MagiaSteam
魔法症状サドか/マゾか



●地獄への道は善意で舗装されなんたら
 マリアンナ・オリヴェルは新しもの好きである。
 故郷が文化も何もあったもんじゃない森の中だったからか、新しいものに敏感だ。
 そして、イ・ラプセルは彼女が好む新しいものが溢れている。
 蒸気機関を用いた最新の機械に、錬金術師が発明する様々な新製品。
 近くの店で何か新しい商品が出るたびに、マリアンナはそれのチェックを欠かさない。
 そんな彼女だからこそ、蒸気機関の技師や錬金術師の知り合いができるのは半ば必然であったことだろう。とかく技術者というものは、自分が作ったモノに驚いてくれる誰かを求めるものだから。つまりまさしくWinWinの関係というヤツだ。
 そして、マリアンナ・オリヴェルは心優しい少女である。
 イ・ラプセルに来た当初こそ、シャンバラ憎しの気持ちが強くてスレきっていた。
 しかし、そんな事情さえなければ、彼女は人の弱さを知り、痛みを思いやることができる、強い感受性と共感性を有した優しい性格の持ち主である。
 つまり、困っている人を見つけたら何か自分にできることはないかと考える。
 そんな性格であるということだ。
 例えば、今日なども――、
「参った……」
「どうかしたの?」
 時折足を運びお得意様となっている大衆食堂にて、マリアンナはため息をついている店主を見つけ、声をかけてみた。
「ほら、明日。お誕生日会の予定でパーティーすることになってるじゃないですか」
「うん、そうね。楽しみだわ!」
 マリアンナがパッと表情を輝かせる。
 彼女も知る自由騎士数人の誕生日がたまたま一緒だったので、まとめて誕生会を開くことになったのだ。食堂はその会場で、貸し切りで行われることになっている。
「そこで用意するはずだったジュースがねぇ……、ダメになってたんだよ」
「ええ、どうして?」
「この間、ゲシュペンスト騒ぎがあったろう?」
「うん、あったわね」
 マリアンナがこくりとうなずく。
 自由騎士達が対応する以外にも、そうしたことはあったりするのだ。
「それで、ジュースがイブリース化したみたいでねぇ……」
「つまり呪ースになったのね!」
「あんまり上手くないなぁ。まぁ、けどそういうことだよ」
 そういうことらしかった。
「一応浄化はしてもらったけど、さすがに店主として一回イブリース化したジュースを客に出すのは、なしだなぁ。と思って参っているところさ。はぁ……」
 店主の言わんとしていることは、さすがにマリアンナもわかる。
 このジュースには虫が入っていましたら取り除きました。さぁどうぞ。と、言われて飲めるかどうか。イメージというのはなかなか強敵なのであった。
「あ、そうだ!」
 と、そこで思いついて彼女は手を打った。
「知り合いの錬金術師さんがね、ちょうど新製品のジュースを作りすぎて在庫抱えしてるんですって。そこに頼ってみたらどうかしら!」
「おお、それは助かる!」
 彼女の知り合いならば信頼できるだろう、と、店主も思ってしまった。
 しかし、その安直な信頼がまさかあんな惨劇を生み出すことになるなんて――、
「……と、いうわけなんだけど」
「ええ、いいのかい? だったらこっちも願ったり叶ったりさ! レシピが単純なモンでねぇ、ついつい作りすぎてしまって、どうしようかと思ってたところなんだ!」
 マリアンナから事情を説明された錬金術師は、早速業者に頼んで食堂に自作のジュースを運んでもらった。もしここで錬金術師がちゃんと精査するか、もしくはマリアンナか食堂の店主が説明を求めていれば、のちの悲劇は回避できたかもしれない。
 でも、そうはならなかった。ならなかったんだよ、諸君。
 だから――、この話はここから始まるんだ。
 かくしてお誕生会当日。
 そこには多くの自由騎士が集まり、そしてジュースが注がれたグラスを手に取っている。
 マリアンナもそのうちに含まれており、ウキウキ気分で笑っていた。
「それじゃあ、皆の誕生を祝して――」
 自由騎士の一人が乾杯の音頭を取る。
 その手には当然、ジュースがなみなみ注がれたグラス。
「「「かんぱ――――い!」」」
 カチーン、と、グラスが合わさる音。
 そして皆が、和気あいあいとした雰囲気の中、ジュースを飲んだ。

 ところで、作った錬金術師自身意図していなかったことではあるが、実はこの錬金ジュース、失敗作なのであった。というのも、飲んだオラクルは確実に――ドSかドMになってしまう。そんな、恐るべき魔法症状を引き起こしてしまうジュースなのであった。
 今、虚無の窯の蓋が開く――!


