MagiaSteam




ダイオプサイドと帰らずのビジター

●
キノコタワーを有するイ・ラプセル北の森。
そこに身を潜めるようにして、周囲を警戒する数人の男女の姿が合った。
「ジョセフ様も捕まってしまった。残された我々はどうすればいいのだ」
「援軍は……援軍は来ないのか。ミトラース様は我々をお見捨てになったのか」
「海岸線はすっかり警戒網が張られてしまった。かといって他に逃げる術も無い」
「一か八か海へ出るしかないのではないか」
焦燥、困惑、絶望……様々な思惑を抱いた意見が飛び交う。その集団は魔女狩りの残党であった。
論議は続けども結論は一向に見えない。口論に疲れた一人がふと口にする。
「それにしても腹立たしいのはあのタワー。あのような面妖なもので我々の注意を逸らそうとするとは……」
話に出たのはとあるタワー。さる一件にて北の森に自由騎士の設計の元で建設され、ランドマークとなりつつあるキノコの形をした見張り台である。
「今後我々の同志が、更にこの国を攻める際も必ず弊害となるであろう」
「すでに我々に勝利したと勘違いしておるイ・ラプセルの者どもの意識はすでにここにはあるまい。ならばこれを好機と捉え、かのタワーを我々の手で破壊せしめようではないか」
一同が賛同する。
「幸いにも我々には『ダイオプサイドの奇跡』も残されている」
男は首から提げたネックレスを皆へ見せる。そのネックレスには大粒のダイオプサイドが輝いている。
「帰れぬのであれば、せめて一矢報いようぞ」
行き場をなくした集団の出した結論は、玉砕覚悟の特攻であった。
そして実行に移すべく行動しようとしたその時、頭上から何者かの鳴き声がした。
キィィァァエエェェェェ──ッ!!
そこに現れたのは巨大な翼を持つ幻想種。
「な、なんだこの怪物は────っ!?」
幻想種の突然の襲撃から数時間後、巨大な木の上にある幻想種の巣。
そこには息も絶え絶えで横たわる男の姿があった。体中ひどく傷つき、多くの出血を伴っている。絶命寸前なのは明白な状態だった。その手にはダイオプサイドのネックレス。
「私は……ここで終わるのか……。我が神ミトラースよ、最後の奇跡を私に……っ!!」
──男の絶命と共に『ダイオプサイドの奇跡』は果たされた。
●
「魔女狩りの残党を幻想種が襲う。それを阻止し、かつ残党を捕縛してもらうのが今回の仕事だ」
『演算士』 テンカイ・P・ホーンテン (nCL3000048)は集った自由騎士にそう告げた。
魔女狩りの残党を幻想種が襲う事の何が問題なのか。自由騎士は問う。
「ダイオプサイドの奇跡。完結に言えばダイオプサイドという鉱石を触媒とした大爆発……らしいんだが。そのかなりヤバイのが引き起こされる事が導き出されちまったのさ」
森での大爆発。確かに其処に住む生態系に与える影響は少なくない。
「爆発だけで済めばまだいい。……問題はその後さ。その爆発には生物を死に至らしめる強力な毒が含まれてやがるんだ」
いつもは飄々とした態度のテンカイも表情が曇る。
「毒……」
自由騎士たちも固唾を呑んでテンカイの話に耳を傾ける。
「爆煙にのってばら撒かれるその毒は、一定の潜伏期間後に吸い込んだ生物を死に至らしめる。これだけでも大変だって言うのに、更に厄介なのはその死体自体が媒体となって、更に広い範囲へ毒が拡散されていくって事さ」
自由騎士達の表情が瞬く間に変わる。
「毒の連鎖……」
「さすがにこれを現実にするわけにはいかないだろ? ……時間が無いんだ。一刻も早く現地へ向かってくれ」
そういうとテンカイは、踵を返し出発する自由騎士たちを見送った。
キノコタワーを有するイ・ラプセル北の森。
そこに身を潜めるようにして、周囲を警戒する数人の男女の姿が合った。
「ジョセフ様も捕まってしまった。残された我々はどうすればいいのだ」
「援軍は……援軍は来ないのか。ミトラース様は我々をお見捨てになったのか」
「海岸線はすっかり警戒網が張られてしまった。かといって他に逃げる術も無い」
「一か八か海へ出るしかないのではないか」
焦燥、困惑、絶望……様々な思惑を抱いた意見が飛び交う。その集団は魔女狩りの残党であった。
論議は続けども結論は一向に見えない。口論に疲れた一人がふと口にする。
「それにしても腹立たしいのはあのタワー。あのような面妖なもので我々の注意を逸らそうとするとは……」
話に出たのはとあるタワー。さる一件にて北の森に自由騎士の設計の元で建設され、ランドマークとなりつつあるキノコの形をした見張り台である。
「今後我々の同志が、更にこの国を攻める際も必ず弊害となるであろう」
「すでに我々に勝利したと勘違いしておるイ・ラプセルの者どもの意識はすでにここにはあるまい。ならばこれを好機と捉え、かのタワーを我々の手で破壊せしめようではないか」
一同が賛同する。
「幸いにも我々には『ダイオプサイドの奇跡』も残されている」
男は首から提げたネックレスを皆へ見せる。そのネックレスには大粒のダイオプサイドが輝いている。
「帰れぬのであれば、せめて一矢報いようぞ」
行き場をなくした集団の出した結論は、玉砕覚悟の特攻であった。
そして実行に移すべく行動しようとしたその時、頭上から何者かの鳴き声がした。
キィィァァエエェェェェ──ッ!!
