MagiaSteam
マッド・ドクと実験体。或いは、ある男の妄執の果て…



●マッドなドクと哀れな犠牲者
明かりと言えば、天井から下がる切れかけた電球ただ一つ。
さほど広さもない部屋だ。
窓は存在せず、空気はじっとりと湿っている。
そして、腐臭と濃い血の臭い。
部屋の中央に置かれた診察台には一人の男が寝かされていた。
否、それは男の死体であった。
一糸まとわぬその全身には無数の縫い傷。
頭髪は無く、顔は焼いて潰されていた。
加えて、左右で腕の太さが違うことや、右脇から3本目の腕が伸びていることから
複数人の遺体が繋ぎ合わされていることが分かる。
そんな遺体を見下ろす一人の人影。
乱れた長髪にどんよりと濁った瞳が特徴的な長身痩躯の男性であった。
「あー……やっぱ動かねぇよなぁ」
手にした何かの薬品を、遺体に打ち込み男は唸る。
「こいつは破棄だな。次の実験材料を探してこねぇと……でもまぁ、まずは仮眠だな」
手にした薬品を遺体の上に放り出し、部屋の隅にあるソファーに寝転ぶ。
数秒もせず、静かな寝息が聞こえはじめた。

男が作ろうとしているソレは、いわば人造人間だ。
遺体を繋ぎ合わせ、薬品を投与することで新たな生命を生み出すこと。
遺体に命を与えることを目的として実験を続けているのである。
もっともこれまで何度も実験を繰り返してきたが未だ成功は1度もない。
けれど、この日……。
男の実験とは無関係に、彼の作った人造人間は動き始めた。

還リ人……そう呼ばれる存在として繋がれた遺体は蘇った。
遺体は真っ先に、ソファーで眠る男の首と両の肩を3本の腕でへし折った。
骨が折れ、肉の潰れる音が地下室に響く。
こうして男は、自身でも気づかぬうちにその命を終えたのである。
そして……。
男もまた還リ人として蘇る。
2体に増えた還リ人は、地下室から地上へ向かってゆっくりと階段を上りはじめた。

●階差演算室
「ターゲットは2体の還リ人。戦場は廃工場だよ」
廃工場の地下室で、男は実験を行っていたようだ。
縫合された遺体は(スーチャーグール)、男の方は(マッド・ドク)と名付けられた。
ちなみに名付け親は『元気印』クラウディア・フォン・プラテス(nCL3000004)である。
「廃工場の電気系統は死んでいるから、少し視界に問題があるかもしれないね。攻め込むタイミングは任せるから、相談して皆で決めてちょうだい。それから、倉庫内にはコンテナやベルトコンベアなんかが置きっぱなしになっているから、場所によってはすごく狭いよ」
薄暗く、死角も多い倉庫内では長柄の武器や重火器などは十全に取り回せなくなるだろう。
また、積まれたコンテナに攻撃を加えることによって倒壊の危険性も発生する。
「倉庫のどこかに地下室への入り口があるみたい。もっとも、ターゲットが地下室にいるとは限らないけどね」
とくにスーチャーグールの方は、マッド・ドクに比べて運動能力が高いようだ。
おそらく、素材となった遺体の性能を引き継いでいるのだろう。
反面、マッド・ドクは首と両腕を破壊されているせいか動作が鈍く、よろよろとした動きしか出来ないでいる。
「スーチャーグールは3本の腕を使った近接戦闘を、マッド・ドクは遠距離からの状態異常付与を得意としているよ」
生前は実験体と実験者という関係だった2体だが、還リ人となってからはお互いにサポートし合える特性を備えたようだ。
なんとも皮肉な話ではあるが、すでにどちらも自我など微塵も残ってはいない。
生前のことなど、何一つ覚えてはいないのである。
「倉庫の広さは運動場程度かな? もっとも、物が多いから移動可能な範囲はもっと狭いけどね」
そして、その中を2体の還リ人が移動している。
スーチャーグールの攻撃には[トリプルアタック]や[ショック][ウィーク]、マッド・ドクの攻撃には[ポイズン]や[ヒュプノス][パラライズ]が付与されている。
「きっちりしっかり、彼らを安らかに眠らせてあげて」
よろしくね、と。
自由騎士たちに信頼の笑みを投げかけてクラウディアはそう告げたのだった。



