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裏街の巨人

●
ゼップ・ドーバーマンという男は、かつては小さな農家の大家族に生まれた、ごく平凡な少年に過ぎなかった。
頑強な肉体に恵まれた彼は、家の手伝いもよくこなした。そのままいけば立派な跡取りになれただろう。惜しむらくは性格が勤勉すぎるのと、ちょうど時代の転換期に生まれてしまったことと、少しばかり兄弟が多過ぎたのがまずかった。食い扶持を賄えないことを両親が彼に零すようになると、彼は両親と畑を兄弟に任せ、一人故郷を旅立った。蒸気機関の台頭で活気に溢れ、多くの労働者を必要としている大都会へと。
しかし、そこに彼が求めた一発逆転のチャンスは無かった。あるのはただ『労働』だけ−−仕事はすぐに見つかった。彼は少ない賃金を両親への仕送りに回し、自らは極貧の生活に甘んじた。来る日も来る日も過酷な労働。手元に残る金は僅かばかり。暗く狭い宿舎に押し込められるような生活。目の前を通り過ぎていく貴族や商人の富裕者層−−やがて彼はその僅かな金を、野卑で粗暴な労働者仲間との遊びに使うようになった。酒。博打。あるいは喧嘩−−彼は順応した。もともと弱い身体ではないのだ。一瞬のスリルとカタルシスに酔いながら、癒されない心は徐々に壊れていった。
「−−あ?」
残業代もつかない深夜の作業が終わって帰路に着いた彼の前に−−唐突に『それ』は現れた。労働者宿舎が立ち並ぶ貧民街の小さな路地裏。そこに−−どういうわけか、『汽車』が来ていた。汽笛を鳴らし、白い煙を吐き散らして−−まるで彼を誘うように、客車のドアを開けている。異様な光景。あり得ないような光景。あり得ないような−−チャンス。
「ああ……ああ!」
彼は思い出していた。故郷を旅立ったあの日。同じように自分を迎えた汽車のドア。自分の力で大金を稼ぎ、故郷に戻る夢を抱いて乗り込んだ汽車。あの日と同じ光景が、今ここにある。
やってくれ! これを待ってた! 今度こそ、俺はこれを待ってたんだ!
応えるように、汽車がぼうっと光を放った。彼は目を潤ませて笑った。報われた。やっと解放されるのだ。今度こそ、新しい世界が待っている。
−−そう。新しい世界だとも。もう、何も心配しなくていい。
●
「……で、最近その辺りで、『巨人』が目撃されてるらしいわ」
『あたしにお任せ』バーバラ・キュプカー(nCL3000007)は、そう言って話を聞いていた自由騎士達を見回した。「巨人、ですか?」
「そう。身の丈ゆうに3メートル以上。暗くて狭い路地裏に潜み、近寄る者には見境なく襲いかかる−−現にぶん殴られて重傷を負った人もいるみたいよ。まあ、酒に酔って誰かと喧嘩しただけかもしれないけど」
「それを退治してほしいということか?」
「本当にいるなら、ね。イブリースの可能性もあるし、ちょっと見て来てほしいのよ。……気をつけてね」
「巨人一体だけなんだろ? 大丈夫だよ! 皆でかかれば楽勝だぜ!」
「いや、そこじゃなくて、ね」
「あ? そこじゃない?」
バーバラは頷き、ちょっと歯切れ悪く笑った。「現場はアデレード市・リブラ地区−−別名、『リブラの裏街』。出稼ぎ労働者の宿舎とかがあるところで、こう、いかがわしい屋台とか変な客引きとか、ステレオタイプなチンピラとかもいて……なんというか、あまりよくない地域なのよ。気をつけてね」
うわあ、と自由騎士達が一歩引いた。バーバラはあら、と声を上げ、そのあと一つ咳払いして、
「お・ね・が・い♡」
「……同じ手は二度通用しませんよ」
ゼップ・ドーバーマンという男は、かつては小さな農家の大家族に生まれた、ごく平凡な少年に過ぎなかった。
頑強な肉体に恵まれた彼は、家の手伝いもよくこなした。そのままいけば立派な跡取りになれただろう。惜しむらくは性格が勤勉すぎるのと、ちょうど時代の転換期に生まれてしまったことと、少しばかり兄弟が多過ぎたのがまずかった。食い扶持を賄えないことを両親が彼に零すようになると、彼は両親と畑を兄弟に任せ、一人故郷を旅立った。蒸気機関の台頭で活気に溢れ、多くの労働者を必要としている大都会へと。
しかし、そこに彼が求めた一発逆転のチャンスは無かった。あるのはただ『労働』だけ−−仕事はすぐに見つかった。彼は少ない賃金を両親への仕送りに回し、自らは極貧の生活に甘んじた。来る日も来る日も過酷な労働。手元に残る金は僅かばかり。暗く狭い宿舎に押し込められるような生活。目の前を通り過ぎていく貴族や商人の富裕者層−−やがて彼はその僅かな金を、野卑で粗暴な労働者仲間との遊びに使うようになった。酒。博打。あるいは喧嘩−−彼は順応した。もともと弱い身体ではないのだ。一瞬のスリルとカタルシスに酔いながら、癒されない心は徐々に壊れていった。
「−−あ?」
残業代もつかない深夜の作業が終わって帰路に着いた彼の前に−−唐突に『それ』は現れた。労働者宿舎が立ち並ぶ貧民街の小さな路地裏。そこに−−どういうわけか、『汽車』が来ていた。汽笛を鳴らし、白い煙を吐き散らして−−まるで彼を誘うように、客車のドアを開けている。異様な光景。あり得ないような光景。あり得ないような−−チャンス。
「ああ……ああ!」
彼は思い出していた。故郷を旅立ったあの日。同じように自分を迎えた汽車のドア。自分の力で大金を稼ぎ、故郷に戻る夢を抱いて乗り込んだ汽車。あの日と同じ光景が、今ここにある。
やってくれ! これを待ってた! 今度こそ、俺はこれを待ってたんだ!
