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ニチョウメノカイジン

●
出入りする扉と中央に有るベッド以外何も無い空間。そこに存在するのは人外とも思えるほどのマッチョな男と、鎖に繋がれた容姿端麗な青年。
「ウフッ。可愛い坊やネェ……アナタ……すっごいワタシの好みよぉん」
なぜかオネェ言葉のその男。その唇には鮮やかな紅のルージュ。その男の感性は特殊だった。
「ひ、ひぃ……たす、たす……助け……」
「あらららら? どうしたのそんなに怯えちゃってぇ~。このワタシが可愛がって・あ・げ・る……っていってるのぃ~」
そういって青年ににじり寄る男。
「い、イヤだ!! 気持ち悪い……助けて……助け──」
助けを求め叫ぼうとした青年の口元をむんずと掴み持ち上げる。
「あ……ぎぃ……たひゅけ……」
ミシミシと骨が軋む音。さほど力を入れているように見えずともその男の怪力は青年に確実な死の空気を纏わせようとしていた。
「……オイオイ。何様のつもりだオメェ。このカマー・ホリマス様に向かってその口の聞きかたはヨォ」
一遍凄みのある声色で青年を睨みつけるカマー。青年は頭蓋骨を粉砕されんがばかりの圧力に、涙を流し、全身をばたつかせながら許しを請う。
カマーが手を離すと青年は荒い息をしながら床にへたり込んだ。
「あらやだぁん。ついついワタシの男っぽい部分が出ちゃったわぁ。それもこれも貴方が悪いんだ・か・ら・ね♪」
カマーは何事も無かったかのようにまたの元の口調に戻ると、青年の上に覆いかぶさっていく。
「……あらら? あらららら? さっきまでは可愛かったのに……ずいぶんと不細工になったわねぇ、アナタ」
先ほどのカマーが取ったほんのお遊び程度の行動。それによって抵抗する気力すら失った青年の身体は臭気を放つほどに塗れていた。涙に。汗に。涎に。ありとあらゆる液体に。
「えーなによこれっ! くさぁい! こんなのワタシの好みじゃなぁい!! いやんいやん!!」
いやんいやんと顔や腕をぶんぶんと振りながらも、鼻息も荒く青年の体中を弄っていくカマー。その手が、舌が、青年を蹂躙していく。
「ねぇ、ワタシ綺麗? 綺麗?」
すべてを諦めたように体の力の抜けた青年の耳元で男が囁く。
「き……」
「き?」
「綺麗じゃな──」
ブンッ。カマーの豪腕が唸った。ごきりと鈍い音がして青年の頭部はあらぬ方向へ曲がる。青年はその言葉の続きを発する事は無かった。
「あ、あららららら。あららららららららららら。いっけなーい。また遊ぶ前に壊しちゃった」
カマーは扉をあけ、人を呼ぶ。
「ねぇ。壊れちゃったの。新しいのを持ってきて? 可愛くなくちゃいやぁよ」
●
「今ならまだ間に合う」
『演算士』テンカイ・P・ホーンテン(nCL3000048)が状況を足早に説明する。
「ヤツは……強い。アタシの力では……倒す演算は導き出せなかった……」
テンカイの言葉に悔しさが滲む。
「頼んだよ」
言葉短く呟くと、テンカイはいつものように部屋の奥へと消えていった。
出入りする扉と中央に有るベッド以外何も無い空間。そこに存在するのは人外とも思えるほどのマッチョな男と、鎖に繋がれた容姿端麗な青年。
「ウフッ。可愛い坊やネェ……アナタ……すっごいワタシの好みよぉん」
なぜかオネェ言葉のその男。その唇には鮮やかな紅のルージュ。その男の感性は特殊だった。
「ひ、ひぃ……たす、たす……助け……」
「あらららら? どうしたのそんなに怯えちゃってぇ~。このワタシが可愛がって・あ・げ・る……っていってるのぃ~」
そういって青年ににじり寄る男。
「い、イヤだ!! 気持ち悪い……助けて……助け──」
助けを求め叫ぼうとした青年の口元をむんずと掴み持ち上げる。
「あ……ぎぃ……たひゅけ……」
ミシミシと骨が軋む音。さほど力を入れているように見えずともその男の怪力は青年に確実な死の空気を纏わせようとしていた。
「……オイオイ。何様のつもりだオメェ。このカマー・ホリマス様に向かってその口の聞きかたはヨォ」
一遍凄みのある声色で青年を睨みつけるカマー。青年は頭蓋骨を粉砕されんがばかりの圧力に、涙を流し、全身をばたつかせながら許しを請う。
カマーが手を離すと青年は荒い息をしながら床にへたり込んだ。
「あらやだぁん。ついついワタシの男っぽい部分が出ちゃったわぁ。それもこれも貴方が悪いんだ・か・ら・ね♪」
カマーは何事も無かったかのようにまたの元の口調に戻ると、青年の上に覆いかぶさっていく。
「……あらら? あらららら? さっきまでは可愛かったのに……ずいぶんと不細工になったわねぇ、アナタ」
先ほどのカマーが取ったほんのお遊び程度の行動。それによって抵抗する気力すら失った青年の身体は臭気を放つほどに塗れていた。涙に。汗に。涎に。ありとあらゆる液体に。
「えーなによこれっ! くさぁい! こんなのワタシの好みじゃなぁい!! いやんいやん!!」
いやんいやんと顔や腕をぶんぶんと振りながらも、鼻息も荒く青年の体中を弄っていくカマー。その手が、舌が、青年を蹂躙していく。
「ねぇ、ワタシ綺麗? 綺麗?」
すべてを諦めたように体の力の抜けた青年の耳元で男が囁く。
「き……」
「き?」
「綺麗じゃな──」
ブンッ。カマーの豪腕が唸った。ごきりと鈍い音がして青年の頭部はあらぬ方向へ曲がる。青年はその言葉の続きを発する事は無かった。
「あ、あららららら。あららららららららららら。いっけなーい。また遊ぶ前に壊しちゃった」
カマーは扉をあけ、人を呼ぶ。
「ねぇ。壊れちゃったの。新しいのを持ってきて? 可愛くなくちゃいやぁよ」
●
「今ならまだ間に合う」
『演算士』テンカイ・P・ホーンテン(nCL3000048)が状況を足早に説明する。
「ヤツは……強い。アタシの力では……倒す演算は導き出せなかった……」
テンカイの言葉に悔しさが滲む。
「頼んだよ」
