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〈魔女狩り騎士団〉襲撃すべし、隠し拠点



●黒き鉄槌、止まらず
 その日、五つ目の村落が全滅した。
 黒騎士達は狡猾だった。
 彼らは複数の部隊に分かれ、近隣にある幾つかの村落を同時に襲撃していた。
 そのうちの一つ、二つは水鏡によって予知され、自由騎士が迎撃に向かったものの、
「自由騎士が来たぞ、撤退! 撤退せよ!」
 と、黒騎士は自由騎士と戦うことなく、すぐさま逃げに回った。
 そうした場合、村落は全滅するほどの被害は出ないのだが、しかし、人は死んだ。
 常人よりも優れた力を持ったオラクルなのだ。
 たった数人だけでも、常人を殺戮することは造作もなかった。
 そして、一~二か所で自由騎士が黒騎士に対処している頃、残る村落は自由騎士の救援が届くこともなく、黒騎士によって潰されてしまう。
 無論、自由騎士の迎撃によって黒騎士に打撃を与えることもできていた。
 しかし敵が徹底的に逃げを打ってくる以上、与えられるダメージもたかが知れていた。
 完全に水鏡による予知を意識した動き。
 それを、黒騎士達は行なっているのだった。
「予知がランダムである以上、我々が後手に回る可能性は依然高いままだ」
 ジョセフ・クラーマー(nCL3000059) がそう結論付けるのも、無理からぬことであった。

●元大司教は考える
「何を、しているんだい?」
 ニルヴァン領主館の一室。
 元領主のパーヴァリ・オリヴェル(nCL3000056) は卓に広げた地図をジッと眺めているジョセフを見つけて、声をかけた。
「む……、汝か」
 気づいたジョセフが顔を上げる。
 だが彼はまたすぐに地図の方へと目を移した。
 その脇から、パーヴァリが地図を覗き見してみる。
 地図は、イ・ラプセル領土となったシャンバラ国土を記したものであった。
 そのいくつかに、赤インクで点がつけられている。
「黒鉄槌騎士団に襲撃された村があった場所だ」
 地図を見たまま、ジョセフが告げてきた。
「黒騎士達の……」
 説明を受けて、パーヴァリは改めて地図を見直してみた。
 地図上の赤点を目で追っていく。そして程なく、彼は気づいた。
「多い。……そして、広い」
「そうだ。黒鉄槌騎士団の行動範囲はやけに広い。そして襲撃の回数も見ての通りだ」
「…………」
 ジョセフの言葉に、だがパーヴァリは違和感を覚えた。
「おかしくないかい?」
「……分かるか」
「ああ。いくら何でも活動が活発すぎる」
「その通りだ。黒鉄槌騎士団がいかに騎士団を名乗っていようとも、連中は所詮残党に過ぎない。どこかの国からバックアップを受けているワケでもない。だが連中の動きを見るに、とても困窮しているようには見えない。いや、実態は真逆。それを可能とするだけの余裕があるからこそ、連中は活発に行動できるのだろうな」
「つまり――」
 ジョセフの言わんとしているところを理解して、パーヴァリがそれを答えた。
「黒騎士達には、活動拠点がある、と?」
「うむ。それも一つではなく、おそらく複数、な」
 なるほど、とパーヴァリは思った。
 拠点が複数あれば、それだけ行動範囲も広くとれる。
 黒騎士達が部隊を分けて活動できているのも、その拠点があってのことか。
「いや、だとすれば、どう対応するんだい?」
「そこが厄介だ」
 ジョセフは珍しく渋面を作る。
「拠点はおそらく愚兄が用意したもの。アレはシャンバラが敗れたあとのことも考えていたのだろう。黒鉄槌騎士団が動くための準備を、アレは生前からすでにしていたことになる」
「ゲオルグ・クラーマー……」
 パーヴァリはその名を忌々しげにつぶやいた。
「あの男のことだ、黒騎士達の拠点は巧みに隠してあるに違いないね」
「ああ。その辺りは執拗なまでにしっかりとやり通すのがあの男だ。――が」
「が?」
「一か所だけ、私は黒鉄槌騎士団の拠点と思しき場所を知っている」
「何だって……?」
「この地図を見ているうちに、何とか思い出すことができた」
 言って、ジョセフは地図から顔を上げた。
「二年ほど前か。あの男が“魔女狩り将軍”としてシャンバラ中を巡っていたとき、当時、シャンバラの大司教に就いていた私は聖央都にいっとき戻ったアレを叱ったことがあってな。その折、アレが言ったのだ。今は特に準備が忙しい、とな。その後、アレが西の方に向かったことを覚えている。だが、その際に向かった場所に、準備を必要とするものなど何もなかった。だからわずかばかり気になっていたのだ」
「それを、今思い出した、と」
「うむ」
「詳しい場所は分かるのかい?」
「候補となる範囲を絞る程度しかできないが、何もないよりは全然マシだろう」
「確かにね。……それで、その範囲というのは?」
「ここだ」
 ジョセフが地図の一か所に赤インクで丸を描く。
 それはニルヴァン領から南西。聖央都から真西にある一角であった。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
対人戦闘
担当ST
吾語
■成功条件
1.黒騎士の拠点を潰す。
ネタバレ:黒騎士います。
どうもどうも、吾語でございます。ちょっと久々の黒騎士依頼ですよー。