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
自国防衛強化
担当ST
吾語
■成功条件
1.パーティーを楽しむ/Sとして
2.パーティーを楽しむ/Mとして
オラクルじゃなければなんの問題もなかった。
吾語です。ネタシナリオです。

錬金ジュースの効果は大体3~4時間程度。
その間は皆さんはドSかドMになります。
実はジュースは飲んでませんでした、などという惰弱なプレは認められません。

なお、ドSになるかドMになるかは、吾語がダイスを振って決めます。
なのでプレイング中に「Sになった場合」と「Mになった場合」のどちらも記載しておけば、自分がどっちになるか、というドキドキを味わえるかもしれません。
それがイヤだという方は、SかMか、どっちか一方だけ書いてください。

以上です。他に書くことは何もない。
皆さんがこれから起きる惨劇の当事者となることを楽しみにしておきます!
状態
完了
報酬マテリア
1個  1個  5個  1個
7モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
8/8
公開日
2020年07月10日

†メイン参加者 8人†



●漆黒に彩られし暗黒のダークサイドメサイア、虚無に響く死者の嘆きの調べを聴け
「生皮を剥がせェェェェェェェェェェェェェェェェェ!(デスヴォイス)」
 『ウインドウィーバー』リュエル・ステラ・ギャレイ(CL3000683)の詩である。
「山よ! 空よ! 海よ! 人よ、魔よ! 俺の詩を聞けェェェェ!(デスヴォイス)」
 『ウインドウィーバー』リュエル・ステラ・ギャレイ(CL3000683)の詩である。
「死ねェェェェェェェ(デスヴォイス)! 死んで祝え! バァスデェェェェェ!(デスヴォイス) お前の歴史が今日始まった。(語り) 祝福せよ。祝福せよ。今日から始まる新世紀。新たな英雄譚が幕を開ける。(語り) ゆえに――、殺せェェェェェェェェェェェェェェェェェ!(デスヴォイス) 山を壊せ! 空を裂け! 海を割れ! 世界を滅ぼせェェェェェェェェェェェェ!(デスヴォイス) 今こそ、審判のとき!」
 『ウインドウィーバー』リュエル・ステラ・ギャレイ(CL3000683)の詩である。
 弦楽器をギャンギャンギュイーンとかき鳴らし、彼は声を裏返らせて歌い続けた。
 無論、最初からこんな詩を歌う予定はなかった。
 用意してきたのは、真っ当なバースデーソング。むしろしっとり系である。
 だがそれはもうなくなった!
 何故ならば今のリュエルはサディスティックにロマンティックだからだ!