言葉短く呟くと、テンカイはいつものように部屋の奥へと消えていった。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.青年の救出もしくはカマーの撤退
くるまや……どさん子……。一瞬夢の世界に旅立ちました。麺です。
美 青 年 の ピ ン チ を 救 っ て く だ さ い 。
●ロケーション
とある屋敷の地下室。扉が一つあるだけ。中は30畳ほどの広さとなっており、中央にぽつんとベッドが置かれています。青年はベッドと3Mほどの長さの頑丈な鎖で繋がれています。
一定のダメージを与える、もしくはとある条件をこなすとカマーは撤退します。
またカマーのいる地下室にたどり着くまでに数名の黒服が待機しています。その黒服たちも迅速に倒し、青年を救出しなければなりません。
●敵&登場人物
・カマー・ホリマス
年齢、職業、経歴など一切不明。美しい青年を何よりも愛す、髭剃りあとの青々しい半端無く強いオネェ言葉のマッチョ。格闘スタイルランク2までのスキルを複数所持しているため格闘スタイルを思われる。専用と思しき宝石の鏤められたナックルにはノックバック効果が付与されています。その鈍重そうな見た目とは裏腹に俊敏性も持ち合わせており、自由騎士トップレベルの回避、速度域でも侮れません。口癖は「あらららら」
キッス♡タイフーン 攻近単 技と呼ぶ事も憚られるようなカマーの求愛行動の一つ。捕まえた者に回避不能なキスの嵐を降らせる。精神的ダメージにより対象のMPを0にします(男性キャラ限定)【ダメージ0】
・黒服 5人
地下室へ続く一本道の通路にいます。全員ガンナー。さほど強くはありませんが、しっかりと距離を取り、銃攻撃を行ってきます。近づくには何かしらの対策が必要です。
・青年
容姿端麗で薄幸の美青年。ベッドに鎖で繋がれています。鎖は非常に頑丈で壊す場合は時間をかなり要します。鎖の鍵は何らかのスキルを所持していれば外す事は可能です。(物理や魔導的な鍵の破壊は青年に甚大なダメージを与える為お勧めしません)
皆様のご参加お待ちしております。
美 青 年 の ピ ン チ を 救 っ て く だ さ い 。
●ロケーション
とある屋敷の地下室。扉が一つあるだけ。中は30畳ほどの広さとなっており、中央にぽつんとベッドが置かれています。青年はベッドと3Mほどの長さの頑丈な鎖で繋がれています。
一定のダメージを与える、もしくはとある条件をこなすとカマーは撤退します。
またカマーのいる地下室にたどり着くまでに数名の黒服が待機しています。その黒服たちも迅速に倒し、青年を救出しなければなりません。
●敵&登場人物
・カマー・ホリマス
年齢、職業、経歴など一切不明。美しい青年を何よりも愛す、髭剃りあとの青々しい半端無く強いオネェ言葉のマッチョ。格闘スタイルランク2までのスキルを複数所持しているため格闘スタイルを思われる。専用と思しき宝石の鏤められたナックルにはノックバック効果が付与されています。その鈍重そうな見た目とは裏腹に俊敏性も持ち合わせており、自由騎士トップレベルの回避、速度域でも侮れません。口癖は「あらららら」
キッス♡タイフーン 攻近単 技と呼ぶ事も憚られるようなカマーの求愛行動の一つ。捕まえた者に回避不能なキスの嵐を降らせる。精神的ダメージにより対象のMPを0にします(男性キャラ限定)【ダメージ0】
・黒服 5人
地下室へ続く一本道の通路にいます。全員ガンナー。さほど強くはありませんが、しっかりと距離を取り、銃攻撃を行ってきます。近づくには何かしらの対策が必要です。
・青年
容姿端麗で薄幸の美青年。ベッドに鎖で繋がれています。鎖は非常に頑丈で壊す場合は時間をかなり要します。鎖の鍵は何らかのスキルを所持していれば外す事は可能です。(物理や魔導的な鍵の破壊は青年に甚大なダメージを与える為お勧めしません)
皆様のご参加お待ちしております。
状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
6個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
6日
参加人数
6/6
6/6
公開日
2019年06月13日
2019年06月13日
†メイン参加者 6人†
●
現場へ向かう最中。
(なんか凄いのがいるのねぇ。イ・ラプセルって大丈夫なの……?)
『機刃の竜乙女』ライカ・リンドヴルム(CL3000405)はテンカイの説明を思い返しながらなんともいえぬ表情を見せる。
(まぁなんか面白い技(?)持ってるみたいだし、自由騎士が使えるようになったら戦力も上がると思うのよねー。……え、だめ?)
どこから聞こえたのか否決の声を聞いたライカは心の中で問い返す。
(美青年を監禁だなんて、なんて羨ま……違った、けしからん奴ね! それにアダム……これ絶対わかってて参加したのね? ……これは乗るしかないわね。私、間違ってないわよね!?)
思考の中に少し腐の部分が垣間見えてしまったのは『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)。
(さぁてなぁ……困った旦那はんや……素人捕まえるより玄人買った方が後腐れもなく穏便に済みますのに……。まぁ生憎うちは安ぅはないし、マナーのなっとらん輩は幾ら積まれてもお断りやけど)
一方ため息交じりの吐息を漏らすのは『艶師』蔡 狼華(CL3000451)。生業的にカマーのようなタイプを知らない訳ではない。だがサロンシープの客という訳では無いようだった。
(少なくとも表裏の明るい辺りのお客はんとは違うゆう事やなぁ……)
唇をぺろりと舐める狼華。
(いや、そこらの変態さんが自由騎士トップレベルの速度って……)
若干青ざめた表情をしているのは『遺志を継ぐもの』アリア・セレスティ(CL3000222)。自らが研鑽し、伸ばし、武器としてきた速度領域。その領域に軽々と踏み込んできた敵がよりにもよって▲▲で●●●●、さらには■■■なんて……!
