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どう見ても美味しくなさそうな美味しい魚

自由騎士が休日を堪能すべく港町を歩いていた時だった。普段なら絶対こんな所にいないであろう長身の人影を見つける。普段と違う物って絶対異常事態なのに、何故か関わってしまった自由騎士。振り返ったでっけー人影ことヴラディオスは、何やら眉を潜めて。
「あぁ、あなた達でしたか。実はですね……」
なんでも森にある湖に、巨大な蛇めいた魚が出て、それを獲りたくて漁師に当たって回っていたらしい。しかし、その魚は民家を一周するレベルの体長を持ち、とてもではないが漁師達では対処しきれないのだとか。
「何としてもあの魚を獲りたいのですが、仕掛けは壊され、釣り竿も並みのものでは太刀打ちできず……」
と、ここで自由騎士が質問を投げた。何故倒すのではなく、獲るなのか、と。
「それがですね……」
ヴラディオスが取り出したのは古めかしい本。その本によると。
「その身は実に柔らかく、骨こそ多いものの細くしなやかな骨はそのまま食べても気にならない。さらに滋養強壮効果を持つこの魚を暑くなる時期に食することで、体力をつけて夏の暑さに負けない体になるのだとか。しかし、そんな効能はどうだっていい! 柔らかくふっくらとしたその身は淡泊でありながら濃厚な旨味を凝縮していて特性のタレなるソースをつけてじっくりとグリルすることで穀物との抜群の相性を引き出した美味を誇るという! そんな文献を見つけてしまったのなら是非とも食べたいいや食わねばならぬ! 貴様らなら分かるであろう!?」
途中から紳士のメッキが剥げて、口調が変わるくらいには食べたいそうです。
「と言うわけで暇なら来るがよい。獲れた暁には貴様らにも振舞ってやろうではないか」
君たちは興味を持って暇つぶしに彼についていってもいいし、面倒な気配を感じて踵を返してもいい。
「あぁ、あなた達でしたか。実はですね……」
なんでも森にある湖に、巨大な蛇めいた魚が出て、それを獲りたくて漁師に当たって回っていたらしい。しかし、その魚は民家を一周するレベルの体長を持ち、とてもではないが漁師達では対処しきれないのだとか。
「何としてもあの魚を獲りたいのですが、仕掛けは壊され、釣り竿も並みのものでは太刀打ちできず……」
と、ここで自由騎士が質問を投げた。何故倒すのではなく、獲るなのか、と。
「それがですね……」
ヴラディオスが取り出したのは古めかしい本。その本によると。
「その身は実に柔らかく、骨こそ多いものの細くしなやかな骨はそのまま食べても気にならない。さらに滋養強壮効果を持つこの魚を暑くなる時期に食することで、体力をつけて夏の暑さに負けない体になるのだとか。しかし、そんな効能はどうだっていい! 柔らかくふっくらとしたその身は淡泊でありながら濃厚な旨味を凝縮していて特性のタレなるソースをつけてじっくりとグリルすることで穀物との抜群の相性を引き出した美味を誇るという! そんな文献を見つけてしまったのなら是非とも食べたいいや食わねばならぬ! 貴様らなら分かるであろう!?」
途中から紳士のメッキが剥げて、口調が変わるくらいには食べたいそうです。
「と言うわけで暇なら来るがよい。獲れた暁には貴様らにも振舞ってやろうではないか」
君たちは興味を持って暇つぶしに彼についていってもいいし、面倒な気配を感じて踵を返してもいい。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.でっかい魚を獲る
久しいな、残念だよ!
今回は初夏?夏?とにかく暑くなってきた森の中の湖でデッカイお魚を獲るんだって
もしも獲れたらヴラディオスが調理してくれるそうですよ
ただ飯だよやったねッ!!
【現場】
森の中の湖。デッカイ爬虫類とか住み着いてそうなくらい大きいですが、別段戦闘に支障はありません
【魚】
レイクイール
要はバカでかい鰻です
前衛をまとめて薙ぎ払う物理攻撃と、前衛後衛問わない一人に噛みつく物理攻撃と、誰か一人に巻き付いてヌルヌルすることでヌメヌメにしてきます(ただしダメージはない)
なお、全身がぬめっており、物理攻撃に耐性を持っていますが、かといって魔法攻撃を仕掛けると肉質に影響して味が落ちるそうです
とはいえ、数発くらいなら大丈夫なはず?
なお、瀕死になると湖に逃亡します
【釣り】
今回の依頼は二段構えになっており、追い詰めたら敵が逃げる為、釣り上げましょう
釣り竿と餌はヴラディオスが特性の物を用意してくれています
釣ったり逃げられたりを繰り返して、スタミナを削って、最後に完全に釣り上げたらランチタイムです
今回は初夏?夏?とにかく暑くなってきた森の中の湖でデッカイお魚を獲るんだって
もしも獲れたらヴラディオスが調理してくれるそうですよ
ただ飯だよやったねッ!!
【現場】
森の中の湖。デッカイ爬虫類とか住み着いてそうなくらい大きいですが、別段戦闘に支障はありません
【魚】
レイクイール
要はバカでかい鰻です
前衛をまとめて薙ぎ払う物理攻撃と、前衛後衛問わない一人に噛みつく物理攻撃と、誰か一人に巻き付いてヌルヌルすることでヌメヌメにしてきます(ただしダメージはない)
なお、全身がぬめっており、物理攻撃に耐性を持っていますが、かといって魔法攻撃を仕掛けると肉質に影響して味が落ちるそうです
とはいえ、数発くらいなら大丈夫なはず?
