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【シャンバラ】S級指令、妖精郷へ3



●ふるさと
「もうすぐティルナノグよ、みんな、がんばって!」
 シャンバラ皇国の森林地帯に入って二日目の夕刻、マリアンナ・オリヴェル(nCL3000042)は同道している自由騎士達にそう告げた。
「……マリアンナ、随分と元気ね」
 彼女の様子に、『梟の帽子屋』アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)が小さく笑って言う。
「そうかしら?」
「うむ、確かに森に入ってから、何というか、心なし生き生きしておるぞ」
 『ビッグ・ヴィーナス』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)からも同様の指摘を受けて、マリアンナはわざとらしく咳払いをする。
「そ、そんなことはないわ……」
 一旦は落ち着いた感じを見せつつも、しかし、自然とその顔はほころぶ。
 無理もない。
 一度は魔女狩りに捕らえられながら、異国の地にまで逃げ延びた彼女だ。
 やっとのことで帰ってきた故郷。
 これまで張り詰めていたものがやっと緩んできたということだろう。
「まぁ、ここまで来れば魔女狩りも来ないだろうしね」
 アンネリーザが空を見上げた。
 そろそろ辺りは暗くなりつつあり、今は夜営の準備中。
 燃える焚火を囲うように、自由騎士達は座って時間を過ごしている。
「……寒くなってきたのう」
 シノピリカがその手で自分の肩を抱いた。
 森に入る前までは、夜中であろうともまるで寒くはなかった。
 しかし今はすっかり冬の空気が身に染みている状況。
 本当にあの理想郷と同じ国なのかと、軽く疑ってしまうくらいの差がある。
 だが、マリアンナにとってはこの環境こそが自然であるらしい。
「やっぱり、今は違和感はないのね?」
「そうね。ええ、今はそんなもの、全然感じないわ」
 アンネリーザの確認の問いかけに、マリアンナはうなずいた。
 自由騎士達は顔を見合わせる。
 昨日、マキナギアを通じてイ・ラプセルと連絡を取ることができた。
 その際にマリアンナが感じたという違和感についても報告はしておいたが、果たして、あちらで何か判明しただろうか。
 残念ながら、ギアでの通信はほんの数分程度しかできなかったので、現時点ではそれも分かりようがなかった。
 ただ、朗報もある。
 イ・ラプセルの方で聖霊門の解析に成功したという情報だ。
 或いは、イ・ラプセルとシャンバラを聖霊門で繋ぐことができるかもしれない。
 無論、シャンバラ側で聖霊門を確保する必要があるが、それでもこの話自体は確かな朗報であった。
「ねぇ、ティルナノグってどんなところなの?」
 今もある漠然とした不安から目を背けるように、アンネリーザが重ねて尋ねた。
「隠れ里だから、イ・ラプセルのアデレードほど大きくはないわ。道具もあんまり揃ってないし、色々と不便だけど、でもいいところよ」
 答えるマリアンナの声は弾んでいた。
「明日には着くから、そこでこれからについて兄様達と――」
「その必要はない」
 その声は、森の闇の奥から聞こえてきた。

