MagiaSteam
オールシーズンズとラスカルズ




「や、約束が違うっ!!」
 暗い部屋で椅子に座らせられ、ロープで縛られた紳士が取り囲む男達に叫ぶ。
 
 時間は少し戻る。
 イ・ラプセルにサーカス「オンリーワン」が到着し、興行場所の確認を団長であるオールシーズンズが行っていた時だった。
「誰にことわってここで商売しようとしてるんだ? アァン?」
 卑しい笑いを浮かべながら、いかにもタチが悪そうな男達が近づいてくる。
「なんですか、君達は……。当然国王からの許可は頂いていますよ」
 すっ、とオールシーズンズの首元へナイフが当てられる。
「そういうことを言ってるんじゃねぇ。ここら一帯を締めてる俺たち(ラスカルズ)との話し合いは出来てるのかって聞いてんだよ」
 凄みを利かせていきり立つ男。とても全うな話が通じる相手ではなさそうだ。
「おいおい、そんなんじゃ交渉にならないダロォ」
 近づいてくるひときわ堂々たる体躯の男。他の者とは明らかに違う空気。
 その男はジョセフと名乗った。
「俺たちは別に集ろうってワケじゃねぇんダゼェ……おっさんに買ってもらいたいモンがあるんだヨォ」
 その男は口元を歪めて嗤った。

 そして話は現在へ戻る。
「君たちの言い値で指輪も購入した。そして子供達にも指輪を持たせた。これで我々にはもう手出ししないと約束したじゃないかっ。それなのに……何故ワタシをっ」
 男達は誰も答えない。
 しばしの静寂の中、ジョセフが口を開く。
「……さてと。なんだか知らねぇけど、自由騎士団(アイツら)のせいで予定は狂っちまったしナァ。おっさん、アンタもう用無しダァ。だーいじょうぶ、そんな顔すんなって。すぐオマエの大事な団員達も、後を追わせてやるヨォ。ん~~~俺ってなんて優しいんダァ。ギャハ……ギャハハハハハハハ!!!」
 ジョセフの持つナイフが鈍く光った。

 このままではワタシの子供達が……
 誰か…… 誰か……



「サーカス『オンリーワン』の団長の所在が判明した」
『軍事顧問』フレデリック・ミハイロフ(nCL3000005)がそう告げる。
「どうやら、ラスカルズによって監禁されていたようだ。彼の身が、そしてサーカスの団員達にも危機が迫っている」
 一刻の猶予も無い事は理解している。だが少しの静寂。自由騎士たちには解せない部分がある。それが思わず表情に出る。
「ある意味同じ境遇……マザリモノとして迫害される側のラスカルズが何故? か」
 皆が頷く。
「やつらの事だ。何か目的があるのだろう。それを聞き出すことも今回の依頼と考えて欲しい。頼んだぞっ」


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
対人戦闘
担当ST
麺二郎
■成功条件
1.団長の救助
2.ラスカルズの討伐
麺二郎です。実は私は外人で本当の名前はメンジ・ロウといいます。嘘です。

この依頼はブレインストーミングスペース
ランスロット・カースン(CL3000391) 2018年10月13日(土) 22:43:07
の発言等を元に作成されました。

以前還リビトの襲撃を受けたサーカスの行方不明になっていた団長。
その消息がプラロークの計算により導き出されました。

同じマザリモノでありながら人々に認められた存在。サーカス。ジョセフにはそれが許せない。
壊す。ぶっ壊してやる。激情。彼の行動理念はただそれだけです。
指輪を法外な値段で売りつけ、団員全員に付けさせた理由も、宝石に反応する還リビトが発生しやすい環境であることを知った上でした。
さらにはその指輪の宝石にも目一杯の嘲笑と憎悪が込められています。
ですが拙作『バイオレットブルーとフリークショウ』にて、自由騎士の活躍により還リビトが団員を皆殺しにする前に討伐されたため計画は破綻。
そのことを知ったジョセフは団長殺害後、改めてサーカスを襲うつもりです。

団長を救出し、ラスカルズの凶行を止めてください。


●ロケーション

 郊外にある人工的に作られた洞穴。数あるラスカルズのアジトの一つ。
 中は薄暗く、明かりは松明が20mごとに数本置かれているのみです。
 奥に100メートルほど続き、最奥は部屋のようになっています。
 団長は本来の目的のオチとして生かされており、奥の部屋に閉じ込められています。
 突入前の事前付与は一度のみ可能です。

