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【ニルヴァン】志願兵実戦訓練:防衛編



●実戦訓練、やります
「志願兵の実戦訓練をするそうだな」
 イ・ラプセル王国ニルヴァン領。
 その領主館で、『達観者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)は来客の対応を行なっていた。やってきたのは『破戒僧』ジョセフ・クラーマー(nCL3000059)であった。
「うむ、本国への陳情が通ってね。昨日、志願兵の選別も終えたところだよ」
 テオドールの返答に、ジョセフは「そうか」とうなずいた。
「で、汝が私を呼びつけた理由は、それかね」
「ああ。その通りだ、クラーマー卿。最初はオリヴェル卿にお願いしようと思ったのだが、その、な、この領地では彼はどうしても目立ってしまう。良くも悪くも。やることは訓練だとしても、実戦を想定した内容になる。万が一がないとも言えんだろう?」
「フン。そうらしいな。で、代わりに私か」
 応接室のソファに背筋を伸ばしたまま座って、ジョセフは軽く手であごを撫でる。
「ああ。今回集めた志願兵の中には、シャンバラ出身者もそれなりに多くてな。やはりと言うべきか、自由騎士に対してそこまで心を開いていない者もいるのだよ」
「私を緩衝材にするつもりか。逆に着火剤になるとは思わんのかね」
 テオドールの考えていることを理解しつつも、彼はそう指摘した。
 シャンバラの大部分がイ・ラプセルに併合されてそれなりの時間が経った。
 しかし、かつてシャンバラの民であった者が新たな祖国を受け入れるにはまだまだ時間が足りておらず、テオドールもその辺りには苦慮しているようだった。
 自由騎士を受け入れずにいる領民が今回の募集に志願した理由は、ひとえに自分の手で故郷を守らんとする心意気であった。
 逆にそれは、新たな祖国に対して根強い疑念を抱いている証左でもあった。
「汝の考えは分かったが、私は自ら進んでシャンバラから寝返った側だぞ?」
「寝返ったという言い方は些か自虐のきらいがある気もするがね。まぁ、クラーマー卿が懸念しているところについては、あまり私は心配していないよ」
「ほぉ。それはなにゆえに?」
「黒鉄槌騎士団」
 テオドールは、根拠としてその名を挙げた。
「今や元シャンバラ領内を荒らす災厄と成り果てたあれを許容する者など、どこにもない。いやむしろ、領民にとってはもはやあれらは悪の代名詞とすら言えるだろう。そして貴卿は二度に渡り、自由騎士団と共に連中の動きを挫いている。その活躍はこのニルヴァン領にも広く伝わっているというワケだよ。今やこの領内で貴卿を裏切り者と蔑む民は一人もいない」
「……なるほどな」
 と、何とか答えを返すが、こうして面と向かって言われるとさしものジョセフとしてもなかなか面映ゆいものがあった。
「それで、実戦訓練とはどのように?」
「うむ、当日は仮組した木製の家屋十棟を村に見立てた防衛訓練を行なう」
「ほぉ」
「クラーマー卿と有志の自由騎士数名は敵側としてこの村を襲撃してもらうつもりだ。一方で、志願兵二十名には村の防衛を行なってもらう。限られた時間の中で、仮設家屋を守り抜けるかどうか、それが主題となる感じだな」
 テオドールが想定しているのは、まさしく先に挙げた黒鉄槌騎士団の襲撃だろう。
「志願兵の任務は村を守ることであり、襲撃者の撃退は自由騎士団が担うべきだと私は考えていてね。志願兵の中に元聖堂騎士団でもいれば別だが、世の中、そう上手くはできていない。大体が農民あがりだ。だから、志願兵は自由騎士が現場に到着するまで防衛線を維持することに注力した方が結果的に被害も少なくなるのではないかと見ている」
「ふむ……」
「クラーマー卿と自由騎士側の目的は、制限時間内に全ての仮設家屋を破壊することだ。内容としてはシンプルだと思うが、どうだろうか」
「ああ、分かりやすくてよいと思うが?」
「ありがとう。他にも幾つかルールは用意するが、まずは今説明した部分だけでも覚えておいてもらえれば大丈夫だ」
「了解した。では――」
 ジョセフがソファから腰を上げる。
「説法の準備をしておこう」
「それはやめてくれ」


