幕間・ヴィスマルク
ヴィスマルク女神/エッケハルト・エビングハウス准将

「なに?! 我らがヴィスマルクに牙をむけるか。面白い。ただただ蹂躙されるだけの国かと思えば」
 エッケハルト・エビングハウス准将が強襲艇内の執務机で、伝令の言葉にニヤリと笑う。
 届いた内容は、落としかけていたアデレードにオラクルの部隊が現れたというものだ。
「随分とオラクルを隠し持ってたというわけか、この国は」
 手にした羽ペンを執務机に打ち付けるカツカツという音が響いた。
「あの鼻持ちならない海軍のガブリエーレ・クラウゼヴィッツ少将に下げなくても良い頭を下げたのだ。失敗は許されることではない」
「そうだな。きけば老若男女の混成部隊と聞く。所詮は付け焼き刃の苦し紛れの部隊だろうさ」
 その後から『聲』が聞こえる。
 人のものではない。自らに宿るドラゴンの紋章、ヴィスマルクのオラクルだという証を伝わり脳に直接届く『聲』。
 そう、神の『聲』である。
「女神様……!」
 エッケハルトはその場に立ちあがり最敬礼をする。
 何事もなかったかのように、女神――通常よりも幾周りか大きな鴉はエッケハルトの肩に止まる。お前が女神の玉座であると言わんがばかりに。
「はぁ……我が君の肩ほどの居心地の良さはないものだな。オラクルよ」
「きょ……恐悦です」
「まあ、いい。このイ・ラプセルの女神を殺す前の余興には成るだろうよ。己のオラクルが死んでいく姿を為す術もなく見守るしかできないことに震えるしかできないとは、哀れなことだな。アクアディーネよ」
 ――残酷に、蹂躙して殺してやるさ。
 その女神の聲にエッケハルトは唯、震えるしかなかった。