●登場人物

 マザリモノ集団『ラスカルズ』 12人

・ジョセフ・R・ロベルトドーン 28歳
 ロベルトドーン兄弟の長兄です。兄より優れた弟など居ない。
 ラスカルズ幹部。幻想種(バーサクゴブリン)とのマザリモノ。ゴリゴリの格闘スタイル。殺気、下衆持ち。
 他兄弟宜しくマッチョで酒と女が大好き。イケメンに対しては異常に冷徹な男。
 実力者ではあるものの、裏では「JJ(ジェラシックジョセフ)」と呼ばれている。
 敵に背を見せたことが無く、背中に傷が無い事が唯一の誇り。
 格闘スタイルランク1のスキルをすべてLv3まで使えます。

 技能スキル(EX) 下衆 非常に下衆な振る舞いをナチュラルに行えます。空気を読みません。


・他構成員11人
 皆ナイフを所持。ラスカルズの中でも武闘派の面々です。全員暗視持ち。痛覚遮断持ちが3人。バリケード持ちが2人。他はケイブマスターを所持しています。全員格闘スタイル。ランク1のスキルを数個所持しています。側近2人はジョセフに強要されクリアカースとノートルダムの息吹も所持。
 2人が洞穴の入り口で見張りを。奥の部屋にはジョセフと側近が2人。残りは洞穴、真ん中辺りで屯しています。
 
・オールシーズンズ
 サーカス「オンリーワン」の団長。56歳。
 行き場を無くしたマザリモノ達に各地で声をかけ、サーカス団員として迎え入れています。
 団員を我が子の様に愛し、家族同様に生活を共にしています。

●同行NPC

・ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)
 特に指示がなければ皆さんの回復に専念します。
 所持アイテムは着火剤と保存食(パスタ)です。

皆様のご参加お待ちしております。
状態
完了
報酬マテリア
2個  6個  2個  2個
12モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
8/8
公開日
2018年10月29日

†メイン参加者 8人†




 ラスカルズのアジトへ向かう途中、決して少なくない自由騎士が感じていた事がある。
 団長という存在の善性。これが確認できた事は何よりの朗報だったと。
 サーカスを襲った還リビトの襲撃時に、何の言伝も無く消えた団長。状況的に団長が事件に関与している可能性を考えられたのも事実だったからだ。

『スウォンの退魔騎士』ランスロット・カースン(CL3000391)は団長の行方を気にかけていた中の一人だ。
 以前起きた事件において、サーカスの者たちが団長を心から慕っている様子を肌で感じたランスロットは、意を決し軍事顧問に直々の嘆願を行った。「団長の行方を捜したい」と。そしてその結果が今に繋がっている。
「個人的関心に応えてくれたミハイロフ卿と演算士諸卿に感謝せねばなるまい」
 誰に聞かせるでもなく小さく呟くと彼は心に誓う。必ずや団長を救出し、不逞の輩には秩序の鉄槌を与えねばならん、と。

『おともだち』イーイー・ケルツェンハイム(CL3000076)は静かに、ただ静かにまだ幼き心に滾る思いを制御しようとしていた。
 似たような境遇で育ったイーイーは、先の事件においても団員達へ強い共感を感じていた。そして彼らのその純粋な心に触れ、自らも心を繋いだ。そんな中、ただ唯一の気がかりであった団長の存在。
 そしてその団長がサーカスの皆を大事にする本当に良い人物だとわかった今、イーイーはその幸せを壊そうとしたものの存在にこれ以上ないほどの憤りを覚えていた。
 イーイーには許せない。『ともだち』と呼んでくれた彼らをあんな危険な目に合わせた事も。そしてそんな彼らが父のように慕う団長を苦しめている事も。逸る気持ちを抑えながら、イーイーは目的地へ急ぐ。
『見習い銃士』グリッツ・ケルツェンハイム(CL3000057)もまた演算によって導き出された結果(こたえ)に安堵していた。
「団長さんがどんな人か心配だったけど……」
 団員想いのいい人でよかった。イーイーと同じく境遇の似たグリッツは心からそう思っていた。だからこそ団長を助けたい。そして団員のみんなの元へ帰してあげたいという気持ちは一層強くなってゆく。
 併走するイーイーをちらりと見る。あまり表には出していないがグリッツにはわかる。イーイーがとても怒ってるという事。そして怒っている理由も。
「イーちゃん……絶対に団長さん、助けようね!」
 イーイーはグリッツのほうを見て、こくりと頷いた。

