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愛の匂い

●
「おい、もっと酒を持ってこい!」
お父さんは私に怒鳴った。
「もう家にお酒は残ってないよ」
「うるせえ、ないんだったら用意しろ!」
「そんなの無理だよ。もうお金がない」
「生意気な口をきくな!」
お父さんは右手で私の頬を殴った。その場に倒れ込む。お父さんは毎日、朝から晩までお酒を飲んでばかりだ。私が精いっぱい働いて稼いだお金も、全部お酒に溶けていく。いつからこんな生活が続いているのかは、もう覚えていない。死んだお母さんならこんな時どうするのかな。お父さんのことをよろしくね。何でそんな言葉を私に残したのかな。
――私はいったい、何のために生きているのだろう。
「お父さん、今日の夕食は……?」
「お前にはこれで十分だ」
私の顔に小さな固いパンを投げつけた。床に落ちたそれを、私は這うように拾った。そのまま走って家を出た。
私は家の近くにある橋の下に向かった。いた。ミントだ。私の姿を見るなり、駆け寄ってきた。舌を出しながら息を荒くしている。
「ほら、遅くなってごめんね」
私はパンをミントの前に置いた。小さな牙で、必死にかじりついた。わたしは思わず笑みがこぼれた。この姿を見られるのが私の最大の幸せ。
パンを食べ終わったのを確認すると、私はポケットからぼろぼろになったテニスボールを取り出した。そして、遠くの草むらへと投げた。ミントはそれを全速力で追った。しばらくするとボールを口にくわえたまま、こちらへ戻ってきた。私の目の前に差し出す。
「やっぱり上手だねえ、えらいねえ」
私はミントの頭を撫でた。嬉しそうににしっぽを振っている。わたしはこんなことしかしてあげられない。でもこの子が楽しんでいる姿を見ると、なんだか私まで嬉しくなる。
――たった一つの私の生きる意味。
私はもう一度草むらへ、テニスボールを投げた。しかしミントはそれを追いかけなかった。
「あれ、どうしたの」
私は顔をのぞいた。
「嘘……」
そう言葉がもれた瞬間、全身に鋭い痛みを感じた。目の前がうっすらと暗くなっていった。
●
「皆に集まっていただいたのは他でもないよ」
『元気印』クラウディア・フォン・プラテス(nCL3000004)は大きな帽子をかぶり直した。
「イブリース化した犬が、キーラという十二歳の少女を襲ったみたい。皆にはその退治をお願いしたいんだよ。時間は夕方。場所はイ・ラプセルの辺境の街だよ」
討伐に向かうオラクル達はアクアディーネの祝福を受けている。倒したイブリースを元の犬の姿に戻すことも可能だ。
「それと少女の父親は荒れた生活を送っているらしい。説得すれば改心させることができるかもしれないね」
深刻な目で一同を見据えた。
「今から行けば、まだ少女の命は救えると思う。お願いね」
「おい、もっと酒を持ってこい!」
お父さんは私に怒鳴った。
「もう家にお酒は残ってないよ」
「うるせえ、ないんだったら用意しろ!」
「そんなの無理だよ。もうお金がない」
「生意気な口をきくな!」
お父さんは右手で私の頬を殴った。その場に倒れ込む。お父さんは毎日、朝から晩までお酒を飲んでばかりだ。私が精いっぱい働いて稼いだお金も、全部お酒に溶けていく。いつからこんな生活が続いているのかは、もう覚えていない。死んだお母さんならこんな時どうするのかな。お父さんのことをよろしくね。何でそんな言葉を私に残したのかな。
――私はいったい、何のために生きているのだろう。
「お父さん、今日の夕食は……?」
「お前にはこれで十分だ」
私の顔に小さな固いパンを投げつけた。床に落ちたそれを、私は這うように拾った。そのまま走って家を出た。
私は家の近くにある橋の下に向かった。いた。ミントだ。私の姿を見るなり、駆け寄ってきた。舌を出しながら息を荒くしている。
「ほら、遅くなってごめんね」
私はパンをミントの前に置いた。小さな牙で、必死にかじりついた。わたしは思わず笑みがこぼれた。この姿を見られるのが私の最大の幸せ。
パンを食べ終わったのを確認すると、私はポケットからぼろぼろになったテニスボールを取り出した。そして、遠くの草むらへと投げた。ミントはそれを全速力で追った。しばらくするとボールを口にくわえたまま、こちらへ戻ってきた。私の目の前に差し出す。
「やっぱり上手だねえ、えらいねえ」
