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熱狂の地下闘技場

●命賭け
ヘルメリア国内にある、賑わうレストランの地下で。
今日もまた、無辜の命が散らされようとしていた。
「ほらほら、どうした! ここを出たくないのか? 出たいんだったら死にもの狂いで戦え!」
でっぷりと腹に脂肪を蓄えた、髭面の男が吼える。
合わせるように周りにいる男女からも罵声が飛び出す。
「ふざけんじゃねえ! 幾ら賭けてると思ってんだ! ぶっ殺せ!」
「ふふ、本当、悪趣味なんだから」
「行けーッ! なにやってんだ! 斬り殺せ!」
投げつけられる檻の向こう、首枷を付けたケモノビト二人が、ところどころ刃の潰れた剣を持たされ戦っていた。
痩せこけ、傷つき、もはや戦士などとは言えない矮躯。
狼耳には識別用のタグが取り付けられていた。
識別番号四十三。狼のケモノビト。
相対するは識別番号四十二。狼のケモノビト。
「うぅ、もういやだよ、おにいちゃん……!」
「ごふっ、いいから、俺を殺せ……! お前だけでも生き延びろ……!」
「ううう、うあああああ!?」
「……ッ! そうだ、それでいい。兄ちゃんの分まで、生きてくれ……。こんな世界だけど、きっと、幸せはどこかにあるから…………」
「おにいちゃん! おにいちゃん!! うわああああああッ!!!!」
弟に抱きつくようにして、その剣を受け入れた兄は、最後まで笑顔を絶やさなかった。
年のそう変わらない、大好きな兄の血を浴び少年は。
檻から開け放たれる絶望に、膝から崩れ落ちた。
「哀れにも兄弟で奴隷に落ちた彼らは、最後まで美しい愛を見せてくれました!
その愛は、きっとどんな困難でも乗り越える力になるでしょう!
さぁさぁ始まりました、本日のメインイベント!
兄弟殺しの罪人と魔獣の生存競争!
果たして生き残るのはどちらか!」
軽妙なアナウンスと共に放たれる巨獣。獅子の頭、大鷲の翼、蛇の尾。
観客は冷え切っていた。こんなもの、ショーにもならない。
先程の殺し合いのほうがまだ見世物としてマシだった。
あっけなく鮮血を散らし、兄を追う弟。こんな世界を、一人で生きるくらいなら。
幸せとはきっと、死ぬことだと、そう思った。
ヘルメリア国内にある、賑わうレストランの地下で。
今日もまた、無辜の命が散らされようとしていた。
「ほらほら、どうした! ここを出たくないのか? 出たいんだったら死にもの狂いで戦え!」
でっぷりと腹に脂肪を蓄えた、髭面の男が吼える。
合わせるように周りにいる男女からも罵声が飛び出す。
「ふざけんじゃねえ! 幾ら賭けてると思ってんだ! ぶっ殺せ!」
「ふふ、本当、悪趣味なんだから」
「行けーッ! なにやってんだ! 斬り殺せ!」
投げつけられる檻の向こう、首枷を付けたケモノビト二人が、ところどころ刃の潰れた剣を持たされ戦っていた。
痩せこけ、傷つき、もはや戦士などとは言えない矮躯。
狼耳には識別用のタグが取り付けられていた。
識別番号四十三。狼のケモノビト。
相対するは識別番号四十二。狼のケモノビト。
「うぅ、もういやだよ、おにいちゃん……!」
「ごふっ、いいから、俺を殺せ……! お前だけでも生き延びろ……!」
「ううう、うあああああ!?」
「……ッ! そうだ、それでいい。兄ちゃんの分まで、生きてくれ……。こんな世界だけど、きっと、幸せはどこかにあるから…………」
「おにいちゃん! おにいちゃん!! うわああああああッ!!!!」
弟に抱きつくようにして、その剣を受け入れた兄は、最後まで笑顔を絶やさなかった。
年のそう変わらない、大好きな兄の血を浴び少年は。
檻から開け放たれる絶望に、膝から崩れ落ちた。
「哀れにも兄弟で奴隷に落ちた彼らは、最後まで美しい愛を見せてくれました!
その愛は、きっとどんな困難でも乗り越える力になるでしょう!
さぁさぁ始まりました、本日のメインイベント!
兄弟殺しの罪人と魔獣の生存競争!
