MagiaSteam




〈魔女狩り騎士団〉信念に狂い、身命を喰らう

●信念、妄念、あるいはその成れの果て
――最悪だったのは、ちょうどそこにイ・ラプセルからの入植者がいたことだった。
元シャンバラであった新領地は広く、それゆえに新たな開拓が必要な場所も多々あった。
その中の一つが、運が悪いことにかの山の近くにあったのだ。
開拓村はできてまだ数か月、人は精々百人もいない小さな村であった。
その日の朝、開拓民達は普通に起きて、普通に仕事に出ようとしていた。
近くには岩山があって、そこからいつも朝日が顔を出すので、開拓民達はそれを目印にして仕事に出ているのだ、もちろん、今日も。
「……おや?」
だが見上げた一人が、違和感に気づいた。
いつもの岩山に、朝日を背にして何者かが立っている。
人? 獣? いや、あの影はそのどれでもなく、まるで伝説にある――、
「救済の日は訪れた!」
岩山より、眼下の開拓村に向かって響く朗々たる声。
人々の注目を集めながら、声を発した人物は自分がまたがる巨大な『ソレ』の手綱を握る。
「我が神聖なる神の国を踏み荒らす侵略者よ、我が正義の炎に焼かれるがいい!」
そして、巨大な影が動いた。
開かれる巨大な翼。鎌首をもたげていた長い首がうねり、大きなあぎとが開かれる。
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
「我が名はゲオルグ・ホーソーン! シャンバラを解き放つ救国の騎士なり!」
咆哮と共に、黒騎士ゲオルグもまた叫ぶ。
その瞳にはもう何も映っていない。あるのはただ、狂おしいまでの信念だけ。
「吼えろ――、〈黒竜王〉! シャンバラを救わんがために!」
開拓村は五分ももつことなく、全滅した。
●神の使徒に引導を
すべては、水鏡が捉えた未来の映像だった。
「――よりにもよって」
予知の内容を知ったジョセフ・クラーマーは、珍しくその顔を苦々しく歪ませていた。
集められた自由騎士達も、一様に戸惑いの表情を浮かべている。
予知の映像の中にあった黒いドラゴン。
それを、彼らは知っていた。
「……赤竜王?」
自由騎士の一人が言う。
それは、かつて存在したシャンバラ最強の赤竜騎士団の象徴たる大聖獣。
単体で驚異的な戦力を保有する、魔導生物の極致であったものの名だ。
しかし、シャンバラとの最終決戦の折、赤竜王もまた討たれて息絶えた。はずだ。
「あれは、赤竜王ではない」
ジョセフが言う。
「まだシャンバラが健在であった頃、一つの研究が行われていた」
「研究?」
「そうだ。聖櫃をはじめとして、シャンバラの基盤を作っていたシステムの多くは神ミトラースの御力によって成り立っていた。神の存在を前提としたものだったのだ。……しかし、とある信徒の一派が、神ミトラースに何かあった場合を考えて、そうではないシステムの構築を目指した。神の力なくとも稼働する魔導装置、というテーマでな」
その話を聞いて、自由騎士達の間に不安げな空気が広がっていく。
「じゃあ、あの黒いドラゴンは……?」
「そうだ。神ミトラースなくとも力を振るうことのできる大聖獣。その試作型であるモノだ。名は〈黒竜王〉。……私の知る限り、書類の上では破棄・処分されたはずなのだがな」
「何故、処分なんだ?」
自由騎士が見る限り、予知の映像の中の〈黒竜王〉は恐るべき戦力を持っているように見えたが――、
「神ミトラースの力なく稼働するために必要な燃料が、な……」
ジョセフが一瞬口ごもり、そして言った。
「あれは、人の命を燃料とするのだ」
「人の……!?」
自由騎士達が愕然となる。彼の言葉の意味、つまりそれは――、
「すでに二人、ゲオルグ・ホーソーンはアレに喰わせたようだな」
続くジョセフの言葉に自由騎士達が気づく。そうだ、黒騎士の残りは三人。しかし、今見た予知の映像にはゲオルグ一人しか映っていなかった。
「バカな! 何で、そんな!?」
「魔女を清め、シャンバラを取り戻す。そのための尊い犠牲、ということだろう」
ジョセフが言うと、場は静まり返った。
「……ジョセフ、さっき言ってた、ミトラースがいなくても動く魔導システムの構築を目指した、とある一派っていうのは、もしかして」
「言うまでもないだろう……。兄の息がかかった連中だ」
やはり、ゲオルグ・クラーマーの遺産。だがこれはその中でも、特級に厄介だ。
「やるべきことは簡単だ。あのデカブツを迎撃し、潰す。それだけだ。しかし一度逃がせば大変なことになるだろう。高速で飛行するアレはソラビトでも追跡できまい。そして、人は全て餌だ。人里を襲う限り、アレが止まることはない。もはや災厄に等しい」
そしてそれを駆るは、見える全てを魔女と断じる狂える黒騎士。
「おそらくは、あれはゲオルグ・クラーマーにとっても切り札中の切り札であるに違いない。つまりは〈黒竜王〉さえ止めれば、もうあの男の遺産はネタ切れ。今度こそ決着というワケだ。長らく続いた残党共との戦いも、これで決着だ。皆、力を貸していただきたい」
深く頭を下げるジョセフに、自由騎士達はうなずいた。
――最悪だったのは、ちょうどそこにイ・ラプセルからの入植者がいたことだった。
元シャンバラであった新領地は広く、それゆえに新たな開拓が必要な場所も多々あった。
その中の一つが、運が悪いことにかの山の近くにあったのだ。
開拓村はできてまだ数か月、人は精々百人もいない小さな村であった。
その日の朝、開拓民達は普通に起きて、普通に仕事に出ようとしていた。
近くには岩山があって、そこからいつも朝日が顔を出すので、開拓民達はそれを目印にして仕事に出ているのだ、もちろん、今日も。
「……おや?」
だが見上げた一人が、違和感に気づいた。
いつもの岩山に、朝日を背にして何者かが立っている。
人? 獣? いや、あの影はそのどれでもなく、まるで伝説にある――、
「救済の日は訪れた!」
岩山より、眼下の開拓村に向かって響く朗々たる声。
人々の注目を集めながら、声を発した人物は自分がまたがる巨大な『ソレ』の手綱を握る。
「我が神聖なる神の国を踏み荒らす侵略者よ、我が正義の炎に焼かれるがいい!」
そして、巨大な影が動いた。
開かれる巨大な翼。鎌首をもたげていた長い首がうねり、大きなあぎとが開かれる。
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
「我が名はゲオルグ・ホーソーン! シャンバラを解き放つ救国の騎士なり!」
咆哮と共に、黒騎士ゲオルグもまた叫ぶ。
その瞳にはもう何も映っていない。あるのはただ、狂おしいまでの信念だけ。
「吼えろ――、〈黒竜王〉! シャンバラを救わんがために!」
開拓村は五分ももつことなく、全滅した。
●神の使徒に引導を
すべては、水鏡が捉えた未来の映像だった。
「――よりにもよって」
予知の内容を知ったジョセフ・クラーマーは、珍しくその顔を苦々しく歪ませていた。
集められた自由騎士達も、一様に戸惑いの表情を浮かべている。
予知の映像の中にあった黒いドラゴン。
それを、彼らは知っていた。
「……赤竜王?」
自由騎士の一人が言う。
それは、かつて存在したシャンバラ最強の赤竜騎士団の象徴たる大聖獣。
単体で驚異的な戦力を保有する、魔導生物の極致であったものの名だ。
しかし、シャンバラとの最終決戦の折、赤竜王もまた討たれて息絶えた。はずだ。
「あれは、赤竜王ではない」
ジョセフが言う。
「まだシャンバラが健在であった頃、一つの研究が行われていた」
「研究?」
「そうだ。聖櫃をはじめとして、シャンバラの基盤を作っていたシステムの多くは神ミトラースの御力によって成り立っていた。神の存在を前提としたものだったのだ。……しかし、とある信徒の一派が、神ミトラースに何かあった場合を考えて、そうではないシステムの構築を目指した。神の力なくとも稼働する魔導装置、というテーマでな」
その話を聞いて、自由騎士達の間に不安げな空気が広がっていく。
「じゃあ、あの黒いドラゴンは……?」
「そうだ。神ミトラースなくとも力を振るうことのできる大聖獣。その試作型であるモノだ。名は〈黒竜王〉。……私の知る限り、書類の上では破棄・処分されたはずなのだがな」
「何故、処分なんだ?」
自由騎士が見る限り、予知の映像の中の〈黒竜王〉は恐るべき戦力を持っているように見えたが――、
「神ミトラースの力なく稼働するために必要な燃料が、な……」
ジョセフが一瞬口ごもり、そして言った。
「あれは、人の命を燃料とするのだ」
「人の……!?」
自由騎士達が愕然となる。彼の言葉の意味、つまりそれは――、
「すでに二人、ゲオルグ・ホーソーンはアレに喰わせたようだな」
続くジョセフの言葉に自由騎士達が気づく。そうだ、黒騎士の残りは三人。しかし、今見た予知の映像にはゲオルグ一人しか映っていなかった。
「バカな! 何で、そんな!?」
「魔女を清め、シャンバラを取り戻す。そのための尊い犠牲、ということだろう」
ジョセフが言うと、場は静まり返った。
「……ジョセフ、さっき言ってた、ミトラースがいなくても動く魔導システムの構築を目指した、とある一派っていうのは、もしかして」
「言うまでもないだろう……。兄の息がかかった連中だ」
やはり、ゲオルグ・クラーマーの遺産。だがこれはその中でも、特級に厄介だ。
「やるべきことは簡単だ。あのデカブツを迎撃し、潰す。それだけだ。しかし一度逃がせば大変なことになるだろう。高速で飛行するアレはソラビトでも追跡できまい。そして、人は全て餌だ。人里を襲う限り、アレが止まることはない。もはや災厄に等しい」
そしてそれを駆るは、見える全てを魔女と断じる狂える黒騎士。
「おそらくは、あれはゲオルグ・クラーマーにとっても切り札中の切り札であるに違いない。つまりは〈黒竜王〉さえ止めれば、もうあの男の遺産はネタ切れ。今度こそ決着というワケだ。長らく続いた残党共との戦いも、これで決着だ。皆、力を貸していただきたい」
深く頭を下げるジョセフに、自由騎士達はうなずいた。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.〈黒竜王〉完全殺害
2.ゲオルグ・ホーソーン撃破
2.ゲオルグ・ホーソーン撃破
ゲオルグ・クラーマー、すごいヤバイブツをチョロまかしていたの巻。
年末ですね、決着のときです。
以下、シナリオ内容詳細。
●敵勢力
・ゲオルグ・ホーソーン
最後の黒騎士であり、ゲオルグの名を継ぐ者でした。
過去形です。
今やシャンバラ救国という妄念にとりつかれた狂える騎士と成り果てました。
ランク2までの魔剣士のスキルをすべて使います。
これまでの戦いで全部登場しています。また、重戦士のスキルも使います。
・試作型大聖獣〈黒竜王〉
赤竜王そっくりの外見をした試作型大聖獣です。
攻撃力・魔導力・防御力・魔抗力。全てがかなり高いです。
さらに敵は常に飛行しており、飛行速度はソラビトを大きく超えます。
攻撃方法は下記のとおりです。
・炎(貫通) 魔・貫通100・100 対象にバーン2を付与。
・炎(広域) 魔遠範 対象にバーン2を付与。
