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【機神抹殺】マスクド・エイダーNewJustice



●正義の灯火は潰えない
 ――かつて、ヘルメリアに一人の男がいた。

 エイドリアン・カーティス・マルソー。
 自らを正義のヒーローと定義づけた、弱く、そして強い男だった。
 彼の正義は、愛する祖国を守りたいという、誰しもが持つささやかな願いに起因する。
 その在り方は不器用なほどに真っすぐで、だからこそ彼を慕う者は多かった。

 エイドリアンは敗れた。
 敵国イ・ラプセルの自由騎士達によって、彼と彼の妻アルテイシアは討たれた。
 エイドリアンを慕う者にとっては衝撃的な出来事であった。
 しかし――、それはエイドリアンの正義の敗北を意味するのだろうか。
 エイドリアンの死は、彼の正義の死でもあるのだろうか。

 ――否! 断じて否!

 正義とは、勇気とは、人から人へと伝播していくものである。
 先に立つ者が倒れようとも、その正義を継承する者が必ずや現れる。
 エイドリアンが倒れようとも、彼が世界に示した正義は燃え尽きることはない。
 ヘルメリアのヒーローは、まだ、死んでいない!

●燃え上がれ、正義の炎
「もし僕が死んだら――」
 それは、ヘルメリアの神が、ヘルメリアの騎士に告げた言葉。
「君達の権能は消えて融合した人達はこのまま苦しんで死ぬかもね?」
 それは、ヘルメリアの神が、ヘリメリアの騎士に告げた最悪の言葉。
 神が民を人質に取り、騎士に対して戦いを要求する。
 世に名を轟かせる悪党とて、このような残酷なことはすまい。
 神の、神であるがゆえの、人に対する行ないであった。
「――我らのやるべきことは決まっている」
 されど、その行ないがなかろうとも、きっと彼らは同じ道を進んでいただろう。
「俺達は、騎士だ」
「俺達は、ヒーローだ」
「「俺達は、俺達こそが、エイダーだ!」」
 叫ぶ彼らは、かつてエイドリアン・カーティス・マルソーの部下であった者達。
 護国の機人と化して戦い、散っていった彼の魂を最も濃く受け継いだ者だ。
「民を守るぞ」
 歯車騎士が一人、マスクド・エイダーV2ことサイ・ファードが言う。
「国を守るぞ」
 歯車騎士が一人、マスクド・エイダーハイパー1ことレイ・スティンガーが言う。
「ヘルメリアを守るぞ!」
 歯車騎士が一人、マスクド・エイダーノワールRZことサウス・レイが言う。
「「マスクド・エイダーは敗れない!」」
 オオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォ!
 三人のエイダーが声を揃え、周りの歯車騎士達が雄叫びをあげる。
 ヘルメリア首都ロンディアナに、最後の、そして最大の正義の炎が燃え上がろうとしていた。

●最後の戦いへ
 全ての生けるものを呑み込みながら肥大化していくロンディアナ。
 そのような空前絶後の圧倒的脅威に対して、イ・ラプセルがとった作戦もまた、前代未聞であった。
「…………不安しかないわ」
 移動城塞ティダルトに乗り込んだ自由騎士マリアンナ・オリヴェルは、顔色を青くしてそんなことを呟いた。
「移動城塞を飛ばして首都に乗り込むなんて……」
 そう、彼女の言う通り。
 生物兵器と化したロンディアナに突入する方法。
 それは、移動城塞投げてぶち込もうぜ、というものだったのだ。
「だが、突入さえできればティダルトの援護も受けられるしな」
 同乗する自由騎士の一人が言う。
 それとこれとは話が別だ、と、マリアンナは思うが、戦いが始まろうとしているときに士気をそぐようなことは言うべきではない。グッと我慢する。
 すると、ティダルトがガタンと揺れた。
 いよいよ、作戦が始まろうとしている。
「この戦いで、ヘルメリアとも決着なのね……」
 初めて参加する、他国への攻略戦。
 緊張をはらみながら、マリアンナはそのときを待つ。
 最後の戦いが、これから始まる。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
EXシナリオ
シナリオカテゴリー
対人戦闘
担当ST
吾語
■成功条件
1.歯車騎士団を撃滅する。
「この共通タグ【機神抹殺】依頼は、連動イベントのものになります。依頼が失敗した場合、『【機神抹殺】Dawn! 時代の夜明けの鐘が鳴る!』に軍勢が雪崩れ込みます」

お決まりの但し書きののちにこんにちは、吾語です。
今回は劇場版マスクド・エイダー、年末映画バージョンでお送りいたします。

自由騎士によって討たれた正義のヒーロー・マスクド・エイダー。
しかし、彼が遺した正義の脈動は、新たな戦士へと受け継がれることになる。
今こそ立ち上がれ、三人の後継者達よ、悪のイ・ラプセル帝国を倒すのだ!

このシナリオに参加した自由騎士のみんなには漏れなく悪のイ・ラプセルネームをプレゼント! みんな、僕達エイダーと映画館で握手だ!