私はミントの頭を撫でた。嬉しそうににしっぽを振っている。わたしはこんなことしかしてあげられない。でもこの子が楽しんでいる姿を見ると、なんだか私まで嬉しくなる。
――たった一つの私の生きる意味。
私はもう一度草むらへ、テニスボールを投げた。しかしミントはそれを追いかけなかった。
「あれ、どうしたの」
私は顔をのぞいた。
「嘘……」
そう言葉がもれた瞬間、全身に鋭い痛みを感じた。目の前がうっすらと暗くなっていった。
●
「皆に集まっていただいたのは他でもないよ」
『元気印』クラウディア・フォン・プラテス(nCL3000004)は大きな帽子をかぶり直した。
「イブリース化した犬が、キーラという十二歳の少女を襲ったみたい。皆にはその退治をお願いしたいんだよ。時間は夕方。場所はイ・ラプセルの辺境の街だよ」
討伐に向かうオラクル達はアクアディーネの祝福を受けている。倒したイブリースを元の犬の姿に戻すことも可能だ。
「それと少女の父親は荒れた生活を送っているらしい。説得すれば改心させることができるかもしれないね」
深刻な目で一同を見据えた。
「今から行けば、まだ少女の命は救えると思う。お願いね」
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.イブリースを戦闘不能にする
皆さんこんにちは。吹雪祥吾(ふぶきしょうご)と申します。
冬だからこそこの名前でいいですが、春になると正直困りますよね。
どうぞよろしくお願いします。
今回の目的はイブリース化した、ミントという野良犬を戦闘不能にすることです。
未来予知で被害にあったキーラと呼ばれる少女は、ミントと触れ合うことを何よりの生きがいとしています。
食事を与え、テニスボールで毎日遊んでいます。
このテニスボールは、貴族の家の近くを歩いていた時に、道ばたに転がっているのを拾ったものです。
また、犬だといってもあなどってはいけません。イブリース化した体長は二メートルほどあり、凶暴です。
場所はイ・ラプセルの辺境の街。そこの川にかかっている橋の下です。視界と足場は良好。時間は夕方です。
登場人物は、キーラ、キーラの父親、ミントになります。
どうやらミントは、キーラにしかなついていないようです。触れ合うことは難しいでしょう。
また、キーラの父親は、イブリースを倒した後に、説得して改心させることができます。
イブリースは鋭い爪で切り裂く攻撃をしてきます。
動きは素早く、すばしっこいです。
気性も荒くなっています。
どうか皆さんの手で、キーラを救ってあげてください。
冬だからこそこの名前でいいですが、春になると正直困りますよね。
どうぞよろしくお願いします。
今回の目的はイブリース化した、ミントという野良犬を戦闘不能にすることです。
未来予知で被害にあったキーラと呼ばれる少女は、ミントと触れ合うことを何よりの生きがいとしています。
食事を与え、テニスボールで毎日遊んでいます。
このテニスボールは、貴族の家の近くを歩いていた時に、道ばたに転がっているのを拾ったものです。
また、犬だといってもあなどってはいけません。イブリース化した体長は二メートルほどあり、凶暴です。
場所はイ・ラプセルの辺境の街。そこの川にかかっている橋の下です。視界と足場は良好。時間は夕方です。
登場人物は、キーラ、キーラの父親、ミントになります。
どうやらミントは、キーラにしかなついていないようです。触れ合うことは難しいでしょう。
また、キーラの父親は、イブリースを倒した後に、説得して改心させることができます。
イブリースは鋭い爪で切り裂く攻撃をしてきます。
動きは素早く、すばしっこいです。
気性も荒くなっています。
どうか皆さんの手で、キーラを救ってあげてください。
状態
完了
完了
報酬マテリア
6個
2個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2018年12月23日
2018年12月23日
†メイン参加者 8人†
●
薄汚れた小川を、オレンジの夕焼けが照らしていた。光は反射して、二つの影を輝かせていた。
ササッと音がした。次の瞬間、一人の少女が、イブリースとキーラをつけ離した。
「下がってて!」
『太陽の笑顔』カノン・イスルギ(CL3000025)だ。
「あ、あなた達は?」
「自由騎士団の者だ。君を守るために来たんだ」
『スケープゴート』ウィルフリード・サントス(CL3000423)は、手袋をはめ直しながら近づいてきた。
