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錯綜する情報と見える男
●
首都からさほど離れていない山脈地帯の洞窟。そこに6人の自由騎士の姿があった。
カンテラを片手に洞窟内を捜索する6人。ただの調査依頼のはずだった。
しかしまだ6人は知らない。自身が身の毛もよだつほどの恐怖を味わいながら命を失うことになる事を。
「ハハハ。ワタシ、そろそろアナタたち来るおもてたヨー」
天井からぶら下がるように突然洞窟の暗闇から現れた丸いサングラスをかけ央華大陸風の服装をした小太りの男。
「ラスカルズのメンバーだな。大人しくすれば攻撃はしない!!」
「ハハハ。そうだヨー。でも2つアナタたち勘違いしてる」
その男は音も無く、地面へと降り立った。天井からの高さは5メートルほど。普通に着地すれば相応の音がするはずである。
「一つ。ここは大事な場所ヨー。アレが見つかるまではアナタたちにはあげられないヨー」
「そして2つ。アナタたちがワタシみつけた、違う。ワタシがアナタたちをみつけたのヨー」
「こいつ……! 全員戦闘態勢!! 捕まえるんだ!」
「ハハハ。ワタシを捕まえる? ダレが? アナタたち? 無理むりぃー。だってアナタたちには何も見えてナイ」
男がサングラスを外す。自由騎士のカンテラの明かりに照らされる男。
「ひぃっ!? なんだこいつ!!」
「きゃぁああ!!! 目が!!」
サングラスの下には真っ黒い窪みが2つ。その男には眼球が無かったのだ。
「ハハハ、アナタの目。ワタシに合う? 合うかナー? 試させて欲しいネー」
男の口がにぃと歪む。
男には目が無い。故に目線など感じるわけもない。だが……確実にこちらを「見て」いる。おぞましいほどの視線を感じるのだ。それも複数の。男の後ろに同じような5つの影が蠢く。
「うわぁぁぁぁあああ!!!」
気が動転し、カンテラを投げ捨て洞窟の奥へと消えていくもの。
「やめろ、くるな……くるな!!!」
同じく正常な判断力を失い、ひたすらに怯えるもの。その場で気絶するもの。
「くっ……トリノ、お前は逃げろ!」
「でもっ」
「いいからはやく! 俺たちが時間を稼ぐ間に応援を呼んでくれっ!!」
洞窟の入り口へ奔るトリノ。出口まであと少しのところまで来たところで突如耳元で声がした。
「アナタ、逃げられると思った? 思った? ハハハ。無理ネー。じゃ、おめめチョーダイ?」
「いやぁぁぁぁぁあああああああっぁぁあぁぁぁ!!!!!」
ある情報を元にラスカルズのアジトに潜入した6人の自由騎士。
経験こそ浅いものの相応の装備をしていたはずの彼らだったのだが──誰一人帰ってくる者はいなかった。
数日後彼らは、山越えの山道で変わり果てた姿で発見される。その全ての遺体からは眼球がえぐりとられていたのだ。
そしてこの日を境にジョセフの情報を基にした捜査は打ち切られる。情報の真偽は兎も角、「知られている」事をわかった上で、相手も動いている事実による苦渋の選択であった。
●
「くそっ。ジョセフの野郎……」
『演算士』テンカイ・P・ホーンテン(nCL3000048)は悔しそうな表情を見せる。
「ジョセフって?」
「ああ、以前捕まえたラスカルズの幹部さ。そいつから得た情報を元に色々動いていたみたいなんだが……アジトを捜索してとんでもない事になる未来が見えちまった」
「ジョセフの証言は嘘だったのか?」
「いや、そうじゃない。たぶん全て真実だ。問題なのはジョセフがそれをしゃべる事もすでにヤツラにとっちゃ想定済みってコトさ。逆に罠を張ってやがった」
「……まんまと泳がされたってわけか」
「ああ。頭領かもしれないし、ほかの幹部かもしれない。確実にいえるのはラスカルズにもどうやら切れ者がいるみたいだ」
テンカイが神妙な顔をする。
「だけど今、それを未然に予知できた。ならする事は一つ」
──さぁ反撃だ。
首都からさほど離れていない山脈地帯の洞窟。そこに6人の自由騎士の姿があった。
カンテラを片手に洞窟内を捜索する6人。ただの調査依頼のはずだった。
しかしまだ6人は知らない。自身が身の毛もよだつほどの恐怖を味わいながら命を失うことになる事を。
「ハハハ。ワタシ、そろそろアナタたち来るおもてたヨー」
天井からぶら下がるように突然洞窟の暗闇から現れた丸いサングラスをかけ央華大陸風の服装をした小太りの男。
「ラスカルズのメンバーだな。大人しくすれば攻撃はしない!!」
「ハハハ。そうだヨー。でも2つアナタたち勘違いしてる」
その男は音も無く、地面へと降り立った。天井からの高さは5メートルほど。普通に着地すれば相応の音がするはずである。
「一つ。ここは大事な場所ヨー。アレが見つかるまではアナタたちにはあげられないヨー」
「そして2つ。アナタたちがワタシみつけた、違う。ワタシがアナタたちをみつけたのヨー」
「こいつ……! 全員戦闘態勢!! 捕まえるんだ!」
「ハハハ。ワタシを捕まえる? ダレが? アナタたち? 無理むりぃー。だってアナタたちには何も見えてナイ」
男がサングラスを外す。自由騎士のカンテラの明かりに照らされる男。
「ひぃっ!? なんだこいつ!!」
「きゃぁああ!!! 目が!!」
サングラスの下には真っ黒い窪みが2つ。その男には眼球が無かったのだ。
「ハハハ、アナタの目。ワタシに合う? 合うかナー? 試させて欲しいネー」
男の口がにぃと歪む。
男には目が無い。故に目線など感じるわけもない。だが……確実にこちらを「見て」いる。おぞましいほどの視線を感じるのだ。それも複数の。男の後ろに同じような5つの影が蠢く。
「うわぁぁぁぁあああ!!!」
気が動転し、カンテラを投げ捨て洞窟の奥へと消えていくもの。
「やめろ、くるな……くるな!!!」
同じく正常な判断力を失い、ひたすらに怯えるもの。その場で気絶するもの。
「くっ……トリノ、お前は逃げろ!」
「でもっ」
「いいからはやく! 俺たちが時間を稼ぐ間に応援を呼んでくれっ!!」
洞窟の入り口へ奔るトリノ。出口まであと少しのところまで来たところで突如耳元で声がした。