そこに現れたのは巨大な翼を持つ幻想種。
「な、なんだこの怪物は────っ!?」
幻想種の突然の襲撃から数時間後、巨大な木の上にある幻想種の巣。
そこには息も絶え絶えで横たわる男の姿があった。体中ひどく傷つき、多くの出血を伴っている。絶命寸前なのは明白な状態だった。その手にはダイオプサイドのネックレス。
「私は……ここで終わるのか……。我が神ミトラースよ、最後の奇跡を私に……っ!!」
──男の絶命と共に『ダイオプサイドの奇跡』は果たされた。
●
「魔女狩りの残党を幻想種が襲う。それを阻止し、かつ残党を捕縛してもらうのが今回の仕事だ」
『演算士』 テンカイ・P・ホーンテン (nCL3000048)は集った自由騎士にそう告げた。
魔女狩りの残党を幻想種が襲う事の何が問題なのか。自由騎士は問う。
「ダイオプサイドの奇跡。完結に言えばダイオプサイドという鉱石を触媒とした大爆発……らしいんだが。そのかなりヤバイのが引き起こされる事が導き出されちまったのさ」
森での大爆発。確かに其処に住む生態系に与える影響は少なくない。
「爆発だけで済めばまだいい。……問題はその後さ。その爆発には生物を死に至らしめる強力な毒が含まれてやがるんだ」
いつもは飄々とした態度のテンカイも表情が曇る。
「毒……」
自由騎士たちも固唾を呑んでテンカイの話に耳を傾ける。
「爆煙にのってばら撒かれるその毒は、一定の潜伏期間後に吸い込んだ生物を死に至らしめる。これだけでも大変だって言うのに、更に厄介なのはその死体自体が媒体となって、更に広い範囲へ毒が拡散されていくって事さ」
自由騎士達の表情が瞬く間に変わる。
「毒の連鎖……」
「さすがにこれを現実にするわけにはいかないだろ? ……時間が無いんだ。一刻も早く現地へ向かってくれ」
そういうとテンカイは、踵を返し出発する自由騎士たちを見送った。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.『ダイオプサイドの奇跡』を起こさせない
●ロケーション
イ・ラプセル北の森。キノコタワーの程近く。深夜。
明かりなどは一切無い森深い場所です。
幻想種は残党の灯した僅かな明かりを見つけ襲撃しましたが、元々暗視に相当する能力を持っているため、残党が明かりを消しても襲撃が終わる事はありません。
そして残党が襲われたまさにその瞬間に、自由騎士は現地へ辿りつきます。
介入した時点で自由騎士達も幻想種の標的となるため、幻想種と残党両方へ同時に何らかしらの対応が必要となります。
残党の離脱を許した場合、キノコタワーが爆破される可能性が高まります。
また幻想種がダイオプサイドを持つ残党を連れ去った場合、オープニングの事態が現実に起こる事になります。
●敵キャラクター、幻想種
・魔女狩りの残党 4人
その内訳は魔術スタイル3人とヒーラースタイル1人です。
全員暗視を所持しています。
4人の中の一人がダイオプサイドのネックレスを所持しています。誰が所持しているかは見た目ではわかりません。
『ダイオプサイドの奇跡』
簡潔に言えば、石と命を触媒とした有毒ガスを含んだ大爆発です。最終手段として存在はするものの、命を投げ出す行為であり、かつ味方にも甚大な被害を与えるため実際に使われる事は殆どありません。(元来『我々には奥の手がある』といった安心感のための意味合いが強いため)
・幻想種
巨大な翼を持つ幻想種。残党を子のエサとする為、襲撃しました。暗視に似た能力を持っています。
常に飛行しているため、近距離攻撃でダメージを与えるのは創意工夫が必要です。
一定のダメージを与える事で残党への襲撃を諦め、逃走します。
鋭いくちばし そのくちばしは容易に対処を貫きます。
鷲づかみ その両足で対象を鷲づかみにします。
夜目 夜でも昼間のような感覚で対象を視認できます。
●同行NPC
ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)
特に指示が無ければ残党一人をブロックしてその場からの離脱を防ぎます。
所持スキルはステータスシートをご参照ください。
皆様のご参加お待ちしております。
イ・ラプセル北の森。キノコタワーの程近く。深夜。
明かりなどは一切無い森深い場所です。
幻想種は残党の灯した僅かな明かりを見つけ襲撃しましたが、元々暗視に相当する能力を持っているため、残党が明かりを消しても襲撃が終わる事はありません。
そして残党が襲われたまさにその瞬間に、自由騎士は現地へ辿りつきます。
介入した時点で自由騎士達も幻想種の標的となるため、幻想種と残党両方へ同時に何らかしらの対応が必要となります。
残党の離脱を許した場合、キノコタワーが爆破される可能性が高まります。
また幻想種がダイオプサイドを持つ残党を連れ去った場合、オープニングの事態が現実に起こる事になります。
●敵キャラクター、幻想種
・魔女狩りの残党 4人
その内訳は魔術スタイル3人とヒーラースタイル1人です。
全員暗視を所持しています。
4人の中の一人がダイオプサイドのネックレスを所持しています。誰が所持しているかは見た目ではわかりません。
『ダイオプサイドの奇跡』
簡潔に言えば、石と命を触媒とした有毒ガスを含んだ大爆発です。最終手段として存在はするものの、命を投げ出す行為であり、かつ味方にも甚大な被害を与えるため実際に使われる事は殆どありません。(元来『我々には奥の手がある』といった安心感のための意味合いが強いため)
・幻想種
巨大な翼を持つ幻想種。残党を子のエサとする為、襲撃しました。暗視に似た能力を持っています。
常に飛行しているため、近距離攻撃でダメージを与えるのは創意工夫が必要です。
一定のダメージを与える事で残党への襲撃を諦め、逃走します。
鋭いくちばし そのくちばしは容易に対処を貫きます。
鷲づかみ その両足で対象を鷲づかみにします。
夜目 夜でも昼間のような感覚で対象を視認できます。
●同行NPC
ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)
特に指示が無ければ残党一人をブロックしてその場からの離脱を防ぎます。
所持スキルはステータスシートをご参照ください。
皆様のご参加お待ちしております。

状態
完了
完了
報酬マテリア
6個
2個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
6/6
6/6
公開日
2018年12月08日
2018年12月08日
†メイン参加者 6人†
●
キィィァァエエェェェェ──ッ!!