応えるように、汽車がぼうっと光を放った。彼は目を潤ませて笑った。報われた。やっと解放されるのだ。今度こそ、新しい世界が待っている。
−−そう。新しい世界だとも。もう、何も心配しなくていい。
●
「……で、最近その辺りで、『巨人』が目撃されてるらしいわ」
『あたしにお任せ』バーバラ・キュプカー(nCL3000007)は、そう言って話を聞いていた自由騎士達を見回した。「巨人、ですか?」
「そう。身の丈ゆうに3メートル以上。暗くて狭い路地裏に潜み、近寄る者には見境なく襲いかかる−−現にぶん殴られて重傷を負った人もいるみたいよ。まあ、酒に酔って誰かと喧嘩しただけかもしれないけど」
「それを退治してほしいということか?」
「本当にいるなら、ね。イブリースの可能性もあるし、ちょっと見て来てほしいのよ。……気をつけてね」
「巨人一体だけなんだろ? 大丈夫だよ! 皆でかかれば楽勝だぜ!」
「いや、そこじゃなくて、ね」
「あ? そこじゃない?」
バーバラは頷き、ちょっと歯切れ悪く笑った。「現場はアデレード市・リブラ地区−−別名、『リブラの裏街』。出稼ぎ労働者の宿舎とかがあるところで、こう、いかがわしい屋台とか変な客引きとか、ステレオタイプなチンピラとかもいて……なんというか、あまりよくない地域なのよ。気をつけてね」
うわあ、と自由騎士達が一歩引いた。バーバラはあら、と声を上げ、そのあと一つ咳払いして、
「お・ね・が・い♡」
「……同じ手は二度通用しませんよ」
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.巨人イブリースの撃破
皆様こんにちは。鳥海きりうです。よろしくお願いします。
巨人イブリースとの戦闘シナリオです。同イブリースの撃破が成功条件となります。
敵キャラクターのご紹介です。
・リブラの巨人
巨人イブリース。リブラの裏街の狭い路地裏に潜伏。パワーと耐久力が高い。
・リブラの住人 ×???
リブラの裏街の住人。多くは肉体労働者で、それなりに力も強く頑丈だが、所詮は一般人レベル。
巨人はいわゆる脳筋タイプですが、十分な戦力と作戦があればそれほど苦戦はしないでしょう。皆さんのベストが出せれば十分です。
ただし、巨人は現在狭い路地裏に潜伏しています。具体的には幅2メートル弱。人が2人何とか並んで歩ける程度です。動き方や隊形は大幅に制限されるでしょう。特に「避けて当てる」系の方は動きにかなりの工夫が必要です。何か作戦を考えてください。
もう一つ、バーバラも注意していましたが、リブラの裏街はあまり治安がよろしくなく、貴族や騎士、よそ者は決して歓迎されません。派手なよそ者の皆様が何の策も無く街に入れば、ほぼ確実にチンピラ共に絡まれるものとお考えください。何か作戦が必要です。
住人達は基本的に一般人ですので、一人一人は苦もなく倒せる程度の実力です。ただし、皆さんの対応がマズいと次から次へと他のチンピラ共が参戦してくるでしょう。いくら倒せるからといって、本筋と関係ないところであまりに騒ぎを大きくしてしまうのは考えものです。戦って勝つことよりも、戦う回数を最小限に抑えることが重要です。何か作戦を考えてください。……え? いっそ騒ぎを起こして住人達を引きつける?
また、住人達はいちおう一般人ですので、戦闘の際はくれぐれも手加減−−しなくてもいいかなあ。ガラの悪いチンピラですからねえ。皆様の判断にお任せします。
もしわりと穏便に解決して字数が余るようなら、リブラの裏街の探索などいかがでしょうか。
もちろん、基本的には本筋に注力して頂きたいですし、ガラの悪い裏街ですので何の保証もできません。あくまでもついでです。……ですが、全部が全部悪人まみれというわけでもありません。案外こういうところに、面白いものがあるのかもしれませんよ……?
あとちょっと真面目なことを言うと、「コミュニケーションを取って穏便に入れてもらう」というのも、古典的ですが検討の余地のある策です。
簡単ですが、説明は以上です。
皆様のご参加をお待ちしております。
巨人イブリースとの戦闘シナリオです。同イブリースの撃破が成功条件となります。
敵キャラクターのご紹介です。
・リブラの巨人
巨人イブリース。リブラの裏街の狭い路地裏に潜伏。パワーと耐久力が高い。
・リブラの住人 ×???
リブラの裏街の住人。多くは肉体労働者で、それなりに力も強く頑丈だが、所詮は一般人レベル。
巨人はいわゆる脳筋タイプですが、十分な戦力と作戦があればそれほど苦戦はしないでしょう。皆さんのベストが出せれば十分です。
ただし、巨人は現在狭い路地裏に潜伏しています。具体的には幅2メートル弱。人が2人何とか並んで歩ける程度です。動き方や隊形は大幅に制限されるでしょう。特に「避けて当てる」系の方は動きにかなりの工夫が必要です。何か作戦を考えてください。
もう一つ、バーバラも注意していましたが、リブラの裏街はあまり治安がよろしくなく、貴族や騎士、よそ者は決して歓迎されません。派手なよそ者の皆様が何の策も無く街に入れば、ほぼ確実にチンピラ共に絡まれるものとお考えください。何か作戦が必要です。
住人達は基本的に一般人ですので、一人一人は苦もなく倒せる程度の実力です。ただし、皆さんの対応がマズいと次から次へと他のチンピラ共が参戦してくるでしょう。いくら倒せるからといって、本筋と関係ないところであまりに騒ぎを大きくしてしまうのは考えものです。戦って勝つことよりも、戦う回数を最小限に抑えることが重要です。何か作戦を考えてください。……え? いっそ騒ぎを起こして住人達を引きつける?