「アナタ、逃げられると思った? 思った? ハハハ。無理ネー。じゃ、おめめチョーダイ?」
「いやぁぁぁぁぁあああああああっぁぁあぁぁぁ!!!!!」
ある情報を元にラスカルズのアジトに潜入した6人の自由騎士。
経験こそ浅いものの相応の装備をしていたはずの彼らだったのだが──誰一人帰ってくる者はいなかった。
数日後彼らは、山越えの山道で変わり果てた姿で発見される。その全ての遺体からは眼球がえぐりとられていたのだ。
そしてこの日を境にジョセフの情報を基にした捜査は打ち切られる。情報の真偽は兎も角、「知られている」事をわかった上で、相手も動いている事実による苦渋の選択であった。
●
「くそっ。ジョセフの野郎……」
『演算士』テンカイ・P・ホーンテン(nCL3000048)は悔しそうな表情を見せる。
「ジョセフって?」
「ああ、以前捕まえたラスカルズの幹部さ。そいつから得た情報を元に色々動いていたみたいなんだが……アジトを捜索してとんでもない事になる未来が見えちまった」
「ジョセフの証言は嘘だったのか?」
「いや、そうじゃない。たぶん全て真実だ。問題なのはジョセフがそれをしゃべる事もすでにヤツラにとっちゃ想定済みってコトさ。逆に罠を張ってやがった」
「……まんまと泳がされたってわけか」
「ああ。頭領かもしれないし、ほかの幹部かもしれない。確実にいえるのはラスカルズにもどうやら切れ者がいるみたいだ」
テンカイが神妙な顔をする。
「だけど今、それを未然に予知できた。ならする事は一つ」
──さぁ反撃だ。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.新米自由騎士の無事
2.ワン・フーとその仲間を退ける(撃破逃走問わず)
2.ワン・フーとその仲間を退ける(撃破逃走問わず)
麺二郎です。年度末はあまり好きではありません。
呪文もお預けの日々が続いています。いやぁぁぁああああああ。
ジョセフから聞き出した情報。その一部が逆手に取られ自由騎士が惨殺される事件へと発展する未来が予知されました。これを未然に防いでいただくのが今回の依頼です。
今回の情報源は拙作『鉄格子越しの攻防【とあるゲスとの会話記録】』が元になっていますが、そちらを知らなくても依頼には影響はありません。
●ロケーション
とある山中の洞窟。ジョセフからの情報によりラスカルズのアジトの一つされている。
この洞窟に何からすかるずの痕跡や情報がないかを調査するのがオープニングで登場した6人の役割でした。
洞窟自体はとても広く大小さまざまな横穴があり、全容は知れません。
その洞窟を200Mほどまっすぐ奥に進んだところで、6人は襲われその命を散らします。
予知により、経験の浅い自由騎士たちに男がそのサングラスの奥を見せた瞬間に皆さんは辿りつきます。
明かりは6人がそれぞれ所持するカンテラの光のみ。6人は男の素顔を見て動揺している状況でバラバラの行動をとります。またワン・フーとその仲間の目的は6人の新米自由騎士から眼球を奪い取ることなので、皆さんがそれぞれ1人ずつ共に行動し闘う必要があります。
特に1人は明かりも持たずに洞窟の奥へと逃げてしまうため、いの一番に狙われる可能性があります。
●敵&登場人物
・ワン・フー
ラスカルズメンバー。格闘スタイルだがスキルは殆ど使わずクンフーと言われる独自の体術(通常攻撃扱い)と投げクナイを使う。その緩んだ肉体で攻撃の衝撃を吸収するためか異様なまでにタフネス。視力を持たない分他の感覚が研ぎ澄まされている。リュンケウスの瞳破、ハイバランサー急を所持。
おめめチョーダイ 生きた人間の目を抉り取る技。1ターン目で眼球の後ろ側にまでひとさし指と中指を突っ込み、2ターン目で引きちぎる。仮に仲間がこの技をくらっても1ターン目でダメージ与えるなどの方法で引き剥がす事が出来れば眼球は奪われません。
・ワンフーの仲間と思われる存在 5人
その全てがワン・フーと同じ姿形をしている。詳細は不明だがワン・フーと同等程度の強さと思われる。
・新米自由騎士 6人
調査依頼として参加。首都近郊の村の幼馴染6人。今回が自由騎士としての初の依頼。
軽戦士、重戦士、ヒーラー、魔道士、レンジャー、錬金術とバランスは良く、それぞれランク1のスキルは取得しているが経験の少なさからかその実力は出し切れていない。
ハヤト 男軽戦士 グループのリーダ的存在。唯一正常な判断力を失っていません。
ヤプー 男重戦士 気は優しくて力持ち。洞窟の奥へ逃げます。
ネネ 女ヒーラー 眼鏡っこのおっとりさん。あまりのショックに気絶しています。
トリノ 女レンジャー 身軽さはグループ1です。ただし攻撃力は最弱です。
ジーン 男魔道士 インテリめがね。ひたすら怯えています。
トムソン 男錬金術 ハヤトのライバルであり親友。
皆様のご参加お待ちしております。
呪文もお預けの日々が続いています。いやぁぁぁああああああ。
ジョセフから聞き出した情報。その一部が逆手に取られ自由騎士が惨殺される事件へと発展する未来が予知されました。これを未然に防いでいただくのが今回の依頼です。
今回の情報源は拙作『鉄格子越しの攻防【とあるゲスとの会話記録】』が元になっていますが、そちらを知らなくても依頼には影響はありません。
●ロケーション
とある山中の洞窟。ジョセフからの情報によりラスカルズのアジトの一つされている。
この洞窟に何からすかるずの痕跡や情報がないかを調査するのがオープニングで登場した6人の役割でした。
洞窟自体はとても広く大小さまざまな横穴があり、全容は知れません。
その洞窟を200Mほどまっすぐ奥に進んだところで、6人は襲われその命を散らします。
予知により、経験の浅い自由騎士たちに男がそのサングラスの奥を見せた瞬間に皆さんは辿りつきます。
明かりは6人がそれぞれ所持するカンテラの光のみ。6人は男の素顔を見て動揺している状況でバラバラの行動をとります。またワン・フーとその仲間の目的は6人の新米自由騎士から眼球を奪い取ることなので、皆さんがそれぞれ1人ずつ共に行動し闘う必要があります。