幻想種の咆哮が夜の森に響き渡る。
「うわぁーーーっ!!」
「なんだあの化け物はっ!!」
逃げ惑うは魔女狩りの残党。深い闇の中からの突然の襲撃に動揺し、闇雲に術を展開するが幻想種を捉えられない。
──そこへ一発の銃声が響いた。
今まさに残党へ襲い掛からんとしていた幻想種を夜目の利く『クマの捜査官』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)が冷静に狙い撃ったのだ。
「あちゃー。当たったが急所じゃないな。大して効いてねぇ」
ウェルスがもう一度銃を構えるが、幻想種も大きく羽ばたき、空高く舞い上がる。
「では、俺達は魔女狩りを。お2人は幻想種をお願いしますっ!!」
『実直剛拳』アリスタルフ・ヴィノクロフ(CL3000392)が皆へ合図すると自由騎士はそれぞれの役に合わせて陣形を取る。国の平和を脅かす者をこのまま見逃すわけにはいかない。アリスタルフの拳に力が篭る。
「そうね、毒のオマケつきの大爆発なんて是対阻止しないとね」
『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)も両の手のナックルを胸の前で合わせると戦闘態勢に入る。
「次に降りてきた時には一発痛いのをお見舞いするぜっ」
サテライトエイムで自己を強化しつつ、ウェルスは銃を構えながら次の好機を待つ。
にしても……この森にはまだ魔女狩りが残ってるのか。食料やらの為に近隣の村に襲撃されらヤバいだろ。そろそろ本気で魔女狩り狩りでもしたほうがいいんじゃないか。
ウェルスがそんな事を考えるのも無理は無い。魔女狩りがイ・ラプセルへ侵攻してきたのはもうだいぶ前の話。未だその残党がいる事など毛頭考えていなかったからだ。
「まぁ……色々と思う事はありますが、まずはあの幻想種には退席して頂きましょうか」
そんなウェルスの考えを表情から読み取ったのか『天辰』カスカ・セイリュウジ(CL3000019)は幻想種への集中を促す。
構想時には名付け親ですら無理があると自嘲していたと言われるキノコタワー。そのタワーも今となってはイ・ラプセル北の森の立派なランドマークになりつつある。そして名前はさておき、カスカもこのタワーの施設は結構気に入っているのだ。むざむざと壊される気など毛頭無い。
「カスカさん、ウェルスさん、幻想種は任せましたわ」
『高潔たれ騎士乙女』ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)はカスカにサンタフェの奇跡を施す。幻想種に接近戦を挑む事になるカスカにとって防御力の向上は願っても無い効果だ。
カスカは妖刀・逢瀬切乱丸を構えると目を瞑り、集中する。細胞がみるみる活性化されていく。
それはまるで人の速度を超えろ、と言わんばかりに。
「では──」
声がした場所にはすでにカスカの姿は無い。──カスカは音もなく森に溶け込んでいた。
●
「全く。懲りん連中だ」
『スウォンの退魔騎士』ランスロット・カースン(CL3000391)は残党を前に剣を構えながら考える。
魔女狩りの侵攻後、確かに残党狩りなどは行われなかった。残党が残っているのも道理ではある。
しかし、事はそれどころの話ではない。我らの国土を穢す奇跡など起こさせてたまるものか、と。
「あぶないっ!」
ランスロットへ向け放たれた緋き炎を、とっさにアリスタルフが弾く。
「すまない、少し考え事をしていた」
アリスタルフに目をやると、改めてランスロットが剣を構える。
「我が神の祝福の届かぬ愚かなイ・ラプセルの者共め。目にもの見せてくれるっ」
「ミトラース様、神をも恐れぬこの者たちに神罰を与えた給えっ!!」
残党がスタッフを構え、呪文を詠唱する。回復役のヒーラーを守るように組まれたその陣形は統率が取れ、自由騎士を易々とは近寄らせない。
「貴様らが罪の無い人々にどれ程の被害を与えるのか考えないのかっ!!」
普段は穏やかなアリスタルフの口調が荒い。その事からも事の重大さが垣間見える。
説得に応じようともせず、矢継ぎ早に繰り出される攻撃を避けながら、アリスタルフは残党の感情を探る。
怒り、憎しみ、焦燥……残党の様々な感情が流れ込んでくる。アリスタルフは幾多の感情からダイオプサイド所持者を探し当てようと試みているのだ。
そしてランスロットもまた一進一退の攻防を繰り広げながら敵の解析を進める。
ランスロットの類稀なる解析力はより深く残党の一人ひとりの能力を解析していく。
「……しかしこの魔導攻撃は厄介だな。このまま距離をとられて攻撃されていては埒が明かない。何とかして近づかねば」
ランスロットがそう考えるのも無理は無い。魔女狩りの対応に当たった自由騎士達は皆近接攻撃を得意とするメンバー。
対する魔女狩りは遠距離攻撃を得意とするマギアスが主要だ。常に自由騎士と一定の距離を取るよう連携した動きを見せる。
「おとなしく投降なさいっ」
エルシーが残党に向けて叫ぶ。
「黙れ! この背神者共めっ!! 貴様らの好きにはさせんぞっ!!」
「我が神ミトラース様。どうか我々を守り給えっ!!」
その権能にも拠るのだろうか。やはり魔女狩りには言葉による説得は効果が薄いようだ。
それに声を聞く限りは4人とも男性である可能性が高く、ダイオプサイドの持ち主は特定しきれない。
「……仕方ないわね」
少々手荒にはなるけど。エルシーは拳を握りなおす。
前衛の3人は攻撃を受けながらも近づくが、そこまでのダメージは少なくない。その上残党は常に一定距離をとるよう、移動を繰り返す。誰かが近づけば誰かが遠ざかる。そんな一進一退の攻防が続く中、次第にジュリエットの回復が追いつかなくなってゆく。
3人の中でもアリスタルフの消耗は激しい。エルシーとランスロットが残党を近づけるよう常に神経を研ぎ澄まし、残党の動きをコントロールするように遠距離からの攻撃を放ち続けているためだ。
当然、残党も唯一遠距離からの攻撃を行うアリスタルフを狙い撃つ。アリスタルフは残党を離脱させまいと行方を阻む事に集中しているため自ずと回避に遅れが出てしまう。結果じわじわ体力を削られてしまう。
「く……何とか隙を突いて近寄れれば……っ」
前衛の苦戦をその身で感じたジュリエットは意を決して前に出ていた。
大きく深呼吸する。そして──
「おーーっほっほっほっほ!!! ミトラースを信奉する魔女狩りの残党の皆さん! 貴方方の命運、ここに尽きたりですわ! わたくしはジュリエット・ゴールドスミス。貴方方を捕らえる自由騎士!! この名、その胸に確と刻みなさい!!」
爆発音と共に、華やかなオーラに包まれ自ら持つカンテラの光に照らされたジュリエット。その登場はまさにアイドルのそれだ。
突然の大爆音に敵味方問わず虚をつかれ、すべての視線はジュリエットに注がれていた。
「な……。何者だ!!! あいつを狙い撃て!!」
一瞬呆気にとられた魔女狩りだったが、冷静に考えればこれほどわかりやすい標的はない。
一斉にジュリエットへ緋き炎と蒼き氷を撃ち放つ。
(まずい!!!)