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
自国防衛強化
担当ST
吾語
■成功条件
1.志願兵の皆さんの訓練をちょっと手伝って差し上げる
このシナリオは「ニルヴァン領」からの陳情によって発生したシナリオです。
どうも、吾語です。やってきました領地シナリオ。

今回は志願兵を鍛えるための実践訓練です。
志願兵側は防衛を主眼とした訓練を行ないます。
自由騎士の皆さんとジョセフさんは悪者役です。ヒャッハーする側です。

ジョセフさんは皆さんの指示通りに動きます。
ジョセフさんは魔導士のランク1、2のスキル全て+スワンプを使用できます。
では、以下シナリオ詳細です。

◆戦場
 広い草原に合計十個の仮設家屋が建てられた疑似村落です。
 家屋は前列に三つ。中列に四つ。後列に三つの順番で並んでいます。
 家屋と家屋の間は一律10mの間隔があります。
 皆さんの目的は制限時間内にこの家屋をできる限り多く破壊することです。
 時間帯は昼間となります。
 家屋一つあたりの耐久力はHP2000相当で、防御、魔抗は0扱いです。
 木製ですので、火を用いる場合は与ダメージが倍になります。

◆敵勢力
・志願兵(上)×3
 元聖堂騎士の志願兵です。アクアディーネの祝福を受けています。
 重・格・医、それぞれ一名ずつ。
 練度の高さは自由騎士の皆さんの平均レベルと同程度となります。
 志願兵の中では指揮官格となり、
 彼らを全員倒すと志願兵(下)が「常時コンフュ1」状態になります。

・志願兵(中)×5
 元魔女狩り、または元兵士の志願兵です。祝福はすでに受けています。
 軽×2、魔×2、錬×1という内訳となります。
 練度の高さは自由騎士の皆さんの平均レベル-5、くらいとなります。
 志願兵の中では上級兵格となり、
 彼らを全員倒すと志願兵(下)が「常時アンコントロール1」状態になります。

・志願兵(下)×12
 農民上がりの志願兵です。
 祝福は受けていませんが故郷を守る気概に溢れています。
 バトルスタイルは特にありません。通常攻撃しかできません。
 遠距離攻撃できる者×4、近接攻撃しかできない者×8という内訳です。
 練度の高さは自由騎士の皆さんの平均レベル-10、くらいとなります。

 上記の内容の志願兵の皆さんですが、
 一度倒されても戦場の外に控えているヒーラーによる治癒を受け、
 3ターン後には無傷の状態で戦線に復帰します。
 志願兵を全滅させることはできません。

 防衛訓練なので、志願兵は基本的に仮設家屋を守るために動きます。
 陣形は特に存在せず(陣形組めるほど連携上手くないので)、
 彼らは皆さんの動きに合わせて臨機応変に行動します。

◆実戦訓練ハンデ
 今回は皆さんには下記のハンデが存在します。
 実戦を想定してるけど訓練なので従っていただくようお願いします。

1.制限時間は5分間(30ターン)です。
2.ランク3スキル使用不可。
3.全体範囲スキル使用不可(回復含む)。
4.武器・防具は訓練用のものを使用。
※訓練用装備の性能は「皆さんの装備の数値/2」となります。
状態
完了
報酬マテリア
2個  2個  6個  2個
9モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
9日
参加人数
6/6
公開日
2019年09月23日

