MagiaSteam
起きるモノと守るモノ



●墓守
 ゆらゆら、手にしているランタンが揺れ、油も揺れる音が静かな夜に響いた。
(役目とはいえ、どうも気が進まない……今日はイヤな予感がする)
 身よりもなく、若かったあの時は職に付ければなんでも良いと思い、墓守を数十年しているが今日ほど嫌な日は無かった。
 見慣れた墓地、見慣れた夜の風景、だが何処かおかしい。
「ウゥゥ……」
 隣で歩いていた愛犬が牙をむき出しにして低く唸りだした。
 黒曜石の様な黒い瞳は真っ直ぐにナニかを捉え、その様子は不審者を見つけて戦闘態勢に入ったというよりも、怯えて今にもこの場から逃げ出したい様子であった。
(……っ!!)
 ボコッ、と地面が凹むと骨と皮だけになった腕が地面から生え、もう生前の面影は残ってない屍が土のニオイを撒き散らしながら出てきた。
 声帯はもう無いからだろうか、低い呻き声を洩らしながら目玉の無い頭をコチラに向けた。
「ガウッ! ガウッ!」
 愛犬がコチラに近寄らせまいと吠えるが、地面から次々と屍が出てくると墓守の男は経験と本能で『危険』だと感じると、愛犬の首根っこを掴んで踵を返し、急いで逃げ出した。
 しかし――狼の様な遠吠えが響くと、墓守の男は屍達に掴まれてしまった。
 ブンブンと、ランタンを振っても炎を恐れる事も知らない屍は、痩せていて肉も少ないその身に齧り付いた。

●還リビトと?
「皆さん、集まっていただき、ありがとうございます」
 九重・蒼玉(nCL3000015)がアナタ達を見まわすと、優しい笑みを向けながら一礼した。
「さて、変哲もない小さな町の墓場で死んだ人間がイブリース化し、人々を襲う……そんな未来が見えました。最初は墓守とその番犬が被害に合い、それから還リビトは町の人々を襲ってしまいます。場所は地図に記載しております」
 蒼玉は町への地図と、町全体図が描かれた用紙を渡す。
「それと、還リビトは悪魔化した黒く大きな犬がイブリース化をしたと思われますで、注意してください。それでは、よろしくお願いします」
 蒼玉はアナタ達を不安そうに見送った。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
魔物討伐
担当ST
紅玉
■成功条件
1.還リビトの討伐
2.ブラッドハウンドの討伐
3.墓守と番犬を守る
お久しぶりです。紅玉です。
戦闘シナリオとなりますが、お目にとまりましたらよろしくお願いします。


【場所】
墓地(夜)

【敵】
・還リビト(20体)
死んだ人間がイブリース化したもの。
齧る、引っ掻くなどの近接しかしません。

・ブラッドハウンド(1体)
死んだ人間をイブリース化した悪魔のイブリース。
大型犬の大きさをしており、炎を吐いたり、素早く動ける。

【一般人】
夜の墓場なので墓守と番犬しか居ません。
状態
完了
報酬マテリア
6個  2個  2個  2個
9モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
8日
参加人数
6/6
公開日
2019年04月24日

†メイン参加者 6人†



●墓
 全員がカンテラを片手に村から墓地へ続く道に足を踏み入れた。
「よーるは墓場でうんどーかーい!」
 ユキヒョウの美しい毛並みを持つケモノビト『勇者の悪霊退治』ジーニアス・レガーロ(CL3000319)は、陽気な声と共に足音を立てずに素早

く韋駄天足で駈け出した。
(救出を明確に依頼されていないのは、余裕で可能か見込みなしか……)
 赤茶色のツインテールを靡かせながら翡翠の様な緑の瞳を細め、同じく韋駄天足でコジマ・キスケ(CL3000206)がジーニアスの後を追いかけながら思う。

「……士気観点では、余裕をもって臨みたいものですが」
 暗視を使っているコジマは、周囲を確認しながらも短くも長くも無い村から墓場までの道を走っていると墓場の手前でカンテラの灯が揺れていた。