 そんな様子を見ながら『折れぬ傲槍』ボルカス・ギルトバーナー(CL3000092)もまた思う。
 何故、ラスカルズが同じマザリモノの集団であるサーカス「オンリーワン」を狙ったのか。その点は未だ疑問ではあるが、事実としてサーカスの者は傷つけられ、団長は今まさに危機の中にある。
「まずは団長殿の安全が最優先だな」
 団長を助け、ラスカルズを討伐し団員の未来も守る。全てを守りきる事はボルカスにとって至極当然の事だった。仮にそれがもし現実に不可能な事柄であったとしても、彼は高々と宣言するだろう。全てを守ってみせる、と。なぜなら彼は愛すべき傲慢なのだから。
 
『蒼影の銃士』ザルク・ミステル(CL3000067)は考えていた。
 同じマザリモノで構成された集団であり、どちらかといえば近しい存在であるはずのラスカルズがサーカスに向ける、おぞましいほどの悪意。ザルクの研ぎ澄まされた直感が告げている。これは紛れも無く『憎悪』によるものだと。最近何かと話に出てくるラスカルズ。彼らとこんな形で合間見える事になるとはな。
「一番わかりやすくて一番根が深いな、こいつは」

 ぞれぞれがそれぞれの思いを胸のうちに秘め、自由騎士たちはラスカルズのアジトへ急いだ。


「報告どおり見張りがいますね。時間も惜しいので準備出来次第突入しましょう」
 戦闘に向けた準備を整えつつ『これもまた運命』アリスタルフ・ヴィノクロフ(CL3000392)は皆へ声をかける。

 二人の見張りは気だるそうに洞穴の前に立っていた。
「ふわぁ……しかし暇だなぁ。こんなことなら女でも攫っておけばよかったぜ。そうすりゃ今頃お楽しみタイムだったのによ。……なぁ、煙草無いか?」
 下品な笑みを浮かべつつ、見張りがもう一人に話しかける。
「おいおい、怠けてんじゃねぇぞ。JJが来たらどうするんだよ。……だがまぁ休憩は必要だな」
 そういうと見張りは煙草をふかし始める。見張りは油断しきっている。それもそのはず元来ラスカルズは襲撃する事はあっても襲撃される事など皆無。見張りといっても体裁上でしかないのだ。

「……いきましょう」
 疾風(はや)く。誰よりも疾風(はや)く。高位のラピットジーンで自己の速度を上げた『慈悲の刃、葬送の剣』アリア・セレスティ(CL3000222)が動く。
 見張りが一服終えたあと、退屈からか欠伸をし目を瞑ったその一瞬。エメラルドグリーンとライトブルーの二剣の軌跡を伴った疾風が駆け抜けた。
「……ぐふっ!?」
 突然崩れ落ちる男。
「!? な、なんだ? おい、どうし……ぐふっ」
 突然の出来事に慌てふためく男。洞穴内の仲間に異常事態を伝える事も無いまま、その意識は途切れた。
 男のみぞおちにはアリスタルフの拳。──震撃。深く刺さったその渾身の一撃は対象の全身に衝撃を伝達する。男の目がぐるりと反転し、静かにそのまま崩れ落ちた。
 虚を突いたその一撃は相応のダメージを与えたようだ。これなら半日は意識は戻らないだろう。
「あとは任せる」
 洞穴へ向かう途中、合流した自由騎士に対応を任せ、一行は洞穴の奥へ向かった。


 洞穴は報告通り薄暗く、一定距離に置かれた松明が周りを僅かに照らすのみだった。
 カンテラを持つイーイーとグリッツ、ランスロットを先頭に一行は洞穴の奥へ。
 暗視、リュンケウスの瞳、サーモグラフィ。それぞれの持つスキルを活用し、周囲に注意を払いながら進んでいく。

「……それでよう。そいつ泣きながら懇願するんだよ。助けてくれ助けてくれって。笑っちまうよな」
「まったくだ、何をしたって俺たちが許すわけねぇのにな。ギャハハハ!!」