●夕暮れの決闘
 闇からにじむようにして、幾つもの気配がそこに現れた。
「……囲まれているな」
 立ち上がったシノピリカが、視線を素早く周囲に走らせる。
 姿こそ陰に紛れて見えないが、しかし、いる。何者かが確実に、そこに。
「キジン……、異端の者か」
 声は若い男のものだった。
「そんな、その声……!?」
 何故かマリアンナが顔を青くしている。
 やがて、警戒する自由騎士の前に彼は現れた。
 背に光の翼を背負った、髪の長いヨウセイの若者。
 その姿を見てマリアンナが呟く。
「……兄様」
「何ッ!?」
「マリアンナの、お兄さん?」
 驚く自由騎士達の前で、兄様と呼ばれた若者は無表情にマリアンナを見る。
「マリアンナ、生きていたか」
 その声もまた感情のない、無機質な声音だった。
「え、ええ、そうよ。生きていたわ! イ・ラプセルまで行ってきたの!」
 対照的に、マリアンナは声を荒げる。
 兄に会えた喜びと、兄の様子に対する不可解さが混じり込んだ、それはなかなかに複雑な色を帯びた声であった。
「イ・ラプセルの……」
 ヨウセイの若者が自由騎士達の方へと目を向けた。
「…………」
 そして無言。
 その眼差しに、シノピリカは不穏なものを感じた。
「マリアンナの言っていることに間違いはないぞ。わしらはイ・ラプセルから来た。疑問を持つのであれば、オラクルの印を見せてもいい」
「いや、いい。それについては信じよう」
 と、若者は言うが、彼はそのまま続けて、
「だが、君達をこのままティルナノグに迎え入れるわけにはいかない」
「なっ!?」
 思いもよらなかったその言葉に、マリアンナが目を剥いた。
「兄様、どうしてそんなことを!」
「マリアンナ、一度、魔女狩りに捕まったそうだね」
「……それは」
 指摘を受けて、マリアンナは返答に詰まる。
「捕らえられながら、おまえは運よく逃れ、イ・ラプセルにたどり着き、その国の人々の協力を取り付けて、シャンバラに戻りここまでやって来た、と」
「そうよ。……やっと、ここまで戻って来たわ」
「――都合がよすぎる」
「え……?」
「ここまでおまえが戻ってこれた事実が、あまりに僕達にとって都合がよすぎる。悪いが、それをそのまま真に受けるほど僕達は愚鈍ではない」
 マリアンナは疑われている。つまりは、そういうことだった。
「待てい、重ねて言うがわしらはイ・ラプセルの――」
「残念だけど、イ・ラプセルとシャンバラが組んでいない証拠はないんだよ」
 シノピリカの反論は、だがバッサリと切り捨てられた。
「それとも、シャンバラと組んでいないという証はどこかにあるのかな」
「ふざけないで!」
 抑揚なく尋ねる兄に、マリアンナが激昂した。
「ここにいるみんなは私達のためにこんな森深くまで来てくれたのよ! いくら兄様でも、みんなを侮蔑すること許さないわ……!」
 弓を手にして、マリアンナは自分の兄を睨みつける。
 真っ向から妹の視線を受けて、若者は息をついた。
「僕は君達を疑っている」
 そして彼も弓に手をかける。
「魔女狩りに捕らえられたマリアンナがシャンバラの連中に何らかの処置を受けた可能性と、イ・ラプセルという国がシャンバラと組んでいる可能性についてだ。僕達ウィッチクラフトは所詮弱小勢力。生き残るためには何事に対しても最大限の警戒をしなければならない」
「だったら、どうすればいいのよ」
 問うアンネリーザに、若者は簡潔に答えた。
「力を示してくれ」
 そのとき初めて、彼の顔に表情が浮かぶ。
 それは、戦いに赴く者が見せる強い気迫であった。
「大いなりし森の掟に従いて、僕――パーヴァリ・オリヴェルは君達に“証す決闘”を挑む」
 ――“証す決闘”。
 それはヨウセイ達の間にさだめられた一種の決闘裁判。
 この戦いにおける勝利は、即ち真実の証明となる。
 それがどのような主張であろうとも、森の民は、ヨウセイは、それを真実として扱わなければならない。
「……お願い、みんな。力を貸して」
 苦々しさに満ちた声で、マリアンナは自由騎士達に懇願する。
「君達が勝った暁には、僕達は君達の全てを受け入れると約束しよう」
 ダメ押しともいえるパーヴァリのその宣言。
 ヨウセイ達の信を得るために、どうやらこの戦いは避けられないようだった。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
シリーズシナリオ
シナリオカテゴリー
対人戦闘
担当ST
吾語
■成功条件
1.“証す決闘”に勝利する。
このシリーズもいよいよ佳境に差し掛かりつつありますね。
吾語です。

では、シナリオ詳細です。

◆成功条件
・“証す決闘”に勝利する。
 ただ戦闘に勝つだけでは足りません。
 己の正義、己の思想、己の考え、それらを思いっきりぶつけましょう。
 この戦いで試されるのは腕っぷしと心の在り方です。
 皆さんがここまで来たその理由を、ありのままに叩きつけてください。