前に出て残党を相手していた自由騎士達もジュリエットのほうを振り向く。が、ジュリエットは大丈夫と力強く頷く。
「きゃあああぁぁぁぁっ!!」
ジュリエットが被弾すると同時にエルシー、ランスロット、アリスタルフの3人は一気に残党の元へ。ジュリエットの決死の行動を無駄にしないために。
「スカァァァレットォォォォーーーインパクトォ!!!!」
緋き光を放つエルシーの拳は必殺の一撃となり、打撃を当てた者だけでなく後ろに控えていたヒーラーをも貫く。
「ぐふ……っ。ミトラース様……ば、万歳っ」
男はそのまま気を失い、ヒーラーはその衝撃に顔を歪める。
アリスタルフとランスロットが狙うは同じ標的。アリスタルフは強い感情で、ランスロットはその解析力でダイオプサイドを持つものを導き出したのだ。
「ハァァァァーー!!!」
アリスタルフの渾身の拳撃が男の体中を駆け巡る。
「ウォォォォーー!!!」
そこにランスロットの力強い大剣の一撃。
「げふっ」
男はその場に崩れ落ち、懐から綺麗な緑色の石がついたネックレスが零れ落ちた。
「な、なんてことだっ」
残る一人があわてた様子で背を向け逃げようとする。
「まずいっ逃げられる!!」
追いかけようとするアリスタルフをランスロットが静止する。
「大丈夫だ、あの先は……」
「うわぁぁぁぁーーーー!!」
逃げた男が叫び声と共に突然消えた。
「な?」
ランスロットはアリスタルフに目配せする。依然仕掛けた落とし穴がそこにある事をランスロットは覚えていたのだ。
「さぁ、あとは貴方だけですわ。投降しますか? それとも……」
エルシーの一撃に悶絶していたヒーラーの前には、先ほど集中砲火を浴びたジュリエット。
装備こそぼろぼろになっているものの、その顔は微塵もソレを感じさせない凛とした表情。
全てを悟ったのかヒーラーから力がすぅと抜け、膝から崩れ落ちる。終わったのだ。
魔女狩りの残党はこうして自由騎士の手によって全員捕縛された。
●
キィィァァエエェェェェ──ッ!!
一方幻想種を相手取るカスカとウェルス。
自由に空を滑空する幻想種に対して刀を手に戦うカスカ。有効な攻撃手段は少なく一見すればかなり不利な状況にも見える。
だが森を知り尽くし、森へ溶け込むカスカはソレを一切感じさせない。木々はカスカを容易に幻想種の元へ運び、葉や蔓はカスカの姿を幻想種から隠す。幻想種からすればそれはまるで──森自体から攻撃されているような感覚であろう。
ヒット&アウェイを繰り返しながら、幻想種の攻撃の的を残党へ向かわせない。行うべきは討伐にあらず。如何に幻想種を撤退に導くか。カスカは戦いながら思考を重ねる。
一方のウェルスは大型の翼竜のような姿の幻想種に対し、物陰を巧みに利用しながら的確に射抜いていく。
ウェルスの使用する銃の名はウルサマヨル。幼き頃より使い続け改造を重ね、もはやオリジナルともいえる代物だ。更に強化パーツも組み込み威力を増している。そんな銃をして攻撃を続けているのだが。
「想像以上に固いな。弾がなかなか通らねぇ」
ウェルスの放つ弾丸は的確に幻想種を捉えている。しかし甲殻化した幻想種の皮膚は僅かに傷つく程度。
「……私の逢瀬切でも出会い頭では皮一枚といったところですね」
気づけばウェルスの後ろにはカスカの姿。
「どうするよ、カスカ嬢。今のままじゃぁやっこさんを諦めさせるのはなかなか難しそうだぜ」
「ダメージを与え続ければいつかは撤退するでしょうが……時間がかかりすぎますね」
カスカも森の地形を利用しながら幻想種への攻撃を何度も試みるものの、撤退させるには至っていなかった。
幻想種は次の降下のタイミングを見計らっているようだ。空高く旋回している。
「……一つ、案があります。うまくいくかはわかりませんが」
「乗るぜ!」
内容も聞かずに乗っかるウェルスにカスカは珍しく驚いた顔をする。
「いいのです? まだ何も伝えてませんが」
「もちろん! おれはカスカ嬢を信じてるぜ!」
ウェルスいい笑顔。この飄々としつつも仲間に絶対に信頼を寄せるその振る舞いはウェルスの数ある魅力のひとつだろう。
「あなたって人は……」
はぁ、とため息をつきながらも、信頼される事に悪い気はしない。カスカの表情が僅かに緩む。
「では──」
カスカはウェルスに耳打ちすると同時にすぅと森の闇へ消えた。
「……一か八か、やってやるぜっ」
ウェルスが意を決して物陰から飛び出す。
「おーい! 俺はここにいるぜっ!!」
幻想種が大声を出すウェルスの姿を捉え、猛スピードで急降下してくる。
もう少し。あと少し。
「そうだ……そのまままっすぐ来てくれよ」
ウェルスが狙撃銃を構える。あと30メートル、20メートル……。
「食らいやがれっ!!! 特製炸裂共振弾!!!」
ウェルスの放った二連の弾丸は正面から向かってきた幻想種の真正面を捉える。
キェェエアアアァァ!!!!
