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夜明けの盾

とある日の事だった。町の往来に騎士団が姿を見せたかと思うと、その中央にヴラディオスの姿がある。人々がどよめく中、吸血鬼として世間を騒がせた男は息を吸う。
「白昼よりこのような仰々しい形になって申し訳ありません! まずはイ・ラプセルの住人に迷惑をかけた事を謝罪させていただきたい! 誠に申し訳ございませんでした!!」
何の騒ぎだと目を白黒させる人々の前で綺麗に頭を下げたかと思えば、今度は刃物の如き眼光で周りを睨みつける。
「だが、言葉だけで割り切れない者もいるだろう! 私を殴りたければ殴るがいい、斬りたければ斬るがいい! 私は逃げも隠れもしない!!」
「はいどーぞー」
「こちらお願いしまーす」
ヴラディオス本人が吠える傍ら、騎士団員たちはヴラディオスと自由騎士による、公開模擬戦のお知らせを配り始めた。始まりは彼の、防衛に特化した特殊な戦い方を見出した騎士団長の提案にさかのぼる。
彼が騎士団と関係を結んだ今でなお、彼に対してわだかまりを抱く者は少なくない。そこで、有志を募り、彼を叩きのめして今までの関係を清算しつつ、彼の戦い方を自由騎士の間に広めようというのが今回の試みである。
「自由騎士共! 貴様らの挑戦を待っている! だが、覚悟のない刃程度で我が盾が揺らぐと思うな!!」
ハッキリ言って、騒音公害になりそうな大音声を響かせて、ヴラディオスは騎士団と共に来た道を引き返す。
「ヴラ様」
「なんだ?」
控えていたアイリス・エルモンド(nCL3000045)曰く。
「口調が不安定です。途中から敬語が外れていました」
「ぐ……」
「それと、煽り文句がただの挑発です。あれではまた自由騎士の皆さんから嫌われますよ?」
「ぬ……」
「そして何より、ただひたすらに煩いです」
「む……」
分かりやすく肩を落としていくヴラディオスの姿が、ちょっぴり可哀想に見えてきた騎士団なのだった。
「白昼よりこのような仰々しい形になって申し訳ありません! まずはイ・ラプセルの住人に迷惑をかけた事を謝罪させていただきたい! 誠に申し訳ございませんでした!!」
何の騒ぎだと目を白黒させる人々の前で綺麗に頭を下げたかと思えば、今度は刃物の如き眼光で周りを睨みつける。
「だが、言葉だけで割り切れない者もいるだろう! 私を殴りたければ殴るがいい、斬りたければ斬るがいい! 私は逃げも隠れもしない!!」
「はいどーぞー」
「こちらお願いしまーす」
ヴラディオス本人が吠える傍ら、騎士団員たちはヴラディオスと自由騎士による、公開模擬戦のお知らせを配り始めた。始まりは彼の、防衛に特化した特殊な戦い方を見出した騎士団長の提案にさかのぼる。
彼が騎士団と関係を結んだ今でなお、彼に対してわだかまりを抱く者は少なくない。そこで、有志を募り、彼を叩きのめして今までの関係を清算しつつ、彼の戦い方を自由騎士の間に広めようというのが今回の試みである。
「自由騎士共! 貴様らの挑戦を待っている! だが、覚悟のない刃程度で我が盾が揺らぐと思うな!!」
ハッキリ言って、騒音公害になりそうな大音声を響かせて、ヴラディオスは騎士団と共に来た道を引き返す。
「ヴラ様」
「なんだ?」
控えていたアイリス・エルモンド(nCL3000045)曰く。
「口調が不安定です。途中から敬語が外れていました」
「ぐ……」
「それと、煽り文句がただの挑発です。あれではまた自由騎士の皆さんから嫌われますよ?」
「ぬ……」
「そして何より、ただひたすらに煩いです」
「む……」
分かりやすく肩を落としていくヴラディオスの姿が、ちょっぴり可哀想に見えてきた騎士団なのだった。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.ヴラディオスと模擬戦をする
やっはろー、残念にして残念なる残念の塊、残念ですよ
今回は吸血鬼さんと殴り合って仲良くなりつつ、彼の戦い方を広く知らしめようという依頼です
具体的には、【新手のバトルスタイル】がお披露目されるみたいですね?
なお、ブラさんはアホみたいに強いですが、ご安心ください
この依頼において、判定は能力値よりもプレイングを重視します
最近自由騎士になってまだレベルが……やってみたいことがあるけど、自分の能力値が……そんな不安はダストシュートにダンクシュートして、吸血鬼を殴りにれっつらごー☆
ヴラディオスの『型』はこちら
『ディフェンシブスタンス』
軸を後ろに重心を前に、攻撃を受ける事に重きを置いた彼独特の構え。自身の耐久性を強化する
『アラジシ』
地面を蹴り、衝撃で敵の体を浮かした後まとめて薙ぎ払う事で弾き飛ばし、陣形を突き崩す荒業
『オロチ』
自らを害するモノに対し、絡み付くように動きを合わせ、受けた苦痛の一部を返す
『ヌエ』
敵の放つ魔力に対し、気の流れと共に受け流し、放たれた魔術の一部を撃ち返す
今回は吸血鬼さんと殴り合って仲良くなりつつ、彼の戦い方を広く知らしめようという依頼です
具体的には、【新手のバトルスタイル】がお披露目されるみたいですね?