†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
魔物討伐
担当ST
病み月
■成功条件
1.ターゲット2体の討伐
●ターゲット
・スーチャー・グール(還リ人)×1
数人分の遺体を繋ぎ合わせて作られている。
右の脇に3本目の腕が縫い付けられているのが特徴であり、また運動能力も高い。
顔は焼き潰されているため、生前の人相は不明である。
物理攻撃に特化している模様。
・3腕の攻[攻撃] A:攻近単[三連][ウィーク]
3本の腕による連続攻撃

・フルコンタクト[攻撃] A:攻近単[貫2] [ショック]
近距離にて放たれる衝撃派を伴う打撃

・マッド・ドク(還リ人)×1
手入れのされていない長い頭髪と、どんより濁った瞳が特徴。
首と両腕をへし折られているため、動作が非常に不安定で鈍い。
スキルを基本とした遠距離攻撃を主体とする模様。
・見えない魔手[攻撃] A:魔遠単[パラライズ]
遠距離のターゲットを不可視の腕で捉えるスキル

・薬物投与[攻撃] A:魔遠範[ヒュプノス]or[ポイズン]
正体不明の薬物をばら撒くスキル

●場所
とある町外れにある廃倉庫。
内部にはコンテナやベルトコンベアなどが残されていて非常に狭く、入り組んでいる。
広い場所でも3人程度並んで移動するのが限界だろう。
また、電気系統も死んでいるので視界が悪い。
どこかに地下室への入り口があるようだ。
積み上げられたコンテナなどは、攻撃を加えることで倒壊する場合がある。
状態
完了
報酬マテリア
6個  2個  2個  2個
8モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
4/8
公開日
2019年12月29日

†メイン参加者 4人†




一見してそれは、何ら変哲のない廃倉庫であった。
使われなくなって、数年~十数年と言ったところか。壁面に浮いた錆びや、巻き付いた植物の蔦が否応なしに時間の流れを感じさせる。
そんな倉庫の正面に、4人の男女が立っていた。
桃色の髪を夜風に靡かせ、セアラ・ラングフォード(CL3000634)は鬱々とした吐息を零す。
「遺体に命を与えるだなんて……どうしてそんなことをしようと思ったのでしょうか」
スキルを使用して、倉庫内部の様子を探るが今のところそれらしいものは発見できてはいない。
このまま倉庫内部へ侵入し、ターゲットである[スーチャー・グール]と[マッド・ドク]の居場所を探るしか術はないだろう。
「では、行きましょうか」
暗闇対策に夜間用眼鏡を装着しつつ、赤い修道女『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)は倉庫の扉に手をかけた。
「……コレ、視界が狭くなるような気がしてイヤなのよね」
徒手空拳を主とした接近戦を得意とするエルシーにとって、視界の確保は非常に重要な要素を持つ。今回は、視野の広さと暗さを秤にかけた結果、夜間用眼鏡の採用に至ったようである。
ガチン、と赤い籠手に覆われた拳を胸の前で打ち付けて、これから始まるであろう戦闘に対しての意欲をみなぎらせるエルシー。
一方で、後衛に立つ『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)は頭部から伸びる角を弄りつつ、ふむ、と何かを思案している様子であった。
「僕はドクの素性を知りたいね。死者を蘇生する技術、其れを成そうと考えた動機……何かしらの切っ掛けが有ると思うからね」
物事には順序があるものだ。
経過なくして結果は出ない。
錬金術師であるマグノリアには、ドクが人造人間を作りだそうとした理由が気にかかっているようだった。
「それならイブリース討伐後、地下室探索デートといこうか。あまり雰囲気のいい場所ではないがな」
カンテラ片手に『黒衣の魔女』オルパ・エメラドル(CL3000515)はそう嘯いた。
暗闇に溶けるかのような黒い衣装が風に揺れる。
銀の髪と、両手に持った血色のダガーが炎の灯を反射して、ぬらりと怪しく光って見えた。
ギギ、と。
扉の軋む音がして……。
エルシーが、倉庫の扉を開け放つ。