◆敵
・パーヴァリ・オリヴェル
 マリアンナの兄でウィッチクラフトのリーダーです。
 ヨウセイであり、優れた弓手でもあります。結構強いです。

・ヨウセイ×8
 弓手3、魔導3、ヒーラー2です。
 総じて接近戦は不得手です。

◆戦場
・夕刻の森
 まだ相応の明るさがある夕暮れの森です。
 地の利は敵側にあり、敵の命中に多少+補正がかかります。

※前回のシナリオで時間がかかっていたら、この戦闘は夜に行なわれていました。
 その場合、敵側は命中回避両方に補正を得ていました。

※今回のシナリオに参加する際には特に下記にご注意ください。

・S級指令依頼はおおよそ二ヶ月間のシリーズ依頼になります。
 4話構成でシャンバラへの少数精鋭での侵入ミッションになります。
(大まかな予定としましては、1週間の相談機関と1週間の執筆期間、執筆期間終了後に次のOPの発出になります)
 また、シリーズ依頼になりますので、参加者には予約優先権がつきます。
 2話以降予約をせずにいると、1話の参加者以外でも参加可能になった場合参加することができます。
 其の場合、実は船にこっそりと乗っていたなどの理由が付けられます。また、新規参加者にも次回以降の予約優先権がつけられます。以上ご了承お願いします。

 シャンバラとイ・ラプセル間ではマキナ=ギアの通信はできますが、状況によっては通じない可能性もあります。
 また、シャンバラにイ・ラプセルオラクルがいることで、水鏡の範囲が多少広がります。
 予測系は断片的ながら現地自由騎士に伝えることができるでしょう。

 
 シリーズ参加参加者は、現状発出している依頼の参加を禁止するものではありません。
 時系列が違うということで参加しても構いませんが、RPとして参加しないということも構いません。(ギルド、TOPでの発言も同様です)
 現在運営中の他のシナリオに参加していてもかまいません。(時系列がちがいます)
状態
完了
報酬マテリア
2個  6個  2個  2個
9モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
10日
参加人数
10/10
公開日
2018年12月23日

†メイン参加者 10人†

『イ・ラプセル自由騎士団』
シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)
『果たせし十騎士』
ウダ・グラ(CL3000379)
『果たせし十騎士』
柊・オルステッド(CL3000152)


●誰が望むかその戦い
 この戦いに、一体どんな意味があるというのか。
 『梟の帽子屋』アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)には全く分からなかった。
 だが彼女の懊悩など関わりなく、ヨウセイはすでに弓を構えていた。
「……マリアンナ!」
 ヨウセイが狙っているのは、同族であるはずのマリアンナだ。
「敵でもないのに、どうしてこんな……!」
「アンネリーザ……」
 何とか攻撃を避けたマリアンナが弱々しい声で自分を呼ぶ。
 それに応じる前に、しかし、彼女は誰へともなく叫んでいた。
「こんな戦いに、どんな意味があるっていうのよ!」
「――そもそも意味のある戦い自体、この世界にはほとんどないさ」
 答える声があった。
 マリアンナの兄、パーヴァリ・オリヴェルである。
 アンネリーザはパーヴァリを睨みつけ、
「どうして言葉で解決しようとしないの……? こんな、力に任せるやり方!」
「平和的だね。……でもそれは、奪われたことがない者の発想だ」
「え……」
「奪われた経験がないからこそ、奪う者の暴虐を、奪われる者の悲嘆を理解できていない。君のそれは、優しいながらも愚かしい勘違いだよ」
「わ、私は……!」
「もういいわよ! 説得なんて悠長なやり方、するだけ無駄ってこと!」
 言いかけたアンネリーザを強い調子で遮ったのは、『魔女を名乗る者』エル・エル(CL3000370)であった。
「二人とも、いいから後ろにさがってなさい」
「エル……」
「大丈夫よ、マリアンナ。戦うわ、あんたの分まで」
 未だ消沈するマリアンナの前に立ち、エルがパーヴァリを真っ直ぐ見据えた。
「然り」
「ああ、やってやるさ」
 そして二つの意思が、エルに賛同する。
「何が決闘か。長き道のりを踏破した同胞に向ける言葉がそれならば、ああ、受けて立とうではないか。自由騎士としてな!」
 愛用のサーベルを振り回し、『ビッグ・ヴィーナス』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)が高らかに宣言する。
 それに、『おにくくいたい』マリア・スティール(CL3000004)が続いた。
「それによぉ、てめぇらの話聞いてっとムカムカしてくんだよ。マリアンナは同じ釜の飯を食った仲間なんだ。その仲間を悲しませやがって……」
 マリアは己の拳をガツンと叩き合わせた。
「タダで済むと思うんじゃねぇぞ!」
 そして二人は同時に駆け出し、戦場へと突っ込んでいった。
「シノピリカ……、マリア……」
 マリアンナは二人の名を呼び返し、半ば反射的に彼女達に続こうとした。
「待て」
 しかし、『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)が後から肩を掴んでマリアンナを制止する。
「下手に突っ走るな。ここで大人しくしているんだ」
「でも……」
「力を貸してくれと言ったのはおまえだ。……私達を信じろ」
 言い聞かせ、ツボミはエルの方を見る。
 ちょうど、肩越しに振り向くエルと視線がぶつかった。
 二人が思うところ全くは同じ。
 この戦いに、マリアンナを関わらせたくない。
 誰も望まぬこの戦い。
 それを最も望んでいないのは、マリアンナであろうから。
 しかし“証す決闘”は彼女の想いを汲むことなく、続くのであった。