・炎(単体) 魔遠単 威力極大 対象にバーン3を付与。
・爪攻撃 攻近範 与えたダメージの半分を回復。
・牙攻撃 攻近単 威力極大・与えたダメージの半分を回復。
※「人を喰うことで稼働する」という非道さより、この〈黒竜王〉については完全殺害の指示が下されています。捕らえて持ち帰ることはできません。
●戦場
戦場は開拓村から少し離れた場所にある平原となります。
時間帯は日の出頃で、〈黒竜王〉が地上に出てきた直後となります。
なお、五分以内に敵を撃退できない場合、敵は逃げます。ご注意ください。
長らく続いた黒騎士との戦いもこれで決着となります。
皆様のご参加をお待ちしています。
年末ですね、決着のときです。
以下、シナリオ内容詳細。
●敵勢力
・ゲオルグ・ホーソーン
最後の黒騎士であり、ゲオルグの名を継ぐ者でした。
過去形です。
今やシャンバラ救国という妄念にとりつかれた狂える騎士と成り果てました。
ランク2までの魔剣士のスキルをすべて使います。
これまでの戦いで全部登場しています。また、重戦士のスキルも使います。
・試作型大聖獣〈黒竜王〉
赤竜王そっくりの外見をした試作型大聖獣です。
攻撃力・魔導力・防御力・魔抗力。全てがかなり高いです。
さらに敵は常に飛行しており、飛行速度はソラビトを大きく超えます。
攻撃方法は下記のとおりです。
・炎(貫通) 魔・貫通100・100 対象にバーン2を付与。
・炎(広域) 魔遠範 対象にバーン2を付与。
・炎(単体) 魔遠単 威力極大 対象にバーン3を付与。
・爪攻撃 攻近範 与えたダメージの半分を回復。
・牙攻撃 攻近単 威力極大・与えたダメージの半分を回復。
※「人を喰うことで稼働する」という非道さより、この〈黒竜王〉については完全殺害の指示が下されています。捕らえて持ち帰ることはできません。
●戦場
戦場は開拓村から少し離れた場所にある平原となります。
時間帯は日の出頃で、〈黒竜王〉が地上に出てきた直後となります。
なお、五分以内に敵を撃退できない場合、敵は逃げます。ご注意ください。
長らく続いた黒騎士との戦いもこれで決着となります。
皆様のご参加をお待ちしています。

状態
完了
完了
報酬マテリア
7個
3個
3個
3個




参加費
150LP [予約時+50LP]
150LP [予約時+50LP]
相談日数
9日
9日
参加人数
10/10
10/10
公開日
2020年01月08日
2020年01月08日
†メイン参加者 10人†
●狂信、かくも無残なるか
「……いたな」
ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)が、空を舞うソレを見つけた。
「距離と高度を考えると――、やはり、相当デカいな、ありゃ」
空を見上げ、『灼熱からの帰還者』ザルク・ミステル(CL3000067)が呟く。
「ゲオルグの最後の遺産か……。いい加減、こいつで終わりにしたいがな」
さらに言って彼とウェルスは、無造作に銃を構えて空へと撃ち放つ。
遠くを舞う大きな影が、その銃声に身を震わせるのが分かった。
「さて、来るぞ。全員、準備はいいな」
「おう。大丈夫だ」
武具を構える『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)の声に、『たとえ神様ができなくとも』ナバル・ジーロン(CL3000441)がうなずいた。
ナバルもまた空を見た。
大きな影が、徐々に大きさを増している。それを見て、彼は唇を歪ませた。
「何で、こんなことになっちまったんだよ」
今はまだ、誰に向けてのものでもない問いかけ。もちろん答える者はない。
「さて、決着をつけてやるぜ。シャンバラの残滓」
だがどのような感情を胸に抱こうとも、闘いのときは近づく。
今回、唯一戦いに参加したヨウセイとして、シャンバラとの因縁の清算を図ろうとする『黒衣の魔女』オルパ・エメラドル(CL3000515)と――、
「Uoooooooooooooooo! killkillkillkill! kiiiiiiiiiiiiiirrrrrl!」
神への祈りを狂気に変えて、戦の猛威そのものと化す『黒き狂戦士』ナイトオウル・アラウンド(CL3000395)。様相は違えど、二人が放つ殺気は共に鋭い。
そして、敵は来た。
「フ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ――――ッッッッ!」
響き轟く笑い声は、漆黒の飛竜の背にまたがる黒い騎士のもの。
かつては同じ装いの同胞を多く従え、元シャンバラの民を魔女と断じ、私刑に処してきたこの騒乱の根源。ゲオルグ・ホーソーンである。
「自由騎士、自ら罪を贖いに来たか、自由騎士よ!」
見覚えのある顔を見て、ゲオルグは狂喜していた。またがる黒い竜が彼の笑い声につられて場に咆哮を轟かせる。
大気が震え、地が揺れる。
聞く者全てにそんな錯覚を抱かせる、圧倒的な力に満ちた咆哮であった。
「……これが、〈黒竜王〉」
竜翼が巻き起こす風に全身を晒しながら、『SALVATORIUS』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)が静かに漏らす。
見上げた先にいるのは強敵であるはずだった。
しかしなぜだろう。心が浮かない。血が沸かない。肉が躍らない。
ただ、始末をつけなければという義務感が、彼女に拳を握らせているだけだった。
「笑えてないな、ミルトスよ」
「ツボミさん……」
そんな彼女の横に立ち、『魔女狩り将軍の友人』非時香・ツボミ(CL3000086)が小さいながらも苦い笑みを浮かべていた。彼女もまた、同じ心持ちだった。
「おまえさんが楽しくないのはな、あれがすでに形骸と化しているからだ」
「形骸、ですか……?」
「そうだ。よく見てみるがいい」
ツボミに言われて、ミルトスは改めてゲオルグを見た。
「フハッ! フハハハハハハハ! 見よ、我はついに神敵と相対せり! 主ミトラースの御導きに間違いあるまい! おお、主よ! 偉大なる我が主よ!」
猛々しくも叫び続けるゲオルグの姿を見て、ミルトスはようやく気付いた。
「何も、響いてきませんね」
「そういうこった。言葉こそは神への祈りだが、あれじゃ奇声と何も変わらん」
ツボミは言うと、軽く髪を掻いた。
「切ないもんだな、二人目よ。拠り所を失ったまま長く追われれば狂するのも無理はなかろうが、それでも、その名は最期まで背負っていて欲しかったぞ」
「最期まで背負うなんて大業、成し遂げられるのは一人目くらいでしょう」
今度こそ、ミルトスが拳を構えた。
それを見てツボミは「だから残念なんだよ」と告げ、後方に回る。
一方、つばを飛ばしながら吼え狂うゲオルグと〈黒竜王〉を見て、ジョセフ・クラ―マーはただただ無言を貫いていた。
「お得意の説法の一つでもかましてやったらどうだね、クラ―マー卿」
その背中に、『達観者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)が声をかける。
ジョセフは振り返り、そしてかぶりを振った。
それも予想済みだったようで、テオドールは逆に小さく首肯した。
「説法とは、聞く耳を持つ者のために説くもの。やはり、ああも分かりやすく己の殻に閉じこもってしまっている者には効果がない、というわけか」
「その通りだ。言葉の力は絶大だが、万能でもなく、最強でもない」
「確かにそうだな。それに、そもそも――」
テオドールがゲオルグよりもさらに高い場所に目をやり、告げた。
「戦いは、もう始まってしまっていることだしな」
彼女はすでに〈黒竜王〉の背後へと回り込んでいた。
ゲオルグが自由騎士達に迫るべく高度を下げたので随分とやりやすかった。
「――ゲオルグ・ホーソーン!」
そして彼女は狂える男の名を叫ぶ。
「ぬぅ!?」
ゲオルグが振り向けば、そこには昇り始めた朝日を背に両手を掲げた『喪主』エル・エル(CL3000370)が威風堂々、彼を見下ろしていた。
「おまえにかける言葉はない。……焼き尽くされて、死ね!」
そして、彼女がかかげた両手に滾る二つの太陽にも似た灼熱の魔導。
初手全力。エルのオリジナル魔導が、黒竜めがけて火を噴いた。
赤熱の輝きは連なる二つの星となって〈黒竜王〉の翼の付け根に直撃する。
「やった!」
ハラハラしつつ見守っていたザルクが、声と共に拳を握る。
「墜ちてくるぞ、散れ!」
アデルの声に自由騎士達は各々その場から動いて、大きく輪を作った。
そしてその中心、誰もいない地べたに今、黒い巨体が墜落する。
地面を砕き、派手に土煙を巻き上げた失墜の轟音こそ、決戦の開始を告げる号砲。
「行きましょう」
ミルトスが、地面を蹴って駆けだした。
●狂乱、それは凄絶にして
幸運だったのは、地に墜ちた〈黒竜王〉がひっくり返っていたことだ。
「Ooooooooooooooooooooo!」
狂えるナイトオウルが、漆黒の重剣を思い切り叩きつける。
そこに発生した衝撃波がほぼ無防備な〈黒竜王〉とゲオルグを打ち据えた。
「ぐ、おおおおおお!? 何をしている、立て! 〈黒竜王〉!」
ゲオルグは吹き飛ばされそうになりながらも堪え、手綱を引っ張った。
だが〈黒竜王〉は派手にもがきはするものの、まだ起き上がれない。
それは銃の狙いを定めようとするウェルスにとって、予想通りの光景だった。
「フン、やっぱりかよ」
「何がだ?」
同じく、狙いを定めながら問うザルクに、ウェルスは口の端をゆがめて言った。
「操作がヘタクソなんだよ、あの黒騎士様は」
「ヘタクソ? ……そうか!」
ザルクがハッとする。
見れば分かることだが〈黒竜王〉は巨大で獰猛だ。それを制御するとなれば、相応の熟練を要するはず。そんな時間、ゲオルグにあるはずもなく、
「一度崩れた態勢は、そうそう立て直せないってことか」
「ああ。……ま、それもエルの一発があったればこそだが、な!」
うなずいたウェルスが〈黒竜王〉の翼めがけて銃撃を開始する。ザルクは「最高だろ?」と一言告げて、続けて発砲を始めた。
エルの一撃は、自由騎士達にとって理想的な状況を作った。
墜ちた〈黒竜王〉は未だ手足をばたつかせているだけで、ゲオルグもそんな大聖獣の制御に四苦八苦している。ほとんど無防備だ。
ナイトオウルの咆哮が、戦場のど真ん中から天を衝く。
「OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhh!」
彼は〈黒竜王〉の腹部を集中的に攻撃した。しかし激突音の何と重いことか。
「分かってはいたことだが、硬いな……」
聞こえる音の硬質さに、アデルが短くそう零した。
「攻め続けるしかないな。いかに巨大な山でも、人が切り崩せない道理はない!」
「分かって、いますとも!」
突撃槍を手に駆けるアデルと、続くミルトス。
アデルはそのまま仲間と共に攻撃に加わり、ミルトスは聖獣の前へと回り込む。
あえてその身を敵に晒し、彼女がすることは敵の関心を自分に集めることだ。
「これで終わりですか? 呆気ないですね」