なお、瀕死になると湖に逃亡します
【釣り】
今回の依頼は二段構えになっており、追い詰めたら敵が逃げる為、釣り上げましょう
釣り竿と餌はヴラディオスが特性の物を用意してくれています
釣ったり逃げられたりを繰り返して、スタミナを削って、最後に完全に釣り上げたらランチタイムです
状態
完了
完了
報酬マテリア
6個
2個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2019年07月26日
2019年07月26日
†メイン参加者 8人†
●伝説級の不味さ
『殲滅弾頭』ザルク・ミステル(CL3000067)の表情は沈んでいた。具体的には、美味しい話に乗ったら借金を押し付けられた人みたいな顔してた。
「鰻……鰻が、美味い……?」
拷問がフラッシュバックした脱走兵の如く、片手を顔に当てて荒い息を吐くザルク。今でも鮮明に思い出す。細長い魚のゼリー寄せ……。
「いや、うん。そうだったな。あれもヘルメリア料理だ。これ以上はやめておこう」
自らに言い聞かせ落ち着こうとするザルク。他の面子はというと。
「にゅるにゅる、にょろにょろ~」
ザルクを呼んだ『本家!?食べ隊』リグ・ティッカ(CL3000556)は鼻歌を歌いながらスキップ交じりに林道を進む。
「食べねばならない魚がそこにいるのです。リグにももちろんわかりますのです!しとめられなかったらヤなので、ざるくんにヘルプも出したのです」
分かってるのですよね!?とザルクに指を向けるリグ。ザルクが片手を挙げると、再び進軍開始。
「今日のリグたちはお魚を食べ隊なのです、行きますのですっ」
「と、とっても美味しいお魚なんですね!楽しみです!」
追従する隊員感を漂わせる『元祖!?食べ隊』ティルダ・クシュ・サルメンハーラ(CL3000580)だったが、困ったように眉根を寄せて。
「ただ、魔法攻撃すると味が落ちちゃうのが困りますね。わたし、魔法攻撃が主ですので……で、でも頑張りますっ」
本来は内気な性格のティルダだが、今日は随分と気合が入って……そこまで魚が食べたいのか!食べたいからその称号なんだろうけどもっ!!
「鰻ならヨツカも知ってるぞ。そんなにデカいのは初めて聞くけどな」
ボソリ呟く『驚愕!?食べ隊』月ノ輪・ヨツカ(CL3000575)は相手の大きさに目星をつけて、果たして何人前の焼き魚になるかを推察。
「蒲焼きにしてヨツカたちが美味しく食べてやろう」
「カバヤキ……?」
ザルク!頭の中で鞄(カバン)を連想して鞄を火炙りにしてる場合じゃないぞ!!
「美味しそうですねぇ……朝から使用人を撒くのに全力でお腹も空いていますし、嬉しいお誘いです!頑張りますよ!」
『花より──』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)……いい加減使用人の皆が泣くぞ……?
「私にドレスを着せようとする皆が悪いんです。あんなヒラヒラで戦いにくそうな物を……」
それ戦装束じゃなくて絶対日常用だって……!とかいってるうちに到着。
木々が生い茂る森の中、くりぬいたように広がる湖には陽光が照り返し、美しい光景だった……のも束の間。
「見た目に反して美味い魚か、どんな味か楽しみだな!っしゃー!いっちょ釣り上げてくっか!」
『ゴーアヘッド』李 飛龍(CL3000545)が拳を打ち鳴らして気合を入れた瞬間、水が膨れ上がり……巨大な細長い魚が鎌首をもたげた。
「さあて、美味しくいただかれるために大人しく、ってそうは問屋が卸さねえか。活きが良いのは何よりだけどな!」
ガラミド・クタラージ(CL3000576)は太陽と月が刻まれた大砲を抱え、目前の巨大な魚への好奇心と、その先にある食べた事の無い料理への興味の二つを抱く。が、やっぱりいい印象を持つ人ばかりではなく、具体的には。
「わぁ……ぬめぬめ……」
『真打!?食べ隊』キリ・カーレント(CL3000547)の眼が死んだ。
「あれを美味しいお料理にしてしまうヴラディオスさんを……(ごくり)信じて頑張りましょう……!」
台詞の途中で生唾を飲む辺り、コイツ食う事しか考えてな……あ、なんだ食べ隊か。じゃあ仕方ないね。
●こんなデカブツ煮凝りにしたらエライ量になる
「ほらほら見てくださいざるくん、おいしそうなお魚ですよ」
「あぁ……」
目をキラキラさせてるのに表情が変わらないという、無表情なのか表情豊かなのか分からないリグに対して、ザルクは虚ろな目で銃口を向けた。
「へっ、なんでそんな遠い目を……?」
リグが小首を傾げると。
「俺の知ってる鰻料理ってのが、適当に切った鰻をデッカイ鍋で煮込んで、冷まして、固めただけの味も食感も酷いヘルメリア料理でな……」
「えっ」
ただでさえ美味しくないヘルメリア料理において、トップクラスの不味さだろう。
「そんな……」
ストーン、とテンションが下がるリグだったが、紳士擬きは言っていた、『グリル』すると。
「つまり、美味しい調理法もあるのですね!?」
希望を胸に、リグの血流が加速して、構えをとる足が地面を穿つ。