では以下、シナリオ概要でーす。

◆敵勢力
・黒騎士×16
 バトルスタイルは全員が「魔剣士」です。
 他には呪×3、魔×3、重×3、医×2、軽×1の内訳でスキルを有しています。
 1人辺りの戦闘力は皆さんとどっこいといったところでしょう。
 ただし、選択した戦場と皆さんの作戦内容次第で敵の数が変動します。
 なので敵の数は正確には「8+α(0~8)」となります。
 なお、今回の黒騎士は下記のスキルを使用してきます。

 ・ウールヴヘジン
  味方全体に「HPが減るほどに攻撃力・魔導力が強化される効果」を付与。
  ただし、ターン経過以外に途中解除する方法が存在するらしい。

◆シナリオ舞台
・黒鉄槌騎士団隠し拠点
 地下遺跡を改装して作り上げた割と大きな拠点です。
 ここには食料、武装、その他の道具、金銭などがたんまり溜め込んであります。
 作ったのは無論、クラーマーの方のゲオルグ。
 二か所のうちどちらかを戦場として選ぶことができます。
 時間帯は夕刻から夜となります。時間帯が状況に影響を与えることはありません。

 ・拠点入り口周辺
  山岳地帯の分かりにくい一角に存在する古代遺跡の入り口です。
  正直、ジョセフが場所を覚えてなければ絶対見つからないような立地です。
  ただし、それゆえに黒騎士達も見つかりっこないと慢心しており、
  見張りなどは立っていません。そこに奇襲を仕掛ける形におなります。
  ここで戦闘する場合、奇襲効果によって有利に戦うことができますが、
  敵の何割か(2割~半分)が内部に存在する物資の半分を持って逃亡します。

 ・拠点内部
  遺跡を拡張して作られた地下城塞です。
  それなりの大きさがあり、数十人が長期にわたって生活できる広さがあります。
  しかし、あくまでも隠し拠点でしかないため罠などはありません。
  ここで戦闘する場合、勝てば中にある物資の全てを差し押さえることができます。
  ただし、地の利が敵側にあるため、奇襲による利が失われます。
  また、作戦内容によっては敵が逃げますが、逃げる数は少ないです(1~3割)。
  
  この拠点を潰すことで、黒騎士達を弱体化させることができます。
  どの程度弱体化させられるかは、選んだ戦場によって変わってきます。
状態
完了
報酬マテリア
3個  7個  3個  3個
10モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
10/10
公開日
2019年08月16日