また、住人達はいちおう一般人ですので、戦闘の際はくれぐれも手加減−−しなくてもいいかなあ。ガラの悪いチンピラですからねえ。皆様の判断にお任せします。
もしわりと穏便に解決して字数が余るようなら、リブラの裏街の探索などいかがでしょうか。
もちろん、基本的には本筋に注力して頂きたいですし、ガラの悪い裏街ですので何の保証もできません。あくまでもついでです。……ですが、全部が全部悪人まみれというわけでもありません。案外こういうところに、面白いものがあるのかもしれませんよ……?
あとちょっと真面目なことを言うと、「コミュニケーションを取って穏便に入れてもらう」というのも、古典的ですが検討の余地のある策です。
簡単ですが、説明は以上です。
皆様のご参加をお待ちしております。
状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
6個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2018年06月28日
2018年06月28日
†メイン参加者 8人†
●裏街にて
夕刻。都会の高層街を紅く照らして沈む夕陽を横目に、死んだゴミ溜めのようだったリブラの裏街は少しづつ生気を取り戻す。今日はなんとか定時に仕事を上がれた連中が帰ってきて、そいつらを相手に商売をする奴らが動き出す。不穏で猥雑なざわめきと、早くも遠く聞こえてくる怒号。
(孤児院の人達が良い人じゃなかったら、私もここの住人だったのかな……?)
『蒼の審問騎士』アリア・セレスティ(CL3000222)は、安アパートの屋根からリブラの裏街を俯瞰していた。彼女も貧しい孤児院の出身だったが、このような場所とは無縁に、大切に育てられた。今の彼女には−−あるいは昔から−−およそこの街は似つかわしくない。だがそこには、薄皮一枚ほどの差しか無いのかも知れない。
考えながら、アリアは移動を開始した。空中二段飛びで次の建物の屋根へ降り立つ。ふと下層を振り返り、笑った。
「ローラさん達、凄いなぁ……」
「ワシ……わたくしはお酒を売りに参りましたのよ~ん♡ そこのハンサムなアナタ! アナタだけにお安く!」
『工場管理官特別顧問』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)は、そう言いながら通りの端に溜まっていたチンピラ達に近づいた。チンピラ達は胡乱げにシノピリカを見る。−−いや、敵意は感じない。派手な軍服、濃ゆすぎる化粧、しかし素材は悪くなかった。少しデカいが、なかなかの美人だ。胸もデカい。だがそういう目で見ると明らかにキジン化された右眼と左腕が気になる。どうやらこちらを誘っているらしい謎のダンスを踊っている。酒を売りに来たって? ああそういえば確かに持ってるな。ええと、だから−−
(((盛りすぎてわけわかんねえ)))
「お兄さん達、こんにちはー♡」
冷静なフリして狼狽えるチンピラ達の側面から、今度は明らかに可憐な娘の声が響いた。チンピラ達は即座に振り返る。−−そして思わず安堵とも感嘆とも取れる溜息を漏らした。これは分かる。ちと童顔のきらいもあるが、少なくともこっちの謎の女よりは趣旨がはっきりしている。「いや、俺ぁこっちの女の方が」「お前はパツキン巨乳なら何でもいいんだろうが」「いや、軍服も」「うるせえ」
「ちょっとお兄さん達に『お願い』があるんだけど……聞いてくれない?」
『銀の潮騒亭の赤い花』ローラ・オルグレン(CL3000210)が、笑顔を振りまきながらそう尋ねる。チンピラ達は顔を見合わせ、互いに野卑な笑いを漏らした。
「お願いだって? どんな?」
「この辺に『巨人』がいるって聞いてきたの。どこにいるか教えてくれない? あ、もちろんタダで言うこと聞けなんて言わないよぉ? そんな理屈が通じちゃうのは表だけの話だもんねぇ? ローラが持ってるモノで他に何か欲しいのある? なーんでもしてあげちゃう♡」
「ほおおお。なんでもするのか?」
「そうそう、ワシからも何でも進呈するぞ! 『取り分』が惜しければ協力するのじゃ! ただし、おかしな真似をしたら……こうじゃぞ」
パリン。シノピリカが持っていた酒瓶を握り潰した。チンピラ達が固まり、それから顔を突き合わせる。「どうする」「とりあえず飲もうぜ。話はそれからだ。−−潰しちまえばいいんだよ」「成程」チンピラ達がにやけ面で振り返る。
「心配すんな。まだ日も高え。そんな無茶は言わねえよ。−−とりあえずそこに座って、俺たちと飲もうぜ。そうすりゃ巨人の居場所ぐらい教えてやらあ」
「ありがとー♡」
「うむ! ならばワシも付き合おう!」
二人が座り、ローラが持ってきた酒と肴を並べ−−酒盛りが始まった。
−−その光景を、少し離れた物陰から一人の男がじっと見ていた。ボロボロのローブを見に纏い、背には布で包んだ棒のようなものを差している。
(……いや、すごいな。見た目だけでも華やかなのにあのテンション。俺なら押し流される自信がある)
そんなことに自信を持たないでほしい。『イ・ラプセル自由騎士団』ウィリアム・H・ウォルターズ(CL3000276)は、穏便に事が進みそうなのを確認してその場を去った。巨人の居場所は彼女達が聞き出してくれるだろう。後はなるべく問題を起こさず、その場所まで辿り着けばいい−−