「ハラワタをブチまけろォォォォォォォォォォォォォォォ!(デスヴォイス)」
 のどを酷使したそのデスヴォイスも、過激に走るその歌詞も、全ては誕生会の主役達を祝うため。ただちょっと、サド化しているため表現がギリギリなだけである。
「……はうぅ」
 会場の食堂全体に響き渡る、その祝福の怨嗟の声に、身を震わせる者がいた。
「何か、くすぐったいぃぃ……」
 『黒砂糖はたからもの』リサ・スターリング(CL3000343)であった。
 元々、大して何も考えないままに参加した催しだ。
 皆と共に楽しく騒げればいい。
 そんな程度の考えでこの誕生会に参加したリサであったが――、
「はぅん……」
 マゾ化していた。
 そのためだろうか、リュエルの歌声が妙に肌に刺さってくる。
 戦っているワケではないのに、ビシビシと身に感じるこの感覚を、一体何と形容しよう。
「今日からおまえら、ブチ殺せェェェェェェェェェェェェ!(デスヴォイス)」
「あぅんあぅん……!」
 轟く派手な裏声に、身をよじらせるリサを見て、新たなサドが動き出す。
「おい、お前」
 リサの耳を打つ冷たい声。
 熱と痛みに満ちたリュエルの歌声に比べて、その声の何と固く鋭いことか。
 地肌に直接氷を押し当てられたかのようだ。
 リサが振り向くと、そこに立っていたのは『背水の鬼刀』月ノ輪・ヨツカ(CL3000575)であった。いつも以上に表情の薄い顔で、彼はリサの方へと歩いてくる。
「はぁ……、はぁ……」
 すっかり頬を赤くした顔を上向かせ、リサは彼の言葉を待つ。
 するとヨツカはスッと伸ばした手で彼女のあごを軽く触れ、自分の顔を近づけた。
「……どうされたい?」
 単刀直入な質問。
 呼吸を荒げるリサが、瞳を涙に潤ませて叫んだ。
「た、たたいてほしい……」
 くすぐられるのは、もうリュエルの破滅的の歌声で散々やられたに等しい。
 結果、我慢しきれなくなったリサのマゾヒズムはいよいよ肥大化しつつあった。
 ヨツカが口端を軽く上げて、空いている手で何かを持ち出す。
「これを巻け」
「ひゃっ」
 彼はリサの顔に布を巻いて、目隠しをする。
「怖いか?」
「う、うん……」
 不安か、それとも期待からか、ヨツカの問いにリサはさらに顔を赤くした。
 そしてヨツカの激しい折檻が始まる!
「ひゃんっ! あん!」
「どうだ。心地よいか。これがいいのか?」
「うんっ、いいよ! すごくいい! いいの!」
 ピシッ。ピシッ。
「そうか、おでこへのデコピン(激弱)がそんなに気持ちいいか。不思議だな」
 ぺちっ。ぺちっ。
「ひゃあぁ~~「オレ・フィナァァァァァァァァァァレ!(デスヴォイス)」
 リサのあられもない嬌声は、リュエルのデス声にかき消された。