「おとなしくリグたちのお腹に納まるのです、観念するのですよ!」
「お、ティッカもやる気満々じゃねーか、おれっちも負けねーぞ!」
リグの気合に当てられ、飛龍が突撃。踏み込み、急停止、その慣性を拳に乗せて撃ち抜くように打撃を叩きこむのだが。
「ははーん、そういう事か」
殴ってみて分かる。相手の特性は、物理攻撃が通じないわけではなく。
「ヌメヌメし過ぎて当たりが悪いって事か……!」
とはいえ、ダメージは通っているのだろう。鰻は飛龍を見下ろすと、巨大な口を開いて威嚇。口から吸いこんだ空気が鰓から抜けて、鳴き声のような音を漏らした。
「下ばっかり見てると痛い目みるぜ!」
頭上からの不意打ちに、鰻はその巨体を地面に叩き付ける。飛行したガラミドが冷気の砲弾を叩きこみ、後頭部に直撃させたのである。
「そちらも必死だろうが、ヨツカ達も食べるために必死だ。全力で相手をしてやる」
人の背丈を越える、大振りの得物を片手で担ぐように構え、上から重ねるように逆の手で柄を握ると、飛びかかる様に距離を詰め。
「ゥオオオ!!」
雄叫びを上げて振り下ろす。技術も理論もない単純な打撃故に、得物の重みとヨツカの膂力がダイレクトに叩きこまれ、傷は浅いはずなのに、鰻の頭がよろめいた。
「下がって!」
「おう!?」
同時に、狙いを定めて身を引き、それを予備動作と見たデボラがヨツカを弾き飛ばし、前へ。更に全身に……ほぼ全てを機械化した、動く装甲と呼ぶべき己の肉体に魔力を走らせて攻撃に備えるのだが、デボラの全身は鰻に包まれて消えた。
「あっ……!ちょっ……なに、この……!やっ……」
「外部からの打撃には強そうだが、腹の中はどうだ?」
ぬりゅぬりゅ……ずちゅっ……水っぽい音とデボラの悲鳴が聞こえてくる中、ザルクが二発の弾丸を放つ。一発目が鰓に突き刺さり、それを後続がぶん殴り、強引に貫通。体表を覆うぬめりを無視して体内をぶち抜く弾丸に、口と首から血を噴き出した鰻はザルクを見やるが、注意が逸れた隙にキリが肉薄。愛剣を抜き放てば、その刃を軸にして魔力が展開。オレンジ色の大剣へと姿を変えた。鍔から切先に向けて鋭角的な刃をしたそれは、まるで巨大な人参の如く。
「背後からは卑怯なんて言わないでくださいね、余所見した方が悪いんですから……!」
鰻の死角から輝く人参による一閃。斬り裂かれた鰻は地面でのたうちながらデボラを投げ捨てると、反転。湖に向けて逃走を図る。
「デボラさん、大丈夫ですか……?」
「ぬぐぐぐ……蒸気鎧装が……マズい事に……!」
デボラは全体的にぬちょーん。粘液塗れな彼女はオールモストの機人であり、粘液が排熱口を塞いでしまい、排熱が難しくなっていた。
●掴めない魚は釣るしかない
「逃がすかぁあああ!!」
叫びと共にヨツカが鰻に飛びかかるも、掴んだ尾は彼の握力からすり抜けて水の中へ。
「こっからは釣り竿の出番か……つっても、デカブツを釣り上げる特製品ってなると、武器か装置って言ったほうがふさわしいかもな」
羽ばたき、湖を俯瞰するガラミドが見やるのは、湖の畔に設置された大型の釣り竿……ていうか装置。
「釣りは初めてではありません……旅の途中で何度もやりました。上手かどうかは、別ですけど……」
もしょもしょと囁き、キリが竿にスタンバイすると、ガラミドが湖の上で旋回を始めた。鰻の魚影を発見したのだろう。
「距離がこのくらいだから、このくらい引いて……」
竿によるしなりを考慮して、力加減を差し引き、必要な勢いで、必要な分竿を振るい、ガラミドの下の水面に釣り糸を飛ばした。
「お上手ですね……」
釣りはしたことがないティルダが小さく拍手、キリが照れてフードを被り、顔を隠した時だった、竿を引く手応えが!
「き、来た!?」
ぐいーっと引くキリだが、いかんせん相手は巨大な鰻。単純な腕力ではビクともしない。
「お助けします!」
そこへ、デボラがキリを後ろから抱くようにして共に竿を握り、更に左右へ揺らしながら引く。
「負けません!負けません!!負けません!!!」
叫ぶ度に鎧装が唸りを上げて、どんどん(物理的にも精神的にも)熱くなるデボラは鰻が右に逃げれば左へ竿を振るい、左に逃げれば右に傾けて、鰻を無駄に動かせる事でスタミナを削る作戦に出た。
「美味しいランチをいただくまでは!!ぬぉおおおおっ!!」
貴族の長女が出しちゃいけないタイプの声と共に、一気に力を込めたデボラだったが、プツン。糸が切れてしまい、後ろに倒れ込んでしまう。
「く、無念……!」
ついでに熱がこもり、ぷしぅ。小さく音を立てて鎧装が排熱モードに。
「釣りはあんまやったことねーけど、かかったら思いっきりひっぱりゃ多分なんとかなるだろうぜ!」
クールダウンに入ったデボラに代わり、飛龍が腕をぐりぐり回しながら竿を握ると、ザルクが怪しげな団子を釣り針に刺した。
「なんだそれ?」
「ミミズやらゴカイやらを使って釣るって話を聞いてきたんだが、あのサイズだろう?デカい練り餌にしておいた」
で、早速力任せにブン投げる飛龍だったが。
「……ありゃ?」
思ったほど距離が伸びず、ガラミドの手前にボチャン!