「自由騎士団? ミントは、ミントはどうなっちゃったんですか?」
「今はイブリース化してるんだ。でもカノン達なら元に戻せる。絶対お友達をうしなわせたりしないから!」
カノンは太陽のような笑顔ではげました。キーラは声が出ないようだった。うまく状況をのみ込めていないようだ。
「大丈夫です、落ち着いてください。わたし達、自由騎士団がどうにかしてみせます」
ティラミス・グラスホイップ(CL3000385)はキーラの肩に手を置いた。
「あ、ありがとうございます。どうか、どうかミントを救ってください」
キーラはすがりつくような声を出した。それを見て、自由騎士たちはそれぞれにうなづいた。
「離れんじゃねえぞ」
『孤高の技巧屋』虎鉄・雲母(CL3000448)はキーラに寄り添った。
イブリースはにらみつけてきた。見るもの全てを切り裂いてしまいそうな眼光だ。
――ウオオオオオオン。
いかくするように吠えてきた。お腹の底に響くような殺気だった声だ。
それをきいて、ウィルフリードはウォーモンガ―を使った。力が強化された。続くように、『ビッグ・ヴィーナス』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)は、オーバーロードを自分に付与した。さらにトミコ・マール(CL3000192)はスティールハイを使い、自身の防御力を高めた。
「さあ、やるよー」
『ちみっこマーチャント』ナナン・皐月(CL3000240)は武器を構えた。
●
鋭い爪が、宙を切り裂いた。次の瞬間、金属がぶつかるような音がたった。 シールドバッシュでイブリースの攻撃を受け止めたのだ。トミコだった。
「ははっ!! アタシの鉄の防御、崩せるものなら崩してみるがいいさっ!!」
イブリースは一瞬、体勢を崩した。
「すぐ済むから、ちょっとだけ大人しくしていてね!」
その隙を見逃さず、『慈愛の剣姫』アリア・セレスティ(CL3000222)は烈風刃・改を放った。暴風でイブリースの動きが封じられる。 それを見て、シノピリカは左腕で思い切り殴った。猛烈な蒸気が漏れる。SIEGER・IMPACT 改二だ。
それに続くように、ウィルフリードはバスターソードを地面に叩きつけた。強力な衝撃波が、イブリーズを襲った。オーバーブラストだ。
追い打ちをかけるように、カノンが震撃を放った。その拳は、体に跡をつけるほどのダメージを与えた。
イブリースは吠えた。痛みに耐えるような声だ。地面を揺るがすような響きがあった。息が荒くなり、目つきが鋭くなった。
そしてそのまま、近くにいたカノンに詰め寄った。次の瞬間、鋭い爪で切り裂いた。彼女はうめき声をあげて、その場に倒れ込んだ。
「大丈夫かの?」
シノピリカが駆け寄った。しかしそこにも隙が生まれた。彼女もまたイブリースの爪にやられてしまったのだ。
「急いで回復を!」
ティラミスはノートルダムの息吹を使った。二人の傷がみるみる癒されていく。
「ありがとなのじゃ、助かったのじゃ」
「いえいえ、さあ、あともうひと踏ん張りですよ」
「いい加減、倒れるのだ!」
ナナンはバッシュを放った。しかしイブリースの動きは、さきほどよりも素早くなっていた。間一髪で攻撃がかわされたのだ。
そのままイブリースはキーラの方へと駆けていった。大きな影が少女を覆う。爪を振り上げて切り裂こうとした。キーラは恐怖で目をつむった。
「危ない!」
トミコがぎりぎりのところで、攻撃をはじいた。そこですぐにアリアがエコーズを使い、イブリースの足場を崩した。その隙にティラミスは、テレキネシスでイブリースを引っ張り、キーラから離した。そして虎鉄が人形兵士を作り出した。人形兵士は攻撃を加えていった。
「このまま、押し切るのじゃ!」
シノピリカは剣をイブリースの頭に突き立てた。そのまま勢いよくお尻まで切り裂いた。ナナンもそれに続いてツヴァイハンダーで攻撃した。たたみかけるように、ウィルフリードが正面から胸を切りつけた。痛恨の連続バッシュだ。
――ウオオオオオオン。
イブリースは全身を地面に叩きつけ、苦しみもだえた。しかし荒い息を吐きながら、よろりと立ち上がった。
「……冗談でしょ」
自由騎士たちはげんなりと肩を落とした。皆はもう疲労しきっていた。
イブリースは前衛に詰め寄った。そして巨大な爪を振り上げた。その時だった。
「お願い! 元に戻って!」