なお、ブラさんはアホみたいに強いですが、ご安心ください
この依頼において、判定は能力値よりもプレイングを重視します
最近自由騎士になってまだレベルが……やってみたいことがあるけど、自分の能力値が……そんな不安はダストシュートにダンクシュートして、吸血鬼を殴りにれっつらごー☆
ヴラディオスの『型』はこちら
『ディフェンシブスタンス』
軸を後ろに重心を前に、攻撃を受ける事に重きを置いた彼独特の構え。自身の耐久性を強化する
『アラジシ』
地面を蹴り、衝撃で敵の体を浮かした後まとめて薙ぎ払う事で弾き飛ばし、陣形を突き崩す荒業
『オロチ』
自らを害するモノに対し、絡み付くように動きを合わせ、受けた苦痛の一部を返す
『ヌエ』
敵の放つ魔力に対し、気の流れと共に受け流し、放たれた魔術の一部を撃ち返す
状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
6個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2018年12月07日
2018年12月07日
†メイン参加者 8人†
●手は抜いてないんやで
とある晴れた日の事、飛び道具や魔法があらぬ方向に飛んでも被害を出さないよう、円形に造られた騎士団の修練場。そこで、吸血鬼と自由騎士が対峙していた。
「あーっとなんでしたっけ? あのなんか長くて噛みそうな名前してて盾持っ……てない?」
名前を忘れるくらいには興味がない『逢瀬切』カスカ・セイリュウジ(CL3000019)は首を傾げる。
「え、何、個性を捨てたんですか?」
「私の型は本来、剣と盾を扱うのに向いているらしくてですね……騎士団長殿より、誤解を招かぬようにしてほしいと言われたものですから。しかし、私はずっと盾のみで戦ってきたもので……」
間違った情報が流れるよりはましだと判断したのだろう。しかし、快く思わない自由騎士もいる。
「しかし……ここまでスキルを開示した上に、装備も外してくるだなんて、随分とお優しいですね……それとも甘くみられてるんでしょうか?」
穏やかな微笑みを浮かべていた『なんでボスしんでまうのん?』エミリオ・ミハイエル(CL3000054)だったが、片眼鏡の奥の視線が鋭く研ぎ澄まされる。
「……ええやん、やったろうやないか」
あ、これ半分キレてるやつですね。
「おーーーっほっほっほ!!!」
剣呑としてきた雰囲気を拭い去ったのは『高潔たれ騎士乙女』ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)の高飛車感漂う笑い声。
「此度は正々堂々、互いに持ち得る力を出し切って、良い模擬戦に致しましょう! 守りに長けているという貴方の戦い方、この目で確と見させていただきますわ」
ここでジュリエットから割と重要な質問。
「ところでこの模擬戦、勝敗の条件は何なのかしら。どちらか一方が動けなくなるまで戦い続けるのかしら……?」
「いえ、そこまでやると大怪我しますから」
ひょこり、観客席(仮)から顔を覗かせたのはアイリス。
「ヴラ様に傷がついたらあなた達の勝利です」
「それだけですの?」
「それだけです」
キョトンとしたジュリエットだが、手の甲を口元に添えて。
「そんなことなら、あっという間に決着をつけて差し上げますわ! おーっほほほほ!!」
ちょろっと怪我させて、勝利を収めて仲直り。そんなシナリオを脳内ジュリエット(デフォルメ三頭身)が描いた所で、アイリスが時計を確認。
「時間です。皆さま、準備はよろしいですね?」
陣形を整えた自由騎士達の中から『挺身の』アダム・クランプトン(CL3000185)が一歩前に出る。
「ヴラさんは本当に不器用な人だよね……それにしても覚悟のない刃では盾が揺らぐ事はない、か」
反芻し、淡く微笑んで。
「その言葉、その精神を僕は好ましく思うよ。せっかくの機会、ありったけをぶつけて魅せるさ」
「模擬戦、開始です」
少女の手が振り下ろされ、戦いの火蓋が切り落とされた。
●何故自殺行為に走ったのか
「我が名はアダム・クランプトン!」
名乗りを上げ、自らの覚悟を決めれば自ずと敵と対峙する構えをとる。そして外套を脱いだ。
「蒼き豊穣の国を守る自由騎士がひとり!」
身軽になれば物理的衝撃を受け流しやすくなるというもの。殴り合いに備えたアダムは吸血鬼の目を見る。そしてシャツを脱いだ。
「覚悟を示し貴方の盾を砕いて魅せよう!」
ヴラディオスの盾とは、即ち彼の生き方そのもの。それを、砕くと宣言した。人の矜持に喧嘩を売った以上、もはや後には引けぬアダムはズボンと靴を脱ぐ。
「いざ尋常に、勝負!」
そして下着に手をかけたところで。
「この痴れ者がぁあああ!!」
「あんさん何してはりますのぉおおおん!?」
エミリオから身体硬化と魔力収集の薬液が籠った薬瓶が、ヴラディオスからは鉄拳が飛んできた……しかし、ここで一つ問題が。
「っと、しまった。私の型は決まっているのだったな」
「えっ」
いつもアダムを吹っ飛ばしていた拳。あれ、スキルやねん。しかも、盾持ち専用の。今回は模擬戦のルール的にも、装備的にも使えないヴラディオスは急停止。ツッコミが来なかったアダムは、脱ぎっ。
「きゃー! いやー!! ……にゅわー!?」
ジュリエット、何故両手で顔を隠しつつも指の隙間から見ているのかね?
「か、開幕で援護してもらえなかったら即死だった……!」
エミリオからもらった薬液が全身を伝ってその身を淡い輝きで包み、全裸ではあるものの隠すべきは見えないアダムなのだった。
「カメラ! カメラはありませんの!? こ、これも大切な模擬戦ですし、広報の為に写真は必要ですわよ!?」
「ヴラさん! なんで止めてくれないのさ!?」
「首から下が蒸気機械の男なぞ、腕力だけで吹き飛ばしていたらこちらの肩がもたんわ!!」
アダムめ、自分の体重を忘れてたな?
