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ワンワンピース

●一つまみの大秘宝
かつて、イ・ラプセル近海を騒がせた犬海賊が存在した。
と、いわれている。
その海賊の名はゴールデンレトリバー・ロジャー。
犬のケモノビトの海賊である。
と、いわれている。
この犬海賊は、海で散々暴虐の限りを尽くした。
と、いわれている。
そしてついには捕らわれ、処刑された。
と、いわれている。
だが捕らえた際に押収された財産は非常に少なく、どこかに財宝を隠したのではないかという噂がまことしやかにささやかれた。
と、いわれている。
また処刑時、ロジャーは人々に向かって「ワン! ワン!」と吠えた。
と、いわれている。
そして彼は死んだ。処刑の際、彼は不敵にもピースサインをしていた。
と、いわれている。
結局、その後、イ・ラプセルの騎士団がいくら探してもロジャーの財宝は見つかることなく、やがて、長いときの流れの中に忘れ去られていった。
と、いわれている。
世は別に犬海賊時代でも何でもなく、ただ何ていうか、眉唾モノ扱いされてる伝説の財宝『ワンワンピース』の地図とかいわれてるものを狸吉・ナーベノッグが手に入れたことから、このお話は始まるのだった。
「ぶっちゃけ何もないんじゃないッスかねぇ」
開口一番、元情報屋の某店店員である狸吉はまず夢をブッ壊しにかかった。
「おい」
彼の知己である自由騎士は、そのドライ極まる一言に思わずそう返す。
「いや、だって誰だってそう思うじゃないッスか」
とある店の中、大きな卓の上には狸吉が入手した地図が広げられている。
そこにはイ・ラプセル沿岸と思しき地形と、その近くにある無人島が描かれており、さらにその無人島にでっかく犬の肉球マークが記載されていた。
大雑把。
すごく、大雑把。
「これが宝の地図ッスよ?」
「これが宝の地図だけどさ」
胡散臭いを通り越して、子供の悪戯スメルすら感じ取れる地図である。
「ちなみに、この無人島は?」
「実際にあるッス」
自由騎士が示した無人島について、狸吉はすでに情報を集めていた。
「へぇ、あるのか。じゃあ実際にお宝があるかも――」
「島の名前は『コ・コニーハ・タカラナ・ンテ・ナ・イデス島』ッス」
「ふざけんな」
自由騎士は静かにキレた。
「ちなみに周辺の漁師さん達は『宝なんてないって言ってるんだしないんだろーなー』と思ってた、とのことッス」
「イ・ラプセルの漁師は脊椎反射だけで生きる生命体だったのか?」
半ば悲観しつつ、自由騎士は呟いた。
「おかげで、この島は今まで一回も調べられたことがないッス」
「うそやろ」
「遺憾ながら、本当ッス」
本当に遺憾な感じの顔つきをする狸吉を見て、自由騎士は絶句した。
「ちなみに――」
「はいッス?」
「狸吉としては、ここにお宝がある可能性はどれくらいあると思う?」
問われて、狸吉は腕組みして「う~ん」を呻く。
「そうッスねぇ~。これまで集めた情報を総合して考えるに――」
「考えるに?」
「あるかなぁ~、ないかなぁ~、いや、あるかなぁ~、ああでも、やっぱないかもなぁ~。う~ん。でも、もしかしたらあるかもなぁ~。もしかしたら! 程度ッスね」
「微妙!!?」
とても、微妙であった。
まぁ、だからこそ探しに行く楽しみというのも、ないではないのだろう。
かくして伝説の大秘宝――、と、いわれている『ワンワンピース』を探す(目的意識のうち大体二割)ため、ついでに無人島探索を楽しむ(目的意識のうち大体八割)ため、彼らは『コ・コニーハ・タカラナ・ンテ・ナ・イデス島』に向かうのだった!
かつて、イ・ラプセル近海を騒がせた犬海賊が存在した。
と、いわれている。
その海賊の名はゴールデンレトリバー・ロジャー。
犬のケモノビトの海賊である。
と、いわれている。
この犬海賊は、海で散々暴虐の限りを尽くした。
と、いわれている。
そしてついには捕らわれ、処刑された。
と、いわれている。
だが捕らえた際に押収された財産は非常に少なく、どこかに財宝を隠したのではないかという噂がまことしやかにささやかれた。
と、いわれている。
また処刑時、ロジャーは人々に向かって「ワン! ワン!」と吠えた。
と、いわれている。
そして彼は死んだ。処刑の際、彼は不敵にもピースサインをしていた。
と、いわれている。
結局、その後、イ・ラプセルの騎士団がいくら探してもロジャーの財宝は見つかることなく、やがて、長いときの流れの中に忘れ去られていった。
と、いわれている。
世は別に犬海賊時代でも何でもなく、ただ何ていうか、眉唾モノ扱いされてる伝説の財宝『ワンワンピース』の地図とかいわれてるものを狸吉・ナーベノッグが手に入れたことから、このお話は始まるのだった。
「ぶっちゃけ何もないんじゃないッスかねぇ」
開口一番、元情報屋の某店店員である狸吉はまず夢をブッ壊しにかかった。
「おい」
彼の知己である自由騎士は、そのドライ極まる一言に思わずそう返す。
「いや、だって誰だってそう思うじゃないッスか」
とある店の中、大きな卓の上には狸吉が入手した地図が広げられている。
そこにはイ・ラプセル沿岸と思しき地形と、その近くにある無人島が描かれており、さらにその無人島にでっかく犬の肉球マークが記載されていた。
大雑把。
すごく、大雑把。
「これが宝の地図ッスよ?」
「これが宝の地図だけどさ」
胡散臭いを通り越して、子供の悪戯スメルすら感じ取れる地図である。
「ちなみに、この無人島は?」
「実際にあるッス」
自由騎士が示した無人島について、狸吉はすでに情報を集めていた。
「へぇ、あるのか。じゃあ実際にお宝があるかも――」
「島の名前は『コ・コニーハ・タカラナ・ンテ・ナ・イデス島』ッス」
「ふざけんな」
自由騎士は静かにキレた。
「ちなみに周辺の漁師さん達は『宝なんてないって言ってるんだしないんだろーなー』と思ってた、とのことッス」
「イ・ラプセルの漁師は脊椎反射だけで生きる生命体だったのか?」
半ば悲観しつつ、自由騎士は呟いた。
「おかげで、この島は今まで一回も調べられたことがないッス」