†メイン参加者 10人†



●地の底、黒騎士の棲み処へ
 知ってさえいれば、入り口を見つけることは容易だった。
 崩れかけた遺跡は見た目は岩にしか見えず、辺りに転がっている岩に紛れて分かりにくかったが、意識して探せば違いは瞭然であった。
「……ここか、行くぞ」
 『殲滅弾頭』ザルク・ミステル(CL3000067)がポッカリと開いた遺跡の入り口に入っていく。他の自由騎士たちもそれに続いた。
 中に入ると、狭苦しい中に下にくだる階段があった。
「今のところは、黒騎士が隠れていたりとかはないようですね」
 一歩一歩慎重に進みながら、鋭い聴力をもって周囲の状況をうかがっているのは『まだ炎は消えないけど』キリ・カーレント(CL3000547)だ。
 前を行く彼女と、そして後方では同じく耳を澄ませて周りに意識を割く『達観者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)によって、少なくともこの辺りに黒騎士はいないことは分かった。
「だが、この先にはいるだろう。総員、警戒は怠らずにお願いする」
 テオドールの言葉に、『新緑の歌姫(ディーヴァ)』秋篠 モカ(CL3000531)がうなずいた。
「分かってます。必ずこらしめてあげましょう!」
「おっと、秋篠嬢、やる気になるのは大変よろしいが、あまり大きな声を出さないでくれたまえ。君の声は通りがいいから、耳に響く」
「あ、す、すいません……!」
「でも、モカさんの言う通りよ。ううん、こらしめるじゃ済ませないわ」
 モカの耳に小さなつぶやきが聞こえてくる。
「キリさん、何か言いました?」
「え、いえ。何でも」
 キリはごまかし笑いを浮かべると、すぐに意識を警戒に切り替えた。
「隠し通路とかは、ないみたいだね」
「うむ、今のところは、じゃがな」
 伏兵の有無を確認するのがテオドールとキリならば、それ以外を確かめる役割を担っているのが『太陽の笑顔』カノン・イスルギ(CL3000025)と『イ・ラプセル自由騎士団』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)であった。
 オラクルとして卓抜した二人の視力は、石壁の向こう側さえ透かして見ることができる。隠し扉、隠し通路のたぐいはまず見逃さない。
 階段を下りきると、一気に空間が広がった。
 一定距離を空けて等間隔で置かれたランタンが、見た目からして広い地下遺跡を薄く照らし出している。
「デカイな……」
 索敵役の一人である『鋼壁の』アデル・ハビッツ(CL3000496)が、視線を周りに巡らせながら言う。入り口と思しきここの時点で、通路が左右と前方の三つに分かれていた。
「忌々しきはあの魔女狩り将軍よ。死してなおこれほど立ちはだかるとは」
 シノピリカの言葉は、この場にいる自由騎士達の気持ちの代弁だった。魔女狩り将軍を知る数名は、あの男に対する怒りを新たにしたほどだ。
「一切擁護はできよ、こればかりは」
 血の繋がった弟であるジョセフ・クラーマーも、そう言うしかなかった。
「ここに黒騎士はいるのならば、被害に遭われた方々の無念はしっかりと晴らさねばなりませんね。私たちの手で」
 『救済の聖女』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)が静かに呼吸を繰り返す。彼女の中を気が巡り、臨戦態勢は整えられた。
「フン、黒騎士、ね……」
 アンジェリカの言葉を聞いた『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)が実にイヤそうな顔をする。ずっと、思っていたことがあった。
「シャンバラの民は守る対象だったはずなんじゃないのかしらね。連中にとっては。それをこんな無法……」
 彼女の顔に浮かぶのは怒りの笑み。あの外道ども、どうしてくれようか。
 そして、同じく怒りを秘めながらも冷静なのが『クマの捜査官』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)であった。
「熱くなるのもいいが、絶対に敵を侮るなよ? あの連中が使う技を、俺たちはまだすべて把握してるワケじゃない。情報の上ではこっちが不利だ。それは忘れるんじゃねぇぜ?」
 努めて感情が殺されたその言葉は、皆への忠告だった。
 エルシーは「そうね」を返し、怒りに乱れかけていた呼吸を整えなおした。
 変化が起きたのは、その直後。
「む」
「動きおったな」
 反応したのはテオドールとシノピリカ。
 二人は同時に皆へと告げた。
「敵が来るぞ!」
「前と、右からだ!」
 ドバァンと近くで扉が蹴破られる音がして、
「何者だ!」
 次々に姿を現す黒騎士達へ、ニコリと微笑んで返したのはアンジェリカ。
「貴方達の邪魔をする者ですよ」
「何だと!?」
「その手で摘み取った命の数を数えなさい。それが貴方の、罪の数です」
 魔女狩り騎士団攻略戦、開始。

