MagiaSteam
真夏の夜の夢




「うっさいわね! こちとら伊達や酔狂でカマってんじゃないわよォ!!!!」

薄暗い一室に怒号が響く。だが蒸気電話の向こう側、にやにやとした声音は怯む事もなく、『お困りでしょう』と告げた。ここのところ店員の長期休養や辞職が相次ぎ――その理由は、察して余りある。叫んだ勢いのまま受話器を壁に叩き付け、怒号の主は血走った眼で周囲を睨み付けた。
小さなカウンター、少人数で囲むテーブルセットが幾つか。そして奥には、年季物のミラーボールに照らされたちょっとしたショースペース。そのぜんぶぜんぶ、細々と受け継いで来た大切な城。

「……手放してなるものですか」

綺麗に整えられた爪先のネイルが、持ち主の焦燥を表すかのようにルージュの奥で無残にも噛まれ崩れている。
情勢が目まぐるしく変わる中、舵取りには一瞬の気も抜けない。事実、こちらの資金繰りが厳しいと見るや、立地の良いこの場所を求めて大手商会が手を伸ばしてきた。あからさまだが証拠を残さぬやり口に、周囲には屈してしまった店もあると聞く。それでも。
長い髪を背に払い、怒号の主はギラギラとした眼差しで吐き捨てた。

「ここはアデレード港町二丁目――『アタシ達』のナワバリよ!」




 アデレード港町の商店街にチラシが貼られている。

―――――――――――――
『Bar Destroyからのお得なオハナシ』
本日レディースデー! 女性のお客様は半額!
仕事終わりの疲れた心を、人生経験豊かなママと面白楽しいキャスト達とお喋りして癒しませんか?
 華やかなショーにたくさんのお酒を用意してお待ちしています(はーと)

※男性キャスト募集
 制服支給、福利厚生完備、教育制度あり……
―――――――――――――

人気のない路地裏の、その内の一枚の前に人影が一つ。

「けっ、無駄なあがきをしやがる」

にやりと笑う人影は、チラシを破り捨てて立ち去るのだった。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
自国防衛強化
担当ST
日方架音
■成功条件
1.レディースデーの一夜を盛り上げる
お久しぶりです、日方です。オネェが書きたい衝動をこらえられませんでした。
我こそはと思う方、お待ちしております。

●場所
『Bar Destroy』
単独客用のカウンター、グループ用のテーブルが幾つか、最奥にどこからも良く見えるようなショーステージがある。

●男キャラ
キャスト(オカマ)になる。源氏名と衣装を決めること。店に出る前にきっちり教育される。
ダンスショーに出たりキャットファイトしたり、どういうキャストになるかは自由。
客に指名されたら断れない。人生相談されたらどういう感じで答えるかも書いてください。
入れられたボトルの数で給料が決まる。

●女キャラ
客として店を訪れる。訪れた理由を書くこと。
誰か贔屓を決めて人生相談をする。複数回可。
ショーを見る場合は嬢(ダンサー)の衣装のどこかにおひねりを突っ込むこと。
お財布と相談してキャストにボトルを貢ぐことが可能。

なお、性別不明キャラはお好きな方をお選びください。

●突発イベント
レディースデーの一夜の間に、この土地を狙っている大手商会が送り込んだ地上げ屋が乗り込んで来ます。
地上げ屋は客を装って他の客(依頼参加者)に絡んだり等、店の評判を落としに来るので、キャスト達はあらゆる手段で以って店と客を守ってください。

●その他
ここはオカマバーでキャストとはつまりオカマ、ということは当日知ります。心に傷を負う可能性があることはご了承ください。
バーのママはプレイングが無い限りほとんど空気です。
状態
完了
報酬マテリア
1個  1個  5個  1個
10モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
参加人数
6/6
公開日
2020年08月07日

†メイン参加者 6人†




 蒸気的な通信が発達した今でも、チラシというアナログな広告媒体はどうして馬鹿には出来ない。

「踊って愛想ふりまいてればタダ酒とお金貰えるなんてオイシーねー」

街中に貼られた一枚を見て、俺向けじゃなぁい?と『炎の踊り子』カーシー・ロマ(CL3000569)は鼻歌交じりにレクをシャンシャンジャンジャンした。近くの窓から罵声とバケツが降ってきた。

「噂のアデレード二丁目か……ふふ、面白そう」

また別の場所の一枚。『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)は店の正体を悟ったらしい。その上で応募する心算なあたり、クールな見た目に反してノリはいいようだ。

