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激闘、南護屋崩し!



●栄堂にて
 ――宇羅幕府本城、栄堂城。
「さぁて、どう攻めたモンだろうなぁ、こいつは。どう思う、鉄血の?」
 板張りの天守閣にて、大きく広げられた地図に目を落として『黒鬼将軍』宇羅・嶽丸が向かい側に座っている大柄なヴィスマルク人に問いかける。
「……フン」
 問われたヴィスマルクの軍人は、しかし軽く鼻で笑って嶽丸を見た。
「ちったぁ考えてから喋れや、なぁ、黒鬼の。俺らに作戦考えさせて、自分はそれに乗って暴れるだけってかい? 気楽だなァ、オイ。仲良く一緒に脳細胞働かせようぜ」
「カァ――ッハハハハハ! バレてしまってが仕方がない! 何せお前さんらが考える作戦は理に適っててやりやすい。任せたくなるが人情というものよ! 人は便利であればあるほどそちらに流れてしまう哀しき生き物ゆえなぁ。クハハハハハハハハ」
「ケッ、よく言うぜ。作戦の内容が気に入らなきゃ勝手に変えちまうクセによ」
 顔中に傷痕が刻まれたその顔を歪ませて、ヴィスマルク軍人がつばを吐く真似をする。
「当たり前ではないか。我ら宇羅幕府、総じていくさのためにいくさに参じておるのだぞ? 鉄火場を十全に楽しめぬ作戦になどどれほどの価値がある? 敵を殺し、敵を壊し、敵に殺され、敵に壊されてこそのいくさよ!」
「……俺も大概なモンだと自負しちゃあいたが、テメェらを見て自分なんてなまだまだ理性的で平和的だと実感したぜ、この戦狂い共が。痩せた狼と何も変わりゃしねぇ」
「クッハハハ、己の名に狼を冠しながら、されど我らを餓狼と誹るか。いや、面白き哉、面白き哉。余はお前さんのそういった歯に衣着せぬところが大好きだぞ、なぁ、イェルク・ヴァーレンヴォルフ少将よ」
「チッ、だからテメェはやりにくいんだよ、黒鬼の」
 露骨に舌打ちをして顔を背けるイェルクを見て、嶽丸がまた笑う。
 そこへ『神殲組副長』土方・武蔵が足音もなく天守閣へと登ってきた。
「あ、あの~、上様。ちょっとよろしいですかぁ~?」
「む、どうした土方。軍議の真っ最中であるぞ」
「ただの世間話だったじゃないですかぁ~、も~」
「うむ、ただの世間話を踏まえた軍議の真っ最中であったぞ!」
 嶽丸の言葉に、ハの字眉毛の土方は「えぇ~?」と困ったような顔をする。
「オイ、話が脱線してんぞ。何か報告があったんじゃないのか?」
 そこに、イェルクが話を戻そうとする。
「ああ、そうですそうです。南護屋で禍憑き(マガツキ)が大量発生したとかでぇ~」
「……マガツキ? ああ、イブリースのことだったか」
 西方でいうところのイブリースは、アマノホカリでは総じてマガツキと呼称されている。
「ほぉ、南護屋か……」
 報告を受けて、嶽丸は考えこむ。
 南護屋は改国派たる自分達と浄夷派たる朝廷側を分けている境界線にして、事実上の緩衝地帯。そこで一悶着起きたとなれば、今後のいくさの趨勢にも影響を及ぼすだろう。
 それに、何より――、
「……オイ、何考えてやがる、テメェ」
 嫌な予感に眉を顰め、イェルクが嶽丸を睨む。
「む? いや? 禍憑きを退治するという名目でそのまま南護屋を攻め落とすのもありではないか? 膠着状態というのは好かぬゆえな、派手にいきたいと思わぬか?」
「あ~、も~、出たよ上様の悪いクセ~。何でそういうこと考えるかなぁ~」
 と、土方はあからさまにイヤそうな顔をするものの、しかし、反対はしないのだ。
「……やれやれだな、こいつは」
 イェルクが深く息を吐く。
「俺ァ、別に戦争を好んでるワケじゃねぇ。単に、俺らみてぇのは戦争以外じゃロクに身を立てられねぇから戦ってるだけだ。テメェとは根本的に違うんだよ、黒鬼の」
「わかっておる。同時に、そこにいくさがあらば全力を尽くすであろうこともな。何せ、いくさこそがお前さんらの仕事。そして余は、お前さんが絶対に仕事に手を抜かない人間だと知っておる。ならば、なぁ? 信じ、頼むことに何の迷いがあろうか、鉄血の」
 どっしりと構え、笑って言う嶽丸に、イェルクはまた強く舌を打った。
「先に自由騎士共にイブリースの対処をさせろ。俺が知ってる連中ならば、必ず動く」
 そして彼は、地図を挟んで向かいに座る『黒鬼将軍』に言葉少なに献策をした。
 嶽丸がニヤリと笑う。
「攻めどきは?」
「自由騎士共がイブリースを叩き終える直前」
「フフン、最初に自由騎士を叩くことで朝廷側の動きを抑えるハラか」
 あごに手をあてながら『黒鬼将軍』は献じられた策の本旨を正しく受け止める。
「……よかろう。承った。なれば土方よ、許す。神殲組を向かわせよ」
「御意」
 下された命令に深く頭を下げて、土方が天守閣を降りて行った。
「ク、ハハハハハ。さて、楽しいいくさになるといいなぁ、此度の『南護屋崩し』が」
「知ったことかよ、この戦狂いが……」
 にこやかに笑う嶽丸に、イェルクは憮然を顔をそらすのだった。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
EXシナリオ
シナリオカテゴリー
対人戦闘
担当ST
吾語
■成功条件
1.イブリースの群れ撃破
2.幕府軍部隊の撃破
名古屋打ちではありません。吾語です。
いくさ大好き宇羅幕府が「マガツキ倒すぜー」という大義名分のもと攻めてきます。
なお、戦場にやってくるのは自由騎士がそっちをやっつける頃の模様。