●彼らは黒き狼の如く
「敵襲! 敵襲――ッ!」
 黒騎士達の行動は迅速だった。
 地下遺跡内に鐘の音が響き渡る。他の黒騎士も、間もなく現れるだろう。
「構わんさ、そちらから来るならば釣る手間が省ける」
 アデルはつぶやくと、魔導によるジャミングで敵のテレパスを妨害する。
「来い。来るがいい。そこが貴様らの沼のふちと知れ!」
 テオドールが行使した魔導によって、地面がズルリと泥化した。
「ぬぅ!?」
 最前にいる黒騎士が泥に足を絡めとられて動きを縛られる。
 初手は、自由騎士が有利。だが黒騎士も、ただやられるだけの的ではない。
「業剣……!」
「来る!」
 カノンがとっさに身構えた。
 敵の攻撃に予備動作があるならば、その隙を突けばいい。
 彼女はそう考えていた。しかし――無い!
「動きが、小さい!」
 カノンは目を剥き、構えを攻めのものではなく防ぐものへと変えた。
 両腕で頭を守り、身体を丸める。
 直後に周囲から影が立ち上がり、刃となって彼女を斬りつけた。
「く、うう!」
 痛みに耐えながら、カノンは次の攻撃のチャンスをジッと待つ。
「うおお!」
 だが、身を固めたままの彼女はただの的でしかない。
 大剣を手にした黒騎士が、カノンを狙って突進してきた。
「やらせ、ません!」
 だがその突進を、キリがかざした盾替わりのローブで受け止める。
 ガツン、という重い衝撃。キリの全身に鈍い痛みが走った。だが――、
「こ、の……!」
 堪え、踏み込み、下から全力でカチ上げる。
「う、おお!?」
 思いがけない反撃に、黒騎士の腕が跳ね上がって懐ががら空きになった。
「今です、モカさん!」
「――はい!」
 モカが敵に飛び込む。ダンサーならではの緩からの急への急激な動きの変化。敵はそれを捉えきれず、胸を強打された。
「ぐが……ッ!」
「離れて――次を!」
 体勢を崩した敵から、しかしモカは油断せずに一度離れて呼びかけた。
 それに続くのは、シノピリカ。
「行くぞ悪漢! 我が拳をしかと受けィ!」
 鋼が肉を打つ音。超重量の義手の一撃が、容赦なく黒騎士を打ちのめした。
「おのれ……、おのれ!」
 黒騎士の一人が、吹き飛ぶ仲間を見てその顔を憤怒に染める。
 攻めようとしていたテオドールが、そこに妙な威圧感を感じて足を止めた。
「何だ、この感じは……?」
 警戒する彼の前でその黒騎士は、おそらくは他の黒騎士へと叫んだ。
「化法……、化法――!」
「おお……」
「了承! 化法使用、了承!」
 黒騎士達が口々に叫んだ。空気が変わる。空気が、荒れる。
「……こいつは、来るぜ!」
 ウェルスが舌を打った。黒騎士が追い詰められた笑みを浮かべ、吼えた。
「化法――狼牙変威(ウールヴヘジン)!」
「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」」
 妙な魔力が走ったのは一瞬のこと。
 そして、黒騎士達は人である様を捨てて、自由騎士の前でけだものに堕す。
「……三重奏(アンサンブル)!」
 アンジェリカが、黒騎士の一人に対して渾身の三段攻撃を打ち放った。
 三つ重なった撃音。そして黒騎士は見事に吹き飛ぶが、
「おお、おおォオオ! ォォおおォぉォオオオおオおおおおおおお!」
「これ、は……!」
 ダメージは与えた。しかし、敵は健在。
 そして血を散らしてアンジェリカへと逆に躍りかかってくる。