近づき、身を晒し、言葉も用いて、彼女は獣と騎士、その両方の気を引いた。
「意気揚々と村を焼こうとしたのでしょうが、残念ですね。これが末路です」
「うおおおおおお、貴様ァァァァァァァ!」
ゲオルグが業剣を繰り出し、ミルトスの身を刻もうとする。
だが間一髪、敵の反撃も予想の中に含めていた彼女は、湧き立った影の刃を回避して華麗に着地。そして拳を打ち鳴らして告げた。
「攻撃も単調。主張も破綻。信念も薄弱。あなたの祈りは、弱々しい」
しかしその一言が、人と獣の狂乱を招いた。
「〈黒竜王〉ォォォォォ! もういい、俺ごと焼けェェェェェェェェい!」
「なっ!?」
それは、ミルトスをして驚かせる絶叫だった。
自由騎士達が見ている前で、幾ばくかの傷を受けた〈黒竜王〉がその巨大なあぎとをゆっくりと開いていく。垣間見えた喉の奥にはすでに火の粉が舞っていた。
「やらせ、ねェェェェェェェェ!」
咄嗟に身構えるミルトスの前に、巨大な盾を携えたナバルが割って入った。
そして地面に転がった状態のままで〈黒竜王〉が灼熱の炎を噴き出す。
自由騎士達の視界が、炎の朱に染まった。
●狂熱、かくて焦土となり
一度地面に溜まった熱量が、激しく膨張してその場に爆ぜる。
それは衝撃波を伴って〈黒竜王〉の巨体を囲んでいた自由騎士達を残らず焼いた。
「うおお、おおおおおおおおおおおおお!」
竜のあぎとの最も近くに立つナバルは、足の親指に力を込めて全力で踏ん張る。
当然、盾を握る彼の手に熱は伝わり、それは激痛となってナバルを苛んだ。
しかし、それがどれだけのことだというのだろう。
「う、お、おおお!」
今、彼の中にあるのは悔恨だった。
タイミングさえ合えば、彼はもう一人くらいは守れるであろう位置に立てたはず。
だがそれは叶わず、炎が爆ぜる前に庇えたのはミルトスだけだった。
守り手として、それが悔しくてならない。
それを思えば肉を焼く熱程度、どうということはない。
やがて炎の勢いが収まり、ナバルはこびりついた熱を盾を振り回して払った。
「みんな、大丈夫か!」
「ええ、おかげさまで。……助かりました!」
背後より、守られたミルトスが飛び出していく。
再び相手の意識を自分に集めるつもりなのだろう。自分の役割をよく心得ている。
だが、彼女が無事なのは予想できていたことだ。問題は、他。
「全くとんでもないな、こいつは!」
癇癪を起したかのような怒鳴り声。
ツボミであった。
服を幾ばくか炎に焦がされながらも、彼女は健在。
回復役として一歩引いた場所にいたのがよかったのだろう。
そして、ツボミが無事ならば戦線はまだ保てる。ナバルの中に安堵が広がった。
「…………チィ!」
しかし、周りの様子を確かめたツボミの顔に苦いものが浮かぶ。
彼女は躊躇なく、己の最高術技をそこに振るった。
触手、だろうか。
傍目にはそうとしか見えないものが広がって、自由騎士達を絡めとっていく。
とてもそうは見えないが、これが癒しの魔導だったりするのだ。
そして、ツボミのとっておきであるはずのそれを、彼女がいきなり使ったということは、今の炎による被害が相当大きかったということに他ならない。
自由騎士達が炎に巻かれている間に、黒い巨体は体勢を立て直し、その背にまたがる黒騎士も手綱を手にして、失った余裕を取り戻していた。
かくして〈黒竜王〉は再び空へと舞い上がった。
「神敵必滅! 神敵必滅! 我こそは神の刃! 悪を断じ正しきを為す者なり!」
「あいつも存分に焼かれただろうに、よくもあれだけはしゃげるものだ……」
重ねて癒しの魔導を使うツボミが吼えるゲオルグを見上げてげんなりと呟いた。
そして、それを気に食わないと感じるのが彼だ。
「オイ、シャンバラの残滓」
両手にダガーを握りしめ、かつて魔女の烙印を押された一族の青年が敵を呼ぶ。
ゲオルグも、そこに立つオルパの姿を見ると顔に一層深い狂笑を浮かべた。
「魔女、魔女、魔女! 汝は魔女! 罪ありき!」
「やっぱり、おまえの心はそこで止まってんだな。黒騎士」
憎々しげに言い捨てて、オルパの両腕が閃く。
「ぬぅ!?」
振るわれた両腕から閃光は放たれ、立て続けに二度〈黒竜王〉に直撃する。
しかし、ゲオルグはそれをあざ笑った。
「軟弱、軟弱なり! その程度の手技が〈黒竜王〉に通じると思ったか!」
「別におまえのじゃないだろうが……」
ボヤきつつ、オルパはさらに今度は魔導光を広く展開し、ゲオルグごと空を呑み込む。そして直後に爆砕。エルのすぐ眼下で、光が躍ったが、
「軟弱なりィ!」
ダメージがないワケではないだろうに、それでもゲオルグは揺るがなかった。
だがそれを見て、オルパはむしろ歯を剥き出しにして笑う。
「そうだ。おまえらがそんな簡単にやられるタマなはずがない。だから、俺は戦うんだ。俺達とおまえ達、その呪われた歴史に、今度こそピリオドを打つために」
「抜かせ、魔女めがァァァァァァァァ!」
オルパを前にして、ゲオルグの反応はひときわ激しいものだった。
こうして、ミルトスに加えてオルパが敵の意識を引きつけることで、他の自由騎士達は格段に動きやすくなっていた。
「いいぜオルパ。そのまま、できる限り敵さんを引きつけててくれよ」
「ヘヘッ、こりゃ、狙い放題だな」
ザルクとウェルスが言って、次々にトリガーをひいていく。
弾丸は〈黒竜王〉の翼を直撃するも、やはり並大抵の強度ではなく一発二発程度では弾かれるだけで終わってしまう。
しかし、そこに残るダメージを狩人達は軽視しない。
「やっこさんと〈赤竜王〉の最大の違いは、再生能力の有無だ」
空になった弾倉に新たに弾を込めながら、ウェルスがザルクにそれを教えた。
「あの巨体を維持するだけの力を、〈赤竜王〉はミトラースから受け取っていたようだが、あの黒いのは違う。自分で栄養を補給しなけりゃ、傷を癒せないらしい」
「そいつは、大きな違いだ」
完全に背中をがら空きにしている〈黒竜王〉の翼へと、さらにザルクが発砲。
弾丸は着実に命中し続けるが、さしたる痛痒でもないのか意に介する様子もなく、ミルトスやオルパの方に意識を向け続けていた。
「大した丈夫さだな、あれは」
何度目かの弾切れを迎え、ザルクがフゥと息をつく。
「ああ、そうだ。俺らの銃撃なんてさ、デカブツ様にゃそれこそ蚊が刺したようなもんだろうぜ。だが、よ――」
ウェルスの顔に、不敵な笑み。
二人の射手が並んで立って、自分達を無視し続ける敵へ銃口を向けた。
「そいつはちょっと――」
「――俺達をナメすぎってモンだろ」
銃声は全くの同時。いずれも二度。合計四度。
一発目の弾丸は、敵の表皮に食い込むのみ。そして寸分たがわぬ場所に命中した二発目の弾丸が、一発目を深く押し込み敵の防備を食い破る。
直後に、〈黒竜王〉の巨体がガクンと大きく揺れた。
「な、何だとォォォォォォ!!?」
翼に溜まったダメージが、ついに飛行を阻害するほどに至ったのだ。
だが敵もさるもの。墜落最中であるというのに〈黒竜王〉が辺り一面に超高熱の爆炎を撒き散らし、隙をうかがう自由騎士達を焼き尽くさんとする。
「構うな、間合いを詰めりゃどうってことねぇ。行っちまえ!」
そう叫ぶウェルスの肩をポンと叩き、アデルが前に出た。
「おまえも、焼かれるなよ」
言って駆け出す鋼の男の背中に向けて、ウェルスは笑う。
「この程度、どうってことねぇよ。焼かれるのには慣れてるんでね」
「締まらない自慢だな」
ザルクの指摘に、彼は浮かべる笑みに苦いものを加え「確かにそいつはごもっとも」と、軽くうなずくのだった。
●狂叫、それは必然であり
敵は単調だが、しかし、それでも強大だった。
〈黒竜王〉の炎は〈赤竜王〉のそれにも優る脅威で、自由騎士達は確実にこの巨大聖獣にダメージを与えながらも、自分達もまた幾度も身を焼かれた。
「次はどいつだ!? ……ええい、回復が追い付かん!」
息をあらげながらのツボミの悲鳴じみた声が、現状を何より物語っているだろう。
勢いよく後方に跳んだミルトスの靴底が、地面を滑ってザリザリと音を立てる。
常に前に出て戦い続ける彼女は、当然ながら満身創痍だった。
「大丈夫か、ミルトス!」
「ええ。ナバルさん程じゃないですよ」
と、気遣うナバルに向かって逆に言い返す。
だがそれも当然だろう。前線に立つミルトスやオルパより、彼の方がさらに前に踏み出して〈黒竜王〉の苛烈な攻撃を受け止めているのだ。
「まだまだ、俺だっていけるぜ!」
ナバルは威勢こそいいが、その体は見るからにダメージを抱えている。
〈黒竜王〉の咆哮が轟く。
炎、ではない。その屈強な腕による、豪快な振り回しだ。
その爪の一撃はくらえば命を食われる、魂喰いの一撃でもある。
狙いは、ミルトス。
「させる――、ッ!?」
間に割って入ろうとするナバルだが、足がもつれた。体力を使いすぎたか。
彼は顔色を蒼白にしてミルトスの方を見るが、そのとき、光の雨が降り注いだ。
「どっちを見ている、シャンバラの残滓!」
オルパだ。
彼の一撃が〈黒竜王〉の爪を軌道をずらし、ミルトスを救った。
「よーしよしよし、いい調子だ! 今だジョセフ! やれ! やってください!」
「言われずとも――」
ツボミの懇願めいた応援を受けて、ジョセフが強力な電磁雷撃を叩き込む。
そして発生した重力場が〈黒竜王〉の身をその場に縛り付けた。空に浮いてこそいるものの、デカブツがグンと地面に引き寄せられる。
「機だな」
「ああ。見逃すわけにはいかない」
もがく〈黒竜王〉を前に、見解を同じくしたのはテオドールとアデルだった。
自由騎士側もかなりダメージを溜め込んでいるが、それは敵も同じこと。動きが鈍った間こそが、一気に叩くチャンスでもある。
「だが、懸念もある」
「時間をかければ、敵が逃げに転じる可能性だな」
テオドールの言葉にアデルはうなずいた。
そう思う理由は、敵の飛翔能力にある。あの怪物はその気になればソラビトの限界をはるかに超えて高く、速く飛ぶことができるはずだ。
もし、それを使って逃げに回られれば、自由騎士達に追うすべはない。
「行くのかい、旦那」
背から、ウェルスがアデルに声をかける。
「ああ。いつまでも降りてこようとしないチキン野郎をやんわり諭しにな」
「ハッ、了解了解。で、どっちを狙う」
「右だ」
「おや、左じゃないのかい」
ウェルスとザルクが集中的に攻撃したのが左翼だ。当然、そちらの方が傷が深い。
「ダメージは均等に。そして徹底的に、だ」
「うわ、怖」
淡々と述べるアデルに、ウェルスはクヒヒと笑った。そして彼は銃を構える。
「任務了解。合わせるぜ」
「頼む。……そして、テオドール」
「言うに及ばず、だ」
次いでアデルに呼ばれたテオドールは、しかし、その先を聞かなかった。
「長い付き合いだ。考えていることくらいは分かる。卿に合わせよう」
あごひげを撫でで格好をつける彼に、アデルは無言でうなずいた。
だが彼らが動く前に、〈黒竜王〉が雄叫びを上げ、炎を撒き散らす。
高熱にあぶられた空気が場に気流を生み、突風が轟と荒れ狂った。
「これで決めるぞ!」
その声を号令に、自由騎士達の攻撃が開始される。
ウェルスの銃撃に合わせて、アデルが左腕に装備する杭打機の杭を射出。