果たして生き残るのはどちらか!」
軽妙なアナウンスと共に放たれる巨獣。獅子の頭、大鷲の翼、蛇の尾。
観客は冷え切っていた。こんなもの、ショーにもならない。
先程の殺し合いのほうがまだ見世物としてマシだった。
あっけなく鮮血を散らし、兄を追う弟。こんな世界を、一人で生きるくらいなら。
幸せとはきっと、死ぬことだと、そう思った。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.幻想種『キマイラ』の討伐。
こんにちは、櫟井庵です。
定番の地下闘技場での奴隷解放作戦です。
●敵情報
・闘技場の護衛
腕自慢のごろつき達複数名が武装して地下闘技場を警護しています。
主な武装は刀剣類と簡素なクラブなどですが、ただのノウブルですので本当に腕自慢というだけです。
侵入者に対し武器を振るって制圧を試みます。
・幻想種『キマイラ』
獅子の頭と体に、大きな翼を備え、尾が大蛇になっている幻想種です。
といっても飛行能力はなく、せいぜい大きく跳躍する程度でしょう。
牙での噛み付き、爪でのなぎ払いなどにより、【スクラッチ2】を、尾の大蛇の噛みつきにより【ポイズン2】を与えてきます。
・観客
無力です。逃げます。邪魔です。
●場所など補足
作戦場所は地下闘技場とその上にたつカモフラージュのレストランです。
地下闘技場は会員制で、会員証の提示が出来ない場合通してもらえません。当然、観客の武器の持ち込みも禁止です。
レストラン自体は一般に開放されています。亜人の入店も規制はありませんが、扱いは酷いです。テーブルにご飯出してもらえません。
護衛は景観を損ねるという理由でバックヤードに詰められています。
バックヤードから強引に突破もしくは他の入口を探す、会員証をなんとか手に入れる、奴隷を扱う業者を装うなどして闘技場に侵入し、キマイラの討伐と奴隷の開放が作戦内容となります。
なお、これは水鏡による予知では無いため奴隷のケモノビト兄弟達は既に死んでいます。
定番の地下闘技場での奴隷解放作戦です。
●敵情報
・闘技場の護衛
腕自慢のごろつき達複数名が武装して地下闘技場を警護しています。
主な武装は刀剣類と簡素なクラブなどですが、ただのノウブルですので本当に腕自慢というだけです。
侵入者に対し武器を振るって制圧を試みます。
・幻想種『キマイラ』
獅子の頭と体に、大きな翼を備え、尾が大蛇になっている幻想種です。
といっても飛行能力はなく、せいぜい大きく跳躍する程度でしょう。
牙での噛み付き、爪でのなぎ払いなどにより、【スクラッチ2】を、尾の大蛇の噛みつきにより【ポイズン2】を与えてきます。
・観客
無力です。逃げます。邪魔です。
●場所など補足
作戦場所は地下闘技場とその上にたつカモフラージュのレストランです。
地下闘技場は会員制で、会員証の提示が出来ない場合通してもらえません。当然、観客の武器の持ち込みも禁止です。
レストラン自体は一般に開放されています。亜人の入店も規制はありませんが、扱いは酷いです。テーブルにご飯出してもらえません。
護衛は景観を損ねるという理由でバックヤードに詰められています。
バックヤードから強引に突破もしくは他の入口を探す、会員証をなんとか手に入れる、奴隷を扱う業者を装うなどして闘技場に侵入し、キマイラの討伐と奴隷の開放が作戦内容となります。
なお、これは水鏡による予知では無いため奴隷のケモノビト兄弟達は既に死んでいます。
状態
完了
完了
報酬マテリア
6個
2個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
8日
8日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2019年07月21日
2019年07月21日
†メイン参加者 8人†
●余韻
ステージではピアノの伴奏に合わせ、スパンコールドレスに身を包んだ女性が歌声を響かせていた。美しい音色に酔いながら、一組の男女がグラスを傾ける。
「まったく、とんだ茶番だったな」
「ふふ、そうね。でもあなた、ああいうの好きでしょう?」
「だとしてももう少し加減というものがあるだろう。あれではただの廃棄処分と変わらん」
彼らが地下闘技場のメインイベントに呆れ、地上のレストランで口直しに酒を嗜んでいると、にわかにざわめき始める。
何事かと周囲を伺えば、顔や体に包帯や布を巻き付けた一団が入店してきたようだった。
「……」
「お、お客様……!」
ドレスコードだの、包帯こそ巻き付けられているが武具だろうそれを理由に入店を拒否しようとする従業員を押しのけ、一団は歩を進める。
「いい加減にしてください……! 当店としましても、手荒な真似は避けたいのです」
「あぁ、気にしないでくれ」
『妥協知らず』ボルカス・ギルトバーナー(CL3000092)が従業員を一瞥し、何でもないように。
「私達は客ではないからな」
きょとんとした顔をする従業員が、ボルカスが何を言っているのか理解した頃。
無言を貫いていた『クマの捜査官』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)が黙って得物を掲げる。ガオン、と天井の照明が粉々にされ、光を浴びて降り注ぐ。
「おらァ! 死にたくなかったらさっさと失せろォ!」
彼らの様子を訝しげに伺っていたレストランの客たちは、とたんにパニックに陥り、取りも直さず我先にと出口へと向かう。
「ひっ、ひぃいいいっ」
頭を抱えるようにして逃げる従業員を先導に、強盗に扮した自由騎士たちはバックヤードへと歩を進めた。
