



ゲシュペンスト

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汽笛が鳴る。
その汽笛に空気中のマナが引き寄せられ、線路として編みあがっていく。
幽鬼の歯ぎしりのような音をたて、編み上げられたレールが軋る。
幽霊列車、ゲシュペンスト。
それは突如300年前より発現した現象である。
それに意識はない。それに意図はない。それに目的はない。
自然というには禍々しいが、自然災害のようなもの。それがゲシュペンストである。
それは、ヒトの悪意に反応する。それはヒトの悲嘆に反応する。それは、ヒトの強い負の思いに反応する。
悪意を喰らうその列車は生物を、物質を、死体をイブリース化させていく。
ヒトの悪意が、悲嘆が最も強く局地的に発生しうるのは何処か?
それは戦地、である。
戦争が始まれば、多くのヒトが死ぬ。
国家(ナショナリズム)という大義名分で、人が死ぬ。
故に戦地にゲシュペンストは引き寄せられる。
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汽笛はイ・ラプセル南方のカタコンベに降り注いだ。
悪魔の呼び声。悪魔が来りて、汽笛(ふえ)をふく。
ごそり。
地の底からその呼び声に応えるものがいる。
誰よりもイ・ラプセルを思っていた人物。しかし、彼は短命を運命づけられたハイオラクルであった。
来る戦に号令をかける力がなかった。
来る戦を女神に告げられ、国を守りたかった。まだ年若き愛しき息子には荷が重い。
だから――。
守らなければ、ならない。
このイ・ラプセルを。
それは確固たる意志。
しかし、イ・ラプセル前王、ミッシェル・イ・ラプセルは死人だ。
今や、ハイオラクルでもない。王でもない、死人だ。
彼は、意思をもって立ち上がる。イ・ラプセルを他国の脅威から守るために。
「集え、我がもとに。イ・ラプセルの兵よ」
ミッシェル・イ・ラプセルは声を高らかにヴィスマルクとの闘いの先陣をきる号令を謳う。
ゲシュペンスト(VC:ひゅの)