それでは以下シナリオ詳細です。

◆敵勢力1
・四足獣型イブリース×6
 幻想種がイブリース化した姿です。かなりおっきい。一体が象さんくらい。
 全身真っ黒で俊敏、獰猛で狂暴。周辺の村や集落を見境なく襲撃中とのこと。
 当然、その一報は朝廷側にも入り、自由騎士が駆けつけることとなります。

 体がデカイ分、非常にタフであり防御力も高く自動再生持ち。
 おまけに常時パッシブで【精耐】持ちで、しかも移動不能が無効化されます。

 ただし、能力の大半を防御の方に振っているため攻撃能力はやや低め。
 攻撃手段は突進のみ。とはいえ、貫通(100・75)、ノックバックつき。

◆敵勢力2
・ヴィスマルク軍+幕府軍の混成部隊
 イブリースが弱った時点で戦場に出現。
 なお「弱った時点」が実際どのタイミングなのかはひみちゅ☆彡
 敵の編成は下記の通り。

 ・ヴィスマルク軍兵士×6
  防御タンク×3 ヒーラー×3とかいう、防御以外する気のない編成。
  参加者の皆さんの平均レベルと同じくらいの強さです。

 ・宇羅幕府『神殲組』隊士×6
  サムライ×6とかいう、近づいてバッサリやることしか考えてない編成。
  参加者の皆さんの平均レベル+5くらいの強さです。
  今回は土方さんとかのネームドはいませんが、それでも強めです。

◆戦場
・村
 戦場となるのはイブリースに襲われた農村です。
 近くにはちょっとした広さの平原とかもあったりします。
 リプレイ開始時点で村はイブリースに襲われていますが、見過ごすのもあり。
 見過ごさない場合、村人の避難というミッションも発生します。
 見過ごす場合は、逆に避難のミッションは発生せずすぐに戦闘に入れます。
 どっちを選ぶかは皆さん次第です。

◆成功条件
 今回、二つの成功条件をクリアできない限りシナリオ成功とはなりません。
 イブリースを撃退できても幕府軍に敗れた場合は失敗となります。
 そこのところ、ご注意いただければと思います。

それでは、アマノホカリでの初の大規模戦闘、気合を入れていきましょう!
状態
完了
報酬マテリア
3個  7個  3個  3個
5モル 
参加費
150LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
8/10
公開日
2020年09月05日