「アタシは初めて会うけど、何か色々と残念な人ね。まぁみんなが言うなら、強さくらいは認めてあげるけど」
戦闘開始早々、漫才を始めたヴラディオスに『聖母殺し』ライカ・リンドヴルム(CL3000405)は遠い目をしつつ。
「礼儀正しかったり不遜だったりしてるけど、キャラを統一しなさいな……」
「き、気を付けます……」
メンタルから攻めていくスタンス!? なんて事はなく、このしょうもないやり取りの隙に自らの筋繊維を再構成して、瞬発力を驚異的な領域へ昇華させておく。
「初めまして、ヴラディオスさん」
一礼した『相棒捜索中』英羽・月秋(CL3000159)は鴉のように真っ黒な翼を広げ、ふわりと舞い上がり。
「過去にしてきた事をそう簡単には水に流せない方もいるでしょうが、僕は貴方のような潔い吸血鬼は嫌いになれません。全く恨みはありませんが、ヴラディオスさんを殴れる機会は早々ないと思いますのでお手合わせ願います!」
小さな翼と角を持つ、悪魔のような人形と、ドレスを着た一つ目の異形の人形を操る月秋にヴラディオスは軽く拳を握り体を斜に構えるのだが。
「なるほど、前後の拳で『いなし』と『返し』を同時に行う、と」
カスカが振るうは三度の斬撃。左右からの薙ぎを重ね切先が風を断ち、鎌鼬に化けて迫る剣閃に追従。一足で踏み込み狙うは仕留めの刺突。
対するは拳の裏で風の刃を逸らし、迫る刺突を並べた指の甲で受け流したヴラディオス。反撃が来る前に距離を取るカスカは不満気に。
「私、力の衣を剥がす遠当てがちょっと不得手なんですよね。聞けば物理を反射する技能があるらしいとのことで、是を仕掛け、綺麗に入ればそのまま打ち消し、仕留め損ねればしっぺ返しが飛んでくるということですね」
確認するように説明するカスカは、むぅ、と膨れそうな程に不機嫌そうな眼差しで。
「仕損じればわかり易く返って来る、というのがいいんですよ。相応のリスクはあったほうが集中力も増すというものです。単に構えを崩すだけじゃ指標にならないじゃないですか、真面目に反射してくださいよ」
「性質の悪い斬撃を放っておいてとんでもない事を……」
返すも何も、反撃に移る前に体勢を崩されるのだ。一々これを食らっていては反撃のしようがなく、かといって躱してしまえばそもそも反撃ができない。
「まぁ、皆さんが事前情報を基に対策を練った結果という事で一つ」
苦笑するヴラディオスだが、彼を見下ろす月秋は表情一つ変わらない。
「カワホリ、タタラバ。僕に力を貸して下さい」
カタカタ、ケタケタ。人形らしい無機質な音を立てて二体の人形は地上へ降下。口から影のような霧を噴き出せば、それらは四体の騎士を形作る。都合八体の兵隊を前に、二体の人形は鏡映しに手を伸ばして。
『そーいん、とつげきよーい!』
『ゼングン、カカレー!!』
創造された騎士による一斉攻撃。次から次へと振るわれる剣戟は、全て月秋の指先一つで支配されている。彼にしてみれば、複数の配下に同時に指揮を下す事も自らの手駒を使った人形劇に過ぎないのだ。自らはただ滞空して動かず、しかし視線と指先だけは目まぐるしく駆けずり回る月秋は咥えていたシガレットを噛む。
「なるほど、傷がついたら、とはそういう事ですか」
手数は圧倒的に優位であり、事実仲間との連携の甲斐あって自由騎士達は一方的に攻め込んでいる。しかし、ダメージがあるかないかという事と、傷をつける程の『強烈な一撃』を叩き込めるかという事は別問題なのだ。
「即ち、仲間同士で連携して攻撃をいなせないほどの連撃を畳みかけ、その上で磨き抜かれた技術を上回る一撃が必要である、という事ですね」
皆忘れてるようだが、ヴラディオスは単独で奴隷商のキャラバンを全滅させる程度には実力がある。味方同士の連携なくして彼に傷をつける事はまず叶わないのだ。
●成敗のお時間です
「農村では網を張っていたこと、謝罪します」
しれっと兵士に混じり、青き剣で刺突を混ぜ込んでくる『安らぎへの導き手』アリア・セレスティ(CL3000222)。
「色々あったようですが、ある程度の解決を見たようで、何よりです」
何故か目が笑ってない微笑みを浮かべ、脚目がけて切先を振るう事で下方へ注意を引くアリア。その対面から狙うはライカの盾剣。腕甲の仕込み剣の如く、盾から伸びた刃で吸血鬼の首を狙うも、上下真逆からの攻撃に対しヴラディオスは身を翻し、その場で宙転するとアリアの得物の腹に手の甲を当てて軌道を逸らし、ライカの拳を蹴り飛ばしてそのまま空振りさせる。
「で、私への謝罪は無しですか?」
ニコリ。アリアの笑顔が、恐い。
「随分雑に扱ってくれましたね?」
愛剣の片割れを工房に出しているせいか、いつもより身軽に舞うアリア。左右にステップを刻んで視線を揺らし、不意に屈んで視界から姿を眩ませれば横合いからライカの拳が飛んでくる。かと思えばそれを防いだガード『後』にアリアの青い刃が喉元目がけて突き出され、のけぞって躱したかと思えば時間差で風の刃が飛来し、回避直後の反動で動きが止まった瞬間に脇腹を刺しにくるライカを弾き飛ばして飛び退かざるを得ない。
「投げ飛ばされたり?」
追随して剣を振るえどやはり峰に手刀を落とされ威力が死ぬ。その慣性に乗って身を翻し、吸血鬼を蹴ったアリアは空へ。
「美少女コンテストの良い落としどころにされたり?」
剣閃に引き裂かれた大気が悲鳴を上げて、見えざる刃が二つ。弧を描き、左右からタイミングをずらして襲い来る二撃を叩き潰せば、目前には虚空を蹴ったアリアの姿。
「変態成敗のコメディかと思ったらガチだったり?」
脚力、体重、加速、全てを乗せた振り下ろしを蹴り払われたアリアは身を捻ると……あれ、なんでこっちに来ゴフッ!?