「国内もまだまだ危険ですね。色んな意味で……」
アリアはふるふると頭を振ると気を引き締めなおす。どんな趣味嗜好の持ち主であれ、敵は敵。強敵である事には違いないのだ。
敵は強い──。
今回その事を一番重く考えているのは『革命の』アダム・クランプトン(CL3000185)であろう。
(数々の依頼を予見してきた演算者の彼女が言うのならば間違いないのだろう。それでも、だ。そこに救うべき民がいるのなら僕は立ち向かうよ。騎士とはそういうものだからね)
そう、この依頼の詳細を聞いた際、皆が思ったはずだ。
美青年(アダム)は危ない──と。
だがここに勇者(アダム)はいた。あえて飛び込んできたアダムに天は祝福を送ることだろう。
……いや、祝福を送るのは、決して天だけでは無いかもしれないのだが。だが。だがっ!!
そんな皆の心情を察したかのように『柔和と重厚』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は軽く微笑む。
(なんだか独特な技をお持ちのようで。あの技術を扱える者がイ・ラプセルに紛れている可能性もあるでしょう。あの技術を持ち帰ったら、きっと我ら自由騎士団の中に使える者が仮にいたならば、それは大きな力となりましょう。ただ……見た目や道徳的な意味では問題しかありませんが! それに……実演となると……このメンバーでは女性の割合が多いといいますか……必然的に対象が絞られるというか……私、全力で応援します!)
こんなにも良くしゃべる(実際は言葉には出してはいないのだが)アンジェリカは珍しい気がする。……若干腐臭を感じさえする。麺の気のせいだろうか。
「うら若き青年の色々を守る為、アンジェリカ……全力で討たせて頂きます。何はともあれ、全員生きて帰りましょう! 肉体的にも……そして精神的にも!」
いや絶対これ腐ってる! 早すぎたんだ!
待ち受けるはこれまでとは全く異質の敵。自由騎士の運命や、如何に。
●
地下室までの長い廊下。そこには数人の黒服が警備を行っていたのだが。
「ぐわっ!?」
アリアが壁は天井を跳ねながら立体的に奏でるタップで混乱し、さらには狼華の妖艶なタンゴで足を止められた黒服達。そこへ影狼で一気に近き赤銅と青銅の籠手の一撃を見舞うライカ。
その一撃は重く、黒服の意識を一瞬で奪う。そこにタイムスキップで高速移動するアンジェリカの重い一撃も加わる。互いの持ち味を活かしつつ、難なく黒服を倒していく自由騎士達。
(あの演算がいつ現実になるか分からない以上時間が惜しい)
ウェッジショットを巧みに操りながら、可能な限りの最速をもってアダムは急ぐ。
「グ……フゥ……」
最後の1人をエルシーの回天號砲が打ち抜いたとき、自由騎士達は重厚な鉄の扉の前にいた。この扉の向こうにヤツがいる。
「準備はいいかい?」
柳凪を使用し、自己に強い攻撃耐性を付与したアダムが皆に尋ねる。
「大丈夫」
「さぁ、美青年を救出しましょう」
皆の準備が整ったことを確認すると、アダムは勢いよく扉を開いた。
「自由騎士よ! 神妙になさい!!」
「ハァァァーーーーー!!!」
エルシーの声と同時に、ライカが影狼で一気に部屋の中央にあるベッドで美青年を押し倒していたカマーに仕掛ける。
だが、服を着崩した不安定な状態にもかかわらず、その攻撃を避けるカマー。回避能力の高さはどうやら本物のようだ。
一旦自由騎士との距離を取り、服を直すカマー。すかさず青年へと駆け寄り、守る体勢をとったのはアンジェリカと狼華。
(人質に取られたら面倒ですからね、色々と! いろんな意味で!)
ふんすと気合の入るアンジェリカ。
「あれ……あんたはんもしかして……」
狼華は青年を見て、ある事に気付く。にまぁと笑う狼華。
そして狼華は状況もわからずうろたえる青年にはっきりと聞き取りやすい声で忠告を行う。
「えらいけったいなお客さんに捕まりましたなぁ……でも安心しておくんなまし。アレはうちらが倒します。それまで大人しゅうしとっておくれやす」
ゆっくりとした中にどこか隷従を匂わせる狼華の言葉に、青年はこくこくと頷くと身を縮める。
「これは……ひとつ貸し、うちの貸しは高いえ?」
●
「何よ……アナタ達。ちょっと無粋すぎなぁい?」
怒ったような、それでいて冷静なような。ただならぬ気配を醸し出すカマー。改めて自由騎士達とカマーが対峙する。自由騎士達を見定めるように見回すカマー。
「我が名は自由騎士アダム・クランプトン! 貴殿も誇り持つ者ならば名乗られよ!」
威風堂々名乗りを上げるアダム。風格すら感じさせるその見事な名乗りにカマーは目を奪われた。いや……名乗りではなく目を奪われたのはアダム自体にだったのかもしれない。
「……カマー」
気がつけばカマーは答えていた。咄嗟の行動だった。
「ワタシの名前はカマー・ホリマス。ぴっちぴちの38さい♡ 職業は……あっとこれは秘密♡ 今は特定の彼氏はいないわ。絶賛募集中よ♡ チャームポイントはぱっちりおめめとこの鍛え上げられた自慢のボディ♡ 好きな食べ物はスイーツ全般♡ 好みのタイプは金髪で高身長……そうねぇ……185cmくらいかしら♡ 年齢は20前後♡ 痩せてるように見えて脱ぐとしっかり筋肉がついてる理想主義に燃える騎士なんてステキ♡ あら、あらららら。ワタシしゃべりすぎっちゃった? いやんいやん♡」
アダムの作戦はある意味成功した。いやむしろ大成功だった。青年から出来るだけ意識を話させ、可能であれば自分に向けさせる。さらには(必要ない)情報までカマーから引き出せた。これを成功といわずして何というのか。
「愛の伝道師、ラブリー・エルシー推参! 愛の押し売りはクーリングオフ! よ!!」
場を戦いの空気を引き戻すように名乗りながら柳凪を使用し、物理耐性をつけるエルシー。
だがそのエルシーを見るカマーの目がどうにもおかしい。
「あ゛!? 彼氏もいないクセに何が愛の伝道師だ、ですって!? いま絶対そう思ったでしょ! 許さない!!」
(……うっわ、キモ…。髭くらいしっかり剃りなさいよ!!)