●ここに来るまで費やしたもの
「全く、何なんだろうな、この戦いは」
 『アーマーブレイク銃士』ザルク・ミステル(CL3000067)は、言いながら地面に不可視の弾丸を撃ち込んだ。
「ぬ、ぐ……!?」
 離れた場所でヨウセイがくぐもった声を出す。
 弾丸の魔力によって構築された結界の範囲内に入ってしまったのだ。
「俺達に疑うべきところがあるから、それを晴らすための決闘?」
 動きを鈍くしたヨウセイを前に、ザルクは冷ややかな声で続ける。
「どうしていきなりそうなるんだ?」
 彼はヨウセイへ短く尋ねた。
「ぐ……、己は潔白であると、ただ口にするのみか、貴様らは!」
「そういうことじゃない。飛躍しすぎだと言っているんだ」
 ヨウセイは反論するが、ザルクはかぶりを振る。
「別にこちらを疑うのであれば時間をかけて審議するなりすればいい。こちらは疑われて痛むような懐なんてないからな。……ところがいきなり決闘だ。ワケが分からない」
 理路整然と、ザルクはヨウセイに己の考えを聞かせる。
 すると、ヨウセイは痛いところを突かれたように目をそらした。
「待て、何だ今の反応は。お前達は――」
「ザルクさん! 来るわよ!」
 『RE:LIGARE』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)が叫ぶ。
「……おっと」
 間一髪、ザルクがその場を飛びのくと、直後に氷の魔導がそこに炸裂した。
「少し、意識を戦場から外しすぎた。助かったな」
「戦闘中に余計なことを考え過ぎじゃない?」
「言ってくれるなよ。気にもなるだろ。こんな戦い――」
「そう? 腕っぷしで物事決められるなら色々楽だと思うんだけど」
「お前、その姿で言うのか、それを?」
「……何が?」
 修道士姿ミルトスは、その指摘に首をかしげるのみだった。
 と、そこに気配。
 ミルトスが素早く反応する。
「せぇい!」
 飛んできた魔力の矢を、彼女は強く握った拳の甲で叩き落とした。
 その隙に、ザルクは再び魔弾で結界を形成。草むらの向こうで誰かが声を出した。
 どうやら、相手が結界に引っかかったらしい。
「相手が近づいてこないって、やりにくいわね!」
 言いつつ、ミルトスは敵がいるであろう草むらへと走り出した。
 遺されたザルクがポツリと呟く。
「俺の疑問は、別におかしいことじゃない、よな……?」
 無論、おかしくはない。
 同じような疑問を抱える者は他にもいる。
 例えば『イ・ラプセル自由騎士団』ボルカス・ギルトバーナー(CL3000092)だ。
 彼は距離を置いて数人のヨウセイと相対していた。
 そして、問う。
「何で“証す決闘”なんだ。何がどうして、そうなった?」
「この戦いは己の真実を証すための戦いである!」
「力を示せ。お前達の心の在り方を、我々に見せてみろ!」
 だが返ってくる答えはいずれもそんな感じ。彼の疑問は増すばかりだ。
「……心の在り方、なぁ」
 ボルカスにしてみればそこからしてもう違うのだ。
「国がそう決めたからここまで来ただけだぞ」
 その答えに、ヨウセイ達は色めき立つ。
「己の意思を捨てて神に全てを委ねているというのか……!?」
 ヨウセイ達が過敏な反応を示した。ボルカスの返答にシャンバラを見たからだ。
 だがボルカスはめんどくさそうに、
「ああ、そういうことじゃない。俺をあんなのと一緒にするな」
「確かになぁ、シャンバラの連中なんぞと一緒にされちゃ、自由騎士の名が泣くぜ」
 『闇の森の観察者』柊・オルステッド(CL3000152)もそれに同調する。
 だがヨウセイの顔にはなおも変わらず強い警戒の色。
「よっぽど疑われているらしいな、俺達は」
「だったらもう色々と曝け出していくしかねぇんじゃねぇか?」
「曝け出していく、か……」
 柊の言葉にボルカスは考える。
「ならば、そうするか」
 うなずいて、彼は威風堂々と胸を張って前に出た。
「ヨウセイ諸君!」
 そして思い切り声を張り上げる。
「俺から訴えたいことはただ一つだ! いいか――」
 ヨウセイ達を前に、ボルカスは叫んだ。