「型についてはある程度聞いてるけど……」
後方より戦局を眺めていた『湯けむりの爆炎娘』猪市 きゐこ(CL3000048)は小さく唸る。
「型は反撃か防衛、一応範囲攻撃もあるけど使わない、と……」
見やるのはカスカ。彼女がヴラディオスが構える度にその姿勢を崩す為、はっきり言って、一方的なリンチ以外の何物でもない。それでもなお有効打が打ちこめないという事は。
「スキル抜きでも、十分に硬いって事よね……」
チラと、視線を投げたのはジュリエット。彼女を『切札』と定義づけ、深呼吸を一つ。大気を肺に取り込んで、マナを血液に走らせ自らの魔力とこの空間に散らばるマナを共鳴させながら、そっと虚空をなぞる。
「楽に動かさせはしないわよ!」
指先の軌跡を残す青い光。それが意味を持った途端、吸血鬼の全身を凍てつかせるが、氷塊は粉微塵に砕かれる。
「そんな気はしてたわよ、もう!」
動きを魔術一つで封じられる程甘い相手ではない。そのくらいは予見していたきゐこは既に虚空にルーンを描き終えている。
「搦め手がダメなら、純粋な物量で押し切るだけよ!!」
生み出された無数の火球がヴラディオスに殺到し、爆炎に紛れてきゐこが掲げた両手の上には、太陽と見紛うほどの轟炎。
「これならどうかしら!?」
叩き付けるは陽炎を生む業火の塊。周囲を巻き込まぬよう、熱量が内部に向かって渦を巻くそれは一つの怪物のようだった。意思持たぬ異形を解き放つきゐこに対し、ヴラディオスが身構えるも。
「いい加減反射とやらを見せてもらえませんか?」
「だからあなたのは性質が悪くてですね!?」
カスカの放つ剣圧の突風を引き裂くために、構えを解かざるを得ない吸血鬼を降りたつ太陽が焼き払うが、既にきゐこは次の術式を記していて。
「いい物見せてあげるわ……これでダメ押しよ!!」
一つは高速で一直線に、一つは低速で弧を描き、異なる軌道で迫る二つの刃。空気を引き裂き研ぎ澄ました大気の得物は、熱波で吹き荒れる魔術の余波に紛れヴラディオスの首を狙うが、自らを包む業火ごと彼の腕が叩き潰す。
「まぁ一撃じゃ耐えるわよね……というわけでよろしく!」
「任されたわ!」
未だとぐろを巻く炎を斬り裂いて、一振りの得物が姿を見せる。瞬きすら許さぬほどに、研ぎ澄まされたライカの最速の一突き。
「チィ……!」
裏拳でライカの盾を弾き、攻撃に軌道を逸らすヴラディオスだが、彼の表情に初めて焦りが見えた。
「このまま一気に行くわよ……!」
消えゆく熱を操作し、両手を叩き合わせて二つの炎壁で吸血鬼を叩き潰すきゐこ。その後方で何やら不穏な色彩を放つ薬液で満たされたフラスコを取り出したエミリオ。それを手の上で二、三度投げて衝撃を加えながらよく混ぜ合わせると、ゆっくり中身が煌めき始める。
「ひゃっはー!」
振りかぶって……投げたっ!
――ッドォオオオオン!!
お前修練場破壊する気か!? ってレベルの大爆発。爆風に巻き込まれたきゐこがコロコロと吹き飛ばされて壁に叩き付けられ、ぶつけた後頭部を押さえてフルフルしている傍ら、当のエミリオはふぅ、と額を拭って。
「まぁなんとかなるやろ!」
何が!?