「倒れろォォォォォォォ!」
 エルシーが滑り込むようにして間に入り、拳を突き出した。
 彼女の拳は敵の顔面をブチ抜き、手ごたえが肩までしっかり伝わってきた。
 だが、止まらない。
「ガァァァァァああああああああアァあぁアあアあァァァァァァ!」
「う……」
 顔面を拳に押されて黒騎士の首が妙な角度に捻られた。が、止まらない。
 いやそれどころか、動きが、鋭く――?
「しゃあ!」
 黒騎士が無造作に振るった腕の一撃によって、エルシーとアンジェリカの身体が浮き上がる。凄まじい膂力。見ていたウェルスが目を瞠った。
「こいつら、何が!?」
 彼は地面に転がった二人の方へと急ぎ癒しの魔導を発動させる。
 黒騎士に起きた急激な変化。その本質を見抜いたのは、シノピリカだった。
「こやつら、傷が深くなるほどに強さを増していくぞ! 半端なダメージは逆効果じゃ! 一気呵成に潰すつもりでいかねばならぬ!」
「そうは言うが……!」
「業剣――」
 アデルの前で、黒騎士が構えを取ろうとする。
 業剣、影の刃か!
 思ったアデルはとっさに槍を盾にしようとした。
 一方でその後からテオドールが敵の足元を狙って泥化を試みようとするが、
「――惨空穿撃(デッドリースクライド)!」
 黒騎士が放ったのは、影の刃ではなかった。
「な……」
「……にィ!?」
 アデルとテオドール、前後に並んだ二人を鋭い衝撃が貫いていく。
 しかもそれはアデルの防御をたやすく破って、深くまで抉り抜いていった。
「カッ、ハァ……! ハハ、ハハハァ……」
 だが口から血を吐いたのはアデルでもテオドールでもなく、黒騎士の方。
 ――肉体にダメージを残すほどの過剰駆動による、刺突貫通攻撃!
 激痛に焼かれ吹き飛びながら、テオドールはその攻撃の正体を見抜いた。
 そして、同時に戦慄する。
 傷つけば傷つくほど強さを増す今の黒騎士が、それを使ったならば……!
「潰せ! 潰せ! 潰せェ! 我らこそが神理の代行者である!」
 勢いを増す黒騎士がそんなことを言い出した。
「戯言を」
 だが、冷ややかな声がそれに水を差す。言ったのは、ジョセフであった。
「神の理が真にあるならば、シャンバラのそれはもう死んだ。ミトラースの亡びと共にだ。……汝らは、それを理解するつもりはなさそうだが」
「……ゲ、ゲオルグ師!?」
 ジョセフの顔を見て黒騎士達がどよめく。
 しかし、すぐにゲオルグではないと分かったか、黒騎士は舌を打った。
「まさか貴様、ジョセフ・クラーマーか!?」
「シャンバラの大司教でありながらアクアディーネに阿った裏切り者!」
「この自由騎士を率いるのは貴様か!」
「いいや、私は案内役。脇役に過ぎぬよ。汝らに罰を与えるのは――」
 そしてジョセフは身を避ける。
 するとそこには、黒騎士の言葉に怒りを滾らせる自由騎士がいた。
「神の理なんてくだらない理由で、あなた達は村を襲ったんですか!」
 キリが言い、
「騎士っていうのは、弱い人たちを守る存在だよ。それをしないどころか人を襲うようなおまえ達に、これ以上騎士は名乗らせない!」
 カノンが言い、
「守るべき国民を傷つける騎士なんて、認めるはずがないでしょ。潰すわ」
 エルシーが言い、そして、
「もう一度おまえ達に敗戦を教えてやる。ゲオルグへそうしたように、な」
 アデルが言って、戦いは再開する。
 地下遺跡に、雷鳴のごとき雄叫びが響き渡った。