●迅速
「この身はただ、一帖の盾である」
『一帖の盾』ランスロット・カースン(CL3000391)は蒸気式剣「ダスク」と対の「ドーン」を構え、加速する。
「我等こそ最強にして無敵なりッ!!」
焚刑大槍を構えたボルカスの咆哮に血をたぎらせ、為すべきことを為さんと地を踏みしめ。
「「オオオッ!」」
気合と共に放たれる二対の衝撃波。弾き跳ぶ護衛達を、押しのけ突き進んで行く。繰り出されるショートソードを盾で弾き、そのまま盾ごと体当たりする。
その背中には覚悟を背負い、使命の影に義憤を燃やし、先陣をきって道を開く。
「吶喊!」
扉の前で立ちふさがる護衛どもに迎撃されるのも厭わず、突進し潜り込んだランスロットが薙ぎ払うようにしてダスクに仕込まれた銃を乱射する。
「どわああッ!?」
マホガニーの扉ごと吹き飛んだごろつきたちを乗り越え進んでいった。
●怒り
ドアの先、通路にひしめく護衛。
「おっるあ!」
闖入者である『革命の』アダム・クランプトン(CL3000185)が振り下ろされる棍棒を打ち払い、普段は優しげな光りを宿すその瞳を怒りに燃やしていた。
猛る己を律し、思考は鋭く、突き出す左腕に炎を乗せて。
炸薬式蒸気鎧装が変形し、銃口が露出する。蒸気を上げて弾倉が回転する度に、強烈な閃光と轟音が通路に反響し埋め尽くす。一息に弾倉を空にして排莢しつつ、アダムは砲火を逃れたものに向き直りこう告げた。
「地下闘技場は今日限りで営業停止だ。君たちが邪魔しないのであれば見逃そう」
「うっ……!」
「邪魔するのであれば容赦はないよ」
にじり寄るアダムに握りしめたナイフを放り投げ、命乞いをする。
「か、勘弁してくれっ! 俺たちゃただの雇われなんだ!」
「疾く、失せるが良い」
●硝煙
無様に逃げ出す護衛にかまうこと無く、先を急ぐ一行に、続々と駆けつける。
「時間が惜しい、一気に行くぞ」
『殲滅弾頭』ザルク・ミステル(CL3000067)が両手に愛銃を構え、殺到する護衛へ向かってトリガーを引いた。高速の連射に、一連なりになる銃声が止んだ頃、腕や脚を抑えてのたうち回る男どもの山が出来ていた。
銃弾の雨を回避した護衛に、再度降り注ぐ魔弾の雨。
「ぎゃああッ」
硝煙を上げるウルサマヨル・サピエンティアを肩に担ぎ、もはや隠すこともなく表情を怒りに染めたウェルスに、思わず声を震わせ。
「な、なんなんだよコイツら……!」
圧倒的な戦力で強引に突破してくる彼らに、後ずさる護衛のまとめ役。所詮雇われである彼らが、危機を前に統率など維持できるわけもなく。
「おい! どうすんだよ! こんな奴ら相手にどうしろってんだ!」
「うるせぇ! やるしかねえだろ!」
息を巻く護衛に再装填を終えたザルクが銃口を突きつける。
「死にたい奴から前に出な!」
●紅と桃
「にゃぁ! ほらほらどいたどいた! 邪魔だっつってんだべー!?」
ぼこすか護衛を殴り飛ばし、強行突破する『にゃんにゃんにゃん↑↑』スピンキー・フリスキー(CL3000555)に続き、『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)が拳を振るう。
「せっ! はっ!」
大上段から繰り出された斬撃を、紙一重で躱しすかさず一撃叩き込み、背後から寄る護衛に振り返りざま裏拳を見舞う。
「やるやん?」
「貴方こそ」
背中を合わせる小麦色の肌が健康的な色気を醸し出す美女と、野獣と言うには愛嬌がすぎるケモノビト。しかし二人の獰猛さは野獣にも負けず劣らず、護衛どもを次々に無力化し、地下闘技場の観客席へと突入する。
●殺気
観客席に吹き飛ばされるようにして気絶した護衛に、観客が騒然としだしたところへ。
「やぁやぁ我こそは! この混沌とした世界に舞い降りし漆黒の堕天使的存在!」
それを殴り飛ばした張本人がででーんと名乗りをあげ、誰だお前といいたげな視線を一身に受け止めている隙きに、『夜空の星の瞬きのように』秋篠 モカ(CL3000531)が客たちの上空を駆け闘技場へと向かう。
「ごめんなさい、通ります……!」
続くようにザルクとエルシー、ボルカスが観客の合間を縫って鉄格子を飛び越え掘り下げられた闘技場へと突入する。
レストランでそうしたのと同じように、ウェルスが天井へ向けて発砲し、巻き添えにならないよう退避させる。
「てめえら! そこで伸びてる奴みたいになりたくなきゃ、さっさと失せるんだな!」
「はいはーい、お帰りはこちらだよー!」
「さぁ、早く!」
特別彼らを守ろうという気はない。むしろこのような下衆な催しに喜びを見出す者たちなど、欠片ほども理解できない。
怒りを抑えつつ、避難誘導を続けるランスロットに、小太りな男が詰め寄ってまくしたてる。
「おい! 貴様ら何モノだ! 配当がまだなんだぞ! どうしてくれる!」
「知らん、失せろ」
「あひっ、ひいいいっ、殺されるうぅう!?」
一瞥と共に強烈な殺気をぶつけられ、腰を抜かした男が転げ逃げ出した。
「今ので最後かな」
「ああ、急ごう」
「まっとれよ、 キマイラァ!」
「行くぞッ!」
避難誘導を終えたアダム、ランスロット、スピンキー、ウェルスの四名が続いて闘技場へと飛び込んだ。
●犠牲
『――グルォオッ!!』
咆哮とともに繰り出される前腕のなぎ払いを飛び越え、レイピアによる斬撃を繰り出しつつ空を舞いキマイラの後ろを陣取ったモカ。斬られた蛇の尾が怒りにぎろりと見据える。
鋭い牙をのぞかせ、たわめた身を一気に解放しようとした蛇の目に飛び込む銃弾。
「どこ見てやがる!」