†メイン参加者 6人†



●我ら、黒鉄槌騎士団(偽)!
 集められた志願兵を前に、まずは領主による訓示が行われた。
「それではこれより、敵軍襲撃を想定した実戦訓練を開始する!」
 一段高い場所からニルヴァン領現領主である『イ・ラプセル自由騎士団』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)がそう叫び、整列しきれていない志願兵達を見回した。
 彼女の脇には、今回参加する自由騎士としてジョセフと、他に五人が並んでいた。
 どういうワケか、シノピリカも含めてほぼ全員、装備が真っ黒だ。
「あの、領主様……、その格好は……?」
「無論、仮想敵である黒騎士を模してのことだ」
 志願兵の一人が尋ねると、返したのは『達観者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)だった。当然、彼の全身も他と同様に真っ黒い。
「皆も知っての通り、俺達はそれなりに修羅場をくぐってきている。――本気で行く。本気で防げよ? でなければ、訓練といえども辛酸をなめることになるぞ」
 兵士へ、『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)がそのように脅しにも近い言葉をかけた。その横で、『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)が小さく苦笑する。
「訓練を始める前から委縮させるようなこと言ってどうするの?」
「必要なことだ。動くべきときに動けないのでは話にならない」
 しかし、この通りアデルの返答は実務的なものだった。
「はぁ、やれやれね……」
 エルシーは額に指をあてて呟くと、気を取り直して志願兵の方を見る。
 唯一、彼女だけは黒装ではなく赤いシスター服姿だ。
「えーっと、はじめまして、自由騎士のエルシーです。これだけの方に志願していただいてとてもうれしく思います。でも――」
 一礼したのちそう言って、彼女はシスター服を一息に放って黒い武闘着姿になった。
「やるからには、やっぱり遊びはなしで行くわ。お互い、頑張りましょう」
 彼女の凛々しさと美しさに、志願兵から軽く歓声が上がった。
「派手なことをやるじゃないか」
 後ろに控えていた『殲滅弾頭』ザルク・ミステル(CL3000067)がおかしそうに笑っている。
「ここまで反響があるとは思わなかったわ」
「お前に叩きのめされたい野郎も出てくるんじゃないか?」
「……やめてよ」
 ザルクに言われて想像し、エルシーはげんなりした。
「それにしても、結構立派なモンができてるなー」
 今回の戦場となる疑似村落を見渡し、『たとえ神様ができなくとも』ナバル・ジーロン(CL3000441)がそんなことを呟く。
 全部で十棟の仮説家屋を時間内にどれだけ守ることができるか。
 志願兵に課された使命はそれだ。
 自由騎士側も当然、訓練とはいえ実戦を想定しているものである以上、全ての家屋を破壊するつもりだった。
「それでは、訓練を開始する! 皆、持ち場につけ! 十分後に開始の合図を鳴らすぞ!」
「「応ッ!」」
 シノピリカの号令に、志願兵達が威勢のいい声を返す。
 かくして、ニルヴァン領で初めてとなる防衛訓練が始まるのだった。

