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【白蒼激突】隠密を討て

●シャンバラの民の会話
「……イ・ラプセルが?」
「かなりの聖堂騎士団が赴くらしい」
「ああ、それなら安心だ」
ニルヴァン小管区陥落。その報せに神民達は嘆き、怒り、不安……様々な感情を抱くが、最も多かったのは困惑だろう。ミトラースに守られたシャンバラの敵足り得ない――この国におけるイ・ラプセルの印象など、その程度のものだ。
だから、まだ戦いは始まってもいないのに、報せを聞いた者達は胸を撫で下ろす。聖央都ウァティカヌスに住まう神民が絶対的な信を置く彼らが動いたのだ、必ずや奪還してくれるだろう、と。
●とある歩兵部隊の会話
「枯れそうな密林に突如現れた呪われた異国の館……か」
斥候の話を聞く限りでは、戦の拠点とは思えない外観である。異国に拠点を建造するだけの能力が無かったと思いたいが、イ・ラプセルには『得体の知れなさ』を感じるのは否めない。今回の件には騎士達も困惑しているのだ。
「更に砦に接近し、情報収集を続けろ」
「既に戦闘が始まるのに……?」
「ああ、お前達は突撃に加わらなくて良い。罠の発見、敵兵の手薄な所がある、どんな事でも良い。何か情報を得次第、周囲の騎士に伝達してやってくれ」
●クラウディアとの会話
「情報は大事だよね」
集められた自由騎士達の顔を見回し、『元気印』クラウディア・フォン・プラテス(nCL3000004)が言った。
「聖堂騎士団の歩兵部隊、白銀騎士団に所属する斥候を担う騎士が砦の近くに潜んでるよ。全員テレパスが使えて、砦に攻撃を仕掛けてる騎士達に罠やこっちの防衛に関する情報を伝えるつもりみたい」
こちらの手の内を伝えられては厄介だ。彼らの活動を阻止してくれとクラウディアは頭を下げる。
「全部で十名、それぞれ一、二名の少人数で行動してるね。有用な情報を得ようとかなり砦に接近してるみたいなんだけど、ちょっと詳細な位置まではわからなかったんだよね~……」
騎士団を象徴する銀色はカモフラージュされ、斥候の技能に因るものか、潜伏に長けているらしい。
「その分、個々の戦闘能力は他の白銀騎士団員に比べてそこまで高くないみたいだから、見つけて戦闘不能に追い込めばひと安心かな」
ただし、あまりに不利だと思えば迷わず逃走を選ぶだろう。やりようによっては偽の情報を持ち帰らせ、攪乱する事も可能かもしれない。
「ま、どうやって彼らを見付けて邪魔をするか、やり方は皆に任せるよ。気を付けてね!」
「……イ・ラプセルが?」
「かなりの聖堂騎士団が赴くらしい」
「ああ、それなら安心だ」
ニルヴァン小管区陥落。その報せに神民達は嘆き、怒り、不安……様々な感情を抱くが、最も多かったのは困惑だろう。ミトラースに守られたシャンバラの敵足り得ない――この国におけるイ・ラプセルの印象など、その程度のものだ。
だから、まだ戦いは始まってもいないのに、報せを聞いた者達は胸を撫で下ろす。聖央都ウァティカヌスに住まう神民が絶対的な信を置く彼らが動いたのだ、必ずや奪還してくれるだろう、と。
●とある歩兵部隊の会話
「枯れそうな密林に突如現れた呪われた異国の館……か」
斥候の話を聞く限りでは、戦の拠点とは思えない外観である。異国に拠点を建造するだけの能力が無かったと思いたいが、イ・ラプセルには『得体の知れなさ』を感じるのは否めない。今回の件には騎士達も困惑しているのだ。
「更に砦に接近し、情報収集を続けろ」
「既に戦闘が始まるのに……?」
「ああ、お前達は突撃に加わらなくて良い。罠の発見、敵兵の手薄な所がある、どんな事でも良い。何か情報を得次第、周囲の騎士に伝達してやってくれ」
●クラウディアとの会話
「情報は大事だよね」
集められた自由騎士達の顔を見回し、『元気印』クラウディア・フォン・プラテス(nCL3000004)が言った。