「うそやろ」
「遺憾ながら、本当ッス」
本当に遺憾な感じの顔つきをする狸吉を見て、自由騎士は絶句した。
「ちなみに――」
「はいッス?」
「狸吉としては、ここにお宝がある可能性はどれくらいあると思う?」
問われて、狸吉は腕組みして「う~ん」を呻く。
「そうッスねぇ~。これまで集めた情報を総合して考えるに――」
「考えるに?」
「あるかなぁ~、ないかなぁ~、いや、あるかなぁ~、ああでも、やっぱないかもなぁ~。う~ん。でも、もしかしたらあるかもなぁ~。もしかしたら! 程度ッスね」
「微妙!!?」
とても、微妙であった。
まぁ、だからこそ探しに行く楽しみというのも、ないではないのだろう。
かくして伝説の大秘宝――、と、いわれている『ワンワンピース』を探す(目的意識のうち大体二割)ため、ついでに無人島探索を楽しむ(目的意識のうち大体八割)ため、彼らは『コ・コニーハ・タカラナ・ンテ・ナ・イデス島』に向かうのだった!
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.財宝を探す
2.無人島で遊ぶ
2.無人島で遊ぶ
ひとつなぎのだいひほーとかいわれてもなんのことかわかりません。
吾語です。
※このシナリオはウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)のリクエストによって作成されたシナリオです。
リクエストした以外のPCも参加することができます。
さて、この無人島には「海岸」、「岩場」、「森」、「山」の四か所があります。
そのどこかに伝説の大秘宝があるとされています。なので探しましょう。
プレイング中にどこに行くかを明記してください。
明記されていない場合は、こちらで振り分けることとなります。
あとはどう遊ぶか、どう探すか、それを書いていただければOKです!
それではプレイング、お待ちしてまーす。
吾語です。
※このシナリオはウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)のリクエストによって作成されたシナリオです。
リクエストした以外のPCも参加することができます。
さて、この無人島には「海岸」、「岩場」、「森」、「山」の四か所があります。
そのどこかに伝説の大秘宝があるとされています。なので探しましょう。
プレイング中にどこに行くかを明記してください。
明記されていない場合は、こちらで振り分けることとなります。
あとはどう遊ぶか、どう探すか、それを書いていただければOKです!
それではプレイング、お待ちしてまーす。
状態
完了
完了
報酬マテリア
6個
2個
2個
2個




参加費
100LP
100LP
相談日数
7日
7日
参加人数
6/6
6/6
公開日
2020年06月11日
2020年06月11日
†メイン参加者 6人†
●最初からかっ飛ばすのは大体こいつ
「謎は全て解けました」
島に上陸するなり、『ゴリ押しは正義』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)が他の自由騎士with狸吉に向かってそう告げる。
「この島の名前は『コ・コニーハ・タカラナ・ンテ・ナ・イデス島』……、これを入れ替えると、何ということでしょう。『ナナシマ・タカラ・ハ・ココニ・インデスー・テ』となります。……そう、もうお分かりですね? つまりは『七縞の宝は此処にINですって!』となるのです! つまり、この島の名前自体が伝説の大秘宝かもしれないワンワンピースの場所を示すヒントになっていたのです! お宝はきっと縞模様の綺麗な何かなんです。そうに違いありません!」
言い切って、アンジェリカはビシッと天へと指を突き上げた。
「よーし、みんな揃ってるなー」
「「「おー」」」
そして他の自由騎士達はそれを受け流した。
「じゃあ、最初は強く当たって流れでGO。でお願いするっす」
「おまえ、それ巷じゃ『何も考えてない』っていうんだが?」
今回の発起人である狸吉の言葉に、雇い主である『エレガントベア』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)がさすがに難しい顔をする。
しかし狸吉、
「え、まさかお宝が本当にあると思ってるんすか?」
この開き直りようである。
「何か、いろんな要素がありすぎて脳内オーバーフローして、逆にあるかもしれないって思ってきてる。……これで何かあったら納得しそうだわ、俺」
ウェルスは腕を組んで唸りつつ、そんなことを呟いた。
「あら、だったらあると思っておいた方がいいわ。その方がロマンがあるじゃない」
彼にそう告げたのは、天哉熾 ハル(CL3000678)であった。
「今回はお仕事じゃないんだから気楽に行けばいいと思うわ。つまり、秘宝よ! ひとつまみでも大秘宝ならすごそうじゃないかしら? とっても楽しみだわ」
こちらはどうやら、やる気満々のようだ。
「この日のためにリュンケウスの瞳・急も用意してきたわ」
やる気がありすぎて、ややメタいことも言ってしまう有様である。
「宝の地図自体はただの眉唾で済む話だけど、島の名前はさすがに眉間にしわが寄る」
などと、一般論過ぎる一般論を口に出したのはルエ・アイドクレース(CL3000673)である。今回の同行者の中では常識枠としての活躍が期待される。
「グリ、海が広いな。すごい、なー」
「うーみー! もーりー!」
『異国のオルフェン』イーイー・ケルツェンハイム(CL3000076)と『見習い銃士』グリッツ・ケルツェンハイム(CL3000057)の二人にいたっては、秘宝のことなど最初から眼中にないといった様子で、今回の無人島探索を満喫するつもりのようだった。
「さぁ、いよいよイ・ラプセルに伝わる最大最高の大秘宝と謳われしワンワンピースの謎を解明する大探索がここに開始されるのです!」
「あれ、これそんな大冒険だったっけ?」
やる気に満ち溢れ全身からオーラを迸らせるアンジェリカに、ウェルスが首をかしげる。