 奥から下品な笑い声と共に、聞くに堪えない戯言が聞こえてくる。
 イーイーの肩が小刻みに震えている。それに気づいたグリッツは、そっとイーイーの肩に手を当て顔を見る。イーイーは何も言わない。でもその顔はグリッツに「大丈夫」と伝えている。

 ナイトオウル・アラウンド(CL3000395)もまたその激情に身を焼こうとしていた。
 アクアディーネ。絶対なる神の統治するこの土地で狼藉を働き続ける存在。それが彼には許せない。
 漆黒の鎧に身を包んだナイトオウルは、すさまじいほどの殺気を開放する。それは全てを喰らい尽くす漆黒。何者にも染められる事の無い深闇の激情。
「……なんだ!?」
 男達はカンテラの照らす光と共に、得体の知れない何かが近づいてきている事に気づく。
「お、おい!? カシラに伝えろ!! 何か……とんでもねぇのが来やがった」
 男の一人が奥へ走り出そうとした瞬間……一陣の風。

 ──させない。

 行く手を阻むようにそこには少女が一人。──アリアだ。ナイトオウルの放った殺気に男達が圧倒された瞬間。疾風の如き速度で奥へ回り込んだのだ。その顔には後方へは誰一人通さぬという決意。更にその殺気の後ろには、構えられた銃口。その銃口の標的(ターゲット)が背を向けた自分達である事を。男達に後退の選択肢は用意されていなかった。
「か、構う事ぁねぇ。ここは俺たちの領域(テリトリー)だ。やっちまえ!!」
 この暗さ、しかも行動に制限が設けられた洞穴。その中でも男達の動きは速やかで卒が無い。近くにあった松明を消し、暗闇を作ると瞬く間に男達が戦闘態勢となる。
「ヒャッハァーー!!」
 男達が一斉に自由騎士に襲い掛かる。
 それを受け、アリスタルフ舞うように攻撃を繰り出す。戦闘経験は浅いながらも自身の力量は熟知している。暗闇の中でアリスタルフは静と動を巧みに使い分けながら攻防を繰り返す。
「タァァァァッーーーーーーーー!!!」
 ランスロットの持つ大剣「ダスク」から放たれる衝撃波は決して少なくないダメージを与え、男達を弾き飛ばす。
 ……しかし彼らは嗤う。まるで痛みなど微塵も感じないかのように。
「こいつら……痛み、感じてない」
 その様子を間近で見たイーイーが感じた違和感を口にする。グリッツも頷く。
「たぶん……遮断してるな。痛みってヤツを」
 回復役を担い、後衛から相手を見ていたボルカスもまた気づく。人は痛みを感じる事で知らず知らずのうちに己に制限(リミッター)をかけている。いわば生命維持におけるストッパーの役目だ。しかし彼らにはそれが無い。
「厄介だな」
 これまで対峙した事の無い痛みを一切躊躇せず襲い掛かってくる相手に自由騎士たちが武器を握りなおす。
 そんな中、それを意ともせず攻撃を繰り出していくのはナイトオウルだ。彼にとってはすべてが信仰する神への冒涜を行う神敵。そのような者に対する慈悲の心などもとより存在するはずも無い。
「Arrrrrrghhhhhhhhh!!!」
 自ら偽聖剣と名づけた武器を手に、一歩も引かぬ攻防を繰り広げる。その姿はまるで漆黒の鎧を纏った信仰と言う思念そのもの。神敵を滅ぼすまでその粛清(こうげき)は止まる事は無い。
 痛みを感じぬ(これは後にわかった事だが、この痛覚遮断もジョセフにより無理やり取得させられたものだった)男達の猛攻が続く中、全く別の動きをする者が二人。彼らは瞬く間に周りにあるものでバリケードを築いていく。
 前衛で戦うものたちはいずれも領域(テリトリー)内での戦闘に長けた男達を相手に交戦中、その動きへ対応することが出来ない。
「……パラライズショット!!」
 ザルクの放った弾丸が陣を描き、バリケード付近の数名の男の自由を奪う。バリケードを作るために男達が至近距離へ纏まる瞬間。ザルクの狙いはまさにこの瞬間だった。
「今だ! いくよ、イーちゃん!」
 その一瞬の停止を見逃さなかったグリッツは間髪いれず弾丸を放つ。
「任せてっグリッ!!」
 弾丸を受け仰け反る男にイーイーのバッシュが叩き込まれる。流れるような連続攻撃を受けた男は吹き飛ばされ壁に激突。そのまま動かなくなる。同じ孤児院で育った二人の自由騎士はまたも息の合った見事な連携プレーを見せた。
「くっ……! この状況じゃやはり全員とはいかなかったか」
 暗闇の中、味方の所持していたカンテラとその場の松明だけが生命線のザルクは、男達の動向を捉えきれていなかった。乱発すれば味方のも巻き込みかねない技だけに、ザルク自身も使いどころを模索している。
「十分だ。ハァァァ-----!!!」
 ランスロットのオーバーブラストが炸裂する。即興で作りかけのバリケードでは耐え切れるはずもない。バリケードの崩壊と共に周辺にいた男達に猛烈な衝撃が叩き込まれる。
 運よくザルクの捕縛陣を逃れた男達にもアリスタルフの震撃、アリアのヒートアクセルが決まる。
 この場の雌雄は決した。