――はい、では以降、シナリオ詳細です。

◆敵
・マスクド・エイダーV2
 サイ・ファード三等が変身します。26の秘密を持ちます。
 基本重戦士。軽戦士のスキルも使いこなします。全部ランク3まで。
 すごく強いです。

・マスクド・エイダーハイパー1
 レイ・スティンガー三等が変身します。拳法の達人です。
 基本格闘家。ガンナーのスキルも使いこなします。全部ランク3まで。
 すごく強いです。

・マスクド・エイダーノワールRZ
 サウス・レイ三等が変身します。自称・太陽の子です。
 基本軽戦士です。レンジャーのスキルも使いこなします。全部ランク3まで。
 すごく強いです。

・正義の歯車戦闘員騎士の皆さん×6
 防御タンク×4 レンジャー×2 というガチガチ構成となっております。
 参加する自由騎士の平均レベルと同じくらいの強さです。
 スキルは各自、ランク2まで使いこなします。

◆戦場
 今回の戦場は無人の住宅街となります。
 大きな屋敷が多いため、富裕層の住宅地っぽいです。
 今回はティダルトの支援を受けることができます。
 支援内容は下記のとおりです。

・フィールド効果:フレイムエッグ
 『ティダルト』からの支援攻撃です。弾丸を射出します。
 6ターンの間、敵一体にランダムで【バーン2】を与えます。
 7ターン目に射出機が自爆します。

ヘルメリアとの戦いもこれで最後となります。
派手にキメましょう!
では、皆さんのご参加をお待ちしています!
状態
完了
報酬マテリア
3個  7個  3個  3個
12モル 
参加費
150LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
7/8
公開日
2020年03月26日

†メイン参加者 7人†



●遭遇、正義と悪! 無人の街にて!
 激しい衝撃が、ティダルトの着地を教えてくれる。
 自由騎士達は速やかに外に出て、作戦遂行の準備に取り掛かろうとした。
 出てみると、外は無人の住宅街。
 大きな屋敷が軒を連ねていることから、この辺りが富裕層の住宅街だとわかる。
「誰もいない……」
 マリアンナが辺りを見回しても、そこに見えるのは閑散とした家々。
 見た目は普通の住宅地。しかし無人のそこは、まるでリアルすぎる模型の街のようだ。
 もう一度視線を巡らせて、マリアンナは息を吐く。
「何の音もない。すごく、静かな場所――」

 ピロリピロリピロリ!
 キュインキュインキュインキュイン!
 ギュワ~ンギュワ~ンギュワ~ン!

「突然うるさい!!?」
 いきなり聞こえたけたたましい怪音に、マリアンナは思わず耳を塞いだ。
 他の自由騎士達も、何事かと周囲を見る。
 すると、『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)が叫んだ。
「あそこだわ!」
 彼女が指さした邸宅の屋根に、彼らはいた。
「「「我ら、正義の中略エイダー以下略!」」」
「略した!?」
「「「とォう!」」」
 そして、ヘルメリアの国章が刻まれたヘルメット型の仮面をかぶった三人が同時に屋根から跳躍し、勢いよく自由騎士達の前に着地する。
「俺は26の秘密を持つ、マスクド・エイダー、V2!」
 ポーズ。
 そして背後に爆発。
「俺はヘルメリア拳法の使い手、マスクド・エイダー、ハイパー1!」
 ポーズ。
 そして背後に爆発。
「俺は太陽の仔、マスクド・エイダー、ノワールRZ!」
 ポーズ。
 そして背後に爆発。
 演出担当は、いつの間にか現場に駆け付けていた歯車騎士団の皆さんであった。
 と、蒸気機関ベルトの音を皮切りに、自由騎士達に叩きつけられたたわけた光景。
 しかし、それを目の前にして『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)と『達観者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)は、ただただ苦いものを感じるしかなかった。
「そうか――、最後まで、最後の最後まで立ちふさがるか、エイダー……」
「終わってはいなかった。いや、新たに始まったというべきかね、これは……」
 エイドリアン・カーティス・マルソー。
 ヘリメリアの正義のヒーローを自称し、自由騎士団と幾度も戦った男。
 そしてその末に、護国の機神を己のボディとして戦い、妻と共に散っていった男。
 あれで、彼との戦いは終わったと思っていた。
 しかし、そうではなかった。
「「「正義は死なないッ!」」」
 彼がその胸に宿していた信念は、それを継ぐ者の胸にこうして激しく燃え盛っている。
「尋ねるが、おまえ達がこうして我々の前に立つのは、仇討ちか? 私怨か?」
「それもある!」
「しかしそれ以上に!」
「――正義! それこそが俺達を衝き動かすのだ!」
 『静かなる天眼』リュリュ・ロジェ(CL3000117)の問いかけに、V2と、ハイパー1と、ノワールRZがそれぞれ答え、そして一斉にポーズをとった。
「「「来るがいい、悪のイ・ラプセル帝国!」」」
 それもまたきっと、亡きエイドリアンへの手向けなのだろうか。
 だとしたら――、
「何て、強い……」
 心の底からの感嘆と共に、『SALVATORIUS』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)が息を漏らす。敵の持つ強さを、彼女は肌で感じ取っていた。
 大切なものを守ろうとする意志。信念に殉じようとするその想い。
 形もないものでしかないのに、それをヒシヒシと感じて、ミルトスは慄いた。
 しかしそこで臆さず前に出る者がいる。
「一言だけ問おう。なぜ、この場で戦おうとする。おまえ達が正義を標榜するならば、なぜ広い場所に出ようとしない。なぜ、住民の家屋が並ぶここを戦場に選ぶ」
 口調を悪役然とさせて、『戦場に咲く向日葵』カノン・イスルギ(CL3000025)が前に出た。わざわざこのときのために、悪役っぽい仮面まで用意しておいた。
「笑止千万!」
 しかし、V2が返したのはその一言。
「戦場を移す間に貴様らが逃げたら、そっちの方が被害が出る可能性が高かろうが!」
「……確かに!」
 カノンも納得するしかない理屈だった。
 要は、見つけた害獣を都合がいい場所まで誘導するヒマがあるかどうか、ということ。
「ここで貴様らを見つけた以上、ここで貴様らを討つ。それが最も理に適っている!」
「そこまで言うのならば、上等さ!」
 果たして、場に新たなる声が響き渡った。
「新たなエイダーが生まれるように、新たな悪だって生まれる。そう、この私だ!」
 『永遠のアクトゥール』コール・シュプレ(CL3000584)が、そこで一歩前に出る。
 正直、怖くて仕方がなかった。
 エイドリアン・カーティス・マルソーの話は聞いていたし、自分が経験不足であることも重々承知していた。しかし、彼女は自由騎士にして役者。
 相手が正義の味方を名乗るならば、自分は当然、悪役を演じねばなるまい。
 役者としての矜持が、コールにそれをさせたのだ。
「これが本当の意味での、最終決戦だ」
 アデルが言って、槍を構える。
「いくぞ、悪のイ・ラプセル! 我らの正義の前に潰えるがいい!」
 ノワールRZを先頭に、ヘルメリアのヒーロー達が駆け出した。
 戦いは、始まった。