かくして、大秘宝の探索と書いて自由騎士達の休日と読む一日が始まった。
●そして彼らはキャンプをする
「グリー、そっちどーだー」
「んー、もうちょっと。……よし、おわったぞー。イーちゃん」
海岸近くで、イーイーとグリッツがテントを張っていた。
今日ここで泊まるワケでもないのだが、そこら辺は気分というヤツである。
ちなみにテントは中古品だが、グリッツが騎士団の訓練でも使っているものなので強度は十分。テントの立て方もしっかりと心得ている。
「雨降らないといいなー」
「いい天気だし、雨は大丈夫だと思うよ」
空を見上げるイーイーに、木製のかごを手にしたグリッツが言う。
「お魚はイーちゃんに任せるからね」
「おー、任せとけー」
イーイーも釣竿を手にしてコクコクうなずいた。
その後、グリッツは山へ山菜取りに、イーイーは海へ釣りに向かった。
まずは山に到着したグリッツ。
彼は辺りに目をやって、そこに早速山菜を見つけてかごの中に次々放っていく。
「お」
と、見ると、そこには立派に伸びたキノコ。
知っている種類だった。食べられるヤツだ。しかも美味しい。
無論、採らないという選択肢はなかった。
「ここ、結構いいかも」
上々な結果にご満悦なグリッツであったが、そこに近くから聞こえるガサという音。
その瞬間、彼は一切の動きを止めた。
この辺りは訓練を重ねた自由騎士であるがゆえだろう。
「……何だろ?」
念のため持ってきたライフルを両手に構え、グリッツはまずその場で身を低くする。
息を殺して耳を済ますと、足音が近づいてきた。
足音は思っていたよりも大きい。そして重い。ウサギなどではないようだ。
待つことしばし、ついに足音の主がグリッツの前に現れる。
そして――、銃声。
「あれ、今何か、音したか?」
一方、海にて釣りを行なっているイーイー。
適当な岩場に腰を下ろして、彼はエサをつけた釣り針を海へと投げ込んだ。
すると、少し間を置いて反応がある。
「とりゃっ!」
威勢のいい掛け声と共に、イーイーはまた一匹、魚を釣り上げる。
「ちぇ、大物じゃないな」
しかし、釣ったのはいずれもさほど大きくはない魚ばかり。
とはいえこうした魚は鍋で煮込む際にダシがよく出るので、使い道はちゃんとある。
だがやはり、メインを飾る大物は欲しいところ。
「よし、次こそ」
意気込むイーイー。そして再び釣り針を海面に投げようとしたところで、
「イーちゃーん!」
森の入り口付近から、イーイーを呼ぶグリッツの声がする。
「何だよ、どうした。グリ」
「あっちでね、仕留めたよー!」
急にやってきて仕留めた、とだけ言われても、当然意味がわからない。
しかしグリッツは何やら興奮した様子でイーイーを引っ張って森の中に連れていく。
「うわ!」
そこで彼が見たものは、森の真ん中に転がっている大きな鹿だった。
「これ、グリが?」
「うん!」
驚きつつ尋ねると、グリッツが勢い良くうなずいた。
イーイーが「ちぇ」と小さく舌打ち。
「俺が大物釣る必要、なくなっちゃったじゃんか」
言いつつ、その顔は笑っているイーイーであった。
え? ワンワンピース? 何だっけ、それ?
●初夏の海とかが多分一番気持ちいい
六月。
初夏の風薫る、日差しも眩しい、その日の海岸。
なでるようにして漂う潮の香りが、この場がどこまでも続く海なのだと教えてくれる。
この島に来ることになったときから、常の彼女の中には高揚感があった。
別に、意中の人と海に来た、などというロマンチックなものではない。
しかし気分的には、あるいはそれよりも楽しめそうだと、期待しているところもある。
ああ、いや、性的なコンテンツではないのでそういう意味ではなく。
単純に、夏の始まりを海で迎えられるというのが、楽しいのだ。
というわけで、天哉熾 ハルは笑顔だった。
「綺麗で素敵だわ」
連れてこられた無人島は、それほど大きくないとはいえ六人で遊ぶには十分な広さだ。
海がほど近いこの岩場などは、一人で占領するのが惜しいくらいに楽しい。
こういう場所には、思いがけず意外なものがあったりする。
山近くの岩場ならば珍しい薬草などが。
こうした、海に近い岩場ならば、例えば干せば薬になる生き物などが。
時々、見つかったりするのだ。
医学知識豊富なハルならば、それらを決して見逃したりはしない。
そして実際、それらを探すことからしてすでに楽しい。
すでに二十歳を超えているハルだが、今はまさしく、童心に帰っていた。
「もう少し、もう少し……!」
そんな彼女がしていること、それは――、
「ゲットよ!」
岩場の隙間に伸ばした手が、つるりとした感触を捕まえる。
彼女の手の中でモゾモゾも動いているのは、カニだった。
そう、ハルはカニ捕りに興じていたのだ。
用意してきた入れ物には、すでに多くのカニが収められている。
こういう場所なのだからいるかと思っていたら、予想よりもはるかに多かったわけである。そりゃあテンションも上がるってモンだ。
「貝とかいないかしら?」
辺りをキョロキョロ見回して、ハルは次の獲物を探す。
今のハルは、まさに岩場の女王であった。
一方、少し離れた海中にて――、
「…………ふぅ」
ルエが、海中を漂っていた。
ミズヒトである彼は、それこそまるでクラゲのようにユラユラとしていた。
やはりイ・ラプセル領内だからか、この辺りは海水も澄んでいた。
外から見てもはっきりとわかる青い海は、中に入るとなおさらその美しさを増した。
水中であってもデメリットなく行動できるアドバンテージが、こういうときに思いがけず役に立ってくれている。水底まではっきりと見通せるのだ。
透明度の高い海水は、陽の光をそのまま通して、白砂が堆積した海底に揺らぐ青い影を形作る。それはまるで海中のオーロラ。
常に明度を変え、形を変える様は、見ていて少しも飽きることがない。
海中を漂うルエの眼前を、魚が横切っていく、
魚も含めて、彼が見る海底は完全に一つの景色として完成していた。
しばし、見惚れる。
この景色を目にできただけでも、ここに来た価値があった。
心の底からそう思えた。
いや、もしかしたらワンワンピースとは今自分が見ている美しい景色のことでは?