特に1人は明かりも持たずに洞窟の奥へと逃げてしまうため、いの一番に狙われる可能性があります。
●敵&登場人物
・ワン・フー
ラスカルズメンバー。格闘スタイルだがスキルは殆ど使わずクンフーと言われる独自の体術(通常攻撃扱い)と投げクナイを使う。その緩んだ肉体で攻撃の衝撃を吸収するためか異様なまでにタフネス。視力を持たない分他の感覚が研ぎ澄まされている。リュンケウスの瞳破、ハイバランサー急を所持。
おめめチョーダイ 生きた人間の目を抉り取る技。1ターン目で眼球の後ろ側にまでひとさし指と中指を突っ込み、2ターン目で引きちぎる。仮に仲間がこの技をくらっても1ターン目でダメージ与えるなどの方法で引き剥がす事が出来れば眼球は奪われません。
・ワンフーの仲間と思われる存在 5人
その全てがワン・フーと同じ姿形をしている。詳細は不明だがワン・フーと同等程度の強さと思われる。
・新米自由騎士 6人
調査依頼として参加。首都近郊の村の幼馴染6人。今回が自由騎士としての初の依頼。
軽戦士、重戦士、ヒーラー、魔道士、レンジャー、錬金術とバランスは良く、それぞれランク1のスキルは取得しているが経験の少なさからかその実力は出し切れていない。
ハヤト 男軽戦士 グループのリーダ的存在。唯一正常な判断力を失っていません。
ヤプー 男重戦士 気は優しくて力持ち。洞窟の奥へ逃げます。
ネネ 女ヒーラー 眼鏡っこのおっとりさん。あまりのショックに気絶しています。
トリノ 女レンジャー 身軽さはグループ1です。ただし攻撃力は最弱です。
ジーン 男魔道士 インテリめがね。ひたすら怯えています。
トムソン 男錬金術 ハヤトのライバルであり親友。
皆様のご参加お待ちしております。
状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
6個
2個
2個
2個
6個
2個
2個
参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
6日
参加人数
6/6
6/6
公開日
2019年03月15日
2019年03月15日
†メイン参加者 6人†
●
「トムソン! いたら返事して!」
『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)の声が洞窟に響く。
「だ、誰だっ!?」
エルシーが腰に下げているカンテラの明かりの届く先の闇からひどく動揺した声がした。エルシーは刺激しないようにゆっくりと近づきながら声を掛ける。カンテラの光にその姿が映し出される。
その風貌はテンカイから得た特徴に合っている。間違いない、トムソンだ。
「あなたがトムソンね。私はエルシー。自由騎士よ」
自由騎士という言葉を聞いたトムソンの表情が安堵へと変わっていく。
「言っておくけど私だってまだ新米自由騎士だから……貴方の錬金術、期待しているわよ?」
そういうと極めて明るい態度で接するエルシー。
「はいっ!」
トムソンがそう答えた瞬間。暗闇から迫るもの。
「危ないっ!!」
間一髪その攻撃を交わすエルシー。
「おやおやー? それはワタシの獲物ですヨー? それとも邪魔するのです?」
男はニヤリと笑うと独特の構えをとる。
「いい? 二人で倒すの」
こくりと頷くトムソン。共闘の準備は整った。
(眼を奪っていくなんて……許せないわ)
「絶対に阻止するわよ!」
『真理を見通す瞳』猪市 きゐこ(CL3000048)がぷんすか状態になるのはよくある事だが、今日はいつものそれとは違うようだ。
リュンケウスの瞳で素早くジーンを発見したきゐこ。その手にはランタン。夜目の利くきゐこには必要が無い。では何のためか。無論ジーンの事を考えての事だ。
「ひっ……!? こ、こっちに来るなぁっ!!!」
恐怖に怯え敵味方の区別もつかなくなっているジーンは録に此方も見ず、目を閉じたまま魔導を放つ。だがきゐこはその身に魔導を受けながらジーンの元へ歩み寄っていく。
「来るな、来るな、来るなぁああーーーっ!!!」
パシィィィーーーーン。乾いた音が洞窟に響いた。
「男ならシャキッとしなさいよ! 情けないわね!」
突然頬を張られ、目を見開くジーン。怯え周囲を見る事すら出来なかったジーンの視界が広がる。
「あ……貴方は」
ようやく落ち着きを取り戻したジーンに、きゐこは自由騎士である事を告げ、言葉を続ける。
「これは私の持論だけど。魔導師というのは後ろから全体を把握し、頭脳によって状況を打破する者だわ! ならば眼を逸らすべからず! 思考を止めるべからず!」
きゐこの力強い言葉を聞いたジーンの瞳に新たな輝きが宿る。そしてその身体の震えは止んでいた。
「さぁ! 反撃なのだわ!!」
「お~めめおめおめお~めめめ~♪」
自作の歌を歌う『黒道』ゼクス・アゾール(CL3000469)。
他人の目を奪って自分に嵌めるって分かんないなあ。そんな事を考えながらリュンケウスの瞳でネネを探す。
「さて、俺ちゃんの相棒はどこかな~?」
きょろきょろと辺りを見渡すゼクス。
「あ、いたいた。(そいじゃちょっくら正義の味方ごっこでもやりますかあ)」
気絶しているネネに近寄ると。
「おーい、起きてよーう。こんな所で寝てると危ないよお?」
そういうと取り出した水をネネの顔にぶっかけるゼクス。
「ひゃあっ!?」
突如水浸しになったネネ。気絶して事も忘れたかのように驚いて飛び上がる。
「ほいほーい。起きたら早速で悪いけれど回復とかの支援手伝ってよー」
「え? え?」
状況が飲み込めないネネ。
「怖いならさ、俺ちゃんの背中と味方だけ見てればいいからさ」
ゼクスは自分が何者なのか、何をしに来たのか──肝心な事は何も伝えてない。だがネネは自分を守るように佇むその背中を見て思う。間違いなくこの人は私達の味方なのだと──。
「くっ!?」
トリノは1人、男に対峙していた。スピードには自信があった。確かにそのスピードは男を凌駕している。だがしかし悲しいかなその脆弱な攻撃では男にダメージを与える事は適わなかった。
「アナタ確かに早いネー。でも弱い。弱すぎるネー」
男がグフフと笑う。
「煩いっ!!」