「おいお前。見ない顔だな」
呼び止められる。近づいてくるチンピラに、ウィリアムは応える。「……戦争でやられて、逃げて来た。『巨人』を探してる」
「死にたがりか?」
「どうかな」
小さく笑い、ウィリアムはそっと背中の槍に触れた。
「……四丁目の路地裏だな。ありがとよ、ローラ嬢。こっちはこっちで上手くやる」
マキナ=ギアの通信にそう応え、『クマの捜査官』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)はリブラの裏街を歩き出した。(この歳で労働者の真似事をするなんてな。孤児院にいた頃を思い出すぜ)孤児院で育ったウェルスの少年時代は、決して幸せなものではなかった。昼は軽作業と雑用、夜は計算や読み書き、商売の全てを叩き込まれ、一つでも間違えば監視役に殴られ蹴られ、飯が減らされる。 使えない奴、反抗的な奴、気に入られない奴は奴隷として売られていった。
「まったく、よく生き残れたもんだよ、俺は」
呟き、裏街を歩く。数人の住人とすれ違うが、呼び止められる事は無い。ボロい労働着と頭に軽い包帯、ぐしゃぐしゃに乱れ汚れた毛並みをした姿。今のウェルスは確かに裏街に溶け込んでいた。
「−−お前、新入りか?」
道の端で露店を開いている男がウェルスを呼ぶ。ウェルスは振り返り、応えた。「だったら?」
「クマが何しに来たんだよ」
「……『巨人』を探してる」
「ほお。賞金稼ぎか?」
「そんなとこだ」
ウェルスは男の店を覗き込む。「何を売ってる?」
「食い物だ。今日は煮物だ。食うか?」
「……何の煮物だ?」
「企業秘密だ。詮索するな」
ウェルスは鍋を覗き込む。−−うまそうな匂いがする。汁は非常に色が濃く、具材が何かはわからない。しかも信じられないほど安い。材料が気になる。ウェルスは肩を竦めた。「帰りに寄るよ。俺はこれから仕事だ」
「……なんだよ。ここを通りたいのか?」
(おおっと……そこにいるとは)
『エルローの黄金騎士』アダム・クランプトン(CL3000185)は、やはりボロいローブで偽装して街を歩いていた。しかし、不運。曲がり角に溜まっていたチンピラ共に目をつけられてしまったのだ。
「いや、すまない。別の道を探すよ」
「まあ待てよ。別に通るなとは言ってねえ。……身なりの割にしゃんとしてるじゃねえか。この街じゃあ珍しい」
(……どうするか……)
突破するのは簡単だ。しかし、騒ぎを大きくはしたくない。何より−−こんな口調でも、彼らは無辜の一般市民だ。
「すとーっぷ! ちょっと待って!」
突如少女の声が響き、二人は振り返る。『豪拳猛蹴』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)が、過去最高の笑顔で二人を見上げていた。
「ごめんね! 私たちは確かによそ者だけど−−この辺に『巨人』が出るって聞いて、退治しに来たんだ! みんなの邪魔をしに来たわけじゃないよ!」
マイナスイオン。カーミラの言葉にチンピラがうぐ、と黙り込む。アダムは笑い、フードを取り、言った。
「僕も率直に言おう。−−邪魔をしないでくれ。『巨人』は、僕等がなんとかする」
チンピラはアダムを振り返り、それから一瞬首から下を見た。ローブの下から覗く重装鎧。「……勝手にしろ」言い捨て、チンピラは立ち去っていった。
「……助かったよ」
「どーいたまして!」
声を掛け合い、アダムとカーミラは先を急いだ。
「……あ?」
人気の無い路地裏で、彼は胡乱げに顔を上げた。−−彼が何を言ったのか、分からなかったのだ。
「お前の服を寄越せ。代わりに俺のをやる」
言うと、『イ・ラプセル自由騎士団』ルシアス・スラ・プブリアス(CL3000127)は、その浮浪者の前でおもむろに服を脱ぎ始めた。浮浪者は呆然とそれを眺める。やがてルシアスは続けて言った。
「さあ、持っていけ。それと、もう分かってると思うが−−俺は普通の人間じゃない。持ち逃げすれば、かなり痛い思いをする羽目になるぞ」
浮浪者はルシアスと落ちている服を見比べ−−やがて、着替えて立ち去った。ルシアスも男が残したボロ着に着替え、さらに地面から土を取って身体に塗りつけ、ステルスを発動して周囲の風景に同化する。完璧なスニーキングだ。荒事どころか見つかる可能性すら皆無。
「……こちらルシアス。準備完了だ。これより移動を開始する」
仲間に連絡し、彼も巨人の元へと向かった。
●路地裏の饗宴
巨人のもとへ最初に辿り着いたのは、アダムだった。
「僕は自由騎士団のアダム、騎士アダムだ。君の名を問いたい、巨人君」
日も完全に落ちかけた夕暮れ時。暗く狭い路地裏で、アダムは巨人に語りかけた。巨人が首を巡らせ、アダムを見る。
そしてアダムの傍に、屋根からアリアが降りて来た。
「私は周辺の警戒に回ります。……で、いいんですよね?」
「ああ、頼む。『彼らを守る』のも、大事な仕事だ」
頷き、アリアはその場から消えた。巨人が唸り、アダムに向かって来る。攻撃。巨人の拳がアダムを打ち据える。柳凪。アダムはガードしてこれを耐えた。「ふむ……まだいけるな」