●激闘、騎士と騎士! 誇りをかけて!
 自由騎士達が知っているヘルメリアの正義のヒーローであれば、まず前に出てくる。
 そう、思っていた。
 しかし今回は違った。
「貴様らはここで潰す。何が、どうなってもだ!」
 まず前に出てきたのは、後方で演出に徹していた歯車騎士達であった。
 重装備の壁役が四人、そして後方に弓を構えた騎士が二人。
 陣形を組んで、自由騎士達の前に立ちはだかる。
「……なるほど。卿らの正義は口だけのものではないらしい」
 攻撃が来ないのを察し、テオドールが頬に汗を伝わせる。敵は、力を溜めている。
「ならば、こちらから動きましょう!」
 叫び、そして拳を振りかぶったのはミルトスだった。
 彼女の放った一撃が、前に構える四人の歯車騎士を直撃する。
 うまく当たれば敵を吹き飛ばす威力を持つ攻撃だったが、しかし、ビクともしない。
「――硬いッ!」
「今だ、総員突撃! 悪を討てェイ!」
 自由騎士側の初撃の失敗。そこに生じる隙を、敵が見逃すはずがなかった。
 指揮官の一人エイダー・V2の号令によって前衛の壁役たちが一斉に動き出した。
 放たれる攻撃は当然の如く厳しい。彼らとて、国を守る騎士なのだ。
「く……、これは、なかなか……!」
 何とか捌きはするものの、手に残る痺れは重く、エルシーが顔をしかめた。
「こ、の!」
 逆襲のワルツを舞うも――、
「最前衛、防御陣形!」
 ハイパー1の号令。壁役が揃って盾を構えて、彼女の攻撃を弾き返す。
 その間に、後衛の射手が放った一矢が地面に着弾、派手に爆ぜた。
「しっかりと力を充填した一矢だ、威力が高いぞ。気をつけろ!」
 防ぎきれず傷を負ったエルシーへ、ロジェが癒しの魔導を放つ。
「オイオイ、あまり舐めないでもらおうじゃないか」
 今度は、悪役気取りのカノンが前へ出ようとした。
「どうした、ヒーロー!」
 そして彼女は鉄壁の前衛に向かって、初手最大威力の一撃を放つ。
「吹き荒れろ――、二つの台風ッッ!」
 逆立ちの態勢から放たれる強烈な蹴りは、さしもの歯車騎士団と言えども耐えられるものではなかった。爆音の如き音が轟き、構えていた前衛四人が吹き飛ばされる。
「崩れたぞ、今だ!」
 そのときテオドールが動いた。
「この隙を見逃すわけにはいくまい。真白き荊に縛られていただこう!」
 彼が放った強烈な魔力が、多数の歯車騎士団を巻き込み、そして動きを縛った。
「こ、れは……ッ!?」
「踏ん張れ、この程度、いかなるものぞ!」
 歯車騎士達は口々に叫んで抗おうとするが、そこは歴戦の自由騎士たるテオドールの一撃、そうそう簡単に逃れることはできそうになかった。
「分厚い壁も、小さなヒビさえ入れば脆いもの。一気に突き崩すぞ!」
「了解、やってやるわよ!」
 次に突撃したのは、アデルとエルシーの二人。
 アデルは真っすぐに直線的に、エルシーはどこか踊るように曲線的に前進していく。
「敵が来るぞ、防げ。倒せ。守れ。攻めろ!」
 しかし、ヘルメリアの士気は一切挫けていなかった。
 気合によって戒めを破り、敵壁役の一人が前に出ようとする。
「――ホント、大したものだわ」
 彼らが見せつけてくる気合に、エルシーは感嘆した。そして、
「だから私も全力で応えるわ。正々堂々、決着をつけましょう!」
「ぬおおおおおおおおお!」
 手にした大盾を叩きおつけてくる壁役。
 しかし、エルシーはその一撃をスルリと柳の如き動きで受け流し、敵の隙を誘う。
 そこへアデルが飛び込んでいった。
「こじ開ける!」
 手にした槍を、力任せに、だが的確に叩きつける。
 その激突音たるや、人が起こしたとは思えぬ重々しさ。だが――、
「ま……、だ!」
 壁役は身を傾がせながらも、なおも前に立とうとしている。しぶとい。
「本当に強いね。でも、こっちもただそれを称賛するわけにはいかないんだ」
 後方より、コールが身を躍らせた。
 その舞踏が、そして高まる魔力が、今、ヘルメリア軍へと向かって解き放たれる。
「迷え! 惑え! 迷いて惑え――――ッ!」
 場に放たれた魔力は渦を巻き、物理的な干渉力を伴ってヘルメリアへと襲いかかった。
 何より、この魔導はコールにとってのとっておき。
 すでにダメージを受けている者ならば、たとえ守りが厚い者でも打ちのめす威力がある。
「ぐ、おお!?」
 トドメとばかりに、突如としてその歯車騎士の肉体が燃え上がった。
 自由騎士が乗り込んできたティダルトからの支援砲撃だ。
 さすがにこれだけ立て続けに喰らえば、壁役と言えどもひとたまりもなかった。
 地面に倒れ伏す壁役を見て、自由騎士が気勢を上げる。
「壁の一角が崩れた! 立て直しを許すな。穴を突いて敵の陣形を崩せ!」
 だが一方で、マスクド・エイダーV2は指をポキリと慣らして呟く。
「俺達の出番も近そうだな」
 騎士と騎士との戦いは、まだ序盤を過ぎたばかりだ。