●ここからしばらくの間、ごく普通の男女の会話が描かれます
「ブヒィィィィィィィィィィィィィィィィィ――――――――ッッッッ!!!!」
 『帰ってきた工作兵』ニコラス・モラル(CL3000453)は、今年で52歳になる。
「ブヒッ! ブヒッ! ブヒヒィィィィィィィィィィィン!」
 これは、その歴戦の自由騎士52歳の鳴き声である。
 豚なのか、馬なのか。それが問題だ。
「そんなにぃ、メーメーちゃんに座ってもらってぇ、嬉しいのぉ~?」
「嬉しい。です。嬉しい。嬉しい。はぁん……、うれひぃ~……」
 四つん這いになって、自ら椅子となって『にゃあ隊長』メーメー・ケルツェンハイム(CL3000663)に座ってもらっているニコラスは、とても喜んでいた。
 鼻水とよだれを垂らしまくり、半ば白目を剥きながら、ビクンビクンしていた。
 しょっぱなからフルスロットルにマゾっているが、そんな彼の頭をメーメーが優しく撫でる。その手つきは、まるで子供を褒める母親の如きであった。
「ねぇ、僕、あれが食べたいな~。あと、飲み物も」
 ニコラスの頭を撫でながら、メーメーがテーブルに置かれている料理を指差す。
「ブヒィィィィ、と、とらせていただきますゥゥゥゥゥゥ!」
 歓喜の声で応じるニコラス。
 しかし、今彼は――、そう。椅子である。
 ニコラスは顔中汗にまみれさせ、チラリと自分に座っているメーメーを見上げる。
「あの……」
 言いかけて、しかし彼は口をつぐんだ。
 気づいてしまったのだ。
 もしここでせっかく自分に座ってくださってらっしゃってくれているメーメーに向かって「料理をとるからどいてくれ」などと言おうものなら、一体どうなってしまうか。
 きっと、メーメーは「じゃ、いいや」と答えて自分でとりにいくことだろう。
 当然だ。
 当然の帰結すぎる。
 いわばそれは人が生まれ、群れ、街を築き国を作るのと同様の、摂理。摂理なのである。
 だがそれも一興か。
 どういうわけか、今のニコラスは自分がみじめであることを心地よく思っている。
 ここで、メーメーに飽きられて素っ気なく捨てられる。
 齢五十を超えて、命令の一つも聞くことができない役立たず。生き恥晒しの社会的汚物。
 そこに味わうみじめさは、一体どれほどの恥辱、屈辱であろうか。
 ……興味が募る。
「あ……、お、俺は――」
「なぁにぃ~?」
 ゴミクズのように捨てられるべく、口を開きかけたニコラスだが、メーメーのその優しい声を耳にした途端、全ての反抗心が溶けて消えてしまった。
 ああ、何という甘く優しく、包容力に満ちた声であろう。
 この声に罵り続けられたい。
 心に自然とそんな欲求が湧き満ちる。まさに、それは君臨する者の声だった。
 そうか――、俺はこの声に罵られるために生まれてきたんだ。
 今、自由騎士ニコラス・モラルは、自分がこの世に生を受けた理由を知った。
 自分がヘルメリアに生まれたことも、あの辛い過去も、イ・ラプセルに流れ着いたことすら、全ては今日この日、この声に罵られるためにあったことなのだ。
 EXプレイングでアドリブ歓迎、イメージを壊す方向でも構わないとあったので、今回は特に力を入れて懇切丁寧にキャラクター性を踏み砕かせていただく所存である。
「はいっ! はい! ニコラス・モラル、料理をとらせていただきますッッッ!」
 ニコラスの顔つきが変わる。
 それは、戦争に赴く者の表情だった。決死の戦いに身を投じる決意の表われであった。
 メーメーをその背に乗せたまま、人間椅子ニコラス・モラルは往く。
 目標のテーブルまではおよそ5m。
 これまでに潜り抜けてきたどんな修羅場、鉄火場よりも長く険しい5mに違いない。
 しかし、それでもニコラスはゆくのだ。
 ここで、メーメーの指示に従えなければ、彼女のために人間椅子のまま料理をとれなければ――、一体、自分はどうしてこれから生きていくことができよう。
 決意のままにニコラスはメーメーを乗せた状態でテーブルに向かい始めた。
 だがキツい。バランスをとるのが難しい。体力が急速に削られていくのを感じる。
 しかし、しかし――!
 自分が生まれてきた意味を全うするために、俺の手よ、俺の足よ、今こそ限界を超えろ。例え細胞の一片まで朽ちることになろうとも必ずや、この人間椅子を完遂して見せる。
「はぁ、はひぃ……、ひひ。ひひひぃ~~……」
 苦悶と喜悦が半々に浮かぶニコラスの顔は、人の顔ができる表情の限界を超えつつあった。体は軋む、熱を帯びる。限界は近い。それでも!
 今こそ走れフラグメント! 燃えるアニムス! 来たれ、宿業改竄よ――――!
 だが彼は、今回のプレイングでその辺、何も設定してなかった。