「……ふーん」

今まさに破られたチラシの半分を拾い上げ、目を細めて男の背を見送る『水底に揺れる』ルエ・アイドクレース(CL3000673)。厄介事の匂いに、足はむしろ店へと向いた。

「レディースデー。人生経験豊富……」

風で飛んできたもう半分のチラシに、やさぐれた瞳を瞬かせる『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)。戦って戦って戦い抜いて……そして男がまったく寄り付かなくなってしまった。ここでなら解決策を教えてもらえるかもしれない。教えてプリーズ。

「いい加減どうにかしないと……」

『朽ちぬ信念』アダム・クランプトン(CL3000185)は力強くとある扉を見つめる。そろそろ焦げ始めそうなほど見つめた後、ゴクリと喉をならして中へ。その決意に満ちた背を。

「アダム……」

『思いの先に』ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)は、衝撃と共に見詰めていた――



 空が夜の帳を纏う頃。Destroyは看板のネオンを灯す。後は準備中の札をひっくり返すだけ――の、その前に。整えられた指先で長い髪を払い、ママはキャスト達を振り返り声を張り上げた。

「番号!」

「1番、ルエラ。こういうおシゴトもたまには悪くないよね」

オカマバーだったとは思わなかったけど、まあ店を守りたいって思いは分からなくもないし。首を傾げた拍子に、青いマーメイドドレスをウェーブのかかった髪がさらりと滑った。文句なしにキレイ。

「2番、リア。今宵は夢のひと時を……ふふ」

虹色ブレスがきらりと光り、ラビットイヤーがぴこぴこ動く。ブレスにも耳にも色々仕込んであるよ、今日は楽しみだね。こちらも男には見えぬアミアミタイツのバニーガール。ただしメイクはドギツイ。

「3番! カシ子! 中間マージンだぁいすき!」

アラビアンな衣装はおひねりをたくさん入れるため。なんだかちょっと予想と違ったけどまーいーか! メイクはさらにドギツイ。

「4番! アダ美! チャームポイントはシックスパックよ!」

女性が苦手な僕だがいつまでもそうは言ってられない。これこそ女神様の思し召し。露出の少ないナウくてヤングなドレスが、この日の為に換装した腹筋をなまめかしく浮き上がらせる。メイクはもはやデストロイ。
準備万端臨戦態勢のキャスト達にママは満足げに頷くと、準備中の札をむしり取った。


カランカラン♪とドアベルが音を立て。

「酒よ。酔える奴をお願い」

本日最初のお客様がカウンターに座る。ドギツイアラビアンがススッと駆け寄った。

「カシ子、かしこかしこー」
「あら?どこかで会ったかしら」

首を傾げながらも周囲を見回すエルシーの視線の先、スポットライトが舞台を照らす。

「今宵はこの『BarDestroy』へようこそ♪ 夢のひと時をお楽しみください」

虹色ブレスを翻し、マジシャンな司会は微笑んでステッキを一振り。ライトが一点に集まり、ショーダンサーがゆっくりと進み出る。

「ダンスは得意ではないの」

ダンサーじゃなかった。だが歩みを止めない足先はリズムを刻み。

「そんなアタシに出来るのはコレだけ」

揺れる腰つきはストリッパーの艶めかしさ。でも脱がないわ、漢女は気安く肌を見せないの。大きく広げた両手に抱えているのは――

「知っているかしら、古来よりオカマに伝わりし――あんぱんの踊り食い」


_人人人人人人人人人人人_
> 焼き立てのあんぱん <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄


微妙な空気をものともせず、媚びない視線が辺りを睥睨する。優雅に美しく、アダ美は跳んだ。あんぱんも飛んだ。

「出番だよ……ほら!」

リアがステッキを振ると、ちょっと嫌そうな鳴き声と共に白い羽猫が天井近くに生成され。あちらこちらに飛んだあんぱんを前足で器用に打ち返した。唸る剛速球――だがアダ美は狼狽えない。

「あんぱんは! トモダチッ!!」

バク宙三回捻り! からのカモノハシ着地! 星の数ほどのあんぱんが全て、いつの間にかアダ美のブラックストマックに吸い込まれている! やり切った顔で口元のあんこを拭うアダ美を、羽猫はスペースキャット顔で見つめていた。