カノンが震撃を撃ち込んだ。急所を狙った渾身の一撃だった。影狼で、気付かれないよう、イブリースの意識外から忍び寄っていたのだ。
イブリーズはその場に音を立てて倒れた。少しの沈黙があった。地面には小さくなった、か細い野良犬が横たわっていた。
●
キーラは飛び出すように走りだし、ミントの元に駆け寄った。
「大丈夫? 怪我はない?」
ミントは立ち上がると、キーラを見つめ返した。そしてそのままきびすを返し、草むらの中へ走って消えていった。
「私のこと、怖くなっちゃったのかな」
キーラの瞳からは涙があふれていた。
「みんな無事に生きていただけ、よしとしようじゃないか」
トミコは励ますように笑った。
「……そうですね。ミントならきっと自力で生きていけます」
「大丈夫? クッキー、食べる?」
アリアは心配そうに差し出した。
「あ、ありがとうございます」
キーラは涙をぬぐって受け取った。その時だった。
「こんなところで油を売っていたのか!」
キーラの父親だった。顔を赤くほてらせ、怒りの表情をしている。
途端に小川の水が宙に舞い、キーラの父親をびしょびしょにした。
「酔いは覚めたかしら、駄目男さん?」
ティラミスのテレキネシスだ。
「いきなり何しやがる!」
「話は全て聞いていますよ」
「何だと?」
「いい大人が子供だけを働かせて自分は酒を飲むだなんて、プライドは無いんですか? はっきり言ってみっともないです!
貴方一人が勝手に酔っ払う分にはいいですよ。ですけどその自暴自棄な行動に、自分の娘を巻き込むのが貴方と奥さんの幸せなのかしら? 違うって言うならつべこべ言わずに……働け!」
「お、お前に説教される筋合いなんざねえ!」
虎鉄はキーラの父親に近づき、胸ぐらをつかんだ。
「なあ、あんた。今回は無事だったから良かったけどよ、自分の娘が殺されたかもしれねえんだ。このこと、どう思ってんだよ。何があったのか知れねえけどよ! 自分の娘にいつまでも甘えてんじゃねえよ!」
キーラの父親は手を振り払った。
「お、お前らに、俺の何がわかる!」
トミコは彼の体を揺さぶった。
「何を甘ったれたことをいってんだい!! 子は親を見て育つんだ!! やけになる前に自分の周りをきちんと見てみなよ。アンタが本来見せるべき姿を誰よりも心待ちにしていた存在が、見えないのかい!!」
「うるせえ! うるせえ! うるせえ!」
キーラの父親は頭を左右に振った。カノンは彼の眼を真っすぐ見据えた。
「キーラちゃんはおじさんに殴られて酷い目にあっても、どんなに辛くても、おじさんの所から逃げ出さなかった。それは例えどんな父親でもまだキーラちゃんがおじさんを愛してるからだとカノンは思う。でも今のおじさんはただ愛される事にあぐらをかいてるだけだよ!」
キーラの父親はうつむいた。
「お前らに……俺の何が……理解できるっ……何がっ……」
ナナンは涙を浮かべながら彼の胸を叩いた。
「キーラちゃんはお父さんとお母さんの、愛の結晶でしょう? ねえ、思い出して! キーラちゃんが産まれた時のこと、キーラちゃんが初めてしゃべった時のこと、初めて歩いた時のこと……うぅ……お母さんが死んじゃう前の時のこと! お願いだから、一度思い出してみて!」
キーラの父親は頭を抱えた。やがてその場にひざをついた。
――うおおおおおおおおおおおおお。
そのまま地面におでこをこすりつけた。
「……すまない……すまない……すまない」
声は震えていた。
「俺は妻を失ってから、生きる気力を失ってしまったんだ。仕事もやめちまって、酒を飲んでは気をまぎらわす毎日。本当はキーラには、こんな俺を早く見捨ててほしかったんだ。こんな俺の世話なんかしてたら、キーラまでもダメになっちまう。だから早く家を出て、独り立ちしてほしかった。しびれを切らして、早く逃げ出してほしかった。どこか他の場所で幸せになってほしかったんだ。
でもキーラは、なぜか俺を見捨てなかった……だからわけもわからないまま、俺はどんどん自暴自棄になっちまっていった……そしていつの間にか、キーラが自分の娘だということを忘れちまっていた……俺はやりすぎた……やりすぎちまったよ」
父親の顔は、涙でぐしゃぐしゃに崩れていた。キーラは彼の胸に頭を寄せた。
「どんなにひどいことをされても、私はお父さんの元を離れないよ」
「どうしてだ……どうして……」
「だって、家族だもん」
キーラは優しげに笑いかけた。
「家族?」