「おのれぇえええ!!」
爆煙を振り払い、文字通り鬼の形相を見せたヴラディオスに肉薄したのはアダム。その拳は山吹色の輝きと同時に、蒸気鎧装がオーバーヒートを起こして白煙と悲鳴をまき散らす。
「いくよヴラさん! これが、僕達自由騎士の力だッ!!」
機械の拳を、鬼の拳が迎え撃つ。二つの鉄拳の余波は周囲を取り巻く熱も煙も吹き飛ばし、一瞬の沈黙。逃げ損ねた衝撃が伝播して、二人の足元から大地が砕けて混ぜ返されて。
「うわぁ!?」
「危な……重いですね!?」
地面の瓦解に巻き込まれかけたアダムを月秋が救出しようとして、空中から引きずり降ろされた。地に足着いた彼の傍らに、二体の人形はなく。
『ぬゥん!!』
カワホリとタタラバの二体を核に、魔力で肉体を構成された、先ほど創造『しなかった』巨大な九体目の兵士が、両の手を重ねた鎚で吸血鬼を圧殺せんと振り下ろす。背後からの急襲に、ついにヴラディオスはノーガードで一撃を食らって、笑った。
「見事……だが!」
「まだ元気そうですね、良かったです」
踏み止まり、巨人の拳を跳ねのけたヴラディオスにアリアの影が落ちる。
「私、まだ納得できてませんから」
刺突をいなすが、彼は見た。切っ先を逃がしたその得物が、白き風を纏っていた姿を。虚空を蹴り、アリアは再び空へ。太陽を背にして視界を奪い、振るう刃から放たれるは無数の風。降り注ぐそれは斬撃の嵐にして、軌道が螺旋を描く一つの竜巻。自らを斬り捨てんとするそれを、視界を潰されながら捌こうとする吸血鬼の脚が、ついに完全に止まった。
「星に願いを、人に愛を……」
ジュリエットは両手を重ね、そっと目蓋を降ろす。
「この力は人々の安寧の為に、この祈りは我々の平穏の為に……」
フッと、世界が眠りに落ちたように光が隠される。見上げれば、自由騎士を照らすのは星々の煌めき。その夜空の中心に、真紅の輝きあり。
「今こそ我が道に光を示せ! ジュリエット・ゴールドスミスの名において『願い』ます!!」
キラリ、深き紅色の星が瞬いた。
「ガーネット……」
一瞬の儚い煌めきは、やがて地上目がけて夜空を駆け抜けて、一条の流星となる。
「ミーティアッ!!」
「ヌォオオオオ!?」
こぼれ落ちる真紅の星を、拳一つで受けるヴラディオス。亀裂を走らせ、粉砕して魔力に帰し、満身創痍の彼が見た物はジュリエットの魔力と想いの塊……もう一つの流星である。
「なっ……」
赤き輝きは、吸血鬼の姿を飲みこみ自由騎士達の視界を真紅に染めた。
●ヴラさんは救護室に運ばれました
「皆さま、お見事でございます」
つまらなそうに帰ったカスカを除き、自由騎士達に拍手を送るアイリスへ、最後に握手くらいはしたいと思っていたアダムがそわそわと問う。
「ヴラさんは無事かい?」
「問題ありません。皆さまの想像以上の活躍により、想定を超えて倒れただけですから」
十全に対策を練った故の成果だろう。誇るべきことなのだが、戦闘後に話を聞きたかった自由騎士としては複雑な心境らしい。
「感想くらいは頂きたかったものです……」
己の未熟さは、己が最も分かっていた。だからこそ話を聞く機会を逃した月秋は無表情ながら残念そうにシガレットを噛む。
「まぁ、次会った時にちゃんと笑って会えればいいんじゃないですかね?」
思いっきり殴って(ていうか斬って?)すっきりしたアリアはご満悦。自由騎士達が各々過ごす中。
「今はヴラさんノーガードなのよね? 実は最初の依頼の時から、ヴラさんはどんな血の味か気になってたわ♪」
『やめなさい』
不穏な事を口走るきゐこは、自由騎士達に止められるのだった。
とある晴れた日の事、飛び道具や魔法があらぬ方向に飛んでも被害を出さないよう、円形に造られた騎士団の修練場。そこで、吸血鬼と自由騎士が対峙していた。
「あーっとなんでしたっけ? あのなんか長くて噛みそうな名前してて盾持っ……てない?」
名前を忘れるくらいには興味がない『逢瀬切』カスカ・セイリュウジ(CL3000019)は首を傾げる。
「え、何、個性を捨てたんですか?」
「私の型は本来、剣と盾を扱うのに向いているらしくてですね……騎士団長殿より、誤解を招かぬようにしてほしいと言われたものですから。しかし、私はずっと盾のみで戦ってきたもので……」
間違った情報が流れるよりはましだと判断したのだろう。しかし、快く思わない自由騎士もいる。
「しかし……ここまでスキルを開示した上に、装備も外してくるだなんて、随分とお優しいですね……それとも甘くみられてるんでしょうか?」
穏やかな微笑みを浮かべていた『なんでボスしんでまうのん?』エミリオ・ミハイエル(CL3000054)だったが、片眼鏡の奥の視線が鋭く研ぎ澄まされる。
「……ええやん、やったろうやないか」
あ、これ半分キレてるやつですね。
「おーーーっほっほっほ!!!」
剣呑としてきた雰囲気を拭い去ったのは『高潔たれ騎士乙女』ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)の高飛車感漂う笑い声。
「此度は正々堂々、互いに持ち得る力を出し切って、良い模擬戦に致しましょう! 守りに長けているという貴方の戦い方、この目で確と見させていただきますわ」
ここでジュリエットから割と重要な質問。
「ところでこの模擬戦、勝敗の条件は何なのかしら。どちらか一方が動けなくなるまで戦い続けるのかしら……?」
「いえ、そこまでやると大怪我しますから」
ひょこり、観客席(仮)から顔を覗かせたのはアイリス。
「ヴラ様に傷がついたらあなた達の勝利です」
「それだけですの?」
「それだけです」