トリノは悔しさを滲ませる。確かにスピードを活かし攻撃したものの、男にはかすり傷ひとつ与えられていなかった。
「時間をかけても無駄よ、無駄無駄。さっさと目をよこすネー」
男がにじり寄ってきたその時、すさまじい勢いで光が近づいてきた。
「たぁぁぁぁーーー!!!」
トリノの前に現れたのはケモノビトの少年。
「助けに来たよっ! あ、おいらはジーニアス。自由騎士さ!」
そう言って明るく話しかけたのは『神秘(ゆめ)への探求心』ジーニアス・レガーロ(CL3000319)。
「おいらと組んであいつをやっつけるんだ! 大丈夫、きっと出来る!」
トリノはジーニアスを見る。幼さの残る顔。きっと自分より年下であろう。その少年が自由騎士と名乗り、自分を助けようとしている。
「わかったわ」
トリノはナイフを構えた。確かに私の攻撃力は弱い。だけどそれを補う素早さを私は持っている。
負けていられない、だって私も自由騎士なのだから──。
「分かってますー!ちゃぁんと新人くんを助けますぅ…面倒だけど(ぼそ)」
新人くん達は可愛いねぇ目が無いくらいで動揺しちゃうなんてさ──まぁ、洞窟っていう暗くて閉塞感のある場所だと仕方が無いのかな。
『未知への探究心』クイニィー・アルジェント(CL3000178)はそんな事を考えながら、暗闇の中ハヤトを探した。頼りは自身の直感のみ。だが不思議とクイニィーはハヤトを見つけられる事を確信していた。そしてすぐにその確信は現実となる。
「君がハヤトかな?マトモみたいで何より。それじゃぁ、確りあたしを守るように!」
「どういうことだ!? 他のみんなは!?」
突然現れ守れというクイニィーの言葉の意図がわからない。
「ん~~~察しが悪いなぁもう。仲間も皆無事よ。たぶん。そして君はあたしと一緒にあいつを倒すの。わかった?」
あきれたような表情を見せるクイニィー。
「心得た」
新人とはいえリーダを任されていたハヤト。すぐに状況を理解する。
「さてと。目が無くとも音や匂い、空気の流れや体感温度で周囲の状況を把握しちゃう人って居るんだよね。ヒトの身体の神秘だねぇ……中身がどうなってるのか解剖してみたいなぁ」
一瞬悪い顔をしたクイニィーはペロリと舌なめずりをした。
「──ごめんなさいっ」
ぱちぃぃーーーーん。『慈悲の刃、葬送の剣』アリア・セレスティ(CL3000222)の謝罪の言葉と共に破裂音が響く。それは動揺し我を忘れて逃げ出したヤプーにアリアが追いつき、落ち着かせるためにその頬に一発見舞った音だった。
「あひぃっ。いきなり何をするんだっ」
ヤプーは突然の出来事に考えが追いつかない。アリアに背を向け更に逃げようとする。
「時には逃げる事も必要です」
その言葉にヤプーは足を止め、振り返りアリアの方を向く。
アリアはこれまでの依頼を思い出す。逃げが最良な選択の時もきっとある。私だって逃げ出したくなる時がある。
「それでも、その時が今ではないと思うなら……」
アリアがヤプーをまっすぐに見つめる。その瞳にはゆるぎない確かな信念。
「重戦士は仲間の盾。恐怖や痛みに耐えてでも護りたい何かが、貴方にはあるのではないですか?」
その言葉にヤプーは思い起こす。自身がなぜ重戦士の道を選んだのかを。
「その盾を取った時の想いがまだ残っているなら……護りたいもののために立つのです!!」
ヤプーは目を閉じる。まぶたの上のうかぶのは仲間達の顔。
「ありがとう」
そういったヤプーの表情は重戦士のそれだった。
●
「はぁーーーっ!!!」
エルシーの拳が男にめり込む。だが──
(……手ごたえが薄いっ。打撃はあまり効いてない?)
「フフ……ワタシに攻撃は効かないヨー?」
にやりと笑う男。
「タァァーーー!!」
トムソンが槍を振るうが、これもひらりとかわされる。
(あのプニプニの肉体が衝撃を吸収しちゃうのか……)
動く度に揺れる男の緩んだ身体。ただの脂肪かと思いきやそうではないようだ。
「なら……」
エルシーが一旦下がる。
「懸命な判断ネー。それじゃぁ……おめめちょーだいっ!!」
エルシーが下がり、1人になったトムソンに襲い掛かる男。
「ぐあっ!?」
男の指がトムソンの眼球の裏側をゆっくりと撫でる。
「い~い感触ネー。わたしの・お・め、ぐはあっ!?」
男は背中に鈍い痛みを感じ、思わずトムソンから指を離す。
「私が本気で逃げるとでも思ったの?──」
男はエルシーと拳を交わした際、近接攻撃を得意とする格闘者である事は理解していた。理解していた故の不覚。エルシーが距離をとって放った回天號砲は、愉悦に浸り警戒を軽んじた男を捉えたのだ。
追い討ちを掛けるように踵落としを見舞うエルシー。
「ぐっ……」
思わずよろける男。
「やっぱりね。攻撃が全く効かない訳じゃない。なら──問題ない。この拳で押し通すっ!! トムソン行くわよっ!」
「例え深淵が貴方を覗いてようと見つめ返して相手を読み解くのだわ! ……まぁ相手が敵ならついでに攻撃するのも忘れちゃ駄目だけどね! ほら! しっかり動く!」
「はいっ」
戦いの中、すっかり冷静さを取り戻したジーンにきゐこも安堵する。
「なぜ邪魔するのネ。もしかして……アナタもおめめ欲しいノカ?」
元々男の行動に嫌悪感を持っていたきゐこだったが、その言葉にさらに激高する。
「そんなわけないでしょーーーーーっ!!!」
きゐこの怒りの根源はまだアマノホカリにいた頃、自らもまた目を狙われた過去に起因する。そんな経験を経たきゐこにとって同じ体の部位と奪う行為を行おうとする男達は許せるはずも無い。
きゐこの放った強力な呪いは男の魂をも凍てつかせる。
「ウグッ!?」
「ジーン、今なのだわ!」
ジーンが呪文を詠唱し、きゐこもまた燃え盛る炎で男を閉じ込めていく。
「ゴギャァアアアァァ」
ジーンの魔導の矢が、きゐこの灼熱が、男に深いダメージを与えていく。
「……私の怒りはそんなものじゃないのだわ」
「な、ナニをっ!?」
きゐこの放った男を囲う灼熱の籠。その真髄はエネルギーが籠の中に満ちきった瞬間にある。籠の中で極限まで増幅された炎のエネルギーが今籠をぶち破る──まばゆい光と爆音があたりを包みこんだ。