「そうだよ、家族。『どんなに苦しくても、どんなにひどい状況になっても、家族の間には確かな愛があるの』それがお母さんが残した、最後の遺言。お父さんは何より大切な、家族だから」
キーラの父親はまた叫び声を上げた。小さな街に悲しみの声がとどろいた。おたけびはしばらく続いた。
やがてシノピリカが、父親の背中に手を当てた。
「おぬしの気持ちはようわかる。じゃが取り返しのつくことなど、この世には無い。お主が身勝手に手を上げた時点で、もはや一線は越えられておる。それでも許しが欲しいなら、心を入れ替え、父親としての務めを果たす事じゃ。まかり間違っても、二度と心のままに暴力を振るうのでは無いぞ」
「わかったよ。目が覚めた。俺も心を入れ替える。これからはキーラと二人で、ちゃんと協力し合って暮らしていくことにするよ」
ウィルフリードはキーラの目線までかがんだ。
「お父さんは悲しかっただけなんだ。本当は君のことも愛していた。それはわかってやってくれ」
「もちろんです。天国でお母さんも喜んでいると思います」
自由騎士たちの表情に笑みが浮かんだ。川から吹く涼しい風が彼らを包んだ。
●
「もう助けはいらないと思いますが、念のため、たまに二人の様子をうかがうようにします」
カスカ・セイリュウジ(CL3000019)がこちらに近づいてきた。
「それは助かるのじゃ、まかせるのじゃ」
シノピリカは帽子に手を当ててみせた。
「これで、一件落着ですね」
ティラミスは耳をピンと立てた。
「当然の結果だ」
虎鉄はたばこをふかした。
「これでカノン達も、もうお友達だからね」
カノンはキーラの手を握った。
「嬉しいです」
握り返した。
「ミントちゃんがいなくなったのは、残念だったね。あまり気を落とさないようにね」
アリアはキーラの頭をさすった。
「もう大丈夫ですよ」
キーラは笑ってみせた。強がっていることは、皆わかっていた。
「じゃあ、わたし達は帰ります。全て皆さんのおかげです。本当にどうもありがとうございました」
頭を下げた。
「何てお礼をすればいいのか」
父親もそれに続いて頭を下げた。
「お礼なんかいらないよ」
ナナンはニコニコして、右手を横に振った。
「別にたいしたことをしたわけじゃないからな」
ウィルフリードは自分の服をさっと払った。
「じゃあ、元気でやりなよ」
トミコは腕を組んで声をかけた。
「それでは、お世話になりました」
二人は家へ戻ろうとした。その時だった。キーラの右足の後ろを、何かがつついた。振り返った。ミントだった。口に何かくわえている。それを足元に差し出してきた。ぼろぼろになった、テニスボールだった。
薄汚れた小川を、オレンジの夕焼けが照らしていた。光は反射して、二つの影を輝かせていた。
ササッと音がした。次の瞬間、一人の少女が、イブリースとキーラをつけ離した。
「下がってて!」
『太陽の笑顔』カノン・イスルギ(CL3000025)だ。
「あ、あなた達は?」
「自由騎士団の者だ。君を守るために来たんだ」
『スケープゴート』ウィルフリード・サントス(CL3000423)は、手袋をはめ直しながら近づいてきた。
「自由騎士団? ミントは、ミントはどうなっちゃったんですか?」
「今はイブリース化してるんだ。でもカノン達なら元に戻せる。絶対お友達をうしなわせたりしないから!」
カノンは太陽のような笑顔ではげました。キーラは声が出ないようだった。うまく状況をのみ込めていないようだ。
「大丈夫です、落ち着いてください。わたし達、自由騎士団がどうにかしてみせます」
ティラミス・グラスホイップ(CL3000385)はキーラの肩に手を置いた。
「あ、ありがとうございます。どうか、どうかミントを救ってください」
キーラはすがりつくような声を出した。それを見て、自由騎士たちはそれぞれにうなづいた。
「離れんじゃねえぞ」
『孤高の技巧屋』虎鉄・雲母(CL3000448)はキーラに寄り添った。
イブリースはにらみつけてきた。見るもの全てを切り裂いてしまいそうな眼光だ。
――ウオオオオオオン。
いかくするように吠えてきた。お腹の底に響くような殺気だった声だ。
それをきいて、ウィルフリードはウォーモンガ―を使った。力が強化された。続くように、『ビッグ・ヴィーナス』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)は、オーバーロードを自分に付与した。さらにトミコ・マール(CL3000192)はスティールハイを使い、自身の防御力を高めた。