「聖堂騎士団の歩兵部隊、白銀騎士団に所属する斥候を担う騎士が砦の近くに潜んでるよ。全員テレパスが使えて、砦に攻撃を仕掛けてる騎士達に罠やこっちの防衛に関する情報を伝えるつもりみたい」
こちらの手の内を伝えられては厄介だ。彼らの活動を阻止してくれとクラウディアは頭を下げる。
「全部で十名、それぞれ一、二名の少人数で行動してるね。有用な情報を得ようとかなり砦に接近してるみたいなんだけど、ちょっと詳細な位置まではわからなかったんだよね~……」
騎士団を象徴する銀色はカモフラージュされ、斥候の技能に因るものか、潜伏に長けているらしい。
「その分、個々の戦闘能力は他の白銀騎士団員に比べてそこまで高くないみたいだから、見つけて戦闘不能に追い込めばひと安心かな」
ただし、あまりに不利だと思えば迷わず逃走を選ぶだろう。やりようによっては偽の情報を持ち帰らせ、攪乱する事も可能かもしれない。
「ま、どうやって彼らを見付けて邪魔をするか、やり方は皆に任せるよ。気を付けてね!」
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.敵斥候の発見と、情報伝達の阻害
-----------------
この共通タグ【白蒼激突】依頼は、連動イベントのものになります。
同時期に発生した依頼ですが、複数参加することは問題ありません。
-----------------
大変お久し振りです。宮下です。
ニルヴァン小管区奪還に聖堂騎士団が動き出しました。
多数の騎士が砦に攻撃を仕掛ける中、斥候部隊の排除諸々という大変地味なシナリオになります。
●戦場
砦周辺の林
既にいくつか戦闘が発生している状況ですが、そこは他の自由騎士が対応しておりますので斥候以外との戦闘を考慮する必要はありません。
●敵情報
斥候×10人
ノウブルの軽戦士です。
活性化スキルは『斥候』『テレパス 破』『ラピッドジーンLv2』等。
それではよろしくお願い致します。
この共通タグ【白蒼激突】依頼は、連動イベントのものになります。
同時期に発生した依頼ですが、複数参加することは問題ありません。
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大変お久し振りです。宮下です。
ニルヴァン小管区奪還に聖堂騎士団が動き出しました。
多数の騎士が砦に攻撃を仕掛ける中、斥候部隊の排除諸々という大変地味なシナリオになります。
●戦場
砦周辺の林
既にいくつか戦闘が発生している状況ですが、そこは他の自由騎士が対応しておりますので斥候以外との戦闘を考慮する必要はありません。
●敵情報
斥候×10人
ノウブルの軽戦士です。
活性化スキルは『斥候』『テレパス 破』『ラピッドジーンLv2』等。
それではよろしくお願い致します。
状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
6個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
7/8
7/8
公開日
2019年02月14日
2019年02月14日
†メイン参加者 7人†

●
湿った土の匂いに、独特の鉄臭さが混じる。時折遠くから聞こえる怒号に、戦争が始まったのだと嫌でも痛感させられる。先の北方迎撃戦を思い返してか、『こむぎのパン』サラ・ケーヒル(CL3000348)は胸の前でぎゅうと手を握り締めた。
「わたしの力はあまりにも小さくて……すべてを守ることはできません」
救えなかった者が居たからといって彼女が気に病む必要は無いのだが、生来の真面目さ故か、簡単に割り切る事は出来ないようだ。
「ですから……わたしは、わたしの大切な家族と……その生活だけは絶対に守ります」
その為にも戦う事を厭わないと誓うサラを見上げ、『教会の勇者!』サシャ・プニコフ(CL3000122)はにこりと笑う。