「君たちが還り人に襲われるって水鏡に映ったから避難勧告だよ! そだ、出来れば村のほうに逃げて、村のみんなにも退避するよう伝えてくれるとうれしいな!」
 と、ジーニアスが言うと、隣で主人に寄り添っている犬は暗闇に向かって唸り声を上げた。
 視線を向けると闇の中でうっすら見える墓場を囲む石垣と出入口だけだったが、コジマが土の中から出てくる還リビトを見つけた。
「それじゃぁそこの犬、墓守の守りよろしくね? にゃー!」
 墓守と犬を守るかの様に前に出るとジーニアスは、動物交流で簡易ながらも意思疎通を取ると人懐っこい笑みを向けた。
「わふっ」
 墓守の犬は小さく吠えると、主人のボロボロの衣服を咥えると村の方へ誘導させた。
 そして、仲間が追いつく頃には完全に地面から出てきた還リビト達は虚ろな瞳を村に向けながら、墓場の出入り口へと向かっていた。
「還リビト、だっけ。安らかに眠れないってのは考え物だね。眠らせたげる!」
 黒のツインテールを冷たい風に靡かせ、オニヒト特徴の角を額から2本生やし、和ロリを着たアキヅキ・カナメ(CL3000528)が出入口を塞ぐように立つ。

「生者の命を脅かすのも死者の安息を乱すのも、どちらも許せません!」
 と、言いながらユリカ・マイ(CL3000516)は、ラージシールドを手にして更に前へ出ると近くにあった木にカンテラをぶら下げた。
 手にしたままだと動きに制限が掛り、尚且つ敵を照らして見えやすくもなるからだ。
「こーんにーちわー! 生きてる? 噛まれてない? 俺ちゃんやだよ折角助けた人が還りビトになるの。まあアレにそんな能力はないのだけれども。よーしよしよしワンちゃんも生きてるう?」

 人の良さそうな表情に陽気な口調で『黒闇』ゼクス・アゾール(CL3000469)は、墓守とその犬を見て声を掛けた。
「大丈夫です。どうか皆さんに、御加護を……」
 ぼそぼそと小さな声で返答すると、最後に墓守は軽く会釈して村の方へ犬に引きずられながらも向かった。
「間に合った様ですね」
 緋色の髪を揺らしながら『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)は、古き紅竜の籠手をしっかりと装着しているか確認すると還リビト達に向かって駈け出した。

●還リビト
 ラピッドジーンを使い、ジーニアスの体は遺伝子レベルで己を改変して加速出来る様にした。
「とにかく町に向かわれたらオシマイだと思って頑張ろう!」
 今回が初めての仕事であるカナメは、還リビトに近付き力強く足を踏み込みながら左上半身に力を集中し鉄山靠を当てる。
 元から腐敗が進んでいたのだろうか、それとも元から弱いイブリースだったのだろう。
 当たった上半身は跡形も無く粉砕され、残った部分はドサッと音を立てながら地面に倒れた。
「可能なら、土葬やめれば還リビト減るんじゃないかとか思うんですけど。体自体がなくなっていれば、起き上がれませんよね? 何故やらないのか」