「そこまでだ。こいつらには聞かなきゃならない事が沢山ある」
 当然といわんばかりに止めをささんとするナイトオウルをボルカスが制止する。こいつらの行っている事は許される事ではない。だがモノの見方は一方向だけでは決まらない。今はまだその時ではない、と。ボルカスの強い意志を感じたナイトオウルは何も言わず剣を収めた。彼にとって神敵は抹殺すべき対象だ。だがそれは己の中だけでの事。自由騎士として活動する以上、納得しうる理由があれば無益に剣を振るう事は無い。それもまた彼にとっての信仰なのだ。
 同行した自由騎士による回復が行われる中、いざ奥の部屋へ向かわんとするその時、ソレは暗闇の中から音も無く現れた。

「おいおい、面白れぇ事になってるじゃねぇか」
 明らかに違う空気を持ったその男は、奥から側近を連れて現れた。
「お前達何しに来た? ここが俺達のアジトって事を知っ──」
 その時。誰よりも先にイーイーが動いた。その瞳には憤怒の炎。これまで抑えてきた感情が一気に爆発する。
 ガキィーーーーーーン。
「おいおい、こっちはまだ話してる途中だっつーの。なんだこのガキは」
 イーイーの渾身の一撃をナイフ一本で受け流す。この男、やはり実力は本物なようだ。
 一旦イーイーが距離をとると続けざまにアリアとアリスタルフが攻撃を仕掛ける。が、それも軽くいなされてしまう。
「軽いねぇ。軽い。……お前ら……死にたいのか?」
 繰り返される自分への理由もわからぬ攻撃に苛立ったのか。ジョセフから心臓を握りつぶされそうなほどの殺気が放たれる。
 攻撃の最中、至近距離でソレ(悪意)を浴びたアリスタルフとアリアは思わず身を強張らせ、動きが止まってしまう。
 アリスタルフの実践経験の少なさが、アリアの呼び起こされた過去の記憶が、殺気への対応を遅らせた。
 ミシッ。骨の軋むような音と共にアリスタルフが吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
「ギャハハハ! お前達、死線を潜ってねぇな」
 ビリィィィィ! 腕をつかまれ持ち上げられたアリアは、ナイフで服を切り裂かれる。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
 人前に晒される柔肌に思わず、身を捩り体を縮める。
「ギャハハハハハ、いいもの持ってるじゃねぇか!! オメェはあとでゆっくり可愛がってやるからヨゥ。……今はゆっくりおネンネしてナァッ!!」
ジョセフは嘗め回すような視線をアリアに向け、嗤いながらアリアを壁へ叩きつける。
「ぐ……うぅっ……」
 壁に叩きつけられ、意識が遠のく二人。