卓越した射撃能力により、動く標的の、更に後方に存在する狭い一点を的確に撃ち抜いたザルクが不敵に笑う。
挑発を受けたキマイラが大顎を開き噛み付くが、一瞬で潜り込んだ紅い影が下顎を捉えた。屈伸した脚をバネに、跳躍の勢いを拳に乗せ、振り上げる。
「ハァアッ!」
打ち抜かれ脳天まで突き抜ける衝撃にキマイラがたまらずたたらを踏む。そこへ叩きつけられる焚刑大槍。
『――ギャオオッ!!』
並大抵の鎧などよりよほど硬い毛に覆われた皮を貫き、鮮血が宙に舞う。このまま一気呵成に畳み掛けようとした瞬間。
どこかから放たれた銃弾がキマイラの枷を撃ち抜き、破壊する。
『――グルル……!』
解放された大翼をはためかせ跳躍し、距離を取るキマイラ。追いすがるように駆け抜けたモカの疾風を纏う一撃が格段に素早くなったキマイラに避けられてしまう。
「!?」
『――シャアッ!』
片手を地につきながら減速し、体勢を整えるモカに食らいつく蛇頭、割り込む盾。
内部機構が衝撃を吸収し、弾き返すようにして蒸気が迸る。
「無事か?」
「ランスロットさん!」
弾かれのけぞる蛇頭をかばうように、振り向くキマイラに飛びかかる桃色の影。
「うなぁー!!」
『――!?』
渾身の咆哮もどこか愛らしいスピンキーの一撃に、キマイラが豆鉄砲を喰らったような顔をする。ひるみつつも打ち払うように振られる前足がスピンキーを捉え、「へぶっ」と吹き飛ばされる。
「いいフックもっとるやんけ……」
「調子に乗るからだ、ほら、見せてみろ。……なんだ、大したことないな」
「大したことないってにゃんだよー!」
殴り飛ばされても元気なスピンキーがウェルスに噛み付くところへ牙をむくキマイラ。
アダムがその牙を受け止めた。
純白の鎧に火花が散るも、彼の意思を砕くには至らない。
(キマイラだって、好き好んでこの場にいるワケでもないだろうに)
隅に転る二人の獣人、飼いならされた幻想種、それを見て酒を煽るノウブル達。
これが、ヘルメリアという国の在り方なのか。
認められない。認めてはいけない。
「これが僕の変えるべき世界だ!」
気合と共に押しのけ、理想への思いを叫ぶアダムと入れ替わりエルシーが躍り出る。
ガチンと音を立てる顎を左に跳躍して避けたエルシーがもう一度至近距離に入り込み。
「こんな人間達の見世物にされるのはお前だってイヤなんじゃない? いま楽にしてあげるわ」
全力で拳を叩き込む。その衝撃が波状に広がって内部から破壊していく。
がくりと崩れ落ちる本体に変わり、蛇の尾がしなるように襲いかかる。
それを篭手で弾き、続くなぎ払いを後方への跳躍によって回避。追いすがるキマイラに横合いからボルカスが体当たりするように槍をぶつけ、穂先を突き立てた。
「おおおおおッ!」
渾身の踏み込みにより深く突き刺さる焚刑大槍。蛇がボルカスに牙を剥くが、ザルクの援護がそれを阻害する。
「させねえよ!」
続けざまに放たれる弾丸を受けつつも、肩へ食らいつく蛇に、ボルカスは顔を歪ませた。
「おら! バッシュすんぞおらぁ!」
「はぁああああ!」
ひたすらぼこすか殴り倒すスピンキー。たまらず口を離した蛇の尾へ、逆巻く風を纏わせたレイピアが突きこまれ。
二歩、三歩とよろめき、悲しげな咆哮をあげ、キマイラは横へ倒れ絶命した。
●祈り、解放
「よし、これで大丈夫だろ」
ウェルスが負傷者の治療を終え、それぞれが目的を果たすべく動き出す。
「……」
悲惨な運命に翻弄された兄弟に、黙祷を捧げるモカとアダム。エルシーも祈り、ほどほどに奴隷の解放へと急いだ。
もはや何も言わぬ躯を前に、己の無力を呪うアダムの肩を、同じく黙祷をしていたボルカスが叩く。
「アダム君」
「悔しいよ、とても……」
「……ああ、俺もだ」
「スピンキーさん、あとはよろしくお願いしますね……」
「あい」
スピンキーはそっとしゃがみ込み、口元の血を拭い、絶望に歪んだ目を塞ぐ。血で汚れるのも構わず、二人の亡骸を抱えようと持ち上げ。
「待て、俺も手伝おう」
そう言って、ランスロットが体格の大きい方を背負った。
「ランスロットにゃん、ありがとにゃ」
「ああ」
いくつもある扉を次々に開け放っていく。
「ここは……」
エルシーが踏み込んだのは闘奴用の武具置き場だった。
「……」
およそ用はないはずだが、エルシーは奥へと歩を進める。手入れもろくにされていない武具がかけられた棚をいくつか通り過ぎた頃、頭目掛けて振り回されるモーニングスターを屈んで回避し、左拳を襲撃者のみぞおちにめり込ませる。
「うぐぅうっ」
「ずいぶんなご挨拶ね。奴隷達はどこ? もっと痛い思いをしてからしゃべる?」
「ごほっ、いや、悪かった、頼む、許してくれ、出来心だったんだ」
無言で少しスタンスを広げ、右拳を僅かばかり引く。
「わわわわかった! わかったから! 牢は部屋を出て右に行った次の突き当りを左だ! ほら、これが鍵!」
「ありがと」
鍵を受け取り、お礼に右拳を頬にお見舞いし、エルシーは牢へと向かった。
「見つけた! こっちだ!」
小さな牢がいくつも連なった石造りの通路。そこには様々なケモノビトが、闘奴として鎖に繋がれていた。ウェルスは怒りに拳を硬く握りしめ、不安げにこちらを伺う澱んだ瞳に我を取り戻す。
「待ってろ、今助ける」
顔に巻きつけていた包帯を外し、自分も同じケモノビトであるということで安心させ、にっと笑う。
錠をどうしようか、ちらりと己の銃を見て、驚かさないようにしないとと考えていたところへエルシーがやってきた。
「ウェルスさん、これ」
そういって渡されたのはおそらく牢の鍵であろうものがついた鍵束。大きいのは扉のもので、小さいのは足かせのものだろう。
「どこでこれを?」