●中央、特攻(ブッこ)む自由騎士
 訓練の開始は、高らかに響き渡る楽器の音によって告げられた。
 二十人の志願兵は十棟の仮説家屋を守るようにそれぞれの配置について、一方で少し離れた場所から黒騎士に扮した自由騎士が、疑似村落に向かって突っ込んでいく。
 まずは真正面、七人中四人の自由騎士が、堂々と姿を見せて駆けていった。
「敵襲――! 敵襲ゥゥゥ――!」
 即席の物見櫓からそれを見つけた志願兵の一人が、村落全体に響く大きさで鐘を鳴らし、敵の襲来を仲間へと告げていく。すると、志願兵達は直ちに動き出した。
「ふむ、思ったより統率が取れておる、か?」
 走るシノピリカが、志願兵の動きを逐一観察していく。
 だが、動き出したのはいいが、やはり大半が素人だからか、列を組むまでが長かった。
 これは、大きな隙になるかと思われたが、
「前だ! 敵は前に来ている、列はいいから集まれ! 壁を作って圧をかけろ!」
 その声は、志願兵の一人があげたものだった。
「元・聖堂騎士の彼か。さすがに判断ができる」
 テオドールが小さく笑った。
 彼が外から観戦する側だったならば、今の判断に対して拍手を送っていたかもしれない。
 だが、今回は自分は黒騎士役である。
「前に集まってきたようだ。ジーロン卿、出番のようだぞ」
「お、おう!」
 テオドールに声をかけられ、先頭を走っていたナバルが足を止めた。
 彼の動きに、志願兵達がビクンと身を震わせる。反応が過敏なのは単にビビっているからか。
「オレたちは黒鉄槌騎士団! お前たちを皆殺しにし、村をすべて焼き払ってやる! 逆らうやつは容赦しないぞ、ハッハッハ――――!」
 彼は盾と槍とを打ち鳴らし、大声でそんな口上をまくしたてた。
 すると、
「やらせないぞ!」
「ちくしょう、言いたいこと言いやがって!」
 と、志願兵達は憤激し、その意識をナバルへと注いでしまった。
 その士気は高く、煽ったナバルの方が思わず驚いてしまうくらいだが、問題は、それが自由騎士の思うツボである、ということだった。
「待て、前に集まりすぎるな! あそこにいるのが全員じゃ――」
「何言ってるんですか、まさか、ああまで言われて黙ってろとでも!?」
 元・聖堂騎士が止めようとするも、ダメだ、ほとんどの志願兵が怒りに駆り立てられている。
「そこら辺はまだまだじゃのう」
 言いつつ、シノイリカが武器を構えた。
「では、はじめようぞ!」
「ええ、そうね」
 エルシーが言って、手に集めた気を光に変えて思い切り投げつけた。
 光弾は志願兵達の頭上を越えて、その向こうにある仮設家屋の一つに直撃する。
「ああ! 村が!」
 志願兵が叫んだ。彼らの中では、ここはすっかり守るべき村のようだ。
 志願兵数人がエルシーを狙う。だがそれは、さすがに視野が狭い。
「こちらにもいるのだがね?」
 テオドールの氷の魔導が、別の仮設家屋を凍てつかせて大きく軋ませる。
「あ! クソ、汚いぞ!」
「すとも、これは襲撃だ。諸君の都合など考えるはずがないだろう?」
 叫んでくる志願兵へ、テオドールは逆に悪ぶって肩をすくめた。
「やれやれ、訓練とはいえ自領の領民を煽るようなことはしたくはないが、致し方なしか」
「訓練だから、本気で行くぜ! 痛い思いはもうしてんだし、あとは伸びるだけだろ!」
 シノピリカとナバルが、武器を手にして群れる志願兵へと大きく踏み込んだ。
「止めろ! 俺達の村を守るんだ――!」
「「ウオオオオオオオオ!」」
 正面から攻める四人の自由騎士へ、多数の志願兵が立ち向かっていく。
 だが、このときすでに、残る二人は動き出していたのだった。

●左右、底意地悪い自由騎士
 訓練開始から一分ちょっと。アデルとザルクが動き出した。
 実のところ、自由騎士側の本命はこの二人。
 前から攻めた四人はあくまでも陽動で、ザルクは右から、アデルは左からそれぞれ動いて、疑似村落の仮設家屋を壊すべく、準備を整えていた。
 そして、最初に動いたのはザルク。
「左は任せたぞ、アデル」
 二丁拳銃を構え、彼はギアを介してアデルに連絡。そして行動を開始した。
 訓練用の武具とはいえ、使う者が使えばその威力はバカにできない。
 事実、彼の攻撃によって仮設家屋の一軒があれよあれよという間に半壊してしまった。
「何だ、今の音は!」
 家屋を攻撃する音に、志願兵達もやっとザルクの存在に気づいたようだった。
 何人かの兵士が、彼の方へと向かっていく。
 しかし、それもある意味では囮であり、最後に動き出すのがアデルであった。
「反応が遅い。動きも単調。こちらの陽動に想定通りに引っかかってくれている」
 ここまで、一線引いた位置から戦況を眺めていた彼は、志願兵達の動きをそう評価して、小さくため息をついた。
「指揮官になれる者は何人かいるようだが、そもそもその指揮の意味すら理解できないのでは、話にならないというものだな」
「見つけたぞ!」
 と、志願兵の一人がアデルに指を突き付ける。
 それに対し、彼は小さく息を漏らした。
「一人、か」
 そして一挙動で間合いを詰めて、志願兵の腹部を槍の柄で突いて悶絶させる。
「う、ぐぇ……」
「彼我の力量差をすぐに掴めるようにしておけ。それと、敵一人に対して、その動きを制しようと思うならば、せめて三人は用意しろ。本物の敵はここまで優しくはないぞ」
「ぐ……」
 志願兵にその言葉は聞こえているのかどうか、アデルは確かめないまま次の行動に移った。
 やることは無論、家屋の破壊である。
 もう少し近づいて、彼は手にした武器で家屋の壁を思い切り叩いた。
 木製の壁は大きく軋んで壊れ、さらに続けて幾度か攻撃すると、家屋は音を立てて崩れていった。訓練開始から二分と少し。最初に家屋を壊したのは、アデルだった。
「崩れたぞ!?」
「あんなところにも、敵が!」
 志願兵達の悲鳴が聞こえてくる。
 その反応のひとつひとつが、アデルにとっては初々しいとさえ思えるものだった。
 しかし、それは手を抜く理由にはならない。彼は武器を構え直し、ザルクに連絡した。
「次は同時に潰して、兵達を混乱させる」
 ほどなく「了解」という返事があり、二人はほぼ同時に動き始めた。
 訓練である以上、どうやっても甘くなってしまう部分はある。それを知るアデルは、だからこそ自分が考える最悪の動きを見せることで、志願兵に現場の空気を伝えようとしていた。
 疑似村落の真正面で、志願兵の大半がシノピリカらに引きつけられている中、アデル達の対応に動けた志願兵はわずか数名。
 現状における、兵達の力不足はこれ以上ないほど明らかであった。
「クソ、止めろ! 絶対に止めるんだ!」
「うおおおおおおおお!」
 だが、三軒目の家屋を半壊させられながらも、志願兵達の士気は高い。
「――ふむ」
 疑似村落の反対側から、ザルクのものと思しき銃声が聞こえる。
 それに合わせて、アデルも槍を構えて家屋を攻撃していった。
 そろそろ、訓練開始から三分が過ぎようとしていた。