「さあ、やるよー」
『ちみっこマーチャント』ナナン・皐月(CL3000240)は武器を構えた。
●
鋭い爪が、宙を切り裂いた。次の瞬間、金属がぶつかるような音がたった。 シールドバッシュでイブリースの攻撃を受け止めたのだ。トミコだった。
「ははっ!! アタシの鉄の防御、崩せるものなら崩してみるがいいさっ!!」
イブリースは一瞬、体勢を崩した。
「すぐ済むから、ちょっとだけ大人しくしていてね!」
その隙を見逃さず、『慈愛の剣姫』アリア・セレスティ(CL3000222)は烈風刃・改を放った。暴風でイブリースの動きが封じられる。 それを見て、シノピリカは左腕で思い切り殴った。猛烈な蒸気が漏れる。SIEGER・IMPACT 改二だ。
それに続くように、ウィルフリードはバスターソードを地面に叩きつけた。強力な衝撃波が、イブリーズを襲った。オーバーブラストだ。
追い打ちをかけるように、カノンが震撃を放った。その拳は、体に跡をつけるほどのダメージを与えた。
イブリースは吠えた。痛みに耐えるような声だ。地面を揺るがすような響きがあった。息が荒くなり、目つきが鋭くなった。
そしてそのまま、近くにいたカノンに詰め寄った。次の瞬間、鋭い爪で切り裂いた。彼女はうめき声をあげて、その場に倒れ込んだ。
「大丈夫かの?」
シノピリカが駆け寄った。しかしそこにも隙が生まれた。彼女もまたイブリースの爪にやられてしまったのだ。
「急いで回復を!」
ティラミスはノートルダムの息吹を使った。二人の傷がみるみる癒されていく。
「ありがとなのじゃ、助かったのじゃ」
「いえいえ、さあ、あともうひと踏ん張りですよ」
「いい加減、倒れるのだ!」
ナナンはバッシュを放った。しかしイブリースの動きは、さきほどよりも素早くなっていた。間一髪で攻撃がかわされたのだ。
そのままイブリースはキーラの方へと駆けていった。大きな影が少女を覆う。爪を振り上げて切り裂こうとした。キーラは恐怖で目をつむった。
「危ない!」
トミコがぎりぎりのところで、攻撃をはじいた。そこですぐにアリアがエコーズを使い、イブリースの足場を崩した。その隙にティラミスは、テレキネシスでイブリースを引っ張り、キーラから離した。そして虎鉄が人形兵士を作り出した。人形兵士は攻撃を加えていった。
「このまま、押し切るのじゃ!」
シノピリカは剣をイブリースの頭に突き立てた。そのまま勢いよくお尻まで切り裂いた。ナナンもそれに続いてツヴァイハンダーで攻撃した。たたみかけるように、ウィルフリードが正面から胸を切りつけた。痛恨の連続バッシュだ。
――ウオオオオオオン。
イブリースは全身を地面に叩きつけ、苦しみもだえた。しかし荒い息を吐きながら、よろりと立ち上がった。
「……冗談でしょ」
自由騎士たちはげんなりと肩を落とした。皆はもう疲労しきっていた。
イブリースは前衛に詰め寄った。そして巨大な爪を振り上げた。その時だった。
「お願い! 元に戻って!」
カノンが震撃を撃ち込んだ。急所を狙った渾身の一撃だった。影狼で、気付かれないよう、イブリースの意識外から忍び寄っていたのだ。
イブリーズはその場に音を立てて倒れた。少しの沈黙があった。地面には小さくなった、か細い野良犬が横たわっていた。
●
キーラは飛び出すように走りだし、ミントの元に駆け寄った。
「大丈夫? 怪我はない?」
ミントは立ち上がると、キーラを見つめ返した。そしてそのままきびすを返し、草むらの中へ走って消えていった。
「私のこと、怖くなっちゃったのかな」
キーラの瞳からは涙があふれていた。
「みんな無事に生きていただけ、よしとしようじゃないか」
トミコは励ますように笑った。
「……そうですね。ミントならきっと自力で生きていけます」
「大丈夫? クッキー、食べる?」
アリアは心配そうに差し出した。
「あ、ありがとうございます」
キーラは涙をぬぐって受け取った。その時だった。
「こんなところで油を売っていたのか!」
キーラの父親だった。顔を赤くほてらせ、怒りの表情をしている。
途端に小川の水が宙に舞い、キーラの父親をびしょびしょにした。
「酔いは覚めたかしら、駄目男さん?」
ティラミスのテレキネシスだ。
「いきなり何しやがる!」
「話は全て聞いていますよ」
「何だと?」
「いい大人が子供だけを働かせて自分は酒を飲むだなんて、プライドは無いんですか? はっきり言ってみっともないです!