「まーた悪い事しようとしてんでしょー。そういうのよくないよお」
ホークアイで定期的に自己を強化しながら戦うゼクス。
「悪い事? ダレが? ドコで? いつ? ラスカルズはとても健全な組織ネー」
ゼクスもつかみどころのないところは有るが、対峙する男もまた善悪の観点という意味では逸している。
「あ、新人ちゃんは俺ちゃんの『回復だけ』よろしくね」
「え……あ、はい」
ゼクスはネネに自身の回復を任せると攻撃に集中する。リュンケウスの瞳とケイブマスター。その能力がゼクスの洞窟での動きをより冴え渡らせていた。
「クッ!?」
男の目的はネネの両目。だがネネは常に安全な位置でゼクスの回復を行っている。ゼクスの言葉を忠実に守っているからだ。
「ジョルジュ君に聞いたけれどさ、ほら俺ってイケメンだし。シャンバラの方にあるんじゃない?」
「!? そんな訳ないネ。アレはここにあるはずっ」
ゼクスの表情が変わる──その両手には強力な水の呪いが込められていた。
「ぎゃー! 本当に目が無い! キモ……変なの!!」
トリノと共闘するジーニアス。物理攻撃しか手段を持たない2人にとって男は難敵だった。
トリノはその速度を活かし、男へ数え切れないほどの打撃を与えていた。しかし男は平然と立っていた。
「大丈夫だよ。おいらにはわかる。打撃は効いてない訳じゃない。効きづらいだけ。おいら達の攻撃は確実にあいつにダメージを与えてる!!」
確証は無い。だがジーニアスの中の勇気が如何なる困難をも乗り越えんと自身とトリノを鼓舞する。
「ンフフ……効きませんヨー。貴方がワタシを倒すなんて無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理」
「煩い煩い煩い煩い煩い煩い!!!!!」
トリノが取り乱したように短剣を振るう。
「つーかまえたネ。おめめちょーだい?」
トリノの中に男の指がゆっくりと侵入していく。
「あぁああああぁぁぁぁぁあ!!!」
そのおぞましい感覚に絶叫するトリノ。
「ワタシのおめ──」
悦に浸る男の凶行をとめたのはジーニアスの速度を載せた渾身の一撃。
「グフッ」
目に執着するあまり完全に無防備だった男に生まれた一瞬の隙を狙ったのだ。
ジーニアスの一撃が男の意識を一瞬奪う。
「やっぱり効いてる!! トリノ! 今がチャンスだ!!」
一方ハヤトと共闘するクイニィーの暗闇の中での戦いは続いていた。
クイニィーはホムンクルスの視覚聴覚で暗闇の不利を補いながら男の動きを追う。暗くて先が見通せないなら判断する情報量を増やせばいいだけ──クイニィーの対処は間接的だが一定の効果を得ていた。
「おめめちょーだい? その目ワタシが有効活用してあげるネー」
男は嗤いながら目を欲する。
「ハヤト、男の動きは見えてる?」
「自分は夜目が効きますっ」
「なら大丈夫ね。さぁ反撃よっ」
ハヤトが切り込み、クイニィーがスパルトイで男の動きを制限する。急増のコンビながら男のすばやい動きを翻弄する。
相手がこちらを知ってようがいまいが関係ない。倒せばいいだけ。クイニィーの思考はぶれることは無い。
ハヤトが切り込み、男が避けた先、そこにいたのはクイニィーのホムンクルス。
「かかったわねっ!!」
ホムンクルスに蓄えられた毒が男を襲う。ティンクトラの雫──強毒を含んだ炸薬が男の動きを鈍化する。
「さぁとどめよ、ハヤト!!」
「心得た。ハァァァァーーーー!!!」
ハヤトの剣が光る。その剣の軌跡は男を十字に切り裂いた。
「もう……大丈夫ですね」
ヤプーの表情が変わった事を確認したアリア。ホークアイで自己を強化しながら後方へと下がる。
「貴方の防御力、期待してるわ」
アリアが見せた笑顔にヤプーは一瞬心奪われる。
「は、はいっ!!」
前衛で目を守りながら男の攻撃を受け続けるヤプー。アリアは後方より蛇腹剣を伸ばし男を攻撃する。
「ハハハ、そんな攻撃効かないヨー」
男は蛇腹剣の攻撃をその身に受けながらも余裕の表情を見せる。男が蓄えたその脂肪がダメージを吸収しているのは明らかだった。
(ならば──)
「盾を打ち鳴らして!」
アリアの言葉にヤプーが反応する。地面に盾を叩きつけ、大きく鈍い金属音を発生させる。
「ググッ!?」
男の鋭敏すぎる聴力が災いした。男の状況把握能力が著しく低下する。
「今よっ!!」
アリアが後方からいっきに前に出る。陽炎う煌星──一瞬の後に男へ近寄り、剣閃を放つ。その後も蛇腹剣を使った直線的な遠距離からの攻撃から、壁や天井を巧みに利用しながら一気に接近して剣技を振るうスタイルへ。
「2人じゃなかったノカ!?」
男が別人かと思うほどのアリアの変貌。
「……彼に宿る焔が見えなかった貴方の負けよ」
6つの共闘が6人の男をうち倒すのはそこからしばらく後の事だった。
●
倒した6人を縛り上げた自由騎士たち。皆同じいでたちをしている。
「さぁ、吐きなさい。何か探してるんでしょ?」
威圧の篭めながらも笑顔でクイニィーが質問する。
「な、何のことネー?」
薄らとぼける男達。
「この洞窟に何かあるのはわかっているのよ」
私達を罠に嵌めるだけなら洞窟爆破した方が早いもん──アリアもまた質問をぶつけるが男達はまともに答えようとはしなかった。
「なぜ皆同じなのかしら。スキルによるものではなさそうだし」
エルシーは最初から感じていた事を口にする。
「……兄弟が似るのは当たり前のことネ」
きっと目が退化した生物とのマザリモノであったのだろう。光を知らずに生れ落ちた彼らは生後すぐに捨てられ、孤児院で過ごす事になる。孤児院でも異質の存在として忌み嫌われた彼らだったのだが。彼らには他には無い能力があった。見えない故に研ぎ澄まされた他の感覚。そこに目をつけたのが他でもないラスカルズだった。
「こまっちゃうなー。しゃべってくれないと。アンタが言ってたアレってなぁに? 正直に答えて?」
言葉とは裏腹に口角が上がるクイニィー。このままだと何かしでかすかもしれない……いや、きっとやる。あの笑顔を見せるクイニィーはそういうモードだ。
「目で見えるものしか判断できないオマエたちには無理ネ」
「まぁまぁまぁ」