†メイン参加者 8人†



●狂乱、大禍憑き
 ――前置きなど置くひまもなく、その場はすでに狂乱のさなかであった。
「ひぃ、た、助けて……!」
「おかぁ……! おとぉ、どこぉ! どこじゃあ!」
「ああ、家が、ワシらの家がぁ……」
 わめく人々の声は、しかし地を揺らす巨体の足音にかき消されてしまう。
 暴れ回る巨大な漆黒。それこそ見上げるほどに大きなイブリースが、近くに建つちっぽけな木造のあばら家に全身をぶつけ、粉みじんに叩き壊した。
 それを見て、普通の農民たちに嘆く以外の何ができるというのだろう。
 逃げようにも足はすくみ、全身は強張って動かず、狂騒の中にただただ置いてけぼりになる。そうして、やがて来る絶対の死に抗うこともできず、彼らは――、
「私の前で、好き放題やってんじゃないわよ!」
 空中より、声が高らかに響き渡ると同時、イブリースの一体の顔面に火焔が炸裂する。
「チッ、さすがにあんま効いてないわね」
 炎の魔導を炸裂させた『日は陰り、されど人は歩ゆむ』猪市 きゐこ(CL3000048)が、イブリースの様子を確認して強く舌を打った。
「いえいえ、それでも敵の注意はこちらに向きました。グッジョブです」
 隣に浮いている『救済の聖女』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)が、きゐこにそう言ってウインクし、自分も何かを投げつけた。
 拳大のそれはイブリース数体がたむろする空中で炸裂し、強烈な光と音と煙を発生させた。魔に堕ちたとはいえども生物であるイブリースがそれを耐えられる道理はない。
 その様を、飛行機械によって空に舞い上がっているきゐことアンジェリカが確認する。
「よっしゃ、動いたわね!」
 巨体をバタつかせてもがくイブリースを見下ろしながら、きゐこがマキナ=ギアを用いて別所に控えている仲間へと連絡をした。
「避難を促すなら今よ!」
 その連絡を受け取ったのは、『星達の記録者』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)。
「OK、よくやってくれたぜ!」
 ギアを懐に戻し、ウェルスはすぐさまその場を飛び出した。
 そして彼の前には、ホコリにまみれて嘆き続ける農民達の姿がある。
「おい、あんたら! そこで泣いてたって何にもならねぇぞ、ほら、こっちだ!」
 大きく声を張り上げる彼に、農民数人が気づく。
 すると、彼らは一斉に立ち上がってウェルスの方へと駆け出した。
 そこに助かる可能性があるのだと、わかったのだろう。
「そうだ、こっちだ! 逃げるならこっちだぞ!」
 身振り手振りを大きくし、ウェルスは自ら目印となって農民へと重ねて訴えた。
「お、おお! 助けだ、助けが来たぞ!」
 一転して、歓喜に沸く農民達。
 膝を突いていた彼らはすぐに立ち上がり、ウェルスが示した方向へと逃げていく。
 一方で、アンジェリカのボムをくらったイブリースたちは未だ混乱の渦中にあった。
「あれなら、もう少し刺激すればこっちに誘えそうね」
 様子を窺っていた『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)がそう判断を下す。
「わかった。その役目は俺が担おう」
 隣に立っていた『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)が、言うが早いか単身飛び出してイブリースの間合いへと自ら突っ込んでいく。
 象にも迫る巨躯が数体、もがいて暴れている現場。
 それは、常人はおろか騎士であろうとも圧倒されて踏み込むのをためらう光景であろう。
 事実、地面は激しく揺れ、もうもうと立つ土煙が視界をも覆わんとしている。
 しかしアデルは、そこに動揺するでもなく、いたって冷静に踏み込んでいった。
 イブリースの一体が、彼めがけて突進してきた。
「そちらから来てくれるのならば、ありがたいな」
 逃げず、退かず、むしろ強く地面を踏みしめたアデルが、そこから生じる応力を使って自分へと迫るイブリースの眉間に思い切り槍を投げつけた。
 鋭く空を切った穂先が、狙った場所に見事命中。イブリースが絶叫する。
 空中に放り上がった槍を、アデルがイブリースの身を踏み台にしてキャッチして、そのまま着地するなり走り始める。当然、イブリースの群れは彼を追いかけ始めた。
「そうだ、来い。農民の退路とは逆側にな」
 走りながら、同時にアデルは隙なく周囲に目を走らせる。
 イブリースの大暴れによって、周りにある建物はおおむね倒壊し、さらには木々も折れて倒れている。つまりはかなり見晴らしがよくなっている現状である。
 しかし、どこを見渡してもアデルが探すものは見つからなかった。
「――どこかに控えていると思ったが、もっと離れているということか?」
 逃げながら、彼はチラリと後ろを見る。
 自分が見つけられないならば、それは仲間達に託すしかなかった。
「頼むぞ、何とか幕府の連中を見つけてくれ」
 アデルの願う呟きが聞こえていたワケではないだろうが『智の実践者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)が現状における違和を見つけていた。
「あちらの方角、今、何か硬い音がしたが……」
 それは、ウェルスが農民を逃がした方向でもなく、アデルがイブリースを誘導した方向でもなかった。その二方向の、ちょうど中間となる方である。
「……もしや?」
 テオドールが、そばに立つセアラ・ラングフォード(CL3000634)を見て、小さく首肯する。『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)が小さく笑った。
「高みの見物を決め込むなら、最適の場所だね」
「そうですね。空に上がっているお二人に、連絡をしておきましょう」
 セアラがマキナ=ギアを手にとって、すぐさまきゐこ達へと一報を入れる。そして、
『――いたわ』
 返ってきたきゐこの声は、いくばくかの緊張をはらんでいた。
「速やかに全員に通達を」
 テオドールがすぐさま指示を下す。
「アデルには私から知らせよう。進むべき方向は定まった」
 本来であれば、自由騎士には抗いようがなかった幕府軍の作戦であったが、しかし、水鏡によるアドバンテージをもって、それは今、根元からひっくり返されようとしていた。
「それでは、三つ巴と参りましょうか」
 空の上から、地形を陰にして隠れている幕府軍に向かって、アンジェリカが小さく笑った。