「家族かー、サシャも弟たちを守るんだぞ。でも、おやつをこそこそ盗み食いするから困ってるんだぞ」
そう言いながらふわふわの耳を前に傾け、目の前の仲間にだけ聞こえるような小さな声で囁いた。
(「だから、こそこそしているやつを見つけるのはとっても得意なんだぞ。そこの木の上にいるやつとか」)
攪乱か、戦闘か。判断を仰ぐ為、『私立探偵』ルーク・H・アルカナム(CL3000490)にちらりと視線を送ると、彼は襟を直すような自然な仕草でジャケットの下に付けたホルスターへ手を伸ばし、察したサラがジャミングを行う。
「悪いが、死んでもらおう」
発砲。不自然に葉の多い樹上に撃ち込まれた弾丸は敵を穿つ事こそ叶わなかったが、留め具を壊されたのか、暗色のマントがひらりと地に落ちた。三対一の現状に、姿を晒した斥候は着地するなり身を翻したが、
「逃がしません……!」
双方選んだのは加速の一手。ほんの僅かな差で、森の中での行動に長けたサラに軍配が上がった。サラに回り込まれ、逃げ場を失った斥候は小剣を抜く。斥候の放った鋭い突きをサラはいなすが、すぐに二撃目が振り下ろされた。ショートソードを水平に掲げて受け、よろめいた彼女の姿に斥候は口角を上げる――が、全身を締め上げるような冷気に動きを鈍らせた。
肺を満たす、凍て付くような空気。そこで斥候は、自身が氷の檻に囚われている事に気付く。
「おやつをこっそり頂くのとはわけが違うんだぞ」
拓いた退路をそのまま走り抜ければ助かったかもしれない。だが、斥候がサシャに気をやったほんの一瞬。ごつり。後頭部に銃口が押し当てられた。
「情報を抜かれると、他の戦場にいる義姉と義妹が困るんでな」
至近距離で引き金を引かれ、斥候は突き飛ばされるように倒れると、そのまま動かなくなった。
「ここからだと銃眼が見えるからな。耐熱塗装もバレた可能性がある」
よって戦闘を選んだと二人に告げ、ルークは斥候を見やる。
「まずは一人か……先は長いな」
●
ぴくり。遠くに響く剣戟、辺りに満ちる葉擦れの音、たくさんの雑音の中から『所信表明』トット・ワーフ(CL3000396)の自慢の耳は、特定の音を拾い上げる。行軍ではなく少人数で、足音を殺そうとしているが故に不自然になる、その微かな足音を。
彼の耳が向いた方角にリュンケウスの瞳を宿した視線を巡らせ、間違いないと『真理を見通す瞳』猪市 きゐこ(CL3000048)が頷いたのを確認し、アデル・ハビッツ(CL3000496)が口を開いた。
「ああ、俺も伏兵部隊で戦いたかった」
「まあまあ、あたし達は最後の任務、小管区に残ってる人達に引上げを伝えに行かなきゃ!」
溜息混じりに話すアデルを宥めるように、『未知への探究心』クイニィー・アルジェント(CL3000178)は努めて明るく振る舞う。情報収集をする者が『伏兵部隊』『最後の任務』といったワードが気にならないわけがない。駄目押しとばかりにきゐこが手元の紙に視線を落とす素振りをすれば、潜伏する敵兵の気配が近付いたようだった。
(「食いついたな」)
確信し、アデルは語気を強める。
「敵軍が動いたタイミングで本陣を後背から突く。さぞや爽快な奇襲になったろうよ」
「こ、声が大きいよ。シャンバラ兵に聞かれたらまずいし」
「ろくな防衛兵装も無いハリボテの砦を攻めてるやつらにか? トットも思うだろう、『伏兵部隊だったら武勲の立て放題だった』とな」
「シャンバラも馬鹿だよねぇ〜。こちらの主戦力はもう王都に向かってるって言うのに、こんな辺境まで騎士を派遣してくるだなんて!」
ハリボテの砦を落として帰還したら戦争が終わってたりして、とクイニィーが愉快そうに笑えば、辺りの空気が張り詰めた。
(どういう事だ)(既に領内に潜伏しているとでも?)(ローブの女、指令書と思しき書簡を持っているぞ)(聖央都へ出兵だと?)(いいや、そんな数の兵が送り込まれてるわけがない。罠では?)