貴方一人が勝手に酔っ払う分にはいいですよ。ですけどその自暴自棄な行動に、自分の娘を巻き込むのが貴方と奥さんの幸せなのかしら? 違うって言うならつべこべ言わずに……働け!」
「お、お前に説教される筋合いなんざねえ!」
虎鉄はキーラの父親に近づき、胸ぐらをつかんだ。
「なあ、あんた。今回は無事だったから良かったけどよ、自分の娘が殺されたかもしれねえんだ。このこと、どう思ってんだよ。何があったのか知れねえけどよ! 自分の娘にいつまでも甘えてんじゃねえよ!」
キーラの父親は手を振り払った。
「お、お前らに、俺の何がわかる!」
トミコは彼の体を揺さぶった。
「何を甘ったれたことをいってんだい!! 子は親を見て育つんだ!! やけになる前に自分の周りをきちんと見てみなよ。アンタが本来見せるべき姿を誰よりも心待ちにしていた存在が、見えないのかい!!」
「うるせえ! うるせえ! うるせえ!」
キーラの父親は頭を左右に振った。カノンは彼の眼を真っすぐ見据えた。
「キーラちゃんはおじさんに殴られて酷い目にあっても、どんなに辛くても、おじさんの所から逃げ出さなかった。それは例えどんな父親でもまだキーラちゃんがおじさんを愛してるからだとカノンは思う。でも今のおじさんはただ愛される事にあぐらをかいてるだけだよ!」
キーラの父親はうつむいた。
「お前らに……俺の何が……理解できるっ……何がっ……」
ナナンは涙を浮かべながら彼の胸を叩いた。
「キーラちゃんはお父さんとお母さんの、愛の結晶でしょう? ねえ、思い出して! キーラちゃんが産まれた時のこと、キーラちゃんが初めてしゃべった時のこと、初めて歩いた時のこと……うぅ……お母さんが死んじゃう前の時のこと! お願いだから、一度思い出してみて!」
キーラの父親は頭を抱えた。やがてその場にひざをついた。
――うおおおおおおおおおおおおお。
そのまま地面におでこをこすりつけた。
「……すまない……すまない……すまない」
声は震えていた。
「俺は妻を失ってから、生きる気力を失ってしまったんだ。仕事もやめちまって、酒を飲んでは気をまぎらわす毎日。本当はキーラには、こんな俺を早く見捨ててほしかったんだ。こんな俺の世話なんかしてたら、キーラまでもダメになっちまう。だから早く家を出て、独り立ちしてほしかった。しびれを切らして、早く逃げ出してほしかった。どこか他の場所で幸せになってほしかったんだ。
でもキーラは、なぜか俺を見捨てなかった……だからわけもわからないまま、俺はどんどん自暴自棄になっちまっていった……そしていつの間にか、キーラが自分の娘だということを忘れちまっていた……俺はやりすぎた……やりすぎちまったよ」
父親の顔は、涙でぐしゃぐしゃに崩れていた。キーラは彼の胸に頭を寄せた。
「どんなにひどいことをされても、私はお父さんの元を離れないよ」
「どうしてだ……どうして……」
「だって、家族だもん」
キーラは優しげに笑いかけた。
「家族?」
「そうだよ、家族。『どんなに苦しくても、どんなにひどい状況になっても、家族の間には確かな愛があるの』それがお母さんが残した、最後の遺言。お父さんは何より大切な、家族だから」
キーラの父親はまた叫び声を上げた。小さな街に悲しみの声がとどろいた。おたけびはしばらく続いた。
やがてシノピリカが、父親の背中に手を当てた。
「おぬしの気持ちはようわかる。じゃが取り返しのつくことなど、この世には無い。お主が身勝手に手を上げた時点で、もはや一線は越えられておる。それでも許しが欲しいなら、心を入れ替え、父親としての務めを果たす事じゃ。まかり間違っても、二度と心のままに暴力を振るうのでは無いぞ」
「わかったよ。目が覚めた。俺も心を入れ替える。これからはキーラと二人で、ちゃんと協力し合って暮らしていくことにするよ」
ウィルフリードはキーラの目線までかがんだ。
「お父さんは悲しかっただけなんだ。本当は君のことも愛していた。それはわかってやってくれ」