キョトンとしたジュリエットだが、手の甲を口元に添えて。
「そんなことなら、あっという間に決着をつけて差し上げますわ! おーっほほほほ!!」
ちょろっと怪我させて、勝利を収めて仲直り。そんなシナリオを脳内ジュリエット(デフォルメ三頭身)が描いた所で、アイリスが時計を確認。
「時間です。皆さま、準備はよろしいですね?」
陣形を整えた自由騎士達の中から『挺身の』アダム・クランプトン(CL3000185)が一歩前に出る。
「ヴラさんは本当に不器用な人だよね……それにしても覚悟のない刃では盾が揺らぐ事はない、か」
反芻し、淡く微笑んで。
「その言葉、その精神を僕は好ましく思うよ。せっかくの機会、ありったけをぶつけて魅せるさ」
「模擬戦、開始です」
少女の手が振り下ろされ、戦いの火蓋が切り落とされた。
●何故自殺行為に走ったのか
「我が名はアダム・クランプトン!」
名乗りを上げ、自らの覚悟を決めれば自ずと敵と対峙する構えをとる。そして外套を脱いだ。
「蒼き豊穣の国を守る自由騎士がひとり!」
身軽になれば物理的衝撃を受け流しやすくなるというもの。殴り合いに備えたアダムは吸血鬼の目を見る。そしてシャツを脱いだ。
「覚悟を示し貴方の盾を砕いて魅せよう!」
ヴラディオスの盾とは、即ち彼の生き方そのもの。それを、砕くと宣言した。人の矜持に喧嘩を売った以上、もはや後には引けぬアダムはズボンと靴を脱ぐ。
「いざ尋常に、勝負!」
そして下着に手をかけたところで。
「この痴れ者がぁあああ!!」
「あんさん何してはりますのぉおおおん!?」
エミリオから身体硬化と魔力収集の薬液が籠った薬瓶が、ヴラディオスからは鉄拳が飛んできた……しかし、ここで一つ問題が。
「っと、しまった。私の型は決まっているのだったな」
「えっ」
いつもアダムを吹っ飛ばしていた拳。あれ、スキルやねん。しかも、盾持ち専用の。今回は模擬戦のルール的にも、装備的にも使えないヴラディオスは急停止。ツッコミが来なかったアダムは、脱ぎっ。
「きゃー! いやー!! ……にゅわー!?」
ジュリエット、何故両手で顔を隠しつつも指の隙間から見ているのかね?
「か、開幕で援護してもらえなかったら即死だった……!」
エミリオからもらった薬液が全身を伝ってその身を淡い輝きで包み、全裸ではあるものの隠すべきは見えないアダムなのだった。
「カメラ! カメラはありませんの!? こ、これも大切な模擬戦ですし、広報の為に写真は必要ですわよ!?」
「ヴラさん! なんで止めてくれないのさ!?」
「首から下が蒸気機械の男なぞ、腕力だけで吹き飛ばしていたらこちらの肩がもたんわ!!」
アダムめ、自分の体重を忘れてたな?
「アタシは初めて会うけど、何か色々と残念な人ね。まぁみんなが言うなら、強さくらいは認めてあげるけど」
戦闘開始早々、漫才を始めたヴラディオスに『聖母殺し』ライカ・リンドヴルム(CL3000405)は遠い目をしつつ。
「礼儀正しかったり不遜だったりしてるけど、キャラを統一しなさいな……」
「き、気を付けます……」
メンタルから攻めていくスタンス!? なんて事はなく、このしょうもないやり取りの隙に自らの筋繊維を再構成して、瞬発力を驚異的な領域へ昇華させておく。
「初めまして、ヴラディオスさん」
一礼した『相棒捜索中』英羽・月秋(CL3000159)は鴉のように真っ黒な翼を広げ、ふわりと舞い上がり。
「過去にしてきた事をそう簡単には水に流せない方もいるでしょうが、僕は貴方のような潔い吸血鬼は嫌いになれません。全く恨みはありませんが、ヴラディオスさんを殴れる機会は早々ないと思いますのでお手合わせ願います!」
小さな翼と角を持つ、悪魔のような人形と、ドレスを着た一つ目の異形の人形を操る月秋にヴラディオスは軽く拳を握り体を斜に構えるのだが。
「なるほど、前後の拳で『いなし』と『返し』を同時に行う、と」
カスカが振るうは三度の斬撃。左右からの薙ぎを重ね切先が風を断ち、鎌鼬に化けて迫る剣閃に追従。一足で踏み込み狙うは仕留めの刺突。
対するは拳の裏で風の刃を逸らし、迫る刺突を並べた指の甲で受け流したヴラディオス。反撃が来る前に距離を取るカスカは不満気に。
「私、力の衣を剥がす遠当てがちょっと不得手なんですよね。聞けば物理を反射する技能があるらしいとのことで、是を仕掛け、綺麗に入ればそのまま打ち消し、仕留め損ねればしっぺ返しが飛んでくるということですね」
確認するように説明するカスカは、むぅ、と膨れそうな程に不機嫌そうな眼差しで。
「仕損じればわかり易く返って来る、というのがいいんですよ。相応のリスクはあったほうが集中力も増すというものです。単に構えを崩すだけじゃ指標にならないじゃないですか、真面目に反射してくださいよ」
「性質の悪い斬撃を放っておいてとんでもない事を……」
返すも何も、反撃に移る前に体勢を崩されるのだ。一々これを食らっていては反撃のしようがなく、かといって躱してしまえばそもそも反撃ができない。
「まぁ、皆さんが事前情報を基に対策を練った結果という事で一つ」
苦笑するヴラディオスだが、彼を見下ろす月秋は表情一つ変わらない。
「カワホリ、タタラバ。僕に力を貸して下さい」
カタカタ、ケタケタ。人形らしい無機質な音を立てて二体の人形は地上へ降下。口から影のような霧を噴き出せば、それらは四体の騎士を形作る。都合八体の兵隊を前に、二体の人形は鏡映しに手を伸ばして。
『そーいん、とつげきよーい!』
『ゼングン、カカレー!!』