「親切な人と少しおしゃべりしたのよ」
「そうか、助かった」
牢を開け、枷を外す。ボルカス、モカ、アダムが到着し、他の場所には奴隷がいなかったことを報告した。
「もう大丈夫です。私がついています」
モカがしゃがみ込み、震えるネコの少女の頭を撫で、安心させようと笑みを向ける。
かろうじて笑みの様なものを作った少女の手をとって、立ち上がった。
己が彼らを拐った者と同じノウブルで、それゆえに無用な心労をかけまいと黙々と鍵を外していくボルカス。
彼の予想通り、近づくだけでがちゃがちゃと鎖を鳴らし、壁際でうずくまってしまう者もいた。そんな中、聞き慣れない言葉で「助けて」と小さくこぼしたタヌキの少年に、ボルカスは。
『ああ、安心しろ。もう大丈夫だ』
彼の言葉で返答する。ハッと顔を上げた少年に、強面な笑みをみせる。
「おっと」
自分の顔が威圧しがちだった事を思い出し、手で眉間に寄ったシワをほぐそうと難しい顔をするボルカスの服の裾を、少年はきゅっと掴んで弓なりに細めた目から涙を一つぶ落とした。
「僕らはフリーエンジンの協力者だ。君達を害することはない」
人間不信に陥り、強く警戒をするシカのケモノビトに対し、両手を開いて害意がないことを示す。信じたい、それでもと震える手を硬く握り、地面に目を落とす少年に、そっと手を差し伸べて。
「さぁ、逃げよう」
耳朶に優しく響く声に、少年は勇気を出して手を重ねた。
「怪我をしてたらこっちへ来てくれ、治療する」
傷つき脚を引きずる少年や、雑な手当で化膿した傷を抑える少女に出来る限りの治療を施していく。
「熊のおじさんはお医者さんなの?」
「ん? いや、そういうわけじゃないが……」
「違うの?」
「まぁ、今日はお医者さんだな」
打ち解けた少年と会話をしつつ、あらかた治療を終えたウェルスが皆を引き連れ外へ出る。
「終わったかしら?」
「ああ、ひとまずな」
「じゃあ、とりあえず、いまは私達についてきてもらえるかしら?」
外で見張りをしていたエルシーを先導に、一同は脱出を開始した。
●因果応報
「クソッ、なんでこんなことに……!」
キマイラの枷を外した張本人、この闘技場を経営していた支配人が腫れた頬を抑えながら証拠隠滅しようと書類を集め、フリントロックライターを手に取る。
「よお、焚き火でもすんのか?」
「ああ? ッガア!?」
支配人の手が撃ち抜かれ、ライターが弾かれる。続いて放たれた銃弾が膝と肘を砕き、へたりこんで失禁する支配人の眉間に銃口を突きつけ問いかける。
「書類はこれで全部か?」
「ぐぅッ……ああ……? 意味がわからねえ……ぎゃああっ!?」
「隠し金庫とか、そういうのねえのか」
銃弾をもう一発くれてやり、乱暴に書斎机を検め、二重底になっていないか確かめていく。
「ね、ねえよッ……お前らフリーエンジンが喜びそうなモンはそれで全部だよッ」
「そうか」
何やらザルク達の素性について勘違いしているようだが、それはそれで好都合だったため、そのままにして書類を手に部屋を後にする。
「ちくしょうッ! お前も! あの女も! 全員纏めてぶっ殺す! 覚悟しておけ!」
「ああ、楽しみにしておく」
呪詛を吐き散らす支配人の声を背に、奴隷解放へ向かった仲間の元へ急いだ。
●撤退
「何か見つかった?」
「ああ、どうやら、近々でっけぇ奴隷オークションが開かれるらしい」
開催告知の手紙をひらひらと振る。
「とりあえず、脱出するぞ」
「ああ」
一行が地下闘技場を抜け、レストランへと上がり、ウェルスが壁にデカデカと「フリーエンジン参上」と念写を終えた頃。
「追えッ! 逃がすなァ! ぶち殺せェ!!」
手下に抱えられた支配人が目を見開いてがなりたてる。これに背いては何をされるかわかったものではない護衛達が追いかけるところへ、ザルクが銃弾をばらまいて牽制、突出した男の膝を撃ち抜いて悶絶させた。
「そうなりたくなかったら大人しくしてなッ!」
行くも地獄、引くも地獄の護衛達は、追うことをやめ散り散りに解散した。
「おいッ! お前らァ! クソがぁああ!」
床に捨て置かれた支配人の声だけが、闇夜に響いていた。
●後日
少年たちの遺体は隠れ里で丁重に葬られ、解放した子供達も無事保護された。
こうしてヘルメリアの闇に一つ、メスが入ったのであった。
ステージではピアノの伴奏に合わせ、スパンコールドレスに身を包んだ女性が歌声を響かせていた。美しい音色に酔いながら、一組の男女がグラスを傾ける。
「まったく、とんだ茶番だったな」
「ふふ、そうね。でもあなた、ああいうの好きでしょう?」
「だとしてももう少し加減というものがあるだろう。あれではただの廃棄処分と変わらん」
彼らが地下闘技場のメインイベントに呆れ、地上のレストランで口直しに酒を嗜んでいると、にわかにざわめき始める。
何事かと周囲を伺えば、顔や体に包帯や布を巻き付けた一団が入店してきたようだった。
「……」
「お、お客様……!」
ドレスコードだの、包帯こそ巻き付けられているが武具だろうそれを理由に入店を拒否しようとする従業員を押しのけ、一団は歩を進める。
「いい加減にしてください……! 当店としましても、手荒な真似は避けたいのです」
「あぁ、気にしないでくれ」
『妥協知らず』ボルカス・ギルトバーナー(CL3000092)が従業員を一瞥し、何でもないように。
「私達は客ではないからな」
きょとんとした顔をする従業員が、ボルカスが何を言っているのか理解した頃。
無言を貫いていた『クマの捜査官』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)が黙って得物を掲げる。ガオン、と天井の照明が粉々にされ、光を浴びて降り注ぐ。