大仰な印象を受けるアデルとクイニィーの会話は斥候に気付いて咄嗟についた嘘にしては淀みなく、どこかぎこちないトットの演技も口の軽い同僚に焦る臆病な兵士といった風に見える為、斥候達には判断がつかない。情報の真偽を確かめるべく、指令書を盗み見ようと一人の斥候がきゐこの背後へと近付いた。
――ぺき。
「そこにいるのは誰だ!」
「ちっ」
小枝を踏む音にアデルが振り返り、斥候の男が剣を抜いて木陰から飛び出す。
「おぉっと、こんな離れた所にシャンバラ兵が?!」
すかさずクイニィーの投げた炸薬の詰まった小瓶は男の足元で破裂した。真下で飛び散った炸薬を避け切れず、彼は鎧の隙間から入り込んだ強毒に苦悶の表情を浮かべる。
「聞かれたからには、逃がさないよ……!」
瞬時に間合いを詰めたトットのククリ刀が肩口にめり込み、男の武器を握る手が緩んだ刹那、アデルがランスを振るった。
ギィ……ン。間に割り込んだ小柄な斥候が、辛うじて強力な一振りを受け止めていた。体格的に、女性だろうか。
「もう一人居たか。なんにせよ、生かしては帰さん!」
気を吐いたアデルに刃が迫る。しかし。
「情報は大事だわ! そういう処を疎かにしないのは、敵ながら好感かしらね♪」
見えない壁に遮られたかのように、女の刃は届かない。フードの陰から覗くきゐこの唇が弧を描いた。
「でも、こそこそ動くのは好きだけれど、動かれるのは好きじゃないわ」
絶対零度の牢に投じられ、短い悲鳴を上げた女の体が傾く。すんでのところで踏み止まった足をアデルがランスの柄で払い、転倒した所へティンクトラの雫が投げ込まれた。体勢を立て直した男は倒れた女を抱えると、肉体を奮い立たせて地面を蹴るが、トットの放った気の一撃を受け、逃げる事も叶わないと悟る。キッと虚空を睨んだ男の顔が、驚愕に歪んだ。
「これは、ジャミング……!」
「お見通しよ♪」
きゐこのコキュートスが男の視線の先、樹上に居た三人目の斥候を捉えた。体表を氷に覆われながらも向かってきた斥候の刃を盾で受け止め、トットが叫ぶ。
「違う、これは足止めの囮……! 一人逃げるよ!」
「四人目が居たの?!」
大袈裟に驚くクイニィーに、斥候はしてやったりとばかりに口の端を上げた。
――ホムンクルスによって四人目の接近を疾うに認知していた事は、自由騎士達だけが知っていた。
●
巡回中の哨戒兵を装いつつ、サシャは折れた枝や足跡などの小さな痕跡を頼りに森を探る。シャンバラの兵装は前時代的な甲冑に似た物が多い為、イ・ラプセルの騎士達が残した足跡と見分ける事はさほど難しくない。
「二人組、だぞ」
何処か歯切れの悪いサシャに、ルークが問う。
「加えてそう遠くない所にもう一人居る、だろ?」
「見つけたんですか?」
「いや、勘だ」
経験に裏打ちされた超直観は侮れない。殲滅が望ましいと思いつつも、彼らはより確実な手段を取る事にした。
「しかしまぁ、この砦も囮としては大活躍だな」
飄然とした態度で遠くに見える砦を見上げ、ルークが呟く。
「これだけの数が動いたとなれば……聖央都はかなり手薄になっているでしょうね」
「今頃別動隊が向かっているんだぞ」
「とはいえこの城砦には、もうちょい持ち堪えてて貰わないと――敵だッ!」
「ッ、見つかったか!」
砦から視線を戻す際にたまたま視界に入ったという体で叫べば、サシャの補足していた二人組が、武器を構えて姿を現した。
「通しませんよ……!」
サラが加速した敵に拮抗する速度で追い縋り、ショートソードが閃く。初撃でガードを崩し、二撃目の突きは剣を持つ敵の上腕へ。直後、もう一人の斥候に死角から斬りつけられ、サラの脇腹から血が飛び散る。
「大丈夫、サシャに任せるんだぞ!」
即座に編み上げられた術式は傷を塞ぎ、サラは十全な状態で再び踏み込んだ。相対する斥候はバックラーで受けるも、利き腕の負傷が響いているのか、反撃が覚束ない。既に手一杯になっている斥候へ、銃口が向いた。
「おっと」
ルークが引き金を引くと同時、金属製の盾を構えた斥候が割って入り、一瞬標的を見失う。それでも僅かな逡巡すらなく、ルークは古木の陰に体を滑り込ませるようにして盾の一撃から逃れ、弾を篭め直した銃を構えた。標的は盾を振り抜き、無防備になったその身体。狙いすまされた一発は鎧すらも貫き、斥候の体へ深く潜り込む。
