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モノアイの指輪と狂信者たち




「いよいよ我々はシャンバラへ本格的に侵攻する事になる。とはいっても我が国とシャンバラの戦力の差は依然大きい。だが、だからといって手をこまねいているわけにはいくまい。戦力の差を埋めるためにも、まずは各自個別撃破を行い、シャンバラ戦力を削って行く事が必要になるのだ」
『軍事顧問』フレデリック・ミハイロフ(nCL3000005)は集った自由騎士へそう説明する。
「今回はシャンバラ教皇庁直轄の殉教者部隊のひとつをターゲットとする。この部隊は魔導を主とする部隊とは違い、直接戦闘を得意としている。その点はこれまで相手にしてきた魔女狩りなどとは少し毛色が違う点だな。そしてこの部隊は今、精霊門を取り戻すべく、聖霊門へ向かい侵攻している途中だ。これを待ち伏せし、一気に叩くのだ」


 聖霊門より少し離れた街道。
「我が神ミトラースに仇なす者を殲滅せよ!!」
「我が神ミトラースに仇なす者を殲滅せよ!!」
「我が神ミトラースに仇なす者を殲滅せよ!!」
 口々にミトラースを称える言葉を発しながら進軍する殉教者部隊。
 その異様とも思える信仰の進軍は、狂信という言葉を使うに十分な迫力を備えていた。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
対人戦闘
担当ST
麺二郎
■成功条件
1.殉教者部隊の全滅もしくは撤退
麺二郎です。麺が美味しく感じられます。身体の復調もいよいよといった感じです。
2019年初呪文までもそろそろ近そうです。

さぁ攻勢を仕掛けてまいりましょう。
精霊門を通って、いざシャンバラへ。シャンバラ教皇庁が精霊門を取り戻すべく送り出した狂信者部隊を強襲して戦力を削ぎ、シャンバラの軍事力の弱体化を図ります。純粋な戦闘能力による純戦依頼となります。


●ロケーション

 シャンバラ側聖霊門より少し離れた街道。戦闘におけるデメリットは一切ありません。
 移動中の殉教者部隊を待ち構えて強襲します。此方から仕掛けるため事前付与はいくらでも可能です。
 聖霊門に向け進軍しているこの部隊を全滅もしくは撤退させるのが目的となります。
 会話による説得は効果はありませんが、圧倒的な実力差を見せ付け、例え命を擲っても勝てないと認識させれば部隊は撤退します。


●敵

 殉教者部隊

・殉教者 x25
 重厚な鎧を身に包んだ20人の重戦士系スタイルと5人のヒーラースタイルからなる近接戦闘部隊です。皆同じ指輪をつけています。
 重戦士スキルを幅広く使用します。シャンバラにしては珍しく肉弾戦を得意とする部隊です。
 部隊長1人とその側近2人は他の者より戦闘能力が高くなっています。
 他のシャンバラ国民と同じく、思考停止したようにミトラースに対する信仰のみを言葉として発し、それ以外の話は全く通じません。神敵を倒すためであれば自らの命も喜んで差し出す者達です。死ぬまで改心する事はありません。


皆様のご参加お待ちしております。
状態
完了
報酬マテリア
2個  6個  2個  2個
9モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
参加人数
6/6
公開日
2019年02月06日

†メイン参加者 6人†




 精霊門へと続く森の中の一本道。そこでひっそりと息を殺し、迫り来る殉教者部隊を待つ者たちが居た。
「にしても……やっぱり人の話をあまり聞く気が無い人たちみたいね……」
『ヘヴィガンナー』ヒルダ・アークライト(CL3000279)は深いため息をつく。
「……そうみたいね」
『慈悲の刃、葬送の剣』アリア・セレスティ(CL3000222)も気持ちは同じだ。相変わらずのその狂信っぷりに呆れつつも、テレパスで他の仲間と意識をあわせる。
「まぁ……だったら、あたしもそれ相応の対応でいかせてもら──むぐっ!?」
「しーっ! ヒルダちゃん声が大きい! と、言うわけで付き合うよ」
 拳を握り、高らかと全力宣言しようとしたヒルダの口に手をあて、アリアがめっという表情をする。なんやかんや言ってもアリアはヒルダが心配なのだ。だがヒルダにはこんなやり取りもご褒美……なんて事はさておき、2人は敵部隊が所定の位置へ到達するのを持っていた。
 そこから少し離れた後方。
「にしても、シャンバラにも重戦士と回復役だけで組む隊があったりするのね」
『ピースメーカー』アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)の言葉は尤もだ。
 その国策などから魔導に頼るイメージが強いシャンバラ。重厚な鎧に身を包み剣と盾で戦うイメージを持つものはまずいないだろう。故にこのような部隊がいる事を現時点で確認できた事は大きな収穫だ。
『来るのはわかってるのですもの。森の道へ入ってから挟み込んで狙い撃ちしましょう──』
 事前の作戦を練っている際に出たアンネリーザのこの一言。これが本作戦において大きなアドバンテージを得る事になる。
「殉教者部隊……か」
『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)にはどうしても彼らの心境が理解しきれない。こういった人間形成はシャンバラの教育によるものなのかしら──だとしたら国自体が大きく歪んでいるとしか思えない。
「……狂ってるわね」
 エルシーの拳には自然と力が篭る。言葉では伝わらない思いも全て、彼女はその拳に込めている。
 