そう思えてしまうほどの景色に、ルエは心の底からの笑みを浮かべた。
「さすがに、それはないだろうけど」
浮かんできた自分の考えに、思わず苦笑する。
ここで過ごした時間こそが本物の宝物。
それは、陳腐なお話によく見られる結末だが、さすがにそれはないと思いたい。
わざわざ地図まで残した秘宝なのだから。
いや、あの地図が本物であれば、という前提にはなるのだが――、
「まぁ、いいか……」
そこで一旦考えるのをやめて、ルエは今しばし、自分が見つけた自分だけの水底の宝石を愛でることにするのだった。
●森のくまさんと犬海賊の犬秘宝
ウェルスは森にいた。
「……とりあえず、何かあったらそれはそれでどう感じればいいかわからん」
木々の間を器用に歩きながら、彼はそんなことを呟く。
「いや~、でも地図はあったっすからねー」
「あれが本物である確率は、どれくらいと思う?」
「え、あれが本物な可能性ってあるんすか?」
隣を歩く狸吉の潔いまでの一言に、ウェルスは口を閉ざした。
この狸、冗談のつもりで言っているならアレだが、心底純粋なまなざしで言いやがった。
ああ、全くその通り。
ウェルスだって地図が本物である可能性などほとんど考えていない。
しかし、上陸早々飛び出していったアンジェリカを思うと、そこで地図の存在を軽んじて無視するのも、何か浪漫に欠ける気がしてならないのだ。
「ま、一人くらいは真面目に宝探ししてもいいか」
そして彼は、狸吉を見る。
「おまえも付き合えよ」
「えー」
「えー、じゃなくて。給料減らすぞ」
「宝探しならばこの狸吉にお任せを! 見てくださいっす、この軽やかな身のこなし!」
と、自称軽やかな身のこなしを見せようと何やら忙しく動く狸吉だが、ウェルスの目から見るとそれは死にかけた芋虫の物まねに見えた。
普段から肉体を使うことが多い最前線の自由騎士と一般人の差って大きいなぁ。
「しかし、この島、結構木の実とかは多いな」
近くにあった果実をもぎとり、一口。甘酸っぱさが口の中に広がる。
「鹿とかもいるみたいっすねー。いい島っす」
「こんな島が私有地じゃないのが嘘みたいだな……」
島の所有権についてあらかじめ調べたウェルスだが、誰のものでもないことが判明していた。正確には、国の監視下に置かれているが別に何かが禁止されているわけではない。
遊びに行きたきゃ行ってもいいよ、とは国の担当者の発言である。
「ウチの国、ゆるくね?」
「常時戦争ばっかじゃ気が滅入るっすからね~」
のんびり歩きつつ言う狸吉の言葉は、ある意味、正解なのかもしれない。
「……ま、確かにな」
ウェルスもうなずくと、近くから何か妙な音が。
「ん?」
「何すかね、この、ガツッ、ガツッ、っていう音」
「あー……」
ウェルスにはすぐにわかった。
この音は前方、森の終わりの向こうから聞こえてきている。
「ヤツだ」
それだけ告げて、ウェルスが森を出ていく。そのあとに狸吉も続いた。
そして森の先にある山。そこに彼らが見た光景は。
「ここですか? ここですか? ここですか? お別れです!」
嵐の如きスコップブン回し具合で地面を掘り返しているアンジェリカの姿だった。
「ウフフフフフフフフ、勝利など容易い!」
言いつつ、彼女のスコップが唸りをあげて掘り返したデカイ石を空中に投げ飛ばす。
「うおお!? あっぶねぇな!」
「あら?」
落ちてくる石を避けて叫ぶウェルスに、アンジェリカが気づいて振り向く。
「あらあら、ようこそ、私の勝利の空間へ?」
「何が勝利だよ……」
辺りを見れば穴ぼこだらけ、やたらめったら掘り返されている。
「フフ、スコップで掘るたびに大きな石に出くわしてはそれを地上に放り投げてしました。出会う石全てに勝利してしまったのです。……ああ、敗北が知りたい!」
「ところで宝あった?」
「…………」
「敗北街道まっしぐらじゃねぇか!」
黙りこくるアンジェリカに、ウェルスは思わず叫んでいた。
「いや、でも何か、この辺りにあるような気がしてですね……」
「あァん?」
いきなり小声になるアンジェリカ。
しかし、言われたウェルスは何となく辺りを探り、彼女と同じように感じるのだった。
「わ、あるかも」
「でしょ? でしょ? そうでしょう!?」
アンジェリカの声が大きくなった。出力が安定しないマイクか何かだろうか。
「これで確信が深まりました。今こそ私の奥の手を使うとき!」
「奥の手……」
「って、なんすか?」
ポカンとするウェルスと狸吉の前で、アンジェリカは声を張り上げた。
「メディック! メディ――――ック!」
「お呼びとあらば!」
「即見参!」
「我らこそ!」
「イ・ラプセル衛生部隊!」
