連行されていき、スライム騒動は大惨事になる前に決着をみたのであった。
暗く、湿気と悪臭に満ちた下水道。ずさんな設計と無計画な拡張により迷宮のような体をなしているその場所を、『革命の』アダム・クランプトン(CL3000185)は小馴れた足取りで進んでいく。
カンテラの光に照らし出された彼の横顔には些か緊張が浮かんでいた。これから討伐へ向かう幻想種にであろうか。否、そうではない。
「アダムさん、どうしてそんなにひょいひょいといけるんですか?」
リリアナ・アーデルトラウト(CL3000560)はなるべく汚れないよう気を使って進みながら、先を行く騎士に声を掛ける。見れば『怒らせると恐いんですよ?』アリア・セレスティ(CL3000222)も嫌そうな顔をしつつ水面移動をしたりなど、極力汚水に触れないように行動していた。
「ああ、僕は今でこそ騎士の身分だが、元は下水道に住む浮浪児だったんだ」
どこか哀愁を漂わせつつ答えるアダム。幼少を過ごした環境に、懐かしく思うのだと。
「そうだったんですね……」
「ああ、気にしないでくれ、というかそんなに近づかないでくれ!」
リリアナが何気なしに数歩距離を詰めただけでこの有様である。
「プッ」
思わず吹き出したのは『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)。アダムとは旧知の仲であり、彼の女性への耐性の無さを知っている内の一人だ。
「どうした、アダム。そんなに慌てて」
「わ、私も何かまずいことしてしまったでしょうか」
知っていてグイグイいっちゃうツボミと知らずにグイグイいっちゃうリリアナとに顔色目まぐるしいアダムであった。
「それぐらいにしておいてあげてください、ツボミさん」
『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)が助け舟を出し、ツボミはちぇーと口をすぼめつつからかうのを中断する。
「ふふ、仲が良さそうでなによりですね。それにしてもスライムは初めてです。どんな感じなのでしょうか……」
温和な笑みを浮かべたケモノビトのシスター、『柔和と重厚』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)はすいすいと水面歩行をしつつこれから討伐する対象を想像していた。
「きっとろくなもんじゃないです」とはアリア。
ちなみに先のエルシーも聖職者ではあるが、今はバトルコスチュームを纏っている。少しばかり扇情的なそれもアダムを悩ませる要素であった。
「そろそろかしら」
アリアが水路図を照らしつつ事前に予知された地点に近付いていることを確かめる。
「では、私はエネミースキャンしますね」
「ッ、フッ。では、参りましょうか。全力で挑めばきっと女神は微笑みます」
リリアナが水路の奥まった先に蠢く幻創種スライムを調べている間、情熱的なダンスを躍り自身を鼓舞したアンジェリカの言葉をきっかけに、一同はスライムと対峙した。
●作戦:とにかくぶっ飛ばす
「まずは僕から……ッ!」
アダムは先程までの情けない態度はどこへやら、勇猛果敢な騎士然としてスライムへと駆けていく。左腕に仕込まれた炸薬式蒸気鎧装から砲弾が粘体を弾き散らしながらまっすぐに核へと撃ち込まれ、すかさず第二射。寸分違わず同じ軌道で進み、核に僅かばかり刺さっていた一発目にぶち当たり、核を貫く。
ようやく自身が攻撃された事に気がついたスライムはぶるりと粘体を震わせ蠢き始める。みるみるうちに寄せ集まり修復されていく粘体。
「うーん、移動は縛れるのかな?」
普段は剣も使用し接近戦もこなすアリアだったが、今回は後衛に徹していた。踊りによって生み出された不可視の大渦がスライムの粘体を巻き上げ削り取って行くが、削れた矢先から吸着していきさほど削ることは出来なかった。
「なるほどね。じゃあこれはどうかしら!」
先程のアダムのウェッジショットを参考に、エコーズに一工夫して攻撃する。本来違う軌道を描くはずの二つの魔力で形作られた剣がまっすぐに核へと飛んでいく。一撃目が切り開いた穴に、飛び込む二撃目が核を両断し、スライムが大きく震える。
「やったっ!?」
「いや、分裂するぞ!」
ツボミの声が響き、言葉通り切り離された核がそれぞれ独立し粘体を二つにわけ飛びあがった。
「アンジェリカさん!」
「ええ!」
二人のシスターが落下予測地点に入り込み迎撃する。
「ふっ、はああああッ!」
燃えるような赤い髪を流し、どこか央華大陸で見られたという拳法に似た型でスライムへと接触。強酸性の粘体に触れた肌は焼けただれ、痛みを生ずるが覚悟の上だ。
触れ合った瞬間震脚、全身の力を余すことなく一点へと収束し、スライムへと伝播させていく。
同時にもう一体のスライムを迎え撃つアンジェリカは巨大な十字架を振りかぶり、足から腰へ、下半身から生まれたエネルギーを逃さぬよう腕を絞り十字架の先端に伝え強かに粘体を打ち据える。
形は違えど二人同時にスライムへと衝撃をねじ込んだ結果。二つのスライムは鑑映しのように粘体を吹き飛ばされ核がひしゃげて飛んでいく。
「分裂しおったぞ! これで四匹だ!」
空中で四つに別れた核は飛んでいくままに粘体を吸着しながら闇へと消える。
「気をつけろ、どこから来るかわからん」
未だに焼けただれ痛みに顔を歪めるエルシーをヒュギエイアの杯で癒やしつつ周囲を警戒し続けるツボミ。暗闇の中粘体が水に落ちる音が幾重にも響き、一度大きい音がしたと思えば背後で音が響く。