そこに割って入ったのはゼクス。いつものように飄々とした態度で男達の前に立つ。
そしてすうぅっと近寄り男の耳元で囁く。その表情は自由騎士たちに見せるものとは異質のものだ。
「……目がなくても見えるなら足が無くとも歩けるし、舌がなくとも喋れるよなあ? 喋る気が出るまで、何処まで出来るか実験しようか?」
男の表情が変わる。それはこのゼクスという男の放つ言葉に一遍の嘘もない事を理解したからだ。
「ひ……ひぃっ。わ、わかった……頼まれたネ。クロスストーンという石を探せと。詳しい事は知らないネ」
ふうん、とゼクスは頷くと男から離れる。すっかり興味が失せてしまったようだ。
「だってさ。後は他の人に任せるよー♪ これで任務完了。さぁ帰ろっ」
帰り道。
「ねぇねぇ。あの時一体何て言ったのさ? おいらにも教えてよ」
男達のあまりの豹変ぶりを目の当たりにしたジーニアスがゼクスに尋ねる。
「なーいしょ♪」
「トムソン! いたら返事して!」
『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)の声が洞窟に響く。
「だ、誰だっ!?」
エルシーが腰に下げているカンテラの明かりの届く先の闇からひどく動揺した声がした。エルシーは刺激しないようにゆっくりと近づきながら声を掛ける。カンテラの光にその姿が映し出される。
その風貌はテンカイから得た特徴に合っている。間違いない、トムソンだ。
「あなたがトムソンね。私はエルシー。自由騎士よ」
自由騎士という言葉を聞いたトムソンの表情が安堵へと変わっていく。
「言っておくけど私だってまだ新米自由騎士だから……貴方の錬金術、期待しているわよ?」
そういうと極めて明るい態度で接するエルシー。
「はいっ!」
トムソンがそう答えた瞬間。暗闇から迫るもの。
「危ないっ!!」
間一髪その攻撃を交わすエルシー。
「おやおやー? それはワタシの獲物ですヨー? それとも邪魔するのです?」
男はニヤリと笑うと独特の構えをとる。
「いい? 二人で倒すの」
こくりと頷くトムソン。共闘の準備は整った。
(眼を奪っていくなんて……許せないわ)
「絶対に阻止するわよ!」
『真理を見通す瞳』猪市 きゐこ(CL3000048)がぷんすか状態になるのはよくある事だが、今日はいつものそれとは違うようだ。
リュンケウスの瞳で素早くジーンを発見したきゐこ。その手にはランタン。夜目の利くきゐこには必要が無い。では何のためか。無論ジーンの事を考えての事だ。
「ひっ……!? こ、こっちに来るなぁっ!!!」
恐怖に怯え敵味方の区別もつかなくなっているジーンは録に此方も見ず、目を閉じたまま魔導を放つ。だがきゐこはその身に魔導を受けながらジーンの元へ歩み寄っていく。
「来るな、来るな、来るなぁああーーーっ!!!」
パシィィィーーーーン。乾いた音が洞窟に響いた。
「男ならシャキッとしなさいよ! 情けないわね!」
突然頬を張られ、目を見開くジーン。怯え周囲を見る事すら出来なかったジーンの視界が広がる。
「あ……貴方は」
ようやく落ち着きを取り戻したジーンに、きゐこは自由騎士である事を告げ、言葉を続ける。
「これは私の持論だけど。魔導師というのは後ろから全体を把握し、頭脳によって状況を打破する者だわ! ならば眼を逸らすべからず! 思考を止めるべからず!」
きゐこの力強い言葉を聞いたジーンの瞳に新たな輝きが宿る。そしてその身体の震えは止んでいた。
「さぁ! 反撃なのだわ!!」
「お~めめおめおめお~めめめ~♪」
自作の歌を歌う『黒道』ゼクス・アゾール(CL3000469)。
他人の目を奪って自分に嵌めるって分かんないなあ。そんな事を考えながらリュンケウスの瞳でネネを探す。
「さて、俺ちゃんの相棒はどこかな~?」
きょろきょろと辺りを見渡すゼクス。
「あ、いたいた。(そいじゃちょっくら正義の味方ごっこでもやりますかあ)」
気絶しているネネに近寄ると。
「おーい、起きてよーう。こんな所で寝てると危ないよお?」
そういうと取り出した水をネネの顔にぶっかけるゼクス。
「ひゃあっ!?」
突如水浸しになったネネ。気絶して事も忘れたかのように驚いて飛び上がる。
「ほいほーい。起きたら早速で悪いけれど回復とかの支援手伝ってよー」
「え? え?」
状況が飲み込めないネネ。
「怖いならさ、俺ちゃんの背中と味方だけ見てればいいからさ」
ゼクスは自分が何者なのか、何をしに来たのか──肝心な事は何も伝えてない。だがネネは自分を守るように佇むその背中を見て思う。間違いなくこの人は私達の味方なのだと──。
「くっ!?」
トリノは1人、男に対峙していた。スピードには自信があった。確かにそのスピードは男を凌駕している。だがしかし悲しいかなその脆弱な攻撃では男にダメージを与える事は適わなかった。
「アナタ確かに早いネー。でも弱い。弱すぎるネー」
男がグフフと笑う。
「煩いっ!!」
トリノは悔しさを滲ませる。確かにスピードを活かし攻撃したものの、男にはかすり傷ひとつ与えられていなかった。
「時間をかけても無駄よ、無駄無駄。さっさと目をよこすネー」
男がにじり寄ってきたその時、すさまじい勢いで光が近づいてきた。
「たぁぁぁぁーーー!!!」
トリノの前に現れたのはケモノビトの少年。
「助けに来たよっ! あ、おいらはジーニアス。自由騎士さ!」
そう言って明るく話しかけたのは『神秘(ゆめ)への探求心』ジーニアス・レガーロ(CL3000319)。
「おいらと組んであいつをやっつけるんだ! 大丈夫、きっと出来る!」
トリノはジーニアスを見る。幼さの残る顔。きっと自分より年下であろう。その少年が自由騎士と名乗り、自分を助けようとしている。
「わかったわ」
トリノはナイフを構えた。確かに私の攻撃力は弱い。だけどそれを補う素早さを私は持っている。
負けていられない、だって私も自由騎士なのだから──。
「分かってますー!ちゃぁんと新人くんを助けますぅ…面倒だけど(ぼそ)」
新人くん達は可愛いねぇ目が無いくらいで動揺しちゃうなんてさ──まぁ、洞窟っていう暗くて閉塞感のある場所だと仕方が無いのかな。