「この遠征にはな、やたらと金がかかってるんだ!」

「ブッフ!」
 柊が思わず噴き出した。
「ここに来るまで我が国がどれだけのコストを割いたと思っているんだ! 知ったことじゃない? そんなことは知るか、だがお前達は知れ! 思い知れ! 元はと言えばお前達が救援を求めたのがきっかけなんだからな! それともイ・ラプセルのこれまでの出費をお前達は全額負担できるのか! できるものならやってみろ!」
 ズケズケと言いたい放題言いまくるボルカスに、ヨウセイ達は絶句する。
「か、金……、金銭などと、そのような浅薄な……!」
「たわけェい!」
 だが、ボルカスの一喝である。
「お前達のために使ったコストを別のところに使えば、もっと別の人間が救えたんだ。別の道にだって進めたんだ。我が国を強くすることだってできたはずだ」
「ぐ……」
 ヨウセイ達は言い返せない。
「それを、我が国の騎士や、王や、我が女神は、お前達を救うために使った」
「ああ、そういうことだぜ、ウィッチクラフト!」
 さらに柊がボルカスの後を続けた。
「オレ達はあんたらに協力するためにここに来た。だが勘違いすんな。あんたらの都合じゃなく、オレ達はオレ達の国の都合でここまで来たんだ。分かるか?」
 そして二人が声を揃える。

「「託されているんだよ、俺達は!」」

 だから――
「だから証明してやるよ、オレ達自由騎士の強さ、正しさをなァ!」
 己が信念に一片の曇りなく、柊はヨウセイへと飛び込んで軽やかに刃を振るう。
 一方で、ボルカスはゆっくりと踏み出して武器を構えて告げた。
「かかってこい。俺はああいう軽業は不得手だが、その分、硬くて重いぞ」