「全員、整列!」
「「「ィイ――――ッ!」」」
アンジェリカの号令によって、衛生兵達が整列した。
一糸乱れぬその動き。統率のとれた衛生部隊を見て、ウェルスが言った。
「おまえ、ピクニックに何持ちこんでるの?」
「戦争は数ですよ、ウェルス様」
「宝探しだよ、バカヤロウ」
辛辣にブッ刺すウェルスだが、実際、人海戦術が有効な場面なのがムカつく。
「では皆さん、作業開始です!」
「「「ィイ――――ッ!」」」
そして再開される宝探しという名のチキチキ穴掘り選手権。
それを見ながら、狸吉はウェルスに尋ねた。
「あると思うっすか?」
「さすがにこれで見つかったら、何か、その、違うだろ……」
「ありましたー!」
響き渡るその声に、狸吉がウェルスを見る。
「……何か、その、違くね?」
同じ言葉を繰り返すしかない、森のくまさんであった。
●ワンワンピース、ここに
表面にでっかく『犬』と書かれた、宝箱。
「……自己主張が激しすぎないか?」
マキナ=ギアで連絡を受けて戻ってきたルエが、それを見て呟いた。
「それ、おれも言った」
「僕も」
「アタシも」
「俺も」
「俺もっす」
「私もです」
全員、思いは一つであるようだった。
「でも、本当にあったのね……」
ハルが信じがたいといった面持ちで言う。それもまた皆同じ感想。
「とにかく、開けてみるっす」
息を呑んで、狸吉が宝箱の蓋を開けようとする。
伝説の犬海賊が隠したと伝えられる秘宝。その正体とは――!?
「……あれ?」
皆が見つめる中、開けられた宝箱の中には一枚の紙きれ。
「何ですか、これ? 新しい宝の地図?」
不思議に思いながらアンジェリカが拾い上げると、何やら文字が書いてある。
『よくぞこの宝箱を見つけた。だが秘宝とは何も財宝のことではない。そう、おまえ達がこれを見つけるまでしてきた数々の体験こそが真の大秘宝――』
イーイーが奪い取った紙きれをクシャクシャに丸めて箱の中に叩き込んだ。
さらにグリッツがかかと落としで宝箱の蓋を勢いよく叩いて閉める。
「そォい!」
直後、アンジェリカがスコップを宝箱の下に差し込み、全力で跳ね上げた。
大きく空中へと投げ出される犬海賊の宝箱。
「業剣! 業剣業剣業剣業剣業剣業剣業剣業剣業剣業剣業剣業剣! 業剣ッ!」
「おっと手が滑ったデッドリースクライド!」
ハルとルエとが、怒りの限りを込めて魔剣士スキルで宝箱を空中破壊。
そして破片を散らした箱の中から現れた紙きれを、ウェルスが狙う。
「――JackPot」
彼の放った弾丸が、紙きれのど真ん中に命中。威力余って紙きれは粉々に散った。
「終わったっすね……、何もかも」
狸吉が呟いて、宝の地図を破り捨てる。ワンワンピースなんてなかった。
「夕飯食って帰るぞォォォォォォォォォ!」
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」
かくして夕焼けに染まる無人島で、何かをごまかす大宴会が始まるのだった。
あ、夕飯は色々豪勢だったようです。
「謎は全て解けました」
島に上陸するなり、『ゴリ押しは正義』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)が他の自由騎士with狸吉に向かってそう告げる。
「この島の名前は『コ・コニーハ・タカラナ・ンテ・ナ・イデス島』……、これを入れ替えると、何ということでしょう。『ナナシマ・タカラ・ハ・ココニ・インデスー・テ』となります。……そう、もうお分かりですね? つまりは『七縞の宝は此処にINですって!』となるのです! つまり、この島の名前自体が伝説の大秘宝かもしれないワンワンピースの場所を示すヒントになっていたのです! お宝はきっと縞模様の綺麗な何かなんです。そうに違いありません!」
言い切って、アンジェリカはビシッと天へと指を突き上げた。
「よーし、みんな揃ってるなー」
「「「おー」」」
そして他の自由騎士達はそれを受け流した。
「じゃあ、最初は強く当たって流れでGO。でお願いするっす」
「おまえ、それ巷じゃ『何も考えてない』っていうんだが?」
今回の発起人である狸吉の言葉に、雇い主である『エレガントベア』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)がさすがに難しい顔をする。
しかし狸吉、
「え、まさかお宝が本当にあると思ってるんすか?」
この開き直りようである。
「何か、いろんな要素がありすぎて脳内オーバーフローして、逆にあるかもしれないって思ってきてる。……これで何かあったら納得しそうだわ、俺」