カマーの青々とした髭剃りあとを見たライカは嫌悪感を露にする。
(まぁ何にせよ、自由騎士トップクラスの速さでも侮れない敵って聞いちゃ、黙って見てる訳にはいかないわね! 速度、回避、どちらもアタシより上? それとも下かしら?)
「アタシのスピードについてこれる人、あまりいないから。……楽しくなりそうね」
ライカが武器を構え、体勢を低く落とす。次の行動への一瞬の爆発力を溜める。
(こ、これは何だか近寄りたくないわね……)
異様な敵に戦慄を覚えるアリア。だが動揺しつつもカームステップで自己強化するアリア。培った経験はアリアを止めない。
「あららららら……わかったわ。相手してあげる。ワタシ好みの子もいるし。ん……? もう1人混じってるみたいね。まぁ……まだワタシの好みの年頃じゃないみたいだ・け・ど♪」
カマーはアダムに熱い視線を送りながらも狼華を見ながらそう言った。
自由騎士はその言葉に驚きを隠せない。狼華はこのような姿をしているが性別的には男だ。知っていてもその所作や言動に女性特有の色香を感じる者も少なくない。ましてや初見で男である事を見破れる者はそうはいないだろう。
そんな狼華の性別を一目見ただけで言い当てたカマー。やはり常人とは別の感覚を持っているようだ。
やはりこいつは何か違う──。自由騎士達は目の前の異質なモノに目を向ける。
──ヤツは嗤っていた。
●
「ンフッ♪ ワタシのラブラブタイムを邪魔したんだからそれなりに楽しませてくれなきゃ、やぁよ♪」
繰り出された一撃を寸前で交わすライカ。ドゴォと鈍い音がすると壁にめり込むカマーの拳。すさまじい威力だ。
「やだぁ♪ 痛ぁい~~ん! 避けちゃいやんいやん!」
戦闘が始まって早々にラピッドジーンで自己強化したライカ。その反応速度と回避能力は自由騎士屈指といって過言では無いだろう。
だがそのライカを持ってしてもカマーを捉えきれない。速度領域もさる事ながらその恐るべきは回避能力。
「やるわね、キレのある動きをするじゃない!」
メンバー屈指の命中力を持つエルシーの拳ですら、クリーンヒットに届かない。ダメージこそ与えられるものの、芯を捉えきれずにいた。
ならば動きを止めようと刻まれる狼華とアリアのリズムもまた然り。カマーの動きを止めるには至らない。
青年をカマーに狙われぬよう、常に青年をカマーの視線から遮るよう立ち回る。その重厚な武器と攻撃力からは想像しにくいであろう瞬発力を持つアンジェリカ。そのギャップもあり、不用意に近づいてきたカマーに一撃を食らわせることに成功。だが、敵もまた瞬時に状況を把握する。アンジェリカの守る青年を人質にとる事を諦めたようにカマーはアンジェリカの射程には入って来ない。
(うーん。これだけ入り乱れていると範囲攻撃は逆効果の可能性がありますね……)
範囲攻撃は諸刃である──なぜならばごく一部のスキル以外は味方も巻き込んでしまうためだ。
青年を守りながら戦況を見ていたアンジェリカは分析する。メンバー屈指の命中力を誇るアリア様やエルシー様でさえ、クリーンヒットに苦労する相手。下手な巻き込み方をすれば味方にだけ不利な状況を作りかねないのだ。そしてアンジェリカが出した結論は絶対に青年を守りきる事。
「愛の形に国境や壁や決まりなんてありません! ……ですが! 一方的に押し付けられる愛は愛に非ず! それは只の迷惑です! どのような行為であれ! 女神の名の下に! 物理的に説教します!」
アンジェリカがカマーに向けて叫ぶ。
「……アンだとぉ!? もいっぺんい言ってみろやこのクソ●●●がっ!!」
カマーの男の部分が顔を出す。声も今までのものとは全く別の紛れも無い男の声。
「あら。あらららら。やだぁ♪ 思わずでちゃったじゃなぁい」
だが、ライカの、アリアの、エルシーの猛攻を掻い潜りながら、カマーはすぐに元の調子に戻る。どうやら沸点は低いが戻るのも早いようだ。
アダムもまたカマーの気を引くべく前に出るが、その戦闘能力を目の当たりにし、戦略を打破から維持へと切り替えていた。だがこの切り替えが後の恐ろしい光景を生み出し、さらにはカマーの撤退の糸口になる事はまだこの時点では誰も知りえなかった。
(すごい……この動き……)
アリアのカマーを見る目は変わりつつあった。初見で持ったイロモノとしてのカマー。だが実際戦ってみたらどうだ。その判断力、瞬発力。何よりも敵の攻撃の軸をずらし、クリーンヒットを受けないあの抜群の回避センス。戦いの中で何かを掴もうとカマーの動きを目で追うアリアだったが、変幻自在で自由奔放なカマーの動きに、先を読む戦略を立てる事が出来ないままでいた。
そしてその時(一部の者には熱望した時間)は訪れた──。
「くっ!?」
カマーが捕らえたのはアダム。シールドバッシュで突っ込んできたアダムをサイドステップで避けるとそのまま覆いかぶさるようにアダムを抱きしめた。
「ワタシの愛……受け取って♡」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドド──
これが本当に接吻の音なのか。そんな疑問すら感じるほどの音が部屋に響く。永遠にも思える時間が過ぎていく。アダムはその永遠とも思える時間の中、必死に抵抗していた。
これが求愛行動だというなら本来喜ぶべきものだ──
だけどね、僕は愛というモノは相互理解だと思っている──
一方通行では愛とは呼べない──
僕は少なくとも美しいと感じるよ その均整のとれた筋肉 溢れ出る生命力──
だからまずは貴方の事を僕に教えて欲しい──
どこで生まれ、どこでその筋肉を鍛えたのか──
どんなトレーニングをしているのか──
好きな食べ物、好きな景色、好きな色──
他にもたくさんあるはずだ──
そして僕の事も知ってくれ──
まずはそこから始めよう──
(うわー……)
アリアに出来る事はただドン引きし、その様子を眺める事だけだった。
(どうしよう、救出したいんだけどエコーズだと誤射しそう……でもアダムさんの耐久なら誤射しても平気かも、と言うか誤射してでも引っぺがした方が良いのかしらこれ?)