●決闘の真実
「悪いが、そちらから挑んできた以上、手加減はなしで行く!」
 ザルクの結界によって動きを鈍らせたヨウセイに、シノピリカが狙いをつける。
 ギギギと鳴るは左の鋼拳。
 蒸気を纏い、放たれた一撃がヨウセイを盛大に吹き飛ばした。
「気にくわねぇ気にくわねぇ、ああ気にくわねぇよ、てめぇらは!」
 そしてマリアが吼えて、前面に盾を押し出して突っ込んでいった。
「気にくわないから、何だというのだ!」
 ヨウセイが氷の魔導を放った。しかし、それは悪手。
「気にくわねぇから、こうしてやらぁ!」
 笑うマリアが敵の魔導をその盾によって真っ向から弾き返す。
「何!?」
 魔導を放ったヨウセイが驚きに目を丸くした。
 そして跳ね返された魔導が、そのままヨウセイに直撃した。
 森が薄闇に沈むころ、戦況は自由騎士側有利に傾きつつあった。
「このままいけば、負けることはないな」
 マリアンナの傍らで、ツボミが冷静にそう告げる。
 聞いた瞬間に、マリアンナはその身をビクンと震わせた。
「このままでいいの、マリアンナ……?」
 アンネリーザがそれを問うが、マリアンナは力なく笑うのみだった。
「兄様が私を疑うなら、この戦いは必要なのよ……」
「――本当にそうなのかな?」
 そこで、『湖岸のウィルオウィスプ』ウダ・グラ(CL3000379)が口をはさんできた。
「何だ、ウダ。何かあるのか?」
「いや、あのヨウセイ達、今のマリアンナと同じ顔をしているな、って思って」
「あん?」
 その言葉に、ツボミは眉根を寄せる。
「探ってみたんだ。彼らの中の感情。あったのは警戒と、恐怖。……それだけだよ」
「え、恐怖って……」
「敵意はないの? 戦意も、ないって、ことなの……?」
 マリアンナとアンネリーザが、ウダの言葉に愕然となる。
 彼らに戦意がないならば、この戦いは――
「……もう少し早くそれを教えてほしかったがな」
「勘弁してくれ。僕だって、気づいたのはさっきなんだよ」
 苦い顔をするツボミに、ウダが頭を下げつつもそう言った。
「ねぇ、マリアンナ。あなたはどうしたいの? このままでいいの?」
「アンネリーザ、私は……」
「教えて。私は、あなたの意思を知りたいの」
 言われて、マリアンナは戸惑った。そしてすがるようにツボミを見る。
 だが、ツボミもかぶりを振るのみだった。
「おまえの意思を、私が決めてどうする」
 ウダの方を向いても、返ってくる答えはきっと同じだろう。
 だから、マリアンナは苦しさに耐えながらも、アンネリーザにか細く答えた。
「…………私は、こんな戦い、イヤ」
「だったら!」
 アンネリーザが血相を変えてマリアンナの肩を掴んだ。そのとき、