時折明かりにてらされ半透明の粘体が視界をよぎるが、前後左右を囲まれどこから攻撃されるかわからない。アダムは皆を守らねばと全方位警戒を続けていた。が、しかし。
同時に四方向から殺到するスライム、一つを砲撃で撃ち落としもう一つをシールドバッシュの要領で弾き飛ばす。
自身に飛びかかってきたスライムをラピッドジーンにより加速し避けたリリアナはすかさず逆巻く風をグラディウスに纏わせ、叩きつける。
「きゃああっ」
悲鳴の上がった方へ弾かれるように振り向くと、アリアがスライムに飛びつかれ下敷きになってしまっていた。
「ああっ!? あっつい……ッ!」
皮膚が徐々に溶かされ、衣服に保護されていた部分も薄い布部分から次第に衣服ごと溶かされていった。
「アリアさんッ!」
リリアナが慌ててブレイクゲイトによってのしかかっていたスライムを吹き飛ばすと、すかさずツボミが駆け寄り治療する。
「ちぃ、ちとまずいか」
広範に渡り傷を追ってしまったアリアに少し眉根を寄せつつ。
「まあ安心せい、綺麗に治してやる」
にかっと安心させるよう笑いかけた。
「それにしても厄介ですね。小型化したことで早くなっています」
「これぐらいなんてことないでしょ? 頼りにしてるんだから、しゃきっとしてよアダム」
背中合わせにエルシーが信頼を預け、アダムは心中穏やかではなかったが顔を引き締め暗闇に再度消えたスライムを見据える。
「一匹ずつ確実に仕留めていきましょう。皆は任せますね」
微笑みを湛えたまま、眼光は鋭く十字架をかざし飛び出すアンジェリカ。
「私もお手伝いします!」
水面を自由に駆けるアンジェリカにリリアナが並走し、一体目のスライムを捉える。
「やああっ!」
掛け声とともに粘体を吹き飛ばしたリリアナと入れ替わるようにアンジェリカの十字架が叩き込まれる。硝子の砕けるような音とともに粉々になった核を見て頷きあった二人は残りのスライムを探し駆け出す。
その頃治療で動けぬツボミへと飛びかかってきたスライムを高速の二連射で撃ち落としたアダム。二人が向かった先で響いた音と同じ音に、向こうも上手くやったのだなと頬を緩める。
「これで残すところ、後二匹ですね」
暗がりからアダムめがけて撃ち出された粘体をエルシーが弾き飛ばす。
「油断しないっ」
地を蹴り弾丸のようにスライムへと駆け、流れるような動作で強かに鉄山靠をお見舞いする。先の反省を活かし肌の露出した肩部での打撃ではなく、コスチュームに覆われた肘での一撃。型を無視してなお絶大な威力を誇るのは、オリジナルの戦闘術を編み出すセンスの賜物であった。
逃走を図る最後のスライムに追いついたアンジェリカとリリアナ。
「逃しはしませんわ」
「待つのです!」
追いつきざま十字架で核ごと壁に打ち付け衝撃に粘体が飛び散り、すかさずスティレットで核を貫く。見事な連携を持ってして、スライムの討伐を完了したのだった。
●だから勘弁してください
「お疲れ様でした、皆さん」
無事討伐を確認した一行は念入りに討ち漏らしが居ないか、発生原因の手がかりはないかなどを確認していた。
「ふぅ、帰ったらゆっくりお風呂にはいりたいです」
なにせ下水での戦闘だ。生活排水から何かの薬剤などが遠慮なく垂れ流されている。
汚臭も耐え難いし、丹念に汚れを落としたい。
「そうだね、僕も温かい湯に浸かりたい」
「おっ、じゃあみんなで背中でも流し合うとするか。アダムも一緒にどうだ?」
「な、何言ってるんですかツボミさん!」
「アダムは何想像してるのさ……」
「してません!」
「あらあら、まあまあ」
がやがやと雑談をしながら周辺の探索をしていると、アリアが小瓶を見つける。ラベルは汚れて判読しにくかったが、痩せ薬、と書いてある。
「ねえ、こんなのがあったんだけど」
裏面には効用が書かれており、それによれば体内にごく小さなスライムを飼う事により食べたものを消化させ、効率的に痩せることが出来るそうだ。
「これが原因……?」
呆れつつ瓶を手渡すアリアの格好を見てしまったアダムは真っ赤な顔をして倒れる。
「ああっ!? アダム!?」エルシーが慌てて受け止めつつ。
「ぶわっはっはっは!」
ところどころ服を溶かされ、柔らかな曲線などがちらちらと見えてしまっていたアリア。特に愛らしいへそなどがちらりと覗く様はアダムにとって刺激的にすぎたのだった。
●後日
痩せ薬などと謳いスライムを販売し無用な混乱を招いたとして、婦人に薬を売りつけた錬金術師は国防騎士団に連行されていき、スライム騒動は大惨事になる前に決着をみたのであった。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
†あとがき†
自分のような新参者のシナリオに参加くださって本当にありがとうございました。
お色気などは全然想定していなかったのですが、スライムだものそれくらいするよなと思いつつ。
最後まで楽しく書かせていただきました。
MVPはアダム・クランプトンさんへ。あまりにも美味しいポジションに、笑いを頂いたので。
もう一度感謝をしつつ、終わりにします。
ありがとうございました。
お色気などは全然想定していなかったのですが、スライムだものそれくらいするよなと思いつつ。
最後まで楽しく書かせていただきました。
MVPはアダム・クランプトンさんへ。あまりにも美味しいポジションに、笑いを頂いたので。
もう一度感謝をしつつ、終わりにします。
ありがとうございました。
FL送付済