「おらァ! 死にたくなかったらさっさと失せろォ!」
彼らの様子を訝しげに伺っていたレストランの客たちは、とたんにパニックに陥り、取りも直さず我先にと出口へと向かう。
「ひっ、ひぃいいいっ」
頭を抱えるようにして逃げる従業員を先導に、強盗に扮した自由騎士たちはバックヤードへと歩を進めた。
●迅速
「この身はただ、一帖の盾である」
『一帖の盾』ランスロット・カースン(CL3000391)は蒸気式剣「ダスク」と対の「ドーン」を構え、加速する。
「我等こそ最強にして無敵なりッ!!」
焚刑大槍を構えたボルカスの咆哮に血をたぎらせ、為すべきことを為さんと地を踏みしめ。
「「オオオッ!」」
気合と共に放たれる二対の衝撃波。弾き跳ぶ護衛達を、押しのけ突き進んで行く。繰り出されるショートソードを盾で弾き、そのまま盾ごと体当たりする。
その背中には覚悟を背負い、使命の影に義憤を燃やし、先陣をきって道を開く。
「吶喊!」
扉の前で立ちふさがる護衛どもに迎撃されるのも厭わず、突進し潜り込んだランスロットが薙ぎ払うようにしてダスクに仕込まれた銃を乱射する。
「どわああッ!?」
マホガニーの扉ごと吹き飛んだごろつきたちを乗り越え進んでいった。
●怒り
ドアの先、通路にひしめく護衛。
「おっるあ!」
闖入者である『革命の』アダム・クランプトン(CL3000185)が振り下ろされる棍棒を打ち払い、普段は優しげな光りを宿すその瞳を怒りに燃やしていた。
猛る己を律し、思考は鋭く、突き出す左腕に炎を乗せて。
炸薬式蒸気鎧装が変形し、銃口が露出する。蒸気を上げて弾倉が回転する度に、強烈な閃光と轟音が通路に反響し埋め尽くす。一息に弾倉を空にして排莢しつつ、アダムは砲火を逃れたものに向き直りこう告げた。
「地下闘技場は今日限りで営業停止だ。君たちが邪魔しないのであれば見逃そう」
「うっ……!」
「邪魔するのであれば容赦はないよ」
にじり寄るアダムに握りしめたナイフを放り投げ、命乞いをする。
「か、勘弁してくれっ! 俺たちゃただの雇われなんだ!」
「疾く、失せるが良い」
●硝煙
無様に逃げ出す護衛にかまうこと無く、先を急ぐ一行に、続々と駆けつける。
「時間が惜しい、一気に行くぞ」
『殲滅弾頭』ザルク・ミステル(CL3000067)が両手に愛銃を構え、殺到する護衛へ向かってトリガーを引いた。高速の連射に、一連なりになる銃声が止んだ頃、腕や脚を抑えてのたうち回る男どもの山が出来ていた。
銃弾の雨を回避した護衛に、再度降り注ぐ魔弾の雨。
「ぎゃああッ」
硝煙を上げるウルサマヨル・サピエンティアを肩に担ぎ、もはや隠すこともなく表情を怒りに染めたウェルスに、思わず声を震わせ。
「な、なんなんだよコイツら……!」
圧倒的な戦力で強引に突破してくる彼らに、後ずさる護衛のまとめ役。所詮雇われである彼らが、危機を前に統率など維持できるわけもなく。
「おい! どうすんだよ! こんな奴ら相手にどうしろってんだ!」
「うるせぇ! やるしかねえだろ!」
息を巻く護衛に再装填を終えたザルクが銃口を突きつける。
「死にたい奴から前に出な!」
●紅と桃
「にゃぁ! ほらほらどいたどいた! 邪魔だっつってんだべー!?」
ぼこすか護衛を殴り飛ばし、強行突破する『にゃんにゃんにゃん↑↑』スピンキー・フリスキー(CL3000555)に続き、『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)が拳を振るう。
「せっ! はっ!」
大上段から繰り出された斬撃を、紙一重で躱しすかさず一撃叩き込み、背後から寄る護衛に振り返りざま裏拳を見舞う。
「やるやん?」
「貴方こそ」
背中を合わせる小麦色の肌が健康的な色気を醸し出す美女と、野獣と言うには愛嬌がすぎるケモノビト。しかし二人の獰猛さは野獣にも負けず劣らず、護衛どもを次々に無力化し、地下闘技場の観客席へと突入する。
●殺気
観客席に吹き飛ばされるようにして気絶した護衛に、観客が騒然としだしたところへ。
「やぁやぁ我こそは! この混沌とした世界に舞い降りし漆黒の堕天使的存在!」
それを殴り飛ばした張本人がででーんと名乗りをあげ、誰だお前といいたげな視線を一身に受け止めている隙きに、『夜空の星の瞬きのように』秋篠 モカ(CL3000531)が客たちの上空を駆け闘技場へと向かう。
「ごめんなさい、通ります……!」
続くようにザルクとエルシー、ボルカスが観客の合間を縫って鉄格子を飛び越え掘り下げられた闘技場へと突入する。
レストランでそうしたのと同じように、ウェルスが天井へ向けて発砲し、巻き添えにならないよう退避させる。
「てめえら! そこで伸びてる奴みたいになりたくなきゃ、さっさと失せるんだな!」
「はいはーい、お帰りはこちらだよー!」
「さぁ、早く!」
特別彼らを守ろうという気はない。むしろこのような下衆な催しに喜びを見出す者たちなど、欠片ほども理解できない。
怒りを抑えつつ、避難誘導を続けるランスロットに、小太りな男が詰め寄ってまくしたてる。
「おい! 貴様ら何モノだ! 配当がまだなんだぞ! どうしてくれる!」
「知らん、失せろ」
「あひっ、ひいいいっ、殺されるうぅう!?」
一瞥と共に強烈な殺気をぶつけられ、腰を抜かした男が転げ逃げ出した。
「今ので最後かな」
「ああ、急ごう」
「まっとれよ、 キマイラァ!」
「行くぞッ!」
避難誘導を終えたアダム、ランスロット、スピンキー、ウェルスの四名が続いて闘技場へと飛び込んだ。
●犠牲