考えが纏まらずあたふたするだけのアリア。その横には──
(アダムが大変!早く助けないと!)←天使のエルシー
(チャンスだぜ?奴が求愛行動にぶん殴れ!)←悪魔のエルシー
(待って! あとちょっと! あとちょっとだけ見ていましょう!)←腐のエルシー
脳内葛藤がすごい事になっているエルシ-がいた。鼻血を押さえ首をとんとんしている。
「あら……あらあらあら……まあまあまあ」
アンジェリカは手で顔を覆って見ない様に……指と指の隙間から見てるなこれは。
一方食い入るようにその様子を見つめていたのはライカ。
(結構その技欲しいし、自由騎士に実用してほしいし)※自分が使うとは言ってない
リュンケウス、超直感、凡そ自分に出来る最大限でその様子をガン見する。
(ライカさんそんなに食い入るように……え!? もしかして覚えるの!? と言うか覚えたとして使うの!? 誰に!?)
ライカの様子を見て驚愕するアリア。
カマーの嵐が止むまでの間、それぞれの思惑が錯綜した場は混沌のまま過ぎていった。
「んーーーーーー♡ 大! 満! 足!」
アダムに自らの必殺を炸裂させたカマー。そのやりきった顔はどこか清清しくも見える。
その傍らには魂が抜けたような表情で呆けるアダム。
「なんだか満足しちゃった♡ だからいいわ。今日はオシマイ。遅くなっちゃったしワタシもう帰るわね」
「……な!?」
「ふざけないでっ!!」
「……まだ覚えてない! 覚えてないわっ!!」
カマーとアダムの秘め事になにやら呆けていた女子一同も動き出す。が、すでに時は遅かった。
「今日のスカーレット・インパクトは、いつもより重いわよ」
怒りに燃えるエルシーは拳を握り締め、カマーの姿を追う。
「じゃあね。アダムちゃんだっけ。続きはまた今度ね♡ あとそっちのアナタは……もう少し我慢するわ♡」
そう言うとカマーは壁際に立つ。
「お疲レインボー♪」
そして──次の瞬間、まるで元から存在していなかったかのようにカマーは消えたのだった。
カマーが去ったあと、青年の鎖の切断に成功した自由騎士。
「ありがと……う……本当に……怖かった……怖かった……んだ……」
泣いてすがる青年。よほどの恐怖を味わったのであろう。身体の震えは未だ収まらず立ちあがる事さえ出来ない。
「もう少し落ち着いてから移動しましょう」
青年のすすり泣き以外何も聞こえない部屋。自由騎士達は改めて部屋を見渡す。多くの戦いの跡が残る中、カマーが消えた壁だけが傷一つ無いという明らかな不自然。
なんとも言えぬ余韻を残して、自由騎士達の戦いは幕を閉じたのだった。
●
静寂の中、少し不服そうな顔をしているのは狼華。カマーの好物はあくまで美青年であって美少年ではなかった。色香には絶対の自信を持っていた狼華であったが、そもそもの見た目年齢による嗜好に自身が入り込めなかった事に納得しきれてはいない。
狼華は1人、他の自由騎士とは全く別の意図で、再度カマーと相見える事を望んでいるようだった。
そしてこの部屋は後日調査され、その壁にはイ・ラプセルにはまだ浸透していない特殊な技術が使われていた事が判明する事になる。
逃れたカマーは薄暗く黴臭い路地裏にいた。
「……こんなところにいたのね。アンタ約束が違うじゃない! しばらく自由に遊んでていいって言うからそうしてたのに……とんだ邪魔が入ったわ! まぁ素敵な彼との運命の出会いはあったけど♡ ……ってそんな話じゃないわ。ねぇったら! 聞いてるの……ドミニク! ワタシはね──」
闇はどこまでも深く、光は未だ届かない。
現場へ向かう最中。
(なんか凄いのがいるのねぇ。イ・ラプセルって大丈夫なの……?)
『機刃の竜乙女』ライカ・リンドヴルム(CL3000405)はテンカイの説明を思い返しながらなんともいえぬ表情を見せる。
(まぁなんか面白い技(?)持ってるみたいだし、自由騎士が使えるようになったら戦力も上がると思うのよねー。……え、だめ?)
どこから聞こえたのか否決の声を聞いたライカは心の中で問い返す。
(美青年を監禁だなんて、なんて羨ま……違った、けしからん奴ね! それにアダム……これ絶対わかってて参加したのね? ……これは乗るしかないわね。私、間違ってないわよね!?)
思考の中に少し腐の部分が垣間見えてしまったのは『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)。
(さぁてなぁ……困った旦那はんや……素人捕まえるより玄人買った方が後腐れもなく穏便に済みますのに……。まぁ生憎うちは安ぅはないし、マナーのなっとらん輩は幾ら積まれてもお断りやけど)
一方ため息交じりの吐息を漏らすのは『艶師』蔡 狼華(CL3000451)。生業的にカマーのようなタイプを知らない訳ではない。だがサロンシープの客という訳では無いようだった。
(少なくとも表裏の明るい辺りのお客はんとは違うゆう事やなぁ……)
唇をぺろりと舐める狼華。
(いや、そこらの変態さんが自由騎士トップレベルの速度って……)
若干青ざめた表情をしているのは『遺志を継ぐもの』アリア・セレスティ(CL3000222)。自らが研鑽し、伸ばし、武器としてきた速度領域。その領域に軽々と踏み込んできた敵がよりにもよって▲▲で●●●●、さらには■■■なんて……!