「釣りって、意外と難しいんだな……実はキリが上手かったんじゃないかって実感するぜ!」
「……ぁう」
不意打ちの褒め言葉に、キリが撃沈した。
「しかし、中々かからねぇな……」
唇を尖らせて待つ飛龍に、ザルクは嫌な予感がし始める。
「もしかして、警戒されてるのか……?」
「お?来た来た来たぁ!!」
ザルクの不安を横目に飛龍にヒット!
「どぉりゃあああああ!!」
そして本当にただ、思いっきり引っ張るだけの飛龍。結果は言わずもがな。
「アダッ!?」
糸が耐えきれず、仰向けにすっ転ぶことに。
「リグの心の中に住んでる釣り名人が『釣りは呼吸じゃよ』って笑ってたのです」
糸を変えながら深呼吸するリグ。お前の心の中には釣り堀でもあるのか?
「獲物と呼吸を合わせて、しんとーめっきゃく、なんたらかんたら……はっ、ここですか!」
ツラツラと語り始めたリグだったが、ガラミドが移動したのを見てそちらへ投擲。しかし、行き違いにガラミドは帰って来てしまう。
「駄目だな、急に姿が見えなくなっちまった」
「え、もう釣れないのですか!?」
「あー……」
ショックを受けて固まってしまうリグの横で、そんな気はしてたザルクは顔を覆った。
「警戒してどっかに引っ込んじまったんだろうな」
「そんな……ざるくんなんとかするのです!」
両手をブンブン振り回すリグの無茶振りに、ザルクは応えられるわけが……。
「おう、任せとけ」
あった!?
「隠れたって事は、本能的に潜むであろう位置にいるはずだよな」
事前に情報収集してきたザルク、鰻が狭い場所を好んで巣にすることは把握済み。見た所、障害物になり得るものはない湖、と言う事は。
「畔寄りの、木の枝が沈んで入り組んでそうな辺りに居るはずだから……」
そこに向けて竿を振るって待つ事十数秒、釣り糸が引かれて竿が揺れる。
「来たか!」
グッと引こうとするザルクと、キリが止めて。
「まずは泳がせましょう、このまま無理に釣ろうとしても、また糸が切れるかもしれませんし……」
経験則から、一筋縄では釣れないと読んだキリ。しばし自由にさせて、静かになった頃。
「今です、釣り上げてください……!」
「分かった……って、重っ!?」
「手伝いますよ!」
先の釣りのせいで両腕の負荷はとんでもないはずなのだが、その疲労と鈍痛の知覚をシャットアウトして補助に入ったデボラ。二人がかりで引き寄せて、不意を突かれた魚がついに釣り上げられ……。
ボッチャーン!!
陸に上がったはずなのに、新手の泥沼に沈んだー!?
「……お魚に、底なし沼って効果あるんでしょうか」
また逃げられてはたまらないと、沼を作ったティルダ。実際、沼の中で動き回られるから意味がないっちゃないのだが、本来は人を足止めするための沼。レイクイール相手では狭くて仕方がない。
「えっと、とりあえず蓋を……」
鰻の頭上に巨大な氷塊が出現。それが格子状になって落下すると頭を直撃。中で痙攣する鰻に向けてガラミドは槍を持った兵士を生成して差し向けて、ザルクは銃口を向ける。そこからは逃げられない相手を一方的に……え、そういうのいらない?
●鰻が焼けました
「随分熱心な様子だがヴラディオスも食べ隊なのか?」
「どんな味なのか楽しみですっ」
ヨツカがそう聞きたくなるくらいには、似非紳士は熱意をもって調理しており、それを眺めているティルダも期待に胸を膨らませていた。
「魚っていうと馴染みがあるのは海より川や湖の魚だな。デカいやつは大味、なんて話もあるが、この魚はどんなもんかね」
と、不安半分好奇心半分で見守るガラミドの前で、捌かれた鰻が網でじっくり焼かれ、端がコンガリと丸みを帯びると、タレと呼ばれる液体を塗って返し、ジュワァアア……。
「おっ、いい匂いがしてきたな。手順があるんだろうけど、どうにも待ちきれないな」
小さな気泡と共に巻き起こる香ばしい香りに、持参した果実水を弄んで待つガラミド。その視線の横で、黒い鍋のような物が噴きこぼれていたが、その正体は……。
「食い物は美味いに越したことはない。ヨツカ達で食べきれないほどの量だったら近くの住民達に振舞ってもいいかもしれないな」
ドン!と置かれた鰻の蒲焼を前にして、ヨツカが頷く。開いた身を更に切り分けてなお大きなホットケーキサイズ。それを何枚も重ねて供されているのだ。きっと余るだろう……と思ったが。
「こんだけでけー魚なら思いっきり食べても十分足りそうじゃん!ヨツカ!ティッカ!どっちが多く食えるか勝負だぜ!」
「調理の難しいお魚ですから、ヴラさんさまさまなのです……リグ、負けないのですよ!!」
「美味いものはたくさん食えるからな。ヨツカも思う存分頂くとしよう」
残らない気がする。一瞬にして思考を切り替えたヨツカなのだった。
「ふっくら焼けた身に滴る脂と濃厚なタレ……あっ、もちろんおこめもありますですね!?」
鰻の一切れを摘み、見つめていたリグがバッと振り返ると、さっきの小さな鍋っぽい物が差し出される。蓋を開くと、中から炊き立ての米が……!