『――グルォオッ!!』
咆哮とともに繰り出される前腕のなぎ払いを飛び越え、レイピアによる斬撃を繰り出しつつ空を舞いキマイラの後ろを陣取ったモカ。斬られた蛇の尾が怒りにぎろりと見据える。
鋭い牙をのぞかせ、たわめた身を一気に解放しようとした蛇の目に飛び込む銃弾。
「どこ見てやがる!」
卓越した射撃能力により、動く標的の、更に後方に存在する狭い一点を的確に撃ち抜いたザルクが不敵に笑う。
挑発を受けたキマイラが大顎を開き噛み付くが、一瞬で潜り込んだ紅い影が下顎を捉えた。屈伸した脚をバネに、跳躍の勢いを拳に乗せ、振り上げる。
「ハァアッ!」
打ち抜かれ脳天まで突き抜ける衝撃にキマイラがたまらずたたらを踏む。そこへ叩きつけられる焚刑大槍。
『――ギャオオッ!!』
並大抵の鎧などよりよほど硬い毛に覆われた皮を貫き、鮮血が宙に舞う。このまま一気呵成に畳み掛けようとした瞬間。
どこかから放たれた銃弾がキマイラの枷を撃ち抜き、破壊する。
『――グルル……!』
解放された大翼をはためかせ跳躍し、距離を取るキマイラ。追いすがるように駆け抜けたモカの疾風を纏う一撃が格段に素早くなったキマイラに避けられてしまう。
「!?」
『――シャアッ!』
片手を地につきながら減速し、体勢を整えるモカに食らいつく蛇頭、割り込む盾。
内部機構が衝撃を吸収し、弾き返すようにして蒸気が迸る。
「無事か?」
「ランスロットさん!」
弾かれのけぞる蛇頭をかばうように、振り向くキマイラに飛びかかる桃色の影。
「うなぁー!!」
『――!?』
渾身の咆哮もどこか愛らしいスピンキーの一撃に、キマイラが豆鉄砲を喰らったような顔をする。ひるみつつも打ち払うように振られる前足がスピンキーを捉え、「へぶっ」と吹き飛ばされる。
「いいフックもっとるやんけ……」
「調子に乗るからだ、ほら、見せてみろ。……なんだ、大したことないな」
「大したことないってにゃんだよー!」
殴り飛ばされても元気なスピンキーがウェルスに噛み付くところへ牙をむくキマイラ。
アダムがその牙を受け止めた。
純白の鎧に火花が散るも、彼の意思を砕くには至らない。
(キマイラだって、好き好んでこの場にいるワケでもないだろうに)
隅に転る二人の獣人、飼いならされた幻想種、それを見て酒を煽るノウブル達。
これが、ヘルメリアという国の在り方なのか。
認められない。認めてはいけない。
「これが僕の変えるべき世界だ!」
気合と共に押しのけ、理想への思いを叫ぶアダムと入れ替わりエルシーが躍り出る。
ガチンと音を立てる顎を左に跳躍して避けたエルシーがもう一度至近距離に入り込み。
「こんな人間達の見世物にされるのはお前だってイヤなんじゃない? いま楽にしてあげるわ」
全力で拳を叩き込む。その衝撃が波状に広がって内部から破壊していく。
がくりと崩れ落ちる本体に変わり、蛇の尾がしなるように襲いかかる。
それを篭手で弾き、続くなぎ払いを後方への跳躍によって回避。追いすがるキマイラに横合いからボルカスが体当たりするように槍をぶつけ、穂先を突き立てた。
「おおおおおッ!」
渾身の踏み込みにより深く突き刺さる焚刑大槍。蛇がボルカスに牙を剥くが、ザルクの援護がそれを阻害する。
「させねえよ!」
続けざまに放たれる弾丸を受けつつも、肩へ食らいつく蛇に、ボルカスは顔を歪ませた。
「おら! バッシュすんぞおらぁ!」
「はぁああああ!」
ひたすらぼこすか殴り倒すスピンキー。たまらず口を離した蛇の尾へ、逆巻く風を纏わせたレイピアが突きこまれ。
二歩、三歩とよろめき、悲しげな咆哮をあげ、キマイラは横へ倒れ絶命した。
●祈り、解放
「よし、これで大丈夫だろ」
ウェルスが負傷者の治療を終え、それぞれが目的を果たすべく動き出す。
「……」
悲惨な運命に翻弄された兄弟に、黙祷を捧げるモカとアダム。エルシーも祈り、ほどほどに奴隷の解放へと急いだ。
もはや何も言わぬ躯を前に、己の無力を呪うアダムの肩を、同じく黙祷をしていたボルカスが叩く。
「アダム君」
「悔しいよ、とても……」
「……ああ、俺もだ」
「スピンキーさん、あとはよろしくお願いしますね……」
「あい」
スピンキーはそっとしゃがみ込み、口元の血を拭い、絶望に歪んだ目を塞ぐ。血で汚れるのも構わず、二人の亡骸を抱えようと持ち上げ。
「待て、俺も手伝おう」
そう言って、ランスロットが体格の大きい方を背負った。
「ランスロットにゃん、ありがとにゃ」
「ああ」
いくつもある扉を次々に開け放っていく。
「ここは……」
エルシーが踏み込んだのは闘奴用の武具置き場だった。
「……」
およそ用はないはずだが、エルシーは奥へと歩を進める。手入れもろくにされていない武具がかけられた棚をいくつか通り過ぎた頃、頭目掛けて振り回されるモーニングスターを屈んで回避し、左拳を襲撃者のみぞおちにめり込ませる。
「うぐぅうっ」
「ずいぶんなご挨拶ね。奴隷達はどこ? もっと痛い思いをしてからしゃべる?」
「ごほっ、いや、悪かった、頼む、許してくれ、出来心だったんだ」
無言で少しスタンスを広げ、右拳を僅かばかり引く。
「わわわわかった! わかったから! 牢は部屋を出て右に行った次の突き当りを左だ! ほら、これが鍵!」
「ありがと」
鍵を受け取り、お礼に右拳を頬にお見舞いし、エルシーは牢へと向かった。
「見つけた! こっちだ!」
小さな牢がいくつも連なった石造りの通路。そこには様々なケモノビトが、闘奴として鎖に繋がれていた。ウェルスは怒りに拳を硬く握りしめ、不安げにこちらを伺う澱んだ瞳に我を取り戻す。
「待ってろ、今助ける」