●大混戦、南護屋崩し
 幕府軍に油断はなかった。
 最精鋭である神殲組の隊士に、同盟勢力であるヴィスマルクの部隊。
 いずれも、いつ何が起きても対処できるだけの状態を常に保ち続けていた。
 いかに作戦が優れていようとも、勝負は水物であり、戦は刻々と姿を変える雲のようなもの。想定外の事態などいつだって生じるものだ。
 しかし――、だからこそ彼らは最初の時点で自分達の作戦を放棄した。
 自由騎士が想定と違った動きを見せた、そのときに。
「見つけましたよ、幕府軍!」
 幕府軍の前方に自由騎士。セアラが彼らを指さして声をあげる。
 一方、さらに後方では――、
「さぁ、しっちゃかめっちゃかにしてやろう」
 自らを餌としてイブリースの群れを誘導してきたアデルが、走りながらそう告げる。
 この瞬間をもって、幕府軍は当初予定していた作戦行動を破棄すること選んだ。
「この場で潰す。総員、抜刀」
 指揮官らしき和装のサムライが、そう言って静かに刀を引き抜いた。
「……動揺はなし、か。ヴィスマルクもさることながら」
 テオドールが小声で言って、サムライ達を観察する。そこに一切の隙はなく、噴き出る殺気は今まさに迫りつつある巨大なイブリースに劣らない圧を感じさせた。
「タフな戦いになりそうだね、これは」
 マグノリアも苦笑して、自分の得物を構えた。
「そんなことは最初からわかってることよ! だったら、私達はやるべきことをやるべきとおりにやるだけよ! 戦う! 倒す! 死なない! 以上、それだけ!」
「……クク、さすがは名誉将軍閣下。鼓舞する言葉も一味違うというものだ」
 強気に叫ぶエルシーに、テオドールは笑いながらうなずいた。
「ああ、だが全くその通りだ。ちょっと身命を賭して、勝利をもぎ取ろうではないか」
 相対する、幕府軍と自由騎士。
 そこへ今――、イブリースの群れが、まっすぐ突っ込んでいった。
 戦いが、始まる。
「まともにぶつかるつもりはないよ」
 自由騎士、初手。発動したのはマグノリアの弱化の魔導。
 概念を直接的に付与するという魔導の奥義であり、これを浴びた者はその力を著しく低下させる。戦場においては悪夢の如き魔導ではあるが、
「そんなものか、自由騎士!」
 ヴィスマルクのヒーラーらしき兵士が、杖を掲げてそう叫ぶ。
 マグノリアが押し付けた弱体の概念を癒しの魔導が消し去っていった。
「……チッ」
 舌を打つマグノリアとその兵士の間を、イブリースが行き過ぎていく。
「全員、デカブツに十分注意しろ! あれは、硬いぞ!」
 アデルの号令。自由騎士が全員、うなずいた。
「さぁ、始まったわよ始まったわよ! てんやわんやの大混戦! 根性無しはさっさと逃げなさい! でないと、切った張ったする前に私の魔導でぎゃー!?」
 テンション上げつつ戦場に舞い降りたきゐこが、イブリースに轢かれた。
「きゐこさァァァァァァ――――ん!?」
 叫ぶアンジェリカが見上げる先で、派手に吹き飛んだ小さな体が空中に放物線を描き、
「何してくれてンのよ、ドサンピンがァァァァァァァァァ!」
 何と、その体勢から高威力広域爆砕魔導を発動させた。
 ドカァァァァァァァァン!
 と、自分をはね飛ばしたイブリースを中心に、大火力が炸裂する。
 巻き起こった爆風が、墜落しかけていたきゐこの身体を再度空へと舞い上げる。
「フ、これだけの高さがあれば、飛行機械で安全に――」
 余裕かましつつ、きゐこが羽ばたき機械を使おうとするが、うんともすんとも言わない。