最前線に立つエルシー。
その後にオルパ、セアラ、マグノリアという配置で倉庫の中を進んで行く。
物が多く、通路が狭いためだ。
埃のカビの臭いに、セアラは眉根をきゅうと寄せて小さく咳き込む。
コホン、と。
咳払いの音が倉庫内に反響した。
咳払いの音に応えるように、どこからかコツンと誰かの足音。
4人はさっと視線を合わせ、音の発生源を探る。
自分たちでないとすれば、その足音の発生源は……。
「……いました。この機械の向こう。スーチャー・グールです!」
自身の右手側にある大きな機械へ視線を向けて、セアラは告げる。
[リュンケウスの瞳]と呼ばれる、物質を透過しての視認を可能とするスキルによるものだ。
大きな機械はベルトコンベアの動力部分だろう。
「行きます!」
短く告げてエルシーは駆ける。そんな彼女の両の手に、黒い霞みが纏わりついた。
「そら、これでその継ぎはぎ野郎とも正面から殴り合えるぜ」
オルパによる強化術式の付与である。
ベルトコンベアの上を跳びこし、エルシーは通路の先へと姿を消した。
オルパを始め、残る3名も急ぎ足にその後を追う。

「明かりは必要だろう?」
パチン、と指を弾く音がした。
マグノリアの頭上に、光球が灯る。
ゆらゆらと、漂うように光球は高度を上昇させて戦場を明るく照らし出した。
スーチャー・グールを視認したエルシーは、夜間用眼鏡を右手親指で弾き上げ、視界を広く確保する。
「酷い有様だ……僕なら、ただ死体を無理に繋合わせようとはしないかな」
左右の腕の長さや太さが違う上、脇からは無理に繋げられた3本目の腕が伸びている。
顔や焼かれて、元となった者の人相さえも分からない。
じぃ、とスーチャー・グールの様子を観察しながらマグノリアはそれがどういった経緯で作られたものか、と思案していた。
「狭いな……まぁ、俺には関係ないが」
狭い通路にエルシーと自分が並んで立つことは不可能に近い。
詰めればそれも可能だろうが、そうなると今度は互いに満足に動けなくなる。
そう判断し、オルパは機械の側面へ跳んだ。
地面に対して平行に……一種異様な光景ではあるが……直立したオルパは両手のダガーをくるりと回す。
ハイバランサーを使用しての三次元的な高速戦闘は、彼の得意とするところであった。
だが……。
「……ぐ!?」
ギシ、と。
オルパの身体が軋んだ音を立てる。
突然のダメージに目を見開いて困惑するオルパ。慌てて周囲へ視線を走らせる。
「オルパ。もう1つ向こうの通路だ! ドクがいるよ!」
マグノリアの声が響く。
見れば、機械と機械の隙間からどんよりの濁った瞳が覗いているではないか。
「すぐに回復します」
セアラの放った回復術が、淡い燐光となってオルパの身体に降り注ぐ。
[パラライズ]の状態異常から復帰したオルパは、素早く身を翻してマッド・ドクの視線上から身を隠した。
ドン、と足場にしていた機械が激しく揺れる。
「……俺はドクをやるべきかな」
エルシーとスーチャー・グールが激しく殴り合う様子を横目に見て、オルパは頬を引き攣らせて笑う。

『------------!!』
「ぁぁぁぁあああああああああああ!!」
顔を焼き潰されたスーチャー・グールは呻き声の一つも発せない。
一方でエルシーは獣のような咆哮を上げ、グールの顔面へ拳を叩き込んでいく。
空気を震わす大音声。
拳と拳がぶつかり合う激しい音。
互いの身体が機械にぶつかり、ガォン、と金属質な音を響かせる。
3本の腕による打撃が、エルシーの側頭部と左肩、そして脇腹を抉るように打ち抜いた。
「が……っは!?」
肺に突き抜けた衝撃が、一瞬彼女の呼吸機能を麻痺させる。
咳き込んだエルシーの隙を突き、グールの腕が彼女の頭部を鷲掴み……。
力任せに、顔面から地面へ叩きつけた。