重々しい音を立て、それは〈黒竜王〉の右翼近くに突き立った。
これまでの攻撃の積み重ねもあって、鉄壁を誇るその表皮も弱っているようだ。
「いい目印ができたぜ!」
ウェルスが笑って、さらに右の翼に銃撃。ザルクもそれに続いた。
「おのれ、神敵! 我が救済をどこまでも邪魔しおってぇぇぇぇ!」
「抜かしてろ、紛いものが」
いきり立って吼えるゲオルグに、ザルクが短く吐き捨てた。
一方で、アデルは一気に踏み込んで敵の間合いへと入ろうとする。
しかし運悪く、そこで〈黒竜王〉の瞳がギラついた。
「アデルさん、危ねェ!」
放たれる極熱の炎。しかし、間一髪、割り込んだナバルの大盾が受け止める。
「ナバル、いい働きだ」
庇われたアデルは言って、狙った位置に到達する前に最後の杭を射出した。
その一撃は大きく開かれていた〈黒竜王〉の右翼の骨部分に直撃、そして――、
「〈黒竜王〉……!?」
ついに〈黒竜王〉の翼は限界を迎え、巨体は地面に墜ちていった。
その真下には、アデル。
「焼け、焼け! 〈黒竜王〉ォォォォォォォォォ!」
ゲオルグの絶叫に応じるように、大聖獣は真下のアデルへと炎を浴びせた。
「アデル――!」
それを目にしたジョセフも、つい名を叫んでしまうが、
「心配は、いらない」
炎が散ったとき、そこには鋼鉄の兵(つわもの)が得物を手に、待ち構えていた。
「――アヴァランチ・アサルト」
ギリギリに追い込まれた状態で、己が血に眠る凶暴性を露わにした彼が、落下してくる〈黒竜王〉へと切り札の一撃を解き放った。
「おお、おおお! おおおおおおおおおおお!?」
傷つき、噴き出る大聖獣の血を浴びながら、最期の黒騎士はただただ声をあげた。
ただ、彼は知らなかった。
それですら、本命を撃ち抜くための見せ札でしかない。
「結局のところ、貴卿を止めねばこの戦いは終わらないのだよ」
やけに通るその声。ゲオルグの目が、自分を狙う貴族の男を見た。
「このまま道を歩んでも貴卿はかつての民を民として認めれまい。その先は果てなき虐殺、……救いなど、ない」
「黙れ……、黙れェ! 救いはある! 主ミトラースの教えこそは真理、救い! 万人の魂に安らぎをもたらし、罪を祓う、無垢なる救済――」
「終わりだ」
しかしテオドールは、彼にそれ以上の戯言を許さなかった。
叫声。いいや、それは雷鳴だった。
義なる心をもって放たれた魔導の紫電が、なすすべなく墜ちゆくゲオルグの全身を打ち据える。同時に響く〈黒竜王〉の断末魔の声。
「我が、救いは……」
怒りの雷撃に身を焼かれ、最後の黒騎士は今、人食いの竜と共に地に墜ちた。
もはや、彼らが二度と空に上がることはない。
●狂奔、そして朝日が差す
「……動かないな」
散々癒しの魔導を使って、心身共に限界近いツボミが〈黒竜王〉を睨んでいた。
「手応えは十分にあった。トドメを刺せたと思いたいが……」
地面に膝をついて、アデルがいう。彼も随分と無茶をして、今はこのザマだ。
「OOOOOOOOOOHHHHHHHhhhhhhhhhh――――!」
皆が見ている前でナイトオウルが幾度も黒い巨体に武器を突き立てるが、やはり反応はなかった。ここまで来れば、結果は明らかだろう。
――〈黒竜王〉は死んだ。
「何とか、仕留めたか」
それがはっきり分かると、場に漲っていた緊張感が一気に緩んだ。
ウェルスは息をつき、ザルクも口元を綻ばせる。
ミルトスは浮かない表情のまま〈黒竜王〉の死体を見つめて動かず、細く息を吐いた。その肩をツボミがポンと叩く。
戦いが終わったわけではない。
しかし、最も危険視されていた敵を攻略できた事実は、やはり大きい。
「〈黒竜王〉――――!」
そして、残る敵の激しい絶叫。
「何を寝ている! 起きろ、起きて飛べ! おまえは救いなのだ! この罪にまみれ、悪に穢れた大地を全て焼き尽くし、浄化するのがおまえの使命なのだぞ!」
全身すっかり薄汚れたゲオルグ・ホーソーンが、幾度も〈黒竜王〉を殴り、蹴りつけた。自由騎士達が無言で見守る中、騒ぐ彼の声と肉を打つ音だけが響く。
「……何て、つまらない」
ミルトスはそう零すと、顔をきつく歪めてゲオルグから目をそらした。
「そうだな。つまらない程に哀れで、そして滑稽な姿だ」
それを聞いてしまったテオドールが告げる。
ミルトスはどこか自嘲めいた笑みを浮かべるが、明確な返事はしなかった。
「クソッ、クソッ、クソッ! どいつもこいつも役に立たない! そんなことでどうして与えられた使命を果たせるものか! 弱い! 遅い! 柔い! 魔女を滅し、清め、シャンバラを救うという使命を何と心得ているゥ!」
散々に喚き散らし、ゲオルグは死体蹴りを繰り返す。
「Uuuuuuuuuuuu…………」
そして、醜く当たり散らすゲオルグに殺意の眼光を向ける男が、一人。
ナイトオウルが、両手に武器を持って黒騎士へと近づきつつあった。
彼がゲオルグをどうするかは、火を見るよりも明らかだ。
黒騎士にも並ぶ狂気を全身に纏って、ナイトオウルが一歩、また一歩とゲオルグに近づいていく。それは、黒騎士に迫る死のカウントダウンも同然だった。
しかし、言ってしまえばそれも自業自得。
今さらナイトオウルを止めようとする者など誰も――、
「……ダメだ」
いた。
ゲオルグとナイトオウルの間に、ナバルが割り込んだ。
「殺しちゃ、ダメだ」
両腕を広げ、彼が自分を壁にしてナイトオウルを遮ろうとする。
これには、皆が驚いた。テオドールが目を剥いて手を伸ばそうとする。
「いかん、ジーロン卿!」
「Ahhhhhhhhhhh……、Ohhhhhhhhhhhhhhhhhh!」
ナイトオウルが、ナバルに向けて武器を振り上げるが――、
「ここで殺したって、ただこいつが楽になるだけじゃねぇか!」
そのナバルの言葉が、ナイトオウルの動きを止めた。
「楽に、だとぉ……?」
そしてゲオルグもまた、彼の声に血走った眼で振り返る。
「き、きさ、貴様ごときに! わ、我が使命の、救いの……、神の、何が……!」
「ゲオルグ・ホーソーン! シャンバラにはもう、神の救いなんていらない! みんな、自分達の足で前に進んで生きていけるんだ! 逃げてるだけのおまえより、シャンバラの大地で生きてるみんなの方が、全然強いんだ!」
「に、逃げ……?」
「そうだ」
ナバルは、言った。
「おまえは神のためなんかに戦ってねぇだろ!」
「黙れ! お、俺は、俺は魔女狩りの騎士! き、救国の――」
「無様だな、二人目。一人目ならば、こんなこと程度で乱れはしなかったぞ」
ツボミであった。
前に出て、ナバルに並んだ彼女は決然とした顔つきで、ゲオルグに訴えた。
「何だ、その体たらくは。一人目から託されたものを、貴様はただ腐らせて終わるのか。それが、あのゲオルグ・クラーマーが鍛え上げた魔剣士の終点なのか」
「う、お、お……、クラ―マー、師……」
ツボミの言葉の刃に切り刻まれ、ゲオルグの顔から表情が消えていく。
狂気に満ちていた瞳も、今は哀れなほどに揺れて、口から漏れるのは呻きだけ。
「貴様は何だ、ホーソーンよ。ただの哀れな敗残者か? 狂わねば戦えぬ軟弱なチキン野郎か? 貴様の継いだ『名』は、その程度の価値しかないものか!」
「う、あ。ぁぁ……!」
ツボミに気圧されて、ゲオルグは数歩も後ずさる。
それでもなお、ツボミは彼に迫ろうとして、だが、ナバルに肩を掴まれた。
「……ナバル」
「もういいだろ。――最初から、こいつの中に神なんていなかったんだよ」
それはまるで慰めるような、だが諦めているような、優しくもむごい一言。
「あ――」
限界まで追い詰められていたゲオルグの心に、その言葉は深く突き立った。
「ああ、ああああああああああああああああああああああああ――――!」
頭を抱え、ひざまずき、ゲオルグは大きく声を垂れ流す。
溢れる涙を拭うこともせず、彼はただ、天を仰いで高く嘆いた。
「ひああああああああああああああ! ああああああああああああああああ!」
誰がどう見ても、黒騎士の心はグシャグシャに折れている。
終わった。
自由騎士達にそれを確信させるに十分な光景だった。
「ナバル……、貴様、割と容赦がないな」
「そうか?」
と、首をかしげる彼の耳に、まだゲオルグの悲嘆は聞こえて、そして途絶えた。
「……え?」
「――――業剣」
虚空より生じた影の刃が、ナバルの体を幾重にも切り刻んだ。
「あれ、いた……?」
血が噴き出し、彼はそのまま地面に倒れる。
「ナバル……!?」
ツボミは目を剥き、ナバルからすぐにゲオルグの方に視線を移す。
そこに、彼は立っていた。心折れたはずの黒騎士が、しっかりと二本の足で。
「嗚呼……」
漏らした声に、深い感慨。そしてツボミは慄然とする。
聞いたその声に彼女は確かに感じてしまったのだ、あの男の面影を。
「そう、そうだな。少年よ、おまえは正しい。ああ、認めよう。認めざるを得ないのならば、認める他ない。その通りだ。――我が胸に、もはや神の影はない」
「ゲオルグ……、クラーマー?」
ミルトスまでもが、呆気に取られてその名を呼ぶ。
「いいや、我が名はゲオルグ・ホーソーン。愚かしくも、敵に諭されてしまうような未熟者。枢機卿猊下の足元にも及ばぬ、くだらぬ敗残の騎士よ」
ゲオルグは告げて、近くに倒れたナバルを蹴り飛ばした。
「ぐぅ!」
「ありがとう、若き自由騎士よ。おまえのおかげで、俺は己の未熟を知れた。神の名に逃げる自分の醜さを、やっと自覚できた。蒙が啓けたぞ!」
悠然と告げるゲオルグに、自由騎士達は絶句する。
「そう、神は我が心になく、我が血、我が肉、我が骨、我が背にこそ神はあり」
一番近くで彼を見るツボミは、己の肌が粟立つのを感じながら悟った。
――達しやがった。
もはや覆しようのない現状で、この男の魂はゲオルグ・クラーマーと同じか、それに近い位置に達しやがった。信仰を、真に己の芯として昇華させた。
狂気と絶望を乗り越えた先にある境地――、悟りの域に辿り着いたのだ。
「来るがいい、自由騎士。俺はすでにおまえ達から一つの勝利を得ているが、それだけでは完全な勝利たりえぬ。ならば全霊をもって命果てるまで戦うまでだ」
「何を、言ってやがる……?」
問い返すウェルスに、ゲオルグは薄く笑う。
「分からんか? この血肉に神を得て、我が魂、もはや不動。何人たりともこれを冒すことはできぬ。そう、俺の魂はすでに、おまえ達に勝利しているのだ」
「バ、バカなこと、言うな……!」
と、ナバルが苦しげに言うも、ゲオルグはかぶりを振る。
「おまえもいい加減、限界だろう。そこで寝ているがいい、少年。礼というわけではないが、おまえを殺すのは最後にしてやろう」
無茶苦茶を言う。
しかし、それが事実であることも、自由騎士達は理解していた。
今のゲオルグからは、理屈を超えた凄みを感じる。
それは、圧倒的優位にいるはずの自由騎士達から勝利の確信を奪い去るほどのものだった。アデルですら、今のゲオルグを前に疑問に思ってしまった。
……勝てるのか? この男に。
あり得ないはずの疑問。しかし、歴戦の兵であるアデルをはじめとして、ほとんどの自由騎士がゲオルグの泰然たる姿に気を呑まれていた。
自分達では、もう、この男の心を折ることはできない。
逆に、そんな確信を得てしまいそうだ。