●奮闘、我らニルヴァン防衛隊
 七つ目の家屋が倒壊した。
「ダメね、その程度じゃ私達の足は止められないわよ?」
 志願兵の攻撃をヒラリと避けて、エルシーが両手を合わせてパンと打ち鳴らした。
「捕まえろ! 捕まえるんだ!」
 と、元・聖堂騎士が指示を下しはするものの、
「悪いが、そう何度も直線的に来られても、な」
 言いつつ、ジョセフが行使した魔導によって兵達の足元は泥化し、動きを止められる。
「敵の隙を突くなら、敵に見えちゃダメだぜ! こっちから見えて、敵からは見えない場所まで動くんだ! そんでもって――」
 ナバルが、自分の言葉通りに志願兵の死角に入って、そのわき腹を蹴りつける。
「うご、っふ!?」
「屈するな! 痛みや怖さに負けるな! 体が動かなけりゃ何にもできない! すごい技も、武器も、何も役に立てられないんだぞ!」
 彼は彼なりに、戦闘経験の薄い志願兵に向けて必死にレクチャーしていた。
 だが、そうやっている間にも、アデル達が家屋を攻撃していく。
 そして、立て続けに八軒目と九軒目の家屋がミシミシと音を立てながら崩れ去っていった。
「お、俺達の村が……!」
「ちくしょう、ちくしょう!」
 すっかり疑似村落に感情移入した志願兵達は、唇を噛みながら対応に動こうとする。
 彼らと自由騎士の実力差は歴然だった。それも当然だろうが、しかし、この訓練はそれで話を終わらせてはならないのだ。
 訓練は、一軒だけ残った最後の仮設家屋の防衛に焦点が絞られた。
 志願兵達は家屋を囲むようにして陣形を組む。
 それに対し、自由騎士達も前と左右からそれぞれ攻め込んでいった。
「これは、もはや決まったか」
 テオドールが小さくひとりごちる。
 九軒目を破壊されるまで、指揮こそ高かったが志願兵達の動きに見るべきものはなかった。
 確かに、何人かはこちらにとっても警戒すべき動きをしたが、それが全体の統率に繋がるかといわれればそんなことはなく、あくまでもスタンドプレイ。
 これでは、連携など望むべくもない。
 やはり、戦闘経験の薄さはいかんともしがたいか。
 この訓練における唯一とも呼ぶべき成果は、志願兵達のモチベーションの高さを確認できたこと。くらいなものか。欲を言えば、もう少しくらいは実利的な成果が欲しかったが、
「村を、守れェ!」
「俺達の村だ、俺達の、家だァァァァ!」
「これ以上、壊させてたまるか!」
 だが、諦めかけていたテオドールも、その志願兵達の声に気づいた。
 そういえば、最後の一軒となってすでに三十秒近く。まだ、家屋は崩れずにそこにある。
「ちょっと、攻めにくくなったわね」
 エルシーの小さな呟き。
 ジョセフも周りを見るが、シノピリカもナバルも、必死に食らいついてくる志願兵を前に攻めあぐねているようだった。
 ならば、アデルとザルクはどうか。
「そうだ! その気概をもって敵と相対しろ! 最終的にモノを言うのは気合だ!」
 アデルは、我武者羅に突っ込んでくる志願兵を相手に後退し、攻撃のチャンスを幾度も潰されていた。それを見て、彼も本気で兵達に戦い方を教えることにしたようだ。
「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」」
 それまで、バラバラに動いていた志願兵達が、ここで初めてまとまった動きを見せ始める。
 しかし実力差は大きく、最後の一軒もジリジリと傷つけられていった。
 だが――、
 仮設家屋最後の一軒が倒壊する前に、終了を告げる楽器の音が高らかに響いた。
 防衛訓練は、こうして終わったのだった。