弾が炸裂した衝撃で視界を奪われた幻想種は堪らず空へ逃げんと上昇する。
「これでいいかいっ! カスカ嬢!!」
ウェルスが姿の見えないカスカへ合図を出す。
「十分です」
声の主はカスカ。静かに刀に手をやりその瞬間を待っていた。
カスカの繰り出す技は攻撃と同時に移動を可能とする。幻想種の舞い上がる軌道にカスカがあわせる。
通常であればカスカの存在を察知した幻想種は瞬時に軌道を変えていたであろう。
だが、視界を一次的に奪われた幻想種の軌道は単純なものになっていた。
「ようやく捉えましたよ」
そう言ってカスカがいる場所。それは幻想種の背。
「子が待つ巣へおとなしく帰りなさい」
カスカが刀を構える。
「天理真剣流──風之衝」
カスカの放つ無数の斬撃は、幻想種を撤退させるに相応しいダメージを与える。
キェェエエエェアアアアァァァァァ!!!!
幻想種は最後に大きく嘶くと遠くへはばたいていった。
カスカが地上へ戻るとしりもちをついたままのウェルス。
「ふへぇ。あのままあいつが上昇せずに突っ込んできてたら俺……死んでね?」
「まぁ、そうかもしれませんね」
「マジか! あっぶねぇ!!」
「だからいったじゃないですか」
「何も聞いてねぇっつーの!」
真顔で答えるカスカと、いまさら状況を思い出し青ざめるウェルス。
結果よければすべてよし。カスカとウェルスの見事(?)な連携で幻想種は撃退されたのであった。
「おーい! 魔女狩りの残党は皆捕縛しましたっ!!」
声の主はアリスタルフだ。魔女狩りの残党を相手していたメンバーも片付いたようだ。
イ・ラプセルに起こりえた未曾有の災害はこうして阻止された。
●
幻想種が狩りを諦め、飛び去っていったのを確認後もウェルスは周辺を警戒していた。
「……っと。周囲に気配なし。とりあえずは大丈夫そうだな」
常に冷静さを保つウェルスはこの騒ぎを聞きつけてほかの残党や幻想種がやってくるかもしれないとも考えていたのだ。
「それじゃぁツラ拝ませてもらうぜ」
辺りの静寂を確認するとウェルスは残党達のフードを取る。その種族は猛獣系のケモノビト達。念のため獣化して逃げられる事の無いようロープをきつく締めなおす。
「それにしても……なぜお前達はこの森に残ってたんだ?」
ウェルスはあえて質問する。
「お前達に話すことなど何も無い」
「こんな事をしてただで済むと思っているのか」
アリスタルフがきつい口調で問いただす。
「我らが神はきっとお前達に天罰を与えようぞ」
シャンバラの民が口にする言葉はいつも似たようなものだ。シャンバラこそが正義。他所の国の神や国王などは全てミトラース様に傅く存在でしかない。その口から出る言葉は実に利己的で妄信的。ミトラースの全てを一切疑わない。薄々感じていた事だが、やはりウェルスの質問にも聞く耳を持たない。
「異国の地で貴方達はよくやったわよ。ミトラース神もきっとお許しになるわ」
エルシーが艶っぽい仕草をしながら、ダイオプサイドを所持していた男に詰め寄る。
「だからさぁ、知ってる事を教えてくれない?」
エルシーは耳元で囁く。エルシーが惜しげもなく晒すその豊満な肢体と甘い声。通常の男であれば完堕ちであろう。
「ぐっ……この淫女め!! 色仕掛けなど我々には効かん!」
一瞬の躊躇はあったものの、やはり結果は変わらない。シャンバラの民には通じないのだ。
「お前達もお前達の王も何故理解しない! ミトラース様こそが世界を統べる絶対的な存在である事を!!」
「アクアディーネなどミトラース様には遠く及ばない」
その後も残党の口撃はとどまることを知らない。
「黙れ。イ・ラプセルは貴様らの国とは違う」
するとそれまでの会話を黙って聞いていたランスロットが割って入る。アクアディーネや国王陛下に対して不快な事を口走る事が許せなかったのだ。
「お前達はこのまま連行する。そこで洗いざらい話してもらうぞ」
「ふん。お前達に話すことなど何も無いわ」
「イ・ラプセルもろとも地獄に落ちるがいい」
その後も自由騎士がどれだけの言葉を投げかけようと、魔女狩りの残党達はその姿勢を崩す事はなかった。
「それにしてもキノコタワーが毒キノコタワーにならなくてよかったですね」
辛辣な態度をとっていたアリスタルフもすっかりいつも調子戻っていた。
「まったくですわ! わたくしは、この蒼き国を守り、そしてこの崇高なるキノコタワーを守る騎士! 高潔なる騎士乙女なのですから!!!」
ジュリエットの誇らしげな声が森に響く。
気づけば夜は明けていた。
また同行した自由騎士のスケッチにより、後日この幻想種について詳細な調査が行われる事となったという。
キィィァァエエェェェェ──ッ!!