『未知への探究心』クイニィー・アルジェント(CL3000178)はそんな事を考えながら、暗闇の中ハヤトを探した。頼りは自身の直感のみ。だが不思議とクイニィーはハヤトを見つけられる事を確信していた。そしてすぐにその確信は現実となる。
「君がハヤトかな?マトモみたいで何より。それじゃぁ、確りあたしを守るように!」
「どういうことだ!? 他のみんなは!?」
突然現れ守れというクイニィーの言葉の意図がわからない。
「ん~~~察しが悪いなぁもう。仲間も皆無事よ。たぶん。そして君はあたしと一緒にあいつを倒すの。わかった?」
あきれたような表情を見せるクイニィー。
「心得た」
新人とはいえリーダを任されていたハヤト。すぐに状況を理解する。
「さてと。目が無くとも音や匂い、空気の流れや体感温度で周囲の状況を把握しちゃう人って居るんだよね。ヒトの身体の神秘だねぇ……中身がどうなってるのか解剖してみたいなぁ」
一瞬悪い顔をしたクイニィーはペロリと舌なめずりをした。
「──ごめんなさいっ」
ぱちぃぃーーーーん。『慈悲の刃、葬送の剣』アリア・セレスティ(CL3000222)の謝罪の言葉と共に破裂音が響く。それは動揺し我を忘れて逃げ出したヤプーにアリアが追いつき、落ち着かせるためにその頬に一発見舞った音だった。
「あひぃっ。いきなり何をするんだっ」
ヤプーは突然の出来事に考えが追いつかない。アリアに背を向け更に逃げようとする。
「時には逃げる事も必要です」
その言葉にヤプーは足を止め、振り返りアリアの方を向く。
アリアはこれまでの依頼を思い出す。逃げが最良な選択の時もきっとある。私だって逃げ出したくなる時がある。
「それでも、その時が今ではないと思うなら……」
アリアがヤプーをまっすぐに見つめる。その瞳にはゆるぎない確かな信念。
「重戦士は仲間の盾。恐怖や痛みに耐えてでも護りたい何かが、貴方にはあるのではないですか?」
その言葉にヤプーは思い起こす。自身がなぜ重戦士の道を選んだのかを。
「その盾を取った時の想いがまだ残っているなら……護りたいもののために立つのです!!」
ヤプーは目を閉じる。まぶたの上のうかぶのは仲間達の顔。
「ありがとう」
そういったヤプーの表情は重戦士のそれだった。
●
「はぁーーーっ!!!」
エルシーの拳が男にめり込む。だが──
(……手ごたえが薄いっ。打撃はあまり効いてない?)
「フフ……ワタシに攻撃は効かないヨー?」
にやりと笑う男。
「タァァーーー!!」
トムソンが槍を振るうが、これもひらりとかわされる。
(あのプニプニの肉体が衝撃を吸収しちゃうのか……)
動く度に揺れる男の緩んだ身体。ただの脂肪かと思いきやそうではないようだ。
「なら……」
エルシーが一旦下がる。
「懸命な判断ネー。それじゃぁ……おめめちょーだいっ!!」
エルシーが下がり、1人になったトムソンに襲い掛かる男。
「ぐあっ!?」
男の指がトムソンの眼球の裏側をゆっくりと撫でる。
「い~い感触ネー。わたしの・お・め、ぐはあっ!?」
男は背中に鈍い痛みを感じ、思わずトムソンから指を離す。
「私が本気で逃げるとでも思ったの?──」
男はエルシーと拳を交わした際、近接攻撃を得意とする格闘者である事は理解していた。理解していた故の不覚。エルシーが距離をとって放った回天號砲は、愉悦に浸り警戒を軽んじた男を捉えたのだ。
追い討ちを掛けるように踵落としを見舞うエルシー。
「ぐっ……」
思わずよろける男。
「やっぱりね。攻撃が全く効かない訳じゃない。なら──問題ない。この拳で押し通すっ!! トムソン行くわよっ!」
「例え深淵が貴方を覗いてようと見つめ返して相手を読み解くのだわ! ……まぁ相手が敵ならついでに攻撃するのも忘れちゃ駄目だけどね! ほら! しっかり動く!」
「はいっ」
戦いの中、すっかり冷静さを取り戻したジーンにきゐこも安堵する。
「なぜ邪魔するのネ。もしかして……アナタもおめめ欲しいノカ?」
元々男の行動に嫌悪感を持っていたきゐこだったが、その言葉にさらに激高する。
「そんなわけないでしょーーーーーっ!!!」
きゐこの怒りの根源はまだアマノホカリにいた頃、自らもまた目を狙われた過去に起因する。そんな経験を経たきゐこにとって同じ体の部位と奪う行為を行おうとする男達は許せるはずも無い。
きゐこの放った強力な呪いは男の魂をも凍てつかせる。
「ウグッ!?」
「ジーン、今なのだわ!」
ジーンが呪文を詠唱し、きゐこもまた燃え盛る炎で男を閉じ込めていく。
「ゴギャァアアアァァ」
ジーンの魔導の矢が、きゐこの灼熱が、男に深いダメージを与えていく。
「……私の怒りはそんなものじゃないのだわ」
「な、ナニをっ!?」
きゐこの放った男を囲う灼熱の籠。その真髄はエネルギーが籠の中に満ちきった瞬間にある。籠の中で極限まで増幅された炎のエネルギーが今籠をぶち破る──まばゆい光と爆音があたりを包みこんだ。
「まーた悪い事しようとしてんでしょー。そういうのよくないよお」
ホークアイで定期的に自己を強化しながら戦うゼクス。
「悪い事? ダレが? ドコで? いつ? ラスカルズはとても健全な組織ネー」
ゼクスもつかみどころのないところは有るが、対峙する男もまた善悪の観点という意味では逸している。
「あ、新人ちゃんは俺ちゃんの『回復だけ』よろしくね」
「え……あ、はい」
ゼクスはネネに自身の回復を任せると攻撃に集中する。リュンケウスの瞳とケイブマスター。その能力がゼクスの洞窟での動きをより冴え渡らせていた。
「クッ!?」
男の目的はネネの両目。だがネネは常に安全な位置でゼクスの回復を行っている。ゼクスの言葉を忠実に守っているからだ。
「ジョルジュ君に聞いたけれどさ、ほら俺ってイケメンだし。シャンバラの方にあるんじゃない?」
「!? そんな訳ないネ。アレはここにあるはずっ」
ゼクスの表情が変わる──その両手には強力な水の呪いが込められていた。
「ぎゃー! 本当に目が無い! キモ……変なの!!」
トリノと共闘するジーニアス。物理攻撃しか手段を持たない2人にとって男は難敵だった。