●砕け散る黒の鉄槌
 人の形をしたものが、手負いの獣となってこちらを追い詰めてくる。
 しかも連中は人の知性を保ち、人の技を駆使したまま獣となっているのだ。
 強かった。
 それは、この上なく厄介な強さであった。
「カハハハハハハ! ハハハハハハハハ!」
 全身を血まみれにしながら、黒騎士が笑った。
 笑いながら振るわれる一撃を、カバーに入ったキリが懸命に受け止める。
「ふっ、くァ!」
 だが強烈すぎる衝撃を受け止めきることはできず、彼女は床を転がった。
「ありがとうございます、キリさん!」
 庇われたモカは頭を下げてすぐに走り出した。
 彼女のステップが独特のリズムを刻み、それは魔力の渦となって黒騎士数人の足を止める。自由騎士にとっての好機。皆が、動き出した。
「せぇやァァァァァァ!」
 カノンがスルリと黒騎士一人の死角に回り込み、渾身の一撃を打ち放つ。
 ねじりが加えられた拳は、敵の甲冑をたやすくひしゃげさせて肉をしたたかに打った。グワシャ、という鈍い音がする。
「ゴボッ、カ……」
 手ごたえあり。しかし、敵は倒れない。
「……分かってたよ!」
 だがそれを、カノンはすでに予期していた。敵の攻撃が来る。彼女は身を引き、代わりにそこに立ったのは、アンジェリカだ。
 前にかざした巨大な十字架で、彼女は敵の攻撃を受け止めようとした。
「くぅぅ……!」
 重い。そして強い。ただの攻撃が、とてつもない威力に達している。
 身を襲う軋みに何とか耐えて、アンジェリカは十字架から大剣を抜いて、そのまま大振りの刃を振り下ろした。
「ガァァァァァァァ!」
 今度こそ、黒騎士は倒れた。だがアンジェリカも無事ではない。
「……折れましたか」
 腹近くに強い痛みを感じる。受け止めたとき、あばらが数本イッたか。
 痙攣を繰り返す黒騎士を見下ろしながら、彼女は思った。
「何という、無茶な戦い方でしょうか……」
 スゥと痛みが引いていく。ウェルスが癒しの魔導を施してくれたようだ。
 今や、自由騎士側を支えているのは彼だった。回復役であるウェルスが実に見事なタイミングで、仲間を適宜癒しているのだ。
「……そろそろ、キツいがな」
 ウェルスの身体は汗でびっしょりだった。魔力が尽きかけている。
「敵の様子をよく観察しろ! あんな戦い方、もつワケがねぇ!」
 彼の言葉を受け、もっともだと思ったのはシノピリカだった。
 怒りをもってこの戦いに臨んでいる自分たちをなお圧倒する黒騎士達の力。それはもはや疑いようなく脅威。恐るべきものと認めざるを得ない。
 だが回復はどうした。
 何故、誰一人として傷を癒そうとしない。
 傷が深くなるだけ強くなる術。それがゆえに回復を少なくする。
 戦術としては理解できる。しかし、そもそも黒騎士達はここまで一度も癒しの魔導を行使していない。使い手は、まだ健在であろうに。
「まさか――」
 唐突に思い至る、一つの可能性。
 思いついてもまだ「まさか」という疑念が強いが、しかしそれ以外には考えられず、シノピリカは大声を振り絞った。
「攻めろ! 攻め続けろ! こやつらは回復できぬ!」
 黒騎士が一切傷を癒そうとしない理由。
 それはきっと、癒せば術の効果が消えるから。得た強さを失うから。
 傷が深まるほどに強くなる魔導は、癒しを得られぬ諸刃の剣であったのだ。
「そうと分かれば――!」
 黒騎士の猛威の前に追い込まれつつあった自由騎士達がそろって覚悟をキメた。ここからは、どちらかが倒れるまでのダメージレースあるのみ。
「自由騎士共がァ!」
「おっと、そうはさせぬよ、悪いがね」
 杖を構え、魔力を溜めようとした黒騎士へ、テオドールが魔導を使う。
 それは魔導を邪魔する魔導。
 一瞬の光が敵を打ち、溜まりつつあった魔力が霧散した。
「お、お……! じ、呪法……! ダーケン――」
「それは厄介だ。全力で阻ませてもらおう」
 アデルが間合いを詰めて短槍で黒騎士を突く。そして撃発機構を全弾連発して、彼は黒騎士を地べたに這わせた。
 黒騎士達の勢いが目に見えて衰える。彼らも限界に来ているのだろう。
 回復するか否かの差が、ここで露わになった。
「あなたで最後のようね。覚悟は決まったかしら?」
「う、おおおおおおおおおお!」
 最後に残った黒騎士が、エルシーへと突撃を仕掛けてくる。
 だがその破れかぶれの一撃も、
「と、りゃあァァァァァ!」
 キリが身を張って防ぎ切った。
「ナイスよ、キリさん!」
 そしてエルシーが敵の懐に入り込んで、固く握りしめた拳を突き上げた。
 アッパーカットが黒騎士のあごをブッ叩き、その身を浮かせる。
「これで終わりよ!」
 さらにそこから全霊のドロップキック。
 黒騎士は地面をバウンドし、壁に激突して動かなくなった。
「……これで、終わりよ」
 同じ言葉を、今度は力なくつぶやいて、彼女は辺りを見回した。
 立っている黒騎士は一人もいなかった。戦いは、やっと終わったのだ。
「終わった……」
 脱力感から、その場に座り込む。
 遠くに幾つかの足音が聞こえたような気がしたが、それに意識を向けるだけの気力は、残念ながら残っていなかった。

 倒れた黒騎士を捕縛し、後からやってきた自由騎士と共に彼らはこの黒騎士の拠点を完全に制圧した。
 そこから見つかったのは大量の食糧、金品、武具、道具。
 一体どこからこれだけ仕入れたのかと思えるほど大量の物資であった。
「おそらくは、村落襲撃時に略奪したのだろうな。武器や防具は、ゲオルグが魔女狩りを続けながらヨウセイから奪い取ったもの、か」
 とは、弟であるジョセフの談。
 のちの調査で、物資の一割ほどが持ち出されていることが判明したが、逆にいえば九割は差し押さえることができたのだから、最良の結果といえた。
 今回の戦いで、黒騎士達の活動能力は確実に低下するだろう。
 シャンバラの亡霊との戦いは、ようやく一歩進んだところだった。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『見極めし』
取得者: シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)
『戦塵を阻む』
取得者: キリ・カーレント(CL3000547)

†あとがき†

お疲れ様でした。
ほぼ最良の結果となりました。

黒騎士の行動もこれで追いやすくなるでしょう。
次の戦いは、そう遠くないかもしれません。

それではまた次のシナリオでお会いしましょう!
FL送付済