「美味しいですね!調理法とタレなるソースの力でしょうか。とても食が進みます」
一口食べた瞬間、デボラが目を見開き鰻を見つめた後、チラと調理人の方を見ると、まだ何か作っている紳士擬きの背に。
「あの……ヴラディオス様、このレシピをいただいてもいいでしょうか?是非家の者に紹介したいのです」
「レシピ……ですか……」
ふむ、と顎を揉んだコック曰く。
「文献の内容を参考にアレンジしたものでも構わないのなら……」
材料、調理法を書き記して、デボラの手土産に。
「匂いは確かにいいけども……」
そして、未だに手をつけていないザルク。
「ざるくん食べないのですか」
ブスッ。
「ああ待て待てティッカ!俺のを食おうとするな!ちゃんと食うって……」
リグにフォークを刺された鰻を取り返すと、ザルクも腹を括ってぱくり。
「あ、美味い……」
淡泊な味の中に旨味を秘めた鰻は、他のどの魚とも異なる柔らかく蕩けるような身をしており、無数に連なる小骨ですら食感を楽しませるアクセントに過ぎない。更に、シンプルな鰻に対して甘味と塩味を組み合わせた濃厚なタレ。果実とも砂糖とも違う甘味を持つそれは実に鰻に合い、旨味を引き立てる。そこへ謎の香辛料が振りかけられており、ピリッとした刺激と共に、スッと吹き抜ける香りを運んでいて喉に飽きが来ない。
「本当だ、美味いなコレ」
これは本当に鰻か?そんな疑念すら抱くザルクなのだった。
「あの……ヴラディオスさん……」
「えぇ、できましたよ」
キリが受け取ったのは米が入っていた小さな鍋。蓋を取れば、湯気がほわん……。
「リゾット……?でも、スープが全然ない……」
キリの人参との合わせ料理、という要望から出てきたのは、鰻と人参の炊き込みご飯。
「それでは、頂きます」
出汁が浸透して旨味を持つ米に、蒸された鰻はふっくら仕上がって、口に運ぶだけで蕩けだすほど柔らかく、強烈なタレと異なり、穏やかな出汁による風味が口いっぱいに滑らかな旨味を運ぶ。そして、キリにとってメインとも言える人参は。
「人参が……溶ける……!?」
じっくり火を通した人参は鰻と同じかそれ以上に柔らかく、味が染みて旨味を持つばかりか、人参本来の甘味まで深みを増すほど。
「ザルクさんの嫌な思い出のあるお料理も、きっと美味しくして下さるはず……ヘルメリアのお魚料理、リクエストしちゃおうかな……」
と、キリが紳士擬きを見るとリグも似非紳士をじー。
「出汁たっぷりの卵で包んだう巻きもほしいのです……」
「あの、ヘルメリアにあるという、鰻の煮物料理も……」
自由騎士達のランチタイムは、まだまだ続く。
『殲滅弾頭』ザルク・ミステル(CL3000067)の表情は沈んでいた。具体的には、美味しい話に乗ったら借金を押し付けられた人みたいな顔してた。
「鰻……鰻が、美味い……?」
拷問がフラッシュバックした脱走兵の如く、片手を顔に当てて荒い息を吐くザルク。今でも鮮明に思い出す。細長い魚のゼリー寄せ……。
「いや、うん。そうだったな。あれもヘルメリア料理だ。これ以上はやめておこう」
自らに言い聞かせ落ち着こうとするザルク。他の面子はというと。
「にゅるにゅる、にょろにょろ~」
ザルクを呼んだ『本家!?食べ隊』リグ・ティッカ(CL3000556)は鼻歌を歌いながらスキップ交じりに林道を進む。
「食べねばならない魚がそこにいるのです。リグにももちろんわかりますのです!しとめられなかったらヤなので、ざるくんにヘルプも出したのです」
分かってるのですよね!?とザルクに指を向けるリグ。ザルクが片手を挙げると、再び進軍開始。
「今日のリグたちはお魚を食べ隊なのです、行きますのですっ」
「と、とっても美味しいお魚なんですね!楽しみです!」
追従する隊員感を漂わせる『元祖!?食べ隊』ティルダ・クシュ・サルメンハーラ(CL3000580)だったが、困ったように眉根を寄せて。
「ただ、魔法攻撃すると味が落ちちゃうのが困りますね。わたし、魔法攻撃が主ですので……で、でも頑張りますっ」
本来は内気な性格のティルダだが、今日は随分と気合が入って……そこまで魚が食べたいのか!食べたいからその称号なんだろうけどもっ!!
「鰻ならヨツカも知ってるぞ。そんなにデカいのは初めて聞くけどな」
ボソリ呟く『驚愕!?食べ隊』月ノ輪・ヨツカ(CL3000575)は相手の大きさに目星をつけて、果たして何人前の焼き魚になるかを推察。
「蒲焼きにしてヨツカたちが美味しく食べてやろう」
「カバヤキ……?」
ザルク!頭の中で鞄(カバン)を連想して鞄を火炙りにしてる場合じゃないぞ!!
「美味しそうですねぇ……朝から使用人を撒くのに全力でお腹も空いていますし、嬉しいお誘いです!頑張りますよ!」
『花より──』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)……いい加減使用人の皆が泣くぞ……?