「この戦争、絶対に負けません……!」
幾度かの剣の応酬の末、サラの刃が敵の首を捉えた。斬りつけられた斥候がその場に崩れ落ちたのを見届け、サシャはもう一人の斥候を氷の棺へ誘う。戦いの流れが自分達にあるのを確信し、ルークがニヒルな笑みを浮かべた。
「冥土の土産に教えてやろうか。この先は哨戒塔から死角になってる上にな、警備が最も甘い」
「みんな別動隊で行っちゃったから、サシャ達がここを見回ってたんだぞ!」
「二人とも、駄目ですよ?」
サラが困ったように二人を諫めるが、ルークは問題ないと笑い飛ばす。
「死人に口なし、と言うだろう?」
引き金を引く寸前、斥候は目の前に居る騎士達から視線を外し、遠くを見つめていた。終ぞ何処かに潜んだままだった仲間に、死の間際に得た情報を送ったに違いなかった。
●
三人の斥候を捕縛したきゐこ達は、リュンケウスの瞳による観察を続けていたアデルの誘導の下、四人目の斥候を追う。
「っと、待ってっ! そこに誰かいるわ!」
きゐこが喚起するが早いか、小剣を振りかぶり、男が飛び掛かってきた。ほぼ真上からの襲撃に真っ先に反応したのはトット。小ぶりな盾で防ぐには重すぎる斬撃に歯を食いしばりながらも、敵を観察する。
「……逃げた斥候じゃないよ!」
「じゃあ、後ろに居るのは?」
クイニィーが視線もくれずに後方に放った炸薬は、両手にナイフを持つ斥候へと直撃した。既に攻撃動作に入っていた男は避ける事も防ぐ事も出来ず、真正面から強毒を浴び、のたうつ。
「待ち伏せて挟み撃ちにするつもりだったか? 残念だったな」
こういった状況ではトットとクイニィーの第六感が十二分に発揮され、生半可な不意打ちでは効果が発揮されないのだが、斥候達は知る由もない。力任せに斬り伏せようとトットに圧し掛かる斥候の側面を、アデルのバッシュが叩いた。渾身の一振りが与える衝撃は全身甲冑を以てしても殺せず、体勢を崩した男にトットが放った最速の一撃は、意識を刈り取るのに十分であった。
「斥候の方から攻撃してくるなんて――さしずめ足止め役、というところかしらね?」
きゐこの強力な氷の呪いに囚われ、四対一で取り囲まれても足掻く斥候に問えば、彼はにやりと口を歪めた。
「貴様らの城砦が囮だという事はもう分かっている。その情報を得た仲間は今頃本隊に合流しているだろうさ」
神敵の目論見は潰えた、自分は役目を果たしたとばかりに誇らしげに胸を張る斥候に、自由騎士達は思わず顔を見合わせる。
(「ここまで見事に騙されてくれると、ちょっと気持ち良いよね」)
小声で呟いたクイニィーに、仲間達もひっそり頷くのであった。
●
その頃、二名の斥候が合流を果たした白銀騎士団の部隊では。
「その情報に、間違いはないんだな?」
「ええ。幸い撤退の間際まで私の存在に気付いていなかったので情報を持ち帰れましたが……仲間がテレパスを妨害されていたので、外に漏らしたくない情報だったのは間違いないかと」
「そして、この先の守りは薄い、と」
「仲間が死の間際に得た情報です。奴らめ、冥土の土産などと……ッ!」
部下の報告を聞いた隊長は、顎に手を当てて考える。下した結論は、
「にわかには信じ難い所もあるが……、斥候二名は聖央都への進軍の真偽の程を確認してくれ。そしてここからは部隊を分ける。我々は防護の薄い所から城砦の攻略に向かうが、一部はここに残り挟撃に備え、退路の確保に動いてくれ」
――結果、城砦の守りが厚い所に攻め込まされた聖堂騎士の多くが死亡、もしくは捕虜となり、残った者達はありもしない後背からの襲撃に警戒し続けるのだった。
湿った土の匂いに、独特の鉄臭さが混じる。時折遠くから聞こえる怒号に、戦争が始まったのだと嫌でも痛感させられる。先の北方迎撃戦を思い返してか、『こむぎのパン』サラ・ケーヒル(CL3000348)は胸の前でぎゅうと手を握り締めた。
「わたしの力はあまりにも小さくて……すべてを守ることはできません」
救えなかった者が居たからといって彼女が気に病む必要は無いのだが、生来の真面目さ故か、簡単に割り切る事は出来ないようだ。