「……まさかこんな場所にあの技を使える奴がいるとはね」
「えっそんな有名ムーブ出しちゃう感じー? あっはいおっしゃる通りでぇす」

カシ子の頬を札束で撫でて黙らせると、エルシーはアンニュイに頬杖をついた。

「どうやら修羅の店に足を踏み込んでしまったようね……まぁ、いいわ」

あんぱんは本命ではない。雑誌で勉強してきたBarの作法の通り、高らかに指を打ち鳴らす。これより我も修羅に入る、とばかりに緋色の髪が炎の如く煌いて。

「人生経験豊富なキャストとやらをお願いするわ。ボトルもじゃんじゃん持ってきなさい! 金ならあるわ!!」
「かしこみかしこみー!」

その光を反射して、カシ子の瞳はおマネー色に輝いたのだった。


ドアベルの音すら立てぬほど、静かに扉が開き。ひょこりと覗いた金の髪がシャンデリアに輝く。

「あの……わたくし」
「いらっしゃいませ」

ルエラの優しい微笑みに背を押され、ジュリエットはおずおずと店内に入った。

「どうぞ、落ち着くわよ」

案内されたテーブルに置かれたのは湯気立つ上品なカップ。飲みなれた紅茶の味に確かに緊張が解けていくのを感じ、溜息と共に思わず言葉が転がり落ちる。

「わたくし、とある方に恋をしていますの」

柔らかく先を促す無言に勢いを得て、言葉はどんどんあふれ出す。相手には気付いてもらえないこと、恋のライバルもいて焦っていること、そして何より。

「新たな一歩が踏み出せないのですわ。どうしたらいいのかしら」
「そうねえ……」

オネェなミズヒトは言葉を探すように虚空へ視線を投げる。他人を諭せるような立派な人生送っちゃいないけれど、悩む少女に何か少しでも――しばらく考えて。

「こうしてアタシに相談出来るだけでアナタは勇気があるんじゃないかしら? そして現状を変えたいって意思もちゃんとある」

今まで良く頑張ってきたわね、と空になっていたカップにお代わりを注ぐ。ゆっくり休んで頭を柔らかくして、そうすればきっと。

「自分がどうしたいか見えてくると思うわ」
「自分が、どう、したいか……ですの」

揺れる紅茶の水面をしばらく見つめ――ジュリエットはギュッと唇を引き結ぶと。椅子を蹴倒さん勢いで立ち上がり、舞台へ、その上に立つ人へとダッシュする。

「アダム!! ……貴方……」
「ジュリエットさん!? ……その、これは」

死んだ魚の目をした羽猫と共にあんぱんを踊り食いしまくっていたアダ美は、いきなり突撃して来た友人の思い詰めた顔に思わず口ごもった。静まり返る店内。気を利かせてスポットライトを動かすリア。修羅場の予感に誰かの喉がゴクリと鳴る。気まずそうに目を伏せるゴリ……アダ美の上から下までを何度も眺め、ジュリエットは叫んだ。

「貴方、本当は女の子になりたかったのですわね!!!」
「えっ?」

戸惑うアダ美(と周囲)を置き去りに、ジュリエットはアダ美の手を握り締める。それでも貴方という人間が好き、という想いを込めながら。

「貴方がこの世界(?)で女として生きる(?)なら、わたくしは全力を持って応援いたしますわ!!!!!!!」
「えっうんありがとう……??」
「おっとジュリジュリがアダアダに貢ぎたそーだぞ」

巻き上げチャンスの匂いを嗅ぎ取ったカシ子が、スッとドンなペリニヨンのボトルを差し出す。ぶんどってスポットライトに高々と掲げるジュリエット。

「アダムをナンバーワンにするためなら、財は惜しみませんわー!!! あっでもわたくし未成年で飲めませんから、こちらは皆様に振舞いますわ」
「あら素敵ね。ならお礼に一曲、聴いてくださるかしら」