創造された騎士による一斉攻撃。次から次へと振るわれる剣戟は、全て月秋の指先一つで支配されている。彼にしてみれば、複数の配下に同時に指揮を下す事も自らの手駒を使った人形劇に過ぎないのだ。自らはただ滞空して動かず、しかし視線と指先だけは目まぐるしく駆けずり回る月秋は咥えていたシガレットを噛む。
「なるほど、傷がついたら、とはそういう事ですか」
手数は圧倒的に優位であり、事実仲間との連携の甲斐あって自由騎士達は一方的に攻め込んでいる。しかし、ダメージがあるかないかという事と、傷をつける程の『強烈な一撃』を叩き込めるかという事は別問題なのだ。
「即ち、仲間同士で連携して攻撃をいなせないほどの連撃を畳みかけ、その上で磨き抜かれた技術を上回る一撃が必要である、という事ですね」
皆忘れてるようだが、ヴラディオスは単独で奴隷商のキャラバンを全滅させる程度には実力がある。味方同士の連携なくして彼に傷をつける事はまず叶わないのだ。
●成敗のお時間です
「農村では網を張っていたこと、謝罪します」
しれっと兵士に混じり、青き剣で刺突を混ぜ込んでくる『安らぎへの導き手』アリア・セレスティ(CL3000222)。
「色々あったようですが、ある程度の解決を見たようで、何よりです」
何故か目が笑ってない微笑みを浮かべ、脚目がけて切先を振るう事で下方へ注意を引くアリア。その対面から狙うはライカの盾剣。腕甲の仕込み剣の如く、盾から伸びた刃で吸血鬼の首を狙うも、上下真逆からの攻撃に対しヴラディオスは身を翻し、その場で宙転するとアリアの得物の腹に手の甲を当てて軌道を逸らし、ライカの拳を蹴り飛ばしてそのまま空振りさせる。
「で、私への謝罪は無しですか?」
ニコリ。アリアの笑顔が、恐い。
「随分雑に扱ってくれましたね?」
愛剣の片割れを工房に出しているせいか、いつもより身軽に舞うアリア。左右にステップを刻んで視線を揺らし、不意に屈んで視界から姿を眩ませれば横合いからライカの拳が飛んでくる。かと思えばそれを防いだガード『後』にアリアの青い刃が喉元目がけて突き出され、のけぞって躱したかと思えば時間差で風の刃が飛来し、回避直後の反動で動きが止まった瞬間に脇腹を刺しにくるライカを弾き飛ばして飛び退かざるを得ない。
「投げ飛ばされたり?」
追随して剣を振るえどやはり峰に手刀を落とされ威力が死ぬ。その慣性に乗って身を翻し、吸血鬼を蹴ったアリアは空へ。
「美少女コンテストの良い落としどころにされたり?」
剣閃に引き裂かれた大気が悲鳴を上げて、見えざる刃が二つ。弧を描き、左右からタイミングをずらして襲い来る二撃を叩き潰せば、目前には虚空を蹴ったアリアの姿。
「変態成敗のコメディかと思ったらガチだったり?」
脚力、体重、加速、全てを乗せた振り下ろしを蹴り払われたアリアは身を捻ると……あれ、なんでこっちに来ゴフッ!?
「型についてはある程度聞いてるけど……」
後方より戦局を眺めていた『湯けむりの爆炎娘』猪市 きゐこ(CL3000048)は小さく唸る。
「型は反撃か防衛、一応範囲攻撃もあるけど使わない、と……」
見やるのはカスカ。彼女がヴラディオスが構える度にその姿勢を崩す為、はっきり言って、一方的なリンチ以外の何物でもない。それでもなお有効打が打ちこめないという事は。
「スキル抜きでも、十分に硬いって事よね……」
チラと、視線を投げたのはジュリエット。彼女を『切札』と定義づけ、深呼吸を一つ。大気を肺に取り込んで、マナを血液に走らせ自らの魔力とこの空間に散らばるマナを共鳴させながら、そっと虚空をなぞる。
「楽に動かさせはしないわよ!」
指先の軌跡を残す青い光。それが意味を持った途端、吸血鬼の全身を凍てつかせるが、氷塊は粉微塵に砕かれる。
「そんな気はしてたわよ、もう!」
動きを魔術一つで封じられる程甘い相手ではない。そのくらいは予見していたきゐこは既に虚空にルーンを描き終えている。
「搦め手がダメなら、純粋な物量で押し切るだけよ!!」
生み出された無数の火球がヴラディオスに殺到し、爆炎に紛れてきゐこが掲げた両手の上には、太陽と見紛うほどの轟炎。
「これならどうかしら!?」
叩き付けるは陽炎を生む業火の塊。周囲を巻き込まぬよう、熱量が内部に向かって渦を巻くそれは一つの怪物のようだった。意思持たぬ異形を解き放つきゐこに対し、ヴラディオスが身構えるも。
「いい加減反射とやらを見せてもらえませんか?」
「だからあなたのは性質が悪くてですね!?」
カスカの放つ剣圧の突風を引き裂くために、構えを解かざるを得ない吸血鬼を降りたつ太陽が焼き払うが、既にきゐこは次の術式を記していて。
「いい物見せてあげるわ……これでダメ押しよ!!」
一つは高速で一直線に、一つは低速で弧を描き、異なる軌道で迫る二つの刃。空気を引き裂き研ぎ澄ました大気の得物は、熱波で吹き荒れる魔術の余波に紛れヴラディオスの首を狙うが、自らを包む業火ごと彼の腕が叩き潰す。
「まぁ一撃じゃ耐えるわよね……というわけでよろしく!」
「任されたわ!」
未だとぐろを巻く炎を斬り裂いて、一振りの得物が姿を見せる。瞬きすら許さぬほどに、研ぎ澄まされたライカの最速の一突き。
「チィ……!」
裏拳でライカの盾を弾き、攻撃に軌道を逸らすヴラディオスだが、彼の表情に初めて焦りが見えた。
「このまま一気に行くわよ……!」
消えゆく熱を操作し、両手を叩き合わせて二つの炎壁で吸血鬼を叩き潰すきゐこ。その後方で何やら不穏な色彩を放つ薬液で満たされたフラスコを取り出したエミリオ。それを手の上で二、三度投げて衝撃を加えながらよく混ぜ合わせると、ゆっくり中身が煌めき始める。
「ひゃっはー!」
振りかぶって……投げたっ!