「もちろんです。天国でお母さんも喜んでいると思います」
自由騎士たちの表情に笑みが浮かんだ。川から吹く涼しい風が彼らを包んだ。
●
「もう助けはいらないと思いますが、念のため、たまに二人の様子をうかがうようにします」
カスカ・セイリュウジ(CL3000019)がこちらに近づいてきた。
「それは助かるのじゃ、まかせるのじゃ」
シノピリカは帽子に手を当ててみせた。
「これで、一件落着ですね」
ティラミスは耳をピンと立てた。
「当然の結果だ」
虎鉄はたばこをふかした。
「これでカノン達も、もうお友達だからね」
カノンはキーラの手を握った。
「嬉しいです」
握り返した。
「ミントちゃんがいなくなったのは、残念だったね。あまり気を落とさないようにね」
アリアはキーラの頭をさすった。
「もう大丈夫ですよ」
キーラは笑ってみせた。強がっていることは、皆わかっていた。
「じゃあ、わたし達は帰ります。全て皆さんのおかげです。本当にどうもありがとうございました」
頭を下げた。
「何てお礼をすればいいのか」
父親もそれに続いて頭を下げた。
「お礼なんかいらないよ」
ナナンはニコニコして、右手を横に振った。
「別にたいしたことをしたわけじゃないからな」
ウィルフリードは自分の服をさっと払った。
「じゃあ、元気でやりなよ」
トミコは腕を組んで声をかけた。
「それでは、お世話になりました」
二人は家へ戻ろうとした。その時だった。キーラの右足の後ろを、何かがつついた。振り返った。ミントだった。口に何かくわえている。それを足元に差し出してきた。ぼろぼろになった、テニスボールだった。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
称号付与
『癒しの回復師』
取得者: ティラミス・グラスホイップ(CL3000385)
『頼れるガーディアン』
取得者: トミコ・マール(CL3000192)
『クールな黒騎士』
取得者: ウィルフリード・サントス(CL3000423)
『家族おもい』
取得者: ナナン・皐月(CL3000240)
『凛とした金髪騎士』
取得者: シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)
『家族おもい』
取得者: カノン・イスルギ(CL3000025)
『クールな新米錬金術師』
取得者: 虎鉄・雲母(CL3000448)
『チャンスメーカー』
取得者: アリア・セレスティ(CL3000222)
『銀髪の助っ人』
取得者: カスカ・セイリュウジ(CL3000019)
取得者: ティラミス・グラスホイップ(CL3000385)
『頼れるガーディアン』
取得者: トミコ・マール(CL3000192)
『クールな黒騎士』
取得者: ウィルフリード・サントス(CL3000423)
『家族おもい』
取得者: ナナン・皐月(CL3000240)
『凛とした金髪騎士』
取得者: シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)
『家族おもい』
取得者: カノン・イスルギ(CL3000025)
『クールな新米錬金術師』
取得者: 虎鉄・雲母(CL3000448)
『チャンスメーカー』
取得者: アリア・セレスティ(CL3000222)
『銀髪の助っ人』
取得者: カスカ・セイリュウジ(CL3000019)
†あとがき†
皆さんどうもお疲れ様です。
キーラとその父親、ミントの未来はとても明るいものとなりました。全ては皆さんの素晴らしい活躍があったからです。
MVPははキーラの父親に、昔のことを思い出させてくれたナナンさん。
参加どうもありがとうございました!
キーラとその父親、ミントの未来はとても明るいものとなりました。全ては皆さんの素晴らしい活躍があったからです。
MVPははキーラの父親に、昔のことを思い出させてくれたナナンさん。
参加どうもありがとうございました!
FL送付済