「国内もまだまだ危険ですね。色んな意味で……」
アリアはふるふると頭を振ると気を引き締めなおす。どんな趣味嗜好の持ち主であれ、敵は敵。強敵である事には違いないのだ。
敵は強い──。
今回その事を一番重く考えているのは『革命の』アダム・クランプトン(CL3000185)であろう。
(数々の依頼を予見してきた演算者の彼女が言うのならば間違いないのだろう。それでも、だ。そこに救うべき民がいるのなら僕は立ち向かうよ。騎士とはそういうものだからね)
そう、この依頼の詳細を聞いた際、皆が思ったはずだ。
美青年(アダム)は危ない──と。
だがここに勇者(アダム)はいた。あえて飛び込んできたアダムに天は祝福を送ることだろう。
……いや、祝福を送るのは、決して天だけでは無いかもしれないのだが。だが。だがっ!!
そんな皆の心情を察したかのように『柔和と重厚』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は軽く微笑む。
(なんだか独特な技をお持ちのようで。あの技術を扱える者がイ・ラプセルに紛れている可能性もあるでしょう。あの技術を持ち帰ったら、きっと我ら自由騎士団の中に使える者が仮にいたならば、それは大きな力となりましょう。ただ……見た目や道徳的な意味では問題しかありませんが! それに……実演となると……このメンバーでは女性の割合が多いといいますか……必然的に対象が絞られるというか……私、全力で応援します!)
こんなにも良くしゃべる(実際は言葉には出してはいないのだが)アンジェリカは珍しい気がする。……若干腐臭を感じさえする。麺の気のせいだろうか。
「うら若き青年の色々を守る為、アンジェリカ……全力で討たせて頂きます。何はともあれ、全員生きて帰りましょう! 肉体的にも……そして精神的にも!」
いや絶対これ腐ってる! 早すぎたんだ!
待ち受けるはこれまでとは全く異質の敵。自由騎士の運命や、如何に。
●
地下室までの長い廊下。そこには数人の黒服が警備を行っていたのだが。
「ぐわっ!?」
アリアが壁は天井を跳ねながら立体的に奏でるタップで混乱し、さらには狼華の妖艶なタンゴで足を止められた黒服達。そこへ影狼で一気に近き赤銅と青銅の籠手の一撃を見舞うライカ。
その一撃は重く、黒服の意識を一瞬で奪う。そこにタイムスキップで高速移動するアンジェリカの重い一撃も加わる。互いの持ち味を活かしつつ、難なく黒服を倒していく自由騎士達。
(あの演算がいつ現実になるか分からない以上時間が惜しい)
ウェッジショットを巧みに操りながら、可能な限りの最速をもってアダムは急ぐ。
「グ……フゥ……」
最後の1人をエルシーの回天號砲が打ち抜いたとき、自由騎士達は重厚な鉄の扉の前にいた。この扉の向こうにヤツがいる。
「準備はいいかい?」
柳凪を使用し、自己に強い攻撃耐性を付与したアダムが皆に尋ねる。
「大丈夫」
「さぁ、美青年を救出しましょう」
皆の準備が整ったことを確認すると、アダムは勢いよく扉を開いた。
「自由騎士よ! 神妙になさい!!」
「ハァァァーーーーー!!!」
エルシーの声と同時に、ライカが影狼で一気に部屋の中央にあるベッドで美青年を押し倒していたカマーに仕掛ける。
だが、服を着崩した不安定な状態にもかかわらず、その攻撃を避けるカマー。回避能力の高さはどうやら本物のようだ。
一旦自由騎士との距離を取り、服を直すカマー。すかさず青年へと駆け寄り、守る体勢をとったのはアンジェリカと狼華。
(人質に取られたら面倒ですからね、色々と! いろんな意味で!)
ふんすと気合の入るアンジェリカ。
「あれ……あんたはんもしかして……」
狼華は青年を見て、ある事に気付く。にまぁと笑う狼華。
そして狼華は状況もわからずうろたえる青年にはっきりと聞き取りやすい声で忠告を行う。
「えらいけったいなお客さんに捕まりましたなぁ……でも安心しておくんなまし。アレはうちらが倒します。それまで大人しゅうしとっておくれやす」
ゆっくりとした中にどこか隷従を匂わせる狼華の言葉に、青年はこくこくと頷くと身を縮める。
「これは……ひとつ貸し、うちの貸しは高いえ?」
●
「何よ……アナタ達。ちょっと無粋すぎなぁい?」
怒ったような、それでいて冷静なような。ただならぬ気配を醸し出すカマー。改めて自由騎士達とカマーが対峙する。自由騎士達を見定めるように見回すカマー。
「我が名は自由騎士アダム・クランプトン! 貴殿も誇り持つ者ならば名乗られよ!」
威風堂々名乗りを上げるアダム。風格すら感じさせるその見事な名乗りにカマーは目を奪われた。いや……名乗りではなく目を奪われたのはアダム自体にだったのかもしれない。
「……カマー」
気がつけばカマーは答えていた。咄嗟の行動だった。
「ワタシの名前はカマー・ホリマス。ぴっちぴちの38さい♡ 職業は……あっとこれは秘密♡ 今は特定の彼氏はいないわ。絶賛募集中よ♡ チャームポイントはぱっちりおめめとこの鍛え上げられた自慢のボディ♡ 好きな食べ物はスイーツ全般♡ 好みのタイプは金髪で高身長……そうねぇ……185cmくらいかしら♡ 年齢は20前後♡ 痩せてるように見えて脱ぐとしっかり筋肉がついてる理想主義に燃える騎士なんてステキ♡ あら、あらららら。ワタシしゃべりすぎっちゃった? いやんいやん♡」
アダムの作戦はある意味成功した。いやむしろ大成功だった。青年から出来るだけ意識を話させ、可能であれば自分に向けさせる。さらには(必要ない)情報までカマーから引き出せた。これを成功といわずして何というのか。
「愛の伝道師、ラブリー・エルシー推参! 愛の押し売りはクーリングオフ! よ!!」
場を戦いの空気を引き戻すように名乗りながら柳凪を使用し、物理耐性をつけるエルシー。
だがそのエルシーを見るカマーの目がどうにもおかしい。
「あ゛!? 彼氏もいないクセに何が愛の伝道師だ、ですって!? いま絶対そう思ったでしょ! 許さない!!」
(……うっわ、キモ…。髭くらいしっかり剃りなさいよ!!)