「いいだろう。君の拳と僕の拳、勝負といこうじゃないか。それが男の喧嘩というものだろう。巨人君も獲物を持たず、その拳を奮って来たんだろう?」
アダムの言葉に、巨人はついに咆哮を上げた。熱い敵意がアダムに襲いかかる。
直後、巨人の頭上から剣を構えた人影が落ちて来た。−−いや、人ではない。泥人形のように見える。スパルトイ。命中。肩口を斬り裂かれ、巨人が叫ぶ。
「ありがとう」
「とんでもない。……意外と早く来れたな」
ウィリアムは言いながら槍の包みを解き、アダムは彼を庇うように位置を調整する。巨人が体勢を立て直し、再びアダムに拳を振り上げる。命中。アダムはやはりガードして堪える。「そろそろ、僕からもいこうか!」反撃。アダムの震撃が巨人を打ち据え、その巨体をよろけさせる。
「単純な依頼だ……意外といいとこだな、裏街!」
「いっけー! 紅覇猛蹴脚!」
その時、後方へ回り込んだウェルスとカーミラが巨人を急襲した。ウェルスの銃弾が巨人を撃ち抜き、カーミラの飛び蹴りが打ち倒す。技の名前は適当です。
巨人がその眼に怒りを湛えて起き上がり、左右に分かれて取り囲む自由騎士達を睥睨する。その眼がカーミラを選んだ。攻撃。巨人の拳をカーミラはガントレットで受ける。「っ……さすが、重い……!」
轟音。巨人が悲痛な叫びを上げて倒れる。「え? なになに?」倒れた巨人の背後で人影がバスタードソードを持ち上げる。
「待たせたな」
言って、ルシアスは剣にこびり着いた巨人の血を払った。巨人はかろうじて立ち上がるが、大きなダメージを受けている。「そろそろ面子が揃ってきたな」「いや、ルシアスの旦那。ローラ嬢達がまだだぜ」「問題は無さそうだったが……」「−−この際、僕達で片付けてしまおうか」「さんせー!」
巨人が咆哮を上げ、自由騎士達が武器を構え直す。
「みぃんなぁ〜! おまたへぇ〜!」
「お! 来たなローラ、じょ……?」
響いたローラの声に全員が振り返り−−全員が止まった。巨人も含めて。「おおおお皆の衆〜! やっておるな!」「おおなんだなんだ余所者が雁首揃えやがって!」「お! 巨人いんぞ巨人! お前らさっさと退治しろよ!」「ぎゃはははは! マジでいんのか!? うっそつけなんか着ぐるみかなんかだろ!?」シノピリカはまあ勿論として、一緒に飲んでたリブラの住人までもが来ていた。泥酔。酩酊。制御不能。やつはノーコントロール。「……何これ」
「さあああ! 巨人なんてローラ達のテクでねじり切っちゃうよ〜!」
「ワシの鉄拳もとくと味わうが良い! CRAYFISH・G! Actionじゃあああ!」
「あの、皆さん! ここは危ないので少し下がってください!」
「上玉ああああ! 分かった嬢ちゃん俺達と一緒に飲もうぜええええ」
「あの、だから安全なところにさがちょっと触らないでいやああああ!」
「ぬわにをしとるかこのくそたわけめがああああ!」
「シノピリカ嬢その技はこっちに撃ってくれ!」
「皆いくよ〜! ノートルダム〜!」
「ローラさん、僕等は大丈夫ですから少し離れて休んで−−聞いてます?」
「と、とりあえず! 紅覇豪拳殺ぅ!」
「……そうだな。私達は普通にやるか」
「ああ」
「おお喧嘩か? 俺も混ぜろよ兄ちゃん達いいい」
「「お前は来んでいい!」」
酔っ払い共の乱入で俄かに忙しくなった自由騎士達だったが−−やがてルシアスの大剣が巨人を完全に打ち倒し、戦闘は終わった。
●苦い朝
「じゃ、旦那方。後は頼んだぜ」
「よろしくね! おさきにー!」
翌朝。二日酔いでダウンしたローラとシノピリカ、酔っ払いの相手である意味巨人班より疲弊したアリアを後送するため、ウェルスとカーミラは先に帰還した。後にはアダムとウィリアムにルシアス−−そして、イブリース化が解けたゼップ・ドーバーマンが残った。
「……なんで、巨人なんかになったんだ?」
ルシアスが尋ねる。ゼップは首を横に振った。
「汽車が来たんだ……それ以上は、覚えてねえ」
「汽車……?」
「悪いものにつけこまれたのかもな。自分じゃうまくやってるつもりだったけど……違ったのかもしれない」
「こんなところより、もっとマシな仕事や住処を探したらどうだ。よければ一緒に探してみよう」
ウィリアムが言い、ゼップが振り向く。「そうした方が、いいのかな」「お前は何だか真っ当に生きられそうな顔をしているからな。……目の前にそういう者がいると、報われてほしいと思うものだ。もう少しマシな形で、な」
「現状に不満があるなら話してくれ。力になるよ。騎士として意見を言うこともできるし、なんならこの拳で語り合おう」
アダムの言葉にゼップは笑う。「意外と熱血なんだな」「正しいと思う事を言ってるだけだよ」やりとりを聞いて、ルシアスはため息をつく。表情は変わらないが、笑っているようにも聞こえた。
「……任務完了だ。お前も今日は仕事を休め。−−文句を言われたら、相談しろ」
夕刻。都会の高層街を紅く照らして沈む夕陽を横目に、死んだゴミ溜めのようだったリブラの裏街は少しづつ生気を取り戻す。今日はなんとか定時に仕事を上がれた連中が帰ってきて、そいつらを相手に商売をする奴らが動き出す。不穏で猥雑なざわめきと、早くも遠く聞こえてくる怒号。
(孤児院の人達が良い人じゃなかったら、私もここの住人だったのかな……?)