ウェルスは腕を組んで唸りつつ、そんなことを呟いた。
「あら、だったらあると思っておいた方がいいわ。その方がロマンがあるじゃない」
彼にそう告げたのは、天哉熾 ハル(CL3000678)であった。
「今回はお仕事じゃないんだから気楽に行けばいいと思うわ。つまり、秘宝よ! ひとつまみでも大秘宝ならすごそうじゃないかしら? とっても楽しみだわ」
こちらはどうやら、やる気満々のようだ。
「この日のためにリュンケウスの瞳・急も用意してきたわ」
やる気がありすぎて、ややメタいことも言ってしまう有様である。
「宝の地図自体はただの眉唾で済む話だけど、島の名前はさすがに眉間にしわが寄る」
などと、一般論過ぎる一般論を口に出したのはルエ・アイドクレース(CL3000673)である。今回の同行者の中では常識枠としての活躍が期待される。
「グリ、海が広いな。すごい、なー」
「うーみー! もーりー!」
『異国のオルフェン』イーイー・ケルツェンハイム(CL3000076)と『見習い銃士』グリッツ・ケルツェンハイム(CL3000057)の二人にいたっては、秘宝のことなど最初から眼中にないといった様子で、今回の無人島探索を満喫するつもりのようだった。
「さぁ、いよいよイ・ラプセルに伝わる最大最高の大秘宝と謳われしワンワンピースの謎を解明する大探索がここに開始されるのです!」
「あれ、これそんな大冒険だったっけ?」
やる気に満ち溢れ全身からオーラを迸らせるアンジェリカに、ウェルスが首をかしげる。
かくして、大秘宝の探索と書いて自由騎士達の休日と読む一日が始まった。
●そして彼らはキャンプをする
「グリー、そっちどーだー」
「んー、もうちょっと。……よし、おわったぞー。イーちゃん」
海岸近くで、イーイーとグリッツがテントを張っていた。
今日ここで泊まるワケでもないのだが、そこら辺は気分というヤツである。
ちなみにテントは中古品だが、グリッツが騎士団の訓練でも使っているものなので強度は十分。テントの立て方もしっかりと心得ている。
「雨降らないといいなー」
「いい天気だし、雨は大丈夫だと思うよ」
空を見上げるイーイーに、木製のかごを手にしたグリッツが言う。
「お魚はイーちゃんに任せるからね」
「おー、任せとけー」
イーイーも釣竿を手にしてコクコクうなずいた。
その後、グリッツは山へ山菜取りに、イーイーは海へ釣りに向かった。
まずは山に到着したグリッツ。
彼は辺りに目をやって、そこに早速山菜を見つけてかごの中に次々放っていく。
「お」
と、見ると、そこには立派に伸びたキノコ。
知っている種類だった。食べられるヤツだ。しかも美味しい。
無論、採らないという選択肢はなかった。
「ここ、結構いいかも」
上々な結果にご満悦なグリッツであったが、そこに近くから聞こえるガサという音。
その瞬間、彼は一切の動きを止めた。
この辺りは訓練を重ねた自由騎士であるがゆえだろう。
「……何だろ?」
念のため持ってきたライフルを両手に構え、グリッツはまずその場で身を低くする。
息を殺して耳を済ますと、足音が近づいてきた。
足音は思っていたよりも大きい。そして重い。ウサギなどではないようだ。
待つことしばし、ついに足音の主がグリッツの前に現れる。
そして――、銃声。
「あれ、今何か、音したか?」
一方、海にて釣りを行なっているイーイー。
適当な岩場に腰を下ろして、彼はエサをつけた釣り針を海へと投げ込んだ。
すると、少し間を置いて反応がある。
「とりゃっ!」
威勢のいい掛け声と共に、イーイーはまた一匹、魚を釣り上げる。
「ちぇ、大物じゃないな」
しかし、釣ったのはいずれもさほど大きくはない魚ばかり。
とはいえこうした魚は鍋で煮込む際にダシがよく出るので、使い道はちゃんとある。
だがやはり、メインを飾る大物は欲しいところ。
「よし、次こそ」
意気込むイーイー。そして再び釣り針を海面に投げようとしたところで、
「イーちゃーん!」
森の入り口付近から、イーイーを呼ぶグリッツの声がする。
「何だよ、どうした。グリ」
「あっちでね、仕留めたよー!」
急にやってきて仕留めた、とだけ言われても、当然意味がわからない。
しかしグリッツは何やら興奮した様子でイーイーを引っ張って森の中に連れていく。
「うわ!」
そこで彼が見たものは、森の真ん中に転がっている大きな鹿だった。
「これ、グリが?」
「うん!」
驚きつつ尋ねると、グリッツが勢い良くうなずいた。
イーイーが「ちぇ」と小さく舌打ち。
「俺が大物釣る必要、なくなっちゃったじゃんか」
言いつつ、その顔は笑っているイーイーであった。
え? ワンワンピース? 何だっけ、それ?