●咆哮、守りしもの! 燃え盛る戦場で!
「ハァ……ッ! ハァ……ッ!」
 体力をすり減らし、呼吸を乱しているのはエルシーだった。
 彼女の前には、その身にティダルトの砲弾を浴びて身を炎に包んだ、歯車騎士。
 ザッ、ザ、と、騎士は力強く地面を踏みしめながら前へと歩んでくる。
「――――ッ!」
 重くなった体を奮い起こし、何とか身構えるエルシーだったが、
「……無念」
 しかし、彼女の間合いに入る直前で体力を使い果たした歯車騎士が、その場に倒れた。
 ヘルメリア側の最前を固めてた四人の壁役が、これで全ていなくなった。
 しかし……、
「ハァ、ハァ! ハッ、ハァ……!」
 それを見下ろし、エルシーは何も言うことができなかった。
 とにかく、疲れた。大量の消耗が激しすぎる。
「自、由、騎、士ィィィィィィィィィィ――――!」
 そこへ、一人残った敵の射手が弓を引き絞って狙いをつけてきた。
 矢じりには魔力の光。力が充填されているようだ。
「し、ま……ッ!」
「させないよ!」
 驚きにのけ反るエルシーの脇を、後方からコールが放った一撃が過ぎていく。
 その魔力弾は射手の腹部を直撃した。
「がッ……! ……だ、が、まだァ!」
「――ぐぅ!」
 射手は倒れずなお矢を放とうとしてきたが、踏み込んだエルシーがその顔面に思い切り拳を突き込み、それでようやく倒れた。やっとのことでの打倒であった。
「ハァ、ハァ……、倒れてくれた」
 エルシーが安堵の声を漏らす。
 壁役に比べれば格段にやわいはずの射手でさえ、なかなか倒れなかった。
 歯車騎士達の踏ん張りはすさまじいもので、自由騎士達が幾度叩こうともそのたびに立ち上がり、迫ってきた。どこまでも固く、しつこく、しぶとく、粘られた。
 結果、一線級の猛者たる自由騎士達ですら、大いに体力を削られた現状がある。
 負傷こそ大したことはないものの、体力と気力の消耗は、無視できないほどにまで至っていた。そして、敵はといえば――、
「卑怯とは言うまいな、自由騎士」
「我々は勝たねばならんのだ」
「正義は信念。手段の好悪を論じるつもりはない!」
 V2。
 ハイパー1。
 ノワールRZ。
 完全無傷で元気万点な三人のエイダーが、まだ残っていた。
「いいや、この流れでいい」
 しかしそれに対し、アデルが返す。
「その通り。――こちらの想定通りの流れよ!」
 疲れを押して、カノンが再び悪役の真似をし始めた。
「来るがいい、ノワールRZ! おまえが太陽の仔というならば、私は影の月を名乗ろう! 貴様如きに私を砕くことはできまい!」
「――いいだろう。その挑発、乗ってやろう! とゥ!」
 ノワールRZが大きく地を蹴って跳躍、カノンの間合いへと飛び込んでいった。
 一方で、
「では、そちらのあなた。……私とヤりませんか?」
 あごから滴る汗をぬぐい、ミルトスがV2を誘う。
 V2も大股に歩み出し、彼女へと近づいた。
「貴様の目。その瞳の奥に輝く悦の光。理由なく、ただ戦いを愉しむ者か」
「よく、おわかりで」
「我らにとっては最も忌むべき者。俺自ら叩き伏せてくれる」
「できるのでしたら、ご随意に」
 こうして、V2とノワールRZはそれぞれが相手を定める。
 そして残されたハイパー1を、残る自由騎士達が囲もうとした。
「卑怯とは言うまいね、マスクド・エイダー」
「私達は勝たなきゃいけないの」
「正義を論ずるつもりはないよ。私達は、悪だからね!」
 エイダーの言葉をそのまま言い返すテオドール達に、ハイパー1は一言だけ、
「是非に及ばず」
 支援砲撃を終えたティダルトの射出機が、爆音と共にはじけ飛ぶ。
 その音が、第2ラウンドの始まりを告げる。
 マスクド・エイダーハイパー1が力の限り叫んだ。
「いくぞ、悪のイ・ラプセル! 我が正義の前に果てろォォォ――――!」
 戦場は今、激しく燃え盛っていた。