 それぞれがそれぞれの思いを抱きながら、戦いの時までの僅かな静寂は過ぎていくのだった。


『いいわ、あと300m……このまま進軍して来てちょうだい』
 後方に身を置くアンネリーザは、その良く通る目で殉教者部隊を誰よりも早く捉えていた。
「我が神ミトラース様に仇なす者を殲滅せよ!!」
「至高の存在ミトラース様!!」
「背信者を贄として捧げよ!!」
 進軍してくる集団と共に自由騎士達の元へ聞こえてきたのは、殉教者部隊のミトラースを称える歪んだ言葉達。
「すごい熱量だね……なるほど。これも一つの信仰の形、というやつか」
『湖岸のウィルオウィスプ』ウダ・グラ(CL3000379)は顎に手をやり、ふむといった仕草を見せた。だがすぐにその口元が僅かに歪む。
「……嫌い、だな。ミトラースは、これを是としているのか」
 ウダはその耳障りな言葉達を遮るかのようにミトラースへの非を呟いた。
『近づいてきてる。そろそろ準備を始めたほうがいいかも』
 アンネリーザからの報告を受け取ったアリアが皆にテレパスで状況を伝える。準備に時間を要する『思いの先に』ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)が先ずは動き出す。ジュリエットが感じ取った森羅万象の息吹はその身体を優しく包み込み、ジュリエットの魔導力を飛躍的に引き上げていく。
 すでに集中していたヒルダも、己が知覚力を総動員し、両手に構えた二挺一対の蒸気式散弾銃にさらなる命(威力)を与えていく。
『次の合図で一斉にいくよ』
 アリアのテレパスが皆に届く。開戦前の僅かな時間。ヒルダは集中し初手の攻撃力を上げるべく充填し始め、エルシーもまた呼吸を整え精神を集中していく。そしてアリアがラピットジーンで己が速度を加速させた時、自由騎士達による殉教者部隊への奇襲は開始された。
 アリアの初動は待機。極限まで加速したその身で何ゆえ待機するのか。その答えはすぐにわかる事になる。
 突然、殉教者部隊全体を水晶の刃が襲う。『玻璃の城(クリスタルキャッスル)』──高い威力を誇るが、発動までに時間を要する、ジュリエットの必殺スキルである。普段はその要する時間による制限も大きいため使いどころが難しくもあるが、待ち伏せ作戦の初動においてはこれほど頼もしい攻撃も無いだろう。殉教者部隊の進軍にあわせてあらかじめ集中していたジュリエット。ノーモーションから放つ極大スキルであった。
「ぐあぁっ!!!」
「敵襲っ!! 敵襲っ!!」
「すぐに防御陣形を取れっ!!」
 突然の攻撃に一瞬戸惑うも、盾を構えすぐに守りを固め始めた殉教者部隊。だが強襲の第一波はそれだけにとどまらない。
「くらいなさいっ!! F.G.S.(ふるおーとぐれねーどしょっとがん)!!」
 ヒルダが放つ弾丸は無限とも思えるほどに絶え間なく撃ち放たれ、殉教者部隊に容赦なく降り注ぐ。
「ぐはっ!?」
「きゃぁぁああっ!!!」
 その攻撃は部隊中央で盾を持たないヒーラーと、ジュリエットの放った水晶の刃により防御体勢を維持出来なかった重戦士の数名に深いダメージを与える事に成功していた。
 そしてその降り注ぐ弾丸をかいくぐり、敵部隊へ接近する者がいた──アリアだ。ジュリエットとヒルダによる開幕早々の極大攻撃により体勢を崩し、深いダメージを受けた者。その途切れかけた意識をアリアの刃が音も無く奪う。この2人のコンビネーションに言葉は要らない。
「ぐわぁぁ!!」
「ぎゃぁああぁああ!!」
 突如部隊後方から突如上がる叫び声。
 前方からの強襲にあわせ、森から飛び出したエルシー。繰り出される拳の衝撃は重戦士の厚い装甲をも貫く。流れるような所作から繰り出されるその打撃姿勢は、日々の稽古の中で行う型と寸分の違いも無い。それは実践においてその実力を遺憾なく発揮している証しであろう。
 一方その姿を見せないまま意識を集中し、森陰から敵兵士を狙い打つアンネリーザ。
 如何に分厚い鎧と盾で全身を守られた重戦士と言えども、自在に動くためには駆動部位が不可欠である。アンネリーザの見通す瞳は、その装甲の薄い部分をはっきりと認識し、そして的確に撃ち抜く。
 突如現れた拳闘士の真っ直ぐな拳と森の中から突如放たれる正確無比な狙撃。気づけば部隊後方の陣形に僅かな乱れが生じていた。
「……少し、熱くなりすぎているんじゃないかい?」