「ふうん、だったらお望みどおりにしてやるわよ」
しかしそんな中で一人、自らゲオルグに迫る者がいた。
エルだ。
彼女は仲間達を飛び越えると、悟りを得た黒騎士の前に立ち、笑った。
「ゲオルグ・クラーマーの最期を教えてあげるわ」
「……何だと?」
ゲオルグが小さく反応する。その身に、エルはいきなり抱き着いた。
「あいつはね、こうして至近距離で、とある自由騎士の自爆に巻き込まれたのよ」
「おい、待てエル! 貴様、何を……!?」
いきなりの展開に、ツボミが狼狽する。
彼女は感じていた。エルの体から放たれる、尋常ではない量の魔力を。
「貴様――ッ!?」
ゲオルグもそれに気づいたのだろう、その表情に満ちていた余裕が消し飛んで、瞳がこれでもかとばかりに見開かれる。
「エル! よせ、今この場でそんな無茶をして、何の意味が!」
「絶対勝つためよ!」
止めようとするツボミを、しかし、エルはさらに大きな声で制した。
「今のあんた達のそのザマで、必ず勝てるって言い切れるの?」
「それは……」
エルの言う通りであった。
精神的な超越を果たしたゲオルグを前に、自由騎士達は完全に気圧されてしまった。いかに状況が有利でも、士気が揺らいだ状態では万が一もありうる。
「だから今、ここで、この場で、あたしが全力であんたを殺すのよ!」
「できるのか、小娘風情に!」
影の刃がエルを切り裂く。
それを見て、ザルクが血相を変えて飛び出した。
「エル、やめ――」
「止めないで!」
彼女の体が魔導の輝きを纏い始める。
「これは、ケジメなのよ」
渦巻く魔力の中に、エルは小さく笑みを浮かべた。
「長らく続いた魔女としての戦い。魔女狩りとの戦い。その全てへの、ケジメ」
「――そうか。生きるつもりか、これだけの無体をなして!」
彼女の考えを見抜いたか、ゲオルグが高く笑った。
「ええ、そうよ。あたしは生きる。この戦いを経て、決着をつけて、新しい一歩を踏み出すために。あんたを殺し、過去のあたしを殺し、そして――!」
「フハハハハハ――――! その覚悟、見事! ならば俺もまた覚悟をもって臨もう。魔女を名乗る女よ、おまえの命を受け止めてなお、俺は前に進む!」
「いいえ、進ませないわ。ここで終わるのよ。そう、ここで、終われ……!」
魔導の光が、いよいよ臨界に達する。
「終われ、魔女狩りィィィィィィィィィ――――――――ッッッッ!」
そして光が迸り、荒れ狂った。
「エル――――!」
ザルクの悲鳴をも呑み込み、魂の炸裂によって生じた光は戦場を満たす。
それから、数秒――、やがて、世界に景色が戻り始めた。
光に目を灼かれた自由騎士達は、そこからさらに時間をかけて視力を取り戻していった。そして彼らは、全身を黒く焼け焦げさせたエルの姿を見た。
「馬鹿野郎……!」
ザルクが駆けて、倒れ込もうとするエルの矮躯を両手で受け止める。
「く……」
手に感じたのは、綿を持つような軽さ。ザルクが顔をしかめて呻いた。
一体、どれほどの力を解き放ったというのか。
綺麗だった髪も、肌も、熱に焼けただれて、今はただただ無惨。
だが、ここまでの無茶をすれば、いかなゲオルグといえども――、
「フ……」
上から聞こえる、小さな笑い声。
心臓が止まりかねないほどの戦慄と共に、ザルクはゆっくりと面を上げた。
そこには、同じく身を焼かれて黒煙をそこかしこからあげているゲオルグがいた。
彼は、笑っていた。
そして笑いながら言った。
「――生きるがいい。かつて魔女であった女よ」
黒い甲冑に覆われた身が、グラリと傾ぐ。
「クラーマー師、今、おそばに……」
それが、ゲオルグ・ホーソーンの最期の言葉。彼は力尽き、ついに倒れた。
戦いはようやく、終わりを告げた。
「エル!」
「ええい、無茶もここまで来ればいっそ清々しいわ、ちきしょーめ!」
だが、決着を喜ぶ者はなく、自由騎士達はエルの周りへと集まっていく。
「エル? おい、エル!」
彼女を両手に抱くザルクが、幾度もその身を揺する。
すると、しばらく動かなかったエルの体が小さく動き、まぶたが開いた。
「……聞こえ、てるわ。痛いから、あんまり動かさないで」
かすれただみ声。のどまで焼けているのが分かる。
「おまえ、どうしてこんなバカなこと……」
涙ぐむザルクの手の上に、エルが黒ずんだ自分の手を重ねる。
彼女はしゃがれ声のまま、小さく呟いた。
「……あんたと、生きたいからよ」
それは、一番近くにいるザルクでも聞き取れないほどの、小声での一言。
だが同時に、前に進もうという意思に満ちた、願いが込められた一言でもあった。
「終わったな、クラーマー卿」
「ああ。意外極まる決着だが、終わったのだな。ようやく」
テオドールに言われ、ジョセフはうなずいた。
「しかし、あの娘は相変わらず派手なコトをするな。……左目が疼いたぞ」
テオドールは笑うと、ジョセフの背を軽く叩いた。
「大丈夫か?」
うずくまるナバルに、アデルが手を差し伸べた。
「結局、死なせちまった……」
ナバルは泣きそうになっていた。彼は、ゲオルグをここで死なせたくなかった。
「戦場で自分の想いを貫きたいのならば、強くなれ。それしかないぞ」
「ああ、強くなってやる。もっと、もっと、みんなを護れるくらいに、もっと」
涙を拭うと、ナバルはアデルの手を握り返した。
「KillKillKillKiiiiiiiiiiiirrrrrrrrrrrrrrl!」
一方、自分の手でゲオルグを仕留められなかったナイトオウルは、ご覧の有様だった。それを見て、ウェルスが一言呟く。
「うるせぇな、あいつ」
「まぁ、あの元気があればどうとでもなるだろう」
難しい顔をしてツボミが髪を掻く。
「信じる心ってヤツは、本当に、心底、真面目に、厄介だなぁ」
「本当にな。……疲れたわ」
「同じく」
そして彼と彼女は、同時に深々とため息をついた。
「最後の最後に、持ってかれたな」
「残念ですか?」
肩を落とすオルパに、ミルトスが問う。
「いや、それがさ。ああ、やっと終わったか。って安堵しかなくてさ。現金なもんだよな、ホント。でも不思議と悪い気分じゃない。仲間と得た勝利だからな」
「ええ、そうですね。私も同じ気持ちです」
うなずき、ミルトスもまた空を見上げる。
空に高くのぼった朝日が、自由騎士達を爽やかに照らしていた。
「……いたな」
ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)が、空を舞うソレを見つけた。
「距離と高度を考えると――、やはり、相当デカいな、ありゃ」
空を見上げ、『灼熱からの帰還者』ザルク・ミステル(CL3000067)が呟く。
「ゲオルグの最後の遺産か……。いい加減、こいつで終わりにしたいがな」
さらに言って彼とウェルスは、無造作に銃を構えて空へと撃ち放つ。
遠くを舞う大きな影が、その銃声に身を震わせるのが分かった。
「さて、来るぞ。全員、準備はいいな」
「おう。大丈夫だ」
武具を構える『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)の声に、『たとえ神様ができなくとも』ナバル・ジーロン(CL3000441)がうなずいた。
ナバルもまた空を見た。
大きな影が、徐々に大きさを増している。それを見て、彼は唇を歪ませた。
「何で、こんなことになっちまったんだよ」
今はまだ、誰に向けてのものでもない問いかけ。もちろん答える者はない。
「さて、決着をつけてやるぜ。シャンバラの残滓」
だがどのような感情を胸に抱こうとも、闘いのときは近づく。
今回、唯一戦いに参加したヨウセイとして、シャンバラとの因縁の清算を図ろうとする『黒衣の魔女』オルパ・エメラドル(CL3000515)と――、
「Uoooooooooooooooo! killkillkillkill! kiiiiiiiiiiiiiirrrrrl!」
神への祈りを狂気に変えて、戦の猛威そのものと化す『黒き狂戦士』ナイトオウル・アラウンド(CL3000395)。様相は違えど、二人が放つ殺気は共に鋭い。
そして、敵は来た。
「フ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ――――ッッッッ!」
響き轟く笑い声は、漆黒の飛竜の背にまたがる黒い騎士のもの。
かつては同じ装いの同胞を多く従え、元シャンバラの民を魔女と断じ、私刑に処してきたこの騒乱の根源。ゲオルグ・ホーソーンである。
「自由騎士、自ら罪を贖いに来たか、自由騎士よ!」
見覚えのある顔を見て、ゲオルグは狂喜していた。またがる黒い竜が彼の笑い声につられて場に咆哮を轟かせる。
大気が震え、地が揺れる。
聞く者全てにそんな錯覚を抱かせる、圧倒的な力に満ちた咆哮であった。
「……これが、〈黒竜王〉」
竜翼が巻き起こす風に全身を晒しながら、『SALVATORIUS』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)が静かに漏らす。
見上げた先にいるのは強敵であるはずだった。
しかしなぜだろう。心が浮かない。血が沸かない。肉が躍らない。
ただ、始末をつけなければという義務感が、彼女に拳を握らせているだけだった。
「笑えてないな、ミルトスよ」
「ツボミさん……」
そんな彼女の横に立ち、『魔女狩り将軍の友人』非時香・ツボミ(CL3000086)が小さいながらも苦い笑みを浮かべていた。彼女もまた、同じ心持ちだった。
「おまえさんが楽しくないのはな、あれがすでに形骸と化しているからだ」
「形骸、ですか……?」
「そうだ。よく見てみるがいい」
ツボミに言われて、ミルトスは改めてゲオルグを見た。
「フハッ! フハハハハハハハ! 見よ、我はついに神敵と相対せり! 主ミトラースの御導きに間違いあるまい! おお、主よ! 偉大なる我が主よ!」
猛々しくも叫び続けるゲオルグの姿を見て、ミルトスはようやく気付いた。
「何も、響いてきませんね」
「そういうこった。言葉こそは神への祈りだが、あれじゃ奇声と何も変わらん」
ツボミは言うと、軽く髪を掻いた。
「切ないもんだな、二人目よ。拠り所を失ったまま長く追われれば狂するのも無理はなかろうが、それでも、その名は最期まで背負っていて欲しかったぞ」
「最期まで背負うなんて大業、成し遂げられるのは一人目くらいでしょう」
今度こそ、ミルトスが拳を構えた。
それを見てツボミは「だから残念なんだよ」と告げ、後方に回る。
一方、つばを飛ばしながら吼え狂うゲオルグと〈黒竜王〉を見て、ジョセフ・クラ―マーはただただ無言を貫いていた。
「お得意の説法の一つでもかましてやったらどうだね、クラ―マー卿」
その背中に、『達観者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)が声をかける。
ジョセフは振り返り、そしてかぶりを振った。
それも予想済みだったようで、テオドールは逆に小さく首肯した。
「説法とは、聞く耳を持つ者のために説くもの。やはり、ああも分かりやすく己の殻に閉じこもってしまっている者には効果がない、というわけか」