 そんな些細な疑問を頭の隅で考えながらもコジマは、後退するとノートルダムの息吹をその場にいる仲間の肉体が自動修復させた。
「さて皆さん。不本意に眠りを妨げられた方々に、安眠をお届けしましょう」
 マキナギアで見える範囲の還リビトの位置を伝えながら、コジマは元凶であるブラッドハウンドの姿を探す。
(危険なしとはいきませんが、戦争よりは望ましい仕事……悪かないです)
 人ならずモノが相手、人と人が血を血で塗り合う様な事より遥かにマシだと思いながら仲間の背を頼もしく見詰めた。
「絶対に村の方へは行かせません!」
 じりじりと近付く還リビトにユリカは、ラージシールドを構えるとシールドバッシュで墓場の奥へと押し返した。
「まーだ夜なんだぜえ。ほら、お寝んねしてろよ。地の底で」
 リュンケウスの瞳で闇に紛れている還リビトを見据えると、あらかじめホークアイで強化していたゼクスは、蓬莱山霧幻香で体内で魔力と混ぜ合せたモノを煙管から紫煙が吐き出された。
 それは、還リビトの腐敗した体に纏わり、元から鈍いからだを重りが付いた足枷を手足に付けるかの様に動きを絡め取る。
「真っ当な神職ならやさしく浄化させてあげるのだろうけど……ごめんなさいね、私はそんなにやさしくないの」
 見習いであっても神職、エルシーは龍氣螺合で一時的にリミッターを解除すると咆哮する龍を纏った様な拳で還リビトを殴り飛ばした。
「これで、遠慮なく戦えるよね!」
 ジーニアスは姿勢を低くして、獲物を狙う猛獣よりも遥かに早く、ヒートアクセルで目にも止まらぬ速さで還リビトを次々と倒す。
「凄いっ! これが……本当の戦い!」
 血の様に赤い瞳を輝かせながらカナメは、仲間が戦う姿を見詰めると鉄山靠で還リビトを吹きとばす。
 初めての依頼、初めての戦場、緊張と不安はあったものの仲間の励ましの言葉を受けて、カナメは仲間の戦いを見て刺激された様子で一緒に戦う。
「安心して、怪我をしたら直ぐに癒します」
 コジマは、メセグリンでカナメの傷を癒しながら優しく、力強く勇気づけるかのように言った。
「ありがとう! 勿論、初めての依頼だから頑張るよ!」
 カナメがぐっと拳を握り締めると、笑顔で返事をしながら還リビト達の元へ駈け出した。
(大丈夫。カナメさんなら出来るよ……)
 これから精神的に成長していくであろうその大きな背を見詰めながらコジマは、口元を緩めた。
「ちょーっと壊すけれど、後で直すの手伝うから許してにゃん。死ぬよりマシでしょお?」
 主に墓が壊れる事を墓守に伝えると、ゼクスがロングボウを手にして矢を番えるとアローファンタズマにより矢に幻惑の魔法がまとわり、姿

を完全に隠されると放った。
 目視出来ない矢は、還リビトは何も出来ずにただ見えぬ矢で首を貫き、ぽろりとソレは地面に転がった。
(守らなければ――)
 ゼクスのスキルを受けてもなお動ける還リビトを押し退け、今回が初めての仕事であるカナメを中心にパリィングで守り続けている。
 動きが制限されているとはいえ、近くに複数体の還リビトが迫れば無傷では居られないだろう。
 コジマからの回復支援があってこそ、ユリカはまだ仲間を守る盾として立っていられるのだ。
 それに、仲間をサポートすべく『パーペチュアル・チェッカー』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)が後方から支援をしてくれていた。
「数は多いけど、まぁ、動きを止めてしまえばぁ。カンタンだよお」
 動きを取り戻しつつあるのを見てゼクスは、魔導のダンス『大渦海域のタンゴ』を踊りながら見えない大渦を生み出した。

 ソレは再び還リビトの動きを止めた瞬間――

「その体は苦しいでしょう? その甦り方は、不本意でしょう」
 だから――、と言葉を途中で止めるとエルシーは太陽と海のワルツに合わせて殺戮円舞曲のリズムに合わせて、古き紅竜の籠手を嵌めた拳を振るった。
「おいらだって! 約束したからね!」
 くるり、と身軽な体で還リビトの眼前に着地すると、スキルのヒートアクセルの素早い動きで葬った。
 墓場の奥から、ゴウッと吐きだされた炎をユリカはラージシールドで防いだ。
 低く唸り声を響かせ、残っている還リビト達は言葉を発せれないが、ソレに近い何かを叫んだ。

●血犬
 その場にいる仲間の数名は素早く対処すべく動き出し、やっと半分に減った還リビトはカナメ達が対処しに駈け出す。
「コイツが元凶ね。キツイお仕置きをしてあげるわ」
 エルシーは素早く距離を詰めると、還リビトに向けて緋色の衝撃を放つと体を貫き後ろに居たブラッドハウンドまで届いた。
 ロングボウでアローファンタズマの影無き矢がブラッドハウンドに刺さると、ゼクスは仲間に向かって緊張感のない軽口で言った。
「後は任せたよお~」
 緊張感のない中でゼクスは、ロングボウで還リビトを仕留めていた。