幻想種の咆哮が夜の森に響き渡る。
「うわぁーーーっ!!」
「なんだあの化け物はっ!!」
逃げ惑うは魔女狩りの残党。深い闇の中からの突然の襲撃に動揺し、闇雲に術を展開するが幻想種を捉えられない。
──そこへ一発の銃声が響いた。
今まさに残党へ襲い掛からんとしていた幻想種を夜目の利く『クマの捜査官』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)が冷静に狙い撃ったのだ。
「あちゃー。当たったが急所じゃないな。大して効いてねぇ」
ウェルスがもう一度銃を構えるが、幻想種も大きく羽ばたき、空高く舞い上がる。
「では、俺達は魔女狩りを。お2人は幻想種をお願いしますっ!!」
『実直剛拳』アリスタルフ・ヴィノクロフ(CL3000392)が皆へ合図すると自由騎士はそれぞれの役に合わせて陣形を取る。国の平和を脅かす者をこのまま見逃すわけにはいかない。アリスタルフの拳に力が篭る。
「そうね、毒のオマケつきの大爆発なんて是対阻止しないとね」
『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)も両の手のナックルを胸の前で合わせると戦闘態勢に入る。
「次に降りてきた時には一発痛いのをお見舞いするぜっ」
サテライトエイムで自己を強化しつつ、ウェルスは銃を構えながら次の好機を待つ。
にしても……この森にはまだ魔女狩りが残ってるのか。食料やらの為に近隣の村に襲撃されらヤバいだろ。そろそろ本気で魔女狩り狩りでもしたほうがいいんじゃないか。
ウェルスがそんな事を考えるのも無理は無い。魔女狩りがイ・ラプセルへ侵攻してきたのはもうだいぶ前の話。未だその残党がいる事など毛頭考えていなかったからだ。
「まぁ……色々と思う事はありますが、まずはあの幻想種には退席して頂きましょうか」
そんなウェルスの考えを表情から読み取ったのか『天辰』カスカ・セイリュウジ(CL3000019)は幻想種への集中を促す。
構想時には名付け親ですら無理があると自嘲していたと言われるキノコタワー。そのタワーも今となってはイ・ラプセル北の森の立派なランドマークになりつつある。そして名前はさておき、カスカもこのタワーの施設は結構気に入っているのだ。むざむざと壊される気など毛頭無い。
「カスカさん、ウェルスさん、幻想種は任せましたわ」
『高潔たれ騎士乙女』ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)はカスカにサンタフェの奇跡を施す。幻想種に接近戦を挑む事になるカスカにとって防御力の向上は願っても無い効果だ。
カスカは妖刀・逢瀬切乱丸を構えると目を瞑り、集中する。細胞がみるみる活性化されていく。
それはまるで人の速度を超えろ、と言わんばかりに。
「では──」
声がした場所にはすでにカスカの姿は無い。──カスカは音もなく森に溶け込んでいた。
●
「全く。懲りん連中だ」
『スウォンの退魔騎士』ランスロット・カースン(CL3000391)は残党を前に剣を構えながら考える。
魔女狩りの侵攻後、確かに残党狩りなどは行われなかった。残党が残っているのも道理ではある。
しかし、事はそれどころの話ではない。我らの国土を穢す奇跡など起こさせてたまるものか、と。
「あぶないっ!」
ランスロットへ向け放たれた緋き炎を、とっさにアリスタルフが弾く。
「すまない、少し考え事をしていた」
アリスタルフに目をやると、改めてランスロットが剣を構える。
「我が神の祝福の届かぬ愚かなイ・ラプセルの者共め。目にもの見せてくれるっ」
「ミトラース様、神をも恐れぬこの者たちに神罰を与えた給えっ!!」
残党がスタッフを構え、呪文を詠唱する。回復役のヒーラーを守るように組まれたその陣形は統率が取れ、自由騎士を易々とは近寄らせない。
「貴様らが罪の無い人々にどれ程の被害を与えるのか考えないのかっ!!」
普段は穏やかなアリスタルフの口調が荒い。その事からも事の重大さが垣間見える。
説得に応じようともせず、矢継ぎ早に繰り出される攻撃を避けながら、アリスタルフは残党の感情を探る。
怒り、憎しみ、焦燥……残党の様々な感情が流れ込んでくる。アリスタルフは幾多の感情からダイオプサイド所持者を探し当てようと試みているのだ。
そしてランスロットもまた一進一退の攻防を繰り広げながら敵の解析を進める。
ランスロットの類稀なる解析力はより深く残党の一人ひとりの能力を解析していく。
「……しかしこの魔導攻撃は厄介だな。このまま距離をとられて攻撃されていては埒が明かない。何とかして近づかねば」
ランスロットがそう考えるのも無理は無い。魔女狩りの対応に当たった自由騎士達は皆近接攻撃を得意とするメンバー。
対する魔女狩りは遠距離攻撃を得意とするマギアスが主要だ。常に自由騎士と一定の距離を取るよう連携した動きを見せる。
「おとなしく投降なさいっ」
エルシーが残党に向けて叫ぶ。
「黙れ! この背神者共めっ!! 貴様らの好きにはさせんぞっ!!」
「我が神ミトラース様。どうか我々を守り給えっ!!」
その権能にも拠るのだろうか。やはり魔女狩りには言葉による説得は効果が薄いようだ。
それに声を聞く限りは4人とも男性である可能性が高く、ダイオプサイドの持ち主は特定しきれない。
「……仕方ないわね」
少々手荒にはなるけど。エルシーは拳を握りなおす。
前衛の3人は攻撃を受けながらも近づくが、そこまでのダメージは少なくない。その上残党は常に一定距離をとるよう、移動を繰り返す。誰かが近づけば誰かが遠ざかる。そんな一進一退の攻防が続く中、次第にジュリエットの回復が追いつかなくなってゆく。
3人の中でもアリスタルフの消耗は激しい。エルシーとランスロットが残党を近づけるよう常に神経を研ぎ澄まし、残党の動きをコントロールするように遠距離からの攻撃を放ち続けているためだ。
当然、残党も唯一遠距離からの攻撃を行うアリスタルフを狙い撃つ。アリスタルフは残党を離脱させまいと行方を阻む事に集中しているため自ずと回避に遅れが出てしまう。結果じわじわ体力を削られてしまう。
「く……何とか隙を突いて近寄れれば……っ」
前衛の苦戦をその身で感じたジュリエットは意を決して前に出ていた。
大きく深呼吸する。そして──
「おーーっほっほっほっほ!!! ミトラースを信奉する魔女狩りの残党の皆さん! 貴方方の命運、ここに尽きたりですわ! わたくしはジュリエット・ゴールドスミス。貴方方を捕らえる自由騎士!! この名、その胸に確と刻みなさい!!」
爆発音と共に、華やかなオーラに包まれ自ら持つカンテラの光に照らされたジュリエット。その登場はまさにアイドルのそれだ。
突然の大爆音に敵味方問わず虚をつかれ、すべての視線はジュリエットに注がれていた。
「な……。何者だ!!! あいつを狙い撃て!!」
一瞬呆気にとられた魔女狩りだったが、冷静に考えればこれほどわかりやすい標的はない。
一斉にジュリエットへ緋き炎と蒼き氷を撃ち放つ。
(まずい!!!)