『蒼の審問騎士』アリア・セレスティ(CL3000222)は、安アパートの屋根からリブラの裏街を俯瞰していた。彼女も貧しい孤児院の出身だったが、このような場所とは無縁に、大切に育てられた。今の彼女には−−あるいは昔から−−およそこの街は似つかわしくない。だがそこには、薄皮一枚ほどの差しか無いのかも知れない。
考えながら、アリアは移動を開始した。空中二段飛びで次の建物の屋根へ降り立つ。ふと下層を振り返り、笑った。
「ローラさん達、凄いなぁ……」
「ワシ……わたくしはお酒を売りに参りましたのよ~ん♡ そこのハンサムなアナタ! アナタだけにお安く!」
『工場管理官特別顧問』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)は、そう言いながら通りの端に溜まっていたチンピラ達に近づいた。チンピラ達は胡乱げにシノピリカを見る。−−いや、敵意は感じない。派手な軍服、濃ゆすぎる化粧、しかし素材は悪くなかった。少しデカいが、なかなかの美人だ。胸もデカい。だがそういう目で見ると明らかにキジン化された右眼と左腕が気になる。どうやらこちらを誘っているらしい謎のダンスを踊っている。酒を売りに来たって? ああそういえば確かに持ってるな。ええと、だから−−
(((盛りすぎてわけわかんねえ)))
「お兄さん達、こんにちはー♡」
冷静なフリして狼狽えるチンピラ達の側面から、今度は明らかに可憐な娘の声が響いた。チンピラ達は即座に振り返る。−−そして思わず安堵とも感嘆とも取れる溜息を漏らした。これは分かる。ちと童顔のきらいもあるが、少なくともこっちの謎の女よりは趣旨がはっきりしている。「いや、俺ぁこっちの女の方が」「お前はパツキン巨乳なら何でもいいんだろうが」「いや、軍服も」「うるせえ」
「ちょっとお兄さん達に『お願い』があるんだけど……聞いてくれない?」
『銀の潮騒亭の赤い花』ローラ・オルグレン(CL3000210)が、笑顔を振りまきながらそう尋ねる。チンピラ達は顔を見合わせ、互いに野卑な笑いを漏らした。
「お願いだって? どんな?」
「この辺に『巨人』がいるって聞いてきたの。どこにいるか教えてくれない? あ、もちろんタダで言うこと聞けなんて言わないよぉ? そんな理屈が通じちゃうのは表だけの話だもんねぇ? ローラが持ってるモノで他に何か欲しいのある? なーんでもしてあげちゃう♡」
「ほおおお。なんでもするのか?」
「そうそう、ワシからも何でも進呈するぞ! 『取り分』が惜しければ協力するのじゃ! ただし、おかしな真似をしたら……こうじゃぞ」
パリン。シノピリカが持っていた酒瓶を握り潰した。チンピラ達が固まり、それから顔を突き合わせる。「どうする」「とりあえず飲もうぜ。話はそれからだ。−−潰しちまえばいいんだよ」「成程」チンピラ達がにやけ面で振り返る。
「心配すんな。まだ日も高え。そんな無茶は言わねえよ。−−とりあえずそこに座って、俺たちと飲もうぜ。そうすりゃ巨人の居場所ぐらい教えてやらあ」
「ありがとー♡」
「うむ! ならばワシも付き合おう!」
二人が座り、ローラが持ってきた酒と肴を並べ−−酒盛りが始まった。
−−その光景を、少し離れた物陰から一人の男がじっと見ていた。ボロボロのローブを見に纏い、背には布で包んだ棒のようなものを差している。
(……いや、すごいな。見た目だけでも華やかなのにあのテンション。俺なら押し流される自信がある)
そんなことに自信を持たないでほしい。『イ・ラプセル自由騎士団』ウィリアム・H・ウォルターズ(CL3000276)は、穏便に事が進みそうなのを確認してその場を去った。巨人の居場所は彼女達が聞き出してくれるだろう。後はなるべく問題を起こさず、その場所まで辿り着けばいい−−
「おいお前。見ない顔だな」
呼び止められる。近づいてくるチンピラに、ウィリアムは応える。「……戦争でやられて、逃げて来た。『巨人』を探してる」
「死にたがりか?」
「どうかな」
小さく笑い、ウィリアムはそっと背中の槍に触れた。
「……四丁目の路地裏だな。ありがとよ、ローラ嬢。こっちはこっちで上手くやる」
マキナ=ギアの通信にそう応え、『クマの捜査官』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)はリブラの裏街を歩き出した。(この歳で労働者の真似事をするなんてな。孤児院にいた頃を思い出すぜ)孤児院で育ったウェルスの少年時代は、決して幸せなものではなかった。昼は軽作業と雑用、夜は計算や読み書き、商売の全てを叩き込まれ、一つでも間違えば監視役に殴られ蹴られ、飯が減らされる。 使えない奴、反抗的な奴、気に入られない奴は奴隷として売られていった。
「まったく、よく生き残れたもんだよ、俺は」
呟き、裏街を歩く。数人の住人とすれ違うが、呼び止められる事は無い。ボロい労働着と頭に軽い包帯、ぐしゃぐしゃに乱れ汚れた毛並みをした姿。今のウェルスは確かに裏街に溶け込んでいた。
「−−お前、新入りか?」
道の端で露店を開いている男がウェルスを呼ぶ。ウェルスは振り返り、応えた。「だったら?」
「クマが何しに来たんだよ」
「……『巨人』を探してる」
「ほお。賞金稼ぎか?」
「そんなとこだ」
ウェルスは男の店を覗き込む。「何を売ってる?」
「食い物だ。今日は煮物だ。食うか?」
「……何の煮物だ?」
「企業秘密だ。詮索するな」
ウェルスは鍋を覗き込む。−−うまそうな匂いがする。汁は非常に色が濃く、具材が何かはわからない。しかも信じられないほど安い。材料が気になる。ウェルスは肩を竦めた。「帰りに寄るよ。俺はこれから仕事だ」