「早く倒さないとだめだね!」
 デュアルストライクの二連の剣閃でジーニアスは、還リビトを次々と倒しながらブラッドハウンドの方に視線を向けた。
(そういえば、イブリース化したってことはこの犬も浄化可能なんだよね?)
 もし、そうであれば元に戻して話が聞けるかもしれない、と思いながら狭い墓場を駆け抜ける。
「おらーっ!」
 流石にMPが尽きたカナメは、鉄山靠ではなく震撃に変えて還リビトを倒す。
「俺ちゃんも手伝うから、ねぇっ?」
 ゼクスは、ロングボウに矢を番えて還リビトに矢尻を向けて定めると、矢を放ち見事に還リビトの額を撃ち抜いた。
「早く! ブラッドハウンドを相手にしようよ!」
 墓地内をぐるりと見回しても、還リビトの姿も気配も無くなったのを確認するや否やジーニアスが声を上げた。
「あたしに太刀打ち出来るかは妖しいけど、横からドーンと攻撃すれば可能性はあるよね!」
「勿論よお。いざとなれば、回復してくれているつよーいサポートもあるワケだしね」
 カナメの言葉にゼクスは、うんうんと頷きながらコジマとウェルスを視線で示した。
「じゃ、おいらは先に行くよ!」
 と、行ってジーニアスは、素早い身のこなしで駈け出した。

「やはり……っ!」
「こちらは余裕があるから大丈夫です」
 傷付き低く呻くユリカにコジマは、メセグリンで傷を癒しながら力強く答えた。
「っ! はっ! 吐かせるものですか!」
 エメラルドの様な瞳を鋭くさせ、ブラッドハウンドを睨みつけるとエルシーは疾風刃・改で目にも止まらぬ速さで距離を詰め、疾風の如く攻

撃を当てた。
 ブラッドハウンドは大型犬程の大きさであるにも関わらず、攻撃の衝撃により少し体を浮かせたまま墓地内に生えていた木にぶつけられた。
 その隙にカナメが駈け出すと、傷口に口を当てて吸血する。
「今ならば!」
 ユリカはブラッドハウンドの元に駆け寄り、ラージシールドを大きな口に突っ込んだ瞬間――口から吐かれようとした炎は、口の端から吹き出し木を燃やす。
「悪いですが……死者をよみがえらせる悪魔のイブリースは、倒します」
「まって、イブリース化した犬だったらっ!」
 エルシーとブラッドハウンドの間にジーニアスが割り込み、庇う様に両手を広げて首を振った。
「違います。ジーニアスさん、このブラッドハウンドは悪い幻想種です。だから、このまま倒すしか道はありません」
 コジマはジーニアスの肩に手を置くと、残念そうに首を横に振りエルシーの方に視線を向けた。
 疾風刃・改が放たれ、ブラッドハウンドが墓地で静かに死を迎えると体は炎に包まれると、跡形もなく消えた。

 それから、墓地にあった墓を壊してしまったのでせめて、という言葉に墓守も村の長も「好きにしなさい」と言った。
「せっかくだし、蒸気あふれる墓場に作り直すとかどうかな? なんかこうブシューって感じで墓石が開く感じで! だめ?」
 と、ジーニアスが案を出す。
「いやー、それはちょっとダメじゃない?」
 一蓮托生、仲間が壊した墓場を元通りに戻しながらゼクスは、蒸気あふれる墓場を想像して笑い声を上げた。
「この様な小さな墓場では規模が大きいよ!」
 カナメは設計図を見て破りそうになりながら声を上げる。
「生者にも死者にも、再び平穏と静かな安らぎを――」
 修復完了した墓石に向かってユリカは、静かに祈りの言葉を紡いだ。
(できれば夜が明けてからにしたいなー)
 と、思いつつコジマも、戦闘で暴れて壊れた塀を修繕した。
 ジーニアスの蒸気あふれる墓場にはせずに、墓守が覚えている通りに修復をして名前も刻み終えた。
「どうか安らかに眠ってください」
 神職であるエルシーは、還リビトととして甦ってしまったモノも長年この村を支えてきた先人に対しても、等しく安息を願った。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『捲土重来』
取得者: ゼクス・アゾール(CL3000469)

†あとがき†

お久しぶりです。
この度は、私紅玉のシナリオに参加していただき有難うございました。
そして、遅れてしまった事に謝罪を。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
本当にありがとうございました。
FL送付済