トリノはその速度を活かし、男へ数え切れないほどの打撃を与えていた。しかし男は平然と立っていた。
「大丈夫だよ。おいらにはわかる。打撃は効いてない訳じゃない。効きづらいだけ。おいら達の攻撃は確実にあいつにダメージを与えてる!!」
確証は無い。だがジーニアスの中の勇気が如何なる困難をも乗り越えんと自身とトリノを鼓舞する。
「ンフフ……効きませんヨー。貴方がワタシを倒すなんて無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理」
「煩い煩い煩い煩い煩い煩い!!!!!」
トリノが取り乱したように短剣を振るう。
「つーかまえたネ。おめめちょーだい?」
トリノの中に男の指がゆっくりと侵入していく。
「あぁああああぁぁぁぁぁあ!!!」
そのおぞましい感覚に絶叫するトリノ。
「ワタシのおめ──」
悦に浸る男の凶行をとめたのはジーニアスの速度を載せた渾身の一撃。
「グフッ」
目に執着するあまり完全に無防備だった男に生まれた一瞬の隙を狙ったのだ。
ジーニアスの一撃が男の意識を一瞬奪う。
「やっぱり効いてる!! トリノ! 今がチャンスだ!!」
一方ハヤトと共闘するクイニィーの暗闇の中での戦いは続いていた。
クイニィーはホムンクルスの視覚聴覚で暗闇の不利を補いながら男の動きを追う。暗くて先が見通せないなら判断する情報量を増やせばいいだけ──クイニィーの対処は間接的だが一定の効果を得ていた。
「おめめちょーだい? その目ワタシが有効活用してあげるネー」
男は嗤いながら目を欲する。
「ハヤト、男の動きは見えてる?」
「自分は夜目が効きますっ」
「なら大丈夫ね。さぁ反撃よっ」
ハヤトが切り込み、クイニィーがスパルトイで男の動きを制限する。急増のコンビながら男のすばやい動きを翻弄する。
相手がこちらを知ってようがいまいが関係ない。倒せばいいだけ。クイニィーの思考はぶれることは無い。
ハヤトが切り込み、男が避けた先、そこにいたのはクイニィーのホムンクルス。
「かかったわねっ!!」
ホムンクルスに蓄えられた毒が男を襲う。ティンクトラの雫──強毒を含んだ炸薬が男の動きを鈍化する。
「さぁとどめよ、ハヤト!!」
「心得た。ハァァァァーーーー!!!」
ハヤトの剣が光る。その剣の軌跡は男を十字に切り裂いた。
「もう……大丈夫ですね」
ヤプーの表情が変わった事を確認したアリア。ホークアイで自己を強化しながら後方へと下がる。
「貴方の防御力、期待してるわ」
アリアが見せた笑顔にヤプーは一瞬心奪われる。
「は、はいっ!!」
前衛で目を守りながら男の攻撃を受け続けるヤプー。アリアは後方より蛇腹剣を伸ばし男を攻撃する。
「ハハハ、そんな攻撃効かないヨー」
男は蛇腹剣の攻撃をその身に受けながらも余裕の表情を見せる。男が蓄えたその脂肪がダメージを吸収しているのは明らかだった。
(ならば──)
「盾を打ち鳴らして!」
アリアの言葉にヤプーが反応する。地面に盾を叩きつけ、大きく鈍い金属音を発生させる。
「ググッ!?」
男の鋭敏すぎる聴力が災いした。男の状況把握能力が著しく低下する。
「今よっ!!」
アリアが後方からいっきに前に出る。陽炎う煌星──一瞬の後に男へ近寄り、剣閃を放つ。その後も蛇腹剣を使った直線的な遠距離からの攻撃から、壁や天井を巧みに利用しながら一気に接近して剣技を振るうスタイルへ。
「2人じゃなかったノカ!?」
男が別人かと思うほどのアリアの変貌。
「……彼に宿る焔が見えなかった貴方の負けよ」
6つの共闘が6人の男をうち倒すのはそこからしばらく後の事だった。
●
倒した6人を縛り上げた自由騎士たち。皆同じいでたちをしている。
「さぁ、吐きなさい。何か探してるんでしょ?」
威圧の篭めながらも笑顔でクイニィーが質問する。
「な、何のことネー?」
薄らとぼける男達。
「この洞窟に何かあるのはわかっているのよ」
私達を罠に嵌めるだけなら洞窟爆破した方が早いもん──アリアもまた質問をぶつけるが男達はまともに答えようとはしなかった。
「なぜ皆同じなのかしら。スキルによるものではなさそうだし」
エルシーは最初から感じていた事を口にする。
「……兄弟が似るのは当たり前のことネ」
きっと目が退化した生物とのマザリモノであったのだろう。光を知らずに生れ落ちた彼らは生後すぐに捨てられ、孤児院で過ごす事になる。孤児院でも異質の存在として忌み嫌われた彼らだったのだが。彼らには他には無い能力があった。見えない故に研ぎ澄まされた他の感覚。そこに目をつけたのが他でもないラスカルズだった。
「こまっちゃうなー。しゃべってくれないと。アンタが言ってたアレってなぁに? 正直に答えて?」
言葉とは裏腹に口角が上がるクイニィー。このままだと何かしでかすかもしれない……いや、きっとやる。あの笑顔を見せるクイニィーはそういうモードだ。
「目で見えるものしか判断できないオマエたちには無理ネ」
「まぁまぁまぁ」
そこに割って入ったのはゼクス。いつものように飄々とした態度で男達の前に立つ。
そしてすうぅっと近寄り男の耳元で囁く。その表情は自由騎士たちに見せるものとは異質のものだ。
「……目がなくても見えるなら足が無くとも歩けるし、舌がなくとも喋れるよなあ? 喋る気が出るまで、何処まで出来るか実験しようか?」
男の表情が変わる。それはこのゼクスという男の放つ言葉に一遍の嘘もない事を理解したからだ。
「ひ……ひぃっ。わ、わかった……頼まれたネ。クロスストーンという石を探せと。詳しい事は知らないネ」
ふうん、とゼクスは頷くと男から離れる。すっかり興味が失せてしまったようだ。
「だってさ。後は他の人に任せるよー♪ これで任務完了。さぁ帰ろっ」
帰り道。
「ねぇねぇ。あの時一体何て言ったのさ? おいらにも教えてよ」
男達のあまりの豹変ぶりを目の当たりにしたジーニアスがゼクスに尋ねる。
「なーいしょ♪」
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
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