踏み出せたじゃない、と耳元に囁いて。歌が得意なオネェは舞台の真ん中へ。

「泡沫に揺蕩いし愛の調べを――」

ディーヴァの歌声が観客を魅了していく。愛の旋律に背を押され見上げるジュリエットの瞳に、優しく微笑むアダ美が――

「アダアダの汗(オイル?)が染み込んだあんぱんもあるよー」
「全部いただきますわ!!」

ムードなんてなかった。


空のボトルが積み上がるカウンターにて。

「アダ美とジュリエットは相変わらずラブラブのアツアツみたいじゃない……いい度胸だわ」

セクシーのパッシヴスキルは今日も仕事してくれない。やさぐれるエルシーが飲み干したグラスに、そっとハンカチがかけられる。

「ふふ……出張マジックはいかが?」

指を鳴らせばどこからともなく現れた竜の牙の猛者が、ハンカチを引き裂いて溶け消える。空だったグラスには、南国の海を思わせる鮮やかな蒼いカクテルが。

「やさぐれているだけなんて勿体ないわ、悩むのも前向きに……ね」

ウィンク一つ、微笑むリアに促されて干したグラスの底には――綺麗な石。

「当店自慢の占いをどうぞ」
「エルエル恋占いとかどー?」

マジシャンバニーの顔を見つめ、グラスの底の石を見つめ。それから神秘的、というにはだいぶドギツイ占い師を上から下まで眺め。

「……いいわ、お願いできるかしら」

背に波紋的な文字を背負い、名誉将軍と名高い彼女は前向きに修羅になった。



 賑やかしくも姦しい店内を侵略するかのように、入口から荒々しい足音が響く。趣味の悪いシャツを着崩した荒くれ者達は、我が物顔であちらこちらへ。

「来たわね……!」
「大丈夫……任せて」

招かれざる客へ今にも飛びかかりそうなママを、だがリアは笑顔で押し止める。その間にも、荒くれの一人が小麦色のダイナマイトボディの隣にドカリ。

「よう姉ちゃん酌してくれや」

ニヤニヤした笑みでグラスを差し出すが。

「うーんトルコ石の、裏?」
「ガツガツするとダメかもー?」

おかしい、いつもと反応が違う。荒くれAはテーブルに前のめりなエルシーの肩をつついた。

「なに? ……サファイアは確か女の魅力よね!」
「過ぎたるはおよばザルってゆーお猿さん居たよね、お猿さんのハナシね、イテッ!」

怯えるどころか見向きもされない。荒くれAは前のめりすぎて占い師にたまに頭突きしがちなエルシーの肩をちょっと強めに叩いた。

「なぁ姉ちゃん」
「うるさいわね、いま私の人生に関わる大事な話の途中なのよ? ……ルビー! どう!?」
「ええっとですね……」

片手で鬱陶しそうに振り払われた。これは舐められている。荒くれAは興奮のあまり占い師の両肩をガクガク揺すり始めたエルシーの腕を掴んだ――同時に。

「こっち向けっつってんだろ!」
「石さんそろそろ空気読んで! ええっと赤い物がラッキーかも!! うっぷ、酔っちゃう……」

三半規管にダイレクトアタックされたカシ子がやけっぱちで叫んだ。


少し視点をずらして。この店で一番の紅茶を傾けるジュリエットにも荒くれ共が迫る。

「へへ、こんな店にお嬢様がいるなんてなァ?」
「汚い手で触れないでいただきたいですわ、下郎」

汚物を見る青の瞳にも、むしろ下卑た笑みを深めて勝手に隣に座る荒くれB。アダ美が庇うように間に入る。

「ダメよぉ、オモテナシはワタシ達の専売特許なんだから」
「こぉんなオンナオトコより俺の方がよろこばsグボッ!?」

鼻で笑って押しのけた荒くれBの鳩尾に、銀のスプーンがクリティカルに突き刺さった。

「今、何とおっしゃいまして――アダ美は、彼女達は、レディーですのよ! レディーの秘密の花園を踏み荒らす無粋な輩は、わたくしが成敗いたしますわ! アダムの世界はわたくしが守りますわよ! ほら正座なさい!」
「このアマ……!」

大切な人をけなされて仁王立ちのお怒りジュリエット。痛みに悶える荒くれBは反省――するはずもなく、逆上して詰め寄る。密やかに握られたアダ美の拳を舞台上から見ていたリアは、理性の限界を悟って殊更明るく声を張り上げた。

「男性のお客様にはご褒美タ〜イム! キャストとの触れ合い殴り合いのキャットファイトフィーバーで〜す!」

刹那、照明が一斉に落ちる。集中するスポットライトの中、大きく広げたリアの両の手から光が様々な軌道を描いて暗闇を走り、弾けた先に呻き声の四重奏を響かせる。さらにステッキを一振り。

「ほら、行っておいで」

やっとまともな仕事か、とばかりの鳴き声一つ。リアの肩から羽猫が飛び立ち、肉球型の紅葉を荒くれ共の頬に咲かせていく。

「ふふ……これがマジシャン流のオモテナシ、だよ!」
「やるわね! 次はワタシ流のオモテナシよ!!」

アダ美のシックスパックが震える。耐えていた拳を大きく振りかぶって――めこしゃあッ!! 同時に店内に明かりが戻り――鼻血に染まるあんぱんを見て、エルシーは理解した。

「なるほど、ラッキーカラーは赤ね」
「エルエルどどーん!」

ひっく、とフラフラ立ち上がる名誉将軍。カシ子はスッと傍らに控えると、焼き立てあんぱんを籠で差し出した。ぐるりと向けられる座った眼差しに、生き残りの荒くれ共が思わず後退る。まわりこまれた! にげられない!