ドクドクと、床に血だまりが広がっていく。
地面に倒れたエルシーをそのままに、グールは視線を後衛のセアラとマグノリアへ向けた。
一歩、グールはそちらへ足を踏み出し……。
「勝手に……勝負を終わらせないでくれますか?」
顔面を血で真っ赤に染めたエルシーが、お返しとばかりにグールの頭部を背後から掴む。
「出血が酷いな……貧血になるよ」
「すぐに回復をしますから、あまり無茶は……」
「ご心配なく。後衛に敵を向かわせないのが私の役目ですので……そしてこいつは」
エルシーは、グールの顔面を機械へと叩きつける。
次いで、よろけたグールの胴を、拳による一撃が打ち抜いた。
「殴って殴って殴り倒す!」
そこから先は、止まらない。
回避も、防御も関係ない。
狭い通路で碌に身動きが取れないのは、自分もグールも同条件。
ならば後は、どちらが先に倒れるか……。
血の雫を散らしながら、エルシーは拳による連打を、ただひたすらに叩き込み続けるのであった。

「回復は……野暮でしょうか?」
回復スキルの発動準備を整えて、セアラは傍らのマグノリアへとそう問うた。
マグノリアは暫し黙り込んだ後「いや……試合でもないのだから、必要じゃないかな?」と答えを出した。
こくり、と小さく頷いてセアラは回復スキルを発動させる。
ぱぁ、っと飛び散るように彼女の足元から淡い燐光が舞いあがり、セアラの身へと収束していく。
受けた端から、エルシーの傷は回復していく。
それでも、やはり受けるダメージの方が少々上回っているようではあるが……。
「よほど性能の良い部品を使っていると見えるね」
そう呟いて、マグノリアはグールめがけて腕を振るった。
その手から放たれたのは、黒みがかった薬液の弾丸。
パチン、と。
薬液はグールの顔面に当たり、弾け飛ぶ。
毒に侵され、動きの鈍ったグールの顔面をエルシーの拳が打ち抜いた。

焼き潰された皮膚が裂け、グールの口元が剥き出しになる。
へし折れ、黄ばんだ歯と半分ほど千切れた舌が顕わになった。
『う……ぁぁ。ねむり、たい。ねむり……たい。もう、疲れ……』
よろよろと後退しながら、グールはうわごとのようにそう繰り返す。
その声を聞いて、セアラは悲しそうに視線を下げた。
「彼は自分が何をしているのかも理解できていないのでしょう。強い困惑の感情……エルシー様」
「えぇ、言われなくとも」
グールの懐へ潜りこみ、エルシーは渾身の一撃をその頭部へと叩き込む。
ぐしゃり、と骨の砕ける音がして。
グールの身体は、地面に倒れて動きを止めた。

一方その頃、オルパは暗闇の中マッド・ドクと交戦していた。
マッド・ドクによる妨害を、他の仲間が受けないようにするためだ。
幸いにしてマッド・ドクの動きは鈍い。
加えて、物が多く三次元的な動きが可能な戦場であることも彼にとってはメリットだ。
マッド・ドクを相手に大きなダメージを負うこともなく戦闘を継続できている。
「……さっさと浄化して、デートと洒落込みたいところだぜ」
ダガーを鋭く振り抜くと、不可視の刃が直線と曲線、異なる軌道を描きマッド・ドクを切り裂いた。
両の腕が機能していないマッド・ドクではそれを防御することは出来ない。
顔面と胸元を深く裂かれて、マッド・ドクはよろよろと数歩後退していく。
「さて、これなら俺1人でも始末できるかもしれ……」
ぐらり、とオルパの身体が揺れる。
突如彼を襲ったのは、急激な睡魔であった。
見れば、いつの間にか足元には何かしらの薬瓶が転がっている。
マッド・ドクのスキルによるものだ、と理解した時には既に手遅れ。
「ま……て」
ダガーを振り抜くが、マッド・ドクには届かない。
倒れるオルパに背を向けて、ドクは通路の奥へと姿を消した。