「ちょ、壊れてんじゃないわよ!!?」
 所詮200ダメージぽっちで壊れる機械なんだから、無理を言わないでほしい。
「だ、誰か! た、たす、たす……!」
 しかし現場は大混戦真っ最中なので、誰にもその声は届かなかった。
「ああああああああああああああ! へぶしッ!」
 かくしてきゐこ、着地(ルビ:墜落)。
 一方、きゐこをはねたイブリースはまだ健在だった。いかに高火力魔導とはいえ、防御に特化した巨大イブリースを一撃で潰すには至らなかったということだ。
 そして、相対するのはエルシーとアンジェリカの二人。
「……イヤになる迫力ね」
「あら、そこは叩き潰し甲斐がある、では?」
「叩いても柔らかくなりそうにないじゃない、あれ」
「確かに」
 並び合い、武器を構え、二人は互いに軽口を叩く。
 イブリースが頭を低くして突っ込んできた。その速度、まさに脅威ではあろう。
 しかし、熟練の戦士である二人にとっては見た上で対処できる程度のものでしかない。
「右に行くわ」
「では、私は上から」
 激突まであと数mというところで、二人は短く打ち合わせ、動き始めた。
 イブリースの大股な一歩。その間にエルシーは三歩動く。右に避けて、回り込んで向き直り、強く踏み込んでからのまっすぐブチ抜くような拳の一撃。
 それは、頑強であるはずのイブリースの肉に深くめり込み、瞬間的に大きく凹ませる。
 そのダメージに、イブリースの身が傾いだ。
 さらにそこへ、上。羽ばたき機械で再び空に上がったアンジェリカが、大上段からの体ごとの振り下ろし。切っ先のない巨大な刃が、イブリースの眉間に叩き込まれる。
 咆哮ではなく、悲鳴がその場に轟いた。
 エルシーの一撃同様、彼女の一閃もまたイブリースに深いダメージを与えていた。
「さすがですね、きゐこ様」
 着地し、アンジェリカが自分の剣を見る。そこにはかすかな燐光。
 きゐこが自分とエルシーの武器に、対イブリース用の特効魔導を付与してくれたのだ。
 籠手に包まれた右手を幾度か握って、エルシーも具合を確かめる。
「いい手応えだわ、これなら――」
 すぐ背後に、息遣い。
「――――ッ!?」
 振り返ろうとする。そこに見えたのは、すでに刃を振りかぶっているサムライの姿。
「ちぇりゃああああああああああああああああああ!」
 普通ならば驚きに硬直して防御する間もなく切り裂かれるであろう場面。
「……ナメるな!」
 しかしエルシーはあろうことかそこで反応し、咄嗟に右腕の籠手を前へと突き出した。
 超速で振り下ろされた刃が籠手の表面を咬んで火花を散らす。遠慮一切なしの一閃に籠手は表面を大きく削られながらも、しかし丸みのおかげもあって何とか受け流す。
「エルシー様!」
 アンジェリカがカバーに入り、一撃を凌がれたサムライは大きく飛び退いた。
「やってくれるじゃない」
 右腕に鈍い痛みを感じつつ、エルシーはサムライを睨む。
 何とか防ぐことに成功はしたものの、腕の骨にひびが入っていることを確信する。経験上、その手の痛みは数えきれないほど経験している。
「動けますか?」
「このくらい、どってことないわ」
 疼く痛みを無理やり抑えつけて、エルシーが歯をむき出しにして笑った。
 幾度も経験しているからこそ、この程度の痛みには慣れっこだ。そして彼女は、拳を握りしめて構え直した。
 そしてサムライが駆け出したのを見て、彼女もまた地を蹴った。