「ほら、アンタも私の恋占いを一緒にききなさいよ? なに? 私の酒が飲めないっての?」
「酒は飲んでも飲まれるなァーー!?」

なんかアレでソレな感じにあんぱんでメキメキィされた。


死屍累々、心折れた荒くれ共が店内に転がっている。

「オネェコワイ……」
「アンラッキーカラーは赤……」

逃げ出す気力さえ失った彼らの耳に、どこからか慈愛を含んだ歌声が響く。

「オモテナシ、少し激しかったかしら?こちらで休んでいって」

情感豊かに歌い終わった麗しき青きマーメイドが、舞台を降りてテーブルに手招きする。フラフラと一人、また一人と誘われる荒くれーズ。赤くないってこんなに安心するなんて。あとドギツクない。

「お仕事、頑張ってらっしゃるのね。――皆様にお酒を」
「かしこかしこ! ドンなペリペリ入りまぁす!」

ルエラの、にこやかな営業スマイルに柔らかなトーンで労わる聞き上手な声。さらに要所要所で差し出されるカシ子のアルコールが、男達の口を滑らかにしていく。

(なるほど、不正の匂いがする、ね……)
「そう、とっても大変なのね。普段はどのような――」

気配を消して眺めるリアは、話の流れの途中に何度か虹色ブレスを振る。心得たように瞬き返して、ルエラは話を誘導していき。気付けば店は閉店間際。

「はーいお代は修理費コミでこちらでーす! ……えっ払えないー?」

桁が三つくらい違う請求書に正気に戻った荒くれーズ。真っ青な顔の彼らの肩を、アダ美が黙って優しく叩く。

「大丈夫よ、筋肉が全てを解決するわ。筋肉の声を聞くのよ!」

再び舞い始めるあんぱん、ゆらゆら揺れるシックスパックに別の意味で正気を失う荒くれーズ。

「「「まっそぅ! まっそぅ! あんぱん! おどりぐい!!」」」
「こちら、サービスよ」

筋肉を讃える呪文を大合唱し始めた元荒くれーズに、ルエラはママと手分けして手早くメイクしてあげた。その方が何となく面白そうだったので。

「ラッキーカラーはー?」
「「「赤!! 赤!!!」」」
「かちこみかちこめー!」
「「「オオオオオオ筋肉!! 筋肉!!」」」

威勢よく、だがちゃっかりアダ美の影に隠れて煽るカシ子にノせられ。深夜の二丁目にお礼参りのオカマ夜行が走る。

「アダ美の行く所にわたくし在り! ですわ!!」

応援団長も加わり、とある大きな商会に雪崩れ込むオカマ達。普段は肩を怒らせて歩く強面達が、泣き叫びながら建物内を逃げ回る。外に出ないのかって?

「ラッキーカラーは赤! アンタの鼻血であんぱんを染め上げてやるわよ!」

闇夜に翻るセクシィダイナマイツ。哀しいかな、立派な門扉に陣取る名誉将軍を誰も超えられなかった。そういうとこだぞ。

「ふふ……不正の証拠はいただいた、よ」

阿鼻叫喚の地獄絵図を遠くに、書類を抱えたマジシャンはひっそりと笑った。



 翌日、とある大手商会が一夜にして壊滅したとの噂が広まる。還リビトの集団に襲われた、いや幽霊列車が通過した、など様々な憶測が憶測を呼ぶが、真相は闇の中。ただ。

「今夜はアタシの奢りよォォ!!」

とあるBarで、貸切の打ち上げパーティーが行われたとか。めでたしめでたし。







†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『どうにもならなかった』
取得者: アダム・クランプトン(CL3000185)
『貴方の世界を守ります』
取得者: ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)
『中間マージンだぁいすき!』
取得者: カーシー・ロマ(CL3000569)
『マジシャンは微笑む』
取得者: マグノリア・ホワイト(CL3000242)
『そういうとこだぞ』
取得者: エルシー・スカーレット(CL3000368)
『おシゴトはきっちりと』
取得者: ルエ・アイドクレース(CL3000673)
特殊成果
『あんぱん』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員
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