「ですから……わたしは、わたしの大切な家族と……その生活だけは絶対に守ります」
その為にも戦う事を厭わないと誓うサラを見上げ、『教会の勇者!』サシャ・プニコフ(CL3000122)はにこりと笑う。
「家族かー、サシャも弟たちを守るんだぞ。でも、おやつをこそこそ盗み食いするから困ってるんだぞ」
そう言いながらふわふわの耳を前に傾け、目の前の仲間にだけ聞こえるような小さな声で囁いた。
(「だから、こそこそしているやつを見つけるのはとっても得意なんだぞ。そこの木の上にいるやつとか」)
攪乱か、戦闘か。判断を仰ぐ為、『私立探偵』ルーク・H・アルカナム(CL3000490)にちらりと視線を送ると、彼は襟を直すような自然な仕草でジャケットの下に付けたホルスターへ手を伸ばし、察したサラがジャミングを行う。
「悪いが、死んでもらおう」
発砲。不自然に葉の多い樹上に撃ち込まれた弾丸は敵を穿つ事こそ叶わなかったが、留め具を壊されたのか、暗色のマントがひらりと地に落ちた。三対一の現状に、姿を晒した斥候は着地するなり身を翻したが、
「逃がしません……!」
双方選んだのは加速の一手。ほんの僅かな差で、森の中での行動に長けたサラに軍配が上がった。サラに回り込まれ、逃げ場を失った斥候は小剣を抜く。斥候の放った鋭い突きをサラはいなすが、すぐに二撃目が振り下ろされた。ショートソードを水平に掲げて受け、よろめいた彼女の姿に斥候は口角を上げる――が、全身を締め上げるような冷気に動きを鈍らせた。
肺を満たす、凍て付くような空気。そこで斥候は、自身が氷の檻に囚われている事に気付く。
「おやつをこっそり頂くのとはわけが違うんだぞ」
拓いた退路をそのまま走り抜ければ助かったかもしれない。だが、斥候がサシャに気をやったほんの一瞬。ごつり。後頭部に銃口が押し当てられた。
「情報を抜かれると、他の戦場にいる義姉と義妹が困るんでな」
至近距離で引き金を引かれ、斥候は突き飛ばされるように倒れると、そのまま動かなくなった。
「ここからだと銃眼が見えるからな。耐熱塗装もバレた可能性がある」
よって戦闘を選んだと二人に告げ、ルークは斥候を見やる。
「まずは一人か……先は長いな」
●
ぴくり。遠くに響く剣戟、辺りに満ちる葉擦れの音、たくさんの雑音の中から『所信表明』トット・ワーフ(CL3000396)の自慢の耳は、特定の音を拾い上げる。行軍ではなく少人数で、足音を殺そうとしているが故に不自然になる、その微かな足音を。
彼の耳が向いた方角にリュンケウスの瞳を宿した視線を巡らせ、間違いないと『真理を見通す瞳』猪市 きゐこ(CL3000048)が頷いたのを確認し、アデル・ハビッツ(CL3000496)が口を開いた。
「ああ、俺も伏兵部隊で戦いたかった」
「まあまあ、あたし達は最後の任務、小管区に残ってる人達に引上げを伝えに行かなきゃ!」
溜息混じりに話すアデルを宥めるように、『未知への探究心』クイニィー・アルジェント(CL3000178)は努めて明るく振る舞う。情報収集をする者が『伏兵部隊』『最後の任務』といったワードが気にならないわけがない。駄目押しとばかりにきゐこが手元の紙に視線を落とす素振りをすれば、潜伏する敵兵の気配が近付いたようだった。
(「食いついたな」)
確信し、アデルは語気を強める。
「敵軍が動いたタイミングで本陣を後背から突く。さぞや爽快な奇襲になったろうよ」
「こ、声が大きいよ。シャンバラ兵に聞かれたらまずいし」
「ろくな防衛兵装も無いハリボテの砦を攻めてるやつらにか? トットも思うだろう、『伏兵部隊だったら武勲の立て放題だった』とな」
「シャンバラも馬鹿だよねぇ〜。こちらの主戦力はもう王都に向かってるって言うのに、こんな辺境まで騎士を派遣してくるだなんて!」
ハリボテの砦を落として帰還したら戦争が終わってたりして、とクイニィーが愉快そうに笑えば、辺りの空気が張り詰めた。
(どういう事だ)(既に領内に潜伏しているとでも?)(ローブの女、指令書と思しき書簡を持っているぞ)(聖央都へ出兵だと?)(いいや、そんな数の兵が送り込まれてるわけがない。罠では?)