「パーヴァリ・オリヴェル!」

 戦場全体に、その咆哮が轟き響いた。
「エル……!?」
 翼を開いて空に上がったエルが、厳しい顔つきでパーヴァリを見下ろしている。
「戦いをやめないのなら、私がマリアンナに代わってあんたを撃つわ!」
 エルの声は、尽きない憤怒に染まっていた。
 家族の絆を何より重んじる彼女は、掟を優先してマリアンナを悲しませるパーヴァリがどうしても許せなかった。
「集え、因果に殺された怨嗟の響き、千年積もりしその無念、晴らすべき時が来た!」
 周辺に満ちる怨念を己の手に集め、彼女は極限の一撃を放たんとする。
「待て、エル! それはやりすぎだ!」
 著しい魔力の高まりにツボミが制止しようとするが、その声は届かない。
「兄様……!」
 マリアンナがパーヴァリを見る。彼はその場から動こうとしなかった。
 その姿はまるでエルの一撃を待っているかのようにも見えて――
「ダメェェェェェェェェッ!」
 気が付けば、翼を最大まで広げ、アンネリーザが飛び出していた。
 違う。やっぱりこんな戦いは、止めなきゃいけない。こんな悲しい戦いは!
「エル、やめて――――ッ!」
 エルが一撃を放つ直前、アンネリーザが後ろから彼女に抱きしめた。
 瞬間、森に光が瞬いた。
「ぐ……!?」
 それはエルの一撃ではなかった。
 彼女の手にあった怨念の塊は、アンネリーザの抱擁によって霧散していた。
 ではこの光は一体何なのか。
「く、ち、力が……」
 一人のヨウセイが武器を取り落としてその場に膝を突いた。
 直後、他のヨウセイ達も次々に地面にへたり込んでいく。
 武器を持とうにも手に力が入らず、立ち上がろうにも足に力が入らなかった。
 もはや戦うどころではない。 
 “証す決闘”はあまりにも唐突に終わりを告げた。
「……アンネリーザ、あんた」
「え……?」
 空の上にいたエルは、戦場に起きた異変の全てを見ていた。
 それは争いを厭うたがゆえがゆえの奇跡であった。
 当のアンネリーザはエルを止めたい一心で行動したため、自分が何をしたのか全く理解できていないようだが。
「そうか、これが結末か……」
 他のヨウセイ同様、体に力が入らなくなったパーヴァリが自嘲気味に言う。
「自業自得だよ、馬鹿者め」
 パーヴァリが顔を上げれば、そこにはツボミとウダがいた。
「パーヴァリ、貴様の妹は根性のあるヤツだ」
 ツボミが小さく息を吐く。
「一度捕まりながらも必死にイ・ラプセルまでやって来て、救援を願い出てきた。そしてここまで、自ら率先して道案内も務めてきた。並のヤツにできることじゃない」
 そこまで言うと、彼女はパーヴァリの胸ぐらを掴み上げた。
「だが見ろ、今のあいつを! 貴様が、貴様の妹にあんな顔をさせたんだ!」
 ツボミが指で示した先には、まだ泣きそうな顔のままのマリアンナがいた。
 それを直視させられて、パーヴァリの顔が苦しげに歪む。
「結局、この戦いは何だったのかな? 答えてもらえるよね」
 次いで、ウダが尋ねた。
 審議をするでもなく、ただ掟というだけで戦いを挑まれる。
 そんな不条理、何か理由があるからだろう。彼はそう睨んでいた。
「……これしかなかったのも、事実なんだ」
「それは、何故?」
「決戦が間近に迫っていたからだよ」
 決戦。
 パーヴァリの口から出た言葉に、自由騎士達は顔を見合わせる。
「僕達ウィッチクラフトは、間もなくこの森の東にある管区に攻撃を仕掛ける」
「な……!」
 その告白には、さすがのウダも言葉を失った。
「オラトリオ・オデッセイが迫っている。シャンバラのそれは、上級神民以外の民が唯一聖央都に入れる機会なんだ。だからその間、各管区の軍備は薄くなる」
 だがそれに、ツボミが異を唱えた。
「いやいや、待て。そうだとしても何故今回なんだ!」
「今年は、いつもと違うからさ」
 いっそ穏やかな様子でパーヴァリは語る。
「本来であれば最辺境であるこの辺りの司教はそれでも央都への出入りが許されていなかった。でも、今年に限っては許されることになったんだ」
 ――神の蟲毒が始まったからか?
 自由騎士の数人が、理由としてそれを思った。
「マリアンナがいつ戻るか分からない状況だったが、それでも僕達はこの機会を逃すわけにはいかなかった。だから僕達は襲撃を決定した。……そこに、君達が来た」
「都合がよすぎるとはそういうことか……!」
 ボルカスが唸った。
 ウィッチクラフトの視点から見れば、乾坤一擲の決戦に挑もうとしているその直前、シャンバラに捕まったとされていた仲間がこの絶好のタイミングで異国の騎士を引き連れて戻って来た。ということになる。
 なるほど。余りにもタイミングが良すぎる。
「僕だって、何も疑うことなくマリアンナを迎えたかったさ。でも……」
 シャンバラに捕まった。
 その情報から、どうしても警戒せざるを得なかったのだろう。
「審議をしている時間的余裕もなく、かといってこのままでは、君達を迎え入れるにはどうしても一抹の不安が残ってしまう。だから……」
「だから、こんな手段に出るしかなかった、と。……なるほど、確かにキミはマリアンナのお兄さんだね。不器用なところがそっくりだよ」
 それを言ったのはウダ。
 隣にはマリアンナが立っている。ウダが彼女をここまで連れてきたのだ。
「……兄様」
「マリアンナ。僕は――」
 だがその先は言えなかった。
 妹はパーヴァリの胸に飛び込んで、そのまま泣き出したからだ。
「すまない、マリアンナ」
 兄は泣きじゃくる妹の背を優しく撫でる。
 そして視線を上げて、彼は自分を囲む自由騎士に告げた。
「恥知らずであることを承知で頼む。僕達に、力を貸してほしい」
「全く――」
 それを聞いたミルトスが、腰に手を当ててため息をついた。
「最初から、素直にそう言えばいいのに」
 それは、自由騎士全員の総意の代弁に他ならなかった。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『ピースメーカー』
取得者: アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)

†あとがき†

はーい、お疲れさまでした。
過去最高にMVP悩んだシナリオでした!

いやー、熱いプレイングばっかりでホクホクでしたよ!
次回はいよいよシリーズ最終話となります。

次回はハードEXでお送りいたします。
今回に負けない皆さんのあっついプレイング、お待ちしてます!
それでは~。
FL送付済