●そして
「なかなか無残な結果に終わったな」
 整列した志願兵へ、テオドールは厳しい一言を告げた。
「質の差はどうしようもないが、それでも数の差で補える範囲だったはずだ。しかし、結果は村の九割が焼かれるという悲惨なものとなった。それは何故か分かるかね」
 彼の言葉に、志願兵達はそろって顔をうつむかせていた。
 そこに、テオドールに変わってアデルが壇上に立つ。
「お前たちの今回の失敗は、ひとえに俺達と戦おうとしたことにある」
 彼は、志願兵達の最も大きな改善点をそこに述べた。
「実際に事が起きた際、お前たちの仕事は時間稼ぎだ。非戦闘員の避難と、自由騎士の到着までの、な。命を優先しろ。逃げを恥と思うな。お前たちがニルヴァンを守ってくれるなら、俺達は存分に各地で戦える。そして危機には必ず駆けつける」
 それは丁寧な説明ではあったが、果たして、今の彼らに伝わるのかどうか。
 しかし、言うべきことだけ言って、アデルは壇上を去っていく。
 次にそこに上ったのは、現領主のシノピリカだった。
「よくやった!」
 これまでと変わって、彼女は志願兵達を称賛する。
「今回の戦場となった場所を見るがよい!」
 そしてシノピリカがそちらを指さすと、見えるのはボロボロになりながらも一軒だけ壊れずに残っている仮設家屋だった。
「お主らは村の九割を蹂躙された。しかし、最前線で戦い続けるワシらを相手に、見事村の一割を守り切ることができたのじゃ! 先日まで戦うことを知らなかったお主らがそれを成し遂げた、これはまさに偉業と呼ぶべき成果じゃ! お主らのやる気と、頑張りが、この誇るべき成果を引き寄せた! その事実が、ワシは領主として心より嬉しい!」
 その言葉に、これまでうつむいていた志願兵達は次々に顔を上げていった。
「技がつたない! 連携ができていない! 戦い方が間違っている! 課題は様々あろう。だが、そもそも守る気がなければそれ以前の話! お主らは今日確かに、領地を守る兵士として必要なものを我々に見せつけた。その気概、決して忘れるでないぞ!」
「「応ッ!」」
「はいはい、じゃ、重い話はこれくらいでいいんじゃない?」
「そうじゃな。では皆、飯を食いに行くぞ、ワシのおごりじゃー!」
「おお、やった!」
 エルシーに促され、シノピリカが宣言する。
 ナバルもそれに歓喜し、かくして今回の訓練はここに完全に終わったのだった。
 志願兵達の顔は、やり切った充足感で満ちていたという。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†


†あとがき†

お疲れさまでした。
さすがに相手が悪かった(志願兵側から見て)。

ですが最後の最後に頑張りを見せてくれたようです。
そこで見せた踏ん張りがあれば、彼らは強くなっていくでしょう。

それではまた次のシナリオでお会いしましょう。
ありがとうございました!
FL送付済