 ゴキャッ。

「はう」
 最後は、無理が祟って腰に痛烈なる魔女の一撃を喰らったニコラス、轟沈。
「やっぱ自分でとってこよ~っとぉ~」
 そして無情にも、メーメーは彼を早々に見捨てて、歩き去っていったのだった。
 最後に蔑みの目すら向けてもらえなかった、社会的汚物ニコラス・モラル。
「あ、ぃぃ……」
 遠ざかるメーメーの背中に見える無関心さにすら、悦びを覚えるのであった。
 なお、生まれてきた意味がどうとか云々はジュースの効果による一時的な気の迷いでしかないことは、氏の名誉(99.9%欠損済み)のため明記しておく。

●サドでマゾなら踊らにゃ損々!
 『全裸クマ出没注意報!』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)が服を脱いだ。
 全裸だ!
 しかし彼は毛むくじゃらであるため、大事な部分も毛むくじゃらっている!
「ポォ――――ウ!」
 そして彼は帰省を発すると共に、テーブルの上に飛び乗ってポーズをキメた。
 その奇行に驚いた何人かが、反射的に彼へと視線を注ぐ。
 突き刺さる人々のまなざしに、ウェルスの体がふるると震えた。
 ――俺、今、見られてる!
 そこにあるのは好奇の視線。だけではない。
 あからさまな見下しの目、露骨なまでの嘲りの目。
 人としての尊厳をガリガリと削っていく、数多くの痛々しさを楽しむ目。
 こんなのはまるっきり晒しもの。
 一昔前にどこかの国にあったとされる公開処刑にも等しい、見せしめのようなものだ。
 しかし、ウェルスはそれを自ら行なったのだった。
 何故?
 何故!?
 決まっている。心地よいからだ。
「ヤッちまえェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!(デスヴォイス)」
 轟き渡るリュエルの歌声。
 応とも、ヤッてやるさ!
「ヒャアァ――――イ!」
 気合の掛け声と共に、ウェルスは踊り始めた。
 ヌルリとネバつくように動いたかと思えば、ピチピチと跳ね飛び躍動する。
 蜜のように優しく、鮭のように激しく!
 しかと見届けるがいい、この鍛え上げられた裸体を。散々、白い目で見るがいい。
 もっと蜜のようにぬるりと、もっと鮭のようにピッチピチと。
 腕を振れ。
 足を振れ。
 頭を振ってケツを振れ。
 そして、誰もが俺を見るがいい。見せつけてやろう。ほら。ほら!
「フゥゥゥゥゥ――――ッ↑↑!!」
 ウェルスのテンションは、まさにうなぎ上り。
 自ら晒しものになっていくのは、彼がマゾ化しているからであるが、しかしどういうことだろう。この胸の高鳴りは。全身を流れる血が、温度を高まらせていく。
 ただの羞恥ではない。これは、劣等感から来るものではない。
「素敵よ、ウェルス!」
 すぐ近くから耳に届くその声は、まさか、マリアンナ!?
「ここにいるみんなに、もっと見せつけてやればいいわ、その汚らしい熊の裸体を!」
 いつの間にか、マリアンナがウェルスの踊るテーブルのすぐ近くに立っていた。
 位置関係的には、まさしく砂被りというヤツである。
 この、どうしようもなく近い距離感で、マリアンナの叫んだ言葉はウェルスの心臓を鷲掴みにしていた。彼の中にある被虐心が新たなステージへと到達する。
「――そうか、そうだったんだ」
 サド化したマリアンナのまなざしに、彼は気づいた。ついに辿り着いた。
 見せるとは、魅せるとは――、即ち被虐にして加虐。マゾヒズムにしてサディズム。
 この、誰もが目をそらすことのできないテーブルの上で踊り続ける自分を、他人に容赦なく見せつけるという、視覚的暴力。逃れようのない加害行為。
 見ろ。見ろ。見ろ。見ろ。
 裸で踊る俺を、精々見続けるがいい。
 快感。快感。快感。快感。
 公衆の面前で全裸をさらけ出し、視覚的に責めるのみならず笑いを生み出す奉仕の精神。
「マリアンナ、俺、わかったぜ!」
 言うと、マリアンナがうなずいた。
 そして今宵、ウェルスは変態としての階位を一段階上がらせたのであった。
 そんな彼への対価がブーイングの嵐であったのは、言うまでもないことであろう。