●そびえる壁に一穴を穿て
 精鋭たる神殲組、精兵たるヴィスマルク部隊。
 相対するは歴戦の強者たる自由騎士。
 そこに巨体を誇るイブリースという現状、当然の如く、場は混戦の様相を呈していた。
「せぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 裂帛の気合を轟かせ、サムライの一人が刃を大きく叩き落してくる。
 それを、アデルは愛用の短槍で何とか受け止めるも、威力が高い。受け止め切れない。
「ぐぅっ!」
 胸を圧迫する衝撃に、ヘルメットの奥からくぐもった声が漏れる。
 全身を鋼鉄で固め、単身としては間違いなくこの場にいる自由騎士の中で最も重いであろうアデルを、それこそ木っ端の如く吹き飛ばすサムライの膂力。
 いかに精鋭といえども、そこまでの腕力を誇るというのか。
「……いや、これは技だ。単なる一撃に、見事に全身の力を集約している」
 受けた身だからこそわかることもある。
 自分が使うバッシュにかなり近い術理によるものだが、おそらくは――、いや、間違いなくそれよりも威力が高い。あまりにも極まった力の集束。威力のみの一点突破。
 しかし、だからこその欠点もアデルには見えていた。
「おおおおおおおおお!」
 アデルが体勢を立て直す前に、サムライが追撃を仕掛けてくる。
 しかし、その一閃を彼は軽く身を引くだけで回避。サムライの方に隙が生じる。
「威力を優先しすぎたな!」
 バッシュよりもさらに威力に偏ったサムライの一撃は、それだけ大振りにならざるを得ない。ならば当然、軌道も読みやすくなるのだ。
 そしてサムライが見せた隙は、アデルであれば十分に突けるもの。
 しかし――、地面が、揺れた。
「……イブリース!?」
 間の悪いことに、アデルが攻勢に転じようとした瞬間に、イブリースが突っ込んできた。
 せっかくのサムライへの攻撃のチャンス。
 しかし、ここで色気を出しすぎても不利に働くか。
 アデルの中に、刹那の逡巡が生まれた。
「盾兵、踏ん張りたまえ!」
 そこに檄を飛ばしたのが、テオドールであった。
 すると、アデルに率いられてこの戦いに参加していた盾兵達がイブリースの前に出て、大きく壁を作る。そして何と、その巨体をしっかりと受け止めた。
「……助かる!」
 アデルは一言そう告げて、今度こそサムライめがけて槍を突き出した。
「見えているぞ、自由騎士!」
 が、ヴィスマルクの重装歩兵が大盾を壁にしてこれを防御。サムライが飛び退いた。
 動きと連携にそつがない。舌を打ちながら、アデルはそれを実感する。
 ヴィスマルクと宇羅幕府、二つの組織にそれぞれ所属する敵部隊は、しかし、そのくせしっかりと有機的な連携をとって動いていた。
 攻と防、そして治。
 混戦が続く戦場だというのに、敵の行動は堅実で、それゆえに付け入りがたい。
 どこか一点でも突き崩せれば一気に戦いの流れを引き寄せることができるのだろうが、それは同じく敵も狙っていること。牽制するだけでは、戦いは動かない。
 イブリースにも十分に警戒を払いながら、両陣営は互いに金城鉄壁を突き崩す蟻の一穴を模索し続けていた。そして今、それをんさんと動く者がいる。
「そう何度も使えるものでもないからね、タイミングを見る必要があるんだ」
 マグノリアである。
 発動させたのは、先にもすでに使っている弱体概念の魔導。
 敵は堅実だが、しかしその力自体を衰退させる概念付与はこの場において千金の意味を持つ。当然、それは敵も承知していて、魔導発動直後、敵ヒーラーが動いた。
「ああ、そうだろうね。当然、そう出るだろうさ」
 戦力が拮抗している現状、それを減じさせる要素を、敵が見逃すはずがない。
 そして、相手の行動さえわかっていれば対処もまた容易である。
「――いいね、最高の位置だ」
 その声は、戦場を少し離れた場所、場を俯瞰できる位置にいる彼のものであった。
 そう、ウェルスである。
 農民達を安全な場所まで逃がして、今ようやくこの場に到着したのだ。
 別に、マグノリアが予め彼と打ち合わせたワケではない。
 マグノリアの確信は、ヒーラーが自分の魔導への対処のために動きを止める。とおうところまで。そして残りは、敵ヒーラー対して仲間の誰かが対応するだろうという都合のいい期待でしかなく、ウェルスの攻撃のタイミングと重なったに過ぎない。
 だが果たして、それは運なのか。たまたまでしかないのだろうか。
 ――答えは、否である。
「狙い撃つぜ!」
 ウェルスの大型狙撃銃が、敵の認識の外で火を噴いた。
 弾丸が、ヒーラーの脇腹に突き刺さる。
「うぉ……、お!?」
 低い唸り声と共に、ヒーラーはそのまま倒れた。自分に何が起きたのかさえ、理解できていないだろう。全くの不意打ちであった。
 マグノリアがウェルスの方を向き、軽くウインクする。
 それを見た彼はニッと明るく笑って応えた。
 打ち合わせもなく、合図もなく、されども確かに行動を繋げ重ねることができる。
 それはきっと、信頼という名の目に見えない連携であった。
 混戦が続く中で、徐々に、徐々に、戦況が傾き始める。
 それはまるで、クライマックスに向けて一つ一つ積み重ねられていく、物語の展開のようでもあった。だがそれを描く前に、まだ記さねばならない場面がある。
 戦いを下から支える者達の、目に見えない奮闘である。