「……なんだよ。ここを通りたいのか?」
(おおっと……そこにいるとは)
『エルローの黄金騎士』アダム・クランプトン(CL3000185)は、やはりボロいローブで偽装して街を歩いていた。しかし、不運。曲がり角に溜まっていたチンピラ共に目をつけられてしまったのだ。
「いや、すまない。別の道を探すよ」
「まあ待てよ。別に通るなとは言ってねえ。……身なりの割にしゃんとしてるじゃねえか。この街じゃあ珍しい」
(……どうするか……)
突破するのは簡単だ。しかし、騒ぎを大きくはしたくない。何より−−こんな口調でも、彼らは無辜の一般市民だ。
「すとーっぷ! ちょっと待って!」
突如少女の声が響き、二人は振り返る。『豪拳猛蹴』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)が、過去最高の笑顔で二人を見上げていた。
「ごめんね! 私たちは確かによそ者だけど−−この辺に『巨人』が出るって聞いて、退治しに来たんだ! みんなの邪魔をしに来たわけじゃないよ!」
マイナスイオン。カーミラの言葉にチンピラがうぐ、と黙り込む。アダムは笑い、フードを取り、言った。
「僕も率直に言おう。−−邪魔をしないでくれ。『巨人』は、僕等がなんとかする」
チンピラはアダムを振り返り、それから一瞬首から下を見た。ローブの下から覗く重装鎧。「……勝手にしろ」言い捨て、チンピラは立ち去っていった。
「……助かったよ」
「どーいたまして!」
声を掛け合い、アダムとカーミラは先を急いだ。
「……あ?」
人気の無い路地裏で、彼は胡乱げに顔を上げた。−−彼が何を言ったのか、分からなかったのだ。
「お前の服を寄越せ。代わりに俺のをやる」
言うと、『イ・ラプセル自由騎士団』ルシアス・スラ・プブリアス(CL3000127)は、その浮浪者の前でおもむろに服を脱ぎ始めた。浮浪者は呆然とそれを眺める。やがてルシアスは続けて言った。
「さあ、持っていけ。それと、もう分かってると思うが−−俺は普通の人間じゃない。持ち逃げすれば、かなり痛い思いをする羽目になるぞ」
浮浪者はルシアスと落ちている服を見比べ−−やがて、着替えて立ち去った。ルシアスも男が残したボロ着に着替え、さらに地面から土を取って身体に塗りつけ、ステルスを発動して周囲の風景に同化する。完璧なスニーキングだ。荒事どころか見つかる可能性すら皆無。
「……こちらルシアス。準備完了だ。これより移動を開始する」
仲間に連絡し、彼も巨人の元へと向かった。
●路地裏の饗宴
巨人のもとへ最初に辿り着いたのは、アダムだった。
「僕は自由騎士団のアダム、騎士アダムだ。君の名を問いたい、巨人君」
日も完全に落ちかけた夕暮れ時。暗く狭い路地裏で、アダムは巨人に語りかけた。巨人が首を巡らせ、アダムを見る。
そしてアダムの傍に、屋根からアリアが降りて来た。
「私は周辺の警戒に回ります。……で、いいんですよね?」
「ああ、頼む。『彼らを守る』のも、大事な仕事だ」
頷き、アリアはその場から消えた。巨人が唸り、アダムに向かって来る。攻撃。巨人の拳がアダムを打ち据える。柳凪。アダムはガードしてこれを耐えた。「ふむ……まだいけるな」
「いいだろう。君の拳と僕の拳、勝負といこうじゃないか。それが男の喧嘩というものだろう。巨人君も獲物を持たず、その拳を奮って来たんだろう?」
アダムの言葉に、巨人はついに咆哮を上げた。熱い敵意がアダムに襲いかかる。
直後、巨人の頭上から剣を構えた人影が落ちて来た。−−いや、人ではない。泥人形のように見える。スパルトイ。命中。肩口を斬り裂かれ、巨人が叫ぶ。
「ありがとう」
「とんでもない。……意外と早く来れたな」
ウィリアムは言いながら槍の包みを解き、アダムは彼を庇うように位置を調整する。巨人が体勢を立て直し、再びアダムに拳を振り上げる。命中。アダムはやはりガードして堪える。「そろそろ、僕からもいこうか!」反撃。アダムの震撃が巨人を打ち据え、その巨体をよろけさせる。
「単純な依頼だ……意外といいとこだな、裏街!」
「いっけー! 紅覇猛蹴脚!」
その時、後方へ回り込んだウェルスとカーミラが巨人を急襲した。ウェルスの銃弾が巨人を撃ち抜き、カーミラの飛び蹴りが打ち倒す。技の名前は適当です。
巨人がその眼に怒りを湛えて起き上がり、左右に分かれて取り囲む自由騎士達を睥睨する。その眼がカーミラを選んだ。攻撃。巨人の拳をカーミラはガントレットで受ける。「っ……さすが、重い……!」
轟音。巨人が悲痛な叫びを上げて倒れる。「え? なになに?」倒れた巨人の背後で人影がバスタードソードを持ち上げる。
「待たせたな」
言って、ルシアスは剣にこびり着いた巨人の血を払った。巨人はかろうじて立ち上がるが、大きなダメージを受けている。「そろそろ面子が揃ってきたな」「いや、ルシアスの旦那。ローラ嬢達がまだだぜ」「問題は無さそうだったが……」「−−この際、僕達で片付けてしまおうか」「さんせー!」
巨人が咆哮を上げ、自由騎士達が武器を構え直す。
「みぃんなぁ〜! おまたへぇ〜!」
「お! 来たなローラ、じょ……?」
響いたローラの声に全員が振り返り−−全員が止まった。巨人も含めて。「おおおお皆の衆〜! やっておるな!」「おおなんだなんだ余所者が雁首揃えやがって!」「お! 巨人いんぞ巨人! お前らさっさと退治しろよ!」「ぎゃはははは! マジでいんのか!? うっそつけなんか着ぐるみかなんかだろ!?」シノピリカはまあ勿論として、一緒に飲んでたリブラの住人までもが来ていた。泥酔。酩酊。制御不能。やつはノーコントロール。「……何これ」