 その声に反応した兵士が周囲を見渡す。そして彼は見つけてしまった。その目線の先にあるもの……それは森の暗がりに立つパーヴァリの姿。
「ヨウセイめ!!!」
 それはウダが幻想で作り出した偶像(フェイクイメージ)。だがその効果は絶大だった。
「ヨウセイの分際で……我らに楯突く愚か者め!!」
「待て!! 持ち場を離れるなっ!!」
 仲間の制止を振り切り、陣形を離れ1人パーヴァリに襲い掛かる兵士。その剣の切っ先は確かにパーヴァリの身体を貫いた……はずだった。
「やった! ……何ぃ!? 消えた?!」
「……おや。どうやら少し熱があるようだね」
 動揺する兵士の耳元で声がした。いつの間にか兵士の背後をとったウダが耳元で囁く『熱さましのおまじない』は、兵士の身体だけでなく心までも凍結させた。 
 後方からも襲撃を受けた事で部隊はより凝縮された防御隊形となる。
「おーーーーっほっほっほっほ!!!! 貴方方がここへやって来ることは、わたくしにはまるっとお見通しでしてよ!! どれだけ多勢であろうとも、わたくし達から見れば烏合の衆も同然。貴方方を追い返すことなど容易いですわー!!!」
 そこへジュリエットが華やかなオーラに身を包みながら颯爽と登場する。その美貌も相成ってまるでジュリエット本人が光り輝いているように見えた。だが……ミトラースへの強い忠心を持つシャンバラの兵士にはそのオーラに魅了される者は無い。
「なんと無礼なっ!!」
「ミトラース様に仇なす売女風情が何を言うか!!」
「答えろ!! 貴様達は何者だ!!」
「答える義理はありませんわ。ここまでやって来たのが運の尽き。その戦意、ポキッとへし折って差し上げますわ!!」
 すると部隊長がおもむろにその指に嵌められた指輪に視線を向ける。
「……やはりな。お前達シャンバラの者ではないな。この者達はシャンバラの民にあらず。断罪すべき神敵である!!」
 この言葉に誰よりも反応したのはエルシーだった。何故それがわかった? エルシーは心の中で自分に問いかける。オラクル同士は確かにオタガイガオラクルか判別できるが、どこ所属のオラクルかまではわからない。唯一敵の目に触れる位置にイ・ラプセルの紋章があったエルシーはその拳を包帯で巻き、敵の目に入らないようにしていた。状況だけで判断すればシャンバラの民かどうかはわかるはずも無い。だが敵隊長は私たちをシャンバラの民では無いと言い切った、何故? エルシーは隊長のとった行動を思い出していく。──あの指輪!
 この時、ジュリエットとヒルダの開始早々の極大攻撃により敵部隊のヒーラーは自身の回復に行動を費やす事になっていた。
「背徳者どもの攻撃に臆する事無かれっ!! 護衛班はヒーラーを死守。ダメージの浅い者は前へうって出よ!!」
「「「「ミトラース様の為に!!!」」」」
 部隊を率いる隊長の指示により、崩れかけた陣形は確固な守りの陣形へと修繕されていく。敵もまた精鋭。
「まだまだ終わらないわよっ!!」
 前方最前線にはガンナーのヒルダ。そのスタイルなら本来後方から狙い打つのがセオリーにも思えるのだが。敢えてヒルダは敵陣の真正面に自ら躍り出る。その派手な立ち回りは自ずと敵の視線を集める事に成功していた。
 しかし何故ヒルダは真正面から戦うのか。性に合うというのもあるだろう。だがそれに加えて仲間への絶対的な信頼と配慮があるからこそなせる事であろう。そんなヒルダの行動をアリアは嬉しくも思い、そして心配もしてしまうのだ。
 ヒルダとアリア、お互いがお互いを理解し、補填しあう事で得た連携力は部隊に大きな脅威となっていた。
 その後も極至近距離からのヒルダの銃撃の雨は降り注ぎ続ける。そしてその雨を掻い潜り、1人ずつ確実に仕留めていくのはアリア。
「くそっ!! 誰かあいつらを止められないのかっ!!」
 ヒルダとアリアの連携に
「無理ですっ!! 防御陣形ではあのスピードには対応できませんっ。それに……」
 兵士が目線を向けたのはアリアとヒルダ……ではなく、その後ろ。ジュリエットの存在だ。
「おーーーほほほほほ!! わたくしが回復し続ける限り、野暮な攻撃など無意味ですわー!!」
 ジュリエットが高らかに笑う。仮にヒルダとアリアに多少の攻撃を与える事が出来たとしても、特出した魔導力を誇るジュリエットの回復が控えている。
 仮に殉教者部隊が防御をかなぐり捨て攻撃特攻したとしても、落とす事は容易では無いだろう。
「私たちも忘れてもらっちゃ困るわよっ!!!」