●超絶、ハイパー1! その矜持を打ち砕け!
 ハイパー1は強かった。
「俺達は、負けるワケには行かぬのだ!」
 格闘家でありながら、その手には二丁拳銃。
 軽やかな動きの中から繰り出される銃撃は自由騎士といえども回避が困難だ。
「俺達が倒れれば、民はどうなる!」
 コールの魔導を耐えきり、銃撃。
「俺達がいなくなれば、この国はどうなる!」
 テオドールが放った呪術すら弾き返し、さらに銃撃。
「俺が――、俺達が、最後の砦なのだ!」
 エルシーの怒涛の攻めを全て受けきって、さらに反抗の銃撃。
「……回復で手一杯とは!」
 ロジェが舌を打つ。
 余裕があれば自分も攻撃に加わろうと思っていたが、甘すぎる考えであった。
 たった一人が相手だというのに、敵の猛攻は自由騎士数人を呑み込んでしまっている。
「これが、彼らの正義か……!」
 攻めているテオドールですら舌を巻くしかない。
「だけど、こっちにはこっちの正義があるのよ!」
 だが、だからといって屈する自由騎士でもなかった。
 エルシーはそう叫び、ハイパー1へと問う。
「マスクド・エイダー! イ・ラプセルを悪の帝国と断ずるのであれば、ヘルメス神とは何者かっ!?」
「何……?」
「王都をこんなバケモノみたいな形にして、民を融合させたヘルメスとは、おまえ達にとって何者なのか、って聞いてるのよ!」
 叫んでいる間にも、エルシーはハイパー1へと果敢に攻めかかっていった。
 その拳を銃で捌きながら、だが、ハイパー1の動きが若干ながら鈍る。
「……好機!」
 それを目ざとく見逃さなかったテオドールが、呪術を発動。
 強力な魔力の戒めが、ハイパー1の全身に重圧をのしかからせた。
 何より、その機敏さこそが脅威であった敵の動きが鈍る。
 それは即ち、膠着していた戦いの天秤が一気に傾くことを意味していた。
「護国の英雄、マスクド・エイダーの名を継ぐ者! でも、覚悟!」
 コールの二連続の魔弾。
 それは、ハイパー1の胸に直撃。その身が崩れかけた。
「今、畳みかける! イ・ラプセルの紅き拳閃! 受けてみなさい!」
 そこへ、エルシーが飛び込んでトドメを刺そうとする。
 しかし――、彼はまだ終わっていなかった。
「やら……ッ、せん!」
 エルシー渾身の一発を、あろうことかハイパー1はそのまま跳ね返した。
 無理を押してのフルカウンター。悲鳴と共に、エルシーの細い体が宙を舞う。
「何と……!?」
 これにはテオドールも目を瞠るが、しかし、そこまでだった。
「く、ぐッ……!」
 ハイパー1の体が、ガクガクと震えていた。
「勝ったと、思った?」
「き、貴様……!」
 倒れていたエルシーが、ゆっくりと起き上がる。
 体からボタボタと血を流しながら、それでも赤い肢体は未だそこに立っていた。
「……私の、全力の奥義よ? そう簡単に、捌かれてたまるかっての」
 息を荒げながら、しかしエルシーは不敵に笑う。
「ぐ、ァ……」
 ハイパー1が震えたまま絶句する。
 蓄積されていたダメージが、今の強引なカウンターによる反動で、表に噴き出してきてしまったのだ。自由騎士達を前に、彼は今、完全に無防備だった。
「マスクド・エイダーを継ぐ者が一人、ハイパー1よ。卿は真に強者だった」
「――称賛など、いらん!」
 仮面の奥で歯を食いしばり、彼は震える手で銃を構えようとした。
 あくまでも、抗う姿勢を解こうとはしない。
 その姿に、テオドールはかつてのエイドリアンの姿を重ね合わせた。
「卿は、本当にエイダーなのだな」
「……護国ならずして、何がエイダー。何がヒーロー! お、俺は、俺達は!」
「もう、倒れて……!」
 トドメを刺したのは、コールの魔導。
 すでに魔力を限界まで使い切っていた彼女の最後の一発が、ハイパー1を打倒する。
「サイ!」
 彼の本名を呼んだのは、カノンと交戦中のノワールRZであった。
 だが、その呼び声にハイパー1は動かない。
「墜ちたか、サイ……」
 V2が一瞬だけ構えを解き、ハイパー1の方を見る。
 その隙に突撃するミルトスであったが――、
「ナメるな、イ・ラプセルッ!」
 V2怒りの拳が、ミルトスをガードごと吹き飛ばした。
 マスクド・エイダーを継ぐ者は残り二人。
 だがそれは、乗り越えるにはなかなかに険しい壁でもあった。