前に出て残党を相手していた自由騎士達もジュリエットのほうを振り向く。が、ジュリエットは大丈夫と力強く頷く。
「きゃあああぁぁぁぁっ!!」
ジュリエットが被弾すると同時にエルシー、ランスロット、アリスタルフの3人は一気に残党の元へ。ジュリエットの決死の行動を無駄にしないために。
「スカァァァレットォォォォーーーインパクトォ!!!!」
緋き光を放つエルシーの拳は必殺の一撃となり、打撃を当てた者だけでなく後ろに控えていたヒーラーをも貫く。
「ぐふ……っ。ミトラース様……ば、万歳っ」
男はそのまま気を失い、ヒーラーはその衝撃に顔を歪める。
アリスタルフとランスロットが狙うは同じ標的。アリスタルフは強い感情で、ランスロットはその解析力でダイオプサイドを持つものを導き出したのだ。
「ハァァァァーー!!!」
アリスタルフの渾身の拳撃が男の体中を駆け巡る。
「ウォォォォーー!!!」
そこにランスロットの力強い大剣の一撃。
「げふっ」
男はその場に崩れ落ち、懐から綺麗な緑色の石がついたネックレスが零れ落ちた。
「な、なんてことだっ」
残る一人があわてた様子で背を向け逃げようとする。
「まずいっ逃げられる!!」
追いかけようとするアリスタルフをランスロットが静止する。
「大丈夫だ、あの先は……」
「うわぁぁぁぁーーーー!!」
逃げた男が叫び声と共に突然消えた。
「な?」
ランスロットはアリスタルフに目配せする。依然仕掛けた落とし穴がそこにある事をランスロットは覚えていたのだ。
「さぁ、あとは貴方だけですわ。投降しますか? それとも……」
エルシーの一撃に悶絶していたヒーラーの前には、先ほど集中砲火を浴びたジュリエット。
装備こそぼろぼろになっているものの、その顔は微塵もソレを感じさせない凛とした表情。
全てを悟ったのかヒーラーから力がすぅと抜け、膝から崩れ落ちる。終わったのだ。
魔女狩りの残党はこうして自由騎士の手によって全員捕縛された。
●
キィィァァエエェェェェ──ッ!!
一方幻想種を相手取るカスカとウェルス。
自由に空を滑空する幻想種に対して刀を手に戦うカスカ。有効な攻撃手段は少なく一見すればかなり不利な状況にも見える。
だが森を知り尽くし、森へ溶け込むカスカはソレを一切感じさせない。木々はカスカを容易に幻想種の元へ運び、葉や蔓はカスカの姿を幻想種から隠す。幻想種からすればそれはまるで──森自体から攻撃されているような感覚であろう。
ヒット&アウェイを繰り返しながら、幻想種の攻撃の的を残党へ向かわせない。行うべきは討伐にあらず。如何に幻想種を撤退に導くか。カスカは戦いながら思考を重ねる。
一方のウェルスは大型の翼竜のような姿の幻想種に対し、物陰を巧みに利用しながら的確に射抜いていく。
ウェルスの使用する銃の名はウルサマヨル。幼き頃より使い続け改造を重ね、もはやオリジナルともいえる代物だ。更に強化パーツも組み込み威力を増している。そんな銃をして攻撃を続けているのだが。
「想像以上に固いな。弾がなかなか通らねぇ」
ウェルスの放つ弾丸は的確に幻想種を捉えている。しかし甲殻化した幻想種の皮膚は僅かに傷つく程度。
「……私の逢瀬切でも出会い頭では皮一枚といったところですね」
気づけばウェルスの後ろにはカスカの姿。
「どうするよ、カスカ嬢。今のままじゃぁやっこさんを諦めさせるのはなかなか難しそうだぜ」
「ダメージを与え続ければいつかは撤退するでしょうが……時間がかかりすぎますね」
カスカも森の地形を利用しながら幻想種への攻撃を何度も試みるものの、撤退させるには至っていなかった。
幻想種は次の降下のタイミングを見計らっているようだ。空高く旋回している。
「……一つ、案があります。うまくいくかはわかりませんが」
「乗るぜ!」
内容も聞かずに乗っかるウェルスにカスカは珍しく驚いた顔をする。
「いいのです? まだ何も伝えてませんが」
「もちろん! おれはカスカ嬢を信じてるぜ!」
ウェルスいい笑顔。この飄々としつつも仲間に絶対に信頼を寄せるその振る舞いはウェルスの数ある魅力のひとつだろう。
「あなたって人は……」
はぁ、とため息をつきながらも、信頼される事に悪い気はしない。カスカの表情が僅かに緩む。
「では──」
カスカはウェルスに耳打ちすると同時にすぅと森の闇へ消えた。
「……一か八か、やってやるぜっ」
ウェルスが意を決して物陰から飛び出す。
「おーい! 俺はここにいるぜっ!!」
幻想種が大声を出すウェルスの姿を捉え、猛スピードで急降下してくる。
もう少し。あと少し。
「そうだ……そのまままっすぐ来てくれよ」
ウェルスが狙撃銃を構える。あと30メートル、20メートル……。
「食らいやがれっ!!! 特製炸裂共振弾!!!」
ウェルスの放った二連の弾丸は正面から向かってきた幻想種の真正面を捉える。
キェェエアアアァァ!!!!