「あぁ、良かった。眠っていただけのようですね」
「う? あぁ……そうか」
意識を取り戻したオルパの視界に、桃色の髪が揺れていた。
どうやら眠りこんでいたオルパを、セアラが治療してくれたらしい。
「マッド・ドクの姿が見当たりませんが?」
と、セアラは問う。
意識が途切れる直前の記憶を呼び覚まし、オルパは通路の奥を指差した。
「あっちの方向へ駆けて行ったよ。ぼくにトドメを刺すこともできただろうに……」
「向こうに、何かあるのだろうね。オルパの始末よりも優先すべき何かが」
行こうか、と。
歩き出したマグノリアの後を、3人は急ぎ追いかける。

「これは……地下室への出入り口でしょうか」
慎重に、床に空いた穴を覗き込みエルシーは首を傾げて見せる。
マグノリアは光球を操作し、穴の中を照らした。
狭い階段が、遥か下方へと伸びているのが確認できる。
「研究者には絶対目標が有る。 研究過程で得た技術を利用、応用して成果を出す為に……そこに心血を注ぐ筈。この先にその答えがあるのかもしれないね」
「では、降りてみましょうか」
マグノリアの言葉を継いで、セアラが行動方針を告げた。
誰からも否やの声はあがらない。
元より、ターゲットがこの先にいるのだとしたら、地下へ潜らないわけにはいかないのだから。
「さぁ、お嬢さん達、地下室へは気を付けて降りてください。なんなら、俺が手を引きましょうか?」
そう言ってオルパは、真っ先に地下へと降りていく。
おどけたような言葉と仕草。けれど、いざマッド・ドクの不意打ちがあった際、仲間達の盾となれる位置取りだった。

肉と血の腐った臭い。
吐き気を催すひどい臭いだ。
セアラが思わず口元を押さえ、呻き声をあげるのも致し方ないことだろう。
マグノリアの光球が、室内を明るく照らし出す。
「酷いですね」
と、そう呟いたのはエルシーだった。
「陰気な所だな。気が滅入るぜ……だが、供養が必要かもな」
オルパの視線は、地下室の奥へと向いていた。
粗末な木の扉。壊れかけのその隙間から、誰かの顔が覗いている。
その誰かはマッド・ドクではない。
白く濁った瞳……おそらくは、実験体とされた何者かの遺体であろう。
「人造人間の製造は……あぁ、なるほど。ただの過程というわけだ。目的は、永遠に朽ちることのない強い肉体。不老不死ってやつだね」
くだらない、と。
そう呟いて、マグノリアは手にした書物を床へと放る。
その本は、地下室に来る階段の途中に落ちていたものだ。
逃亡するマッド・ドクが落として行ったのだろう。
「遺体の調査をして、元の場所に送り届けてさしあげなければ……何か、資料などは」
そう言ってセアラは視線を巡らせる。
だが、途中でピタリと……部屋の中央に置かれていた手術台のところで動きを止めた。
「見つけました……これは、強い恨み。死んでしまったことに対する、怒りの感情?」
視線の先で、手術台が宙へと浮かぶ。
不可視の腕で、マッド・ドクが持ち上げたのだ。
力任せに手術台を投げつける……だが。
「大した執念だとは思うけれどね……僕はもっと、たとえば死んでしまった家族や恋人を生き返らせたいだとか、そう言った動機を期待していたんだ」
がっかりだよ、と。
冷淡な声で、そう告げて。
マグノリアの放った魔力の渦が、マッド・ドクを飲み込んだ。
手術台も、資料も、本も……。
地下室にあった、遺体以外のあらゆるものを飲み込んで、めちゃくちゃに破壊しつくして。
魔力の渦が消える頃には、マッド・ドクが長年をかけて実験して来たであろうほとんど全ては、無残なガラクタに成り果てていた。
「こうはなりたくないものだ」
なんて。
誰にも聞こえない、小さな声でそう呟いてマグノリアは一足先に地上へと向かうことにした。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

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