カマーの青々とした髭剃りあとを見たライカは嫌悪感を露にする。
(まぁ何にせよ、自由騎士トップクラスの速さでも侮れない敵って聞いちゃ、黙って見てる訳にはいかないわね! 速度、回避、どちらもアタシより上? それとも下かしら?)
「アタシのスピードについてこれる人、あまりいないから。……楽しくなりそうね」
ライカが武器を構え、体勢を低く落とす。次の行動への一瞬の爆発力を溜める。
(こ、これは何だか近寄りたくないわね……)
異様な敵に戦慄を覚えるアリア。だが動揺しつつもカームステップで自己強化するアリア。培った経験はアリアを止めない。
「あららららら……わかったわ。相手してあげる。ワタシ好みの子もいるし。ん……? もう1人混じってるみたいね。まぁ……まだワタシの好みの年頃じゃないみたいだ・け・ど♪」
カマーはアダムに熱い視線を送りながらも狼華を見ながらそう言った。
自由騎士はその言葉に驚きを隠せない。狼華はこのような姿をしているが性別的には男だ。知っていてもその所作や言動に女性特有の色香を感じる者も少なくない。ましてや初見で男である事を見破れる者はそうはいないだろう。
そんな狼華の性別を一目見ただけで言い当てたカマー。やはり常人とは別の感覚を持っているようだ。
やはりこいつは何か違う──。自由騎士達は目の前の異質なモノに目を向ける。
──ヤツは嗤っていた。
●
「ンフッ♪ ワタシのラブラブタイムを邪魔したんだからそれなりに楽しませてくれなきゃ、やぁよ♪」
繰り出された一撃を寸前で交わすライカ。ドゴォと鈍い音がすると壁にめり込むカマーの拳。すさまじい威力だ。
「やだぁ♪ 痛ぁい~~ん! 避けちゃいやんいやん!」
戦闘が始まって早々にラピッドジーンで自己強化したライカ。その反応速度と回避能力は自由騎士屈指といって過言では無いだろう。
だがそのライカを持ってしてもカマーを捉えきれない。速度領域もさる事ながらその恐るべきは回避能力。
「やるわね、キレのある動きをするじゃない!」
メンバー屈指の命中力を持つエルシーの拳ですら、クリーンヒットに届かない。ダメージこそ与えられるものの、芯を捉えきれずにいた。
ならば動きを止めようと刻まれる狼華とアリアのリズムもまた然り。カマーの動きを止めるには至らない。
青年をカマーに狙われぬよう、常に青年をカマーの視線から遮るよう立ち回る。その重厚な武器と攻撃力からは想像しにくいであろう瞬発力を持つアンジェリカ。そのギャップもあり、不用意に近づいてきたカマーに一撃を食らわせることに成功。だが、敵もまた瞬時に状況を把握する。アンジェリカの守る青年を人質にとる事を諦めたようにカマーはアンジェリカの射程には入って来ない。
(うーん。これだけ入り乱れていると範囲攻撃は逆効果の可能性がありますね……)
範囲攻撃は諸刃である──なぜならばごく一部のスキル以外は味方も巻き込んでしまうためだ。
青年を守りながら戦況を見ていたアンジェリカは分析する。メンバー屈指の命中力を誇るアリア様やエルシー様でさえ、クリーンヒットに苦労する相手。下手な巻き込み方をすれば味方にだけ不利な状況を作りかねないのだ。そしてアンジェリカが出した結論は絶対に青年を守りきる事。
「愛の形に国境や壁や決まりなんてありません! ……ですが! 一方的に押し付けられる愛は愛に非ず! それは只の迷惑です! どのような行為であれ! 女神の名の下に! 物理的に説教します!」
アンジェリカがカマーに向けて叫ぶ。
「……アンだとぉ!? もいっぺんい言ってみろやこのクソ●●●がっ!!」
カマーの男の部分が顔を出す。声も今までのものとは全く別の紛れも無い男の声。
「あら。あらららら。やだぁ♪ 思わずでちゃったじゃなぁい」
だが、ライカの、アリアの、エルシーの猛攻を掻い潜りながら、カマーはすぐに元の調子に戻る。どうやら沸点は低いが戻るのも早いようだ。
アダムもまたカマーの気を引くべく前に出るが、その戦闘能力を目の当たりにし、戦略を打破から維持へと切り替えていた。だがこの切り替えが後の恐ろしい光景を生み出し、さらにはカマーの撤退の糸口になる事はまだこの時点では誰も知りえなかった。
(すごい……この動き……)
アリアのカマーを見る目は変わりつつあった。初見で持ったイロモノとしてのカマー。だが実際戦ってみたらどうだ。その判断力、瞬発力。何よりも敵の攻撃の軸をずらし、クリーンヒットを受けないあの抜群の回避センス。戦いの中で何かを掴もうとカマーの動きを目で追うアリアだったが、変幻自在で自由奔放なカマーの動きに、先を読む戦略を立てる事が出来ないままでいた。
そしてその時(一部の者には熱望した時間)は訪れた──。
「くっ!?」
カマーが捕らえたのはアダム。シールドバッシュで突っ込んできたアダムをサイドステップで避けるとそのまま覆いかぶさるようにアダムを抱きしめた。
「ワタシの愛……受け取って♡」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドド──
これが本当に接吻の音なのか。そんな疑問すら感じるほどの音が部屋に響く。永遠にも思える時間が過ぎていく。アダムはその永遠とも思える時間の中、必死に抵抗していた。
これが求愛行動だというなら本来喜ぶべきものだ──
だけどね、僕は愛というモノは相互理解だと思っている──
一方通行では愛とは呼べない──
僕は少なくとも美しいと感じるよ その均整のとれた筋肉 溢れ出る生命力──
だからまずは貴方の事を僕に教えて欲しい──
どこで生まれ、どこでその筋肉を鍛えたのか──
どんなトレーニングをしているのか──
好きな食べ物、好きな景色、好きな色──
他にもたくさんあるはずだ──
そして僕の事も知ってくれ──
まずはそこから始めよう──
(うわー……)
アリアに出来る事はただドン引きし、その様子を眺める事だけだった。
(どうしよう、救出したいんだけどエコーズだと誤射しそう……でもアダムさんの耐久なら誤射しても平気かも、と言うか誤射してでも引っぺがした方が良いのかしらこれ?)