「私にドレスを着せようとする皆が悪いんです。あんなヒラヒラで戦いにくそうな物を……」
それ戦装束じゃなくて絶対日常用だって……!とかいってるうちに到着。
木々が生い茂る森の中、くりぬいたように広がる湖には陽光が照り返し、美しい光景だった……のも束の間。
「見た目に反して美味い魚か、どんな味か楽しみだな!っしゃー!いっちょ釣り上げてくっか!」
『ゴーアヘッド』李 飛龍(CL3000545)が拳を打ち鳴らして気合を入れた瞬間、水が膨れ上がり……巨大な細長い魚が鎌首をもたげた。
「さあて、美味しくいただかれるために大人しく、ってそうは問屋が卸さねえか。活きが良いのは何よりだけどな!」
ガラミド・クタラージ(CL3000576)は太陽と月が刻まれた大砲を抱え、目前の巨大な魚への好奇心と、その先にある食べた事の無い料理への興味の二つを抱く。が、やっぱりいい印象を持つ人ばかりではなく、具体的には。
「わぁ……ぬめぬめ……」
『真打!?食べ隊』キリ・カーレント(CL3000547)の眼が死んだ。
「あれを美味しいお料理にしてしまうヴラディオスさんを……(ごくり)信じて頑張りましょう……!」
台詞の途中で生唾を飲む辺り、コイツ食う事しか考えてな……あ、なんだ食べ隊か。じゃあ仕方ないね。
●こんなデカブツ煮凝りにしたらエライ量になる
「ほらほら見てくださいざるくん、おいしそうなお魚ですよ」
「あぁ……」
目をキラキラさせてるのに表情が変わらないという、無表情なのか表情豊かなのか分からないリグに対して、ザルクは虚ろな目で銃口を向けた。
「へっ、なんでそんな遠い目を……?」
リグが小首を傾げると。
「俺の知ってる鰻料理ってのが、適当に切った鰻をデッカイ鍋で煮込んで、冷まして、固めただけの味も食感も酷いヘルメリア料理でな……」
「えっ」
ただでさえ美味しくないヘルメリア料理において、トップクラスの不味さだろう。
「そんな……」
ストーン、とテンションが下がるリグだったが、紳士擬きは言っていた、『グリル』すると。
「つまり、美味しい調理法もあるのですね!?」
希望を胸に、リグの血流が加速して、構えをとる足が地面を穿つ。
「おとなしくリグたちのお腹に納まるのです、観念するのですよ!」
「お、ティッカもやる気満々じゃねーか、おれっちも負けねーぞ!」
リグの気合に当てられ、飛龍が突撃。踏み込み、急停止、その慣性を拳に乗せて撃ち抜くように打撃を叩きこむのだが。
「ははーん、そういう事か」
殴ってみて分かる。相手の特性は、物理攻撃が通じないわけではなく。
「ヌメヌメし過ぎて当たりが悪いって事か……!」
とはいえ、ダメージは通っているのだろう。鰻は飛龍を見下ろすと、巨大な口を開いて威嚇。口から吸いこんだ空気が鰓から抜けて、鳴き声のような音を漏らした。
「下ばっかり見てると痛い目みるぜ!」
頭上からの不意打ちに、鰻はその巨体を地面に叩き付ける。飛行したガラミドが冷気の砲弾を叩きこみ、後頭部に直撃させたのである。
「そちらも必死だろうが、ヨツカ達も食べるために必死だ。全力で相手をしてやる」
人の背丈を越える、大振りの得物を片手で担ぐように構え、上から重ねるように逆の手で柄を握ると、飛びかかる様に距離を詰め。
「ゥオオオ!!」
雄叫びを上げて振り下ろす。技術も理論もない単純な打撃故に、得物の重みとヨツカの膂力がダイレクトに叩きこまれ、傷は浅いはずなのに、鰻の頭がよろめいた。
「下がって!」
「おう!?」
同時に、狙いを定めて身を引き、それを予備動作と見たデボラがヨツカを弾き飛ばし、前へ。更に全身に……ほぼ全てを機械化した、動く装甲と呼ぶべき己の肉体に魔力を走らせて攻撃に備えるのだが、デボラの全身は鰻に包まれて消えた。
「あっ……!ちょっ……なに、この……!やっ……」
「外部からの打撃には強そうだが、腹の中はどうだ?」
ぬりゅぬりゅ……ずちゅっ……水っぽい音とデボラの悲鳴が聞こえてくる中、ザルクが二発の弾丸を放つ。一発目が鰓に突き刺さり、それを後続がぶん殴り、強引に貫通。体表を覆うぬめりを無視して体内をぶち抜く弾丸に、口と首から血を噴き出した鰻はザルクを見やるが、注意が逸れた隙にキリが肉薄。愛剣を抜き放てば、その刃を軸にして魔力が展開。オレンジ色の大剣へと姿を変えた。鍔から切先に向けて鋭角的な刃をしたそれは、まるで巨大な人参の如く。
「背後からは卑怯なんて言わないでくださいね、余所見した方が悪いんですから……!」
鰻の死角から輝く人参による一閃。斬り裂かれた鰻は地面でのたうちながらデボラを投げ捨てると、反転。湖に向けて逃走を図る。
「デボラさん、大丈夫ですか……?」
「ぬぐぐぐ……蒸気鎧装が……マズい事に……!」
デボラは全体的にぬちょーん。粘液塗れな彼女はオールモストの機人であり、粘液が排熱口を塞いでしまい、排熱が難しくなっていた。
●掴めない魚は釣るしかない
「逃がすかぁあああ!!」
叫びと共にヨツカが鰻に飛びかかるも、掴んだ尾は彼の握力からすり抜けて水の中へ。
「こっからは釣り竿の出番か……つっても、デカブツを釣り上げる特製品ってなると、武器か装置って言ったほうがふさわしいかもな」
羽ばたき、湖を俯瞰するガラミドが見やるのは、湖の畔に設置された大型の釣り竿……ていうか装置。
「釣りは初めてではありません……旅の途中で何度もやりました。上手かどうかは、別ですけど……」
もしょもしょと囁き、キリが竿にスタンバイすると、ガラミドが湖の上で旋回を始めた。鰻の魚影を発見したのだろう。
「距離がこのくらいだから、このくらい引いて……」
竿によるしなりを考慮して、力加減を差し引き、必要な勢いで、必要な分竿を振るい、ガラミドの下の水面に釣り糸を飛ばした。
「お上手ですね……」
釣りはしたことがないティルダが小さく拍手、キリが照れてフードを被り、顔を隠した時だった、竿を引く手応えが!