●鮮烈、ノワールRZ! 太陽を背負いしもの!
「てやああぁぁぁぁぁぁぁ――――!」
 気合の声と共にカノンがノワールRZへ挑みかかる。
「遅いと言っている!」
 だが、ノワールRZはそれをたやすく避けて、彼女の背後に回り込んだ。
「こ、の!?」
 慌てて身を翻そうとするカノンだったが、それよりも敵の攻撃の方が一歩早い。
「刻んでくれる!」
 ノワールRZが手にした長剣が、カノンの体を二度切りつけた。
 鋭い刃に彼女の肌は裂かれ、血が噴き出す。
「くぁ……ッ!」
 痛みに顔を歪ませつつ、カノンは後ろに飛び退いた。
 そこへ、ハイパー1を倒した自由騎士達が駆けつけてくる。
「大丈夫か、カノン?」
 ロジェが癒しの魔導を使う。だが、クラリと立ち眩み。
 彼もすでに、限界を迎えつつあった。傷は癒したが、あと何度魔導を使えるか。
「来たか、自由騎士……」
「フフ、残念だったな。太陽の仔」
 言ったのは、誰でもないカノンだった。
「この影の月一人すら倒しきれないおまえに、我々を倒せるか?」
 ここまで、防御主体で戦っていた彼女が、初めて本気の構えを見せる。
 しかし、ノワールRZはうろたえなかった。
「ここは戦場。目の前に敵がいるならば、数は関係ない。すべて倒す。それだけだ」
 長剣を構え直し、ノワールRZは言う。
「その意気やよし。ならば我らも、押し通るまで!」
 カノンが生きもつかずに走り出そうとする。
 しかし、防御主体とはいえノワールRZ相手に一人で戦っていたツケか、その動きはすでに疲労に蝕まれ、すっかりキレを失ってしまっていた。
「ここまでもったこと、大したものだと言ってやろう!」
 そこへ、容赦なくノワールRZの剣技が閃き、切っ先がカノンを抉った。
「う、ァ……」
 勢いを殺され、直撃。激痛は、彼女に悲鳴すら許さなかった。
「……強い!」
 見ていたコールがわななき、だが魔弾を放とうとする。
 だが先に、ノワールRZが動いていた。
 彼の本領。それは速度。
 三人のネクストエイダーの中で最速を誇るのが、ノワールRZだった。
「我が正義の怒りが、この身を奮い立たせる。ヘルメリアをナメるなァァァァァ!」
 襲いかかる鮮烈のヒーローに、自由騎士達は抗うすべがなかった。
 ハイパー1もそうだったが、強い。やはり、エイダーの名を継ぐ者は、強い。
「この、この!」
 マリアンナも充填からの一矢を放つも、しかし、それをノワールRZは立て続けに回避。
 その上で、彼女に対して正確に射撃を当てていく。
 隔絶した力量差に、マリアンナは悔しさすら感じられない。
「大したものだ」
 アデルをして、そう言わしめるほどの技量であった。
「だがな、我らにも掲げる大義がある。それを手折らせるワケにはいかない!」
「言うだけなら誰でもできることだ!」
「ああ、そうだとも。だからこそ、ここでおまえ達を倒し、こちらの大義を証すだけだ」
 肉薄する、アデルとノワールRZ。
 共に仮面で顔を覆い、だが胸に宿した信念によってこの場に立つ者同士。
 まるでそれは、鏡合わせの像のようでもあった。
 イ・ラプセルとヘルメリア。
 敵対する国同士ではあるが、そこに属する者達は同じく正義を掲げている。
 共に、守るべきものを持ち、倒すべき敵を持ち、共に歩む仲間を持つ。
 おそらく両者に大きな違いはない。
 ただ一点、属する国が違うだけ。
「きっと俺達の間に、正義などという大それたものは、ない」
 アデルの渾身の一撃。
 ノワールRZは、余裕を持った動きでそれをかわそうとする。
 やはり、個々の力量ではエイダー側に分があるようだ。が――、
「……何ッ!?」
 回避するために踏み出そうとした片足が、何かに引っ張られた。
 ガクンとつんのめりかけたノワールRZが見たものは、地面に倒れ伏しながらも自分の片足を掴んでいる、カノンの姿だった。
「トドメ、刺し忘れてるよ。我が宿命の星」
「し、しま……ッ!?」
 ニヤリと笑うカノンに、ノワールRZは己の失敗を悟った。
 幼きとはいえ、彼女もまた自由騎士。
 この決戦の場に、生半可な覚悟で臨んでいるわけではなかった。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――ッ!」
 そして、一瞬とはいえ動きを縛られたノワールRZの懐へ、アデルが飛び込む。
 繰り出されたのは、突撃槍によるブン回しの一撃。
 力任せに見えて、だが、十分に技を駆使したその威力が、ノワールRZの身を浮かせた。
「総員、攻撃を集中せよ――――!」
 そして、テオドールの号令に合わせて、自由騎士がネクストエイダーを総攻撃。
 地面に倒れこんだノワールRZは、もう、動かなかった。
「……や、やっと倒れてくれたぁ」
 心身共に限界を迎えたカノンが、息をついてその場に大の字に寝転がる。
 これで、残るネクストエイダーは、あと、一人。