顔に巻きつけていた包帯を外し、自分も同じケモノビトであるということで安心させ、にっと笑う。
錠をどうしようか、ちらりと己の銃を見て、驚かさないようにしないとと考えていたところへエルシーがやってきた。
「ウェルスさん、これ」
そういって渡されたのはおそらく牢の鍵であろうものがついた鍵束。大きいのは扉のもので、小さいのは足かせのものだろう。
「どこでこれを?」
「親切な人と少しおしゃべりしたのよ」
「そうか、助かった」
牢を開け、枷を外す。ボルカス、モカ、アダムが到着し、他の場所には奴隷がいなかったことを報告した。
「もう大丈夫です。私がついています」
モカがしゃがみ込み、震えるネコの少女の頭を撫で、安心させようと笑みを向ける。
かろうじて笑みの様なものを作った少女の手をとって、立ち上がった。
己が彼らを拐った者と同じノウブルで、それゆえに無用な心労をかけまいと黙々と鍵を外していくボルカス。
彼の予想通り、近づくだけでがちゃがちゃと鎖を鳴らし、壁際でうずくまってしまう者もいた。そんな中、聞き慣れない言葉で「助けて」と小さくこぼしたタヌキの少年に、ボルカスは。
『ああ、安心しろ。もう大丈夫だ』
彼の言葉で返答する。ハッと顔を上げた少年に、強面な笑みをみせる。
「おっと」
自分の顔が威圧しがちだった事を思い出し、手で眉間に寄ったシワをほぐそうと難しい顔をするボルカスの服の裾を、少年はきゅっと掴んで弓なりに細めた目から涙を一つぶ落とした。
「僕らはフリーエンジンの協力者だ。君達を害することはない」
人間不信に陥り、強く警戒をするシカのケモノビトに対し、両手を開いて害意がないことを示す。信じたい、それでもと震える手を硬く握り、地面に目を落とす少年に、そっと手を差し伸べて。
「さぁ、逃げよう」
耳朶に優しく響く声に、少年は勇気を出して手を重ねた。
「怪我をしてたらこっちへ来てくれ、治療する」
傷つき脚を引きずる少年や、雑な手当で化膿した傷を抑える少女に出来る限りの治療を施していく。
「熊のおじさんはお医者さんなの?」
「ん? いや、そういうわけじゃないが……」
「違うの?」
「まぁ、今日はお医者さんだな」
打ち解けた少年と会話をしつつ、あらかた治療を終えたウェルスが皆を引き連れ外へ出る。
「終わったかしら?」
「ああ、ひとまずな」
「じゃあ、とりあえず、いまは私達についてきてもらえるかしら?」
外で見張りをしていたエルシーを先導に、一同は脱出を開始した。
●因果応報
「クソッ、なんでこんなことに……!」
キマイラの枷を外した張本人、この闘技場を経営していた支配人が腫れた頬を抑えながら証拠隠滅しようと書類を集め、フリントロックライターを手に取る。
「よお、焚き火でもすんのか?」
「ああ? ッガア!?」
支配人の手が撃ち抜かれ、ライターが弾かれる。続いて放たれた銃弾が膝と肘を砕き、へたりこんで失禁する支配人の眉間に銃口を突きつけ問いかける。
「書類はこれで全部か?」
「ぐぅッ……ああ……? 意味がわからねえ……ぎゃああっ!?」
「隠し金庫とか、そういうのねえのか」
銃弾をもう一発くれてやり、乱暴に書斎机を検め、二重底になっていないか確かめていく。
「ね、ねえよッ……お前らフリーエンジンが喜びそうなモンはそれで全部だよッ」
「そうか」
何やらザルク達の素性について勘違いしているようだが、それはそれで好都合だったため、そのままにして書類を手に部屋を後にする。
「ちくしょうッ! お前も! あの女も! 全員纏めてぶっ殺す! 覚悟しておけ!」
「ああ、楽しみにしておく」
呪詛を吐き散らす支配人の声を背に、奴隷解放へ向かった仲間の元へ急いだ。
●撤退
「何か見つかった?」
「ああ、どうやら、近々でっけぇ奴隷オークションが開かれるらしい」
開催告知の手紙をひらひらと振る。
「とりあえず、脱出するぞ」
「ああ」
一行が地下闘技場を抜け、レストランへと上がり、ウェルスが壁にデカデカと「フリーエンジン参上」と念写を終えた頃。
「追えッ! 逃がすなァ! ぶち殺せェ!!」
手下に抱えられた支配人が目を見開いてがなりたてる。これに背いては何をされるかわかったものではない護衛達が追いかけるところへ、ザルクが銃弾をばらまいて牽制、突出した男の膝を撃ち抜いて悶絶させた。
「そうなりたくなかったら大人しくしてなッ!」
行くも地獄、引くも地獄の護衛達は、追うことをやめ散り散りに解散した。
「おいッ! お前らァ! クソがぁああ!」
床に捨て置かれた支配人の声だけが、闇夜に響いていた。
●後日
少年たちの遺体は隠れ里で丁重に葬られ、解放した子供達も無事保護された。
こうしてヘルメリアの闇に一つ、メスが入ったのであった。
†シナリオ結果†
大成功
†詳細†
†あとがき†
熱狂の地下闘技場へご参加くださり、誠にありがとうございました。
早くみんなで笑って暮らせる世界になるよう、祈りを込めて。
MVPは支配人にツケを払わせたザルク・ミステルさんへ。
今回も素敵なプレイングをくださり感謝しています。
義憤に燃え、死を悼む皆様に心ゆさぶられながら書き上げました。
犠牲になった彼らもきっと、安らかに眠ることが出来るでしょう。
早くみんなで笑って暮らせる世界になるよう、祈りを込めて。
MVPは支配人にツケを払わせたザルク・ミステルさんへ。
今回も素敵なプレイングをくださり感謝しています。
義憤に燃え、死を悼む皆様に心ゆさぶられながら書き上げました。
犠牲になった彼らもきっと、安らかに眠ることが出来るでしょう。
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