「き、来た!?」
ぐいーっと引くキリだが、いかんせん相手は巨大な鰻。単純な腕力ではビクともしない。
「お助けします!」
そこへ、デボラがキリを後ろから抱くようにして共に竿を握り、更に左右へ揺らしながら引く。
「負けません!負けません!!負けません!!!」
叫ぶ度に鎧装が唸りを上げて、どんどん(物理的にも精神的にも)熱くなるデボラは鰻が右に逃げれば左へ竿を振るい、左に逃げれば右に傾けて、鰻を無駄に動かせる事でスタミナを削る作戦に出た。
「美味しいランチをいただくまでは!!ぬぉおおおおっ!!」
貴族の長女が出しちゃいけないタイプの声と共に、一気に力を込めたデボラだったが、プツン。糸が切れてしまい、後ろに倒れ込んでしまう。
「く、無念……!」
ついでに熱がこもり、ぷしぅ。小さく音を立てて鎧装が排熱モードに。
「釣りはあんまやったことねーけど、かかったら思いっきりひっぱりゃ多分なんとかなるだろうぜ!」
クールダウンに入ったデボラに代わり、飛龍が腕をぐりぐり回しながら竿を握ると、ザルクが怪しげな団子を釣り針に刺した。
「なんだそれ?」
「ミミズやらゴカイやらを使って釣るって話を聞いてきたんだが、あのサイズだろう?デカい練り餌にしておいた」
で、早速力任せにブン投げる飛龍だったが。
「……ありゃ?」
思ったほど距離が伸びず、ガラミドの手前にボチャン!
「釣りって、意外と難しいんだな……実はキリが上手かったんじゃないかって実感するぜ!」
「……ぁう」
不意打ちの褒め言葉に、キリが撃沈した。
「しかし、中々かからねぇな……」
唇を尖らせて待つ飛龍に、ザルクは嫌な予感がし始める。
「もしかして、警戒されてるのか……?」
「お?来た来た来たぁ!!」
ザルクの不安を横目に飛龍にヒット!
「どぉりゃあああああ!!」
そして本当にただ、思いっきり引っ張るだけの飛龍。結果は言わずもがな。
「アダッ!?」
糸が耐えきれず、仰向けにすっ転ぶことに。
「リグの心の中に住んでる釣り名人が『釣りは呼吸じゃよ』って笑ってたのです」
糸を変えながら深呼吸するリグ。お前の心の中には釣り堀でもあるのか?
「獲物と呼吸を合わせて、しんとーめっきゃく、なんたらかんたら……はっ、ここですか!」
ツラツラと語り始めたリグだったが、ガラミドが移動したのを見てそちらへ投擲。しかし、行き違いにガラミドは帰って来てしまう。
「駄目だな、急に姿が見えなくなっちまった」
「え、もう釣れないのですか!?」
「あー……」
ショックを受けて固まってしまうリグの横で、そんな気はしてたザルクは顔を覆った。
「警戒してどっかに引っ込んじまったんだろうな」
「そんな……ざるくんなんとかするのです!」
両手をブンブン振り回すリグの無茶振りに、ザルクは応えられるわけが……。
「おう、任せとけ」
あった!?
「隠れたって事は、本能的に潜むであろう位置にいるはずだよな」
事前に情報収集してきたザルク、鰻が狭い場所を好んで巣にすることは把握済み。見た所、障害物になり得るものはない湖、と言う事は。
「畔寄りの、木の枝が沈んで入り組んでそうな辺りに居るはずだから……」
そこに向けて竿を振るって待つ事十数秒、釣り糸が引かれて竿が揺れる。
「来たか!」
グッと引こうとするザルクと、キリが止めて。
「まずは泳がせましょう、このまま無理に釣ろうとしても、また糸が切れるかもしれませんし……」
経験則から、一筋縄では釣れないと読んだキリ。しばし自由にさせて、静かになった頃。
「今です、釣り上げてください……!」
「分かった……って、重っ!?」
「手伝いますよ!」
先の釣りのせいで両腕の負荷はとんでもないはずなのだが、その疲労と鈍痛の知覚をシャットアウトして補助に入ったデボラ。二人がかりで引き寄せて、不意を突かれた魚がついに釣り上げられ……。
ボッチャーン!!
陸に上がったはずなのに、新手の泥沼に沈んだー!?