――ッドォオオオオン!!
お前修練場破壊する気か!? ってレベルの大爆発。爆風に巻き込まれたきゐこがコロコロと吹き飛ばされて壁に叩き付けられ、ぶつけた後頭部を押さえてフルフルしている傍ら、当のエミリオはふぅ、と額を拭って。
「まぁなんとかなるやろ!」
何が!?
「おのれぇえええ!!」
爆煙を振り払い、文字通り鬼の形相を見せたヴラディオスに肉薄したのはアダム。その拳は山吹色の輝きと同時に、蒸気鎧装がオーバーヒートを起こして白煙と悲鳴をまき散らす。
「いくよヴラさん! これが、僕達自由騎士の力だッ!!」
機械の拳を、鬼の拳が迎え撃つ。二つの鉄拳の余波は周囲を取り巻く熱も煙も吹き飛ばし、一瞬の沈黙。逃げ損ねた衝撃が伝播して、二人の足元から大地が砕けて混ぜ返されて。
「うわぁ!?」
「危な……重いですね!?」
地面の瓦解に巻き込まれかけたアダムを月秋が救出しようとして、空中から引きずり降ろされた。地に足着いた彼の傍らに、二体の人形はなく。
『ぬゥん!!』
カワホリとタタラバの二体を核に、魔力で肉体を構成された、先ほど創造『しなかった』巨大な九体目の兵士が、両の手を重ねた鎚で吸血鬼を圧殺せんと振り下ろす。背後からの急襲に、ついにヴラディオスはノーガードで一撃を食らって、笑った。
「見事……だが!」
「まだ元気そうですね、良かったです」
踏み止まり、巨人の拳を跳ねのけたヴラディオスにアリアの影が落ちる。
「私、まだ納得できてませんから」
刺突をいなすが、彼は見た。切っ先を逃がしたその得物が、白き風を纏っていた姿を。虚空を蹴り、アリアは再び空へ。太陽を背にして視界を奪い、振るう刃から放たれるは無数の風。降り注ぐそれは斬撃の嵐にして、軌道が螺旋を描く一つの竜巻。自らを斬り捨てんとするそれを、視界を潰されながら捌こうとする吸血鬼の脚が、ついに完全に止まった。
「星に願いを、人に愛を……」
ジュリエットは両手を重ね、そっと目蓋を降ろす。
「この力は人々の安寧の為に、この祈りは我々の平穏の為に……」
フッと、世界が眠りに落ちたように光が隠される。見上げれば、自由騎士を照らすのは星々の煌めき。その夜空の中心に、真紅の輝きあり。
「今こそ我が道に光を示せ! ジュリエット・ゴールドスミスの名において『願い』ます!!」
キラリ、深き紅色の星が瞬いた。
「ガーネット……」
一瞬の儚い煌めきは、やがて地上目がけて夜空を駆け抜けて、一条の流星となる。
「ミーティアッ!!」
「ヌォオオオオ!?」
こぼれ落ちる真紅の星を、拳一つで受けるヴラディオス。亀裂を走らせ、粉砕して魔力に帰し、満身創痍の彼が見た物はジュリエットの魔力と想いの塊……もう一つの流星である。
「なっ……」
赤き輝きは、吸血鬼の姿を飲みこみ自由騎士達の視界を真紅に染めた。
●ヴラさんは救護室に運ばれました
「皆さま、お見事でございます」
つまらなそうに帰ったカスカを除き、自由騎士達に拍手を送るアイリスへ、最後に握手くらいはしたいと思っていたアダムがそわそわと問う。
「ヴラさんは無事かい?」
「問題ありません。皆さまの想像以上の活躍により、想定を超えて倒れただけですから」
十全に対策を練った故の成果だろう。誇るべきことなのだが、戦闘後に話を聞きたかった自由騎士としては複雑な心境らしい。
「感想くらいは頂きたかったものです……」
己の未熟さは、己が最も分かっていた。だからこそ話を聞く機会を逃した月秋は無表情ながら残念そうにシガレットを噛む。
「まぁ、次会った時にちゃんと笑って会えればいいんじゃないですかね?」
思いっきり殴って(ていうか斬って?)すっきりしたアリアはご満悦。自由騎士達が各々過ごす中。
「今はヴラさんノーガードなのよね? 実は最初の依頼の時から、ヴラさんはどんな血の味か気になってたわ♪」
『やめなさい』
不穏な事を口走るきゐこは、自由騎士達に止められるのだった。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
称号付与
『深紅の祈り』
取得者: ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)
『ついに見せちゃった人』
取得者: アダム・クランプトン(CL3000185)
『怒らせると恐いんですよ?』
取得者: アリア・セレスティ(CL3000222)
取得者: ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)
『ついに見せちゃった人』
取得者: アダム・クランプトン(CL3000185)
『怒らせると恐いんですよ?』
取得者: アリア・セレスティ(CL3000222)
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