弾が炸裂した衝撃で視界を奪われた幻想種は堪らず空へ逃げんと上昇する。
「これでいいかいっ! カスカ嬢!!」
ウェルスが姿の見えないカスカへ合図を出す。
「十分です」
声の主はカスカ。静かに刀に手をやりその瞬間を待っていた。
カスカの繰り出す技は攻撃と同時に移動を可能とする。幻想種の舞い上がる軌道にカスカがあわせる。
通常であればカスカの存在を察知した幻想種は瞬時に軌道を変えていたであろう。
だが、視界を一次的に奪われた幻想種の軌道は単純なものになっていた。
「ようやく捉えましたよ」
そう言ってカスカがいる場所。それは幻想種の背。
「子が待つ巣へおとなしく帰りなさい」
カスカが刀を構える。
「天理真剣流──風之衝」
カスカの放つ無数の斬撃は、幻想種を撤退させるに相応しいダメージを与える。
キェェエエエェアアアアァァァァァ!!!!
幻想種は最後に大きく嘶くと遠くへはばたいていった。
カスカが地上へ戻るとしりもちをついたままのウェルス。
「ふへぇ。あのままあいつが上昇せずに突っ込んできてたら俺……死んでね?」
「まぁ、そうかもしれませんね」
「マジか! あっぶねぇ!!」
「だからいったじゃないですか」
「何も聞いてねぇっつーの!」
真顔で答えるカスカと、いまさら状況を思い出し青ざめるウェルス。
結果よければすべてよし。カスカとウェルスの見事(?)な連携で幻想種は撃退されたのであった。
「おーい! 魔女狩りの残党は皆捕縛しましたっ!!」
声の主はアリスタルフだ。魔女狩りの残党を相手していたメンバーも片付いたようだ。
イ・ラプセルに起こりえた未曾有の災害はこうして阻止された。
●
幻想種が狩りを諦め、飛び去っていったのを確認後もウェルスは周辺を警戒していた。
「……っと。周囲に気配なし。とりあえずは大丈夫そうだな」
常に冷静さを保つウェルスはこの騒ぎを聞きつけてほかの残党や幻想種がやってくるかもしれないとも考えていたのだ。
「それじゃぁツラ拝ませてもらうぜ」
辺りの静寂を確認するとウェルスは残党達のフードを取る。その種族は猛獣系のケモノビト達。念のため獣化して逃げられる事の無いようロープをきつく締めなおす。
「それにしても……なぜお前達はこの森に残ってたんだ?」
ウェルスはあえて質問する。
「お前達に話すことなど何も無い」
「こんな事をしてただで済むと思っているのか」
アリスタルフがきつい口調で問いただす。
「我らが神はきっとお前達に天罰を与えようぞ」
シャンバラの民が口にする言葉はいつも似たようなものだ。シャンバラこそが正義。他所の国の神や国王などは全てミトラース様に傅く存在でしかない。その口から出る言葉は実に利己的で妄信的。ミトラースの全てを一切疑わない。薄々感じていた事だが、やはりウェルスの質問にも聞く耳を持たない。
「異国の地で貴方達はよくやったわよ。ミトラース神もきっとお許しになるわ」
エルシーが艶っぽい仕草をしながら、ダイオプサイドを所持していた男に詰め寄る。
「だからさぁ、知ってる事を教えてくれない?」
エルシーは耳元で囁く。エルシーが惜しげもなく晒すその豊満な肢体と甘い声。通常の男であれば完堕ちであろう。
「ぐっ……この淫女め!! 色仕掛けなど我々には効かん!」
一瞬の躊躇はあったものの、やはり結果は変わらない。シャンバラの民には通じないのだ。
「お前達もお前達の王も何故理解しない! ミトラース様こそが世界を統べる絶対的な存在である事を!!」
「アクアディーネなどミトラース様には遠く及ばない」
その後も残党の口撃はとどまることを知らない。
「黙れ。イ・ラプセルは貴様らの国とは違う」
するとそれまでの会話を黙って聞いていたランスロットが割って入る。アクアディーネや国王陛下に対して不快な事を口走る事が許せなかったのだ。
「お前達はこのまま連行する。そこで洗いざらい話してもらうぞ」
「ふん。お前達に話すことなど何も無いわ」
「イ・ラプセルもろとも地獄に落ちるがいい」
その後も自由騎士がどれだけの言葉を投げかけようと、魔女狩りの残党達はその姿勢を崩す事はなかった。
「それにしてもキノコタワーが毒キノコタワーにならなくてよかったですね」
辛辣な態度をとっていたアリスタルフもすっかりいつも調子戻っていた。
「まったくですわ! わたくしは、この蒼き国を守り、そしてこの崇高なるキノコタワーを守る騎士! 高潔なる騎士乙女なのですから!!!」
ジュリエットの誇らしげな声が森に響く。
気づけば夜は明けていた。
また同行した自由騎士のスケッチにより、後日この幻想種について詳細な調査が行われる事となったという。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
†あとがき†
自由騎士の活躍により残党は捕縛され、未曾有の危機は防がれました。
MVPは幻想種への効果的な対処を行ったあなたへ。
ご参加ありがとうございました。
MVPは幻想種への効果的な対処を行ったあなたへ。
ご参加ありがとうございました。
FL送付済