「……お魚に、底なし沼って効果あるんでしょうか」
また逃げられてはたまらないと、沼を作ったティルダ。実際、沼の中で動き回られるから意味がないっちゃないのだが、本来は人を足止めするための沼。レイクイール相手では狭くて仕方がない。
「えっと、とりあえず蓋を……」
鰻の頭上に巨大な氷塊が出現。それが格子状になって落下すると頭を直撃。中で痙攣する鰻に向けてガラミドは槍を持った兵士を生成して差し向けて、ザルクは銃口を向ける。そこからは逃げられない相手を一方的に……え、そういうのいらない?
●鰻が焼けました
「随分熱心な様子だがヴラディオスも食べ隊なのか?」
「どんな味なのか楽しみですっ」
ヨツカがそう聞きたくなるくらいには、似非紳士は熱意をもって調理しており、それを眺めているティルダも期待に胸を膨らませていた。
「魚っていうと馴染みがあるのは海より川や湖の魚だな。デカいやつは大味、なんて話もあるが、この魚はどんなもんかね」
と、不安半分好奇心半分で見守るガラミドの前で、捌かれた鰻が網でじっくり焼かれ、端がコンガリと丸みを帯びると、タレと呼ばれる液体を塗って返し、ジュワァアア……。
「おっ、いい匂いがしてきたな。手順があるんだろうけど、どうにも待ちきれないな」
小さな気泡と共に巻き起こる香ばしい香りに、持参した果実水を弄んで待つガラミド。その視線の横で、黒い鍋のような物が噴きこぼれていたが、その正体は……。
「食い物は美味いに越したことはない。ヨツカ達で食べきれないほどの量だったら近くの住民達に振舞ってもいいかもしれないな」
ドン!と置かれた鰻の蒲焼を前にして、ヨツカが頷く。開いた身を更に切り分けてなお大きなホットケーキサイズ。それを何枚も重ねて供されているのだ。きっと余るだろう……と思ったが。
「こんだけでけー魚なら思いっきり食べても十分足りそうじゃん!ヨツカ!ティッカ!どっちが多く食えるか勝負だぜ!」
「調理の難しいお魚ですから、ヴラさんさまさまなのです……リグ、負けないのですよ!!」
「美味いものはたくさん食えるからな。ヨツカも思う存分頂くとしよう」
残らない気がする。一瞬にして思考を切り替えたヨツカなのだった。
「ふっくら焼けた身に滴る脂と濃厚なタレ……あっ、もちろんおこめもありますですね!?」
鰻の一切れを摘み、見つめていたリグがバッと振り返ると、さっきの小さな鍋っぽい物が差し出される。蓋を開くと、中から炊き立ての米が……!
「美味しいですね!調理法とタレなるソースの力でしょうか。とても食が進みます」
一口食べた瞬間、デボラが目を見開き鰻を見つめた後、チラと調理人の方を見ると、まだ何か作っている紳士擬きの背に。
「あの……ヴラディオス様、このレシピをいただいてもいいでしょうか?是非家の者に紹介したいのです」
「レシピ……ですか……」
ふむ、と顎を揉んだコック曰く。
「文献の内容を参考にアレンジしたものでも構わないのなら……」
材料、調理法を書き記して、デボラの手土産に。
「匂いは確かにいいけども……」
そして、未だに手をつけていないザルク。
「ざるくん食べないのですか」
ブスッ。
「ああ待て待てティッカ!俺のを食おうとするな!ちゃんと食うって……」
リグにフォークを刺された鰻を取り返すと、ザルクも腹を括ってぱくり。
「あ、美味い……」
淡泊な味の中に旨味を秘めた鰻は、他のどの魚とも異なる柔らかく蕩けるような身をしており、無数に連なる小骨ですら食感を楽しませるアクセントに過ぎない。更に、シンプルな鰻に対して甘味と塩味を組み合わせた濃厚なタレ。果実とも砂糖とも違う甘味を持つそれは実に鰻に合い、旨味を引き立てる。そこへ謎の香辛料が振りかけられており、ピリッとした刺激と共に、スッと吹き抜ける香りを運んでいて喉に飽きが来ない。
「本当だ、美味いなコレ」
これは本当に鰻か?そんな疑念すら抱くザルクなのだった。
「あの……ヴラディオスさん……」
「えぇ、できましたよ」
キリが受け取ったのは米が入っていた小さな鍋。蓋を取れば、湯気がほわん……。
「リゾット……?でも、スープが全然ない……」
キリの人参との合わせ料理、という要望から出てきたのは、鰻と人参の炊き込みご飯。
「それでは、頂きます」
出汁が浸透して旨味を持つ米に、蒸された鰻はふっくら仕上がって、口に運ぶだけで蕩けだすほど柔らかく、強烈なタレと異なり、穏やかな出汁による風味が口いっぱいに滑らかな旨味を運ぶ。そして、キリにとってメインとも言える人参は。
「人参が……溶ける……!?」
じっくり火を通した人参は鰻と同じかそれ以上に柔らかく、味が染みて旨味を持つばかりか、人参本来の甘味まで深みを増すほど。
「ザルクさんの嫌な思い出のあるお料理も、きっと美味しくして下さるはず……ヘルメリアのお魚料理、リクエストしちゃおうかな……」
と、キリが紳士擬きを見るとリグも似非紳士をじー。
「出汁たっぷりの卵で包んだう巻きもほしいのです……」
「あの、ヘルメリアにあるという、鰻の煮物料理も……」
自由騎士達のランチタイムは、まだまだ続く。