大仰な印象を受けるアデルとクイニィーの会話は斥候に気付いて咄嗟についた嘘にしては淀みなく、どこかぎこちないトットの演技も口の軽い同僚に焦る臆病な兵士といった風に見える為、斥候達には判断がつかない。情報の真偽を確かめるべく、指令書を盗み見ようと一人の斥候がきゐこの背後へと近付いた。
――ぺき。
「そこにいるのは誰だ!」
「ちっ」
小枝を踏む音にアデルが振り返り、斥候の男が剣を抜いて木陰から飛び出す。
「おぉっと、こんな離れた所にシャンバラ兵が?!」
すかさずクイニィーの投げた炸薬の詰まった小瓶は男の足元で破裂した。真下で飛び散った炸薬を避け切れず、彼は鎧の隙間から入り込んだ強毒に苦悶の表情を浮かべる。
「聞かれたからには、逃がさないよ……!」
瞬時に間合いを詰めたトットのククリ刀が肩口にめり込み、男の武器を握る手が緩んだ刹那、アデルがランスを振るった。
ギィ……ン。間に割り込んだ小柄な斥候が、辛うじて強力な一振りを受け止めていた。体格的に、女性だろうか。
「もう一人居たか。なんにせよ、生かしては帰さん!」
気を吐いたアデルに刃が迫る。しかし。
「情報は大事だわ! そういう処を疎かにしないのは、敵ながら好感かしらね♪」
見えない壁に遮られたかのように、女の刃は届かない。フードの陰から覗くきゐこの唇が弧を描いた。
「でも、こそこそ動くのは好きだけれど、動かれるのは好きじゃないわ」
絶対零度の牢に投じられ、短い悲鳴を上げた女の体が傾く。すんでのところで踏み止まった足をアデルがランスの柄で払い、転倒した所へティンクトラの雫が投げ込まれた。体勢を立て直した男は倒れた女を抱えると、肉体を奮い立たせて地面を蹴るが、トットの放った気の一撃を受け、逃げる事も叶わないと悟る。キッと虚空を睨んだ男の顔が、驚愕に歪んだ。
「これは、ジャミング……!」
「お見通しよ♪」
きゐこのコキュートスが男の視線の先、樹上に居た三人目の斥候を捉えた。体表を氷に覆われながらも向かってきた斥候の刃を盾で受け止め、トットが叫ぶ。
「違う、これは足止めの囮……! 一人逃げるよ!」
「四人目が居たの?!」
大袈裟に驚くクイニィーに、斥候はしてやったりとばかりに口の端を上げた。
――ホムンクルスによって四人目の接近を疾うに認知していた事は、自由騎士達だけが知っていた。
●
巡回中の哨戒兵を装いつつ、サシャは折れた枝や足跡などの小さな痕跡を頼りに森を探る。シャンバラの兵装は前時代的な甲冑に似た物が多い為、イ・ラプセルの騎士達が残した足跡と見分ける事はさほど難しくない。
「二人組、だぞ」
何処か歯切れの悪いサシャに、ルークが問う。
「加えてそう遠くない所にもう一人居る、だろ?」
「見つけたんですか?」
「いや、勘だ」
経験に裏打ちされた超直観は侮れない。殲滅が望ましいと思いつつも、彼らはより確実な手段を取る事にした。
「しかしまぁ、この砦も囮としては大活躍だな」
飄然とした態度で遠くに見える砦を見上げ、ルークが呟く。
「これだけの数が動いたとなれば……聖央都はかなり手薄になっているでしょうね」
「今頃別動隊が向かっているんだぞ」
「とはいえこの城砦には、もうちょい持ち堪えてて貰わないと――敵だッ!」
「ッ、見つかったか!」
砦から視線を戻す際にたまたま視界に入ったという体で叫べば、サシャの補足していた二人組が、武器を構えて姿を現した。
「通しませんよ……!」
サラが加速した敵に拮抗する速度で追い縋り、ショートソードが閃く。初撃でガードを崩し、二撃目の突きは剣を持つ敵の上腕へ。直後、もう一人の斥候に死角から斬りつけられ、サラの脇腹から血が飛び散る。
「大丈夫、サシャに任せるんだぞ!」
即座に編み上げられた術式は傷を塞ぎ、サラは十全な状態で再び踏み込んだ。相対する斥候はバックラーで受けるも、利き腕の負傷が響いているのか、反撃が覚束ない。既に手一杯になっている斥候へ、銃口が向いた。
「おっと」
ルークが引き金を引くと同時、金属製の盾を構えた斥候が割って入り、一瞬標的を見失う。それでも僅かな逡巡すらなく、ルークは古木の陰に体を滑り込ませるようにして盾の一撃から逃れ、弾を篭め直した銃を構えた。標的は盾を振り抜き、無防備になったその身体。狙いすまされた一発は鎧すらも貫き、斥候の体へ深く潜り込む。
「この戦争、絶対に負けません……!」