●初夏の海とかが多分一番気持ちいい
六月。
初夏の風薫る、日差しも眩しい、その日の海岸。
なでるようにして漂う潮の香りが、この場がどこまでも続く海なのだと教えてくれる。
この島に来ることになったときから、常の彼女の中には高揚感があった。
別に、意中の人と海に来た、などというロマンチックなものではない。
しかし気分的には、あるいはそれよりも楽しめそうだと、期待しているところもある。
ああ、いや、性的なコンテンツではないのでそういう意味ではなく。
単純に、夏の始まりを海で迎えられるというのが、楽しいのだ。
というわけで、天哉熾 ハルは笑顔だった。
「綺麗で素敵だわ」
連れてこられた無人島は、それほど大きくないとはいえ六人で遊ぶには十分な広さだ。
海がほど近いこの岩場などは、一人で占領するのが惜しいくらいに楽しい。
こういう場所には、思いがけず意外なものがあったりする。
山近くの岩場ならば珍しい薬草などが。
こうした、海に近い岩場ならば、例えば干せば薬になる生き物などが。
時々、見つかったりするのだ。
医学知識豊富なハルならば、それらを決して見逃したりはしない。
そして実際、それらを探すことからしてすでに楽しい。
すでに二十歳を超えているハルだが、今はまさしく、童心に帰っていた。
「もう少し、もう少し……!」
そんな彼女がしていること、それは――、
「ゲットよ!」
岩場の隙間に伸ばした手が、つるりとした感触を捕まえる。
彼女の手の中でモゾモゾも動いているのは、カニだった。
そう、ハルはカニ捕りに興じていたのだ。
用意してきた入れ物には、すでに多くのカニが収められている。
こういう場所なのだからいるかと思っていたら、予想よりもはるかに多かったわけである。そりゃあテンションも上がるってモンだ。
「貝とかいないかしら?」
辺りをキョロキョロ見回して、ハルは次の獲物を探す。
今のハルは、まさに岩場の女王であった。
一方、少し離れた海中にて――、
「…………ふぅ」
ルエが、海中を漂っていた。
ミズヒトである彼は、それこそまるでクラゲのようにユラユラとしていた。
やはりイ・ラプセル領内だからか、この辺りは海水も澄んでいた。
外から見てもはっきりとわかる青い海は、中に入るとなおさらその美しさを増した。
水中であってもデメリットなく行動できるアドバンテージが、こういうときに思いがけず役に立ってくれている。水底まではっきりと見通せるのだ。
透明度の高い海水は、陽の光をそのまま通して、白砂が堆積した海底に揺らぐ青い影を形作る。それはまるで海中のオーロラ。
常に明度を変え、形を変える様は、見ていて少しも飽きることがない。
海中を漂うルエの眼前を、魚が横切っていく、
魚も含めて、彼が見る海底は完全に一つの景色として完成していた。
しばし、見惚れる。
この景色を目にできただけでも、ここに来た価値があった。
心の底からそう思えた。
いや、もしかしたらワンワンピースとは今自分が見ている美しい景色のことでは?
そう思えてしまうほどの景色に、ルエは心の底からの笑みを浮かべた。
「さすがに、それはないだろうけど」
浮かんできた自分の考えに、思わず苦笑する。
ここで過ごした時間こそが本物の宝物。
それは、陳腐なお話によく見られる結末だが、さすがにそれはないと思いたい。
わざわざ地図まで残した秘宝なのだから。
いや、あの地図が本物であれば、という前提にはなるのだが――、
「まぁ、いいか……」
そこで一旦考えるのをやめて、ルエは今しばし、自分が見つけた自分だけの水底の宝石を愛でることにするのだった。
●森のくまさんと犬海賊の犬秘宝
ウェルスは森にいた。
「……とりあえず、何かあったらそれはそれでどう感じればいいかわからん」
木々の間を器用に歩きながら、彼はそんなことを呟く。
「いや~、でも地図はあったっすからねー」
「あれが本物である確率は、どれくらいと思う?」
「え、あれが本物な可能性ってあるんすか?」
隣を歩く狸吉の潔いまでの一言に、ウェルスは口を閉ざした。
この狸、冗談のつもりで言っているならアレだが、心底純粋なまなざしで言いやがった。
ああ、全くその通り。
ウェルスだって地図が本物である可能性などほとんど考えていない。
しかし、上陸早々飛び出していったアンジェリカを思うと、そこで地図の存在を軽んじて無視するのも、何か浪漫に欠ける気がしてならないのだ。
「ま、一人くらいは真面目に宝探ししてもいいか」
そして彼は、狸吉を見る。
「おまえも付き合えよ」
「えー」
「えー、じゃなくて。給料減らすぞ」
「宝探しならばこの狸吉にお任せを! 見てくださいっす、この軽やかな身のこなし!」
と、自称軽やかな身のこなしを見せようと何やら忙しく動く狸吉だが、ウェルスの目から見るとそれは死にかけた芋虫の物まねに見えた。
普段から肉体を使うことが多い最前線の自由騎士と一般人の差って大きいなぁ。
「しかし、この島、結構木の実とかは多いな」
近くにあった果実をもぎとり、一口。甘酸っぱさが口の中に広がる。
「鹿とかもいるみたいっすねー。いい島っす」
「こんな島が私有地じゃないのが嘘みたいだな……」
島の所有権についてあらかじめ調べたウェルスだが、誰のものでもないことが判明していた。正確には、国の監視下に置かれているが別に何かが禁止されているわけではない。
遊びに行きたきゃ行ってもいいよ、とは国の担当者の発言である。
「ウチの国、ゆるくね?」
「常時戦争ばっかじゃ気が滅入るっすからね~」
のんびり歩きつつ言う狸吉の言葉は、ある意味、正解なのかもしれない。
「……ま、確かにな」
ウェルスもうなずくと、近くから何か妙な音が。
「ん?」
「何すかね、この、ガツッ、ガツッ、っていう音」
「あー……」
ウェルスにはすぐにわかった。
この音は前方、森の終わりの向こうから聞こえてきている。
「ヤツだ」
それだけ告げて、ウェルスが森を出ていく。そのあとに狸吉も続いた。
そして森の先にある山。そこに彼らが見た光景は。
「ここですか? ここですか? ここですか? お別れです!」
嵐の如きスコップブン回し具合で地面を掘り返しているアンジェリカの姿だった。
「ウフフフフフフフフ、勝利など容易い!」
言いつつ、彼女のスコップが唸りをあげて掘り返したデカイ石を空中に投げ飛ばす。
「うおお!? あっぶねぇな!」
「あら?」