「さあああ! 巨人なんてローラ達のテクでねじり切っちゃうよ〜!」
「ワシの鉄拳もとくと味わうが良い! CRAYFISH・G! Actionじゃあああ!」
「あの、皆さん! ここは危ないので少し下がってください!」
「上玉ああああ! 分かった嬢ちゃん俺達と一緒に飲もうぜええええ」
「あの、だから安全なところにさがちょっと触らないでいやああああ!」
「ぬわにをしとるかこのくそたわけめがああああ!」
「シノピリカ嬢その技はこっちに撃ってくれ!」
「皆いくよ〜! ノートルダム〜!」
「ローラさん、僕等は大丈夫ですから少し離れて休んで−−聞いてます?」
「と、とりあえず! 紅覇豪拳殺ぅ!」
「……そうだな。私達は普通にやるか」
「ああ」
「おお喧嘩か? 俺も混ぜろよ兄ちゃん達いいい」
「「お前は来んでいい!」」
酔っ払い共の乱入で俄かに忙しくなった自由騎士達だったが−−やがてルシアスの大剣が巨人を完全に打ち倒し、戦闘は終わった。
●苦い朝
「じゃ、旦那方。後は頼んだぜ」
「よろしくね! おさきにー!」
翌朝。二日酔いでダウンしたローラとシノピリカ、酔っ払いの相手である意味巨人班より疲弊したアリアを後送するため、ウェルスとカーミラは先に帰還した。後にはアダムとウィリアムにルシアス−−そして、イブリース化が解けたゼップ・ドーバーマンが残った。
「……なんで、巨人なんかになったんだ?」
ルシアスが尋ねる。ゼップは首を横に振った。
「汽車が来たんだ……それ以上は、覚えてねえ」
「汽車……?」
「悪いものにつけこまれたのかもな。自分じゃうまくやってるつもりだったけど……違ったのかもしれない」
「こんなところより、もっとマシな仕事や住処を探したらどうだ。よければ一緒に探してみよう」
ウィリアムが言い、ゼップが振り向く。「そうした方が、いいのかな」「お前は何だか真っ当に生きられそうな顔をしているからな。……目の前にそういう者がいると、報われてほしいと思うものだ。もう少しマシな形で、な」
「現状に不満があるなら話してくれ。力になるよ。騎士として意見を言うこともできるし、なんならこの拳で語り合おう」
アダムの言葉にゼップは笑う。「意外と熱血なんだな」「正しいと思う事を言ってるだけだよ」やりとりを聞いて、ルシアスはため息をつく。表情は変わらないが、笑っているようにも聞こえた。
「……任務完了だ。お前も今日は仕事を休め。−−文句を言われたら、相談しろ」
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
称号付与
『裏街の宵の天使』
取得者: アリア・セレスティ(CL3000222)
『クマの賞金稼ぎ?』
取得者: ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)
『紅の伝承者』
取得者: カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)
『ビッグ・ヴィーナス』
取得者: シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)
『裏街の夜の妖精』
取得者: ローラ・オルグレン(CL3000210)
『清廉なる剛拳』
取得者: アダム・クランプトン(CL3000185)
『隠し槍の学徒』
取得者: ウィリアム・H・ウォルターズ(CL3000276)
『戦場《アウターヘヴン》の落し子』
取得者: ルシアス・スラ・プブリアス(CL3000127)
取得者: アリア・セレスティ(CL3000222)
『クマの賞金稼ぎ?』
取得者: ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)
『紅の伝承者』
取得者: カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)
『ビッグ・ヴィーナス』
取得者: シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)
『裏街の夜の妖精』
取得者: ローラ・オルグレン(CL3000210)
『清廉なる剛拳』
取得者: アダム・クランプトン(CL3000185)
『隠し槍の学徒』
取得者: ウィリアム・H・ウォルターズ(CL3000276)
『戦場《アウターヘヴン》の落し子』
取得者: ルシアス・スラ・プブリアス(CL3000127)
特殊成果
『古ぼけたタグ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員
†あとがき†
皆様ご参加ありがとうございました。
筆が進みました。楽しいプレイングをありがとうございました。
MVPはローラ・オルグレン様。接戦でしたが、今回は最も裏街を楽しんでくれた彼女を選ばせて頂きます。危地を敢えて楽しみつつ作戦への貢献も忘れない。味方と協力して自分が生き残れる策もしっかり用意する。キャラクターをよく表した良RPだったと思います。
重ね重ね、皆様お疲れありがとうございました。
筆が進みました。楽しいプレイングをありがとうございました。
MVPはローラ・オルグレン様。接戦でしたが、今回は最も裏街を楽しんでくれた彼女を選ばせて頂きます。危地を敢えて楽しみつつ作戦への貢献も忘れない。味方と協力して自分が生き残れる策もしっかり用意する。キャラクターをよく表した良RPだったと思います。
重ね重ね、皆様お疲れありがとうございました。
FL送付済