考えが纏まらずあたふたするだけのアリア。その横には──
(アダムが大変!早く助けないと!)←天使のエルシー
(チャンスだぜ?奴が求愛行動にぶん殴れ!)←悪魔のエルシー
(待って! あとちょっと! あとちょっとだけ見ていましょう!)←腐のエルシー
脳内葛藤がすごい事になっているエルシ-がいた。鼻血を押さえ首をとんとんしている。
「あら……あらあらあら……まあまあまあ」
アンジェリカは手で顔を覆って見ない様に……指と指の隙間から見てるなこれは。
一方食い入るようにその様子を見つめていたのはライカ。
(結構その技欲しいし、自由騎士に実用してほしいし)※自分が使うとは言ってない
リュンケウス、超直感、凡そ自分に出来る最大限でその様子をガン見する。
(ライカさんそんなに食い入るように……え!? もしかして覚えるの!? と言うか覚えたとして使うの!? 誰に!?)
ライカの様子を見て驚愕するアリア。
カマーの嵐が止むまでの間、それぞれの思惑が錯綜した場は混沌のまま過ぎていった。
「んーーーーーー♡ 大! 満! 足!」
アダムに自らの必殺を炸裂させたカマー。そのやりきった顔はどこか清清しくも見える。
その傍らには魂が抜けたような表情で呆けるアダム。
「なんだか満足しちゃった♡ だからいいわ。今日はオシマイ。遅くなっちゃったしワタシもう帰るわね」
「……な!?」
「ふざけないでっ!!」
「……まだ覚えてない! 覚えてないわっ!!」
カマーとアダムの秘め事になにやら呆けていた女子一同も動き出す。が、すでに時は遅かった。
「今日のスカーレット・インパクトは、いつもより重いわよ」
怒りに燃えるエルシーは拳を握り締め、カマーの姿を追う。
「じゃあね。アダムちゃんだっけ。続きはまた今度ね♡ あとそっちのアナタは……もう少し我慢するわ♡」
そう言うとカマーは壁際に立つ。
「お疲レインボー♪」
そして──次の瞬間、まるで元から存在していなかったかのようにカマーは消えたのだった。
カマーが去ったあと、青年の鎖の切断に成功した自由騎士。
「ありがと……う……本当に……怖かった……怖かった……んだ……」
泣いてすがる青年。よほどの恐怖を味わったのであろう。身体の震えは未だ収まらず立ちあがる事さえ出来ない。
「もう少し落ち着いてから移動しましょう」
青年のすすり泣き以外何も聞こえない部屋。自由騎士達は改めて部屋を見渡す。多くの戦いの跡が残る中、カマーが消えた壁だけが傷一つ無いという明らかな不自然。
なんとも言えぬ余韻を残して、自由騎士達の戦いは幕を閉じたのだった。
●
静寂の中、少し不服そうな顔をしているのは狼華。カマーの好物はあくまで美青年であって美少年ではなかった。色香には絶対の自信を持っていた狼華であったが、そもそもの見た目年齢による嗜好に自身が入り込めなかった事に納得しきれてはいない。
狼華は1人、他の自由騎士とは全く別の意図で、再度カマーと相見える事を望んでいるようだった。
そしてこの部屋は後日調査され、その壁にはイ・ラプセルにはまだ浸透していない特殊な技術が使われていた事が判明する事になる。
逃れたカマーは薄暗く黴臭い路地裏にいた。
「……こんなところにいたのね。アンタ約束が違うじゃない! しばらく自由に遊んでていいって言うからそうしてたのに……とんだ邪魔が入ったわ! まぁ素敵な彼との運命の出会いはあったけど♡ ……ってそんな話じゃないわ。ねぇったら! 聞いてるの……ドミニク! ワタシはね──」
闇はどこまでも深く、光は未だ届かない。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
称号付与
『ガン見、その先に──』
取得者: ライカ・リンドヴルム(CL3000405)
『腐色の拳』
取得者: エルシー・スカーレット(CL3000368)
『境無き愛』
取得者: アダム・クランプトン(CL3000185)
『良識枠(気苦労)』
取得者: アリア・セレスティ(CL3000222)
取得者: ライカ・リンドヴルム(CL3000405)
『腐色の拳』
取得者: エルシー・スカーレット(CL3000368)
『境無き愛』
取得者: アダム・クランプトン(CL3000185)
『良識枠(気苦労)』
取得者: アリア・セレスティ(CL3000222)
†あとがき†
カマー恐るべし。その実力は本物のようです。そして闇に蠢く何かとの繋がりも見えました。彼とはいずれまた遭遇することでしょう。
MVPは……貴方へ。某Eルシーさんのお言葉を借りるのであればご馳走──いえご愁傷様でした。
ご参加ありがとうございました。
MVPは……貴方へ。某Eルシーさんのお言葉を借りるのであればご馳走──いえご愁傷様でした。
ご参加ありがとうございました。
FL送付済