落ちてくる石を避けて叫ぶウェルスに、アンジェリカが気づいて振り向く。
「あらあら、ようこそ、私の勝利の空間へ?」
「何が勝利だよ……」
辺りを見れば穴ぼこだらけ、やたらめったら掘り返されている。
「フフ、スコップで掘るたびに大きな石に出くわしてはそれを地上に放り投げてしました。出会う石全てに勝利してしまったのです。……ああ、敗北が知りたい!」
「ところで宝あった?」
「…………」
「敗北街道まっしぐらじゃねぇか!」
黙りこくるアンジェリカに、ウェルスは思わず叫んでいた。
「いや、でも何か、この辺りにあるような気がしてですね……」
「あァん?」
いきなり小声になるアンジェリカ。
しかし、言われたウェルスは何となく辺りを探り、彼女と同じように感じるのだった。
「わ、あるかも」
「でしょ? でしょ? そうでしょう!?」
アンジェリカの声が大きくなった。出力が安定しないマイクか何かだろうか。
「これで確信が深まりました。今こそ私の奥の手を使うとき!」
「奥の手……」
「って、なんすか?」
ポカンとするウェルスと狸吉の前で、アンジェリカは声を張り上げた。
「メディック! メディ――――ック!」
「お呼びとあらば!」
「即見参!」
「我らこそ!」
「イ・ラプセル衛生部隊!」
「全員、整列!」
「「「ィイ――――ッ!」」」
アンジェリカの号令によって、衛生兵達が整列した。
一糸乱れぬその動き。統率のとれた衛生部隊を見て、ウェルスが言った。
「おまえ、ピクニックに何持ちこんでるの?」
「戦争は数ですよ、ウェルス様」
「宝探しだよ、バカヤロウ」
辛辣にブッ刺すウェルスだが、実際、人海戦術が有効な場面なのがムカつく。
「では皆さん、作業開始です!」
「「「ィイ――――ッ!」」」
そして再開される宝探しという名のチキチキ穴掘り選手権。
それを見ながら、狸吉はウェルスに尋ねた。
「あると思うっすか?」
「さすがにこれで見つかったら、何か、その、違うだろ……」
「ありましたー!」
響き渡るその声に、狸吉がウェルスを見る。
「……何か、その、違くね?」
同じ言葉を繰り返すしかない、森のくまさんであった。
●ワンワンピース、ここに
表面にでっかく『犬』と書かれた、宝箱。
「……自己主張が激しすぎないか?」
マキナ=ギアで連絡を受けて戻ってきたルエが、それを見て呟いた。
「それ、おれも言った」
「僕も」
「アタシも」
「俺も」
「俺もっす」
「私もです」
全員、思いは一つであるようだった。
「でも、本当にあったのね……」
ハルが信じがたいといった面持ちで言う。それもまた皆同じ感想。
「とにかく、開けてみるっす」
息を呑んで、狸吉が宝箱の蓋を開けようとする。
伝説の犬海賊が隠したと伝えられる秘宝。その正体とは――!?
「……あれ?」
皆が見つめる中、開けられた宝箱の中には一枚の紙きれ。
「何ですか、これ? 新しい宝の地図?」
不思議に思いながらアンジェリカが拾い上げると、何やら文字が書いてある。
『よくぞこの宝箱を見つけた。だが秘宝とは何も財宝のことではない。そう、おまえ達がこれを見つけるまでしてきた数々の体験こそが真の大秘宝――』
イーイーが奪い取った紙きれをクシャクシャに丸めて箱の中に叩き込んだ。
さらにグリッツがかかと落としで宝箱の蓋を勢いよく叩いて閉める。
「そォい!」
直後、アンジェリカがスコップを宝箱の下に差し込み、全力で跳ね上げた。
大きく空中へと投げ出される犬海賊の宝箱。
「業剣! 業剣業剣業剣業剣業剣業剣業剣業剣業剣業剣業剣業剣! 業剣ッ!」
「おっと手が滑ったデッドリースクライド!」
ハルとルエとが、怒りの限りを込めて魔剣士スキルで宝箱を空中破壊。
そして破片を散らした箱の中から現れた紙きれを、ウェルスが狙う。
「――JackPot」
彼の放った弾丸が、紙きれのど真ん中に命中。威力余って紙きれは粉々に散った。
「終わったっすね……、何もかも」
狸吉が呟いて、宝の地図を破り捨てる。ワンワンピースなんてなかった。
「夕飯食って帰るぞォォォォォォォォォ!」
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」
かくして夕焼けに染まる無人島で、何かをごまかす大宴会が始まるのだった。
あ、夕飯は色々豪勢だったようです。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
称号付与
『準備と根回しはキチンとやる男』
取得者: ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)
『宝探しガチ勢』
取得者: アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)
『カニ捕り名人』
取得者: 天哉熾 ハル(CL3000678)
『水底に揺れる』
取得者: ルエ・アイドクレース(CL3000673)
『釣った魚が美味かった』
取得者: イーイー・ケルツェンハイム(CL3000076)
『狩った鹿が美味かった』
取得者: グリッツ・ケルツェンハイム(CL3000057)
取得者: ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)
『宝探しガチ勢』
取得者: アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)
『カニ捕り名人』
取得者: 天哉熾 ハル(CL3000678)
『水底に揺れる』
取得者: ルエ・アイドクレース(CL3000673)
『釣った魚が美味かった』
取得者: イーイー・ケルツェンハイム(CL3000076)
『狩った鹿が美味かった』
取得者: グリッツ・ケルツェンハイム(CL3000057)
†あとがき†
色々とお疲れさまでした。色々と。
いやぁ、こいつぁひでーや。
というわけでピクニック、楽しんでいただけたら幸いです。
ワンワンピースなんてなかった。
ご参加ありがとうございましたー。
いやぁ、こいつぁひでーや。
というわけでピクニック、楽しんでいただけたら幸いです。
ワンワンピースなんてなかった。
ご参加ありがとうございましたー。
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