「その通りだ。言葉の力は絶大だが、万能でもなく、最強でもない」
「確かにそうだな。それに、そもそも――」
テオドールがゲオルグよりもさらに高い場所に目をやり、告げた。
「戦いは、もう始まってしまっていることだしな」
彼女はすでに〈黒竜王〉の背後へと回り込んでいた。
ゲオルグが自由騎士達に迫るべく高度を下げたので随分とやりやすかった。
「――ゲオルグ・ホーソーン!」
そして彼女は狂える男の名を叫ぶ。
「ぬぅ!?」
ゲオルグが振り向けば、そこには昇り始めた朝日を背に両手を掲げた『喪主』エル・エル(CL3000370)が威風堂々、彼を見下ろしていた。
「おまえにかける言葉はない。……焼き尽くされて、死ね!」
そして、彼女がかかげた両手に滾る二つの太陽にも似た灼熱の魔導。
初手全力。エルのオリジナル魔導が、黒竜めがけて火を噴いた。
赤熱の輝きは連なる二つの星となって〈黒竜王〉の翼の付け根に直撃する。
「やった!」
ハラハラしつつ見守っていたザルクが、声と共に拳を握る。
「墜ちてくるぞ、散れ!」
アデルの声に自由騎士達は各々その場から動いて、大きく輪を作った。
そしてその中心、誰もいない地べたに今、黒い巨体が墜落する。
地面を砕き、派手に土煙を巻き上げた失墜の轟音こそ、決戦の開始を告げる号砲。
「行きましょう」
ミルトスが、地面を蹴って駆けだした。
●狂乱、それは凄絶にして
幸運だったのは、地に墜ちた〈黒竜王〉がひっくり返っていたことだ。
「Ooooooooooooooooooooo!」
狂えるナイトオウルが、漆黒の重剣を思い切り叩きつける。
そこに発生した衝撃波がほぼ無防備な〈黒竜王〉とゲオルグを打ち据えた。
「ぐ、おおおおおお!? 何をしている、立て! 〈黒竜王〉!」
ゲオルグは吹き飛ばされそうになりながらも堪え、手綱を引っ張った。
だが〈黒竜王〉は派手にもがきはするものの、まだ起き上がれない。
それは銃の狙いを定めようとするウェルスにとって、予想通りの光景だった。
「フン、やっぱりかよ」
「何がだ?」
同じく、狙いを定めながら問うザルクに、ウェルスは口の端をゆがめて言った。
「操作がヘタクソなんだよ、あの黒騎士様は」
「ヘタクソ? ……そうか!」
ザルクがハッとする。
見れば分かることだが〈黒竜王〉は巨大で獰猛だ。それを制御するとなれば、相応の熟練を要するはず。そんな時間、ゲオルグにあるはずもなく、
「一度崩れた態勢は、そうそう立て直せないってことか」
「ああ。……ま、それもエルの一発があったればこそだが、な!」
うなずいたウェルスが〈黒竜王〉の翼めがけて銃撃を開始する。ザルクは「最高だろ?」と一言告げて、続けて発砲を始めた。
エルの一撃は、自由騎士達にとって理想的な状況を作った。
墜ちた〈黒竜王〉は未だ手足をばたつかせているだけで、ゲオルグもそんな大聖獣の制御に四苦八苦している。ほとんど無防備だ。
ナイトオウルの咆哮が、戦場のど真ん中から天を衝く。
「OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhh!」
彼は〈黒竜王〉の腹部を集中的に攻撃した。しかし激突音の何と重いことか。
「分かってはいたことだが、硬いな……」
聞こえる音の硬質さに、アデルが短くそう零した。
「攻め続けるしかないな。いかに巨大な山でも、人が切り崩せない道理はない!」
「分かって、いますとも!」
突撃槍を手に駆けるアデルと、続くミルトス。
アデルはそのまま仲間と共に攻撃に加わり、ミルトスは聖獣の前へと回り込む。
あえてその身を敵に晒し、彼女がすることは敵の関心を自分に集めることだ。
「これで終わりですか? 呆気ないですね」
近づき、身を晒し、言葉も用いて、彼女は獣と騎士、その両方の気を引いた。
「意気揚々と村を焼こうとしたのでしょうが、残念ですね。これが末路です」
「うおおおおおお、貴様ァァァァァァァ!」
ゲオルグが業剣を繰り出し、ミルトスの身を刻もうとする。
だが間一髪、敵の反撃も予想の中に含めていた彼女は、湧き立った影の刃を回避して華麗に着地。そして拳を打ち鳴らして告げた。
「攻撃も単調。主張も破綻。信念も薄弱。あなたの祈りは、弱々しい」
しかしその一言が、人と獣の狂乱を招いた。
「〈黒竜王〉ォォォォォ! もういい、俺ごと焼けェェェェェェェェい!」
「なっ!?」
それは、ミルトスをして驚かせる絶叫だった。
自由騎士達が見ている前で、幾ばくかの傷を受けた〈黒竜王〉がその巨大なあぎとをゆっくりと開いていく。垣間見えた喉の奥にはすでに火の粉が舞っていた。
「やらせ、ねェェェェェェェェ!」
咄嗟に身構えるミルトスの前に、巨大な盾を携えたナバルが割って入った。
そして地面に転がった状態のままで〈黒竜王〉が灼熱の炎を噴き出す。
自由騎士達の視界が、炎の朱に染まった。
●狂熱、かくて焦土となり
一度地面に溜まった熱量が、激しく膨張してその場に爆ぜる。
それは衝撃波を伴って〈黒竜王〉の巨体を囲んでいた自由騎士達を残らず焼いた。
「うおお、おおおおおおおおおおおおお!」
竜のあぎとの最も近くに立つナバルは、足の親指に力を込めて全力で踏ん張る。
当然、盾を握る彼の手に熱は伝わり、それは激痛となってナバルを苛んだ。
しかし、それがどれだけのことだというのだろう。
「う、お、おおお!」
今、彼の中にあるのは悔恨だった。
タイミングさえ合えば、彼はもう一人くらいは守れるであろう位置に立てたはず。
だがそれは叶わず、炎が爆ぜる前に庇えたのはミルトスだけだった。
守り手として、それが悔しくてならない。
それを思えば肉を焼く熱程度、どうということはない。
やがて炎の勢いが収まり、ナバルはこびりついた熱を盾を振り回して払った。
「みんな、大丈夫か!」
「ええ、おかげさまで。……助かりました!」
背後より、守られたミルトスが飛び出していく。
再び相手の意識を自分に集めるつもりなのだろう。自分の役割をよく心得ている。
だが、彼女が無事なのは予想できていたことだ。問題は、他。
「全くとんでもないな、こいつは!」
癇癪を起したかのような怒鳴り声。
ツボミであった。
服を幾ばくか炎に焦がされながらも、彼女は健在。
回復役として一歩引いた場所にいたのがよかったのだろう。
そして、ツボミが無事ならば戦線はまだ保てる。ナバルの中に安堵が広がった。
「…………チィ!」
しかし、周りの様子を確かめたツボミの顔に苦いものが浮かぶ。
彼女は躊躇なく、己の最高術技をそこに振るった。
触手、だろうか。
傍目にはそうとしか見えないものが広がって、自由騎士達を絡めとっていく。
とてもそうは見えないが、これが癒しの魔導だったりするのだ。
そして、ツボミのとっておきであるはずのそれを、彼女がいきなり使ったということは、今の炎による被害が相当大きかったということに他ならない。
自由騎士達が炎に巻かれている間に、黒い巨体は体勢を立て直し、その背にまたがる黒騎士も手綱を手にして、失った余裕を取り戻していた。
かくして〈黒竜王〉は再び空へと舞い上がった。
「神敵必滅! 神敵必滅! 我こそは神の刃! 悪を断じ正しきを為す者なり!」
「あいつも存分に焼かれただろうに、よくもあれだけはしゃげるものだ……」
重ねて癒しの魔導を使うツボミが吼えるゲオルグを見上げてげんなりと呟いた。
そして、それを気に食わないと感じるのが彼だ。
「オイ、シャンバラの残滓」
両手にダガーを握りしめ、かつて魔女の烙印を押された一族の青年が敵を呼ぶ。
ゲオルグも、そこに立つオルパの姿を見ると顔に一層深い狂笑を浮かべた。
「魔女、魔女、魔女! 汝は魔女! 罪ありき!」
「やっぱり、おまえの心はそこで止まってんだな。黒騎士」
憎々しげに言い捨てて、オルパの両腕が閃く。
「ぬぅ!?」
振るわれた両腕から閃光は放たれ、立て続けに二度〈黒竜王〉に直撃する。
しかし、ゲオルグはそれをあざ笑った。
「軟弱、軟弱なり! その程度の手技が〈黒竜王〉に通じると思ったか!」
「別におまえのじゃないだろうが……」
ボヤきつつ、オルパはさらに今度は魔導光を広く展開し、ゲオルグごと空を呑み込む。そして直後に爆砕。エルのすぐ眼下で、光が躍ったが、
「軟弱なりィ!」
ダメージがないワケではないだろうに、それでもゲオルグは揺るがなかった。
だがそれを見て、オルパはむしろ歯を剥き出しにして笑う。
「そうだ。おまえらがそんな簡単にやられるタマなはずがない。だから、俺は戦うんだ。俺達とおまえ達、その呪われた歴史に、今度こそピリオドを打つために」
「抜かせ、魔女めがァァァァァァァァ!」
オルパを前にして、ゲオルグの反応はひときわ激しいものだった。
こうして、ミルトスに加えてオルパが敵の意識を引きつけることで、他の自由騎士達は格段に動きやすくなっていた。
「いいぜオルパ。そのまま、できる限り敵さんを引きつけててくれよ」
「ヘヘッ、こりゃ、狙い放題だな」
ザルクとウェルスが言って、次々にトリガーをひいていく。
弾丸は〈黒竜王〉の翼を直撃するも、やはり並大抵の強度ではなく一発二発程度では弾かれるだけで終わってしまう。
しかし、そこに残るダメージを狩人達は軽視しない。
「やっこさんと〈赤竜王〉の最大の違いは、再生能力の有無だ」
空になった弾倉に新たに弾を込めながら、ウェルスがザルクにそれを教えた。
「あの巨体を維持するだけの力を、〈赤竜王〉はミトラースから受け取っていたようだが、あの黒いのは違う。自分で栄養を補給しなけりゃ、傷を癒せないらしい」
「そいつは、大きな違いだ」
完全に背中をがら空きにしている〈黒竜王〉の翼へと、さらにザルクが発砲。
弾丸は着実に命中し続けるが、さしたる痛痒でもないのか意に介する様子もなく、ミルトスやオルパの方に意識を向け続けていた。
「大した丈夫さだな、あれは」
何度目かの弾切れを迎え、ザルクがフゥと息をつく。
「ああ、そうだ。俺らの銃撃なんてさ、デカブツ様にゃそれこそ蚊が刺したようなもんだろうぜ。だが、よ――」
ウェルスの顔に、不敵な笑み。
二人の射手が並んで立って、自分達を無視し続ける敵へ銃口を向けた。
「そいつはちょっと――」
「――俺達をナメすぎってモンだろ」
銃声は全くの同時。いずれも二度。合計四度。
一発目の弾丸は、敵の表皮に食い込むのみ。そして寸分たがわぬ場所に命中した二発目の弾丸が、一発目を深く押し込み敵の防備を食い破る。
直後に、〈黒竜王〉の巨体がガクンと大きく揺れた。
「な、何だとォォォォォォ!!?」
翼に溜まったダメージが、ついに飛行を阻害するほどに至ったのだ。
だが敵もさるもの。墜落最中であるというのに〈黒竜王〉が辺り一面に超高熱の爆炎を撒き散らし、隙をうかがう自由騎士達を焼き尽くさんとする。
「構うな、間合いを詰めりゃどうってことねぇ。行っちまえ!」
そう叫ぶウェルスの肩をポンと叩き、アデルが前に出た。
「おまえも、焼かれるなよ」
言って駆け出す鋼の男の背中に向けて、ウェルスは笑う。
「この程度、どうってことねぇよ。焼かれるのには慣れてるんでね」
「締まらない自慢だな」
ザルクの指摘に、彼は浮かべる笑みに苦いものを加え「確かにそいつはごもっとも」と、軽くうなずくのだった。