●触手責めシスター風くっころパスタ~血まみれの猫かぶり覇者を添えて~
 厨房での一幕である。
「人類には闘争が必要だと思いませんか?」
 本日、歌う予定だった『SALVATORIUS』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)は、何故厨房にいて、何故かそんなことを言い出した。
「やはり、人類には闘争が必要です。戦いの中にこそ成長の機会はあり、未だ人はあまりにも未熟。これはやはり無理矢理にでも戦いに関わって、強引にでも成長する必要があります。そして、敵の最後の一人までも駆逐したとき、はじめて人は平和を手にすることができるのです。撃滅! 蹂躙! 大殲滅! 闘争こそが人の本能。人の在り様なのです」
 ミルトスはサド化していた。
「いいえ、私はそうは思いませんね」
 グツグツと煮え滾る鍋の中に大量のパスタをブチ込んで、『くっころ(ぱすた)』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)がそのように言い返す。
「ミルトスさんの言い方は、まるで悪の枢軸です。力こそが正義、そう言っているように聞こえますが、まさかそのようなことは――」
「ええ、その通りです。力こそが正義。所詮、この世は弱肉強食。弱きものは死に、強きものが生き残る世界。神の蠱毒こそが、何よりそれを示しています」
 野菜を綺麗に切り分けながら、ミルトスが朗々と語った。
 しかし、それに対してアンジェリカがもう一つの鍋でポコポコ煮えているミートソースをかき混ぜつつ、強い調子で反論した。
「そのような考え方を、我が女神が許容するはずがありません! 考え直すのです、ミルトスさん。あなたは今、心をイブリースに囚われているのです!」
 まるでサド化もマゾ化もしていないかのような、堂々としたアンジェリカの反論。
 しかしそれを、ミルトスはクスリと笑って、
「私を否定なさるのでしたら、当然、あなたは私より強いんですよね?」
「何という野蛮な――、貴女は最低のクズですね!」
 このセリフでわかる人はわかるかもしれないが、アンジェリカはマゾ化していた。
 ならば何故、ミルトスに反論していたのか。それは――、
「てい」
 狭い厨房の中で、ミルトスが器用に足を振り上げて鍋を蹴る。
 煮え滾っていたパスタが、お湯ごとアンジェリカに上からバシャ――――ッ!
「ああん、あっつぅい!」
 常人ならば大やけどだが、オラクルなので熱いで済む。さすがオラクル、何ともないぜ。
「あら、すいません。足が滑って」
「ぐぬぬ、こんなことをされても私は屈しませんよ、ミルトスさん!」
「へぇ、そうですかぁ……」
 全身パスタまみれになりながら、それでも言い返すアンジェリカに、ミルトスの瞳が妖しく輝く。そして彼女は言った。
「そんなにいじめてほしいんですか」
 その指摘に、アンジェリカの顔が紅潮する。
「そんなことはありません!」
 と、ムキになって叫ぶも、またしてもミルトスの足が厨房に振るわれる。
 蹴られたのは、ミートソースを煮ている鍋だった。
「いやぁん、もっとあっつぅい!」
 上から大量のミートソースを浴びて、アンジェリカの肢体が赤く染まる。
 一方で、間近にいたミルトスも胸元から下をミートソースでよごし、顔にけだものめいた笑みを浮かべる今の彼女はまるっきり血まみれバーバリアンであった。
「ほぉら、どうです? 熱いでしょう?」
「こ、この程度! ……はう、ふ、服の中にパスタが、熱々のパスタが入り込んで!?」
 ただのパスタであったならば、そんなことはなかっただろう。
 しかし、ミートソースと混じったパスタはヌッチョヌチョで、もがけばもがくほどアンジェリカの体に絡みついてくるのであった。
 それはまるで、粘液まみれの触手に全身を囚われているヒロインの如く。
「や、そんな……、あぁん。パスタが、パスタが肌に絡みついてぇ……!」
「フフ、随分と色っぽい御姿ですね、アンジェリカさん?」
 ヌルヌルのミートソースパスタに全身を絡め取られ、もがき喘ぐアンジェリカの姿を、血(みたいなソース)まみれのミルトスが上から腕を組んで見下ろしている。
 崇めるべきパスタに絡まれ、あまつさえその姿を嘲笑される屈辱。
 目に涙をためて、アンジェリカは言った。
「くっ……、殺せ!」
 おあとがよろしいようで。
 なお、パスタはこのあと正気に戻ったミルトスが謝り倒しながら弁償しました。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『重金属吟遊詩人』
取得者: リュエル・ステラ・ギャレイ(CL3000683)
『全環境対応型社会的汚物』
取得者: ニコラス・モラル(CL3000453)
『サドとマゾの向こう側』
取得者: ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)
『おでこが少し赤くなった』
取得者: リサ・スターリング(CL3000343)
『達人級のデコピン術者』
取得者: 月ノ輪・ヨツカ(CL3000575)
『粘液まみれシスター』
取得者: アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)
『血まみれシスター』
取得者: ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)
『優しく冷たく踏みにじる』
取得者: メーメー・ケルツェンハイム(CL3000663)

†あとがき†

おつかれさまでしたー。

いやー、愉しかった。
それ以外に言うことはありません!

ご参加ありがとうございました!
FL送付済