 そんな中、ジョセフの殺気に勝るとも劣らない殺気を放つものが二人。
 ナイトオウルとランスロット。その本質は両極端ともいえる二人の放つ殺気はジョセフの殺気をも打ち消そうとしている。そしてもう一人、臆する事無くジョセフと対峙するはボルカス。そのセフィラが、武人としてのオーラが、ジョセフの殺気を凌駕し、堂々たる振舞いを崩させない。
「皆、よく聞け! このような陰湿な洞穴に巣食う弱きものに臆する事などないっ」
「そうだ! お前らにサーカスの……向けられた悪意に悪意を返さなかったあの子達の邪魔をする資格など断じてないっ!!」
 ランスロットとボルカスが言い放つ。力強いその言葉は自由騎士たちを奮起させる。
「俺が弱い……だと?」
 ジョセフが小刻みに震える。
「……ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁあああっ!!!!」
 激高。ジョセフが大地も割れんばかりの雄叫びを上げたその瞬間だった。
「ぐっ!?動けねぇ、何だこれは」
 突如光に包まれ、何かに束縛されたかのようにジョセフと側近二人の動きが止まる。
「それだけ大声を上げたら見えて無くてもわかるぜ!」
 ザルクの捕縛弾は的確に対象を捉え、その身を拘束する。
 好機。自由騎士たち誰もがそう感じ、一斉に行動する。グリッツの強化された二連の弾丸が側近の一人を貫く。
 ランスロットとナイトオウルのオーバーブラストがジョセフたちに渾身の衝撃を叩き込む。
 側近二人は吹き飛ばされ、そのまま動かない。
「許さない……おれはお前、絶対に許さないっ!!!!」
 それでも倒れないジョセフに、イーイーが全身全霊の渾身の一撃を叩き込む。
「ぐぉぉぉぉあああああああ!!!!」
 ジョセフは自力で束縛を解除。だがダメージは深い。
「くそがぁ……。俺より先に倒れやがって。何のためにお前らに回復を覚えさせたと思ってんだ。俺のためダロォォォォォ!!!!」
 うめき声を上げながら地面に転がる側近を苛立ちながら蹴り飛ばす。
「この場に及んでもその行動……もはやお前にかける情けなど無い」
 ボルカスの回復によってなんとか動けるまでに回復したアリスタルフが呼吸を整える。
 口元に滲む血をぬぐいながら、ジョセフへまっすぐな瞳を向ける。
「これで終わりだーーーーーーーーーっ!!!!」
 アリスタルフの放った一撃は、ジョセフの中心を的確に捉え、打ち抜く。
 ジョセフの意識が暗転する。粉塵を巻き上げジョセフはついに地に伏した。
 見張りの対処が終わり、洞穴内へ進んできた女性自由騎士の手によってアリアにも適切な処置が行われている。

「……勝った……っ!!」

 洞穴に静寂が戻る。
 その静けさに自由騎士たちは成し遂げたことを改めて実感したのだった。


 程なく奥の部屋に監禁されていた団長は無事救出される。
「子供達は……ワタシの子供達は……」
 己の命をも失いかけていた団長が、自由騎士たちにまず発した言葉は団員(わがこ)達への心配だった。
 それを聞いたボルカスは何も言わず、一枚の紙切れを団長に渡す。
 それは……先の事件で団員に感謝の印として渡されたチケットだった。
「皆無事だ。貴方が心配するのと同じように団員も皆貴方の事を心配している」
「おおお……この文字は確かにセプの……。皆無事なのですか……良かった……本当に良かった……。あの子達に何かあったらワタシは……っ」
 ボルカスから渡されたそのチケットを握り締め、嗚咽交じりに言葉を発する団長の目からは、大粒の涙が零れ落ちる。
「さあ、立つが良い。団員が…いや。貴殿の子供たちが待っている」
 ランスロットが団長に声をかける。が、団長は安堵のあまりか立ち上がることが出来ない。

「……一緒にみんなの元に帰ろう!」

 イーイーとグリッツが笑顔で団長に手を差し伸べる。

「……もちろんっ」

 涙をぬぐった団長は二人の手を取って一緒に歩き出す。
 向かう場所はもちろん──団員皆が待っている帰るべきサーカス(わがや)。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†


†あとがき†

サーカス「オンリーワン」の未来は皆さんの手で守られました。

MVPは静かな激情を見せた貴方へ。

ジョセフが団長を人質にしなかったのは、ひとえに団長を取り返そうとするものの
存在など知る由も無く、自身の強さを慢心していたためです。
ジョセフ含めたラスカルズは全員捕縛されました。
今後の取調べにより他のロベルトドーンの情報も得られるかもしれません。

ご参加誠にありがとうございました。
FL送付済