●その手は痛みをなくすため
 イブリースの巨体を思い切り蹴りつけて、サムライの一人が高く跳躍した。
「どぉりゃあ!」
「おぉっと、やらせませんよ!」
 放たれた一撃を、巨大な剣でしっかりと受け止めるアンジェリカ。
 そのすぐ後方では、すでにきゐこが魔導の発動準備を万端に終えていた。
「焼くわ」
 発動した炎の魔導が、サムライの顔面に炸裂する。
「ぬおお!?」
 サムライは大きくのけ反り、数歩後退する。
 絶好のチャンス。しかし、敵ヴィスマルク兵のヒーラーがすかさず傷を癒した。
「クハハ、良き、良き!」
 激痛もさっさと忘れた様子でサムライが笑い、そしてまた前に出ようとする。
 機を逸したアンジェリカは奥歯を軽く噛み合わせ、再び攻めに走る敵の迎撃に出た。
「ああもう、めんどくさいわね!」
 いきり立ったきゐこが、別のサムライを狙おうとするが、しかしその一撃は今度は大盾を持った敵の重装歩兵によって阻まれてしまう。
 そして――、
「……………………焼き尽くすわ」
 毎度の如く、きゐこがキレた。
 もはや芸風と呼べなくもない、きゐこのブチギレである。
 あるいは、アマノホカリの風土が彼女を構成する細胞に何らかの働きかけをしているのかもしれない。それはそれとして今日もまた炸裂するのはフォーマルハウトである。
 空中に一瞬だけ真っ白い光の球が発生したかと思うと、次の瞬間にはそれが爆裂して熱波と烈風が辺りを満たす。強烈な呪詛を伴ったそれは、むしろ炸裂後こそが本領だ。
 イブリースの群れも見事に範囲内に呑み込んで、それは戦場に猛威を振るった。
「――ぷはぁ! どんなモンよ!」
 と、起こした爆発の結果を確認しようとするきゐこだが、
「見事、見事なものよ!」
 薄い煙の向こうから、その身を熱に爛れさせたサムライが突っ込んできた。
「な、ちょ……!?」
「ハハハハハハハハ! 女子にしては苛烈! 実に良き!」
 見た目、すでに半死の有様で、だがサムライは倒れるどころか明るく笑う。
 その様を見て、きゐこはゾクッとした。
 いくさ狂い。それを、きゐこは今まさにその肌に実感していた。
「次はワシの攻撃よ! 消し飛んでくれるな!」
「させま――」
 アンジェリカがフォローに入ろうとする。しかし、先に敵重装歩兵が立ちはだかった。
 そして、サムライの居合一閃。前衛ではないきゐこにそれを回避するすべはなく、鋭い斬撃に身を裂かれ、ついた勢いは彼女の矮躯を高く吹き飛ばした。
「猪市嬢ッ!? 誰か、フォローに……!」
 テオドールが目を剥いて叫び、動いたのはエルシー。
「私が行くわ!」
 叫んで飛び出し、彼女はきゐこ体をしっかりとその両手で受け止める。
 その肩に、サムライの刀の切っ先が食い込んだ。
「……くっ!?」
「フフフフ、ようやく隙を晒してくれたなァ、女」
「この、どきなさいよ……!」
 痛みに意識をかき乱されながら、エルシーはサムライの腹を蹴ろうとする。
 そこに、きゐこの魔導に焼かれて狂乱したイブリースが突っ込んできたのは、ただただ不運としかいう他なかった。突撃が、彼女とサムライ、両方を巻き込んだ。
「いかん!」
 戦況が悪化しつつある。それを感じて、テオドールの中に焦燥が湧く。
 されども、この場面で冷静さを保つ者とているのだ。
「傷を治します。すぐに動けるようにしていてください」
 セアラである。
 刻一刻、目まぐるしく状況が変わる戦場で、ほんの一瞬生じる隙間。
 そこを逃すことなく突いて、彼女は広域に作用する癒しの魔導を発動させる。
 柔らかな光が広がって、きゐこやエルシーの身を包んで痛みを取り除いていった。
「よし、行くわ!」
「よくもやってくれたじゃない!」
 きゐこが跳ね起き、エルシーがギチリと拳を握りしめた。
 休むヒマなどあるものか。目の前には、まだまだ敵がいるのである。
「助かったわよ、セアラさん!」
「ええ、お陰様でね!」
 二人はセアラに礼を言うと、それぞれ駆け出していった。
 額に浮かぶ汗をぬぐい、セアラはにこりと微笑み返す。これで、癒しの魔導を発動させるのは幾度目になるか。敵は数が多い上に、戦力もまた高い。
 イブリースは数体が倒れたとはいえ全滅はしていない。
 幕府軍も、やはり連携が手堅い。相応に消耗しているはずだし、敵方のヒーラーももう残り一人。しかし、それでもまだ健在であることに変わりはなく。
「それでも……」
 セアラはチラリと後方を見る。
 そこには、狙撃を行なうウェルスの姿。そしてさらには、近くにはマグノリア。
 自由騎士側にはまだ、回復手段がそれなりに残されている。
 その事実が、彼女の中にある危機感をいくらか和らげてくれていた。
 このまま行けば、勝てる。
 そう思えた。が、さおれはあくまでも緊張を途切れさせず、取るべき行動を適切に取ることができた場合の話だ。未だ、均衡は完全に崩れていない。
 思いもよらない何かが起きることだってあるかもしれない。
 そのせいで、自由騎士側が一気に崩される可能性だってまだまだ十分ありうるのだ。
「ふぅ……」
 深く息をついて、セアラは今一度気を引き締めた。
 彼女は、直接は戦わない。しかし、その癒しの魔導をもってこの戦場を支えている。
 疲労は蓄積し、目がかすみ始めているのを自覚する。気を抜けば、すぐにでも失神してしまうかもしれない。それでも、セアラは努めてそれを表には出さない。
 ここで倒れないことが、ひいては村の人々を守ることにも繋がるのだから。
 戦いの決着は、すぐそこにまで近づいていた。