●衝撃、エイダーV2! 血風のクライマックス!
 そこにあるのは、まるで舞のようにも見える死闘だった。
「おおおおおお!」
 V2が振るう大剣を、ミルトスがスレスレでかわして懐に入ろうとする。
 真っすぐ距離を詰めて、彼女は拳を振るうがV2は膝を立ててそれをブロック。
 そのまま踏み込んでミルトスめがけて体から当たっていく。
「……チィ!」
 しかし、それを間一髪で見切って右に身を転がして回避。
 ミルトスは再び空いた間合いを確かめ、動きを止めて構え直した。
「ふぅ――――」
「ちょこまかと……」
 大剣を担ぎ直し、V2もまた動きを止める。
 ミルトスが傷だらけなのに対し、V2の傷は少ない。
 彼女もまた最前線で幾度も死線を渡ってきた自由騎士だが、それでも目の前のネクストエイダーには及ばないようだ。いや、そもそも戦いにかける気概が違うのか。
「顔が笑っているぞ、自由騎士」
「あなたが強いので……」
「そうか」
 ブワ、と、V2から放たれる殺気が濃さを増した。
「そのような理由でこの場に立つ者を、俺は許しはしない。俺の正義の前に散れ」
「浅ましき身であることは重々承知。けれど、騎士としての役割は果たします」
「できるものか、貴様などに!」
 気合を炸裂させ、V2がミルトスを仕留めにかかろうとする。
 しかし、相手の肩越しに、彼は同胞が一人ノワールRZが倒れるのを見た。
「……サウス!」
 ついつい名を叫んでしまうが、ノワールRZからの反応はなかった。
 ハイパー1に続いて、ノワールRZまでもが……。
 そして、これで残るヘルメリア側の戦力は自分一人となってしまった。
「一応、問うわ。こちらに降る気はないかしら?」
 彼にそれを訊いたのは、エルシーだった。
「わかっているはずよ。この現状を、あなた達が慕うエイドリアンは望んでなどいないこと。エイダーを名乗るなら、力ではなく志を受け継ぎなさい。……真に倒すべき悪が誰なのか、気づいているでしょう?」
「…………」
 彼女の言葉に、V2は構えを解く。
「ヘルメス神を討つことで、今日、ヘルメリアは滅びる。しかし、この国の民がいなくなるワケではない。卿らが正義の味方を名乗るならば、まずは民を守ることを冠がっるべきではないかね。民を助け、支える。それこそが――」
「ああ、わかったよ」
 エルシーに次いで言葉を投げかけるテオドールに、V2がそう返す。
 そして――、
「ならばここからは、エイドリアン隊長の仇討ちといこうじゃないか」
 仮面の奥に、レイ・スティンガー三等の鋭い眼光がギラついた。
「な……!?」
「自由騎士。おまえ達の言葉はまるで甘いだけの薄っぺらい戯言だ」
 ゆらりと、マスクド・エイダーV2の身がかしぐ。
「確かに民を思うならば、民をもてあそぶヘルメス神は討たれるべきなのだろう。しかし、それは今ではない。そして、討つのもおまえ達ではない。そもそもにして、侵略者の言葉に耳を貸す軍人がどこにいるというのだ?」
 高まる殺気。噴き出す殺意。
 正義の煌めきはどこかに失せ、ただただ濃厚な戦意だけがV2を塗り潰す。
「何より、俺達からあの人を奪った貴様らの言葉など、耳を貸すに値しない!」
 そして轟く、V2の咆哮。
 エイダーの志を継ぐ者が、己の正義を投げ捨てて突撃してくる。
「まずい、動きが速……!」
「くらええええええええええええええええええええええええええ!」
 繰り出されるのは、熟練の重戦士のみがなしうる具風の如き三連撃。
 前に立っていた自由騎士達が、それこそ木っ端のように吹き散らされる。
「こうなれば仕方があるまい。撃て! 倒すしかないぞ!」
「問題は、倒れてくれるかどうかだね!」
 テオドールとコールが、立て続けに魔導を撃ち放った。
 それは確かに、V2に直撃したはずだった。
「ハイパー1、ノワールRZ! お前たちの無念、俺が晴らす!」
 しかし、倒れない。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!」
 大剣を振り回し、多勢を相手にして一歩も退くことなく戦うV2の姿は、まるで鬼神のようであった。自由騎士達にとって不運だったのは、彼が重戦士――、多対一の戦いを得意とする戦士であったことだ。
 繰り出される技の破壊力に、自由騎士達は次々に吹き飛ばされていく。