 後方でエルシーが叫ぶ。初動の攻撃後柳凪で攻撃耐性を得たエルシーは、その力を攻撃に集中させ防御陣形の部隊へ果敢に挑んでいた。エルシーの拳は熱く滾る大きな衝撃となり、部隊の堅固な守りをこじ開けていく。
 そしてこじ開けられたその僅かな隙間を狙うアンネリーザが的確な射撃で兵士達の動きを奪っていく。ここまでひたすらに耐え、ヒーラーの回復を優先してた殉教者部隊。自由騎士達の圧倒的優位で決着するかと思われたのだが。
「ヒーラー班回復終えましたっ!!」
 この報告が状況を変える。部隊長が力を振り絞り声を上げる。
「これより攻撃陣形を取るっ!! 各々1人1殺と心得よ!! 刺し違えてでも神敵を生きて返すな!!」
「「「「オオオオオオォォォォォォーーーーー!!!!!」」」」
「「「「「すべてはミトラース様のためにっ!!」」」」」
 殉教者部隊の雰囲気が変わる。守る陣形から攻める陣形へ。退路を断ったその行動は部隊が覚悟を決めたことを意味していた。
 ここからの殉教者部隊の戦い方は壮絶だった。
 盾を捨て渾身の力で振り下ろされる剣。受けた攻撃によるダメージはそのままに、すべてを捨てて振り下ろされるその攻撃は鬼気迫っていた。
 後方森の中より狙撃を続けていたアンネリーザ。だがその攻撃角度から場所を特定され、一気に攻め込まれる。
「危ないわねっ!!」
 近づかれ切りかかられたアンネリーザはその羽根を大きく羽ばたかせ空中へと逃れた。ここでアンネリーザは自身の誰にも覆しようも無い優位性に気づく。敵部隊は重戦士とヒーラーのみ。空を羽ばたくアンネリーザに攻撃手段を持ち合わせていなかったのだ。
「……隠れる必要も無かったみたいね」
 アンネリーザの眼鏡がきらりと光る。
「キサマ!! 降りてきて戦え!!! この卑怯者めっ!!」
 卑怯者で結構──地上で怒号を飛ばす兵士に冷たい視線を送ったアンネリーザ。その指は既に引き金にかかっていた。
 一方ヒルダ。高威力だが消費の激しい攻撃を続けていたヒルダの魔力が尽きる。
「これであの連携は出来まいっ!! お前達もこれで終わりだっ!!」
 ヒルダの銃弾の嵐を防御しきった兵士達が攻勢に出ようとした瞬間、一陣の風が吹き抜けた。
「──私達の型は1つじゃないんですよ?」
 それは速度強化から攻撃強化にスイッチしたアリア。手に持った長剣と蛇腹剣で遠近問わず兵士に攻撃を行っていく。その攻撃にあわせるように通常射撃を追加ダメージを与えるヒルダ。
「ぐわぁぁっ!!」
「なんなんだこいつら……どちらも戦いの主軸になれるのかぁぁぁぁぁぁっっ!!」
 もとより前方に隙など存在していなかったのだ。 
 この後も戦いは続いていたが、奇襲のアドバンテージもあり、徐々に倒れていく部隊の兵士達。
「むぬぬぬ……!! このまま全滅するわけには行かぬ。命を捨ててもまずは敵ヒーラーを抹殺せよ」
 部隊長の放った冷徹な命令は兵士に防御を捨てさせた。
 最前列に居た兵士5人が一斉にジュリエットに向かって突進する。無論ヒルダとアリアが黙って通す訳も無い。ヒルダの弾幕は兵士を打ち抜き、アリアもまたその疾風が如き剣で兵士の意識を奪った。だがそれでも全てを止めるには至らない。
「ジュリエット危ないっ!!」
 ヒルダの弾幕とアリアの剣撃を掻い潜った兵士が1人、その剣をジュリエットに振り下ろす──
「ジュリエット!!!!」
 アリアが叫ぶ。──が、倒れたのは兵士。
 兵士が剣を振り下ろしたその瞬間。ジュリエットが兵士に向けたのは恐怖で慄く顔ではない。それはまるで……最初から待ち構えていたような確信の笑みだった。超至近距離から放たれたディスペルアローは兵士を貫通するが如く深いダメージを与え、一瞬でその意識を奪い去ったのだ。
「おーーーーーほほほほほ!! わたくしを回復だけのヒーラーと思ったのでしたら大きな間違いですわっ!!!」
 部隊長は大きな判断ミスを犯していた。それはジュリエット自身のポテンシャル。初動の水晶の刃を放ったのがヒーラーのジュリエットであったなどとは考えもしなかったのであろう。近づいてしまえばヒーラなど容易く落とせる。そう踏んだ部隊長の考えはその攻撃力においても自由騎士筆頭と肩を並べるジュリエットには通用しなかったのだ。
 ヒーラーを落とせない。この事実は部隊にとって大きな衝撃を与える。
 そして殉教者部隊は、何の有効な作戦を立てる事もできないまま、戦い続ける事になる。