●狂叫、それは必然であり
敵は単調だが、しかし、それでも強大だった。
〈黒竜王〉の炎は〈赤竜王〉のそれにも優る脅威で、自由騎士達は確実にこの巨大聖獣にダメージを与えながらも、自分達もまた幾度も身を焼かれた。
「次はどいつだ!? ……ええい、回復が追い付かん!」
息をあらげながらのツボミの悲鳴じみた声が、現状を何より物語っているだろう。
勢いよく後方に跳んだミルトスの靴底が、地面を滑ってザリザリと音を立てる。
常に前に出て戦い続ける彼女は、当然ながら満身創痍だった。
「大丈夫か、ミルトス!」
「ええ。ナバルさん程じゃないですよ」
と、気遣うナバルに向かって逆に言い返す。
だがそれも当然だろう。前線に立つミルトスやオルパより、彼の方がさらに前に踏み出して〈黒竜王〉の苛烈な攻撃を受け止めているのだ。
「まだまだ、俺だっていけるぜ!」
ナバルは威勢こそいいが、その体は見るからにダメージを抱えている。
〈黒竜王〉の咆哮が轟く。
炎、ではない。その屈強な腕による、豪快な振り回しだ。
その爪の一撃はくらえば命を食われる、魂喰いの一撃でもある。
狙いは、ミルトス。
「させる――、ッ!?」
間に割って入ろうとするナバルだが、足がもつれた。体力を使いすぎたか。
彼は顔色を蒼白にしてミルトスの方を見るが、そのとき、光の雨が降り注いだ。
「どっちを見ている、シャンバラの残滓!」
オルパだ。
彼の一撃が〈黒竜王〉の爪を軌道をずらし、ミルトスを救った。
「よーしよしよし、いい調子だ! 今だジョセフ! やれ! やってください!」
「言われずとも――」
ツボミの懇願めいた応援を受けて、ジョセフが強力な電磁雷撃を叩き込む。
そして発生した重力場が〈黒竜王〉の身をその場に縛り付けた。空に浮いてこそいるものの、デカブツがグンと地面に引き寄せられる。
「機だな」
「ああ。見逃すわけにはいかない」
もがく〈黒竜王〉を前に、見解を同じくしたのはテオドールとアデルだった。
自由騎士側もかなりダメージを溜め込んでいるが、それは敵も同じこと。動きが鈍った間こそが、一気に叩くチャンスでもある。
「だが、懸念もある」
「時間をかければ、敵が逃げに転じる可能性だな」
テオドールの言葉にアデルはうなずいた。
そう思う理由は、敵の飛翔能力にある。あの怪物はその気になればソラビトの限界をはるかに超えて高く、速く飛ぶことができるはずだ。
もし、それを使って逃げに回られれば、自由騎士達に追うすべはない。
「行くのかい、旦那」
背から、ウェルスがアデルに声をかける。
「ああ。いつまでも降りてこようとしないチキン野郎をやんわり諭しにな」
「ハッ、了解了解。で、どっちを狙う」
「右だ」
「おや、左じゃないのかい」
ウェルスとザルクが集中的に攻撃したのが左翼だ。当然、そちらの方が傷が深い。
「ダメージは均等に。そして徹底的に、だ」
「うわ、怖」
淡々と述べるアデルに、ウェルスはクヒヒと笑った。そして彼は銃を構える。
「任務了解。合わせるぜ」
「頼む。……そして、テオドール」
「言うに及ばず、だ」
次いでアデルに呼ばれたテオドールは、しかし、その先を聞かなかった。
「長い付き合いだ。考えていることくらいは分かる。卿に合わせよう」
あごひげを撫でで格好をつける彼に、アデルは無言でうなずいた。
だが彼らが動く前に、〈黒竜王〉が雄叫びを上げ、炎を撒き散らす。
高熱にあぶられた空気が場に気流を生み、突風が轟と荒れ狂った。
「これで決めるぞ!」
その声を号令に、自由騎士達の攻撃が開始される。
ウェルスの銃撃に合わせて、アデルが左腕に装備する杭打機の杭を射出。
重々しい音を立て、それは〈黒竜王〉の右翼近くに突き立った。
これまでの攻撃の積み重ねもあって、鉄壁を誇るその表皮も弱っているようだ。
「いい目印ができたぜ!」
ウェルスが笑って、さらに右の翼に銃撃。ザルクもそれに続いた。
「おのれ、神敵! 我が救済をどこまでも邪魔しおってぇぇぇぇ!」
「抜かしてろ、紛いものが」
いきり立って吼えるゲオルグに、ザルクが短く吐き捨てた。
一方で、アデルは一気に踏み込んで敵の間合いへと入ろうとする。
しかし運悪く、そこで〈黒竜王〉の瞳がギラついた。
「アデルさん、危ねェ!」
放たれる極熱の炎。しかし、間一髪、割り込んだナバルの大盾が受け止める。
「ナバル、いい働きだ」
庇われたアデルは言って、狙った位置に到達する前に最後の杭を射出した。
その一撃は大きく開かれていた〈黒竜王〉の右翼の骨部分に直撃、そして――、
「〈黒竜王〉……!?」
ついに〈黒竜王〉の翼は限界を迎え、巨体は地面に墜ちていった。
その真下には、アデル。
「焼け、焼け! 〈黒竜王〉ォォォォォォォォォ!」
ゲオルグの絶叫に応じるように、大聖獣は真下のアデルへと炎を浴びせた。
「アデル――!」
それを目にしたジョセフも、つい名を叫んでしまうが、
「心配は、いらない」
炎が散ったとき、そこには鋼鉄の兵(つわもの)が得物を手に、待ち構えていた。
「――アヴァランチ・アサルト」
ギリギリに追い込まれた状態で、己が血に眠る凶暴性を露わにした彼が、落下してくる〈黒竜王〉へと切り札の一撃を解き放った。
「おお、おおお! おおおおおおおおおおお!?」
傷つき、噴き出る大聖獣の血を浴びながら、最期の黒騎士はただただ声をあげた。
ただ、彼は知らなかった。
それですら、本命を撃ち抜くための見せ札でしかない。
「結局のところ、貴卿を止めねばこの戦いは終わらないのだよ」
やけに通るその声。ゲオルグの目が、自分を狙う貴族の男を見た。
「このまま道を歩んでも貴卿はかつての民を民として認めれまい。その先は果てなき虐殺、……救いなど、ない」
「黙れ……、黙れェ! 救いはある! 主ミトラースの教えこそは真理、救い! 万人の魂に安らぎをもたらし、罪を祓う、無垢なる救済――」
「終わりだ」
しかしテオドールは、彼にそれ以上の戯言を許さなかった。
叫声。いいや、それは雷鳴だった。
義なる心をもって放たれた魔導の紫電が、なすすべなく墜ちゆくゲオルグの全身を打ち据える。同時に響く〈黒竜王〉の断末魔の声。
「我が、救いは……」
怒りの雷撃に身を焼かれ、最後の黒騎士は今、人食いの竜と共に地に墜ちた。
もはや、彼らが二度と空に上がることはない。
●狂奔、そして朝日が差す
「……動かないな」
散々癒しの魔導を使って、心身共に限界近いツボミが〈黒竜王〉を睨んでいた。
「手応えは十分にあった。トドメを刺せたと思いたいが……」
地面に膝をついて、アデルがいう。彼も随分と無茶をして、今はこのザマだ。
「OOOOOOOOOOHHHHHHHhhhhhhhhhh――――!」
皆が見ている前でナイトオウルが幾度も黒い巨体に武器を突き立てるが、やはり反応はなかった。ここまで来れば、結果は明らかだろう。
――〈黒竜王〉は死んだ。
「何とか、仕留めたか」
それがはっきり分かると、場に漲っていた緊張感が一気に緩んだ。
ウェルスは息をつき、ザルクも口元を綻ばせる。
ミルトスは浮かない表情のまま〈黒竜王〉の死体を見つめて動かず、細く息を吐いた。その肩をツボミがポンと叩く。
戦いが終わったわけではない。
しかし、最も危険視されていた敵を攻略できた事実は、やはり大きい。
「〈黒竜王〉――――!」
そして、残る敵の激しい絶叫。
「何を寝ている! 起きろ、起きて飛べ! おまえは救いなのだ! この罪にまみれ、悪に穢れた大地を全て焼き尽くし、浄化するのがおまえの使命なのだぞ!」
全身すっかり薄汚れたゲオルグ・ホーソーンが、幾度も〈黒竜王〉を殴り、蹴りつけた。自由騎士達が無言で見守る中、騒ぐ彼の声と肉を打つ音だけが響く。
「……何て、つまらない」
ミルトスはそう零すと、顔をきつく歪めてゲオルグから目をそらした。
「そうだな。つまらない程に哀れで、そして滑稽な姿だ」
それを聞いてしまったテオドールが告げる。
ミルトスはどこか自嘲めいた笑みを浮かべるが、明確な返事はしなかった。
「クソッ、クソッ、クソッ! どいつもこいつも役に立たない! そんなことでどうして与えられた使命を果たせるものか! 弱い! 遅い! 柔い! 魔女を滅し、清め、シャンバラを救うという使命を何と心得ているゥ!」
散々に喚き散らし、ゲオルグは死体蹴りを繰り返す。
「Uuuuuuuuuuuu…………」
そして、醜く当たり散らすゲオルグに殺意の眼光を向ける男が、一人。
ナイトオウルが、両手に武器を持って黒騎士へと近づきつつあった。
彼がゲオルグをどうするかは、火を見るよりも明らかだ。
黒騎士にも並ぶ狂気を全身に纏って、ナイトオウルが一歩、また一歩とゲオルグに近づいていく。それは、黒騎士に迫る死のカウントダウンも同然だった。
しかし、言ってしまえばそれも自業自得。
今さらナイトオウルを止めようとする者など誰も――、
「……ダメだ」
いた。
ゲオルグとナイトオウルの間に、ナバルが割り込んだ。
「殺しちゃ、ダメだ」
両腕を広げ、彼が自分を壁にしてナイトオウルを遮ろうとする。
これには、皆が驚いた。テオドールが目を剥いて手を伸ばそうとする。
「いかん、ジーロン卿!」
「Ahhhhhhhhhhh……、Ohhhhhhhhhhhhhhhhhh!」
ナイトオウルが、ナバルに向けて武器を振り上げるが――、
「ここで殺したって、ただこいつが楽になるだけじゃねぇか!」
そのナバルの言葉が、ナイトオウルの動きを止めた。
「楽に、だとぉ……?」
そしてゲオルグもまた、彼の声に血走った眼で振り返る。
「き、きさ、貴様ごときに! わ、我が使命の、救いの……、神の、何が……!」
「ゲオルグ・ホーソーン! シャンバラにはもう、神の救いなんていらない! みんな、自分達の足で前に進んで生きていけるんだ! 逃げてるだけのおまえより、シャンバラの大地で生きてるみんなの方が、全然強いんだ!」
「に、逃げ……?」
「そうだ」
ナバルは、言った。
「おまえは神のためなんかに戦ってねぇだろ!」
「黙れ! お、俺は、俺は魔女狩りの騎士! き、救国の――」
「無様だな、二人目。一人目ならば、こんなこと程度で乱れはしなかったぞ」
ツボミであった。
前に出て、ナバルに並んだ彼女は決然とした顔つきで、ゲオルグに訴えた。
「何だ、その体たらくは。一人目から託されたものを、貴様はただ腐らせて終わるのか。それが、あのゲオルグ・クラーマーが鍛え上げた魔剣士の終点なのか」
「う、お、お……、クラ―マー、師……」
ツボミの言葉の刃に切り刻まれ、ゲオルグの顔から表情が消えていく。
狂気に満ちていた瞳も、今は哀れなほどに揺れて、口から漏れるのは呻きだけ。
「貴様は何だ、ホーソーンよ。ただの哀れな敗残者か? 狂わねば戦えぬ軟弱なチキン野郎か? 貴様の継いだ『名』は、その程度の価値しかないものか!」
「う、あ。ぁぁ……!」
ツボミに気圧されて、ゲオルグは数歩も後ずさる。
それでもなお、ツボミは彼に迫ろうとして、だが、ナバルに肩を掴まれた。
「……ナバル」
「もういいだろ。――最初から、こいつの中に神なんていなかったんだよ」