幾度かの剣の応酬の末、サラの刃が敵の首を捉えた。斬りつけられた斥候がその場に崩れ落ちたのを見届け、サシャはもう一人の斥候を氷の棺へ誘う。戦いの流れが自分達にあるのを確信し、ルークがニヒルな笑みを浮かべた。
「冥土の土産に教えてやろうか。この先は哨戒塔から死角になってる上にな、警備が最も甘い」
「みんな別動隊で行っちゃったから、サシャ達がここを見回ってたんだぞ!」
「二人とも、駄目ですよ?」
サラが困ったように二人を諫めるが、ルークは問題ないと笑い飛ばす。
「死人に口なし、と言うだろう?」
引き金を引く寸前、斥候は目の前に居る騎士達から視線を外し、遠くを見つめていた。終ぞ何処かに潜んだままだった仲間に、死の間際に得た情報を送ったに違いなかった。
●
三人の斥候を捕縛したきゐこ達は、リュンケウスの瞳による観察を続けていたアデルの誘導の下、四人目の斥候を追う。
「っと、待ってっ! そこに誰かいるわ!」
きゐこが喚起するが早いか、小剣を振りかぶり、男が飛び掛かってきた。ほぼ真上からの襲撃に真っ先に反応したのはトット。小ぶりな盾で防ぐには重すぎる斬撃に歯を食いしばりながらも、敵を観察する。
「……逃げた斥候じゃないよ!」
「じゃあ、後ろに居るのは?」
クイニィーが視線もくれずに後方に放った炸薬は、両手にナイフを持つ斥候へと直撃した。既に攻撃動作に入っていた男は避ける事も防ぐ事も出来ず、真正面から強毒を浴び、のたうつ。
「待ち伏せて挟み撃ちにするつもりだったか? 残念だったな」
こういった状況ではトットとクイニィーの第六感が十二分に発揮され、生半可な不意打ちでは効果が発揮されないのだが、斥候達は知る由もない。力任せに斬り伏せようとトットに圧し掛かる斥候の側面を、アデルのバッシュが叩いた。渾身の一振りが与える衝撃は全身甲冑を以てしても殺せず、体勢を崩した男にトットが放った最速の一撃は、意識を刈り取るのに十分であった。
「斥候の方から攻撃してくるなんて――さしずめ足止め役、というところかしらね?」
きゐこの強力な氷の呪いに囚われ、四対一で取り囲まれても足掻く斥候に問えば、彼はにやりと口を歪めた。
「貴様らの城砦が囮だという事はもう分かっている。その情報を得た仲間は今頃本隊に合流しているだろうさ」
神敵の目論見は潰えた、自分は役目を果たしたとばかりに誇らしげに胸を張る斥候に、自由騎士達は思わず顔を見合わせる。
(「ここまで見事に騙されてくれると、ちょっと気持ち良いよね」)
小声で呟いたクイニィーに、仲間達もひっそり頷くのであった。
●
その頃、二名の斥候が合流を果たした白銀騎士団の部隊では。
「その情報に、間違いはないんだな?」
「ええ。幸い撤退の間際まで私の存在に気付いていなかったので情報を持ち帰れましたが……仲間がテレパスを妨害されていたので、外に漏らしたくない情報だったのは間違いないかと」
「そして、この先の守りは薄い、と」
「仲間が死の間際に得た情報です。奴らめ、冥土の土産などと……ッ!」
部下の報告を聞いた隊長は、顎に手を当てて考える。下した結論は、
「にわかには信じ難い所もあるが……、斥候二名は聖央都への進軍の真偽の程を確認してくれ。そしてここからは部隊を分ける。我々は防護の薄い所から城砦の攻略に向かうが、一部はここに残り挟撃に備え、退路の確保に動いてくれ」
――結果、城砦の守りが厚い所に攻め込まされた聖堂騎士の多くが死亡、もしくは捕虜となり、残った者達はありもしない後背からの襲撃に警戒し続けるのだった。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
称号付与
『演技派』
取得者: ルーク・H・アルカナム(CL3000490)
『芝居上手』
取得者: アデル・ハビッツ(CL3000496)
『譎詐百端』
取得者: クイニィー・アルジェント(CL3000178)
取得者: ルーク・H・アルカナム(CL3000490)
『芝居上手』
取得者: アデル・ハビッツ(CL3000496)
『譎詐百端』
取得者: クイニィー・アルジェント(CL3000178)
†あとがき†
情報が錯綜する程度かと思いきや、思いの外がっつり騙してくれてプレイングを拝見するのがとても楽しかったです。
皆様技能をしっかり活かしてくださり、成功となりました。
皆様技能をしっかり活かしてくださり、成功となりました。
FL送付済