「こちらの治療手は健在。対して君たちはどうだろうか」
 戦いの決着は殉教者部隊のヒーラーがすべて倒れた事で訪れていた。ウダが満身創痍で剣を握り、未だ立ち上がる残った兵士へ語りかける。
 前方の圧倒的な不利に思わず後方へ下がった部隊長は、後方で拳を振るうエルシーによって既にその意識を奪われていた。
「君たちには、援軍はないんだろう? このまま無駄死にする事を君たちの神は望むのかな」
 シャンバラの兵にとってミトラースの存在はその全て。だが部隊としての全権は部隊長にある。だがその部隊長は既に倒れ、命令を出すものはいない。仮にこのまま戦ったとしても、刺し違える事さえかなわぬ状況。
 残る兵士に自由騎士達に抗うだけの力は残っていなかった。
 傷だらけの兵士達が次々と膝を折る。戦いは決したのだ。兵士達を捕らえ、束縛した自由騎士たち。
(なにをどう思って、この吶喊につながったのかは分からないが……)
 ウダは違和感を感じていた。確かに相応の戦力である事は確かだが、この部隊のあまりにも偏った編成。攻めるというよりはまるで防衛戦への派兵ではないのか──。
 するとウダが一つの結論にたどり着く。
「……時間稼ぎ、か」
 ユダが意識を取り戻した部隊長に問いかける。僅かに反応したが押し黙る部隊長。
 そもそも『本当に』精霊門を取り戻そうとしたとは到底思えない。だとすればこの時間稼ぎをすることでシャンバラ側に何の得がある。我らをこの地に留めることでどのような得が。
「精霊門に進軍することで我々を集め……更に追撃を警戒させこの地に留める……アルス・マグナ、か」
 ウダが口にしたのはシャンバラの神造兵器。山脈をも一瞬で吹き飛ばしたあのデウスギアだ。
 シャンバラは精霊門ともども我々を一網打尽にする気ではないのか──。
 フードの下。ウダの額に汗が滴る。

 例えようの無い不気味な雰囲気を醸し出すシャンバラとの戦いは、続く。


†シナリオ結果†

成功

†詳細†


†あとがき†

精霊門は無事守られました。ですがシャンバラの狙いは別だったようです。

MVPは此度の精霊門への進軍に違和感を感じた貴方へ。

ご参加ありがとうございました。
ご感想などいただければ小躍りして喜びます。
FL送付済