それはまるで慰めるような、だが諦めているような、優しくもむごい一言。
「あ――」
限界まで追い詰められていたゲオルグの心に、その言葉は深く突き立った。
「ああ、ああああああああああああああああああああああああ――――!」
頭を抱え、ひざまずき、ゲオルグは大きく声を垂れ流す。
溢れる涙を拭うこともせず、彼はただ、天を仰いで高く嘆いた。
「ひああああああああああああああ! ああああああああああああああああ!」
誰がどう見ても、黒騎士の心はグシャグシャに折れている。
終わった。
自由騎士達にそれを確信させるに十分な光景だった。
「ナバル……、貴様、割と容赦がないな」
「そうか?」
と、首をかしげる彼の耳に、まだゲオルグの悲嘆は聞こえて、そして途絶えた。
「……え?」
「――――業剣」
虚空より生じた影の刃が、ナバルの体を幾重にも切り刻んだ。
「あれ、いた……?」
血が噴き出し、彼はそのまま地面に倒れる。
「ナバル……!?」
ツボミは目を剥き、ナバルからすぐにゲオルグの方に視線を移す。
そこに、彼は立っていた。心折れたはずの黒騎士が、しっかりと二本の足で。
「嗚呼……」
漏らした声に、深い感慨。そしてツボミは慄然とする。
聞いたその声に彼女は確かに感じてしまったのだ、あの男の面影を。
「そう、そうだな。少年よ、おまえは正しい。ああ、認めよう。認めざるを得ないのならば、認める他ない。その通りだ。――我が胸に、もはや神の影はない」
「ゲオルグ……、クラーマー?」
ミルトスまでもが、呆気に取られてその名を呼ぶ。
「いいや、我が名はゲオルグ・ホーソーン。愚かしくも、敵に諭されてしまうような未熟者。枢機卿猊下の足元にも及ばぬ、くだらぬ敗残の騎士よ」
ゲオルグは告げて、近くに倒れたナバルを蹴り飛ばした。
「ぐぅ!」
「ありがとう、若き自由騎士よ。おまえのおかげで、俺は己の未熟を知れた。神の名に逃げる自分の醜さを、やっと自覚できた。蒙が啓けたぞ!」
悠然と告げるゲオルグに、自由騎士達は絶句する。
「そう、神は我が心になく、我が血、我が肉、我が骨、我が背にこそ神はあり」
一番近くで彼を見るツボミは、己の肌が粟立つのを感じながら悟った。
――達しやがった。
もはや覆しようのない現状で、この男の魂はゲオルグ・クラーマーと同じか、それに近い位置に達しやがった。信仰を、真に己の芯として昇華させた。
狂気と絶望を乗り越えた先にある境地――、悟りの域に辿り着いたのだ。
「来るがいい、自由騎士。俺はすでにおまえ達から一つの勝利を得ているが、それだけでは完全な勝利たりえぬ。ならば全霊をもって命果てるまで戦うまでだ」
「何を、言ってやがる……?」
問い返すウェルスに、ゲオルグは薄く笑う。
「分からんか? この血肉に神を得て、我が魂、もはや不動。何人たりともこれを冒すことはできぬ。そう、俺の魂はすでに、おまえ達に勝利しているのだ」
「バ、バカなこと、言うな……!」
と、ナバルが苦しげに言うも、ゲオルグはかぶりを振る。
「おまえもいい加減、限界だろう。そこで寝ているがいい、少年。礼というわけではないが、おまえを殺すのは最後にしてやろう」
無茶苦茶を言う。
しかし、それが事実であることも、自由騎士達は理解していた。
今のゲオルグからは、理屈を超えた凄みを感じる。
それは、圧倒的優位にいるはずの自由騎士達から勝利の確信を奪い去るほどのものだった。アデルですら、今のゲオルグを前に疑問に思ってしまった。
……勝てるのか? この男に。
あり得ないはずの疑問。しかし、歴戦の兵であるアデルをはじめとして、ほとんどの自由騎士がゲオルグの泰然たる姿に気を呑まれていた。
自分達では、もう、この男の心を折ることはできない。
逆に、そんな確信を得てしまいそうだ。
「ふうん、だったらお望みどおりにしてやるわよ」
しかしそんな中で一人、自らゲオルグに迫る者がいた。
エルだ。
彼女は仲間達を飛び越えると、悟りを得た黒騎士の前に立ち、笑った。
「ゲオルグ・クラーマーの最期を教えてあげるわ」
「……何だと?」
ゲオルグが小さく反応する。その身に、エルはいきなり抱き着いた。
「あいつはね、こうして至近距離で、とある自由騎士の自爆に巻き込まれたのよ」
「おい、待てエル! 貴様、何を……!?」
いきなりの展開に、ツボミが狼狽する。
彼女は感じていた。エルの体から放たれる、尋常ではない量の魔力を。
「貴様――ッ!?」
ゲオルグもそれに気づいたのだろう、その表情に満ちていた余裕が消し飛んで、瞳がこれでもかとばかりに見開かれる。
「エル! よせ、今この場でそんな無茶をして、何の意味が!」
「絶対勝つためよ!」
止めようとするツボミを、しかし、エルはさらに大きな声で制した。
「今のあんた達のそのザマで、必ず勝てるって言い切れるの?」
「それは……」
エルの言う通りであった。
精神的な超越を果たしたゲオルグを前に、自由騎士達は完全に気圧されてしまった。いかに状況が有利でも、士気が揺らいだ状態では万が一もありうる。
「だから今、ここで、この場で、あたしが全力であんたを殺すのよ!」
「できるのか、小娘風情に!」
影の刃がエルを切り裂く。
それを見て、ザルクが血相を変えて飛び出した。
「エル、やめ――」
「止めないで!」
彼女の体が魔導の輝きを纏い始める。
「これは、ケジメなのよ」
渦巻く魔力の中に、エルは小さく笑みを浮かべた。
「長らく続いた魔女としての戦い。魔女狩りとの戦い。その全てへの、ケジメ」
「――そうか。生きるつもりか、これだけの無体をなして!」
彼女の考えを見抜いたか、ゲオルグが高く笑った。
「ええ、そうよ。あたしは生きる。この戦いを経て、決着をつけて、新しい一歩を踏み出すために。あんたを殺し、過去のあたしを殺し、そして――!」
「フハハハハハ――――! その覚悟、見事! ならば俺もまた覚悟をもって臨もう。魔女を名乗る女よ、おまえの命を受け止めてなお、俺は前に進む!」
「いいえ、進ませないわ。ここで終わるのよ。そう、ここで、終われ……!」
魔導の光が、いよいよ臨界に達する。
「終われ、魔女狩りィィィィィィィィィ――――――――ッッッッ!」
そして光が迸り、荒れ狂った。
「エル――――!」
ザルクの悲鳴をも呑み込み、魂の炸裂によって生じた光は戦場を満たす。
それから、数秒――、やがて、世界に景色が戻り始めた。
光に目を灼かれた自由騎士達は、そこからさらに時間をかけて視力を取り戻していった。そして彼らは、全身を黒く焼け焦げさせたエルの姿を見た。
「馬鹿野郎……!」
ザルクが駆けて、倒れ込もうとするエルの矮躯を両手で受け止める。
「く……」
手に感じたのは、綿を持つような軽さ。ザルクが顔をしかめて呻いた。
一体、どれほどの力を解き放ったというのか。
綺麗だった髪も、肌も、熱に焼けただれて、今はただただ無惨。
だが、ここまでの無茶をすれば、いかなゲオルグといえども――、
「フ……」
上から聞こえる、小さな笑い声。
心臓が止まりかねないほどの戦慄と共に、ザルクはゆっくりと面を上げた。
そこには、同じく身を焼かれて黒煙をそこかしこからあげているゲオルグがいた。
彼は、笑っていた。
そして笑いながら言った。
「――生きるがいい。かつて魔女であった女よ」
黒い甲冑に覆われた身が、グラリと傾ぐ。
「クラーマー師、今、おそばに……」
それが、ゲオルグ・ホーソーンの最期の言葉。彼は力尽き、ついに倒れた。
戦いはようやく、終わりを告げた。
「エル!」
「ええい、無茶もここまで来ればいっそ清々しいわ、ちきしょーめ!」
だが、決着を喜ぶ者はなく、自由騎士達はエルの周りへと集まっていく。
「エル? おい、エル!」
彼女を両手に抱くザルクが、幾度もその身を揺する。
すると、しばらく動かなかったエルの体が小さく動き、まぶたが開いた。
「……聞こえ、てるわ。痛いから、あんまり動かさないで」
かすれただみ声。のどまで焼けているのが分かる。
「おまえ、どうしてこんなバカなこと……」
涙ぐむザルクの手の上に、エルが黒ずんだ自分の手を重ねる。
彼女はしゃがれ声のまま、小さく呟いた。
「……あんたと、生きたいからよ」
それは、一番近くにいるザルクでも聞き取れないほどの、小声での一言。
だが同時に、前に進もうという意思に満ちた、願いが込められた一言でもあった。
「終わったな、クラーマー卿」
「ああ。意外極まる決着だが、終わったのだな。ようやく」
テオドールに言われ、ジョセフはうなずいた。
「しかし、あの娘は相変わらず派手なコトをするな。……左目が疼いたぞ」
テオドールは笑うと、ジョセフの背を軽く叩いた。
「大丈夫か?」
うずくまるナバルに、アデルが手を差し伸べた。
「結局、死なせちまった……」
ナバルは泣きそうになっていた。彼は、ゲオルグをここで死なせたくなかった。
「戦場で自分の想いを貫きたいのならば、強くなれ。それしかないぞ」
「ああ、強くなってやる。もっと、もっと、みんなを護れるくらいに、もっと」
涙を拭うと、ナバルはアデルの手を握り返した。
「KillKillKillKiiiiiiiiiiiirrrrrrrrrrrrrrl!」
一方、自分の手でゲオルグを仕留められなかったナイトオウルは、ご覧の有様だった。それを見て、ウェルスが一言呟く。
「うるせぇな、あいつ」
「まぁ、あの元気があればどうとでもなるだろう」
難しい顔をしてツボミが髪を掻く。
「信じる心ってヤツは、本当に、心底、真面目に、厄介だなぁ」
「本当にな。……疲れたわ」
「同じく」
そして彼と彼女は、同時に深々とため息をついた。
「最後の最後に、持ってかれたな」
「残念ですか?」
肩を落とすオルパに、ミルトスが問う。
「いや、それがさ。ああ、やっと終わったか。って安堵しかなくてさ。現金なもんだよな、ホント。でも不思議と悪い気分じゃない。仲間と得た勝利だからな」
「ええ、そうですね。私も同じ気持ちです」
うなずき、ミルトスもまた空を見上げる。
空に高くのぼった朝日が、自由騎士達を爽やかに照らしていた。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
重傷
称号付与
『かつて魔女だった者』
取得者: エル・エル(CL3000370)
『大聖獣殺し』
取得者: アデル・ハビッツ(CL3000496)
『人の道を護る』
取得者: ナバル・ジーロン(CL3000441)
取得者: エル・エル(CL3000370)
『大聖獣殺し』
取得者: アデル・ハビッツ(CL3000496)
『人の道を護る』
取得者: ナバル・ジーロン(CL3000441)
†あとがき†
お疲れさまでした。
今度という今度こそ、魔女狩り騎士団は壊滅しました。
長らく続いたシャンバラ残党との戦いも決着となります。
いやー、大変な戦いでしたね!
では、次回またお会いしましょう!
ご参加いただきありがとうございました!
今度という今度こそ、魔女狩り騎士団は壊滅しました。
長らく続いたシャンバラ残党との戦いも決着となります。
いやー、大変な戦いでしたね!
では、次回またお会いしましょう!
ご参加いただきありがとうございました!
FL送付済