●南護屋崩し、破れたり
 長らく続いた戦いも、ようやく佳境へと差し掛かった。
 驚異的な頑強さを誇っていたイブリースは権能によってほぼ浄化され、残るは一体。
「あいつは私が潰す! 他は、ヴィスマルクと幕府の連中に専念して!」
 仲間の返事を聞くこともなく、エルシーが飛び出していく。
 イブリースは、残り一体といえどもやはり巨大で、近づけばまるっきり壁のようだ。
「デカブツね。……だからこその狙いどころもあるのよ!」
 叫び、彼女は突進してくるイブリースの側面に回り込んでその後ろ脚をブン殴る。
 それだけで、巨体がガクンと揺れた。
「やっぱりね」
 エルシーの呟きには、強い確信が込められていた。
 肉体的に強靭で、おまけに再生能力までもつこのイブリースはとにかくしぶとい。
 しかししぶとくはあっても無敵ではなく、不死身でもない。肉体を激しい負荷に晒し続ければ、間違いなく疲労とダメージが蓄積していく。
 何のことはない、イブリースもすでに限界を迎えつつあるのだ。
 そのせいで、そろそろイブリースの四肢はその巨体を支えきれなくなってきている。
 わざわざ単身で挑む判断をしたのも、その辺りの理由あってのことだ。
 イブリースが突っ込んでくる。
「…………、……ここ!」
 しかし、呼吸を完全に見切ったエルシーはそれを容易くかわし、敵の後ろ脚に今度は鞭の如くしなる蹴りをお見舞いした。パァン、と、気持ちのいい音がする。
 イブリースが悲鳴にも似た声を出した。いや、それは実際、悲鳴に違いなかった。
 勢いもなく、ただ弱々しいだけの声。命乞いにも錯覚してしまいそうだ。
「――ここまでよ!」
 後ろ脚をグニャリと折れ曲げさせて、体勢を大きく崩すイブリースへ告げて、エルシーは気力を振り絞って跳躍した。
 そして、その一撃、まさに渾身。
 全体重をかけたかかと落としが、イブリースの脳天を直撃した。
 声はなかった。
 ただ、巨体が崩れ落ちる鈍い音だけが、小さく響いた。
 彼女の発揮した権能の力によって、イブリースは元の幻想種へとその姿を変える。
「……はぁ」
 一応、幻想種が起き上がらないかを注意しつつ、やがて彼女は息を吐いた。
 南護屋に騒乱を起こすはずだったイブリースはこうして駆逐された。そして――、
「混戦は終わったようだ。では、あとは正々堂々、決着をつけようではないか」
 幕府軍へと向けて、テオドールが言った。
 すると、反応は二通り。
「良き、良き! さぁ、終止符を打とう! 鋼鉄をもって決そうぞ、生か、死か!」
「……撤退を考えろ、気狂い共め。視力を尽くすような戦いか、これが」
 一つは、サムライが見せる前のめりに過ぎる姿勢。
 もう一つは、ヴィスマルク軍が見せる兵士として当たり前すぎる姿勢。
 ここに来てようやく、サムライという生き様と、兵士という仕事の齟齬が露わになっていた。そしてテオドールは、そこを突くことにした。
「どうやら卿等の間ではコンセンサスがとれていない模様。……いいのかね? そのようなことでは、いかに力を尽くそうとも我らを討つことはできないぞ。無論、向かってくるならば容赦はできない。こちらも、身命を賭して卿等を迎え撃つ」
 威風堂々たる彼の宣言に、サムライはその傷だらけの顔に笑みを深め、そしてヴィスマルク兵からは、戸惑いの空気。すでに趨勢が決しつつある今、彼らはこれ以上戦うことに意味を見いだせていないようだった。ゆえに、
「フハハハハハハハ、神殲組、参る!」
 サムライが暴発するのは、半ば当然の成り行きであった。
 テオドールの口元に、笑みが浮かぶ。
「言ったぞ、容赦はできないと」
 彼は呟き、片手を挙げる。
 それは合図であった。はるか後方、とっくに準備を終えているウェルスに対する合図。
「これ以上ない的だな」
 無感情な一言ののちに、トリガーを引き絞ること三度。
 連なる銃声に、サムライの体が大きく震える。
「く、かは……、ああ、痛い。痛いな……」
 歩みは止まり、されど倒れず、サムライは笑いながら刃を振り上げる。
「だが、この痛み……、これぞ、いくさ、の……」
「これ以上、そちらの娯楽に付き合うつもりはない」
 言って踏み出すのはアデル。その身からは白い蒸気が噴き出して、ヘルムの奥に紅い眼光が煌めく。放たれた短槍での一撃は、その場に轟音を爆ぜさせた。
 派手に吹き飛ばされたサムライを、ヴィスマルク兵が何とか受け止める。
 しかし、兵士が見た先には魔力を迸らせるテオドールの姿があった。
「――汝等は虫なり」
 詠唱は完成し、発揮された超重の魔力が敵兵全員をその場にひざまずかせる。
「う、おお……! お……!?」
「これで、卿等は手も足も出なくなった」
 冷たい声による、冷たい宣告。魔力に圧し潰されて動けない兵士は何も言えない。
「その上で問おう。――続けるか?」
 単純明快なアデルの問い。問いの形をした、降伏勧告。
 それに対して、是と答えられる者は、もう一人もいなかった。
 長く続いた戦いの、それが決着の瞬間であった。

 ――数分後。
「もー無理! 動きたくなーい!」
 幕府軍が撤退したのち、きゐこが地面に寝転がった。
「ああ、全く、薄氷の勝利だったな」
 自分もその場に座り込み、テオドールが息をつく。
 あそこでヴィスマルク兵が戦うことを選んでいたら、自由騎士が負けていた可能性だって十分あり得た。それくらいにギリギリの戦いであった。
 農村の建物こそ被害が出たが、そこは朝廷に報告すれば補填してくれるだろう。人的被害はほぼ出ていないことからして、結果的には完全勝利に近い。
「南護屋崩し、破れたり」
 誰かが言ったその一言に、自由騎士達は皆、うなずくのだった。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†


†あとがき†

お疲れさまでした。
いやー、かなりギリギリの勝利でした。

とはいえ勝ちは勝ち。
早期に幕府軍を引きずり出せたのはまさに作戦勝ちでしょう。

次回は、ちょっと戦闘以外のシナリオをやろうかなと思ってます。
そのときにまたよろしくおねがいしまーす!
FL送付済