「マスクド・エイダー……、ここまでのものなのか!?」
 回復がまるで追いついていない状況で、ロジェが叫んだ。
 V2の猛攻を前に、それでも自由騎士が何とか戦線を維持できているのは、ひとえに彼が必死に癒しの魔導を使い続けているからだった。
 気力と体力は底をつき、自身もよけきれずにV2の攻撃に巻き込まれながら、それでも魔力をひねり出して仲間の傷を癒しつづける。
 その果てに、彼をかばうように前に立ったのが、ミルトスだった。
「……貴様か」
「ええ、私です」
 ミルトスは、奥義を駆使していた。
 己の姿をあえてさらし、敵の注意を引き付ける。
 その技を使って、傷だらけながらもV2の意識を己の方へと向けさせたのだ。
「言葉はもうない。真っ二つにしてやる!」
 迫るV2に対して、ミルトスは動かなかった。
 彼女が万全であったならば、ここでエイドリアンに決めた奥義を使っていたことだろう。
 しかし、それを使うには彼女は傷つきすぎていた。
 大量の血を失い、手足が言うことをきかない。状態が悪すぎた。
 相手が悪かった。相手が強すぎた。思うことは様々なれど、それでも彼女がこの場に立って、V2に向かっていったのは、
「私にだって、信じるものはあるのですよ?」
 そう、ゆえに――、
「あとはお願いします」
 ミルトスは、V2の攻撃を無防備なまま受け止める。
 当然、そうすれば攻めた彼の方が隙を作ることになり、そして、
「……決めよう」
 ノワールRZにそうしたように、自由騎士達はV2に残る総力を全て注ぎ込んだ。
 防御は、間に合わなかった。
「ぐ、あ、ああああああああああああ!!?」
 近距離から、遠距離から、波状攻撃を仕掛けられ、V2が吹き飛ぶ。
 そして大地に投げ出された彼を、自由騎士達が注意深く観察する。
 地面に派手に血を散らしたV2の体が、大きく震えた。
「お、俺は……」
 彼は何とか起き上がろうとする。しかし、
「――すみません、隊長」
 その言葉を最後に、全身からは力が失われ、動かなくなった。
 自由騎士達はしばらく見守り続けたが、V2が目を覚ますことはなかった。
「勝った、か……」
 アデルも安堵の息をつく。
 余裕など微塵も残っていない。まさに薄氷の勝利であった。
「自由騎士よ……」
 しかし、そこに声。
 皆が驚き振り向けば、ノワールRZが上体だけを起こしていた。
 身構えようとする自由騎士に、しかし、彼はゆるりとかぶりを振る。
「俺達に、戦う力は残っていない」
「ならば……?」
「民を、助けてくれ……」
 その言葉に、皆が衝撃を受けた。
「貴様らに頼むなど業腹だが、しかし、頼めるのは貴様らだけだ。どうか、民を。この国に生きる人々を、どうか。頼む……」
「わかった」
 それを答えたのは、誰だったのか。
「――頼んだ、俺達とは、別の正義をもつ者よ」
 ノワールRZはその返事に満足し、再び意識を失った。
 かくして、今度こそマスクド・エイダーとの戦いは終わった。
 長く厳しい戦いだった。
 しかしその中に、自由騎士達は確かにヘルメリアの騎士の誇りを見たのだった。

 この戦いに、悪はない。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『私は恥じない』
取得者: ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)
『重縛公』
取得者: テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)
『武踊・影の月』
取得者: カノン・イスルギ(CL3000025)
『舞闘・紅い牙』
取得者: エルシー・スカーレット(CL3000368)
『円舞・悪の娘』
取得者: コール・シュプレ(CL3000584)
『戦線支柱』
取得者: リュリュ・ロジェ(CL3000117)
『鋼鉄の正義』
取得者: アデル・ハビッツ(CL3000496)

†あとがき†

お疲れさまでした。

ネクストエイダー×3はいずれも強敵でしたね!

この戦いに悪はいません。
ただ、異なる正義がぶつかり合っただけなのです。

なので悪のイ・ラプセルネームもなくなりました。
まぁ、代わりに個別称号あるんですけどね。

それでは、次のシナリオでお会いしましょう!
FL送付済